例えば空調機器、給湯機、空気清浄機、複写機およびプリンタ等の電気機器に用いられる各種駆動用モータは、長寿命、高信頼性および速度制御の容易さなどの長所を活かして、ブラシレスDCモータ(以下、モータという)が用いられることが多い。
従来、モータの駆動方式としては、モータの駆動巻線を矩形波状駆動波形によって駆動する矩形波駆動方式が広く採用されてきた。しかし近年、モータをより低トルクリップル、低振動および低騒音で駆動することへの要求が高まってきている。この要求に対応する駆動技術として、モータの駆動巻線を正弦波状駆動波形によって駆動する正弦波駆動方式が一般的になりつつある。
モータを正弦波駆動するための従来技術としては、例えば、日本特許公報第3232467号に記載のものがある。この従来技術では、モータの回転位置に応じてメモリー記憶された正弦波状の波形データを順次読み出す。そして、この波形データをパルス幅変調して、モータの駆動巻線に電力供給するためのインバータ回路の各スイッチ素子を制御することによって、モータを正弦波駆動する。
また特開2003−348874号公報に記載のものがある。この従来技術では、正弦波駆動技術を半導体集積回路により実現し、使用部品点数並びにコストを削減する。
また日本特許公報第3500328号に記載のものがある。この従来技術では、
モータの誘起電圧と駆動電圧との位相補正をモータの回転速度と負荷トルクに応じて絶えず行うことによって、モータを高効率駆動する。
図8はこの種の従来技術におけるモータ駆動装置の回路構成図であり、図9は図8に示すモータ駆動装置の動作説明図である。
図8において、モータ501は、U相駆動巻線511、V相駆動巻線513およびW相駆動巻線515を有する。これら各駆動巻線511、513および515には、直流電源505からインバータ520を介して駆動電力が供給される。
インバータ520は、モータ501の駆動巻線511、513および515を正側電源線路501に接続する正側スイッチ521、523および525を備える。また、インバータ520は、モータ501の駆動巻線511、513および515を負側電源線路502に接続する負側スイッチ522、524および526を備える。
制御器530は、波形生成器531およびパルス幅変調器532を備える。
速度制御器540は、上位器506からのモータ駆動速度の指令信号Srefに応じて制御信号VSPをパルス幅変調器532に出力する。また、上位器506からの速度切替え信号HLに応じて速度制御器540のゲインが切替えられる。
モータ駆動装置500は、インバータ520、制御器530および速度制御器540から構成されている。
モータ501の回転位置信号CSに応じて波形生成器531が生成する正弦波状の波形信号WFが、パルス幅変調器532に入力される。パルス幅変調器532は、正弦波状の波形信号WFに基づき、パルス幅変調した制御信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLをインバータ520の各スイッチ素子521から526に対して出力する。各スイッチ素子521から526は、制御信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLによってそれぞれオンまたはオフ動作される。
ここで、制御信号UH、VHおよびWHは互いに電気角120度の位相差をもってパルス幅変調器532から出力される信号である。また制御信号UL、VL、WLも互いに電気角120度の位相差をもってパルス幅変調器532から出力される信号である。
ここで、モータ501の駆動巻線のうち、インバータ520の出力Uに接続されるU相駆動巻線511に対する動作について、図9を用いて説明する。
図9において、三角波状の信号CYはパルス幅変調器532の内部に存在するPWMキャリア信号である。
波形生成手段531がモータ501の回転位置信号CSに応じて生成する正弦波状の波形信号WFは、パルス幅変調器532によりキャリア信号CYと比較される。その比較結果に応じてインバータ520のスイッチ素子521および522は相補的にオン、オフされる。その結果、図9で示される駆動電圧Uがインバータ520から出力され、U相駆動巻線511に印加される。U相駆動巻線511にはU相駆動電流Iuが流れる。
