JP5118659B2 - 発光素子 - Google Patents

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Description

本発明は、平面発光体などに用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)を用いた発光素子に関するものである。
従来から、陽極層と陰極層との間に有機発光層を挟んだ有機EL素子が知られている。このような有機EL素子は、大面積に形成するのが比較的容易で、低消費電力で発光することが可能などの特徴があり照明用途などの発光素子として各所で研究開発が行われている。
この種の発光素子として、例えば、ガラス材料からなる透光性の基板の一表面側に、透光性導電膜からなる陽極層と、有機発光層と、陰極層が順次形成され、前記有機発光層が、赤色の光(R)、緑色の光(G)および青色の光(B)がそれぞれ発光可能なように3層の発光層で形成されたものがある。前記陽極層と前記陰極層との間に電圧を印加させると、前記有機発光層から前記基板を介して光R、G、Bが放出され、白色の光を得ることができる。
しかしながら、この種の発光素子では、前記有機発光層から放射された主発光波長が異なる光R,G,Bは、媒体に対する屈折率が異なるので、通常、図7に示すように例えば、ガラス材料からなる前記基板中で同じ光路を辿った光R,G,Bであってもスネルの法則に従って、ガラスから空気中へ屈折方向が分かれることになる。
そのため、前記発光素子から放出される光に色収差が発生することになり、前記発光素子から放射された光の被照射面においては、色むらとして観測されることになる。人間の目は、白色の光の色収差に対して敏感であり、少しの違いでも大きな色の違いとして認識する。そのため、前記発光素子の構成では、均一な白色となる良質の光が求められる照明用途に用いるには十分ではない。
他方、照明用途においては、光源からの光を狭角配光させて所望の方向に光を取り出すニーズがある。そのため、前記有機EL素子の光出射面側に、配光レンズを配置し所望の配光を得る発光素子とすることも考えられる。しかしながら、照明系の光学設計では、通常、光線追跡法を用いた幾何学光学設計を行っているのが一般的であるが、幾何学光学設計では、屈折率が変化する界面での屈折率により光の進行方向を制御することを前提としており、狭角配光させるためには前記配光レンズの厚み寸法を大きくする必要がある。そのため、前記配光レンズによる光の進行方向の制御範囲にも限界があり、光路長が長くなることによる色収差も大きくなるという問題もある。
また、従来から、配光レンズの代わりに回折光学素子を用いた発光素子も提案されている。この種の発光素子としては、例えば、図8に示すように、ガラス材料からなる透光性の基板5の一表面側(図の下側)に、透光性導電膜からなる陽極層1、有機発光層3’、陰極層2が順に形成された有機EL素子10’と、該有機EL素子10’の光出射面側に回折光学素子4’が形成されたものが知られている(例えば、特許文献1。)。
この発光素子20’は、有機EL素子10’の陽極層1と陰極層2との間に電圧を印加されると、有機発光層3’から基板5を介して赤色の光(R)、緑色の光(G)および青色の光(B)が放出され、有機EL素子10’の光出射面側に設けられた回折光学素子4’によって光取り出し効率の向上が図られた白色の光を得ることができる。
また、この発光素子20’は、有機EL素子10’から放出される光R,G,Bの発光強度の強い領域と発光強度の弱い領域との発光強度の差を大きくし、分光分布を変化させ、白色の光を発光させたときにおいて、回折光学素子4’の作用によって光出射面に観測される虹色の発光現象を抑制させている。
特開2004−119286号公報
しかしながら、発光素子20’が放射した光R,G,Bは、光出射面で白色の光として観測されるものの、上記分光分布の変化にともない放射された混色光の演色性が低くなる。そのため、発光素子20’の構成でも、均一な白色となる良質の光が求められる照明用途に用いるには十分ではない。
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、より色収差が少なく、光出力の向上が可能であり照明用途にも利用可能な発光素子を提供することにある。
