以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
[態様1]
N−アセチル−D−ガラクトサミンをN−アセチル−D−グルコサミンにβ1,3結合で転移するβ1,3−N−アセチル−D−ガラクトサミン転移酵素タンパク質。
[態様2]
下記の性質(a)−(c):
(a)受容体基質の特異性
オリゴ糖を受容体基質とする場合、Bz-β-GlcNAc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz、Gal-β1-3-(GlcNAc-β1-6) GalNAc-α-pNp、GlcNAc-β1-3-GalNAc-α-pNp、及びGlcNAc-β1-6-GalNAc-α-pNpへの転移活性を示す(「GlcNAc」はN−アセチル−D−グルコサミン残基を示し、「GalNAc」はN−アセチル−D−ガラクトサミン残基を示し、「Bz」はベンジル基を示し、「pNp」はパラニトロフェニル基を示し、「−」はグリコシド結合を示す。式
中の数字はグリコシド結合が存在する糖環の炭素番号を示し、「α」及び「β」は糖環1位のグリコシド結合のアノマーを示し、5位CH2OH又はCH3との位置関係がトランスのものを「α」、シスのものを「β」で示す);
(b)反応pH
pH6.2〜6.6の領域での活性が、他のpH領域での活性と比較して低い;又は、(c)二価イオンの要求性
前記活性は、少なくともMn2+、Co2+、又はMg2+の存在下で増強されるが、Mn2+による活性の増強はCu+との共存下でほぼ完全に消失する;
の少なくとも一つを有する、態様1に記載の糖転移酵素タンパク質。
[態様3]
下記(A)又は(B)のポリペプチドを含む糖転移酵素タンパク質
(A)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド;又は
(B)配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、又は挿入したアミノ酸配列を有し、且つN−アセチル−D−ガラクトサミンをN−アセチル−D−グルコサミンにβ1,3結合で転移するポリペプチド。
[態様4]
前記(A)のポリペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸番号189〜500のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる、態様3に記載の糖転移酵素タンパク質。
[態様5]
前記(A)のポリペプチドが、配列番号2に記載のアミノ酸番号36〜500のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる、態様3に記載の糖転移酵素タンパク質。
[態様6]
配列番号2に記載のアミノ酸番号189〜500又は配列番号4に記載のアミノ酸番号35〜504のアミノ酸配列と少なくとも30%を超える同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる、態様3に記載の糖転移酵素タンパク質。
[態様7]
態様3〜6のいずれか1に記載のポリペプチドをコードする塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸。
[態様8]
配列番号1又は3に記載の塩基配列又は、少なくともその何れかに相補的な塩基配列からなる、態様7に記載の核酸。
[態様9]
配列番号1に記載の塩基番号565〜1503の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる、態様7に記載の核酸。
[態様10]
配列番号1に記載の塩基番号106〜1503の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる、態様7に記載の核酸。
[態様11]
配列番号3に記載の塩基番号103〜1512の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる、態様7に記載の核酸。
[態様12]
DNAであることを特徴とする、態様7〜11のいずれか1に記載の核酸。
[態様13]
態様7〜12のいずれか1に記載の核酸を含むベクター。
[態様14]
態様13に記載のベクターを含む形質転換体。
[態様15]
β1,3−N−アセチル−D−ガラクトサミン転移酵素タンパク質の製造方法であって、態様14に記載の形質転換体を生育させ、前記糖転移酵素タンパク質を発現させ、該形質転換体から該糖転移酵素タンパク質を回収することを含む製造方法。
[態様16]
態様1〜6のいずれか1に記載のβ1,3−N−アセチル−D−ガラクトサミン転移酵素タンパク質を認識する抗体。
(1)本発明のG34酵素タンパク質をコードする核酸
本発明者等は、上述の発見に基づき、該核酸にコードされているG34酵素タンパク質を発現させ、これを単離及び精製し、さらにその酵素活性を特定した。ここで、目的の酵素活性を有するアミノ酸配列が特定されたという事実に着目すれば、配列番号1又は3の塩基配列は、当該酵素活性を有する単離ポリペプチドをコードする核酸の一態様である。すなわち、本発明の核酸には、有限数ではあるが、当該G34酵素タンパク質のアミノ酸配列へ縮重するような、該同一のアミノ酸配列をコードし得るあらゆる核酸が含まれる。
また、本発明は、上記のような新規なアミノ酸配列からなるポリペプチド全長またはその断片をコードする核酸を提供する。そのような新規ポリペプチドをコードする典型的な核酸は、配列番号1又は3に記載の塩基配列又は少なくともその何れか一方に相補的な塩基配列を有する。
また、本発明の核酸は、一本鎖及び二本鎖型両方のDNA、及びそのRNA相補体も含む。DNAには、例えば、天然由来のDNA、組換えDNA、化学結合したDNA、PCRによって増幅されたDNA、及びそれらの組み合わせが含まれる。但し、ベクターや形質転換体の調製時に安定であるとの観点から、DNAであることが好ましい。
本発明の核酸は、例えば以下の方法により調製することができる。
まず、GenBank No.AX285201の公知配列又はその一部を利用し、ハイブリダイゼーションや核酸増幅反応等の遺伝子工学の基本的手法を用いてcDNAライブラリーから常法に従って核酸増幅反応を行い、これにより本発明の核酸をクローニングすることができる。その核酸は、例えば、PCR産物として約1.5kbpのDNA断片が得られるので、これを例えばアガロースゲル電気泳動等の分子量によりDNA断片を篩い分ける方法で分離し、特定のバンドを切り出す方法等の常法に従って単離することができる。
また、単離された核酸の推測アミノ酸配列(配列番号2又は4)によれば、N末端に疎水性膜貫通領域を有すると予測されるので、この膜貫通領域を有しないポリペプチドをコードする塩基配列の領域を調製することにより、可溶化形態のポリペプチドをコードする本発明の核酸も得ることができる。
本願に開示された核酸の塩基配列に基づき、当業者であれば目的の核酸又は調製すべきその一領域の、両端に位置する塩基配列を基に適宜プライマーを作成し、それを用いた核酸増幅反応によって目的の領域を増幅して調製することが容易である。
上記核酸増幅反応には、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Saiki R.K., et al., Science, 230, 1350-1354 (1985)]、ライゲース連鎖反応(LCR)[Wu D. Y., et al., Genomics, 4, 560-569 (1989); Barringer K. J., et al., Gene, 89, 117-122 (1990); Barany F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 189-193 (1991)]及び転写に基づく増幅[Kwoh D. Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 1173-1177 (1989)]等の温度循環を必要とする反応、並びに鎖置換反応(SDA)[Walker G. T., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 392-396 (1992); Walker G. T., et al., Nuc. Acids Res., 20, 1691-1696 (1992)]、自己保持配列複製(3SR)[Guatelli J. C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 1874-1878 (1990)]およびQβレプリカーゼシステム[リザイルディら、BioTechnology 6, p.1197-1202 (1988)]等の恒温反応が含まれる。また、欧州特許第0525882号に記載されている標的核酸と変異配列の競合増幅による核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification: NASABA)反応等も利用可能である。好ましくはPCR法である。
本発明の核酸を利用することによって、後述のように目的の酵素タンパク質を発現させることもできるし、医学研究又は遺伝子治療等の目的でプローブやアンチセンスプライマーを提供することもできる。
また当業者であれば、配列番号1又は3の塩基配列と一定の相同性を有する塩基配列からなる核酸を調製することにより、配列番号1又は3の配列と同等に有用な核酸を取得できる。例えば、本発明の相同な核酸には、配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列に対して相同性を有し、且つN−アセチル−D−ガラクトサミンをN−アセチル−D−グルコサミンにβ1,3結合で転移する活性を有するタンパク質をコードする核酸が含まれ得る。
本発明のそのような相同タンパク質をコードする核酸の範囲を特定するに当たり、本発明の配列番号1又は3に記載の核酸配列について同一性検索を行うと、該核酸酸配列は、最もホモロジーの高い公知のβ1,4GalNAc転移酵素(上記非特許文献1)の核酸配列とは40%の同一性を有し、また最もホモロジーの高い公知のβ1,3Gal転移酵素の核酸配列とも40%の同一性を有する(上記非特許文献2)。これらの観点から、本発明の相同タンパク質をコードする好適な核酸配列は、典型的には配列番号1又は3中の全塩基配列、好ましくは配列番号1の塩基番号106〜1503からなる部分塩基配列、好ましくは配列番号3の塩基番号103〜1512からなる部分塩基配列、又はそれらに相補的な塩基配列のいずれかに対し、40%を超える同一性、より好ましくは少なくとも50%の同一性、特に好ましくは少なくとも60%の同一性を有する。
また、配列番号1と配列番号3とに記載の塩基配列同士では86%の同一性を有する。この観点から、本発明の相同タンパク質をコードする好適な核酸配列は、配列番号1中の全塩基配列、好ましくは塩基番号106〜1503、又はそれらに相補的な塩基配列のいずれかに対し、少なくとも86%、好ましくは90%の同一性を有すると定義することもできる。
上記の同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。あるいは、2つの核酸配列の同一性パーセントは、Devereuxら,Nucl. Acids Res. 12: 387, 1984に記載され、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラム、バージョン6.0を用いて、配列情報を比較することによって、決定可能である。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドに関する単一(unary)比較マトリックス(同一に対し1および非同一に対し0の値を含む)、並びにSchwartz及びDayhoff監修,Atlas of Protein Sequence and Structure, pp.353-358, National Biomedical Research Foundation, 1979に記載されるような、Gribskov及びBurgess, Nucl. Acids Res. 14: 6745, 1986の加重比較マトリックス;(2)各ギャップに対する3.0のペナルティおよび各ギャップ中の各記号に対しさらに0.10のペナルティ;及び(3)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、使用可能である。
また、本発明の構造遺伝子として相同な他の核酸には、典型的には配列番号1又は3中の塩基配列、好ましくは配列番号1の塩基番号106〜1503からなる塩基配列、好ましくは配列番号3の塩基番号103〜1512からなる塩基配列、又はそれらに相補的な塩基配列からなるヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つN−アセチル−D−ガラクトサミンをN−アセチル−D−グルコサミンにβ1,3結合で転移する活性を有するポリペプチドをコードする核酸も含まれる。
ここでストリンジェントな条件下とは、中程度又は高程度のストリンジェント条件下でハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0 mM EDTA (pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(又は約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark's solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般的に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。当業者は、温度および洗浄溶液塩濃度は、塩基配列の長さ等の要因に従って、必要に応じて調整可能であることを認識するであろう。
