JP5169129B2 - リング状部材の浸炭焼入方法 - Google Patents
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Description
本発明は、貫通孔の内周面に歯形またはキー溝が形成されたリング状部材の浸炭焼入方法に関するものである。
トリポード型等速ジョイントを構成するトリポードや、ボールジョイントを構成する内輪部材などは、貫通孔の内周面に歯形が形成されている。このような貫通孔の内周面に歯形またはキー溝が形成されたリング状部材部材は、内周面と外周面とで要求される硬さ(ビッカース硬さなどの押込硬さ)が異なる場合がある。そこで、例えば、特開平9−324257号公報などに記載されているように、浸炭焼入を行う際に、トリポードや内輪部材を軸状部材に当該リング状部材を複数積層し、当該リング状部材の内周面と軸状部材の外周面との隙間を狭くして、浸炭ガスおよび冷却用油の侵入量を抑制することで、当該リング状部材の内周面の硬化深さ(浸炭深さ)を当該リング状部材の外周面の硬化深さより浅くすることができる。これにより、内周面の表面硬さを外周面の表面硬さより低くすることができる。
特開平9−324257号公報
ここで、浸炭焼入を行う部材を積層する軸状部材は、円柱形状からなる。例えば、当該リング状部材の内周面はほとんど浸炭焼入が施されないようにするためには、軸状部材の外径を当該リング状部材の内径とほぼ同等とすることで達成できる。一方、当該リング状部材の内周面に対してもある程度の浸炭焼入を施したいような場合には、軸状部材の外径を小さくすることになる。しかし、この場合には、当該リング状部材と軸状部材とを同軸上に配置することは困難であるため、両者が偏芯することで当該リング状部材の内周面と軸状部材の外周面との隙間が大きい部位と小さい部位とが存在し、当該リング状部材の内周面の浸炭深さが異なるおそれがある。さらに、軸状部材の外径が当該リング状部材の内径に対して非常に小さい場合には、軸状部材のガイド機能が発揮されにくくなるため、リング状部材を積層することが容易ではなくなる。このように、当該リング状部材の内周面に対してある程度の浸炭焼入を施したい場合には、種々の問題が生じる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、リング状部材の内周面と外周面とで要求される硬さおよび浸炭深さが異なる場合であって、リング状部材の内周面のあらゆる要求される硬さおよび浸炭深さに対して確実に処理可能なリング状部材の浸炭焼入方法を提供することを目的とする。
本発明のリング状部材の浸炭焼入方法は、
貫通孔の内周面に歯形またはキー溝が形成されたリング状部材の浸炭焼入方法であって、
径方向外方に突出する複数の突起が軸方向に延びるように形成された軸状部材に、前記リング状部材の貫通孔を挿通させて複数の前記リング状部材を積層し、
積層された複数の前記リング状部材と前記軸状部材との間に内部空間を形成し、
積層された複数の前記リング状部材の軸方向両端のうち少なくとも一方に、前記内部空間と外部空間との連通隙間を形成する連通隙間形成部材を配置し、
浸炭ガスおよび冷却用油をそれぞれ、前記連通隙間を介して前記内部空間に流通させて浸炭焼入を行うことを特徴とする。
貫通孔の内周面に歯形またはキー溝が形成されたリング状部材の浸炭焼入方法であって、
径方向外方に突出する複数の突起が軸方向に延びるように形成された軸状部材に、前記リング状部材の貫通孔を挿通させて複数の前記リング状部材を積層し、
積層された複数の前記リング状部材と前記軸状部材との間に内部空間を形成し、
積層された複数の前記リング状部材の軸方向両端のうち少なくとも一方に、前記内部空間と外部空間との連通隙間を形成する連通隙間形成部材を配置し、
浸炭ガスおよび冷却用油をそれぞれ、前記連通隙間を介して前記内部空間に流通させて浸炭焼入を行うことを特徴とする。
本発明において、軸状部材は、従来のような円柱形状ではなく、径方向外方に突出する複数の突起を備えている。そして、この複数の突起が、軸方向に延びるように形成されている。従って、軸状部材にリング状部材を挿通させて積層させた場合に、突起の先端側がリング状部材の内周面に当接可能な状態となる。つまり、突起が形成されていない領域においては、リング状部材の内周面との間に十分な隙間が形成されている。そして、このリング状部材の内周面と軸状部材の外周面との間に形成される内部空間は、連通隙間形成部材により外部空間との連通隙間が形成されている。つまり、リング状部材の内周面と軸状部材の外周面との間に形成される内部空間は十分に大きな空間として形成することができると共に、連通隙間形成部材による内部空間への連通隙間を大きくすることで、内部空間に流入する浸炭ガスおよび冷却用油の流量を十分に大きくすることができる。従って、リング状部材の内周面に高い硬さおよび深い浸炭深さを要求される場合であっても、その要求を満たすことができる。もちろん、連通隙間形成部材の連通隙間を小さくすることで、内部空間に流入する浸炭ガスおよび冷却用油の流量を抑制することができるため、リング状部材の内周面の硬さを低く且つ浸炭深さを浅くすることも可能となる。このように、本発明の浸炭焼入方法を適用することにより、リング状部材の内周面の硬さおよび浸炭深さの設定自由度が増す。
