JP5149478B2 - プロミオスタチンペプチドおよびその使用法 - Google Patents
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Description
発明の技術分野
本発明は、概してプロミオスタチン(成長分化因子-8; GDF-8)のペプチド部分に関し、より詳細に述べると、細胞内のミオスタチンシグナル伝達に影響を及ぼす組成物、およびそのような組成物を使用し細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を調節する方法に関する。
【0002】
発明の背景
米国においては、減量を試みている個人により、毎年、膨大な時間と労作と経費が費やされている。これらの多くの人々にとって、目標は、単に容貌を良くすることではなく、より重要なことは太りすぎに関連した不可避の医学的問題点を避けることでもある。
【0003】
米国成人人口の半数以上が、太りすぎと見なされている。さらに、米国の成人男性の20〜30%および成人女性の30〜40%が肥満体と見なされ、これは貧困層および少数民族において最も割合が高い。脂肪過多症の平均レベルを少なくとも約20%上回ると定義される肥満症は、過去数十年間にわたり有病率が著しく増加しており、小児集団において大きな問題となってきつつある。全小児の20%が、現在太りすぎと見なされ、その数は過去5年間に倍増している。
【0004】
肥満症およびそれに直接寄与している医学的問題点は、世界中で罹患率および死亡率の主因である。肥満症は、アテローム動脈硬化症、高血圧、心発作、II型糖尿病、胆嚢疾患、およびある種の癌を含む、様々な病態発生の大きいリスク因子であり、ならびに、若年死に寄与している。心疾患は、米国において死亡の主要な原因であり、およびII型糖尿病は、米国において1600万人以上が罹患し、疾患による主な死因のひとつである。
【0005】
II型糖尿病の80%より多くが、肥満のヒトにおいて発生している。II型糖尿病は全ての人種が罹患するが、アメリカ先住民、アフリカ系アメリカ人、およびヒスパニックにおいて特に優勢である。重要なことは、II型糖尿病は、40歳を超えた成人においてほとんど独占的に発生してきたが、現在はこれが小児において発生し、過去5年間にほぼ3倍の症例が報告されている。II型糖尿病は、インスリン非依存型糖尿病とも称され、これはグルコースに反応したインスリン分泌の低下、および循環血中のインスリンレベルは正常または上昇であるにもかかわらず、インスリンの作用に対する体の抵抗性を特徴としている。II型糖尿病は、様々な異なる組織および器官の機能に作用し、かつ血管系疾患、腎不全、網膜症および神経障害につながり得る。
【0006】
肥満症に関連した医学的問題点とは対照的に、ある種の慢性疾患患者において通常発生する重度の体重減少も、医学的介入に対する挑戦を示している。この体重減少に関する分子的基礎は悪液質(cachexia)と称されるが、これはよく理解されていない。しかし悪液質は、このような疾患の管理を複雑にし、かつ患者の予後不良に関連していることは明らかである。悪液質の作用は、癌およびAIDS患者において生じる消耗性症候群において明らかである。
【0007】
体重調節に関連した生物学的プロセスを解明することにおいて多大な労作が試みられているが、これらの結果は、実際の価値よりも大きく賞賛されている。例えばレプチンの発見は、ヒトにおける脂肪蓄積の分子的基礎の理解の突破口として歓迎され、これにより肥満症の治療が確約されている。動物における研究は、レプチンが、食欲を調節する内部シグナルの伝達に関連していることを示し、かつレプチンが肥満症に罹患したヒトの治療において有用であることを示唆している。しかし肥満症を治療するためのレプチン使用において進行が遅く、これまでのところ、レプチンは当初の期待にはかなっていない。
【0008】
現在、病的肥満の治療は、小腸の一部を摘出し、これにより吸収される食物(およびカロリー)量を低下する手術に制限されている。中等度の肥満について、唯一の「治療」は、健康的な規定食の摂取および規則的運動であり、その方法は最大でも中等度の成功でしかないことが証明されている。従って肥満症および悪液質などの障害を治療する方法開発するために、筋肉の発達および脂肪蓄積を含む、体重調節に関連した生物学的要因を確定する必要が存在する。本発明はこの必要性を満足し、かつ更なる利点を提供するものである。
【0009】
発明の概要
本発明は、プロミオスタチンポリペプチドの実質的に精製されたペプチド部分に関する。プロミオスタチンポリペプチドは、本明細書において、ヒトプロミオスタチン(配列番号:2);マウスプロミオスタチン(配列番号:4);ラットプロミオスタチン(配列番号:6);ヒヒプロミオスタチン(配列番号:10);ウシプロミオスタチン(配列番号:12);ブタプロミオスタチン(配列番号:14);および、ヒツジプロミオスタチン(配列番号:16)のようなアミノ酸配列を有する哺乳類プロミオスタチンにより;ニワトリプロミオスタチン(配列番号:8)、および七面鳥プロミオスタチン(配列番号:18)のようなアミノ酸配列を有する鳥類のプロミオスタチンにより;ならびに、配列番号:20に示したようなアミノ酸配列を有するゼブラフィッシュプロミオスタチンポリペプチドのような魚類のプロミオスタチンにより、例証されている。加えて、プロミオスタチンポリペプチドは、本明細書において明らかにされたサケ対立遺伝子1(配列番号:27)の一部またはサケ対立遺伝子2(配列番号:29)の一部を含むポリペプチドにより例証されている。
【0010】
本発明は、さらに成長分化因子(GDF)ポリペプチド(pro-GDF)のタンパク質分解性の断片またはそれらの機能性ペプチド部分に関連している。このようなタンパク質分解性の断片は、プロミオスタチンポリペプチドおよびpro-GDF-11ポリペプチドのタンパク質分解性の断片により、ならびにこのようなタンパク質分解性の断片の機能性ペプチド部分により、本明細書において例証されている。pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片またはそれらの機能性ペプチド部分は、一部、GDFシグナル伝達に関連付けられた活性を有するまたはこれに影響を及ぼすことで特徴付けられている。このように、プロミオスタチンポリペプチドまたはそれらの機能性ペプチド部分は、例えばミオスタチン受容体結合活性、ミオスタチンシグナル伝達の刺激または阻害活性、ミオスタチン結合活性、またはプロミオスタチン結合活性を有し得る。ひとつの態様において、タンパク質分解性の断片は、プロミオスタチンポリペプチドの、アミノ酸配列Arg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)を有するタンパク質分解性の切断認識部位での切断により生成される断片である。このようなタンパク質分解性の認識部位は、配列番号:1(プロミオスタチン)のアミノ酸残基263位〜266位または配列番号:25(ヒトpro-GDF-11)のアミノ酸残基295位〜298位として示された、Arg-Ser-Arg-Arg(配列番号:22)配列により、ならびに配列番号:20のアミノ酸残基263位〜266位として示されたArg-Ile-Arg-Arg(配列番号:23)配列により、例証されている。
【0011】
別の態様において、タンパク質分解性の断片は、例えばプロミオスタチンポリペプチドのアミノ酸残基1〜ほぼ262位、もしくはそれらの機能性ペプチド部分を含む、ミオスタチンプロドメインのようなGDFプロドメインであるか、もしくはpro-GDF-11ポリペプチドのアミノ酸残基1〜ほぼ295位、もしくはそれらの機能性ペプチド部分を含むGDF-11プロドメインである。ミオスタチンプロドメインは、配列番号:4および配列番号:6において示したアミノ酸残基1〜ほぼ263位;さらには、配列番号:2、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:8、配列番号:18、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:20において示したアミノ酸残基1〜ほぼ262位により例証されている。ミオスタチンプロドメインの機能性ペプチド部分は、ミオスタチンまたはプロミオスタチンと特異的に相互作用することができるミオスタチンプロドメインのペプチド部分により例証されている。GDF-11プロドメインは、配列番号:25のアミノ酸残基1〜ほぼ295位により例証され、かつGDF-11プロドメインの機能性ペプチド部分は、成熟GDF-11またはpro-GDF-11ポリペプチドと特異的に相互作用することができるGDF-11プロドメインのペプチド部分により例証されている。好ましくは、GDFプロドメインの機能性ペプチド部分は、対応するGDFまたは関連したGDFのシグナル伝達を刺激する能力を低下または阻害する。
【0012】
さらに別の態様において、pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片は、成熟GDFペプチド、またはそれらの機能性ペプチド部分である。従って、このタンパク質分解性の断片は、プロミオスタチンポリペプチドのほぼアミノ酸残基268位〜374位を含む成熟C末端ミオスタチンペプチド、またはpro-GDF-11ポリペプチドのほぼアミノ酸残基299位〜407位を含む成熟C末端GDF-11ペプチドであることができる。成熟ミオスタチンペプチドは、配列番号:4および配列番号:6に示したアミノ酸残基ほぼ268位〜375位;配列番号:2、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:8、配列番号:18、配列番号:14、配列番号:16、および配列番号:20に示したアミノ酸残基ほぼ267位〜374位;ならびに、配列番号:27および配列番号:29の対応するアミノ酸残基により例証される。成熟ミオスタチンの機能性ペプチド部分は、ミオスタチンシグナル伝達の刺激または阻害活性を有するミオスタチンのペプチド部分により例証される。成熟GDF-11ペプチドは、配列番号:25のアミノ酸残基299位〜407位により例証され、および成熟GDF-11ペプチドの機能性ペプチド部分は、GDF-11シグナル伝達の刺激または阻害活性を有する成熟GDF-11のペプチド部分により例証される。成熟GDFペプチドの機能性ペプチド部分の活性は、例えば、その受容体と特異的に相互作用する能力、成熟GDFペプチドのその受容体と特異的に相互作用する能力を低下または阻害する能力、もしくはGDFシグナル伝達活性を刺激または阻害するいずれか他の活性であることができる。
【0013】
本発明はさらに、アミノ酸配列Arg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)を有するタンパク質分解性の切断部位におけるタンパク質分解性の切断を破壊するアミノ酸変異を含む、変異体pro-GDFポリペプチド、例えば変異体プロミオスタチンポリペプチドまたは変異体pro-GDF-11ポリペプチドに関する。従って、変異体プロミオスタチンまたはpro-GDF-11ポリペプチドは、配列番号:21のArg残基の変異を有することができ、その結果この変異体ポリペプチドは、プロドメインおよび成熟GDFペプチドへは切断することができない。好ましくは、変異体GDFポリペプチドは、対応するまたは関連した野生型GDFポリペプチドに関してドミナントネガティブ活性を有する。例えば、変異体プロミオスタチンポリペプチドまたは変異体pro-GDF-11ポリペプチドは、各々、ミオスタチンまたはGDF-11に関してドミナントネガティブ活性を示すことができる。
【0014】
本発明はさらに、プロミオスタチンまたはpro-GDF-11ポリペプチドのペプチド部分をコードしているポリヌクレオチドにも関する。例えばこのポリヌクレオチドは、ミオスタチンもしくはGDF-11プロドメイン、またはそれらの機能性ペプチド部分をコードすることができる。本発明はさらに、プロミオスタチンポリペプチドのペプチド部分、例えばミオスタチンプロドメインまたはそれらの機能性ペプチド部分に特異的に結合することができる抗体に加え、pro-GDF-11ポリペプチドのペプチド部分に特異的に結合することができる抗体にも関する。プロミオスタチンもしくはpro-GDF-11ポリペプチドのペプチド部分、またはプロミオスタチンもしくはpro-GDF-11ポリペプチドの変異体、またはプロミオスタチンもしくはpro-GDF-11ポリペプチドのペプチド部分をコードしているポリヌクレオチド、またはこのようなペプチド部分に特異的に結合する抗体、またはそれらの組合せを含むキットも、提供される。
【0015】
加えて、本発明は、ミオスタチンペプチド、GDF-11ペプチドまたは両方と特異的に相互作用するミオスタチンプロドメインまたはGDF-11プロドメインの機能性ペプチド部分を同定する方法に関する。本発明の方法は、例えばミオスタチンプロドメインまたはGDF-11プロドメインのペプチド部分を、ミオスタチンと特異的に相互作用する能力について試験し;ならびに、このペプチド部分のミオスタチンとの特異的相互作用を検出することにより行うことができる。ひとつの態様において、本発明の方法は、コンピュータシステムを用いて行うことができ、ここでミオスタチンプロドメインまたはGDF-11プロドメインの、仮想ペプチド部分の仮想ミオスタチンペプチドと特異的に相互作用する能力が試験される。別の態様において、プロドメインのペプチド部分とミオスタチンペプチドを、プロドメインがミオスタチンペプチドと特異的に相互作用するのに適した条件下で接触することにより、この方法が実行される。
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、プロミオスタチンポリペプチドの実質的に精製されたペプチド部分を提供する。プロミオスタチンは、これまで成長分化因子-8(GDF-8)と称されており、アミノ末端プロドメインおよびC末端成熟ミオスタチンペプチドを含んでいる(米国特許第5,827,733号参照)。ミオスタチン活性は、プロミオスタチンからのその切断後に、成熟ミオスタチンペプチドにより影響を受ける。従って、プロミオスタチンは、タンパク質分解性に切断され活性ミオスタチンを生成する前駆体ポリペプチドである。本明細書に記したように、ミオスタチンプロドメインは、ミオスタチン活性、GDF-11活性または両方を阻害することができる。
【0017】
本発明はさらに、pro-GDF-11ポリペプチドの実質的に精製されたペプチド部分も提供する。これまで一般にGDF-11と称されてきたpro-GDF-11は、アミノ末端プロドメインおよびC末端成熟GDF-11ペプチドを含む(国際公開公報第98/35019号参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。GDF-11活性は、pro-GDF-11からのその切断後に成熟GDF-11ペプチドにより影響を受ける。従って、pro-GDF-11は、プロミオスタチン同様、タンパク質分解性に切断され活性GDF-11を生成する前駆体ポリペプチドである。本明細書において説明されたように、GDF-11プロドメインは、GDF-11活性、ミオスタチン活性または両方を阻害することができる。
【0018】
プロミオスタチンおよびpro-GDF-11は、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)スーパーファミリーの一員であり、これは様々な細胞型における増殖、分化およびその他の機能を制御する多機能性ポリペプチドからなる。TGF-βスーパーファミリーは、胚の発生時に、分化過程に広範に影響を及ぼす構造上関連したタンパク質群に包含され、これは例えば、正常な雄性の発達に必要なミューラー管抑制物質(MIS)(Behringerら、Nature、345:167, 1990)、背腹軸形成および成虫盤の形態発生に必要なショウジョウバエのdecapentaplegic(DPP)遺伝産物(Padgettら、Nature、325:81-84, 1987)、卵の植物極に局在化するアフリカツメガエルVg-1遺伝産物(Weeksら、Cell、51:861-867, 1987)、アクチビン(Masonら、Biochem. Biophys. Res. Comm.、135:957-964, 1986)、これはアフリカツメガエル胚において中胚葉および腹側構造の形成を誘導することができる(Thomsenら、Cell、63:485, 1990)、ならびに骨形成タンパク質(BMP、オステオゲニン、OP-1)、これは新規の軟骨および骨形成を誘導することができる(Sampathら、J. Biol. Chem.、265:13198, 1990)を含む。TGF-βファミリーメンバーは、脂肪生成、筋形成、軟骨形成、造血、および上皮細胞分化を含む、様々な分化過程に影響を及ぼすことができる(Massague、Cell、49:437, 1987;Massague、Ann. Rev. Biochem.、67:753-791, 1998;各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0019】
多くのTGF-βファミリーメンバーは、他のペプチド増殖因子に対し(正または負の)調節作用を有する。特に、ある種のTGF-βスーパーファミリーメンバーは、神経系の機能に関連する発現パターンを有するか、または活性を持っている。例えば、インヒビンおよびアクチビンは、脳において発現され(Meunierら、Proc. Natl. Acad. Sci., USA、85:247, 1988;Sawchenkoら、Nature、334:615, 1988)、およびアクチビンは神経細胞生存分子として機能することができる(Schubertら、Nature、344:868, 1990)。別のファミリーメンバーである成長分化因子-1(GDF-1)は、その発現パターンが神経系-特異的であり(Lee、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:4250, 1991)、他のファミリーメンバー、例えばVgr-1(Lyonsら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:4554, 1989;Jonesら、Development、111:531, 1991)、OP-1(Ozkaynakら、J. Biol. Chem.、267:25220, 1992)、およびBMP-4(Jonesら、Development、111:531, 1991)も、神経系において発現される。骨格筋は、運動神経の生存を促進する1個または複数の因子を作出するので(Brown、Trends Neurosci.、7:10, 1984)、筋肉におけるミオスタチン(GDF-8)およびGDF-11の発現は、ミオスタチンおよびGDF-11がニューロン向性因子であることを示唆している。このように、ミオスタチン、GDF-11、または両方の活性を調節する方法は、筋萎縮性側索硬化症もしくは筋ジストロフィーのような神経変性疾患の治療、または移植前の培養における細胞もしくは組織の維持に有用であることができる。
【0020】
TGF-βファミリーのタンパク質は、大きい前駆体タンパク質として合成され、これはその後、C末端からおよそ110〜140アミノ酸の塩基性残基のクラスターがタンパク質分解性の切断を受け、プロドメインペプチドおよびC末端成熟ペプチドの形成をもたらす。このタンパク質ファミリーのメンバーのC末端成熟ペプチドは、構造的に関連しており、かつ異なるファミリーメンバーは、それらの相同性の程度を基に別の亜群に分類することができる。特定の亜群内の相同性は70%〜90%アミノ酸配列同一性の範囲であるが、亜群間の相同性は顕著に低く、一般に20%〜50%の範囲である。各々の場合に、それらの活性種は、C末端ペプチド断片のジスルフィド結合した二量体であるように見える。
【0021】
プロミオスタチンおよびpro-GDF-11ポリペプチドは、哺乳類、鳥類および魚類種において同定されており、かつミオスタチンは脊椎動物および無脊椎動物を含む様々な他の種においても活性がある。胚発生時および成体動物において、ミオスタチンは、例えば、筋原細胞株の細胞により特異的に発現される(McPherronら、Nature、387:83-90, 1997、これは本明細書に参照として組入れられている)。初期胚形成時に、ミオスタチンは、体節発生する筋節コンパートメントにおいて細胞により発現される。より後の胚期および成体動物において、ミオスタチンは骨格筋組織において広範に発現されるが、発現レベルは、筋肉毎にかなり変動する。ミオスタチン発現は、脂肪組織においても検出されるが、筋肉内よりも低レベルである。同様に、GDF-11は、骨格筋および脂肪組織において発現され、さらに成体胸腺、脾臓および子宮においても発現され、かつ発生の様々な段階においては脳において発現される。
【0022】
様々な種由来のプロミオスタチンポリペプチドは、実質的配列同一性を共有しており、ヒト、マウス、ラットおよびニワトリの成熟ミオスタチンC末端配列のアミノ酸配列は、100%同一である(図1参照)。プロミオスタチンポリペプチドは本明細書において、ヒトプロミオスタチン(配列番号:2);マウスプロミオスタチン(配列番号:4);ラットプロミオスタチン(配列番号:6);ヒヒプロミオスタチン(配列番号:10);ウシプロミオスタチン(配列番号:12);ブタプロミオスタチン(配列番号:14);ヒツジプロミオスタチン(配列番号:16);ニワトリプロミオスタチン(配列番号:8)、七面鳥プロミオスタチン(配列番号:18);および、ゼブラフィッシュプロミオスタチン(配列番号:20)により例証されている(図1参照)。プロミオスタチンポリペプチドはさらに、サケ対立遺伝子1(配列番号:27;「サケ1」)およびサケ対立遺伝子2(配列番号:29;「サケ2」;図2参照)の一部を含むポリペプチドにより、本明細書において例証されている。これらのプロミオスタチンポリペプチドをコードしている核酸分子は、各々、配列番号:1、3、5、9、11、13、15、7、17、19、26および28として本明細書に示されている(さらにMcPherronおよびLee、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94:12457, 1997も参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。pro-GDF-11ポリペプチドは、ヒトpro-GDF-11(配列番号:25)により本明細書において例証されており、これは配列番号:24によりコードされている。
【0023】
特にヒトおよび魚のような異なる種間での、プロミオスタチンポリペプチド間の多大な保存を考慮し、サケ1およびサケ2の配列の残余を含む、あらゆる種からミオスタチンをコードしているポリヌクレオチドを得、かつ種におけるプロミオスタチンまたはミオスタチン発現を同定することは慣習的なことであろう。特に、成熟ミオスタチン配列は、TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーと顕著な相同性を共有しており、かつミオスタチンは、他のファミリーメンバー間および他の種内で高度に保存されている残基のほとんどを含んでいる。さらにTGF-βおよびインヒビンβのようなミオスタチンは、仮想的な全ての他のファミリーメンバーに存在する7個のシステイン残基に加え、システイン残基の余分な対を含んでいる。ミオスタチンは、Vgr-1と最も相同である(45%配列同一性)。ミオスタチンは、TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーのように、活性ミオスタチンペプチドへとタンパク質分解性に切断される比較的大きい前駆体プロミオスタチンポリペプチドとして合成される。
【0024】
様々な生物のプロミオスタチンポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、周知の手法および明らかにされた配列に対する同一性(または相同性)をベースにしたアルゴリズムを用いて同定することができる。相同性または同一性は、Genetics Computer Group(ウイスコンシン大学バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue, Madison, WI 53705)のSequence Analysis Software Packageのような配列解析ソフトウェアを用いて測定されることが多い。このようなソフトウェアは、様々な欠失、置換および他の修飾に相同性の程度を割当てることにより、類似した配列に合致させる。用語「相同性」および「同一性」は、2個以上の核酸またはポリペプチド配列の状況において本明細書において使用される場合、同じであるか、もしくはいくつかの配列比較アルゴリズムを用いて測定されたまたは手作業によるアライメントおよび目視検査により、比較ウインドウまたは指定された領域について最大対応になるよう比較およびアライメントした場合に同じであるアミノ酸残基またはヌクレオチドの特定の割合を有する、2個以上の配列またはサブ配列を意味する。
【0025】
配列比較について、典型的な例として、ひとつの配列が、参照配列として作用し、これと被験配列が比較される。配列比較アルゴリズムが使用される場合、被験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じサブ配列座標が指定され、かつ配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトのプログラムパラメータを使用するか、もしくは代用パラメータを指定することができる。その後配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータを基に、被験配列の参照配列に対する%配列同一性を計算する。
【0026】
用語「比較ウィンドウ」は、連続する位置(contiguous position)の数、例えばほぼ20位〜600位、例えばアミノ酸またはヌクレオチド位置、通常ほぼ50位〜ほぼ200位、より一般的にはほぼ100位からほぼ150位のいずれか一つのセグメントに対する参照を含むように本明細書において広範に使用され、ここで配列は、2種の配列を最適にアライメントした後に、同数の連続する位置の参照配列と比較することができる。比較のための配列のアライメント法は、当該技術分野において周知である。比較のための配列の最適アライメントは、例えば、各々本明細書に参照として組入れられているSmithおよびWatermanのローカル相同性アルゴリズム(Adv. Appl. Math.、2:482, 1981)、NeedlemanおよびWunschの相同アライメントアルゴリズム(J. Mol. Biol.、48:443, 1970)、PersonおよびLipmanの類似性法の検索(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85:2444, 1988)により;これらのアルゴリズムのコンピュータを用いる実行(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA(Genetics Computer Group、575 Science Dr., Madison, WI))により;もしくは、手作業によるアライメントおよび目視検査により行うことができる。相同性または同一性を決定するためのその他のアルゴリズムは、例えばBLASTプログラム(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information)、ALIGN、AMAS(Analysis of Multiply Aligned Sequences)、AMPS(Protein Multiple Sequence Alignment)、ASSET(Aligned Segment Statistical Evaluation Tool)、BANDS、BESTSCOR、BIOSCAN(Biological Sequence Comparative Analysis Node)、BLIMPS(BLocks IMProved Searcher)、FASTA、Intervals & Points、BMB、CLUSTAL V、CLUSTAL W、CONSENSUS、LCONSENSUS、WCONSENSUS、Smith-Watermanアルゴリズム、DARWIN、Las Vegasアルゴリズム、FNAT(Forced Nucleotide Alignment Tool)、Framealign、Framesearch、DYNAMIC、FILTER、FSAP(Fristensky Sequence Analysis Package)、GAP(Global Alignment Program)、GENAL、GIBBS、GenQuest、ISSC(Sensitive Sequence Comparison)、LALIGN(Local Sequence Alignment)、LCP(Local Content Program)、MACAW(Multiple Alignment Construction & Analysis Workbench)、MAP(Multiple Alignment Program)、MBLKP、MBLKN、PIMA(Pattern-Induced Multi-Sequence Alignment)、SAGA(Sequence Alignment by Genetic Algorithm)およびWHAT-IFを含む。このようなアライメントプログラムは、実質的に同じ配列を有するポリヌクレオチド配列の同定のためにゲノムデータベースのスクリーニングを行うためにも使用することができる。
【0027】
多くのゲノムデータベースを、比較のために利用することができ、これは例えば、例えば、ヒトゲノムの実質的部分は、Human Genome Sequencing Project(J. Roach, http://weber.u.Washington.edu/~roach/human_ genome_progress2.html)の一部として利用可能である。加えて、少なくとも21種のゲノムが、その全体が配列決定されており、これは例えば、マイコプラズマ菌(M. genitalium)、古細菌(M. jannaschii)、インフルエンザ菌(H. influenzae)、大腸菌(E. coli)、酵母(S. cerevisiae)、およびキイロショウジョウバエ(D. melanogaster)を含む。マウス、線虫(C. elegans)、およびシロイヌナズナ(Arabadopsis sp.)のようなモデル生物のゲノムを配列決定することで大きい進歩があった。いくつかの機能情報で注釈されたゲノム情報を含むいくつかのデータベースが、異なる機関に保管されており、これはインターネットによりアクセスすることが可能であり、例として、http://wwwtigr.org/tdb;http://www.genetics.wisc.edu;http://genome-www.stanford.edu/~ball;http://hiv-web.lanl.gov;http://www.ncbi.nlm.nih.gov;http://www.ebi.ac.uk;http://Pasteur.fr/other/biology;および、http://www.genome.wi.mit.eduがある。
【0028】
有用なアルゴリズムの一例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらはAltschulらの論文(Nucleic Acids Res.、25:3389-3402, 1977;J. Mol. Biol.、215:403-410, 1990、各々、本明細書に参照として組入れられている)に説明されている。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を通じて公開されている。このアルゴリズムは、データベース配列の同じ長さのワードをアライメントした場合にいくつかの正値閾値スコアTを合致するかまたは満足するかのいずれかである、クエリー配列の長さWの短いワードを同定することによる高スコア化配列対(HSP)の最初の同定に関連している。Tは、隣接ワードスコア閾値(neighborhood word score threshold)と称される(Altschulら、前記、1977, 1990)。これらの初期隣接ワードのヒットは、それらを含むより長いHSPを見いだすための検索を開始するための種として働く。このワードヒットは、累加するアライメントスコアが増大し得る限りは、各配列に沿って両方向に延長される。累加スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(合致する残基の対の報償(reward)スコア;常に>0)を用いて計算される。アミノ酸配列については、スコア化マトリックスを用い、累積スコアを計算する。各方向のワードヒットの延長は、下記の場合に停止される:累加アライメントスコアが、その最大達成値から量X離れた場合;1個または複数の負のスコア化残基アライメントの累積ために、累積スコアが0以下になった場合;または、いずれかの配列末端に到達した場合。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アライメントの感度およびスピードを決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)は、デフォルトとして、ワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を使用する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長3、および期待値(E)10、およびBLOSUM62スコア化マトリックス(HenikoffおよびHenikoff、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:10915, 1989参照)、アライメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=-4、および両鎖の比較を使用する。
【0029】
BLASTアルゴリズムは、2個の配列間の類似性の統計解析も行う(例えば、KarlinおよびAltschul、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90:5873 1993参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性のひとつの尺度は、最低確率和(smallest sum probability)(P(N))であり、これは2個のヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の合致が偶然生じる確率の指標を提供する。例えば、被験核酸と参照核酸の比較における最小確率和が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、および最も好ましくは約0.001未満である場合に、核酸は、参照配列に類似していると見なされる。
【0030】
ある態様において、タンパク質および核酸配列の相同性は、Basic Local Alignment Search Tool("BLAST")を用いて評価される。特に、5種の特定のBLASTプログラムを用い、下記の作業を行う:
(1)BLASTPおよびBLAST3は、タンパク質配列データベースに対しアミノ酸クエリー配列を比較する;
(2)BLASTNは、ヌクレオチド配列データベースに対しヌクレオチドクエリー配列を比較する;
(3)BLASTXは、タンパク質配列データベースに対しクエリーヌクレオチド配列(両鎖)の6フレーム概念的翻訳産物を比較する;
(4)TBLASTNは、全6個のリーディングフレーム(両鎖)において翻訳されたヌクレオチド配列データベースに対しクエリータンパク質配列を比較する;および
(5)TBLASTXは、ヌクレオチド配列データベースの6フレームに対しヌクレオチドクエリー配列の6フレーム翻訳を比較する。
【0031】
BLASTプログラムは、同様のセグメントを同定することにより相同配列を同定し、これはここではクエリーアミノ酸または核酸配列ならびにタンパク質または核酸配列データベースから得ることが好ましい被験配列の間の「高スコア化セグメント対」と称される。高スコア化セグメント対は、好ましくは、その多くが当該技術分野において公知であるスコア化マトリックスにより、同定される(すなわちアライメントされる)。好ましくは、使用されるスコア化マトリックスは、BLOSUM62マトリックスである(Gannetら、Science、256:1443-1445, 1992;HenikoffおよびHenikoff、Proteins、17:49-61, 1993、これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。PAMまたはPAM250マトリックスも使用することができる(SchwartzおよびDayhoff、編集、「Matrices for Detecting Distance Relationships: Atlas of Protein Sequence and Structure」(国立バイオメディカル研究財団(NBRF)、ワシントン、1978))があまり好ましくない。BLASTプログラムは、米国国立医学図書館、例えばwww.ncbi.nlm.nih.gov.によりアクセスすることができる。
【0032】
前記アルゴリズムと共に使用されるパラメータは、配列長さおよび試験した相同性の程度に応じて適合させることができる。一部の態様において、これらのパラメータは、ユーザーが指示しなくともそのアルゴリズムにより使用されるデフォルトのパラメータであることができる。
【0033】
プロミオスタチンをコードしているポリヌクレオチドは、例えば、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ヒト、ニワトリ、七面鳥、ゼブラフィッシュ、サケ、ナガスクジラ、他の水生生物および他の種を含む、あらゆる生物に由来することができる。水生生物の例は、魚類に属するもの、例えばマス、チャー、アユ、コイ、ヨーロッパフナ、金魚、モロコ、シラス、ウナギ、アナゴ、イワシ、トビウオ、スズキ、タイ、イシダイ、フエダイ、サバ、アジ、マグロ、カツオ、ハマチ、カサゴ、カレイ、舌ヒラメ、ヒラメ、フグ、モンガラカワハギなど;頭足類に属するもの、例えば、イカ、甲イカ、タコなど;二枚貝のような斧足類に属するもの(例えば、hardshell、Manila、Quahog、Surf、Soft-shell);トリガイ、ムール貝、タマキビ;ホタテ(例えば、sea、bay、calloo);ホラガイ、カタツムリ、ナマコ;赤貝;カキ(例えば、C. virginica、Gulf、New Zealand、Pacific);腹足類に属するもの、例えば、サザエ、アワビ(例えば、グリーン、ピンク、レッド);ならびに、甲殻類に属するもの、例えば、スパイニーロブスター(Spiny)、ロックロブスター(Rock)およびアメリカロブスター(American)を含むが、これらに限定されないロブスター;車エビ;オニテナガエビ(M. rosenbergii)、スチルロールズ(P. styllrolls)、インドホワイト(P. indicus)、ジェポニアス(P. jeponious)、ウシエビ(P. monodon)、バンネメル(P. vannemel)、ヨシエビ(M. ensis)、クダヒゲエビ(S. melantho)、ノーベジャス(N. norvegious)、コールドウォーターシュリンプを含むが、これらに限定されないエビ;ワタリガニ(Blue)、イワガニ、イシガニ、タラバガニ、ズワイガニ(queen)、ズワイガニ(snow)、ブラウンガニ(brown)、アメリカイチョウガニ(dungeness)、マンジュウガニ(Jonah)、アミメノコギリガニ(Mangrove)、ソフトシェルガニ(softshelled)を含むが、これらに限定されないカニ;シャコ、オキアミ、ヨーロッパアカザエビ;ブルー、マロン、レッドクロウ、アメリカザリガニ(Red Swamp)、ソフトシェル(Soft-shelled)、ホワイト(white)を含むが、これらに限定されないザリガニ/伊勢エビ;環形動物;アリゲーターおよびカメなどの爬虫類を含むが、これらに限定されない脊索動物;カエルを含む両生類;ならびに、ウニを含むが、これらに限定されない棘皮動物を含む。
【0034】
本発明は、プロミオスタチンポリペプチドの実質的に精製されたペプチド部分およびpro-GDF-11ポリペプチドの実質的に精製されたペプチド部分を提供する。本明細書において使用される「pro-GDF」、例えばプロミオスタチンまたはpro-GDF-11は、アミノ末端プロドメインおよびカルボキシ末端生物活性GDFペプチドを含む完全長ポリペプチドを意味する。加えて、このプロドメインは、シグナルペプチド(リーダー配列)を含み、これはほぼプロドメインのアミノ末端側の最初の15〜30アミノ酸を含む。シグナルペプチドは、完全長pro-GDFポリペプチドから切断することができ、これはさらに、Arg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)タンパク質分解性の切断部位において切断される。
【0035】
