JP5155934B2 - 無線局配置探索装置 - Google Patents

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Description

本発明は、無線ネットワークシステムにおける無線局配置探索技術に関する。
無線ネットワークシステムを構築するとき、無線局および端末局間で、所定の確率以上で無線通信が成立するように、各無線局を配置する必要がある。また、一つの無線局がカバーするエリアを広くすることと、無線局間の干渉を少なくすることとは、トレードオフの関係にあり、コストを抑えるために無線局の数やその電波出力の大きさを適切に決定する必要がある。ところで、無線局および端末局間の電波伝搬は、その無線局や端末局の周囲の構造物や地形によって影響を受けることが知られている。そこで、これらの状況を鑑みて、電波伝搬状態を計算するリソースを低減しつつ、その推定精度を向上させるための検討が行われている。
例えば、無線通信における電波伝搬解析手法として、レイトレーシング法、FDTD(Finite Difference Time Domain)法、有限要素法等が用いられている。これらの方法は、いずれも、基本的には、マクスウェル方程式の近似計算を行うものである。しかし、その計算方式の違いにともなって、対象とする無線エリアの規模、複雑さ、電波の周波数帯等の条件に対して、計算精度や計算に掛かる時間がそれぞれ異なる。
レイトレーシング法は、マクスウェル方程式の遠方解近似であると考えられ、計算対象となる構造物のサイズに対して波長が短い場合に有効である。レイトレーシング法は、幾何光学近似とも呼ばれ、電磁波を光の伝搬に近似させたものと言える。このため、光の伝搬経路の状態の計算が簡単であり、計算リソースが少なくて済む。しかし、近傍解の影響が大きい場合、伝搬経路の状態について推定精度が悪くなるという欠点がある。
FDTD法は、マクスウェル方程式を微分形式のまま時間軸および空間軸において離散化して、直接解く解析手法である。すなわち、FDTD法は、解析領域を格子状に分割し、ある格子について算出した電界および磁界を、その格子に隣り合う別の格子への入力として、次々と電界および磁界を算出していく。そして、FDTD法は、格子のサイズおよび時間間隔を細かくすることによって、伝搬状態の推定精度を向上させることができる。しかし、解析空間のサイズが大きくなること、および高周波になること、のいずれか一方または双方によって、計算リソースが非常に大きくなるという欠点がある。
有限要素法は、マクスウェル方程式を、変分原理によって、系の持つエネルギが最小となるように有限要素で定義される電界変数または磁界変数を求めるものである。そのため、有限要素法は、FDTD法と同様に、解析領域をメッシュ分割して解析することができる。そのため、有限要素法は、FDTD法と同様の欠点を有する。
基地局位置の最適化についての従来技術では、例えば、特許文献1には、基地局が形成する無線セルの各地点で、周囲に存在するすべての基地局に対する見通しの有無を、地形データおよび高さデータに基づいて計算し、少なくとも1つの基地局との見通しのある地点が最大となるように、基地局位置の最適化演算を行う方法が開示されている。また、非特許文献1には、レイトレーシング法によって伝搬経路を定め、その定めた伝搬経路に近傍解を無視できない構造物が存在する場合、伝搬経路の状態を入射条件としてその構造物についてFDTD法を用いて解析を行い、該構造物から出力される射出状態を算出し、その射出状態を次の伝搬経路の状態として、再びレイトレーシング法を用いて次の伝搬経路を定めていく方法が開示されている。
特開2006−191699号公報
Yongming Huang, et al.,"A Novel Technique for Indoor Radio Propagation Modeling",Electromagnetic Compatibility, 2002 3rd International Symposium on 21-24 May 2002, p.335-338