また、従来は、リング状部材の内周面の硬さおよび浸炭深さを変更する場合には、軸状部材の外径を変化させることにより対応せざるを得なかった。しかし、本発明によれば、軸状部材は変更することなく、連通隙間形成部材のみを変更することで対応できる。このように、リング状部材の要求硬さおよび要求される浸炭深さに変更が生じた場合であっても、比較的容易に対応可能となる。
さらに、本発明の浸炭焼入方法に用いる軸状部材は、径方向外方に複数の突起が形成されているため、当該突起が、リング状部材を積層する際におけるガイド機能を発揮する。つまり、本発明によれば、リング状部材の内周面と軸状部材の外周面との間に十分に大きな内部空間を形成することを可能としつつ、リング状部材を積層する際におけるガイド機能を発揮することができる。
好ましくは、前記軸状部材の前記突起の先端幅は、前記リング状部材の前記歯形またはキー溝の溝開口幅より大きく形成されているとよい。ここで、リング状部材の内周面において、浸炭焼入により硬さを高くまたは浸炭深さを深くすべき部位は、歯形またはキー溝の溝底である。従って、浸炭ガスおよび冷却用油を溝底に流入させることが必要となる。そこで、上記のように、軸状部材の突起の先端幅が、リング状部材の歯形またはキー溝の溝開口幅より大きく形成することで、突起がリング状部材の歯形またはキー溝の溝底に侵入することを防止できる。つまり、突起が溝底に当接することがないため、溝底付近に確実に空間を形成でき、当該部位に浸炭ガスおよび冷却用油を流入させることができる。従って、溝底に対して確実に浸炭焼入を施すことができる。
好ましくは、前記軸状部材の前記突起の先端の径方向断面形状は、弧凸状に形成されているとよい。これにより、突起がリング状部材の内周面に接触するとしても、面接触ではなく、線接触とすることが可能となる。仮に、両者が面接触となると、接触面の中央付近では浸炭焼入が施されないおそれがある。これに対して、両者を線接触とすることで、確実に浸炭焼入を施すことが可能となる。また、浸炭焼入を施す前のリング状部材は表面硬さが低いため、軸状部材の突起との接触により損傷しないようにしなければならない。突起の先端を弧凸状とすることで、リング状部材に損傷を与えないようにできる。
また、前記連通隙間形成部材は、前記軸状部材に取り付けられ前記リング状部材に対して軸方向に係合する基部プレートと、複数の前記突起の径方向外方に延長して突出形成され、外接円の直径が前記リング状部材の内周面の最大幅より大きく形成され、前記基部プレートに当接し、前記リング状部材の座となる段差形成突起と、を備えるようにしてもよい。連通隙間形成部材は、軸状部材の突起の延長として形成が可能となる。従って、形成コストを低減することができ、且つ、部品点数を少なくすることができる。
また、上記の他には、前記連通隙間形成部材は、前記軸状部材に取り付けられ、外接円の直径が前記リング状部材の内周面の最大幅より大きく形成され、前記リング状部材の座となると共に、前記座となる端面にその外周縁と前記内部空間を連通する溝が形成されている溝形成部材であるとしてもよい。この場合、溝形成部材の溝の幅や深さを変更することで、内部空間へ浸炭ガスおよび冷却用油の流入量を調整することができ、浸炭硬さの変更に対応可能となる。
そして、連通隙間形成部材が上述した溝形成部材である場合には、以下のようにするとよい。すなわち、前記軸状部材に取り付けられ前記リング状部材に対して軸方向に係合する基部プレートを備え、前記溝形成部材は、前記軸状部材に挿通可能であり、前記基部プレートに当接して配置される。
この場合は、軸状部材を変更せずに、軸状部材とは別部品である溝形成部材の溝の幅や深さを変更することのみで、内部空間へ浸炭ガスおよび冷却用油の流入量を調整することができる。つまり、軸状部材の汎用化を図ることができ、浸炭硬さおよび浸炭深さの変更にも容易に対応可能となる。
また、前記連通隙間形成部材は、中央に貫通して形成された中央孔と複数の前記突起に対応する位置で前記中央孔から径方向外方に向かって形成される複数の凹溝とを備え、前記軸状部材に挿通可能としてもよい。これにより、内部空間へ流入する浸炭ガスおよび冷却用油の流入量を規制することが可能となる。さらに、凹溝を備えることで、連通隙間形成部材が軸状部材に対して軸直交方向における位置決めが可能となる。つまり、中央孔が軸状部材に対して偏芯することを抑制できるため、浸炭ガスおよび冷却用油が内部空間へ流入する際に、当該連通隙間において、周方向全周でバランスよくすることができる。
