この種の従来技術として、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来技術によれば、荷重検出器、例えばロバーバル型(ダブルビーム型または平行ビーム型とも言う。)のロードセル、に荷重が印加されると、当該ロードセル(厳密には起歪体)は、印加された荷重の大きさに応じた撓みを生じ、併せてクリープ現象を生じる。そして、荷重が除去されると、ロードセルは、元の状態に戻り、その際、クリープ回復現象を生じる。これによって、ロードセル(厳密には4組のストレインゲージがブリッジ接続されたブリッジ出力回路)から出力される荷重信号f(t)に、図7に示すようなクリープ誤差およびクリープ回復誤差が現れる、とされている。
具体的には、或る時点t0においてロードセルに荷重が印加されると、荷重信号f(t)は、直ちに当該ロードセルの初期撓み量に応じた初期荷重値f(t0)にまで立ち上がり、その後、クリープ現象によって時間tの経過と共に徐々に増大し、つまり漸増するクリープ誤差を生じ、最終的に一定の最終荷重値f(∞)に落ち着く。そして、時点t10においてロードセルから荷重が除去されると、荷重信号f(t)は、まず当該ロードセルの初期戻り量に応じた荷重値Δf(t10)分だけ立ち下がり、その後、クリープ回復現象によって時間tの経過と共に徐々に減少し、つまり漸減するクリープ回復誤差を生じ、最終的にゼロになる。
ここで、クリープ誤差を含む荷重信号f(t)は、次の式1によって表されることが、従来技術(特許文献1)で引用されている特許文献2に開示されている。
《式1》
f(t)=f(t0)・[1+β1{1−exp(−t/τ1)}]
なお、この式1において、β1は、クリープ係数であり、次の式2によって表される。
《式2》
β1={f(∞)−f(t0)}/f(t0)
つまり、この式2からも分かるように、クリープ係数β1は、荷重(初期撓み量)の大きさに応じたクリープ誤差の最大値(=f(∞)−f(t0))を初期荷重値f(t0)によって無次元化したものである。また、式1におけるτ1は、クリープ誤差の時定数であり、クリープ係数β1を絡めた次の式3によって表される。
《式3》
{df/dt}t=t0=β1/τ1
さらに、この式3における微分値{df/dt}t=t0は、実際には次の式4によって求められる。
《式4》
{df/dt}t=t0={f(t02)−f(t01)}/(t02−t01)
この式4において、t01は、荷重印加時点t0の近傍でかつ当該荷重印加時点t0よりも後の時点であり、t02は、時点t01の近傍でかつ当該時点t01よりも後の時点である。そして、f(t01)は、時点t01における荷重値であり、f(t02)は、時点t02における荷重値である。
従来技術では、このようなクリープ誤差を含む荷重信号f(t)を出力するときのロードセルの特性が、次の式5で表される1次遅れ要素モデルG1(s)(s;ラプラス変換の変数)として定義されている。
《式5》
G1(s)=1+β1/(1+τ1・s)
そして、この1次遅れ要素モデルG1(s)を離散時間システムのパルス伝達関数G1(z)(z;z変換の変数)として表すと、次の式6のようになる、とされている。
《式6》
G1(z)=(1+B1・z−1)/(1+A1・z−1)
where
A1=−exp(−t/τ1)
B1=−[exp(−t/τ1)−β1{1−exp(−t/τ1)}
つまり、このパルス伝達関数G1(z)とは逆の伝達関数1/G(z)によって、荷重信号f(t)を離散的に処理すれば、当該荷重信号f(t)に含まれるクリープ誤差を補償することができる。ゆえに、従来技術では、この逆伝達関数1/G(z)と等価な伝達関数H1(z)を持つ補償演算器が設けられており、この補償演算器に、離散時間信号とされた荷重信号f(nT)(n;サンプリング番号,T;サンプリング周期)を通過させることによって、クリープ誤差が補償された信号を得る、とされている。
一方、クリープ回復誤差を含む荷重信号f(t)を出力するときのロードセルの特性もまた、上述の式5と同様に、次の式7で表される1次遅れ要素モデルG(s)として定義される。
《式7》
G2(s)=1+β2/(1+τ2・s)
なお、この式7において、β2は、クリープ回復係数であり、次の式8によって表される。
《式8》
β2={f(∞)−Δf(t10)}/Δf(t10)
この式8からも分かるように、クリープ回復係数β2は、荷重(初期戻り量)の大きさに応じたクリープ回復誤差の最大値(=f(∞)−Δf(t10))を初期戻り荷重値Δf(t10)によって無次元化したものである。そして、式7におけるτ2は、クリープ回復誤差の時定数であり、クリープ回復係数β2を絡めた次の式9によって表される。
《式9》
{df/dt}t=t10=−β2/τ2
さらに、この式9における微分値{df/dt}t=t10は、実際には次の式10によって求められる。
《式10》
{df/dt}t=t10={f(t04)−f(t03)}/(t04−t03)
この式10において、t03は、荷重除去時点t10の近傍でかつ当該荷重除去時点t10よりも後の時点であり、t04は、時点t03の近傍でかつ当該時点t03よりも後の時点である。そして、f(t03)は、時点t03における荷重値であり、f(t04)は、時点t04における荷重値である。
そして、この1次遅れ要素モデルG2(s)を離散時間システムのパルス伝達関数G2(z)として表すと、上述の式6と同様、次の式11のようになる、とされている。
《式11》
G2(z)=(1+B2・z−1)/(1+A2・z−1)
where
A2=−exp(−t/τ2)
B2=−[exp(−t/τ2)−β2{1−exp(−t/τ2)}
つまり、クリープ回復誤差を補償するには、この式11で表されるパルス伝達関数G2(z)とは逆の伝達関数1/G2(z)によって、荷重信号f(t)を離散的に処理すればよい。ゆえに、従来技術では、この逆伝達関数1/G2(z)と等価な伝達関数H2(z)が上述の補償演算器に設定され、この補償演算器に離散荷重信号f(nT)を通過させる、とされている。
ところで、このような要領でクリープ誤差およびクリープ回復誤差を補償するには、荷重印加時点t0および荷重除去時点t10を正確に特定する必要がある。このため、従来技術では、荷重信号f(nT)がサンプリングされるたびに、今回サンプリングされた荷重信号f(nT)と前回サンプリングされた荷重信号f((n−1)T)とが逐次比較される。そして、f(nT)>f((n−1)T)となったときに、その時点が、荷重印加時点t0として特定され、上述の補償演算器に、クリープ誤差補償用の伝達関数H1(z)が設定される。一方、f(nT)>f((n−1)T)となったときに、その時点が、荷重除去時点t10として特定され、当該補償演算器に、クリープ回復誤差補償用の伝達関数H2(z)が設定される。
なお、ノイズ(誤差振動)等の影響を排除するべく、定数Cを用いて、f(nT)−f((n−1)T)≧Cとなったときに、その時点が、荷重印加時点t0として特定され、f(nT)−f((n−1)T)<−Cとなったときに、その時点が、荷重除去時点t10として特定されてもよい旨が、併せて開示されている。
特開平11−2573号公報
特開平4−12221号公報
しかし、上述の如くf(nT)>f((n−1)T)となったとき、またはf(nT)−f((n−1)T)≧Cとなったときに、その時点が、荷重印加時点t0として特定される、という従来技術では、次のような問題がある。
