JP5141327B2 - 溶銑予備処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転炉型の精錬容器を用いた溶銑予備処理方法に関するものである。
溶銑の脱りん、脱炭を、すべて、同一の転炉内で同時に行う転炉製鋼法に替り、脱炭に先立って、溶銑の脱りんを、脱炭とは別の容器で行う溶銑予備処理方法が広く用いられるようになった。溶銑予備脱りん処理においては、溶銑に酸化鉄をはじめとする固体酸化材と脱りん用フラックスを添加して脱りん精錬を行う方法が一般的である。
従来、溶銑の脱りん法としては、トピードカー内の溶銑に脱りん用フラックス(酸化鉄などの固体酸化材と生石灰等)をインジェクションして予備脱りんを行う方法、または、取鍋内の溶銑に対して脱りん用フラックスをインジェクションする方法、が用いられている。
しかしながら、これらの方法は、攪拌が弱く、フリーボードが小さいという精錬容器の制約から、スラグ中の全鉄濃度(一般に、スラグの成分分析に用いられている蛍光X線分析法では、金属鉄、FeO、Fe23などの形態別に分析することができず、それらのFe分の合計値が分析値として得られるので、Fe分の合計値を全鉄濃度という。製鋼スラグの場合、Feは、主にFeOの形で存在しているため、全鉄濃度を用いても、大きな誤差はない。以下、スラグ中の全鉄濃度を(T.Fe)と記載する場合がある。)が低く、塩基度(スラグ中のCaOとSiO2の質量濃度比で、以下、CaO/SiO2と記載する場合がある。)が高いスラグでの処理とならざるを得ず、脱りん効率の面で課題があった。
また、高塩基度の条件下で、スラグの滓化と反応効率を維持するためには、蛍石の使用が必須であった。さらに、酸化材として酸化鉄を用いているため、その分解・吸熱により、脱りん処理中に温度が低下し、次工程である転炉でのスクラップ消費量が低下し、溶鋼生産量が低減するという問題があった。
そこで、酸化鉄の代わりに気体酸素を用いる試みもなされたが、気体酸素を用いた場合には、スラグの(T.Fe)が高くなるため、脱炭反応も促進され、その結果、スラグのフォーミングが発生し、脱りん処理が継続できないという問題があった。
これに対して、最近では、溶銑予備処理容器として転炉型の精錬容器を用いて脱りんを行う溶銑予備処理法が用いられるようになってきた。転炉型の特徴である強攪拌を利用するので、塩基度の低いスラグを用いても、脱りんを促進させることができ、蛍石を使用せずに脱りんを行うことが可能である。
さらに、フリーボードが大きいため、スラグフォーミングの制約も少なくなり、酸化材として気体酸素を用いることができるので、固体酸化材のみを用いる従来法に比較して、予備処理後の溶銑温度を高く保つことができ、脱炭処理を含めた精錬全体での熱裕度を確保することができる。
しかしながら、この方法でも、脱りん処理後のスラグ中のりん酸濃度は、高々数質量%程度であり、脱りん反応効率という意味では、十分でない。
一方で、りんは、鋼の要求特性からは有害元素であるが、植物の生育には不可欠な元素のひとつであり、りん酸濃度の高いスラグは、りん酸肥料として利用できる可能性がある。さらに、高濃度のりん酸を含むスラグが得られれば、そこから、工業用りん酸を回収することも不可能ではない。
しかしながら、通常の高炉溶銑のりん濃度では、前述のように、転炉型の予備脱りん法であっても、得られるスラグ中のりん酸濃度は、高々数質量%程度と低く、りん酸資源の活用にまでは至らない。
スラグ中のりん酸濃度を高め、石灰の反応効率を高くするためには、事前に脱Si処理を行い、Si濃度を低下させた溶銑を脱りんすることで、生成するスラグ量を削減することが効果的である。脱りん量が同一である場合、生成スラグ量が減少すれば、スラグ中のりん酸濃度が増加するのは自明であり、そのために、処理前のSi濃度をあらかじめ低下させる技術が、例えば、特許文献1に示されている。