駆動電圧Uは、瞬時的には直流電源505の正側電圧と負側電圧との間を交互に変化する電圧であるが、パルス幅変調の原理から平均値的には波形信号WFに応じた正弦波状の電圧となる。したがって、U相駆動巻線511にはU相の波形信号WFと同様の正弦波状の電圧が印加される。
V相駆動巻線513およびW相駆動巻線515に対しても、U相駆動巻線511と同様にして、インバータ520からそれぞれ駆動電圧Vおよび駆動電圧Wによって正弦波状の電圧が印加される。
ここで、各相駆動巻線511、513および515に印加される駆動電圧U、VおよびWは、互いに電気角120度の位相差を有する。すなわち、V相駆動巻線513に関しては、U相の波形信号WFと互いに電気角120度の位相差をもつ正弦波状のV相の波形信号と、キャリア信号CYとの比較結果に応じて、インバータ520のスイッチ素子523および524が相補的にオン、オフされる。
また、W相駆動巻線515に関しては、U相の波形信号およびV相の波形信号と互いに電気角120度ずつ位相差をもつ正弦波状のW相の波形信号とキャリア信号CYとの比較結果に応じて、インバータ520のスイッチ素子525および526が相補的にオン、オフされる。
以上のようにして、各相駆動巻線511、513および515に正弦波状の電圧が印加され、モータ501は正弦波駆動される。
ここで上位器506は、たとえばマイクロコンピュータやDSP、PLD、FPGAなどで構成される。
上位器506はモータの駆動速度を定める指令信号Srefを速度制御器540に出力し、速度制御器540はモータの実際の駆動速度と指令信号Srefの示す速度との差(速度偏差)に所定のゲインを乗じ、この速度偏差が小さくまたはゼロとなるように制御信号VSPをパルス幅変調器532に出力する。パルス幅変調器532は制御信号VSPに対応した大きさ(波高値)の正弦波駆動電圧を各相駆動巻線511、513および515に印加する。これによりモータ501の速度制御が行われる。
また、上位器506の速度切替え信号HLは、指令信号Srefと連動してHレベルまたはLレベルとなる信号であり、例えば指令信号Srefが速いモータ駆動速度に対する指令である場合はHレベル、遅いモータ駆動速度に対する指令である場合はLレベルとなる信号である。
速度切替え信号HLは、速度制御器540において上記の速度偏差に乗じるゲインを切替える信号として使用され、モータの駆動速度が速い場合および遅い場合のそれぞれにおいて、速度制御ゲインを最適化し、低速から高速まで安定した速度制御性を得るためのものである。
このような速度ゲインを切替えて速度制御性を安定化する技術は、特開平6−261576号公報に示されている。
特許第3232467号公報
特開2003−348874号公報
特許第3500328号公報
特開平6−261576号公報
図1は本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の回路構成図、図2、図3および図4は図1に示すモータ駆動装置の動作説明図である。
図1において、本実施の形態のモータ駆動装置100は、インバータ20、制御器30、速度制御器40および進角設定器60を含む。
モータ駆動装置100は、プリント配線板(図示せず)上に形成され、モータ1を構成する可動子(図示せず)および駆動巻線11、13および15と共に、モータ1に内蔵または一体化される。
また、モータ駆動装置100は、モータ制御端子10および11を備える。制御端子10にはモータの駆動速度を定める指令信号Srefが上位器6から入力され、制御端子11には指令信号Srefと連動して動作する速度切替え信号HLが入力される。上位器6は、モータ1およびモータ駆動装置100が搭載される機器に備えられ、マイクロコンピュータあるいはDSP、PLD、FPGAなどで構成される。
インバータ20は、モータ1の複数相(3相)の駆動巻線11、13および15を正側電源線路101に電気的に接続する正側スイッチ素子21、23および25を備える。また、インバータ20は、複数相の駆動巻線11、13および15を負側電源線路102に電気的に接続する負側スイッチ素子22、24および26を備える。
