JP4253704B2 - 新規n−アセチルガラクトサミン転移酵素及びそれをコードする核酸 - Google Patents

新規n−アセチルガラクトサミン転移酵素及びそれをコードする核酸 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有する新規な酵素及びそれをコードする核酸、並びに該核酸を測定するための核酸に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンドロイチン硫酸及びデルマタン硫酸はプロテオグリカンの糖鎖部分であるグリコサミノグリカンである。しかし、その合成酵素で知られているものは限られている[Kitagawa,Hら(2001)]。グリコサミノグリカンのリンケージ部分の基本4糖(グルクロン酸β1,3ガラクトースβ1,3ガラクトースβ1,4キシロース)のグルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンをβ−1,4結合で付加する酵素は、コンドロイチン硫酸若しくはデルマタン硫酸と、ヘパラン硫酸若しくはヘパリンを分ける重要な酵素でありながら未だ同定されていない。従って、コンドロイチン硫酸若しくはデルマタン硫酸を作製または製造するためには、生体成分より分離するか、細胞或いは組織ホモジネートを使用して酵素学的に合成しなければならない。一方、コンドロイチン硫酸は医薬品、健康食品等のニーズが大きく、近年その硫酸化のされ方により、機能が異なることが明らかになってきた[Sugahara,Kら(2000)]。よって、機能性コンドロイチン硫酸を生産する手法としては、一定の産物のみを合成できる酵素合成法が有効である。さらに、コンドロイチン硫酸は、甲状腺癌において増加することが知られており[Shibata,Yら(1986)]、該酵素遺伝子の発現量の変化を調べることは、診断や治療においても重要であると考えられる。
【0003】
【非特許文献1】
Kitagawa,H et al.,J.Biol.Chem.,276,38721−38726(2001)
【0004】
【非特許文献2】
Sugahara,K et al.,TiGG,12,321−349(2000)
【0005】
【非特許文献3】
Shibata,Y et al.,Endocrinol Jpn.,31,501−507(1986)
【0006】
【非特許文献4】
Gotoh,M et al.,J.Biol.Chem.,277,38189−38195(2002)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有する酵素を単離し、その遺伝子の構造を明らかにすることにより、該酵素の遺伝子工学的な生産や、該遺伝子に基づく疾患の診断が可能になる。しかしながら、該酵素は、未だ精製分離もされておらず、該酵素の単離及び遺伝子の同定についての手がかりはない。そのために、該酵素に対する抗体も作製されていない。
【0008】
従って、本発明の目的は、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有する酵素及びそれをコードする核酸を提供することである。また、本発明の目的は、該核酸を宿主細胞内で発現する組換えベクター及び該核酸が導入され、前記核酸および酵素タンパク質を発現する細胞を提供することである。また、発現該酵素タンパク質は、抗体作製用に利用でき、該酵素タンパク質の産生方法を提供するものである。さらに、発現該酵素タンパク質および該酵素タンパク質に対する抗体を用いたい免疫組織染色およびRIAやEIAなどの免疫測定法に利用できる。さらに、本発明の目的は、上記本発明の核酸を測定するための測定用核酸を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の通り、目的とする酵素は、未だ単離されていないので、その部分アミノ酸配列を知ることもできない。一般に、細胞に微量しか含まれていないタンパク質を単離精製することは容易ではなく、現在に至るまで単離されていない酵素を細胞から単離することは容易でないことが予想される。本願発明者は、目的とする酵素と比較的類似した作用を有する種々の酵素遺伝子の塩基配列間に、もしも相同性の高い領域が存在していれば、目的とする酵素の遺伝子もその相同配列を有しているかもしれないと考えた。そして、公知のβ1,4−ガラクトース転移酵素の塩基配列を検索した結果、相同な領域が見つかった。そこで、この相同領域にプライマーを設定してcDNAライブラリーから5’RACE(rapidamplification of cDNA ends)法で全長のオープンリーディングフレームを同定し、PCRで該酵素の遺伝子のクローニングに成功し、その塩基配列及び推定アミノ酸配列を決定することができ、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、配列表の配列番号1若しくは2に示されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは複数のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質を提供する。また、本発明は、該タンパク質をコードする核酸を提供する。さらに、本発明は、該核酸を含み、宿主細胞中で該核酸を発現することができる組換えベクターを提供する。さらに、本発明は、該組換えベクターにより形質転換され、前記核酸を発現する細胞を提供する。さらに、本発明は、核酸と特異的にハイブリダイズする、該核酸の測定用核酸ならびに測定用キットを提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の説明のために、好ましい実施形態に関して詳述する。
(1)タンパク質
下記実施例において詳述する方法によりクローニングされた、本発明のタンパク質をコードする核酸は、配列表の配列番号2に示される塩基配列を有し、それがコードする推定アミノ酸配列が、該塩基配列の下に記載されている。配列番号1には、該アミノ酸配列のみを取り出して示す。
【0012】
下記実施例で得られた本発明のタンパク質(本明細書では「GalNAc−T」と命名)は、次の性質を有する酵素である。なお、各性質及びその測定方法は下記実施例において詳述されている。
作用: グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する。
触媒する反応を反応式で記載すると、
グルクロン酸−R + UDP−N−アセチル−D−ガラクトサミン → N−アセチル−D−ガラクトサミニル−グルクロン酸−R + UDP
(GlcA−R + UDP−GalNAc → GalNAc−GlcA−R + UDP)
基質特異性: グルクロン酸、例えば、グルクロン酸β1−3−R(Rは、Gal、Galβ1−3Galβ1−4Xyl、p−ニトロフェノール等の水酸基とエーテル結合した残基)、又はコンドロイチン若しくはコンドロイチン硫酸中のグルクロン酸
本発明によれば、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質が提供される。本発明のタンパク質は、本願明細書に記載した特徴を有する限り、その起源、製法等は限定されない。即ち、本発明のタンパク質は、天然産のタンパク質、遺伝子工学的手法により組換えDNAから発現されたタンパク質、あるいは化学合成タンパク質の何れでもよい。
【0013】
本発明のタンパク質は、典型的には、配列番号1に記載したアミノ酸残基542個からなるアミノ酸配列を有する。