本明細書におけるアミノ酸残基に関する言及は、図1および2において示されたような完全長pro-GDFポリペプチドに関してなされる(同じく、配列表参照)。本明細書における言及は、「ほぼ」特定のアミノ酸残基で開始または終結する特定のペプチドについてであることは認識されなければならない。用語「ほぼ」は、本文において、特定のプロテアーゼは、pro-GDFポリペプチドを、タンパク質分解性の切断認識部位でまたはその隣接位置で、もしくはその認識部位から1個または数個のアミノ酸で切断することができることが認められるので使用される。このように、例えば配列番号:4のほぼアミノ酸残基1〜263位の配列を有するミオスタチンプロドメインに対する言及は、シグナルペプチドを含むプロミオスタチンのアミノ末端ペプチド部分を含み、およびアミノ酸残基257位からアミノ酸残基269位で、好ましくはアミノ酸残基260位からアミノ酸残基266位で終結するカルボキシ末端を有するであろう。
【0036】
同様に、シグナルペプチドは、pro-GDFポリペプチドのほぼアミノ酸残基15位〜30位の位置、例えば残基15位、20位、25位または30位で、例えば残留するプロドメインなどの機能に影響することなく、切断することができる。従って便宜上、本明細書において一般に、例えば、ほぼアミノ酸残基20位から始まるような、シグナルペプチドが切断されたpro-GDFポリペプチドのペプチド部分について言及される。しかし、pro-GDFポリペプチドのほぼ最初の15〜30アミノ末端アミノ酸内のいずれかのアミノ酸位置でシグナルペプチドが切断され得ることが認められるであろう。このように、例えば配列番号:4のほぼアミノ酸残基20〜263位の配列を有するミオスタチンプロドメインに関する言及は、シグナルペプチドを含むプロミオスタチンのほぼ最初の15〜30アミノ酸を欠いているプロミオスタチン、およびアミノ酸残基257位〜アミノ酸残基269位で、好ましくはアミノ酸残基260位〜アミノ酸残基266位で終結するカルボキシ末端を有するプロミオスタチンのペプチド部分を含むであろう。
【0037】
一般に、本明細書において言及は、ほぼアミノ酸1で始まるpro-GDFポリペプチドまたはGDFプロドメインについてなされる。しかし前述の説明を考慮し、シグナルペプチドを欠いているpro-GDFポリペプチドまたはGDFプロドメインも本発明に包含されることは、認められるであろう。さらにこれに関して、本発明のペプチド内のシグナルペプチドの有無は、例えばペプチドが細胞から分泌されるかどうかを含む、それを通ってペプチド、例えばミオスタチンプロドメインが移動しかつペプチドが最終的に局在するような細胞内区画に、影響し得ることは認められなければならない。従って本発明は、さらに、pro-GDFポリペプチドの実質的に精製されたシグナルペプチド部分を提供する。本明細書に説明されたように、このようなシグナルペプチドを用い、物質、特にペプチド物質を、そのシグナルペプチドが由来した天然型GDFと同じ細胞内区画に標的化することができる。
【0038】
本明細書において広範に使用される用語「ペプチド」または「ペプチド部分」は、ペプチド結合により連結した2個以上のアミノ酸を意味する。同じく本明細書において使用される用語「断片」または「タンパク質分解性の断片」は、ポリペプチドへのタンパク質分解性の反応により生成することができる産物、すなわちポリペプチドのペプチド結合の切断時に生成されたペプチドを意味する。用語「タンパク質分解性の断片」は、本明細書において概してタンパク質分解性の反応により生成され得るペプチドを意味するように使用されるが、この断片は、タンパク質分解性の反応により生成される必要はなく、より詳細に以下に考察するような、タンパク質分解性の断片と同等である合成ペプチドを作成するための、化学合成法または組換えDNA技術法を用いて生成することができることは認められるべきである。プロミオスタチンのTGF-βスーパーファミリーの他のメンバーとの明らかにされた相同性に関して、本発明のペプチドは、これは先に明らかにされたこのスーパーファミリーのメンバーには存在しない点を、一部特徴とすることは認められるであろう。プロミオスタチンまたはpro-GDF-11ポリペプチドのペプチド部分が先に明らかにされたTGF-βスーパーファミリーのメンバー中に存在するかどうかは、先に説明したコンピュータアルゴリズムを用いて容易に決定することができる。
【0039】
一般に、本発明のペプチドは、少なくとも約6個のアミノ酸を含み、通常は約10個のアミノ酸を含み、かつ15個またはそれよりも多いアミノ酸、特に20個またはそれよりも多いアミノ酸を含むことができる。本明細書において用語「ペプチド」は、その分子を含むアミノ酸の特定のサイズまたは数を示すようには使用されないこと、および本発明のペプチドは、最大数個のアミノ酸残基またはそれ以上を含むことができることは認められなければならない。例えば、完全長成熟C末端ミオスタチンペプチドは、100個よりも多いアミノ酸を含み、および完全長プロドメインペプチドは260個よりも多いアミノ酸を含む。
【0040】
本明細書において使用される用語「実質的に精製された」または「実質的に純粋」または「単離された」は、言及している分子、例えばペプチドまたはポリヌクレオチドが、それに天然に会合しているタンパク質、核酸、脂質、炭水化物または他の物質を比較的含まない形であることを意味する。一般に、実質的に純粋なペプチド、ポリヌクレオチドまたは他の分子は、少なくとも試料の20%、一般には少なくとも試料の約50%を構成し、通常は少なくとも試料のほぼ80%を構成し、特に試料の約90%〜95%またはそれ以上を構成する。本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドが実質的に純粋であることの決定は、例えば電気泳動の実行および相対的に分離されたバンドとしての特定の分子の同定などの、周知の方法で行うことができる。実質的に純粋なポリヌクレオチドは、例えば、ポリヌクレオチドのクローニングによるか、または化学的もしくは酵素的合成により、得ることができる。実質的に純粋なペプチドは、例えば、化学的合成法によるか、またはタンパク質精製法を用い、それに続くタンパク質分解および必要に応じてさらにクロマトグラフィーまたは電気泳動法による精製を用いて、得ることができる。
【0041】
本発明のペプチドは、プロミオスタチンまたはpro-GDF-11配列との比較、およびそのペプチドのアミノ酸配列が、各々、プロミオスタチンまたはpro-GDF-11のポリペプチド配列内に含まれることの決定により同定することができる。しかし、本発明のペプチドは、プロミオスタチンまたはpro-GDF-11の対応するアミノ酸配列と同一である必要はないことは認められなければならない。従って、本発明のペプチドは、プロミオスタチンポリペプチドのアミノ酸配列に相当することができるが、例えば対応するL-アミノ酸の代わりに1個または複数のD-アミノ酸を含むことにより;または、1個または複数のアミノ酸アナログ、例えば、その反応性側鎖で誘導されたかもしくは修飾されたアミノ酸を含むことにより、天然の配列から変化させることができる。同様に、ペプチド中の1個または複数のペプチド結合は修飾することができる。加えてアミノ末端もしくはカルボキシ末端または両方の反応基は、修飾することができる。このようなペプチドは、例えば、プロテアーゼ、酸化剤、またはそのペプチドが生物学的環境において遭遇し得る他の反応性物質に対する改善された安定性を有するように修飾することができ、その結果本発明の方法の実行において特に有用である。当然、これらのペプチドは、そのペプチドが環境において活性である期間が短縮されるように、生物学的環境において減少した安定性を有するように修飾することができる。
【0042】
本発明のペプチド配列は同じく、ペプチドの1個または数個のアミノ酸に同類アミノ酸置換を導入することにより、対応するプロミオスタチンまたはpro-GDF-11ポリペプチドの配列との比較において修飾することができる。同類アミノ酸置換は、1個のアミノ酸残基の、比較的同じ化学特性を有する別のアミノ酸残基との交換を含み、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシンもしくはメチオニンのような疎水性残基の別のものとの置換、またはある極性残基の別のものとの置換、例えば、アルギニンのリシンとの置換;または、グルタミン酸のアスパラギン酸との置換;またはグルタミンのアスパラギンとの置換などである。修飾することができるプロミオスタチンポリペプチドの位置の例は、プロミオスタチンまたはミオスタチン活性に実質的に影響を及ぼさないミオスタチンプロドメインおよび成熟ミオスタチンペプチド内の様々なアミノ酸差異を示している、図1の試験から明らかである。
【0043】
本発明はさらに、成長分化因子(GDF)ポリペプチド(pro-GDFポリペプチド)の実質的に精製されたタンパク質分解性の断片またはそれらの機能性ペプチド部分を提供する。proGDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片は、プロミオスタチンポリペプチドのタンパク質分解性の断片およびpro-GDF-11ポリペプチドのタンパク質分解性の断片により、本明細書において例証されている。本明細書に説明されたように、pro-GDFのタンパク質分解性の断片と等価であるpro-GDFポリペプチドのペプチド部分は、化学的方法または組換えDNA法により作出することができる。本発明で明らかにされたことを考慮し、他のGDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片を容易に作成しかつ使用することができる。
【0044】
一般に、pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片に相当するペプチドは、GDF受容体と特異的に相互作用しかつGDFシグナル伝達に影響を及ぼすことができるカルボキシ末端(C末端)成熟GDF断片、ならびにシグナルペプチドを含み、および本明細書に説明されたようにpro-GDFポリペプチドまたは成熟GDFペプチドと特異的に相互作用し、かつそのGDFシグナル伝達に作用する能力に影響を及ぼすことができるアミノ末端プロドメイン断片により例証される。例えば、プロミオスタチンポリペプチドのタンパク質分解性の断片は、ミオスタチン受容体と特異的に相互作用することができ、かつミオスタチンシグナル伝達を誘導する、C末端成熟ミオスタチンペプチド;および、ミオスタチンと特異的に相互作用し、これによりミオスタチンのミオスタチンシグナル伝達を誘導する能力を低下または阻害する、アミノ末端プロドメイン断片を含む。
【0045】
pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片またはその機能性ペプチド部分は、一部、GDFシグナル伝達の刺激または阻害に関連した活性を有するまたは影響を及ぼすことを特徴としている。例えば、プロミオスタチンポリペプチドまたはそれらの機能性ペプチド部分は、ミオスタチン受容体結合活性、ミオスタチンシグナル伝達の刺激または阻害活性、ミオスタチン結合活性、プロミオスタチン結合活性、またはそれらの組合せを有することができる。従って、本明細書においてpro-GDFポリペプチドに関して使用される用語「機能性ペプチド部分」は、その受容体と特異的に相互作用し、かつGDFシグナル伝達を刺激または阻害することができる;成熟GDFまたはpro-GDFと特異的に相互作用することができる;もしくは、細胞局在化活性、すなわちシグナルペプチドの活性を示すことができるような、pro-GDFポリペプチドのペプチド部分を意味する。成熟ペプチドの機能性ペプチド部分は、例えばシグナル伝達経路を活性化する能力を有さなくとも、ミオスタチン受容体と特異的に相互作用する能力を有するので、完全長成熟ミオスタチンペプチドの機能性ペプチド部分は、例えば、ミオスタチンシグナル伝達を刺激する能力を含む成熟ミオスタチンと同じ活性を有する必要はないことは、理解されなければならない。ミオスタチンアンタゴニストとして有用であるpro-GDFポリペプチドのこのような機能性ペプチド部分を同定する方法は、本明細書においてもしくは当該技術分野において公知の他のものにおいて明らかにされている。従ってある態様において、プロミオスタチンポリペプチドの機能性ペプチド部分は、ミオスタチン受容体と特異的に相互作用することができ、かつミオスタチンシグナル伝達を刺激するアゴニストとしてまたはミオスタチンシグナル伝達を低下もしくは阻害するアンタゴニストとして作用することができる。
【0046】
別の態様において、プロミオスタチンポリペプチドの機能性ペプチド部分は、プロミオスタチンポリペプチドまたは成熟ミオスタチンペプチドと特異的に相互作用することができ、これによりミオスタチンシグナル伝達を阻止する。このようなプロミオスタチンの機能性ペプチド部分は、例えば、プロミオスタチンポリペプチドの成熟ミオスタチンへの切断の防止;成熟ミオスタチンペプチドとの複合体の形成;または、いずれか他の機序により作用することができる。ペプチド-ミオスタチン複合体が形成される場合、この複合体は、例えば、その受容体と特異的に相互作用するミオスタチンの能力の低下または阻害により、もしくはミオスタチンシグナル伝達を誘導する能力を欠いた形での受容体への結合により、ミオスタチンシグナル伝達を阻止する。
【0047】
pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片は、ポリペプチドのコンセンサスアミノ酸配列Arg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)を有するタンパク質分解性の切断部位での切断により作成される。このようなタンパク質分解性の認識部位は、配列番号:1(プロミオスタチン)のアミノ酸残基263位〜266位または配列番号:25(ヒトpro-GDF-11;同じく図2の相対位置267位〜270参照)のアミノ酸残基295位〜298位として示されるような、Arg-Ser-Arg-Arg(配列番号:22)配列により、ならびに配列番号:20のアミノ酸残基263位〜266位として示されたArg-Ile-Arg-Arg(配列番号:23)配列により例証される。
【0048】
プロミオスタチンポリペプチドは、シグナルペプチドのタンパク質分解性の切断部位に加え、例えば、2個の追加の可能性のあるタンパク質分解性のプロセシング部位(Lys-ArgおよびArg-Arg)を含む。後者のタンパク質分解性のプロセシング部位でのまたはその近傍でのプロミオスタチンポリペプチドの切断は、コンセンサスArg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)タンパク質分解性の切断認識部位(例えば、配列番号:2のアミノ酸残基263位〜266位参照)内に含まれ、これは生物学的に活性な成熟ヒトミオスタチンC末端断片を作成する。例証された完全長成熟ミオスタチンペプチドは、約103〜約109個のアミノ酸を含み、かつ推定分子量およそ12,400ダルトン(Da)を有する。加えてミオスタチンは二量体を形成し、これは分子量ほぼ23〜30キロダルトン(kDa)と予想される。これらの二量体は、ミオスタチンホモダイマーであるか、または例えば、GDF-11もしくは他のGDFまたはTGF-βファミリーメンバーとのヘテロダイマーであることができる。
【0049】
本発明のタンパク質分解性の断片は、GDFプロドメイン、例えば、プロミオスタチンポリペプチドのほぼアミノ酸残基20〜262位を含むミオスタチンプロドメイン、もしくはそれらの機能性ペプチド部分、またはpro-GDF-11ポリペプチドのほぼアミノ酸残基20〜295位を含むGDF-11プロドメイン、もしくはそれらの機能性ペプチド部分により例証され、それらの各々はさらに各自のpro-GDFポリペプチドのほぼアミノ酸1〜20を含むシグナルペプチドを含むことができる。ミオスタチンプロドメインはさらに、配列番号:4および配列番号:6に示したほぼアミノ酸残基20〜263位;さらには、配列番号:2、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:8、配列番号:18、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:20に示したアミノ酸残基ほぼ20位〜262位により例証され、これらは、対応するプロミオスタチンポリペプチドのタンパク質分解性の切断により生成されるか、化学的に合成されるか、またはタンパク質分解性の断片をコードしている組換えポリヌクレオチドから発現することができる。ミオスタチンプロドメインの機能性ペプチド部分は、ミオスタチンまたはプロミオスタチンと特異的に相互作用することができるミオスタチンプロドメインのペプチド部分により例証されている。GDF-11プロドメインは、配列番号:25のほぼアミノ酸残基20〜295位により例証され、これはさらに配列番号:25のほぼアミノ酸残基1〜20位を含むシグナルペプチドを含むことができ、およびGDF-11プロドメインの機能性ペプチド部分は、成熟GDF-11またはpro-GDF-11ポリペプチドと特異的に相互作用することができるGDF-11プロドメインのペプチド部分により例証される。好ましくは、GDFプロドメインの機能性ペプチド部分は、例えばGDFのその受容体と特異的に相互作用する能力の低下または阻害により、もしくは不活性複合体としての受容体への結合により、対応するGDFまたは関連したGDFのシグナル伝達を刺激する能力を阻害する。ある態様において、本発明は、GDFシグナルペプチド、好ましくは、各々、プロミオスタチンまたはpro-GDF-11のほぼ最初の15〜30アミノ末端アミノ酸を含むミオスタチンシグナルペプチドまたはGDF-11シグナルペプチドへ操作できるように連結された、pro-GDFポリペプチドの機能性断片、特にGDFプロドメインの機能性断片を提供する。
【0050】
本明細書に説明されたように、ミオスタチンプロドメインまたはGDF-11プロドメインは、成熟ミオスタチン、GDF-11または両方と相互作用することができ、これにより成熟GDFのその受容体と特異的に相互作用する能力を低下または阻害する(実施例7および8)。従ってミオスタチンプロドメインの機能性ペプチド部分は、例えば、本明細書において提供された方法を用いミオスタチンプロドメインのペプチド部分を試験すること、ならびにミオスタチンまたはプロミオスタチンと特異的に相互作用することができ、かつミオスタチンのミオスタチン受容体と特異的に相互作用する能力をおよびミオスタチンシグナル伝達を刺激する能力を低下または阻害することができるプロドメインの機能性ペプチド部分を同定することにより、得ることができる。
【0051】
ミオスタチンと特異的に相互作用することができるミオスタチンプロドメインの機能性ペプチド部分、または別のGDFプロドメインの機能性ペプチド部分も、特異的タンパク質-タンパク質相互作用を同定するのに有用であることが公知である様々なアッセイのいずれかを用いて、同定することができる。このようなアッセイは、例えば、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィー、FieldsおよびSongのツーハイブリッドシステム(Nature、340:245-246, 1989;さらに米国特許第5,283,173号を参照;Fearonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:7958-7962, 1992;Chienら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:9578-9582, 1991;Young、Biol. Reprod.、58:302-311(1998)、各々本明細書に参照として組入れられている)、リバースツーハイブリッドアッセイ(LeannaおよびHannink、Nucl. Acids Res.、24:3341-3347, 1996、これは本明細書に参照として組入れられている)、抑制されたトランス活性化因子システム(米国特許第5,885,779号、これは本明細書に参照として組入れられている)、ファージ展示システム(Lowman、Ann. Rev. Biophys. Biomol. Struct.、26:401-424, 1997、これは本明細書に参照として組入れられている)、GST/HISプルダウンアッセイ、変異体オペレーター(国際公開公報第98/01879号、これは本明細書に参照として組入れられている)、タンパク質リクルートシステム(米国特許第5,776,689号、これは本明細書に参照として組入れられている)などの方法(例えば、Mathis、Clin. Chem.、41:139-147, 1995;Lam、Anticancer Drug Res.、12:145-167, 1997;Phizickyら、Microbiol. Rev.、59:94-123, 1995;これらは各々本明細書に参照として組入れられている)を含む。
【0052】
GDFプロドメインの機能性ペプチド部分は、分子モデリング法を用い同定することができる。例えば、成熟ミオスタチンペプチドのアミノ酸配列が、適当なモデリングソフトウェアを有するコンピュータシステムへ入力され、ミオスタチンの三次元表示(「仮想ミオスタチン」)が作成される。プロミオスタチンアミノ酸配列も同じく、コンピュータシステムへ入力され、その結果モデリングソフトウェアは、例えばプロドメインの部分のような、プロミオスタチン配列の一部をシミュレーションすることができ、かつ仮想ミオスタチンと特異的に相互作用することができるプロドメインのこれらのペプチド部分を同定することができる。特異的相互作用のベースラインは、仮想ミオスタチンおよび完全長プロミオスタチンプロドメインのモデリング、およびこのような相互作用はミオスタチン活性を阻害することはわかっているので、このプロドメインにより「接触された」仮想ミオスタチン中のアミノ酸残基の同定により、予め定めることができる。
【0053】
ツーハイブリッドアッセイ法および分子モデリング法を含むこのような方法が、本発明に包含される他の特異的に相互作用する分子を同定するために使用することもできることも認められなければならない。従って、ツーハイブリッドアッセイのような方法を用いて、例えば、このアッセイの結合成分のひとつとしてAct RIIAまたはAct RIIB受容体と特異的に相互作用するミオスタチンペプチドまたはそれらのペプチド部分を使用し、かつミオスタチンペプチドと特異的に相互作用するGDF受容体を同定し、ミオスタチン受容体のようなGDF受容体を同定することができる。同様に、分子モデリング法は、成熟ミオスタチンのような成熟GDFペプチドと、またはGDF受容体と特異的に相互作用し、その結果、GDFまたはGDF受容体により媒介されたシグナル伝達のアゴニストまたはアンタゴニストとして有用である物質を同定するために使用することができる。このような物質は、例えば、ミオスタチンプロドメインまたはGDF-11プロドメインの機能性ペプチド部分、もしくはGDFプロドメインの作用を模倣する化学物質であることもできる。
【0054】
本明細書において説明された目的で有用なモデリングシステムは、例えば結晶構造解析もしくは核磁気共鳴分析により得られる構造情報、または一次配列情報を基にすることができる(例えば、Dunbrackら、「Meeting review: the Second meeting on the Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction (CASP2)」(アシロマ、CA、1996年12月13-16日)、Fold Des.、2(2):R27-42 (1997);FischerおよびEisenberg、Protein Sci.、5:947-55, 1996;(さらに米国特許第5,436,850号参照);Havel、Prog. Biophys. Mol. Biol.、56:43-78, 1991;Lichtargeら、J. Mol. Biol.、274:325-37, 1997;Matsumotoら、J. Biol. Chem.、270:19524-31, 1995;Saliら、J. Biol. Chem.、268:9023-34, 1993;Sali、Molec. Med. Today、1:270-7, 1995a;Sali、Curr. Opin. Biotechnol.、6:437-51, 1995b;Sailら、Proteins、23:318-26, 1995c;Sali、Nature Struct. Biol.、5:1029-1032, 1998;米国特許第5,933,819号;米国特許第5,265,030号を参照し、これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0055】
プロミオスタチンポリペプチドまたはGDF受容体の結晶構造座標を用い、タンパク質に結合しかつその物理的または生理学的特性を様々な方法で変更するような化合物を設計することができる。同じくタンパク質の構造座標を用い、GDFシグナル伝達のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができる調節物質または結合物質を開発するために、このポリペプチドに結合する物質に関する小分子データベースのコンピュータによりスクリーニングすることができる。このような物質は、標準式を使用する速度論データのコンピュータ適合により同定することができる(例えば、Segel、「Enzyme Kinetics」(J. Wiley & Sons社、1975)を参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0056】
インヒビターまたは結合物質を設計するために結晶構造データを使用する方法は、当該技術分野において公知である。例えば、GDF受容体座標を、結合したインヒビターを有する受容体を含む、その他の入手できる類似受容体の座標上に重ね、インヒビターが受容体に相互作用する方法の概略を提供することができる。理論的ドラッグデザインの実践において使用されるコンピュータプログラムを使用し、例えば成熟ミオスタチンおよび共結晶化されたミオスタチンプロドメインの間で認められたものに類似した相互作用特性を再現する化合物を同定することができる。特定の相互作用の性質に関する詳細な知識は、結合活性に影響することなく、溶解度、薬物動態などを変更または改善するために化合物を修飾することを可能にする。
【0057】
結晶構造情報を用いて物質を設計するために必要な作業を実行するためのコンピュータプログラムは、周知である。このようなプログラムの例は以下を含む:Catalyst Databeses(登録商標)-BioByte Master File、Derwent WDIおよびACDのような化学データベースにアクセスする情報検索プログラム;Catalyst/HYPO(登録商標)は、化合物のモデル、および薬物候補の構造による活性の変動を説明するための仮説を作成する;Ludi(登録商標)-相補的極性基および疎水基を同定しかつ合致することにより、分子をタンパク質の活性部位に適合させる;および、Leapfrog(登録商標)-ユーザーの制御下のパラメータによる遺伝的アルゴリズムを用い、新規リガンドを「育てる」。
【0058】
様々な汎用機械を、このようなプログラムで使用することができ、もしくはこれをより都合が良いように、この操作の実行により特化された装置を構成してもよい。一般にこの態様は、各々、少なくとも1台の演算装置、少なくとも1台のデータ記憶システム(揮発性および非揮発性メモリーおよび/または記憶要素を含む)、少なくとも1台の入力装置、ならびに少なくとも1台の出力装置を備える、プログラム可能なシステム上で実行される1個または複数のコンピュータプログラムにおいて実行される。このプログラムは、本明細書において説明された関数を実行するために、演算装置で実行される。
【0059】
このような各プログラムは、コンピュータシステムと通信するために、例えば、機械語、アッセンブリー言語、高レベル手続き型言語、またはオブジェクト指向プログラミング言語を含む、いずれか望ましいコンピュータ言語において実行することができる。いずれの場合においても、言語は、コンパイルまたはインタプリター言語であることができる。コンピュータプログラムは、典型的な例として、本明細書に記された手法を実行するために、記憶媒体または装置がコンピュータにより読みとられる際に、コンピュータを設定および操作するために、汎用または特殊目的のプログラム可能なコンピュータにより読み取り可能な、例えばROM、CD-ROM、磁気または光学媒体などの記憶媒体または装置に保存されるであろう。このシステムはさらに、コンピュータプログラムにより設定された、コンピュータ-読み取り可能な記憶媒体として実行されると見なされ、ここでそのように設定された記憶媒体は、コンピュータに、本明細書に記した関数を行うのに特定のおよび予め決定した方法で操作できるようにする。
【0060】
本発明の態様は、例えば、インターネットベースのシステム、特に本明細書に説明されたような、結晶解析またはNMR分析により得られた座標情報、またはアミノ酸もしくはヌクレオチド配列の情報を保存および操作するコンピュータシステムなどの、システムを含む。本明細書において使用される用語「コンピュータシステム」は、本明細書に示した座標または配列の分析に使用される、ハードウェア部品、ソフトウェア部品、およびデータ記憶部品を意味する。このコンピュータシステムは、典型的な例として、配列データの演算処理、アクセスおよび操作のための演算装置を備える。演算装置は、例えばIntel社のPentium IIまたはPentium IIIプロセッサー、またはSun社、Motorola社、Compaq社、AMD社またはIBM社の同様のプロセッサーのような、中央演算処理装置のいずれか周知の型であることができる。
【0061】
典型的な例として、このコンピュータシステムは、演算装置およびデータ保存のための内部データ記憶部品を1個または複数、ならびにデータ記憶部品上に保存されたデータを検索するためのデータ検索装置を1個または複数備える汎用システムである。当業者は、現在利用可能なコンピュータシステムのいずれかが適していることを容易に理解することができる。
【0062】
ひとつの態様において、コンピュータシステムは、好ましくはRAMとして実行される、メインメモリーに連結された、バスに連結された演算装置、およびその上にデータが記録されているハードディスクドライブまたは他のコンピュータで読み取り可能な媒体のような1個または複数の内部データ記憶装置を備える。一部の態様において、コンピュータシステムはさらに、内部データ記憶装置に保存されたデータの読み取りのための1個または複数のデータ検索装置を備える。
【0063】
データ検索装置は、例えば、フロッピーディスクドライブ、コンパクトディスクドライブ、磁気テープドライブ、または遠隔地のデータ保存システムに接続可能なモデム(例えばインターネット経由)を表すことができる。一部の態様において、内部データ記憶装置は、それに記録された制御論理および/またはデータを含む、フロッピーディスク、コンパクトディスク、磁気テープなどのような、着脱式コンピュータで読み取り可能な媒体である。コンピュータシステムは、有利なことに、データ検索装置に一旦挿入されたデータ記憶部品から制御論理および/またはデータを読むための適当なソフトウェアを含むまたはこれによりプログラムされている。
【0064】
コンピュータシステムは一般に、コンピュータユーザーに表示出力するために使用されるディスプレイを備える。このコンピュータシステムは、このコンピュータシステムに集中されたアクセスを提供するために、ネットワークまたは広域ネットワーク内の別のコンピュータシステムに連結することできることも注記されなければならない。
【0065】
ミオスタチンまたはGDF受容体と特異的に相互作用する化学実体が同定することが望ましい場合、化学実体または断片を、その分子と特異的に相互作用するそれらの能力についてスクリーニングするいくつかの方法のいずれかを使用することができる。このプロセスは、コンピュータスクリーン上の、例えばミオスタチンおよびミオスタチンプロドメインの、視覚による検査から始めることができる。次にプロドメインの選択されたペプチド部分、または模倣体として作用することができる化学実体を、ミオスタチンの個々の結合部位内に、様々な配向に配置するか、もしくはドッキングすることができる。ドッキングは、QuantaおよびSybylのようなソフトウェア、それに続くCHARMMおよびAMBERのような標準の分子力学力場(molecular mechanics forcefield)による、エネルギー最小化および分子動力学を用いて実現することができる。
【0066】
特定化されたコンピュータプログラムは、プロドメイン、または例えばGDF受容体アゴニストもしくはアンタゴニストとして有用な化学実体のペプチド部分の選択のために特に有用であることができる。このようなプログラムは、例えば、GRID(Goodford、J. Med. Chem.、28:849-857, 1985;オックスフォード大学、オックスフォード、英国より入手可能);MCSS(MirankerおよびKarplus、Proteins: Structure. Function and Genetics、11:29-34, 1991、Molecular Simulations、バーリントン、MAから入手可能);AUTODOCK(GoodsellおよびOlsen、Proteins: Structure. Function and Genetics、8:195-202, 1990、Scripps Research社、La Jolla、CAから入手可能);DOCK(Kvntzら、J. Mol. Biol.、161 :269-288, 1982、カリフォルニア大学、サンフランシスコ、CAから入手可能)であり、各々本明細書に参照として組入れられている。
【0067】
適当な選択されたペプチドまたは物質は、単独の化合物または結合物質へと集成することができる。集成は、コンピュータスクリーン上に表示された三次元画像上での断片の互いの関係の視覚による検査、それに続くQuantaまたはSybylのようなソフトウェアを用いる手作業によるモデル結合により行うことができる。個別の化学実体または断片の連結において当業者を補助する有用なプログラムは、例えば、CAVEAT(Bartlettら、Special Pub. Royal Chem. Soc.、78:182-196, 1989、カリフォルニア大学、バークレー、CAから入手可能);3Dデータベースシステム、例えばMACCS-3D(MDL Information Systems、サンリーンドロ、CA;総説については、Martin、J. Med. Chem.、35:2145-2154, 1992参照);HOOK(Molecular Simulations、バーリントン、Mass.より入手可能)であり、これらは各々本明細書に参照として組入れられている。
【0068】
このような特異的に相互作用する物質を段階的様式で構築または同定する方法に加え、先に説明したような1個の断片または化学実体を一度に、空の活性部位のいずれかを用い、もしくは任意に、例えばミオスタチンと特異的に相互作用する完全長ミオスタチンプロドメインのような、特異的に相互作用する公知の物質の一部を含む物質を、全体または新たに設計することができる。このような方法は、例えば、LUDI(Bohm、J. Comp. Aid. Molec. Design、6:61-78, 1992、Biosym Technologies社、サンディエゴ、CA);LEGEND(NishibataおよびItai、Tetrahedron、47:8985, 1991、Molecular Simulations、バーリントン、MAから入手可能);LeapFrog(Tripos Associates、セントルイス、MOから入手可能)、およびCohenらにより説明されたもの(J. Med. Chem.、33:883-894, 1990)ならびにNaviaおよびMuickoにより説明されたもの(Curr. Opin. in. Struct. Biol.、2:202-210, 1992、各々本明細書に参照として組入れられている)を含む。
【0069】
化合物の変形エネルギーおよび静電的相互作用を評価するための具体的コンピュータソフトウェアは、当該技術分野において入手可能である。このような用途のために設計されたプログラムの例は、Gaussian 92、改訂C(Frisch、Gaussian社、ピッツバーグ、PA、1992);AMBER、4.0版(Kollman、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、1994);QUANTA/CHARMM(Molecular Simulations社、バーリントン、MA、1994);および、Insight II/Discover(Biosysm Technologies社、サンディエゴ、CA、1994)を含む。これらのプログラムは、例えば、Silicon Graphics社ワークステーション、IRIS社4D/35またはIBM社RISC/6000ワークステーションモデル550を用いて実行されるであろう。スピードと容量が継続して改良されているその他のハードウェアシステムおよびソフトウェアパッケージも、当業者に公知であろう。
【0070】
関心のある分子、例えば成熟ミオスタチンのような成熟GDFペプチド、またはGDF受容体と特異的に相互作用する物質を同定するための分子モデリングプロセスは、本明細書に説明したように行うことができる。第一の工程において、標的分子、例えばミオスタチンの仮想表現が行われる。こうして、ひとつの態様において、本発明は、標的分子の仮想表現を提供し、ここでこの標的分子は、pro-GDFポリペプチド、例えば、プロミオスタチン;pro-GDFポリペプチドのペプチド部分;GDF受容体;および、GDF受容体の関連ドメイン、例えば、GDF結合ドメインから選択される。この標的分子の仮想表現は、表示されるか、もしくはコンピュータシステムメモリー内に維持される。このプロセスは、仮想標的分子を含む、スタート状態で始まり、その後1個または複数の仮想被験分子を含むデータベースがコンピュータシステムのメモリーに保存される状態へと進む。前述のように、メモリーは、RAMまたは内部記憶装置を含む、いずれかの型のメモリーであることができる。
【0071】
その後このプロセスは、仮想の第一の被験分子の仮想標的分子と特異的に相互作用する能力が決定される状態へ進み、ここで被験分子集団のひとつであり得る仮想被験分子を含むデータベースが、仮想標的分子と仮想被験分子の相互作用の解析のために開かれ、ならびに解析が行われる。特異的相互作用の決定は、コンピュータシステム内に維持されたソフトウェアにより、または予め定められた特異的相互作用の比較により行われた計算を基に行うことができ、これはコンピュータシステムのメモリー内に保存されかつ適宜アクセスすることができる。
【0072】
その後プロセスは、特異的相互作用が検出された場合に、仮想被験分子が表示されるか、もしくはそのコンピュータ上の第二のデータベースに保存されるような状態へと進む。適当な場合、このプロセスは、仮想標的分子および第二の仮想被験分子、第三の仮想被験分子などについて、要望通り、繰り返される。
【0073】
仮想被験分子が仮想標的分子と特異的に相互作用することが決定された場合、同定された仮想被験分子は、データベースから移動され、ユーザーに表示することができる。この状態は、ユーザーに、表示された名称または構造を持つ分子が、入力された制約内の標的分子と特異的に相互作用することを知らせる。一旦確定された被験分子の名称がユーザーに表示されると、このプロセスは、より多くの仮想被験分子がデータベースに存在するか、または試験されるべきかどうかの決定が成される決定状態へ移動する。更なる分子がこのデータベースに存在しない場合は、その後このプロセスは最終状態で終結する。しかしより多くの被験分子がデータベースに存在する場合は、次にこのプロセスは、特異的結合活性について試験することができるように、ポインターがデータベースの次の被験分子に動かされる状態へと移動する。この方式で、新規分子が、仮想標的分子と特異的に相互作用する能力について試験される。
【0074】
先に説明されたような方法は、請求された本発明に包含された様々な局面において使用することができる。従って、これらの方法は、ミオスタチンと特異的に相互作用することができ、かつミオスタチンのその受容体と相互作用する能力を低下または阻害するか、またはさもなければミオスタチンのシグナル伝達に作用する能力に影響を及ぼす、プロミオスタチンプロドメインのペプチド部分を同定するために使用することができる。同様に、これらの方法は、GDFプロドメインの作用を模倣し、これによりミオスタチンまたはGDF-11シグナル伝達を低下もしくは阻害する小さい有機分子を同定するために使用することができる。同じくこれらの方法は、GDF受容体、例えばAct RIIA、Act RIIBまたは他のGDF受容体と特異的に相互作用する物質を同定するために使用することができ、このような物質は、細胞におけるGDFシグナル伝達を調節することができる、GDF受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして有用である。加えてこれらの方法は、例えば特定のポリペプチドの保存された構造特徴を同定することにより、これまで不明であったpro-GDFポリペプチドまたはGDF受容体の同定の手段を提供する。
【0075】
TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーと同様、活性GDFペプチドは、前駆体ポリペプチドとして発現され、これは成熟した生物活性型へと切断される。従って、さらに別の態様において、pro-GDFポリペプチドのタンパク質分解性の断片は、成熟GDFペプチド、または成熟GDFペプチドの機能性ペプチド部分であり、ここで前述のように、機能性ペプチド部分は、GDFのアゴニストまたはアンタゴニストの活性を有することができる。このタンパク質分解性の断片は、成熟C末端ミオスタチンペプチドであることができ、これはプロミオスタチンポリペプチドのほぼアミノ酸残基268位〜374位(図1参照;同じく図2参照)、またはpro-GDF-11ポリペプチドのほぼアミノ酸残基299位〜407位を含む成熟C末端GDF-11ペプチドを含む。完全長成熟ミオスタチンペプチドは、配列番号:4および配列番号:6に示したアミノ酸残基ほぼ268位〜375位により;配列番号:2、配列番号:10、配列番号:12、配列番号:8、配列番号:18、配列番号:14、配列番号:16、配列番号:20に示したアミノ酸残基ほぼ267位〜374位により;ならびに、配列番号:27のアミノ酸残基ほぼ49位〜157位および配列番号:29のアミノ酸残基ほぼ28位〜136位により、例証される。完全長成熟GDF-11ペプチドは、配列番号:25のアミノ酸残基ほぼ299位〜407位により例証される。成熟GDFペプチドの機能性ペプチド部分は、成熟GDFペプチドの活性に関してアゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する、成熟ミオスタチンまたは成熟GDF-11のペプチド部分により、例証される。好ましくは、成熟GDFペプチド活性は、その受容体と特異的に相互作用する能力である。
【0076】
本明細書に記したように、成熟ミオスタチンペプチド(本明細書において一般に「ミオスタチン」と称する)は、細胞表面に発現されたミオスタチン受容体との特異的相互作用により、ミオスタチンシグナル伝達活性を誘導することができる(図7参照)。従って、ミオスタチンの機能性ペプチド部分は、本明細書に説明した方法(実施例7)を用い成熟ミオスタチンペプチドのペプチド部分を試験することにより、さもなければ当該技術分野において公知のように、例えば細胞上に発現されたアクチビンIIA型受容体(Act RIIA)またはAct RIIB受容体のようなミオスタチン受容体と特異的に相互作用するミオスタチンの機能性ペプチド部分を同定することにより、得ることができる。
【0077】
ミオスタチンプロドメインは、ミオスタチンシグナル伝達活性を低下または阻害することができる。ひとつの態様において、ミオスタチンプロドメインは、ミオスタチンと特異的に相互作用することができ、これにより、ミオスタチンペプチドのその受容体と特異的に相互作用する能力を低下または阻害する。本明細書に記したように、前駆体プロミオスタチンはさらに、ミオスタチン受容体と特異的に相互作用する能力を欠いており、その結果プロミオスタチンの成熟ミオスタチンへ切断される能力を低下または阻害するプロミオスタチンにおける変異は、ミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害する手段を提供する。従って別の態様において、本発明は、変異体pro-GDFポリペプチドを提供し、これは変異体pro-GDFの活性成熟GDFペプチドへのタンパク質分解性の切断を破壊する1個または複数のアミノ酸変異を含む。
【0078】
本発明の変異体pro-GDFポリペプチドは、pro-GDFポリペプチドに存在する、コンセンサスタンパク質分解性の切断認識部位Arg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)のような、タンパク質分解性の切断部位での切断に影響を及ぼす変異を有することができる。従ってこの変異は、配列番号:21のArg残基の変異であることができ、その結果例えば変異体プロミオスタチンは、ミオスタチンプロドメインおよび成熟ミオスタチンペプチドへと切断することはできない。しかしさらに、変異は、タンパク質分解性の切断部位以外の部位であることができ、かつ切断部位でタンパク質分解に作用するようにプロテアーゼのpro-GDFポリペプチドに結合する能力を変更することができる。本発明の変異体pro-GDFポリペプチド、例えば、変異体プロミオスタチンまたは変異体pro-GDF-11は、ミオスタチンまたはGDE-11に関してドミナントネガティブ活性を有することができ、その結果細胞におけるミオスタチンまたはGDF-11シグナル伝達の低下または阻害について有用であることができる。
【0079】
本発明はさらに、前述のような、プロミオスタチンポリペプチドもしくは変異体プロミオスタチンのペプチド部分、またはpro-GDF-11ポリペプチドもしくは変異体pro-GDF-11のペプチド部分をコードしている、実質的に精製されたポリヌクレオチドを提供する。以下により詳細に述べるように、本発明はさらに、ミオスタチンの細胞に対する影響を調節する物質として有用なポリヌクレオチドを提供し、かつさらにGDF受容体をコードしているポリヌクレオチド、またはそれらの機能性ペプチド部分提供する。このようなポリヌクレオチドの例は、下記の説明から与えられる。このように、下記の説明が、本明細書に記された様々な本発明の態様に関連していることは認められなければならない。
【0080】
本明細書において広範に使用される用語「ポリヌクレオチド」は、ホスホジエステル結合により互いに連結された2個以上のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの配列を意味する。このように用語「ポリヌクレオチド」は、遺伝子またはその一部であることができるRNAおよびDNA、cDNA、合成ポリデオキシリボ核酸配列などを含み、かつ1本鎖または2本鎖、さらにはDNA/RNAハイブリッドであることができる。さらに本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」は、細胞から単離される天然の核酸分子に加え、例えば化学合成法またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような酵素的方法により調製することができる合成分子を含む。様々な態様において、本発明のポリヌクレオチドは、ヌクレオシドもしくはヌクレオチドアナログ、またはホスホジエステル結合以外の主鎖結合を含むことができる(前記参照)。
【0081】
一般に、ポリヌクレオチドを含むヌクレオチドは、例えば2'-デオキシリボースに連結されたアデニン、シトシン、グアニンもしくはチミンのような、天然のデオキシリボヌクレオチド、またはリボースに連結されたアデニン、シトシン、グアニンもしくはウラシルのような、リボヌクレオチドである。しかし、ポリヌクレオチドはさらに、天然でない合成のヌクレオチドまたは修飾された天然のヌクレオチドを含むヌクレオチドアナログも含むことができる。このようなヌクレオチドアナログは、このようなヌクレオチドアナログを含むポリヌクレオチドとして、当該技術分野において周知であり、市販されている(Linら、Nucl. Acids Res.、22:5220-5234 (1994);Jellinekら、Biochemistry、34:11363-11372 (1995);Pagratisら、Nature Biotechnol.、15:68-73 (1997)、各々は本明細書に参照として組入れられている)。
【0082】
ポリヌクレオチドのヌクレオチドに連結している共有結合は、一般に、ホスホジエステル結合である。しかしこの共有結合は、チオジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ペプチド-様結合、または合成ポリヌクレオチドを生成するためのヌクレオチド連結に有用であることが当業者に公知の他の結合を含む、多くの他の結合のいずれかであることもできる(例えば、Tamら、Nucl. Acids Res.、22:977-986 (1994);EckerおよびCrooke、BioTechnology、13:351360 (1995)を参照、各々本明細書に参照として組入れられている)。天然でないヌクレオチドアナログまたはヌクレオチドもしくはアナログを連結する結合の組入れは、ポリヌクレオチドが、修飾されたポリヌクレオチドは分解されにくいので、ポリヌクレオチドが、例えば組織培養培地を含む、核分解性(nucleolytic)の活性を含み得る環境に曝されている場合に、または生存対象への投与時に、特に有用であり得る。
【0083】
天然のヌクレオチドおよびホスホジエステル結合を含むポリヌクレオチドは、化学的に合成されるか、もしくは鋳型として適当なポリヌクレオチドを使用する、組換えDNA法を用いて作成することができる。一般に比較において、ヌクレオチドアナログまたはホスホジエステル結合以外の共有結合を含むポリヌクレオチドを、化学的に合成することができるが、T7ポリメラーゼのような酵素は、ある種のヌクレオチドアナログをポリヌクレオチドへ組入れることができ、その結果このようなポリヌクレオチドを適当な鋳型から組換えにより作成するために使用することができる(Jellinekら、前掲、1995)。
【0084】
ポリヌクレオチドがペプチド、例えばプロミオスタチンのペプチド部分またはペプチド物質をコードしている場合、このコード配列は一般にベクター内に含まれ、かつ必要に応じて、組織特異的プロモーターまたはエンハンサーを含む適当な調節要素へ機能的に連結されている。コードされたペプチドはさらに、例えば、標的細胞における物質の発現の同定を促進することができるペプチドタグ、例えばHis-6タグなどへ、機能的に連結され得る。His-6のようなポリヒスチジンタグペプチドは、ニッケルイオン、コバルトイオンなどの二価カチオンを用いて検出することができる。追加のペプチドタグは、例えば、抗FLAG抗体を用いて検出することができるFLAGエピトープ(例えば、Hoppら、BioTechnology、6:1204 (1988);米国特許第5,011,912号参照、各々本明細書に参照として組入れられている);エピトープに特異的な抗体を使用し検出することができるc-mycエピトープ;ストレプトアビジンまたはアビジンを用いて検出することができるビオチン;ならびに、グルタチオンを用いて検出することができるグルタチオンS-トランスフェラーゼを含む。このようなタグは、例えばミオスタチンポリペプチドのタンパク質分解性の断片に対応する実質的に精製されたペプチドを得ることが望ましい場合に、これらが機能的に連結されたペプチドまたはペプチド物質の単離を促進することができるという追加の利点を提供することができる。
【0085】
本明細書において使用される用語「機能的に連結された」または「機能的に会合された」は、2個以上の分子が、互いに関して、単独の単位として作用しかつ一方または両方の分子またはそれらの組合せに寄与する機能に作用を及ぼすように位置していることを意味する。例えば、本発明のペプチドをコードしているポリヌクレオチド配列は、調節要素へ機能的に連結することができ、この場合この調節要素は、その調節要素が通常細胞において会合されているポリヌクレオチド配列へ作用するのと類似した方法で、調節作用をポリヌクレオチドに付与する。第一のポリヌクレオチドコード配列はさらに、第二(またはそれ以降の)コード配列に機能的に連結することができ、その結果キメラポリペプチドが機能的に連結されたコード配列から発現され得る。このキメラポリペプチドは、融合ポリペプチドであることができ、ここで2個(またはそれ以上)のコードされたペプチドは、単独のポリペプチドへ翻訳され、すなわち、ペプチド結合を介して共有結合されるか;もしくは、翻訳時に、安定した複合体を形成するために互いに機能的に会合し得る2個の個別のペプチドとして翻訳することができる。
【0086】
キメラポリペプチドは、一般にそのペプチド成分の各々の特徴を一部または全てを示している。このようにキメラポリペプチドは、特に本明細書に記されたような本発明の方法の実行において有用であることができる。例えばある態様において、本発明の方法は、細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を調節することができる。その結果、キメラポリペプチドのひとつのペプチド成分が、細胞内区画局在化ドメインをコードし、および第二のペプチド成分がドミナントネガティブSmadポリペプチドをコードしている場合、この機能性キメラポリペプチドは、細胞内区画局在化ドメインにより指定される細胞内区画へ転位することができ、かつSmadポリペプチドのドミナントネガティブ活性を有することができ、これにより細胞におけるミオスタチンシグナル伝達が調節される。
【0087】
細胞内区画化ドメインは、周知であり、かつ例えば、形質膜局在化ドメイン、核局在化シグナル、ミトコンドリア膜局在化シグナル、小胞体局在化シグナルなどを含む(例えば、Hancockら、EMBO J.、10:4033-4039, 1991;Bussら、Mol. Cell. Biol.、8:3960-3963, 1988;米国特許第5,776,689号を参照、これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。このようなドメインは、細胞内の特定の区画への物質の標的化、もしくは細胞から分泌されるための物質の標的化に有用であることができる。例えば、ミオスタチン受容体、例えばAct RIIBのキナーゼドメインは、一般に形質膜の内側表面に会合されている。従ってドミナントネガティブミオスタチン受容体、キナーゼドメインを含むキメラポリペプチド、例えばキナーゼ活性を失活しているドミナントネガティブAct RIIB受容体は、さらに形質膜局在化ドメインを含み、これによりドミナントネガティブAct RIIBキナーゼドメインが内側細胞膜に局在化される。
【0088】
本明細書に記されたように、pro-GDFシグナルペプチドは、細胞局在化活性を有する。本明細書に記されたように、用語「細胞局在化活性」は、シグナルペプチドの、1個または複数の特異的細胞内の区画へそれに操作できるように連結されたペプチドの翻訳を指示する能力、または細胞からのこの分子の分泌を指示する能力を意味する。このようにpro-GDFシグナルペプチドは、実質的に同じシグナルペプチドを有する天然に発現されたGDFと同じ細胞内区画へとシグナルペプチドと操作できるように連結されたペプチドまたは他の物質の転位の指示に特に有用である。さらにシグナルペプチド、例えばプロミオスタチンの最初の15〜30個のアミノ酸を含むプロミオスタチンシグナルペプチドは、操作できるように連結された物質の、このシグナルペプチドを有する天然のpro-GDFと同じ経路による細胞からの分泌を指示することができる。従って、本発明の方法の実行に特に有用な物質は、GDFシグナルペプチド、好ましくはプロミオスタチンまたはpro-GDF-11シグナルペプチドに操作できるように連結された、GDFプロドメインまたはそれらの機能性ペプチド部分を含む。
【0089】
本発明の方法の実行において有用なポリヌクレオチド物質を含む本発明のポリヌクレオチドは、標的細胞と直接接触することができる。例えば、アンチセンス分子、リボザイム、または三重化物質(triplexing agent)として有用なオリゴヌクレオチドは、標的細胞と直接接触することができ、この時細胞へ侵入しかつそれらの機能に作用する。ポリヌクレオチド物質は、ポリペプチド、例えばミオスタチン受容体(またはミオスタチン)と特異的に相互作用することもでき、これによりミオスタチンの受容体と特異的に相互作用する能力を変更する。このようなポリヌクレオチドに加え、このようなポリヌクレオチドを作成および同定する方法も、本明細書に記されているか、さもなければ当該技術分野において周知である(例えば、O=Connellら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93:5883-5887, 1996;TuerkおよびGold、Science、249:505-510, 1990;Goldら、Ann. Rev. Biochem.、64:763-797, 1995参照;各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0090】
本発明のポリヌクレオチドは、プロミオスタチンのようにpro-GDFポリペプチドのペプチド部分をコードすることができるか、または変異体プロミオスタチンポリペプチドをコードすることができるか、もしくはGDF受容体またはその機能性ペプチド部分をコードすることができるか、もしくは本発明の方法の実行に有用なポリヌクレオチド物質であることができるが、これは、ポリヌクレオチドの標的細胞への導入を含むポリヌクレオチドの操作を促進することができるベクター内に含むことができる。このベクターは、ポリヌクレオチドの維持に有用なクローニングベクターであることができ、もしくはこのポリヌクレオチドに加え、ポリヌクレオチド発現に有用な調節要素を含む発現ベクターであることができ、ここでこのポリヌクレオチドは、特定の細胞におけるコードされたペプチドの発現のためのペプチドをコードしている。発現ベクターは、例えば、コードしているポリヌクレオチドの持続された転写の達成に必要な発現要素を含むことができ、もしくは調節要素はベクターにそれがクローニングされる前に、このポリヌクレオチドへ機能的に連結され得る。
【0091】
発現ベクター(またはポリヌクレオチド)は一般に、プロモーター配列を含むまたはコードしており、これはコードしているポリヌクレオチド、poly-A認識配列、およびリボソーム認識部位もしくは内部リボソーム結合サイト、または組織特異的であることができるエンハンサーのような他の調節要素の、構成的または必要に応じて誘導的または組織特異的または発達段階特異的発現を提供することができる。ベクターはさらに、必要に応じて、原核もしくは真核宿主システムまたは両方における複製に必要な要素を含むことができる。このようなベクターは、プラスミドベクターおよびウイルスベクター、例えばバクテリオファージ、バキュロウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびアデノ随伴ウイルスのベクターなどを含むが、これらは周知であり、かつ商業的業者から購入することができ(Promega社、マジソン、WI;Stratagene社、La Jolla、CA;GIBCO/BRL社、ゲイサーバーグ、MD)、もしくは当業者は構築することができる(例えば、Meth. Enzymol.、185巻、Goeddel編集(Academic Press社、1990);Jolly、Canc. Gene Ther.、1:51-64, 1994;Flotte、J. Bioenerg. Biomemb.、25:37-42, 1993;Kirshenbaumら、J. Clin. Invest.、92:381-387, 1993参照;これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0092】
テトラサイクリン(tet)誘導性プロモーターは、本発明のポリヌクレオチド、例えばタンパク質分解性のプロセシング部位が変異されているミオスタチンのドミナントネガティブ型をコードしているか、もしくは成熟ミオスタチンペプチドと複合体を形成するミオスタチンプロドメインをコードしているか、またはGDF受容体のドミナントネガティブ型をコードしているポリヌクレオチドの発現を駆動するために特に有用である。テトラサイクリン、またはテトラサイクリンアナログの、tet誘導性プロモーターに機能的に連結されたポリヌクレオチドを含む対象への投与時に、コードされたペプチドの発現が誘導され、これによりペプチドはその活性に作用し、例えばこれによりペプチド物質は、ミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害することができる。このような方法を使用し、例えば成体生物における筋肉肥大を誘導することができる。
【0093】
このポリヌクレオチドはさらに、組織に特異的な調節要素、例えば筋肉細胞に特異的な調節要素へ機能的に連結され、その結果コードされたペプチドの発現は、個体の筋肉細胞、または例えば器官培養物のような培養物内の細胞の混合集団中の筋肉細胞に限定され得る。筋肉細胞に特異的な調節要素、例えば筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(Sternbergら、Mol. Cell Biol.、8:2896-2909, 1988、これは本明細書に参照として組入れられている)およびミオシン軽鎖エンハンサー/プロモーター(Donoghueら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:5847-5851, 1991、これは本明細書に参照として組入れられている)は、当該技術分野において周知である。
【0094】
ウイルス発現ベクターは、ポリヌクレオチドの細胞への、特に対象の細胞への導入に特に有用である。ウイルスベクターは、宿主細胞に比較的高い効率で感染することができかつ特異的細胞型に感染することができるという利点を提供する。例えば、ミオスタチンプロドメインまたはそれらの機能性ペプチド部分をコードしているポリヌクレオチドは、バキュロウイルスベクターへクローニングすることができ、これは次に昆虫宿主細胞の感染に使用することができ、これにより大量のコードされたプロドメインを作出する手段を提供する。ウイルスベクターはさらに、例えば、哺乳類、鳥類または魚類宿主細胞などの脊椎動物宿主細胞のような、関心のある生物の細胞に感染するウイルスに由来することができる。ウイルスベクターは、標的細胞への本発明の方法を実行するために有用なポリヌクレオチドの導入に特に有用である。ウイルスベクターは、特定の宿主システム、特に哺乳類システムにおける使用のために開発されており、例えばレトロウイルスベクター、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を基にしたもののようなその他のレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどを含む(MillerおよびRosman、BioTechniques、7:980-990, 1992;Andersonら、Nature、392:25-30、補遺、1998;VermaおよびSomia、Nature、389:239-242, 1997;Wilson、New Engl. J. Med.、334:1185-1187 (1996)参照、これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0095】
例えばレトロウイルスが遺伝子導入に使用される場合、複製成分レトロウイルウスは理論的には、レトロウイルスベクターの組換えにより出現することができ、かつパッケージング細胞株内のウイルスの遺伝子配列を利用し、レトロウイルスベクターを作出する。組換えによる複製コンピテントウイルスの作出が低下または除去されているパッケージング細胞株を使用し、複製コンピテントレトロウイルスが作出される可能性を最小化することができる。細胞の感染に使用される全てのレトロウイルスベクター上清は、PCRおよび逆転写アッセイなどの標準アッセイにより、複製コンピテントウイルスについてスクリーニングされる。レトロウイルスベクターは、宿主細胞ゲノムへの異種遺伝子の組込みを可能にし、これは遺伝子の細胞分裂後娘細胞への継代を可能にする。
【0096】
ベクターに含まれるポリヌクレオチドは、当該技術分野において公知の様々な方法のいずれかにより細胞へ導入することができる(Sambrookら、Molecular Cloning: A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press社、1989);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons社、ボルチモア、MD)(1987、および1995までの補遺)、これらは各々本明細書に参照として組入れられている)。このような方法は、例えば、トランスフェクション、リポフェクション、微量注入、電気穿孔、およびウイルスベクターによる感染を含み;ならびに、ポリヌクレオチドの細胞への導入を促進しかつポリヌクレオチドを細胞への導入前に分解から保護することができる、リポソーム、マイクロエマルジョンなどの使用を含む。具体的方法の選択は、例えばポリヌクレオチドが導入される細胞、さらには細胞が培養物内に単離されているかどうか、もしくは培養物中またはインサイチュで組織または器官内にあるかどうかによって左右される。
【0097】
ウイルスベクターによる感染によるポリヌクレオチドの細胞への導入は、核酸分子を細胞へエクスビボまたはインビボで効率的に導入することができる点で特に利点である(例えば米国特許第5,399,346号参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。さらにウイルスは、1つまたは複数の特異的細胞型に感染しかつ増殖する能力を基にしたベクターとして、非常に特定化されかつ選択される。従ってそれらの天然の特異性を用い、ベクターに含まれる核酸分子を特異的細胞型へ標的化することができる。このように、HIVを基にしたベクターを用い、T細胞を感染することができ、アデノウイルスを基にしたベクターを用い、例えば、呼吸上皮細胞を感染することができ、ヘルペスウイルスを基にしたベクターを用い、神経細胞を感染することなどができる。アデノ随伴ウイルスのようなその他のベクターは、より大きい宿主細胞範囲を有し、その結果、様々な細胞型を感染するために使用することができるが、ウイルスまたは非ウイルスベクターはさらに、受容体が媒介した事象を通じて標的特異性を変更するために、特異的受容体またはリガンドで修飾することができる。
【0098】
本発明はさらに、プロミオスタチンポリペプチドのペプチド部分または変異体プロミオスタチンポリペプチドに特異的に結合する抗体も提供する。本発明の特に有用な抗体は、ミオスタチンプロドメイン、またはその機能性ペプチド部分に特異的に結合する抗体、ならびにプロミオスタチンポリペプチドに結合しかつプロミオスタチンの成熟ミオスタチンペプチドへのタンパク質分解性の切断を低下または阻害する抗体を含む。加えて、本発明の抗体は、以下に説明するように、GDF受容体、またはその機能性ペプチド部分に特異的に結合する抗体であることができる。本発明の抗体を調製および単離する方法は、より詳細に以下に説明しているが、その説明は本明細書に参照として組入れられている。
【0099】
ミオスタチンは、骨格筋総量の適切な調節に必須である。野生型マウスと比べ、ミオスタチンを欠損しているミオスタチンノックアウトマウスは、過形成および肥大の組合せのために、2〜3倍の筋肉量を有する。本明細書に記したように、ミオスタチンノックアウトマウスはさらに、少なくとも一部は全身の骨格筋組織の増大した同化状態のために、脂肪蓄積の著しい低下を有する。対照的に、ヌードマウスにおけるミオスタチンの過剰発現は、癌またはAIDSのような慢性疾患に罹患したヒト患者において観察される悪液質状態に類似した消耗性症候群を引き起す。さらに以下に説明しているように、ミオスタチン活性は、Smadシグナル伝達経路を特徴とするシグナル伝達により媒介することができる。従って本発明は、細胞のミオスタチンシグナル伝達に影響を及ぼす物質と細胞を接触させることにより、ミオスタチンの細胞に対する作用を調節する方法を提供する。
【0100】
本明細書において使用される用語「調節」は、ミオスタチンの細胞に対する作用について使用される場合、細胞のミオスタチンシグナル伝達が、増大されるかもしくは低下または阻害されるかのいずれかであることを意味する。用語「増大」および「低下または阻害」は、ミオスタチンシグナル伝達活性のベースラインレベルに関して使用され、これは、ミオスタチンが存在しない場合のシグナル伝達経路の活性レベル、またはミオスタチンが存在する場合の正常細胞の活性レベルであることができる。例えば、ミオスタチンシグナル伝達経路は、ミオスタチンと接触された筋肉細胞において特定の活性を示し、およびさらに筋肉細胞をミオスタチンプロドメインと接触する場合には、ミオスタチンシグナル伝達活性は、低下または阻害され得る。このように、ミオスタチンプロドメインは、ミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害するのに有用な物質である。同様に、GDF-11プロドメインのような別のGDFファミリーメンバーのプロドメイン、またはアクチビンプロドメイン、MISプロドメインなどのような別のTGF-βファミリーメンバーは、ミオスタチンシグナル伝達を低下するために有用であることができる。用語「低下または阻害」は、本明細書において共に使用され、その理由は場合によっては、ミオスタチンシグナル伝達のレベルが、特定のアッセイにより検出され得るレベル以下に低下されることが認められるからである。このように、このようなアッセイを用いて、低レベルのミオタチンシグナル伝達が残存しているかどうか、またはシグナル伝達が完全に阻害されたかどうかは決定することができない。
【0101】
本明細書において使用される用語「ミオスタチンシグナル伝達」は、ミオスタチンの細胞表面に発現されたミオスタチン受容体との特異的相互作用により細胞において生じる、一連の事象、一般には一連のタンパク質-タンパク質相互作用を意味する。このように、ミオスタチンシグナル伝達は、例えば、ミオスタチンの細胞上のその受容体との特異的相互作用の検出により、細胞のミオスタチンシグナル伝達経路内の1個または複数のポリペプチドのリン酸化の検出により、ミオスタチンシグナル伝達により特異的に誘導される1個または複数の遺伝子の発現の検出により、またはミオスタチンシグナル伝達に反応して生じる表現型変化の検出により、検出することができる(実施例参照)。本明細書に記されたように、本発明の方法において有用な物質は、ミオスタチンシグナル伝達を刺激するアゴニストとして、またはミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害するアンタゴニストとして作用することができる。
【0102】
本発明の方法は、ミオスタチンに関して一般に本明細書において例証される。しかし、本発明の方法が、細胞内のGDFのためにシグナル伝達に影響を及ぼす物質と細胞を接触することにより、他のGDFペプチド、例えばGDF-11の細胞に対する作用の調節をより広範に包含することができることは認められなければならない。本発明の完全な範囲を実践する方法は、本発明の説明を考慮し容易に理解され、これは、例えばGDF受容体を同定する方法、GDFのその受容体との特異的相互作用によりシグナル伝達を調節する物質を同定する方法などを含む。
【0103】
本明細書において、ミオスタチンシグナル伝達経路は、アクチビンII型受容体の細胞外ドメインとのミオスタチン特異的に相互作用時に開始され、かつ細胞内のSmadタンパク質を含む細胞内ポリペプチドの相互作用を介して伝播されるような、Smad経路により例証されている。概して、ミオスタチンシグナル伝達は、Smadポリペプチドのような特異的細胞内ポリペプチドのリン酸化または脱リン酸化に関連している。従って細胞内のミオスタチンシグナル伝達は、ミオスタチン存在下での1個または複数のSmadポリペプチドのリン酸化の増大したレベルの検出により、ミオスタチン非存在下でのそのポリペプチドのリン酸化レベルと比較し検出することができる。本発明の方法は、ミオスタチンシグナル伝達を増大または減少する手段を提供し、その結果、ミオスタチンシグナル伝達経路に関連したSmadポリペプチドのリン酸化レベルは、各々、正常レベルを上回り増加するかまたはミオスタチン存在下で予想されるレベルを下回り減少するであろう。
【0104】
本発明の方法は、例えば、適当な条件下で標的細胞および細胞内のミオスタチンシグナル伝達に影響を及ぼす物質を接触することにより実行することができる。適当な条件は、適当な培養培地中に、単離された細胞であるかもしくは組織または器官の成分であることができる細胞を配置することにより、または生物内で細胞をインサイチュで接触することにより提供され得る。例えば、細胞を含有する培地は、ミオスタチンの細胞上に発現されたミオスタチン受容と特異的に相互作用する能力に影響を及ぼす物質と、または細胞内のミオスタチンシグナル伝達経路に影響を及ぼす物質と、接触することができる。一般に細胞は、対象内の組織または器官の成分であり、この場合細胞の接触は、対象へのその物質の投与を含み得る。しかしこの細胞は、培養物中で操作することができ、その後培養物中で維持され、対象へ投与されるか、もしくはトランスジェニック非ヒト動物の作出に使用される。
【0105】
本発明の方法に有用な物質は、例えば、ポリヌクレオチド、ペプチド、ペプチド擬態、ビニル性(vinylogous)ペプトイドのようなペプトイド、小有機分子などのいずれかの種類の分子であることができ、かつ様々な方法のいずれかで、ミオスタチンシグナル伝達へ影響を及ぼすように作用することができる。この物質は、ミオスタチンまたはアクチビン受容体のようなミオスタチン受容体へ結合することにより、細胞外で作用することができ、これによりミオスタチンのその受容体と特異的に相互作用する能力を変更するか、もしくは、細胞内のミオスタチンシグナル伝達を変更するように細胞内で作用することができる。加えて、この物質は、例えばミオスタチンのその受容体と特異的に相互作用する能力のような、ミオスタチンの細胞に対する作用を模倣または増強し、これにより、細胞内のミオスタチンシグナル伝達を増大するような、アゴニストであることができ;または、細胞に対するミオスタチンの作用を低下または阻害することができ、これにより細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害するような、アンタゴニストであることができる。
【0106】
本明細書において使用される用語「特異的相互作用」または「特異的結合」などは、2個の分子が生理的条件下で比較的安定した複合体を形成することを意味する。この用語は、本明細書において、例えば、ミオスタチンおよびミオスタチン受容体の相互作用、ミオスタチンシグナル伝達経路の細胞内成分の相互作用、抗体およびその抗原の相互作用、ならびにミオスタチンプロドメインのミオスタチンとの相互作用を含む、様々な相互作用に関して使用される。特異的相互作用は、解離定数が少なくとも約1x10-6M、一般に少なくとも約1x10-7M、通常少なくとも約1x10-8M、および特に少なくとも約1x10-9Mまたは1x10-10Mまたはそれ以上であることを特徴とすることができる。特異的相互作用は一般に、例えば、ヒトまたは他の脊椎動物もしくは無脊椎動物のような生存している個体において生じる条件に加え、哺乳類細胞または別の脊椎動物生体もしくは無脊椎動物生体由来の細胞を維持するために使用されるような細胞培養物中で生じる条件を含む、生理的条件下で安定している。加えて、ミオスタチンプロドメインとミオスタチンの細胞外相互作用のような特異的相互作用は、一般に商業的に価値のある海生生物の水産養殖に使用される条件のような条件下で安定している。2種の分子が特異的相互作用するかどうかを決定する方法は周知であり、これは、例えば、平衡透析、表面プラスモン共鳴などを含む。
【0107】
ミオスタチンのその受容体との特異的相互作用を変更する物質は、その細胞性受容体と特異的に相互作用することができないようなミオスタチンへの結合により、ミオスタチンとのその受容体との結合に関する競合により、またはさもなければミオスタチンシグナル伝達を誘導するためにミオスタチンがその受容体と特異的に相互作用する必要要件の省略により、作用することができる。ミオスタチン受容体の可溶性細胞外ドメインのような切断型ミオスタチン受容体は、ミオスタチンと結合し、それによりミオスタチンを封鎖(sequestering)し、かつ細胞表面ミオスタチン受容体と特異的に相互作用するその能力を低下または阻害することができる物質の例である。ミオスタチンプロドメインまたはそれらの機能性ペプチド部分は、ミオスタチンに結合し、それにより細胞表面ミオスタチン受容体と特異的に相互作用するミオスタチンの能力を低下または阻害する物質の別の例である。このようなミオスタチンアンタゴニストは、本発明の方法の実践、特に細胞におけるミオスタチンシグナル伝達の低下または阻害において有用である。
【0108】
フォリスタチンは、ミオスタチンに結合し、それによりミオスタチンのその受容体と特異的に相互作用する能力を低下または阻害することができる物質の別の例である。フォリスタチンは、ミオスタチン(GDF-8;米国特許第6,004,937号)およびGDF-11(Gamerら、Devel. Biol.、208:222-232, 1999)を含む、様々なTGF-βファミリーメンバーに結合しかつ活性を阻害することができ、これにより説明した方法を実行するために使用することができる。ミオスタチンの作用の調節のためのフォリスタチンの使用は先に説明されているが(米国特許第6,004,937号)、本発明が明らかにされるまでは、フォリスタチンが、Act RIIBのようなミオスタチン受容体と特異的に相互作用するミオスタチンの能力を低下または阻害することはわかっていなかった。
【0109】
本発明の方法において有用な物質は、細胞のミオスタチン受容体と相互作用することができ、これにより、ミオスタチンと受容体に関して競合する。このような物質は、例えば、ミオスタチン結合ドメインの全てまたは一部を含む、細胞表面ミオスタチン受容体と特異的に結合し、これによりミオスタチンを受容体との特異的相互作用から保護する抗体であることができる。このような抗ミオスタチン受容体抗体は、ミオスタチンシグナル伝達を活性化することなく受容体に特異的に結合するその能力について選択することができ、かつこれによりミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害するミオスタチンアンタゴニストとして有用であることができ;もしくは、 受容体に特異的に結合しかつミオスタチンシグナル伝達を活性化するその能力について選択することができ、こうしてミオスタチンアゴニストとして作用することができる。この抗体は、免疫原として、ミオスタチン受容体、または受容体の細胞外ドメインを用いてするか、もしくは、抗ミオスタチン抗体に対して生じかつミオスタチンを模倣する、抗イディオタイプ抗体であることができる。抗GDF受容体抗体は、より詳細に以下に述べている。
【0110】
さらに本発明の方法に有用な物質は、pro-GDFポリペプチドの活性成熟GDFペプチドへのタンパク質分解性の切断を低下または阻害し、これによりGDFシグナル伝達を低下または阻害する物質であることができる。このような物質は、プロテアーゼインヒビター、特にArg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)タンパク質分解性の認識部位を認識しかつ切断するプロテアーゼの活性を阻害するものであることができる。pro-GDFがプロミオスタチンである場合、プロテアーゼのミオスタチン内のArg-Xaa-Xaa-Arg(配列番号:21)タンパク質分解性の切断部位への特異的結合を低下または阻害する抗ミオスタチン抗体も、プロミオスタチンのタンパク質分解を低下または阻害するために使用することができ、これにより生成される成熟ミオスタチンの量を減少する。このような抗体は、タンパク質分解性の切断部位に結合するか、またはプロテアーゼによる結合または切断が低下または阻害されるようなpro-GDFポリペプチドのいくつかの他の部位に結合することができる。
【0111】
加えて本発明の方法において有用な物質は、例えば、ミオスタチン結合に反応するミオスタチンシグナル伝達活性を欠いている、または構成的ミオスタチンシグナル伝達活性を有するような、変異体ミオスタチン受容体であることができる。例えば、変異体ミオスタチン受容体は、そのキナーゼドメイン内に点変異、欠失などを有し、その結果この受容体はキナーゼ活性を欠損している。このようなドミナントネガティブ変異体ミオスタチン受容体は、これは特異的にミオスタチンに結合することができるという事実にもかかわらず、ミオスタチンシグナル伝達を伝える能力を欠いている。
【0112】
本発明の方法において有用な物質は、ミオスタチンシグナル伝達経路に関連した細胞内ポリペプチドのレベルまたは活性を調節することができる。本明細書に記されたように、ミオスタチンによる筋肉成長の調節は、アクチビンII型受容体により活性化されるシグナル伝達経路の成分に関連している(実施例7および9参照;さらに、実施例14参照)。ミオスタチンは、培養物中のCOS細胞に発現されたアクチビンIIB型受容体(Act RIIB)と特異的に相互作用する(実施例7)。結合の低い親和性は、Act RIIBへのインビボにおけるミオスタチン結合が、I型受容体も存在する場合に、II型受容体に著しく高い親和性を有するTGF-β(Attisanoら、Cell、75:671-680, 1993)、またはシグナル受容体へのリガンドの提示に他の分子を必要とする他のシステム(Massague、前掲、1998;Wangら、Cell、67:795-805, 1991)同様、他の因子に関連していることの指標である。
【0113】
ミオスタチンのAct RIIBとの特異的相互作用は、ミオスタチンシグナル伝達が、Smadシグナル伝達経路の成分に関連することができることを示している。従って、Smadシグナル伝達経路は、ミオスタチンの細胞に対する作用の調節を標的に提供し、かつSmad経路に影響を及ぼす物質は、細胞内のミオスタチンシグナル伝達の調節に有用であることができる。
【0114】
