以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
[有機電界発光素子用組成物の製造方法]
本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法は、有機電界発光素子の陽極と陰極の間に配置される、湿式成膜法により形成される有機層の成膜に用いる有機電界発光素子用組成物であって、有機電界発光素子材料を溶剤に溶解させてなる有機電界発光素子用組成物を製造する方法において、攪拌および/または加熱下に、該有機電界発光素子材料を該溶剤に溶解させ、該有機電界発光素子材料の溶解を目視にて確認した後、得られた溶液を、さらに3分以上攪拌および/または加熱した後、固液分離することを特徴とする。
以下において、上記目視による溶解確認前の溶解工程を「通常溶解工程」と称し、目視確認後の溶解工程を「仕上げ溶解工程」と称す。
なお、本発明の有機電界発光素子用組成物の製造に用いる有機電界発光素子材料および溶剤については、有機電界発光素子用組成物の説明の項において後述する。
{通常溶解工程}
溶解においては、有機電界発光素子材料と溶剤とを所定の割合で調製槽に投入して攪拌、加熱またはこれらを組み合わせた処理を行うことにより、有機電界発光素子材料を溶剤に溶解させる。
通常溶解工程において攪拌を行う場合、攪拌条件としては特に制限はなく、用いる有機電界発光素子材料の溶剤への溶解性等に応じて適宜決定されるが、攪拌翼等の攪拌手段の回転数として10rpm以上、特に50rpm以上で、1000rpm以下、特に700rpm以下とすることが好ましい。攪拌時の回転数が小さ過ぎると有機電界発光素子材料の溶解に時間を要したり、未溶解分が多くなり、製造歩留りが悪くなる恐れがある。攪拌時の回転数が大き過ぎると攪拌容器の壁へ付着し、未溶解分が残る可能性がある。
また、通常溶解工程において、加熱を行う場合、加熱の程度に特に制限はなく、用いる有機電界発光素子材料の溶剤への溶解性等に応じて適宜決定されるが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましは100℃以上で、通常400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下である。加熱温度が低過ぎると加熱を行ったことによる溶解促進効果を十分に得ることができず、高過ぎると溶液が十分に加熱されるまでの時間が長くなり、タクトタイムの観点から不利となる可能性がある。また、溶剤の沸騰による、溶液濃度の変化を避けるため、溶剤の沸点以下の温度で加熱することが好ましい。
通常溶解工程においては、攪拌と加熱のいずれか一つのみを行ってもよく、両方を組み合わせてもよい。好ましくは少なくとも攪拌を行い、更に必要に応じて攪拌下に加熱する方法である。また、攪拌および/または加熱に加えて、さらに超音波処理を行ってもよい。
この通常溶解工程においては、目視により、有機電界発光素子材料が溶剤中に溶解したことを確認する。目視とは、目により直接的に材料の溶解を確認する方法や、濁度やカメラ等を用いたモニタにより間接的に材料の溶解を確認する方法のことである。
この通常溶解工程は、目視により、有機電界発光素子材料が溶剤中に溶解したことを確認するまで行われる。従って、通常溶解工程に要する時間は、この溶解の確認までの時間であり、用いる有機電界発光素子材料の溶剤への溶解性や、攪拌条件、加熱条件、超音波処理条件によっても異なるが、通常3分以上、120分以下である。
この通常溶解工程により、目視により有機電界発光素子材料の溶解を確認した後、即ち、得られた溶液を目視により観察して、未溶解材料の存在が認められない状態になった後は、次の仕上げ溶解工程に移行する。
{仕上げ溶解工程}
仕上げ溶解工程においては、通常溶解工程後の溶液を更に攪拌、加熱またはこれらを組み合わせた処理を行ない溶解を促進させる。
仕上げ溶解工程において攪拌を行う場合、攪拌条件としては特に制限はないが、攪拌翼等の攪拌手段の回転数として10rpm以上、特に50rpm以上で、1000rpm以下、特に700rpm以下とすることが好ましい。この回転数が小さ過ぎると目視工程で確認することができなかった有機電界発光素子材料の微粒子の攪拌による溶解促進効果を十分に得ることができず、大き過ぎると微粒子が攪拌容器の壁へ付着し、それが核となり有機電界発光素子材料が析出する可能性がある。
また、仕上げ溶解工程において、加熱を行う場合、加熱の程度に特に制限はないが、通常50℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましは100℃以上で、通常400℃以下、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下である。加熱温度が低過ぎると加熱を行ったことによる溶解促進効果を十分に得ることができず、高過ぎると溶液が十分に冷えるまでの時間が長くなり、タクトタイムの観点から不利となる。また、溶液を高温から急冷すると有機電界発光材料が析出する可能性がある。
仕上げ溶解工程においては、攪拌と加熱のいずれか一つのみを行ってもよく、両方を組み合わせてもよい。好ましくは少なくとも攪拌を行い、更に必要に応じて攪拌下に加熱する方法である。また、攪拌および/または加熱に加えて、さらに超音波処理を行ってもよい。
この仕上げ溶解工程は3分以上行われる。この仕上げ溶解工程の時間が少な過ぎると仕上げ溶解工程を設けることによる溶解促進効果を十分に得ることができない。ただし、仕上げ溶解工程の時間が過度に長くても、処理時間に見合う溶解促進効果は得られず、徒に処理時間が長くなることにより生産性が損なわれ、好ましくない。従って、仕上げ溶解工程は、通常3分以上、好ましくは10分以上で、通常120分以下、好ましくは60分以下行われる。
[固液分離工程]
上記仕上げ溶解工程後は、目視で確認できない未溶解材料や異物を除くことを目的とし、得られた溶液を固液分離して、分離液を得る。
この固液分離方法としては特に制限はないが、最も簡便な手段としては、濾過による固液分離が挙げられる。
濾過による固液分離を行う場合、用いる手段としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過、熱時濾過、限外濾過などの濾過が挙げられる。
濾過に使用されるフィルターエレメントとしては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、セルロース、ガラス繊維、ポリプロピレン、アクリレート、ビスコースレーヨン、ナイロン、コットン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。中でも、経済的観点、溶液に対する安定性の観点から、セルロース、ポリプロピレン、PTFE、PFAがより好ましい。
溶液をフィルターエレメントに流通させる方法としては、本発明の効果を著しく損なわない限り制限されないが、クロスフロープロセス、デットエンド濾過等が挙げられる。
通常、フィルターエレメントとしては孔径1μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下のものを用いる。孔径が大きすぎれば濾過により未溶解材料を取り除けなくなる可能性があり、小さすぎれば容易に目詰まりを起こす可能性がある。
このような、通常溶解工程と仕上げ溶解工程とを経た溶液に対して、固液分離を行うことにより、目視では確認し得ないに溶解材料や異物を高度に除去して、均一な有機電界発光素子用組成物を得ることができる。