即ち、ロードセルに荷重が印加されたときの荷重信号f(t)(およびf(nT))を詳細に観察すると、例えば図8に示すように、当該荷重信号f(t)がゼロから初期荷重値f(t0)にまで立ち上がるのに、ロードセルの応答性に従う或る程度の時間が掛かり、少なくともサンプリング周期T(T=数[ms]程度)よりも長い時間が掛かる。このため、従来技術では、荷重信号f(t)の立ち上がりの途中で荷重印加時点t0が特定される恐れがある。なお、図8は、f(nT)−f((n−1)T)≧Cとなった時点が、荷重印加時点t0として特定される場合を示す。
このように荷重信号f(t)の立ち上がりの途中で荷重印加時点t0が特定されると、この荷重印加時点t0における荷重値f(t0)’が初期荷重値f(t0)として誤って取得されてしまう。そして、この誤って取得された初期荷重値f(t0)’が、上述の式2における初期荷重値f(t0)として代入されることで、誤ったクリープ係数β1が求められる。さらに、この誤ったクリープ係数β1が、上述の式3に代入されることで、誤った時定数τ1が求められる。しかも、式3には、荷重印加時点t0における荷重信号f(t)の微分値{df/dt}t=t0が含まれているので、これもまた、誤った時定数τ1が求められる要因となる。
そうすると、これら誤ったクリープ係数β1および時定数τ1を含む上述の式6によって求められるパルス伝達関数G1(z)は、当然に不正確なものとなる。そして、このパルス伝達関数G1(z)の逆伝達関数1/G1(z)であるクリープ誤差補償用の伝達関数H1(z)もまた、当然に不適切なものとなる。つまり、従来技術では、クリープ誤差を含むロードセルの特性を正確に同定することができず、よって、当該クリープ誤差を正確に補償することもできない。
ここで、敢えて、荷重信号f(t)の立ち上がり途中ではなく、当該荷重信号f(t)が初期荷重値f(t0)にまで立ち上がったときに、荷重印加時点t0が特定される、と仮定する。ところが、荷重信号f(t)が初期荷重値f(t0)にまで立ち上がったときを含む、その直後には、図8に符号100で示すようなオーバ・シュート状の振動成分が現れる。この振動成分100は、ロードセルに荷重が印加された際の衝撃によって生じるものであり、その大きさ(振幅)は、不定である。従って、この振動成分100の影響により、正確な初期荷重値f(t0)が捉えられず、クリープ係数β1が誤って求められる。そして、時定数τ1もまた誤って求められる。ゆえに、この場合も、クリープ誤差を含むロードセルの特性を正確に同定することができず、当該クリープ誤差を正確に補償することもできない。
このことは、ロードセルから荷重が除去されるときも、同様である。つまり、従来技術では、f(nT)<f((n−1)T)となったとき、またはf(nT)−f((n−1)T)<−Cとなったときに、その時点が、荷重除去時点t10として特定されるが、この場合、図には示さないが、荷重信号f(t)の立ち下がりの途中で当該荷重除去時点t10が特定される恐れがある。すると、上述の式8における初期戻り荷重値Δf(t10)が誤って取得されてしまい、これにより、クリープ回復係数β2が誤って求められ、また、時定数τ2も誤って求められる。このため、これらクリープ回復係数β2および時定数τ2を含むパルス伝達関数G2(z)が、不正確なものとなり、その逆伝達関数1/G2(z)であるクリープ回復誤差補償用の伝達関数H2(z)も、当然に不適切なものとなる。ゆえに、クリープ回復誤差を含むロードセルの特性を正確に同定することができず、当該クリープ回復誤差を正確に補償することもできない。
また、敢えて、荷重信号f(t)の立ち下がり途中ではなく、当該荷重信号f(t)が初期戻り荷重値Δf(t10)分だけ立ち下がったときに、荷重除去時点t10が特定された、と仮定しても、この場合、ロードセルから荷重が除去されることによる反動によって、アンダ・シュート状の振動成分が現れるので、やはり、クリープ回復誤差を含むロードセルの特性を正確に同定することができず、当該クリープ回復誤差を正確に補償することもできない。
そこで、本発明は、従来よりも正確にクリープ誤差およびクリープ回復誤差を補償するべく、これらクリープ誤差およびクリープ回復誤差の特性を正確に同定することができる同定装置、ならびにこれを用いた誤差補償装置を提供することを、目的とする。
この目的を達成するために、本発明のうちの第1発明は、荷重が印加されたときにクリープ現象を生じる荷重検出器に適用され、この荷重検出器から出力される荷重信号に含まれる当該クリープ現象によるクリープ誤差の特性を同定するクリープ特性同定装置であって、荷重検出器に荷重が印加された時点を荷重信号に基づいて特定する荷重印加時点特定手段と、この荷重印加時点特定手段によって特定された荷重印加時点よりも後の第1期間における荷重信号に基づいて当該荷重印加時点を基点とする時間の関数である第1関数式によってクリープ誤差の特性を同定するクリープ特性同定手段と、を具備する。
即ち、本第1発明のクリープ特性同定装置によれば、荷重検出器に荷重が印加されると、この荷重検出器から出力される荷重信号に基づいて、荷重印加時点特定手段が、当該荷重検出手段に荷重が印加された時点を特定する。そして、この荷重印加時点特定手段によって特定された荷重印加時点よりも後の第1期間における荷重信号に基づいて、クリープ特性同定手段が、当該荷重印加時点を基点とする時間の関数である第1関数式によってクリープ誤差の特性を同定する。つまり、荷重信号が不安定な荷重印加時点ではなく、当該荷重印加時点よりも後の第1期間における安定した荷重信号に基づいて、クリープ特性が同定される。
なお、この同定時における荷重としては、大きさが既知のテスト荷重が用いられる。このテスト荷重の大きさは、荷重検出器の定格荷重以下であればよく、例えば当該定格荷重と等しいかこれに近いのが、望ましい。
また、通常、荷重信号には、荷重検出器に荷重が印加されたときの衝撃によって生じる第1振動成分が重畳される。これを利用して、荷重印加時点特定手段は、荷重信号が第1条件を満足するレベル変化を示した後、詳しくは荷重検出器に荷重が印加されたとみなすことができる程度のレベル変化を示した後、さらに当該荷重信号が第1振動成分による少なくとも1つの極値を示した時点を、荷重印加時点として特定するものとしてもよい。
さらに、第1振動成分は、時間の経過と共に減衰するので、クリープ特性同定手段は、この第1振動成分による影響を極力回避するために、当該第1振動成分が十分に減衰した後の期間を第1期間としてクリープ特性を同定するのが、望ましい。
ここで、クリープ特性を表す第1関数式は、例えば第1時定数と、荷重の大きさに対するクリープ誤差の最大値を無次元化したクリープ係数と、を含む指数関数式とすることができる。この場合、クリープ特性同定手段は、第1期間内の少なくとも2つの時点のそれぞれにおける荷重信号に基づいて、これら第1時定数とクリープ係数との2つの元を求めることができ、つまりクリープ特性を同定することができる。
また、クリープ特性同定手段は、最小2乗法等の回帰分析法によって、クリープ特性を同定することもできる。この回帰分析法によれば、第1振動成分が十分に減衰していない期間における荷重信号に基づいて同定することも、可能である。つまり、第1振動成分を含むノイズの影響を排除しつつ、正確な同定を行うことができる。
併せて、クリープ特性同定手段は、少なくともクリープ係数を求めるために、荷重印加時点における荷重信号の真値、言わば真の初期荷重値、を推定するものとしてもよい。つまり、荷重検出器の応答性や第1振動成分の影響等によって、荷重印加時点における荷重信号から直接的に真の初期荷重値を捉えることはできない。そこで、荷重印加時点よりも後の第1期間における安定した荷重信号に基づいて真の初期荷重値を推定し、ひいてはクリープ係数を求めてもよい。