請求項1の発明は、陽極層と陰極層との間に少なくとも有機発光層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子と、該有機エレクトロルミネッセンス素子の光出射面側に設けられた回折光学素子と、を有する発光素子であって、前記有機エレクトロルミネッセンス素子の有機発光層は、主発光波長が異なる2層以上の発光層が積層されてなるとともに、前記回折光学素子は、前記有機発光層から放出される異なる主発光波長の光に対応して、それぞれ回折により前記有機エレクトロルミネッセンス素子の色収差を低減するように光の進行方向を変える複数の回折光学部を備えたことを特徴とする。
この発明によれば、前記回折光学素子によって配光を制御し光出力を高めつつ、色収差を小さくすることが可能な発光素子とすることができる。
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記光出射面側に透光性の基板を有するとともに、前記回折光学部の1つは、前記基板の光取り出し面に形成された凹凸構造であることを特徴とする。
この発明によれば、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する一部を利用して前記回折光学素子を形成させていることから、別途に回折光学素子を有機EL素子に固着する必要もない。また、高精度の回折光学素子を比較的簡単に形成することができる。
請求項3の発明は、請求項1に記載の発明において、前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記光出射面側に透光性の基板を有するとともに、前記回折光学部は、前記基板の内部に形成された屈折率が異なる領域であることを特徴とする。
この発明によれば、前記有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する一部を利用して前記回折光学素子を形成させていることから、別途に回折光学素子を有機EL素子に固着する必要もない。また、基板の内部に高精度の回折光学素子を比較的簡単に形成することができる。
請求項1の発明は、陽極層と陰極層との間に少なくとも有機発光層が設けられた有機EL素子と、該有機EL素子の光出射面側に設けられた回折光学素子と、を有する発光素子であって、前記有機EL素子の有機発光層は、主発光波長が異なる2層以上の発光層が積層されてなるとともに、前記回折光学素子は、前記有機発光層から放出される異なる主発光波長の光に対応して、それぞれ回折により前記有機EL素子の色収差を低減するように光の進行方向を変える複数の回折光学部を備えたことにより、より色収差が少なく、光出力の向上が可能な発光素子にできるという効果がある。
実施形態1の発光素子を示し、(a)は概略断面図、(b)は他の構成例の概略断面図である。 同上の回折光学素子の設計方法の説明図である。 同上の他の構成例の要部概略断面図である。 同上の他の構成例の製造方法を説明するための主要工程概略断面図である。 実施形態2の発光素子を示し、(a)は概略断面図、(b)は他の構成例の概略断面図である。 同上の製造方法を説明するための要部概略断面図である。 従来例における色むらの発生原因の説明図である。 従来の発光素子を示す要部概略断面図である。
(実施形態1)
以下、本実施形態の発光素子について、図1(a)を用いて説明する。
本実施形態の発光素子20は、図1(a)に、基板5の一表面側(図面の下側)に陽極層1と、該陽極層1上に正孔注入層6、正孔輸送層7を介して形成された有機発光層3と、該有機発光層3上に電子輸送層8を介して形成された陰極層2とを備えた有機EL素子10と、該有機EL素子10の光出射面側に設けられた回折光学素子4とを有している。ここで、有機EL素子10の有機発光層3は、2層の発光層3y,3bで形成され、有機発光層3における基板5側の発光層(以下、黄色発光層という)3yからの黄色の光Y、有機発光層3における基板5側とは反対面側の発光層(以下、青色発光層という)3bから青色の光Bが発光可能に形成してある。また、回折光学素子4は、有機発光層3から放出される異なる主発光波長の光(ここでは、黄色の光Yと青色の光Bに相当)に対応して、それぞれ回折により有機EL素子10の色収差を低減するように光の進行方向を変える第一の回折光学部4aと第二の回折光学部4bとを備えている。