しかしながら、特許文献1に記載の伝搬解析手法は、遠方解近似が成立することを前提としている。そのため、最適化演算を行っているにも関わらず、遠方解近似が成り立たない場合には、見通しの有無についての誤差が大きくなり、基地局の配置が適切にならないという問題がある。特に、屋内のような閉空間では、電力が遠方に拡散しにくく、近傍解が無視できないサイズの物体(エリア)が多数存在しうるため、大きな誤差が発生するという問題がある。また、非特許文献1では、レイトレーシング法で用いるレイ(光)が、近傍解を無視できないエリア(構造物等)に飛び込む度に、そのエリアについてFDTD法による解析を行うため、レイトレーシング法による高速性が損なわれるという問題がある。また、FDTD法による解析に多くの計算時間を使うことになるため、無線局位置を変更しながら繰り返し解析を行う最適化演算には向かないという問題がある。
そこで、本発明は、最適化演算に適する、無線局配置探索における電波伝搬状態の推定を高速かつ精度良く実行する技術を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明は、無線局を配置するエリア内の無線局の数およびその設置位置の最適化演算を行う無線局配置装置であって、該エリア内の構造物について、その構造物の近傍解の電波伝搬解析を行って、レイの入射にともなう散乱モデルを生成し、その散乱モデルを予めデータベースに記憶し、最適化演算では、データベースの散乱モデルを参照しつつ、レイトレーシング法により伝搬経路とその電波伝搬状態を算出し、無線局の数およびその設置位置を決定することを特徴とする。
本発明によれば、最適化演算に適する、無線局配置探索における電波伝搬状態の推定を高速かつ精度良く実行する技術を提供することが可能となる。
本実施形態の無線局配置探索装置における最適化演算の流れの概要を示す図である。 本実施形態における無線局配置探索装置の構成例を示す図である。 無線局配置探索装置の機能であって、マクスウェル方程式の遠方解近似を適用できないエリアの局所散乱データを算出する流れを示す図である。 通信エリア内の構造物のモデル化の一例を示す図である。 モデル化された構造物に対する解析条件の一例を示す図である。 入射電界に対する反射(散乱)・透過状態を算出した結果の一例を示す図である。 反射(散乱)にともなう伝搬経路の修正方法を示す図であり、(a)はフェイスタイプ、(b)はエッジタイプ、(c)はポイントタイプを示す図である。 フレネルゾーンの特性を示す図である。 フレネルゾーン半径以内の領域に構造物が含まれるか否かの判定の具体例を示す図である。 局所散乱データの算出方法の一例であり、(a)は、送受信点間距離の短い場合、(b)は送受信点間距離の長い場合を示す図である。 局所散乱データの一例を示す図である。 本実施形態における最適化演算の一例を示す図である。 入射角度設定画面の一例を示す図である。
次に、本発明を実施するための形態(以降、「実施形態」と称す)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
≪概要≫
本実施形態の無線局配置探索装置における最適化演算の流れの概要について、図1を用いて説明する。ステップS101では、無線局配置探索装置は、最適化演算のためのパラメータ探索手法(例えば、実験計画法、遺伝的アルゴリズム等)を用いて、送信点および受信点を設定する。次に、ステップS102では、無線局配置探索装置は、マクスウェル方程式の遠方解近似手法(例えば、レイトレーシング法)を用いて、送信点および受信点間の伝搬経路を算出する。そして、ステップS103では、無線局配置探索装置は、算出した伝搬経路のうち、遠方解近似では精度が良くない局所エリアに到達する伝搬経路を抽出する。
ステップS104では、無線局配置探索装置は、抽出した伝搬経路に対して、マクスウェル方程式の数値解析手法を用いて予め算出しておいた散乱状態を反映し、伝搬経路を修正する。次に、ステップS105では、無線局配置探索装置は、修正した伝搬経路について、受信電力、遅延プロファイル、到来角、受信機回路の特性を考慮して、通信特性を評価する。そして、ステップS106では、無線局配置探索装置は、所定の繰り返し回数を超えたか否かを判定し、所定の繰り返し回数を超えた場合(ステップS106でYes)、ステップS107では、その時点で最適な評価となっている通信特性の送信点および受信点(無線局の配置)を表示部等に出力する。また、所定の繰り返し回数を超えていない場合(ステップS106でNo)、ステップS101へ戻り、繰り返し演算を行う。
