JP5168482B2 - 制振位置決め制御方法および装置 - Google Patents

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Description

本発明は、加速・減速時に振れや弾性変形を生じる移動体の振動を抑制し正確に位置決めするための制振位置決め制御方法および装置に関する。
クレーンやロボットアームなど加速・減速時に振れや弾性変形しやすい構造をもつ移動体は、移動中に前後に振れたり、弾性変形を生じ、正確な位置決めが困難となる。そこでこのような移動体をリアルタイムで計測し、クローズループで制御して振動を抑制し位置決めする手段として、例えば特許文献1,2が提案されている。
特許文献1は、目標地点到着時に吊具の振れ止めと高精度な位置決めを実現することを目的とする。
そのため、この制御システムは、図8に示すように、横行用のトロリー50にロープ51により巻上げ及び巻下げ可能に設けられた吊具52を備え、横行時に吊具52の巻上げあるいは巻下げを定速で行う斜め搬送を行うようにしたクレーンの振れ止め制御システムにおいて、あらかじめ知ることのできるクレーンによる荷物の掴み位置と離し位置との間の搬送区間からトロリー50の横行速度を時系列的に変化させる加速度パターンに基づく振れ止め軌道計画を作成するフィードフォワード部を備える。
フィードフォワード部は、搬送区間を、最大加速度による加速区間と最大速度による定速区間と最大減速度による減速区間とに分割すると共に、加速区間及び減速区間をそれぞれ、途中に定速横行区間が入るように複数の区間に分割して成る加速度パターンを事前に作成すると共に、斜め搬送における巻き操作の開始及び停止のタイミングをあらかじめ決定し、しかも斜め搬送を行う区間毎の時間を、斜め搬送の最終地点を基準としてこの最終地点におけるあらかじめ知ることのできるロープ長からこれを一定と見なしてそのロープ長での振り子の固有周波数により最終区間の時間を算出し、最終区間の1つ前の空間については最終区間の時間だけ溯った時点でのあらかじめ知ることのできるロープ長からこれを一定と見なしてそのロープ長での振り子の固有周波数により最終区間の1つ前の区間の時間を算出し、以下、これを斜め搬送の最初の区間まで繰り返して決定するようにしたものである。
特許文献2は、吊り荷の振れ角を制御することにより安定した吊り荷の搬送を行うことができることを目的とする。
そのため、この振れ止め装置は、図9に示すように、速度指令を発生する速度パターン発生装置60と、クレーンの振れ止め時にて、速度パターン発生装置より出力された速度指令に応じた電動機駆動信号を生成する速度制御出力装置61と、クレーンの目標位置を設定する目標位置設定装置62と、吊り荷荷重を検出する荷重計63と、荷吊りワイヤー長を検出するワイヤー長検出装置と、荷吊りワイヤー長および荷吊り荷重より荷吊り用ワイヤーの弦振動周期を演算する弦振動周期演算装置64と、荷吊り用ワイヤーの振れ角度を検出する振れ角度検出装置65と、振れ角度検出装置にて検出された振れ角度を荷吊り用ワイヤーの弦振動周期で平均処理を行うフィルタ装置66と、速度パターン発生装置による速度指令を与えた場合の理想的な振り子の振れ角度を演算する理論振れ角度演算装置67と、理論振れ角度演算装置で演算された理想的な振り子の振れ角度と平均処理された振れ角度との角度偏差を速度指令に対してフィードバックさせるための角度フィードバックゲイン制御装置68とを備え、荷吊り用ワイヤーの振れ角度からその弦振動を省いた、実際の吊り荷の振れ角度に近い角度検出に対する振れ角度フィードバック制御を行うものである。
特許第3104017号公報、「クレーンの振れ止め制御システム」 特許第3990777号公報、「クレーンの振れ止め装置」
図1は、本発明が対象とする移動体の模式図である。
この移動体は、荷物1が弾性アーム2を介して移動台車3に固定された1自由度のばね−質点系モデルである。かかるモデルは、ロボットアーム、クレーン等に適用することができる。
本発明の発明者らは、1自由度のばね−質点系でモデル化できる振動要素をもつ制御対象において、一定の傾きで加速度を変化させたときの加速度変化時間が固有周期の整数倍に一致するとき、その振れは、加速度によって生じる振れ(静的なたわみ)のみとなる特性を、解析によって新たに見出した。以下、加速度の時間微分を単に「ジャーク」と呼ぶ。
しかし、この特性を実際の装置に適用する場合、モデルと実際の挙動に乖離があるため、パラメータ調整が必要であり、実際の挙動を計測して、エンジニアがパラメータ調整を行う必要があった。