この方法では、生成したりん酸を固定するために、精錬能の高いスラグを生成させる必要があり、一般には、スラグの塩基度を高めることが求められる。しかしながら、単純にスラグの塩基度を高めると、スラグの融点が上昇して、スラグを溶融状態に維持することができなくなり、脱りんが進行しなくなるので、媒溶材として、蛍石を添加することが必須であった。
このため、生成した脱りんスラグは、高濃度のFを含有し、環境規制上、その処理に大きな課題があった。
特開2004−156146号公報
本発明は、転炉型の精錬容器を用いた溶銑予備処理方法において、蛍石を使用することなく、少ないフラックス原単位で効率的な脱りんを行い、スラグ中のりん酸濃度を高めることが可能な溶銑予備方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、下記のとおりである。
(1)転炉型の精錬容器を用いて溶銑の脱りん処理を行う方法において、溶銑中のP濃度[質量%P]と溶銑中のSi濃度[質量%Si]が、下記[1]式の範囲になるように脱りん処理前のP濃度およびSi濃度のいずれかまたは両方を調整した溶銑に、CaOを主体とする脱りん材を添加するとともに酸素源を供給し、脱りん処理により生成するスラグ中の全鉄濃度(質量%T.Fe)を10%以上45%以下、 濃度を10質量%以上、脱りん処理後の溶銑中のP濃度を0.05質量%以上、脱りん処理後温度を1350〜1400℃に制御することを特徴とする溶銑予備処理方法。
0.1≦[質量%Si]≦1.87([質量%P]−0.05) …[1]
(2)前記溶銑に添加するT.CaO(脱りん用CaO原単位)を、下記[2]〜[4]式で定まる範囲とすることを特徴とする前記(1)に記載の溶銑予備処理方法。
T.CaO(kg/トン−溶銑)=α(1+k)[質量%Si]×600/28
…[2]
1.1≦α≦1.5 …[3]
k=0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si] …[4]
(3)前記CaOを主体とする脱りん材の添加を、2回以上に分割して行うことを特徴とする前記(1)または(2)に記載の溶銑予備処理方法。
本発明によれば、蛍石を使用することなく、少ないフラックス原単位で、効率的な脱りんが可能となり、さらに、生成するスラグ中のりん酸濃度を高めることが可能であることから、生成スラグのりん酸肥料としての利用や、生成スラグからのりん酸の回収を容易にすることができる。よって、本発明は、りん酸資源の活用の点で、産業上大きな効果が期待できるものである。
一般に、溶銑脱りんは、生成したりん酸を、CaOとの化合物として固定することで、実現される。しかし、その過程において、液体スラグと溶銑間で、脱りん反応を起こさせる必要があり、単に、固体石灰を溶銑に添加しても、脱りんは生じない。
したがって、溶銑予備処理温度である1250〜1400℃の範囲において、液体組成を持つスラグを生成させるように、スラグ組成を制御する必要がある。従来、一般的に行われてきた方法は、石灰が、酸素の供給によって生成するSiO2やFeOと反応して融体化することにより、CaO−SiO2−FeO系のスラグを生成させる方法である。
ここで、CaO−SiO2−FeO系状態図(例えば、E.M.Levin, C.R.Robbins, H.F.McMurdie: Phase Diagram for Ceramists, Vol.1 (1964), p204[The American Ceramic Society]、参照)によれば、CaO/SiO2の上限は、1400℃、FeO=50質量%としても、1.5程度であるから、この方法では、予備処理温度において液体スラグとするためには、CaO/SiO2を1.5未満の低塩基度にする必要がある。
しかし、スラグの精錬能力は、一般に、塩基度とともに向上するため、この方法では、スラグの精錬能力に限界がある。そのため、脱りんには、多量のスラグが必要となり、石灰などの脱りん材も、多量に必要であった。
塩基度を高めてスラグの精錬能力を高めれば、少量のスラグで、効率のよい脱りんが可能になると考えられるが、ただ単に、塩基度を高めても、添加した石灰が溶解しないばかりか、むしろ、スラグの液体部分の量が減少してしまうため、脱りん効率は悪化する。