{好適態様}
本発明の方法により製造される有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子の陽極と陰極との間に配置される有機層を湿式成膜法により形成するための有機電界発光素子用組成物として用いられるが、特に、この有機電界発光素子用組成物は、以下のような有機層の形成に用いられることが好ましい。
(1) 有機電界発光素子の正孔注入層または正孔輸送層
本発明の有機電界発光素子用組成物を有機電界発光素子の正孔注入層または正孔輸送層の形成に用いることにより、ダークスポットや輝点、進行性欠陥が少ない有機電界発光素子を製造できるという効果が奏され、好ましい。
この場合、有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子材料として、正孔輸送性化合物を含有し、この正孔輸送性化合物を、上述の通常溶解工程、仕上げ溶解工程および固液分離工程を経て溶剤に均一溶解させて製造される。
(2) 有機電界発光素子の発光層
本発明の有機電界発光素子用組成物を有機電界発光素子の発光層の形成に用いることにより、ダークスポットや輝点、進行性の欠陥が少ない有機電界発光素子を製造できるという効果という効果が奏され、好ましい。
この場合、本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子材料として、発光材料および/または電荷輸送性化合物を含有し、この発光材料および/または電荷輸送性化合物を、上述の通常溶解工程、仕上げ溶解工程および固液分離工程を経て溶剤に均一溶解させて製造される。
(3) アントラセン環、ピレン環またはクリセン環を分子内に有する化合物を2種以上含む層
アントラセン環、ピレン環またはクリセン環を分子内に有する化合物の分子は平面性が高いため、溶解後析出する可能性が高い。また、目視で確認できない微粒子が素子基板上で輝点となる可能性も高い。そのため、本発明の有機電界発光素子用組成物が、有機電界発光素子材料としてアントラセン環、ピレン環またはクリセン環を分子内に有する化合物を2種以上含む場合、本発明の製造方法を適用することが好ましい。
このアントラセン環、ピレン環またはクリセン環を分子内に有する化合物を2種以上含む層とは通常発光層である。
このアントラセン環、ピレン環またはクリセン環を分子内に有する化合物としては、以下に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(4) 陽極に隣接して形成される有機層
本発明の有機電界発光素子用組成物により陽極に隣接して形成される有機層を形成する場合、微粒子や、析出物が陽極と接触することがなくなり、ダークスポットや輝点の形成、進行性欠陥や素子の短絡を阻止できるため好ましい。
この陽極に隣接して形成される有機層としては通常、正孔注入層または正孔輸送層が挙げられるが、何らこれらの限定されるものではない。
[有機電界発光素子用組成物]
次に、上述の本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法により製造される本発明の有機電界発光素子用組成物について説明する。
本発明の有機電界発光素子用組成物は、陽極および陰極の間に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等の機能性有機層のいずれかの一層を有する有機電界発光素子のうち、これらの有機層のうちの少なくとも何れか1層を湿式成膜法により形成するために用いられる成膜用組成物であって、有機電界発光素子材料および溶剤を含み、上記本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法により製造される。
{有機電界発光素子材料}
本発明の有機電界発光素子用組成物における有機電界発光素子材料の含有量は、通常0.0001wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上、また、通常90wt%以下、好ましくは70wt%以下、より好ましくは50wt%以下である。この含有量が上記下限より少ないと湿式成膜法により形成される薄膜の膜厚が薄くなり、素子としたときに、黒点や短絡の原因となる恐れがある。この含有量が上記上限より多いと湿式成膜法により形成される薄膜の膜厚が厚くなり、素子としたときに、駆動電圧が上昇したり、膜の不均一性(塗布ムラ)が生じやすくなり、輝度ムラが生じたりする恐れがある。
本発明における有機電界発光素子材料は、低分子であっても高分子であってもよく、本発明の効果を著しく損なわない限り用途に応じて任意に選択される。有機電界発光素子材料が低分子である場合、その分子量は通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。また、有機電界発光素子材料が高分子である場合、その分子量(以下、特に断りの無い限り、高分子の分子量は重量平均分子量を指す)は通常1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、また、通常2000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上の範囲である。
有機電界発光素子材料が低分子の場合、分子量が小さ過ぎると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が低くなりやすく、有機電界発光素子材料および形成される有機薄膜の耐熱性が著しく低下し、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし、素子性能の低下を引き起こす場合がある。高分子の場合は、低分子ほど顕著ではないものの、分子量が小さ過ぎるとやはり耐熱性の低下に起因する同様の不具合が引き起こされる場合がある。
一方、有機電界発光素子材料の分子量が大きすぎると、低分子、高分子いずれも有機電界発光素子材料の構造や組成物(インク)の調製に使用する溶剤の種類によっては溶剤に対する有機電界発光素子材料の溶解度が小さくなりすぎる場合があり、例えば、材料製造工程における精製が困難となる場合がある。また、成膜時に薄膜が形成されない部分が生じたり、形成された有機薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、素子としたときに、黒点の発生や短絡の原因となる場合がある。
<発光材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子材料として発光材料を含有していてもよい。この場合、本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、有機電界発光素子の発光層を形成するために使用される。
発光材料とは、不活性ガス雰囲気下、室温で、希薄溶液中における蛍光量子収率または燐光量子収率が30%以上である材料であって、希薄溶液中における蛍光スペクトルとの対比から、それを用いて作製された有機電界発光素子に通電した際に得られるELスペクトルの一部または全部が、該材料の発光に帰属される材料、と定義される。
発光材料としては、通常、有機電界発光素子の発光材料として使用されているものであれば限定されない。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。また、青色発光材料は蛍光発光材料を用い、緑色発光材料や赤色発光材料は燐光発光材料を用いるなど、組み合わせて用いてもよい。
