JP5125108B2 - ステンレス鋼材の熱変色防止方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ステンレス鋼材の熱変色防止方法に関し、特に、高価かつ大掛かりな装置を用いることなく、廉価かつ簡便な方法にて、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に形成することが可能なステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を用いてステンレス鋼材の熱変色を防止するステンレス鋼材の熱変色防止方法に関するものである。
ステンレス鋼材は、優れた耐食性、耐久性を備えた金属材料であり、建材、家庭用電気機器、産業用各種機器、調理用具等の分野で幅広く使用されている。しかしながら、ステンレス鋼材は、250℃以上の温度雰囲気に曝されると、表面が酸化されて変色するために、ステンレス鋼材を用いた製品を高温環境下で使用すると、製品の外観、意匠性、反射率が損なわれるという不都合を有している。
そこで、このような不具合を解消したステンレス鋼材として、次のような表面処理が施されたステンレス鋼材が提案されている。
ステンレス鋼の表面に、厚さ100nm〜2μmのAl、SiO、Cr、TiO、ZrOのうち一種あるいは二種以上からなるセラミックス層をCVD法、スパッタリング法等の気相めっき法にてコーティングした高温で耐変色性に優れたステンレス鋼が提案されている(特許文献1)。
また、ステンレス鋼の表面に、厚さ0.01μm〜10μmの酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムを含む積層構造のセラミックス膜、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の単層構造のセラミックス膜を、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法等の気相めっき法によりコーティングした耐熱変色性に優れた表面処理鋼板が提案されている(特許文献2)。
特開昭63−76861号公報 特開平6−65717号公報
しかしながら、従来の表面処理が施されたステンレス鋼材では、気相めっき法にて複数の金属酸化物からなるセラミックス層、積層あるいは単層のセラミックス膜をコーティングする方法であるため、装置が高価で大掛かりなものとなり、製造コストを押し上げる要因になるという問題点があった。
また、従来の表面処理により成膜された被膜は、耐水性、耐アルカリ性が充分でなく、水や洗剤を用いて洗浄を繰り返すと、比較的短時間のうちに被膜が溶解したり、剥離したり等の問題点があった。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に形成することができるステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を用いてステンレス鋼材の熱変色を防止することができるステンレス鋼材の熱変色防止方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ステンレス鋼材の表面に、塗工法により、ジルコニウム酸化物とケイ素酸化物を含む被膜を形成し、さらに、この被膜の表面をケイ酸アルカリ及び/または水酸化アルカリの水溶液を用いて処理すれば、ステンレス鋼材の耐水性、耐アルカリ性、耐熱性をさらに向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のステンレス鋼材の熱変色防止方法は、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有してなるステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理することにより、前記ステンレス鋼材の表面に被膜を形成し、次いで、前記被膜の表面にケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理することを特徴とする
本発明のステンレス鋼材の熱変色防止方法では、前記ケイ酸アルカリは、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムの混合物であり、前記ケイ酸ナトリウムと前記ケイ酸リチウムの重量比(W :W )は、1:0.1〜1:2であることが好ましい。
本発明のステンレス鋼材の熱変色防止方法によれば、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有してなるステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理することにより、前記ステンレス鋼材の表面に被膜を形成し、次いで、前記被膜の表面にケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理するので、塗布液を塗布するという簡単な操作により、ステンレス鋼材の表面に耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜を形成することができる
本発明のステンレス鋼材の熱変色防止方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
「第1の実施形態」
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液は、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有した塗布液である。
上記のケイ素アルコキシド加水分解物は、ケイ素アルコキシドの部分加水分解物、ケイ素アルコキシドの加水分解物の縮合物をも含むものである。また、オルガノアルコキシシラン加水分解物は、オルガノアルコキシシランの部分加水分解物、オルガノアルコキシシランの加水分解物の縮合物をも含むものである。