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、実際の挙動を計測してパラメータ調整を行うことなく、加速している間または減速している間の振動回数が少なく、加速度によって生じる静的な振れよりも大きな振れが発生せず、その分、発生応力を低減でき、加速時間や減速時間を固有周期に合わせる必要がなく任意に設定できる制振位置決め制御方法および装置を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、固有周期が質点の位置変化(クレーンの吊り長さやロボットアームの長さなどが変わる)によって変化する場合でも、実際の挙動を計測してパラメータ調整を行うことなく、ジャーク一定時間と固有周期(の整数倍)を十分に一致させて、第1の目的を達成することができる制振位置決め制御方法および装置を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、固有周期を事前に正確に求めることができず、或いは 経年変化などによって同じ位置であっても固有周期が変化する場合でも、実際の挙動を計測してパラメータ調整を行うことなく、第1の目的を達成することができる制振位置決め制御方法および装置を提供することにある。
本発明によれば、加速・減速時に振れや弾性変形を生じる移動体の振動を抑制して位置決めする制振位置決め制御方法であって、
前記移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、前記モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定し、
前記加速度パターンで移動体の移動を制御し、
前記移動中の移動体の状態変数を検出し、前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御し、
同一条件下で、加速終了時および減速終了時の残留振れを複数計測し、
前記複数の残留振れの平均値を算出し、
前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことを特徴とする制振位置決め制御方法が提供される。
本発明の好ましい実施形態によれば、前記加速度パターンは、加速度をジャーク一定で増加させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで減少させる増速パターンと、
加速度をジャーク一定で減少させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで増加させる減速パターンと、
前記増速パターンと減速パターンの間に位置し加速度を0に保持する等速パターンとを有する。
また、固有周期が質点の位置変化によって変化する場合において、
加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における固有周期を質点の位置に基づきそれぞれ導出し、
加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における各ジャーク一定時間を、前記導出したそれぞれの固有周期の整数倍とする。
また、本発明によれば、加速・減速時に振れや弾性変形を生じる移動体の振動を抑制して位置決めする制振位置決め制御装置であって、
前記移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、前記モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定する加速度パターン設定装置と、
前記加速度パターンで移動体の移動を制御する移動制御装置と、
前記移動中の移動体の状態変数を検出する状態変数検出装置と、
前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御するフィードバック制御装置とを備え
同一条件下で、加速終了時および減速終了時の残留振れを複数計測し、
前記複数の残留振れの平均値を算出し、
前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことを特徴とする制振位置決め制御装置が提供される。
本発明の好ましい実施形態によれば、前記状態変数検出装置は、移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度を検出するために歪み計、加速度計、レーザ距離計のうち少なくとも1つを有する。
また、前記状態変数検出装置は、弾性アームの先端位置、先端加速度又はたわみ、又は移動台車のモータ駆動トルク又はモータ電流から移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度のうち少なくとも1つを検出するオブザーバ(状態観測器)を有する。

