しかしながら、近年の電池は小型化されているため、筒体と蓋体の板厚は薄く、小さい回転ツールしか用いることができない。そのため、形成される塑性化領域は小さく、筒体と蓋体の十分な接合強度が得られない場合もあった。さらに、前記電池はパーソナルコンピュータ等の精密電子機器に設けられ場合が多いため、さらなる信頼性の向上のために筒体と蓋体の接合部における密閉性能を向上させることが要求されている。
そこで、本発明は、接合部の接合強度および密閉性能を向上させることができる密閉容器の製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するための手段として、本発明は、筒体の開口部に、この開口部を封止する蓋体を摩擦攪拌接合によって固定して構成される密閉容器の製造方法において、前記蓋体の外周面に、前記筒体の内周面との当接面を前記蓋体の外周面から内側に下がって形成して、前記当接面に凹溝を形成し、前記蓋体の当接面を前記筒体の内周面に当接させ、前記蓋体の段差側面と前記筒体の開口端面を突き合せた状態で、前記段差側面と前記開口端面との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記蓋体を前記筒体に固定することを特徴とする密閉容器の製造方法である。
このような方法によれば、当接面に形成された凹溝に塑性流動化されたメタルが流入することで、この塑性化領域のメタルが蓋体に係合する凸条となるので、塑性化領域と蓋体とが互いに噛み合う。これによって、筒体と蓋体の接合強度を高めることができるとともに、接合部における密閉性能を向上させることができ、密閉容器の信頼性が高くなる。
そして、本発明は、前記凹溝が、前記当接面の前記段差側面寄りに形成されていることを特徴とする。
このような方法によれば、突合部と凹溝が近くなるので、塑性流動化されたメタルが凹溝に流入しやすくなる。
また、本発明は、前記筒体が、一方が開口した有底筒状を呈していることを特徴とする。
このような方法によれば、筒体の一方のみに蓋体を固定すればよく、接合作業手間の軽減を図れるとともに、密閉性能をさらに向上させることができる。
さらに、本発明は、前記蓋体の段差側面と前記筒体の開口端面を突き合せた状態で、前記蓋体の外周面と前記筒体の外周面とが面一となっていることを特徴とする。
このような方法によれば、回転ツールを挿入する面が平面となるので、回転ツールの挿入作業を行いやすい。
また、本発明は、前記蓋体の段差側面と前記筒体の開口端面を突き合せた状態で、前記筒体の外周面が前記蓋体の外周面よりも外側に位置していることを特徴とする。
このような方法によれば、凹溝の上方の位置での肉厚が大きくなるので、凹溝に流入するメタル量を確保することができる。
さらに、本発明は、前記回転ツールを前記突合部に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って前記回転ツールを移動させて、前記塑性化領域の一部を重複させることを特徴とする。
このような方法によれば、塑性化領域の一部が重複していることにより、筒体と蓋体とを隙間なく良好に接合することができるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
また、本発明は、前記回転ツールの攪拌ピンの長さ寸法が、前記筒体の筒部の厚さ寸法と同等或いは前記厚さ寸法より小さいことを特徴とする。
このような方法によれば、攪拌ピンが凹溝に入り込まないので、凹溝の周辺部分の変形を抑制できる。これによって、メタルと凹溝の内壁面との接触面積が大きくなるので塑性化領域と蓋体との係合性を向上させることができる。
さらに、本発明は、前記回転ツールのショルダー径寸法が、前記凹溝の幅寸法よりも大きいことを特徴とする。
このような方法によれば、凹溝の上方を回転ツールのショルダー部で覆うことができるので、凹溝の上方全体が塑性化領域となり、塑性流動化されたメタルが凹溝に流入しやすくなる。
また、本発明は、前記回転ツールを一周させた後に、前記回転ツールを前記蓋体側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記蓋体の外周面上を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させることを特徴とする。
このような方法によれば、一周目で塑性化領域に空洞欠陥が発生したとしても二周目の移動で攪拌して空洞欠陥を低減することができるとともに、万一、二周目で塑性化領域に空洞欠陥が発生したとしても、蓋体の外周面で突合部から離反した部分に発生するので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
さらに、本発明は、前記回転ツールの二周目で形成された塑性化領域と、前記回転ツールの一周目で形成された塑性化領域とが、全周に亘ってその幅方向の一部同士が重複するように前記回転ツールを移動させることを特徴とする。
このような方法によれば、各塑性化領域の幅方向の一部同士が重複していることにより、筒体と蓋体とを良好に接合することができるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
また、本発明は、前記回転ツールから進行方向を向いて前記蓋体が左側に位置するときは、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールから進行方向を向いて前記蓋体が右側に位置するときは、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする。
このような方法によれば、回転ツールのシアー側が厚肉の蓋体側に位置する。このため、空洞欠陥が発生したとしても、蓋体側であって突合部よりも外側位置の離反した部分(シアー側)に発生することとなり、内部収容物が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
さらに、前記回転ツールで前記塑性化領域を形成する工程に先立って、前記突合部の一部を前記回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて仮接合することを特徴とする。
このような方法によれば、筒体と蓋体とを仮接合することによって、本接合の際に、蓋体が筒体に対して移動することがなく、本接合しやすくなるとともに、蓋体の位置決め精度が向上する。また、仮接合用回転ツールが本接合用の回転ツールよりも小さいので、本接合用の回転ツールを、仮接合部分の上で移動させて摩擦攪拌するだけで、仮接合用回転ツールによって形成された塑性化領域が再攪拌されてはみ出すことがないので、本接合が仕上げられる。