極端な例では、事前に溶銑の脱Si処理を行って、Si濃度を、ほぼゼロまで極端に低くした溶銑に、石灰のみを添加してみると、溶融スラグが生成せず、脱りん反応もまったく起こらない。
したがって、CaO/SiO2を高めた条件での脱Pでは、蛍石などのような媒溶材が必須となっていた。
これに対して、本発明者らは、脱りん処理で生成するりん酸そのものを媒溶材として使えないかと考え、鋭意検討したところ、ある一定のスラグ組成・メタル組成に制御することで、塩基度を高くしても、流動性と脱りん能を保ち、高いりん酸濃度のスラグが得られることを見出した。
まず、蛍石の添加なしに、溶銑予備処理温度で、液体状態を保つスラグ組成が存在するかを確認するために予備実験を行った。すなわち、蛍石を使用しない場合に、スラグが溶融可能な塩基度の上限を超える1.5以上の高塩基度において、蛍石を用いることなく、りん酸を添加することで、スラグの溶融を達成できないかを調査した。
実験では、鉄るつぼに、試薬を混合して作成した人工スラグを装入し、タンマン炉に入れて、脱りん反応の上限である1400℃まで昇熱し、スラグが溶融しているかどうかを調べた。スラグの溶解を確認した後、さらに、塩基度を向上させるため、CaO源として、圧粉成形した3CaO・P25ペレットと2CaO・SiO2ペレットを添加して、1400℃で2〜4時間保定した。
その後、少なくとも片方のペレットが残存していることを確認し、次いで、スラグの液体部分を採取して急冷し、成分分析を行った。なお、ここで、CaO源として、固体CaOではなく、CaOを含む複合酸化物を用いたのは以下の理由による。
実際の脱りんスラグは多成分系であるが、主成分は、CaO−SiO2−FeO−P25の4元系である。しかしながら、4元系での状態図に関する情報は皆無である。一方、CaO−SiO2−FeO、および、CaO−P25−FeOの各3元系状態図において、1400℃における高塩基度側で、液体スラグと平衡する固相は、CaOではなく、それぞれ、2CaO・SiO2、および、3CaO・P25である。したがって、4元系においても、これらが平衡するものと考えた。
得られた結果を、表1に示す。この組成は、液体スラグが、3CaO・P25ペレットまたは2CaO・SiO2ペレットと共存した状態で保定しているため、実験温度である1400℃における3CaO・P25または2CaO・SiO2の飽和組成に対応するものと考えられる。
スラグ中のCaOの濃度、P25の濃度、および、SiO2の濃度(以下、それぞれ、(質量%CaO)、(質量%P25)、および、(質量%SiO2)と記載する場合がある。)は、T.Fe濃度やその他成分(Al23,MgOなど)によって異なるが、それらの比について、変数Xとして、Xを変化させながら、実験結果より、(質量%CaO)/(X(質量%P25)+(質量%SiO2))を計算し、ばらつきがもっとも小さくなるように、試行錯誤法で求めたところ、X=0.64の場合に、(質量%CaO)/(X(質量%P25)+(質量%SiO2))が1〜1.3の範囲に、ばらつきが少なく収まることがわかった。
すなわち、(質量%CaO)/(0.64(質量%P25)+(質量%SiO2))を、便宜上、C/(P+S)と表記すると、C/(P+S)は、おおよそ、1〜1.3の範囲にあることがわかった。
以上のように、3CaO・P25または2CaO・SiO2と共存する組成では、CaOとP25、SiO2とが一定の関係(C/(P+S)=1〜1.3)にあるということが解った。これより、この組成に制御するためには、少なくとも、CaOとP25、SiO2が一定の関係(C/(P+S)=1〜1.3)になるように制御することが必要であると考えられる。
ここで、CaOは、脱りん材として添加するものであり、制御可能である。一方で、P25とSiO2は、溶銑中のP、Siが酸化除去されて生成するものであるから、脱りん処理前の溶銑中のP濃度とSi濃度を所定の範囲に制御することで、制御可能であると考えられる。
