JP5118306B2 - 無機繊維断熱吸音材用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材 - Google Patents

無機繊維断熱吸音材用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材 Download PDF

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Description

本発明は、グラスウール、あるいはロックウール等の無機繊維からなる断熱吸音材に好適に用いることのできる、ホルムアルデヒドを含有しない無機繊維断熱吸音材用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材に関する。
従来から、グラスウール、あるいはロックウール等の無機繊維からなる断熱吸音材において、繊維同士を結合させるバインダーとして、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂(又はレゾール型フェノール樹脂)を主成分とするフェノール樹脂系バインダーが、広く使用されている。これらフェノール樹脂系バインダーは、比較的短時間で加熱硬化し、強度のある硬化物が得られることから、これを使用した無機繊維断熱吸音材は、形状保持、圧縮梱包開封後の厚み復元性、耐撓み性等に優れている。
しかしながら、フェノール樹脂系バインダーを使用すると、製造工程、特にバインダーの硬化時にホルムアルデヒドが放出される。そのため、放出されたホルムアルデヒドの処理、対応が問題となっている。特に近年では、環境負荷の低減から、法規制等により、ホルムアルデヒドの放散量の制限が求められており、環境負荷の少ない無機繊維断熱吸音材用のバインダーが所望されており、数多くの提案がなされている。
例えば、下記特許文献1には、(a)少なくとも2個のカルボン酸基、酸無水物基、又はそれらの塩を含有する多酸、(b)少なくとも2個のヒドロキシル基を含有するポリオール、及び(c)リン含有促進剤を含有しており、且つ、前記カルボン酸基、酸無水物基、またそれらの塩の当量類:前記ヒドロキシル基の当量比が、約1/0.01〜約1/3であり、そしてカルボン酸基、酸無水物基、又はそれらの塩が不揮発性塩基で約35%以下の範囲で中和されている硬化性の水性組成物が開示されている。
また、下記特許文献2には、(a)少なくとも2つのカルボキシル基、酸無水物基、またはそれらの塩を有するポリ酸、(b)燐含有促進剤、(c)ヒドロキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基およびそれらの混合物よりなる群より選ばれる少なくとも2つの活性水素基を含む活性水素化合物を含有し、前記のカルボキシル基、酸無水物基、またはそれらの塩の当量数と、前記活性水素化合物の当量数の比が、約1/0.01〜約1/3で、前記のカルボキシル基、酸無水物基、またはそれらの塩が約35%未満の量で固定塩基により中和されているホルムアルデヒド非含有の硬化可能な水性組成物で、セルロース基体を強化する方法が開示されている。
また、下記特許文献3には、異なる2種類の酸無水物とアミンとの混合物で、ポリマーを含まないものの反応生成物を含んだガラス又はストーンウールといった無機繊維に好適なバインダー用樹脂が開示されている。
また、下記特許文献4には、カルボン酸とアルカノールアミンとを反応条件下で混合して得られる樹脂と、カルボン酸基含有ポリマーとを含んだ合成のガラス質繊維等に好適な結合剤が開示されている。
特開平6‐184285号公報 特開平7‐189131号公報 特表2003‐505538号公報 特表2004‐503643号公報
上記ホルムアルデヒド不含のバインダーは、ポリカルボン酸中のカルボキシル基と、架橋剤中のアミノ基、イミノ基、あるいは水酸基等の活性水素とのアミド化反応、イミド化反応、あるいはエステル化反応により、架橋して硬化する。
ここで、ポリカルボン酸中のカルボキシル基と、架橋剤中の水酸基とのエステル化反応は、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂のメチロール基同士の反応と比較して反応速度が緩やかであるため、無機繊維断熱吸音材製造時のバインダー硬化過程において、硬化用オーブンの温度を高くする必要があり、また、硬化工程の時間を長くする必要があることから、経済性や生産性に劣るものである。
一方、ポリカルボン酸中のカルボキシル基と、架橋剤中のアミノ基あるいはイミノ基による、アミド化反応あるいはイミド化反応は、上記エステル化反応よりも、速やかに進行することが知られており、上記特許文献1〜4に開示されているように、ポリカルボン酸の架橋剤としてアルカノールアミンを用いたホルムアルデヒド不含水性バインダーが種々検討されている。
しかしながら、このようなバインダーであっても、無機繊維断熱吸音材用バインダーとして用いた場合、架橋の度合いが不足しやすく、硬化工程でのオーブン温度の低減、あるいは短時間化を充分図ることができなかった。
例えば、上記特許文献1に開示されているバインダーは、ポリアクリル酸中のカルボキシル基のモル数に対して、カルボキシル基と反応しうる官能基のモル数が、モル比で、0.2〜0.8と低く、無機繊維断熱吸音材用のバインダーとしては、架橋の度合いが不足している。そのため、繊維シートや耐熱性不織布としては充分な性能を備えることはできるものの、無機断熱吸音材としての充分な物性、例えば、製品厚みや、圧縮梱包から開梱した際の復元厚みを確保することが困難であった。
更に、上記特許文献2に開示されているバインダーは、主成分のエマルジョンポリマーの架橋に関与するカルボキシル基の含有量が少ないため、バインダーが熱可塑性を呈しやすいものであり、硬化工程において、オーブン中のコンベアにバインダーが無機繊維を伴って付着したり、無機繊維同士の接着部分のバインダーが欠落しやすく、所望する厚みの無機繊維断熱吸音材を製造できない場合があった。
また、上記特許文献3、4では、バインダー調合段階で、イミノ基とカルボキシル基とを先に反応させ、無機繊維断熱吸音材製造時のバインダー硬化過程では、エステル化反応のみにより硬化を進行させているが、イミノ基とカルボキシル基のイミド化反応を活用できないため、硬化工程でのオーブン温度の低減、あるいは短時間化が不充分であり、経済性や生産性に劣るものであった。
したがって、本発明の目的は、ホルムアルデヒドを含有せず、硬化反応が速やかに進行して且つ短時間で完了し、得られるバインダー硬化物が優れた強度を有する無機繊維断熱吸音材用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材を提供することにある。
上記目的を達成するにあたって、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、エチレン性不飽和単量体を重合した酸価500〜900mgKOH/gのポリカルボン酸と、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを含み、前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5であり、前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.2〜0.8であることを特徴とする。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、ポリカルボン酸からなり、ホルムアルデヒド不含のバインダーであるので、加熱硬化時にホルムアルデヒドを放出することなく硬化することができ、排出ガス等において、環境負荷を少なくすることができる。また、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤を用い、かつ、架橋剤中の水酸基、アミノ基、イミノ基が、上記モル比となるようにポリカルボン酸に配合することで、速やかにバインダーの加熱硬化を進行させることができ、硬化オーブンの温度の上昇や、硬化工程の時間を長くすることなく、無機繊維断熱吸音材を製造することができる。更には、架橋反応も充分に改善されるので架橋を緻密なものにでき、充分な諸物性を有する無機繊維断熱吸音材を得ることができる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、前記ポリカルボン酸の重量平均分子量は、1.000〜15.000であることが好ましい。これによれば、強度の高いバインダー硬化物が得られ、繊維同士のバインディング(接着力)が、強固なものとなる。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、前記架橋剤が、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有することが好ましい。これによれば、架橋剤中に含有される官能基のうち、イミノ基は、水酸基よりも速くカルボキシル基と反応し、更に、立体障害によるバインダーの架橋の遅延や未完了部分が少なくなるので、硬化時間が短縮でき、更には、生産性の向上や得られるバインダー硬化物の強度を向上させることができる。