図1の処理の流れに示したように、ステップS103でレイトレーシング法の高速性を利用しつつ、レイトレーシング法の近似精度の落ちる局所エリアについては、ステップS104で予めFDTD法によって精度良く算出しておいた散乱状態を反映して、伝搬経路を修正することができるため、最適化演算に適する電波伝搬状態の推定を高速かつ精度良く実行することが可能となる。
≪無線局配置探索装置≫
図2を用いて、本実施形態における無線局配置探索装置10の構成例について説明する。無線局配置探索装置10は、処理部20、表示部30、入力部40、および記憶部50がバス60を介して、相互にデータの送受信を可能に接続されている。処理部20は、コンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)であって、このCPUがアプリケーションプログラムをメインメモリに展開して、それを実行することにより処理部20の各機能を具現化する。表示部30は、例えば、ディスプレイ装置、スピーカ、プリンタであり、ユーザからの入力を受け付けるための画面表示、入力データの状態、および最終結果等を表示する。入力部40は、例えば、キーボード、マウス、スキャナ、マイクであり、ユーザからの入力を受け付け、処理部20へ入力データを送信する。記憶部50は、例えば、CD-R(Compact Disc Recordable)やDVD-RAM(Digital Versatile Disk-Random Access Memory)、シリコンディスク等の記憶メディアおよびその記憶メディアの駆動装置、HDD(Hard Disk Drive)であり、処理部20において実行されるアプリケーションプログラムや演算に用いる各種情報や演算結果を格納する。
処理部20の機能は、分割変換部21、マクスウェル方程式の数値解析部22、散乱モデル設定部23、マクスウェル方程式の遠方解近似部24、伝搬経路修正部25、無線局配置評価部26、および最適化演算部27である。なお、各部21〜27の詳細については、図3〜図13を用いて、説明する。
≪局所散乱データの生成処理≫
図3には、マクスウェル方程式の遠方解近似を適用できない局所エリアの局所散乱データ(散乱情報)を生成する流れを示している。この局所散乱データは、図1に示すステップS104における、伝搬経路の修正のために参照される。
図3に示すように、分割変換部21は、エリア内構造データ51および分析パラメータ52のデータを用いて、局所構造データ53および解析条件54を生成する。エリア内構造データ51は、図4に示すトンネルとそのトンネル内に位置する移動体(物体または近傍解を無視できないエリア)とを例とした場合、トンネルの天井401および地面402と、移動体のボディ403および車輪404,405,406,407の3次元図形データである。なお、それらの3次元図形データは、直方体、球体、円筒等の部品の組み合わせによって記述されることが一般的である。
この3次元図形データは、分析パラメータ52に基づいて、部品に分割されたものである。なお、分析パラメータ52は、入力部40を介して設定されたものである。例えば、分析パラメータ52は、部品の切り出し範囲、材質データ、電波の入射角度分割数に対応する電波の入射角度範囲等である。そして、切り出し範囲の場合、図4の切り出し部分411(破線で囲まれた範囲)に示すように、移動体のボディ403の側面が破線部分によって切り出され、局所構造物411a(局所構造)に示すような、大きな直方体に小さな直方体が2つ両端にくっついた3次元図形データとして扱われる。なお、想定する電波の波長に比べて、図形の微細構造を無視できる場合には、局所構造物411b(局所モデル)に示すような1つの直方体として扱っても構わない。
局所構造データ53は、3次元図形データを、マクスウェル方程式の数値解析部22への入力形式に変換したデータである。例えば、マクスウェル方程式の数値解析部22がFDTD法の場合、特開2000−28665号公報に開示される変換技術を用いて、3次元図形データのCAD(Computer Aided Design)データをFDTD法に適用可能な入力形式に変換することが可能である。