なお、一般に、酵素のような生理活性を有するタンパク質において、そのアミノ酸配列のうち、1若しくは複数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは複数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加された場合であっても、該生理活性が維持されることがあることは周知である。また、天然のタンパク質の中には、それを生産する生物種の品種の違いや、生態型(ecotype)の違いによる遺伝子の変異、あるいはよく似たアイソザイムの存在等に起因して、1から複数個のアミノ酸変異を有する変異タンパク質が存在することは知られている。従って、配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは複数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質(以下、便宜的に「修飾タンパク質」)も本発明の範囲に含まれる。
【0014】
ここで、「複数個」とは、好ましくは1−200個、より好ましくは1−100個、さらにより好ましくは1−50個、最も好ましくは1−20個である。一般的には、部位特異的な変異によってアミノ酸が置換された場合に、元々のタンパク質が有する活性は保持される程度に置換が可能なアミノ酸の個数は、好ましくは1−10個である。
【0015】
さらに、該修飾タンパク質としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列又は該配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものが特に好ましい。
【0016】
本発明のタンパク質は、クローニングされた核酸の塩基配列からの推定に基づいて、配列番号1のアミノ酸配列を有するが、その配列を有するタンパク質のみに限定されるわけではなく、本明細書中に記載した特性を有する限り全ての相同タンパク質を含むことが意図される。同一性は、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
【0017】
本発明のタンパク質について、GENETYX(ゼネティックス社)による同一性検索を行うと、最も似ているコンドロイチン硫酸N−アセチルガラクトサミン転移酵素(Gotoh,M et al.,J.Biol.Chem.,277,38189−38196(2002))とは60.3%の同一性である。したがって、本発明のタンパク質は新規なタンパク質であると考えられる。
【0018】
なお、GENETYXは、核酸解析、タンパク質解析用の遺伝情報処理ソフトウェアで、通常のホモロジー解析やマルチアラインメント解析の他、シグナルペプチド予測やプロモーター部位予測、二次構造予測が可能である。また、本明細書で用いたホモロジー解析プログラムは、高速・高感度な方法として多用されているLipman−Pearson法(Lipman,D.J.&Pearson,W.R.,Science,277,1435−1441(1985))を採用している。
【0019】
本明細書において、同一性のパーセントは、例えば、Altschulら(Nucl.Acids.Res.25.,p.3389−3402,1997)に記載されているBLASTプログラム、あるいはPearsonら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,p.2444−2448,1988)に記載されているFASTAを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。各プログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。なお、当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、使用可能である。
【0020】
一般的に、同様の性質を有するアミノ酸同士の置換(例えば、ある疎水性アミノ酸から別の疎水性アミノ酸への置換、ある親水性アミノ酸から別の親水性アミノ酸への置換、ある酸性アミノ酸から別の酸性アミノ酸への置換、あるいはある塩基性アミノ酸から別の塩基性アミノ酸への置換)を導入した場合、得られる修飾タンパク質はもとのタンパク質と同様の性質を有することが多い。遺伝子組換え技術を使用して、このような所望の変異を有する組換えタンパク質を作製する手法は当業者に周知であり、このような修飾タンパク質も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
本発明のタンパク質は、例えば、後述の実施例に従って、本発明の核酸による配列番号2に記載のDNA配列を大腸菌、酵母、昆虫、または動物細胞に、それぞれの宿主で増幅可能な発現ベクターを用いて導入および発現させることにより、当該タンパク質を大量に得ることができる。
【0022】
本発明によって、このタンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列が開示されれば、当該配列またはその一部を利用して、ハイブリダイゼーション、PCR等の核酸増幅反応等の遺伝子工学的手法を用いて、他の生物種から同様の生理活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を容易に単離することができる。このような場合、それらの遺伝子がコードする新規タンパク質も本発明の範囲に含まれる。
【0023】
なお、本発明のタンパク質は、そのアミノ酸配列が上述した通りのものであり、前記酵素活性を有するものであれば、タンパク質に糖鎖が結合していてもよい。
【0024】
より具体的には、後述する実施例5に記載したように、本発明のタンパク質における受容体基質の探索から、該タンパク質は、グルクロン酸にGalNAcを転移する活性を有するものである。
【0025】
さらに、本発明のタンパク質は、後述する実施例7ないし9に記載したように、コンドロイチン又はコンドロイチン硫酸内のグルクロン酸にGalNAcを転移する活性を有するものである。コンドロイチン又はコンドロイチン硫酸は、二糖の、1回ないし10回、好ましくは3回ないし7回程度の繰り返し構造を有するオリゴサッカライドでもよく、あるいはより長いポリサッカライドでもよい。一般には、ポリサッカライドへの糖転移活性の方がオリゴサッカライドへの活性よりも高い。また、コンドロイチン硫酸には、A型(コンドロイチン 4−硫酸)、B型(「デルマタン硫酸」ともいう)、C型(コンドロイチン 6−硫酸)、D型等、硫酸基の位置、数を異にする数種類の異型が知られている。本発明のタンパク質はいずれの異型に対しても糖転移活性を奏する。
【0026】
さらに、グリコサミノグリカン・リンケージ4糖(GlcAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1)のGlcAβ1−3へのGalNAcを転移する活性も有する(実施例7−8、表1等)。
【0027】
(2)核酸
本発明は、配列番号1若しくは2で示されるアミノ酸配列をコードする核酸及び上記修飾タンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸も提供する。本発明の核酸は、一本鎖および二本鎖型両方のDNA、およびそのRNA相補体も含む。DNAには、例えば、天然由来のDNA、組換えDNA、化学合成したDNA、PCRによって増幅されたDNA、およびそれらの組み合わせが含まれる。本発明の核酸としては、DNAが好ましい。なお、周知の通り、コドンには縮重があり、1つのアミノ酸をコードする塩基配列が複数存在するアミノ酸もあるが、上記アミノ酸配列をコードする塩基配列であれば、いずれの塩基配列を有するものも本願発明の範囲に含まれる。なお、下記実施例において実際にクローニングされたcDNAの塩基配列が配列番号2に示されている。よって、本発明の核酸は、好ましくは配列番号2の塩基1ないし1626を有する。