図1に、(質量%SiO2)/(質量%P25)と塩基度の関係を示す。これより、塩基度を、蛍石なし条件で、スラグが溶融可能な上限を超える1.5以上の塩基度とするためには、(質量%SiO2)/(質量%P25)を1.75以下とする必要があることがわかる。
Figure 0005141327
ここで、SiO2は、溶銑中のSiが酸化されて生成するものであり、しかも、Pに比べて酸化され易いため、脱P後では、溶銑中のSiが、ほぼ全て、SiO2に酸化されていると考えてさしつかえない。したがって、SiO2は、溶銑中のSi濃度によって生成量が決定される。
これに対して、Pは、脱りんの処理前と処理後の差分が、酸化除去されたP25分に相当するが、脱りん処理後のP濃度は一義的に決まらない。脱りん処理後の溶銑中のP濃度は、スラグ中のP25濃度と相関があり、一般には、りん分配比LP=(質量%P25)/[質量%P]で整理される(以下、溶銑中のりん濃度を、[質量%P]と記載する場合がある。)。
りん分配比LPは、温度(低温ほど大)、酸素ポテンシャル((質量%T.Fe)で代用されることが多く、高いほど大))、スラグ塩基度(CaO/SiO2で代表されることが多く、高いほど大)の関数であると考えられるが、溶銑脱りんの場合は、スラグとメタルの酸素ポテンシャル差が大きいため、平衡論的に求めることができず、脱りん処理後の濃度の比をもって、みかけの分配比としているのが実情である。
この場合、りん分配比LPは、熱力学的な数値ではなく、送酸速度や底吹攪拌などの処理条件の影響を受ける数値であるので、通常は、実機の操業条件を模擬した条件で、ラボ実験を行って求めている。
そこで、C/(P+S)が上記の一定の範囲(1〜1.3)の組成を狙った脱りん実験を行った。1トン規模のラボ実験炉に、0.10〜0.15質量%P、0.1〜0.15質量%Siの溶銑を装入し、3CaO・P25、2CaO・SiO2飽和組成となるよう、C/(P+S)が1〜1.3のスラグ組成を狙った脱りん実験を行った。
図2に、脱りん処理後のスラグ中りん酸濃度と、溶銑中P濃度の比であるりん分配比LP=(質量%P25)/[質量%P]を計算してプロットしたが、脱りん処理後温度1350〜1400℃の範囲で、高いLP値が得られている。ただし、後述するが、(質量%T.Fe)は、10〜45%の範囲であった。
これは、平衡論どおり、高温ほど、りん分配比LPが低下することに加え、低温では、平衡論的には脱りんに有利だが、一方で、スラグが溶融しないために、脱りんが生じず、結果として、1350℃未満では、りん分配比が逆に低下していることによるものと思われる。このことから、適正な脱りん処理後温度範囲は、1350〜1400℃であると考えられる。
また、りん分配比LPは、(質量%T.Fe)によっても変化するが、図3に示すように、このスラグ組成の場合は、(T.Fe)が10質量%未満では、溶融状態が得られないため、りん分配比は低く、一方で、45質量%を超えると、逆に、CaO分が希釈されてしまうために、りん分配比が低下する。このことから、適正な(質量%T.Fe)は、10〜45%である。
以上、図2および図3に示すとおり、脱りん処理後、1350〜1400℃、(質量%T.Fe)は10〜45%で、りん分配比LPとして、おおよそ、200程度の値が得られていることがわかる。
ここで、表1に示すとおり、スラグ溶融組成範囲では、(質量%P25)は、10質量%以上の範囲にある。このことから、脱りん処理後の溶銑中[質量%P]の範囲は、[質量%P]=(質量%P25)/LPより、0.05質量%以上の範囲となることがわかる。
つまり、脱りん処理後の[質量%P]を0.05質量%以上の範囲とすれば、(質量%P25)は、10質量%以上が得られることになる。
また、脱りん処理で生成するりん酸の量については、脱りん処理前の溶銑中P濃度を[質量%P]とし、脱りん処理後の溶銑中P濃度を0.05質量%とすれば、([質量%P]−0.05)に相当するりん酸が生成することになる。
ここで、溶銑1トンを脱りんした際に生成するりん酸の原単位(kg/トン−溶銑)を求めるには、除去されたりんの原単位が、