さらに、本第1発明では、荷重検出器にテスト荷重が印加されるという同じ行為が複数回にわたって繰り返されることによって、複数の荷重信号が取得されてもよい。そして、これら複数の荷重信号をそれぞれの荷重印加時点を基点として個々の時点ごとに平均化する平均化手段を、さらに備え、クリープ特性同定手段は、荷重信号に代えて、この平均化手段によって平均化された平均化荷重信号に基づいて、クリープ特性を同定するものとしてもよい。即ち、それぞれの荷重信号には、微小振動等の各種ノイズが含まれており、また上述の第1振動成分も含まれている。そして、この第1振動成分を含むノイズの特性、例えば振幅や周波数,位相等、を詳細に観察すると、これらの特性は、各荷重信号間で一様ではなく、多少異なる。従って、各荷重信号をそれぞれに共通の荷重印加時点を基点として個々の時点ごとに平均化する平均化手段を設けることにより、当該ノイズを除く信号そのものの特性には遅延等の影響を与えることなく、当該ノイズのみが減衰(平滑化)された平均化荷重信号を得ることができる。そして、クリープ特性同定手段は、この平均化荷重信号に基づいてクリープ特性を同定すれば、より正確な同定を行うことができる。
続いて、本発明のうちの第2発明は、第1発明のクリープ特性同定装置による同定結果に基づいてクリープ誤差を補償するクリープ誤差補償装置である。
即ち、第1発明のクリープ特性同定装置によって荷重検出器のクリープ特性が同定された後、同じ荷重検出器に本第2発明のクリープ誤差補償装置が適用される。具体的には、当該荷重検出器に大きさが未知の荷重が印加されると、本第2発明においても、第1発明における荷重印加時点特定手段によるのと同じ要領で、荷重印加時点が特定される。そして、この荷重印加時点を基点として、第1発明による同定結果、例えば上述の第1時定数とクリープ係数とを含む所定の関数式、に基づいて、クリープ誤差が補償される。
第3発明は、第1発明に対応する方法発明であり、即ち、荷重が印加されたときにクリープ現象を生じる荷重検出器に適用され、この荷重検出器から出力される荷重信号に含まれる当該クリープ現象によるクリープ誤差の特性を同定するクリープ特性同定方法であって、荷重検出器に上記荷重が印加された時点を荷重信号に基づいて特定する荷重印加時点特定過程と、この荷重印加時点特定過程で特定された荷重印加時点よりも後の第1期間における荷重信号に基づいて当該荷重印加時点を基点とする時間の関数である第1関数式によってクリープ誤差の特性を同定するクリープ特性同定過程と、を具備する。ここで、クリープ特性を表す第1関数式は、例えば第1時定数と、荷重の大きさに対するクリープ誤差の最大値を無次元化したクリープ係数と、を含む指数関数式とすることができる。そして、クリープ特性同定過程では、少なくともクリープ係数を求めるために、荷重印加時点における荷重信号の真値、つまり真の初期荷重値、を推定するものとしてもよい。
そして、第4発明は、第3発明のクリープ特性同定方法による同定結果に基づいてクリープ誤差を補償するクリープ誤差補償方法であり、つまり、第2発明に対応する方法発明である。
本発明の第5発明は、荷重が除去されたときにクリープ回復現象を生じる荷重検出器に適用され、この荷重検出器から出力される荷重信号に含まれる当該クリープ回復現象によるクリープ回復誤差の特性を同定するクリープ回復特性同定装置であって、荷重検出器から荷重が除去された時点を荷重信号に基づいて特定する荷重除去時点特定手段と、この荷重除去時点特定手段によって特定された荷重除去時点よりも後の第2期間における荷重信号に基づいて当該荷重除去時点を基点とする時間の関数である第2関数式によってクリープ回復誤差の特性を同定するクリープ回復特性同定手段と、を具備する。
即ち、本第5発明のクリープ回復特性同定装置によれば、荷重検出器から荷重が除去されると、この荷重検出器が出力する荷重信号に基づいて、荷重除去時点特定手段が、当該荷重検出手段から荷重が除去された時点を特定する。そして、この荷重除去時点特定手段によって特定された荷重除去時点よりも後の第2期間における荷重信号に基づいて、クリープ回復特性同定手段が、当該荷重除去時点を基点とする時間の関数である第2関数式によってクリープ回復誤差の特性を同定する。つまり、荷重信号が不安定な荷重除去時点ではなく、当該荷重除去時点よりも後の第2期間における安定した荷重信号に基づいて、クリープ回復特性が同定される。
なお、このクリープ回復特性の同定時においても、第1発明におけるクリープ特性の同定時と同様、荷重として、大きさが既知のテスト荷重が用いられる。
また、荷重検出器から荷重が除去されたときも、第1発明において荷重検出器に荷重が印加されたときと同様に、その際の反動による第2振動成分が荷重信号に重畳される。これを利用して、荷重除去時点特定手段は、荷重信号が第2条件を満足するレベル変化を示した後、詳しくは荷重検出器から荷重が除去されたとみなすことができる程度のレベル変化を示した後、さらに当該荷重信号が第2振動成分による少なくとも1つの極値を示した時点を、荷重除去時点として特定するものとしてもよい。
さらに、第2振動成分も、第1発明における第1振動成分と同様、時間の経過と共に減衰する。従って、クリープ回復特性同定手段は、この第2振動成分による影響を極力回避するために、当該第2振動成分が十分に減衰した後の期間を第2期間としてクリープ回復特性を同定するのが、望ましい。
ここで、クリープ回復特性を表す第2関数式は、例えば第2時定数と、荷重の大きさに対するクリープ回復誤差の最大値を無次元化したクリープ回復係数と、を含む指数関数式とすることができる。この場合、クリープ回復特性同定手段は、第2期間内の少なくとも2つの時点のそれぞれにおける荷重信号に基づいて、これら第2時定数とクリープ回復係数との2つの元を求めることができ、つまりクリープ回復特性を同定することができる。
また、クリープ回復特性同定手段は、最小2乗法等の回帰分析法によって、クリープ回復特性を同定することもできる。この回帰分析法によれば、第2振動成分が十分に減衰していない期間における荷重信号に基づいて同定することも、可能である。つまり、第2振動成分を含むノイズの影響を排除しつつ、正確な同定を行うことができる。
併せて、クリープ回復特性同定手段は、少なくともクリープ回復係数を求めるために、荷重除去時点における荷重信号の真値、言わば真の初期戻り荷重値、を推定するものとしてもよい。つまり、荷重検出器の応答性や第2振動成分の影響等によって、荷重除去時点における荷重信号から直接的に真の初期戻り荷重値を捉えることはできない。そこで、荷重除去時点よりも後の第2期間における安定した荷重信号に基づいて真の初期戻り荷重値を推定し、ひいてはクリープ回復係数を求めてもよい。
さらに、本第5発明においても、第1発明と同様の平均化手段を、備えてもよい。即ち、荷重検出器からテスト荷重が除去されるという同じ行為が複数回にわたって繰り返されることによって、複数の荷重信号が取得される。平均化手段は、これら複数の荷重信号をそれぞれに共通の荷重除去時点を基点として個々の時点ごとに平均化する。そして、クリープ回復特性同定手段は、平均化手段によって平均化された平均化荷重信号に基づいて、クリープ回復特性を同定するものとしてもよい。
そして、本発明の第6発明は、第5発明のクリープ回復特性同定装置による同定結果に基づいてクリープ回復誤差を補償するクリープ回復誤差補償装置である。