また、好ましくは、積層される複数の前記リング状部材の間に挟まれるように前記軸状部材に挿通され、前記内部空間と外部空間との間に連通路を形成するスペーサを配置するとよい。
ここで、連通隙間形成部材を積層されるリング状部材の両端に配置した場合には、当該両端の連通隙間から内部空間に浸炭ガスおよび冷却用油が流入する。そして、積層するリング状部材が多数の場合には、両端の連通隙間のみから浸炭ガスおよび冷却用油を流入しようとすると、中央付近に積層されたリング状部材の内周面付近には、浸炭ガスおよび冷却用油が流通する流量が端部に比べて少なくなるおそれがある。そこで、上述したスペーサを配置することで、中央付近に積層されたリング状部材の内周面付近にも、確実に浸炭ガスおよび冷却用油が流通するようにできる。つまり、リング状部材の積層位置に関わりなく、確実に浸炭焼入を施すことができる。
また、スペーサに形成される前記連通路は、複数からなり、前記内部空間が前記突起により区画される分割空間のそれぞれに連通するとよい。ここで、軸状部材が複数の突起を有することで、内部空間は複数の空間に区画されている。そこで、スペーサの連通路を、それぞれの分割空間に連通させることで、全ての分割空間において確実に浸炭ガスおよび冷却用油を流入することができる。
また、前記スペーサは、リング状からなり、前記連通路は、前記スペーサの両端面に形成された凹溝としてもよい。このように、リング状の両端面に連通路を形成することで、浸炭ガスおよび冷却用油の流入出口を増加することができる。その結果、内部空間と外部空間との浸炭ガスおよび冷却用油の循環が行われやすくなり、良好な浸炭焼入が行われる。
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
<第一実施形態>
本発明の浸炭焼入方法の対象部材であるリング状部材として、トリポード型等速ジョイントを構成するトリポードを適用した場合を例に挙げて説明する。以下に、「トリポードの形状説明」、「浸炭焼入の際に適用する治具についての説明」、「浸炭焼入方法についての説明」の順で説明する。
本発明の浸炭焼入方法の対象部材であるリング状部材として、トリポード型等速ジョイントを構成するトリポードを適用した場合を例に挙げて説明する。以下に、「トリポードの形状説明」、「浸炭焼入の際に適用する治具についての説明」、「浸炭焼入方法についての説明」の順で説明する。
(トリポード1の形状説明)
リング状部材としてのトリポード1について図1を参照して説明する。図1は、トリポード1を軸方向から見た図である。図1に示すように、トリポード1は、内周面にスプライン11aが形成された円筒状からなるボス部11と、ボス部11の外周面からそれぞれボス部11の径方向外方に延びるように立設された3本のトリポード軸部12とから構成される。3本のトリポード軸部12は、ボス部11の周方向に等間隔(120度間隔)に形成されている。
リング状部材としてのトリポード1について図1を参照して説明する。図1は、トリポード1を軸方向から見た図である。図1に示すように、トリポード1は、内周面にスプライン11aが形成された円筒状からなるボス部11と、ボス部11の外周面からそれぞれボス部11の径方向外方に延びるように立設された3本のトリポード軸部12とから構成される。3本のトリポード軸部12は、ボス部11の周方向に等間隔(120度間隔)に形成されている。
このトリポード1において、ボス部11の外周面およびトリポード軸部12の外周面と、ボス部11の内周面のスプライン11aとは、要求される表面硬さおよび浸炭深さが異なる。具体的には、ボス部11の外周面およびトリポード軸部12の外周面は、ボス部11の内周面のスプライン11aよりも、高い表面硬さが要求され、且つ、深い浸炭深さが要求される。
また、ボス部11のスプライン11aの歯先(最内周面)の内径は、D1であり、スプライン11aの歯元(溝底)の内径は、D2である。また、スプライン11aの歯の開口幅(溝開口幅)はH1である。
(浸炭焼入の際に適用する治具の説明)
浸炭焼入の際に適用する治具について、図2〜図4を参照して説明する。図2は、支柱部材2を示す図であって、図2(a)は支柱部材2の正面図であり、図2(b)は図2(a)のA方向矢視図である。図3は、キャップ3を示す図であって、図3(a)はキャップ3を軸方向から見た図であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面図である。図4は、スペーサ4を示す図であって、図4(a)はスペーサ4を軸方向から見た図であり、図4(b)は図4(a)のC−C断面図である。