GDFシグナル伝達の細胞内ポリペプチド成分のレベルまたは活性の調節に有用な物質は、シグナル伝達活性を増大することができるアゴニスト、およびシグナル伝達活性を低下または阻害することができるアンタゴニストを含む。ミオスタチンに関して、例えばミオスタチンシグナル伝達活性を増加することができる物質は、Smadポリペプチドの脱リン酸化を低下または阻害することができるホスファターゼインヒビターにより例証され、これによりSmadのシグナル伝達活性が延長される。ミオスタチンシグナル伝達に対するSmad 6およびSmad 7の阻害作用を打ち消すことができるドミナントネガティブSmad 6またはSmad 7ポリペプチドは、Smadシグナル伝達を増大することにより、ミオスタチンシグナル伝達活性を増大することができる物質の追加例である。
【0115】
ミオスタチンシグナル伝達活性を低下または阻害することができるアンタゴニスト物質は、C末端リン酸化部位が変異されている、ドミナントネガティブSmad 2、Smad 3またはSmad 4のような、ドミナントネガティブSmadポリペプチドにより例証される。Smad 2およびSmad 3の活性化を阻害するSmad 6およびSmad 7のような阻害性Smadポリペプチド;ならびに、Smadポリペプチドに結合しかつシグナル伝達を阻害するc-skiポリペプチドは、Smadシグナル伝達を低下することにより、ミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害するのに有用なアンタゴニストの追加例である。
【0116】
細胞内で作用する物質がペプチドである場合、これは、細胞へ直接接触することができ、またはペプチド(またはポリペプチド)をコードしているポリヌクレオチドは、細胞へ導入することができかつこのペプチドは細胞内で発現することができる。本発明の方法で有用なペプチドの一部は比較的大きく、その結果容易に細胞膜を通過することはできないことが認められる。しかし、ペプチドを細胞へ導入する様々な方法が、公知である。このようなペプチドを細胞へ導入する方法の選択は、一部、該ポリペプチドが提供される標的細胞の特徴によって左右される。例えば、標的細胞、または標的細胞を含む数種の細胞型が受容体を発現し、特定のリガンドへ結合時に細胞へ内在化されるような場合、このペプチド物質は、リガンドへ機能的に会合され得る。受容体への結合時に、このペプチドは、受容体が媒介したエンドサイトーシスにより細胞へと転位される。このペプチド物質はさらに、リポソーム内に封入されるか、または脂質複合体内に配合することができ、これはペプチドの細胞への侵入を促進することができ、かつさらに前述のように受容体(またはリガンド)の発現を修飾し得る。ペプチド物質はさらに、ヒト免疫不全ウイルスTATタンパク質形質導入ドメインのような、タンパク質形質導入ドメインを含むように、ペプチドを遺伝子操作することにより、細胞へ導入することができ、これは該ペプチドの該細胞への転位を促進する(Schwarzeら、Science、285:1569-1572 (1999)参照、これは本明細書に参照として組入れられている;同じく、Derossiら、J. Biol. Chem.、271:18188 (1996)参照)。
【0117】
標的細胞はさらに、細胞内で発現され得るペプチド物質をコードしているポリヌクレオチドと接触することもできる。発現されたペプチド物質は、変異体GDF受容体またはそれらのペプチド部分であることができる。変異体GDF受容体の例は、リガンド(例えば、ミオスタチン)と特異的に結合する能力を有するが、必ずしもではない、ドミナントネガティブAct RIIAまたはAct RIIBのような、ミオスタチン受容体のキナーゼ-欠損型;ならびに、ミオスタチンと結合し、その結果それを細胞ミオスタチン受容体との特異的相互作用から封鎖する、ミオスタチン受容体の可溶性型のような、切断型ミオスタチンまたは他のGDF受容体;C末端リン酸化部位が変異されているドミナントネガティブSmad 3のような、Smadポリペプチドのドミナントネガティブ型(Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94:10669-10674, 1997);Smad 2およびSmad 3の活性化を阻害する、Smad 7ポリペプチド(Heldinら、Nature、390:465-471, 1997);または、Smadポリペプチドに結合しかつSmadによるシグナル伝達を阻害する、c-skiポリペプチド(Sutraveら、Genes Devel.、4:1462-1472, 1990)を含む。
【0118】
細胞内のc-skiペプチド物質の発現は、ミオスタチンシグナル伝達の調節において特に有用であることができる。c-skiを欠損しているマウスは、骨格筋総量の重度の低下を示す(Berkら、Genes Devel.、11:2029-2039, 1997)のに対し、筋肉においてc-skiを過剰発現しているトランスジェニックマウスは、著しい筋肉肥大を示す(Sutraveら、前掲、1990)。c-skiは、TGF-βおよびアクチビンII型受容体のシグナル伝達を媒介する、Smad 2、Smad 3およびSmad 4を含む、ある種のSmadタンパク質と相互作用しかつその活性を阻止する(Luoら、Genes Devel.、13:2196-1106, 1999;Stroscheinら、Science、286:771-774, 1999;Sunら、Mol. Cell、4:499-509, 1999a;Sunら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、96:112442-12447, 1999b;Akiyoshiら、J. Biol. Chem.、274:35269, 1999)。従って、ミオスタチン活性はAct RIIB結合により媒介され得るという本説明を考慮し、ミオスタチンの、またはSmad経路を使用するGDFの活性は、標的細胞におけるc-ski発現を増加または減少することにより調節することができることは認められるであろう。
【0119】
本発明の方法において有用な物質は、先に説明されたような、細胞と接触または細胞に導入することができるポリヌクレオチドである。一般に、このポリヌクレオチドは、その機能に、直接、または転写もしくは翻訳または両方の後のいずれかで作用する細胞へ導入されるが、これは必ずしもではない。例えば前述のように、このポリヌクレオチドは、ペプチド物質をコードすることができ、これは細胞において発現され、かつミオスタチン活性を調節する。このような発現されたペプチドは、例えば、活性ミオスタチンに切断することができない、変異体プロミオスタチンポリペプチドであることができ;もしくは、例えば、切断型ミオスタチン受容体細胞外ドメイン;膜に係留されたドメインと機能的に会合されたミオスタチン受容体細胞外ドメイン;または、タンパク質キナーゼ活性を欠いている変異体ミオスタチン受容体のような変異体ミオスタチン受容体であることができる。ポリヌクレオチドを細胞へ導入する方法は、以下に例証されるか、さもなければ当該技術分野において公知である。
【0120】
本発明の方法において有用なポリヌクレオチド物質は、さらに、アンチセンス分子、リボザイムまたは三重化物質であるか、もしくはこれらをコードすることができる。例えばポリヌクレオチドは、アンチセンスヌクレオチド配列である(またはコードする)ことができ、これは、アゴニストとして作用し、細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を増加することができる、アンチセンスc-skiヌクレオチド配列;または、特定のSmadアンチセンスヌクレオチド配列に応じて、アゴニストとして作用し、ミオスタチンシグナル伝達を増大するか、もしくはアンタゴニストとして作用し、ミオスタチンシグナル伝達を低下または阻害することができる、アンチセンスSmadヌクレオチド配列である。このようなポリヌクレオチドは、標的細胞と直接接触することができ、かつその細胞による取込み時に、それらのアンチセンス、リボザイムまたは三重化活性に作用することができるか;もしくは、ポリヌクレオチドが発現され、例えばその活性に作用するアンチセンスRNA分子またはリボザイムが生成されるような細胞へ導入されるポリヌクレオチドによりコードされ得る。
【0121】
アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイムまたは三重化物質は、標的配列と相補性があり、これはDNAまたはRNA配列、例えばメッセンジャーRNAなどであり、かつコード配列、イントロン-エクソン接合部、シャイン・ダルガノ配列のような調節配列などを含むヌクレオチド配列などであることができる。相補性の程度は、ポリヌクレオチド、例えばアンチセンスポリヌクレオチドが、細胞内の標的配列の特異的に相互作用することができるようなものである。アンチセンスまたは他のポリヌクレオチドの全体の長さに応じ、標的配列に関する1個または数個のミスマッチは、ポリヌクレオチドがその標的配列に関する特異性を失うことなく許容され得る。従って、数個のミスマッチは、例えば細胞ポリペプチドをコードしている完全長標的mRNAと相補的であるアンチセンス分子のハイブリダイゼーション効率に影響を及ぼさないのに対し、例えあるとしてもほんの少しのミスマッチが例えば20個のヌクレオチドからなるアンチセンス分子において許容されるであろう。許容できるミスマッチの数は、例えば、ハイブリダイゼーション速度論の決定に関する周知の式(Sambrookら、前掲、1989)を用い概算することができるか、もしくは本明細書に説明された方法もしくは当該技術分野において公知の方法を用い、特にアンチセンスポリヌクレオチド、リボザイムまたは三重化物質の細胞内の存在が、標的配列のレベルまたは細胞内の標的配列によりコードされたポリペプチドの発現を減少することを決定することにより、経験的に決定することができる。
【0122】
アンチセンス分子、リボザイムまたは三重化物質として有用なポリヌクレオチドは、核酸分子の翻訳または切断を阻害することができ、これにより細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を調節する。アンチセンス分子は、例えば、mRNAへ結合し、細胞において翻訳することができない2本鎖分子を形成することができる。少なくとも約15〜25個のヌクレオチドのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、容易に合成されかつ標的配列と特異的にハイブリダイズされるが、より長いアンチセンス分子は標的細胞に導入されたポリヌクレオチドから発現されるので、前者が好ましい。アンチセンス分子として有用な特異的ヌクレオチド配列は、例えば、遺伝子歩行法(例えば、Seimiyaら、J. Biol. Chem.、272:4631-4636 (1997)参照、これは本明細書に参照として組入れられている)のような、周知の方法を用いて同定され得る。アンチセンス分子が直接標的細胞と接触される場合、これは、標的RNAをハイブリダイゼーション部位で切断する、鉄を連結させたEDTAのような化学的反応性基と機能的に会合することができる。三重化物質は、比較すると、転写を行き詰まらせることができる(Maherら、Antisense Res. Devel.、1:227 (1991);Helene、Anticancer Drug Design、6:569 (1991))。従って、三重化物質は、例えば、Smad遺伝子調節要素の配列を認識するように設計することができ、これにより、Smadポリペプチドの細胞における発現を低下または阻害し、これにより、標的細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を調節する。
【0123】
本発明はさらに、ミオスタチンのようなGDFの細胞に対する作用を変更することができる物質、特にGDFのその細胞受容体と特異的に相互作用する能力を変更することができる物質を同定する方法を提供する。このような物質は、GDFのその受容体と特異的に相互作用する法力を増加又は低下することにより作用し、その結果、各々、GDFシグナル伝達の増加または減少に有用である。本発明のスクリーニング法は、ミオスタチン受容体、例えばAct RIIAまたはAct RIIBのような、アクチビンII型受容体を用いて本明細書において例証されている。
【0124】
本発明のスクリーニング法は、例えば、適当な条件下で、ミオスタチンまたはその機能性ペプチド部分、Act RIIAまたはAct RIIBのようなミオスタチン受容体、および試験される物質を接触することによって実行することができる。ミオスタチン、受容体および物質は、望ましいいずれかの順で接触することができる。このように、スクリーニング法を用い、受容体へのミオスタチン結合を競合的または非競合的に阻害する物質、受容体へのミオスタチン結合を媒介または増強することができる物質、特異的に結合したミオスタチンの受容体からの解離を誘導することができる物質、および、さもなければミオスタチンのシグナル伝達を誘導する能力に影響を及ぼす物質、例えばアゴニストまたはアンタゴニスト活性を有する物質を同定することができる。適当な対照反応を行い、物質の作用が、ミオスタチンまたは他のGDFの受容体に関して特異的であることを確認する。
【0125】
本発明のスクリーニング法を実行するための適当な条件は、本明細書において説明された方法(実施例7および9参照)を含む、ミオスタチンがその受容体と特異的に相互作用することができるような条件または他の当該技術分野において公知の条件のいずれかであることができる。従って、スクリーニングアッセイを行うための適当な条件は、例えば、実質的に精製されたミオスタチン受容体を用いるインビトロ条件;例えば含脂肪細胞もしくは筋細胞のようなミオスタチン受容体を正常に発現する細胞、または機能性ミオスタチン受容体をその表面に発現するように遺伝的に修飾された細胞を使用する、細胞培養条件;または、生体内で生じる、インサイチュー条件である。
【0126】
本発明のスクリーニング法は、前述の分子モデリングの方法を用い、実行することもできる。分子モデリング法の利用は、GDF受容体とおそらく最も特異的に相互作用する、可能性のある物質のコンビナトリアルライブラリーのような大きい集団内でそれらの物質を同定するための、簡便で、費用効果のよい手段を提供し、それにより生物アッセイを用いスクリーニングされる必要のある可能性のある物質の数を減少する。分子モデリング法を用いAct RIIBのようなGDF受容体と特異的に相互作用する物質を同定する際に、選択された物質を、本明細書に記された方法を用い、細胞に対するミオスタチンのようなGDFの作用を調節する能力について試験することができる。
【0127】
ミオスタチンの作用を調節する被験物質の能力は、本明細書に記した方法(実施例7および9参照)、さもなければ当該技術分野において公知の方法を用いて検出することができる。本明細書において広範に使用される用語「被験物質」または「被験分子」は、本発明の方法においてアゴニストまたはアンタゴニスト活性について試験されるあらゆる物質を意味する。この方法は、一般に本明細書に説明されたようなアゴニストまたはアンタゴニスト物質として作用することができるこれまで不明の分子を同定するためのスクリーニングアッセイとして使用されているが、同じくこれらの方法は、特定の活性を有することがわかっている物質が、例えば物質の活性の標準化において、実際にこの活性を有するかどうかを確認するために使用することもできる。
【0128】
本発明の方法は、例えば、ミオスタチンを、Act RIIB受容体を発現するように遺伝的に修飾された細胞と接触し、かつミオスタチンシグナル伝達経路に関連したSmadポリペプチドのリン酸化の試験により、例えばドミナントネガティブAct RIIBのような、物質の作用を決定することにより実行することができる。必要に応じて、細胞はさらに、例えばSmad経路の活性化時に、その発現がミオスタチンシグナル伝達経路により左右されるような、レポーターヌクレオチド配列を含むように遺伝的に修飾することができ、かつ被験物質の作用は、この物質、ミオスタチン、または両方の存在および非存在下でのレポーターヌクレオチド配列の発現を比較することにより決定することができる。レポーターヌクレオチド配列の発現は、例えば、レポーターヌクレオチド配列のRNA転写の検出によるか、またはレポーターヌクレオチド配列によりコードされたポリペプチドの検出により、検出することができる。ポリペプチドレポーターは、例えば、β-ラクタマーゼ、クロラムフェニコール、アセチルトランスフェラーゼ、アデノシンデアミナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ジヒドロ葉酸還元酵素、ハイグロマイシン-Bホスホトランスフェラーゼ、チミジンキナーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼまたはキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼのポリペプチドなどであることができ、このレポーターポリペプチドのために、例えば放射能、発光、化学発光、蛍光、酵素活性、または特異結合により検出することができる。
【0129】
本発明のスクリーニング法は、高処理量分析に適合することができるという利点を提供し、その結果、ミオスタチンとミオスタチン受容体の特異的相互作用を変更することができる物質を含む、ミオスタチンの細胞に対する作用を調節することができる物質を同定するために、被験物質のコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングに使用することができる。所望の活性について試験される分子のコンビナトリアルライブラリーの調製法は、当該技術分野において周知であり、かつ、例えば、拘束されたペプチドであり得るペプチドのファージディスプレイライブラリー(例えば、米国特許第5,622,699号;米国特許第5,206,347号;ScottおよびSmith、Science、249:386-390, 1992;Markiandら、Gene、109:13-19, 1991参照;各々本明細書に参照として組入れられている);ペプチドライブラリー(米国特許第5,264,563号、これは本明細書に参照として組入れられている);ペプチド擬態ライブラリー(Blondelleら、Trends Anal. Chem.、14:83-92, 1995);核酸ライブラリー(O=Connellら、前掲、1996;TuerkおよびGold、前掲、1990;Goldら、前掲、1995;各々本明細書に参照として組入れられている);オリゴ糖ライブラリー(Yorkら、Carb. Res.、285:99-128, 1996;Liangら、Science、274:1520-1522,1996;Dingら、Adv. Expt. Med. Biol.、376:261-269, 1995;各々本明細書に参照として組入れられている);リポタンパク質ライブラリー (de Kruifら、FBBS Lett.、399:232-236, 1996、これは本明細書に参照として組入れられている);糖タンパク質または糖脂質ライブラリー(Karaogluら、J. Cell Biol.、130:567-577, 1995、これは本明細書に参照として組入れられている);または、薬物または他の薬学的物質などを含む、化学ライブラリー(Gordonら、J. Med. Chem.、37:1385-1401, 1994;EckerおよびCrooke、Bio/Tecbnology、13:351-360, 1995;各々本明細書に参照として組入れられている)の作成法を含む。ポリヌクレオチドは、ミオスタチンとその受容体の特異的相互作用を調節する物質として特に有用であることができ、その理由は、細胞性ポリペプチドを含む細胞標的に関する結合特異性を有する核酸分子が天然に存在し、かつこのような特異性を有する合成分子は、容易に調製されかつ同定されるからである(例えば、米国特許第5,750,342号参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0130】
本発明の説明を考慮し、様々な動物モデルシステムを、本発明の方法の実践に有用な物質を同定するための研究道具として使用することができることは認められるであろう。例えば、トランスジェニックマウスまたは他の実験動物を、様々な本願明細書に説明したミオスタチンインヒビター構築物を用いて作出することができ、このトランスジェニック非ヒト生物は、直接試験し、生物における様々なレベルの特定の物質の発現により生じた作用を決定することができる。加えて、トランスジェニック生物、例えばトランスジェニックマウスは、他のマウス、例えばob/ob、db/dbまたはアグーチ致死性イエロー変異体マウスと交雑し、肥満症、II型糖尿病などの障害の治療または予防に有用なミオスタチンインヒビターの発現の最適レベルを決定することができる。このように、本発明は、トランスジェニック非ヒト生物、特にミオスタチンシグナルペプチドを含むことができるミオスタチンプロドメインをコードしているポリヌクレオチド、または変異体プロミオスタチンポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドを含むトランスジェニック生物を提供する。
【0131】
トランスジェニック動物を作出する様々な方法が公知である。ある方法において、前核期(「一細胞胚」)の時点で胚が雌から採取され、導入遺伝子が胚へ顕微注入され、この場合導入遺伝子は、得られる成体動物の生殖細胞および体細胞へと染色体組込みされる。別法において、胚性幹細胞が単離され、かつ導入遺伝子が、電気穿孔、プラスミドトランスフェクションまたは微量注入により幹細胞へ取込まれ;この幹細胞は次に、胚に再取込みされ、そこでこれらはクローン化され生殖系に貢献する。ポリヌクレオチドの哺乳類種への微量注入法は、例えば米国特許第4,873,191号に開示されており、これは本明細書に参照として組入れられている。さらに別の方法において、胚細胞が、導入遺伝子を含むレトロウイルスにより感染され、これにより胚の生殖細胞は、そこに染色体的に組込まれた導入遺伝子を有する。
【0132】
トランスジェニックとされる動物が鳥類である場合、受精卵の前核への微量注入は、鳥類の受精した卵は一般に最初の20時間で細胞分裂により卵管へ移動し、その結果前核は接近不可能となるので、問題が多い。従って、トランスジェニック鳥種を作出するには、レトロウイルス感染法が好ましい(米国特許第5,162,215号参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。しかし微量注入が鳥類種に使用される場合、胚を、先に産卵産した卵を産み落として(laying of the previous laid egg)約2.5時間後に屠殺した雌鳥から採取し、導入遺伝子を胚盤の細胞質に微量注入し、かつこの胚を宿主シェル内で成熟するまで孵化する(Loveら、Biotechnology、12, 1994)。トランスジェニックとされる動物がウシまたはブタである場合、微量注入は、卵の不透明部により妨げられ、これにより核を従来型示差干渉-コントラスト顕微鏡により同定することは困難である。この問題点を克服するために、卵を最初に遠心し、より良く視認するために前核を分離する。
【0133】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物は、ウシ、ブタ、ヒツジ、鳥類または他の動物であることができる。導入遺伝子は、様々な発生段階で、胚性標的細胞へ導入することができ、胚性標的細胞の発生の段階に応じて、異なる方法が選択される。接合子が微量注入の最良の標的である。遺伝子導入の標的としての接合子の使用は、注入されたDNAが最初に切断される前に宿主遺伝子へ取込まれる点で、大きい利点である(Brinsterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82:4438-4442, 1985)。結果として、トランスジェニック非ヒト動物の全ての細胞が、取込まれた導入遺伝子を保持し、その結果生殖細胞の50%はこの導入遺伝子を保有しているので、創始動物の子孫へのこの導入遺伝子の効率的伝播に寄与する。
【0134】
トランスジェニック動物は、各々が生殖(reproduction)に使用される細胞内に外因性遺伝物質を含む、2匹のキメラ動物の交雑により作出することができる。得られる子孫の25%が、外因性遺伝物質についてホモ接合性のトランスジェニック動物であり、得られる動物の50%がヘテロ接合性であり、残りの25%はこの外因性遺伝物質を欠いており、野生型表現型を有する。
【0135】
微量注入法において、導入遺伝子が消化され、かつあらゆるベクターDNAを含まないように、例えばゲル電気泳動により精製される。この導入遺伝子は、機能的に会合されたプロモーターを含み、これは転写に関連した細胞性タンパク質と相互作用し、構成性発現、組織特異性発現、発生段階特異性発現などを提供する。このようなプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)、モロニー白血病ウイルス(MLV)、およびヘルペスウイルスに由来するもの、さらにはメタロチオネイン、骨格筋アクチン、ホスホノピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPCK)、ホスホグリセリン酸(PGK)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)およびチミジンキナーゼ(TK)をコードしている遺伝子に由来するものを含む。ラウス肉腫ウイルスLTRのようなウイルスの長い末端反復(LTR)由来のプロモーターも使用することができる。トランスジェニックとされる動物が鳥類である場合、好ましいプロモーターは、ニワトリβ-グロブリン遺伝子、ニワトリリゾチーム遺伝子、および鳥類白血症ウイルスに関するものを含む。胚性幹細胞のプラスミドトランスフェクションにおいて有用な構築物は、例えば、転写を刺激するエンハンサー要素、スプライシングアクセプター、終結およびポリアデニル化シグナル、翻訳を可能にするリボソーム結合部位などを含む、追加の調節要素を使用する。
【0136】
レトロウイルス感染法において、非ヒト胚の発生は、胚盤胞期へインビトロ培養することができる。この間に、卵割球はレトロウイルス感染の標的となることができる(Jaenich、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、73:1260-1264, 1976)。卵割球の効果的感染は、透明帯を除去するための酵素処理により得られる(Hoganら、Manipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1986)。導入遺伝子の導入に使用されるウイルスベクターシステムは、典型的な例として、その導入遺伝子を保持している複製-欠損レトロウイルスである(Jahnerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82:6927-6931, 1985;Van derPuttenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82:6148-6152, 1985)。ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することにより、トランスフェクションは容易かつ効率的に得られる(Van derPuttenら、前掲、1985;Stewartら、EMBO J.、6:383-388, 1987)。あるいは感染は、より遅い段階で行うことができる。ウイルスまたはウイルス-産生細胞は、胞胚腔へ注入される(Jahnerら、Nature、298:623-628, 1982)。組込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞のサブセットにおいてのみ生じるので、ほとんどの創始動物は、導入遺伝子に関してモザイクである。さらに創始動物は、ゲノムの異なる位置に該導入遺伝子の様々なレトロウイルス挿入を含むことができ、これは一般に子孫において隔離される。加えて、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染により、低い効率ではあるが、導入遺伝子を生殖系列へ導入することも可能である(Jahnerら、前掲、1982)。
【0137】
胚性幹細胞(ES)も、導入遺伝子の導入のために標的化することができる。ES細胞は、インビトロ培養されかつ胚と融合された移植前の胚から得ることができる(Evansら、Nature、292:154-156, 1981;Bradleyら、Nature、309:255-258, 1984;Gosslerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、83:9065-9069, 1986;Robertsonら、Nature、322:445-448, 1986)。導入遺伝子は、DNAトランスフェクションまたはレトロウイルスが媒介した形質導入により、ES細胞へ効率的に導入することができる。このような形質転換されたES細胞は、その後非ヒト動物由来の胚盤胞と一緒にすることができる。次にこのES細胞は、胚へクローン化され、得られるキメラ動物の生殖系列に寄与する(Jaenisch、Science、240:1468-1474, 1988参照)。
【0138】
本明細書に説明されるように、ミオスタチンは、少なくとも一部は、Smadシグナル伝達経路を通じてその活性を発揮し、かつミオスタチン発現は、様々な病態に関連することができる。このように、本発明は、肥満症およびII型糖尿病のような代謝状態を含む、ミオスタチンに関連した様々な病態の治療のための新規標的を提供する。従って本発明は、対象における病態の重症度を改善する方法を提供し、ここで病態は、少なくとも一部は、対象の筋肉細胞または脂肪組織細胞におけるミオスタチンシグナル伝達の調節による、筋肉または脂肪組織の異常な量、発生または代謝活性を特徴とする。
【0139】
ミオスタチンは、筋肉成長の負の調節因子として機能する(McPherronら、前掲、1997)。ミオスタチンノックアウトマウスは、野生型同腹仔よりも約25%〜30%重く、かつこの試験したマウスの体重の増加は、全体的に骨格筋組織重量の著しい増加によるものである。ミオスタチンを欠いているマウスにおいて、骨格筋は、野生型同腹仔の対応する筋肉よりもほぼ2〜3倍重い。ホモ接合性ノックアウトマウスにおけるこの増加した筋肉重量は、過形成および肥大の組合せの結果である。
【0140】
本明細書に説明したように、ヘテロ接合性ミオスタチンノックアウトマウスも、増加した骨格筋総量を有するが、ホモ接合型変異体マウスで認められた増加よりも程度が少なく、従ってミオスタチンは、インビボにおいて用量依存的に作用することを明らかにしている(実施例1参照)。さらに動物におけるミオスタチンの過剰発現は、筋肉成長に関して反対の作用を有した。例えば、ミオスタチンを発現している腫瘍を保持するヌードマウスは、筋肉および脂肪重量の著しい喪失を特徴とする消耗性症候群を発症した(実施例8参照)。このヌードマウスにおける症候群は、癌またはAIDSのような慢性疾患の患者において生じる悪液質状態に類似している。
【0141】
ミオスタチン免疫反応性物質の血清レベルは、筋肉消耗に関して患者の状態に相関している(Gonzalez-Kadavidら、Proc. Natl. Acad. Med. USA、95:14938-14943, 1998、これは本明細書に参照として組入れられている)。従って総体重の減少により測定される悪液質の徴候も示したAIDS患者は、AIDSでない健常男性または体重減少していないAIDS患者のいずれかと比べ、ミオスタチン免疫反応性物質の血清レベルのわずかな増加を示した。しかし、血清試料中に検出されたミオスタチン免疫反応性物質は、正真のプロセシングされたミオスタチンについて予想されるSDSゲル上で移動度を有さないので、これらの結果の解釈は複雑である。
【0142】
本明細書に記されたように、ミオスタチンは、筋肉総量に影響するのみではなく、さらに生物の全体の代謝にも影響を及ぼす。例えばミオスタチンは、脂肪組織において発現され、かつミオスタチン欠損マウスは、動物年齢に比べて脂肪蓄積が著しく減少した(実施例IIおよびIII)。本明細書においてミオスタチン作用に関する機序は提唱しないが、ミオスタチンの作用は、ミオスタチンの脂肪組織への直接作用であるか、もしくはミオスタチン活性の欠損により引き起された骨格筋組織への間接作用であることができる。機序とは関わりなく、減少したミオスタチン活性に対し反応を生じる筋肉組織に対する全般的同化作用は、生物の全般的代謝を変更し、かつ肥満マウス系統(アグーチ致死イエロー(Ay)マウス)へのミオスタチン変異の導入により示されるように、脂肪の形でのエネルギー貯蔵に影響を及ぼすことができ、これは脂肪蓄積が5倍抑制された(実施例5参照)。異常なグルコース代謝も、ミオスタチン変異を有するアグーチマウスにおいて一部抑制された。これらの結果は、ミオスタチンを阻害する方法が、肥満症およびII型糖尿病のような代謝性疾患の治療または予防に使用することができることを明らかにしている。
【0143】
本発明の方法は、例えば、癌のような慢性疾患に関連した悪液質(Nortonら、Grit. Rev. Oncol. Hematol.、7:289-327, 1987)に加え、II型糖尿病、肥満症および他の代謝性障害のような様々な病態の重症度の改善に有用である。本明細書において使用される用語「病態」は、少なくとも一部は、筋肉または脂肪組織の異常な量、発生または代謝活性を特徴とする障害を意味する。例えば、肥満症;肥満症に関連した状態、例えばアテローム性動脈硬化症、高血圧および心筋梗塞;筋肉消耗性障害、例えば筋ジストロフィー、神経筋疾患、悪液質、および食欲不振;ならびに、代謝障害、例えば通常肥満に関係するが必ずしもではないII型糖尿病を含むような病態が、特に本発明の方法を用いる治療に従い易い。
【0144】
本明細書において使用される用語「異常」は、筋肉または脂肪組織の量、発生または代謝活性について使用される場合、熟練した臨床医または他の関連技術者が正常または理想として認めるであろう量、発生または代謝活性と比較し、相対的意味で使用される。このような正常値または理想値は、臨床医には公知であり、対応する集団の健常個人において一般に認められたまたは望ましい平均値を基にしている。例えば、臨床医は、肥満症が、特定の身長および体格の個人についての「理想」体重範囲よりも約20%上回る体重に関連付けられることを知っているであろう。しかし、臨床医は、ボディビルダーは、それ以外の対応する集団の同じ身長および体格の個人について予想された体重を20%以上上回る体重を単に有したとしても必ずしも肥満ではないことも認めるであろう。同様に技術者は、異常に減少した筋肉活性と思われるものを示している患者は、例えば患者に様々な筋力試験(strength test)を実施し、結果を対応する集団の平均的健常個人について予想される値と比較することにより、異常な筋肉発生を有すると定義されることを知っているであろう。
【0145】
本発明の方法は、少なくとも一部は、その病態の病因に関連した筋肉または脂肪組織細胞におけるミオスタチンシグナル伝達を調節することにより、筋肉または脂肪組織の異常な量、発生または代謝活性を特徴とする病態の重症度を改善することができる。本明細書において使用される用語「改善」は、病態の重症度に関して使用される場合は、その病態に関連した徴候または症状が軽減されることを意味する。経過観察される徴候または症状は、具体的病態を特徴とし、かつ熟練臨床医には、徴候または症状を経過観察する方法同様、周知であろう。例えば病態がII型糖尿病である場合、熟練臨床医は、対象においてグルコースレベル、グルコースクリアランス速度などを経過観察することができる。病態が肥満症または悪液質である場合、臨床医は単純に対象の体重を経過観察する。
【0146】
対象に投与される物質は、この物質の標的細胞との接触を促進する条件下、適しているならば細胞への侵入を促進する条件下で投与される。ポリヌクレオチド物質の細胞への侵入は、例えば、細胞を感染することができるウイルスベクターへポリヌクレオチドを取込むことにより促進することができる。細胞型に特異的なウイルスベクターが利用できない場合は、標的細胞上に発現されたリガンド(または受容体)に特異的な受容体(またはリガンド)を発現するように、ベクターを修飾するか、もしくはこのようなリガンド(または受容体)を含むように修飾することができる。ペプチド物質は、例えば、ペプチドの細胞への転位を促進することができるヒト免疫不全ウイルスTATタンパク質形質導入ドメインのような、タンパク質形質導入ドメインを有するようにペプチドを遺伝子操作することを含む、様々な方法により細胞へ導入することができる(Schwarzeら、前掲、1999;Derossiら、前掲、1996参照)。
【0147】
前述の標的細胞中の物質の存在は、例えば、検出可能な標識を物質へ機能的に連結すること、物質、特にペプチド物質に特異的な抗体を使用すること、または例えば細胞におけるSmadポリペプチドのリン酸化の減少のような、物質に起因した下流の作用を検出することなどにより直接同定することができる。物質は、当該技術分野において公知の方法を用い検出可能なように標識することができる(Hermanson、「Bioconjugate Techniques」(Academic Press社、1996)、これは本明細書に参照として組入れられている;さらに、HarlowおよびLane、前掲、1988も参照)。例えば、ペプチドまたはポリヌクレオチド物質は、放射能標識、アルカリホスファターゼのような酵素、ビオチン、発蛍光団などを含む様々な検出可能な部分により標識することができる。この物質がキットに含まれる場合、物質の標識のための試薬もキットに含まれるか、もしくはこれらの試薬は個別に商業的供給業者から購入することができる。
【0148】
本発明の方法において有用な物質は、病態部位に投与することができるか、もしくは標的細胞にポリヌクレオチドまたはペプチドを提供するいずれかの方法により投与することができる。本明細書において使用される用語「標的細胞」は、この物質と接触される筋肉細胞または含脂肪細胞を意味する。生体対象への投与に関して、この物質は、一般に対象への投与に適した薬学的組成物中に処方される。従って本発明は、薬学的に許容できる担体中に、細胞におけるミオスタチンシグナル伝達の調節に有用である物質を含有する薬学的組成物を提供する。このように、これらの物質は、本明細書に定義されたような病態に罹患した対象の治療のための医薬品として有用である。
【0149】
薬学的に許容できる担体は、当該技術分野において周知であり、かつ例えば、水もしくは生理的に緩衝された生理食塩水のような水溶液、またはグリコール、グリセロール、オリーブ油などの油、または注射可能な有機エステルのような他の溶媒またはビヒクルを含む。薬学的に許容できる担体は、例えば抱合体(conjugate)の吸収を安定化または増大するように作用することができる、生理的に許容できる化合物を含み得る。このような生理的に許容できる化合物は、例えば、グルコース、ショ糖またはデキストランのような糖質、アスコルビン酸またはグルタチオンのような酸化防止剤、キレート剤、低分子量タンパク質または他の安定化剤もしくは賦形剤を含む。当業者は、生理的に許容できる化合物を含む薬学的に許容できる担体の選択が、例えば治療的物質の物理化学的特性、ならびに例として経口または静脈内の非経口および注射、挿管もしくは他の当該技術分野において公知のそのような方法であることができる組成物の投与経路によって決まることを知っているであろう。この薬学的組成物はさらに、例えば癌化学療法剤のような、診断試薬、栄養物質、毒物または治療的物質などの第二の試薬を含むことができる。
【0150】
この物質は、水中油型エマルジョン、マイクロエマルジョン、ミセル、混合ミセル、リポソーム、ミクロスフェアまたは他のポリマーマトリックスなどへと、封入材料内に混入することができる(例えば、Gregoriadis、Liposome Technology、Vol.1(CRC Press社、ボカラトン、FL、1984);Fraleyら、Trends Biochem. Sci. 、6:77 (1981)参照、各々本明細書に参照として組入れられている)。例えば、リン脂質または他の脂質からなるリポソームは、無毒の生理的に許容できかつ代謝可能な担体であり、比較的単純に製造および投与することができる。「Stealth」リポソーム(例えば、米国特許第5,882,679号;第5,395,619号;および、第5,225,212号参照、各々本明細書に参照として組入れられている)は、本発明の方法の実践に有用な薬学的組成物の調製に特に有用なこのような封入材料の例であり、このようなリポソームは、治療的物質が循環血液中に留まる時間を延長する。例えば、カチオン性リポソームも、特定の受容体またはリガンドにより修飾することができる(Morishitaら、J. Clin. Invest.、91:2580-2585 (1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。加えて、ポリヌクレオチド物質は、例えばアデノウイルス-ポリリシンDNA複合体を用い、細胞に導入することができる(例えば、Michaelら、J. Biol. Chem.、268:6866-6869 (1993)参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0151】