以下、本実施形態の発光素子20に用いられる各構成について、詳述する。
本実施形態の有機EL素子10には、陽極層1、有機発光層3や陰極層2を形成するために基板5が用いられ、基板5は、陽極層1、有機発光層3や陰極層2などが支持可能であり成膜方法によっては耐熱性が要求される場合がある。また、有機発光層3からの光を基板5から取り出す場合は、透光性を有することが好ましく、基板5の材料は、例えば、ホウ珪酸クラウン光学ガラスなどのガラス材料や透光性プラスチック材料を用いることができる。
有機EL素子10の陽極層1は、有機発光層3に正孔を効率よく注入させるものが好ましい。また、有機発光層3に対し陽極層1を光出射面側に配置する場合には、有機発光層3が放射した光の波長に対して透光性が高いものが好ましい。本実施形態においては、有機EL素子10を白色光源として利用しているため、陽極層1の材料としては、インジウム・スズ酸化物(ITO)を好適に利用することができる。その他、陽極層1の材料として、例えば、ニッケル、金、銀、白金、パラジウムやこれらの合金、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)やアンチモン・スズ酸化物などの透光性導電膜を用いることができる。
有機EL素子10の陰極層2は、有機発光層3に正孔と再結合するための電子を効率よく注入可能なものが好ましい。また、有機発光層3に対し陽極層1側だけを光出射面側とする場合は、有機発光層3を介して陽極層1と対向面側に配置された陰極層2は、有機発光層3で発光した光を効率よく反射するものが好ましい。本実施形態においては、有機EL素子10を白色光源として利用しているため、陰極層2の材料としては、可視光域の波長に対して反射率が高いアルミニウムやマグネシウム銀合金などを好適に用いることができる。その他の陰極層2の材料として、例えば、マグネシウム、マグネシウムインジウム合金、マグネシウムアルミニウム合金やアルミニウムリチウム合金などを用いてもよい。
有機EL素子10に用いられる有機発光層3としては、主発光波長が異なる2層以上の発光層が積層されるものであり、例えば、照明用途の白色光源とさせるため、補色関係となる黄色の光Yが発光可能な黄色発光層3yと、青色の光Bが発光可能な青色発光層3bを用いる場合は、黄色発光層3yとして、トリフェニルジアミン誘導体にテトラセン誘導体をドープした層を、青色発光層3bとして、ビス(2−メチル−8−キノリトラト、パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq3)にペニレンをドープした層をそれぞれ積層させたものを用いることができる。
同様に、図1(b)に示すように赤色の光Rが発光可能な発光層(以下、赤色発光層という)3r、緑色の光Gが発光可能な発光層(以下、緑色発光層という)3g、青色の光Bが発光可能な青色発光層3bにより白色の光を得る場合は、赤色発光層3rとして、トリス(8−ヒドロキシキナリナト)アルミニウム(以下、Alq3という)に[2−[2−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]エチニル]−6−メチル−4H−イリデン]−プロパネプロパンジニトリル(DCM色素)をドープさせた層を、緑色発光層3gとして、Alq3からなる層を、青色発光層3bとして、ビス(2−メチル−8−キノリトラト、パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq3)にペニレンをドープした層をそれぞれ積層させたものを用いることもできる。
有機発光層3は、主発光波長が異なる2以上の発光層が積層される場合、より光出射面に近い有機発光層3側に、より長波長が発光可能な発光層を積層させることで、光取り出し効率を向上させることができ、例えば、光出射面側となる基板5上に透光性導電膜からなる陽極層1を介して有機発光層3として黄色発光層3y、青色発光層3bを順に積層させ、有機発光層3上に陰極層2を形成させることができる。これにより効率よく基板5側より有機発光層3からの光Y,Bを取り出すことができる。