【0028】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、中程度又は高程度なストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Vol.1、7.42-7.45 Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0 mM EDTA (pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(又は約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark's solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般的に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。当業者は、温度および洗浄溶液塩濃度は、プローブの長さ等の要因に従って、必要に応じて調整可能であることを認識するであろう。
【0029】
本発明の核酸は、例えば以下の方法により調製することが可能である。
公知のβ−1,4−ガラクトース転移酵素の塩基配列(GenBank Accession No. AL161445, AF038660, AF038661, AF022367, AF038663, AF038664)をクエリーとして塩基配列の検索を行い、EST配列(GenBank Accession No.NM_018950, AF116646, NT_008776)を得ることができた。この塩基配列又はその一部を利用して、ハイブリダイゼーションや核酸増幅反応等の遺伝子工学の基本的手法を用いてcDNAライブラリーなどから本発明核酸(例えば本発明DNA)を調製することができる。
【0030】
ここで、核酸増幅反応は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Saiki R.K., et al., Science, 230, 1350-1354 (1985)]、ライゲース連鎖反応(LCR)[Wu D. Y., et al., Genomics, 4, 560-569 (1989); Barringer K. J., et al., Gene, 89, 117-122 (1990); Barany F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 189-193 (1991)]及び転写に基づく増幅[Kwoh D. Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 1173-1177 (1989)]等の温度循環を必要とする反応、並びに鎖置換反応(SDA)[Walker G. T., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 392-396 (1992); Walker G. T., et al., Nuc. Acids Res., 20, 1691-1696 (1992)]、自己保持配列複製(3SR)[Guatelli J. C., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 1874-1878 (1990)]およびQβレプリカーゼシステム[リザイルディら、BioTechnology 6, p.1197-1202 (1988)]等の恒温反応を含む。また、欧州特許第0525882号に記載されている標的核酸と変異配列の競合増幅による核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification: NASABA)反応等も利用可能である。好ましくはPCR法である。
【0031】
実施例1に示すように、配列番号3及び4のプライマーを使用した場合、PCR産物として約1.4kbpのDNA断片が得られるので、これを例えばアガロースゲル電気泳動等の分子量によりDNA断片を篩い分ける方法で分離し、特定のバンドを切り出す方法等の常法に従って単離して本発明の核酸を得ることができる。
【0032】
上記のようなハイブリダイゼーション、核酸増幅反応等を使用してクローニングされる相同な核酸は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらになお好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する。
【0033】
同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。あるいは、2つの核酸配列の同一性パーセントは、Devereuxら,Nucl. Acids Res. 12: 387, 1984に記載され、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラム、バージョン6.0を用いて、配列情報を比較することによって、決定可能である。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドに関する単一(unary)比較マトリックス(同一に対し1および非同一に対し0の値を含む)、並びにSchwartz及びDayhoff監修,Atlas of Protein Sequence and Structure, pp.353-358, National Biomedical Research Foundation, 1979に記載されるような、Gribskov及びBurgess, Nucl. Acids Res. 14: 6745, 1986の加重比較マトリックス;(2)各ギャップに対する3.0のペナルティおよび各ギャップ中の各記号に対しさらに0.10のペナルティ;及び(3)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、使用可能である。
【0034】
(3)組換えベクターと形質転換体
本発明によれば、単離した本発明の核酸を含む組換えベクターが提供される。プラスミド等のベクターに本発明核酸のDNA断片を組込む方法としては、例えば、Sambrook, J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, 1.1 (2001)に記載の方法などが挙げられる。簡便には、市販のライゲーションキット(例えば、宝酒造製等)を用いることもできる。このようにして得られる組換えベクター(例えば、組換えプラスミド)は、宿主細胞(例えば、大腸菌DH5α、TB1、LE392、又はXL-LE392又はXL-1Blue等)に導入される。
【0035】
プラスミドを宿主細胞に導入する方法としては、Sambrook, J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, 16.1 (2001)に記載の塩化カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。
【0036】
ベクターは、簡単には当業界において入手可能な組換え用ベクター(例えば、プラスミドDNA等)に所望の遺伝子を常法により連結することによって調製することができる。用いられるベクターの具体例としては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えば、pDONR201、pBluescript、pUC18、pUC19、pBR322等が例示されるが、これらに限定されない。
【0037】