また、本発明は、筒体の開口部に、この開口部を封止する蓋体を摩擦攪拌接合によって固定して構成される密閉容器の製造方法において、前記筒体の開口端面の内周部に、前記蓋体の支持面を前記開口端面から下がって形成して、前記支持面に凹溝を形成し、前記支持面に前記蓋体を載置して、前記筒体の段差側面と前記蓋体の外周面を突き合わせた状態で、前記段差側面と前記蓋体の前記外周面との突合部に沿って回転ツールを一周させ、前記突合部に塑性化領域を形成しつつ、前記凹溝に塑性流動化されたメタルを流入させて、前記蓋体を前記筒体に固定することを特徴とする密閉容器の製造方法である。
この方法は、前記の発明が、蓋体に凹溝を形成していたのに対して、本発明は、筒体に凹溝が形成されている。このような方法によっても、開口端面に形成された凹溝に塑性流動化されたメタルが流入することで、この塑性化領域のメタルが筒体に係合する凸条となるので、塑性化領域と筒体とが互いに噛み合う。これによって、筒体と蓋体の接合強度を高めることができるとともに、接合部における密閉性能を向上させることができ、密閉容器の信頼性が高くなる。
さらに、本発明は、前記凹溝が、前記支持面の外周部に形成されていることを特徴とする。
このような方法によれば、突合部と凹溝が近くなるので、塑性流動化されたメタルが凹溝に流入しやすくなる。
また、本発明は、前記筒体の段差側面と前記蓋体の外周面を突き合わせた状態で、前記筒体の前記開口端面と前記蓋体の表面とが面一となっていることを特徴とする。
このような方法によれば、回転ツールを挿入する面が平面となるので、回転ツールの挿入作業を行いやすい。
さらに、本発明は、前記筒体の段差側面と前記蓋体の外周面を突き合わせた状態で、前記蓋体が前記筒体の前記開口端面から突出していることを特徴とする。
このような方法によれば、凹溝の上方の位置での肉厚が大きくなるので、凹溝に流入するメタル量を確保することができる。
また、本発明は、前記回転ツールを一周させた後に、前記回転ツールを前記筒体側に偏移させて、前記回転ツールの攪拌ピンが前記筒体の前記開口端面上を移動するように、前記回転ツールを前記突合部に沿ってさらに一周させることを特徴とする。
このような方法によれば、一周目で塑性化領域に空洞欠陥が発生したとしても二周目の移動で攪拌して空洞欠陥を低減することができるとともに、万一、二周目で塑性化領域に空洞欠陥が発生したとしても、蓋体の外周面で突合部から離反した部分に発生するので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
さらに、本発明は、前記回転ツールから進行方向を向いて前記蓋体が右側に位置するときは、前記回転ツールを右回転させ、前記回転ツールから進行方向を向いて前記蓋体が左側に位置するときは、前記回転ツールを左回転させることを特徴とする。
このような方法によれば、回転ツールのシアー側が厚肉の筒体側に位置する。このため、空洞欠陥が発生したとしても、筒体側であって突合部よりも外側位置の離反した部分(シアー側)に発生することとなり、内部収容物が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
また、本発明は、前記回転ツールで前記塑性化領域を形成する工程に先立って、前記突合部の一部を前記回転ツールよりも小型の仮接合用回転ツールを用いて仮接合することを特徴とする。
このような方法によれば、筒体と蓋体とを仮接合することによって、本接合の際に、蓋体が筒体に対して移動することがなく、本接合しやすくなるとともに、蓋体の位置決め精度が向上する。また、仮接合用回転ツールが本接合用の回転ツールよりも小さいので、本接合用の回転ツールを、仮接合部分の上で移動させて摩擦攪拌するだけで、仮接合用回転ツールによって形成された塑性化領域が再攪拌されてはみ出すことがないので、本接合が仕上げられる。
さらに、本発明は、前記突合部が矩形枠状を呈しており、前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対角同士を先に仮接合した後に、他方の対角同士を仮接合することを特徴とする。
このような方法によれば、蓋体をバランスよく仮接合することができ、蓋体の筒体に対する位置決め精度が向上する。
また、本発明は、前記突合部が矩形枠状を呈しており、前記仮接合用回転ツールで前記突合部を仮接合する工程において、前記突合部の一方の対辺の中間部同士を先に仮接合した後に、他方の対辺の中間部同士を仮接合することを特徴とする。
このような方法によれば、蓋体をバランスよく仮接合することができ、蓋体の筒体に対する位置決め精度が向上する。さらに、仮接合は直線状に行われるので、加工が容易となる。
本発明によれば、筒体と蓋体との接合部の接合強度および密閉性能を向上させることができるといった優れた効果を発揮する。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について、図面を適宜参照して詳細に説明する。まず、第1実施形態に係る密閉容器の製造方法によって形成された密閉容器について説明する。密閉容器は、例えば、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等のモバイル機器やAV機器などの電子機器の電源として用いられる薄型電池のケースとして用いられる部品である。
図1および図2に示すように、密閉容器1(図3の(d)参照)は、筒体10の開口部11に、この開口部11を封止する蓋体30を摩擦攪拌接合によって固定して構成されている(図3参照)。第1実施形態においては、蓋体30の外周面に、その表面から内側に下がった段差底面からなり筒体10の内周面12に当接する当接面31が形成され、この当接面31には凹溝32が形成されている。蓋体30の当接面31は、筒体10の内部に挿入されて筒体10の内周面12に当接している。このとき、蓋体30の段差側面33と筒体10の開口端面13とが突き合わされて突合部2が形成される。この突合部2に沿って回転ツール50(図4の(b)および(c)参照)を一周させることで、摩擦攪拌接合が行われて、突合部2に塑性化領域3(図3参照)が形成されている。この摩擦攪拌接合時に、凹溝32には塑性流動化されたメタルが流入して、塑性化領域3の一部が凹溝32内に位置することとなる(図4の(b)および(c)参照)。これによって、塑性化領域3のメタルが蓋体30に係合する凸条となるので、塑性化領域3と蓋体30とが互いに噛み合う構成となる。
本実施形態に係る筒体10は、一方が開口し、他方が閉塞された有底筒状を呈しており、蓋体30は、筒体10の軸方向一方のみ(開口部11)に固定されている。また、筒体10は、円筒形状を呈している。筒体10は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。筒体10は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、密閉容器1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。