即ち、第5発明のクリープ回復特性同定装置によって荷重検出器のクリープ回復特性が同定された後、同じ荷重検出器に本第6発明のクリープ回復誤差補償装置が適用される。具体的には、当該荷重検出器から荷重が除去されると、本第6発明においても、第5発明における荷重除去時点特定手段によるのと同じ要領で、荷重除去時点が特定される。そして、この荷重除去時点を基点として、第5発明による同定結果、例えば上述の第2時定数とクリープ回復係数とを含む所定の関数式、に基づいて、クリープ回復誤差が補償される。
第7発明は、第5発明に対応する方法発明であり、即ち、荷重が除去されたときにクリープ回復現象を生じる荷重検出器に適用され、この荷重検出器から出力される荷重信号に含まれる当該クリープ回復現象によるクリープ回復誤差の特性を同定するクリープ回復特性同定方法であって、荷重検出器から荷重が除去された時点を荷重信号に基づいて特定する荷重除去時点特定過程と、この荷重除去時点特定過程で特定された荷重除去時点よりも後の第2期間における荷重信号に基づいて当該荷重除去時点を基点とする時間の関数である第2関数式によってクリープ回復誤差の特性を同定するクリープ回復特性同定過程と、を具備する。ここで、クリープ回復特性を表す第2関数式は、例えば第2時定数と、荷重の大きさに対するクリープ回復誤差の最大値を無次元化したクリープ回復係数と、を含む指数関数式とすることができる。そして、クリープ回復特性同定過程では、少なくともクリープ回復係数を求めるために、荷重除去時点における荷重信号の真値、つまり真の初期戻り荷重値、を推定するものとしてもよい。
そして、第8発明は、第7発明のクリープ回復特性同定方法による同定結果に基づいてクリープ回復誤差を補償するクリープ回復誤差補償方法であり、つまり、第6発明に対応する方法発明である。
上述したように、本発明のうちの第1発明のクリープ特性同定装置によれば、荷重信号が不安定な荷重印加時点ではなく、当該荷重印加時点よりも後の第1期間における安定した荷重信号に基づいて、荷重検出器のクリープ特性が同定される。従って、荷重印加時点t0という不安定な時点での荷重信号f(t)に基づいて同定を行うという上述した従来技術とは異なり、荷重検出器のクリープ特性を正確に同定することができる。
そして、第2発明のクリープ誤差補償装置によれば、第1発明による正確な同定結果に基づいて荷重信号に含まれるクリープ誤差が補償されるので、当該クリープ誤差を正確に補償することができる。
第3発明および第4発明は、それぞれ第1発明および第2発明に対応する方法発明であるので、これら第3発明および第4発明によっても、第1発明および第2発明と同様の効果が得られる。
第5発明のクリープ回復特性同定装置によれば、荷重信号が不安定な荷重除去時点ではなく、当該荷重除去時点よりも後の第2期間における安定した荷重信号に基づいて、荷重検出器のクリープ回復特性が同定される。従って、荷重除去時点t10という不安定な時点での荷重信号f(t)に基づいて同定を行うという従来技術とは異なり、荷重検出器のクリープ回復特性を正確に同定することができる。
そして、第6発明のクリープ回復誤差補償装置によれば、第5発明による正確な同定結果に基づいて荷重信号に含まれるクリープ回復誤差が補償されるので、当該クリープ回復誤差を正確に補償することができる。
さらに、第7発明および第8発明は、それぞれ第5発明および第6発明に対応する方法発明であるので、これら第7発明および第8発明によっても、第5発明および第6発明と同様の効果が得られる。
本発明が適用された計量器10の一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
本実施形態に係る計量器10は、図1に示すように、荷重検出手段としてのロードセル12を備えている。このロードセル12は、上述した従来技術におけるのと同様のロバーバル型のものであり、これに荷重が印加されると、印加された荷重の大きさに応じた電圧のアナログ荷重信号f(t)を出力する。このアナログ荷重信号f(t)は、増幅回路14によって増幅処理を施された後、A/D変換回路16に入力される。
A/D変換回路16は、入力されたアナログ荷重信号f(t)を、所定のサンプリング周期Tでサンプリングすることによって、ディジタル荷重信号f(nT)に変換する。なお、サンプリング周期Tは、T=数[ms]程度であり、例えばT=1[ms]である。そして、このA/D変換回路16によって変換されたディジタル荷重信号f(nT)は、入出力インタフェース回路18を介して、CPU(Central
Processing Unit)20に入力される。
CPU20は、入出力インタフェース回路18経由で入力されたディジタル荷重信号f(nT)に基づいて、ロードセル12に印加された荷重の大きさを算出する。そして、算出結果を、表示手段としてのディスプレイ22に表示する。なお、ディスプレイ22は、入出力インタフェース回路18を介して、CPU20に接続されている。また、CPU20には、命令入力手段としての操作キー24も、当該入出力インタフェース回路18を介して、接続されている。さらに、CPU20には、記憶手段としてのメモリ回路26も接続されており、このメモリ回路26には、CPU20の動作を制御するための制御プログラムが記憶されている。
ところで、本実施形態においても、ロードセル12に荷重が印加されたときに、クリープ現象が生じ、これによって、荷重信号f(t)(およびf(nT))にクリープ誤差が現れる。そして、ロードセル12から荷重が除去されたときには、クリープ回復現象が生じ、これによって、荷重信号f(t)にクリープ回復誤差が現れる。これらのクリープ誤差およびクリープ回復誤差を補償するべく、本実施形態では、次のようなクリープ誤差補償機能およびクリープ回復誤差補償機能が、設けられている。
まず、クリープ誤差補償機能について、説明する。
このクリープ誤差補償機能においては、クリープ誤差を含むロードセル12の特性が、上述の式6で表されるパルス伝達関数G1(z)に従うことが、前提とされる。そして、この前提の下、当該パルス伝達関数G1(z)に含まれるクリープ係数β1および時定数τ1を正確に求めるべく、事前の調整作業が行われる。
事前の調整作業においては、ロードセル12が、長時間にわたって、例えば少なくとも30分間以上にわたって、無負荷状態とされる。そして、この無負荷状態にあるロードセル12に、大きさが既知のテスト荷重が印加される。これによって、図8に示したのと同様の、図2に示すような荷重信号f(t)(およびf(nT))が得られる。なお、テスト荷重の大きさは、ロードセル12の定格荷重以下であればよく、例えば当該定格荷重と等しいかこれに近いのが、望ましい。
この図2に示すように、荷重信号f(t)は、ロードセル12にテスト荷重が印加されることによって、ゼロから当該テスト荷重の大きさに応じた初期荷重値f(t0)まで立ち上がり、その後、時間tの経過と共に漸増する。そして、最終的には、一定の最終荷重値f(∞)に落ち着く。また、荷重信号f(t)が初期荷重値f(t0)に立ち上がったときを含む、その直後には、ロードセル12にテスト荷重が印加された際の衝撃によって生じるオーバ・シュート状の振動成分50が現れ、この振動成分50は、時間tの経過と共に減衰する。
このような荷重信号f(t)において、本実施形態では、当該荷重信号f(t)が或る一定以上のレベル変化を示し、その後、最初の極値(極大値)52を示す時点t0が、ロードセル12に荷重が印加された時点として特定される。詳しくは、互いに連続する2つの荷重信号f((n−1)T)およびf(nT)の差分値D(nT)が次の式12を満足し、その後、当該差分値D(nT)がプラス値からマイナス値に変わった時点が、荷重印加時点t0とされる。