有機EL素子10に好適に用いられる正孔注入層6としては、正孔注入のエネルギー障壁を低減させるものであって、正孔注入層6の材料として、例えば、ポリチオフェン誘導体などを用いることができる。
有機EL素子10に好適に用いられる正孔輸送層7としては、正孔を効率よく有機発光層3に輸送し有機EL素子10の駆動電圧を低減させるため、適度なイオン化ポテンシャルと正孔移動度が高いものが好ましく、有機発光層3からの過剰の電子が漏れでないようにするため電子親和力が小さいことが好ましい。このような正孔輸送層7の材料としては、例えば、ビス[N−(1−ナフキブ)−N−フェニル]ベンジジン(以下、α−NDPという)やN,N−ジフェニル−N,N−ビス(3−メチルフェニル)1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、TPDという)などを用いることができる。
有機EL素子10に好適に用いられる電子輸送層8としては、電子を効率よく有機発光層3に輸送可能で有機発光層3からの正孔が流れ込むのを抑制可能なものが好ましい。このような電子輸送層8の材料は、例えば、フッ化リチウム(LiF)などを用いることができる。
このような陽極層1、有機発光層3や陰極層2は、基板5上に真空蒸着法などを用いてそれぞれ積層させて形成することができ、正孔注入層6、正孔輸送層7や電子輸送層8は必ずしも設ける必要はない。
次に、回折光学素子4について説明する。本実施形態の回折光学素子4は、有機EL素子10の光出射面側に二種類の回折光学部4a,4bを備えた回折光学素子4(Diffractive Optical Element:DOE)を配置し、有機発光層3からの主発光波長が異なる光Y,Bに対応して、第一の回折光学部4aと第二の回折光学部4bを色収差を低減する形状とすることで、光の波動性を利用して色消し(光の波長依存性の打ち消し)を行うものである。
このような回折光学素子4の材料としては、主としてガラス材料、代表的なものとして合成石英ガラス(波長550nm付近の屈折率n=1.46)やホウケイ酸クラウン光学ガラス(波長550nm付近の屈折率n=1.52)が挙げられるが、回折光学部4a,4bの形状に応じて種々選択することができる。例えば、二つの異なる主発光波長の光における色収差を低減させるためには、有機EL素子10の光出射面上に、第一および第二の回折光学部4a,4bを備えた回折光学素子4を配置する。回折光学素子4は、各回折光学部4a,4bの形状を最適化することにより、各発光層3y,3bから出た光Y,Bの空間的な位相分布を均一に近づけて、色収差を低減することが可能となる。
同様に、図1(b)に示す発光素子20のように主に3つの波長を制御する場合は、回折光学素子4の回折光学部4a,4b,4cを3重にすることで色収差の低減することができる。理想的には、各発光層3r,3g,3bから発した光RGBが同じ方向に向かって出射され、発光素子20から色むらがない白色光源を実現することが可能である。以上のようなことを実現する回折光学素子4の形状は、参考文献1〔Yoel Arieli,et al,「Designof diffractive optical elements for multiple wavelengths」,APPLIED OPTICS / Vol. 37, No. 26 / 10September 1998, p.6174-6177〕に記載されている。
ここで、参考文献1には、一例として、図2に示すように本実施形態の回折光学部4a,4bに相当するものとして、2つの回折光学素子41,42を重ね合わせる場合(図2には各回折光学素子41,42それぞれについて、1ピクセルのみ図示してある)を示している。第一の回折光学素子41に関して、光源からの光の主発光波長がλ,λ、それぞれの光に対する屈折率をそれぞれn(λ)、n(λ)として、第二の回折光学素子42に関して、光源からの光の主発光波長がλ,λ、それぞれの光に対する屈折率をそれぞれn(λ),n(λ)として、第一の回折光学素子41と第二の回折光学素子42との間に介在する媒質に対して主発光波長がλ,λ、それぞれの光に対する屈折率をそれぞれn(λ),n(λ)とし、主発光波長λ,λそれぞれの光が、第一の回折光学素子41と第二の回折光学素子42とを伝播することによる位相遅延をそれぞれφ,φ、任意の整数をm、m、第一の回折光学素子41および第二の回折光学素子42それぞれの凹部43,44の深さをd,dとすると、光の波動性を利用して色消(光の波長依存性による色収差の低減)を図るためには、凹部43,44の深さd,dを下記の式に基づいて設定すればよいことが記載されている。