当業者であれば制限末端は発現ベクターに適合するように適宜選択することが可能である。発現ベクターは、「本発明酵素を発現させたい宿主細胞」に適したものを当業者であれば適宜選択することができる。このように本発明発現ベクターは上記の本発明核酸が目的の宿主細胞中で発現しうるように遺伝子発現に関与する領域(プロモーター領域、エンハンサー領域、オペレーター領域等)が適切に配列されており、さらに本発明核酸が適切に発現するように構築されていることが好ましい。また、発現ベクターの構築は、制限処理及び連結作業を必要としない、Gatewayシステム(インビトロジェン社)を用いることもできる。Gatewayシステムとは、PCR産物の方向性を維持したままクローニングができ、また、DNA断片を適切に改変した発現ベクターにサブクローニングを可能にした部位特異的な組換えを利用したシステムである。具体的には、PCR産物とドナーベクターとから部位特異的な組換え酵素であるBPクロナーゼによってエントリークローンを作成し、その後、このクローンと別の組換え酵素であるLBクロナーゼによって組換え可能なデスティネーションベクターにPCR産物を移入することにより、発現系に対応した発現クローンを調製するものである。最初にエントリークローンを作成すれば、制限酵素やリガーゼで作業する手間の係るサブクローニングステップが不要である点を特徴の一つとする。
【0038】
発現ベクターの種類は、原核細胞および/または真核細胞の各種の宿主細胞中で所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、大腸菌用発現ベクターとして、pQE-30、pQE-60、pMAL-C2、pMAL-p2、pSE420などが好ましく、酵母用発現べクターとしてpYES2(サッカロマイセス属)、pPIC3.5K、pPIC9K、pAO815(以上ピキア属)、昆虫用発現ベクターとしてpFastBac、pBacPAK8/9、pBK283、pVL1392、pBlueBac4.5などが好ましい。
【0039】
上記「本発明発現ベクター」を宿主細胞に組み込み、形質転換体を得ることができる。上記「宿主細胞」として真核細胞(哺乳類細胞、酵母、昆虫細胞等)であっても原核細胞(大腸菌、枯草菌等)であっても使用することができる。本発明の形質転換体をえるための宿主細胞は、特に限定されず、さらに、または、ヒト(例えば、HeLa、293T、SH−SY5Y)、マウス(例えば、Neuro2a、NIH3T3)等由来の培養細胞でもよい。これらはいずれも公知であり、市販されているか(例えば、大日本製薬社)、あるいは公共の研究機関(例えば、理研セルバンク)より入手可能である。あるいは、胚、器官、組織若しくは非ヒト個体も使用可能である。
【0040】
ところで、「本発明の核酸」は、ヒトゲノムライブラリーから発見された核酸であるため、本発明においては真核細胞を本発明の形質転換体の宿主細胞として用いるとより天然物に近い性質を有した「本発明酵素」が得られる(例えば糖鎖が付加された態様など)と考えられる。従って、「宿主細胞」としては真核細胞、特に哺乳類細胞を選択することが好ましい。哺乳類細胞としては、具体的には、マウス由来、動物細胞としてはマウス由来、アフリカツメガエル由来、ラット由来、ハムスタ−由来、サル由来またはヒト由来の細胞若しくはそれらの細胞から樹立した培養細胞株などが例示される。また、宿主細胞としての大腸菌、酵母又は昆虫細胞は、具体的には、大腸菌(DH5α、M15M、JM109、BL21等)、酵母(INVSc1(サッカロマイセス属)、GS115、KM71(以上ピキア属)など)、昆虫細胞(Sf21、Sf9、BmN4、カイコ幼虫等)などが例示される。
【0041】
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現べクターは少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターおよび複製可能単位から構成される。
【0042】
宿主細胞として酵母、植物細胞、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合には、一般に発現べクターは少なくとも、プロモーター、関始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターを含んでいることが好ましい。またシグナルペブチドをコードするDNA、エンハンサー配列、所望の遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、選択マーカー領域または複製可能単位などを適宜含んでいてもよい。
【0043】
本発明のべクタ−において、好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。また、終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAAなど)が例示される。
【0044】
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを意味し、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたプラスミド)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E. coliではブラスミドpQE30、pET又はpCAL若しくはそれらの人工的修飾物(pQE30、pET又はpCALを適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母ではプラスミドpYES2若しくはpPIC9Kが、また昆虫細胞ではプラスミドpBacPAK8/9等があげられる。
【0045】
エンハンサー配列、ターミネーター配列については、例えば、それぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
【0046】
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子などが例示される。
【0047】
発現べクターは、少なくとも、上述のプロモータ−、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、およびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4 DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他の制限酵素部位など)を用いることができる。
【0048】
本発明の発現べクターの宿主細胞への導入[形質転換(形質移入)]は従来公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、細菌(E. coli, Bacillus subtilis等)の場合は、例えばCohenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)]、プロトプラスト法[Mol. Gen. Genet., 168, 111 (1979)]やコンピテント法[J. Mol. Biol., 56, 209 (1971)]によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばHinnenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1927 (1978)]やリチウム法[J. B. Bacteriol., 153, 163 (1983)]によって、植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法[Science, 227, 129 (1985)]、エレクトロポレ−ション法[Nature, 319, 791 (1986)]によって、動物細胞の場合は、例えばGrahamの方法[Virology, 52, 456 (1973)]、昆虫細胞の場合は、例えばSummerらの方法[Mol. Cell Biol., 3, 2156-2165 (1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。
【0049】