ミオスタチンシグナル伝達を変更する物質を含有する薬学的組成物の投与経路は、一部は分子の化学構造によって決まる。例えばポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、消化管において分解され得るので、これらは経口投与される場合、特に有用ではない。しかし例えば、ポリペプチドを内在性プロテアーゼにより分解されにくくもしくは消化管を通じて吸収されやすくするために、ポリペプチドを化学的に修飾する方法は、周知である(例えば、Blondelleら、前掲、1995;EckerおよびCrook、前掲、1995参照)。加えて、ペプチド物質は、D-アミノ酸を用いて調製することができるか、もしくはペプチドドメインの構造を模倣する有機分子であるペプチド擬態を基にした;もしくはビニル性ペプトイドのようなペプトイドを基にした、1個または複数のドメインを含むことができる。
【0152】
本明細書に記された薬学的組成物は、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、眼窩内、被膜内、腹腔内、直腸内、槽内のような非経口、または例えば皮膚貼付剤または経皮的イオン浸透法を使用する、各々、皮膚を介した受動もしくは能動吸収を含む、様々な経路により個体に投与することができる。さらに薬学的組成物は、注射、挿管、経口または局所的に投与することができ、後者は、例えば軟膏の直接塗布により受動的、または例えば鼻腔内スプレーまたは吸引を使用し能動的であることができ、この場合その組成物の一つの成分は適当な噴射剤である。薬学的組成物はさらに、例えば腫瘍へ血液供給している血管へ経静脈的または経動脈的に、病態部位へ投与することもできる。
【0153】
本発明の方法を実践する際に投与される物質の総量は、ボーラスまたは比較的短時間の注入のいずれかとして単回投与で対象に投与することができ、または反復用量が延長された期間にわたり投与される分割された治療プロトコールを用いて投与することができる。当業者は、対象における病態を治療するための薬学的組成物の量が、対象の年齢および全身の健康状態に加え、投与経路および投与される治療の回数を含む多くの要因によって決まることをを知っているであろう。これらの要因を考慮し、当業者は、必要な具体的用量を調節するであろう。一般に、薬学的組成物の処方ならびに投与の経路および頻度は、最初に臨床試験第I相および第II相を用いて決定される。
【0154】
この薬学的組成物は、錠剤、または液剤もしくは懸濁剤の形状のような、経口処方のために処方するか;もしくは、腸溶性または非経口適用のための有機または無機の担体もしくは賦形剤との混合物を含有し、かつ錠剤、ペレット剤、カプセル剤、坐剤、液剤、乳剤、懸濁剤または他の使用に適した形状のために、例えば通常の無毒の薬学的に許容できる担体と複合することができる。担体は、先に説明されたものに加え、グルコース、ラクトース、マンノース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンペースト、三ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイド状シリカ、ジャガイモデンプン、尿素、中鎖トリグリセリド、デキストラン、および固形、半固形または液体形状の調製物の製造における使用に適したその他の担体を含むことができる。佐剤に加えて、安定化剤、増粘剤または着色剤および香料、例えばトリウロース(triulose)のような安定化乾燥物質(例えば、米国特許第5,314,695号参照)を使用することができる。
【0155】
本発明はまた、対象における筋肉組織または脂肪組織の成長を調節する方法を提供する。本明細書に説明されたように、Act RIIAおよびAct RIIBのようなGDF受容体は、筋肉組織および脂肪組織の形成に関連しているミオスタチンのようなGDFの作用を媒介することに関連している。従ってひとつの態様において、筋肉組織または脂肪組織の成長を調節する方法は、アクチビン受容体、例えばAct RIIAまたはAct RIIBのようなGDF受容体からのシグナル伝達に影響を及ぼすことを含む。このような方法は、組織の細胞を接触すること、または細胞においてドミナントネガティブ活性、構成的活性などを有する変異体GDF受容体を発現することにより行うことができる。
【0156】
別の態様において、生物の筋肉組織または脂肪組織の成長を調節する方法は、生物へミオスタチンシグナル伝達に影響を及ぼす物質を投与することにより行われる。好ましくは、この物質は、ミオスタチンプロドメインまたは変異体プロミオスタチンポリペプチドであるかもしくはこれをコードしており、これらのいずれかは、ミオスタチンシグナルペプチドを含む。本明細書において使用される用語「成長」は、本発明の方法が施されない対応する生物と比べ、本発明の方法が施された生物の筋肉組織の総量または脂肪組織の総量に関する相対的意味で使用される。従って本発明の方法は、ミオスタチンシグナル伝達が低下または阻害されるように行われる場合、生物の筋肉組織の成長は、ミオスタチンシグナル伝達が影響を受けない対応する生物(または生物集団)の筋肉総量と比べ、その生物における増大した筋肉総量を生じることが認められるであろう。
【0157】
本発明の方法は、生物の筋肉総量の増加または脂肪含量の低下、もしくは両方に有用であることができる。例えば、このような方法が食物源として有用な生物において行われる場合、食品のタンパク質含量は増大し、コレステロールレベルが低下し、かつ栄養素(foodstuff)量を改善することができる。本発明の方法はさらに、例えば環境に有害である生物のような、生物における筋肉組織の成長の減少に有用であることができ、その結果この生物は、環境とより競合できなくなる。従って本発明の方法は、例えば哺乳類、鳥類または魚類生物のような脊椎動物を含むミオスタチンを発現する真核生物において行うことができ、または無脊椎動物、例えば、軟体動物、棘皮動物、腹足類または頭足動物で行うことができる。
【0158】
この物質は、本明細書に説明されたように、ミオスタチンシグナル伝達を変更するいずれかの物質であることができ、かついずれか都合の良い方法で生物に投与することができる。例えば、処置される生物が水産養殖において生育される魚類、エビ、ホタテ貝などである場合、この物質を、生物が維持される水に添加するか、もしくは特にその物質が水溶性ペプチドまたは小有機分子である場合には、それらの餌中に含有してもよい。
【0159】
本発明の方法において使用される物質がペプチド物質、アンチセンス物質などをコードしているポリヌクレオチドである場合、このポリヌクレオチドを含む非ヒト生物の生殖細胞は選択することができ、かつこの物質を発現しているトランスジェニック生物を作出することができる。好ましくは、このポリヌクレチドは、誘導可能な調節要素の制御下にあり、その結果このポリヌクレオチドでコードされた物質は、望ましい時点または期間に発現することができる。従って本発明は、トランスジェニック非ヒト生物を、さらにはこれらの生物により生成された食品を提供する。このような食品は、筋肉組織の増加のために、増大した栄養価を有する。トランスジェニック非ヒト動物は、本明細書に記されたように、家畜、ブタ、ヒツジ、ニワトリ、七面鳥および魚類のような脊椎動物、ならびにエビ、ロブスター、カニ、イカ、カキおよびアワビのような無脊椎動物種を含む、いずれかの種であることができる。
【0160】
TGF-βファミリーメンバーの制御およびそれらの細胞表面受容体との特異的相互作用が、解明され始めている。従ってTGF-βファミリーメンバーのプロドメインのTGF-βファミリーの他のメンバーの成熟領域との同時発現は、細胞内二量体化に関連し、かつ生物活性のあるホモ二量体の分泌が生じる(Grayら、Science、247:1328, 1990)。例えば、BMP-4成熟領域を伴うBMP-2プロドメインの使用は、成熟BMP-4の著しく改善された発現につながる(Hanimondsら、Mol. Endocrinol.、5:149, 1991)。試験したほとんどのファミリーメンバーについて、ホモ二量体種が生物活性があるのに対し、インヒビン(Lingら、Nature、321:779, 1986)およびTGF-β(Cheifetzら、Cell、48:409, 1987)のような他のファミリーメンバーについては、ヘテロ二量体も検出され、かつ各々のホモ二量体とは異なる生物学的特性を有するように見える。
【0161】
受容体とリガンドの相互作用の試験は、いかに細胞が外部刺激に反応するかに関する非常に多くの情報を明らかにし、かつエリスロポエチン、コロニー刺激因子およびPDGFのような治療上重要な化合物の開発につながっている。従って、TGF-βファミリーメンバーの作用を媒介する受容体を同定する努力が続けられている。本明細書に記されたように、ミオスタチンは、アクチビンII型受容体と特異的に相互作用する。この相互作用の同定は、農業目的、ならびに例えば肥満症、II型糖尿病および悪液質のような様々な病態の治療のためのようなヒトの治療目的に有用なアンタゴニストおよびアゴニストを同定するための標的を提供する。この特異的相互作用の同定はさらに、他のミオスタチン受容体に加え、他の成長分化因子の特異的受容体を同定する手段も提供する。従って本発明は、GDFまたはGDF類の組合せと、例えば、ミオスタチン、GDF-11、または両方と特異的に相互作用するGDF受容体を提供する。
【0162】
本発明のGDF受容体は、本明細書において、ミオスタチンおよびGDF-11と特異的に相互作用するミオスタチン受容体、特にアクチビンII型受容体により例証される。しかし、ミオスタチンと特異的に相互作用するがGDF-11とは作用しないミオスタチン受容体も、本発明に包含され、同様にGDF-11と特異的に相互作用するがミオスタチンとは作用しないGDF-11受容体なども包含される。考察の便宜上、本発明の受容体は、本明細書において概して「GDF受容体」と称され、かつ少なくともミオスタチンと特異的に相互作用する受容体であるミオスタチン受容体により例証される。このように、概してミオスタチンのミオスタチン受容体との特異的相互作用を参照としているが、本発明の内容はより広範に少なくともGDF-11と特異的に相互作用するGDF-11受容体を含むあらゆるGDF受容体を包含していることは認められるであろう。
【0163】
GDF受容体ポリペプチドを発現している組換え細胞株も提供され、同様に受容体に特異的に結合する抗体、受容体をコードしている実質的に精製されたポリヌクレオチド、および実質的に精製されたGDF受容体ポリペプチドも提供される。例えばミオスタチン受容体のようなGDF受容体の可溶性細胞外ドメインを含む、GDF受容体のペプチド部分も提供され、これは本明細書に記されたように、ミオスタチンの、細胞ミオスタチン受容体;細胞におけるGDFシグナル伝達を誘導、刺激またはさもなければ維持するような、GDF受容体の構成的活性細胞内キナーゼドメイン;または、ミオスタチンまたは他のGDFシグナル伝達を調節する能力を有するGDF受容体の切断型部分との特異的相互作用を変更することができる。
【0164】
さらに本発明は、ヌクレオチドプローブまたは抗体プローブを使用し、発現ライブラリーであることができるゲノムまたはcDNAライブラリーをスクリーニングする方法;例えば、ミオスタチンまたはその機能性ペプチド部分のようなGDFを使用し、その受容体に反応し、その結果これを発現する細胞をスクリーニングする方法;先に説明した、例えば、ひとつのハイブリッドの成分としてGDFペプチドを、ならびに第二のハイブリッドの成分としてGDFの受容体を発現している細胞から調製されたcDNAライブラリーから発現されたペプチドを使用する、ツーハイブリッドアッセイなどを含む、GDF受容体ポリペプチドを同定する方法も提供する。
【0165】
前述のように、例えばAct RIIBなどのミオスタチン受容体のようなGDF受容体と特異的に相互作用する物質は、このような物質をスクリーニングするためにこの受容体を用いて同定することができる。対照的に、Act RIIB受容体のようなミオスタチン受容体と特異的に相互作用する能力を有することが同定される物質は、追加のミオスタチン受容体または他のGDF受容体をスクリーニングするために使用することができる。このような方法は、物質(またはミオスタチンもしくは他のGDF)、および切断型の膜結合した受容体または可溶性受容体であることができるGDF受容体を発現している細胞などの成分を、物質(またはGDF)が受容体と特異的に相互作用することができるような条件下で、インキュベーションすること;受容体に結合した物質(またはGDF)を測定すること;ならびに、受容体を単離することを含む。前述の分子モデリング法も、GDF受容体、またはそれらの機能性ペプチド部分を同定するためのスクリーニング法として有用であることができる。
【0166】
GDF受容体の発現を特徴とする表現型を有する非ヒトトランスジェニック動物も提供され、この表現型は、動物の体細胞および生殖細胞に拘束された導入遺伝子により付与される。この導入遺伝子は、例えばミオスタチン受容体ポリペプチドのようなGDF受容体をコードしているポリヌクレオチドを含む。トランスジェニック動物を作出する方法は、本明細書において明らかにされるか、もしくは当該技術分野において公知である。
【0167】
本発明は、GDF受容体の全てまたはペプチド部分をコードしている実質的に精製されたポリヌクレオチドを提供する。GDF受容体は本明細書においてアクチビンII型受容体により例証されているが、アクチビンII型受容体をコードしているポリヌクレオチドが先に開示されている(米国特許第5,885,794号)。従って、このようなアクチビンII型受容体が本発明に包含されることは認められなければならない(Massague、前掲、1998;Heldinら、前掲、1997)。同様に、Act RIBを含むアクチビンI型受容体;TGF-βRIおよびTGF-βRIIを含むTGF-β受容体;ならびに、BMP RIA、BMP RIBおよびBMP RIIを含むBMP受容体が説明されており、これらは当該技術分野において周知であり(Massague、前掲、1998;Heldinら、前掲、1997)、従って本発明のGDF受容体内に包含されている。
【0168】
本発明のポリヌクレオチドは、例えばミオスタチン結合活性のような、ミオスタチン受容体活性を有するポリペプチドをコードすることができ、もしくは変異体がドミナントネガティブミオスタチン受容体として作用する(前記参照)ように、例えばキナーゼドメインに変異を有する変異体ミオスタチン受容体のような、変異体ミオスタチン受容体をコードすることができる。従って本発明のポリヌクレオチドは、天然型、合成型、または意図的に操作されたポリヌクレオチドであることができる。例えば、代替のRNAスプライシングパターンまたはRNA転写のための代替プロモーターの使用により、mRNA配列の一部を変更することができる。別の例として、このポリヌクレオチドに位置指定変異誘発を施すことができる。このポリヌクレオチドはさらに、アンチセンスヌクレオチド配列であることができる。本発明のGDF受容体ポリヌクレオチドは、遺伝暗号の結果縮重している配列を含む。20種の天然のアミノ酸があるが、そのほとんどは1個よりも多い暗号により特定化される。従ってポリヌクレオチドによりコードされたGDF受容体ポリペプチドのアミノ酸配列が機能的に変わらないならば、全ての縮重ヌクレオチド配列が本発明に含まれる。さらにミオスタチン受容体ポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列も含まれる。
【0169】
本発明のGDF受容体をコードしているポリヌクレオチドのオリゴヌクレオチド部分も、本発明に包含される。このようなオリゴヌクレオチドは一般に、長さが少なくとも約15塩基であり、これはオリゴヌクレオチドが受容体をコードしているポリヌクレオチドに選択的にハイブリダイズすることを可能にするのに十分であり、かつ長さが少なくとも約18個のヌクレオチドまたは21個のヌクレオチドまたはそれよりも長いものであってもよい。本明細書で使用される用語「選択的ハイブリダイゼーション」または「選択的にハイブリダイズする」は、関係のあるヌクレオチド配列を無関係のヌクレオチド配列から識別することができる、中程度のストリンジェンシーまたは高ストリンジェンシーの生理的条件下でのハイブリダイゼーションを意味する。
【0170】
核酸ハイブリダイゼーション反応において、ストリンジェンシーの特定のレベルを実現するために使用される条件は、ハイブリダイズされる核酸の性質に応じて変動する。例えば、長さ、相補性の程度、ヌクレオチド配列組成(例えば相対GC:AT含量)、および核酸型、すなわち、オリゴヌクレオチドまたは標的核酸配列がDNAまたはRNAであるかどうかが、ハイブリダイゼーション条件の選択に際し考慮され得る。追加の考慮点は、核酸のひとつが例えばフィルター上に固定されているかどうかである。適当なストリンジェンシー条件の選択法は、経験的に決定するか、もしくは様々な式を用いて推定することができ、かつ当該技術分野において周知である(例えばSambrookら、前掲、1989参照)。
【0171】
漸進的により高いストリンジェンシー条件の例は以下のものである:2X SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(ハイブリダイゼーション条件);0.2X SSC/0.1%SDS、ほぼ室温(低ストリンジェンシー条件);0.2X SSC/0.1%SDS、約42℃(中程度のストリンジェンシー条件);ならびに、0.1X SSC、約68℃(高ストリンジェンシー条件)。洗浄は、例えば高ストリンジェンシー条件のような、これらの条件のひとつのみを用いて行うか、もしくはこれらの条件の各々を、例えば前記の順で各10〜15分間、前記工程のいずれかまたは全てを繰り返して、使用することができる。
【0172】
本発明のGDF受容体をコードしているポリヌクレオチドは、数種類の方法のいずれかにより得ることができる。例えばポリヌクレオチドは、当該技術分野において周知であるように、ハイブリダイゼーションまたはコンピュータベースの技術を用いて得ることができる。これらの方法は、以下を含むが、これらに限定されるものではない:1)相同ヌクレオチド配列を検出するための、プローブによるゲノムまたはcDNAライブラリーのハイブリダイゼーション;2)構造的特徴を共有したクローニングされたDNA断片を検出するための、発現ライブラリーの抗体スクリーニング;3)関心のあるDNA配列にアニーリングすることが可能なプライマーを使用する、ゲノムDNAまたはcDNAのポリメラーゼ連鎖反応(PCR);4)類似配列に関する配列データベースのコンピュータ検索(上記参照);5)差し引きDNAライブラリーの示差スクリーニング;および、6)例えば、ハイブリッドのひとつで成熟GDFペプチドを使用する、ツーハイブリッドアッセイ。
【0173】
アクチビン受容体はミオスタチンと特異的に相互作用するという本発明の説明を考慮し、オリゴヌクレオチドプローブを、ミオスタチンと結合する、アクチビン受容体をコードしている配列、例えば細胞外ドメインをコードしている配列を基に設計し、かつミオスタチンと反応性である、筋肉細胞または含脂肪細胞などの細胞から調製されたライブラリーのスクリーニングに使用し、こうしてミオスタチン受容体をコードしているポリヌクレオチドの同定を促進することができる。選択されたクローンは、例えば挿入断片の発現ベクターへのサブクローニング、およびクローニングされた配列の発現後の、ミオスタチンを使用する発現されたポリペプチドのスクリーニングなどにより、さらにスクリーニングすることができる。
【0174】
例えばミオスタチン受容体をコードしているポリヌクレオチドのような、本発明のポリヌクレオチドは、哺乳類、鳥類、または魚類種を含む脊椎動物種、もしくは無脊椎動物種に由来することができる。核酸ハイブリダイゼーションに頼るスクリーニング法は、適当なプローブが利用可能な場合は、生物からの遺伝子配列の単離を可能にする。問題のタンパク質をコードしている配列の一部に相当するオリゴヌクレオチドプローブは、化学的に合成することができる。これは、アミノ酸配列の短いオリゴペプチド伸展が公知であることが必要である。受容体をコードしているポリヌクレオチド配列は、遺伝暗号の縮重を考慮し、遺伝暗号から類推することができる。従って配列が縮重している場合は、混合された追加反応を行うことができる。これは、変性された2本鎖DNAの異種混合を含む。このようなスクリーニングのために、ハイブリダイゼーションは、1本鎖DNAまたは変性された2本鎖DNAのいずれかにおいて行われることが好ましい。ハイブリダイゼーションは、関心のあるポリペプチドに関連したmRNA配列が極端に少ない量で存在するような給源に由来したcDNAクローンの検出に特に有用である。従って非特異的結合を避けるために指示されたストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を用いることにより、オートラジオグラフィーによる可視化を用い、標的核酸に完全に相補性である混合物中のオリゴヌクレオチドプローブへの標的DNAのハイブリダイゼーションにより、特異的cDNAクローンを同定することができる(Wallaceら、Nucl. Acid Res.、9:879, 1981、これは本明細書に参照として組入れられている)。あるいは、差し引きライブラリーを用い、これにより非特異的cDNAクローンを排除することができる。
【0175】
所望のポリペプチドの全アミノ酸配列が不明である場合、DNA配列の直接合成は不可能であり、かつ選択法はcDNA配列の合成である。関心のあるcDNA配列を単離する標準法は、プラスミドまたはファージにおいて調製されたcDNAライブラリーの形成であり、ここでこのライブラリーは、高レベルの遺伝子発現を有するドナー細胞において豊富であるmRNAの逆転写に由来する。ポリメラーゼ連鎖反応技術と組合わせて使用される場合、かなり稀な発現産物をクローニングすることができる。このポリペプチドのアミノ酸配列の重要な部分がわかっている場合は、標的cDNAに存在すると推定される配列を二つ組にする、標識された1本鎖または2本鎖のDNAまたはRNAプローブ配列の作出を、1本鎖型に変性されているcDNAのクローン化されたコピーについて実行されるハイブリダイゼーション法において使用することができる(Jayら、Nucl. Acid. Res.、11:2325, 1983、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0176】
λgtIIライブラリーのようなcDNA発現ライブラリーは、GDF受容体に特異的な抗体、例えば抗Act RIIB抗体を使用し、GDF受容体ペプチドについてスクリーニングすることができる。この抗体は、ポリクローナル性またはモノクローナル性であることができ、かつこれらを使用し、GDF受容体cDNAの存在の指標である発現産物を検出することができる。このような発現ライブラリーはさらに、GDFペプチドで、例えばミオスタチンまたはそれらの機能性ペプチド部分でスクリーニングし、ミオスタチン受容体のミオスタチン結合ドメインの少なくとも一部をコードしているクローンを同定することができる。
【0177】
変異体GDF受容体および変異体GDF受容体ポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドも、本発明に包含されている。GDF受容体をコードしているポリヌクレオチドにおける変更は、点変異、ナンセンス(STOP)変異、ミスセンス変異、スプライシング部位変異またはフレームシフトのような遺伝子内変異であるか、またはヘテロ接合性もしくはホモ接合性欠失であることができ、および天然の変異であるか、もしくは例えば組換えDNA法を用いて遺伝子操作することができる。このような変更は、当該技術分野において公知の標準の方法を用いて検出することができ、これはヌクレオチド配列解析、サザンブロット分析、多重(multiplex)PCRもしくは配列タグ付き部位(STS)分析などのPCRベースの分析、またはインサイチュハイブリダイゼーション分析を含むが、これらに限定されるものではない。GDF受容体ポリペプチドは、標準SDS-PAGE、免疫沈降分析、ウェスタンブロット分析などにより分析することができる。変異体GDF受容体は、そのコグネイトGDFと特異的に結合する能力を有するが、キナーゼドメインを欠損している可溶性細胞外ドメイン;構成的キナーゼ活性を示すことができる細胞内内GDF受容体キナーゼドメインを含む切断型GDF受容体により;さらには、受容体のキナーゼ活性または受容体のリガンド結合能を破壊している、点変異を含むGDF受容体などにより例証される。このようなGDF受容体変異体は、GDFシグナル伝達の調節、その結果様々な本発明の方法の実践に有用である。
【0178】
GDF受容体をコードしているポリヌクレオチドは、適当な宿主細胞へポリヌクレオチドを導入することにより、インビトロにおいて発現することができる。「宿主細胞」は、特定のベクターが増殖され、および適切な場合は、ベクター内に含まれたポリヌクレオチドが発現され得るような細胞であることができる。用語「宿主細胞」は、当初の宿主細胞の後代を含む。宿主細胞の全ての後代は、例えば、複製時に生じる変異のために、親細胞とは同じではないことは理解される。しかし、用語「宿主細胞」が使用される場合には、このような後代も含まれる。一過的にまたは安定して導入された本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を得る方法は、当該技術分野において周知である。
【0179】
本発明のGDF受容体ポリヌクレオチドは、ベクターへ挿入することができ、これはクローニングベクターまたは組換え発現ベクターであることができる。用語「組換え発現ベクター」は、ポリヌクレオチドの挿入または取込みにより操作される、プラスミド、ウイルスまたは他の当該技術分野において公知のベヒクルを意味し、特に本発明に関して、GDF受容体の全てまたはペプチド部分をコードしているポリヌクレオチド意味する。このような発現ベクターは、挿入された宿主の遺伝子配列の効率的転写を促進するプロモーター配列を含む。発現ベクターは一般に、複製起点、プロモーター、さらには形質転換された細胞の表現型選択を可能にする特異的遺伝子を含む。本発明での使用に適したベクターは、細菌における発現のためのT7ベースの発現ベクター(Rosenbergら、Gene、56:125, 1987)、哺乳類細胞における発現のためのpMSXND発現ベクター(LeeおよびNathans、J. Biol. Chem.、263:3521, 1988)および昆虫細胞における発現のためのバキュロウイルス由来のベクターを含むが、これらに限定されるものではない。DNAセグメントは、例えば、T7プロモーター、メタロチオネインIプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または望ましい他のプロモーター、特に組織特異性プロモーターまたは誘導性プロモーターであることができるプロモーターのような、調節要素に機能的に連結されたベクター内に存在することができる。
【0180】
GDF受容体をコードしているポリヌクレオチド配列は、原核生物または真核生物のいずれかにおいて発現することができる。宿主は、微生物、酵母、昆虫および哺乳類生物を含むことができる。宿主における発現および複製が可能である生物学的機能性ウイルスおよびプラスミドDNAベクター同様、真核生物が有するポリヌクレオチドまたは原核生物中のウイルス配列を発現する方法は、当該技術分野において周知である。例えばポリヌクレオチドが特定の細胞型内においておよび特定の条件下において優先的に発現されるかどうかを含む、転写または翻訳制御シグナルの選択において考慮される要因同様、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを構築する方法は、周知である(例えば、Sambrookら、前掲、1989参照)。
【0181】
様々な宿主細胞/発現ベクターシステムは、GDF受容体コード配列を発現するように利用することができ、これは組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌のような微生物;組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母細胞;カリフラワーモザイクウイルスまたはタバコモザイクウイルスのような、組換えウイルス発現ベクターで感染された、もしくはTiプラスミドのような組換えプラスミド発現ベクターで形質転換された、植物細胞システム;バキュロウイルスのような組換えウイルス発現ベクターで感染された、昆虫細胞;レトロウイルス、アデノウイルスまたはワクシニアウイルスベクターのような、組換えウイルス発現ベクターで感染された、動物細胞システム;ならびに、安定した発現のために遺伝的に操作された形質転換された動物細胞システムを含むが、これらに限定されるものではない。発現されたGDF受容体が、例えばグリコシル化により翻訳後修飾される場合、望ましい修飾に影響を及ぼし得るような宿主細胞/発現ベクターシステム、例えば哺乳類宿主細胞/発現ベクターシステムを選択することは特に有利である。
【0182】
利用される宿主細胞/ベクターシステムに応じて、多くの適当な構成性および誘導性プロモーターを含む転写および翻訳要素、転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどのいずれかを、発現ベクターにおいて使用することができる(Bitterら、Meth. Enzymol.、153:516-544, 1987)。例えばクローニングが細菌システム内である場合、バクテリオファージΣのpL、plac、ptrp、ptac(ptrp-lacハイブリッドプロモーター)などのような誘導性プロモーターを使用することができる。哺乳類細胞システムにおけるクローニングの場合、哺乳類細胞ゲノム由来のプロモーター、例えばヒトまたはマウスのメタロチオネインプロモーター、または哺乳類ウイルス由来のプロモーター、例えばレトロウイルスの長い末端反復、アデノウイルスの後期プロモーターまたはワクシニアウイルス7.5Kプロモーターを使用することができる。組換えDNAまたは合成技術により作出されたプロモーターも、挿入されたGDF受容体コード配列の転写を提供するために使用することができる。
【0183】
酵母細胞において、構成性または誘導性のプロモーターを含む多くのベクターを使用することができる(Ausubelら、前掲、1987、13章参照;Grantら、Meth. Enzymol.、153:516-544, 1987;Glover、DNA Cloning、II巻(IRL Press社、1986)、3章参照;Bitter、Meth. Enzymol.、152:673-684, 1987;さらに「The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces」(編集Strathernら、Cold Spring Harbor Laboratory Press社、1982)、IおよびII巻参照)。ADHもしくはLEU2のような構成性酵母プロモーターまたはGALのような誘導性プロモーターを使用することができる(Rothstein、DNA Cloning、II巻(前掲、1986)、3章)。あるいは、外来DNA配列の酵母染色体への組込みを促進するベクターを使用することができる。
【0184】
真核システム、特に哺乳類発現システムは、発現された哺乳類タンパク質の適当な翻訳後修飾を可能にする。一次転写のための適当なプロセシング、グリコシル化、リン酸化および有利なことに遺伝産物の形質膜導入のための細胞機構を有する真核細胞を、GDF受容体ポリペプチド、またはそれらの機能性ペプチド部分の発現のための宿主細胞として使用することができる。
【0185】
発現を指示するために組換えウイルスまたはウイルス要素を利用する哺乳類細胞システムは操作することができる。例えばアデノウイルス発現ベクターを使用する場合、GDF受容体コード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば後期プロモーターおよび三部分リーダー配列にライゲーションすることができる。あるいはワクシニアウイルス7.5Kプロモーターを使用することができる(Mackettら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、79:7415-7419, 1982;Mackettら、J. Virol.、49:857-864, 1984;Panicaliら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、79:4927-4931, 1982)。特に有用なのは、これは染色体外要素を複製することができるウシパピローマウイルスベクターである(Sarverら、Mol. Cell Biol.、1:486, 1981)。このDNAのマウス細胞への侵入直後に、このプラスミドは、1つの細胞あたり約100〜200コピーに複製する。挿入されたcDNAの転写には、プラスミドの宿主細胞染色体への組込みを必要とせず、これにより、高レベルの発現をもたらす。これらのベクターは、例えばneo遺伝子のようなプラスミド内に選択マーカーを含むことにより安定した発現に使用することができる。あるいは、レトロウイルスゲノムは、宿主細胞においてGDF受容体遺伝子の発現の導入および指示することが可能なベクターとしての使用のために修飾することができる(ConeおよびMulligan、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81:6349-6353, 1984)。高レベル発現も、メタロチオネインIIAプロモーターおよび熱ショックプロモーターを含むが、これらに限定されるものではない、誘導性プロモーターを使用することにより行うことができる。
【0186】
長期間の組換えタンパク質の高収量産生のためには、安定した発現が好ましい。ウイルス複製起点を含む発現ベクターの使用よりもむしろ、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、およびポリアデニル化部位のような適当な発現制御要素ならびに選択マーカーにより制御されたGDF受容体cDNAにより、宿主細胞は形質転換される。組換えプラスミド内の選択マーカーは、選択に対する耐性を付与することができ、かつ細胞がそれらの染色体内にプラスミドを安定して組込みかつ増殖し巣(foci)を形成することを可能にし、これは次にクローニングされ細胞株へ拡張される。例えば、外来DNAの導入後、遺伝子操作された細胞を、濃厚培地において1〜2日間増殖させ、かつその後選択培地に移すことができる。多くの選択システムを使用することができ、これは各々、tk-、hgprt-またはaprt-細胞内で使用される、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら、Cell、11:223, 1977)、ヒポキサインチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(SzybalskaおよびSzybalski、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、48:2026, 1982)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowyら、Cell、22:817, 1980)遺伝子を含むが、これらに限定されるものではない。さらに、代謝拮抗物質耐性は、メトトレキセート耐性を付与するdhfr(Wiglerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77:3567, 1980;O'Hareら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、78:1527, 1981);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(MulliganおよびBerg、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、78:2072, 1981);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Colberre-Garapinら、J. Mol. Biol.、150:1, 1981);および、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerreら、Gene、30: 147, 1984)遺伝子の選択を基本として使用することができる。追加の選択遺伝子は、細胞のトリプトファンの代わりのインドール利用を可能にするtrpB;細胞のヒスチジンの代わりのヒスチノール利用を可能にするhisD(HartmanおよびMulligan、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85:8047, 1988);ならびに、オルニチンデカルボキシラーゼインヒビター、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチンDFMOに対する耐性を付与するODC(オルニチンデカルボキシラーゼ)(McConlogue、Curr. Comm. Mol. Biol.(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1987))も説明されている。
【0187】
宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈殿、通常の機械的方法、例えば微量注入、電気穿孔、リポソームに被包されたプラスミドの挿入、またはウイルスベクターのようなDNAのトランスフェクション法が使用される。真核細胞はさらに、本発明のGDF受容体をコードしているDNA配列、および選択可能な表現型をコードしている第二の外来DNA分子、例えば単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子などと同時形質転換することもできる。別法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスのような真核ウイルスベクターを使用し、真核細胞を一過的に感染または形質転換し、かつタンパク質を発現する(Gluzman、Eukaryotic Viral Vectors(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1982))。
【0188】
本発明は、安定した組換え細胞株も提供し、これらの細胞はGDF受容体ポリペプチドを発現しかつGDF受容体をコードしているDNAを含む。適当な細胞型は、NIH 3T3細胞(マウス)、C2C12細胞、L6細胞、およびP19細胞を含むが、これらに限定されるものではない。C2C12およびL6筋芽細胞は、培養物中で自発的に分化し、かつ具体的な成長条件に応じて筋管を形成する(YaffeおよびSaxel、Nature、270:725-727, 1977;Yaffe、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、61:477-483, 1968)。P19は、胚性癌細胞株である。このような細胞は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)のCell Line Catalogに掲載されている。これらの細胞は、周知の方法を用い、安定して形質転換することができる(例えば、Ausubelら、前掲、1995,、9.5.1-9.5.6項参照)。
【0189】
GDF受容体は、本明細書に記されたように、誘導性または構成性調節要素を用い、本発明の組換えポリヌクレオチドから発現することができる。望ましいタンパク質をコードしている配列および操作できるように連結されたプロモーターは、線状分子または共有的に閉じた環状分子であることができる非複製DNA(またはRNA)分子のいずれかとして、レシピエント細胞へ導入することができる。望ましい分子の発現は、導入された配列の一過性の発現により生じることができ、もしくはこのポリヌクレオチドは、例えば、宿主細胞染色体への組込みにより、細胞において安定して維持することができ、その結果より永久的な発現が可能になる。従って、細胞は安定してまたは一過的に形質転換された(トランスフェクションされた)細胞であることができる。
【0190】
使用することができるベクターの例は、宿主細胞染色体へ所望の遺伝子配列を組込むことが可能なものである。染色体に安定して組込まれた導入DNAを有する細胞は、発現ベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする1個または複数のマーカーの導入により選択することもできる。このマーカーは、共通の酵母栄養要求性マーカーである、leu2、またはura3のような、宿主における栄養要求性を補充することができ;例えば、抗生物質または銅のような重金属イオンなどに対し、殺生剤耐性を付与することができる。選択マーカー遺伝子は、発現されているDNA遺伝子配列に直接連結するか、もしくは同じ細胞へ同時トランスフェクションにより導入することができる。
【0191】
導入された配列は、レシピエント宿主において自立複製が可能であるプラスミドまたはウイルスベクターへ取込むことができる。様々なベクターのいずれかを、この目的のために使用することができる。特定のプラスミドまたはウイルスベクターの選択において重要な要因は、そのベクターを含むレシピエント細胞が認識されかつベクターを含まない細胞から選択されることの容易さ;特定の宿主細胞における望ましいベクターのコピー数;および、様々な種の宿主細胞間の「シャトル」ベクターであることが望ましいかどうかを含む。