筒体10が有底円筒状を呈していることに対応して、蓋体30は、大径部34と小径部35を備えた円盤形状を呈している。蓋体30の大径部34と小径部35は、同芯状に形成されている。図2に示すように、小径部35は、筒体10の内部に挿入される。小径部35は、筒体10の内周径と同等の外周径を有しており、小径部35の外周面が筒体10の内周面12に当接する当接面31を構成している。凹溝32は、小径部35の外周面から内側に所定深さ分、下がって形成されている。図4の(a)に示すように、凹溝32は、当接面31の段差側面33寄りに形成されている。具体的には、凹溝32は、当接面31に沿ってリング状に形成されており、断面矩形を呈している。そして、凹溝32の大径部34側の側面32aは、段差側面33と面一となっており、凹溝32が、段差側面33と隣接した状態となっている。凹溝32は、その幅寸法W1が、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール50のショルダー径(ショルダー部51の直径)寸法R1よりも小さく設定されている(回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝32の幅寸法W1よりも大きい)。特に、本実施形態では、ショルダー径寸法R1の半分(半径寸法)が、凹溝32の幅寸法W1より大きい。また、凹溝32の幅寸法W1は、当接面31の軸方向長さ寸法(段差側面33から小径部35の先端までの長さ)W2の1/4程度となっている。なお、凹溝32は、メタルの移動量を考慮すると、容積が小さい方が好ましい。すなわち、凹溝32の容積が小さいと、メタルの移動流入量が少なくなるので、空洞欠陥の発生を抑制できる。図中、凹溝32は、構成を明確にするため大きめに書いているが、実施段階では小さく形成される場合もある。
図2および図4の(a)に示すように、大径部34は、筒体10の外周径と同等の外周径を有しており、蓋体30の段差側面33と筒体10の開口端面13を突き合せた状態で、蓋体30の外周面(大径部34の外周面)と筒体10の外周面とが面一となるように構成されている。言い換えれば、筒体10の厚さ寸法T1と、蓋体30の当接面31(小径部35の外周面)と大径部34の外周面との段差寸法H1とが等しい(図4の(a)参照)。
蓋体30も筒体10と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、密閉容器1は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。蓋体30は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されたブロックを切削加工することで小径部35と凹溝32を形成して作製されている。なお、作製方法はこれに限定されるものではなく、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製してもよい。
次に、密閉容器1の製造方法について、筒体10に蓋体30を摩擦攪拌接合によって固定する工程を中心に説明する。
まず、図2に示すように、蓋体30を筒体10に向けて移動させて、小径部35を筒体10の開口部11(図1参照)からその内部に挿入する。すると、蓋体30の段差側面33と、筒体10の開口端面13とが突き合わされ、突合部2が構成される。また、このとき、当接面31に形成された凹溝32は、筒体10の内周面12によって覆われて、断面矩形の空間が区画形成される。
次に、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を突合部2に沿って移動させる。回転ツール50は、筒体10や蓋体30よりも硬質の金属材料からなり、図4の(b)および(c)に示すように、円柱状を呈するショルダー部51と、このショルダー部51の下端面に突設された攪拌ピン(プローブ)52とを備えて構成されている。回転ツール50の寸法・形状は、筒体10および蓋体30の材質や厚さ等に応じて設定すればよい。なお、本実施形態では、攪拌ピン52は、下部が縮径した円錐台状を呈しており、その突出長さ寸法L1は、筒体10の厚さ寸法T1以下となっている。また、回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝32の幅寸法W1よりも大きくなっている。そして、摩擦攪拌接合時には、攪拌ピン52の先端が当接面31の表面と略同じ高さに位置するか、或いは表面より上側に位置するように、回転ツール50が押し込まれる。さらに、回転ツール50の押込み量は、凹溝32の容積にも応じて決定されており、摩擦攪拌によって塑性流動化したメタルが、凹溝32全体に流れ込むように設定される。回転ツール50の回転速度は500〜15000(rpm)、送り速度は0.05〜2(m/分)で、突合部2を押さえる押込み力は1〜20(kN)程度で、筒体10および蓋体30の材質や板厚および形状に応じて適宜選択される。
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。図3の(a)に示すように、まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置53に挿入する。回転ツール50の挿入位置53は、突合部2から蓋体30の大径部34側に外れた大径部34の外周面上となっている。なお、回転ツール50の挿入位置53に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
その後、回転ツール50を、挿入位置53から突合部2の真上位置(回転ツール50の中心が突合部2上となる位置)まで回転させながら移動させる。その後、回転ツール50の中心(軸芯)が突合部2上を移動するように、回転ツール50の移動方向を変えて、突合部2に沿って回転ツール50を移動させる。このとき、突合部2の周囲の筒体10と蓋体30は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域3となる。ここで、「塑性化領域」とは、回転ツール50の摩擦熱によって加熱されて現に塑性化している状態と、回転ツール50が通り過ぎて常温に戻った状態の両方を含むこととする。回転ツール50によって、塑性流動化された筒体10および蓋体30のメタルの一部は、凹溝32内に流入する(図4の(b)参照)。そして、凹溝32内に流入したメタルは、回転ツール50の通過後、常温に戻って固まる。