なお、組換えベクターの構築及びそれを用いて本発明の核酸を宿主細胞に導入する方法の具体例が下記実施例2に詳述されている。
(4)タンパク質の単離・精製
近年、遺伝子工学的手法として、形質転換体を培養、生育させて、その培養物、生育物から目的物質を単離・精製する手法が確立されている。
【0050】
本発明のタンパク質は、上記の如く調整された発現ベクターを含む形質転換細胞を栄養培地で培養することによって発現(生産)することができる。栄養培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源、無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、たとえばグルコース、デキストラン、可溶性デンプン、ショ糖、メタノールなどが、例示される。無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などが例示される。また、所望により他の栄養素(例えば無機塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウム)、ビタミン類、抗生物質(例えばテトラサイクリン、ネオマイシン、アンピシリン、カナマイシン等)など)を含んでいてもよい。培養は、当業界において知られている方法により行われる。培養条件、例えば温度、培地のpH及び培養時間は、本発明のタンパク質が大量に生産されるように適宜選択される。
【0051】
本発明のタンパク質は、上記培養により得られる培養物より以下のようにして取得することができる。すなわち、本発明のタンパク質が宿主細胞内に蓄積する場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞を集め、これを適当な緩衝液(例えば濃度が10〜100mM程度のトリス緩衝液、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液などの緩衝液。pHは用いる緩衝液によって異なるが、pH5.0〜9.0の範囲が望ましい)に懸濁した後、用いる宿主細胞に適した方法で細胞を破壊し、遠心分離により宿主細胞の内容物を得る。一方、本発明のタンパク質が宿主細胞外に分泌される場合には、遠心分離やろ過などの操作により宿主細胞と培地を分離し、培養ろ液を得る。宿主細胞破壊液、あるいは培養ろ液はそのまま、または硫安沈殿と透析を行なった後に、本発明のタンパク質の単離・精製に供することができる。単離・精製の方法としては、以下の方法が挙げることができる。即ち、当該タンパクに6×ヒスチジンやGST、マルトース結合タンパクといったタグを付けている場合には、一般に用いられるそれぞれのタグに適したアフィニティークロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。一方、そのようなタグを付けずに本発明のタンパク質を生産した場合には、例えば後述する実施例に詳しく述べられている方法、即ちイオン交換クロマトグラフィーによる方法を挙げることができる。また、これに加えてゲルろ過や疎水性クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィーなどを組み合わせる方法も挙げることができる。
【0052】
本発明のタンパク質を、N−アセチルガラクトサミンを有する糖タンパク質、オリゴ糖または多糖等に作用させることにより、N−アセチルガラクトサミンが転移される。従って、本発明のタンパク質は、糖タンパク質の糖鎖の修飾や、糖類の合成に用いることができる。さらに、このタンパク質を免疫原として動物に投与することにより、該タンパク質に対する抗体を作製することができ、該抗体を用いて免疫測定法により該タンパク質を測定することが可能になる。従って、本発明のタンパク質およびこれをコードする核酸は、このような免疫原の作製に有用である。
【0053】
本発明のタンパク質はまた、精製および同定を容易にするために添加されるペプチドを含んでもよい。こうしたペプチドには、例えば、ポリ−Hisまたは米国特許第5,011,912号およびHoppら,Bio/Technology,6:1204,1988に記載される抗原性同定ペプチドが含まれる。こうしたペプチドの1つはFLAG(登録商標)ペプチド、Asp−Tyr−Lys−Asp−Asp−Asp−Asp−Lys(配列番号13)であり、該ペプチドは非常に抗原性であり、そして特異的なモノクローナル抗体が可逆的に結合するエピトープを提供し、発現された組換えタンパク質の迅速なアッセイおよび容易な精製を可能にする。4E11と称されるネズミハイブリドーマは、本明細書に援用される米国特許第5,011,912号に記載されるように、特定の二価金属陽イオンの存在下で、FLAG(登録商標)ペプチドに結合するモノクローナル抗体を産生する。4E11ハイブリドーマ細胞株は、寄託番号HB 9259下に、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)に寄託されている。FLAG(登録商標)ペプチドに結合するモノクローナル抗体は、Eastman Kodak Co., Scientific Imaging SystemsDivision、コネチカット州ニューヘブンより入手可能である。
【0054】
具体的には、後述される実施例2に記載されるように、本発明のタンパク質を発現する発現ベクターにFLAGのcDNAを挿入し、FLAG標識したタンパク質を発現させ、抗FLAG抗体によって、該タンパク質の発現を確認することができる。
【0055】
(5)測定用核酸
本発明によれば、本発明の核酸とハイブリダイズする核酸(以下、「測定用核酸」と称する)が提供される。本発明の測定用核酸は、典型的には、本発明のタンパク質をコードする核酸の天然由来のまたは合成されたフラグメントであり、プライマーまたはプローブを含むが、これらに限定されるものではない。ここで、「特異的」とは、検査対象となる生物試料、例えば細胞中に存在する他の核酸とハイブリダイズせず、上記本発明の核酸とのみハイブリダイズするという意味である。測定用核酸は、上記本発明の核酸、とりわけ配列番号2に示される塩基配列を有する核酸中の部分領域と相同的な配列を有することが一般的に好ましいが、一部不一致があっても差し支えないことが多い。尚、「測定」には、検出、増幅、定量、および半定量のいずれもが包含される。
【0056】
(a)プライマー
本発明測定用核酸を核酸増幅反応用のプライマーとして使用する場合、本発明測定用核酸は、オリゴヌクレオチドであって、
配列番号1に示すタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列から以下の条件を満たすように2つの領域を選択し:
1)各領域の長さが15−50塩基であること;
2)各領域中のG+Cの割合が40−70%であること;
上記領域と同じ塩基配列若しくは上記領域に相補的な塩基配列を有する一本鎖DNAを製造し、または、上記一本鎖DNAによってコードされるアミノ酸残基を変化させないように遺伝子暗号の縮重を考慮した一本鎖DNAの混合物を製造し、さらに必要であれば上記タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に対する結合特異性を失わないように修飾した上記一本鎖DNAを製造する
ことを含む方法により製造された当該オリゴヌクレオチドが提供される。
【0057】
本発明のプライマーは、本発明核酸の部分領域と相同的な配列を有することが好ましいが、1または2塩基の不一致があっても差し支えない。
なお、本発明のプライマーの塩基数は15塩基以上、好ましくは18塩基以上、より好ましくは21塩基以上であり、60塩基以下である。
【0058】