上述した本発明の方法及び装置では、ジャーク一定制御の特性を利用し、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍とするので、後述するように、等加速度時、等速度時および停止時の残留振れを理論上0に低減することができる。
また、本発明の方法及び装置による動作によって生じるたわみ(振幅)の大きさが、加速度によって生じる静的なたわみ以下とすることができるため、機器にかかる応力を最小にできる。
さらに、加速度パターンが容易に設定可能であり、強度設計に必要以上の余裕度をもうける必要が無くなる。
さらに、等加速度の時間を任意としても振止効果に違いが無いため、最大速度を可変とした場合の速度パターンの設定が容易となる。
さらに、本発明の方法及び装置では、移動中の移動体の状態変数を検出する状態変数検出装置と、前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御するフィードバック制御装置とを備えるので、オープンループ制御としてのジャーク一定制御と比較して、モータ駆動系の応答特性、走行レールゆがみなどの外乱、設計時のモデル化誤差などの影響を能動的に軽減できる。
また、固有周期が質点の位置変化によって変化する場合でも、加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における固有周期を質点の位置に基づきそれぞれ導出し、加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における各ジャーク一定時間を、例えば、T1,T2,T3,T4と別々に定義し、上記固有周期にしたがって、前記導出したそれぞれの固有周期の整数倍とそれぞれ設定する、ことにより、ジャーク一定時間と固有周期(の整数倍)との乖離が小さくなり、振止精度を向上させることができる。
また、同一条件下で、加速終了時(=等速運転時)および減速終了時(=停止時)の残留振れを複数計測し、前記複数の残留振れの平均値を算出し、前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことにより、機器導入時の調整作業量を軽減するとともに、経年変化に対する再調整を自動化することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
図2は、図1に示した移動体のモデル図である。この移動体モデルでは、質量mの荷物1が長さLの弾性アーム2を介して移動台車3に固定されている。
ここで、kはばね定数、θは角度、Mは台車質量、fは駆動力、gは重力加速度である。
また、移動台車3は、本発明の制振位置決め制御装置10により、荷物1の状態変数(後述する)をリアルタイムで計測し、クローズループでフィードバック制御するようになっている。
このモデルの運動エネルギーVは数1の式(1)で表され、位置エネルギーUは式(2)で表される。
さらに、式(1)と式(2)から、ラグランジェ運動方程式は、式(3)(4)で表される。ここで、θは微小であり、cosθ=1、sinθ=θとする。
また、自由な走行状態における振動の固有周期Tは、式(4)から式(5)で表される。
Figure 0005168482
移動台車3が制振位置決め制御装置10により指令値どおりに動くことから、式(4)を変形すると数2の式(6)が求まる。
ここで、式(6)の右辺をF(t)とおき、角速度ω=2π/T・・・(6a)の関係を用いると式(6)は式(7)となる。
式(7)は、非同次二階微分方程式であり、その解は、式(8)で与えられる。
Figure 0005168482
ここで、台車の入力値として、図3Aに示すように、時間t=0からt=trまで、加速度の時間微分(「ジャーク」)を一定に加速し、その後、加速度が一定となる加速を考える。この場合、時間経過tがジャーク一定時間trを超えたとき、式(8)は数3の式(9)で表される。
Figure 0005168482
ジャーク時間trが固有周期Tの整数倍(nは整数)である場合、式(6a)からωtr=ωnT=2nπ・・・(6b)である。
式(9)において、sinω(t−tr)=sinωt・cosωtr−cosωt・sinωtr=sinωt・cos2nπ−cosωt・sin2nπ=sinωt・・・(6c)が成り立つ。
従って、式(9)は、式(10)で表すことができる。
θ=1/(ωL)・・・(10)