このとき、回転ツール50の移動方向(図3中、矢印Y1参照)と同じ方向に回転ツール50が回動(図3中、矢印Y2参照)するシアー側50b(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさに移動速度の大きさを加算した値となる側)が、回転ツール50の軸方向に分厚い蓋体30の大径部34上に位置するように、回転ツール50を回転、移動させる。つまり、本実施形態のように、回転ツール50からその進行方向を向いて蓋体30(蓋体30の外側に露出した大径部34)が右側に位置するときは、回転ツール50を左回転させる。なお、回転ツール50から進行方向を向いて蓋体30(蓋体30の外側に露出した大径部34)が左側に位置するときは、回転ツール50を右回転させる。このようにすることによって、回転ツール50のシアー側50bが厚肉の蓋体30側に位置する。そして、回転ツール50の軸方向に薄肉の筒体10側は、回転ツール50のフロー側50a(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、筒体10側は、攪拌温度が低くメタルの流動量が少なくなりバリの発生量も少ないので、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、薄肉の筒体10側ではなく、蓋体30側であって突合部2よりも外側位置の離反した部分に発生することとなり、密閉容器1内の流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
引き続き、回転ツール50の回転および移動を継続し、図3の(b)に示すように、回転ツール50を、突合部2に沿って一周させて塑性化領域3を形成する。回転ツール50を一周させたら、一周目の始端54aを含む始端部(始端54aから回転ツール50の移動方向に所定長さ進んだ位置(終端54bと同じ位置)までの部分)に沿って回転ツール50を所定長さ移動させる。これによって、回転ツール50の周方向移動における始端54aと終端54bとが互いにオーバーラップしており、塑性化領域3の一部が重複するように構成される。
その後、図3の(c)に示すように、回転ツール50の移動軌跡を一周目の終端54bから蓋体30の大径部34側へ偏移させた後に、二周目の摩擦攪拌を行う。回転ツール50は、移動方向に向かうに連れて蓋体30の大径部34側へ向かうように斜めに移動させることで偏移させる。回転ツール50の偏移量は、回転ツール50のショルダー部51(図4の(b)参照)が、回転ツール50の一周目の移動で形成された塑性化領域3の少なくとも幅方向の一部と重複する部分までとし、塑性化領域3のシアー側50bが回転ツール50の二周目の摩擦攪拌によって、再攪拌されるようにする。その後、回転ツール50は、突合部2に沿って塑性化領域3に対して平行移動する。二周目の移動に入るに際して、回転ツール50は、交換を行わず、塑性化領域3に挿入したままの状態で、移動方向および回転方向は一周目と同様(図3の(c)および(d)中、矢印Y1,Y2参照)の状態を継続させ、押込み量も変更しない。なお、回転ツール50の回転速度や移動速度等は、筒体10と蓋体30の形状や材質に応じて適宜変更してもよい。これによって、回転ツール50が一周目と同じ方向に移動して同方向に回転する二周目によって、一周目で形成された塑性化領域3の幅方向の一部と重合する第二塑性化領域4(図3の(d)参照)が形成される。
そして、図3の(d)に示すように、回転ツール50の二周目の移動が終了したならば、回転ツール50を第二塑性化領域4から蓋体30の大径部34側に外れた大径部34の外周面上の引抜位置55へと移動させ、その位置で回転ツール50を引き抜く。引抜位置55は、突合部2から外側に外れた位置となっているので、引抜跡(図示せず)が突合部2に形成されることはなく、筒体10と蓋体30との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
以上のように、回転ツール50を筒体10の開口部11の周囲で、突合部2に沿って二周させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域3および第二塑性化領域4を形成し、筒体10に蓋体30を固定することで、密閉容器が形成される。
本実施形態に係る密閉容器1の製造方法によれば、回転ツール50によって、塑性流動化された筒体10および蓋体30のメタルの一部が、凹溝32内に流入して、常温に戻って固まるので、凹溝32に流入したメタルが筒体10に係合する凸条となる。これによって、塑性化領域3と蓋体30とが互いに噛み合うことになり係合性が高くなる。特に本実施形態では、蓋体30の軸方向(引き抜き方向)に直交する方向に塑性化領域3から凸条が突出するので、塑性化領域3と蓋体30との係合性が高い。したがって、筒体10と蓋体30の接合部における密閉性能を向上させることができ、密閉容器1の信頼性を高めることができる。
さらに、凹溝32へ流入したメタルが、当接面31に対して直交して垂下する壁面を構成するので、この壁面が堰の役目を果たし、筒体10と蓋体30の接合部における液密性を向上させることができる。
また、本実施形態では、凹溝32は、当接面31の段差側面33寄りに形成されているので、突合部2と凹溝32が近くなる。これによって、突合部2上を移動した回転ツール50による一周目の摩擦攪拌によって塑性流動化されたメタルが凹溝32に流入しやすくなる。さらに、回転ツール50のショルダー径寸法R1が、凹溝32の幅寸法W1よりも大きく、特に、本実施形態では、ショルダー部51の半径が凹溝32の幅寸法W1よりも大きいので、凹溝32の上方を回転ツール50のショルダー部51で覆うことができ、凹溝32の上方全体が塑性化領域3となり、塑性流動化されたメタルが凹溝32に流入しやすくなる。したがって、凹溝32内の全体に塑性流動化されたメタルが流入して、筒体10と蓋体30の接合部における密閉性能を向上させることができる。
さらに、回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1が、筒体10の厚さ寸法T1と同等或いは厚さ寸法T1より小さいので、攪拌ピン52の先端が凹溝32に入り込まない。これによって、凹溝32の周辺部分の変形を抑制でき、塑性流動化したメタルと凹溝32の内壁面との係合面積が大きくなるので、塑性化領域3と蓋体30の係合性を向上することができる。
また、回転ツール50を突合部2に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って回転ツール50を移動させて、塑性化領域3の一部を重複させることで、突合部2の周囲で塑性化領域3が途切れることがない。したがって、突合部2の全周に亘って筒体10と蓋体30とが確実に接合されるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