上記のように当業者であれば、当該技術分野において公知のハイブリダイゼーション条件に関する技術常識、並びに通常用いられる実験手段を通じて得られるであろう経験則を基に、適切に中程度又は高程度であるストリンジェントな条件を容易に設定し、実施することができる。
(2)本発明のベクター及び形質転換体
本発明によれば、上記核酸を含む組換えベクターが提供される。プラスミド等のベクターに該核酸のDNA断片を組込む方法としては、例えば、Sambrook, J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, 1.1 (2001)に記載の方法などが挙げられる。簡便には、市販のライゲーションキット(例えば、宝酒造製等)を用いるとよい。
上記のようにして得られた組換えベクター(例えば、組換えプラスミド)は、宿主細胞(例えば、大腸菌DH5α、TB1、LE392、又はXL-LE392又はXL-1Blue等)に導入される。プラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、Sambrook, J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, 16.1 (2001)に記載の塩化カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
使用可能なベクターは、簡単には当業界において入手可能な組換え用ベクター(例えば、プラスミドDNA等)に所望の遺伝子を常法により連結することによって調製することができる。用いられるベクターの具体例としては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えば、pDONR201、pBluescript、pUC18、pUC19、pBR322等が例示されるが、これらに限定されない。
当業者であれば、制限末端は発現ベクターに適合するように適宜選択することが可能である。発現ベクターは、本発明の酵素を発現させたい宿主細胞に適したものを当業者であれば適宜選択することができ、上記核酸が目的の宿主細胞中で発現しうるように遺伝子発現に関与する領域(プロモータ領域、エンハンサー領域、オペレーター領域等)が適切に配列されて、該核酸が適切に発現するように構築されていることが好ましい。
発現ベクターの種類は、原核細胞及び/又は真核細胞の各種の宿主細胞中で所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌用発現ベクターとして、pQE-30、pQE-60、pMAL-C2、pMAL-p2、pSE420などが好ましく、酵母用発現べクターとしてpYES2(サッカロマイセス属)、pPIC3.5K、pPIC9K、pAO815(以上ピキア属)、昆虫用発現ベクターとしてpFastBac、pBacPAK8/9、pBK283、pVL1392、pBlueBac4.5などが好ましい。
発現ベクターの構築は、制限処理及び連結作業を必要としないGatewayシステム(インビトロジェン社)を用いるとよい。Gatewayシステムとは、PCR産物の方向性を維持したままクローニングができ、また、DNA断片を適切に改変した発現ベクターにサブクローニングを可能にした部位特異的な組換えを利用したシステムである。具体的には、PCR産物とドナーベクターとから部位特異的な組換え酵素であるBPクロナーゼによってエントリークローンを作成し、その後、このクローンと別の組換え酵素であるLRクロナーゼによって組換え可能なデスティネーションベクターにPCR産物を移入することにより、発現系に対応した発現クローンを調製するものである。最初にエントリークローンを作成すれば、制限酵素やリガーゼで作業する手間の係るサブクローニングステップが不要である点を特徴の一つとする。
本発明の核酸を含む上記発現ベクターを宿主細胞に組み込めば、本発明のポリペプチドを産生するための形質転換体を得ることができる。形質転換体を得るための宿主細胞は、一般に真核細胞(哺乳類細胞、酵母、昆虫細胞等)でもよいし、原核細胞(大腸菌、枯草菌等)でもよい。また、ヒト(例えば、HeLa、293T、SH−SY5Y)、マウス(例えば、Neuro2a、NIH3T3)等由来の培養細胞でもよい。これら宿主細胞はいずれも公知であり、市販されているか(例えば、大日本製薬社)、あるいは公共の研究機関(例えば、理研セルバンク)より入手可能である。あるいは、胚、器官、組織若しくは非ヒト個体も使用可能である。
ところで、本発明の核酸はヒトゲノムライブラリーから発見されものであるから、真核細胞を宿主細胞として用いることより天然物に近い性質を有する本発明のG34酵素タンパク質(例えば糖鎖が付加された態様など)が得られると考えられる。この観点からは、宿主細胞として真核細胞、特に哺乳類細胞を選択することが好ましい。具体的な哺乳類細胞としては、マウス由来、動物細胞としてはマウス由来、アフリカツメガエル由来、ラット由来、ハムスタ−由来、サル由来またはヒト由来の細胞若しくはそれらの細胞から樹立した培養細胞株などが例示される。また、宿主細胞としての大腸菌、酵母又は昆虫細胞は、具体的には、大腸菌(DH5α、M15、JM109、BL21等)、酵母(INVSc1(サッカロマイセス属)、GS115、KM71(以上ピキア属)など)、昆虫細胞(Sf21、BmN4、カイコ幼虫等)などが例示される。
一般に発現べクターは、少なくとも、プロモータ−、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、およびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4 DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他の制限酵素部位など)を用いることができる。宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現べクターは、少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターおよび複製可能単位から構成される。宿主細胞として酵母、植物細胞、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、一般に発現べクターは、少なくとも、プロモーター、関始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターを合んでいることが好ましい。またシグナルペブチドをコードするDNA、エンハンサー配列、所望の遺伝子の5'側および3'側の非翻訳領域、選択マーカー領域または複製可能単位などを適宜含んでいてもよい。
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを意味し、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたプラスミド)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E. coliではブラスミドpQE30、pET又はpCAL若しくはそれらの人工的修飾物(pQE30、pET又はpCALを適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母ではプラスミドpYES2若しくはpPIC9Kが、また昆虫細胞ではプラスミドpBacPAK8/9等があげられる。
本発明のべクタ−の好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。また、終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAAなど)が例示される。また、エンハンサー配列、ターミネーター配列については、例えば、それぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子などが例示される。
本発明による発現べクターの宿主細胞への導入(形質転換又は形質移入とも称される)は、従来公知の方法を用いて行うことができる。細菌(E. coli, Bacillus subtilis等)の場合、例えばCohenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)]、プロトプラスト法[Mol. Gen. Genet., 168, 111 (1979)]やコンピテント法[J. Mol. Biol., 56, 209 (1971)]によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばHinnenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1927 (1978)]やリチウム法[J. B. Bacteriol.,153, 163 (1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法[Science, 227, 129 (1985)]、エレクトロポレ−ション法[Nature, 319, 791 (1986)]によって、動物細胞の場合は、例えばGrahamの方法[Virology, 52, 456 (1973)]、昆虫細胞の場合は、例えばSummerらの方法[Mol. Cell Biol., 3, 2156-2165 (1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。
(3)本発明のG34酵素タンパク質
後述の実施例で例証されるとおり、例えば、配列番号1又は3の塩基配列を有する核酸を発現ベクターに組み込み、それを発現させることで、新規な酵素活性を有するポリペプチドを単離及び精製することができる。
第1に、上記の観点から、本発明のタンパク質の典型的な態様は、配列番号2又は4の推定アミノ酸配列からなる単離されたG34酵素タンパク質である。この酵素タンパク質は、具体的には下記の活性を有する。
触媒反応
「N−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)」を、その供与体基質から「N−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)」を含む受容体基質へ転移させることができる。そのアミノ酸配列中のモチーフ配列に関する検討から、当該N−アセチルガラクトサミンとN−アセチルグルコサミンとの間の結合形式は、β1,3グリコシド結合である(実施例2参照)。
供与体基質特異性:
前記N−アセチル−D−ガラクトサミン供与体基質には、N−アセチルガラクトサミンを有する糖ヌクレオチド、例えば、ウリジン二リン酸−N−アセチルガラクトサミン(UDP−GalNAc)アデノシン二リン酸−N−ガラクトサミン(ADP−GalNAc)、グアノシン二リン酸−N−アセチルガラクトサミン(GDP−GalNAc)、及びシチジン二リン酸−N−アセチルガラクトサミン(CDP−GalNAc)等が含まれる。典型的な供与体基質は、UDP−GalNAcである。
すなわち、本発明のG34酵素タンパク質は、次式の反応を触媒する。
UDP−GalNAc + GlcNAc−R → UDP + GalNAc-β1,3-GlcNAc−R
(Rは、当該GlcNAc残基を有する糖タンパク質、糖脂質、オリゴ糖、又は多糖等である)
受容体基質特異性:
前記GalNAcの受容体基質は、N−アセチル−D−グルコサミンであり、典型的には、糖タンパク質、糖脂質、オリゴ糖、又は多糖等のN−アセチル−D−グルコサミン残基である。
また、下記実施例1で得られたヒトG34タンパク質(典型的には、配列番号2のアミノ酸番号36からそのC末端までの領域を有する)は、オリゴ糖を受容体基質とする場合、Bz-β-GlcNAc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz, pNp-core2 (core2 = Gal-β1-3- (GlcNAc-β1-6) GalNAc-α-pNp;以下同様)、pNp-core3 (core3 = GlcNAc-β1-3 GalNAc-α-pNp;以下同様)及びpNp-core6 (core6 = GlcNAc-β1-6-GalNAc-α-pNp;以下同様)への転移活性を示す。好ましくは、Bz-α-GlcNAc及びGal-β1-3 GlcNAc-β-pNpへの転移活性を示さない。更にそれら活性を比較すると、pNp-core2 及びBz-β-GlcNAcへの転移活性が非常に高く、特にpNp-core2への転移活性が最も高い。GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz、pNp-core3及びpNp-core6への転移活性は比較的低い。
また、下記実施例4で得られたマウスG34タンパク質(典型的には、配列番号4中のアミノ酸番号35からそのC末端までの活性領域を有する)は、Bz-β-GlcNAc、pNp-β-Glc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz、pNp-core2、pNp-core3及びpNp-core6への転移活性を示す。それら活性を比較すると、Bz-β-GlcNAcについて転移活性が最も高く、ついでcore2-pNp、core6-pNp、core3-pNp、pNp-β-Glc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bzの順に転写活性が下がる。