なお、発光材料としては、溶剤への溶解性を向上させる目的で、分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基が導入されたりしている材料を用いることが好ましい。
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、蛍光発光材料は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、クリセン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。中でも、アントラセン、クリセン、ピレンおよびそれらの誘導体等が好ましい。
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン、クマリン、ジアミノアントラセン、Al(C9H6NO)3などのアルミニウム錯体およびそれらの誘導体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM(4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチレン)−4H−ピラン)系化合物、ベンゾピラン、ローダミン、ベンゾチオキサンテン、アザベンゾチオキサンテン等のキサンテンおよびそれらの誘導体等が挙げられる。
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を中心金属として含むウェルナー型錯体または非ウェルナー型有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられ、中でもより好ましくはイリジウム、パラジウムまたは白金である。
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
発光材料として用いる化合物の分子量は、低分子が好ましく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、π共役長の拡大に起因する発光色純度の低下を引き起こしたり、有機化合物の精製が困難となってしまったり、溶剤に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。また、後述する電荷輸送性材料と任意の比率で混合して用いてもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物が発光材料を含む場合、有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料の含有量は、0.000001wt%以上が好ましく、0.0001wt%以上がより好ましく、0.01wt%以上が特に好ましく、25wt%以下が好ましく、15wt%以下がより好ましく、12wt%以下が特に好ましい。
有機電界発光素子用組成物中の発光材料の含有量がこの下限を下回ると、有機電界発光素子用組成物中の固形分含有量が不足することにより成膜時に薄膜が形成されない部分が生じる、あるいは形成された薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、最終的に得られた素子の黒点の発生や短絡の原因となる等、所望の機能を十分に得ることが出来ない場合がある。また、有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送性材料に対する濃度の相対値が低下してしまい、電荷輸送性材料からの電荷あるいはエネルギーの移動が不十分となり、無効電流の増大による消費電力の低下や電荷輸送性材料そのものからの発光による色ずれなどが生じる場合もある。
一方、有機電界発光素子用組成物中の発光材料の含有量がこの上限を上回ると、成膜時に得られる薄膜の膜厚が厚くなりすぎ、素子の駆動電圧が上昇する、塗布ムラが生じやすくなり、素子発光面の輝度ムラの原因となる等、やはり所望の機能を十分に得られない場合がある。また、一般に濃度消光と呼ばれる発光材料分子間の相互作用の増大による消光現象や、乾燥時の発光材料の凝集、発光材料が発光層へ注入された電荷のトラップとして作用することによる駆動電圧の上昇や素子の耐久性の低下などが起こりやすくなる場合もある。
該含有量は、本発明の有機電界発光素子用組成物中に含まれる発光材料が複数ある場合には、その合計量を表す。
<電荷輸送性材料>
有機電界発光素子において、陽極および陰極から正負の電荷(以下、キャリア記述する場合がある)を効率よく取り出し、輸送し、必要に応じて前述の発光材料に効率よく供給することが望まれる。従って、本発明の有機電界発光素子用組成物は、有機電界発光素子材料としては、このような電荷輸送性材料(即ち、電荷輸送性化合物)を含有してもよい。電荷輸送性材料としては、正孔輸送性の化合物や電子輸送性の化合物が挙げられる。これらの電荷輸送性材料は、単独で用いてもよく、また、例えば前述の発光材料と任意の比率で混合して用いてもよい。発光材料と混合して用いる場合は、これら発光材料が電荷輸送性材料から電荷またはエネルギーを受け取って発光することが好ましい。
ここで、電荷輸送性材料の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、チオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン系化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、トリフェニレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピレン系化合物、ベンジジン系化合物、アントラセン系化合物、フェナントロリン系化合物、キノリン系化合物、ピリジン系化合物、トリアジン系化合物、オキサジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。これらは低分子であってもよいが、複数の任意の化合物が連結された高分子であってもよい。
より具体的には、4,4−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン系化合物(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(Journal of Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chemical Communications,1996年,pp.2175)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)、ポリビニルカルバゾール、ポリアニリン、ポリアルキルチオフェン等が挙げられる。
本発明における電荷輸送性材料は、低分子であっても高分子であってもよく、本発明の効果を著しく損なわない限り用途に応じて任意に選択される。電荷輸送性材料が低分子である場合、その分子量は通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。また、電荷輸送性材料が高分子である場合、その分子量(以下、特に断りの無い限り、高分子の分子量は重量平均分子量を指す)は通常1000000以下、好ましくは500000以下、より好ましくは300000以下、また、通常2000以上、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上の範囲である。