また、上記のジルコニウムアルコキシド加水分解物は、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物をも含むものである。
上記のケイ素成分の具体例としては、例えば、下記の式(1)
(C2n+1O)Si ……(1)
(式(1)中、nは1以上の正の整数)
で表されるケイ素アルコキシド、これらのケイ素アルコキシドの加水分解物、これらのケイ素アルコキシドの加水分解物の縮合物を例示することができる。
これらのケイ素アルコキシド(アルコキシシラン)としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が好適に用いられる。
上記のケイ素成分の他の具体例としては、例えば、下記の式(2)
(C2n+1O)SiR ……(2)
(式(2)中、nは1以上の正の整数、Rは有機官能基)
で表されるオルガノアルコキシシロキサン、これらのオルガノアルコキシシロキサンの加水分解物、これらのオルガノアルコキシシロキサンの加水分解物の縮合物を例示することができる。
これらのオルガノアルコキシシロキサンとしては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等が好適に用いられる。
なお、上記のケイ素成分として、上述したケイ素化合物以外のケイ素化合物、すなわちケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物、ケイ素アルコキシドの加水分解物の縮合物、オルガノアルコキシシロキサン、オルガノアルコキシシロキサンの加水分解物、オルガノアルコキシシロキサンの加水分解物の縮合物以外の他のケイ素化合物を、酸化ケイ素(SiO)に換算した場合の含有率で80モル%以下、好ましくは50モル%以下含有していてもよい。
上述したケイ素化合物以外のケイ素化合物の含有率が酸化ケイ素(SiO)換算で80モル%を超えると、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に簡便に形成することが困難となるので好ましくない。
このようなケイ素化合物としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等のケイ酸アルカリ、コロイダルシリカ(シリカゾル)等を例示することができる。
上記のジルコニウム成分の具体例としては、例えば、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド等のジルコニウムアルコキシド、これらのジルコニウムアルコキシドの加水分解物、これらのジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物を例示することができる。
なお、上記のジルコニウム成分として、上述したジルコニウム化合物以外のジルコニウム化合物、すなわちジルコニウムアルコキシド、これらのジルコニウムアルコキシドの加水分解物、これらのジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物以外の他のジルコニウム化合物を、酸化ジルコニウム(ZrO)に換算した場合の含有率で80モル%以下、好ましくは50モル%以下含有していてもよい。
上述したジルコニウム化合物以外のジルコニウム化合物の含有率が酸化ジルコニウム(ZrO)換算で80モル%を超えると、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に簡便に形成することが困難となるので好ましくない。
このようなジルコニウム化合物としては、コロイダルジルコニア(ジルコニアゾル)、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル等を例示することができる。
この熱変色防止膜形成用塗布液中の全ケイ素(Si)成分と全ジルコニウム(Zr)成分の合計含有率は、全ケイ素(Si)成分中のケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、全ジルコニウム(Zr)成分中のジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、これらの酸化物の合計量で0.1質量%以上かつ20質量%以下が好ましい。その理由は、これらの酸化物の合計量が0.1質量%以上かつ20質量%以下の範囲外となると、成膜性が低下し、また、熱変色防止膜に充分な耐水性、膜強度を付与することが困難になるからである。
この熱変色防止膜形成用塗布液中における全ジルコニウム(Zr)成分と全ケイ素(Si)成分との質量比は、これらを全て酸化物に換算した場合の質量比(ZrO:SiO)で表した場合、1:9〜9:1の範囲内が好ましく、より好ましくは2:8〜8:2の範囲内である。
質量比(ZrO:SiO)が上記の範囲外となると、熱変色防止膜に耐水性、膜硬度、耐摩耗性等の特性を付与することができなくなるからである。
この熱変色防止膜形成用塗布液に含まれる酸としては、塩酸、硝酸等の無機酸や、クエン酸、カルボン酸等の有機酸を例示することができる。
この酸の添加量は、通常、この熱変色防止膜形成用塗布液のpHが2以下、好ましくは1以下となる添加量が好適である。pHが2を上回ると、上述したケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物、及び、上述したジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物、それぞれの加水分解を抑制することができず、この熱変色防止膜形成用塗布液の貯蔵安定性が低下するので好ましくない。
この熱変色防止膜形成用塗布液に含まれる水は、上述したケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物、及び、上述したジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物、それぞれの加水分解に必要であり、その含有率は、5質量%以下に抑えることが好ましい。