図3(B)は、ジャーク一定時間trが本発明の場合(tr=2T=10)と、本発明と若干相違する場合(tr=12)を比較した図である。
この図から、1自由度のばね−質点系でモデル化できる振動要素をもつ制御対象において、一定の傾きで加速度を変化させとき(以下、「ジャーク一定」と呼ぶ)の加速度変化時間(「ジャーク一定時間」)が固有周期の整数倍のときに、その振れが、加速度によって生じる振れ(静的なたわみ)のみとなることがわかる。
以下、本出願において、ジャーク一定時間を固有周期の整数倍に設定する制御を「ジャーク一定制御」と呼ぶ。
本発明は、上述したジャーク一定制御の特性を利用し、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍とすることで、等加速度時、等速度時および停止時の残留振れを起こさないようにするものである。
ジャーク一定制御の特性は加速度一定の状態から負のジャーク一定で加速度0とする場合にも成立するため、各ジャーク時間を固有周期の整数倍とした台形加速度パターンで加速、減速を行うと、加速完了時や減速完了時(停止時)のみならず、加速中・減速中(等加速度動作中)にも残留振れを起こさない。
また、本発明の方法及び装置による動作によって生じるたわみ(振幅)の大きさが、加速度によって生じる静的なたわみ以下であるため、ジャーク一定制御では機器にかかる応力が最小となるとともに容易に計算可能となり、強度設計に必要以上の余裕度をもうける必要が無くなる。
また、ジャーク一定制御では等加速度の時間を任意としても振止効果に違いが無いため、最大速度を可変とした場合の速度パターン算出が容易となる。
図4は、本発明による制振位置決め制御装置の構成図である。
この図に示すように、本発明の制振位置決め制御装置10は、加速度パターン設定装置12、移動制御装置14、状態変数検出装置16およびフィードバック制御装置18からなる。
加速度パターン設定装置12は、図1の移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定する。
移動制御装置14は、設定した加速度パターンで移動体の移動を制御する。
状態変数検出装置16は、この例では、歪み計4、加速度計5,6、およびレーザ距離計7,8からなる。
この例において、弾性アーム2の根元に歪み計4(例えば歪ゲージ)、荷物1と移動台車3に加速度計5,6を設置し、外部に荷物1と移動台車3の位置を計測するレーザ距離計7,8を設置し、それぞれの歪み、加速度及び位置を制振位置決め制御装置10に入力するようになっている。
なお、その他に、状態変数検出装置16として、弾性アーム2の振れ角度を計測する角度計、移動台車3の位置を計測するリニアスケール、及び移動台車3のモータ速度、モータ電流、モータ駆動トルクを計測する計測器、等を備えてもよい。この構成により、後述する状態変数ベクトルX(t)の状態変数(移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度)をリアルタイムで検出することができる。
また、状態変数ベクトルX(t)の状態変数は、すべてを直接検出する必要はなく、オブザーバ(状態観測器)を用いて、制御入力と測定出力から状態変数を再現できるかぎりで、省略することができる。
オブザーバに用いる計測値には、位置、速度、振れ角度、振れ角速度以外に弾性アームの先端位置、先端加速度、たわみ、移動台車のモータ駆動トルク、モータ電流などが適用できる。制御出力には、速度指令以外にモータ駆動トルク、モータ電流などが適用できる。
図5は、本発明におけるフィードバック制御系のブロック図である。以下、本発明のフィードバック制御を説明する。
この図においてX(t)は状態変数ベクトル、U(t)は入力変数ベクトル、A(t)とB(t)は行列関数、Fはフィードバック係数行列である。X(t)、U(t)及びZを、数4の式(11)(12)(13)で定義する。なお、状態変数ベクトルX(t)の状態変数は、移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度である。
Figure 0005168482
式(6)から状態方程式は数5の式(14)で表わすことができる。
また、式(14)の状態方程式をもとに式(15)に示す最適レギュレータが設計できる。最適レギュレータとは、外乱によって状態変数が平衡点からずれたときに、式(16)に示す評価関数Jを最小として状態変数を平衡点に戻すための多入力多出力フィードバック制御方法である。
なお、式(15)におけるk1,k2,k3,k4はフィードバックゲインであり、予め設定する。また、式(16)におけるQ,Rは重み行列である。