なお本明細書において、「GlcNAc」はN−アセチル−D−グルコサミン残基を示し、「GalNAc」はN−アセチル−D−ガラクトサミン残基を示し、「Glc」はグルコサミン残基、「Bz」はベンジル基を示し、「pNp」はパラニトロフェニル基を示し、「oNp」はオルトニトロフェニル基を示し、「−」はグリコシド結合を示す。式中の数字は前記グリコシド結合が存在する糖環の炭素番号を示す。また「α」及び「β」は糖環1位の前記グリコシド結合のアノマーを示し、5位CH2OH又はCH3との位置関係がトランスのものを「α」、シスのものを「β」で示す)。
至適緩衝液及び至適pH(表3及び図4):
ヒトG34タンパク質に関する検討によると、至適緩衝液としては、MES(2-モルフォリノエタンスルホン酸)緩衝液、カコジル酸ナトリウム緩衝液、又はHEPES(N-[2-hydroxyethl]piperazine-N'-[2-ethanesulfonic acid])緩衝液のいずれにおいても上記触媒作用を有する。
各緩衝液における活性のpH依存性は、MES緩衝液において、少なくともpH 5.50〜pH 5.78付近で最も活性が高く、次いでpH 6.75付近の活性が高い;カコジル酸ナトリウム緩衝液においては、pH 6.2付近からpH 5.0付近までpHが小さくなるのに伴って活性が上昇しpH5.0付近で最も活性が高く、またpH 6.2付近からpH 7.0付近までpH依存的に活性が上昇しp
H 7.4付近でほぼプラトーとなる;HEPES緩衝液においては、pH 7.4付近から7.5付近までの活性が最も高い。これらの中では、HEPES緩衝液のpH約7.4〜約7.5で最も強い活性を示す。いずれの緩衝液の場合も、pH6.2−6.6の領域での活性が、他のpH領域での活性と比較して低い。
二価イオンの要求性(表4及び図5):
ヒトG34タンパク質の活性は、二価の金属イオン、特にMn2+、Co2+、又はMg2+の存在下で増強される。各金属イオン濃度の活性への影響は、Mn2+とCo2+によると5.0 nM付近まで濃度依存的に上昇しそれ以降でほぼプラトーとなり、Mg2+によると2.5 nM付近まで濃度依存的に上昇しそれ以降でほぼプラトーとなる。但し、Mn2+による活性の増強はCu+との共存下では完全に消失する。
上述のように本発明のG34酵素タンパク質は、上記所定の酵素反応条件下でGalNAc残基をGlcNAc残基にβ1-3グリコシド結合で転移させることができ、糖タンパク質、糖脂質、オリゴ糖、又は多糖等へのそのような糖鎖合成ないし修飾反応に有用である。
第2に、本明細書において、上記酵素タンパク質の1次構造を代表する配列番号2及び4に記載のアミノ酸配列が開示されたことで、これらアミノ酸配列に基づき当該技術分野の周知の遺伝子工学的手法により産生され得るあらゆるタンパク質(以下、「変異タンパク質」ないし「修飾タンパク質」とも記述する)が提供される。すなわち、本発明の酵素タンパク質は、当該技術分野の技術常識によれば、クローニングされた核酸の塩基配列から推定される配列番号2及び4のアミノ酸配列からなるタンパク質のみに限定されず、下記で説示されるように、例えば、アミノ酸配列N末端側等が部分的に欠失した不完全長のポリペプチドからなるタンパク質、或いはそれらアミノ酸配列に相同なタンパク質であって、当該タンパク質の生来的な特性を有するタンパク質をも含まれると意図される。
先ず、本発明のヒトG34酵素タンパク質は、好ましくは、配列番号2に記載のアミノ酸番号189からC末端までのアミノ酸配列、より好ましくは、後述の実施例で得られたようなアミノ酸番号36からC末端までのアミノ酸配列を有するものであり得る。また本発明のマウスG34酵素タンパク質は、好ましくは配列番号4に記載のアミノ酸番号35からC末端までのアミノ酸配列を有するものであり得る。
また、一般に酵素のような生理活性を有するタンパク質においては、上記アミノ酸配列のうち、1若しくは複数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは複数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加された場合であっても、該生理活性が維持され得ることは周知である。また、天然産のタンパク質の中には、それを生産する生物種の品種の違いや、生態型(ecotype)の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在等に起因して、1個〜複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することも知られている。この観点から、本発明のタンパク質には、配列番号2又は4に示される各アミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは複数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、上記所定の酵素反応条件下でGalNAc残基をGlcNAc残基にβ1-3グリコシド結合で転移する活性を有する変異タンパク質も含まれる。さらに、前記修飾タンパク質としては、配列番号2又は4に示される各アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものが特に好ましい。
上記において「複数個」とは、好ましくは1〜200個、より好ましくは1〜100個、さらにより好ましくは1〜50個、最も好ましくは1〜20個である。一般的には、部位特異的な変異によってアミノ酸が置換された場合に、元々のタンパク質が有する活性は保持される程度に置換が可能なアミノ酸の個数は、好ましくは1〜10個である。
また、本発明の修飾タンパク質には、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換で得られる修飾タンパク質が含まれる。すなわち、一般に同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入して所望の変異を有する組換えタンパク質を作製する手法は当業者に周知であり、そのようにして得られた修飾タンパク質は元来のタンパク質と同様の性質を有することが多い。この観点から、そのようにアミノ酸置換された修飾タンパク質も本発明に含まれる。
また、本発明の修飾タンパク質は、上述した通りのアミノ酸配列を有し且つ目的酵素に生来的な酵素活性を有するものであれば、当該ポリペプチドに糖鎖が結合した糖タンパク質であってもよい。
また、本発明の相同タンパク質の範囲を特定するに当たり、本発明の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列についてGENETYX(ゼネティックス社)による同一性検索を行うと、該アミノ酸配列は、最もホモロジーの高い公知のβ1,4GalNAc転移酵素(上記非特許文献1)とは14%の同一性を有し、また最もホモロジーの高い公知のβ1,3Gal転移酵素とは30%の同一性を有する(上記非特許文献2)。これらの観点から、本発明の相同タンパク質として好適なアミノ酸配列は、配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列と30%を超える同一性、より好ましくは少なくとも40%の同一性、特に好ましくは少なくとも50%の同一性を有することが好ましい。
また、配列番号2と配列番号4とに記載のアミノ酸配列同士では88%の同一性を有する。この観点から、本発明の相同タンパク質として好適なアミノ酸配列は、配列番号2中のアミノ酸配列に対し、少なくとも88%、より好ましくは90%の同一性を有すると定義することもできる。
なお、前記GENETYXは、核酸解析、タンパク質解析用の遺伝情報処理ソフトウェアであって、通常のホモロジー解析やマルチアラインメント解析の他、シグナルペプチド予測やプロモーター部位予測、二次構造予測が可能である。また、本明細書で用いたホモロジー解析プログラムは、高速・高感度な方法として多用されているLipman−Pearson法(Lipman,D.J.&Pearson,W.R.,Science,277,1435−1441(1985))を採用している。本願明細書において、同一性のパーセントは、例えば、Altschulら(Nucl.Acids.Res.,25.3389−3402(1997))に記載されているBLASTプログラム、あるいはPearsonら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2444−2448(1988))に記載されているFASTAを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。各プログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。なお、当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた使用可能である。
第3に、本発明の単離されたタンパク質は、後述のように、これを免疫原として動物に投与することによって該タンパク質に対する抗体を作製することができる。そのような抗体を用いて免疫測定法により当該酵素を測定、定量することができる。従って、本発明は、そのような免疫原の作製にも有用である。この観点からは、本発明のタンパク質には、抗体形成を引き出すための抗原決定基又はエピトープを含む、該タンパク質のポリペプチド断片、変異体、融合タンパク質なども含まれる。
(4)本発明のG34酵素タンパク質の単離及び精製
本発明の酵素タンパク質は、以下の方法により単離・精製することができる。
近年、遺伝子工学的手法として、形質転換体を培養し生育させて、その培養物ないし生育物から目的物質を単離・精製する手法が確立されている。本発明の酵素タンパク質も、例えば、本発明の核酸を組み込んだ発現ベクターを含む形質転換体を栄養培地で培養することによって発現(産生)させることができる。
形質転換体の栄養培地としては、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが、例示される。無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また、所望により他の栄養素(例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。培養は、当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpH及び培養時間は、本発明に係るタンパク質が大量に生産されるように適宜選択される。
本発明の酵素タンパク質は、上記培養物ないし生育物から以下のようにして取得することができる。すなわち、目的タンパク質が宿主細胞内に蓄積する場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞を集め、これを適当な緩衝液(例えば濃度が10〜100mM程度のトリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液などの緩衝液。pHは用いる緩衝液によって異なるが、pH5.0〜9.0の範囲が望ましい)に懸濁した後、用いる宿主細胞に適した方法で細胞を破壊し、遠心分離により宿主細胞の内容物を得る。一方、目的タンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞と培地を分離し、培養ろ液を得る。宿主細胞破壊液、あるいは培養ろ液はそのまま、または硫安沈殿と透析を行なった後に、そのタンパク質の単離・精製に供することができる。
目的タンパク質の単離・精製の方法としては、以下の方法を挙げることができる。すなわち、当該タンパクに6×ヒスチジンやGST、マルトース結合タンパクといったタグを付けている場合には、一般に用いられるそれぞれのタグに適したアフィニティークロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。一方、そのようなタグを付けずに本発明に係るタンパク質を生産した場合には、例えばイオン交換クロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。また、これに加えて、ゲルろ過や疎水性クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィーなどを組み合わせる方法でもよい。
また単離・精製が容易となるような発現ベクターを構築するとよい。特に、酵素活性を有するポリペプチドと標識ペプチドとの融合タンパク質の形態で発現するように発現ベクターを構築し、遺伝子工学的に当該酵素タンパク質を調製すれば、単離・精製も容易である。上記識別ペプチドの例としては、本発明に係る酵素を遺伝子組み換えによって調製する際に、該識別ペプチドと酵素活性を有するポリペプチドとが結合した融合タンパク質として発現させることにより、形質転換体の生育物から本発明に係る酵素の分泌・分離・精製又は検出を容易にすることを可能とする機能を有したペプチドである。