解析条件54は、局所構造データ53のデータごとに、解析するための条件を指定するものである。解析条件54には、局所構造データ53へ入射する電界の周波数データ、電界入射角度、空間分割数、材質データ等がある。図5には、解析条件54の例として、電界入射角度および空間分割数を示す。局所構造物411aが、XYZ軸空間に置かれるものとする。そして、局所構造物411aを含む球面(図5の破線)には、全立体角を均等に分割した角度(空間分割数)ごとに電界の入射位置(黒丸)511が設定される。そして、電界の入射方向520は、電界の入射位置511から、XYZ軸空間の原点に向かって、入射されるものとする。このとき、Z軸からの角度θおよびX軸からの角度φの2つの角度値によって、その入射角度を一意に指定することができる。なお、入射する電界については、垂直電界521および水平電界522が、入射角度に対応して設定される。
図3に戻って、マクスウェル方程式の数値解析部22は、局所構造データ53および解析条件54を用いて、局所解析データ55を生成する。マクスウェル方程式の数値解析部22は、マクスウェル方程式の近傍解成分を考慮して解析を行う。例えば、マクスウェル方程式の数値解析部22には、FDTD法、有限要素法、モーメント法等を用いることができる。局所解析データ55は、局所構造物411a,411b(図4参照)に対して、入射角度ごとに解析された結果である。
次に、散乱モデル設定部23は、局所解析データ55を用いて、局所散乱データ56を生成する。局所散乱データ56は、等価形状データ56a、散乱断面積データ56b、および伝搬経路修正データ56cを含む。等価形状データ56aは、図4の局所構造物411bに示すように、電波の波長に比べて無視できる微細構造を省略した形状のデータを格納する。
散乱断面積データ56bは、図6の散乱断面積確認画面601に示すように、入射電界の入射方向611に対する、放射電界の角度と強さとを表したデータを格納する。すなわち、散乱断面積データ56bは、散乱係数(複素散乱係数)を格納する。なお、図6では、XYZ座標系の原点から離れるほど、強い散乱波があることを示している。
また、伝搬経路修正データ56cは、マクスウェル方程式の遠方解近似手法(例えば、レイトレーシング法)によって算出された伝搬経路が等価形状データ56aに含まれる構造物の面において反射または透過する場合や、該伝搬経路に対する1次のフレネルゾーン半径以内の領域に構造物が含まれる場合に、その伝搬経路を修正するためのデータ(伝搬損失および位相推移に係る伝搬経路修正情報)を格納する。ここでは1次のフレネルゾーン半径としたが、係数を乗じることによって拡大・縮小したり、2次や3次のフレネルゾーン半径を用いたりしても良い。1次のフレネルゾーン半径の約6割程度の範囲に障害物がなければ見通しとほぼ同じ電力が伝達されると考えられているため、必要な精度と計算リソースとの兼ね合いによって選択可能である。なお、フレネルゾーン半径については、後記する。
≪構造物において反射または透過する場合の伝送経路の修正≫
まず、伝搬経路が等価形状データ56aに含まれる構造物の面において反射および透過する場合について、図7を用いて説明する。図7(a)は、フェイスタイプと呼ぶもので、送信点701と受信点702とが与えられた場合、電波が局所構造物770aにおける反射点704によって反射され、その伝搬経路703が算出される。なお、送信点701および受信点702は、それぞれ送信アンテナの位置および受信アンテナの位置、または、他の局所構造物による反射点等とする。図7(a)のフェイスタイプの場合、伝搬経路703がそのまま用いられる。
図7(b)は、エッジタイプと呼ぶもので、局所構造物770bには電波を散乱するエッジ721が存在していて、そのエッジ721が、座標点A(722)と座標点B(723)とで指定されるものとする。すなわち、エッジ721は、2点を結ぶ線分で表される。そして、送信点701と受信点702とが与えられた場合、エッジ721上の点で、送信点701から受信点702への最短経路となる座標点730が求まる。このときの最短経路が、修正伝搬経路710として用いられる。なお、座標点730は、散乱点と呼ばれる。
図7(c)は、ポイントタイプと呼ぶもので、局所構造物770cに電波を散乱するポイントが存在していて、送信点701と受信点702とが与えられた場合、その伝搬経路が修正伝搬経路711となる。なお、電波を散乱するポイントを散乱点731と呼ぶ。
どのタイプによって、伝搬経路を修正するかは、各タイプに対応付けられたフラグによって指定される。このほか、これらのタイプを複数組み合わせたり、同一タイプを複数使用することにより、伝搬経路を複数発生させても良い。
≪フレネルゾーンを考慮した場合の伝送経路の修正≫