Figure 0005118659
Figure 0005118659
ここにおいて、参考文献1には、主発光波長が3以上の場合、回折光学素子が3つ以上の場合についての各回折光学素子の設計方法についても記載されているので、参考文献1に開示された数式をベースとして市販の光学シミュレータソフト、例えば、汎用の反復フーリエ変換アルゴリズム(Iterative Fourier Transform Algorithm : IFTA)法を用いた電磁光学解析ソフトを利用して数値計算を行うことにより、各回折光学素子41,42の凹部43,44の深さd,dを決定することができる。また、1ピクセル当たりの横方向の長さの設計指針に関して、凹部43,44の横方向のサイズは、1ピクセル当たりの周期をΛ,レベル(階段の階調数)をN、光源からの光の主発光波長をλ、1次回折光の回折角度をθとすれば、Λ/N=λsinθとなるので、各凹部43,44の横方向のサイズは、発光層3y,3bからの異なる主発光波長の光に応じてそれぞれ設計すればよい。なお、汎用のIFTA法を用いたソフトで設計する場合には、階調数N,θ、λを入力することにより、Λを計算することができる。さらに、説明すれば、(1)フィールド設定、(2)入力光源、理想的な出力などの決定を行い、上記光学シミュレータソフトによる計算を行う。
本実施形態においては、複数の回折光学素子41,42の代わりに、複数の回折光学部4a,4bを有する回折光学素子4を用いているが、上記と同様にして設計することができる。すなわち、(1)フィールド設定では、光源となる有機EL素子10の各発光層3y,3bから第一の回折光学部4aまでの距離、各発光層3y,3bから第2の回折光学部4bまでの距離、サンプリング周期(Λと連動)を、(2)入力光源、理想的な出力などの決定では、各発光層3y,3bから放出される光Y,Bの主発光波長、各発光層3y,3bの光強度(位相)分布、第一の回折光学部4aおよび第二の回折光学部4bの大きさ(多数の凹部が形成されている領域の大きさ)、階調数N、材料(屈折率)、出力サイズ(照射エリアのサイズ)、出力位置(照射エリアの位置)、色収差の少ない出力強度(位相)分布などを適宜設定して上記光学シミュレータソフトを実行することで、ITFA法に基づく最適化が行われ、第一および第二の回折光学部4a,4bの凹部の深さプロファイル、回折効率、照射エリアの色分布を得ることができる。また、回折光学素子4と空気界面の全反射による光取り出しロスを低減させ、発光素子20の光取り出し効率を向上させることも可能である。
また、さらに、回折光学素子4における回折光学部4a,4bは、それぞれ図3に示す断面鋸歯状の回折光学素子41のように、16レベルの階段構造にすることで1次の回折効率を高めることが考えられる。このような16レベルの階段構造を有する回折光学素子41では、1ピクセルの周期をΛ、深さをL、有機発光層3から放出される光の主発光波長をλ、回折光学素子41の材料の屈折率をnとすると、深さLは、下記の式で求められる。
Figure 0005118659
ここにおいて、上記ピッチΛは、レベル(階段の階調数:通常は2となる)をN、回折角度をθとして、おおよそ下記数式で導かれる。
Figure 0005118659
回折の効果を得るためにはΛ>>λであることが望ましいため、必然的にN×sinθ>>1であることが必要となる。ただし、N=∞とみなせるような連続形状の場合は、図3の構造で得られる現象と異なってくるので、必ずしも上記の数式があてはまらなくなる。また、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術とを利用して回折光学素子41を形成させる場合は、レベルNの値が大きくなる(つまり階調が大きくなる)につれて、プロセス数が増大するためNの値を4,8,16程度に設定するのが好ましい。なお、IFTA法を用いた上記光学シミュレータソフトで設計する場合は、階調数N、θ、λを入力することにより、ピッチΛを求めることができる。