電荷輸送性材料が低分子の場合、その分子量が小さ過ぎると、ガラス転移温度や融点、分解温度等が低くなりやすく、電荷輸送性材料および形成される有機薄膜の耐熱性が著しく低下し、再結晶化や分子のマイグレーションなどに起因する膜質の低下や、材料の熱分解に伴う不純物濃度の上昇などを引き起こし、素子性能の低下を引き起こす場合がある。高分子の場合は、低分子ほど顕著ではないものの、分子量が小さ過ぎるとやはり耐熱性の低下に起因する同様の不具合が引き起こされる場合がある。
一方、電荷輸送性材料の分子量が大きすぎると、低分子、高分子いずれも電荷輸送性材料の構造や組成物(インク)の調製に使用する溶剤の種類によっては溶剤に対する電荷輸送性材料の溶解度が小さくなりすぎる場合があり、例えば材料製造工程における精製が困難となる場合がある。また、成膜時に薄膜が形成されない部分が生じたり、形成された有機薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、素子としたときに、黒点の発生や短絡の原因となる場合がある。
なお、上述した電荷輸送性材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる電荷輸送性材料の含有量は、0.000001wt%以上が好ましく、0.0001wt%以上がより好ましく、0.01wt%以上が更に好ましい。また、50wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、15wt%以下が更に好ましい。有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送性材料の含有量がこの下限を下回ると、形成される薄膜中の電荷輸送能力が低下することによる駆動電圧の上昇、あるいは発光効率の低下を引き起こす場合がある。加えて、有機電界発光素子用組成物中の固形分含有量が不足することにより、塗布成膜時に薄膜が形成されない部分が生じる、あるいは形成された薄膜の膜厚が薄くなりすぎるなどの問題が生じ、最終的に得られた素子の黒点の発生や短絡の原因となる等、所望の機能を十分に得ることが出来ない場合もあるため好ましくなく、一方、電荷輸送性材料の含有量がこの上限を上回ると、成膜時に得られる薄膜の膜厚が厚くなりすぎ、素子の駆動電圧が上昇する、塗布ムラが生じやすくなり、素子発光面の輝度ムラの原因となる等、やはり所望の機能を十分に得られない場合があるため、好ましくない。
また、本発明の有機電界発光素子用組成物が電荷輸送性材料と共に発光材料を含有する場合、有機電界発光素子用組成物中における電荷輸送性材料の含有量に対する発光材料の含有量の割合は、0.01wt%以上が好ましく、0.1wt%以上がより好ましく、1wt%以上が更に好ましい。また、50wt%以下が好ましく、30wt%以下がより好ましく、10wt%以下が更に好ましい。有機電界発光素子用組成物中の電荷輸送性材料の含有量に対する発光材料の含有量の割合がこの下限を下回ると、電荷輸送性材料からの電荷あるいはエネルギーの移動が不十分となり、無効電流の増大による消費電力の低下や電荷輸送性材料そのものからの発光による色ずれなどが生じるようになる。一方、この割合が上記上限を上回ると、一般に濃度消光と呼ばれる発光材料分子間の相互作用の増大による消光現象や、乾燥時の発光材料の凝集、発光材料が発光層へ注入された電荷のトラップとして作用することによる駆動電圧の上昇や素子の耐久性の低下などが起こりやすくなる。
{溶剤}
本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含有する。ここで、本発明における溶剤とは、20℃、1気圧の雰囲気において液体であり、本発明の有機電界発光素子用組成物に含有される発光材料や電荷輸送性材料を溶解することが可能な化合物である。
溶剤としては、一般的に市販されている極性または無極性の溶剤であれば特に制限は無いが、中でもベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン等の置換または無置換の芳香族炭化水素系溶剤、アニソール、安息香酸エステル、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル系溶剤、芳香族エステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状または環状アルカン系溶剤、酢酸エチル等のカルボン酸エステル系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン等の含カルボニル系溶剤、水、アルコール、環状エーテルなどが好ましく、湿式成膜時に乾燥速度が速くなりすぎ、膜厚ムラなどを生じないためにも、沸点が180℃以上の芳香族炭化水素系溶剤がより好ましく、中でも、トリメチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン、テトラリン、シクロヘキサノン、安息香酸エチルなどが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物中に、溶剤は1種類が含有されていてもよいし、2種類あるいはそれ以上の溶剤の組合せで含まれていてもよいが、通常1種類以上、好ましくは2種類以上、通常10種類以下、好ましくは8種類以下、より好ましくは6種類以下の組み合わせで含有されることが好ましい。
また、2種以上の溶剤を混合して使用する場合、その混合比についても、何ら限定されることはないが、最も混合比が多い溶剤が全溶剤中に通常1wt%以上、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上、また、通常100wt%以下、好ましくは90wt%以下、より好ましくは80wt%以下であり、最も混合比が少ない溶剤が全溶剤中に通常0.0001wt%以上、好ましくは0.001wt%以上、より好ましくは0.01wt%以上、また、通常50wt%以下となるような混合比であることが好ましい。
{その他の成分}
本発明の有機電界発光素子用組成物は、上述の電荷輸送性材料や発光材料、溶剤の他、レベリング剤、消泡剤、増粘剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物や電子供与性化合物などの電荷輸送補助剤、バインダー樹脂などを含有していてもよい。これらのその他の成分の有機電界発光素子用組成物中の含有量は、形成される薄膜の電荷移動を著しく阻害しないこと、発光材料の発光を阻害しないこと、形成される薄膜の膜質を低下させないことなどの観点から、通常50wt%以下である。
{溶剤濃度・固形分濃度}
本発明の有機電界発光素子用組成物を、後述の本発明の有機電界発光素子の発光層を形成するための発光層形成用組成物として用いる場合、有機電界発光素子用組成物中の溶剤の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50wt%以上、通常99.9999wt%以下、である。なお、溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、これらの溶剤の合計がこの範囲を満たすようにする。
また、発光材料、電荷輸送性材料等の全固形分濃度としては、通常0.01wt%以上、通常70wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
[有機薄膜]