次に、伝搬経路に対する1次のフレネルゾーン半径以内の領域に局所構造物が含まれるか否かの判定について、図8および図9を用いて説明する。図8は、1次のフレネルゾーン800を表している。1次のフレネルゾーン800とは、電波エネルギが送信点801から受信点802へ最短経路で到達する場合と、迂回経路で到達する場合との経路差が、電波の波長λの半分以内の経路の軌跡を含む回転楕円体の空間のことである。そして、この1次のフレネルゾーン800のフレネルゾーン半径R(d)は、送信点801と受信点802との間の距離Dと、送信点801からの距離dと、電波の波長λとを用いて、式(1)によって算出される。
R(d)=√{λd(D−d)/D} ・・ 式(1)
なお、2次、3次以上のn次のフレネルゾーン半径Rn(d)は、
Rn(d)=√{nλd(D−d)/D} ・・ 式(2)
で算出される。
1次のフレネルゾーン800に構造物等の障害になる物体が存在しない場合には、受信電力は、自由空間における電波伝搬理論に近い精度で算出することが可能である。しかし、1次のフレネルゾーン800の中に、構造物(降雨エリアを含む)が存在する場合には、算出精度が低下する。したがって、レイの通過する伝搬経路を図8に示す最短経路と考えた場合、その最短経路に対するフレネルゾーン半径R(d)以内の領域に構造物が含まれるか否かの判定が行われる。そして、フレネルゾーン半径R(d)以内の領域に構造物が含まれると判定された場合には、伝搬経路を修正する候補とする。
図9には、フレネルゾーン半径R(d)以内の領域に構造物が含まれるか否かの判定の具体例を示す。図9では、送信点901から受信点905へ至る伝搬経路910の途中に、反射点902,904が存在する場合を示している。この場合は、送信点901と反射点902との距離、および反射点904と受信点905との距離をそれぞれ保ちつつ、反射点902と反射点904とを結ぶ線分の延長線上に、送信点901および受信点905を移動させ、それぞれ、仮想送信点901aおよび仮想受信点905aとする。そして、仮想送信点901aおよび仮想受信点905aに対する1次のフレネルゾーン930を算出する。次に、伝搬経路910の垂線を局所構造物770へ引いて、伝搬経路910から局所構造物770への最短距離付与点911を算出し、最短距離付与点911と構造物770との線分912を算出する。そして、この線分912の長さとフレネルゾーン半径とを比較することによって、線分912の長さがフレネルゾーン半径より小さい場合に、この伝搬経路910を修正候補とする。
図10(a)は、送信点1001と受信点1002との間の送受信点間距離1005に対する1次のフレネルゾーン1003の中に散乱対象物体1010が存在する場合の局所散乱データの算出についての考え方を示す図である。なお、散乱対象物体1010は、構造物だけでなく、降雨の強いエリアである場合も含まれる。散乱対象物体1010のうち、フレネルゾーン1003内に含まれる部分1011は、マクスウェル方程式の数値解析部22(図3参照)の解析範囲となる。
図10(b)は、送信点1101と受信点1102との間の送受信点間距離1105が、図10(a)の送受信点間距離1005より大きい場合を示している。図10(b)では、1次のフレネルゾーン1103が図10(a)の1次のフレネルゾーン1003より大きくなるが、フレネルゾーン1103に含まれる散乱対象物体1110の部分1111も大きくなる。このことから、マクスウェル方程式の数値解析部22では、送受信点間距離を変数として解析を行う必要があることが分かる。
そこで、図11に示すように、局所散乱データ1100として、レイの入射角度1101およびレイの射出角度1102と、送受信点間距離、垂直偏波成分の係数、および水平偏波成分の係数の組1103と、別の送受信点間距離、垂直偏波成分の係数、および水平偏波成分の係数の組1104とを相互に関連付けて記憶部50に記憶する。なお、垂直偏波成分の係数および水平偏波成分の係数は、入射電界の強さに対する射出電界の強さの比である。
≪最適化演算の流れ≫
次に、図12に示す最適化演算の流れについて説明する。まず、最適化演算部27は、パラメータ探索手法を用いて、無線局を配置するエリアを探索する。パラメータ探索手法としては、実験計画法、遺伝的アルゴリズム等がある。最適化演算部27は、ユーザが指定したパラメータ探索手法を用いて、無線局の配置を表す無線局配置候補データ57を生成する。無線局配置候補データ57は、無線局のアンテナ座標、その設置角度、アンテナ指向特性、アンテナ利得、送信電力、ケーブル損失等である。なお、最適化演算部27は、図1に示すステップS101を実行する。