《式12》
D(nT)=f(nT)−f((n−1)T)≧C
なお、この式12において、Cは、ノイズ等の影響を排除するべく、上述した従来技術におけるのと同様の言わばマージンとしての定数である。また、この式12のみに注目すると、これは、従来技術における荷重印加時点t0の判断基準としてのf(nT)−f((n−1)T)≧Cと同意である。ただし、本実施形態では、この式12が満足されることに加えて、その後、荷重信号f(t)が最初の極値52を示すことが、荷重印加時点t0の判断基準とされるので、従来技術とは異なり、荷重信号f(t)の立ち上がりの途中で当該荷重印加時点t0が特定されることはない。つまり、従来技術に比べて、的確な(確固たる)荷重印加時点t0が特定される。
このようにして荷重印加時点t0が特定されると、この荷重印加時点t0を基点(t=0)として、クリープ誤差の特性r1(t)が、次の式13の指数関数式によって定義される。
《式13》
r1(t)=R1・{1−exp(−t/τ1)}
この式13において、R1は、テスト荷重が印加されることによるロードセル12の最終クリープ量であり、R1=r1(∞)−r1(t0)の関係にある。なお、r1(t0)は、荷重印加時点t0におけるロードセル12のクリープ量であり、r1(t0)=0である。そして、r1(∞)は、荷重印加時点t0から長時間経過後の時点(t=∞)におけるクリープ量である。
そして、この式13のクリープ特性r1(t)を時間tで微分すると、次の式14のようになる。
《式14》
dr1(t)/dt=(R1/τ1)・exp(−t/τ1)
ここで、荷重印加時点t0から或る時間T1が経過した時点t1において、上述の振動成分50が十分に減衰している、とする。すると、この時点t1におけるクリープ特性r1(t)の微分値{dr1(t)/dt}t=t1は、式14に準拠して、次の式15のようになる。
《式15》
{dr1(t)/dt}t=t1=(R1/τ1)・exp(−t1/τ1)
これと同様に、時点t1よりも後の適当な時点t3におけるクリープ特性r1(t)の微分値{dr1(t)/dt}t=t3は、次の式16のようになる。
《式16》
{dr1(t)/dt}t=t3=(R1/τ1)・exp(−t3/τ1)
そして、これら式15と式16との比を係数αで表すと、この係数αは、次の式17のようになる。
《式17》
α={dr1(t)/dt}t=t1/{dr1(t)/dt}t=t3
=exp(−t1/τ1)/exp(−t3/τ1)
=exp(t3/τ1)・exp(−t1/τ1)
=exp{(t3−t1)/τ1}
さらに、この式17の両辺の自然対数を取ると、次の式18のようになる。
《式18》
lnα=(t3−t1)/τ1
そして、この式18を、時定数τ1についての式に変形すると、次の式19のようになる。
《式19》
τ1=(t3−t1)/lnα
その一方で、上述の式15における微分値{dr1(t)/dt}t=t1は、具体的には、次の式20によって求めることができる。
《式20》
{dr1(t)/dt}t=t1
={r1(t2)−r1(t1)}/(t2−t1)
={f(t2)−f(t1)}/(t2−t1)
なお、この式20において、t2は、時点t1の近傍でかつ当該時点t1よりも後の時点である。そして、f(t1)は、時点t1における荷重値であり、f(t2)は、時点t2における荷重値である。
これと同様に、上述の式16における微分値{dr1(t)/dt}t=t3は、具体的には、次の式21によって求めることができる。
《式21》
{dr1(t)/dt}t=t3
={r1(t4)−r1(t3)}/(t4−t3)
={f(t4)−f(t3)}/(t4−t3)
なお、この式21において、t4は、時点t3の近傍でかつ当該時点t3よりも後の時点である。そして、f(t3)は、時点t3における荷重値であり、f(t4)は、時点t4における荷重値である。
つまり、式20によって求められた微分値{dr1(t)/dt}t=t1と、式21によって求められた微分値{dr1(t)/dt}t=t3と、を上述の式17に代入することで、係数αが求められる。そして、この係数αの値と、時点t1およびt3のそれぞれの値と、を上述の式19に代入することによって、時定数τ1が求められる。
さらに、この時定数τ1の値と、例えば式20によって求められた微分値{dr1(t)/dt}t=t1と、時点t1の値と、を上述の式15に代入することによって、最終クリープ量R1が求められる。これに代えて、時定数τ1の値と、式21によって求められた微分値{dr1(t)/dt}t=t3と、時点t3の値と、を上述の式16に代入することによっても、当該最終クリープ量R1を求めることができる。そして、次の式22によって、真の初期荷重値f(t0)が求められる。
《式22》
f(t0)=f(∞)−R1
なお、この式22における最終荷重値f(∞)は、厳密に言えば、荷重印加時点t0から長時間経過後の時点(t=∞)における荷重値であるが、実用的には、当該荷重印加時点t0から数十分間〜数時間経過後、例えば約30分間経過後、の時点における荷重値で代替することができる。
即ち、上述した従来技術では、荷重印加時点t0における不安定な荷重信号f(t)に基づいて初期荷重値f(t0)を捉えようとするために誤った初期荷重値f(t0)’が取得されてしまうが、本実施形態によれば、当該荷重印加時点t0よりも後の時点t1およびt3における安定した荷重信号f(t)、詳しくは当該各時点t1およびt3における微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3、に基づくことによって、真の初期荷重値f(t0)が求められ、言わば推定される。そして、この真の初期荷重値f(t0)を上述の式2に代入することによって、正確なクリープ係数β1が求められる。
さらに、この正確なクリープ係数β1と時定数τ1とを上述の式6に代入することによって、正確なパルス伝達関数G1(z)が求められる。つまり、クリープ特性を含むロードセル12の特性を、正確に同定することができる。
そして、このパルス伝達関数G1(z)とは逆の伝達関数1/G1(z)が求められ、この逆伝達関数1/G1(z)は、クリープ誤差補償用の伝達関数H1(z)として、メモリ回路26に記憶される。なお、このクリープ誤差補償用の伝達関数H1(z)は、上述の式6から、次の式23のようになる。
《式23》
H1(z)=(1+A1・z−1)/(1+B1・z−1)
where
A1=−exp(−t/τ1)
B1=−[exp(−t/τ1)−β1{1−exp(−t/τ1)}
これをもって、クリープ誤差補償機能を実現するための事前の調整作業が完了し、当該クリープ誤差補償機能を備えた計量器10の運用が可能となる。
即ち、運用時には、CPU20が、A/D変換回路16から入出力インタフェース回路18経由でディジタル荷重信号f(nT)が入力されるたびに、今回入力された荷重信号f(nT)と前回入力された荷重信号f((n−1)T)とを逐次比較する。そして、同定時と同様に、これらの差分値D(nT)(=f(nT)−f((n−1)T))が、上述の式12を満足し、その後、プラス値からマイナス値に変わったときに、その時点を、荷重印加時点t0として特定する。そして、この同定時と同じ荷重印加時点t0を基点(t=0)として、メモリ回路26に記憶されているクリープ誤差補償用の伝達関数H1(z)に基づいて、荷重信号f(nT)を処理する。これにより、この荷重信号f(nT)に含まれるクリープ誤差が補償され、高精度計量が実現される。