進角設定器60は、内部に異なる値の進角値PS1およびPS2を持ち、速度切替え信号HLによって何れかの進角値を選択して設定し、ここで設定された位相進角信号PSを制御器30に出力する、
制御器30は波形生成器31を含む。波形生成器31は、正側または負側スイッチ素子21から26のオン期間とオフ期間の比率信号を駆動巻線11、13および15の波形信号として出力する。また、その波形信号の位相は位相進角信号PSにより制御される。
制御器30は、波形信号に応じて正側または負側スイッチ素子21から26のオン期間とオフ期間の比率信号をインバータ20に出力する。これにより、インバータ20は、インバータ20の正側および負側スイッチ素子21から26が制御器30からの制御信号に基づきオンまたはオフ動作され、各相の駆動巻線11、13および15を正弦波状の交番電流で駆動する。
図1を用いて、本実施の形態1のモータ駆動装置の構成についてさらに詳細に説明を加える。図1において、モータ1にはインバータ20を介して直流電源5が接続される。より具体的には、直流電源5の正側電源線路101に正側スイッチ素子21の第1端子に接続される。正側スイッチ素子21の第2端子は負側スイッチ素子22の第1端子が接続される。負側スイッチ素子22の第2端子は直流電源5の負側電源線路102に接続される。正側スイッチ素子21と負側スイッチ素子22の共通接続点、すなわち正側スイッチ素子21の第2端子と負側スイッチ素子22の第1端子との接続点にモータ1のU相駆動巻線11の第1端が接続される。
同様に、正側電源線路101に正側スイッチ素子23の第1端子が接続される。正側スイッチ素子23の第2端子は負側スイッチ素子24の第1端子に接続される。負側スイッチ素子24の第2端子は負側電源線路102に接続される。正側スイッチ素子23と負側スイッチ素子24の共通接続点、すなわち正側スイッチ素子23の第2端子と負側スイッチ素子24の第1端子との接続点にモータ1のV相駆動巻線13の第1端が接続される。
同様に、正側電源線路101に正側スイッチ素子25の第1端子が接続される。正側スイッチ素子25の第2端子は負側スイッチ素子26の第1端子に接続される。負側スイッチ素子26の第2端子は負側電源線路102に接続される。正側スイッチ素子25と負側スイッチ素子26の共通接続点、すなわち正側スイッチ素子25の第2端子と負側スイッチ素子26の第1端子との接続点にモータ1のW相駆動巻線15の第1端が接続される。
U相駆動巻線11の第2端、V相駆動巻線13の第2端およびW相駆動巻線15の第2端は、互いに接続され中性点を構成している。
制御器30は、正側スイッチ素子21、23および25のそれぞれをオンまたはオフ動作させる制御信号UH、VHおよびWHを、正側スイッチ素子21、23および25のそれぞれの第3端子に対して出力する。また、制御器30は、負側スイッチ素子22、24および26のそれぞれをオンまたはオフ動作させる制御信号UL、VLおよびWLを、負側スイッチ素子22、24および26のそれぞれの第3端子に対して出力する。
制御器30は、波形生成器31の他に、さらにパルス幅変調器32を含む。波形生成器31は、駆動巻線11、13および15の駆動電流波形が概略正弦波状となるように波形信号WFをパルス幅変調器32に対して出力する。
上位器6は指令信号Srefおよび切替え信号HLを出力する。これらの各信号はモータ駆動装置100のモータ制御端子10および11に入力され、さらに速度制御器40に入力される。また、切替え信号HLは進角設定器60にも入力される。
速度制御器40は、モータの実際の駆動速度と指令信号Srefが示す速度との差(速度偏差)に所定のゲインを乗じた信号を制御信号VSPとしてパルス幅変調器32に出力する。また、上記ゲインは切替え信号HLによって制御される。
パルス幅変調器32は、波形信号WFと制御信号VSPとを掛け合わせた後、キャリア信号CYと比較することによってパルス幅変調を行う。そのパルス幅変調の結果を、制御器30の制御信号UH、VH、WH、UL、VLおよびWLとして、インバータ20に対して出力する。