マクスウェル方程式の遠方解近似部24は、マクスウェル方程式の近傍解成分を無視することにより、比較的広いエリアの空間を対象として、送信局と受信局との間を伝わる電波の伝搬経路を解析する。マクスウェル方程式の遠方解近似部24には、マクスウェル方程式の幾何光学近似として広く利用されるレイトレーシング法が利用可能である。例えば、「J.W.McKown and R.L.Hamilton,Jr.,“Ray tracing as a design tool for radio networks”,IEEE Network Magazine, Vol.5, No.6, p.27-30, Nov. 1991」に記載されたレイトレーシング法等が使用可能である。レイトレーシング法には、算出方法の違いからレイラウンチ法(ray-launching method)およびイメージ法(imaging method)があり、いずれの方法も、本実施形態に適用可能である。
マクスウェル方程式の遠方解近似部24は、無線局配置候補データ57および等価形状データ56aを入力として、幾何光学近似による電波伝搬解析を行う。マクスウェル方程式の遠方解近似部24は、電波伝搬解析を行って、送信アンテナと受信アンテナとの間の伝搬経路データ58を生成する。伝搬経路データ58は、送信アンテナを始点、受信アンテナを終点とした折れ線データである。なお、折れ線を構成する始点、終点以外の点は、反射点、透過点、回折点である。伝搬経路データ58が生成されると、伝搬経路長による電界の減衰、反射点、透過点、回折点のそれぞれにおける材質特性、電界の偏波方向、電波の入射角度、放射角度を用いて、反射係数、透過係数、回折係数が算出可能になる。なお、マクスウェル方程式の遠方解近似部24は、図1に示すステップS102を実行する。
伝搬経路修正部25は、伝搬経路データ58に対して、入力部40(図2参照)を介して指定された等価形状データ56aの構造物(散乱対象物体を含む)が含まれる1次のフレネルゾーンを通過する伝搬経路を抽出する。さらに、伝搬経路修正部25は、指定された等価形状データ56aに対応する伝搬経路修正データ56cに基づいて、抽出した伝搬経路に散乱点を追加し、その散乱点を経由する修正伝搬経路データを生成する。次に、伝搬経路修正部25は、該散乱点への入射角度および該散乱点からの射出角度を算出し、散乱断面積データ56bを参照して複素散乱係数を読み出し、伝搬経路データ58に反映する。このように、伝搬経路修正部25は、伝搬経路データ58に修正を加えて、電波伝搬推定結果データ59を算出する。具体的には、伝搬経路修正部25は、電波伝搬推定結果データ59として、修正後の伝搬経路の伝搬損失や位相推移を算出する。なお、伝搬経路修正部25は、図1に示すステップS103およびステップS104を実行する。
無線局配置評価演算部26は、電波伝搬推定結果データ59を用いて、無線局配置の通信状態を推定(評価)する。すなわち、無線局配置評価演算部26は、伝搬経路ごとに、受信電力、遅延プロファイル、到来角、受信機回路の特性を考慮することにより、単一リンクでの通信特性を算出する。また、無線局配置評価演算部26は、他の無線局からの干渉については、別途、その伝搬経路について通信特性を算出し、受信局における干渉の度合いを評価する。なお、無線局配置評価演算部26は、図1に示すステップS105を実行する。
そして、最適化演算の処理は、最適化演算部27に戻って、無線局配置評価演算部26の評価結果をパラメータ探索手法に適用して、次の無線局配置候補データ57を生成し、再び、その生成した無線局配置候補データ57に対して、マクスウェル方程式の遠方解近似部24、伝搬経路修正部25、および無線局配置評価部26の演算を行う。このように、最適化演算の処理では、繰り返し演算を行って、指定された繰り返し回数を超えた場合に、最適化演算部27が、無線局最適配置データ60を出力する。なお、最適化演算部27は、図1に示すステップS106およびステップS107を実行する。