さらに、本実施形態では、回転ツール50からその進行方向を向いて蓋体30が右側に位置するときは、回転ツール50を左回転させるとともに、回転ツール50を一周させた後に、回転ツール50を蓋体30の大径部34側に偏移させて、回転ツール50の攪拌ピン52が大径部34の外周面上を移動するように回転ツール50を突合部2に沿ってさらに一周させているので、シアー側50bとなる塑性化領域3の大径部34寄り部分は、回転ツール50の二周目の移動によって再攪拌されることとなる。したがって、塑性化領域3の大径部34寄り部分に空洞欠陥が発生していたとしても二周目の移動で空洞欠陥を低減することができる。さらに、回転ツール50の二周目の移動におけるシアー側50bは、大径部34の外周面で突合部2から離反した部分となるので、万一、空洞欠陥が発生したとしても、突合部2から離反した部分に発生する。したがって、内部に収容された流体が外部に漏れにくく、接合部の密閉性能を低下させることはない。また、塑性化領域3と第二塑性化領域4とは、その幅方向の一部が突合部2の全周に亘って重複していることにより、筒体10と蓋体30とを隙間なく良好に接合することができる。よって、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
さらに、蓋体30は、大径部34と小径部35とを備えていることによって、軸方向長さが長くなり、剛性が高くなる。したがって、摩擦攪拌接合の熱により蓋体30が変形するのを防止できる。これによって、筒体10の開口端面13と蓋体30の段差側面33との突合状態が良好となり、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
なお、前記実施形態では、回転ツール50を、突合部2に沿って二周させて、摩擦攪拌を行っているが、これに限定するものではなく、一周目の摩擦攪拌で、凹溝32内に塑性流動化されたメタルの一部が流入するので、回転ツール50の移動を一周だけで終了させてもよい。また、回転ツール50を三周以上させて摩擦攪拌を行ってもよい。
次に、第1実施形態に係る密閉容器1の製造方法において、回転ツール50で塑性化領域3および第二塑性化領域4を形成して蓋体30を筒体10に本接合する工程に先立って、蓋体30を筒体10に仮接合する場合について説明する。
図5に示すように、仮接合は、筒体10と蓋体30との突合部2の一部に施され、回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール(図示せず)を用いて行われる。仮接合を行った後には、図3に示すように、回転ツール50を用いて本接合を行う。
仮接合用回転ツールは、回転ツール50よりも小径のショルダー部と攪拌ピン(図示せず)を備えており、形成される塑性化領域5(図5参照)は、後の工程で回転ツール50によって形成される塑性化領域3(図3参照)の幅よりも小さい幅を有することとなる。そして、塑性化領域5は、後の工程で塑性化領域3が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。これによって、仮接合における塑性化領域5は、塑性化領域3で完全に覆われることとなるので、塑性化領域5に残った仮接合用回転ツールの引抜跡および塑性化領域5の跡が残らない。
本実施形態では、突合部2が側面視で円形を呈しており、仮接合用回転ツールで突合部2を仮接合する工程において、任意の直径S1の両端部6a,6bを先に仮接合した後に、前記直径に直交する第二の直径S2の両端部6c,6dを仮接合するようになっている。このような順序で仮接合することで、蓋体30をバランスよく筒体10に仮接合することができ、蓋体30の筒体10に対する位置決め精度が向上するとともに、蓋体30の変形を防止できる。また、蓋体30の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の蓋体30のズレを防止でき、接合部の密閉性能をより一層向上させることができる。
次に、第1実施形態に係る密閉容器1の製造方法の第一変形例について、図6を参照しながら説明する。前記の第1実施形態では、図4の(a)に示すように、蓋体30の段差側面33と筒体10の開口端面13を突き合せた状態で、蓋体30の外周面(大径部34の外周面)と筒体10の外周面とが面一となるように構成されていたのに対して、かかる第一変形例は、図6の(a)に示すように、筒体10’の外周面が蓋体30の外周面(大径部34の外周面)よりも外側に位置していることを特徴とする。具体的には、筒体10’の外周径は、蓋体30の大径部34の外周径よりも大きくなるように形成されている。すなわち、筒体10’の厚さ寸法T2が、蓋体30の当接面31(小径部35の外周面)と大径部34の外周面との段差寸法H1よりも大きくなるように形成されている。
図6の(b)に示すように、筒体10’の厚さ寸法T2は、凹溝32の容積と、回転ツール50の押込み量に応じて適宜設定される。具体的には、回転ツール50のショルダー部51によって押し込まれるメタルの容積からバリとなるメタルの容積を引いた値が、凹溝32の容積と略同等となるように、筒体10’の厚さ寸法T2が決定される。
以上のように、筒体10’の厚さ寸法T2を大きくした本変形例によれば、塑性流動化される筒体10’のメタル量が増加するので、蓋体30側における回転ツール50の押込み量を小さくすることができる。これによって、バリの発生を低減することができ、筒体10’および蓋体30の材料ロスを低減することができる。また、蓋体30側は回転ツール50のシアー側50bとなるが、シアー側50bの押込み量が小さくなることによって、メタルの攪拌作用が小さくなるので、空洞欠陥の発生を抑制することができる。さらに、本実施形態では、図6の(c)に示すように、回転ツール50の二周目における押込み量も小さくなるので、蓋体30の材料ロスをさらに低減することができる。
次に、第1実施形態に係る密閉容器1の製造方法の第二変形例について、図7を参照しながら説明する。前記の第1実施形態の第一変形例では、図6に示すように、回転ツール50の押込み方向が、突合部2の深さ方向(筒体10’の開口端面13および蓋体30の段差側面33の面方向)に対して平行であったのに対して、かかる第二変形例は、回転ツール50の押込み方向が、突合部2の深さ方向に対して傾斜している。図7の(a)に示すように、回転ツール50は、その先端が、突合部2よりも筒体10’側に向くように傾斜しており、ショルダー部51の底面が、筒体10’の外周面と蓋体30の大径部34の外周面とを結ぶ斜面に沿うように配置されて、摩擦攪拌接合が行われる。回転ツール50の傾斜角度は、鉛直線に対して5度以下であるのが好ましい。