続いて、クリープ回復誤差補償機能について、説明する。
クリープ回復誤差補償機能においては、クリープ回復誤差を含むロードセル12の特性が、上述の式11で表されるパルス伝達関数G2(z)に従うことが、前提とされる。そして、この前提の下、当該パルス伝達関数G2(z)に含まれるクリープ回復係数β2および時定数τ2を正確に求めるべく、事前の調整作業が行われる。なお、このクリープ回復誤差補償機能を実現するための事前の調整作業は、上述のクリープ誤差補償機能を実現するための調整作業に続いて行われるのが、望ましい。
即ち、クリープ誤差補償機能を実現するための調整作業において、上述の如くロードセル12にテスト荷重が印加された後、そのままの状態で、クリープ回復誤差補償機能を実現するための調整作業が開始され、まず、当該ロードセル12からテスト荷重が除去される。これによって、図3に示すような荷重信号f(t)が得られる。
この図3に示すように、荷重信号f(t)は、ロードセル12からテスト荷重が除去されることによって、当該テスト荷重の大きさに応じた初期戻り荷重値Δf(t10)分だけ立ち下がり、その後、時間tの経過と共に漸減する。そして、最終的には、ゼロになる。また、荷重信号f(t)が初期戻り荷重値Δf(t10)分だけ立ち下がったときを含む、その直後には、ロードセル12からテスト荷重が除去された際の反動によるアンダ・シュート状の振動成分60が現れ、この振動成分60は、時間tの経過と共に減衰する。
このような荷重信号f(t)において、本実施形態では、当該荷重信号f(t)が或る一定以上のレベル変化を示し、その後、最初の極値(極小値)62を示す時点t10が、ロードセル12から荷重が除去された時点として特定される。詳しくは、上述した差分値D(nT)が次の式24を満足し、その後、当該差分値D(nT)がマイナス値からプラス値に変わった時点が、荷重除去時点t10とされる。
《式24》
D(nT)=f(nT)−f((n−1)T)<−C
なお、この式24のみに注目すると、これは、従来技術における荷重除去時点t10の判断基準としてのf(nT)−f((n−1)T)<−Cと同意である。ただし、本実施形態では、この式24が満足されることに加えて、その後、荷重信号f(t)が最初の極値62を示すことが、荷重除去時点t10の判断基準とされるので、従来技術とは異なり、荷重信号f(t)の立ち下がりの途中で当該荷重除去時点t10が特定されることはない。つまり、従来技術に比べて、的確な荷重除去時点t10が特定される。
このようにして荷重除去時点t10が特定されると、この荷重除去時点t10を基点(t=0)として、クリープ回復誤差の特性r2(t)が、次の式25の指数関数式によって定義される。
《式25》
r2(t)=R2・exp(−t/τ2)
この式25において、R2は、テスト荷重が除去されたことによるロードセル12の最終クリープ回復量であり、R2=f(t10’)−Δf(t10)の関係にある。なお、f(t10’)は、ロードセル12からテスト荷重が除去される直前の時点t10’における荷重値であり、f(t10’)≒f(∞)である。
そして、この式25のクリープ回復特性r2(t)を時間tで微分すると、次の式26のようになる。
《式26》
dr2(t)/dt=−(R2/τ2)・exp(−t/τ2)
ここで、荷重除去時点t10から或る時間T2が経過した時点t11において、上述の振動成分60が十分に減衰している、とする。すると、この時点t11におけるクリープ回復特性r2(t)の微分値{dr2(t)/dt}t=t11は、式26に準拠して、次の式27のようになる。
《式27》
{dr2(t)/dt}t=t11=−(R2/τ2)・exp(−t11/τ2)
これと同様に、時点t11よりも後の適当な時点t13におけるクリープ特性r2(t)の微分値{dr2(t)/dt}t=t13は、次の式28のようになる。
《式28》
{dr2(t)/dt}t=t13=−(R2/τ2)・exp(−t13/τ2)
そして、これら式27と式28との比を係数γで表すと、この係数γは、次の式29のようになる。
《式29》
γ={dr2(t)/dt}t=t11/{dr2(t)/dt}t=t13
=exp(−t11/τ2)/exp(−t13/τ2)
=exp(t13/τ2)・exp(−t11/τ2)
=exp{(t13−t11)/τ2}
さらに、この式29の両辺の自然対数を取ると、次の式30のようになる。
《式30》
lnγ=(t13−t11)/τ2
そして、この式30を、時定数τ2についての式に変形すると、次の式31のようになる。
《式31》
τ2=(t13−t11)/lnγ
その一方で、上述の式27における微分値{dr2(t)/dt}t=t11は、具体的には、次の式32によって求めることができる。
《式32》
{dr2(t)/dt}t=t11
={r2(t12)−r2(t11)}/(t12−t11)
={f(t12)−f(t11)}/(t12−t11)
なお、この式32において、t12は、時点t11の近傍でかつ当該時点t11よりも後の時点である。そして、f(t11)は、時点t11における荷重値であり、f(t12)は、時点t12における荷重値である。
これと同様に、上述の式28における微分値{dr2(t)/dt}t=t13は、具体的には、次の式33によって求めることができる。
《式33》
{dr2(t)/dt}t=t13
={r2(t14)−r2(t13)}/(t14−t13)
={f(t14)−f(t13)}/(t14−t13)
なお、この式33において、t14は、時点t13の近傍でかつ当該時点t13よりも後の時点である。そして、f(t13)は、時点t13における荷重値であり、f(t14)は、時点t14における荷重値である。
つまり、式32によって求められた微分値{dr2(t)/dt}t=t11と、式33によって求められた微分値{dr2(t)/dt}t=t13と、を上述の式29に代入することで、係数γが求められる。そして、この係数γの値と、時点t11およびt13のそれぞれの値と、を上述の式31に代入することによって、時定数τ2が求められる。
さらに、この時定数τ2の値と、例えば式32によって求められた微分値{dr2(t)/dt}t=t11と、時点t11の値と、を上述の式27に代入することによって、最終クリープ回復量R2が求められる。これに代えて、時定数τ2の値と、式33によって求められた微分値{dr2(t)/dt}t=t13と、時点t13の値と、を上述の式28に代入することによっても、当該最終クリープ回復量R2を求めることができる。そして、上述したR2=f(t10’)−Δf(t10)という関係を変形した次の式34によって、真の初期戻り荷重値Δf(t10)が求められる。
《式34》
Δf(t10)=f(t10’)−R2
即ち、上述した従来技術では、荷重除去時点t10における不安定な荷重信号f(t)に基づくために、初期戻り荷重値Δf(t10)が誤って取得されてしまうが、本実施形態によれば、当該荷重除去時点t10よりも後の時点t11およびt13における安定した荷重信号f(t)、詳しくは当該各時点t11およびt13における微分値{dr2(t)/dt}t=t11および{dr2(t)/dt}t=t13、に基づくことによって、真の初期戻り荷重値Δf(t10)が推定される。そして、この真の初期戻り荷重値Δf(t10)を上述の式8に代入することによって、正確なクリープ回復係数β2が求められる。