このように、局所散乱データ56をいろいろな入射角度について予め算出しておくことによって、図12に示す、繰り返し計算を用いる最適化演算における電波伝搬解析では、計算リソースの少なくて済む幾何光学計算を用いていても、伝搬経路を精度良く容易に修正することができる。そのため、推定精度の高い電波伝搬解析結果に基づいて、無線局の最適配置探索を行うことが可能となる。
≪入射角度設定画面の例≫
図13は、分割変換部21(図3参照)において、入射角度の設定・編集を行うための入射角度設定画面1301を示す。入射角度設定画面1301内の縦軸はZ軸を基準とする角度θ(図5参照)を表し、横軸はX軸を基準とする角度φ(図5参照)を表している。図13では、一例として、角度θが、0度から180度の範囲を10分割した場合を示している。また、角度φが、0度から360度の範囲を10分割した場合を示している。ただし、分割数は10に限られない。
入射角度設定画面1301内の○印は、各角度θと角度φとの組み合わせにおける入射角度を示していて、この入射角度に対して設定情報を設定(編集)する場合には、この○印にマウスポインタ(マウスカーソル)を合わせると、その入射角度に対して設定情報を設定(編集)することができる。なお、設定情報は、その入射角度について、マクスウェル方程式の数値解析部22による解析を実施する必要があるか否か示す情報を含んでいる。そして、設定情報が、解析を実施する必要があるように設定されている場合、分割変換部21は、局所構造データ53(図3参照)を生成する。また、ある入射角度の設定情報が、解析を実施する必要があるように設定されていない場合、分割変換部21は、その入射角度については局所構造データ53を生成しない。
また、入射角度設定画面1301は、ある入射角度に対して設定された設定情報に、別の入射角度の設定情報を参照する設定を行う機能を備えている。例えば、参照情報1331に示す矢印は、入射角度(θ=66.4,φ=36.0)の設定情報A(1321)には、入射角度(θ=66.4,φ=108.0)の設定情報B(1322)を参照する設定を表している。すなわち、解析の対象となる構造物が、入射角度に対して同等の形状を示すものであれば、参照情報1331を設定することにより、解析処理を省略することが可能になる。
参照情報生成ボタン1311は、参照情報をまとめて生成するためのボタンである。例えば、X軸、Y軸、Z軸のいずれかを指定して、その指定した軸を回転軸として、回転方向の入射角度に参照情報を設定することができる。また、XY面、YZ面、ZX面を指定して、その指定した面について、対称な位置に設定情報を設定することができる。また、入射角度ごとに、対称な位置の入射角度に対して参照情報を設定することができる。
そして、解析を行った入射角度以外の任意の入射角度における局所構造データ53は、補間によって求める。また、解析を行った入射角度以外の任意の入射角度において、散乱の変化率が大きいことが分かっている場合、その散乱の変化率の大きい入射角度の範囲について、入射角度の分割数を部分的に増やして対応する。
このように入射角度に設定する設定情報を生成することによって、分割変換部21は、計算リソースを効率良く低減することが可能となる。
以上、本実施形態における無線局配置探索装置10では、多くの演算量を必要とする近傍解近似演算を予め行って、局所散乱データ56を、いろいろな入射角度について算出しておく。そして、図12に示す繰り返し計算を用いる最適化演算における電波伝搬解析では、計算リソースの少ない幾何光学計算を用いても、伝搬経路を精度良く容易に修正することができる。そのため、推定精度の高い電波伝搬解析結果に基づいて、無線局の最適配置探索を行うことが可能となる。また、多くの演算を必要とする近傍解近似の演算は、最適化演算の流れの中には含まれないため、最適化演算を高速に行うことが可能となる。
10 無線局配置探索装置
20 処理部
21 分割変換部
22 マクスウェル方程式の数値解析部
23 散乱モデル設定部
24 マクスウェル方程式の遠方解近似部
25 伝搬経路修正部
26 無線局配置評価部
27 最適化演算部
40 入力部
50 記憶部
51 エリア内構造データ
52 分析パラメータ
53 局所構造データ
54 解析条件
55 局所解析データ
56 局所散乱データ
56a 等価形状データ
56b 散乱断面積データ
56c 伝搬経路修正データ
57 無線局配置候補データ
58 伝搬経路データ
59 電波伝搬推定結果データ
60 無線局最適配置データ
1301 入射角度設定画面
1331 参照情報