そのような識別ペプチドとしては、例えばシグナルペプチド(多くのタンパク質のN末端に存在し、細胞内の膜透過機構においてタンパク質の選別のために細胞内では機能している15〜30アミノ酸残基からなるペプチド:例えばOmpA、OmpT、Dsb等)、プロテインキナーゼA、プロテインA(黄色ブドウ球菌細胞壁の構成成分で分子量約42,000のタンパク質)、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ(ヒスチジン残基を6乃至10個並べて配した配列)、mycタグ(cMycタンパク質由来の13アミノ酸配列)、FLAGペプチド(8アミノ酸残基からなる分析用マーカー)、T7タグ(gene10タンパク質の最初の11アミノ酸残基からなる)、Sタグ(膵臓RNaseA由来の15アミノ酸残基からなる)、HSVタグ、pelB(大腸菌外膜タンパク質pelBの22アミノ酸配列)、HAタグ(ヘマグルチニン由来の10アミノ酸残基からなる)、Trxタグ(チオレドキシン配列)、CBPタグ(カルモジュリン結合ペプチド)、CBDタグ(セルロース結合ドメイン)、CBRタグ(コラーゲン結合ドメイン)、β-lac/blu(βラクタマーゼ)、β-gal(βガラクトシダーゼ)、luc(ルシフェラーゼ)、HP-Thio(His-patchチオレドキシン)、HSP(熱ショックペプチド)、Lnγ(ラミニンγペプチド)、Fn(フィブロネクチン部分ペプチド)、GFP(緑色蛍光ペプチド)、YFP(黄色蛍光ペプチド)、CFP(シアン蛍光ペプチド)、BFP(青色蛍光ペプチド)、DsRed、DsRed2(赤色蛍光ペプチド)、MBP(マルトース結合ペプチド)、LacZ(ラクトースオペレーター)、IgG(免疫グロブリンG)、アビジン、プロテインG等のペプチドが挙げられ、何れの識別ペプチドであっても使用することが可能である。
それらの中でも特にシグナルペプチド、プロテインキナーゼA、プロテインA、グルタチオンS転移酵素、Hisタグ、mycタグ、FLAGペプチド、T7タグ、Sタグ、HSVタグ、pelB又はHAタグが、遺伝子工学的手法による本発明に係る酵素の発現、精製がより容易となることから好ましく、特にFLAGペプチド(Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys)との融合タンパク質として得るのが、取扱面で極めて優れているため好ましい。上記FLAGペプチドは非常に抗原性であり、そして特異的なモノクローナル抗体が可逆的に結合するエピトープを提供し、発現された組換えタンパク質の迅速なアッセイおよび容易な精製を可能にする。4E11と称されるネズミハイブリドーマは、米国特許第5,011,912(これを参照することにより本願明細書の開示に組み込む)に記載されるように、特定の二価金属陽イオンの存在下で、FLAGペプチドに結合するモノクローナル抗体を産生する。4E11ハイブリドーマ細胞株は、寄託番号HB 9259下に、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託されている。FLAGペプチドに結合するモノクローナル抗体は、Eastman Kodak Co., Scientific Imaging Systems Division、コネチカット州ニューヘブンより入手可能である。
哺乳類細胞で発現可能であって、かつ上述のFLAGペプチドとの融合タンパク質として本発明の酵素タンパク質を得ることができる基本ベクターとしては、例えばpFLAG-CMV-1(シグマ社)がある。また、昆虫細胞で発現可能なベクターとしては、pFBIF(pFastBac(インビトロジェン社)にFLAGペプチドをコードする領域を組み込んだベクター:後述の実施例参照)等が例示されるが、これらに限定されない。当業者であれば、当該酵素の発現に使用する宿主細胞、制限酵素、識別ペプチドなどから判断して適当な基本ベクターを選択することが可能である。
(5)本発明のG34酵素タンパク質を認識する抗体
本発明により、G34酵素タンパク質に免疫反応性である抗体が提供される。こうした抗体は、(非特異的結合と対照的に)抗体の抗原結合部位を介して、該酵素タンパク質に特異的に結合し得る。具体的には、配列番号2又は4のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はその断片、変異体若しくは融合タンパク質などを、それぞれに免疫反応性である抗体を産生するための免疫原として使用することが可能である。
より具体的には、タンパク質、断片、変異体、融合タンパク質などは、抗体形成を引き出す抗原決定基またはエピトープを含むが、これら抗原決定基またはエピトープは、直鎖でもよいし、より高次構造(断続的)でもよい。なお、該抗原決定基またはエピトープは、当該技術分野に知られるあらゆる方法によって同定できる。したがって、本発明は、G34酵素タンパク質の抗原性エピトープにも関する。こうしたエピトープは、以下により詳細に記載されるように、抗体、特にモノクローナル抗体を作成するのに有用である。
本発明のエピトープは、アッセイにおいて、そしてポリクローナル血清または培養ハイブリドーマ由来の上清などの物質から特異的に結合する抗体を精製するための研究試薬として使用可能である。こうしたエピトープまたはその変異体は、固相合成、タンパク質の化学的または酵素的切断などの当該技術分野において公知の技術を用いて、あるいは組換えDNA技術を用いて産生することができる。
本発明の酵素タンパク質によってあらゆる態様の抗体が誘導される。該タンパク質のポリペプチド全部若しくは一部又はエピトープが単離されていれば、慣用的技術を用いてポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれも調製可能である。例えば、Kennetら(監修), Monoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Plenum Press, New York, 1980を参照されたい。
本発明によれば、G34酵素タンパク質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株も提供される。こうしたハイブリドーマは、慣用的技術によって産生し、そして同定することが可能である。こうしたハイブリドーマ細胞株を産生するための1つの方法は、動物を本発明の酵素タンパク質で免疫し、免疫された動物から脾臓細胞を採取し、該脾臓細胞を骨髄腫細胞株に融合させ、それによりハイブリドーマ細胞を生成し、そして該酵素に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を同定することを含む。モノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能である。
本発明のモノクローナル抗体には、キメラ抗体、例えば、ネズミモノクローナル抗体のヒト化型が含まれる。こうしたヒト化型抗体は、ヒトに投与されて免疫原性を減少させるという利点を有する。
また本発明によれば、上記抗体の抗原結合断片も提供される。慣用的技術によって産生可能な抗原結合断片の例には、FabおよびF(ab')2断片が含まれるが、これらに限定されない。遺伝子工学技術によって産生可能な抗体断片および誘導体もまた提供される。
本発明の抗体は、in vitro及びin vivoのいずれにおいても、本発明のG34酵素タンパク質又はそのポリペプチド断片の存在を検出するためのアッセイに使用可能である。また本発明の抗体は、免疫アフィニティークロマトグラフィーによってG34酵素タンパク質又はそのポリペプチド断片を精製することにも使用することができる。
さらに本発明の抗体は、結合パートナー、例えば受容体基質への前記糖転移酵素タンパク質の結合を遮断することが可能な遮断抗体として提供されてもよく、そのような結合により当該酵素の生物活性を阻害可能である。こうした遮断抗体は、受容体基質を発現している特定の細胞への該タンパク質の結合を阻害する能力に関して抗体を試験するなど、あらゆる適切なアッセイ法を用いて同定することができる。
また遮断抗体は、標的細胞の結合パートナーに結合している該酵素タンパク質から生じる生物学的影響を阻害する能力に関するアッセイにおいても同定可能である。こうした抗体は、in vitro法で使用するか又はin vivoで投与して、抗体を生成した実体によって仲介される生物活性を阻害し得る。従って、本発明によれば、G34酵素タンパク質と結合パートナーとの間の直接又は間接的な相互作用に起因して引き起こされるか又は悪化する障害を治療するための抗体も提供され得る。こうした療法は、結合パートナー仲介生物学的活性を阻害するのに有効な量の遮断抗体を哺乳動物にin vivo投与することを含むであろう。一般にこうした療法の使用にはモノクローナル抗体が好ましく、1つの態様として抗原結合抗体断片が使用される。
(6)癌化検定のための本発明の核酸
本発明者は、上述したG34酵素タンパク質の発見に伴い、このタンパク質をコードするmRNAが癌化組織及び細胞株において広く認められ、特にその発現量が癌化組織において有意に上昇していることを確認した。したがって、G34核酸は、転写産物を含む生物試料を対象とした癌診断等に有用な癌マーカーとして有用である。この側面において、本発明は、配列番号1又は3に記載の塩基配列により定義される核酸にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る測定用核酸を提供する。
本発明の測定用核酸の一態様は、生物試料中のG34核酸を標的とするもので、配列番号1又は3の塩基配列から選ばれる塩基配列を有するプライマー又はプローブである。特に配列番号1の塩基配列は構造遺伝子をコードするmRNA由来のもので、当該G34遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)全域を含むことから、通常、生物試料に由来する転写産物中には、配列番号1又は3の全長ないしそれに近い大部分長が見出される。この観点から、本発明によるプライマー又はプローブは、配列番号1又は3の各塩基配列から選択される所望の部分配列(当該選択配列と相同であるか相補的であるべきかは使用方法に依存して決定される)有し、このようにして当該標的配列に特異的にハイブリダイズできる核酸として提供できる。
典型的なプライマー又はプローブには、配列番号1又は3の少なくとも一部の塩基配列を有する核酸に由来する天然のDNAフラグメント、配列番号1又は3の少なくとも一部の塩基配列を有するように合成されたDNAフラグメント、又はそれらの相補鎖が挙げられる。
上記のようなプライマー又はプローブを用いて、後述のように生物試料中の該標的核酸を検出及び/又は定量することができる。また、ゲノム上の配列も標的となり得るので、本発明の核酸は、医学研究用又は遺伝子治療用のアンチセンスプライマーとして使用してもよい。
(A)本発明のプローブ
本発明の測定用核酸の好ましい態様は、配列番号1又は3の塩基配列を有する核酸又は少なくともその何れか一方の相補鎖を標的としたプローブであって、これら塩基配列から選ばれる少なくとも十数個、好ましくは15塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは20塩基以上のオリゴヌクレオチド若しくはそれらの相補鎖、或いは、そのORF領域全長のcDNA若しくはその相補鎖が含まれる。
オリゴヌクレオチドプローブとする場合、本発明の測定用核酸は、十数塩基、例えば15塩基、好ましくは17塩基ほどの長さもあれば、ストリンジェントな条件下でその標的核酸に対し特異的にハイブリダイズし得ると理解される。すなわち、当業者であれば、オリゴヌクレオチドプローブ設計に関する公知の各種ストラテジーに従い、配列番号1又は3の塩基配列から少なくとも15塩基〜20塩基の適切な部分配列を選択することができる。この場合に配列番号2又は4のアミノ酸配列情報は、プローブとして適切と思われるユニークな配列を選定するのに役立つ。
また、cDNAプローブとする場合、例えば、一般に医学研究用の試薬又は診断薬としてのプローブは、大きい分子量のものは取り扱い難いので、この見地から、医学研究を目的とした本発明のプローブとしては、配列番号1又は3の各塩基配列から選ばれる50〜500塩基、より好ましくは60〜300塩基からなる核酸が例示される。
上記ストリンジェントな条件下とは、既に説明したような中程度又は高程度なストリンジェント条件を意味する。当業者であれば、公知の各種プローブ設計法及びハイブリダイゼーション条件に関する技術常識並び経験則を基に、選択したプローブにとって適切な中程度又は高程度にストリンジェントな条件を容易に見つけ出し、実施することができる。
また、選択される塩基長及び適用されるハイブリダイズ条件等に依存するが、比較的短鎖のオリゴヌクレオチドプローブは、配列番号1又は3の塩基配列と比較して1又は数個の塩基、特に1又は2塩基程度の不一致があってもプローブとしての機能を果たし得る。また、比較的長鎖のcDNAプローブは、配列番号1の塩基配列又はその相補的な塩基配列と50%以下、好ましくは20%以下の不一致があっても、プローブとしての機能を果たし得る。
上記のようにして設計される本発明のプローブは、G34中の標的配列とのハイブリッドを検出または確認するために、蛍光標識、放射標識、ビオチン標識等の標識を付した標識プローブとして使用されることができる。
例えば、本発明の標識プローブは、G34核酸からのPCR増幅産物を確認又は定量するために使用することができる。この場合、PCRに使用される一対のプライマー配列の間に位置する領域の当該塩基配列を標的としたプローブを使用するとよい。そのようなプローブの一例は、配列番号16に記載の塩基配列(配列番号1中の塩基番号525−556の相補鎖に相当する)からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる(実施例3参照)。
また、本発明のプローブは、診断用DNAプローブキット等に組み込まれてもよいし、DNAマイクロアレイ等のチップ上に固定されてもよい。
(B)本発明のプライマー
本発明の癌化検定用核酸から得られるプライマーの好ましい態様は、オリゴヌクレオチドプライマーである。オリゴヌクレオチドプライマーの製造に当たっては、配列番号1又は3の塩基配列のORF領域から以下の条件を満たすように2つの領域を選択するとよい。