さらに、この正確なクリープ回復係数β2と時定数τ2とを上述の式11に代入することによって、正確なパルス伝達関数G2(z)が求められる。つまり、クリープ回復特性を含むロードセル12の特性を、正確に同定することができる。
そして、このパルス伝達関数G2(z)とは逆の伝達関数1/G2(z)が求められ、この逆伝達関数1/G2(z)は、クリープ回復誤差補償用の伝達関数H2(z)として、メモリ回路26に記憶される。なお、このクリープ回復誤差補償用の伝達関数H2(z)は、上述の式11から、次の式35のように表される。
《式35》
H2(z)=(1+A2・z−1)/(1+B2・z−1)
where
A2=−exp(−t/τ2)
B2=−[exp(−t/τ2)−β2{1−exp(−t/τ2)}
これをもって、クリープ回復誤差補償機能を実現するための事前の調整作業が完了し、当該クリープ回復誤差補償機能を備えた計量器10の運用が可能となる。
即ち、運用時には、CPU20が、上述の差分値D(nT)(=f(nT)−f((n−1)T))を逐次監視する。そして、同定時と同様に、この差分値D(nT)が、式24を満足し、その後、マイナス値からプラス値に変わったときに、その時点を、荷重除去時点t10として特定する。そして、この同定時と同じ荷重除去時点t10を基点(t=0)として、メモリ回路26に記憶されているクリープ誤差補償用の伝達関数H2(z)に基づいて、荷重信号f(nT)を処理する。これにより、クリープ回復誤差が補償され、高精度計量が実現される。
以上のように、本実施形態のクリープ誤差補償機能によれば、テスト荷重を用いた事前の調整作業において、荷重信号f(t)が不安定な荷重印加時点t0ではなく、当該荷重印加時点t0よりも後の時点t1およびt3における安定した荷重信号f(t)に基づいて、当該荷重印加時点t0を基点とするクリープ特性を含むロードセル12全体の特性が同定され、詳しくはパルス伝達関数G1(z)が求められる。従って、荷重印加時点t0という不安定な時点での荷重信号f(t)に基づいて同定を行うという上述した従来技術とは異なり、正確な同定が実現される。
そして、運用時においては、パルス伝達関数G1(z)とは逆のクリープ誤差補償用の伝達関数H2(z)に基づいて、同定時と同じ荷重印加時点t0を基点として荷重信号f(t)が離散的に処理される。これにより、荷重信号f(t)に含まれるクリープ誤差が正確に補償され、高精度計量が実現される。
また、荷重印加時点t0の特定については、上述の式12が満足されたことに加えて、その後、荷重信号f(t)が最初の極値52を示したということが、条件とされる。従って、単に式12と同様の条件が満足されたときに荷重印加時点t0が特定されるという従来技術に比べて、当該荷重印加時点t0が的確に特定される。このことも、正確な同定およびクリープ誤差補償を実現する上で、極めて重要である。
さらに、荷重印加時点t0を含む、その直後から、正確にクリープ誤差補償が行われるので、高速性が要求される計量器10、例えば定量計量装置や重量選別機等のいわゆる自動秤にも、十分に対応することができる。
そして、クリープ回復誤差補償機能についても、同様に、テスト荷重を用いた事前の調整作業において、荷重信号f(t)が不安定な荷重除去時点t10ではなく、当該荷重除去時点t10よりも後の時点11およびt13における安定した荷重信号f(t)に基づいて、当該荷重除去時点t10を基点とするクリープ回復特性を含むロードセル12全体の特性が同定され、詳しくはパルス伝達関数G2(z)が求められる。従って、荷重除去時点t10という不安定な時点での荷重信号f(t)に基づいて同定を行うという従来技術とは異なり、正確な同定が実現される。
併せて、運用時には、このパルス伝達関数G2(z)とは逆のクリープ回復誤差補償用の伝達関数H2(z)に基づいて、同定時と同じ荷重除去時点t10を基点として荷重信号f(t)が離散的に処理される。これにより、荷重信号f(t)に含まれるクリープ回復誤差が正確に補償され、高精度計量が実現される。
また、荷重除去時点t10の特定については、上述の式24が満足されたことに加えて、その後、荷重信号f(t)が最初の極値62を示したということが、条件とされる。従って、単に式24と同様の条件が満足されたときに荷重除去時点t10が特定されるという従来技術に比べて、当該荷重除去時点t10が的確に特定される。このことも、正確な同定およびクリープ回復誤差補償を実現する上で、極めて重要である。
さらに、荷重除去時点t1を含む、その直後から、正確にクリープ回復誤差補償が行われるので、高速性が要求される計量器10にも、十分に対応することができる。
なお、本実施形態においては、クリープ特性を含むロードセル12全体の特性が、式6のパルス伝達関数G1(z)、言い換えれば式5の1次遅れ要素モデルG1(s)、に従うことを前提としたが、これに限らない。例えば、2次以上の高次遅れ要素モデルに従うことを前提としてもよい。
また、クリープ回復特性を含むロードセル12全体の特性についても、式11のパルス伝達関数G2(z)、言い換えれば式7の1次遅れ要素モデルG2(s)、に従うことを前提としたが、これに限らず、2次以上の高次遅れ要素モデルに従うことを前提としてもよい。
そして、上述したように、式12が満足された後、荷重信号f(t)が最初の極値52を示した時点を、荷重印加時点t0として特定することとしたが、これに限らない。例えば、式12が満足された、という条件に代えて、或る一定期間にわたって安定状態にある荷重信号f(t)がその安定値から所定値以上に変化した、という条件を採用してもよい。さらに、荷重信号f(t)が最初の極値50を示した、という条件に代えて、当該荷重信号f(t)が2番目以降の所定番目の極値を示した、という条件を採用してもよい。
このことは、荷重除去時点t1の特定についても、同様である。即ち、式24が満足された、という条件に代えて、例えば或る一定期間にわたって安定状態にある荷重信号f(t)がその安定値から所定値以上に変化した、という条件を採用してもよい。また、荷重信号f(t)が最初の極値62を示した、という条件に代えて、当該荷重信号f(t)が2番目以降の所定番目の極値を示した、という条件を採用してもよい。
さらに、クリープ特性を同定する際に、時点t1およびt3以外の1以上の時点(時点t1よりも後の時点)についても、それぞれにおける微分値を求め、この微分値をも加味することによって、クリープ係数β1および時定数τ1のそれぞれの平均値を求めてもよい。このようにすれば、クリープ特性を含むロードセル12全体の特性をより正確に同定することができ、クリープ誤差をより正確に補償することができる。
クリープ回復特性を同定する際にも、同様に、時点t11および時点t13以外の1以上の時点(時点t11よりも後の時点)のそれぞれにおける微分値を求め、この微分値をも加味することによって、クリープ回復係数β2および時定数τ2のそれぞれの平均値を求めてもよい。このようにすれば、クリープ回復特性を含むロードセル12全体の特性をより正確に同定することができ、クリープ回復誤差をより正確に補償することができる。
そしてさらに、クリープ特性を同定する際に、ロードセル12にテスト荷重を印加するというテストをM(M;2以上の整数)回にわたって繰り返し、このM回にわたるテストの繰り返しによって得られたM個の荷重信号f(t)を、それぞれの荷重印加時点t0を基点として個々の時点tごとに平均化してもよい。具体的には、m(m=1〜M)回目のテストによって得られた荷重信号f(t)の或る時点txにおける荷重値をfm(tx)とすると、この荷重値fm(tx)は、次の式36によって表される。なお、時点txは、荷重印加時点t0を基点とする。