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、硬化促進剤を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部含有することが好ましい。これによれば、バインダーの硬化の進行が速くなり、バインダーの硬化工程を簡略化することができる。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、硫酸アンモニウムを、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部含有することが好ましい。これによれば、無機繊維から溶出されるアルカリ成分を中和し、バインダー硬化物の加水分解を抑制することができるので、高湿度等の環境要因において、無機繊維断熱吸音材の物性が劣化を防止できる。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、ワックス、あるいはワックス及び重質オイルの混合物より選択される1種の水分散体を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で、0.1〜5質量部含有することが好ましい。上記ワックス、あるいはワックス及び重質オイルの混合物は、無機繊維断熱吸音材製造時に製造設備への付着を抑制する離型剤や防塵剤、あるいは撥水剤として作用する。特に、上記ポリカルボン酸系バインダーは、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂系バインダーと比較して、金属に対する接着性が良好であるため、バインダー硬化字に金属製コンベア等に無機繊維を伴って付着しやすくなり、生産性を損なう場合があるが、上記ワックス、あるいはワックス及び重質オイルの混合物を使用することにより、バインダーに離型性を付与することができ、上記問題を防ぐことができる。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいて、シランカップリング剤を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜2質量部含有することが好ましい。これによれば、シランカップリング剤が、無機繊維とバインダーとの界面における接着性を向上させることができ、得られる無機繊維断熱吸音材の各物性を向上させることができる。
一方、本発明の無機繊維断熱吸音材は、上記本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを、無機繊維に付与し、加熱硬化させて成形したことを特徴とする。これによれば、製造時に、環境に好ましくない影響を与えるホルムアルデヒドを放出することないので、環境負荷が少なく、従来の物性を損なわない無機繊維断熱吸音材を得ることができる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、ポリカルボン酸からなり、ホルムアルデヒド不含のバインダーであるので、加熱硬化時にホルムアルデヒドを放出することなく硬化することができ、排出ガス等において、環境負荷を少なくすることができる。また、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤を用い、かつ、架橋剤中の水酸基、アミノ基、イミノ基が、上記モル比となるようにポリカルボン酸に配合することで、速やかにバインダーの加熱硬化を進行させることができ、硬化オーブンの温度の上昇や、硬化工程の時間を長くすることなく、無機繊維断熱吸音材を製造することができる。更には、架橋反応も充分に改善されるので架橋を緻密なものにでき、充分な諸物性を有する無機繊維断熱吸音材を得ることができる。
そして、上記本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを用いて得られる無機繊維断熱吸音材は、環境条件、例えば、気温あるいは湿度によって、断熱吸音性能に関わる断熱材の厚み寸法や、施工時の自立性に関係する剛性が低下することがなく、従来のフェノール系バインダーを使用したものと同様の物性を有するものであり、住宅、建物等の断熱、吸音材、あるいは真空断熱材の芯材として、好適に使用できる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、エチレン性不飽和単量体を重合した酸価が500〜900mgKOH/gのポリカルボン酸と、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを含有する水溶性組成物である。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーに用いるポリカルボン酸は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体より選択される1種以上の単量体を、単独あるいは、カルボキシル基を含有しないエチレン性不飽和単量体を併用して重合させて得られるものである。
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2‐メチルマレイン酸、イタコン酸、2‐メチルイタコン酸、α‐β‐メチレングルタル酸、マレイン酸モノアルキル、フマル酸モノアルキル、無水マレイン酸、無水アクリル酸、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンフタレート、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンマレエート、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンサクシネート等が挙げられる。
ポリカルボン酸の分子量のコントロールのし易さ等から考慮すると、アクリル酸を使用することが好ましい。また、ポリカルボン酸の酸価を780mgKOH/g以上の高い領域に調整する場合は、マレイン酸あるいはフマル酸を使用することが好ましい。
上記カルボキシル基を含有しないエチレン性不飽和単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n‐ステアリル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールエトキシ(メタ)アクリレート、メチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、エチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、ブチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、3価以上のポリオールのモノ(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N‐アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N‐ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体;ビニルアルキルエーテル、N‐アルキルビニルアミン、N,N‐ジアルキルビニルアミン、N‐ビニルピリジン、N‐ビニルイミダゾール、N‐(アルキル)アミノアルキルビニルアミン等のビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N‐アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N‐ビニルホルムアミド、N‐ビニルアセトアミド、N‐ビニルピロリドン等のアミド系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレン、ブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素;スチレン、α‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレン、ビニルトルエン、p‐ヒドロキシスチレン、p‐アセトキシスチレン当のスチレン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。ただし、N‐メチロール(メタ)アクリルアミド、メチル‐N‐メチロール(メタ)アクリルアミドは、加熱すると、架橋反応を生じ、ホルムアルデヒドを放出するので、使用することは避ける。
ポリカルボン酸の酸価は、500〜900mgKOH/gであることが必要であり、600〜900mgKOH/gが好ましく、650〜900mgKOH/gがより好ましい。ポリカルボン酸の酸価が500mgKOH/g未満であると、当該水性バインダーを加熱硬化させて得られる硬化物の架橋構造が粗になり、バインダー硬化物の強度、剛性が低下する傾向にある。そのため、このバインダーを用いて得られる無機繊維断熱吸音材は、圧縮梱包開封後の厚み復元性(以後、「復元性」と称する)や、ボードとしての剛性が低下し、断熱性、吸音性、あるいは自立性、すなわち施工時の作業性が損なわれる場合がある。一方、ポリカルボン酸の酸価が900mgKOH/gを超えると、バインダー硬化後の架橋構造が、密になりすぎて脆くなる傾向にある。そのため、このバインダーを用いて得られる無機繊維断熱吸音材は、所望する性能に達しない場合や、硬化後も未反応のカルボキシル基が硬化物中に残存し、例えば、高湿度下において、吸湿して、バインダーによる繊維と繊維の結合力が低下する等の問題が生じる場合がある。なお、本発明において、ポリカルボン酸の酸価は、ポリカルボン酸1gを中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で表す。