a)各領域の長さが数十塩基以上、特に15塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは20塩基以上であり、且つ50塩基以下であること;さらに
b)各領域中のG+Cの割合が40〜70%であること;
実際には、上記のように選択した2つの領域と同じ塩基配列若しくはそれらに相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAとして製造してもよいし、それら塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した一本鎖DNAを製造してもよい。本発明のプライマーは、選択された標的配列と完全に相補的な配列を有することが好ましいが、1または2塩基の不一致があっても差し支えない。
本発明による一対のプライマーの例としては、ヒトG34では配列番号14と配列番号15(それぞれ、配列番号1中の塩基番号481−501の配列及び塩基番号562−581の相補鎖に相当する)からなる一組のオリゴヌクレオチドが挙げられ、また、マウスG34では配列番号17と配列番号18(それぞれ、配列番号3中の塩基番号481−501の配列及び塩基番号562−581の相補鎖に相当する)からなる一組のオリゴヌクレオチドが挙げられる。
(7)本発明による癌化検定方法
既に述べた通り、本発明のG34核酸は、癌化した生物試料中の発現量(すなわち当該遺伝子のゲノムからmRNAへの転写レベル)が、その健常生物試料よりも有意に上昇していることが確認された。少なくとも大腸癌又は肺癌の癌化検定に有用であることが明らかにされた(実施例3参照)。
本発明の癌化検定方法の具体的態様によれば、生物試料から抽出された転写産物又はそれに由来する核酸ライブラリーを被検試料として、上述のプローブ又はプライマーを用いて当該G34核酸の量(典型的にはmRNA量)を測定し、そして、この測定値が健常生物試料のそれを有意に上回るか否かを判断する。ここで、被検生物試料の測定値が健常生物試料の基準値を有意に上回る場合に、その被検生物試料は癌化している或いは悪性度が高いと判断される。
本発明の癌化検定法において、対照となる健常生物試料についての基準値は、同一患者の同一組織における対照部位(典型的には正常な部位)についての測定値を利用してもよいし、対照部位から得られた既知のデータ等を基に一般化された値、例えば健常組織におけるmRNA量の平均値を利用してもよい。
なお、本発明の測定用核酸を使用した発現量の測定によると、ヒトG34は正常部位では脳、骨格筋、膵臓、副腎、精巣、及び前立腺において高いレベルの発現が認められ、他の部位でも比較的低いレベルであるが有意な発現が認められる。このようにヒトG34の発現は各種組織全般に広く認められ、そして、大腸及び肺の組織のような比較的発現レベルの低い組織でも、ヒトG34の発現量は有意に上昇することが判明した。これらのデータが提供されることによって、当業者は、本発明の測定用核酸の具体的な有用性と効果を認識するであろう。
本検定法において、被検試料についての測定値が健常試料と比較して有意に上回るかは、当該検定に必要とされる精度(陽性率)や判定すべき悪性度に従って設定される基準で判断されることができる。例えば、悪性度の高い組織の検出を目的として、陽性とすべき基準値をより低く設定したり、或いは癌化の兆候ないし可能性がある被検試料を網羅的に検出することを目的として、陽性とすべき基準値をより高く設定するなど、目的に応じて任意に判定基準を設けることができる。
以下では、ハイブリダイゼーション法とPCR法を例に挙げ、本発明の癌化検定法を説明する。
(A)ハイブリダイゼーション検定法
本検定法の態様には、例えば、本発明の核酸から得られるプローブを使用したサザンブロット、ノーザンブロット、ドットブロット、又はコロニーハイブリダイゼーション法等のような当業者に周知である各種ハイブリダイゼーション検定を用いた方法が含まれる。さらに検出シグナルの増幅や定量が必要とされる場合、それらを免疫学的検定法と組み合わせてもよい。
典型的なハイブリダイゼーション検定法によれば、生物試料から抽出された検核酸またはその増幅物が固相化され、標識プローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズさせ、洗浄後、固相に結合された標識が測定される。
生物試料からの転写産物の抽出及び精製は、当業者に知られているあらゆる方法を使用して行うことができる。
(B)PCR検定法
本発明の癌化検定法の好ましい態様には、本発明のプライマーでの核酸増幅反応を利用したPCR法も含まれる。PCRの詳細は、既に説明した通りである。ここではPCRを利用した本検定法の具体的態様を説明する。
検定すべき転写産物中のG34のmRNAは、その塩基配列から選ばれる所定領域の両端に位置する一対のプライマーを使用したPCRにより増幅することができる。この工程において、検体中にG34核酸が僅かでも存在すると、それらが鋳型となりプライマー対間の核酸領域が次々と複製され増幅される。PCRでの所定サイクル数の繰り返しによって、鋳型とされた核酸は、所望の濃度まで増幅される。同じ増幅反応条件であれば、検体中に存在したG34のmRNA量に比例した増幅産物が得られる。そして、当該増幅領域を標的とする上記プローブ等を使用して増幅産物が目的の核酸であるか確認し、それを定量することができる。また、健常組織中の当該核酸も同様にして測定される得る。なお、同一組織等に広く一般的に存在する遺伝子の核酸、例えばグリセルアルデヒド−3リン酸−脱水素酵素(GAPDH)、β−アクチンをコードする核酸を対照として利用し、個体差を除去するとよい。前記G34の転写レベルについての測定値は、上述したように癌化の有無ないし悪性度を検定するために対比される。
PCR法に供される核酸試料は、被検組織又は細胞などの生物試料から抽出されたmRNA総体でも、mRNAから逆転写したcDNA総体でもよい。mRNAを増幅する場合には、既述のプライマー対を用いたNASBA法(3SR法、TMA法)を採用してもよい。NASBA法自体は周知であり、且つそのためのキットも市販されているので、本発明のプライマー対を用いて容易に実施することができる。
上記増幅産物の検出又は定量は、増幅後の反応溶液を電気泳動し、バンドをエチジウムブロミド等で染色する方法や、電気泳動後の増幅産物をナイロン膜等の固相に不動化し、被検核酸と特異的にハイブリダイズする標識プローブ(例えば、配列番号16の塩基配列を有する)をハイブリダイズさせ、洗浄後、該標識を検出することにより行うことができる。
また、本検定法に好適なPCR法としては、定量的PCR法、特にキネティックス分析のためのRT-PCR法、定量的リアルタイムPCR法が挙げられる。特にmRNAライブラリーを対象とする定量的リアルタイムRT-PCR法は、測定対象が生物試料から直接に精製でき且つ転写レベルを直接反映しているという観点から好適である。但し、本検定法における核酸の定量は、定量的PCR法に限定されるものではなく、PCR産物に対して、上述のプローブを用いたノーザンブロット、ドットブロット、DNAマイクロアレイのような公知の他のDNA定量法を適用し得る。
また、クエンチャー蛍光色素とレポーター蛍光色素を用いた定量的RT-PCRを行うことにより、検体中の標的核酸の量を定量することも可能である。特に定量的RT-PCR用のキットが市販されているので、容易に行うことができる。さらに、電気泳動バンドの強度に基づいて標的核酸を半定量することも可能である。
(C)癌治療効果に関する検定法
本発明の癌化検定法の他の態様として、癌の治癒ないし緩和の効果を判断するための検定も挙げられる。例えば、検定の対象には、抗癌剤の投与、放射線治療等のあらゆる処置が含まれ、それら処置の対象には、癌患者又は発癌実験モデル動物由来のin vitro癌細胞や癌組織が含まれる。
この検定法によれば、生物試料に或る処置が施された場合、当該生物試料中のG34核酸の転写レベルが当該処置に起因して低下するか否かを判断することにより、当該処置の癌への治療効果を知ることができる。また、転写レベルが低下するか否かの判断に限らず、上昇が有意に抑制される場合に有効であると評価してもよい。転写レベルの比較は、未処置組織との比較だけでなく、処置後おける経時的追跡でもよい。
本発明による癌治療効果検定には、例えば、癌化組織に抗癌剤候補物質が効くか否か、癌患者に投与中の抗癌剤に対して耐性が形成されているか否か、実験モデル動物の病変組織等に効くか否か等の判断が含まれる。実験モデル動物の被検組織は、in vitroに限らずin vivo 又はex vivo試料も含まれる。
(8)遺伝子操作動物の作製
既に述べたように、本発明者によりマウスG34の存在とその核酸配列(配列番号3)が突き止められた。本発明は、受精卵やES細胞を用いた各種遺伝子変換技術に基づく動物個体レベルでのG34の発現・機能解析の手段、典型的にはG34遺伝子を導入したトランスジェニック動物、及びマウスG34を欠損させたノックアウトマウスの作製等にも関する。
例えば、ノックアウトマウスの作製は、当該技術分野における常法に従って行うことができる(ジーンターゲティングの最新技術 八木健編集 羊土社:ジーンターゲティング 野田哲生監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル社等を参照すればよい)。すなわち、当業者であれば、本願において開示されたマウスG34核酸配列情報を利用し、公知のジーンターゲティング法に従ってG34の相同組換えES細胞を取得することができ、これを用いてG34ノックアウトマウスを作製することができる(実施例7参照)。
また、最近ではsmall interfering RNA法により遺伝子発現を抑制する方法が開発されており(T.R. Brummelkamp et al., Science, 296, 550-553 (2002))、このような公知の方法に従いG34ノックアウトマウスを作製することもできる。
G34ノックアウトマウスを提供することは、特定の生命現象へのG34遺伝子の関与、すなわち、当該遺伝子の重複性に関する情報のほか、当該遺伝子欠損と個体レベルでの表現型(運動、知能、感覚機能に関するあらゆるタイプの異常が含まれる)との関係、さらには発生、成長、老化といった個体のライフサイクルにおける当該遺伝子の機能の解明に役立つであろう。より詳細には、上記の方法により得られるノックアウトマウスを用いてG34およびmG34が合成する糖鎖のキャリアの検出および生理的機能、疾患との関連等について検討することができる。例えば、ノックアウトマウスより摘出した各組織より糖蛋白質および糖脂質を抽出し、プロテオミックス等の技法(例えば二次元電気泳動、二次元薄層クロマトグラフィ、質量分析等)により野生型マウスと比較することで、合成された糖鎖のキャリアを同定できる。また、ノックアウトマウスと野生型マウスの表現系(例えば、胎児形成、発育過程、自発行動等)を比較することにより生理的機能や疾患との関連を推定することができる。
用語の定義
本明細書において、核酸についての転写レベルの「測定値」又は「発現量」というときは、一定量の生物試料由来の転写産物中に存在する当該核酸の量、すなわち当該核酸濃度を示す。また本発明の検定法は、それらの測定値を比較することに依拠するのであるから、核酸が定量のためにPCR等によって増幅されたり、プローブ標識からのシグナルが増幅された場合にも、それら増幅された値について相対的な対比が可能である。したがって、「核酸についての測定値」とは増幅後の量又は増幅後のシグナルレベルとして把握されることもできる。
本明細書において「標的核酸」又は「当該核酸」というときは、in vivo又はin vitroのいずれかを問わず、G34のmRNAはもちろんのこと、そのmRNAを鋳型にして得られるあらゆるタイプの核酸が含まれる。なお本明細書において「塩基配列」というときは、特に断らない限り、それに相補的な配列も包含される。
本明細書において、「生物試料」というときは、器官、組織及び細胞、並びに実験動物由来の器官、組織及び細胞等を示すが、好ましくは組織又は細胞である。例えば、組織には、脳、胎児脳、小脳、延髄、顎下腺、甲状腺、気管、肺、心臓、骨格筋、食道、十二指腸、小腸、大腸、直腸、結腸、肝臓、胎児肝臓、膵臓、腎臓、副腎、胸腺、骨髄、脾臓、精巣、前立腺、乳腺、子宮、胎盤が、より好ましくは大腸及び肺である。
本明細書において「測定」又は「検定」という用語には、検出、増幅、定量、および半定量のいずれもが包含される。特に本発明による検定法は、上記の通り、生物試料の癌化の検定に関するものであり、医療分野における癌の診断や治療等に応用することができる。ここで「癌化の検定」という用語には、生物試料が発癌しているか否かについての検定のほか、悪性度が高いか否かについての検定も含まれる。本明細書において「癌」という用語には、典型的には悪性腫瘍全般を含み、該悪性腫瘍による疾病状態を含む。従って、本発明による検定法の対象は、特に限定されるわけではないが、神経芽腫、神経膠腫、肺癌、食道癌、胃癌、膵臓癌、肝臓癌、腎臓癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、白血病、好ましくは大腸癌、肺癌である。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
実施例1:ヒトG34遺伝子のクローニングと発現、並びに発現タンパク質の精製
β3ガラクトース転移酵素6(β3GalT6)をクエリーとしてBLAST検索を行った結果、ホモロジーを有する核酸配列(配列番号1)が見出された。該核酸配列から予測されるオープンリーディングフレーム(ORF)は1503 bp、アミノ酸配列にして500アミノ酸(配列番号2)からなる。これら核酸配列及びアミノ酸配列がコードする生成物をヒトG34と命名した。