【0192】
哺乳類宿主に関して、いくつかのベクターシステムが、発現に利用可能である。ある種のベクターは、例えばウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、またはSV40ウイルスのような、動物ウイルスに由来した染色体外プラスミドの自立複製を提供するDNA要素を利用する。ベクターの第二の種類は、ワクシニアウイルス発現ベクターを含む。第三の種類のベクターは、宿主染色体への望ましい遺伝子配列の組込みに頼る。導入DNAが染色体へ安定して組込まれる細胞は、1個または複数のマーカー遺伝子の導入によっても選択することができ(前記)、これは発現ベクターを含む宿主細胞の選択を可能にする。選択可能なマーカー遺伝子は、発現されるDNA配列へ直接連結されるか、または同じ細胞へ同時トランスフェクションにより導入され得る。例えばスプライシングシグナル、転写プロモーターまたはエンハンサー、および転写または翻訳終結シグナルを含む追加の要素を、コードされたmRNAまたはペプチドの最適な合成を提供するために含むことができる。適当な調節要素を組込んでいるcDNA発現ベクターは、当該技術分野において周知である(例えば、Okayama、Mol. Cell Biol.、3:280, 1983)。
【0193】
一旦構築物を含むベクターまたはDNA配列が発現のために調製されると、このDNA構築物を適当な宿主へ導入することができる。例えばベクターがウイルスベクターである感染の場合、例えばプロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈降、および電気穿孔または他の通常の技術のようなトランスフェクションまたは形質転換の方法を含む、様々な方法をポリヌクレオチドの細胞への導入に使用することができる。
【0194】
本発明はさらに、組換えGDF受容体を発現している細胞を有するトランスジェニック動物も提供する。このようなトランスジェニック動物は、脂肪含量を減少もしくは筋肉総量を増加、またはこれら両方のために選択することができ、その結果、高い筋肉およびタンパク質含量ならびに低下した脂肪およびコレステロール含量を伴う食品の給源として有用であることができる。動物は、それらの生殖細胞および体細胞において染色体が変更され、その結果GDF、特にミオスタチンの産生は、「正常」レベルに維持されるが、ミオスタチン受容体は、低下した量産生されるか、または完全に破壊され、これにより動物においてミオスタチンに結合する低下した能力を有する細胞を生じ、その結果恐らく脂肪またはコレステロールレベルを増加することなく、正常レベルよりも大きい筋肉組織を有する動物を生じる。従って本発明は、この動物により提供される食品を含む。このような食品は、筋肉組織の増加による、増大した栄養価を有する。本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、ウシ、ブタ、ヒツジおよび鳥類の動物、さらには他の脊椎動物を含み、さらにトランスジェニック無脊椎動物も含む。
【0195】
本発明はさらに、増大した筋肉含量を有する動物性食品を生産する方法を提供する。このような方法は、動物の前核胚の生殖細胞の遺伝子構造の修飾、胚の疑似妊娠した雌の卵管への移植、これによる胚の満期妊娠への成熟を可能にすること、導入遺伝子陽性後代を同定するための導入遺伝子の存在に関する後代の試験、さらに導入遺伝子陽性後代を得るための導入遺伝子陽性後代の交雑育種、および食材を得るための後代の加工処理を含むことができる。生殖細胞の修飾は、ミオスタチン受容体タンパク質の産生をコードしている天然型遺伝子の発現を低下または阻害するための、遺伝子組成の変更を含む。例えば、導入遺伝子は、ミオスタチン受容体をコードしているポリヌクレオチドに特異的であるアンチセンス分子を含むことができ;内因性ミオスタチン受容体遺伝子または導入遺伝子を再配置または介在する非機能性配列を含むことができ;または、ミオスタチン受容体アンタゴニスト、例えば、ドミナントネガティブAct RIIBのようなドミナントネガティブミオスタチン受容体をコードすることができる。
【0196】
本明細書において使用される用語「動物」は、鳥、魚またはヒト以外の動物を意味し、胚および胎児期を含む、あらゆる発生の段階を含む。ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ウサギなどの家畜;マウスのような齧歯類;ならびに、ネコおよびイヌのような家庭内ペットは、用語「動物」の意味するものの中に含まれる。加えて本明細書において使用される用語「生物」は、前述の動物に加え、他の真核生物、例えば爬虫類および両生類のようなその他の脊椎動物、さらには前述の無脊椎動物を含む。
【0197】
本明細書に使用される用語「トランスジェニック」は、動物または生物に関して使用される場合、動物または生物の細胞が、その細胞により安定して維持される外因性ポリヌクレオチド配列を含むように遺伝的に操作されることを意味する。この操作は、例えばポリヌクレオチドの微量注入またはポリヌクレオチドを含む組換えウイルスによる感染であることができる。従って、本明細書において使用される用語「トランスジェニック」は、1個または複数の細胞が組換えポリヌクレオチドを受け取り、細胞の染色体へ組込まれるか、もしくは酵母の人工染色体へ操作されるような、染色体外複製するポリヌクレオチドとして維持されるような、動物(生物)を意味する。用語「トランスジェニック動物」はさらに、「生殖細胞系」トランスジェニック動物を含む。生殖細胞系トランスジェニック動物は、遺伝情報が摘出されかつ生殖系細胞へ取込まれ、その結果子孫へその情報を伝達する能力が付与されているトランスジェニック動物である。このような子孫が実際に情報の一部または全てを有するならば、この子孫もトランスジェニック動物であると考えられる。本発明はさらに、トランスジェニック生物を包含している。
【0198】
トランスジェニック生物は、そのゲノムが、初期胚または受精卵のインビトロ操作により、または特異的遺伝子ノックアウトを誘導するためのトランスジェニック技術により変更された生物であることができる。用語「遺伝子ノックアウト」は、機能の完全な喪失を生じるような細胞内またはインビボにおける遺伝子の標的化された破壊を意味する。トランスジェニック動物の標的遺伝子は、例えば相同組換えのような非機能性とされる遺伝子へ標的化された挿入により、または細胞の遺伝子の機能を破壊するその他の方法により、非機能性とすることができる。
【0199】
本発明の実践において使用される導入遺伝子は、修飾されたGDF受容体コード配列を含むDNA配列であることができる。好ましくは、修飾されたGDF受容体遺伝子は、胚性幹細胞において相同標的化により破壊されたものである。例えばGDF受容体遺伝子の全成熟C末端領域は欠失することができる(実施例13参照)。任意に、別のポリヌクレオチド、例えば非機能性GDF受容体配列の挿入または置換により、破壊(または欠失)を達成することができる。「ノックアウト」表現型はさらに、生物の細胞へのアンチセンスGDF受容体ポリヌクレオチドの導入または発現により、または細胞における抗体もしくはドミナントネガティブGDF受容体の発現により付与することもできる。適している場合は、GDF受容体活性を有するタンパク質をコードしているが、ヌクレオチド配列が遺伝暗号の縮重により天然型GDF遺伝子配列とは異なるポリヌクレオチドをここで使用することができ、同様に切断型、対立遺伝子変種および種間ホモログを使用することができる。
【0200】
本発明はさらに、GDF受容体と特異的に結合し、かつ受容体へのGDF結合を阻止する抗体も提供する。このような抗体は、例えば筋肉組織に関連した細胞増殖性障害のような病態の改善に有用であることができる。
【0201】
GDF受容体、特にミオスタチン受容体に特異的に結合するモノクローナル抗体は、骨格筋の発生を増加することができる。請求された方法の好ましい態様において、GDF受容体モノクローナル抗体、ポリペプチド、またはポリヌクレオチドが、筋肉消耗性疾患、神経筋障害、筋肉萎縮、加齢などのような病態に罹患した患者へ投与される。GDF受容体抗体、特に抗ミオスタチン受容体抗体はさらに、筋ジストロフィー、脊髄損傷、外傷性損傷、うっ血性閉塞性肺疾患(COPD)、AIDSまたは悪液質のような病態に罹患した患者へ投与することができる。
【0202】
好ましい態様において、抗ミオスタチン受容体抗体は、筋肉消耗性疾患または障害の患者に、静脈内、筋肉内または皮下注射により投与され;好ましくは、モノクローナル抗体が、用量範囲約0.1μg/kg〜約100mg/kg;より好ましくは約1μg/kg〜75mg/kg;最も好ましくは約10mg/kg〜50mg/kgで投与される。この抗体は、例えば、ボーラス注射によりまたは緩徐な注入により投与することができる。30分〜2時間にわたる緩徐な注入が好ましい。抗ミオスタチン受容体抗体、または他の抗GDF受容体抗体は、患者への投与に適した処方において処方することができる。このような処方は当該技術分野において公知である。
【0203】
投与計画は、ミオスタチン受容体タンパク質の作用を修飾する様々な要因、例えば、形成されることが望ましい組織量、組織損傷部位、損傷された組織の状態、創傷のサイズ、損傷された組織の種類、患者の年齢、性別および規定食、感染症の重症度、投与の時間およびその他の臨床因子を考慮し、参画した医師により決定されるであろう。用量は、再構成に使用されるマトリックスの種類および組成物中で使用される抗ミオスタチン受容体抗体のような物質の種類により変動することができる。一般に、静脈内、筋肉内または皮下注射のような、全身性または注射可能に投与される。投与は一般に、最小有効用量で開始され、かつこの用量は予め選択されたタイムコースで、陽性作用が認められるまで増加される。引き続き、用量の漸増を行い、出現する有害作用を考慮しつつ、作用の相当する増加をもたらすようなレベルにまでの漸増を制限した。筋肉総量の増加を補助することができるIGF I(インスリン様増殖因子I)、ヒト、ウシまたはニワトリの成長ホルモンのようなその他の公知の成長因子の最終組成物への追加も、用量に影響を及ぼし得る。抗ミオスタチン受容体抗体が投与されるような態様において、抗体は一般に用量範囲約0.1μg/kg〜約100mg/kg;より好ましくは約10mg/kg〜50mg/kgで投与される。
【0204】
本明細書において使用される用語「抗体」は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体に加え、このような抗体の抗原結合断片を含む、最も広範な意味で使用される。本発明の方法に有用な抗体、またはそれらの抗原結合断片は、例えば、ミオスタチン受容体のような、GDF受容体のエピトープの特異的結合活性を有することにより特徴付けられる。加えて前述のように、本発明の抗体は、プロミオスタチンポリペプチドのペプチド部分、特にミオスタチンプロドメインまたはそれらの機能性ペプチド部分へ特異的に結合する抗体であることができる。GDF受容体抗体の調製および特徴決定を例証する下記の方法は、さらにミオスタチンプロドメインに特異的に結合する抗体、プロミオスタチンポリペプチドに特異的に結合しかつプロミオスタチンをミオスタチンへのタンパク質分解性の切断を低下または阻害する抗体などを含む、追加の本発明の抗体に適用可能であることは認められるであろう。
【0205】
用語「特異的に結合」または「特異的結合活性」は、抗体に関して使用される場合、抗体および特定のエピトープの相互作用が、解離定数少なくとも約1x10-6、一般には少なくとも約1x10-7、通常少なくとも約1x10-8、および特に少なくとも約1x10-9または1x10-10以下を有することを意味する。このように、GDF受容体のエピトープとの特異的結合活性を保持している抗体のFab、F(ab')2、FdおよびFv断片は、この抗体の定義の中に含まれる。本発明の目的のためには、ミオスタチン受容体のエピトープと特異的に反応する抗体が、TGF-βまたはBMP受容体と比べて、ミオスタチン受容体について少なくとも2倍大きい結合親和性、一般には少なくとも5倍大きい結合親和性、および特に少なくとも10倍大きい結合親和性である場合には、これらの抗体は、TGF-β受容体またはBMP受容体と実質的に反応しないと見なされる。
【0206】
本明細書において使用される用語「抗体」は天然型抗体に加え、非天然型抗体、例えば1本鎖抗体、キメラ、二価およびヒト化抗体、さらにはそれらの抗原結合断片を含む。このような非天然型抗体は、固相ペプチド合成を用い構築することができ、組換え的に作出することができるか、または例えば可変重鎖および可変軽鎖からなるコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングにより得ることができる(Huseら、Science、246:1275-1281 (1989)参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR-移植された抗体、1本鎖抗体および二価抗体を作出するこれらおよび他の方法は、当業者には周知である(WinterおよびHarris、Immunol. Today、14:243-246, 1993;Wardら、Nature、341:544-546, 1989;HarlowおよびLane、Antibodies: A laborator y manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1988);Hilyardら、Protein Engineering: A practical apuroach (IRL Press 1992);Borrabeck、Antibody Engineering、第2版(Oxford University Press, 1995);各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0207】
GDF受容体に特異的に結合する抗体は、免疫原として受容体を用い、かつ例えばTGF-βのI型またはII型受容体、Act RIB、Act RIIAまたはAct RIIBのようなアクチビン受容体、またはBMP RII、BMP RIAおよびBMP RIBのようなBMP受容体と交差反応する抗体を除去することにより、産生することができる(Massague、前掲、1998参照)。本発明の抗体は、都合の良いことに、TGF-β、アクチビンまたはBMP受容体は存在しないミオスタチン受容体のペプチド部分を用いて産生することができる。同様にミオスタチンプロドメインと特異的に結合する抗体は、プロドメイン、またはそれらの機能性ペプチド部分を免疫原として使用し産生することができる。このようなペプチドが非免疫原である場合、ハプテンをウシ血清アルブミン(BSA)またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)のようなキャリヤ分子にカップリングさせるか、もしくは融合タンパク質としてペプチド部分を発現することにより、免疫原性に作出することができる。様々な他のキャリヤ分子およびハプテンをキャリヤ分子にカップリングさせる方法が、当該技術分野において周知である(例えば、HarlowおよびLane、前掲、1988参照)。
【0208】
必要に応じて、抗体または本発明の方法に有用な他の物質を組入れたキットを調製することができる。このようなキットは、この物質に加え、この物質が対象への投与のために再構成されるような薬学的組成物を含むことができる。このキットはさらに、例えば抗体を検出するため、または抗体のGDF受容体への特異的結合を検出するための試薬も含むことができる。このような抗体の標識さもなければ同定に有用な検出可能な試薬は、本明細書に説明されておりかつ当該技術分野において公知である。
【0209】
例えばウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳類においてポリクローナル抗体を産生する方法は、当該技術分野において周知である(例えば、Greenら、「Production of Polyclonal Antisera」、Immunochemical Protocols (Manson編集、Humana Press社, 1992)、ページ1-5;Coliganら、「Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters」、Curr. Protocols Immunol.、(1992)、2.4.1項参照;各々本明細書に参照として組入れられている)。加えて、モノクローナル抗体は、当該技術分野において周知かつ慣習的方法を用いて得ることができる(HarlowおよびLane、前掲、1988)。例えば、ミオスタチン受容体で免疫化されたマウスの脾細胞、またはそれらのエピトープ性断片は、SP/02骨髄細胞のような適当な骨髄細胞株へ融合し、ハイブリドーマ細胞を作出することができる。クローニングされたハイブリドーマ細胞株は、適当な特異性を有するモノクローナル抗体を分泌するクローンを同定するために、標識された抗原を用いスクリーニングすることができ、かつ望ましい特異性および親和性を有する抗体を発現しているハイブリドーマを単離し、ならびにその抗体の継続的給源として利用することができる。抗体はさらに、ミオスタチン受容体との特異的結合の不能についてスクリーニングされ得る。このような抗体は、例えば、標準化された臨床用キットの調製に有用である。例えば1本鎖抗ミオスタチン受容体抗体を発現している組換えファージは、さらに標準化されたキットの調製に使用することができる抗体を提供する。
【0210】
モノクローナル抗体の調製法は周知である(例えば、KohlerおよびMilstein、Nature、256:495, 1975参照、これは本明細書に参照として組入れられている;同じくColiganら、前掲、1992、2.5.1-2.6.7項参照;HarlowおよびLane、前掲、1988参照)。簡単に述べると、モノクローナル抗体は、抗原を含有する組成物のマウスへの注入、血清試料を採取することによる抗体産生の存在の証明、Bリンパ球を得るための脾臓摘出、ハイブリドーマを作出するためのBリンパ球の骨髄細胞との融合、ハイブリドーマのクローニング、該抗原に対する抗体を産生する陽性クローンの選択、およびハイブリドーマ培養物からの抗体の単離により得ることができる。
【0211】
モノクローナル抗体は、例えばプロテイン-Aセファロース(SEPHAROSE)によるアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーを含む、様々な良く確立された技術により、ハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる(Coliganら、前掲、1992、2.7.1-2.7.12および2.9.1-2.9.3項参照;同じくBarnesら、「Purification of Immunoglobulin G(IgG)」、Meth.:Molec. Biol.、10:79-104(Humana Press 1992)参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ操作法は、当業者には周知である。インビトロ操作は、任意にウシ胎仔血清のような哺乳類血清または微量元素および正常なマウスの腹腔滲出細胞、脾細胞、骨髄マクロファージのような増殖維持補充物を補充した、ダルベッコの変更イーグル培地またはRPMI 1640培地のような適当な培養培地において行うことができる。インビトロ産生は、比較的純粋な抗体調製物を提供し、かつ所望の抗体を大量に得るためのスケールアップが可能である。大規模ハイブリドーマ培養は、エアリフト反応器、連続攪拌反応器、または固定もしくはため込み式(entrapped)細胞培養物中の均質懸濁培養において行うことができる。インビボ操作は、抗体産生腫瘍の増殖を引き起すための、例えば同系マウスのような、親細胞と組織適合した哺乳類へ細胞クローンの注入により行うことができる。任意に、これらの動物は、注射前に、糖質、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)のような油でプライムすることができる。1〜3週間後、望ましいモノクローナル抗体が、動物の体液から回収される。
【0212】
本明細書に説明した抗体の治療的用途も、本発明の一部である。例えば本発明の抗体は、ヒト以下の霊長類の抗体に由来することもできる。ヒヒにおいて治療的に有用な抗体を産生する一般的技術は、例えば、Goldenbergら、国際公開公報第91/11465号(1991);および、Losmanら、Int. J. Cancer、46:310, 1990に見ることができ、これらは各々本明細書に参照として組入れられている。
【0213】
治療的に有用な抗GDF受容体抗体も、「ヒト化された」モノクローナル抗体に由来することができる。ヒト化されたモノクローナル抗体は、ヒト可変ドメインへ、マウスの免疫グロブリンの重可変鎖および軽可変鎖からマウス相補性決定領域を移し、その後マウスの対応物のフレームワーク領域内でヒト残基を置換することにより作出される。ヒト化されたモノクローナル抗体由来の抗体成分の使用は、マウス定常領域の免疫原性に関連した可能性のある問題点を未然に防ぐ。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングする一般的技術は、公知である(例えば、Orlandiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:3833, 1989参照、これは全体が本明細書に参照として組入れられている)。ヒト化されたモノクローナル抗体を作出する技術も公知である(例えば、Jonesら、Nature、321:522, 1986;Riechmannら、Nature、332:323,1988;Verhoeyenら、Science、239:1534, 1988;Carterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:4285, 1992;Sandhu、Crit. Rev. Biotechnol.、12:437, 1992;および、Singerら、J. Immunol.、150:2844, 1993;各々本明細書に参照として組入れられている)。
【0214】
本発明の抗体は、コンビナトリアル免疫グロブリンライブラリーから単離されたヒト抗体断片に由来することができる(例えば、Barbasら、METHODS: A Companion to Methods in Immunology、2:119, 1991;Winterら、Ann. Rev. Immunol.、12:433, 1994;各々本明細書に参照として組入れられている)。ヒト免疫グロブリンファージライブラリーの作成に有用なクローニングベクターおよび発現ベクターは、例えば、STRATAGENE Cloning Systems社(La Jolla、CA)から得ることができる。
【0215】
本発明の抗体は、ヒトモノクローナル抗体に由来することもできる。このような抗体は、抗原性チャレンジに反応して特異的ヒト抗体を作出するように「操作された」トランスジェニックマウスから得られる。この技術において、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子座の要素は、内在性重鎖および軽鎖遺伝子座の標的化された破壊を含む胚性幹細胞由来のマウスの系統に導入される。このトランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、このマウスはヒト抗体-分泌するハイブリドーマの産生に使用することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、例えば、以下に説明されている:Greenら、Nature Genet.、7:13, 1994;Lonbergら、Nature、368:856, 1994;および、Taylorら、Int. Immunol.、6:579, 1994;各々本明細書に参照として組入れられている。
【0216】
本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質分解性加水分解により、または大腸菌におけるこの断片をコードしているDNAの発現により調製することができる。抗体断片は、常法による抗体全体のペプシンまたはパパインにより消化することによって得ることができる。例えば、抗体断片は、抗体のペプシンによる酵素的切断により作出することができ、これはF(ab')2で示される5S断片を作出する。この断片はさらに、チオール還元剤、および任意にジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基の保護剤を用い、切断することができ、3.5S Fab'一価断片を作出する。あるいは、ペプシンを使用する酵素的切断は、2個の一価のFab'断片およびFc断片を直接作出する(例えば、Goldenberg、米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号参照、各々本明細書に参照として組入れられており、その中に含まれる;Nisonhoffら、Arch. Biochem. Biophys.、89:230, 1960;Porter、Biochem. J.、73:119, 1959;Edelmanら、Meth. Enzymol.、1:422 (Academic Press 1967)、各々本明細書に参照として組入れられている;さらに、Coliganら、前掲、1992、2.8.1-2.8.10および2.10.1-2.10.4項参照)。
【0217】
抗体を切断する他の方法、例えば一価の軽/重鎖断片を形成するための重鎖の分離、更なる断片の切断、またはその他の酵素的、化学的もしくは遺伝子的技術などを、断片が無傷の抗体により認識される抗原に特異的に結合する場合は、使用することができる。例えば、Fv断片は、VHおよびVL鎖の会合を含む。この会合は、非共有的である(Inbarら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、69:2659, 1972)。あるいは、可変鎖は、分子内ジスルフィド結合により連結されるか、もしくはグルタルアルデヒドのような化学物質により架橋され得る(Sandhu、前掲、1992)。好ましくは、Fv断片は、ペプチドリンカーにより連結されたVHおよびVL鎖を含む。これらの1本鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドに連結されたVHおよびVLドメインをコードしているDNA配列を含む構造遺伝子の構築により調製される。この構造遺伝子は、発現ベクターに挿入され、これは引き続き大腸菌のような宿主細胞へ導入される。この組換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドにより1本ポリペプチド鎖を合成する。Fv作出法は、例えば下記に記されている:Whitlowら、Methods: A Companion to Methods in Enzymology、2:97, 1991;Birdら、Science、242:423-426, 1988;Ladnerら、米国特許第4,946,778号;Packら、Bio/Technology、11:1271-1277, 1993;各々本明細書に参照として組入れられている;さらにSandhu、前掲、1992参照。
【0218】
抗体断片の別の形は、1個の相補性決定領域(CDR)をコードしているペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、関心のある抗体のCDRをコードしている遺伝子の構築により得ることができる。このような遺伝子は、例えば抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためのポリメラーゼ連鎖反応の使用により調製される(例えば、Larrickら、Methods: A Companion to Methods in Enzymology、2:106, 1991参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0219】
本発明はさらに、GDF受容体ポリペプチドの同定法も提供する。このような方法は、例えば、GDFポリペプチド含有成分および完全長受容体または切断型受容体を発現している細胞を、GDFが受容体へ結合するのに十分な条件下でインキュベーションし;GDFポリペプチドの受容体への結合を測定し;ならびに、受容体を単離することにより行うことができる。GDFは、公知のGDF(例えば、GDF-1-16)のいずれか、および好ましくはGDF-8(ミオスタチン)またはGDF-11であることができる。受容体を単離する方法は、下記実施例の項においてより詳細に説明されている。従って、本発明はさらに、実質的に精製されたGDF受容体、さらには天然型GDF受容体よりも少ないアミノ酸残基を有するGDF受容体のペプチドおよびペプチド誘導体を提供する。このようなペプチドおよびペプチド誘導体は、筋肉消耗性疾患の研究における研究および診断の道具として、ならびにより効果的療法の開発において有用である。
【0220】
本発明はさらに、GDF受容体変種を提供する。本明細書に使用される用語「GDF受容体変種」は、GDF受容体の構造の少なくとも一部を刺激する分子を意味する。GDF受容体変種は、GDF結合の低下または阻害において有用であり、これにより本明細書に記されたような病態を改善することができる。GDF受容体変種の例は、GDF受容体の可溶性細胞外ドメインのような切断型GDF受容体;キナーゼ活性を欠損しているドミナントネガティブAct RIIB受容体のような、ドミナントネガティブGDF受容体;または、他の切断型もしくは変異体GDF受容体を含むが、これらに限定されるものではない。
【0221】
本発明は、天然型GDF受容体のペプチドおよびペプチド誘導体のみではなく、変異体GDF受容体、およびGDF、例えばミオスタチンに特異的に結合するGDF受容体のキメラ的に合成した誘導体を含むGDF受容体変種にも関する。例えば、GDF受容体のアミノ酸配列の変化は、本発明において企図されている。GDF受容体は、このタンパク質をコードしているDNAを変更することにより、変更され得る。好ましくは、保存的アミノ酸変化のみが、同じまたは同様の特性を有するアミノ酸を用いて行われる。具体的アミノ酸置換基は、アラニンからセリン;アルギニンからリシン;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジン;アスパラギン酸からグルタミン酸;システインからセリン;グルタミンからアスパラギン;グルタミン酸からアスパラギン酸;グリシンからプロリン;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミン;イソロイシンからロイシンまたはバリン;ロイシンからバリンまたはイソロイシン;リシンからアルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸;メチオニンからロイシンまたはイソロイシン;フェニルアラニンからチロシン、ロイシン、またはメチオニン;セリンからトレオニン;トレオニンからセリン;トリプトファンからチロシン;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニン;バリンからイソロイシンまたはロイシンの変更を含む。
【0222】
本発明において有用な変種は、それらの各GDFに特異的に結合する能力を維持しているGDF受容体のアナログ、ホモログ、変異タンパク質および擬態を含む。別の態様においては、ドミナントネガティブ活性を有する変種GDF受容体が、この変種が同じくそのGDFと特異的に相互作用するかどうかとは関わりなく企図されている。GDF受容体のペプチドは、これらの能力を有するGDF受容体のアミノ酸配列の一部と称されている。これらの変種は、化学修飾により、タンパク質分解性の酵素消化により、またはこれらの組合せにより、GDF受容体それ自身から直接作出することができる。加えて遺伝子操作技術に加え、アミノ酸残基からの直接のポリペプチドの合成法を使用することができる。
【0223】
ペプチドは、α-アミノ基のt-BOCまたはFMOC保護のような通常使用される方法を用い合成することができる。両方法とも、ペプチドC末端から始まり、各工程時に1個のアミノ酸が追加されるような、段階的合成を含む(Coliganら、Current Protocols in Immunology(Wiley Interscience社、1991)、単元9、これは本明細書に参照として組入れられている)。本発明のペプチドは、0.1〜1.0mMアミン/gポリマーを含有するコポリ(スチレン-ジビニルベンゼン)を使用し、周知の固相ペプチド合成法により合成することもできる(Merrifield、J. Am. Chem. Soc.、85:2149, 1962;StewartおよびYoung、Solid Phase Peptides Synthesis (Freeman、サンフランシスコ、1969)、27-62頁参照、各々本明細書に参照として組入れられている)。化学合成の完了時には、これらのペプチドは、液体HF-10%アニソールによる約1/4〜1時間の0℃での処理により、脱保護されかつポリマーから切断される。これらの試薬の蒸発後、ペプチドがポリマーから1%酢酸溶液により抽出され、これがその後凍結乾燥され、粗物質を得る。これは通常、溶媒として5%酢酸を使用する、Sephadex G-15上でのゲル濾過のような技術により精製される。カラムの適当な画分の凍結乾燥は、均質なペプチドまたはペプチド誘導体を生じ、これはその後アミノ酸分析、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、紫外線吸収分光法、モル旋光度、溶解度のような標準技術により特徴決定され、および固相エドマン分解により定量することができる。
【0224】
GDF受容体の結合および機能を模倣する非ペプチド化合物(「擬態」)は、Saragoviらの論文(Science、253:792-95, 1991、これは本明細書に参照として組入れられている)に概説された方法により作出することができる。擬態は、タンパク質二次構造の要素を模倣する分子である(Johnsonら、「Peptide Turn Mimetics」、Biotechnology and Pharmacy、(Pezzutoら編集;Chapman and Hall、ニューヨーク、1993)、これは本明細書に参照として組入れられている)。ペプチド擬態の使用の基礎となる理論的裏付けは、タンパク質のペプチド骨格は、主に分子間相互作用を促進するような方法で、アミノ酸側鎖の方向を合わせる(orient)ように存在することである。本発明の目的に関して、適当な擬態は、GDF受容体の等価物であると見なすことができる。
【0225】
より長いペプチドは、ペプチドをともに連結する「ネガティブケミカル」ライゲーション技術により作出することができる(Dawsonら、Science、266:776, 1994、これは本明細書に参照として組入れられている)。変種は、ゲノムまたはcDNAクローニング法を使用する組換え技術により作出することができる。位置特異的および領域指定の変異誘発技術を使用することができる(Ausubelら、前掲、1989および1990から1993補遺)、1巻8章参照;Protein Engineering (OxenderおよびFox編集、A. Liss社、1987))。加えて、変異誘発のためには、リンカー走査およびPCR媒介した技術を用いることができる(Erlich、PCR Technology(Stockton Press社、1989);Ausubelら、前掲、1989から1993)。前述の技術のいずれかと併用するためのタンパク質配列決定、構造およびモデリング法は、先に引用された参考文献に記されている。
【0226】
本発明はさらに、GDFのその受容体への特異的結合を阻止するGDF受容体-結合物質を提供する。このような物質は、例えば先に説明されたような筋肉消耗性障害の研究における研究および診断の道具としてならびに効果的療法として有用であり、かつ例えば分子モデリング法のような本明細書に説明された方法を用いて同定することができる。加えて、GDF受容体-結合物質を含有する薬学的組成物は、効果的療法を説明することができる。本発明の状況において、語句「GDF受容体結合物質」は、GDF受容体の天然型リガンド、例えばGDF-1からGDF-16;GDF受容体の合成リガンド、または天然もしくは合成のリガンドの適当な誘導体を意味する。リガンドの決定および単離は、当該技術分野において周知である(Lerner、Trends Neurosci.、17:142-146, 1994、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0227】
さらに別の態様において、本発明は、GDF受容体とGDFの間の結合を妨害するGDF受容体結合物質に関する。このような結合物質は、競合阻害により、非競合阻害によりまたは未競合阻害により妨害することができる。GDF受容体と1個または複数のGDFの間の正常な結合の妨害は、有用な薬学的作用を生じることができる。
【0228】
本発明はさらに、GDF受容体に結合する組成物を同定する方法を提供する。この方法は、組成物およびGDF受容体を含有する成分の、成分の特異的相互作用を可能にするのに十分な条件下でのインキュベーション、および組成物のGDF受容体への結合の測定を含む。GDF受容体へ結合する組成物は、先に説明されたような、ペプチド、ペプチド擬態、ポリペプチド、化学的化合物および生物学的物質を含む。インキュベーションは、反応物質を、被験組成物およびGDF受容体の間の接触を可能にする条件に晒すことを含み、かつインビボにおいて生じるような特異的相互作用に適した条件を提供する。接触は、溶液中または固相においてであることができる。被験リガンド/組成物は、先に説明したような、任意に多くの組成物のスクリーニングのためのコンビナトリアルライブラリーであることができる。本発明の方法において同定された組成物は、さらに、PCR、オリゴマー制限(Saikiら、Bio/Technology、3:1008-1012, 1985、これは本明細書に参照として組入れられている)、対立遺伝子-特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ分析(Connerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、80:278, 1983、これは本明細書に参照として組入れられている)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)(Landegrenら、Science、241:1077, 1988、これは本明細書に参照として組入れられている)などのような、通常特異的DNA配列の検出に使用される方法により、溶液中でまたは固体支持体へ結合した後のいずれかで、評価、検出、クローニング、配列決定などを行うことができる(Landegrenら、Science、242:229-237, 1988参照、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0229】
組成物が受容体タンパク質と機能性に複合することができるかどうかを決定するために、外因性遺伝子の誘導が、外因性遺伝子によりコードされたタンパク質のタンパク質レベルの変化のモニタリング、または本明細書に説明されたいずれか他の方法により追跡される。外因性遺伝子の転写を誘導することができる組成物が同定された場合は、この組成物は、最初の試料被験組成物をコードしている核酸によりコードされた受容体タンパク質に特異的に結合することができると結論される。
【0230】
外因性遺伝子の発現は、例えば、機能アッセイまたはタンパク質生成物のアッセイによりモニタリングすることができる。従ってこの外因性遺伝子は、外因性遺伝子の発現の検出を可能にするために、アッセイ可能/測定可能な発現産物を提供する遺伝子である。このような外因性遺伝子は、レポーター遺伝子、例えばクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ遺伝子、グリーン蛍光タンパク質遺伝子、グアニンキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼのような抗生物質耐性遺伝子(前記参照)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0231】
外因性遺伝子の発現は、組成物およびGDF受容体の特異的相互作用の指標であり;その結果、組成物の結合または阻止は、同定および単離することができる。本発明の組成物は、例えば抽出、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過などを含む、通常使用される公知のタンパク質精製技術を用い、培養培地または細胞から抽出されかつ精製される。組成物は、カラムマトリックスに結合した修飾された受容体タンパク質細胞外ドメインを使用するアフィニティクロマトグラフィーによるか、またはヘパリンクロマトグラフィーにより、単離することができる。
【0232】
さらに本発明のスクリーニング法には、前述のような、GDF受容体に結合する化学的化合物を同定するためのコンビナトリアルケミストリー法が含まれる。従って、スクリーニング法はさらに、望ましいように、アンタゴニストまたはアゴニストとして物理的(例えば立体的)には作用しないとしても、機能性に作用する、変種、結合または阻止する物質などの同定に有用である。