本発明のプライマーは、典型的には、配列番号3(配列番号2の塩基番号1331−1308に対応する)、配列番号4(配列番号2の塩基番号1140−1117に対応する)、配列番号5(配列番号5の塩基番号31−56は、配列番号2の塩基番号108−133に対応する)、配列番号6(配列番号6の塩基番号31−55は、配列番号1の塩基番号1629−1605に対応する)、配列番号10(配列番号2の塩基番号1327−1349)、及び配列番号11(配列番号2の塩基番号1434−1415)の塩基配列を有し、単独、又はプライマー対として用いることができる。
【0059】
(b)プローブ
本発明測定用核酸をプローブとして使用する場合、本発明測定用核酸は、配列番号2に記載の塩基配列の全体又は部分領域と相同的な配列を有することが好ましい。本発明の測定用核酸が、cDNAプローブの場合、塩基数は、15塩基以上、好ましくは20塩基以上で、最長で、コード領域の全長、即ち、1626塩基である。配列番号2に記載した塩基配列又はその相補的な塩基配列と20%以下、好ましくは10%以下の不一致があっても、プローブとしての機能を果たし得る。また、本発明の測定用核酸が、合成オリゴヌクレオチドの場合、塩基数は15塩基以上、好ましくは20塩基以上である。合成オリゴヌクレオチドの場合、長さによるが、配列番号2に記載した塩基配列又はその相補的な塩基配列と1または2塩基程度の不一致があってもプローブとしての機能を果たし得る。
【0060】
本発明のプローブは、例えば、配列番号12に記載された塩基配列を有する。これは、配列番号2の塩基番号1381−1406に相当し、配列番号10および11をプライマーとして核酸増幅反応を行った場合、その増幅産物にハイブリダイズして検出し得る。また、前述のプライマーも本発明のプローブとして使用し得る。
【0061】
本発明のプローブには、該プローブが標的配列とハイブリダイズしたことを検出または確認するために、蛍光標識、放射標識、ビオチン標識等の標識を付した標識プローブが含まれる。被検核酸またはその増幅物を固相化し、標識プローブとハイブリダイズさせ、洗浄後、固相に結合された標識を測定することにより、検体中に被検核酸が存在するかを決定することができる。
【0062】
(c)マイクロアレイ
本発明測定用核酸は、マイクロアレイとして使用することができる。マイクロアレイは、ゲノム機能の大量で迅速な解析を可能にする手段である。具体的には、固相基盤、例えばガラス上に高密度に固定した多数の異なった核酸プローブに、標識した核酸をハイブリダイズさせ、各々のプローブからのシグナルを検出し、得られたデータを解析するものである。本明細書において「マイクロアレイ」というときは、固相基盤、例えば、メンブラン、フィルター、チップ、ガラス上に、本発明測定用核酸を配列したものをいう。
【0063】
(d)被検核酸の測定
被検核酸の部分領域と相補的な配列を有する核酸をPCRのような遺伝子増幅法のプライマー、又はプローブとして用いて被検核酸を測定する方法自体は周知であり、下記実施例6には、ヒト細胞中の本発明の酵素のmRNAをノーザンブロット及びインサイチューハイブリダイゼーションにより測定した方法が具体的に詳述されている。また、被検核酸の測定には、前記マイクロアレイを使用することもできる。
【0064】
PCRのような核酸増幅法自体は、この分野において周知であり、そのための試薬キット及び装置も市販されているので容易に行うことができる。上記した本発明の測定用核酸の一対をプライマーとして用い、被検核酸を鋳型として用いて核酸増幅法を行うと、被検核酸が増幅されるのに対し、検体中に被検核酸が含まれない場合には増幅が起きないので、増幅産物を検出することにより検体中に被検核酸が存在するか否かを知ることができる。増幅産物の検出は、増幅後の反応溶液を電気泳動し、バンドをエチジウムブロミド等で染色する方法や、電気泳動後の増幅産物をナイロン膜等の固相に不動化し、被検核酸と特異的にハイブリダイズする標識プローブとハイブリダイズさせ、洗浄後、該標識を検出することにより行うことができる。また、クエンチャー蛍光色素とレポーター蛍光色素を用いたいわゆるリアルタイム検出PCRを行うことにより、検体中の被検核酸の量を定量することも可能である。なお、リアルタイム検出PCR用のキットも市販されているので、容易に行うことができる。さらに、電気泳動バンドの強度に基づいて被検核酸を半定量することも可能である。なお、被検核酸は、mRNAでも、mRNAから逆転写したcDNAであってもよい。被検核酸としてmRNAを増幅する場合には、上記一対のプライマーを用いたNASBA法(3SR法、TMA法)を採用することもできる。NASBA法自体は周知であり、そのためのキットも市販されているので、上記一対のプライマーを用いて容易に実施することができる。
【0065】
プローブとしては、上記測定用核酸に蛍光標識、放射標識、ビオチン標識等の標識を付した標識プローブを用いることができる。被検核酸又はその増幅物を固相化し、標識プローブとハイブリダイズさせ、洗浄後、固相に結合された標識を測定することにより、検体中に被検核酸が存在するか否かを調べることができる。あるいは、測定用核酸を固相化し、被検核酸をハイブリダイズさせ、固相に結合した被検核酸を標識プローブ等で検出することも可能である。このような場合、固相に結合した測定用核酸もプローブと呼ばれる。
【0066】
本発明の酵素を、グルクロン酸を有する糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖等に作用させることにより、N−アセチルガラクトサミンが転移される。従って、本発明の酵素は、糖タンパク質の糖鎖の修飾や、糖類の合成に用いることができる。さらに、この酵素を免疫原として動物に投与することにより、該酵素に対する抗体を作製することができ、該抗体を用いて免疫測定法により該酵素を測定することが可能になる。従って、本発明の酵素及びこれをコードする核酸は、このような免疫原の作製に有用である。
【0067】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0068】
実施例1 遺伝子データベースの検索と新規N−アセチルガラクトサミン転移酵素遺伝子の塩基配列決定
既存のβ−1,4−ガラクトース転移酵素遺伝子を用いて、遺伝子データベースから類似遺伝子の検索を行った。用いた配列はβ−1,4−ガラクトース転移酵素遺伝子の配列番号:AL161445、AF038660、AF038661、AF022367、AF038663、AF038664である。また検索は、Blast[Altschul et al.,J.Mol.Biol.,215,403−410(1990)]等のプログラムを利用した。
【0069】
その結果、EST配列Gene Bank Accetion No.NM_018590、AF116646が見出され、ゲノム配列Gene Bank Accetion No.NT_008776が見いだされた。その後の検討の結果、NM_018590、AF116646及びNT_008776は同一の遺伝子であることが明らかになった。しかし、翻訳開始点は不明であったので、CLONTECH社のMarathon−Ready cDNA(Human Bone Marrow、Lung或いはBrain)を用いてコード領域情報の取得(5’RACE:Rapid Amplification of cDNA Ends)並びにクローニングを行った。
【0070】
GalNAc−Tのコード領域情報の取得
Marathon cDNA付属のAP1プライマーと(cDNA断片の両側にAP1、AP2のアダプターがついている)、見出した配列部分に設定したプライマーGP−245(5’−gtcaggaaatctgaacgatgctga−3’)(配列番号3)でPCR(94℃20秒、60℃30秒、72℃2分を30サイクル)を行った。さらに、Marathon cDNA付属のAP2プライマーと、配列部分に設定したプライマーGP−244(5’−gcagctgttaaggaattcggctga−3’)(配列番号4)でnested PCR(94℃20秒、60℃30秒、72℃2分を30サイクル)を行なった。その結果得られた約1.4 kbの断片を常法により精製し、塩基配列を解析し、タンパク質のコード領域を決定した(配列番号2)。
