JP5180746B2 - 焼結含油軸受 - Google Patents

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本発明は、焼結された軸受成形品に潤滑油を含浸した焼結含油軸受に関し、特に複写機や印刷機などに使用される回転部品の回転軸を支持する軸受に関する。
電子写真装置を用いた複写機や印刷機(プリンター)などには、感光ドラム、各種ローラなどの回転部品を回転自在に支持するため軸受が多用されている。感光ドラムは表面に静電荷潜像を形成し、これにトナーを帯電付着させて転写するものであり、この分野では、求められる回転精度から転がり軸受が使用されてきたが、転がり軸受は部品点数が多く、経済的な理由から安価なすべり軸受の適用が試みられてきた。
一般に、焼結含油軸受は、焼結した軸受成形品の気孔中に潤滑油を含浸保持させ、その使用時に潤滑油を摺動面に滲出させることによって、長期間安定した摩擦特性を得るようにしたものである。
このような焼結軸受の成形品は、通常、鉄、銅、亜鉛、錫、黒鉛、ニッケル等もしくはこれらを組み合わせた合金製の微粉粒を、混合、圧縮成形、焼成、サイジング等の処理を施して得られ、このものは、均一な多孔質組織を有する。
また、焼結した軸受成形品に含浸する潤滑油としては、鉱油、ジエステル油、ポリ-α-オレフィン(以下、PAOと記す)油、エーテル油等の合成潤滑油(特許文献1参照)が知られている。
このような材料で構成される焼結含油軸受は、一般に、その製造コストが転がり軸受に比べて安価であることから、複写機や印刷機の用途においても最近の小型化、高速印刷等の高性能化に伴う機器内部の高温雰囲下での使用に対応できる軸受として利用範囲が拡がりつつある。
これらの高温雰囲気下で使用される用途には、従来より、フッ素系グリースを封入した転がり軸受(特許文献2参照)や、ポリフェニレンサルファイド樹脂やポリイミド樹脂を使用したすべり軸受(特許文献3参照)が使用されてきた。
特開平5−209623号公報 特開平2002−327759号公報 特開平09−118824号公報
しかしながら、特許文献1では、120〜130℃またはこれ以上の高温雰囲気下で従来の焼結含油軸受を使用すると、潤滑油の酸化等の劣化の経時的変化が早く起こるため、使用開始後の早期に回転軸のトルクが上昇したり、焼き付きが生じるという問題点がある。
また、焼結含油軸受を転がり軸受の代替品として使用するためには、スラスト荷重をワッシャを介して軸受端面で支持する必要がある。この際、含浸する潤滑油に所要の潤滑特性、極圧性、摩擦熱に対する熱安定性が要求されることとなるが、これらを満足する潤滑油を用いた焼結含油軸受がないという問題点がある。また、特許文献2の転がり軸受および特許文献3のすべり軸受は非常に高価であるという問題点がある。
本発明は、このような問題に対処するためになされたものであり、高温雰囲気下でスラスト荷重およびラジアル荷重をも同時に受けるような過酷な条件下でも安定した摩擦特性を長時間維持して耐久性を有する焼結含油軸受を安価に提供することを目的とする。
本発明の焼結含油軸受は、焼結した軸受成形品に、基油に腐食抑制剤を配合した潤滑油を含浸してなる焼結含油軸受であって、上記基油は、イオン性液体を 20 重量%以上含有することを特徴とする。
上記腐食抑制剤は、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、二塩基酸塩から選ばれた少なくとも一つを含有することを特徴とする。また、上記腐食抑制剤は、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも一つを含有することを特徴とする。また、上記腐食抑制剤は、上記基油 100 重量部に対して 0.1 重量部〜20 重量部配合されることを特徴とする。
上記イオン性液体は、カチオン成分とアニオン成分とからなり、上記カチオン成分はイミダゾリウムカチオンであり、上記アニオン成分はビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミドアニオンまたはトリ(ペンタフルオロエチル)-トリフルオロフォスファイドアニオンであることを特徴とする。
上記焼結含油軸受は、複写機またはプリンターに用いられる回転部品の回転軸を支持する軸受として用いられることを特徴とする。
本発明の焼結含油軸受は、焼結した軸受成形品に、イオン性液体を所定量含有する基油に腐食抑制剤を配合した潤滑油を含浸してなるので、生産性に優れ安価に製造でき、高温雰囲気下でスラスト荷重およびラジアル荷重を同時に受けるような過酷な条件下でも安定した摩擦特性を長時間維持して耐久性を有する焼結含油軸受として使用できる。
潤滑油を含浸した焼結含油軸受について、高温雰囲気下でスラスト荷重およびラジアル荷重を同時に受けるような過酷な条件下でも安定した摩擦特性をより高めるべく鋭意検討を行なった結果、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、二塩基酸塩などの腐食防止剤を、所定のイオン性液体を含む基油に配合した潤滑油を含浸することで、焼結含油軸受の高温耐久性を大幅に向上できることがわかった。この原因は現在特定できていないが、イオン性液体と鋼との高温での反応で、腐食生成物が生成されることを抑制できるためであると考えられる。本発明はこのような知見に基づくものである。