ポリカルボン酸の重量平均分子量は、1,000〜15,000が好ましく、2,000〜10,000がより好ましく、2,000〜5,000が特に好ましい。ポリカルボン酸の重量平均分子量が15,000を超えると、バインダー塗布から水分揮散後のバインダーの粘度上昇が著しく、無機繊維への塗布時、あるいは塗布後の流動性が劣り、無機繊維に対し均一にバインダーを塗布させにくくなる。また、無機繊維に付着したバインダーは、粘着性が高くなる傾向にあるため、バインダーを付着させた繊維が製造設備に付着しやすくなり、製造ラインの汚れや無機繊維断熱吸音材表面の繊維が塊となって、製造設備に付着し、得られる製品の外観、厚み寸法が部分的に不足する等の問題が生じる場合がある。一方、ポリカルボン酸の重量平均分子量が1,000未満であると、硬化時の加熱により、バインダー成分がヒュームとして揮散しやすくなり、無機繊維に対するバインダー付着量が低減しやすい。そのため、無機繊維断熱吸音材とした場合、諸物性が低下したり、また、ポリカルボン酸の重合時の重合度合を抑制する必要があるので、エチレン性不飽和単量体が残存しやすくなり、臭気が発生したりと新たな環境負荷が生じる虞れがある。
ポリカルボン酸の重量平均分子量が上記範囲内であれば、無機繊維用水性バインダーの粘度を調整しやすく、また、無機繊維への塗布時、あるいは塗布後の流動性を良好にできるので、無機繊維へのバインダー付着量のばらつきを抑制できる。そして、無機繊維断熱吸音材の製造において、バインダーの繊維への塗布工程は、遠心法等で繊維化された直後の約200〜350℃の高温雰囲気下で行われることが多いが、その際バインダー中の水分の揮散を良好にできる。
また、ポリカルボン酸の重量平均分子量は、バインダーの流動性だけでなく、硬化後の架橋密度とも関係があり、同酸価のポリカルボン酸であっても分子量が異なると、バインダー硬化物の強度が変動し、得られる無機繊維断熱吸音材の物性も変化する。例えば、ポリカルボン酸の重量平均分子量が小さくなるにつれて、バインダー硬化物は脆くなる傾向にあり、所望する物性が得られない場合があるが、ポリカルボン酸の重量平均分子量が上記範囲内であれば、バインダーの流動性と、得られる無機繊維断熱吸音材の諸物性との最適化を図れる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーに用いる架橋剤は、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを少なくとも含有する。
ポリカルボン酸のカルボキシル基と反応し、架橋を形成しうる官能基としては、アミノ基、イミノ基、水酸基、エポキシ基、メチロール基が挙げられる。
カルボキシル基との反応速度という観点からすると、上記官能基中、水酸基が最も反応が遅い官能基である。
一方、比較的反応の速い官能基での得失を有しており、例えば、メチロール基は、カルボキシル基との反応において、ホルムアルデヒドを放出する可能性が高く、本発明の目的とは合致しない。
また、エポキシ基は、水との親和性に乏しく、エポキシ基を含有する架橋剤を水性バインダーで使用する際には、当該架橋剤を水分散体にするか、分子構造中に他の親水基を含有させる必要がある。この水分散体は、低温での造膜性が高くなるので、バインダーの硬化以前に造膜して、バインダー中の架橋剤が不均一になり、バインダー硬化後も均質な強度を発現しない場合や、造膜により無機繊維断熱吸音材製造設備、特に硬化工程以前の集綿工程でのバインダー付着が顕著になる場合があり、無機繊維断熱吸音材の生産性や物性が低下する。また、分子構造中に他の親水基を導入することは、バインダーの耐水性を損なう虞がある。更に、エポキシ基は、バインダーのpHにより、水中で開環して、水酸基に変化する場合があり、安定した生産性や品質を確保することが難しい。
また、アミノ基やイミノ基を有する化合物としては、アミン類が挙げられるが、一般的にアミン類は臭気の問題があり、バインダー調合工程、あるいは無機繊維断熱吸音材製造時に、架橋剤であるアミン類が揮散して、臭気等の新たな環境負荷を生み出す原因となる。
本発明においては、架橋剤として、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを用いる。上記アルコールは、分子中に、アミノ基及び/又はイミノ基と、水酸基とを含有することにより、蒸気圧の低減、もしくは沸点の上昇を図り、アミン類のような臭気による環境負荷を抑制でき、また、分子中に水酸基よりも速やかにカルボキシル基と反応するアミノ基及び/又はイミノ基を含有するので、無機繊維断熱吸音材製造時の硬化オーブン温度の低下や、硬化時間の短縮、あるいはバインダー架橋度合の向上により、無機繊維断熱吸音材の生産性や物性を向上できる。
上記アルコールとしては、例えば、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン脂肪族ポリアミン[例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,2‐ジアミノプロパン、1,3‐ジアミノプロパン、1,4‐ジアミノブタン、1,6‐ジアミノヘキサン、3,3’‐イミノビス(プロピルアミン)、3‐(メチルアミノ)プロピルアミン、3‐(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3‐(エチルアミノ)プロピルアミン、3‐(ブチルアミノ)プロピルアミン、N‐メチル‐3,3’‐イミノビス(プロピルアミン)、ポリエチレンイミン等]、芳香族ポリアミン[例えば、フェニレンジアミン、o‐トリジン、m‐トルイレンジアミン、m‐キシリレンジアミン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルエーテル、1,4‐ジアミノアントラキノン、3,3’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル、4,4’‐ジアミノベンズアニリド、4,4’‐ジアミノ‐3,3’‐ジエチルジフェニルメタン等]、複素環アミン[例えば、ピペラジン、2‐メチルピペラジン、1‐(2‐アミノエチル)ピペラジン、2,5‐ジメチルピペラジン、シス‐2,6‐ジメチルピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、1,3‐ジ(4‐ピペリジル)プロパン、3‐アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、1‐アミノエチル‐2‐メチルイミダゾール等]等のアミン類に、エチレンオキサイド、あるいはプロピレンオキサイドを付加したポリアミン系ポリオールが挙げられる。
本発明においては、架橋剤として、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有することが好ましい。
ジアルカノールアミンは、上記ポリアミン系ポリオールと比較して、分子量が小さいながらも、沸点が200℃以上であるので、ポリカルボン酸との反応性が高く、また、無機繊維断熱吸音材製造時の硬化工程での揮散が少なく、経済性に優れている。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、架橋剤として上記アルコール以外のポリオールを更に併用してよい。
このようなポリオールとしては水溶性のポリオールであることが好ましく、具体的には、1,2‐エタンジオール(エチレングリコール)及びその二量体又は三量体、1,2‐プロパンジオール(プロピレングリコール)及びその二量体又は三量体、1,3‐プロパンジオール、2,2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、2‐ブチル‐2‐エチル‐1,3‐プロパンジオール、1,3‐ブタンジオール、1,4‐ブタンジオール、2‐メチル‐2,4‐ブタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオール、2‐メチル‐2,4‐ペンタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、1,4‐シクロヘキサンジオール、2‐エチル‐1,3‐ヘキサンジオール、2‐ヒドロキシメチル‐2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、2‐エチル‐2‐ヒドロキシメチル‐2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、1,2,6‐ヘキサントリオール、2,2‐ビス(ヒドロキシメチル)‐2,3‐プロパンジオール等の脂肪族ポリオール;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のトリアルカノールアミン;グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、マルチトール等の糖類、及び上記ポリオールと、フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等のポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリル樹脂系ポリオール等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。そして、なかでも、高沸点であり、かつ、揮散しにくいという理由から、トリアルカノールアミンが好ましい。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいては、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5、且つ、架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.2〜0.8となるように、ポリカルボン酸と架橋剤を含有させる必要がある。
ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8未満であると、ポリカルボン酸のカルボキシル基がバインダー硬化後も残存やすい。一方、1.5を超えると、架橋剤が、未反応のままバインダー硬化後も残存するので、得られる無機繊維断熱吸音材の耐湿性等の環境要因で物性が低下したり、過剰分のポリカルボン酸、あるいは架橋剤が生じやすくなり、経済性も劣る。ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、上記範囲内であれば、ポリカルボン酸、及び架橋剤ともに過不足なくバインダー硬化時に架橋構造を形成することとなるので、バインダー硬化物の強度が強固なものとなり、得られる無機繊維断熱吸音材の諸物性を最適なものにできる。
また、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.2未満であると、バインダーの架橋反応において、カルボキシル基と水酸基の反応が支配的になり、無機繊維断熱吸音材製造時の硬化工程において、硬化オーブン温度の低下や硬化時間の短縮が難しくなる。一方、0.8を超えると、バインダー架橋中に親水性の高いアミド結合や、イミド結合が増加するので、得られる無機繊維断熱吸音材の耐湿性等の環境要因で物性が低下する。ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中のアミノ基とイミノ基の合計のモル数が、上記範囲内であれば、バインダーの硬化が速やかに進行して、無機繊維断熱吸音材製造時の硬化条件の緩和、あるいは短縮による生産性の向上や、得られる無機繊維断熱吸音材の諸物性をより最適なものにできる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいては、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数は、モル比で0.9〜1.2となるように含有させることが好ましく、0.95〜1.1となるように含有させることがより好ましい。
また、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数は、0.25〜0.8となるように含有させることが好ましく、0.3〜0.7となるように含有させることがより好ましい。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーに用いる硬化促進剤としては、前記ポリカルボン酸のカルボキシル基と前記架橋剤中のアミノ基、イミノ基、あるいは水酸基との、アミド化反応、イミド化反応あるいはエステル化反応を促進するものが挙げられ、水溶性の化合物が好ましい。
このような硬化促進剤としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム等の次亜リン酸塩;トリス(3‐ヒドロキシプロピル)ホスフィン等の有機リン化合物;テトラエチルホスホニウム塩、トリエチルベンジルホスホニウム塩、テトラn‐ブチルホスホニウム塩、トリn‐ブチルメチルホスホニウム塩等の4級ホスホニウム塩;三フッ化ホウ素アミン錯体、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム等のルイス酸化合物;チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ジルコニルアセテート等の水溶性有機金属化合物等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。なかでも、次亜リン酸カルシウム、及びトリス(3‐ヒドロキシプロピル)ホスフィンは、少量でも硬化促進効果が高い上に、バインダー硬化物中に残存しても、バインダー硬化物の耐湿性を損なうことが少ないので好ましい。
そして、硬化促進剤の含有量は、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部がより好ましい。硬化促進剤の含有量が、0.1質量部未満であると、硬化促進の効果がほとんど認められず、また、10質量部を超えると、添加量に対する硬化促進の効果が見られず、不経済であり、更には、バインダー硬化物中に残存して、バインダー硬化物の耐水性を損なう場合がある。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいては、硫酸アンモニウムを更に含有することが好ましい。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、ポリカルボン酸と、アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを反応させて、アミド結合、イミド結合あるいは、エステル結合を形成させるが、上記の結合は、無機繊維から溶出されるアルカリ成分によって加水分解やすいため、無機繊維断熱吸音材の経年の使用において、バインダーの無機繊維同士の結合力が低下する場合がある。
一方、バインダー組成中に、硫酸アンモニウムを配合した場合、バインダー硬化工程での加熱により、アンモニウムイオンがアンモニアとして揮散して、酸としてバインダー中に残存する。このため、硫酸アンモニウムを含有させることで無機繊維からの溶出するアルカリ成分を中和でき、その結果バインダー中の架橋部の加水分解を抑制できるので、無機繊維断熱吸音材の諸物性を長期間維持できる。
そして、硫酸アンモニウムの含有量は、ポリカルボン酸と架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。0.1質量部未満であると、上記溶出するアルカリ成分を中和する効果が不充分であり、5質量部を超えると、上記溶出するアルカリ成分を中和するには過剰量となり、逆に耐水性を損なう場合がある。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいては、ワックス、あるいはワックス重質オイルの混合物より選択される少なくとも1種の水分散体を更に含有することが好ましい。
一般に、ポリカルボン酸は、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂と比較して、金属に対する接着性が良いので、無機繊維に付与したバインダーの硬化工程において、バインダーがコンベア等の設備に付着しやすく、それと同時に無機繊維を製造設備に付着させてしまうことがある。これにより、得られる無機繊維製品の表面に凹凸部を生じさせやすく、製品の外観を損ないがちである、また、製造設備に接着した無機繊維の塊等を除去するため、高温下で煩雑な作業が必要となり、生産性を損ねる等の問題が生じがちであるが、上記ワックス、あるいはワックス重質オイルの混合物をバインダー中に配合することで、これらの成分が無機繊維断熱吸音材製造時の離型剤として作用し、これらの問題を解決することができる。また、同時に、上記ワックス、あるいはワックス重質オイルの混合物は、バインダー硬化物中に残存して、無機繊維断熱吸音材の撥水性を向上させることができる。
上記ワックス室温下で固体であるが、約40℃以上に加熱すると、比較的流動性の高い液体となるものを指し、具体的には、蜜ろう、ラノリンワックス及びセラックワックス等の動物系ワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス及びキャンデリラワックス等の植物系ワックス、モンタンワックス及びオゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジペプタデシルケトン及び硬化ひまし油等の合成ワックスが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。そして、これらの中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスが、経済性の点で好ましい。