以上のように、回転ツール50の押込み方向を突合部2に対して傾斜させた本変形例によれば、摩擦攪拌接合によって形成される塑性化領域3’の表面が、筒体10’の外周面と蓋体30の大径部34の外周面とを結ぶように形成されるので、筒体10’と蓋体30との接合部に大きい段差ができるのを防止でき、滑らかな表面を形成することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図面を適宜参照して詳細に説明する。まず、第2実施形態に係る密閉容器の製造方法によって形成された密閉容器について説明する。第1実施形態の密閉容器の製造方法では、凹溝32が蓋体30の当接面31に形成されているのに対して、第2実施形態では、凹溝114が筒体110に形成されていることを特徴とする。
図8に示すように、密閉容器101は、筒体110の開口部111に、この開口部111を封止する蓋体130を摩擦攪拌接合によって固定して構成されている。第2実施形態においては、筒体110の開口端面112の内周部に、その表面から下がった段差底面からなる蓋体130の支持面113が形成され、この支持面113に凹溝114が形成されている。
図9の(a)および図11の(a)に示すように、支持面113に蓋体130を載置すると、筒体110の段差側面115と蓋体130の外周面131とが突き合わされて突合部102が形成される。この突合部102に沿って回転ツール50を一周させることで、摩擦攪拌接合が行われて、突合部102に塑性化領域103が形成されている(図9の(b)参照)。この摩擦攪拌接合時に、凹溝114には塑性流動化されたメタルが流入して、塑性化領域103の一部が凹溝114内に位置することとなる。これによって、塑性化領域103のメタルが筒体110に係合する凸条となるので、塑性化領域103と筒体110とが互いに噛み合う構成となる(図11の(b)参照)。
図8に示すように、本実施形態に係る筒体110は、一方が開口し、他方が閉塞された有底筒状を呈しており、蓋体130は、筒体110の一方のみ(開口部111)に固定されている。また、筒体110は、断面矩形形状を呈している。筒体110は、例えば、ダイキャスト、鋳造、鍛造などによって作製される。筒体110は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、密閉容器101は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。
筒体110の開口端面112の内周部(開口部111の開口周縁部)には、筒体110の底面側に一段下がった段差底面からなる支持面113が形成されている。図11の(a)に示すように、筒体110の開口端面112と支持面113との高低差(深さ寸法)H3は、蓋体130の厚さ寸法T3と同じ寸法に設定されている。支持面113は、蓋体130を支持する面であって、支持面113上には、蓋体130の周縁部130aが載置される。
図8および図11に示すように、支持面113には、開口部111の周縁部に沿って凹溝114が環状に形成されている。凹溝114は、本実施形態では、支持面113の外周部に形成されており、断面矩形を呈している。凹溝114の外側面114aは、筒体110の段差側面115と面一となっている。凹溝114は、その幅寸法W1が、摩擦攪拌接合に用いられる回転ツール50のショルダー径(ショルダー部51の直径)寸法R1よりも小さく設定されている(回転ツール50のショルダー径寸法R1は、凹溝114の幅寸法W1よりも大きい)。特に、本実施形態では、ショルダー径寸法R1の半分(半径寸法)が、凹溝114の幅寸法W1より大きい。また、凹溝114の幅寸法W1は、支持面113の幅寸法W2の1/4程度となっている。
図8および図9に示すように、蓋体130は、筒体110の段差側面115(図8参照)と同じ形状(本実施形態では長方形)の外周形状を有する板状に形成されている。蓋体130は、図11に示すように、その厚さ寸法T3が、回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1と同等或いは攪拌ピン52の長さ寸法L1よりも大きく設定されている(回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1が、蓋体130の厚さ寸法T3と同等或いは厚さ寸法T3よりも小さい)。
蓋体130も筒体110と同様に、アルミニウムまたはアルミニウム合金から形成されている。これにより、密閉容器101は軽量化が達成されており、取り扱い容易となっている。
次に、筒体110に、蓋体130を摩擦攪拌接合によって固定する方法について、図9乃至図11を参照して説明する。
まず、図9の(a)に示すように、蓋体130を、筒体110の開口部111に挿入して、蓋体130の周縁部130aを、支持面113上に載置する。すると、筒体110の段差側面115と、蓋体130の外周面131とが突き合わされ、突合部102が構成される。また、このとき、支持面113に形成された凹溝114は、蓋体130の周縁部130aによって覆われて、断面矩形の空間が区画形成される(図3の(a)参照)。
次に、摩擦攪拌接合用の回転ツール50を挿入位置153に挿入した後、突合部102上に移動させて、その後、回転ツール50の移動方向を変えて、回転ツール50を突合部102に沿って移動させる。このとき、筒体110の周壁116の外周面に、筒体110を四方向から囲む治具151(図11参照)を予め当てておくのが好ましい。これによれば、周壁116の厚さが薄く、回転ツール50のショルダー部51(図11の(b)参照)の外周面と、周壁116の外周面との距離(隙間)が、例えば、2.0mm以下であっても、回転ツール50の押圧力によって周壁116が外側に変形しにくくなる。なお、周壁116の厚さが厚い場合は、前記の治具151は設置しなくてもよい。
以下に、回転ツール50の動きを具体的に説明する。まず、回転ツール50を回転させながら挿入位置153に挿入する。回転ツール50の挿入位置153は、図9の(a)に示すように、突合部102から外側に外れた周壁116の上面となっている。なお、回転ツール50の挿入位置153に、予め下穴(図示せず)を形成していてもよい。このようにすれば、回転ツール50の挿入時間(押込み時間)を短縮できる。
その後、回転ツール50を、挿入位置153から突合部102の真上位置(回転ツール50の中心が突合部102上となる位置)まで回転させながら移動させる。その後、回転ツール50の中心(軸芯)が突合部102上を移動するように、回転ツール50の移動方向を変えて、突合部102に沿って回転ツール50を移動させる。このとき、突合部102の周囲の筒体110と蓋体130は、一体的に塑性流動化されて塑性化領域103となる。ここで、回転ツール50によって、塑性流動化された筒体110および蓋体130のメタルの一部は、凹溝114内に流入する。そして、凹溝114内に流入したメタルは、回転ツール50の通過後、常温に戻って固まる(図11の(b)参照)。