本発明の焼結含油軸受を図面により説明する。図1は本発明の焼結含油軸受を用いた軸受装置を示す断面図である。図1において軸受装置3は軸2と、軸2の外周面2aに円筒形状の内周面1aを嵌合させた焼結含油軸受1と、焼結含油軸受1のスラスト方向の動きを規制するスラスト受け(図示省略)とで構成される。焼結含油軸受1は焼結した円筒形状の軸受成形品に、イオン性液体を所定量含有する基油に腐食抑制剤を配合した潤滑油を含浸してなる。
本発明に用いる焼結した軸受成形品は、特にその材料を限定するものでなく、従来の場合と同様に、所要の金属材料を圧縮成形工程、焼結工程及び圧縮整形工程を順次経て成形したものであってよい。
本発明に用いる潤滑油はイオン性液体を含む基油に腐食抑制剤を添加したものである。イオン性液体とは、カチオン成分とアニオン成分とからなるイオン結合性化合物であるにもかかわらず室温付近で液体となる物質をいう。基油としてイオン性液体とその他の油とを併用する場合、耐熱性を維持するために、イオン性液体を基油全体に対して 20 重量%以上、より好ましくは 30 重量%以上含有するのが好ましい。さらに好ましくは 50 重量%以上とすることが好ましい。
本発明で使用できるイオン性液体のカチオン成分としては、脂肪族アミンカチオン(下記の化1参照)、脂環式アミンカチオン(下記の化2参照)、イミダゾリウムカチオン(下記の化3参照)、ピリジンカチオン(下記の化4参照)等が挙げられる。これらの中で耐熱性と低温流動性と環境適合性に優れることから、イミダゾリウムカチオンを用いることが好ましい。化1〜化4においてRはアルキル基またはアルコキシ基を示す。
化1〜化4においてアニオン成分(X- )としては、ハロゲン化物イオン、SCN-、BF4 -、ClO4 -、PF6 -、(CF3SO22-、(CF3CF2SO22-、CF3SO3 -、CF3COO-、Ph4-、(CF3SO23- 、PF3(C253 - 等が挙げられる。これらの中で耐熱性と低温流動性と環境適合性に優れることから、(CF3SO22-(ビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミドアニオン)、PF3(C253 -(トリ(ペンタフルオロエチル)-トリフルオロフォスファイドアニオン)を用いることが好ましい。
Figure 0005180746
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本発明において基油は、40℃における動粘度が 100 mm2/sec 以下であることが好ましい。100 mm2/sec をこえるとトルクを低減することができない。基油としてイオン性液体のみを用いる場合、イオン性液体を単独または 2 種類以上組み合わせて上記範囲に調節できる。
本発明に使用できる腐食抑制剤としては、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、二塩基酸塩等を用いることが好ましい。また、二塩基酸塩としてはアジピン酸塩、スペリン酸塩、ピメリン酸塩、アゼライン酸塩、セバシン酸塩等が挙げられる。二塩基酸塩の中ではセバシン酸塩がより好ましい。これらの塩の代表的なものとしてカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。これらの中ではナトリウム塩を用いることが特に好ましい。
本発明に使用できる腐食抑制剤の配合量は、上記基油 100 重量部に対して 0.1〜20 重量部配合されることが好ましく、より好ましくは 1〜10 重量部である。0.1 重量部未満の場合には効果は期待できない。また、20 重量部をこえる場合には効果は頭打ちになりコスト的に不利になる。
なお、本発明に用いる潤滑油に、発明の効果を阻害しない限度において、酸化防止剤、粘度指数向上剤、油性向上剤等の各種添加剤を配合することができる。
実施例1〜実施例5および比較例1
表1に示す配合割合で調整して潤滑油を得た。なお、各実施例および比較例における腐食抑制剤の配合量は、基油 100 重量部に対する重量部である。イオン性液体はカチオン成分を1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、アニオン成分をビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミドアニオンとするメルク社製:1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム-ビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミド(下記の化5に示すもの;表1にはOMI−TFSIと記す)を用いた。得られた潤滑油に、鉄を主成分とする金属材料を焼結した軸受成形品を浸漬して含浸を行ない焼結含油軸受試験片を得た。得られた焼結含油軸受試験片について、以下に示す耐久性試験を行ない軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 0005180746
<耐久性試験>
図2に示すトルク測定装置に、得られた焼結含油軸受試験片1を装着し、これにアキシアル荷重(圧縮ばね4の弾性力)およびラジアル荷重(ハウジング5の荷重)を作用させた。すなわち、プーリ6に巻き掛けた駆動ベルトで回転する軸7(軸径 6 mm )に、円筒形ハウジング5の両端に圧入した2個の円筒状焼結含油軸受1を取付けた。この際、軸7と共に回転し、かつ圧縮ばね4でもって軸7方向に付勢された一対のスラストワッシャ8、9で焼結含油軸受1の端面を挾圧した。また、ハウジング5の外周にはトルク測定用の糸10を固定してトルクを測定した。なお、測定条件は、アキシアル荷重 0.2 kgf、ラジアル荷重 0.2 kgf、回転数 4000 rpm、雰囲気温度 150℃、トルクが 80 g-cm 以上を示した時間を寿命時間とした。