重質オイルとしては、炭素数がおおよそ15〜120の脂肪族炭化水素であるパラフィンあるいはナフテンで構成されているものを用いる。重質オイルは、ワックスと比較的類似した化学構造を有しており、流動性も高いので、ワックスの可塑剤としても作用する。そのため、水性バインダーを硬化させるための加熱の際に、ワックスの流動性を高めることができ、無機繊維上にむらなくワックス及び重質オイルを塗布することができ、無機繊維断熱吸音材の離型性や撥水性のばらつきを低減できる。
重質オイルの分類は、粘度により行われ、VG(Viscosity Grade)で320mm/s〜680mm/sの領域にあるものが、本発明において好ましく用いることができる。比較的粘度の低い、例えばVGが320mm/s未満の重質オイルでは、炭素数が30以下、特に、炭素数が20以下の成分が増加しがちで、バインダー硬化時の加熱の際に揮散し易くなり、粘度が高く、例えばVGが680mm/sを超えると、乳化する際の分散剤との混合に時間を要し、生産性を損なう場合がある。
上記ワックスと上記重質オイルとを併用する場合において、ワックス重質オイルの質量比に特に制限はないが、ワックス重質オイル=40:60〜95:5であることが好ましい。重質オイルの比率が、60質量%を超えると、室温下での撥水剤の流動性が高くなるので、得られる無機繊維断熱吸音材の長期間の使用での撥水性が低下する場合がある。一方、重質オイルの比率が5質量%未満になると、高融点のワックスを使用する場合には、ワックスの可塑化効果が低減し、得られる無機繊維断熱吸音材の撥水性にばらつきが生じる場合がある。したがって、上記重質オイルの使用比率は、使用するワックスの融点、あるいは所望する撥水性能に合わせ、適宜調整することがより好ましい。
一般的に、ワックス及び重質オイルは、疎水性材料であるため、ワックス、あるいはワックス重質オイルの混合物をバインダーに添加する際には、混和性向上のため、あらかじめ、水に分散又は乳化させて用いることが好ましい。
上記ワックス、及び重質オイルの水への分散剤としては、特に制限はなく、各種界面活性剤、あるいは水溶性樹脂等が挙げられ、分散剤の種類及び量に関しては、適宜設定することが好ましい。
そして、ワックス、あるいはワックス重質オイルの混合物の含有量は、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましく、0.5〜2質量部が特に好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、離型性、撥水性の向上がほとんど見られず、5.0質量部を超えても含有量の増加に比例して撥水性が向上せず不経済であるので好ましくない。
本発明の無機繊維断熱用水性バインダーにおいては、シランカップリング剤を更に含有することが好ましい。シランカップリング剤は、無機繊維とバインダーとの界面で作用し、バインダーの無機繊維への接着を向上させることができる。
シランカップリング剤としては、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン、γ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。
なお、アミノシランカップリング剤を使用する場合、直接、無機繊維断熱用水性バインダーに添加すると、シラン部位の加水分解と縮合反応が生じ、白色の水不溶性物が発生する虞れがあるため、アミノシランカップリング剤を予め水に溶解させた後、アンモニア水等を添加してアルカリ性に調整して、シラン部位を加水分解させた後に添加することが好ましい。
そして、シランカップリング剤の含有量は、ポリカルボン酸と架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜2.0質量部が好ましい。0.1質量部未満であると、シランカップリング剤による効果がほとんど認められず、また、2.0質量部を超えても含有量の増加に比例して接着性が向上せず不経済であるので好ましくない。
また、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーにおいては防塵剤、着色剤等の各種添加剤を更に添加してもよい。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、上記ポリカルボン酸と、架橋剤と、硬化促進剤と、必要に応じて更にワックス、あるいはワックス及び重質オイルの混合物より選択される1種の水分散体、シランカップリング剤等を、ディゾルバー等の攪拌機のついたタンクを用いて混合することで調製することができる。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの最も好ましい態様としては、ポリカルボン酸が、エチレン性不飽和単量体を重合した酸価500〜900mgKOH/gのポリカルボン酸であり、架橋剤が、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有するものであり、硬化促進剤が、ポリカルボン酸と架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部含有し、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5であり、かつ、ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.2〜0.8であるものが挙げられる。
水性バインダーの形態としては、エマルション、コロイダルディスパージョン、水溶性組成物が挙げられるが、エマルションやコロイダルディスパージョンでは、分散されている樹脂成分と水との混和性が劣り、媒体である水が揮散すると、フィルムを形成しやすいという特性を有している。バインダー中の樹脂組成物が、硬化前にフィルムを形成すると、繊維表面でのバインダーの流動性が損なわれやすく、バインダーの付着量が均質な無機繊維断熱吸音材が得られないだけでなく、繊維同士のバインダーによる結合が欠ける部分が多くなり、製品としての形状を保つのが困難となる場合がある。また、コロイダルディスパージョンやエマルションでは、一旦、媒体である水が揮散してフィルムを形成すると、再度水性材料に戻り難いため、製造設備等にバインダーが付着すると、洗浄が煩雑となり、生産性の低下が生じる傾向にある。
一方、水性バインダーが水溶性組成物である場合、水の揮散によるフィルム形成がないので、上記のような問題が生じることがない。よって、本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは水溶性組成物として調製することが好ましい。
ここで、エマルションとは、樹脂成分とは別の乳化剤、例えば、界面活性剤等で乳化したものを指し、コロイダルディスパージョンとは、樹脂成分中の官能基によって、水中に分散したものを指しており、両者とも外観は乳白色をしている。一方、水溶性組成物とは、樹脂成分が完全に水に溶解しているものを指しており、外観も透明、あるいは透明に近いものである。
また、無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの固形分量は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。固形分量が5質量%未満であると水分量が多くなり、硬化工程で時間を要し、生産性を損なう場合があり、40質量%を超えると粘度が高くなり、バインダーの流動性が低下する。
また、無機繊維断熱吸音材用水性バインダーのpHは、調合の成り行きで決まることから特に限定はしないが、ポリカルボン酸を含むことから、酸性となり、pHは約3〜5となる。
次に、本発明の無機繊維断熱吸音材について説明する。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、上記無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを無機繊維に付与し、バインダーを加熱硬化させて成形して得られたものである。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、まず、溶融した無機質原料を繊維化装置で繊維化し、その直後に上記のバインダーを無機繊維に付与する。次いで、バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成し、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込んで狭圧しつつ加熱し、バインダーを硬化させて無機繊維断熱吸音材を形成する。そして、必要に応じて表皮材等を被覆させて、無機繊維断熱吸音材を所望とする幅、長さに切断して製品が得られる。以下、各工程について更に詳しく説明する。
本発明の無機繊維断熱吸音材に用いる無機繊維としては通常の断熱吸音材に使用されているグラスウール、ロックウール等を用いることができる。無機繊維の繊維化方法は、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)等の各種方法を用いることができる。特に無機繊維がグラスウールの場合は、遠心法を用いることが好ましい。なお、目的とする無機繊維断熱吸音材の密度は、通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは5〜300kg/mの範囲である。