この熱変色防止膜形成用塗布液における水の含有率が5質量%を超えると、塗布液の安定性が低下し、1ヶ月を超える長期の室温保管が困難になるからである。
この熱変色防止膜形成用塗布液に含まれる有機溶媒としては、上述したケイ素成分及びジルコニウム成分を溶解し得る有機溶媒であれば特に制限はなく、例えば、メタノール(沸点:65℃)、エタノール(沸点:78℃)、1−プロパノール(沸点:97℃)、2−プロパノール(沸点:82℃)等のアルコール類、アセトン(沸点:56℃)、メチルエチルケトン(沸点:80℃)、ジエチルケトン(沸点:102℃)等のケトン類等、沸点が約100℃以下の低沸点溶媒を例示することができる。
この熱変色防止膜形成用塗布液の塗布性を向上させるために、1−エトキシ−2−プロパノール(沸点:132℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点:120℃)、2−メトキシエチルアセタート(沸点:145℃)、2−エトキシエチルアセタート(沸点:156℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、N−メチルホルムアミド(沸点:180℃)、2−エトキシエタノール(沸点:136℃)等の高沸点溶媒を上記の低沸点溶媒と共に用いることもできる。
この熱変色防止膜形成用塗布液には、上記のケイ素(Si)成分及びジルコニウム(Zr)成分以外に、他の金属(M)成分や非金属成分(N)を含有させることができる。
この金属(M)成分や非金属成分(N)を含有させることにより、熱変色防止膜の長期耐久性を向上させることが可能となる。
このような金属(M)成分としては、例えば、アルカリ土金属のような2価の金属イオン、アルミニウムやガリウムのような3価の金属イオン、チタンのような4価の金属イオンを例示することができる。また、非金属(N)成分としては、例えば、ホウ素のような3価の非金属イオンを例示することができる。
このような金属(M)成分や非金属成分(N)は、硝酸塩、塩化物、有機酸塩等の溶液の状態で塗布液に添加するのが好ましい。ただし、硝酸塩、塩化物等の状態で多量に添加すると、基材や製造設備を腐食させる原因ともなるので、添加量に注意を要する。
このような金属(M)成分や非金属成分(N)の熱変色防止膜形成用塗布液における含有率は、10ppm以上かつ2質量%以下が好ましい。
これらの成分の含有率が10ppmよりも少ないと、熱変色防止膜の長期耐久性を向上させることが難しく、一方、これらの成分の含有率が2質量%を越えると、ステンレス鋼材に対して十分な密着性を有する熱変色防止膜を形成することができないからである。
また、この熱変色防止膜形成用塗布液に、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の各種界面活性剤を適宜添加することが好ましい。このように、界面活性剤を添加すると、この熱変色防止膜形成用塗布液のステンレス鋼材への塗布性を向上させることができる。
この熱変色防止膜形成用塗布液における固形分、すなわち、樹脂やシランカップリング剤等の有機成分を含まない熱変色防止膜形成成分の含有率は、特に制限はないが、酸化物換算で0.1質量%以上かつ10質量%以下が好ましい。固形分の含有率が0.1質量%を下回ると、熱変色防止膜を形成するのが困難となり、一方、固形分の含有率が10質量%を超えると、塗布液の貯蔵安定性が低下するからである。
「ステンレス鋼材の熱変色防止方法」
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止方法は、本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理し、前記ステンレス鋼材の表面に熱変色防止膜(被膜)を形成する方法である。
この熱変色防止膜形成用塗布液の塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、刷毛塗り法等を用いることができる。
得られた塗布膜の熱処理における温度及び時間は、150℃〜300℃の範囲内で可能な限り長時間であることが、被膜の強度及び耐水性が高くなるので好適である。なお、熱処理時の雰囲気は特に限定されず、通常、大気中で行う。
このようにして得られた熱変色防止膜の厚みは0.02μm以上かつ1μm以下(熱変色防止層中のケイ素成分をSiOに、ジルコニウム成分をZrOにそれぞれ換算した場合の、SiO量とZrO量の合計量で50mg/m以上、かつ1500mg/m以下)が好ましい。熱変色防止膜の厚みが0.02μm(SiO量とZrO量の合計量で50mg/m未満)より薄い場合には、熱変色防止の効果が充分に得られず、硬度、耐摩耗性も劣ったものとなり、一方、熱変色防止膜の厚みが1μmより厚い(SiO量とZrO量の合計量で1500mg/m超)場合には、ステンレス鋼材との密着性が低下し、クラックも入り易くなるので好ましくない。
このようにして得られた熱変色防止膜の組成は、次の(1)〜(4)のいずれかの組成を有する。
(1)ケイ素(Si)原子とジルコニウム(Zr)原子が酸素(O)原子を介して結合した下記式(3)
Figure 0005125108
で表される化学結合を分子骨格中に有するケイ素−ジルコニウム酸化物から構成され、このケイ素−ジルコニウム酸化物が三次元網目構造を形成した被膜形成物質。
(2)ケイ素(Si)原子同士が酸素(O)原子を介して結合した下記式(4)
Figure 0005125108
で表される化学結合を分子骨格中に有するケイ素酸化物から構成され、このケイ素酸化物が三次元網目構造を形成し、この三次元網目構造中に遊離ジルコニウム酸化物の微粒子が分散して閉じ込められた被膜形成物質。
(3)ジルコニウム(Zr)原子同士が酸素(O)原子を介して結合した下記式(5)
Figure 0005125108
で表される化学結合を分子骨格中に有するジルコニウム酸化物から構成され、このジルコニウム酸化物が三次元網目構造を形成し、この三次元網目構造中に遊離ケイ素酸化物の微粒子が分散して閉じ込められた被膜形成物質。
(4)ケイ素酸化物微粒子とジルコニウム酸化物微粒子が互いに分散混合している被膜形成物質。