進角設定器60は、内部に持つ異なる値の進角値PS1およびPS2のうち、何れかの進角値を切替え信号HLによって選択して設定し、ここで設定された進角値を位相進角信号PSとして出力する。位相進角信号PSは、制御器30に入力され、さらに波形生成器31に入力される。
波形生成器31は、上記した波形信号WFの位相を、位相進角信号PSに応じて進め、パルス幅変調器32に対して出力する。
以上のように構成された本実施の形態1におけるモータ駆動装置100について、次にその動作を説明する。
図2は図1に示す本実施の形態1におけるモータ駆動装置100の動作説明図である。
図2において、三角波状の信号CYはパルス幅変調器32の内部に存在するPWMキャリア信号である。通常、キャリア信号CYは、モータ1の回転による電気角周期よりも十分に高い周波数に設定されるが、図2においては説明の便宜上、比較的低い周波数で記している。
波形生成器31は、モータ1の回転位置に応じて正弦波状の波形信号WFを生成する。その正弦波状の波形信号WFが、パルス幅変調器32によってキャリア信号CYと電圧比較され、波形信号WFに応じてパルス幅が変化するパルス幅変調信号(PWM信号)が生成される。そして、そのパルス幅変調信号に応じてインバータ20の正側スイッチ素子21と負側スイッチ素子22のうちいずれかをオン、オフする。その結果、図2で示される駆動電圧Uがインバータ20から出力され、U相駆動巻線11に印加される。
駆動電圧Uは、瞬時的には直流電源5の正側電圧と負側電圧との間を交互に変化する電圧であるが、パルス幅変調の原理から、平均値的には波形信号WFに応じた正弦波状の電圧となり、U相駆動巻線11には波形信号WFと同様の正弦波状の電圧が印加される。
上記の説明においては、U相駆動巻線11について説明してきたが、V相駆動巻線13およびW相駆動巻線15に対しても、U相駆動巻線11と同様にして、それぞれインバータ20からの駆動電圧Vおよび駆動電圧Wにより正弦波状の電圧が印加される。
ここで、各相駆動巻線11、13および15に印加される各相駆動電圧U、VおよびWは互いに電気角120度の位相差を有する。これは、V相駆動巻線13に対しては、U相の波形信号WFと互いに電気角120度の位相差をもつ正弦波状のV相の波形信号と、キャリア信号CYとの比較結果に応じて、インバータ20のスイッチ素子23および24をオン、オフ動作することで実現される。また、W相駆動巻線15に対しては、U相の波形信号およびV相の波形信号と互いに電気角120度ずつ位相差をもつ正弦波状のW相の波形信号とキャリア信号CYとの比較結果に応じて、インバータ20のスイッチ素子25および26をオン、オフ動作することで実現される。
以上のようにして、各駆動巻線11、13および15に正弦波状の電圧が印加され、各駆動巻線11、13および15は正弦波状の交番電流にて駆動される。
ここで、進角設定器60が出力する位相進角信号PSによって各駆動巻線11、13および15に印加される正弦波状の電圧の位相が制御される動作について、図3を用いて説明する。説明の便宜上、U相について説明するが、V相およびW相についても同様である。
進角設定器60から出力される位相進角信号PSは、波形生成器31に入力される。波形生成器31は、モータ1の可動子位置に応じて生成される波形信号WFの位相を、位相進角信号PSに応じて進め、パルス幅変調器32に対して出力する。
ここで、モータの可動子位置検出には、ブラシレスDCモータの場合、ホール効果を利用したホールセンサーを用いる方法や、駆動巻線に発生する誘起電圧あるいは駆動巻線電流を利用する方法などがある。
図1における位置検出信号CSは、これらいずれかの方法で検出された信号であり、波形生成器31は、この信号CSに基づく位相を基準位相タイミングとして波形信号WFを生成する。なお、位置検出信号CSは、可動子に組み込まれたマグネットの磁極位置を検出するものであるため、駆動巻線が発生する誘起電圧との位相関係は一義的に定まったものとなる。本実施の形態においては、図3に示すように、基準位相タイミングを駆動巻線11に発生する誘起電圧Uemfのゼロクロスタイミングとしている。
