JP5110423B2 - 微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー並びに識別キット - Google Patents

微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー並びに識別キット Download PDF

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Description

本発明は、微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー並びに識別キットに関するものであり、特に、微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用して微生物の菌株を識別することができる微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー並びに識別キットに関するものである。
近年、薬剤耐性または多剤耐性細菌が数多く出現しており、これら微生物による感染症の発生事例が増加している。このような微生物による食中毒や院内感染等の集団感染の発生が疑われた際には、集団感染か否かを確定するとともに、感染源を同定することが重要となる。この場合、疫学的に微生物の菌株の識別(パターンニング)を行う必要がある。
菌株の識別とは、ある属の微生物の種々の種類を、さらにそれぞれの亜群または亜型に分類することである。この菌株の識別は、疫学的観点から感染の発生を認識し、医療機関における病原菌の伝染経路を探り、そして感染源を検出するために重要である。また、新しい毒性株を同定し、また予防接種計画を監視するためにも有用である。
菌株を識別する方法は、(1)分離したものそれぞれに対して紛らわしくない結果を示す、(2)再現性のある結果を示す、(3)種内の関係の無い株を分別する、の各基準を充たす場合に、好適な手法であると見なされている(非特許文献1参照)。
菌株の識別方法には大きく分けて2つの方法がある。まず、微生物の表現型特徴の分析に基づいた表現型法と呼ばれる手法であり、もう一方が微生物の遺伝子型の特徴に関する分析に基づいた遺伝子型法と呼ばれる手法である。上述の表現型法は、微生物によって発現される表面上の特徴を検出し、識別・分類する手法である。他方、遺伝子型法は分子疫学的手法とも呼ばれ、微生物が保有する核酸の塩基配列の相違を検出し、識別・分類する手法である。上記表現型法は、微生物の遺伝的背景の変化を間接的にしか検出できないという欠点があるが、遺伝子型法を用いる場合、当然ながらこのような問題は生じない。
現在、上述の遺伝子型法を利用し、微生物の菌株を識別する手法として主流となっている技術に、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いる手法がある。この手法は、2つの異なる方向に電気パルスの作用を受けた核酸分子がゲル中において分離することによって行なわれる。電気泳動の後、単離した微生物の核酸分子によって示されるバンドパターンを解析することにより、微生物の菌株を識別できる(例えば、非特許文献2参照)。
上記PFGEを用いた手法は、解像度(識別の精度)が優れている反面、(1)解析にかかる手技が煩雑で熟練を要する、(2)特殊で高価な電気泳動装置を必要とする、(3)解析結果を得るまでに最低でも数日間を要する、(4)異なった検査室間でのデータの共有と比較が難しい、などの欠点がある。このため、これまでに、例えば特許文献1に示すように、上記PFGEを用いた手法について種々の改良法が開発されている。具体的には、特許文献1には、緩衝液、界面活性剤、金属キレート剤及び水素結合を破壊する試薬のみを含む試薬キットにより固定化完全DNAを調製し、パルスフィールドゲル電気泳動用ミニ装置中において、上記完全DNA分子またはその制限フラグメントを分離し、電気泳動パターンのシミュレーション方法により最良条件を選択し、サイズマーカーを使用せずに移動距離を分析する方法によって、イースト、寄生虫及び細菌の迅速な型分類方法が開示されている。しかし、このような技術でも、上記PFGEを利用した識別手法の欠点を本質的に解消するには至っていない。
ところで、特許文献2に示すように、植物を原料に含む加工食品について、原料品種を判定する方法が開発されている。この特許文献2には、植物のゲノム中に存在する転位因子の1つであるレトロトランスポゾンがゲノムの特定部位に挿入されているか否かを核酸増幅により検出し、加工食品中の植物原料の品種を判定する技術が開示されている。
特表2004−513375号公報(公表:平成16(2004)年4月30日) 特開2006−42808号公報(公開:平成18(2006)年2月16日) Clin Infect Dis 17、153−164(1993) J Clin Microbiol 37、1661−1669(1999)
しかしながら、上述したように、特許文献1等のような従来公知のいずれの技術においても、依然として試料を入手してから菌株を識別した結果を得るまでに、煩雑で比較的長時間を要する作業を行う必要があるという問題がある。これは研究や診断の現場において、人的または時間的な効率を低下させる要因の一つとなり得る。
また、上記特許文献2に開示の技術は、加工食品中の植物原料品種を判定する手法であって、微生物の菌株の識別にそのまま利用できるものではない。特に、特許文献2の技術は、植物ゲノムに挿入されたレトロトランスポゾンを判定の指標としているが、このようなレトロトランスポゾンは微生物のゲノムには存在しない。このため、上記特許文献2の技術では、微生物の菌株を高精度に識別して、感染の発生の認識、感染経路の探索、感染源の検出を行うことはできない。
このため、操作や作業が容易であって、かつ微生物の菌株を高精度で識別できる識別方法の開発が強く求められていた。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、操作や作業が容易であって、かつ微生物の菌株を高精度で識別できる微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー並びに識別キットを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、微生物の菌種あるいは菌群のゲノム上に多コピー存在する配列の存在部位やその近傍のゲノム構造に存在する菌株毎のバリエーションを検出し、比較することで、菌株の識別が可能であることを見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)微生物の菌株を識別する微生物の識別方法であって、上記微生物のゲノムに多コピー存在する、移動性の挿入配列を検出する検出工程を含む微生物の識別方法。
(2)上記検出工程は、上記挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーと、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーと、を組み合わせたプライマーセットを用いて、識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析する工程を含む(1)に記載の微生物の識別方法。
(3)上記内部プライマーは、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであり、上記外部プライマーは、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである(2)に記載の微生物の識別方法。
(4)上記プライマーセットは、1種類の内部プライマー、及び複数種類の外部プライマーを備えるものである(2)又は(3)に記載の微生物の識別方法。
(5)上記内部プライマー及び外部プライマーは、核酸増幅反応により得られる増幅産物が全て異なる長さの断片となるように、構成されている(4)に記載の微生物の識別方法。
(6)上記増幅産物の断片長は、50bp〜2000bpである(2)〜(5)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(7)上記微生物は、グラム陰性細菌である(1)〜(6)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(8)上記グラム陰性細菌は、病原性大腸菌である(7)に記載の微生物の識別方法。