このとき、回転ツール50の移動方向(図9中、矢印Y3参照)と同じ方向に回転ツール50が回動(図9中、矢印Y4参照)するシアー側50bが、外側の筒体110上に位置するように、回転ツール50を回転、移動させる。つまり、本実施形態のように、回転ツール50からその進行方向を向いて蓋体130が右側に位置するときは、回転ツール50を右回転させる。なお、回転ツール50から進行方向を向いて蓋体130が左側に位置するときは、回転ツール50を左回転させる。このようにすることによって、回転ツール50のシアー側50bが厚肉の筒体110側に位置する。そして、薄肉の蓋体130側は、回転ツール50のフロー側50a(被接合部に対する回転ツール50の外周の相対速さが、回転ツール50の外周における接線速度の大きさから移動速度の大きさを減算した値となる側)となる。このため、薄肉の蓋体130側では、攪拌温度が低くメタルの流動量が少なくなりバリの発生量も少ないので、空洞欠陥が発生しにくくなる。そして、摩擦攪拌によって空洞欠陥が発生したとしても、薄肉の蓋体130側ではなく、厚肉の筒体110側であって突合部102よりも外側位置の離反した部分に発生することとなり、密閉容器1内の流体が外部に漏れにくくなるので、接合部の密閉性能を低下させることはない。
引き続き、回転ツール50の回転および移動を継続し、図9の(b)に示すように、回転ツール50を、開口部111の周りを一周させて塑性化領域103を形成する。回転ツール50を一周させたら、一周目の始端154aを含む始端部(始端154aから回転ツール50の移動方向に所定長さ進んだ位置(終端154bと同じ位置)までの部分)に沿って回転ツール50を所定長さ移動させる。これによって、回転ツール50の周方向移動における始端154aと終端154bとが互いにオーバーラップしており、塑性化領域103の一部が重複するように構成される。
その後、図10の(a)に示すように、回転ツール50の移動軌跡を一周目の終端154bから外側へ偏移させた後に、二周目の摩擦攪拌を行う。回転ツール50は、移動方向に向かうに連れて外側へ向かうように斜めに移動させることで偏移させる。回転ツール50の偏移量は、回転ツール50のショルダー部51が、回転ツール50の一周目の移動で形成された塑性化領域103の少なくとも幅方向の一部と重複する部分までとし、塑性化領域103のシアー側50bが回転ツール50の二周目の摩擦攪拌によって、再攪拌されるようにする。その後、回転ツール50は、突合部102に沿って塑性化領域103に対して平行移動する。二周目の移動に入るに際して、回転ツール50は、交換を行わず、塑性化領域103に挿入したままの状態で、移動方向および回転方向は一周目と同様に右回転(図10中、矢印Y3,Y4参照)を継続させ、押込み量も変更しない。なお、回転ツール50の回転速度や移動速度等は、筒体110と蓋体130の形状や材質に応じて適宜変更してもよい。これによって、回転ツール50が一周目と同じ方向に移動して同方向に回転する二周目によって、一周目で形成された塑性化領域103の幅方向の一部と重合する第二塑性化領域104が形成される。
そして、図10の(b)に示すように、回転ツール50の二周目の移動が終了したならば、回転ツール50を第二塑性化領域104から外側に外れた周壁116の上面の引抜位置155へと移動させ、その位置で回転ツール50を引き抜く。引抜位置155は、突合部102から外側に外れた位置となっているので、引抜跡が突合部102に形成されることはなく、筒体110と蓋体130との接合性をさらに高めることができる。なお、引抜跡は補修するようにしてもよい。
以上のように、回転ツール50を筒体110の開口部111の周囲で、突合部102に沿って二周させて摩擦攪拌接合を行って塑性化領域103および第二塑性化領域104を形成し、筒体110に蓋体130を固定することで、密閉容器101が形成される。
本実施形態に係る密閉容器101の製造方法および摩擦攪拌接合方法によれば、回転ツール50によって、塑性流動化された筒体110および蓋体130のメタルの一部が、凹溝114内に流入して、常温に戻って固まるので、凹溝114に流入したメタルが筒体110に係合する凸条となる。これによって、塑性化領域103と筒体110とが互いに噛み合うことになり係合性が高くなる。したがって、筒体110と蓋体130の接合部における密閉性能を向上させることができ、密閉容器101の信頼性を高めることができる。
さらに、凹溝114の流入したメタルが、支持面113の表面に対して直交して垂下する壁面を構成するので、この壁面が堰の役目を果たし、筒体110と蓋体130の接合部における液密性を向上させることができる。
また、本実施形態では、凹溝114は、支持面113の外周部に形成されているので、突合部102と凹溝114が近くなる。これによって、突合部102上を移動した回転ツール50による一周目の摩擦攪拌によって塑性流動化されたメタルが凹溝114に流入しやすくなる。さらに、回転ツール50のショルダー径寸法R1が、凹溝114の幅寸法W1よりも大きく、特に、本実施形態では、ショルダー部51の半径が凹溝114の幅寸法W1よりも大きいので、凹溝114の上方を回転ツール50のショルダー部51で覆うことができ、凹溝114の上方全体が塑性化領域103となり、塑性流動化されたメタルが凹溝114に流入しやすくなる。したがって、凹溝114内の全体に塑性流動化されたメタルが流入して、筒体110と蓋体130の接合部における密閉性能を向上させることができる。
さらに、回転ツール50の攪拌ピン52の長さ寸法L1が、蓋体130の厚さ寸法T1と同等或いは厚さ寸法T1より小さいので、攪拌ピン52の先端が凹溝114に入り込まない。これによって、凹溝114の周辺部分の変形を抑制でき、塑性流動化したメタルと凹溝114の内壁面との係合面積が大きくなるので、塑性化領域103と筒体110の係合性を向上することができる。
また、回転ツール50を突合部102に沿って一周させた後、一周目の始端部に沿って回転ツール50を移動させて、塑性化領域103の一部を重複させることで、突合部102の途中で塑性化領域103が途切れることがない。したがって、突合部102の全周に亘って筒体110と蓋体130とが確実に接合されるので、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