無機繊維にバインダーを付与するには、スプレー装置等を用いて塗布、噴霧する。バインダーの付与量の調整は、従来の撥水剤を含まないバインダーと同様の方法で調整することができる。そして、バインダーの付与量は、無機繊維断熱吸音材の密度や用途によって異なるが、バインダーを付与した無機繊維断熱吸音材の質量を基準として、固形分換算で0.5〜15質量%の範囲が好ましく、0.5〜9質量%の範囲がより好ましい。
無機繊維吸音断熱材にバインダーを付与するタイミングとしては、繊維化後であればいつでも良いが、バインダーを効率的に付与させるためには、繊維化直後に付与することが好ましい。
上記工程によってバインダーが付与された無機繊維は、有孔コンベア上に堆積され、嵩高い無機繊維中間体となる。ここで有孔コンベア上に堆積する時に、無機繊維が堆積される有孔コンベアの反対側から吸引装置により吸引することがより好ましい。
その後、有孔コンベア上を連続的に移動する前記無機繊維中間体を、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込むと同時に、加熱した熱風によりバインダーを硬化させて、無機繊維断熱吸音材をマット状に成形した後、所望とする幅、長さに切断する。
バインダーの加熱硬化温度は200〜350℃が好ましい。また、加熱硬化時間は、無機繊維断熱吸音材の密度、厚さにより、30秒〜10分の間で適宜調整する。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、そのままの形態で用いてもよく、また、表皮材で被覆して用いてもよい。表皮材としては、紙、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布、織布あるいはこれらを組み合わせたものを用いることができる。
このようにして得られた本発明の無機繊維断熱吸音材は、バインダーの加熱硬化時に、ホルムアルデヒドを放出することがないので、従来のフェノール・ホルムアルデヒド系バインダーと比較して、環境負荷を少ないものである。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。なお、以下の説明において、部、%は、特に断りのない場合は質量基準を表す。
<バインダーの硬化性評価>
(実施例1)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを48.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、実施例1の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例2)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを48.0部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、実施例2の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例3)
ポリカルボン酸としてスチレンとマレイン酸とからなるポリカルボン酸(酸価890mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを44.4部とを混合(架橋剤の水酸基とイミノ基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.8、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.27)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、実施例3の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例1)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを68.1部とを混合(架橋剤の水酸基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、比較例1の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例2)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを68.1部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、比較例2の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例3)
ポリカルボン酸としてスチレンとマレイン酸とからなるポリカルボン酸(酸価890mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを30.5部及び、グリセロールを26.8部とを混合(架橋剤の水酸基とイミノ基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.1、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.18)した水溶性組成物を固形分が50%となるように水で希釈して、比較例3の無機繊維用水性バインダーを得た。
[硬化挙動の評価]
粘弾性測定装置TAインスツルメント製ARESを使用して、実施例1〜3、比較例1〜3のバインダーの、150℃での硬化挙動を評価した。測定冶具には25mmφクェットに使用し、30℃から150℃までを4℃/分で昇温させた後、150℃で保持して、測定周波数 1rad/s、歪1%での貯蔵弾性率G’の時間変化を測定し、結果を図1〜3に示す。
硬化挙動の評価において、実施例1と比較例1及び、実施例3と比較例3では、硬化促進剤を含有しておらず、架橋剤の違いによるバインダーの硬化挙動の差を観察することができる。実施例1,3と、比較例1,3とを比較すると、実施例1,3の水性バインダーは、硬化の開始が速く、且つ短時間で貯蔵弾性率が高いことがわかる。また、実施例2と比較例2とは、それぞれ、硬化促進剤を含有しているが、これらを比較した場合であっても、実施例2のバインダーの方がより短時間で、高い弾性率を示すことがわかる。
これにより、本発明のバインダーは、短時間で貯蔵弾性率が向上し、硬化完了までの時間を短縮できることがわかる。
<無機繊維断熱吸音材の物性評価>
(実施例4)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを48.0部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させてアンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈して、実施例4の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例5)
ポリカルボン酸としてアクリル酸及びメチルアクリレートからなるポリカルボン酸(酸価530mgKOH/g、重量平均分子量2,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分50%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを27.8部及びグリセロールを16.2部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.40、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.28)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として、γ−アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が18%となるように水で希釈して、更に、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例5の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例6)
ポリカルボン酸としてスチレンとマレイン酸とからなるポリカルボン酸(酸価890mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを44.4部とを混合(架橋剤の水酸基とイミノ基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.8、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.27)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例6の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例7)