【0233】
下記実施例は、本発明を例証することが意図されており、限定は意図されていない。
【0234】
実施例 1 :ミオスタチンは用量依存型に作用する
この実施例は、筋肉成長を阻害するミオスタチン活性が、インビボにおけるミオスタチン発現レベルによって左右されることを明らかにしている。
【0235】
ミオスタチンは、骨格筋総量の負の調節因子である(McPherronら、前掲、1997;McPherronおよびLee、前掲、1997)。ミオスタチン遺伝子欠損についてホモ接合性であるミオスタチンノックアウトマウスは、総体重の25〜30%の増加を有した。ホモ接合型ノックアウトマウスの試験によって、筋肉総量の増加が、全身を通じた骨格筋総量のほぼ100〜200%の増加によるであることを明らかにした。
【0236】
ミオスタチン変異についてヘテロ接合性であるマウスも、総体重の増加を示した。しかし、ヘテロ接合性の増加した総量は、ホモ接合性のものよりも少なく、かつ多くの試験中である年齢および性別の群においてのみ統計学的有意性を有した。ヘテロ接合型マウスが、野生型マウスとホモ接合型ミオスタチンノックアウトマウスの間の中間表現型を有するかどうかを決定するために、筋肉重量の分析を、ヘテロ接合型マウスにも広げた。ヘテロ接合型マウスから採取した個々の筋肉は、野生型マウスのものよりもおよそ25〜50%より重かった。これらの結果は、ミオスタチン遺伝子欠失に関してヘテロ接合性であるマウスが、野生型マウスとホモ接合型ミオスタチンノックアウトマウスの間の中間の表現型を有することを明らかにし、かつミオスタチンがインビボにおいて用量依存型の作用を生じることを示している。
【0237】
これらの結果は、ミオスタチン活性の操作が、ミオスタチン活性に関連した筋肉消耗性疾患および他の代謝性障害の治療において有用であることを示している。さらにミオスタチンの用量依存的作用は、治療的作用は、ミオスタチン活性の完全な阻害を達成することなく得ることができ、これにより例えばあるレベルの活性が対象において望ましくない作用を生じる場合にも、ミオスタチン活性の調節が可能になることを示している。
【0238】
実施例 2 :ミオスタチン作用はノックアウトマウスにおいて年齢と共に減少する
この実施例は、野生型マウスとホモ接合型ミオスタチンノックアウトマウスの間の体重の差の減少は、変異体マウスの筋肉重量の漸減に関連していることを明らかにしている。
【0239】
ミオスタチンノックアウトマウスは、5月齢で、野生型マウスよりもおよそ25%〜30%より重かった(McPherronら、前掲、1997)。しかしこの総体重の差は、動物が加齢するにつれて、著しく小さくなるかまたは完全に消滅した。この作用が、例えば筋肉崩壊または野生型マウスによる比較的大きい体重増加に起因したノックアウトマウスの体重の相対的喪失によるものかどうかを決定するために、年齢の関数としての筋肉重量の詳細な分析を行った。
【0240】
2月齢から17月齢までの試験した年齢の全てで、野生型同腹子よりもホモ接合型変異体マウスの方が、胸筋が有意に重かった。最も著しい差異は、5月齢で認められ、この時点で胸筋重量は、変異体マウスにおいて約200%重かった。より加齢するにつれ胸筋重量はわずかに漸減したが、変異体マウスにおけるこの筋肉の重量は、依然野生型マウスのそれの2倍以上であり続けた。これと同じ基本的傾向は、試験した他の筋肉全てにおいて認められ、これは上腕三頭筋、大腿四頭筋、腓腹筋、および足底、ならびに前頸骨筋を含む。雄および雌のマウスにおいて同様の傾向が認められた。これらの結果は、変異体マウスにおける筋肉重量のわずかな漸減により、加齢と共に、変異体と野生型マウスの間の総体重の差異の減少が認められたことを明らかにしている。
【0241】
実施例 3 :ミオスタチンは用量依存型で脂肪蓄積に影響を及ぼす
この実施例は、ミオスタチンノックアウトマウスが、脂肪を蓄積できなくなること、および脂肪蓄積の減少はインビボにおけるミオスタチン発現レベルに関連していることを明らかにしている。
【0242】
実施例2に示されたように、ミオスタチン変異体における筋肉重量の漸減は、野生型動物が最終的には変異体マウスとほぼ同じ重量になるという知見を完全に説明しないので、野生型および変異体マウスにおける脂肪蓄積量を試験した。雄のマウスの鼠径部、精巣上体、および腹膜後の脂肪パッドを試験した。これらの脂肪パッドの重量には、2月齢の野生型と変異体マウスの間で差異はなかった。5月齢〜6月齢までに、野生型およびヘテロ接合型ノックアウトマウスは両方とも、広範囲にわたる脂肪パッド重量を示し、および動物が9月齢〜10月齢に到達する時点までに、平均脂肪パッド重量がおよそ3倍〜5倍に増加した。これらの動物において広範囲にわたる脂肪パッド重量が認められたために、一部の動物は、他のものよりも非常に大きい増加(最大10倍)を示した。
【0243】
野生型およびヘテロ接合型ノックアウトマウスとは対照的に、ミオスタチンホモ接合型変異体マウスの脂肪パッド重量は、比較的狭い範囲内であり、かつ2月齢マウスおよび9〜10月齢マウスは実質的に同じであった。従って野生型マウスにおいて加齢と共に生じる増加した脂肪蓄積は、ホモ接合型ミオスタチンノックアウトマウスにおいては認められなかった。脂肪蓄積におけるこの差異は、筋肉重量のわずかな減少と共に、ホモ接合型変異体マウスにおいて年齢の関数として、野生型動物は変異体と同じ総体重を事実上有するという知見を完全に説明した。
【0244】
9月齢〜10月齢のヘテロ接合型ノックアウトマウスにおける平均脂肪パッド重量は、野生型マウスおよびホモ接合型変異体マウスの中間であった。これらおよび野生型マウスにおける脂肪パッド重量の範囲は広いので、この差異は統計学的に有意ではなかったが、それにもかかわらずこれらの結果は、ミオスタチンが、脂肪蓄積に対し、筋肉成長に対するその作用に類似した、用量依存型の作用を有することを示している。
【0245】
実施例 4 :ミオスタチンの代謝に対する作用
この実施例は、血清インスリンおよびグルコースレベルに加え、代謝活性が、ミオスタチン発現レベルにより影響を受けることを明らかにしている。
【0246】
ミオスタチン変異体マウスにおける骨格筋肥大および脂肪蓄積の欠損が、全体の代謝に対する作用によるものかどうかを決定するために、変異体マウスの代謝プロフィールを試験した。血清トリグリセリドおよび血清コレステロールレベルは、ミオスタチン変異体マウスにおいて、野生型対照マウスと比べ有意に低かった(表1)。血清インスリンレベルも、ミオスタチン変異体マウスにおいてより低いように見える。しかし、摂食時および絶食時のグルコースレベルは両方共、ホモ接合型変異体マウスおよび野生型マウスの間で識別できず(表1)、両群のマウスは、耐糖能試験において正常な反応を有した。これらの結果は、ホモ接合型ミオスタチンノックアウトマウスは、その血清インスリンレベルは、野生型動物のそれよりも低いにもかかわらず、血清グルコースの正常レベルを維持することができることを示している。
【0247】
【表1】
血清パラメータ
+/+、野生型マウスを示す;-/- 、ホモ接合型ノックアウトマウスを示す
【0248】
変異体マウスにおける代謝率の差異が、脂肪蓄積の欠損を説明するかどうかを決定するために、野生型および変異体マウスの酸素消費量を、カロリーメーターを用いて比較した。変異体マウスは、野生型対照マウスと比べ、より低い基本代謝率およびより低い全体の代謝率を有した。これらの結果は、ミオスタチン変異体マウスにおける脂肪蓄積の欠損は、より高い代謝活性率によるものではないことを示している。
【0249】
実施例 5 :ミオスタチンは遺伝的肥満マウスにおける脂肪蓄積に影響を及ぼす
この実施例は、ミオスタチン発現の欠損が、肥満症の遺伝モデルであるマウスにおける脂肪蓄積を抑制することを示している。
【0250】
正常マウスにおいてのみではなく、肥満マウスにおいても、ミオスタチン活性の喪失が、脂肪蓄積を抑制するかどうかを決定するために、肥満症の遺伝モデルであるアグーチ致死イエロー(Ay)マウスにおいて(Yenら、FASEB J.、8:479-488, 1994)、ミオスタチン変異の作用を試験した。致死イエローおよびミオスタチン変異について二重にヘテロ接合性であるマウスを作出し、これらの二重のヘテロ接合型マウスの交雑の子孫を試験した。
【0251】
Ay/a、ミオスタチン-/-二重変異体マウスの総体重は、Ay/a、ミオスタチン+/+マウスのそれと比べ、著しく低下した(およそ9g)。Ay/a、ミオスタチン-/-二重変異体は、Ay/a、ミオスタチン+/+マウスよりもほぼ2〜3倍多い骨格筋を有することを考慮すると、この総体重の減少はさらにより著しいものであった。二重変異体は、Ay/a、ミオスタチン+/+マウスよりもおよそ10g多い筋肉を有し、その結果、残りの組織における総重量の低下は、約19gであった。
【0252】
総体重の減少は、全体の脂肪含量の低下から生じた。表2に示したように、子宮傍組織および腹膜後の脂肪パッドの重量は、Ay/a、ミオスタチン+/+マウスのそれと比べ、Ay/a、ミオスタチン-/-二重変異体において5倍〜6倍低下した。これらの結果は、ミオスタチン変異の存在は、肥満症における脂肪蓄積を著しく抑制することを示している。
【0253】
ミオスタチン変異の存在は同じく、グルコース代謝に著しく影響を及ぼす。ミオスタチン変異を欠損しているアグーチ致死マウスは、著しく異常な耐糖能試験結果を有し、血清グルコースレベルは、しばしば450mg〜600mg/dlに到達し、かつベースラインレベルへ4時間かけて徐々に回復するのみであった。雌のアグーチ致死マウスは雄マウスよりも影響を受けにくく、先に説明されたように一部の雌はこの試験でほぼ正常に反応した(Yenら、前掲、1994参照)。対照的に、耐糖能試験において、Ay/a、ミオスタチン-/-マウスは、わずかに異常であったが、これらの動物でAy/a、ミオスタチン+/+マウスにおいて認められた大きな異常を示したものはなかった。
【0254】
これらの結果は、ミオスタチン変異は、アグーチ致死マウスにおいて、異常なグルコース代謝の出現を少なくとも部分的に抑制したことを示している。重要なことに、ミオスタチン変異に対しヘテロ接合性であるマウスは、ミオスタチン+/+およびミオスタチン-/-マウスと比べ中間の反応を有し、従って、ミオスタチンの用量反応性の作用を確認している。
【0255】
実施例 6 :組換えミオスタチンの精製
この実施例は、組換えミオスタチンを調製および単離する方法を提供する。
【0256】
ミオスタチンの生物活性を解明するために、大量のミオスタチンタンパク質を、バイオアッセイのために精製した。高レベルミオスタチンタンパク質を産生する安定したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株は、メトトレキセート選択スキーム(McPherronら、前掲、1997)を用い、ミオスタチン発現カセットを、ジヒドロ葉酸還元酵素カセットと同時増幅することにより作出した。ミオスタチンは、ヒドロキシアパタイト、レンチル(lentil)レクチンセファロース、DEAEアガロース、およびヘパリンセファロース上での連続分画による最高産生株(highest producing line)の馴化培地から精製した。銀染色分析は、下記の4種のカラムクロマトグラフィー工程から得られた精製タンパク質(「ヘパリン溶出液」と称す)は、約35キロダルトン(kDa)および12kDaの分子質量を有する2種からなることを明らかにした。
【0257】
精製したタンパク質調製物は、2種のミオスタチンプロドメインペプチドおよび成熟C末端ミオスタチンペプチドのジスルフィド結合した二量体の複合体を表す様々な判定基準により決定した。最初に、プロミオスタチン配列の特異的部分に対して産生した抗体を使用する、ウェスタンブロット分析は、プロドメインの35kDaバンドおよび成熟C末端ペプチドの12kDaバンドとして同定した。第二に、非還元条件下で、成熟C末端ペプチドに対する抗体と反応しているこれらの種は、ジスルフィド結合した二量体と一致する電気泳動移動度を有していた。第三に、プロドメインの成熟C末端ペプチドに対するモル比は、約1:1であった。第四に、プロドメインおよび成熟C末端ペプチドは、4種のカラムクロマトグラフィー工程により同時精製された。最後に、成熟C末端ペプチドは、たとえC末端領域がコンセンサスN-結合したグリコシル化シグナルを含まなくとも、レンチルレクチンカラムに結合し、これは成熟C末端ペプチドが、可能性のあるN-結合したグリコシル化部位を含むプロドメインペプチドとの相互作用によりカラムに結合したことを示している。
【0258】
これらの結果は、遺伝的に修飾されたCHO細胞から作出されたミオスタチンは、タンパク質分解性のプロセシングされた形で分泌され、かつ生じたプロドメインおよび成熟C末端領域は非共有的に会合し、TGF-βについて説明されたものに類似した、2個のプロドメインペプチドおよびC末端タンパク質分解性の断片のジスルフィド結合した二量体を含む複合体を形成していることを示している。TGF-β複合体において、C末端二量体は、不活性の潜在型で存在し(Miyazonoら、J. Biol. Chem.、263:6407-6415, 1988)、かつ活性種は、酸、カオトロピック物質、活性酸素種、またはプラスミンによる処理により、もしくはトロンボスポンジンまたはインテグリンIvβ6を含む、他のタンパク質との相互作用により、この潜在複合体から放出される(Lawrenceら、Biochem. Biophys. Res. Comm.、133:1026-1034, 1985;Lyonsら、J. Cell Biol.、106:1659-1665, 1988;Schultz-CherryおよびMurphy-Ullrich、J. Cell Biol.、122:923-932, 1993;Barcellos-HoffおよびDix、Mol. Endocrinol.、10:1077-1083, 1996;Mungerら、Cell、96:319-328, 1999)。さらに、精製されたプロドメインペプチド(同じく潜在的に会合されたペプチドまたはLAPとして公知)のTGF-β複合体への追加は、精製されたC末端二量体のインビトロおよびインビボでの生物活性を阻害する(GentryおよびNash、Biochemistry、29:6851-6857, 1990;Bottingerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、93:5877-5882, 1996)。
【0259】
プロドメインおよび成熟C末端ペプチドの複合体からなるヘパリン溶出液は、HPLC C4逆相カラムを用い、さらに精製した。C末端二量体は、HPLCカラムからプロドメインよりも早く溶出され、その結果プロドメインのC末端二量体を含まない単離を可能にした。主としてプロドメインを含む画分も得たが、これらの画分は少量のC末端二量体を含有していた。このタンパク質の一部は、さらに高分子量複合体としても存在した。高分子量複合体の性質は不明であるが、還元剤の存在および非存在下でのウェスタンブロット分析を基に、これらの複合体は、1個または複数のジスルフィド結合により連結された少なくとも1個のプロドメインペプチドおよび1個のC末端成熟ミオスタチンペプチドを含むことができる。実際、プロペプチドについて濃縮されたHPLC画分中に存在する成熟C末端ペプチドのほとんど(HPLC画分35-37)が、これらの高分子量複合体中に存在した。これらの高分子量複合体は恐らく、遺伝的に修飾されたCHO細胞により分泌される不適切にフォールディングされたタンパク質を表しているであろう。
【0260】
実施例 7 :ミオスタチンはアクチビン受容体と特異的に相互作用する
この実施例は、ミオスタチンが、培養物中の細胞上に発現されたアクチビンII型受容体と特異的に結合すること、およびこの特異的結合がミオスタチンプロドメインにより阻害されることを明らかにしている。
【0261】
いくつかのTGF-βファミリーメンバーの受容体が同定されており、かつほとんどが1回膜貫通型セリン/トレオニンキナーゼである(MassagueおよびWeis-Garcia、Cancer Surveys、27:41-64, 1996)。アクチビンII型受容体(Act RIIAおよび/またはAct RIIB)は、例えば、TGF-βスーパーファミリーのメンバーに結合することはわかっている。Act RIIB受容体を欠損しているマウスの表現型は、GDF-11ノックアウトマウスにおいて認められるものと非常に類似した、前/後軸パターン形成(axial patterning)欠損および腎異常を示した(McPherronら、Nat. Genet.、22:260-264, 1999;OhおよびLi、Genes Devel.、11:1812-1826, 1997)。GDF-11およびミオスタチン(GDF-8)のアミノ酸配列は成熟C末端領域が90%同じであるので、ミオスタチンのアクチビンII型受容体と特異的に相互作用する能力を試験した。
【0262】
ミオスタチンは、放射性-ヨウ素化により標識し、かつAct RIIB発現構築物でトランスフェクションしたCOS細胞を用い、結合試験を行った。ミオスタチンは、トランスフェクションしたCOS細胞と特異的に相互作用した。ミオスタチン結合は、過剰な非標識ミオスタチンと用量依存的に競合し、かつ空のベクターでトランスフェクションされた対照COS細胞において顕著に低かった。BMP RIIまたはTGF-βRII発現構築物でトランスフェクションした細胞への著しい結合は生じなかった。Act RIIBでトランスフェクションした細胞へのミオスタチン結合は飽和可能であり、かつこの結合親和性は、Scatchard解析により約5nMと決定された。
【0263】
さらに受容体結合アッセイを使用し、ミオスタチンプロドメインの、このシステムにおける成熟C末端二量体のAct RIIBとの特異的相互作用能を阻害する能力を試験した。精製したプロドメインペプチドの添加は、C末端二量体の、Act RIIBでトランスフェクションされたCOS細胞に結合する能力を用量依存的に阻止した。これらの結果は、ミオスタチンプロドメインがミオスタチンの天然のインヒビターであることを示している。
【0264】
実施例 8 :増加したミオスタチンレベルは体重減少を誘導する
この実施例は、インビボにおけるミオスタチンレベルの上昇は、実質的体重減少につながることを明らかにしている。
【0265】
一組の実験において、ミオスタチンを発現しているCHO細胞をヌードマウスへ注射した。ミオスタチンを発現しているCHO細胞腫瘍を有するヌードマウスは、細胞の注射後約12〜16日間にわたり、重度の消耗を示した。この消耗性症候群は、同様の選択プロセスを受けたがミオスタチンを発現しなかった様々な対照CHO株のいずれかを注射したヌードマウスにおいては認められなかった。さらに、CHO細胞のトランスフェクションに使用された構築物中のミオスタチンコード配列は、メタロチオネインプロモーターの制御下であり、かつ消耗性症候群は、ミオスタチンを発現する腫瘍を持つマウスが硫酸亜鉛を含有する水で維持された場合には、増加した。ウェスタンブロット分析は、ミオスタチンを発現しているCHO細胞を持ったヌードマウスの血清中の高レベルのミオスタチンタンパク質を明らかにした。これらの結果は、ヌードマウスにおいてミオスタチンレベルの上昇に反応して消耗性症候群が誘導されたことを示し、かつ以下に示すように、この結果は、精製ミオスタチンを注射したマウスにおいて同様の作用が観察されたことにより確認した。
【0266】
ミオスタチン発現CHO細胞を持つヌードマウスにおいて認められた著しい体重減少は、主に脂肪および筋肉重量の両方の不均衡な喪失によるものであった。脂肪パッド重量(肩甲骨内白色、子宮、および腹膜後の脂肪)は、対照CHO細胞腫瘍を持つマウスと比較して、90%より多く減少した。さらに筋肉重量は、重度に低下し、個々の筋肉重量は16日目までに、ミオスタチン発現マウスにおいて対照マウスに対しほぼ半分であった。この筋肉重量の喪失は、線維サイズおよびタンパク質含量の対応する減少に反映されていた。
【0267】
ミオスタチン発現CHO細胞腫瘍を持つマウスは、重症の低血糖症にもなった。しかし全てのマウスが、本試験の16日間の間に試験した各時間間隔において等量の餌を摂取していたので、、体重減少および低血糖症は、餌摂取の差異によるものではなかった。これらの結果は、ミオスタチンの過剰発現が、著しい体重減少を誘導し、これは癌またはAIDSのような慢性疾患に罹患した患者において生じる悪液質消耗性症候群に類似していることを示している。
【0268】
低用量ミオスタチンを使用するより長期の投与により、脂肪重量の変化が認められた。例えば;7日間のミオスタチンタンパク質1μgの1日2回の注射は、多くの異なる白色脂肪パッド(肩甲骨内白色、子宮、および腹膜後の脂肪パッド)重量のおよそ 50%低下を生じたが、褐色脂肪(肩甲骨内褐色)に対する顕著な作用は無かった。これらの結果は、ミオスタチンは、体重減少を誘導することができ、かつ極端な場合、消耗性症候群をインビボにおいて誘導することを確認している。
【0269】
実施例 9 :アクチビン受容体に対するミオスタチン結合の特徴決定
この実施例は、アクチビン受容体へのミオスタチン結合の、インビボにおいてミオスタチンにより生じる生物作用との関係を特徴付ける方法を説明している。
【0270】
Act RIIAまたはAct RIIBノックアウトマウスを用い、Act RIIAまたはAct RIIBはインビボにおけるミオスタチン受容体であることを確認することができる。これらのマウスの詳細な筋肉分析は、アクチビン受容体のノックアウトが、筋肉線維の数またはサイズの変化に関連しているかどうかを決定することができる。Act RIIA/Act RIIB二重ホモ接合型変異体は、胚形成時に早期に死亡したので(Songら、Devel. Biol.、213:157-169, 1999)、様々なホモ接合性/ヘテロ接合性組合せのみを試験することができる。しかし、組織-特異的または条件ノックアウトマウスは、筋肉組織においてのみ両方の遺伝子が「欠失している」ように作出することができ、従って、二重ホモ接合型ノックアウトマウスの出生後試験が可能になる。
【0271】
脂肪組織に対する作用を、マウスの加齢と共に試験し、含脂肪細胞の数またはこれらの含脂肪細胞による脂質の蓄積が、このノックアウトマウスにおいて変化するかどうかを決定した。含脂肪細胞の数およびサイズは、コラゲナーゼ処理した細胞から細胞懸濁液を調製することにより決定される(Rodbell、J. Biol. Chem.、239:375-380, 1964;HirschおよびGallian、J. Lipid Res.、9:110-119, 1968)。動物における総脂質含量は、乾燥死体重量、次に脂質抽出後の残留乾燥死体重量を測定することにより決定される(Folchら、J. Biol. Chem.、226:497-509, 1957)。
【0272】
摂食時および絶食時のグルコースおよびインスリン、トリグリセリド、コレステロール、およびレプチンを含む、様々な血清パラメータも試験することができる。先に説明したように、血清トリグリセリドおよび血清インスリンは、ミオスタチン変異体動物において減少した。アクチビン受容体ノックアウトマウスの外因性グルコース負荷に反応する能力も、耐糖能試験を用いて試験することができる。先に説明したように、グルコース負荷に対する反応は、5月齢の野生型およびミオスタチン変異体マウスにおいて本質的に同じであった。この知見は、マウスの加齢に応じたこれらのパラメータの測定により拡大することができる。血清インスリンレベルも、耐糖能試験中に様々な時点で測定することができる。
【0273】
基礎代謝率も、カロリーメーター(Columbus Instruments)を用いてモニタリングすることができる。先に説明したように、ミオスタチン変異体マウスは、3月齢で、それらの野生型対応物よりもより低い代謝率を有する。この分析は、より高齢のマウスに拡大することができ、かつ呼吸商もこれらの動物において測定することができる。正常な熱発生を維持する能力を、体温に加え4℃に置いた場合のそれらの体温維持能を測定することにより決定することができる。褐色脂肪重量、ならびに褐色脂肪、白色脂肪、筋肉および他の組織中のUCP1、UCP2およびUCP3の発現レベルも試験した(Schrauwenら、1999)。
【0274】
餌摂取に対する体重増加をモニタリングすることができ、かつ摂餌効率を算出することができる。加えて高脂肪餌に置いた動物の体重増加をモニタリングすることができる。高脂肪餌で維持した野生型マウスは、急激に脂肪を蓄積したのに対し、本明細書に記した結果は、アクチビン受容体変異体動物は比較的痩身であり続けることを示唆している。
【0275】
これらの試験の結果は、ミオスタチンマウスの作用の、特にそれらの全身の代謝状態に関する、より完全なプロフィールを提供し、これによりミオスタチンノックアウトマウスの脂肪蓄積を抑制する能力が、脂肪の形での貯蔵にほとんどエネルギーを利用しないようなエネルギー利用のシフトにつながる筋肉におけるミオスタチン変異の同化作用であるかどうかに関する考察を提供することができる。例えば、低下した脂肪蓄積は、熱発生の増加率によるものであることができる。これらの結果は、様々な肥満症およびII型糖尿病遺伝モデルの状況におけるミオスタチン活性の作用の比較のためのベースラインも提供する。
【0276】
実施例 10 :肥満症および II 型糖尿病遺伝モデルにおけるミオスタチン作用の特徴決定
この実施例は、肥満症またはII型糖尿病の治療におけるミオスタチンの作用を決定する方法を説明する。
【0277】
野生型マウスと比較した、ミオスタチン変異体マウスにおける全身の脂肪蓄積の著しい低下は、ミオスタチン活性を操作し、肥満症またはII型糖尿病を治療または予防することができることを示している。ミオスタチン変異の作用は、例えば「肥満」マウス(ob/ob)。「糖尿病」マウス(db/db)、およびアグーチ致死イエロー(Ay)変異体系統を含む、これらの代謝性疾患についてよく特徴決定されたいくつかのマウスモデルの状況において試験することができる。これらの系統は各々、事実上全てのパラメータおよび先に説明された試験について異常である(例えば、Yenら、前掲、1994、FriedmanおよびHalaas、Nature、395:763-770, 1998参照)。ミオスタチン変異がこれら以外の変異を保持するマウスにおけるこれらの異常の発生を遅延または抑制する能力は、二重変異体を構築し、その後この二重変異体動物に、ob/ob、db/dbまたはアグーチ致死イエロー変異のみを保持する適当な対照同腹仔と共に、様々な試験を行うことにより、試験することができる。
【0278】
先に説明したように、Ayマウスのミオスタチン変異は、ミオスタチン変異体Ayマウスの脂肪蓄積をほぼ1/5に抑制し、かつ耐糖能試験により評価される異常な糖質代謝の発生を一部抑制する。これらの結果は、様々な年齢のその他の動物を含むように拡大することができ、同様の試験をob/obおよびdb/db変異体について行うことができる。これらの変異は両方とも劣性であるので、ミオスタチン変異およびobまたはdb変異のいずれかについて二重ホモ接合性であるマウスを作出することができる。これらの遺伝モデルシステムにおけるミオスタチン機能の一部喪失の作用を試験するために、obまたはdb変異についてホモ接合性およびミオスタチン変異についてヘテロ接合性であるマウスも試験した。ミオスタチンおよびob変異について二重ヘテロ接合性であるマウスを作出し、かつこれらの二重ヘテロ接合性マウスの交配による子孫を、特に脂肪蓄積およびグルコース代謝について試験することができる。肥満変異体におけるこれらの異常のいずれかまたは両方の一部抑制は、ミオスタチンが、肥満症およびII型糖尿病の治療の標的であることを示すことができる。
【0279】
実施例 11 :ミオスタチン活性に影響を及ぼすことができるドミナントネガティブポリペプチドを発現しているトランスジェニックマウスの特徴決定
この実施例は、ミオスタチン発現またはミオスタチンシグナル伝達を阻止することができるドミナントネガティブポリペプチドを出生後発現することにより、ミオスタチンの作用を特徴決定する方法を説明している。
【0280】
ミオスタチンインヒビター
ミオスタチン活性の出生後調節を用い、ミオスタチンの筋肉線維数(過形成)および筋肉線維のサイズ(肥大)に対する作用を決定することができる。ミオスタチン遺伝子が動物の生存期間の指定された時期に欠損している、条件ミオスタチンノックアウトマウスを、これらの試験に使用することができる。tet調節因子のcre組換え酵素との組合せは、このようなマウス作出システムを提供する。このシステムにおいて、creの発現は、ドキシサイクリンの投与により誘導される。
【0281】
ミオスタチン活性を、動物の生存期間の定められた時期に、低下または阻害することができるような、誘導性プロモーターからミオスタチンインヒビターを発現しているトランスジェニックマウスも作出することができる。テトラサイクリン調節因子は、このようなトランスジェニックマウスの作出に有用であり、ここでミオスタチン発現は、ドキシサイクリンにより誘導される。
【0282】
ハイブリッドリバースtet-トランスアクチベーター(VP16の活性化ドメインの変異体リバースtetリプレッサーとの融合タンパク質)およびハイブリッドtet-トランスリプレッサー(哺乳類KoxlのKRABリプレッサードメインの天然型tetリプレッサーとの融合タンパク質)の同時-発現を利用するtetシステムの修飾は、このトランスジェニックマウスの作出に特に有用であることができる(Rossiら、Nat. Genet.、20:389-393, 1998;Forsterら、Nucl. Acids Res.、27:708-710, 1999)。このシステムにおいて、ハイブリッドリバースtet-トランスアクチベーターは、tetオペレーター配列に結合し、かつテトラサイクリン存在下のみ転写を活性化し;このハイブリッドtet-トランスリプレッサーは、tetオペレーター配列に結合し、かつテトラサイクリン非存在下においてのみ転写を抑制する。これら2種の融合タンパク質の同時発現により、標的プロモーターの基本活性は、テトラサイクリン非存在下でtet-トランスリプレッサーによりサイレント化され、かつテトラサイクリン投与時に、リバースtet-トランスアクチベーターにより活性化される。
【0283】
2種のトランスジェニック系を作出することができる。第一の型において、導入遺伝子は、筋肉特異的プロモーター、例えば筋肉クレアチンキナーゼプロモーター(Sternbergら、前掲、1988)またはミオシン軽鎖エンハンサー/プロモーター(Donoghueら、前掲、1991)の制御下で、ミオスタチンインヒビターポリペプチドをコードしている。個々のトランスジェニック系は、骨格筋におけるtet調節因子の特異的発現についてスクリーニングされ、これら2種のプロモーターの各々についてのいくつかの個別の系統が選択され、認められたあらゆる作用が、例えば位置-特異的作用の組込みによるものではないことを確認するために試験される。ミオシン軽鎖プロモーター/エンハンサーの制御下に2種のtet調節因子を含む構築物が構築され、かつ前核注入のために使用され得る。第二の系統型において、導入遺伝子は、さらにtetオペレーター配列も含む最小CMVプロモーターの制御下にミオスタチンインヒビターポリペプチドを含む。
【0284】
ミオスタチンインヒビターは、ミオスタチンまたはミオスタチンプロドメインのドミナントネガティブ型であることができ、これは先に説明したように、ミオスタチン活性を阻害することができる。TGF-βファミリーメンバーのドミナントネガティブ型が説明されており(例えば、Lopezら、Mol. Cell Biol.、12:1674-1679, 1992;WittbrodtおよびRosa、Genes Devel.、8:1448-1462, 1994)、および例えば、変異体タンパク質分解性の切断部位を含み、これにより生物学的活性種へのプロセシングからタンパク質を保護する。内因性野生型遺伝子を伴う細胞において同時発現された場合、この変異体タンパク質は、野生型タンパク質との非機能性ヘテロ二量体を形成し、その結果ドミナントネガティブとして作用する。プロミオスタチン切断部位に変異を有する変異体ミオスタチンポリペプチドを構築することができ、かつ、293細胞における異なる比の野生型ミオスタチンとこの変異体の同時発現により、ドミナントネガティブ作用について試験することができる。これらの構築物により一過的にトランスフェクションされた293細胞の馴化培地を、ウェスタンブロット分析により試験することができ、かつこの変異体が、成熟C末端二量体の形成を阻止する能力を試験することができる。
【0285】
ミオスタチンプロドメインのみをコードしている発現構築物も利用することができる。先に説明したように、このプロドメインは、成熟C末端二量体と密な複合体を形成し、かつ成熟C末端ミオスタチン二量体の、培養物中の受容体を発現している細胞内のAct RIIBへ結合する能力を阻止する。TGF-β同様に、ミオスタチンプロドメインも、インビボにおいて不活性潜在性複合体内の成熟C末端二量体を維持することができる。
【0286】
これらのトランスジェニック動物は、tet調節因子を発現しているものにより繁殖し、tet調節因子およびインヒビター標的構築物の両方を含む二重トランスジェニック系を作出することができる。これらの二重トランスジェニック系を、異なる成分全てが適切に発現されているものについてスクリーニングすることができる。飲用水中ドキシサイクリン投与の前および後の、各系統の代表的マウスの様々な筋肉および対照組織から得たRNAを使用するノーザンブロット分析は、このようなトランスジェニック系の同定に使用することができる。ドキシサイクリンを有さないあらゆる組織において導入遺伝子を発現せず、かつドキシサイクリン存在下で筋肉のみにおいて導入遺伝子を発現するようなトランスジェニック系が、選択されると考えられる。
【0287】
ドキシサイクリンは、選択されたトランスジェニック動物へ投与され、かつ筋肉総量に対する作用が試験される。ドキシサイクリンを、妊娠中の母親に投与し、胚発生時のインヒビターの発現を誘導することができる。トランスジェニック動物発生期間のミオスタチン活性の阻止作用は、ミオスタチンノックアウトマウスにおいて観察された作用と比較することができる。tet調節因子の発現を駆動するためのプロモーターは、ミオスタチンが最初に発現される時点よりも発生中のより後期に誘導されうるので、トランスジェニックマウスにおける筋肉総量に対する作用は、ミオスタチンノックアウトマウスにおいて生じる作用と比較することができる。
【0288】
ミオスタチン活性を出生後阻害する作用を、出生後様々な時点でのドキシサイクリンの二重トランスジェニックマウスへの投与により試験することができる。ドキシサイクリン治療を、例えば3週齢で開始することができ、かつ動物を5月齢で分析することができるが、ミオスタチンノックアウトマウス対野生型マウスの筋肉重量の差異はこの年齢において最大であった。動物は、インヒビターの筋肉総量に対する作用について試験される。筋肉をさらに、組織学的に試験し、線維数および線維サイズに対する作用を決定することができる。加えて、トランスジェニックマウスの様々な筋肉の線維型の分析を行い、I型またはII型の線維に対する選択作用があるかどうかを決定することができる。
【0289】
ドキシサイクリンを異なる用量および異なる時点で投与し、ミオスタチンインヒビターの作用を特徴決定することができる。二重トランスジェニックマウスも、ドキシサイクリンにおいて慢性的に維持することができ、その後脂肪パッド重量および先に説明したような他の関連する代謝パラメータに対する作用を試験することができる。これらの試験結果は、ミオスタチン活性を出生後に調節することは、筋肉総量を増加するかもしくは脂肪蓄積を減少することを確認することができ、これにより、ミオスタチン標的化が臨床的に様々な筋肉消耗性および代謝性疾患の治療に有用であることを示すことができる。
【0290】
ミオスタチン
ミオスタチン導入遺伝子を含むトランスジェニックマウスを試験し、かつミオスタチン発現時に生じた作用を、ミオスタチンを発現しているCHO細胞を含むヌードマウスにおいて認められたものと比較することができる。先に説明されたのと同様に、ミオスタチンを、条件的(tet)および組織特異的な調節要素の制御下に置くことができ、かつトランスジェニックマウスにおけるミオスタチンの発現を、ヌードマウスにおいて認められるものと同様に消耗性症候群が生じるかどうかを決定するために試験することができる。ミオスタチン導入遺伝子は、例えば、SV40由来のプロセシングシグナルを含むことができ、その結果導入遺伝子は内因性ミオスタチン遺伝子から識別され得る。
【0291】
血清試料を、ミオスタチントランスジェニックマウスからドキシサイクリン投与後様々な時点で単離することができ、かつ血清中のミオスタチン導入遺伝子産物のレベルを決定することができる。これらの動物の総体重を経時的にモニタリングし、これらの動物が顕著な体重減少を示すかどうかを決定する。加えて、個々の筋肉および脂肪パッドを、単離して秤量し、かつ筋肉線維の数、サイズおよび種類を、選択された筋肉試料について試験することができる。
【0292】
ミオスタチン導入遺伝子発現のレベルは、動物へ投与されたドキシサイクリン用量の変化により、変動しうる。導入遺伝子発現は、例えば筋肉内の導入遺伝子RNAレベルのノーザンブロット分析、または血清中のミオスタチンタンパク質レベルを用い、モニタリングすることができる。ミオスタチン導入遺伝子発現の特異的レベルの同定は、ミオスタチンにより誘導された消耗の程度との相関を可能にする。これらのトランスジェニック系は、ミオスタチンノックアウトマウスと交雑し、ミオスタチン供給源のみを導入遺伝子から発現するマウスを作出することができる。発生期間中の様々な時点でのミオスタチン発現を試験することができ、かつ線維数、線維サイズおよび線維型に対するミオスタチンの作用を決定することができる。ミオスタチン発現が正確かつ迅速に制御されるマウスの利用可能性は、ミオスタチンシグナル伝達経路の更なる特徴決定、ならびにおそらくミオスタチンシグナル伝達の調節に有用である様々な物質の作用の試験のための強力な道具を提供する。
【0293】
ミオスタチンシグナル伝達の作用
骨格筋において特異的に発現される、TGF-βシグナル伝達経路の成分を含むことができる、ミオスタチンシグナル伝達経路のドミナントネガティブ型のいずれかを含むトランスジェニックマウスを作出することができる。本明細書に説明されたように、アクチビンII型受容体により誘導された経路を通してシグナル伝達を媒介するSmadタンパク質は、ミオスタチンシグナル伝達に関連することができる。
【0294】
Act RIIBは、ミオスタチンに高度に関連したGDF-11に結合することができ(McPherronら、前掲、1997;Gamerら、前掲、1999;Nakashimaら、Mech. Devel.、80:185-189, 1999)、かつ抑制性Smad2、Smad3、およびSmad4に結合することができるc-skiの発現は、筋肉成長に著しく作用する(Sutraveら、前掲、1990;Berkら、前掲、1997;さらにLuoら、前掲、1999;Stroscheinら、前掲、1999;Sunら、前掲、1999aおよびb;Akiyoshiら、前掲、1999参照)。本明細書に説明したように、ミオスタチンは、Act RIIBと特異的に相互作用し、その結果、その生物学的作用を、少なくとも一部は、インビボにおけるアクチビンII型受容体への結合およびSmadシグナル伝達経路の活性化により、発揮することができる。
【0295】
筋肉成長の調節におけるSmadシグナル伝達経路の役割は、Act RIIB/Smadシグナル伝達経路の特定の点で、阻止されるか、または阻止されることが可能であるトランスジェニックマウス系統を用いて試験することができる。筋肉クレアチンキナーゼプロモーターまたはミオシン軽鎖エンハンサー/プロモーターを使用し、Smadシグナル伝達経路の様々なインヒビターの発現を駆動することができる。
【0296】
このシステムに有用なインヒビターは、例えば、フォリスタチン;ドミナントネガティブAct RIIB受容体;ドミナントネガティブSmadポリペプチド、例えばSmad3;c-ski;または、抑制性Smadポリペプチド、例えばSmad7を含む。フォリスタチンは、GDF-11を含む、ある種のTGF-βファミリーメンバーの活性を結合および阻害することができる(Gamerら、前掲、1999)。アクチビンII型受容体のドミナントネガティブ型は、例えば、細胞外ドメイン、特にAct RIIB細胞外ドメインの可溶性型の発現により、またはキナーゼドメインを欠損しかつ変異を含む切断型Act RIIB受容体の発現により得ることができ、この変異体受容体はキナーゼ活性を欠損している。Smad7は、アクチビン、TGF-βおよびBMPにより誘導されたシグナル伝達経路を阻止することができる抑制性Smadとして機能する。Smad3のドミナントネガティブ型は、例えば、Smad3 C末端リン酸化部位の変異により構築することができ、これによりSmad3機能が阻止される(Liuら、前掲、1997)。c-skiの過剰発現は、トランスジェニックマウスにおける筋肉肥大に相関される(Sutraveら、前掲、1990)。
【0297】