実施例6および比較例2
表1に示す配合割合で調製して潤滑油を得た。基油であるイオン性液体はカチオン成分を1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、アニオン成分をトリフルオロ-トリ(ペンタフルオロエチル)フォスファイドアニオンとするメルク社製:1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム-トリ(ペンタフルオロエチル)-トリフルオロフォスファイド(下記の化6に示すもの;表1にはHMI−(C253PF3- と記す)を用いた。得られた潤滑油に、鉄を主成分とする金属材料を焼結した軸受成形品を浸漬して含浸を行ない焼結含油軸受試験片を得た。得られた焼結含油軸受試験片について、上述の耐久性試験を行ない軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 0005180746
実施例7および比較例3
表1に示す配合割合で調製して潤滑油を得た。基油であるイオン性液体はカチオン成分を1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、アニオン成分をビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミドアニオンとするメルク社製:1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム-ビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミド(下記の化7に示すもの;表1にはHMI−TFSIと記す)を用いた。得られた潤滑油に、鉄を主成分とする金属材料を焼結した軸受成形品を浸漬して含浸を行ない焼結含油軸受試験片を得た。得られた焼結含油軸受試験片について、上述の耐久性試験を行ない軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 0005180746
比較例4〜比較例9
表1に示す配合割合で調製して潤滑油を得た。得られた潤滑油に、鉄を主成分とする金属材料を焼結した軸受成形品を浸漬して含浸を行ない焼結含油軸受試験片を得た。得られた焼結含油軸受試験片について、上述の耐久性試験を行ない軸受寿命時間を測定した。結果を表1に併記する。
Figure 0005180746
表1の寿命時間からも明らかなように、腐食抑制剤を含有していない、あるいはイオン性液体を含有していない比較例1〜比較例9では、500 時間まで耐えるものがなかったが、イオン性液体に腐食抑制剤を含有させた実施例1〜実施例7では、870 時間以上もの耐久時間を示し、特に、腐食抑制剤にイミダゾリウム−TFSIのイオン性液体を 50 重量%以上含浸させた焼結軸受は、いずれも 1000 時間以上運転が可能であった。
本発明の焼結含油軸受は、焼結した軸受成形品に、イオン性液体を所定量含有する基油に腐食抑制剤を配合した潤滑油を含浸してなるので、高温雰囲気下でスラスト荷重およびラジアル荷重を同時に受けるような過酷な条件下でも安定した摩擦特性を長時間維持して耐久性を有する焼結含油軸受として、複写機や印刷機などの回転部品の回転軸を支持する軸受に好適に利用できる。
本発明の焼結含油軸受を用いた軸受装置を示す断面図である。 耐久性試験のトルク測定装置を示す縦断面図である。
符号の説明
1 焼結含油軸受(試験片含む)
2 軸
3 軸受装置
4 圧縮ばね
5 ハウジング
6 プーリ
7 軸
8 スラストワッシャ
9 スラストワッシャ
10 トルク測定用の糸

Claims (5)

  1. 焼結した軸受成形品に、基油に腐食抑制剤を配合した潤滑油を含浸してなる焼結含油軸受であって、
    前記基油は、イオン性液体を 20 重量%以上含有し、
    前記イオン性液体は、カチオン成分とアニオン成分とからなり、前記カチオン成分はイミダゾリウムカチオンであり、前記アニオン成分はビス-トリフルオロメチルスルホニル-イミドアニオンまたはトリ(ペンタフルオロエチル)-トリフルオロフォスファイドアニオンであり、
    前記腐食抑制剤は、亜硝酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、およびセバシン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも一つを含有することを特徴とする焼結含油軸受。
  2. 前記腐食抑制剤は、前記基油 100 重量部に対して 0.1〜20 重量部配合されることを特徴とする請求項1記載の焼結含油軸受。
  3. 前記基油は、エーテル油を含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の焼結含油軸受。
  4. 前記基油は、40℃における動粘度が 100 mm2/sec 以下であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の焼結含油軸受。
  5. 前記焼結含油軸受は、複写機またはプリンターに用いられる回転部品の回転軸を支持する軸受として用いられることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか一項記載の焼結含油軸受。
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