浸炭焼入の際に適用する治具について、図2〜図4を参照して説明する。図2は、支柱部材2を示す図であって、図2(a)は支柱部材2の正面図であり、図2(b)は図2(a)のA方向矢視図である。図3は、キャップ3を示す図であって、図3(a)はキャップ3を軸方向から見た図であり、図3(b)は図3(a)のB−B断面図である。図4は、スペーサ4を示す図であって、図4(a)はスペーサ4を軸方向から見た図であり、図4(b)は図4(a)のC−C断面図である。
支柱部材2は、図2(a)(b)に示すように、支持軸21と、基部プレート22と、突起軸23と、段差形成突起24とから構成される。支持軸21は、円柱状からなり、図示しない浸炭焼入を行う際の枠部材に挿通支持される部分である。基部プレート22(本発明における「連通隙間形成部材」に相当する)は、円盤状からなり、支持軸21の上端面に一体的に取り付けられている。この基部プレート22は、支持軸21の外径よりも大きく形成されている。
突起軸23(本発明の「軸状部材」に相当する)は、軸方向(図2の上下方向)に延びる部材であって、径方向外方に突出する3個の突起23aが形成されている。3個の突起23aは、それぞれ平板状をなしている。そして、3個の突起23aは、それぞれ、軸方向に延びるように形成されている。また、3個の突起23aは、周方向に等間隔(120度間隔)に突出するように形成されている。そして、この突起軸23の下端が、突起軸23の軸方向が基部プレート22の上面の法線方向に一致するように、基部プレート22の上面に取り付けられている。また、突起軸23の外接円の外径D3は、基部プレート22の外径よりも小さく、且つ、トリポード1のスプライン11aの歯先内径D1よりも小さく形成されている。さらに、突起軸23の先端側(図2の上側)は、その外接円が小さくなるテーパ状に形成されている。3個の突起23aのそれぞれの径方向外方端は、径方向断面において、円弧凸状に形成されている。さらに、3個の突起23aの幅(板厚)H2は、トリポード1のスプライン11aの歯の開口幅H1よりも大きく形成されている。
段差形成突起24(本発明における「連通隙間形成部材」に相当する)は、3個の突起23aのそれぞれのうち下端部分から、径方向外方に延長して突出形成されている。この段差形成突起24は、3個の突起23aの外接円よりも径方向外方に突出している。つまり、段差形成部材24は、軸状部材23に対して段差状に形成されている。さらに、段差形成突起24の下端は、基部プレート22の上面に取り付けられている。この段差形成突起24の外接円の直径D4は、トリポード1のスプライン11aの歯元内径D2より大きく、且つ、基部プレート22の外径より小さく形成されている。
キャップ3は、図3(a)(b)に示すように、円盤状からなり、中央に貫通して形成された円形の中央孔31と、中央孔31から径方向外方に向かって形成される3個の凹溝32とを備える。中央孔31の内径D5は、突起軸23の外接円の外径D3よりも小さく形成されている。3個の凹溝32は、突起軸23の3個の突起23aに対応する位置に形成されている。すなわち、3個の凹溝32は、周方向に等間隔(120度間隔)に凹状に形成されている。この3個の凹溝32の溝底径D6は、突起軸23の外接円の外径D3より大きく形成されている。さらに、3個の凹溝32の溝幅H3は、3個の突起23aの幅H2より大きく形成されている。つまり、キャップ3と突起軸23とを同軸上で、3個の凹溝32と3個の突起23aの位相を一致させた場合に、キャップ3は、突起軸23に挿通可能となる。
スペーサ4は、図4(a)(b)に示すように、円盤状からなり、中央に貫通して形成された円形の中央孔41と、両端面のそれぞれに中央孔41と外周面とを径方向に向かって連通する6個の凹溝42とを備えている。中央孔41の内径D7は、突起軸23の外接円の外径D3よりも大きく形成されている。スペーサ4のそれぞれの端面に形成されている6個の凹溝42は、周方向に等間隔(60度間隔)に形成されている。
(浸炭焼入方法の説明)
次に、浸炭焼入方法について図5〜図9を参照して説明する。図5は、治具に複数のトリポード1を積層した状態を示す図である。図6は、図5のD−D断面図である。図7は、図5のE−E断面図である。図8は、図5のF−F断面図である。図9は、図5のG方向矢視図である。
次に、浸炭焼入方法について図5〜図9を参照して説明する。図5は、治具に複数のトリポード1を積層した状態を示す図である。図6は、図5のD−D断面図である。図7は、図5のE−E断面図である。図8は、図5のF−F断面図である。図9は、図5のG方向矢視図である。