このようにして形成された熱変色防止膜は、充分な耐水性、耐アルカリ性、耐熱性、熱変色防止性を具備しているが、さらに、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性、熱変色防止性を向上させるためには、この熱変色防止膜の表面にケイ酸アルカリ及び/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理することが好ましい。
このケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液としては、特に制限されるものではないが、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液、またはこれらの水溶液の混合物を例示することができる。
この水溶液におけるケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリの濃度は、0.01質量%以上かつ50質量%以下が好ましい。ケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリの濃度が0.01質量%を下回ると、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性、熱変色防止性、膜硬度を向上させることができず、一方、ケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリの濃度が50質量%を越えると、膜厚が厚くなり過ぎてしまい、クラックや剥離が生じ易くなるからである。
このケイ酸アルカリは、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムの混合物であり、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムの重量比(W:W)は、1:0.1〜1:2であることが好ましい。
その理由は、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムの重量比(W:W)が上記の範囲内であると、耐水性、耐湿性、耐熱性に優れる熱変色防止膜が得られるからである。
このケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液は、コロイダルシリカを添加していることが好ましい。その理由は、コロイダルシリカを添加することにより、熱変色防止膜の平滑性、緻密性が向上するからである。このコロイダルシリカの添加量は、上記のケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリの0.25モル倍以上かつ4モル倍以下が好ましい。
このコロイダルシリカの添加量が0.25モル倍を下回ると、平滑性の向上が認められず、一方、添加量が4モル倍を越えると、熱変色防止膜の硬度が低下するからである。
この水溶液には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等の各種界面活性剤を適宜量、含有することが好ましい。これらの界面活性剤を上記の水溶液に添加すると、この水溶液の塗布性を向上させることができるので好ましい。
この水溶液を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、刷毛塗り法等を用いることができる。
この水溶液は、上記の熱変色防止膜に容易に浸透し、しかも、この熱変色防止膜の中に浸透したケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリで十分な効果が得られるので、この水溶液を塗布した後、過剰の水溶液を水等で洗い流しても良い。
このようにして得られた塗布膜を熱処理(以下、第2の熱処理と称する)する。
この第2の熱処理における温度及び時間は、基材であるステンレス鋼材に悪影響を及ぼさない範囲内で可能な限り高温かつ長時間とすることが、膜の強度及び耐水性が高くなり、しかも加水分解抑制剤等の添加剤を散逸させて残留しないようにし得るので好適であるが、場合によっては、乾燥程度の温度での短時間の熱処理でも充分である。
具体的な熱処理温度としては、通常、150℃〜500℃が好ましく、より好ましくは200℃〜250℃である。
なお、第2の熱処理時の雰囲気は特に限定されず、通常、大気中で行う。
このような第2の熱処理が施された後の熱変色防止膜の厚みは、0.1μm以上かつ2μm以下(熱変色防止層中のケイ素成分をSiOに、ジルコニウム成分をZrOにそれぞれ換算した場合の、SiO量とZrO量の合計量で300mg/m以上、かつ3000mg/m以下)が好ましい。
ここで、第2の熱処理が施された後の熱変色防止膜の厚みが0.1μm(SiO量とZrO量の合計量で300mg/m未満)より薄い場合には、充分に緻密化し、硬化させることができず、したがって、熱変色防止性が充分でなく、硬度、耐摩耗性も劣ったものとなるからであり、一方、第2の熱処理が施された後の熱変色防止膜の厚みが2μmより厚い(SiO量とZrO量の合計量で3000mg/m超)場合には、高温雰囲気下で熱変色防止膜が白化し易くなり、また、ステンレス鋼材との密着性が低下し、クラックも入り易くなるからである。
このように、第2の熱処理が施された後の熱変色防止膜は、次の(1)または(2)のような膜構造を有するものと考えられる。
(1)ケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液の塗布量が少ないか、濃度が薄い場合には、水溶液が熱変色防止膜に浸透し、この熱変色防止膜の少なくとも表層部が熱変色防止性に富む層に改質される。
すなわち、熱変色防止膜の表面にケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布すると、膜に水溶液が浸透し、この水溶液中のNa、K、Li等のアルカリ成分及び水により膜中に残存するアルコキシ基が更に加水分解され、この加水分解により生成した金属アルコキシド間で脱水・脱アルコール反応が生じ、酸化ケイ素と酸化ジルコニウムからなる複合酸化物が生成する。よって、熱変色防止膜の少なくとも表層部は、熱変色防止性に富む層に改質される。