ポリカルボン酸としてアクリル酸及びメチルアクリレートからなるポリカルボン酸(酸価710mgKOH/g、重量平均分子量5,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分50%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジイソプロパノールアミン53.3部と、硬化促進剤としてトリス(3‐ヒドロキシプロピル)ホスフィンを3.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.95、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.32)した水溶性組成物を得て、更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のオレフィンワックス:粘度グレードが320mm/sの重質オイル=1:1の水分散体5.0部を添加して、実施例7の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例8)
ポリカルボン酸としてアクリル酸及び、メチルアクリレートからなるポリカルボン酸(酸価710mgKOH/g、重量平均分子量5,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分50%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエチレントリアミン1モルにエチレンオキサイド2モルを付加させたポリアミン系ポリオール58.0部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを3.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.20、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.72)した水溶性組成物を得て、更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のオレフィンワックス:粘度グレードが320mm/sの重質オイル=1:1の水分散体5.0部を添加して、実施例8の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例9)
ポリカルボン酸として、アクリル酸、マレイン酸及び、メチルアクリレートとからなるポリカルボン酸(酸価720mgKOH/g、重量平均分子量17,500)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを49.4部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤の水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.10、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.37)した水溶性組成物を得て、更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が12%となるように水で希釈し、固形分35%のオレフィンワックスの水分散体4.0部を添加して、実施例9の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(実施例10)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを48.0部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を得た。更に、アルカリ成分中和剤として、硫酸アンモニウムを2.0部及び、シランカップリング剤としてγ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例10の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例4)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを68.1部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させてアンモニア水でpH8.5に調整した水溶液をアミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈して、比較例4の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例5)
ポリカルボン酸としてポリアクリル酸(酸価770mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを31.2部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.65、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.22)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させてアンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.3部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、比較例5の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例6)
ポリカルボン酸として、スチレンと、マレイン酸とからなるポリカルボン酸(酸価890mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを88.8部とを混合(架橋剤の水酸基とイミノ基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.6、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.53)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、比較例6の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例7)
ポリカルボン酸として、アクリル酸及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価720mgKOH/g、重量平均分子量4,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分50%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを13.5部、グリセロールを31.5部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.07)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として更に、シランカップリング剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が18%となるように水で希釈して、更に、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、比較例7の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例8)
ポリカルボン酸として、アクリル酸、メチルアクリレート及び、エチルアクリレートからなるポリカルボン酸(酸価420mgKOH/g、重量平均分子量8,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分50%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを26.2部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤として更に、シランカップリング剤として、γ‐アミノプロピルトリエトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が18%となるように水で希釈して、更に、固形分40%のオレフィンワックス:粘度グレードが320mm/sの重質オイル=1:1の水分散体5.0部添加して、比較例8の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例9)