浸炭焼入方法の概要について説明する。治具に複数のトリポード1を積層配置する積層工程の後、トリポード1を治具に積層された状態のまま浸炭ガス雰囲気にて加熱する加熱工程を行い、最後に、トリポード1を治具に積層された状態のまま冷却油に浸漬する冷却工程を行う。
以下に詳細に説明する。まず、積層工程において、図5に示すように、支柱部材2の突起軸23にトリポード1の貫通孔を挿通させて、複数のトリポード1を積層する。ここで、突起軸23の外接円直径D3は、トリポード1のスプライン11aの歯先内径D1より小さい。従って、図6に示すように、トリポード1は、突起軸23に挿通可能となる。ここで、突起軸23の外接円の直径D3をある程度の大きさとすることで、トリポード1を突起軸23に挿通する際のガイド機能を発揮する。そして、突起軸23の先端側(図5の上側)の外接円が小さくなるテーパ状に形成されていることで、トリポード1を突起軸23に挿通する際に非常に挿通させやすくなる。また、突起23aの径方向外方端が円弧凸状に形成されているため、トリポード1の内周面に損傷を与えることを抑制できる。
そして、段差形成突起24の外接円直径D4は、トリポード1のスプライン11aの歯元内径D2より大きい。従って、図5および図7に示すように、最初に突起軸23に挿通されたトリポード1、すなわち、図5の最下端に位置するトリポード1は、段差形成突起24の上端に当接して、位置決めされる。つまり、段差形成突起24が、最下端に位置するトリポード1の座となる。そして、最下端に位置するトリポード1は、基部プレート22の上端面に対して、段差形成突起24の高さ分だけ離間している。そのため、段差形成突起24と基部プレート22とにより、最下端に位置するトリポード1の内部空間5と外部空間との間に連通隙間が形成されていることになる。
ここで、トリポード1の内部空間5とは、積層された複数のトリポード1の内周面と突起軸23の外周面との間に形成される空間である。そして、3個の突起23aの幅(板厚)H2は、トリポード1のスプライン11aの溝開口幅H1よりも大きい。従って、突起23aがスプライン11aの溝底側に侵入することを防止できる。従って、スプライン11aの溝部分は、空間が形成され、上述した内部空間5の一部を構成する。そうすると、突起23aの径方向外方端は、スプライン11aの溝底には当接しないが、歯先には当接する可能性がある。ここで、3個の突起23aの径方向外方端が円弧凸状に形成されているため、突起23aの径方向外方端とスプライン11aの歯先に当接する場合、面接触とならずに線接触となる。従って、当該接触部位にも、線接触であれば、確実に浸炭焼入を施すことが可能となる。
また、突起軸23が3個の突起23aを有していることにより、トリポード1の内部空間5は、3個の分割空間5aに区画されている。さらに、段差形成突起24は、それぞれの突起23aから径方向外方に延長して突出形成されている。従って、3個の分割空間5aのそれぞれが、別々に、外部空間に連通している。なお、この連通隙間は、段差形成突起24の図5の上下方向高さによって調整可能である。つまり、段差形成突起24の図5の上下方向高さを高くするほど、連通隙間が大きくなる。
複数のトリポード1を突起軸23に積層した後には、スペーサ4を突起軸23に挿通させて、さらにその後に再度複数のトリポード1を突起軸23に積層する。つまり、図5に示すように、スペーサ4は、積層される複数のトリポード1の間に挟まれるように、突起軸23に挿通される。
ここで、スペーサ4の内径D7は、突起軸23の外接円直径D3より大きいため、スペーサ4を突起軸23に挿通可能となる。そして、スペーサ4の両端面には凹溝42が形成されているため、この凹溝42が、トリポード1の内部空間5と外部空間とを連通する連通路を形成している。さらに、図8に示すように、スペーサ4の凹溝42は、周方向に等間隔に6個形成されているため、6個の凹溝42の何れかは、その内周端が区画された3個の分割空間5aに連通している。つまり、凹溝42は、分割空間5aのそれぞれに連通している。従って、複数の凹溝42により、全ての分割空間5aが、確実に外部空間に連通している。なお、この連通隙間は、凹溝42の溝幅および溝深さによって調整可能である。つまり、凹溝42の溝幅を大きくするほど、または、溝深さを深くするほど、連通隙間が大きくなる。
続いて、再度複数のトリポード1を突起軸23に積層した後には、キャップ3を突起軸23に挿通させる。図9に示すように、キャップ3と突起軸23とを同軸上で、3個の凹溝32と3個の突起23aの位相を一致させた場合に、キャップ3は、突起軸23に挿通可能となる。そして、キャップ3は、最上段に積層されたトリポード1の端面に当接する。ここで、キャップ3の中央孔31の内周面と突起軸23の外周面との間には隙間が形成されている。つまり、当該隙間が、トリポード1の内部空間5と外部空間とを連通する連通隙間となる。なお、この連通隙間は、キャップ3の中央孔31の内径によって調整可能である。つまり、キャップ3の中央孔31の内径を大きくするほど、連通隙間が大きくなる。