《式36》
fa(tx)={Σfm(tx)}/M where m=1〜M
このようにM個の荷重信号f(t)をそれぞれに共通の荷重印加時点t0を基点として個々の時点tごとに平均化することによって、図4に示すような滑らかな平均化荷重信号fa(t)が得られる。即ち、M個の荷重信号f(t)には、それぞれ振動成分50が含まれているが、この振動成分50の特性、例えば振幅や周波数,位相等は、当該M個の荷重信号f(t)間で一様ではなく、多少異なる。これは、ロードセル12に荷重が印加されたときに、当該ロードセル12に垂直方向の力が作用するが、これに加えて水平方向や捻り方向等の様々な方向にも微妙に力が作用し、その力の態様がテストごとに異なるからである。また、それぞれの荷重信号f(t)には、振動成分50以外のその他のノイズ成分も含まれているが、このノイズ成分の特性もまた、一様ではない。従って、各荷重信号f(t)を平均化することによって、当該各荷重信号f(t)そのものの特性、例えば立ち上がり特性やクリープ特性、には遅延等の影響を与えることなく、それぞれに含まれる振動成分50等のノイズ成分のみを減衰(平滑化)させることに成功した平均化荷重信号fa(t)を得ることができる。ただし、振動成分50の最初の極値52については、完全に減衰せず、これを十分に検出し得る程度に残存するので、当該極値52を検出することによる荷重印加時点t0の特定には、何らの不都合は生じない。ゆえに、図2に示した荷重信号f(t)に代えて、この図4に示すような滑らかな平均化荷重信号fa(t)に基づいて、クリープ特性を同定すれば、同定精度が飛躍的に向上する。
また、図4と図2とを比較して分かるように、図4の平均化荷重信号fa(t)によれば、図2の荷重信号f(t)に比べて、荷重印加時点t0から振動成分50が十分に減衰したとみなすことのできる時点t1までの時間T1が大幅に短くなる。つまり、時点t1が荷重印加時点t0に近づく。これによって、時点t1におけるクリープ特性の傾きが大きくなり、当該時点t1における上述した微分値{dr1(t)/dt}t=t1がより正確に求められるようになる。時点t3もまた、荷重印加時点t1に近づくので、この時点t3における微分値{dr1(t)/dt}t=t3も、正確に求められる。そして、このように各微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3が正確に求められることによって、同定精度がさらに向上する。
これと同様に、クリープ回復特性を同定する際にも、図5に示すような平均化荷重信号fa(t)を求め、この平均化荷重信号fa(t)に基づいて、クリープ回復特性を同定してもよい。このようにすれば、クリープ回復特性についても、より正確に同定できることは、明らかである。
そして、本実施形態においては、クリープ特性を同定する際に、各微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3を求めることとしたが、これらの微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3を求めなくても、次の要領で、当該クリープ特性を同定することができる。
即ち、荷重印加時点t0を基点として、それぞれの時点tにおける荷重信号f(t)の最終荷重値f(∞)からの偏差y(t)を、次の式37によって求める。
《式37》
y(t)=f(∞)−f(t)
この偏差y(t)は、最終荷重値f(∞)を基準軸とするクリープ誤差の特性を表し、これを図示すると、図6のような指数特性となる。ゆえに、この偏差y(t)は、次の式38のように定義することができる。
《式38》
y(t)=R1・{exp(−1/τ1)}t=R1・pt
where
p=exp(−1/τ1)
そして、式38の両辺の自然対数を取ると、次の式39のようになる。
《式39》
lny(t)=lnR1+t・lnp
さらに、この式39において、lny(t)=Y,lnR1=Q,およびlnp=Pと置くと、この式39は、次の式40のように表される。
《式40》
Y=P・t+Q
where
Y=lny(t)
P=lnp
Q=lnR1
ここで、上述したのと同様の2つの時点t1およびt3のそれぞれにおける荷重値f(t1)およびf(t3)を、上述の式37に代入することによって、それぞれの偏差y(t1)およびy(t3)が求められる。さらに、これらの偏差y(t1)およびy(t3)のそれぞれの自然対数lny(t1)およびlny(t3)を、Y1およびY3とすると、式40に準拠して、次の式41および式42が成立する。
《式41》
Y1=P・t1+Q
《式42》
Y3=P・t3+Q
そして、これら式41および式42の連立方程式から、数PおよびQのそれぞれの値を求めることができる。このうち、数Pは、次の式43のように表される。
《式43》
P=lnp=ln{exp(−1/τ1)}=−1/τ1
従って、この式43を変形した次の式44から、時定数τ1を求めることができる。
《式44》
τ1=−1/P
そして、Q=lnR1という関係から、最終クリープ量R1は、次の式45によって求められる。
《式45》
R1=expQ
このようにして最終クリープ量R1が求められると、これを上述した式22に代入することによって、初期荷重値f(t0)を求めることができる。そして、この初期荷重値f(t0)を上述の式2に代入することで、クリープ係数β1を求めることができる。つまり、上述の式44によって求められる時定数τ1と合わせて、クリープ特性を同定することができる。
この要領によれば、上述した微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3を用いないので、当該微分値{dr1(t)/dt}t=t1および{dr1(t)/dt}t=t3という微小振動等のノイズの影響を受け易いとされる数値を用いる演算法に比べて、高い同定精度を得ることができる。
なお、より高い同定精度を得るべく、時点t1およびt3以外の1以上の時点(時点t1よりも後の時点)についても、上述の式40に準拠する方程式を立て、この方程式をも加味することによって、クリープ係数β1および時定数τ1のそれぞれの平均値を求めてもよい。
また、より多くの時点について、式40に準拠する方程式を立て、これら多数の方程式を最小2乗法等の回帰分析法に適用することによって、各数PおよびQを求め、ひいてはクリープ係数β1および時定数τ1を求めてもよい。このように回帰分析法を用いれば、微小振動等のノイズの影響に対してさらに正確にクリープ特性を同定することができる。さらには、振動成分50が十分に減衰していない期間における荷重信号f(t)からも、正確にクリープ特性を同定することができる。
勿論、クリープ回復特性を同定する際にも、これと同様に、微分値{dr1(t)/dt}t=t11および{dr1(t)/dt}t=t13を用いない演算法を採用してもよい。
併せて、本実施形態においては、荷重検出器12として、ロバーバル型のロードセルを例に挙げたが、これ以外のロードセル、例えばコラム型(または円柱型とも言う。)やシャー型(またはせん断型とも言う。)等のロードセル、を採用してもよい。また、荷重が印加されたときに荷重信号f(t)が立ち下がり、当該荷重が除去されたときに荷重信号f(t)が立ち上がる、いわゆる負特性タイプのロードセルを採用してもよい。