トランスジェニックマウスを調製することができ、かつ各創始動物系統は、導入遺伝子の適切な筋肉特異的発現について試験される。選択されたマウスは、総体重、個々の筋肉重量、ならびに筋肉線維のサイズ、数および型について試験される。筋肉総量に対する明らかな作用を示しているこれらの系統を、さらに脂肪蓄積および先に説明した他の関連のある代謝パラメータについて試験することができる。アクチビン受容体/Smadシグナル伝達経路内の特定の段階を標的化するためのこれらの異なる物質の用途は、特に情報に富んでおり、その理由は異なる物質のシグナル伝達経路は異なる段階で重複するからである。例えば、フォリスタチンは、アクチビンおよびGDF-11活性に結合しかつ阻害するが、TGF-βには結合も阻害もしないのに対し、ドミナントネガティブSmad3は、アクチビンおよびTGF-βの両受容体を介してシグナルを阻止することができる。Smad7は、さらにより多面的(pleotropic)であることができ、その理由は、これはさらにBMP受容体を介してシグナルを阻止するからである。これらの試験は、ミオスタチン活性の調節のための特異的標的の同定を可能にし、従ってミオスタチンシグナル伝達を、その結果ミオスタチン活性を調節する薬物または他の物質を開発する様々な戦略を提供する。
【0298】
特に、本明細書に説明されたトランスジェニック系を使用し、出生後肥満症またはII型糖尿病の発生に対するミオスタチン機能またはSmadシグナル伝達経路の阻止の作用を決定することができる。例えば、インヒビター導入遺伝子を、ob/ob、db/db、およびAy変異体マウスと交雑することができる。ドキシサイクリン非存在下において、インヒビター導入遺伝子は発現されず、その結果これらの動物を、各親変異体マウスから識別できない。ドキシサイクリンの存在下において、インヒビターは、発現されてミオスタチン活性を阻止することができる。これらの変異体動物における代謝異常発生時のミオスタチン活性の阻止作用は、試験することができる。
【0299】
このインヒビターの発現を、作用を最大にするために、例えば3週齢のような、若年齢時に誘導することができる。加えて、代謝異常が重篤で不可逆的になる前に、ミオスタチン活性を阻止することができる。動物は、ドキシサイクリンで維持することができ、かつ脂肪蓄積およびグルコース代謝に関連するものを含む、先に説明したような様々な試験を用い様々な年齢で評価される。ob/ob、db/db、およびAy変異体動物において1個または複数の試験結果が異常となる年齢の遅れを同定することができる。同様の試験を、肥満症またはII型糖尿病の徴候を一部発症しているより高齢の動物を用いて行うことができ、脂肪重量およびグルコース代謝を含む様々なパラメータに対するミオスタチン活性の阻止作用を決定することができる。これらの試験の結果は、さらに肥満症またはII型糖尿病の予防または治療のために有効に操作することができる特異的標的を同定することができる。
【0300】
実施例 12 :悪液質誘導に対するミオスタチン作用の特徴決定
本実施例は、悪液質の発症および進行に対するミオスタチンシグナル伝達の役割を決定する方法を説明している。
【0301】
アクチビン受容体およびSmad経路は、少なくとも一部は、正常個体におけるミオスタチン活性の媒介に伴うシグナル伝達経路からなることができ、その結果、過剰なレベルのミオスタチンのために個体において生じる作用の媒介に伴いうる。本明細書に説明されたように、悪液質は、例えば少なくとも一部は異常に高いレベルのミオスタチンにより媒介され得る。このように、Smad経路を介してシグナル伝達を操作する方法は、一般的筋肉消耗および特に悪液質の治療のための薬物を開発する新規戦略を提供することができる。
【0302】
悪液質におけるSmadシグナル伝達経路の役割を、例えばインターロイキン-6(IL-6;Blackら、Endocrinology、128:2657-2659, 1991、これは本明細書に参照として組入れられている)、腫瘍壊死因子-I(TNF-I;Oliffら、Cell、50:555-563, 1987、これは本明細書に参照として組入れられている)、またはある種の腫瘍細胞により誘導される悪液質に対する、先に説明した様々なトランスジェニック系の易罹患性を試験することにより、調べることができる。IL-6およびTNF-Iの場合、これらのインヒビター導入遺伝子はバックグラウンドのヌードマウスと交雑でき、その後これらの動物はIL-6またはTNF-Iを産生するCHO細胞に供されるが、これは、この様式で過剰発現された場合にヌードマウスにおいて消耗を誘導できる。IL-6またはTNF-Iを過剰発現するCHO細胞は、ミオスタチン過剰産生細胞の作出について先に説明された方法を用いて調製することができる。例えば、TNF-I cDNAは、pMSXND発現ベクターへクローニングし(LeeおよびNathans、J. Biol. Chem.、263:3521-3527, 1988)、その後この発現構築物の増幅されたコピーを保持する細胞を、メトトレキセート濃度を段階的に増加し選択することができる。
【0303】
Lewis肺癌細胞(Matthysら、Eur. J. Cancer、27:182-187, 1991、これは本明細書に参照として組入れられている)または結腸26腺癌細胞(Tanakaら、J. Cancer Res.、50:2290-2295, 1990、これは本明細書に参照として組入れられている)のような、マウスにおいて悪液質を誘導し得る腫瘍細胞も、これらの試験に利用することができる。これらの細胞株は、マウスにおいて腫瘍として成長した場合に重症の消耗を引き起す。従ってこれらの腫瘍の作用を、本明細書に説明された様々なトランスジェニックマウスにおいて試験することができる。様々な腫瘍細胞は、ある種の遺伝的背景においてのみ成長することが認められている。例えば、Lewis肺癌細胞は、慣習的にC57 BL/6マウスにおいて増殖し、結腸26癌細胞は、慣習的にBALB/cマウスにおいて増殖する。従ってこれらの導入遺伝子を、これらまたは他の遺伝的背景へ戻し交雑し、腫瘍細胞の増殖を可能にすることができる。
【0304】
総体重、個々の筋肉重量、筋肉線維のサイズおよび数、餌摂取、ならびにグルコースレベルを含む血清パラメータを含む様々なパラメータをモニタリングすることができる。加えて、血清ミオスタチンレベルおよび筋肉のミオスタチンRNAレベルは、増大したミオスタチン発現が悪液質に関連していることを確認するために試験することができる。これらの試験結果は、これらの実験モデルにおいてミオスタチンの作用が、悪液質が誘導する物質の下流であることを確認することができる。さらにこれらの結果は、Smadシグナル伝達経路が、これらのモデルにおける悪液質発症に必須であることを確認することができ、かつ治療的恩典は、Smadシグナル伝達経路の調節による悪液質の治療において得られることを明らかにすることができる。
【0305】
実施例 13 :成長分化因子 -8(GDF-8) および GDF-11 受容体の同定および特徴決定
この実施例は、GDF-8(ミオスタチン)およびGDF-11についての細胞表面受容体を同定しかつ特徴決定する方法を説明している。
【0306】
精製したGDF-8およびGDF-11タンパク質は、主に生物活性のアッセイに使用されると考えられる。GDF-8およびGDF-11の作用と標的となる可能性のある細胞を同定するために、それらの受容体を発現している細胞を検索する。この目的のために、受容体結合試験用に、TGF-β(Cheifetzら、前掲、1987)、アクチビン(Suginoら、J. Biol. Chem.、263:15249-15252, 1988)、およびBMP(Paralkarら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、88:3397-3401, 1991)のような、このスーパーファミリーの他のメンバーを標識するためにうまく使用されるクロラミンT法を使用し、精製したタンパク質を放射性ヨウ素標識化した。GDF-8およびGDF-11の成熟プロセシング型は、各々複数のチロシン残基を含んでいる。2種の異なる方法を行い、これらのタンパク質の受容体を同定する。
【0307】
ひとつの方法により、受容体の数、親和性および分布が決定されると考えられる。培地において増殖された全細胞、胚もしくは成体組織の凍結切片、または組織もしくは培養細胞から調製した全ての膜画分のいずれかを、標識タンパク質と共にインキュベーションし、かつ結合したタンパク質の量または分布を決定する。細胞株または膜に関連する実験に関して、結合の量は、数回洗浄後皿の上の細胞へ結合した放射能の量、または膜の場合には、遠心後膜と共に沈積されかつフィルター上の膜に維持された放射能の量のいずれかの測定により決定することができる。細胞数がより限定される一次培養に関する実験について、結合部位は写真乳剤を積層することにより直接可視できる。凍結切片に関する実験について、リガンド結合部位は、これらの切片の高解像度Beta-maxハイパーフィルムへの曝露により可視化され;より細かい局在化が必要な場合は、切片を写真乳剤中に浸漬する。これらの実験全てに関して、特異的結合は、競合物としての過剰な非標識タンパク質の添加により決定される(例えば、LeeおよびNathans、前掲、1988参照)。
【0308】
第二の方法により、受容体が生化学的に特徴付けられると考えられる。膜調製物または可能性のある培養液中で増殖した標的細胞を、標識したリガンドと共にインキュベーションし、かつ受容体/リガンド複合体を、通常TGF-βスーパーファミリーのメンバーを含む様々なリガンドの受容体同定に使用される、スベリン酸ジスクシンイミジルを使用し共有結合により架橋する(MassagueおよびLike、J. Biol. Chem.、260:2636-2645, 1985)。架橋した複合体は、SDSポリアクリルアミドゲル上の電気泳動により分離し、過剰な非標識タンパク質の非存在下では標識したバンドが検出されたが、存在する場合には検出されなかった。推定受容体の分子量は、リガンドの分子量を減算して推定される。これらの実験が対処する重要な疑問点は、TGF-βスーパーファミリーの多くの他のメンバーのように、GDF-8およびGDF-11シグナルがI型およびII型受容体を介してシグナル伝達するかどうかである(MassagueおよびWeis-Garcia、前掲、1996)。
【0309】
これらの分子の受容体を検出する方法が一旦なされると、より詳細な分析が、結合親和性および特異性を決定するために実行される。スキャッチャード解析を使用し、結合部位の数および解離定数を決定する。GDF-8およびGDF-11の間の交差競合分析を行うことにより、これらが同じ受容体に結合可能であるかどうかおよびそれらの相対親和性を決定することが可能になる。これらの試験は、これらの分子が同じまたは異なる受容体を介してシグナル伝達するかどうかの指標を提供すると考えられる。他のTGF-βファミリーメンバーを用いる競合実験は、特異性を決定するために行う。これらのリガンドの一部は市販されており、他の一部はGenetics Institute社から入手できる。
【0310】
これらの実験について、様々な胚および成体の組織ならびに細胞株を試験する。骨格筋におけるGDF-8の特異的発現およびGDF-8ノックアウトマウスの表現型に基づき、最初の試験は、凍結切片を使用する膜調製物および受容体の試験に関する胚および成体の筋肉組織に焦点を合わせている。加えて、先に説明されたように、筋芽細胞を受精の様々な妊娠日数で胚から、もしくは衛星細胞を成体筋から、単離し培養する(VivarelliおよびCossu、Devel. Biol.、117:319-325, 1986;Cossuら、Cell Diff.、9:357-368, 1980)。異なる日数の培養後のこれらの初代細胞に対する結合試験を行い、かつ結合部位をオートラジオグラフィーにより局在化し、その結果結合部位を様々な筋原性マーカー、例えば筋肉ミオシンと同時局在化させ(Vivarelliら、J. Cell Biol.、107:2191-2197, 1988)、かつ多核筋管の形成のような細胞の分化状態を結合と相関させた。初代細胞の使用に加え、細胞株を利用し受容体を調べた。特に最初は、3種の細胞株、C2C12、L6およびP19に焦点をあてた。C2C12およびL6筋芽細胞は、培養物中で自然発生的に分化し、かつ具体的成長条件に応じて筋管を形成する(YaffeおよびSaxel、前掲、1977;Yaffe、前掲、1968)。P19胚性癌細胞は、DMSO存在下での骨格筋細胞(RudnickiおよびMcBurney、「奇形癌および肺幹細胞:実践アプローチ (Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A practical approach) 」(E.J. Robertson、IRL Press、ケンブリッジ、1987)を含む、様々な細胞型へ分化するように誘導されうる。受容体結合試験は、これらの細胞株において様々な成長条件下および様々な分化段階で行うことができる。最初の試験は筋肉細胞に注目しているが、他の組織および細胞型も、GDF-8およびGDF-11受容体の存在について試験される。
【0311】
組換えヒトGDF-8(rhGDF-8)ホモ二量体が、これらの結合試験において使用される。RhGDF-8を、CHO細胞を用いて発現させ、かつ純度約90%に精製した。rhGDF-8は、予想分子量25kDa〜27kDaを有し、かつ還元時に、12kDa単量体まで減少した。受容体-リガンド結合アッセイにおいてI-125標識したGDF-8を用い、2種の筋芽細胞株L6およびG-8をGDF-8に結合した。この結合は、非標識のGDF-8は標識リガンドの結合を効果的に競合したので、特異的であった。解離定数(Kd)は、370pMであり、L6筋芽細胞は高値の細胞表面結合タンパク質(5,000受容体/細胞)を有した。GDF-11(BMP-11)は、GDF-8に対し高度に相同性(>90%)であった。受容体結合試験は、GDF-8およびGDF-11が、L6筋芽細胞上の同じ結合タンパク質に結合したことを明らかにした。GDF-8が、公知のTGF-β受容体と結合するかどうかを確立することは、重要である。TGF-βは、GDF-8の結合とは競合せず、これはGDF-8受容体がTGF-β受容体とは異なることを示している。GDF-8受容体は、GDF-8に結合しない4種の筋芽細胞株C2C12、G7、MLB13MYC c14およびBC3H1を含む、全ての筋芽細胞株において発現されなかった。
【0312】
GDF-8およびGDF-11の受容体をコードする1個または複数の遺伝子を得ることができる。GDF-8およびGDF-11がそれらの生物学的作用を発揮する機構を理解する上での第一段階として、それらの受容体をコードしている遺伝子をクローニングすることは重要である。前記実験から、GDF-8およびGDF-11が同じ受容体または異なる受容体に結合するかどうかはより明らかであると考えられる。さらに、これらの受容体の組織および細胞型分布に関するかなりの情報があると考えられる。この情報を用いて、2種の異なる方法で受容体遺伝子がクローニングされる。
【0313】
第一の方法では、発現クローニング戦略が使用される。実際には、これは、マシューズ(Mathews)およびベール(Vale)(Cell、65:973-982, 1991)およびリン(Lin)ら(Cell、68:775-785, 1992)により当初使用された、最初のアクチビンおよびTGF-β受容体をクローニングするための戦略である。高親和性結合部位の最高相対数を発現している組織または細胞型由来のポリA選択RNAを得て、CMVプロモーターおよびSV40複製起点を含む哺乳類発現ベクターpcDNA-1中にcDNAライブラリーを調製するために使用した。ライブラリーをプレートに播種し、各プレートからの細胞をブロスへプールし、凍結した。各プール由来のアリコートを、DNA調製のために増殖させた。各個別のプールを、チャンバースライド内のCOS細胞へ一過的にトランスフェクションし、かつトランスフェクションした細胞をヨウ素化したGDF-8またはGDF-11と共にインキュベーションした。未結合のタンパク質を洗浄除去した後、リガンド結合部位を、オートラジオグラフィーにより可視化した。陽性プールが確定されたら、そのプールからの細胞をより低い密度で再度プレートに播種して、方法を繰り返した。その後陽性プールをプレートに播種し、個々のクローンをグリッドに取り、記載されたように再分析した(Wongら、Science、228:810-815, 1985)。
【0314】
最初に、プールサイズ1500クローンを用い、スクリーニングした。この複雑さの混合物中の陽性クローンの同定を確実にするために、TGF-βおよびクローニングしたII型受容体を使用する対照実験を行った。TGF-βII型受容体のコード配列を、pcDNA-1ベクターへクローニングし、かつこの構築物で形質転換した細菌を、本発明者らのライブラリーの細菌と、1:1500を含む様々な比で混合する。この混合物から調製したDNAを、次にCOS細胞へトランスフェクションし、ヨウ素化したTGF-βと共にインキュベーションし、オートラジオグラフィーにより可視化した。陽性シグナルが1:1500の比で観察された場合、1500クローンのプールをスクリーニングする。さもなければ、この方法が対照実験における陽性シグナルの確定に十分な感度があるような比に相当するより小さいプールサイズを使用する。
【0315】
同定されたTGF-βスーパーファミリーのメンバーの受容体のほとんどが、膜貫通セリン/トレオニンキナーゼファミリーに属する(MassagueおよびWeis-Garcia、前掲、1996)という事実を考慮し、GDF-8およびGDF-11受容体のクローニングを試みる第二の平行戦略も使用される。これらの受容体の細胞質ドメインは配列関連性があるので、縮重PCRプローブを使用してGDF-8およびGDF-11の結合部位を含む組織で発現されるこの受容体ファミリーメンバーをクローニングすることができる。実際に、これは、この受容体ファミリーのメンバーのほとんどを同定するために使用される方法である。一般的戦略により、公知の受容体の保存された領域に対応する縮重プライマーを設計し、これらのプライマーを、適当なRNA試料から調製したcDNA(ほとんど骨格筋由来)のPCRで使用し、PCR産物をサブクローニングし、かつ最後に個々のサブクローンを配列決定する。配列が同定されたので、これらをハイブリダイゼーションプローブとして使用し、更なる分析から二つ組クローンを排除する。次に同定された受容体を、それらの精製されたGDF-8およびGDF-11と結合する能力について試験する。このスクリーニングは小さいPCR産物のみを生じるので、完全長cDNAクローンは、適当な組織から調製したcDNAライブラリー由来の各受容体について得られ、pcDNA-1ベクターへ挿入し、COS細胞へトランスフェクションされ、かつトランスフェクションされた細胞がヨウ素化されたGDF-8またはGDF-11へのそれらの結合能についてアッセイされる。理想的には、このスクリーニングにより同定された全ての受容体を、これらのリガンドの結合能について試験する。しかし、同定される受容体の数は大きく、かつ完全長cDNAの全ての単離およびそれらの試験はかなりの労力を必要とする。同定されたいくつかの受容体はほとんど、公知の受容体に相当しており、かつこれらについては、他の研究者から完全長cDNAクローンを得るかまたは公表された配列ベースのPCRによりコード配列を増幅するかのいずれかで明白である。新規配列については、組織分布を、ノーザンブロット分析により決定し、かつその発現パターンが、先に決定したようなGDF-8および/またはGDF-11結合部位の分布に最も密に類似しているそれらの受容体を最も優先する。
【0316】
特に、これらの受容体は、I型およびII型の2種類に分けられることはことはわかっており、これらは配列に基づいて識別でき、かつ完全な活性には両方が必要とされる。。ある種のリガンドは、II型受容体の非存在下ではI型受容体には結合できないが、他のものは両方の受容体型に結合することができる(MassagueおよびWeis-Garcia、前掲、1996)。先に概説した交差架橋実験は、I型およびII型受容体の両方が、GDF-8およびGDF-11のシグナルにも関連しているかどうかのいくつかの指標を提供するはずである。そうであるならば、いかにしてGDF-8およびGDF-11がそれらのシグナルを伝達するかを完全に理解するために、これらの両受容体の亜型をクローニングすることは重要であろう。II型受容体非存在下で、I型受容体がGDF-8およびGDF-11と相互作用することが可能であるかどうかを予測することはできないので、II型受容体(複数)が最初にクローニングされる。少なくともひとつのII型受容体がこれらのリガンドについて同定された後のみ、GDF-8およびGDF-11のI型受容体の同定が試みられる。一般的戦略は、II型受容体の、PCRスクリーニングで同定された各I型受容体との同時トランスフェクションであり、その後のトランスフェクションされた細胞の架橋によるアッセイである。I型受容体がGDF-8またはCDF-11の受容体複合体の一部であるならば、2種の架橋した受容体種は、一方がI型受容体に相当し、他方がII型受容体に相当するトランスフェクションされた細胞で検出されなければならない。
【0317】
TGF-βスーパーファミリーの少なくともひとつのメンバー、すなわちGDNFは、GPI連結成分(GDNFR-α)および受容体チロシンキナーゼ(c-ret;Truppら、Nature、381:785-789, 1996;Durbecら、Nature、381:789-793, 1996;Treanorら、Nature、382:80-83, 1996;Jingら、Cell、85:1113-1124, 1996)を伴う、完全に異なる型の受容体複合体を介してシグナル伝達できるという事実により、GDF-8およびGDF-11受容体に関する検索はさらに複雑になる。GDNFは、TGF-βスーパーファミリーの最も関連性の低いメンバーであるが、他のTGF-βファミリーメンバーも類似の受容体システムを介してシグナル伝達することは確かに可能である。GDF-8およびGDF-11が類似した受容体複合体を介してシグナル伝達しないならば、この発現スクリーニング法は、この複合体の少なくともGPI連結した成分の同定が可能であるはずである(実際にはGDNFR-αは発現スクリーニング法を用いて同定される)。GDNFの場合、GDNF欠失マウスおよびc-ret-欠失マウスの表現型の類似により、c-retがGDNFの潜在的受容体であることが示唆されている。
【0318】
実施例 14 : GDF-11 ノックアウトマウスの調製および特徴決定
GDF-11ノックアウトマウスの表現型はいくつかの点で、アクチビンIIB型受容体(Act RIIB)を含むTGF-βスーパーファミリーの一部のメンバーについての受容体欠失を保有するマウスの表現型に類似している。GDF-11の生物学的機能を決定するために、GDF-11遺伝子を、胚性幹細胞における相同標的化により破壊した。
【0319】
マウス129 SvJゲノムライブラリーを、Stratagene社(La Jolla、CA)の示した指示に従い、λFIXIIにおいて調製した。GDF-11遺伝子の構造は、制限地図およびライブラリーから単離したファージクローンの部分的配列決定から推定した。標的構築物を調製するためのベクターは、フィリップソリアーノ(Philip Soriano)氏およびカークトーマス(Kirk Thomas)氏のご厚意により入手した。得られるマウスがGDF-11機能についてヌルであることを確認するために、全成熟C末端領域を欠失して、neoカセットで置き換えた。R1 ES細胞を、標的構築物でトランスフェクションし、ガンシクロビル(2TM)およびG418(250μg/ml)で選択してサザンブロット分析により分析した。
【0320】
GDF-11遺伝子の相同標的化は、8/155ガンシクロビル/G418二重耐性ES細胞クローンにおいて認められた。いくつかの標的化されたクローンのC57BL/6J線維芽細胞への注入後、C57BL/6Jおよび129/SvJの両方の雌と交雑した時に、ヘテロ接合性子(pup)を作出したひとつのESクローンからキメラを得た。C57BL/6J/129/SvJハイブリッドF1ヘテロ接合型の交雑は、49匹の野生型(34%)、94匹のヘテロ接合型(66%)、および0匹のホモ接合型の変異体成体子孫を生じた。同様に、129/SvJバックグラウンドにおいて、成体ホモ接合型ヌル動物は認められなかった(32匹野生型(36%)および56匹ヘテロ接合型変異体(64%)動物)。
【0321】
ホモ接合型変異体が死亡する年齢を決定するために、ヘテロ接合型雄と交配したヘテロ接合型雌から様々な妊娠年齢で摘出した胚の同腹仔を、遺伝子型決定した。全ての試験した胚段階において、ホモ接合型変異体胚は、ほぼ予想された頻度25%で存在した。ハイブリッドの新生仔マウス間で、予想されたメンデル比1:2:1(34匹+/+(28%)、61匹+/-(50%)、および28匹-/-(23%))で、様々な遺伝子型も現れた。ホモ接合型変異体マウスは、生存状態で誕生し、呼吸および授乳が可能であった。しかし全てのホモ接合型変異体は、誕生後すぐ24時間以内に死亡した。正確な死因は不明であるが、この致死性はホモ接合型変異体の腎は重度に発育不全であるかまたは完全に存在しないかのいずれかであるという事実が関与していた。
【0322】
ホモ接合型変異体動物は、それらの尾の重度の短縮化または喪失により容易に認めることができる。これらのホモ接合型変異体動物における尾欠損をさらに特徴付けるために、それらの骨格を試験し、尾椎の破壊の程度を決定した。しかし、後期胚および新生仔マウスの野生型と変異体の骨格標本の比較は、動物の尾部領域のみではなく、さらに多くの他の領域において異なることを明らかにした。差異が認められたほぼ全ての場合において、特定の分節がより前方分節の形態学的典型を有する様に見えるような椎骨分節のホメオティック変形を示す異常が出現していた。これらの変形は、頸部領域から尾部領域へと伸びる軸骨格を通じて明らかであった。軸骨格に認められた欠損を除き、頭蓋および四肢骨などの残りの骨格は正常と思われた。
【0323】
変異体新生仔動物の椎骨の前方変形は、胸部領域において最も容易に明らかであり、ここでは胸椎(T)分節の数が著しく増加した。試験した全ての野生型マウスは、その肋骨対に連結した13本胸椎の典型的パターンを示した。対照的に、ホモ接合型変異体マウスは、胸椎数の衝撃的な増加を示した。試験した全てのホモ接合型変異体は、4本〜5本の過剰な肋骨対を有し、全部で17本〜18本であったが、これらの動物の1/3以上が、第18番肋骨が未発達であるように見えた。このように、正常な腰椎(L)分節に相当する分節L1からL4またはL5は、変異体動物において胸椎分節に変形しているように見えた。
【0324】
さらに、ひとつの胸椎が別の胸椎の形態学的特徴を有するような胸部領域内の変形も明白である。例えば、野生型マウスにおいて、肋骨の最初の7対は胸骨に結合し、かつ残りの6対は結合していないかまたは遊離している。ホモ接合型変異体においては、結合および遊離の肋骨対の数は両方とも、各々、10本〜11本および7本〜8本に増加した。従って、胸骨分節T8、T9、T1O、および場合によっては野生型動物においては全て遊離肋骨を有するT11さえもが、変異体動物においては、より前方の胸骨分節の特徴的典型を有する、すなわち、胸骨に結合した肋骨が存在するように変形していた。この知見と一致するが、通常野生型動物においてはT10において認められる暫定の(transitional)棘突起および暫定の関節突起は、ホモ接合型変異体においては代わりにT13に認められる。別の胸部領域内の変形が、ある種の変異体動物においても認められた。例えば野生型マウスにおいて、肋骨は、通常胸骨の頂上に接触したT1に由来する。しかし試験した2/23ハイブリッドおよび2/3 129/SvJホモ接合型変異体マウスにおいて、T2は、T1に類似した形態を有するよう変形されているように見た。すなわち、これらの動物において、T2に由来した肋骨は、胸骨の頂上に接触するように伸びたT2に由来した。これらの場合、T1由来の肋骨は、第二の肋骨対に融合するように見える。最後に、ホモ接合型変異体の82%において、通常T2上に存在する長い棘突起は、T3の位置に偏っている。ある別のホモ接合型変異体において、脊椎胸椎肋骨対の非対称融合が、別の胸部レベルにおいて認められた。
【0325】
前方変形は、胸部領域に限定されていなかった。本発明者らが認めた前方のほとんどの変形は、第6頸椎(C6)のレベルであった。野生型マウスにおいて、腹側の2個の前方隆起(anterior tubericuli)の存在により、C6は容易に同定可能である。数匹のホモ接合型変異体マウスにおいては、これら2個の前方隆起の一方はC6に存在するが、他方は代わりにC7位に存在していた。従ってこれらのマウスにおいて、C7は、形態学的にC6と類似するように一部変形しているように見える。別のホモ接合型変異体のひとつは、C7上に2個の前方隆起を有するが、完全なC7からC6への変形、しかしC6からC5への部分的変形のために、ひとつはC6上に留まっていた。
【0326】
軸骨格の変形は、腰椎領域にも及んだ。野生型動物は通常わずかに6個の腰椎を有するが、ホモ接合型変異体は、8個〜9個を有していた。変異体における少なくとも6個の腰椎は、通常仙椎および尾椎を生じるような分節に由来しなければならず、先に説明されたデータは、4個〜5個の腰椎分節が、胸椎分節へ変形されていることを示唆している。従ってホモ接合型変異体マウスは、合計33個〜34個の仙骨前方椎を有するのに対し、野生型マウスは通常26個の仙骨前方椎を有する。最も一般的な仙骨前方椎パターン形成は、変異体マウスについてC7/T18/L8およびC7/T18/L9であるのに対し、野生型マウスについてはC7/T13/L6であった。後肢位置は前肢に比べ7分節〜8分節後方にずれているので、変異体動物におけるさらなる仙骨前方椎の存在は、骨格の詳細な実験を行わなくとも明らかであった。
【0327】
仙椎および尾椎は、ホモ接合型変異体マウスにおいても影響を受けるが、各変形の正確な性質は容易には確定できなかった。野生型マウスにおいて、仙骨分節S1およびS2は、典型的にはS3およびS4と比べて、広い横突起を有していた。これらの変異体において、確定可能なS1脊椎またはS2脊椎があるようには見えなかった。代わりに、変異体動物は、S3に類似した形態を有するように見える脊椎をいくつか有した。加えて、4個の仙椎の横突起は全て、通常互いに融合されているが、新生仔においては最初の3個の脊椎の融合のみが認められることが多い。しかしホモ接合型変異体において、仙骨の横突起は、通常融合していない。ほとんどの尾領域において、全ての変異体動物はさらに、軟骨の極度の融合を伴う、重度の脊椎奇形を有していた。融合の重症度は、尾領域において脊椎の総数を計測することを困難にしているが、最大15個の横突起が数匹の動物において数えられた。これらは変異体中の仙椎または尾椎を表しているかどうかを決定することはできず、その理由は、S4の尾椎からの識別の形態学的基準は、例え野生型新生動物であっても、確立することはできないからである。それらの同一性とは関わりなく、この領域の脊椎の総数は、正常な数約30個から有意に低下した。従って、変異体は野生型マウスよりも有意に多い胸椎および腰椎を有するが、分節の総数は、尾の短縮化により、変異体において低下した。
【0328】
ヘテロ接合型マウスも、軸骨格において異常を示したが、表現型はホモ接合型マウスにおけるよりもはるかに穏やかであった。ヘテロ接合型マウスにおける最も明らかな異常は、連結した肋骨対を伴う追加の胸骨分節の存在であった。この変形は、全ての試験したヘテロ接合型動物に存在し、かつ全ての場合において、追加の肋骨対は、胸骨に結合していた。従って、その連結肋骨が通常胸骨に届いていないようなT8は、より前方の胸椎の形態学的特徴へと変形されているように見え、かつL1は、後方胸椎の形態学的特徴に変形されているように見えた。他の前方変形の異常の指標も、ヘテロ接合型マウスにおいて異なる程度認められた。これらは、1分節だけのT2のT3を特徴とする長棘突起への偏り、T10からT11への関節突起および棘突起の偏り、C6からC7への前方隆起の偏り、ならびにT2からT1への肋骨が胸骨の頂上へ届くようT2連結している変形を含んだ。
【0329】
GDF-11変異体マウスにおいて認められる体軸パターン形成の異常の基礎を理解するために、発生の様々な段階で単離した変異体胚を試験し、野生型胚と比較した。肉眼での形態学的検査は、妊娠の9.5日目に単離されたホモ接合型変異体胚は、対応する野生型胚からは容易に識別できなかった。特に、いずれか所定の発生年齢において存在する体節の数は、変異体および野生型の胚の間で同じであり、このことは体節形成の速度が変異体において変わらないことを示している。10.5日目-11.5日目p.c.までに、変異体胚は、後肢の7体節-8体節の後方の位置移動により野生型胚から容易に識別できる。尾発生の異常も、この段階で容易に明らかであった。まとめると、これらのデータは、変異体骨格において認められた異常は、例えば体節発生(somitogenesis)の増強された割合による追加の分節の挿入ではなく、分節同一性の変形を表していることを示唆している。
【0330】
遺伝子を含むホメオボックスの発現の変更が、Drosophilaおよび脊椎動物において変形を引き起すことは公知である。Hox遺伝子(脊椎動物ホメオボックス含有遺伝子)の発現パターンが、GDE-11ヌル変異体において変更されたかどうかを調べるために、Hoxc-6、Hoxc-8およびHoxc-11の3種の代表的Hox遺伝子の発現パターンを、12.5日目p.c.に、全量インサイチュハイブリダイゼーションにより、野生型、ヘテロ接合型およびホモ接合型変異体の胚について決定した。野生型胚におけるHoxc-6の発現パターンは、椎骨前8-15に広がり、これは胸椎分節T1-T8に相当していた。しかしホモ接合型変異体において、Hoxc-6発現パターンは、後方に偏り、かつ椎骨前9-18(T2-T11)に広がっていた。同様の偏りが、Hoxc-8プローブにおいて認められた。野生型胚において、Hoxc-8は、椎骨前13-18(T6-T11)に発現されるが、ホモ接合型変異体胚においては、Hoxc-8は、椎骨前14-22(T7-T15)に発現される。最後にHoxc-11の発現も、発現の前方境界が、野生型胚の椎骨前28から、変異体胚の椎骨前36へと変化されるように後方へ偏っていた。(後肢の位置も変異体胚において後方へ偏っているので、野生型および変異体においてHoxc-11発現パターンは、後肢との関係に類似しているように見えることに注意)。これらのデータは、変異体動物において認められた骨格異常が、ホメオティック変形を意味していることの更なる証拠を提供する。
【0331】
表現型GDF-11のマウスは、GDF-11が胚発生時の早期に体軸パターン形成のグローバル調節因子として作用することを示唆している。GDF-11がこの作用を発揮する機構の試験を開始するために、早期マウス胚におけるGDF-11の発現パターンを、全載(whole mount)インサイチュハイブリダイゼーションにより試験した。これらの段階において、GDF-11発現の主要部位は、中胚葉細胞が作成されることが公知の部位に正確に相関していた。GDF-11の発現は、最初に8.25日目-8.5日目p.c.(8-10体節)に原始線条領域に検出されたが、これは移入された(ingressing)細胞が、発生中の胚の中胚葉を形成している部位である。発現は、8.75日目には原始線条において維持されたが、9.5日目p.c.までには、尾芽が新たな中胚葉細胞の給源としての原始線条と置き換わり、GDF-11の発現は尾芽に偏っていた。こうして、これらの早期段階において、GDF-11は、新たな中胚葉細胞が生じおよび恐らくそれらの位置的同一性を獲得している発生中の胚の領域において合成されるように見える。
【0332】
GDF-11ノックアウトマウスの表現型は、いくつかの点で、TGF-βスーパーファミリーのメンバーの一部の受容体、アクチビンIIB型受容体(Act RIIB)の欠失を保持するマウスの表現型に類似している。GDF-11ノックアウトマウスの場合のように、Act RIIBノックアウトマウスは、余分な肋骨対を有し、かつ発育不全腎から完全な腎の不在までの腎欠損のスペクトルを有する。これらのマウスの表現型の類似性は、Act RIIBはGDF-11の受容体である可能性を生じる。しかし、Act RIIBはGDF-11の単独の受容体であることはできず、その理由は、GDF-11ノックアウトマウスの表現型は、Act RIIBマウスの表現型よりもより重症であるからである。例えば、GDF-11ノックアウト動物は、4個〜5個の余分な肋骨対を有しかつ軸骨格を通じてホメオティック変形を示すが、Act RIIBノックアウト動物は、わずかに3個の余分な肋骨対を有しかつ他の体軸レベルでは変形を示さない。加えて、このデータは、GDF-11ノックアウトマウスの骨欠損が、Act RIIBノックアウトマウスのものよりもより重症であることを示唆している。Act RIIBノックアウトマウスは、肺異性のような左/右軸形成の欠損、および本発明者らがGDF-11ノックアウトマウスにおいて未だ観察されていない心欠損の範囲を示す。Act RIIBは、アクチビンおよびある種のBMPに結合することができるが、これらのリガンドにより作出されたノックアウトマウスは、左/右軸形成の欠損を示さない。
【0333】
GDF-11が中胚葉細胞に直接作用し位置的同一性を確立するならば、ここに提示されたデータは、GDF-11作用に関する短範囲またはモルフォゲンモデルのいずれかと一致するであろう。すなわち、GDF-11は中胚葉前駆体に作用し、これらの細胞はGDF-11発現の位置で作成されるので、Hox遺伝子発現のパターンを確立するか、あるいは、胚の後方末端で生成されたGDF-11は拡散し、モルフォゲン勾配を生じる。GDF-11の作用機構に関わらず、全体の(gross)前方/後方パターン形成は依然GDF-11ノックアウト動物において生じないという事実は、GDF-11が前方/後方特異化の単独の調節因子ではないことを示唆していると考えられる。それにもかかわらず、GDF-11が、体軸パターン形成の全体的調節因子として重要な役割を果たし、さらにこの分子の研究が、前方/後方体軸に沿った位置同一性はどのようにして脊椎胚において確立されるかという重要な新たな考察につながることは明らかである。
【0334】
同様の表現型が、GDF-8ノックアウト動物において予想される。例えば、GDF-8ノックアウト動物は、野生型と比較した場合に、増加した数の肋骨、腎欠損および解剖学的差異を有することが予想される。
【0335】
本発明は前記実施例を参照し説明されているが、本発明の精神および範囲内の修飾および変更が包含されることは理解されると考えられる。従って本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 マウスプロミオスタチン(配列番号:4);ラットプロミオスタチン(配列番号:6);ヒトプロミオスタチン(配列番号:2);ヒヒプロミオスタチン(配列番号:10);ウシプロミオスタチン(配列番号:12);ブタプロミオスタチン(配列番号:14);ヒツジプロミオスタチン(配列番号:16);ニワトリプロミオスタチン(配列番号:8)、七面鳥プロミオスタチン(配列番号:18);および、ゼブラフィッシュプロミオスタチン(配列番号:20)のアミノ酸配列を示す。アミノ酸は、ヒトプロミオスタチン(配列番号:2)に関連して番号付けした。破線は、相同性を最大にするために導入されたギャップを示している。配列間の同一残基には影をつけた。
【図2】 マウスプロミオスタチン(配列番号:4)およびゼブラフィッシュプロミオスタチン(配列番号:20)のアミノ酸配列、ならびにサケ対立遺伝子1プロミオスタチン(配列番号:27;「サケ1」)およびサケ対立遺伝子2プロミオスタチン(配列番号:29;「サケ2」)のアミノ酸配列の一部を示している。ヒトプロミオスタチンに対するアミノ酸の位置は、各列の左側に示した(図1と比較;サケ1の第一のアミノ酸は、ヒトプロミオスタチン218に相当し;サケ2の第一のアミノ酸は、ヒトプロミオスタチン239に相当している。)。破線は、相同性を最大にするために導入されたギャップを示している。ギャップを含む相対アミノ酸位置は、各列に先頭沿って示した。配列間の同一残基には影をつけた。
【配列表】
Claims (4)
- 配列番号:4に示したアミノ酸残基20位〜263位;
配列番号:2に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:10に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:12に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:8に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:6に示したアミノ酸残基20位〜263位;
配列番号:18に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:14に示したアミノ酸残基20位〜262位;
配列番号:16に示したアミノ酸残基20位〜262位;および
配列番号:20に示したアミノ酸残基20位〜262位
からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるミオスタチンプロドメインの実質的に精製されたペプチドであって、成熟ミオスタチンに特異的に結合することにより、該成熟ミオスタチンのミオスタチン受容体への結合を阻害する、ペプチド。 - 請求項1記載のペプチドをコードしている、実質的に精製されたポリヌクレオチド。
- 請求項2記載のポリヌクレオチドを含む、トランスジェニック非ヒト生物。
- 請求項1記載のペプチドに特異的に結合する、抗体。
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