さらに、膜中の酸化ケイ素および水溶液から供給されるケイ酸イオンは、膜中のジルコニウムイオン、その他の金属、水溶液から供給される水およびアルカリイオン等と反応して水和物を形成し、膜の表面に存在する孔を塞ぎ、緻密化する。その結果、得られた熱変色防止膜は、より高い硬度を有し、また熱水やアルカリ性溶液に対する耐久性が向上する。
(2)ケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液の塗布量が多いか、濃度が高い場合には、下地層となる熱変色防止膜の上に熱変色防止性に富む酸化ケイ素質の最表層が形成され、2層構造の熱変色防止膜となる。
この下地層となる熱変色防止膜は、高い硬度を有し、また、熱水やアルカリ性溶液に対する耐久性が向上している。さらに、このような特性を有する熱変色防止膜の上に熱変色防止性に富む酸化ケイ素質の最表層が形成されると、下地層である熱変色防止膜の熱変色防止性が向上する。また、下地層である熱変色防止膜の上に酸化ケイ素質の最表層が形成され、2層構造の熱変色防止膜となるので、膜厚も厚くなり、かつ、緻密化され、より高い硬度が得られ、磨耗に対する耐久性も向上する。
以上説明したように、本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液によれば、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有したので、簡単な装置構成で、ステンレス鋼材の表面に耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜を、容易かつ安価に形成することができ、製造コストを低減することができる。
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止方法によれば、本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理し、ステンレス鋼材の表面に熱変色防止膜を形成するので、塗布液を塗布するという簡単な操作により、ステンレス鋼材の表面に耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜を容易に形成することができる。
さらに、この熱変色防止膜の表面にケイ酸アルカリ及び/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布し、次いで、150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理し、上記の熱変色防止膜の表面を改質、または、上記の熱変色防止膜の表面に酸化ケイ素質の最表層を形成したので、さらに、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性、熱変色防止性を向上させることができる。
「第2実施形態」
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液は、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物のキレート化合物からなるジルコニウム成分と、溶媒とを含有してなる塗布液である。
ここで、ケイ素アルコキシド加水分解物は、ケイ素アルコキシドの部分加水分解物をも含み、また、ケイ素アルコキシド加水分解物の縮合物をも含む。
また、ジルコニウムアルコキシド加水分解物は、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解物をも含み、また、ジルコニウムアルコキシド加水分解物の縮合物をも含む。
更に、オルガノアルコキシシラン加水分解物は、オルガノアルコキシシランの部分加水分解物をも含み、また、オルガノアルコキシシラン加水分解物の縮合物をも含む。
上記のケイ素成分は、第1の実施形態の熱変色防止膜形成用塗布液と同様であり、その具体例としては、第1の実施形態の熱変色防止膜形成用塗布液にて挙げられたケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物を使用することができる。
なお、上記のケイ素成分として、上述したケイ素化合物以外のケイ素化合物、すなわちケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物、ケイ素アルコキシドの加水分解物の縮合物、オルガノアルコキシシロキサン、オルガノアルコキシシロキサンの加水分解物、オルガノアルコキシシロキサンの加水分解物の縮合物以外の他のケイ素化合物を、酸化ケイ素(SiO)に換算した場合の含有率で80モル%以下、好ましくは50モル%以下含有していてもよい。
上述したケイ素化合物以外のケイ素化合物の含有率が酸化ケイ素(SiO)換算で80モル%を超えると、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に簡便に形成することが困難となるので好ましくない。
このようなケイ素化合物としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等のケイ酸アルカリ、コロイダルシリカ(シリカゾル)等を例示することができる。
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液では、ジルコニウム成分として、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその加水分解物を用いずに、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物のキレート化合物を用いる。
その理由は、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその加水分解物自体が非常に加水分解し易く、空気中の水分に触れただけで直ちに加水分解を生じ、ゲル化してしまうからである。