なお、本発明は最適レギュレータを用いたフィードバック制御に限定されず、多入力制御である限りで、その他の周知フィードバック制御を適用することができる。
Figure 0005168482
図6(A)は、ジャーク一定制御を行わない従来例であり、図2のモデルにおいて固有周期の4倍の時間で直線加速した場合の加速パターンとアームの振れ及び速度を示す。この図から、本発明と相違し、単に「加速時間を固有周期の整数倍」にした場合には、アームの振れの変動が大きいことがわかる。
図6(B)は、ジャーク一定制御を用いた本発明の例であり、図2のモデルにおいて固有周期の1倍の時間だけジャーク一定とし、次いで等加速度で動作し、その後固有周期の1倍の時間だけ負のジャーク一定とする加速パターンと、その場合のアームの振れ及び速度を示す。
従来例との比較のため、この図において、加速に要する時間を図6(A)と同じ固有周期の4倍となるように調整し、さらに加速後の最大速度が図6(A)と一致するような最大加速度を設定した。このとき、この図の最大加速度は図6(A)に比べて大きなものとなるが、最大振れ(たわみ量)はこの図のほうが小さくなることがわかる。
また、図6(A)では短い間に4回アームが振動するのに対し、図6(B)では1回の振動(たわみ)となるため、本発明の例ではアームの疲労も少なくなる。
図6(C)は、本発明による制振位置決め制御における加速度パターンである。
この図において、横軸は経過時間、縦軸は加速度である。この図は、図2に示したアームを制振位置決め制御を行う場合の加速度パターンであり、最大加速度A[m/s]、最大速度V[m/s]で設計された駆動系とし、X[m]離れた位置に水平移動するための加速度パターンである。
この加速度パターンは、増速パターンと減速パターンと等速パターンを有する。
増速パターンでは、加速度をジャーク一定で増加させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで減少させる。
減速パターンでは、加速度をジャーク一定で減少させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで増加させる。
等速パターンでは、前記加速パターンと減速パターンの間に位置し加速度を0に保持する。
なお、アームの固有周期をT[sec]とし、動作中に固有周期は変化しないものとする。
図7は、本発明の制振位置決め制御方法の動作フローを示す。この図に示すように、本発明の制御方法は、上述したジャーク一定制御を行うS11〜S15の各ステップと、フィードバック制御を行うS21〜S25の各ステップからなる。
この図において、まず、S11において、オペレーションやセンサなどから目標位置、現在位置、搬送物の有無、アーム寸法などの運転条件を入力する。
次いで、S12において、加速度パターン設定装置12により、移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定する。
すなわち、運転開始前に、運転条件から最適な運転パターン(=運転開始からの時系列加速度パターン)を計画する。具体的には、制御対象モデルの固有周期を導出し、ジャーク一定時間が固有周期の倍数となる加速および減速パターンと、走行移動量に応じた等速時間を導出する。
次に、S13において、移動制御装置14により、設定した加速度パターンで移動体の移動を制御する。
すなわち、S13において、加速度パターンを制御サイクルの時間間隔でトレースし、加速度を数値積分した値を、速度指令として、制御サイクル毎にインバータモータなどの駆動装置に出力する。
次に、S14において、制御サイクル毎に加速度パターンのトレースが終了したかどうかをチェックする。
S14において、加速度パターンのトレースが終了(YES)の場合には、S15において、動作完了となる。この場合、加速度パターンで計画した動作時間だけ制御出力を行い、速度指令が0となっている。
フィードバック制御(後述するS21〜S25)を行うことなく、ジャーク一定制御を上述したS11〜S15を設定した加速度パターンで行うことにより、図7、図8に示した特性を得ることが原理的にできる。
しかし、この特性を実際の装置に適用する場合、モデルと実際の挙動に乖離があるため、実際の挙動を計測して、フィードバック制御を行う必要がある。
以下、このフィードバック制御の方法を説明する。
図7のS14において、加速度パターンのトレースが終了していない(NO)の場合には、S21において、状態変数検出装置16からセンサ情報を入力し、S22で状態変数の現在値を計算する。この状態変数の現在値は、式(11)に示す状態変数ベクトルX(t)の状態変数(移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度)である。