ところで、図3で示したような回折効率が比較的高い16レベルの回折光学素子41を本実施形態の回折光学素子4として有機EL素子10の光出射面側に形成する方法に、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術とを繰り返すことで利用することができるが、この場合、露光・現像・エッチングを繰り返す回数が多くなり回折光学素子4のパターン形成コストが高くなるだけでなく高精度化が難しい。これに対して、回折効率の高い回折光学素子4を高精度且つ安価に形成する方法としては、ナノインプリント法を適用することができる。
以下、有機EL素子10の光出射面側に第一の回折光学部4aの回折パターンをナノインプリント法により形成する方法について図4に基づいて説明する。
まず、有機EL素子10の光出射面側となる基板5に転写層60を形成する転写層形成工程を行ってから、第一の回折光学部4aの形状に応じてパターン設計した凹凸パターン71を形成したモールド70を転写層60に対向させ(図4(a))、その後、モールド70を有機EL素子10に形成された転写層60に押圧保持(図4(b))した後、モールド70を有機EL素子10から分離することにより、モールド70の凹凸パターン71を転写層60に転写する転写工程を行ことができる(図4(c))。転写層形成工程では、有機EL素子10の光出射面側に、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、PMMAなど)をスピンコート法により転写層60を形成する。転写工程では、モールド70を転写層60に対向させて位置合わせを行ってから、転写層60を加熱して軟化させた状態でモールド70を転写層60に接触させモールド70を所定圧力で加圧することで図4(b)に示すように転写層60を変形させ、転写層60を冷却してから、モールド70を転写層60から分離することで、有機EL素子10の基板5に回折パターンとなる凹凸構造を形成することができる。
転写層形成工程では、転写層60の加熱冷却を行っているが、転写層60ではなく、モールド70の加熱冷却を制御してもよい。また、ナノインプリント法としては、上述のように熱可塑性樹脂を転写層60の材料として用いる熱ナノインプリント法に限らず、転写層60の材料として光硬化性樹脂を用いる光ナノインプリント法を採用してもよく、この場合には、粘度の低い光硬化性樹脂層からなる転写層60をモールド70により変形させて、その後に有機EL素子10に悪影響を与えない程度で紫外線を照射し光硬化性樹脂を硬化させ、モールド70を転写層60から分離すればよい。
上述の転写工程の後、転写層60および転写対象物である有機EL素子10の基板5をエッチングすることで、有機EL素子10の光出射面側に第一の回折光学部4aとなる回折光学素子41を形成することができる。なお、第一の回折光学部4aを形成後、別の材料を形成塗布して第二の回折光学部4bの回折パターンも同様にして形成することができる。
そのため、一度モールド用の金型さえ作成すれば、回折パターンの複雑さによる制限を受けることなく同じ形状を再現性よく形成することができ、低コストで回折光学素子4を有する有機EL素子10を形成することができる。
通常、有機EL素子10は、光出射面と支持体とを兼ねる透光性の基板5としてガラス材料を用いることが多い。したがって、回折光学素子4は、有機EL素子10の基板5に形成することができる。有機EL素子10の基板5を利用して、回折光学素子4を形成することで、複数の主発光波長に対して設けられる色収差のための複数の回折光学部4a,4bのうち、1つを省くことができるため、発光素子20を薄型化することもできる。したがって、回折光学部4a,4bを省いた分だけ回折光学素子4用の部材が必要なく色収差を低減させために、回折光学素子4を別途固着させる必要もない。
なお、ここで予め有機EL素子10の基板5の両面にパターン加工、あるいは重ね合わせした回折光学素子4を形成し、これを基板5とした有機EL素子10を形成してもよい。