【0071】
実施例2 GalNAc−T遺伝子の発現ベクターへの組込み
GalNAc−Tの発現系を作成するため、まずGalNAc−T遺伝子をインビトロジェン社のGatewayシステムのpDONR201に組込み、さらにインビトロジェン社のBac−to−BacシステムによるBacmidを作製した。以下に詳細を述べる。
【0072】
(1)GatewayシステムによるpFastBacへの組込み
▲1▼エントリークローンの作製
GalNAc−Tのエントリークローンの作製
Marathon−Ready cDNA(Human Bone Marrow)を鋳型としてプライマーGP−567(5’−ggggacaagtttgtacaaaaaagcaggcttccagactgatggaaatgcatctcttc−3’)(配列番号5)とプライマーGP−569(5’−ggggaccactttgtacaagaaagctgggtctcaaccaacagcttcactgtttgtc−3’)(配列番号6)を用いたPCR(94℃20秒、60℃30秒、72℃2分を30サイクル)により再度DNA断片を得た。目的の断片をゲルから切りだし、精製後BPクロナーゼ 反応によってpDONR201へ組込み、「エントリークローン」を作成した。反応は目的とするDNA断片5μl、pDONR201を1μl(150 ng)、反応緩衝液2μl、BP クロナーゼミックス 2μlを25℃で1時間インキュベートして行った。プロテイナーゼKを1μl加えて37℃10分おき反応を終了させた。
【0073】
その後上記反応液全量(11μl)をコンピテントセル(大腸菌DH5α)100μlと混合し、ヒートショック法による形質転換の後、カナマイシンを含むLBプレートにまいた。翌日コロニーをとり、直接PCRで目的DNAを確認し、ベクター(pDONR−GalNAc−T)を抽出・精製した。
【0074】
▲2▼発現クローンの作成
上記エントリークローンは挿入部位の両側にラムダファージが大腸菌から切り出される際の組換部位であるattLを持つもので、LRクロナーゼ(ラムダファージの組換酵素Int、IHF、Xisを混合したもの)とデステイネーションベクターと混合することで、挿入部位がデステイネーションベクターに移り、発現クローンが作成される。具体的工程は以下のとおりである。
【0075】
まずエントリークローン1μl、pFBIFを0.5μl(75 ng)、LR反応緩衝液2μl、TE 4.5 μl、LR クロナーゼミックス2μlを25℃で1時間反応させ、プロテイナーゼKを1μl加えて37℃で10分インキュベートして反応を終了させた(この組換え反応でpFBIF−GalNAc−Tが生成される)。pFBIFはpFastBac1にIgκシグナル配列(MHFQVQIFSFLLISASVIMSRG)(配列番号7)とFLAGペプチド(DYKDDDK)(配列番号13)を入れたもので、OT3(5’−gatcatgcattttcaagtgcagattttcagcttcctgctaatcagtgcctcagtcataatgtcacgtggagattacaaggacgacgatgacaag−3’)(配列番号14)を鋳型とし、プライマーOT20(5’−cgggatccatgcattttcaagtgcag−3’) (配列番号8)と、OT21 (5’−ggaattcttgtcatcgtcgtccttg−3’)(配列番号9)によって得られたDNA断片を上記と同様にBam HIとEco RI部位に挿入し、Gateway配列を挿入するため、Gateway Vector Conversion System(インビトロジェン社)を用いて変換カセット(Conversion cassette)を入れた。この変換カセットは、発現ベクターをデスティネーションベクターに改変するためのカセットであり、attR組換え部位、クロラムフェニコール耐性遺伝子、及び大腸菌DNA gyraseを阻害するタンパク質をコードするccdB遺伝子を有する。Igκシグナル配列は発現タンパク質を分泌型にするため、FLAGタグは精製のため挿入した。
【0076】
その後上記混合液全量(11μl)をコンピテントセル(大腸菌DH5α)100μlと混合し、ヒートショック法の後、アンピシリンを含むLBプレートにまいた。翌日コロニーをとり、直接PCRで目的DNAを確認し、ベクター(pFBIF−GalNAc−T)を抽出・精製した。
【0077】
Bac−to−BacシステムによるBacmidの作成
続いてBac−to−Bacシステム(インビトロジェン社)を用いて上記pFBIF−GalNAc−TとBacmidとの間で組換えをさせ、昆虫細胞中で増殖可能なBacmidにGalNAc−Tを配列を挿入した。このシステムはTn7の組換部位を利用して、Bacmidを含む大腸菌(DH10BAC)に目的遺伝子を挿入させたpFastBacを導入するだけで、ヘルパープラスミドから産生される組換タンパク質によって目的とする遺伝子がBacmidへとりこまれるというものである。またBacmidにはlacZ遺伝子が含まれており、古典的な青(挿入なし)−白コロニー(挿入あり)による選択が可能である。
【0078】
即ち、上記精製ベクター(pFBIF−GalNAc−T)をコンピテントセル(大腸菌DH10BAC)50μlと混合し、ヒートショック法による形質転換の後、カナマイシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、Bluo−gal、及びIPTGを含むLBプレートにまき、翌日白い単独コロニーをさらに培養し、Bacmidを回収した。
【0079】
実施例3 Bacmidの昆虫細胞への導入
上記白コロニーから得られたBacmidに目的配列が挿入していることを確認した後、このBacmidを昆虫細胞Sf21(インビトロジェン社より市販)に導入した。即ち35 mmのシャーレにSf21細胞が9×105 細胞/2mlの抗生物質を含むSf−900SFM(インビトロジェン社)になるよう加え、27℃で1時間培養して細胞を接着した。溶液Aとして精製した Bacmid DNA 5μlに抗生物質を含まないSf−900SFMを100μl加えた。溶液BとしてCellFECTIN溶液(インビトロジェン社)6μlに抗生物質を含まないSf−900SFM 100μl加えた。その後、溶液Aおよび溶液Bを丁寧に混合して15〜45分間、室温でインキュベートした。細胞が接着したことを確認して、培養液を吸引して抗生物質を含まないSf−900SFM 2 mlを加えた。溶液Aと溶液Bを混合して作製した溶液(lipid−DNA complexes)に抗生物質を含まないSf900II 800μlを加えて丁寧に混和した。細胞から培養液を吸引し、希釈したlipid−DNA complexes溶液を細胞に加え、27℃で5時間インキュベーションした。その後、トランスフェクション混合物を除き、抗生物質を含むSf−900SFM培養液2 mlを加えて27℃で72時間インキュベーションした。トランスフェクションから72時間後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpmで10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清が一次ウイルス液となる)。
【0080】
T75培養フラスコにSf21細胞1×107 細胞/20 ml Sf−900SFM(インビトロジェン社)(抗生物質入り)を入れて、27℃で1時間インキュベートした。細胞が接着したら一次ウイルスを800μlを添加して、27℃で48時間培養した。48時間後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpm、 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存する(この上清を二次ウイルス液とした)。