Claims (12)

  1. 所定の通信エリア内に配置する複数の無線局の位置を探索する演算を行う無線局配置探索装置であって、
    前記無線局配置探索装置は、処理部と記憶部とを備え、
    前記記憶部は、前記通信エリア内の電波伝搬に障害となる物体について、その物体を分割した局所構造ごとに、電波の入射に対する散乱の射出状態に係る散乱情報を予め記憶し、
    前記処理部は、
    前記複数の無線局の位置を最適化する繰り返し演算を実行し、その繰り返し演算の中で、前記無線局の位置に対応する電波の送信点と受信点とを設定し、マクスウェル方程式の遠方解近似手法を用いて前記送信点と受信点との間の伝搬経路を算出し、その算出した伝搬経路の中で、前記局所構造から電波伝搬の障害を受ける伝搬経路を抽出し、その抽出した伝搬経路に対して前記記憶部に記憶しておいた前記散乱情報を用いて該伝搬経路を修正し、その修正した伝搬経路に基づく通信特性を評価すること、を繰り返し、
    前記処理部は、前記繰り返し演算を所定回数実行して、最もよい通信特性となる前記無線局の位置を出力する
    ことを特徴とする無線局配置探索装置。
  2. 前記散乱情報は、マクスウェル方程式の近傍解成分を考慮した解析に基づいて算出する
    ことを特徴とする請求項1に記載の無線局配置探索装置。
  3. 前記散乱情報は、電波の入射の角度ごとに、その入射の角度に対応する射出角度の散乱係数と、前記局所構造について電波の波長に比べて無視できる微細構造を省略して表現した局所モデルと、を含む
    ことを特徴とする請求項2に記載の無線局配置探索装置。
  4. 前記散乱情報は、前記伝搬経路の伝搬損失および位相推移に係る伝搬経路修正情報を含む
    ことを特徴とする請求項3に記載の無線局配置探索装置。
  5. 前記伝搬経路修正情報は、
    前記伝搬経路を修正しないケース、ユーザによって指定された2点間の線分上に伝搬経路の経由点を変更するケース、およびユーザによって指定された1点に伝搬経路の経由点を変更するケース、のいずれかから選択される
    ことを特徴とする請求項4に記載の無線局配置探索装置。
  6. 前記処理部は、
    前記局所構造から電波伝搬の障害を受ける伝搬経路を抽出する場合、前記伝搬経路と前記局所構造との距離を、前記伝搬経路に対する垂線が前記局所構造に到達するときの線分の長さとして、その線分の長さが所定の長さ以下となる場合、該局所構造によって伝搬経路に障害を受けると判定する
    ことを特徴とする請求項1に記載の無線局配置探索装置。
  7. 前記所定の長さは、前記送信点から前記受信点までの伝搬経路の延べ距離に対する1次のフレネルゾーン半径である
    ことを特徴とする請求項6に記載の無線局配置探索装置。
  8. 前記散乱情報は、前記送信点から前記受信点までの伝搬経路の延べ距離と前記散乱係数、前記局所モデル、および前記伝搬経路修正情報とを関連付けて前記記憶部に記憶し、
    前記処理部は、
    前記送信点から前記受信点までの伝搬経路の延べ距離に対する1次のフレネルゾーンに含まれる該局所モデルに対して、当該散乱情報を参照して、前記繰り返し演算を実行する
    ことを特徴とする請求項4に記載の無線局配置探索装置。
  9. 前記処理部は、
    前記散乱情報における入射の角度は、前記局所モデルの一点に張る立体角ごとに離散的に設定する
    ことを特徴とする請求項3に記載の無線局配置探索装置。
  10. 前記処理部は、
    前記離散的に設定された入射の角度を用いて、補間演算を行うことによって、任意の入射の角度における散乱情報を算出する
    ことを特徴とする請求項9に記載の無線局配置探索装置。
  11. 前記立体角は、前記散乱の変化が大きい範囲では、小さく設定される
    ことを特徴とする請求項10に記載の無線局配置探索装置。
  12. 前記処理部は、
    前記離散的に設定された入射の角度ごとに、前記散乱情報を前記マクスウェル方程式の近傍解成分を考慮した解析を用いて算出するか否かを示すフラグ、および別の入射の角度に設定された散乱情報を参照することを示す参照情報に基づいて、その入射の角度に対する散乱情報を生成する
    ことを特徴とする請求項9に記載の無線局配置探索装置。
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