波形生成器31は、上記基準位相タイミングに応じて生成される波形信号WFの位相を、位相進角信号PSに応じて進め、パルス幅変調器32に対して出力する。これにより、U相駆動巻線11には、位相が位相進角信号PSによって制御可能な正弦波状の駆動電圧を印加することができる。
位相進角信号PSは、モータ1の高効率駆動を可能とする。これは、駆動巻線が有するインダクタンス成分により発生する位相遅れ、すなわち駆動電圧Uの平均値(波形信号WFに相当)に対する駆動電流Iuの位相遅れが見込まれる分、進角設定器60により進角値つまり位相進角信号PSを設定し、波形信号WFの位相を進めて駆動巻線の誘起電圧Uemfと駆動電流Iuとの位相差を概ねゼロとすることで実現される。このことは、上記説明したU相駆動巻線11だけではなく、V相駆動巻線13およびW相駆動巻線15についても同様である。
また、進角設定器60により設定される位相進角信号PSは、一定の進角値PS1またはPS2に定められるため、モータの速度や負荷の状態によって進角値が絶えず変化することはなく、モータのトルク特性が安定し、その駆動速度も安定する。
一方、速度制御器40から入力される制御信号VSPによって各駆動巻線11、13および15に印加される正弦波状の電圧の大きさが制御される。これについても図3を用いてU相に関して説明を加えるが、V相およびW相についても同様である。
速度制御器40から出力される制御信号VSPはパルス幅変調器32に入力される。パルス幅変調器32は、波形生成器31が出力する正弦波状の波形信号WFの大きさ(波高値)を制御信号VSPに対応させてキャリア信号CYと比較し、パルス幅変調を行う。これにより、U相駆動巻線11には、大きさが制御信号VSPによって制御可能な正弦波状の駆動電圧を印加することができる。
ここで、ここまでの動作説明の内容について整理する。
制御器30に含まれる波形生成器31の波形信号WFに応じて、各駆動巻線11、13および15は正弦波状の交番電流で駆動される。これにより、モータを低トルクリップル、低騒音、低振動で駆動できる。
また波形生成器31は、進角設定器60の位相進角信号PSに応じて波形信号WFの位相を進める。これにより、各駆動巻線の誘起電圧と駆動電流との位相差が概ねゼロとなるように、位相進角信号PSを適切に設定することでモータを高効率駆動できる。このとき位相進角信号PSは、一定の進角値PS1またはPS2に定められるため、モータの速度や負荷の状態によって進角値が絶えず変化することはなく、モータのトルク特性が安定し、その駆動速度も安定する。
また制御器30に含まれるパルス幅変調器32は、波形信号WFの大きさ(波高値)を制御信号VSPに対応させてキャリア信号CYと比較し、パルス幅変調を行う。これにより、制御信号VSPに応じて各駆動巻線への印加電圧の大きさが制御でき、モータの速度の可変や調整ができる。
以上が、ここまでの動作説明内容の整理である。
以下、上位器6が制御端子10および11を介してモータ駆動装置100に出力する指令信号Srefおよび速度切替え信号HLによる動作について説明する。
先ず指令信号Srefは、上位器6がモータ1を所望の速度で駆動するための速度指令信号である。指令信号Srefは、速度制御器40に入力される。速度制御器40は、信号Srefと図示しないモータ1の速度検出信号との差つまり速度偏差を検出し、これに適切なゲインを乗じて制御信号VSPを出力するように動作する。このとき速度制御器40は、上記速度偏差が小さくまたはゼロになるように、制御信号VSPを加減してモータ1の速度を調整する。これにより、上位器6は指令信号Srefを操作することでモータ1の速度を所望の値に設定することができる。
次に速度切替え信号HLは、上位器6が上記指令信号Srefと連動して出力する信号であり、指令信号Srefによるモータ1の設定速度の大きさに応じて段階的に状態が変化する信号で、例えば指令信号Srefがモータ1を高速領域で駆動する設定である場合はHレベルとなり、逆に低速領域で駆動する設定である場合はLレベルとなる信号である。