本発明の有機薄膜は、上述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、好ましくは湿式成膜法により形成されたものであり、通常、有機電界発光素子の陰極と陽極との間の層として使用される。
ここで、湿式成膜法とは、後述の通りである。
本発明の有機薄膜の膜厚は用途に応じて適宜決定され、例えば、有機電界発光素子の発光層であれば、後述の如く、通常3nm以上、好ましくは5nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、陽極および陰極の間に少なくとも1層の湿式成膜法により形成される有機層を有し、この有機層、好ましくは、正孔注入層、正孔輸送層、発光層の1層または2層以上が、上述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成された本発明の有機薄膜よりなることを特徴とするものである。
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、ノズルジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ノズルジェット法が好ましい。これは、湿式成膜法において、成膜用組成物として用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物等に特有の液性に合うためである。
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図2を参照して説明する。
図2は本発明の有機電界発光素子10の構造例を示す断面の模式図であり、図2において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
{基板}
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
{陽極}
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
陽極2の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
{正孔注入層}
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。特に、以下詳述する正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含有する、湿式成膜法により形成された層であることが好ましく、とりわけ、本発明の有機電界発光素子用組成物により形成された層であることが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜法により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物、好ましくは本発明の有機電界発光素子用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、高分子化合物であっても、低分子化合物であってもよい。
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジジン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、これらを任意に組み合わせた低分子または高分子の材料等が挙げられる。
また、正孔輸送性化合物は、後述の正孔輸送層4に用いられる化合物として例示されている架橋性化合物や熱による構造変換型化合物を用いることも好ましい。
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物の1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物の1種または2種以上を併用することが好ましい。
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
[式(I)中、Ar1およびAr2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar3〜Ar5は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar1〜Ar5のうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
(上記各式中、Ar
6〜Ar
16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R
21およびR
22は、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。)]
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がさらに好ましい。
Ar1〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。この置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
R21およびR22が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
前記式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、WO2005/089024号公報に記載のものが挙げられる。
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、さらに好ましくは0.5wt%以上、また、通常70wt%以下、好ましくは60wt%以下、さらに好ましくは50wt%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、正孔輸送性化合物と共に電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(WO2005/089024号公報);塩化鉄(いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよいが、陽極からの正孔注入性および陰極側への正孔輸送性を確保する点から、その正孔注入層中の含有量は、80wt%以下であることが好ましい。
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成することができる。
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
成膜後の加熱手法は特に限定されないが、例として加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられ、これらの方法により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、オーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、オーブンおよびホットプレートが好ましい。
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ薄膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着法により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。 蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上、好ましくは50℃以下で行われる。