以上のように、治具に複数のトリポード1を積層した状態について、さらに説明する。まず、突起軸23が突起23aを有するように形成していることにより、トリポード1の内周面と突起軸23の外周面との間の内部空間5は、非常に大きな空間となる。従って、後述する加熱工程における流入させる浸炭ガス、および、冷却工程における流入させる冷却用油を、十分な量とすることができる。
また、当該内部空間5と外部空間とを連通する連通隙間は、段差形成突起24、基部プレート22およびトリポード1の端面により形成される隙間、スペーサ4の凹溝42とトリポード1の端面とにより形成される隙間、並びに、キャップ3の中央孔31と突起軸23の突起23aとの間に形成される隙間からなる。つまり、積層された複数のトリポード1の軸方向両端および中間に、連通隙間が形成されている。そして、これらの連通隙間は、上述したように、適宜調整可能である。
続いて、積層工程にて複数のトリポード1を治具に積層した状態のまま、浸炭ガス雰囲気にて加熱する加熱工程を行う。このとき、積層された複数のトリポード1の外周面には、加熱炉内に設定された浸炭ガス雰囲気となる。一方、積層されたトリポード1の内周面は、上述した連通隙間を介して内部空間5へ流入した浸炭ガスの雰囲気となる。ここで、浸炭ガスは連通隙間を介して内部空間5へ流入するため、相当に大きな連通隙間でない限り、内部空間5の浸炭ガスの流入量は、トリポード1の外周面における浸炭ガスの量に比べて少なくなる。つまり、連通隙間によりトリポード1の内部空間5へ流入する浸炭ガスの流入量が規制されていることになる。従って、加熱工程において、トリポード1の外周面に比べて、トリポード1の内周面には、浸炭量が少なくなる。
さらに続いて、冷却工程においては、複数のトリポード1を治具に積層した状態のまま、冷却用油の中に浸漬する。このとき、積層された複数のトリポード1の外周面には、冷却用油が直接的に接触する。従って、トリポード1の外周面は、冷却用油により急速に冷却される。一方、トリポード1の内周面は、連通隙間を介して内部空間5へ流入した冷却用油のみが接触する。ここで、加熱工程における浸炭ガスと同様に、連通隙間により、トリポード1の内部空間5へ流入する冷却用油の流入量が規制されている。従って、トリポード1の内周面は、トリポード1の外周面に比べて、冷却速度が遅くなる。
以上より、トリポード1の内周面は、トリポード1の外周面に比べて、表面硬さが低く形成できると共に、浸炭深さを浅く形成できる。そして、突起軸23が複数の突起23aを有する構成とすることで、トリポード1の内周面と突起軸23の外周面との間の内部空間5は、十分に大きな空間となる。従って、連通隙間の調整によって、トリポード1の内周面の表面硬さおよび浸炭深さを、十分に大きくすることも可能となる。もちろん、連通隙間の調整により、表面硬さおよび浸炭深さを小さくすることも可能である。
さらに、スペーサ4を配置することで、多数のトリポード1を積層した場合であっても、内部空間5に浸炭ガスおよび冷却用油を全体に亘って確実に流入させることができるため、積層位置に応じて表面硬さおよび浸炭深さが異なることがないようにできる。また、このスペーサ4の両端面に凹溝42を形成することで、浸炭ガスおよび冷却用油の循環が行われやすい状態となる。このことからも、良好な浸炭焼入が行われる。さらに、このスペーサ4の凹溝42は、分割空間5aの何れにも連通するように形成されている。従って、全ての分割空間5aにおいて、確実に浸炭ガスおよび冷却用油を流入することができる。
<第一実施形態の変形態様>
上記第一実施形態においては、スペーサ4を1個用いる場合について説明した。これに限られることなく、積層するトリポード1の個数に応じて、スペーサ4を複数用いるようにするとよい。もちろん、積層するトリポード1の個数が少ないのであれば、スペーサ4を用いないようにしてもよい。ただし、積層するトリポード1の個数が多いほど、スペーサ4を用いることによる効果は大きくなる。また、段差形成突起24とキャップ3とにより、積層されたトリポード1の軸方向両端に、内部空間5と外部空間との連通隙間を形成している。この点、段差形成突起24およびキャップ3の何れか一方のみにより連通隙間を形成し、他方に連通隙間を形成しないようにすることも可能である。ただし、連通隙間が両端にある方が、浸炭ガスおよび冷却用油の循環が行われ、良好な浸炭焼入が行われる。