速度切替え信号HLは、速度制御器40および進角設定器60に入力される。
速度制御器40は、切替え信号HLにより上述した速度偏差に乗じるゲインを切替え、上位器6が指令信号Srefによりモータ1の駆動速度を変化させた場合においても、速度制御性能を確保するように動作する。
進角制御器60は、切替え信号HLにより進角値を切替え、上位器6が指令信号Srefによりモータ1の駆動速度を変化させた場合においても、正弦波状交番電流による高効率駆動を確保するように動作する。
このことについて、以下説明を加える。
まず速度制御器40は、上述の通り、指令信号Srefとモータの速度検出信号との差つまり速度偏差に適切なゲインを乗じて制御信号VSPを出力する。
ここで、上記速度偏差に乗じるゲインは、モータの速度制御を安定に行うために適切に設定する必要があることは周知の通りである。
一般にモータの速度が変わると負荷点や回路の動作点が変わる。
従って上位器6からの指令信号Srefによりモータ1の駆動速度が変化した場合、これに伴い速度偏差に乗じるゲインを設定し直すことが、モータの速度制御性能の安定維持に必要である。
切替え信号HLは、上記したように、指令信号Srefがモータ1を高速領域で駆動する設定である場合はHレベルとなり、逆に低速領域で駆動する設定である場合はLレベルとなる信号である。この切替え信号HLの出力の状態により、速度制御器40は指令信号Srefが設定しようとしているモータ1の駆動速度が高速領域であるか低速領域であるかを判別でき、それぞれの速度領域に適したゲイン設定に切替えることができる。これにより、モータ1の駆動速度を変化させた場合においても、モータ1の速度制御性能を維持することが可能となる。
一方、進角設定器60は、駆動巻線の誘起電圧と駆動電流との位相が概ね一致して高効率でモータ1駆動されるように、波形信号WFの位相を進めるための位相進角信号PSを設定する。
ここで、モータ1を効率よく駆動するためには、位相進角信号PSを適切に設定することが必要であることは既に述べた通りである。
一般にモータの速度を変えた場合、駆動巻線のインダクタンス成分によるインピーダンスや誘起電圧の大きさや負荷の大きさなどが変化し、駆動巻線への駆動電圧に対する駆動電流の位相遅れの状態が変化する。つまり一つの速度でモータが高効率駆動されていても、別の速度になると駆動巻線の誘起電圧と駆動電流との間に位相差が発生し、高効率駆動できなくなる。
従って上位器6からの指令信号Srefによりモータ1の駆動速度が変化した場合、これに伴い位相進角信号PSを設定し直すことが、モータの正弦波状交番電流による高効率駆動の維持に必要である。
進角設定器60は、図1に示す通り、その内部に異なる値の進角値PS1およびPS2をもち、これらの進角値のうち何れかを切替え信号HLによって選択して設定し、位相進角信号PSとして出力できるように構成されている。
また上記の通り、切替え信号HLの出力の状態により、指令信号Srefが設定しようとしているモータ1の駆動速度が、高速領域であるか低速領域であるかを判別できるため、それぞれの速度領域において進角値PS1とPS2の何れかを適切に選択することができ、モータ1の高効率駆動が可能になる。
これについて、図4を用いて更に説明を加える。
図4において、モータを高速で駆動する場合、進角設定器60は切替え信号HLにより位相進角信号PSとして進角値PS1を選択し設定している。信号PSが進角値PS1に設定されると、前述の波形生成器31により駆動波形信号WFは進角値PS1に応じた位相だけ進角され、誘起電圧Uemfと駆動電流Iuとの位相を概ね一致させる。なお進角値PS1は、モータの高速駆動時に誘起電圧Uemfと駆動電流Iuとの位相が概ね一致するように予め定めた値としている。
またモータを低速で駆動する場合、進角設定器60は切替え信号HLにより位相進角信号PSとして進角値PS2を選択し設定している。信号PSが進角値PS2に設定されると、前述の波形生成器31により駆動波形信号WFは進角値PS2に応じた位相たけ進角され、誘起電圧Uemfと駆動電流Iuとの位相を概ね一致させる。なお進角値PS2は、モータの低速駆動時に誘起電圧Uemfと駆動電流Iuとの位相が概ね一致するように予め定めた値としている。