(9)上記挿入配列は、IS629、IS1203、及びIS1203vからなる群より選択されるいずれか1つである(1)〜(8)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(10)上記内部プライマーは、配列番号18に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、上記外部プライマーは、配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドである(2)〜(9)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(11)上記内部プライマーは、配列番号39に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、上記外部プライマーは、配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドである(2)〜(9)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(12)上記検出工程は、上記微生物が有する既知の遺伝子を検出する補助検出工程を含む(1)〜(11)のいずれかに記載の微生物の識別方法。
(13)上記微生物が病原性微生物であり、上記遺伝子が、上記病原性微生物が有する、病原因子をコードする遺伝子である(12)に記載の微生物の識別方法。
(14)上記補助検出工程が、上記遺伝子の塩基配列に基づいて設計された複数のプライマーの組み合わせである、補助プライマーセットを用いて、識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析する工程を含む(12)に記載の微生物の識別方法。
(15)上記補助プライマーセットが、配列番号40に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号41に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号42に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号43に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号44に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号45に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、並びに、配列番号46に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号47に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、よりなる群から選ばれる少なくとも一組のオリゴヌクレオチドの組み合わせである(14)に記載の微生物の識別方法。
(16)上記(1)〜(15)のいずれかに記載の微生物の識別方法に用いるプライマーであって、下記(a)又は(b)であるプライマー。
(a)微生物における挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーであって、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー。
(b)上記挿入配列に隣接する、微生物のゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーであって、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー。
(17)上記(a)のプライマーは、配列番号18に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものであり、上記(b)のプライマーは、配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものである(16)に記載のプライマー。
(18)上記(a)のプライマーは、配列番号39に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものであり、上記(b)のプライマーは、配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものである(16)に記載のプライマー。
(19)上記(1)〜(15)のいずれかに記載の微生物の識別方法に使用するための識別キットであって、下記の(a)〜(c)を含む識別キット。
(a)微生物における挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーであって、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー
(b)上記挿入配列に隣接する、微生物のゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーであって、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー
(c)DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、dNTP、核酸含有試料、および緩衝液から選択される少なくとも1つの物質
(20)上記(a)のプライマーは、配列番号18に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものであり、上記(b)のプライマーは、配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものである(19)に記載の識別キット。
(21)上記(a)のプライマーは、配列番号39に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものであり、上記(b)のプライマーは、配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものである(19)に記載の識別キット。
(22)上記微生物が有する既知の遺伝子の塩基配列に基づいて設計された複数のプライマーの組み合わせである、補助プライマーセットをさらに含む(19)に記載の識別キット
(23)上記補助プライマーセットが、配列番号40に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号41に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号42に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号43に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号44に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号45に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、並びに配列番号46に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号47に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、よりなる群から選ばれる少なくとも一組のオリゴヌクレオチドの組み合わせである(22)に記載の識別キット。
本発明に係る微生物の識別方法は、上記構成を有しているゆえに、煩雑な操作や工程が必要なく、簡易に行うことができ、さらに微生物の菌株を高精度で識別できるという効果を奏する。また、本発明では、簡便な電気泳動等により正確な識別ができる。このため、高価な分析機器を必要とせず、低コストで実施できるという効果を奏する。さらに、識別方法の実施に熟練を要しないという効果を奏する。
それゆえ、例えば、病原菌の感染の発生を認識したり、伝染経路を探索したりすることができ、さらに感染源を検出することもできる。また、新しい毒性株を同定したり、また予防接種計画を監視したりするためにも有用である。
なお、本発明に係る識別キットやプライマーを利用することにより、簡便かつ正確に上記微生物の識別方法を実施できる。
<1.微生物の識別方法,プライマー>