{正孔輸送層}
本発明の有機電界発光素子は正孔輸送層4を有することが好ましい。
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
特に、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層を形成してなる本発明の有機電界発光素子においては、正孔注入層と発光層との間の正孔注入障壁を緩和し、駆動電圧の低減や層界面への正孔の蓄積による材料の劣化の抑制や、発光層への正孔注入効率の向上による発光効率の向上などの観点から正孔輸送層を有し、また、この正孔輸送層は、正孔注入層を均一に被覆し、更には陽極由来の突起部や、パーティクルなどによる微小な異物を洗い流す、あるいは被覆する等の観点から、湿式成膜法により、好ましくは、本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて、湿式成膜法により形成されることが好ましい。
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。ただし、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール誘導体などが挙げられる。また、例えばポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953号公報)、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン(Polym.Adv.Tech.,7巻、33頁、1996年)等が挙げられる。
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
真空蒸着により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
正孔輸送層4は架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。ここで、架橋性化合物は、架橋基を有する化合物であって、架橋することによりポリマーを形成する。架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
架橋性化合物の架橋基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合;ベンゾシクロブタンなどが挙げられる。
架橋性化合物、すなわち、架橋基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーが有する架橋基の数に特に制限はないが、単位電荷輸送ユニットあたり通常2.0未満、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下となる数が好ましい。これは正孔輸送層形成材料の比誘電率を好適な範囲に調整するためである。また、架橋基の数が多すぎると、反応活性種が発生し、他の材料に悪影響を与える可能性があるためである。ここで、単位電荷輸送ユニットとは、架橋性ポリマーを形成する材料がモノマー体の場合、モノマー体そのものであり、架橋基を除いた骨格(主骨格)のことを示す。他種類のモノマーを混合する場合においても、それぞれのモノマーの主骨格のことを示す。架橋性ポリマーを形成する材料がオリゴマーやポリマーの場合、有機化学的に共役がとぎれる構造の繰り返しの場合は、その繰り返しの構造を単位電荷輸送ユニットとする。また、広く共役が連なっている構造の場合には、電荷輸送性を示す最小繰り返し構造、乃至はモノマー構造を示す。例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、ペリレンなどの多環系芳香族、フルオレン、トリフェニレン、カルバゾール、トリアリールアミン、テトラアリールベンジジン、1,4−ビス(ジアリールアミノ)ベンゼンなどが挙げられる。
さらに、架橋性化合物としては、架橋基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。この場合の正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
特に、この架橋性化合物としては、下記式で表される基を有する架橋性化合物であることが反応速度の大きさや反応温度の低さ、副反応の少なさなどの点から好ましい。
また、本発明に係る正孔輸送層は、下記式(U1)または(U2)で表される構造を有する、熱による構造変換型化合物を用いて形成されることが反応速度の大きさや反応温度の低さ、副反応の少なさなどの点で好ましい。
(式(U1)中、環A0は熱解離可溶性基が結合する芳香族炭化水素環を表す。該芳香族炭化水素環は置換基を有していてもよい。また、該置換基同士が直接または2価の連結基を介して環を形成していてもよい。
S1、S2、R1〜R6は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールアミノ基、置換基を有していてもよいへテロアリールアミノ基または置換基を有していてもよいアシルアミノ基を表す。
式(U2)中、環B0は熱解離可溶性基が結合する芳香族炭化水素環を表す。該芳香族炭化水素環は置換基を有していてもよい。また、該置換基同士が直接または2価の連結基を介して環を形成していてもよい。
S11〜S14、R11〜R16は、それぞれ独立に、上記S1、S2、R1〜R6として示したものと同様である。)
架橋性化合物の分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜法により成膜し、その後架橋性化合物を架橋させる。
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤;などが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
また、正孔輸送層形成用組成物は、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤、電子受容性化合物、バインダー樹脂などを含有していてもよい。
この正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01wt%以上、好ましくは0.05wt%以上、さらに好ましくは0.1wt%以上、通常50wt%以下、好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは10wt%以下含有する。
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させてポリマー化する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されないが、例としては加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥の場合の加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の手段を採用することができる。
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
{発光層}