G34のアミノ酸配列N末端には、糖転移酵素の特徴である疎水アミノ酸領域があり、前記β3GalT6との相同性は核酸配列で47%、アミノ酸配列で28%である。また、β3GalTファミリーに保持されている3つのモチーフ全てを保持している。
本実施例では、哺乳動物細胞でのG34の発現を確認したほか、その活性の詳細を調べるためにG34を昆虫細胞内で発現させた。
活性を確認するには配列番号1の少なくともβ3GalT6と比較的ホモロジーが保たれている189番アミノ酸からC末端までの活性領域を発現させれば十分であると考えられるが、本実施例では36番アミノ酸からC末端までの活性領域を発現させることとした。
ヒトG34遺伝子の哺乳動物細胞での発現の確認
G34の36番アミノ酸からC末端までの活性領域をFLAG Protein Expression System(シグマアルドリッチ社)により哺乳動物由来細胞株発現ベクターpFLAG-CMV3に遺伝子導入した。pFLAG-CMV3を使用すれば、マルチクローニングサイトを有しており、目的遺伝子及びpFLAG-CMV3を制限酵素処理した後、ライゲーション反応を行うことで目的遺伝子をpFLAG-CMV3に導入できる。
腎から得られたcDNA(クロンテック社製、Marathon-ready cDNA)を鋳型とし5'プライマー(G34-CMV-F1:配列番号5)と3'プライマー(G34-CMV-R1:配列番号6)を用いてPCR反応を行い、目的のDNA断片を得た。PCR法は98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 2分を25回繰り返す条件で行った。そしてPCR産物をアガロースゲル電気泳動を行い、ゲル切り出し法でゲルを切り出して定法により単離した。このPCR産物は制限酵素サイトとして5'側にHindIII、3'側にBamHIを有する。
このDNA断片とpFLAG-CMV3を各々制限酵素であるHindIII及びBamHIにて処理した後、反応液を混合し、ライゲーション反応を行うことでpFLAG-CMV3に導入した。反応液をエタノール沈殿法により精製した後、コンピテントセル(大腸菌DH5α)と混合し、ヒートショック法(42℃、30秒)を行い、アンピシリンを含むLB寒天培地に播いた。
翌日得られたコロニーを、直接PCRで目的DNAを確認した。さらに確実を期すためシーケンシングによりDNA配列の確認をした後、ベクター(pFLAG-CMV3-G34A)を抽出・精製した。
ヒト腎臓細胞由来細胞株293T細胞2×106個を抗生物質を含まない10%ウシ胎児血清入りのDMEM培地(インビトロジェン社)10 mlにて懸濁し、10 cmディッシュに播き、16時間37℃にてCO2インキュベータにて培養した。pFLAG-CMV3-G34Aの20 ng及びLipofectamin 2000(インビトロジェン社)30 μlをOPTI-MEM(インビトロジェン社)1.5 mlと各々混和し、室温にて5分間インキュベーションした。更に二つの液を緩やかに混和し、室温にて20分間インキュベーションした。この混合液をディッシュに滴下し、48時間37℃にてCO2インキュベータにて培養した。
上清10mlにNaN3(0.05 %)、NaCl (150 mM)、CaCl2 (2 mM)、抗FLAG-M1レジン(Sigma 社)(100 μl)を混合し、4℃で一夜攪拌した。翌日遠心して(3000 rpm 5分、4℃)ペレットを回収し、2 mMのCaCl2・TBSを900μl加えて再度遠心分離(2000 rpm 5分、4℃)し、ペレットを200 μl の1 mM CaCl2・TBS に浮遊させ活性測定のサンプル(G34酵素液)とした。この一部をSDS-PAGEによる電気泳動について抗FLAG M2-ペルオキシダーゼ(SIGMA社製)を用いてウエスタンブロッテイングを行い、目的とするG34タンパク質の発現を確認した。
その結果、約60kDaの位置にバンドが検出、発現が確認された。
ヒトG34遺伝子の昆虫細胞発現ベクターへの挿入
G34の36番アミノ酸からC末端までの活性領域をGATEWAYシステム(インビトロジェン社)のpFastBac(インビトロジェン社製)に組込み、さらにBac-to-Bacシステム(インビトロジェン社)によるバクミドを作成した。
(1)エントリークローンの作成
Kidneyから得られたcDNA(クロンテック社製、Marathon-ready cDNA)を鋳型とし5'プライマー(G34-GW-F1:配列番号7)と3'プライマー(G34-GW-R1:配列番号8)を用いてPCR反応を行い、目的のDNA断片を得た。PCR法は98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 2分を25回繰り返す条件で行った。そしてPCR産物をアガロースゲル電気泳動を行い、ゲル切り出し法でゲルを切り出して定法により単離した。
この産物をBPクロナーゼ反応によってpDONR201(インビトロジェン社製)へ組込み、「エントリークローン」を作成した。反応は目的とするDNA断片5μl、pDONR2011μl(150ng)、反応緩衝液2μl、BPクロナーゼmix 2μlを25℃で1時間インキュベートして行った。プロテイナーゼKを1μl加えて37℃10分おき反応を終了させた。その後上記反応液1 μlをコンピテントセル(大腸菌DH5α、TOYOBO社製)100μlと混合し、ヒートショック法
の後、カナマイシンを含むLBプレートにまいた。
翌日コロニーをとり、直接PCRで目的DNAを確認した。さらに確実を期すためシーケンシングによりDNA配列の確認をした後、ベクター(pDONR−G34A)を抽出・精製した。
(2)発現クローンの作成
上記エントリークローンは挿入部位の両側にラムダファージが大腸菌から切り出される際の組換部位であるattLを持つもので、LRクロナーゼ(ラムダファージの組換酵素Int、IHF、Xisを混合したもの)とデステイネーションベクターと混合することで、挿入部位がデステイネーションベクターに移り、発現クローンが作成される。具体的工程は以下のとおりである。
まずエントリークローン1μl、pFBIFを0.5μl(75ng)、LR反応緩衝液2μl、TE4.5μl、LR クロナーゼmix 2μlを25℃で1時間反応させ、プロテイナーゼ Kを1μl加えて37℃10分インキュベートして反応を終了させた(この組換え反応でpFBIF-G34Aが生成される)。pFBIF は、pFastBac1にIgκシグナル配列(配列番号9)と精製用のFLAGペプチド(配列番号10)を入れたもので、Igκシグナル配列は発現タンパク質を分泌型にするため、FLAGペプチドは精製のため挿入したものである。FLAGペプチドはOT3(配列番号11)を鋳型とし、プライマーOT20(配列番号12)と、OT21(配列番号13)によって得られたDNA断片をBam HlとEco Rlで挿入した。さらに、Gateway配列を挿入するため、Gateway Vector Conversion System(インビトロジェン社)を用いてConversion cassetteを入れた。
その後、上記混合液全量(11μl)をコンピテントセル(大腸菌DH5α)100μlと混合し、ヒートショック法の後、アンピシリンを含むLBプレートにまいた。翌日コロニーをとり、直接PCRで目的DNAを確認し、ベクター(pFBIF-G34A)を抽出・精製した。
(3)Bac-to-Bacシステムによるバクミドの作成
続いてBac-to-Bacシステム(インビトロジェン社)を用いて上記pFBIF-とpFastBacとの間で組換えを行わせ、昆虫細胞中で増殖可能なバクミド(Bacmid)にG34その他の配列を挿入した。
このシステムは、Tn7の組換部位を利用して、バクミドを含む大腸菌(DH10BAC、インビトロジェン社製)に目的遺伝子を挿入させたpFastBacを導入するだけで、ヘルパープラスミドから産生される組換タンパク質によって目的とする遺伝子がバクミドへ取り込まれるというものである。またバクミドにはlacZ遺伝子が含まれており、古典的な青(挿入なし)−白コロニー(挿入あり)による選択が可能である。
即ち、上記精製ベクター(pFBIH-G34A)をコンピテントセル(大腸菌DH10BAC)50μlと混合し、ヒートショック法の後、カナマイシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、Bluo-gal、及びIPTGを含むLBプレートに播き、翌日白い単独コロニーをさらに培養し、バクミドを回収した。
ヒトG34遺伝子を含むバクミドの昆虫細胞への導入
上記白コロニーから得られたバクミドに目的配列が挿入していることを確認した後、このバクミドを昆虫細胞Sf21(インビトロジェン社より市販)に導入した。
即ち35mmのシャーレにSf21 細胞9x105細胞/2 ml(抗生物質を含むSf-900SFM(インビトロジェン社製)を加え、27℃で1時間培養して細胞を接着した。(溶液A)精製した バクミド DNA 5 μlに抗生物質を含まないSf-900SFM 100 μl加えた。(溶液B)Cell FECTINReagent(インビトロジェン社製) 6 μlに抗生物質を含まないSf-900SFM 100 μl加えた。その後、溶液Aおよび溶液Bを丁寧に混合して45分間、室温でインキュベートした。細胞が接着したことを確認して、培養液を吸引して抗生物質を含まないSf-900SFM 2 mlを加えた。溶液Aと溶液Bを混合して作製した溶液(lipid-DNA complexes)に抗生物質を含まないSf900II 800 μlを加えて丁寧に混和した。細胞から培養液を吸引し、希釈したlipid-DNA complexes溶液を細胞に加え、27℃で5時間インキュベーションした。その後、トランスフェクション混合物を除き、抗生物質を含むSf-900SFM培養液2 mlを加えて27℃で72時間インキュベーションした。トランスフェクションから72時間後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpm, 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清が一次ウイルス液となる)。
T75培養フラスコにSf21細胞 1×107 細胞/20ml Sf-900SFM(抗生物質入り)を入れて、27℃で1時間インキュベートした。細胞が接着したら一次ウイルスを800 μlを添加して、27℃で48時間培養した。48時間後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpm, 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存する(この上清を二次ウイルス液とした)。
さらに、T75培養フラスコにSf21細胞 1×107 細胞/20ml Sf-900SFM(抗生物質入り)を入れて、27℃で1時間インキュベートした。細胞が接着したら二次ウイルス液100 μlを添加して、27℃で72時間培養した。培養後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpm, 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清を三次ウイルス液とした)。加えて、100 ml用スピナーフラスコにSf21細胞 6×105 細胞/ml濃度で100 mlを入れ、三次ウイルス液を1 ml添加して27℃で約96時間培養した。培養後に、細胞及び培養液を回収した。これを3000 rpm, 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清を四次ウイルス液とした)。
G34のレジン精製
上記四次ウイルス液のpFLAG-G34上清10mlにNaN3(0.05 %)、NaCl (150 mM)、CaCl2 (2mM)、抗FLAG-M1レジン(Sigma 社)(100 μl)を混合し、4℃で一夜攪拌した。翌日遠心して(3000 rpm 5分、4℃)ペレットを回収し、2 mMのCaCl2・TBSを900μl加えて再度遠心分離(2000 rpm 5分、4℃)し、ペレットを200 μl の1 mM CaCl2・TBS に浮遊させ活性測定のサンプル(G34酵素液)とした。この一部をSDS-PAGEによる電気泳動について抗FLAG M2-ペルオキシダーゼ(SIGMA社製)を用いてウエスタンブロッテイングを行い、目的とするG34タンパク質の発現を確認した。その結果約60kDaの位置を中心としてブロードに複数のバンド(糖鎖などの翻訳後修飾の違いによるものと考えられる)が検出、発現が確認された。
実施例2:ヒトG34タンパク質の糖転移活性の探索
(1)GalNAc転移活性のスクリーニング
G34タンパク質のβ1,3−N−アセチルガラクトサミン転移活性について、基質特異性、至適緩衝液、至適pH、二価イオン要求性について検討を行った。
以下の反応系を用いて、G34酵素タンパク質のGalNAc転移活性における受容体基質特異性について検討した。
下記反応液の受容体基質には、pNp-α-Gal、oNp-β-Gal、Bz-α-GlcNAc、pNp-β-GlcNAc、Bz-α-GalNAc、pNp-β-GalNAc、pNp-α-Glc、pNp-β-Glc、pNp-β-GlcA、pNp-α-Fuc、pNp-α-Xyl、pNp-β-XylおよびpNp-α-Man(すべてSigma社)を各々10 nmolとして用いた。ここで「Gal」とはD−ガラクトース残基を示し、「Xyl」とはD−キシロース残基を示し、「Fuc」とはD−フコース残基を示し、「Man」とはD−マンノース残基を示す。「GlcA」はグルクロン酸残基を示す。