本発明に係る微生物の識別方法の一実施形態について説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではないことを念のため付言しておく。
本発明に係る微生物の識別方法は、微生物の菌株を識別する方法であって、上記微生物のゲノムに多コピー存在する、移動性の挿入配列を検出する検出工程を含むものであればよく、その他の工程、材料、条件、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。
上記識別対象となる「微生物」は、様々な微生物・細菌を対象とすることができ、具体的な構成は限定されないが、例えば、グラム陰性細菌を対象とすることが好ましい。なかでも、病原性の細菌を対象とすることが好ましく、特に、病原性大腸菌を対象とすることが好ましく、さらに病原性大腸菌O157を対象とすることが好ましい。
ここで「微生物の菌株を識別する」とは、上述したように、ある属の微生物について、それぞれの亜群または亜型に分類・識別することをいう。
また、「微生物のゲノムに多コピー存在する、移動性の挿入配列」とは、微生物のゲノム上に2以上存在する、類似または相同の核酸配列をいう。多コピーの配列間の相同性については、特に限定するものではないが、80%以上100%以下の相同性が好ましく、より好ましくは90%以上100%以下、さらに好ましくは、95%以上100%以下であればよい。
かかる「移動性の挿入配列」の例としては、挿入配列やリボゾーム遺伝子などが挙げられ、その具体的な構成については、特に限定されるものではない。ただ、菌株ごとのバリエーションと関連する可能性の高い、移動性の挿入配列を用いることがより好ましく、多くのコピー数が存在する挿入配列であれば、なお好ましい。
上記挿入配列の一例として、トランスポゾンを挙げることができる。トランスポゾンは、DNA断片が直接転移するDNA型と、転写と逆転写の過程を経るRNA型があり、後者は特にレトロトランスポゾンと呼ばれる。本発明では、微生物の菌株の識別を目的としているため、レトロトランスポゾンではなく、微生物のゲノム中に存在するDNA型のトランスポゾンを検出対象とすることが特に好ましい。
例えば、識別対象の微生物が病原性大腸菌O157であれば、上記挿入配列としては、IS629を用いることができる。IS629は、ソンネ赤痢菌(Shigella sonnei)において同定された挿入配列である(Nucl Acids Res 18、1899(1990)を参照)。病原性大腸菌O157のゲノム解析の結果、IS629は、病原性大腸菌O157のゲノム上に最も多くのコピー数(約20コピー)が存在する挿入配列であることが知られている(DNA Res 8、47−52(2001)参照)。
また、病原性大腸菌O111において同定されたIS1203(Gene 150、67−70(1994)を参照)、および病原性大腸菌O157において同定されたIS1203v(J Biosci Bioeng 87、93−96(1999)を参照)はIS629と極めて類似した挿入配列である。このため、これらの挿入配列も、上記微生物の識別方法により病原性大腸菌O157を識別する場合、上記IS629と同様の効果を得ることができる。
それゆえ、本発明に係る微生物の識別方法では、上記挿入配列として、IS629、IS1203、又はIS1203vのいずれかを用いて、病原性大腸菌、特にO157を識別することが好ましい。
また、上記検出工程は、例えば、上記挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーと、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーと、を組み合わせたプライマーセットを用いて、識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析する工程により実現できる。このため、上記検出工程は、少なくとも上述の各工程を含むものであればよく、その他の具体的な工程や条件等については特に限定されない。
ここで「挿入配列に隣接するゲノム領域」は、挿入配列の外部近傍に存在する核酸配列とも換言できる。例えば、挿入配列がトランスポゾンである場合を例に挙げて説明すると、通常トランスポゾンはその配列の両末端に逆向きの反復配列を有している。このため、「挿入配列に隣接するゲノム領域」は、当該反復配列の外側(近傍)のゲノム領域となる。なお、「挿入配列に隣接するゲノム領域」は、当該挿入配列の5’側に隣接する領域でも3’側に隣接する領域でもよい。つまり、上記内部プライマー及び外部プライマーは、これらを組み合わせたプライマーセットにより核酸増幅が可能な向きに設計されていればよい。
また、上記「増幅産物」とは、上記核酸増幅反応で得られた1つ、及び/又は、それ以上の増幅核酸断片を意味する。核酸増幅反応を実施する具体的な方法としては、例えば、一方のプライマーの伸長生成物が、その相補体から分離された場合に、他方のプライマーの鋳型となるような核酸増幅方法を用いることができる。つまり、核酸の増幅とは、試料中の核酸から増幅したい核酸(標的核酸)をその固有の配列の相補性を利用して増幅することを指す。
上記核酸増幅方法としては、PCR法、ICAN法、UCAN法、LAMP法、SDA法、又はプライマーエクステンション法などを好適に利用可能であり、特に限定されるものではない。なかでも、一般的に熱安定性の高い酵素を用いるPCR法の使用がより好ましい。
上記核酸増幅反応の鋳型DNAは、検出対象となる微生物から調製したDNAである。微生物からDNAを調製する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いればよい。
また、上記方法において使用するプライマーは、核酸増幅のために一般的に利用される特性を有していればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではなく、必要に応じて修飾されていてもよい。
具体的には、上記内部プライマーは、挿入配列の塩基配列のうち高度に保存されている配列部分に基づいて設計されることが好ましい。高度に保存されている配列部分に基づいて内部プライマーを設計すれば、個々の外部プライマーに対応する内部プライマーを別々に設計する必要がなく、あらかじめ設計した内部プライマーと個々の外部プライマーとの組み合わせによりプライマーセットを構成することが可能となるためである。
また、上記外部プライマーは、挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計すればよいが、当該領域の塩基配列の中で特異性の高い部分の塩基配列に基づいて設計されることが好ましい。配列特異性の高いプライマーが設計できれば、非特異的増幅産物の出現を抑制することができ、結果の判定が正確かつ容易となるからである。
上記内部プライマーは、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであることが好ましい。また、上記外部プライマーは、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであることが好ましい。プライマーにおいて、鋳型DNAと相補的に結合できる塩基の長さが15塩基以上である場合、良好に核酸増幅反応を行うことができるためである。
さらに、上記外部プライマーは、上記挿入配列のいずれか一方の末端から2000bp以内の隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計されることが好ましい。より好ましくは1500bp以内、さらに好ましくは1000bp以内である。上記の数値範囲内であれば、増幅断片の長さをある程度に抑制した状態で核酸増幅反応を行うことができるため、効率的に識別方法を実施できる。
また、本発明に係る微生物の識別方法では、いわゆるMultiplex-PCRを適用することができる。この方法は、内部プライマーを1種類のみ設計し、1つのPCR反応液中に、複数の外部プライマーと1種類の内部プライマーを添加して核酸増幅を行うものである。この方法によれば、1回のPCRにより複数の部位に挿入配列が挿入されているか否かの検出を行うことができる。すなわち、上記プライマーセットは、1種類の内部プライマー、及び複数種類の外部プライマーを備えるものであることが好ましい。