ここで、図1(a)の発光素子20を形成するためには、ガラス材料からなる基板5上であって、陽極層1と、陰極層2との間に黄色発光層3yと青色発光層3bを用いた有機発光層3を形成し、基板5の光取り出し面側に回折光学素子4となる第一の回折光学部4aを凹凸構造として形成させてある。引き続いて、回折光学素子4の凹凸パターンが形成された基板5における光出射面側にガラス膜を塗布形成して平坦にさせた後、同様にして第二の回折光学部4bを凹凸構造として形成させてある。第一の回折光学素子4aおよび第二の回折光学部4bによって、有機EL素子10の黄色発光層3yおよび青色発光層3bから放出された異なる主発光波長の光に対応して、有機EL素子10の色収差を低減させた白色の光を得ることができる。
同様に、図1(b)の発光素子20の形成方法は、ガラス材料からなる基板5上に、陽極層1と、陰極層2との間に赤色発光層3rと緑色発光層3gと青色発光層3bを用いた有機発光層3を形成し、基板5の光取り出し面側に回折光学素子4となる第一の回折光学部4aを凹凸構造として形成させてある。引き続いて、回折光学素子4の凹凸パターンが形成された基板5における光出射面側にガラス膜を塗布形成して平坦にさせた後、上記と同様にして第二の回折光学部4bを凹凸構造として形成させてある。さらに、同様にして第三の回折光学部4cを凹凸構造として形成させてある。第一の回折光学部4a、第二の回折光学部4bおよび第三の回折光学部4cによって、有機EL素子10の赤色発光層3r、緑色発光層3gおよび青色発光層3bから放出された異なる主発光波長の光に対応して、有機EL素子10の色収差を低減させた白色の光を得ることができる。
また、第一の回折光学部4aと第二の回折光学部4bとの屈折率差、第二の回折光学部4bと第三の回折光学部4cとの屈折率差は、それぞれ大きいほど回折の効果が大きくなる。したがって、第一の回折光学部4aおよび第三の回折光学部4cを屈折率の高い材料(例えば、ホウケイ酸ガラス)により形成し、第二の回折光学部4bを例えば、空気としてもよい。この場合、第二の回折光学部4bと第三の回折光学部4cとなる凹凸パターンが形成されたホウケイ酸ガラスを、第一の回折光学部4aが形成された基板5上に設けるだけでよい。また、逆に第一の回折光学部4aおよび第三の回折光学部4cよりも、さらに高い屈折率をもった第二の回折光学部4bとしてもよい。
このような凹凸構造は、有機EL素子10の基板5の光出射面の平面形状において、同心円状に形状を変えることもできる。この場合、同心円状のパターンの間隔は、中心から端に向かって徐々に小さくさせて形成することもできる。
(実施形態2)
本実施形態の発光素子20における基本構成は実施形態1と略同一であり、基板5の光取り出し面側に形成された凹凸構造を回折光学部4a,4bとして利用する代わりに、図5(a)に示すように基板5の内部に形成された屈折率の異なる領域によって回折光学部4e,4dを形成させた点が異なる。なお、実施形態1と同様の構成要素には、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
ここで、回折光学素子4は、有機EL素子10の基板5の内部に3次元的に設けられた空洞の媒質と基板5の媒質の屈折率差によって光の回折を行う。本実施形態において、回折光学素子4は、有機EL素子10の基板5における厚み方向であって、図5(a)に示すように、より有機発光層3に近い側に形成された断面視形状が長方形状の空洞と、基板5における有機発光層3とは反対面側に、より近い側に形成された逆台形形状の空洞により構成されている。長方形状の空洞および逆台形形状の空洞は、それぞれ基板5の光取り出し面と略平行な面内で複数個設けられることにより、それぞれ第一の回折光学部4dおよび第二の回折光学部4eを構成することなる。
また、図5(b)に示すように、空洞を形成する材料を異なる屈折率の材料としてもよい。この場合、発光素子20の回折光学素子は、第一の回折光学部4dを有機EL素子10の基板5の内部に断面視形状が長方形状の空洞を形成するとともに、第二の回折光学部4eを基板5の表面に接合させた異なる屈折率の材料の内部に断面視形状が逆台形形状の空洞を設けたものであってもよい。