反応液(カッコ内は最終濃度)は、基質(10 nmol)、MES(2-モルフォリノエタンスルホン酸)(pH 6.5、50mM)、MnCl2(10 mM)Triton X-100(商品名) (0.1 %)、UDP-GalNAc (2 mM) およびUDP-[14C]GlcNAc (40 nCi)を混和し、これにG34酵素液を5 μl加えて、さらにH2Oを加えて全量20μlとした(表1参照)。
上記反応混合液を37℃で16時間反応させ、反応終了後、H2Oを200μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。1 mlのメタノールで1回洗浄後、1 mlのH2Oで2回洗浄して平衡化したSep-Pak plus C18 Cartridge(Waters社製)に該上清を通し、上清中の基質および生成物をカートリッジに吸着させた。1 mlのH2Oにて2回カートリッジを洗浄後、1 mlのメタノールで吸着した基質および生成物を溶出した。溶出液を5 mlの液体シンチレーターACSII(アマシャムバイオサイエンス社製)と混和し、シンチレーションカウンター(ベックマン・コールター社製)にて放射線の量を測定した。
その結果、G34タンパク質は、pNp-β-GlcNAcにGalNAcを転移させる活性を有するGalNAc転移酵素であることが判明した。また、当該酵素活性は、UDP-GlcNAcを供与体基質としBz-β-GlcNAcを受容体基質としたとき、少なくとも0〜16時間の反応時間経過に伴いリニアに上昇した(表2及び図1参照)。
結合形式の決定
G34酵素タンパク質により合成される糖鎖構造について、その結合形式をNMRにより解析した。
先ず反応液(カッコ内は最終濃度)はBz-β-GlcNAc (640 nmol)を受容体基質として、HEPES緩衝液(pH 7.4、14 mM) 、Triton CF-54(商品名) (0.3 %)、UDP-GalNAc (2 mM)、MnCl2(10 mM)及び G34酵素液500 μl加えた。さらにH2Oを加えて全量2 mlとした。この反応液を37℃にて16時間反応させた。反応液を5分間、95℃で加温することで反応を停止し、Ultrafree-MC(ミリポア社)によりろ過精製した。
一回の展開に50 μlのろ液を逆相カラムODS-80Ts QA(4.6×250 mm、東ソー株式会社)を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。展開溶媒として9%アセトニトリル-0.1%トリフルオロ酢酸水溶液を用いた。溶出条件は1 ml/分、40℃とした。溶出ピークの検出は210 nmにおける吸光度を指標とし、SPD-10Avp(島津製作所)を使用した。その結果、対照にはみられなかった新たな溶出ピークが認められた。このピークを分取し、凍結乾燥後、NMRの試料として用いた。
NMRはDMX750(ブルッカーダルトニクス社)を用いて行った。その結果、試料はGalNAcとGlcNAc-β1-o-Bzがβ1-3結合したものであると判断された(図2A及び図2B参照)。このように判断した根拠として以下の点が挙げられる(図2A及び図2Bと共に図3及び4を参照されたい)。a)2つの残基(A、Bとする)の一位の信号のピストン結合定数が共に8.4 Hzであり、2つのピラノースはβ型である。b)図3中にスピン結合定数が示されるが、Aはグルコースに特徴的なスピン結合定数を示し、Bはガラクトースに特徴的なスピン結合定数を示す。c)ベンジルのメチレンプロトンとA1プロトンの間にNOEが見られたためにAがベンジルの結合した残基であると分かる。d)N-アセチルのメチルの信号が2つあり、2つの残基がN-アセチル化された糖であることが分かる。e)NOESYにB1-A3のNOEが存在する。
他方、上記酵素活性に関与するモチーフ配列についての検討も行った。
図5は、G34タンパク質の推定アミノ酸配列(配列番号2)と各種のヒトβ1-3Gal転移酵素(β3Gal-T1〜T6)のアミノ酸配列との対比を示す。図5中、枠で囲まれた部分はGal転移酵素に共通するモチーフを示すが、そのうち、M1〜3の枠で囲まれた3つのモチーフはβ1,3結合性糖転移酵素に共通するモチーフである。また同図中の*印は、比較された配列間で保存されているアミノ酸残基を示す。
図6は、各種β1-3GlcNAc転移酵素(β3Gn-T2〜T5)及びヒトGal転移酵素T1〜T3, T5, T6との間で、β1,3結合形成能に関与する3つのモチーフ(図5の前記M1〜3のモチーフに相当する)における対比を示している。同図中の*印は、比較された配列間で保存されているアミノ酸残基を示す。
図5及び図6で示されるように、G34タンパク質のアミノ酸配列は、公知の各種β1,3結合性糖転移酵素のアミノ酸配列との対比において、β1,3結合に関するモチーフ(M1〜3)をすべて有すると言えるだけの保存性を有していることが分かった。
かくして、G34タンパク質がGlcNAcにGalNAcをβ1,3のグリコシド結合で転移する活性を有するとの結論はモチーフに関する検討からも支持された。
至適緩衝液および至適pH
以下の反応系を用いて、G34のGalNAc転移活性における至適緩衝液および至適pHについて検討した。受容体基質はpNp-β-GlcNAcを用いた。
緩衝液(カッコ内は最終濃度)はMES(2-モルフォリノエタンスルホン酸)緩衝液(pH 5.5、5.78、6.0、6.5および6.75、50 mM)、カコジル酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0、5.6、6.0、6.2、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4および7.5、25 mM)およびN−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N'−[2−エタンスルホン酸(HEPES)緩衝液(pH 6.75、7.00、7.30、7.40および7.50、14 mM)のいずれかを用いた。基質(10 nmol)、MnCl2(10 mM)、Triton CF-54(商品名) (0.3%)、UDP-GalNAc (2 mM) およびUDP-[14C]GlcNAC (40 nCi)これにG34酵素液を5 μl加えて、さらにH2Oを加えて全量20μlとした。
上記反応混合液を37℃で16時間反応させ、反応終了後、H2Oを200μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。1 mlのメタノールで1回洗浄後、1 mlのH2Oで2回洗浄して平衡化したSep-Pak plus C18 Cartridge (Waters社製)に該上清を通し、上清中の基質および生成物をカートリッジに吸着させた。1 mlのH2Oにて2回カートリッジを洗浄後、1 mlのメタノールで吸着した基質および生成物を溶出した。溶出液を5 mlの液体シンチレーターACSII(アマシャムバイオサイエンス社製)と混和し、シンチレーションカウンター(ベックマン・コールター社製)にて放射線の量を測定した。
その結果(表3及び図7参照)から、MES緩衝液においては検討した範囲ではpH 5.50とpH 5.78で同等の強い活性を示し、pH 6.5までpH依存的に低下し、pH 6.75で強い活性を示した。カコジル酸ナトリウム緩衝液において検討した範囲ではpH 5.0で最も活性が高く、pH 6.2までpH依存的に活性が低下し、さらにpH 7.0までpH依存的に強くなり、pH 7.4までプラトーとなった。HEPES緩衝液においては検討した範囲ではpH依存的に活性が増強し、pH7.4ないし 7.5で最も強い活性を示した。これらの中でHEPES緩衝液pH 7.4ないし7.5が最も強い活性を示した。
以下の反応系を用いて二価イオンの要求性について検討した。受容体基質はBz-β-GlcNAcを用いた。
反応液(カッコ内は最終濃度)は、基質(10 nmol)、HEPES緩衝液(pH 7.4、14 mM)、Triton CF-54(商品名) (0.3 %)、UDP-GalNAc (2 mM)およびUDP-[14C]GlcNAC (40 nCi)、G34酵素液5 μl加えた。これにMnCl2、MgCl2またはCoCl2を2.5 mM、5 mM、10 mM、20 mMおよび40 mM添加し、さらにH2Oを加えて全量20μlとした。
上記反応混合液を37℃で16時間反応させ、反応終了後、H2Oを200μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。1 mlのメタノールで1回洗浄後、1 mlのH2Oで2回洗浄して平衡化したSep-Pak plus C18 Cartridge(Waters社製)に該上清を通し、上清中の基質および生成物をカートリッジに吸着させた。1 mlのH2Oにて2回カートリッジを洗浄後、1 mlのメタノールで吸着した基質および生成物を溶出した。溶出液を5 mlの液体シンチレーターACSII(アマシャムバイオサイエンス社製)と混和し、シンチレーションカウンター(ベックマン・コールター社製)にて放射線の量を測定した。
その結果(表4及び図8参照)から、各二価イオン添加により活性は増強し、G34タンパク質は二価イオン要求性の酵素であることが確認された。その活性はMnおよびCoで5 nM以上、Mgで10 nM以上の濃度でほぼプラトーであった。また、Mnによる活性の増強はCuの添加により完全に消失した。
オリゴ糖に対する基質特異性
以下の反応系を用いてオリゴ糖に関する受容体基質特異性について検討した。受容体基質はpNp-α-Gal、oNp-β-Gal、Bz-α-GlcNAc、Bz-β-GlcNAc、Bz-α-GalNAc、pNp-β-GalNAc、pNp-α-Glc、pNp-β-Glc、pNp-β-GlcA、pNp-α-Fuc、pNp-α-Xyl、pNp-β-Xyl、pNp-α-Man、ラクトシド-Bz、Lac-セラミド、Gal-セラミド、パラグロボシド、グロボシド、Gal-β1-4 GalNAc-α-pNp、Gal-β1-3 GlcNAc-β-pNp、GlcNAc-β1-4 GlcNAc β-Bz、pNp-core1(Gal-β1-3 GalNAc-α-pNp)、pNp-core2 (Gal-β1-3 (GlcNAc-β1-6) GalNAc-α-pNp)、pNp-core3 (GlcNAc-β1-3 GalNAc-α-pNp)およびpNp-core6 (GlcNAc-β1-6 GalNAc-α-pNp)を用いた。なお「Lac」とはD−ラクトース残基を示す。
反応液(カッコ内は最終濃度)は基質(50 nmol)、HEPES緩衝液(pH 7.4、14 mM) 、Triton CF-54(商品名) (0.3 %)、UDP-GalNAc (2 mM)、MnCl2(10 mM)、UDP-[3H]GlcNAcおよびG34酵素液5 μl加えた。さらにH2Oを加えて全量20μlとした。
上記反応混合液を37℃で2時間反応させ、反応終了後、H2Oを200μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。1 mlのメタノールで1回洗浄後、1 mlのH2Oで2回洗浄して平衡化したSep-Pak plus C18 Cartridge(Waters社製)に該上清を通し、上清中の基質および生成物をカートリッジに吸着させた。1 mlのH2Oにて2回カートリッジを洗浄後、1 mlのメタノールで吸着した基質および生成物を溶出した。溶出液を5 mlの液体シンチレーターACSII(アマシャムバイオサイエンス社製)と混和し、シンチレーションカウンター(ベックマン・コールター社製)にて放射線の量を測定した。
その結果をBz-β-GlcNAcを基質に用いたときの放射活性を100%とし、比較した(表5参照)。pNp-core2を基質としたときに最も放射活性の上昇が認められた。ついでBz-β-GlcNAc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz、pNp-core6、pNp-core3の順に放射活性の上昇が認められた。その他の基質には放射活性の上昇は認められなかった。
(2)HPLC分析法による活性の確認
糖残基供与体基質としてウリジン二リン酸−N−アセチルガラクトサミン(UDP-GalNAc:シグマ-アルドリッチ社)、糖残基受容体基質としてBz-β-GlcNAcを使用して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるG34の酵素活性の分析を行った。
反応液(カッコ内は最終濃度)は、Bz-β-GlcNAc (10 nmol)、HEPES緩衝液(pH 7.4、14 mM)、Triton CF-54(商品名) (0.3 %)、UDP-GalNAc (2 mM)、MnCl2(10 mM)及びG34酵素液10 μlを加えた。さらにH2Oを加えて全量20μlとした。この反応液を37℃にて16時間反応させた。反応液にH2Oを100 μl加えることで反応を停止し、Ultrafree-MC(ミリポア社)によりろ過精製した。
10 μlのろ液を逆相カラムODS-80Ts QA(4.6×250 mm、東ソー株式会社)を用いて高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。展開溶媒として9%アセトニトリル-0.1%トリフルオロ酢酸水溶液を用いた。溶出条件は1 ml/分、40℃とした。溶出ピークの検出は210 nmにおける吸光度を指標とし、SPD-10Avp(島津製作所)を使用した。
その結果、対照にはみられなかった新たな溶出ピークが認められた。
(3)質量分析法による反応生成物の分析