Multiplex-PCRを用いる場合、内部プライマーは1種類とする。そのため、内部プライマーは挿入配列の塩基配列のうち、高度に保存されている配列部分に基づいて設計されることが好ましい。挿入配列の特定の配列がある時期に転移すると、ゲノム中に複製が挿入される。一度挿入された複製は、遺伝的に安定であり、後代に残されていくが、長い期間には、自然突然変異などにより、配列に塩基置換などの変異が発生する。自然突然変異は、確率的な現象であり、発生する配列上の位置や塩基の置換のあり方は、それぞれの配列ごとに機械的に決まるので、複製が作られたときには同じであった配列も、時間の経過に応じて、複製間で次第に異なったものとなる。したがって、同一個体のゲノムに存在する同一種類の挿入配列であっても、全塩基配列が一致するものではない場合がある。なお、内部プライマーと外部プライマーとにより増幅される断片の長さが短くなるように、挿入配列の5’末端または3’末端に近い部分の保存された配列に基づいて内部プライマーを設計することが好ましい。効率的に核酸増幅できるためである。
一方、外部プライマーは、各外部プライマーと上記1種類の内部プライマーを組み合わせたプライマーセットによる増幅産物の長さが異なるように設計することが好ましい。複数のプライマーセットによる増幅産物の長さが類似していると、正確な判定が困難になるためである。例えば、適切な濃度のアガロースゲルを用いて増幅産物を電気泳動したときに、目視によりバンドの位置が異なることを確認できるように各外部プライマーを設計することが好ましい。つまり、上記内部プライマー及び外部プライマーは、核酸増幅反応により得られる増幅産物が全て異なる長さの断片となるように、構成されていることが好ましいといえる。
また、上記増幅産物の断片長は、50bp〜2000bpであることが好ましい。つまり、上記内部プライマーと外部プライマーとの組み合わせによる増幅産物の断片長は50bp〜2000bpであることが好ましい。より好ましくは50bp〜1500bp、さらに好ましくは100bp〜1000bpである。このような範囲内に外部プライマーを設計し、増幅産物の長さをコントロールすれば、より多くの微生物について、効率的に本発明に係る微生物の識別方法を適用することが可能となる。
上記内部プライマー及び外部プライマーの具体例としては、例えば、識別対象の微生物が病原性大腸菌O157である場合、上記内部プライマーは、配列番号18に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、上記外部プライマーは、配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであることが好ましい。上記のプライマーセットを用いることにより、病原性大腸菌O157の菌株を精度よく識別することができる。
また、病原性大腸菌O157の菌株を識別する際の特異性の観点から、外部プライマーは、配列番号1〜17及び19〜22で示される核酸配列のいずれかのうち、少なくとも連続した18塩基以上の配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることが好ましく、さらに好ましくは配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列のポリヌクレオチドからなるものであることがよい。また、外部プライマーは、同時に複数種類を用いることができるが、菌株を識別する際の特異性の観点から、好ましくは5種類以上、より好ましくは10種類以上、なお好ましくは16種類、さらに好ましくは17種類を用いるのがよい。
ここで、上記配列番号18で示される核酸配列は、IS629の内部に存在する配列であり、該配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを内部プライマーとして用いることが好ましい。また、内部プライマーには、菌株を識別する際の特異性の観点から考慮して、配列番号18で示される核酸配列のうち少なくとも連続した18塩基以上の塩基配列を有するポリヌクレオチドからなるものであることが好ましく、さらに好ましくは配列番号18で示される核酸配列を用いるのがよい。
上記内部プライマー及び外部プライマーの他の具体例としては、例えば、識別対象の微生物が病原性大腸菌O157である場合、上記内部プライマーは、配列番号39に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、上記外部プライマーは、配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであることが好ましい。上記のプライマーセットを用いることにより、病原性大腸菌O157の菌株を精度よく識別することができる。
また、病原性大腸菌O157の菌株を識別する際の特異性の観点から、外部プライマーは、配列番号23〜38で示される核酸配列のいずれかのうち、少なくとも連続した18塩基以上の配列からなるポリヌクレオチドを含むものであることが好ましく、さらに好ましくは配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列のポリヌクレオチドからなるものであることがよい。また、外部プライマーは、同時に複数種類を用いることができるが、菌株を識別する際の特異性の観点から、好ましくは5種類以上、より好ましくは10種類以上、さらに好ましくは16種類を用いるのがよい。
ここで、上記配列番号39で示される核酸配列は、IS629の内部に存在する配列であり、該配列のうち少なくとも連続した15塩基よりなる核酸配列を含有するオリゴヌクレオチドを内部プライマーとして用いることが好ましい。また、内部プライマーには、菌株を識別する際の特異性の観点から考慮して、配列番号39で示される核酸配列のうち少なくとも連続した18塩基以上の塩基配列を有するポリヌクレオチドからなるものであることが好ましく、さらに好ましくは配列番号39で示される核酸配列を用いるのがよい。
また、上記増幅産物の有無を確認する方法としては、従来公知の核酸解析法を使用することができ、特に限定されるものではない。例えば、電気泳動やマイクロアレイを挙げることができるが、これに限定されるものではない。本発明の微生物の識別方法は、ある程度の大きさの増幅産物の有無を指標として微生物の菌株を識別するものであることが大きな特徴の1つである。そのため、シーケンサー等の機器を用いて数塩基の違いを検出するような厳密な電気泳動を行う必要がなく、アガロースゲル電気泳動等の簡便な電気泳動でも正確な判定が可能である。したがって、低コストで実施でき、また、判定や機器の操作に熟練を要しないという利点がある。
好ましい手法の一例としては、(i)アガロースゲル電気泳動、(ii)マイクロアレイなどを挙げて以下に説明する。
(i)「アガロースゲル電気泳動」を使用する場合は、内部プライマーと外部プライマーとのプライマーセットによる核酸増幅反応により、微生物のゲノム上で多コピー存在する核酸配列が位置する領域ごとに異なる鎖長の増幅核酸断片が生成されるように各プライマーを設計することが好ましい。これらのプライマーを混合して核酸を増幅することにより、菌株ごとのゲノム上に多コピー存在する核酸配列の存在部位とその周辺の構造のバリエーションに応じて、それぞれ異なる鎖長の核酸断片が増幅され、そのパターンはアガロースゲル電気泳動により迅速に判別できる。
また、(ii)「マイクロアレイ」を使用する場合は、以下のように行う。まず、微生物のゲノム上に多コピー存在する挿入配列の末端領域(境界領域)のオリゴヌクレオチドと、当該配列周辺のゲノムの核酸配列に対応するオリゴヌクレオチドとを、従来公知の方法でアレイに搭載することにより、識別用マイクロアレイを作製する。この識別用マイクロアレイを用いることにより、菌株ごとのゲノム上に多コピー存在する挿入配列が存在する部位と、その周辺領域との構造のバリエーションに応じて、それぞれ異なったシグナルが検出される。このため、シグナルの違いに基づき菌株を識別することができる。なお、シグナルの特異性を高めるために、上記オリゴヌクレオチドの鎖長については、5〜100塩基がより好ましく、20〜60塩基がさらに好ましい。このようなマイクロアレイを用いる手法によれば、1塩基または数塩基程度の小さな欠失や挿入も検出できるため、高い解像度を得ることが可能である。
次に、本発明に係る微生物の識別方法を実施する場合の一例を、図1を用いて具体的に説明する。図1には、3つの多コピー配列A,配列B,配列Cを有する微生物のゲノムを示されている。「多コピー配列」は、それぞれ微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を示し、その存在位置により多コピー配列A、多コピー配列B、多コピー配列Cと表記する。