1000(kg)×([質量%P]−0.05)×1/100(kg/トン−溶銑)
であるから、
りん酸原単位(kg/トン−溶銑)=りん原単位(kg/トン−溶銑)×(りん酸の分子量)/(りんの原子量×2)
より、
25(kg/トン−溶銑)=10×([質量%P]−0.05)×142/62
である。
同様に、生成するSiO2の原単位は、脱りん処理前の溶銑中のSi濃度を[質量%Si]とすると、脱りん処理後のSi濃度は、ほぼゼロであるから、
1000×[質量%Si]×1/100×(SiO2の分子量)/(Siの原子量)
より、
SiO2原単位(kg/トン−溶銑)=600[質量%Si]/28
である。
したがって、前述のとおり、塩基度を1.5以上とするために必要な(質量%SiO2)/(質量%P25)≦1.75という条件は、上記の関係式を用いて書き直すと、
(質量%SiO2)/(質量%P25)=SiO2原単位/P25原単位=
600[質量%Si]/28/((10×([質量%P]−0.05)×142/62)≦1.75
つまり、
[質量%Si]≦1.75×142×([質量%P]−0.05)/(62×60)≦1.87([質量%P]−0.05)
となる。
一方、[質量%Si]が低すぎると、脱りん処理で生成するSiO2の絶対量が不足するため、溶融スラグ量を確保できなくなり、脱りん反応が停滞する。
図4に、脱りん処理前の[質量%Si]と脱りん率(=(脱りん処理前[質量%P]−脱りん処理後[質量%P])/脱りん処理前[質量%P]×100で計算される、脱りん処理前の溶銑中P濃度に対して脱りんされた割合を示す指標)の関係を示すが、溶銑中Si濃度が0.1質量%未満になると、脱りん率が大きく低下していることが解る。このため、溶銑中Si濃度の下限については、0.1質量%とした。
以上より、適正な濃度範囲として、下記[1]式が得られる。脱りん処理前の溶銑中Si濃度およびP濃度が、この関係を満たせば、蛍石を添加することなく、従来法より高塩基度の領域で、効率的な脱りんを行うことができることが解った。
以上のことより、本発明における第一の発明については、転炉型の精錬容器を用いて溶銑の脱りん処理を行う方法において、溶銑中のP濃度[質量%P]と溶銑中のSi濃度[質量%Si]が、下記[1]式の範囲になるように脱りん処理前のP濃度およびSi濃度のいずれかまたは両方を調整した溶銑に、CaOを主体とする脱りん材を添加するとともに酸素源を供給し、脱りん処理により生成するスラグ中の全鉄濃度(質量%T.Fe)を10質量%以上45質量%以下、脱りん処理後の溶銑中のP濃度を0.05質量%以上、脱りん処理後温度を1350〜1400℃に制御することを特徴とする溶銑の予備処理方法とした。
0.1≦[質量%Si]≦1.87([質量%P]−0.05) …[1]
この発明において、溶銑に供給される酸素源としては、気体酸素、固体酸化材のいずれでもよく、また、気体酸素と固体酸化材を併用してもよい。また、気体酸素は、純気体酸素、酸素含有ガスのいずれでもよく、また、固体酸化材としては、鉄鉱石、焼結鉱やミルスケールなどを用いることができる。
また、酸素源の供給方法は、気体酸素の場合には、ランスによる上吹きに加え、溶銑中へのインジェクションや、底吹きなどの方法を組み合わせてもよい。また、固体酸化材の場合には、上方からの投入のほか、インジェクションや底吹きなどの任意の方法で、溶銑中への供給を行うことができる。
脱りん処理が実施される精錬容器としては、転炉型容器の他に、溶銑鍋やトピードカーなどの溶銑輸送容器を用いることも考えられるが、本発明における脱りん処理では、従来法に比べて高(質量%T.Fe)が必要であるため、フリーボードが十分に確保できる転炉型の精錬容器を用いるものとする。
CaOを主体とする脱りん材としては、特に規定するものではなく、通常の操業で使用されている脱りん材を用いることができるが、脱りん材中のCaO含有量は、50質量%以上のものが好適である。
以上のとおり、本発明における第1の発明を、CaOを主体とする脱りん材を、適宜、添加することで、実施することができる。