上記第一実施形態においては、スペーサ4を1個用いる場合について説明した。これに限られることなく、積層するトリポード1の個数に応じて、スペーサ4を複数用いるようにするとよい。もちろん、積層するトリポード1の個数が少ないのであれば、スペーサ4を用いないようにしてもよい。ただし、積層するトリポード1の個数が多いほど、スペーサ4を用いることによる効果は大きくなる。また、段差形成突起24とキャップ3とにより、積層されたトリポード1の軸方向両端に、内部空間5と外部空間との連通隙間を形成している。この点、段差形成突起24およびキャップ3の何れか一方のみにより連通隙間を形成し、他方に連通隙間を形成しないようにすることも可能である。ただし、連通隙間が両端にある方が、浸炭ガスおよび冷却用油の循環が行われ、良好な浸炭焼入が行われる。
<第二実施形態>
次に、第二実施形態の浸炭焼入方法について説明する。第二実施形態の浸炭焼入方法においては、第一実施形態の浸炭焼入方法に対して、支柱部材6のみ相違する。以下、支柱部材6のみについて図10を参照して説明する。図10は、支柱部材6を示す図であって、図10(a)は支柱部材6の正面図であり、図10(b)は図10(a)のH方向矢視図である。なお、支柱部材6において、第一実施形態における支柱部材2と同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
次に、第二実施形態の浸炭焼入方法について説明する。第二実施形態の浸炭焼入方法においては、第一実施形態の浸炭焼入方法に対して、支柱部材6のみ相違する。以下、支柱部材6のみについて図10を参照して説明する。図10は、支柱部材6を示す図であって、図10(a)は支柱部材6の正面図であり、図10(b)は図10(a)のH方向矢視図である。なお、支柱部材6において、第一実施形態における支柱部材2と同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
支柱部材6は、図10(a)(b)に示すように、支持軸21と、基部プレート22と、溝形成部材61と、突起軸62とから構成される。
溝形成部材61は、円盤状からなり、基部プレート22の上端面に取り付けられている。この溝形成部材61の外径は、トリポード1の歯元内径D2よりも大きく形成されている。また、溝形成部材61の上端面には、外周縁から径方向内方に向かって凹溝61aが複数形成されている。6個の凹溝61aの内周端を通る円の直径は、トリポード1のスプライン11aの歯先内径D1よりも小さく形成されている。また、周方向全周を120度毎に区画したそれぞれの領域において、2個ずつの凹溝61aが形成されている。
突起軸62(本発明の「軸状部材」に相当する)は、軸方向(図10の上下方向)に延びる部材であって、径方向外方に突出する3個の突起62aが形成されている。この突起62aは、第一実施形態の突起軸23の突起23aと同一形状からなる。そして、この突起軸62の下端が、突起軸62の軸方向が溝形成部材61の上面の法線方向に一致するように、溝形成部材61の上面に取り付けられている。また、突起軸62の外接円の外径D3は、溝形成部材61の外径よりも小さく、且つ、トリポード1のスプライン11aの歯先内径D1よりも小さく形成されている。さらに、突起軸62の3個の突起62aは、溝形成部材61の凹溝61aが周方向全周を120度毎の区画したそれぞれの領域を形成する位置に、形成されている。つまり、隣り合う突起62aの間に、2個の凹溝61aが形成されていることになる。
このように形成される支柱部材6にトリポード1を積層した場合には、以下のようになる。最初に突起軸62に挿通されたトリポード1は、溝形成部材61の上端面に当接して、位置決めされる。つまり、溝形成部材61が、最下端に位置するトリポード1の座となる。そして、溝形成部材61に凹溝61aが形成されていることにより、最下端に位置するトリポード1の内部空間5と外部空間との間に連通隙間が形成されていることになる。この連通隙間は、凹溝61aの溝幅および溝深さによって調整することができる。なお、その他は、第一実施形態と同様であるため説明を省略する。
<第二実施形態の変形態様>
第二実施形態においては、溝形成部材61を基部プレート22に取り付けたものとした。この他に、溝形成部材61を基部プレート22とは別体とし、突起軸62を挿通可能な形状としてもよい。
第二実施形態においては、溝形成部材61を基部プレート22に取り付けたものとした。この他に、溝形成部材61を基部プレート22とは別体とし、突起軸62を挿通可能な形状としてもよい。
この溝形成部材7について図11を参照して説明する。図11は、当該変形態様における溝形成部材7を示す図である。図11に示すように、溝形成部材7は、円盤状からなり、中央に貫通する中央孔71と、中央孔71から径方向外方に向かって形成される3個の凹溝72とを備える。この溝形成部材7の内周面形状は、第一実施形態のキャップ3の内周面形状と同一である。さらに、この溝形成部材7の一方端面には、外周縁から内周縁に向かって6個の凹溝73が形成されている。この6個の凹溝73は、第二実施形態の溝形成部材61の6個の凹溝61aと同一である。この場合も、第二実施形態と同様の作用効果を奏する。