また、「内部プライマー」は微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列の内部に存在する核酸配列を含有するプライマーを示し、「外部プライマー」は微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列の外部近傍に存在する核酸配列を含有するプライマーを示す。
上記3つの多コピー配列は、上述したようにそれぞれ配列が同一か又は相同性が高いものである。このため、上記内部プライマーは1種類でよい。一方、外部プライマーは、図1に示すように、多コピー配列の存在位置により外部プライマーA、外部プライマーB、外部プライマーCをそれぞれ設定する。具体的には、多コピー配列A〜Cにおいて、それぞれ多コピー配列の末端側から異なる距離に位置するゲノム配列に基づき、外部プライマーA〜Cを設計する。
このように設計した内部プライマーと外部プライマーA〜Cをプライマーセットとして用いて核酸増幅反応を行う場合、図1に示すように、3種類の増幅産物A〜Cが得られる。これら増幅産物A〜Cは、それぞれ断片長が異なるものとなる。つまり、上記内部プライマーと外部プライマーは、異なる断片長の増幅産物が得られるように設計されることが好ましいといえる。
上記の基本原理を用いて、複数の微生物の菌株をそれぞれ識別するための具体的な方法の一例を図2に示す。図2には、本発明の微生物の識別方法の一例として、増幅核酸断片の解析方法としてアガロースゲル電気泳動を用いる場合を説明している。なお、図2において、「多コピー配列」、「内部プライマー」、「外部プライマー」など用語の意味は図1と同様である。
図2には、ゲノム上に多コピー配列A,多コピー配列Cを有する菌株1と、ゲノム上に多コピー配列A,多コピー配列B,多コピー配列Cを有する菌株2とを示し、これらを識別する場合を説明する。なお、上記菌株1,2は同じ属の微生物であり、ゲノムDNAの配列は同一である。
上述の図1の基本原理に基づき、内部プライマーと外部プライマーA〜Cを設計し、菌株1,2のそれぞれのゲノムDNAを鋳型として核酸増幅反応を行う。その結果、菌株1のゲノムには、多コピー配列A,Cのみ存在するため、菌株1由来の増幅産物は、増幅産物A,Cの2つの断片となる。一方、菌株2のゲノムには、多コピー配列A,B,Cが存在するため、菌株2由来の増幅産物は、増幅産物A,B,Cの3つの断片となる。
ここで、あらかじめ増幅産物A、B、Cの鎖長が異なるように外部プライマーを設定してあるため、アガロースゲル電気泳動の結果、生成した増幅産物の鎖長より、試料とした菌株のゲノム上に存在する多コピー配列の位置が判明する。つまり、これら菌株1,2の増幅産物は、図2に示すように、電気泳動等にて簡易に解析することができる。このように、微生物のゲノム上に存在する多コピー配列を指標とすることにより、操作も簡易で、かつ高精度で微生物の菌株を識別することができる。
上述の説明では、増幅産物に含まれる増幅断片の長さがそれぞれ異なるようにプライマーセットを設計したが、この手法に限られるものではなく、使用する解析方法によっては、その他にも適宜変更可能である。
また、本発明に係る微生物の識別方法では、識別対象の微生物が有する既知の遺伝子を検出する補助検出工程を含むことが好ましい。微生物を菌株毎に識別した上で、さらに各菌株が当該遺伝子を有するものであるか否かを識別することができる。補助検出工程では、例えば、識別対象の微生物を病原性微生物として、当該病原性微生物が有する病原因子をコードする遺伝子を検出してもよい。病原性微生物を菌株毎に識別でき、さらにそれぞれの菌株が病原因子をコードする遺伝子を有するか否かについても識別することができる。なお、本明細書において「病原因子」とは、病気の原因となる因子を意図し、具体的には、病気の原因となるタンパク質、ペプチド等を意図する。
上記遺伝子の検出は、当該遺伝子の塩基配列に基づいて設計されたプライマーを用いて、識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析することで行ってもよい。以下、上記既知の遺伝子を検出するために補助検出工程で用いるプライマーを「補助プライマー」と表記し、複数の補助プライマーの組み合わせを「補助プライマーセット」と表記する。ここで「複数」とは、つまり補助プライマーセットに含まれる補助プライマーの数は、核酸増幅方法の種類に応じて適宜設定すればよい。例えば核酸増幅方法としてPCRを用いる場合は、正鎖側の補助プライマー及び逆鎖側の補助プライマーの2つの補助プライマーを含む補助プライマーセットであればよい。
この補助検出工程は、上述の内部プライマー及び外部プライマーを用いた核酸増幅方法と同時に行うことができる。つまり核酸増幅反応液に、内部プライマー、外部プライマー及び補助プライマーを含有させて核酸増幅反応を行うことができる。
補助プライマーとしては、特に限定されるものではない。例えば本発明者らは、大腸菌のeae遺伝子、hlyA遺伝子、stx1遺伝子、stx2遺伝子を増幅可能な補助プライマーセットを用いた。具体的には、それぞれの遺伝子を増幅するプライマーセットとして、配列番号40に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号41に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号42に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号43に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号44に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号45に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせ、配列番号46に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド及び配列番号47に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドの組み合わせを用いた。これらの遺伝子を増幅するためのプライマーの配列はこれに限定されず、配列番号40〜47に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなるものであってもよい。
また、本発明に係る微生物の識別方法では、結果のデータを、容易にデジタル化(例えば、バーコードのような形等)できる。このため、異なった検査室間でのデータの共有と比較も容易であり、地域や国あるいは国際的な広域データベースの構築も可能であるという利点もある。
なお、ここまで、主として微生物の識別方法について説明してきたが、本発明には、上記微生物の識別方法に用いられる各種プライマーも含まれる。つまり、本発明には、上述した内部プライマー及び/又は外部プライマーが含まれることはいうまでもない。
<2.識別キット>
本発明には、上記<1>欄にて説明した微生物の識別方法に使用するための識別キットが含まれる。本識別キットは、上記微生物の識別方法に用いられるものであればよく、特に、下記の(a)〜(c)を含むことが好ましい
(a)微生物における挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーであって、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー
(b)上記挿入配列に隣接する、微生物のゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーであって、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドからなるプライマー
(c)DNAポリメラーゼ、dNTP、核酸含有試料、および緩衝液から選択される少なくとも1つの物質
上記(a)又は(b)のプライマーは、配列番号1〜39のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドからなることが好ましい。本プライマーは、例えば、1〜4000nMを含むことが好ましい。なかでも特異性を高めるために、内部プライマーについては、50〜500nM程度がより好ましく、100nM程度がさらに好ましい。また、増幅量および特異性を高めるために、外部プライマーについては、500〜1500nM程度がより好ましく、900nM程度がさらに好ましい。また、本発明の識別キットは、上述の補助プライマーセットを含んでいてもよい。例えば、上記微生物が病原性微生物であるとき、上記病原性微生物が有する病原因子をコードする遺伝子の塩基配列に基づいて設計された、補助プライマーセットを含んでいてもよい。