次に、本発明における第2の発明について説明する。
この発明の脱りん方法では、転炉型の精錬容器を用いて溶銑の脱りん処理を行う場合において、溶銑に添加するT.CaO(CaO原単位)を、下記[2]〜[4]式で定まる範囲とすることを特徴とする。
T.CaO(kg/トン−溶銑)=α(1+k)[質量%Si]×600/28
…[2]
1.1≦α≦1.5 …[3]
k=0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si] …[4]
前述のように、本発明が対象とするスラグ組成では、CaOとSiO2とP25が一定の関係(C/(P+S)=1〜1.3)を満たす。第一の発明では、そのうちのSiO2とP25の関係について規定しているが、第二の発明では、CaOとSiO2,P25の関係より、添加するCaOの好ましい添加量を決定することを特徴とする。
表1に示すように、本発明が対象とするスラグ組成では、C/(P+S)=CaO/(0.64 P25+ SiO2)が1〜1.3の範囲にある。したがって、CaOの添加量は、この関係を満たすように決定することが好ましいと考えられる。
今、C/(P+S)=αとおくと、
α=C/(P+S)=(質量%CaO)/(0.64(質量%P25)+(質量%SiO2))
であるから、
(質量%CaO)=α(0.64(質量%P25)+(質量%SiO2))
=α(0.64(質量%P25)/(質量%SiO2)+1)(質量%SiO2
ここで、前述の関係より
(質量%P25)/(質量%SiO2
=((10×([質量%P]−0.05)×142/62)/(600[質量%Si]/28)
=1.07([質量%P]−0.05)/[質量%Si]
よって、
(質量%CaO)=α(0.64(質量%P25)+(質量%SiO2))
=α(0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si]+1)(質量%SiO2
ここで、
CaO原単位/SiO2原単位=(質量%CaO)/(質量%SiO2
であるから、
CaO原単位=SiO2原単位×(質量%CaO)/(質量%SiO2
=600[質量%Si]/28×[α(0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si]+1)]
CaO原単位をT.CaOと書いて整理すると、
T.CaO=α(0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si]+1)[質量%Si]×600/28
=α(k+1)[質量%Si]×600/28
となって、[2]式を得る。
表1に示すとおり、C/(P+S)=1〜1.3であるので、αの値は、理想的には、1〜1.3の範囲が合理的であるが、実操業においては、CaOの溶解速度が遅いので、必要なCaO量に対して過剰なCaOを添加することが行われている。
そこで、本発明者の実験的知見に基き、理想的なαの値が1〜1.3の範囲に対して、好ましいαの範囲は1.1〜1.5の範囲とした。これより、添加するCaO原単位と溶銑組成の関係として、[2]〜[4]式が得られる。
ちなみに、添加するCaO量は、添加する脱りん材中のCaO濃度を事前に把握しておき、所望のCaO添加量となるように、脱りん材の添加量を設定するものとする。
最後に、本発明における第3の発明について説明する。
本発明の脱りん方法では、転炉型の精錬容器を用いて溶銑の脱りん処理を行う場合において、溶銑に添加するCaOを2回以上に分割して行うことを特徴とする。
本発明の第一および/または第二の発明にしたがって脱りんを行う場合、通常の転炉型精錬設備ではCaOを主体とする脱りん材を、一括添加してもよい。ただし、一括添加すると、狙いのスラグ組成となって溶解する前に、炉内で焼結してしまい、結果として、スラグの生成が遅れ、脱りんが進行し難くなるという事象が生じる場合がある。