1:トリポード、 11:ボス部、 11a:スプライン、 12:トリポード軸部
2、6:支柱部材、
21:支持軸、 22:基部プレート
23、62:突起軸(軸状部材)、 23a、62a:突起
24:段差形成突起
3:キャップ、 31:中央孔、 32:凹溝
4:スペーサ、 41:中央孔、 42:凹溝
5:内部空間、 5a:分割空間
61、7:溝形成部材、 61a:凹溝
71:中央孔、 72:凹溝、 73:凹溝
2、6:支柱部材、
21:支持軸、 22:基部プレート
23、62:突起軸(軸状部材)、 23a、62a:突起
24:段差形成突起
3:キャップ、 31:中央孔、 32:凹溝
4:スペーサ、 41:中央孔、 42:凹溝
5:内部空間、 5a:分割空間
61、7:溝形成部材、 61a:凹溝
71:中央孔、 72:凹溝、 73:凹溝
Claims (10)
- 貫通孔の内周面に歯形またはキー溝が形成されたリング状部材の浸炭焼入方法であって、
径方向外方に突出する複数の突起が軸方向に延びるように形成された軸状部材に、前記リング状部材の貫通孔を挿通させて複数の前記リング状部材を積層し、
積層された複数の前記リング状部材と前記軸状部材との間に内部空間を形成し、
積層された複数の前記リング状部材の軸方向両端のうち少なくとも一方に、前記内部空間と外部空間との連通隙間を形成する連通隙間形成部材を配置し、
浸炭ガスおよび冷却用油をそれぞれ、前記連通隙間を介して前記内部空間に流通させて浸炭焼入を行うことを特徴とするリング状部材の浸炭焼入れ方法。 - 前記軸状部材の前記突起の先端幅は、前記リング状部材の前記歯形またはキー溝の溝開口幅より大きく形成されている請求項1に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 前記軸状部材の前記突起の先端の径方向断面形状は、弧凸状に形成されている請求項1または2に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 前記連通隙間形成部材は、
前記軸状部材に取り付けられ前記リング状部材に対して軸方向に係合する基部プレートと、
複数の前記突起の径方向外方に延長して突出形成され、外接円の直径が前記リング状部材の内周面の最大幅より大きく形成され、前記基部プレートに当接し、前記リング状部材の座となる段差形成突起と、
を備える請求項1〜3の何れか一項に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。 - 前記連通隙間形成部材は、前記軸状部材に取り付けられ、外接円の直径が前記リング状部材の内周面の最大幅より大きく形成され、前記リング状部材の座となると共に、前記座となる端面にその外周縁と前記内部空間を連通する溝が形成されている溝形成部材である請求項1〜3の何れか一項に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 前記軸状部材に取り付けられ前記リング状部材に対して軸方向に係合する基部プレートを備え、
前記溝形成部材は、前記軸状部材に挿通可能であり、前記基部プレートに当接して配置される請求項5に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。 - 前記連通隙間形成部材は、中央に貫通して形成された中央孔と複数の前記突起に対応する位置で前記中央孔から径方向外方に向かって形成される複数の凹溝とを備え、前記軸状部材に挿通可能である請求項1〜5の何れか一項に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 積層される複数の前記リング状部材の間に挟まれるように前記軸状部材に挿通され、前記内部空間と外部空間との間に連通路を形成するスペーサを配置する請求項1〜7の何れか一項に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 前記連通路は、複数からなり、前記内部空間が前記突起により区画される分割空間のそれぞれに連通する請求項8に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
- 前記スペーサは、リング状からなり、
前記連通路は、前記スペーサの両端面に形成された凹溝である請求項8または9に記載のリング状部材の浸炭焼入方法。
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