また、本発明の識別キットに含まれる(c)の物質群の一例としては、DNAポリメラーゼ活性を有する酵素、dNTP、緩衝液(反応用バッファー等)、核酸含有試料などが挙げられる。
上記「DNAポリメラーゼ活性を有する酵素」としては、T4またはT7ファージ、大腸菌、サーモコッカス(Thermococcus)属、サーマス(Thermus)属、パイロコッカス(Pyrococcus)属、バシラス(Bacillus)属など種々の起源のDNAポリメラーゼおよびその改良変異体を特に限定されることなく使用できる。なかでも、核酸の増幅方法としてPCR法を使用する場合はKOD DNAポリメラーゼ、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼなど熱安定性の酵素を使用することが好ましい。さらにKOD DNAポリメラーゼまたは該酵素を改良したDNAポリメラーゼは、増幅量および反応速度の観点からより好ましい。使用量の目安としては、具体的には、KOD Dash DNAポリメラーゼの場合は1〜200単位/ml程度の使用が好ましく、10〜100単位/ml程度の使用がより好ましい。
上記「dNTP」は、50〜1000μM程度を含むことが好ましく、100〜700μM程度がより好ましく、200〜400μM程度がさらに好ましい。
「緩衝液」については、本発明の微生物の識別方法を用いて微生物の菌株を識別するために、使用する酵素の能力を最大限に発揮することを目的として、緩衝液や金属塩の濃度、溶液のpHなどが適宜選択され得る。また、酵素の安定性を高める目的で、該試薬にウシ血清アルブミンなどの添加剤を適宜混合してもよい。
「核酸含有試料」は、例えば、バクテリア、動物または植物組織、個体細胞由来の溶解物などのあらゆる材料から調製することができる。また、核酸は試料中に溶解させてもよいし、固相に固定させてもよい。これは、識別結果の標準化(いわゆるポジティブコントロール)のために用いることができるためである。
さらに、上述した以外にも、本発明に係る識別キットには、各種様々な試薬や器具等を含んでいてもよい。例えば、識別対象とするDNAを抽出・精製するために用いる試薬・器具、核酸増幅反応に用いる試薬・器具、緩衝液、電気泳動に用いる試薬・器具等を挙げることができる。
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下に、識別の対象となる微生物として、病原性大腸菌O157を、微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列としてIS629を、DNAポリメラーゼ活性を有する酵素としてKOD Dash(東洋紡績製)を、内部プライマー(挿入配列IS629の内部に存在する核酸配列を含有するプライマー)として配列番号18に記載の核酸配列を、外部プライマーとして配列番号1〜17に記載の核酸配列を、それぞれ用いた実施例を実施例1に示す。また、実施例2では、内部プライマーとして配列番号1〜4、6〜9、11〜13、15、19〜22、外部プライマーとして配列番号18、補助プライマーとして配列番号40〜43に示される核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた場合について示す。実施例3では、内部プライマーとして配列番号23〜38、外部プライマーとして配列番号39、補助プライマーとして配列番号44〜47に示される核酸配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた場合について示す。なお、本発明の特徴の1つは、微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用して微生物の菌株を識別することにある。したがって、以下に開示する例において構成成分の一部、すなわち微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列および増幅に用いる酵素の変更または該変更に合わせた試薬組成の改良および解析法の変更などは、当業者にとって容易であり、以下の事例は、本発明の内容を何ら限定するものではない。
〔実施例1:病原性大腸菌O157菌株の識別〕
(1)試料の調製
下記表1におけるサンプル番号1〜24の病原性大腸菌O157菌株について核酸(DNA)を抽出し、それぞれ試料とした。なお、サンプル番号1〜24の病原性大腸菌O157菌株についてパルスフィールドゲル電気泳動による識別を行った場合は、表1における(1)〜(18)の18種類のPFGE型に分類される。
(2)プライマーの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜18に示される核酸配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜18と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、シグマアルドリッチジャパン(株)、オペロンバイオテクノロジー(株)など)に依頼した。配列番号18に記載のプライマーが内部プライマーであり、外部プライマーである配列番号1〜17に記載のプライマーとそれぞれ組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用した。
(3)試料に含まれる核酸の増幅
上記表1におけるサンプル番号1〜24の核酸について、それぞれ20ngを試料(鋳型DNA)とし、挿入配列IS629を微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列とする増幅反応を行った。反応液組成は、熱安定性DNAポリメラーゼKOD Dash(東洋紡績製)50単位/ml、配列番号1〜15にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド100nM、配列番号16および17にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド300nM、配列番号18に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド900nM、dATPおよびdGTPおよびdCTPおよびdTTPを各0.2mM、および1倍濃度の増幅用緩衝液(東洋紡績製)を用いた。
また、実際の使用にあたっては、上記反応液に対して微生物の核酸試料(溶液)を添加し、反応液量を25μlとして、以下の反応に供した。反応条件は以下の通りである。
〔反応条件〕
・熱変性 :96℃、20秒
・アニーリング:64℃、30秒
・伸長反応 :68℃、1分
上記熱変性、アニーリング、伸長反応は35回繰り返した。これらの操作はパーキンエルマー社のDNAサーマルサイクラー(GeneAmp9700)を用いて行った。増幅反応後の反応液5μlを3%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した。その後、紫外線照射下での蛍光を検出した。アガロース電気泳動で得られた写真を図3に示す。なお、図3のレーン番号は表1のサンプル番号に対応する。電気泳動の条件は、定電圧100V、60分間にて行った。反応液の他に分子量マーカーも同時に泳動し、検出されたDNA断片の鎖長を比較する際の参考とした。
(4)結果
図3のサンプル番号1〜24より明らかなように、本発明の微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した微生物の識別方法によれば、24株の病原性大腸菌O157菌株を18種類に分類することが可能である。また、この図3の結果は、上記表1に示しているパルスフィールドゲル電気泳動と一致することがわかった。このことは、本発明に係る微生物の識別方法は、微生物の菌株の識別法として現在主流であるが解析にかかる手技が煩雑で熟練を要するなどの欠点を有するパルスフィールドゲル電気泳動を用いた識別方法と、同程度の高精度を有することがわかる。
〔実施例2:病原性大腸菌O157菌株の識別〕
(1)試料の調製