これにより、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその加水分解物の加水分解反応を抑制し、塗布液の初期の状態を長期に亘って保持することができ、よって、塗布液の貯蔵安定性が向上し、室温保管(貯蔵)も可能になる。
さらに、加水分解抑制剤としての酸が含まれていないので、ステンレス鋼材を腐食する虞もない。
上記のジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、エタノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、β−ジケトン(アセチルアセトン等)、β−ケト酸エステル(アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等)及びカルボン酸(酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等)の群から選択される1種または2種以上の化合物からなる加水分解抑制剤との反応生成物であることが好ましい。
ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解を抑制する作用を有する化合物のことである。
上記のジルコニウムアルコキシド加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、エタノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、β−ジケトン(アセチルアセトン等)、β−ケト酸エステル(アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等)及びカルボン酸(酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等)の群から選択される1種または2種以上の化合物からなる加水分解抑制剤との反応生成物であることが好ましい。
ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物とキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解を抑制する作用を有する化合物のことである。
上記の加水分解抑制剤の添加量は、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはその加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.25モル倍以上かつ4モル倍以下、好ましくは0.5モル倍以上かつ3モル倍以下が好ましい。
この加水分解抑制剤の添加量が0.25モル倍より少ないと、熱変色防止膜形成用塗布液の安定性が不十分なものとなるからであり、一方、添加量が4モル倍を超えると、熱処理した後においても、加水分解抑制剤が熱変色防止膜中に残留し、その結果、熱変色防止膜の硬度が低下するからである。
なお、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物を溶媒に溶解し、さらに上記の加水分解抑制剤を添加し、得られた溶液中にてキレート化を生じさせたものであってもよい。
ただし、上記のジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物を溶解する溶媒には、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン加水分解物が存在していないことが必要である。その理由は、加水分解抑制剤を添加する際に、溶媒中にケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン加水分解物が存在していると、加水分解抑制剤はジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物とキレート化反応を起こさずに、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン加水分解物と容易にキレート化反応を起こしてしまい、目的のキレート化合物が得られないからである。
上記のジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物を、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン加水分解物と共存させるためには、予めジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物と、上記の加水分解抑制剤とを反応させてキレート化合物を生成させておき、このキレート化合物を、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン加水分解物を含む溶液に添加すればよい。
なお、上記のジルコニウム成分として、上述したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物および/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物のキレート化合物以外の他のジルコニウム化合物を、酸化ジルコニウム(ZrO)に換算した場合の含有率で80モル%以下、好ましくは50モル%以下含有していてもよい。
このジルコニウム化合物の含有量が80モル%を超えると、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜をステンレス鋼材の表面に簡便に形成することが困難となるので好ましくない。
このようなジルコニウム化合物としては、コロイダルジルコニア(ジルコニアゾル)、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル等を例示することができる。
このステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液に含まれる溶媒としては、上述したケイ素成分及びジルコニウム成分を溶解し得る溶媒であれば特に制限はなく、例えば、水(沸点:100℃)、メタノール(沸点:65℃)、エタノール(沸点:78℃)、1−プロパノール(沸点:97℃)、2−プロパノール(沸点:82℃)等のアルコール類、アセトン(沸点:56℃)、メチルエチルケトン(沸点:80℃)、ジエチルケトン(沸点:102℃)等のケトン類等、沸点が約100℃以下の低沸点溶媒を例示することができる。
また、この熱変色防止膜形成用塗布液の塗布性を向上させるために、1−エトキシ−2−プロパノール(沸点:132℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点:120℃)、2−メトキシエチルアセタート(沸点:145℃)、2−エトキシエチルアセタート(沸点:156℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点:153℃)、N−メチルホルムアミド(沸点:180℃)、2−エトキシエタノール(沸点:136℃)等の高沸点溶媒を上記の低沸点溶媒と共に用いることもできる。
なお、この熱変色防止膜形成用塗布液における、全ケイ素成分の含有率、全ジルコニウム成分の含有率、全ジルコニウム成分と全ケイ素成分との重量比、溶媒、他の金属成分の含有、樹脂やシランカップリング剤の添加、界面活性剤の添加については、第1の実施形態の熱変色防止膜形成用塗布液に準ずる。
本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理することにより、第1の実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止方法と同様に、ステンレス鋼材の表面に耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜を容易に形成することができる。
また、第1の実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止方法と同様にして、上記の熱変色防止膜の表面にケイ酸アルカリ及び/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布し、次いで、150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理し、上記の熱変色防止膜の表面を改質、または、上記の熱変色防止膜の表面に酸化ケイ素質の最表層を形成すれば、さらに、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性、熱変色防止性を向上させることができる。
以上説明したように、本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液においても、第1の実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液と同様の作用、効果を奏することができる。
また、本実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を用いてステンレス鋼材の表面に熱変色防止膜を形成することにより、第1の実施形態のステンレス鋼材の熱変色防止方法と同様の作用、効果を奏することができる。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例及び比較例に用いる2種類の熱変色防止膜形成用塗布液、及び3種類のアルカリ水溶液(ケイ酸アルカリ及び/または水酸化アルカリを含む水溶液)を以下のとおり調製した。
(1)熱変色防止膜形成用塗布液Aの調製
テトラエトキシシラン5重量部、ジルコニウムノルマルブトキシド3重量部、50重量%濃度の硝酸4重量部、2−プロパノール88重量部を混合し、熱変色防止膜形成用塗布液Aを調整した。
(2)熱変色防止膜形成用塗布液Bの調製
アセチルアセトン1.6重量部、ジルコニウムノルマルブトキシド3重量部、2−プロパノール81.9重量部を室温下(25℃)で混合して、アセチルアセトンとジルコニウムノルマルブトキシドとを反応させた。次いで、この反応液に、テトラエトキシシラン3重量部、純水0.5重量部を加え、さらに室温(25℃)下で5時間攪拌し、熱変色防止膜形成用塗布液Bを調製した。
(3)アルカリ水溶液Aの調製
JIS3号水ガラス2重量部と、ケイ酸リチウム1重量部と、純水7重量部とを室温(25℃)下で混合し、アルカリ水溶液Aを調製した。
(4)アルカリ水溶液Bの調製
JIS3号水ガラス3重量部と、純水7重量部とを室温(25℃)下で混合し、アルカリ水溶液Bを調製した。
(5)アルカリ水溶液Cの調製
水酸化ナトリウム2重量部を純水98重量部に溶解させて、アルカリ水溶液Cを調製した。
「実施例1」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Aをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成された実施例1の熱変色防止ステンレス板を得た。
「実施例2」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Bをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成された実施例2の熱変色防止ステンレス板を得た。
「実施例3」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Aをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成されたステンレス板を得た。
次いで、このステンレス板の熱変色防止膜上に、スプレー法を用いてアルカリ水溶液Aを塗布し、大気雰囲気下、300℃にて20分間熱処理し、上記の熱変色防止膜上に酸化ケイ素質の最表層が形成された実施例3の熱変色防止ステンレス板を得た。