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
本発明の有機電界発光素子において、発光層5は、好ましくは前述の本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法により形成される本発明の有機薄膜である。従って、本発明に係る発光層5に含まれる発光材料、電荷輸送性化合物の具体例としては、前述の本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる発光材料、電荷輸送性材料の具体例として例示したものと同様であり、これらはそれぞれいずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて発光層5を形成するには、この有機電界発光素子用組成物を湿式成膜後、得られた薄膜を乾燥し、溶剤を除去する。ここで、湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。湿式成膜の具体的な方法は、上記正孔注入層3の形成において記載した方法と同様である。
このようにして形成される発光層5の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
また、発光層5における発光材料の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05wt%以上、通常35wt%以下である。発光材料が少なすぎると発光ムラを生じる可能性があり、多すぎると発光効率が低下する可能性がある。なお、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
また、発光層5が電子輸送性化合物を含む場合、発光層5における電子輸送性化合物の含有割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。発光層中の電子輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、発光層中に2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
また、発光層5が正孔輸送性化合物を含む場合、発光層5における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1wt%以上、通常65wt%以下である。発光層中の正孔輸送性化合物が少なすぎると短絡の影響を受けやすくなる可能性があり、多すぎると膜厚ムラを生じる可能性がある。なお、発光層中に2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにする。
{正孔阻止層}
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔が陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層6の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
{電子輸送層}
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子輸送層7の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し、優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
{陰極}
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
上記説明にある層の他に有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は、電子阻止層を設けることが効果的である。
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層5を本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて湿式成膜法で作製する場合、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号公報記載)等が挙げられる。
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はなく、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法を採用することができる。
さらに陰極9と発光層5または電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図2の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V2O5)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
[有機EL表示装置]
本発明の有機EL表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機EL表示装置を形成することができる。
[有機EL照明]
本発明の有機EL照明は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機EL照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
<実施例1>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
以下の手順で本発明に従って、有機電界発光素子用組成物を製造した。
有機電界発光素子材料として、下記構造で示される電荷輸送性材料BH−1、発光材料BD−1を用い、溶剤として脱水トルエンを用いて、BH−1とBD−1を100対10の重量割合で混合し、この混合物を0.8wt%の濃度となるように脱水トルエンに溶解させた有機電界発光素子用組成物(発光層形成用組成物)を製造した。
まず、BH−1およびBD−1と溶剤の脱水トルエンとを、上記濃度となるように調製し、80℃、300rpmで、15分間加熱および攪拌して、有機電界発光素子材料を溶剤に溶解させた(通常溶解工程)。得られた溶液を目視観察したところ溶解状態を確認することができたので、更に、80℃、300rpmで、3分間加熱攪拌した(仕上げ溶解工程)。
次いで、孔径0.2μmのPTFEメンブレンフィルターエレメントを使用して溶液を濾過し、濾液を有機電界発光素子用組成物として得た。
この有機電界発光素子用組成物を「有機電界発光素子用組成物A」とした。
[有機電界発光素子の製造]
図1に示す有機電界発光素子を製造した。
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を厚さ150nmに成膜したもの(スパッタ成膜品、シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術により2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。陽極2を形成した基板1を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄等の処理を行った。
該処理後の基板上に以下の通り、正孔注入層3を形成した。