したがって、より好ましくは、CaOを主体とする脱りん材を、少なくとも2回以上に分割して添加することが推奨される。分割の程度は、分割すればするほど好ましく、連続添加または間歇添加ができれば、さらに好適である。
また、原理的には、生成したSiO2とP25の量に応じて添加されるべきものであるから、例えば、脱りん炉からの排出ガスの分析を行うことで、溶銑の脱炭量を求め、この脱炭量と酸素源の供給量に基づき、生成するSiO2とP25量を推定し、この量に基づいて、CaOの添加速度を制御すれば、さらに好適である。
(実施例1)
300トン転炉を用いて高炉溶銑の脱りん処理を実施した。脱りん処理では、上吹きランスより酸素を吹き付けるとともに、炉底に設けた羽口からも、酸素と窒素の混合ガスとLPGを吹き込み、塊石灰を上方より添加した。脱りん時間は、いずれも7〜9分であった。また、脱りん処理前の溶銑温度とスクラップ量から、鉄鉱石の添加量を調整して、脱りん処理後の温度を調整した。結果を、表2に示す。
表中、Kcaoは、脱りん反応が一次速度式に従うとして導いた、下記[5]式で計算される指標である。Kcaoは、一般に、石灰の反応効率を示す指標として用いられ、高い値であるほど、効率がよいと判断される。
Kcao=ln([質量%P]0/[質量%P])/T.CaO …[5]
実施例1および2は本発明の第一の発明に従って実施した実施例であるが、良好な脱りんが得られている。実施例3および4は、さらに第二の発明に従って、石灰原単位を[2]式の範囲で決定して添加した実施例であり、さらに高いKcaoが得られている。また、実施例5は、石灰を分割投入したものである。石灰の分割投入の効果は、精錬能の改善ではなく、ばらつきの減少にあるので、これだけでは解らない。
そこで、表3に、分割投入した場合のKcaoと一括投入の場合のKcaoの平均値とσを示す。これより、分割投入することで、ばらつきが小さくなり、結果として、Kcaoの平均値も増加することが解る。
一方、比較例1〜6の結果は、溶銑成分が適正でない(比較例1、2)、処理後の(質量%T.Fe)が適正でない(比較例3、4)、および、温度はずれ(比較例5、6)の場合であるが、いずれも、脱りんは不十分であり、Kcaoは低値となっていることが解る。
Figure 0005141327
Figure 0005141327
予備実験で得られたスラグ組成比の関係を示す図である。 処理後温度とりん分配比の関係を示す図である。 スラグ中(質量%T.Fe)とりん分配比の関係を示す図である。 脱りん処理前の[質量%Si]と脱りん率の関係を示す図である。

Claims (3)

  1. 転炉型の精錬容器を用いて溶銑の脱りん処理を行う方法において、溶銑中のP濃度[質量%P]と溶銑中のSi濃度[質量%Si]が、下記[1]式の範囲になるように、脱りん処理前のP濃度およびSi濃度のいずれかまたは両方を調整した溶銑に、CaOを主体とする脱りん材を添加するとともに酸素源を供給し、脱りん処理により生成するスラグ中の全鉄濃度(質量%T.Fe)を10質量%以上45質量%以下、 濃度を10質量%以上、脱りん処理後の溶銑中のP濃度を0.05質量%以上、脱りん処理後温度を1350〜1400℃に制御することを特徴とする溶銑予備処理方法。
    0.1≦[質量%Si]≦1.87([質量%P]−0.05) …[1]
  2. 前記溶銑に添加するT.CaO(脱りん用CaO原単位)を、下記[2]〜[4]式で定まる範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の溶銑予備処理方法。
    T.CaO(kg/トン−溶銑)=α(1+k)[質量%Si]×600/28
    …[2]
    1.1≦α≦1.5 …[3]
    k=0.68([質量%P]−0.05)/[質量%Si] …[4]
  3. 前記CaOを主体とする脱りん材の添加を、2回以上に分割して行うことを特徴とする請求項1または2に記載の溶銑予備処理方法。
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