なお状態変数の現在値は、ノイズカットなどのフィルタリング処理や、オブザーバを用いて直接センサで計測できない値をモデル推定する。
また、S21、S22と並行して、S23において、状態変数の目標値を計算する。この状態変数の目標値は、設定した加速度パターンの現時点における状態変数ベクトルX(t)の状態変数である。
なお、制御サイクル毎の状態変数目標値は、式(14)を制御サイクル時間dTで離散化した数6の式(17)を用いて算出する。
Figure 0005168482
次いで、S24において、フィードバック指令値を計算する。
具体的には、運転パターンの加速度を制御対象モデルに与えたときの状態変数目標値と、機器に接続されたセンサ情報から導出される状態変数現在値との偏差を求め、これらの偏差を0とするフィードバック操作値(=加速度指令値)を数値積分して速度指令値とする。
なお、制御出力として、速度指令値以外にモータ駆動トルク、モータ電流などを適用してもよい。
上述した本発明によれば、上述したS11〜S15をオープンループ制御でジャーク一定制御を行った場合でも、駆動系が理想的な応答性能をもっていれば、速度現在値は速度指令値に一致する。しかし、実際には応答遅れやオーバーシュートといった応答ずれが発生する。
オープンループ制御では駆動系のマイナーループで速度現在値が速度指令値になるべく一致するように制御されるが、真に必要なのは応答ずれに加えて外乱やモデル化誤差によって生じる振れ幅過大や残留振動を軽減させることなので、これらを総合的に目標値に近づけるフィードバック制御(S21〜S25)を行うことで、ロバスト性を高めることができる。
また、図7、図8に示した加速度パターンを1/2周期ずらして2波又は3波以上を重ね合わせることで固有周期変動に対するロバスト性を高めることができる。
上述したように、本発明の方法及び装置は、回転バネ振子モデルの新規の特性を利用し、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍とするので、等加速度時、等速度時および停止時の残留振れを理論上0に低減することができる。
また、本発明の方法及び装置による動作によって生じるたわみ(振幅)の大きさが、加速度によって生じる静的なたわみ以下とすることができるため、機器にかかる応力を最小にできる。
さらに、加速度パターンが容易に設定可能であり、強度設計に必要以上の余裕度をもうける必要が無くなる。
さらに、等加速度の時間を任意としても振止効果に違いが無いため、最大速度を可変とした場合の速度パターンの設定が容易となる。
さらに、本発明の方法及び装置では、移動中の移動体の状態変数を検出する状態変数検出装置と、前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御するフィードバック制御装置とを備えるので、オープンループ制御としてのジャーク一定制御と比較して、モータ駆動系の応答特性、走行レールゆがみなどの外乱、設計時のモデル化誤差などの影響を能動的に軽減できる。
また、固有周期が質点の位置変化によって変化する場合でも、加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における固有周期を質点の位置に基づきそれぞれ導出し、加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における各ジャーク一定時間を、例えば、T1,T2,T3,T4と別々に定義し、上記固有周期にしたがって、前記導出したそれぞれの固有周期の整数倍とそれぞれ設定する、ことにより、ジャーク一定時間と固有周期(の整数倍)との乖離が小さくなり、振止精度を向上させることができる。
また、同一条件下で、加速終了時(=等速運転時)および減速終了時(=停止時)の残留振れを複数計測し、前記複数の残留振れの平均値を算出し、前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことにより、機器導入時の調整作業量を軽減するとともに、経年変化に対する再調整を自動化することができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。例えば、本発明は、上述したモデルを適用できる限りで、クレーンやロボットアームに限定させず、加速・減速時に振れや弾性変形しやすい構造をもつその他の移動体にも適用することができる。