下記表2におけるサンプル番号25〜31の病原性大腸菌O157菌株について核酸(DNA)を抽出し、それぞれ試料とした。なお、サンプル番号25〜31の病原性大腸菌O157菌株についてパルスフィールドゲル電気泳動による識別を行った場合は、表2における(19)〜(25)の7種類のPFGE型に分類される。
(2)プライマーの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜4、6〜9、11〜13、15、18〜22、40〜43に示される核酸配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜4、6〜9、11〜13、15、18〜22、40〜43と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、シグマアルドリッチジャパン(株)、オペロンバイオテクノロジー(株)など)に依頼した。配列番号18に記載のプライマーが内部プライマーであり、外部プライマーである配列番号1〜4、6〜9、11〜13、15、19〜22に記載のプライマーとそれぞれ組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用した。また、配列番号40〜43に記載のプライマーは、上述の補助プライマーとして使用するものであり、大腸菌が保有する病原性因子を検出することができるプライマーである。具体的には、配列番号40に記載のプライマー及び配列番号41に記載のプライマーのプライマーセットは、病原性大腸菌O157が保有するeae遺伝子を増幅するためのプライマーセットであり、配列番号42に記載のプライマー及び配列番号43に記載のプライマーのプライマーセットは、病原性大腸菌O157が保有するhlyA遺伝子を増幅するためのプライマーセットである。
(3)試料に含まれる核酸の増幅
上記表2におけるサンプル番号25〜31の核酸について、それぞれ20ngを試料(鋳型DNA)とし、挿入配列IS629を微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列とする増幅反応を行った。反応液組成は、熱安定性DNAポリメラーゼKOD Dash(東洋紡績製)50単位/ml、配列番号1〜4、6〜9、11〜13、15、19〜22にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド100nM、配列番号40〜43にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド300nM、配列番号18に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド900nM、dATPおよびdGTPおよびdCTPおよびdTTPを各0.2mM、および1倍濃度の増幅用緩衝液(東洋紡績製)を用いた。
また、実際の使用にあたっては、上記反応液に対して微生物の核酸試料(溶液)を添加し、反応液量を25μlとして、以下の反応に供した。反応条件は以下の通りである。
〔反応条件〕
・熱変性 :96℃、20秒
・アニーリング:64℃、30秒
・伸長反応 :68℃、1分
上記熱変性、アニーリング、伸長反応は20回繰り返した。これらの操作はパーキンエルマー社のDNAサーマルサイクラー(GeneAmp9700)を用いて行った。増幅反応後の反応液5μlを3%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した。その後、紫外線照射下での蛍光を検出した。アガロース電気泳動で得られた写真を図4に示す。なお、図4のレーン番号は表2のサンプル番号に対応する。電気泳動の条件は、定電圧100V、60分間にて行った。反応液の他に分子量マーカーも同時に泳動し、検出されたDNA断片の鎖長を比較する際の参考とした。
(4)結果
図4のサンプル番号25〜31より明らかなように、本発明の微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した微生物の識別方法によれば、7株の病原性大腸菌O157菌株を7種類に分類することが可能である。また、この図4の結果は、上記表2に示しているパルスフィールドゲル電気泳動と一致することがわかった。このことは、本発明に係る微生物の識別方法は、微生物の菌株の識別法として現在主流であるが解析にかかる手技が煩雑で熟練を要するなどの欠点を有するパルスフィールドゲル電気泳動を用いた識別方法と、同程度の高精度を有することがわかる。
また、185bp付近にバンドが確認されたサンプルは、eae遺伝子を有するサンプルであることを示しており、137bp付近にバンドが確認されたサンプルは、hlyA遺伝子を有するサンプルであることを示している。このように補助プライマーセットを用いることで、当該菌株がeae遺伝子等の病原因子を有するか否かについても識別できた。
〔実施例3:病原性大腸菌O157菌株の識別〕
(1)試料の調製
実施例2と同様に、上記表2におけるサンプル番号25〜31の病原性大腸菌O157菌株について核酸(DNA)を抽出し、それぞれ試料とした。
(2)プライマーの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号23〜39、44〜47に示される核酸配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ23〜39、44〜47と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、シグマアルドリッチジャパン(株)、オペロンバイオテクノロジー(株)など)に依頼した。配列番号39に記載のプライマーが内部プライマーであり、外部プライマーである配列番号23〜38に記載のプライマーとそれぞれ組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用した。また、配列番号44〜47に記載のプライマーは、上述の補助プライマーとして使用するものであり、大腸菌が保有する病原性因子を検出することができるプライマーである。具体的には、配列番号44に記載のプライマー及び配列番号45に記載のプライマーのプライマーセットは、病原性大腸菌O157が保有するstx1遺伝子を増幅するためのプライマーセットであり、配列番号46に記載のプライマー及び配列番号47に記載のプライマーのプライマーセットは、病原性大腸菌O157が保有するstx2遺伝子を増幅するためのプライマーセットである。
(3)試料に含まれる核酸の増幅
上記表2におけるサンプル番号25〜31の核酸について、それぞれ20ngを試料(鋳型DNA)とし、挿入配列IS629を微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列とする増幅反応を行った。反応液組成は、熱安定性DNAポリメラーゼKOD Dash(東洋紡績製)50単位/ml、配列番号23〜38にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド100nM、配列番号44〜47にそれぞれ示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド300nM、配列番号39に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチド900nM、dATPおよびdGTPおよびdCTPおよびdTTPを各0.2mM、および1倍濃度の増幅用緩衝液(東洋紡績製)を用いた。
また、実際の使用にあたっては、上記反応液に対して微生物の核酸試料(溶液)を添加し、反応液量を25μlとして、以下の反応に供した。反応条件は以下の通りである。
〔反応条件〕
・熱変性 :96℃、20秒
・アニーリング:64℃、30秒
・伸長反応 :68℃、1分
上記熱変性、アニーリング、伸長反応は20回繰り返した。これらの操作はパーキンエルマー社のDNAサーマルサイクラー(GeneAmp9700)を用いて行った。増幅反応後の反応液5μlを3%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した。その後、紫外線照射下での蛍光を検出した。アガロース電気泳動で得られた写真を図5に示す。なお、図5のレーン番号は表2のサンプル番号に対応する。電気泳動の条件は、定電圧100V、60分間にて行った。反応液の他に分子量マーカーも同時に泳動し、検出されたDNA断片の鎖長を比較する際の参考とした。
(4)結果