上述のピークを回収し、質量分析法による反応生成物の分析を行った。マトリックス支援レーザーイオン化−飛行時間質量分析(MALDI-TOF-MS)はReflex IV(ブルッカーダルトニクス社)を使用して行った。MALDI-TOF-MS用の試料は10 pmolの試料を乾燥させ、1 μlの蒸留水に溶解して使用した。
その結果、538.194 m/zのピークが観察された。このピークはGalNAc-GlcNAc-Bz(ナトリウム塩)の分子量に相当していた。
この結果からも、G34酵素タンパク質は、Bz-β-GlcNAcに対しGalNAcを転移することが明らかとなった。
実施例3:ヒトG34のmRNA発現量の測定
(1)各種ヒト正常組織における発現量
定量的リアルタイムPCR法を用いてヒト正常組織内のG34のmRNA発現量を比較した。ここで定量的リアルタイムPCR法とは、PCRにおいてセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーに加え、蛍光標識されたプローブを組合わせる方法である。PCRにより増幅する際、プローブの蛍光標識が外れて蛍光を示す。蛍光強度が遺伝子の増幅に相関して増幅するためこれを指標として定量が行われる。
各ヒト正常組織のRNA(クロンテック社)をRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で抽出し、Super-Script First-Strand Synthesis System(インビトロジェン社製)を用いたoligo (dT)法によりsingle strand DNAとした。このDNAを鋳型として用いて5'プライマー(配列番号14)と3'プライマー(配列番号15)及びTaqMan プローブ(配列番号16)を用いてABI PRISM 7700(アプライドバイオシステムズジャパン社製)により定量的リアルタイムPCRを行った。PCRの条件は50℃ 2分、95℃ 10分で反応させた後、95℃ 15秒、60℃ 1分を50回繰り返した。検量線はpFLAG-CMV3(インビトロジェン社)にG34の部分配列を導入したプラスミドDNAを鋳型として用い、上述の方法によりPCRを行って作成した。
その結果から、精巣で特異的に高い発現が確認され、次いで骨格筋、前立腺の順に高い発現が認められた(表6)。
(2)ヒト癌細胞株における発現量
上述の定量的リアルタイムPCR法を用いて各種癌由来のヒト細胞株内でのG34のmRNA発現量を比較した。各ヒト細胞株の細胞を回収した後、RNAをRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で抽出し、Super-Script First-Strand Synthesis System(インビトロジェン社製)を用いたoligo (dT)法によりsingle strand DNAとした。このDNAを鋳型として用いて5'プライマー(配列番号14)と3'プライマー(配列番号15)及びTaqMan プローブ(配列番号16)を用いてABI PRISM 7700(アプライドバイオシステムズジャパン社製)により定量的リアルタイムPCRを行った。PCRの条件は50℃ 2分、95℃ 10分で反応させた後、95℃ 15秒、60℃ 1分を50回繰り返した。
その結果、全てのヒト細胞株で発現が認められた(表7、図9)。
(3)癌化組織における発現量
上述の定量的リアルタイムPCR法を用いて大腸癌及び肺癌の患者由来の癌組織及びその周辺の正常組織におけるG34のmRNA発現量を比較した。
癌組織と同一患者の正常組織のRNAをRNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で抽出し、Super-Script First-Strand Synthesis System(インビトロジェン社製)を用いたoligo (dT)法によりsingle strand DNAとした。このDNAを鋳型として用いて5'プライマー(配列番号14)と3'プライマー(配列番号15)及びTaqMan プローブ(配列番号16)を用いてABI PRISM 7700(アプライドバイオシステムズジャパン社製)により定量的リアルタイムPCRを行った。PCRの条件は50℃ 2分、95℃ 10分で反応させた後、95℃ 15秒、60℃ 1分を50回繰り返した。得られた数値は個体間のばらつきを補正するため内標準遺伝子としてアプライドバイオシステムズジャパン社製のキットを用いて定量したβ-actinにより除し、比較を行った。
その結果、それら癌化組織内ではG34遺伝子のmRNA発現量が有意に増加していることが明らかとなった(表8、表9)。
実施例4:マウスG34遺伝子のクローニングと発現
実施例1で得られたヒトG34の配列をクエリーとしてアプライドバイオシステムズ社のマウス遺伝子配列serelaに対して検索を行った結果、高いホモロジーを有する対応核酸配列を見出した。この核酸配列から予測されるオープンリーディングフレーム(ORF)は1515 bp(配列番号3)、アミノ酸配列にして504アミノ酸(配列番号4)からなり、N末端に糖転移酵素の特徴である疎水アミノ酸領域を有する。ヒトG34(配列番号1及び2)との相同性は核酸配列で86%、アミノ酸配列で88%である(図10参照)。また、β3GalTファミリーが保持している3つのモチーフ全てを保持している。我々は、配列番号3の核酸配列及び配列番号4のアミノ酸配列がコードするものをマウスG34(mG34)と命名した。
mG34の活性を調べるためにG34を哺乳類由来細胞株で発現させた。本実施例では、mG34の35番アミノ酸からC末端までの活性領域をFLAG Protein Expression System(シグマアルドリッチ社)により哺乳類由来細胞株発現ベクターpFLAG-CMV3に遺伝子導入した。
マウス組織における発現をPCR法により確認した。マウス組織(脳、胸腺、胃、小腸、大腸、肝臓、膵臓、脾臓、腎臓、精巣及び骨格筋)を鋳型とし、5'プライマー(mG34-CMV-F1:配列番号17)と3'プライマー(mG34-CMV-R1:配列番号18)を用いてPCR反応を行った。PCR法は98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 2分を25回繰り返す条件で行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動を行い、約1500 bpのバンドを確認した。その結果、表10に示されるように、精巣での発現が最も高く、ついで脾臓及び骨格筋の順に発現が認められた。
マウス精巣から得られたcDNAを鋳型とし5'プライマー(mG34-CMV-F1:配列番号17)と3'プライマー(mG34-CMV-R1:配列番号18)を用いてPCR反応を行い目的のDNA断片を得た。PCR法は98℃ 10秒、55℃ 30秒、72℃ 2分を25回繰り返す条件で行った。そしてPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、ゲル切り出し法でゲルを切り出して定法により単離した。このPCR産物は制限酵素サイトとして5'側にHindIII、3'側にNotIを有する。
このDNA断片とpFLAG-CMV3を、各々制限酵素であるHindIII及びNotIにて処理した後、反応液を混合し、ライゲーション反応を行うことでpFLAG-CMV3に導入した。反応液をエタノール沈殿法により精製した後、コンピテントセル(大腸菌DH5α)と混合し、ヒートショック法(42℃、30秒)を行い、アンピシリンを含むLB寒天培地に播いた。
翌日得られたコロニーを、直接PCRで目的DNAを確認した。さらに確実を期すためシーケンシングによりDNA配列の確認をした後、ベクター(pFLAG-CMV3-mG34A)を抽出・精製した。
ヒト腎臓細胞由来細胞株293T細胞2×106個を抗生物質を含まない10%ウシ胎児血清入りのDMEM培地(インビトロジェン社)10 mlにて懸濁し、10 cmディッシュに播き、16時間37℃にてCO2インキュベータにて培養した。pFLAG-CMV3-mG34Aの20 ng及びLipofectamin 2000(インビトロジェン社)30 μlをOPTI-MEM(インビトロジェン社)1.5 mlと各々混和し、室温にて5分間インキュベーションした。更に二つの液を緩やかに混和し、室温にて20分間インキュベーションした。この混合液をディッシュに滴下し、48時間37℃にてCO2インキュベータにて培養した。
上清10mlにNaN3(0.05 %)、NaCl (150 mM)、CaCl2 (2 mM)、抗M1レジン(Sigma 社)(100 μl)を混合し、4℃で一夜攪拌した。翌日遠心して(3000 rpm 5分、4℃)ペレットを回収し、2 mMのCaCl2・TBSを900μl加えて再度遠心分離(2000 rpm 5分、4℃)し、ペレットを200 μlの1 mM CaCl2・TBSに浮遊させ活性測定のサンプル(マウスG34酵素液)とした。この一部をSDS-PAGEによる電気泳動について抗FLAG M2-ペルオキシダーゼ(SIGMA社製)を用いてウエスタンブロッテイングを行い、目的とするmG34タンパク質の発現を確認した。その結果、約60kDaの位置にバンドが検出、発現が確認された。
実施例5:マウスG34の糖転移活性の探索
以下の反応系を用い、マウスG34のβ1,3−N−アセチルガラクトサミン転移活性における基質特異性について検討した。下記反応液の「受容体基質」には、pNp-α-Gal、oNp-β-Gal、Bz-α-GlcNAc、Bz-β-GlcNAc、Bz-α-GalNAc、pNp-β-GalNAc、pNp-α-Glc、pNp-β-Glc、pNp-β-GlcA、pNp-α-Fuc、pNp-α-Xyl、pNp-β-Xyl、pNp-α-Man、ラクトシド-Bz、Lac-セラミド、Gal-セラミド、Gb3、グロボシド、Gal-β1-4GalNAc-α-pNp、Galβ1-3GlcNAc-β-Bz、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bz、core1-pNp、core2-pNp、core3-pNpおよびcore6-pNp(すべてSigma社)を各々10 nmolとして用いた。
反応液(カッコ内は最終濃度)は基質(10 nmol)、HEPES(N−[2-ヒドロキシエチル]ピペラジン−N'−[2−エタンスルホン酸])(pH 7.4、14 mM)、MnCl2(10 mM)Triton CF-54(商品名) (0.3 %)、UDP-GalNAc (2 mM) およびUDP-[14C]GlcNAC (40 nCi)を混和し、これにマウスG34酵素液を5 μl加えて、さらにH2Oを加えて全量20μlとした。
上記反応混合液を37℃で16時間反応させ、反応終了後、H2Oを200μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。1 mlのメタノールで1回洗浄後、1 mlのH2Oで2回洗浄して平衡化したSep-Pak plus C18 Cartridge (Waters社製)に該上清を通し、上清中の基質および生成物をカートリッジに吸着させた。1 mlのH2Oにて2回カートリッジを洗浄後、1 mlのメタノールで吸着した基質および生成物を溶出した。溶出液を5 mlの液体シンチレーターACSII(アマシャムバイオサイエンス社製)と混和し、シンチレーションカウンター(ベックマン・コールター社)にて放射線の量を測定した。
その結果は、Bz-β-GlcNAcを基質に用いたときの放射活性を100%として比較した(表11)。Bz-β-GlcNAcを基質としたときに最も放射活性の上昇が認められた。ついでcore2-pNp、core6-pNp、core3-pNp、pNp-β-Glc、GlcNAc-β1-4-GlcNAc-β-Bzの順に高い放射活性が認められた。その他の基質には放射活性の上昇は認められなかった。
実施例6:マウス精巣に対するin situハイブリダイゼーション
マウス精巣由来の試料にmG34を使用したin situハイブリダイゼーションを行い、マウス精巣試料におけるmG34の発現を確認した(図11参照)。
実施例7:G34ノックアウトマウスの作製
ノックアウトしたい遺伝子(mG34)の活性化ドメインを含むexon(mG34の場合にはORF部分の3番目から12番目のexon(1242 bp))を含む約10 kb断片を中心とした染色体断片(約10 kb)をpBluescript II SK(-)(TOYOBO製)に挿入したターゲティングベクター(pBSK-mG34-KOneo)を作製する。pBSK-mG34-KOneoには薬物耐性遺伝子としてneo(ネオマイシン耐性遺伝子)をmG34の予測されるGalNAc転移活性領域である7番目から9番目のexonに導入する。その結果、mG34の7番目から9番目のexonが欠失し、この部分がneoで置換される。こうして得られたpBSK-mG34-KOneoを制限酵素であるNotIにて直鎖状とした後、80 μgをES細胞(E14 / 129Svマウス由来)にトランスフェクション(エレクトロポレーション等)し、G418耐性のコロニーを選択する。G418耐性コロニーを24ウェルプレートに移し、培養を行う。細胞の一部を凍結保存した後、残りのES細胞からDNAを抽出し、PCRにより組み換えが起こっているクローンを120コロニー程度選択する。さらに、サザンブロッティング等により組み換えが予定通り起こっているかの確認を行い、最終的に組み換え体を10クローン程度選択する。選択したうちの2クローンのES細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞内に注入する。ES細胞を注入したマウス胚を仮親マウスの子宮内へ移植してキメラマウスを誕生させる。その後、ジャームトランスミッションによりヘテロノックアウトマウスを得ることができる。