さらに、本実施形態では、回転ツール50からその進行方向を向いて蓋体130が右側に位置するときは、回転ツール50を右回転させるとともに、回転ツール50を一周させた後に、回転ツール50を突合部102の外側に偏移させて、回転ツール50の攪拌ピン52が筒体110上を移動するように回転ツール50を突合部102に沿ってさらに一周させているので、シアー側50bとなる塑性化領域103の外周側は、回転ツール50の二周目の移動によって再攪拌されることとなる。したがって、塑性化領域103の外周側に空洞欠陥が発生していたとしても二周目の移動で空洞欠陥を低減することができる。さらに、回転ツール50の二周目の移動におけるシアー側50bは、筒体110の表面で突合部102から離反した部分となるので、万一、空洞欠陥が発生したとしても、突合部102から離反した部分に発生する。したがって、熱輸送流体が外部に漏れにくく、接合部の密閉性能を低下させることはない。また、塑性化領域103と第二塑性化領域104とは、その幅方向の一部が突合部102の全周に亘って重複していることにより、筒体110と蓋体130とを隙間なく良好に接合することができる。よって、接合部の密閉性能をさらに向上させることができる。
なお、前記実施形態では、回転ツール50を開口部111の周りを二周させて、摩擦攪拌を行っているが、これに限定するものではなく、一周目の摩擦攪拌で、凹溝114内に塑性流動化されたメタルの一部が流入するので、回転ツール50の移動を一周だけで終了させてもよい。
次に、第2実施形態に係る密閉容器101の製造方法において、回転ツール50で塑性化領域103および第二塑性化領域104を形成して蓋体130を筒体110に本接合する工程に先立って、蓋体130を筒体110に仮接合する場合について説明する。
仮接合は、筒体10と蓋体30との突合部2の一部に施され、回転ツール50よりも小型の仮接合用回転ツール(図示せず)を用いて行われる。仮接合を行った後には、図9および図10に示すように、回転ツール50を用いて本接合を行う。
仮接合用回転ツールは、第1実施形態と同様のものが用いられる。仮接合用回転ツールによって形成される塑性化領域105(図12および図13参照)は、後の工程で回転ツール50によって形成される塑性化領域103(図9参照)の幅よりも小さい幅を有することとなる。そして、塑性化領域105は、後の工程で塑性化領域103が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。これによって、仮接合における塑性化領域105は、塑性化領域103で完全に覆われることとなるので、塑性化領域105に残った仮接合用回転ツールの引抜跡および塑性化領域105の跡が残らない。
図12に示す仮接合の実施形態では、突合部102が長方形(矩形枠状)を呈しており、突合部102の一方の対角106a,106b同士を先に仮接合した後に、他方の対角106c,106d同士を仮接合するようになっている。このような順序で仮接合することで、蓋体130をバランスよく筒体110に仮接合することができ、蓋体130の筒体110に対する位置決め精度が向上するとともに、蓋体130の変形を防止できる。また、蓋体130の仮接合を行ったことによって、回転ツール50による本接合時の蓋体130のズレを防止でき、接合部の密閉性能をより一層向上させることができる。
図13に示す仮接合の実施形態では、突合部102が長方形(矩形枠状)を呈しており各辺の中間部を摩擦攪拌接合することによって直線状に行われている。具体的には、仮接合用回転ツールで突合部102を仮接合する工程において、突合部102の一方の対辺107,107の中間部107a,107b同士を先に仮接合した後に、他方の対辺108,108の中間部108a,108b同士を仮接合するようになっている。このとき仮接合用回転ツールで形成される塑性化領域105は、それぞれ同じ長さの直線状になるようになっている。また、塑性化領域105は、後の工程で塑性化領域103が形成される位置からはみ出さない位置に形成される。
前記のような順序で仮接合すれば、図12に示した仮接合工程と同様の作用効果を得られる他に、仮接合の摩擦攪拌接合が直線状であるので、仮接合用回転ツールを直線的に移動させるだけでよく加工が容易である。
次に、第2実施形態に係る密閉容器101の製造方法の変形例について、図14を参照しながら説明する。前記の第2実施形態では、図11に示すように、筒体110の段差側面115と蓋体130の外周面131とを突き合わせた状態で、筒体110の開口端面112と蓋体130の表面とが面一となるように構成されていたのに対して、かかる変形例は、図14に示すように、蓋体130’が筒体110の開口端面112から突出していることを特徴とする。つまり、蓋体130’は、その厚さ寸法T4が、筒体110の開口端面112と支持面113との高低差(深さ寸法)H3よりも大きくなるように形成されている。
図14の(b)に示すように、蓋体130’の厚さ寸法T4は、凹溝114の容積と、回転ツール50の押込み量に応じて適宜設定される。具体的には、回転ツール50のショルダー部51によって押し込まれるメタルの容積からバリとなるメタルの容積を引いた値が、凹溝114の容積と略同等となるように、蓋体130’の厚さ寸法T4が決定される。
以上のように、蓋体130’の厚さ寸法T4を大きくした本変形例によれば、塑性流動化される蓋体130’のメタル量が増加するので、筒体110側における回転ツール50の押込み量を小さくすることができる。これによって、バリの発生を低減することができ、筒体110および蓋体130’の材料ロスを低減することができる。また、筒体110側は回転ツール50のシアー側50bとなるが、シアー側50bの押込み量が小さくなることによって、メタルの攪拌作用が小さくなるので、空洞欠陥の発生を抑制することができる。さらに、本実施形態では、図14の(c)に示すように、回転ツール50の二周目における押込み量も小さくなるので、筒体110の材料ロスをさらに低減することができ
る。
なお、図示しないが、第2実施形態においても、回転ツールの押込み方向が、突合部の深さ方向に対して傾斜するようにしてもよい。この場合、回転ツールは、その先端が、筒体10の中心側に向くように傾斜させる。そして、その傾斜角度は、鉛直方向に対して5度以下であるのが好ましい。
以上、本発明の実施形態について説明し たが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であり、例えば、前記実施形態では、筒体10,110の断面形状が円形又は長方形であるが、これに限定されるものではなく、いずれの筒体10,110も長方形、多角形、円形、楕円形等の他の形状であってもよい。また、前記第1実施形態および第2実施形態では、筒体10,110は、有底筒状を呈しているが、これに限定されるものではなく、両端が開口したものであってもよい。この場合、筒体の両端に蓋体を取り付ける。
また、前記実施形態では、突合部2,102は、筒体10,110および蓋体30,130の表面に対して直交して形成されているが、これに限定されるものではない。筒体10,110および蓋体30,130をダイキャストにて作製する場合において、段差側面の上方が広がるように傾斜して形成すれば、型から抜き出しやすくなり、その製作が容易になる。