図5のサンプル番号25〜31より明らかなように、本発明の微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した微生物の識別方法によれば、7株の病原性大腸菌O157菌株を7種類に分類することが可能である。また、この図5の結果は、上記表2に示しているパルスフィールドゲル電気泳動と一致することがわかった。このことは、本発明に係る微生物の識別方法は、微生物の菌株の識別法として現在主流であるが解析にかかる手技が煩雑で熟練を要するなどの欠点を有するパルスフィールドゲル電気泳動を用いた識別方法と、同程度の高精度を有することがわかる。
また、151bp付近にバンドが確認されたサンプルは、stx1遺伝子を有するサンプルであることを示しており、181bp付近にバンドが確認されたサンプルは、stx2遺伝子を有するサンプルであることを示している。このように補助プライマーセットを用いることで、当該菌株がstx1遺伝子等の病原因子を有するか否かについても識別できた。
以上の実施例に示したように、本発明の微生物の識別方法は、従来の方法と同様の識別解像度を実現しながら、解析に必要な作業工程数を大幅に短縮することが可能である。また、該工程数の短縮は単に手間が軽減されるだけでなく、特殊な技術を必要としないため誰でも実施可能、特殊な設備が不要であり低コストである、など汎用性が高い点も重要な効果である。
本発明によれば、微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用することで簡便かつ短時間で、微生物の菌株を識別することが可能となる。このため、医療用途、食品用途等の各種検査において、広く産業上の利用が可能である。また、データをデジタル化できるため、異なる検査室間でのデータの共有が容易であり、広域データベースの構築も容易であることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。
本発明の微生物の識別方法において、微生物のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用して細菌を識別する方法の一例を模式的に示す図である。 本発明の微生物の識別方法において、増幅核酸断片の解析方法の一例としてアガロースゲル電気泳動を用いる場合について模式的に示す図である。 本発明の実施例において、病原性大腸菌O157菌株より抽出した核酸について、本発明の細菌のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した方法で細菌を識別した結果を示す図である。 本発明の実施例において、病原性大腸菌O157菌株より抽出した核酸について、本発明の細菌のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した方法で細菌を識別した結果を示す図である。 本発明の実施例において、病原性大腸菌O157菌株より抽出した核酸について、本発明の細菌のゲノム上に多コピー存在する核酸配列を利用した方法で細菌を識別した結果を示す図である。

Claims (13)

  1. 微生物の菌株を識別する微生物の識別方法であって、
    上記微生物のゲノムに多コピー存在する、移動性の挿入配列を検出する検出工程を含み、
    上記検出工程は、
    上記挿入配列の塩基配列に基づいて設計される内部プライマーと、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列に基づいて設計される外部プライマーと、を組み合わせたプライマーセットを用いて、
    識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析する工程を含み、
    上記プライマーセットは、1種類の内部プライマー、及び複数種類の外部プライマーを備えるものであることを特徴とする微生物の識別方法。
  2. 上記内部プライマーは、上記挿入配列の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基からなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであり、
    上記外部プライマーは、上記挿入配列に隣接するゲノム領域の塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1に記載の微生物の識別方法。
  3. 上記内部プライマー及び外部プライマーは、核酸増幅反応により得られる増幅産物が全て異なる長さの断片となるように、構成されていることを特徴とする請求項1に記載の微生物の識別方法。
  4. 上記増幅産物の断片長は、50bp〜2000bpであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  5. 上記微生物は、グラム陰性細菌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  6. 上記グラム陰性細菌は、病原性大腸菌であることを特徴とする請求項5に記載の微生物の識別方法。
  7. 上記挿入配列は、IS629、IS1203、及びIS1203vからなる群より選択されるいずれか1つであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  8. 上記内部プライマーは、配列番号18に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
    上記外部プライマーは、配列番号1〜17及び19〜22のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  9. 上記内部プライマーは、配列番号39に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであり、
    上記外部プライマーは、配列番号23〜38のいずれかに示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  10. 上記検出工程は、
    上記微生物が有する既知の遺伝子を検出する補助検出工程を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の微生物の識別方法。
  11. 上記微生物が病原性微生物であり、
    上記遺伝子が、上記病原性微生物が有する、病原因子をコードする遺伝子であることを特徴とする請求項10に記載の微生物の識別方法。
  12. 上記補助検出工程が、
    上記遺伝子の塩基配列に基づいて設計された複数のプライマーの組み合わせである、補助プライマーセットを用いて、識別対象の微生物から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、当該増幅産物を解析する工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の微生物の識別方法。
  13. 上記補助プライマーセットが、
    配列番号40に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号41に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、
    配列番号42に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号43に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、
    配列番号44に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号45に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、並びに
    配列番号46に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチド及び配列番号47に示される塩基配列または該配列に相補的な塩基配列のうち、少なくとも連続した15塩基よりなる塩基配列を含有するオリゴヌクレオチドの組み合わせ、
    よりなる群から選ばれる少なくとも一組のオリゴヌクレオチドの組み合わせであることを特徴とする請求項12に記載の微生物の識別方法。
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