このように、低速駆動から高速駆動まで指令信号Srefによりモータの駆動速度を変化させる場合においても、進角設定器60によりそれぞれの駆動速度で進角値を適切に選択し設定することで常に高効率駆動の実現が可能になる。
また、進角設定器60により設定される進角値は、モータ駆動速度の高速領域および低速領域の各範囲内で進角値PS1またはPS2に固定して設定されるため、モータの速度や負荷の状態によって絶えず進角値が変化することはない。従ってトルク特性が安定し、モータの駆動速度も安定する。
また更に前述の速度制御器40の作用が加わることで、より高精度な速度安定制御が実現できる。
なお、本実施の形態においては、説明を簡単にするため、切替え信号HLは、指令信号Srefがモータ1を高速領域で駆動する設定である場合はHレベルとなり、逆に低速領域で駆動する設定である場合はLレベルとなる信号として説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、更に信号Srefが中速領域で駆動する設定である場合はMレベルを出力するようにしても構わないし、更に細かく信号Srefの設定速度領域を区切って、信号HLを細かくレベル分けして出力しても構わない。無論、信号HLは1bitである必要もなく、信号Srefの設定速度領域を細かく区切る場合は、2bit以上の論理出力としても構わない。そしてこの細分化に伴い、進角設定器60の内部の進角値もPS1、PS2のみでなく、更に多くの進角値を選択し得る構成としても構わない。
以上のように本実施の形態のモータ駆動装置においては、制御器30に含まれる波形生成器31の波形信号WFに応じて、各駆動巻線11、13および15は正弦波状の交番電流で駆動され、モータを低トルクリップル、低騒音、低振動で駆動できる。加えて、進角設定器60の位相進角信号PSに応じて波形信号WFの位相を進め、各駆動巻線の誘起電圧と駆動電流との位相差を概ね一致させてモータを高効率駆動できる。このとき位相進角信号PSは、一定の進角値PS1またはPS2に定められるため、モータの速度や負荷の状態によって進角値が絶えず変化することはなく、モータのトルク特性が安定し、その駆動速度も安定する。
また、上位器6が指令信号Srefによりモータの駆動速度を低速から高速まで変化させる場合においても、進角設定器60が切替え信号HLによりそれぞれの駆動速度で進角値を適切に選択し設定することで、常に高効率駆動の実現が可能になる。このとき、進角設定器60により設定される進角値つまり位相進角信号PSは、モータ駆動速度の高速領域および低速領域の各範囲内で進角値PS1またはPS2に固定して設定されるため、モータの速度や負荷の状態により進角値が絶えず変化することはなく、モータのトルク特性が安定し、その駆動速度も安定する。
また、速度制御器40は、上位器6が指令信号Srefによりモータ1の駆動速度を変化させた場合、切替え信号HLにより速度偏差に乗じるゲインを切替えて速度制御性能を確保する。この速度制御器40の作用が加わることで、更に高精度な速度安定制御が実現できる。
また、モータを高効率で正弦波駆動するための波形生成器31、インバータ20および進角設定器60をモータ1に内蔵または一体化することで、小型で上位機器に組み込み易く、使い勝手が良くなる。つまり、速度安定性に優れかつ高効率かつ低トルクリップル、低騒音、低振動な正弦波駆動は、モータ1に内蔵または一体化されるモータ駆動装置100において自己完結される。これにより、上位器6からは、指令信号Sref、切替え信号HLをモータ制御装置100に入力するだけで、高効率正弦波駆動によりモータ1を自在かつ高精度に速度制御できる。そして上位機器の正弦波駆動モータによる速度安定性に優れた高効率駆動系の構築を容易にすることできる。
なお、上位器6から入力される信号SrefおよびHLは、アナログ電圧信号、PWM(パルス幅変調)信号、周波数信号、論理信号あるいは通信による信号のいずれの形式の信号であっても構わない。