正孔注入層に用いる正孔輸送性化合物として、以下に示す繰り返し構造の芳香族アミン系高分子化合物PB−1(重量平均分子量:29400、数平均分子量:12600)、以下に示す構造の電子受容性化合物Pl−1、および溶剤として安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。該正孔注入層形成用組成物における、芳香族アミン系高分子化合物PB−1および電子受容性化合物Pl−1の合計の濃度は2wt%であり、芳香族アミン系高分子化合物PB−1および電子受容性化合物Pl−1の重量比は、(芳香族アミン系高分子化合物PB−1):(電子受容性化合物Pl−1)=10:4であった。
該正孔注入層形成用組成物を上記処理後の基板上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒でスピンコートした。その後、230℃で、180分間、加熱乾燥を行った。
以上の操作により膜厚30nmの均一な正孔注入層3の薄膜が形成された。
次いで、形成された正孔注入層3上に、以下の通り、正孔輸送層4を形成した。
架橋性化合物として、以下に示す繰り返し構造の高分子化合物HT−1(重量平均分子量:17000、数平均分子量:9000)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。該正孔輸送層形成用組成物における、該高分子化合物HT−1の濃度は0.4wt%であった。
該正孔輸送層形成用組成物を正孔注入層3上に、スピナ回転数500rpm、スピナ回転時間2秒、そしてスピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒の2段階でスピンコートした。その後、230℃で、60分間、加熱して、該高分子化合物HT−1を架橋反応させて硬化させた。
以上の操作により、膜厚22nmの均一な正孔輸送層4の薄膜が形成された。
次いで、形成された正孔輸送層4上に、以下の通り、発光層5を形成した。
発光層5の形成には、上記有機電界発光素子用組成物Aを用いた。
この有機電界発光素子用組成物を正孔輸送層4上に、スピナ回転数500rpm、スピナ回転時間2秒、そしてスピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒の2段階でスピンコートした。その後、130℃で、60分間、加熱して乾燥させた。
以上の操作により、膜厚57nmの均一な発光層5の薄膜が形成された。
次いで、形成された発光層5上に、真空蒸着法により正孔阻止層6として以下に示す化合物HB−1を膜厚10nmとなるように形成した。
次いで、形成された正孔阻止層6上に、真空蒸着法により電子輸送層7として以下に示す化合物ET−1を膜厚30nmとなるように形成した。
次いで、形成された電子輸送層7上に、真空蒸着法により電子注入層8としてフッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmに、陰極9としてアルミニウムを膜厚80nmとなるように、陽極2と直交する2mm幅のストライプ状に形成した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
この素子について、性能評価を行い、結果を表1に示した。
<実施例2>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
仕上げ溶解工程として、10分間加熱攪拌工程を行い、濾過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子用組成物Bを製造した。
[有機電界発光素子の製造]
発光層の形成に当たり、有機電界発光素子用組成物Aに代えて、有機電界発光素子用組成物Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を製造し、同様に性能評価を行い、結果を表1に示した。
<比較例1>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
通常溶解工程のみを行い、仕上げ溶解工程と濾過を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子用組成物Cを製造した。
[有機電界発光素子の製造]
発光層の形成に当たり、有機電界発光素子用組成物Aに代えて、有機電界発光素子用組成物Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を製造し、同様に性能評価を行い、結果を表1に示した。
<比較例2>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
通常溶解工程と仕上げ溶解工程のみを行い、濾過を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子用組成物Dを製造した。
[有機電界発光素子の製造]
発光層の形成に当たり、有機電界発光素子用組成物Aに代えて、有機電界発光素子用組成物Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を製造し、同様に性能評価を行い、結果を表1に示した。
<比較例3>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
仕上げ溶解工程を行わず、通常溶解工程後濾過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子用組成物Eを製造した。
[有機電界発光素子の製造]
発光層の形成に当たり、有機電界発光素子用組成物Aに代えて、有機電界発光素子用組成物Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を製造し、同様に性能評価を行い、結果を表1に示した。
<比較例4>
[有機電界発光素子用組成物の製造]
仕上げ溶解工程として、1分間加熱攪拌工程を行い、濾過を行ったこと以外は、実施例1と同様にして有機電界発光素子用組成物Fを製造した。
[有機電界発光素子の製造]
発光層の形成に当たり、有機電界発光素子用組成物Aに代えて、有機電界発光素子用組成物Fを用いたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を製造し、同様に性能評価を行い、結果を表1に示した。
<性能評価/測定方法>
[駆動電圧]
駆動電圧の測定方法は、作製した有機電界発光素子に、最初に直流一定電流を通電したときの輝度が、3000nitとなる電圧を測定した。
[輝度半減期]
輝度半減期の測定方法は、作製した有機電界発光素子に、試験時直流一定電流を通電したときの輝度が3000nitとなる電圧をかけたときの輝度変化をフォトダイオードにより観察することにより行ない、輝度値が試験開始時の半分、すなわち1500nitとなるまでの時間(輝度半減期)を求めた。通電試験は、室温を空調により23±1.5℃に制御した室内で行なった。
[発光素子表面の輝点の数]
1枚の基板内に2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を1素子とし、4素子における発光面に見える全輝点数の平均個数を測定した。
表1の結果から、本発明の製造方法により製造された有機電界発光素子用組成物を用いて、ダークスポットや輝点が少なく、駆動電圧、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を製造することができることが分かる。