本発明が対象とする移動体の模式図である。 図1に示した移動体のモデル図である。 本発明による加速度パターン(A)とその解析例(B)を示す図である。 本発明による制振位置決め制御装置の構成図である。 本発明におけるフィードバック制御系のブロック図である。 従来例と本発明の加速パターン、アームの振れ及び速度を示す図と本発明による制振位置決め制御における加速度パターンである。 本発明の制振位置決め制御方法の動作フローを示す。 特許文献1の制御システムの模式図である。 特許文献2の振れ止め装置の模式図である。
符号の説明
1 荷物、2 弾性アーム、3 移動台車、
4 歪み計(歪ゲージ)、5,6 加速度計、7,8 レーザ距離計、
10 制振位置決め制御装置、12 加速度パターン設定装置、
14 移動制御装置、16 状態変数検出装置、
18 フィードバック制御装置

Claims (6)

  1. 加速・減速時に振れや弾性変形を生じる移動体の振動を抑制して位置決めする制振位置決め制御方法であって、
    前記移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、前記モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定し、
    前記加速度パターンで移動体の移動を制御し、
    前記移動中の移動体の状態変数を検出し、前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御し、
    同一条件下で、加速終了時および減速終了時の残留振れを複数計測し、
    前記複数の残留振れの平均値を算出し、
    前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことを特徴とする制振位置決め制御方法。
  2. 前記加速度パターンは、加速度をジャーク一定で増加させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで減少させる増速パターンと、
    加速度をジャーク一定で減少させ、次いで加速度を一定に保持し、次いで加速度をジャーク一定で0まで増加させる減速パターンと、
    前記増速パターンと減速パターンの間に位置し加速度を0に保持する等速パターンとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の制振位置決め制御方法。
  3. 固有周期が質点の位置変化によって変化する場合において、
    加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における固有周期を質点の位置に基づきそれぞれ導出し、
    加速開始時、加速終了時、減速開始時、及び減速終了時における各ジャーク一定時間を、前記導出したそれぞれの固有周期の整数倍とする、ことを特徴とする請求項1に記載の制振位置決め制御方法。
  4. 加速・減速時に振れや弾性変形を生じる移動体の振動を抑制して位置決めする制振位置決め制御装置であって、
    前記移動体の振動を1自由度のばね−質点系でモデル化し、前記モデルの固有周期を求め、加速・減速時の加速度パターンをジャーク一定の増速及び減速を含む台形パターンとし、各ジャーク一定時間を固有周期の整数倍として、加速度パターンを設定する加速度パターン設定装置と、
    前記加速度パターンで移動体の移動を制御する移動制御装置と、
    前記移動中の移動体の状態変数を検出する状態変数検出装置と、
    前記加速度パターンによる状態変数の目標値と検出した状態変数の現在値との偏差に基づき移動体をフィードバック制御するフィードバック制御装置とを備え
    同一条件下で、加速終了時および減速終了時の残留振れを複数計測し、
    前記複数の残留振れの平均値を算出し、
    前記残留振れの平均値が所定の閾値以上である場合、残留振れが小さくなるように固有周期の補正値を増減させる、ことを特徴とする制振位置決め制御装置。
  5. 前記状態変数検出装置は、移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度を検出するために歪み計、加速度計、レーザ距離計のうち少なくとも1つを有する、ことを特徴とする請求項に記載の制振位置決め制御装置。
  6. 前記状態変数検出装置は、弾性アームの先端位置、先端加速度又はたわみ、又は移動台車のモータ駆動トルク又はモータ電流から移動台車の位置と速度、弾性アームの振れ角度と振れ角速度のうち少なくとも1つを検出するオブザーバ(状態観測器)を有する、ことを特徴とする請求項に記載の制振位置決め制御装置。
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