「実施例4」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Bをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成されたステンレス板を得た。
次いで、このステンレス板の熱変色防止膜上に、スプレー法を用いてアルカリ水溶液Aを塗布し、大気雰囲気下、300℃にて20分間熱処理し、上記の熱変色防止膜上に酸化ケイ素質の最表層が形成された実施例4の熱変色防止ステンレス板を得た。
「実施例5」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Aをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成されたステンレス板を得た。
次いで、このステンレス板の熱変色防止膜上に、スプレー法を用いてアルカリ水溶液Bを塗布し、大気雰囲気下、300℃にて20分間熱処理し、上記の熱変色防止膜上に酸化ケイ素質の最表層が形成された実施例5の熱変色防止ステンレス板を得た。
「実施例6」
スプレー法を用いて、熱変色防止膜形成用塗布液Aをヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて20分間熱処理し、熱変色防止膜が形成されたステンレス板を得た。
次いで、このステンレス板の熱変色防止膜上に、スプレー法を用いてアルカリ水溶液Cを塗布し、大気雰囲気下、300℃にて20分間熱処理し、上記の熱変色防止膜が改質された実施例6の熱変色防止ステンレス板を得た。
「比較例」
スプレー法を用いて、ポリシラザンを含有するシリカ(SiO2)膜形成用塗布液「アクアミカ」(商品名:クラリアント社製)をヘアライン研磨ステンレス板(50mm×100mm×0.3mm)の表面に塗布し、次いで、大気雰囲気下、200℃にて60分間熱処理し、表面にシリカからなる熱変色防止膜が形成された比較例の表面処理ステンレス板を得た。
「評価」
実施例1〜6の熱変色防止ステンレス板、比較例の表面処理ステンレス板、従来例である未処理のステンレス板各々の評価を行った。評価項目は、熱変色防止膜の膜厚及び組成、最表層の膜厚及び組成、表面硬度、耐摩耗性、熱変色試験1〜3の9項目とした。これらの評価項目の評価方法は下記のとおりである。
(1)膜厚
表面段差計を用いて測定した。
(2)熱変色防止膜の組成
被膜中のSiO量及びZrO量を蛍光X線法により測定した。
(3)最表層の組成
最表層中のSiO量を蛍光X線法により測定した。
(4)表面硬度
日本工業規格JIS K 5400「塗料一般試験方法」(鉛筆硬度試験法)により測定した。
(5)耐摩耗性
メラミンスポンジに100gf/cmの荷重をかけて100回往復摩擦し、被膜の表面を目視観察した。
ここでは、被膜が剥離せず、かつ被膜に傷の発生が認められないものを「○」(良)と判定し、被膜に剥離、傷のいずれかの発生が認められたものを「×」(不良)と判定した。
(6)熱変色試験1
電気温水ポットを用いて熱水の温度を98℃に設定し、フタを開けた状態で高温の水蒸気を発生させ、この高温の水蒸気に試験片の被膜側を30分間曝し、試験片の外観を目視にて観察した。
(7)熱変色試験2
試験片を500℃の電気炉(大気雰囲気)内に20分間放置した後、取り出して室温まで徐冷し、試験片の外観を目視にて観察した。
(8)熱変色試験2
試験片を98℃の熱水中に24時間浸漬し、その後、取り出して乾燥させ、さらに、この試験片を500℃の電気炉(大気雰囲気)内に20分間放置した後、取り出して室温まで徐冷し、試験片の外観を目視にて観察した。
膜厚及び組成を表1に、表面硬度、耐摩耗性、熱変色試験1〜3を表2に、それぞれ示す。
Figure 0005125108
Figure 0005125108
本発明のステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液は、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有したことにより、ステンレス鋼材の表面に、耐水性、耐アルカリ性、耐熱性に優れた熱変色防止膜を形成することができるものであるから、ステンレス鋼材はもちろんのこと、インコネルやハステロイ等のNi基合金、ステライト等のCo基合金等へも適用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。

Claims (2)

  1. ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシド加水分解物、オルガノアルコキシシラン及びオルガノアルコキシシラン加水分解物の群から選択される1種または2種以上のケイ素成分と、ジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシド加水分解物からなるジルコニウム成分と、酸と、水と、有機溶媒とを含有してなるステンレス鋼材の熱変色防止膜形成用塗布液を、ステンレス鋼材の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ300℃以下の温度下にて熱処理することにより、前記ステンレス鋼材の表面に被膜を形成し、次いで、前記被膜の表面にケイ酸アルカリおよび/または水酸化アルカリを含む水溶液を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を150℃以上かつ500℃以下の温度下にて熱処理することを特徴とするステンレス鋼材の熱変色防止方法
  2. 前記ケイ酸アルカリは、ケイ酸ナトリウムとケイ酸リチウムの混合物であり、前記ケイ酸ナトリウムと前記ケイ酸リチウムの重量比(W:W)は、1:0.1〜1:2であることを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼材の熱変色防止方法。
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