ここでは、回折光学素子4の回折光学部4d,4eを基板5の内部に形成させた空洞で示してあるが、空洞だけに限らず材質を改質させたことにより屈折率が変化した領域を利用することもできる。
なお、図6に示すように、このような空洞や材質を改質させ屈折率が変化した領域4fは、回折光学素子4を構成する透光性の部材(例えば、ガラス材料からなる基板5)にフェムト秒領域(10−12s以下)のパルスレーザ光30を照射させることで形成させることができる。このようなパルスレーザ光30を透光性の前記部材に照射させると、瞬間値が1011W以上にもなる非常に高いエネルギーにより多光子吸収と呼ばれる現象が生じ、パルスレーザ光30の焦点のごく近傍(例えば、数百nmから数μmの領域)が空洞や材質を改質させた屈折率が変化した領域4fに加工されることになる。回折光学素子4の形成にあたって、上記加工方法によって基板5などに屈折率を変化する領域4fを形成させる場合、ほとんど熱も発生することもなく加工領域以外は実質的に損傷を生じることもない発光素子20を形成させることができる。
従って、本実施形態の図5(a)に示す発光素子20を形成させるためには、予めシリカからなるガラスを基板5として用いた有機EL素子10を形成させる。次に、有機EL素子10の光出射面側から第一の回折光学部4dの形状に応じてパルスレーザ光30を照射させ、基板5における厚み方向であって、より有機発光層3側に近い側に屈折率を変化する領域を形成する。その後、基板5における厚み方向であって、基板5における有機発光層3とは反対面側に、より近い領域に第二の回折光学部4eの形状に応じて同様のパルスレーザ光30を照射させ屈折率を変化させる領域を形成させることで、発光素子20に回折光学素子4を形成させることができる。
なお、ここにおいて、基板5の材料としてシリカを用いた場合は、波長550nm付近の屈折率が1.5であり、パルスレーザ光30として波長800nm、出力0.3W、パルス周波数1kHzで150fsの光を照射させると直径約400nmの微小空洞(屈折率が変化する領域4f)を形成させることができる。
また、回折光学部4d,4eにおける屈折率差を大きくさせには、基板5に屈折率の大きなホウケイ酸ガラスを用い、屈折率を変化させる領域4fを空気の空洞とすること好ましい。
さらに、パルスレーザ光30のパルス幅、パルス強度、焦点を調整して走査することにより、空洞を含む屈折率が変化する領域4fを3次元的に形成することができる。
これにより有機EL素子10の基板5を回折光学素子4と共用することができるため、別途に回折光学素子4を付加させることもなく発光素子20を形成することができる。
1 陽極層
2 陰極層
3 有機発光層
3y 発光層(黄色発光層)
3b 発光層(青色発光層)
4 回折光学素子
4a,4b,4c,4d,4e 回折光学部
5 基板
10 有機EL素子
20 発光素子

Claims (3)

  1. 陽極層と陰極層との間に少なくとも有機発光層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子と、該有機エレクトロルミネッセンス素子の光出射面側に設けられた回折光学素子と、を有する発光素子であって、
    前記有機エレクトロルミネッセンス素子の有機発光層は、主発光波長が異なる2層以上の発光層が積層されてなるとともに、前記回折光学素子は、前記有機発光層から放出される異なる主発光波長の光に対応して、それぞれ回折により前記有機エレクトロルミネッセンス素子の色収差を低減するように光の進行方向を変える複数の回折光学部を備えたことを特徴とする発光素子。
  2. 前記有機エレクトロルミネッセンス素子は光出射面側に透光性の基板を有するとともに、前記回折光学部の1つは前記基板の光取り出し面に形成された凹凸構造であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
  3. 前記有機エレクトロルミネッセンス素子は光出射面側に透光性の基板を有するとともに、前記回折光学部は前記基板の内部に形成された屈折率が異なる領域であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
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