ポリカルボン酸として、スチレンと、マレイン酸とからなるポリカルボン酸(酸価940mgKOH/g、重量平均分子量16,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分35%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを58.6部とを混合(架橋剤の水酸基とイミノ基の総モル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=1.0、架橋剤のイミノ基のモル量/ポリカルボン酸のカルボキシル基のモル量=0.33)した水溶性組成物を得た。更に、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを水に溶解させて、アンモニア水でpH8.5に調整した水溶液を、アミノシランカップリング成分が0.4部になるように添加して攪拌した後、固形分が12%となるように水で希釈し、固形分30%のオレフィンワックス水分散体を2.0部添加して、比較例9の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
(比較例10)
水に分散された、単量体10%以下、二量体80%以上、遊離フェノール1%以下のレゾール型フェノール樹脂前駆体を固形分換算で100部と、シランカップリング剤としてγ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを0.2部と、硬化促進剤として硫酸アンモニウムを1.0部と、水を450部とをディゾルバーの付いたオープンタンクで調合し、攪拌しながら固形分が15%になるように水で希釈して、比較例10の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを得た。
実施例4〜10、比較例4〜10の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材について、下記方法により復元性、ホルムアルデヒド放出量、引き裂き荷重を評価した。結果を表1にまとめて記す。
[復元性の評価1]
遠心法により繊維化したガラス繊維に、実施例4〜10及び比較例4〜10の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを所定の付着量になるようにそれぞれスプレーで塗布した後、吸引装置で吸引しながら有孔コンベア上に堆積して、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成させた。前記中間体を220℃の熱風オーブン中で3分間加熱して、バインダーを硬化させ、密度16Kg/m、厚み100mm、バインダー付着量3.0%である無機繊維断熱吸音材(グラスウール)をそれぞれ得た。そして、このグラスウールの厚みが1/8になるまで圧縮し、低密度ポリエチレン製袋に挿入した状態で、温度40℃湿度95%の環境下に放置した。1日後、14日後、28日後にそれぞれ開封して、グラスウールの復元厚みを測定し、初期の厚みとの比較を評価した。
[復元性の評価2]
熱風オーブンの温度を260℃に変更した以外は、復元性の評価1と同様の所作を行った。
[ホルムアルデヒド放出量の評価]
復元性の評価に用いたグラスウールのバインダー硬化時に発生するガスを、4リットルの臭気袋に捕集し、ガス検知器を用いて、ホルムアルデヒドの放出量を測定した。
比較例10のフェノール系バインダーを用いて得られたグラスウールの硬化時には、40ppmのホルムアルデヒドが検出されたが、実施例4〜10及び比較例6〜9のアクリル樹脂系ポリカルボン酸を含むバインダーを用いて得られたグラスウールの硬化時には、ホルムアルデヒドは検出されなかった。
[引き裂き荷重の評価]
遠心法により繊維化したガラス繊維に、実施例4〜10及び比較例4〜10の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーを所定の付着量になるようにそれぞれスプレーで塗布した後、吸引装置で吸引しながら有孔コンベア上に堆積して、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成させた。前記中間体を220℃の熱風中で5分間加熱して、バインダーを硬化させ、密度32Kg/m、長さ1350mm、幅430mm、厚み50mm、バインダー付着量6.0%である無機繊維断熱吸音材(グラスウールボード)をそれぞれ得た。そして、得られた32Kg/mのグラスウールボードの端面部分を、厚み方向に、万能試験機のチャックで挟み込み、1m/分の速度で引き裂き荷重を測定した。
これらの結果を表1にまとめて記す。
比較例4〜6の無機繊維断熱吸音材は、260℃で硬化させたものは実用域に近いものの、220℃硬化では、厚みのへたりが顕著に見られ、バインダーの硬化が不充分であると推定できる。また、現在実用されているフェノール系バインダー(比較例10)よりも引き裂き荷重が低いものであった。
また、比較例7の無機繊維断熱吸音材は、260℃で硬化させた場合においては、実用域であるものの、バインダー硬化温度が220℃では、経時による厚みの膨れが観察されており、バインダーの硬化不足が推定される。また、現在実用されているフェノール系バインダー(比較例10)よりも引き裂き荷重が低いものであった。
また、比較例8でも、同様の結果が観察されているが、こちらは硬化が進行していても、バインダーの架橋度が不足していると推定される。また、現在実用されているフェノール系バインダー(比較例10)よりも引き裂き荷重が低いものであった。
また、比較例9では、復元厚みが硬化温度に関係なく、急激に低下している。これは、ポリカルボン酸のカルボキシル基の数が多い(酸価が高い)ため、バインダーの架橋度合いが密になりすぎ、逆に脆くなったと推定できる。
一方、実施例4〜10の無機繊維断熱吸音材は、引き裂き荷重が高く、更には、バインダーの硬化温度を低下させても、復元性評価において性能差が観察されず、バインダーの硬化性に優れ、なかでも、重量平均分子量が2,000〜15,000のポリカルボン酸と、ジアルカノールアミンとを用いて得られた実施例4及び10の無機繊維断熱吸音材は、引き裂き強度の高いものであった。
本発明の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーは、ホルムアルデヒドを全く含有していないので、環境負荷が少なく、住宅や建物の断熱材又は吸音材として好適に使用できる無機繊維断熱吸音材とすることができる。
実施例1及び比較例1の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの硬化挙動を示す図表である。 実施例2及び比較例2の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの硬化挙動を示す図表である。 実施例3及び比較例3の無機繊維断熱吸音材用水性バインダーの硬化挙動を示す図表である。

Claims (8)

  1. エチレン性不飽和単量体を重合した酸価500〜900mgKOH/gのポリカルボン酸と、
    アミノ基及び/又はイミノ基を有するアルコールを含有する架橋剤とを含み、
    前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5であり、
    前記ポリカルボン酸中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中のアミノ基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.2〜0.8であることを特徴とする無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  2. 前記ポリカルボン酸の重量平均分子量が、1,000〜15,000である請求項1に記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  3. 前記架橋剤が、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有する請求項1又は2に記載の無機繊維用水性バインダー。
  4. 硬化促進剤を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部含有する請求項1〜3のいずれか一つに記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  5. 硫酸アンモニウムを、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部含有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  6. ワックス、あるいはワックス及び重質オイルの混合物より選択される1種の水分散体を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で、0.1〜5質量部含有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  7. シランカップリング剤を、前記ポリカルボン酸と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜2質量部含有する請求項1〜6のいずれか一つに記載の無機繊維断熱吸音材用水性バインダー。
  8. 請求項1〜7のいずれか一つに記載の水性バインダーを、無機繊維に付与し、加熱硬化させて成形したことを特徴とする無機繊維断熱吸音材。
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