【0081】
さらに、T75培養フラスコにSf21細胞1×107 細胞/20 ml Sf−900SFM(インビトロジェン社)(抗生物質入り)を入れて、27℃で1時間インキュベートした。細胞が接着したらニ次ウイルス液1000μlを添加して、27℃で72〜96時間培養した。培養後にピペッティングにより細胞を剥がし、細胞と培養液を回収した。これを3000 rpm、10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清を三次ウイルス液とした)。
【0082】
加えて、100 ml用スピナーフラスコにSf21細胞6×105細胞/ml濃度で100 mlを入れ、三次ウイルス液を1ml添加して27℃で約96時間培養した。培養後に、細胞及び培養液を回収した。これを3000 rpm, 10分間遠心し、上清を別のチューブに保存した(この上清を四次ウイルス液とした)。
【0083】
一次から三次までのセルペレットをソニケーションし(ソニケーション緩衝液:20 mM HEPES pH7.5、2% TritonX−100)細胞粗抽出液 をH2Oで20倍にし、常法によりSDS−PAGEによる電気泳動についてウエスタンブロッテイングを行い、目的とするGalNAc−T(タンパク質の発現を確認した。抗体は抗FLAG M2−ペルオキシダーゼ(A−8592、SIGMA社)を用いた。
【0084】
FLAG−GalNAc−T(削除:1及びFLAG−GalNAc−T2)は約55Kの位置にバンドが検出された。
実施例4 GalNAc−Tのレジン精製
上記三次感染のボトルからさらに四次感染をさせ、両ボトルからペレットと上清を回収し、遠心分離後(5000 rpm、10分を2回)ペレットをソニケーションした(ソニケーション緩衝液:20 mM HEPES pH7.5、2% Triton X−100)、ペレット粗抽出液と上清についてタンパク質定量(BIO−RAD社、DC Protein Assay Kit)し、タンパク量を調整の上SDS−PAGE、ウエスタンブロッテイングでGalNAc−Tの発現を確認した。
【0085】
四次感染のFLAG−GalNAc−T上清10 mlにNaN3(0.05%)、NaCl(150 mM)、CaCl2(2 mM)、抗M1レジン(シグマ社)(50 μl)を混合し、4℃で一夜攪拌した。翌日遠心分離して(3000 rpm、5分、4℃)ペレットを回収し、2 mMのCaCl2・TBSを900μl加えて再度遠心分離(2000 rpm、5分、4℃)し、ペレットを200μl の1 mM CaCl2 ・TBS に浮遊させ活性測定のサンプル(GalNAc−T酵素液)とした。
【0086】
実施例5 GalNAc−Tの受容体基質の探索
GalNAc−Tは、β−1,4−N−アセチルガラクトサミニル転移酵素類およびβ−1,4−ガラクトシル転移酵素類と相同性を有することから、どちらかの活性を保持するものと考えられた。そこで、供与体基質としてUDP−GalNAc、UDP−Galを用いて検討を行った。
【0087】
以下の反応系を用いて、GalNAc−Tの受容体基質を調べた。下記反応液の「受容体基質」には、GalNAc−α−pNp、GlcNAc−α−pNp、GlcNAc−β−pNp、Fuc−α−pNp、Gal−α−pNp、Gal−β−oNp、Glc−α−pNp、Glc−β−pNp、GlcA−β−pNp、Man−α−pNp(以上CALBIOCHEM社)、Xyl−α−pNp、Xyl−β−pNp(以上SIGMA社)を用いてそれぞれが受容体として機能するかどうかを調べた。
【0088】
反応液(カッコ内は最終濃度)は受容体基質(10 nmol)、MES緩衝液(pH 6.5)(50 mM) 、MnCl2(10 mM)、UDP−GalNAc或いはUDP−Gal(1 mM) 、Triton−X100(0.1 %)から成り、これにGalNAc−T酵素液を10 μl加えて、さらにH2Oを加えて全量20μlとした。
【0089】
上記反応混合液を37℃で16時間反応させ、反応終了後、H2Oを60μl 加え、軽く遠心後上清を取得した。この上清をウルトラフリー−MCカラム(ミリポア社)で精製し、30μlを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。カラムにはTSK−GEL ODS−80TS QA(東ソー社)を、分離バッファーには0.1%トリフルオロ酢酸を使用し、0から10%のアセトニトリル濃度勾配で溶出した。また、流速は1 ml/minで行った。
【0090】
その結果、GlcA−β−pNpを受容体基質、UDP−GalNAcを供与体基質に用いた場合に、GalNAc−Tの反応産物は53.3分に新たなピークとなって現れた(図1参照)。このピークを分取し、ESI−MS(エレクトロスプレーイオン化−質量分析計)(ブルカー社)によりポジティブモードで質量分析を行ったところ、GlcA−pNpにGalNAcが付加した分子量に相当する518.9 m/zにピークが出現した(図2参照)。このピークを再度ESI−MS分析すると、図3に示すように、GalNAcに相当する203.7 m/zのピーク、GalNAc−GlcAに相当する379.6 m/zのピーク等が出現した。即ち、図1で新たに出現した53.3分のピークは、GalNAc−GlcA−pNpのピークであり、GalNAc−Tがグルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を保持していることが明らかになった。
【0091】
実施例6 ヒト種々組織及び株化細胞での発現
ヒト正常組織及び株化細胞(SW1736:甲状腺、HL−60:白血球、G−361:メラノーマ)のcDNAを用いて、定量的PCRにより該遺伝子の発現量を定量した。正常組織のcDNAとしてはクロンテック社のMarathon Ready cDNAを使用し、株化細胞に関しては総RNAを抽出し、常法によりcDNAを作製し使用した。GalNAc−Tの定量的発現解析に使用したプライマーはK8−67F(5’−ctgaccattggtggatttgacat−3’) (配列番号10)、K8−67R(5’−aaccggagtccgaatcacaa− 3’)(配列番号11)、プローブはK8−67MGB(5’−catctttatcgaaaatacttacatgg−3’)(配列番号12)である。なお、K8−67MGBプローブにはアプライドバイオシステムズ社のマイナーグルーブバインダーを結合したものを使用した。酵素及び反応液にはUniversal PCR Master Mixを使用し、ABI PRISM 7700 Sequence Detection System(ともにアプライドバイオシステムズ社)により反応液量25μlで定量を行った。定量の標準遺伝子としてはグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子を使用し、既知濃度の鋳型DNAにより定量の検量線を作成し該遺伝子の発現量の標準化を行った。反応温度は50℃2分、95℃10分のあと、95℃15秒・60℃1分を50サイクル行った。結果を図4示した。
【0092】
実施例7 コンドロイチン伸長活性、合成開始活性の検討
100μgのコンドロイチン(コンドロイチン硫酸C(生化学工業製)を脱硫酸したもの)に対し、40,000から55,500dpmのUDP−[14C]GalNAcを用いてGalNAc転移活性を検討した(図5)。実施例5と同様の緩衝液に10μgのレジン溶液を添加し、37℃で1時間反応し、東ソー社のG2500PWカラムでゲルろ過分離した結果を図5Aに示した。図中の矢印で示したピークが反応物である。また、結果として示さないが、反応物の同定は質量分析計ならびにコンドロイチナーゼACII消化により行った。以上の結果は、該酵素がコンドロイチン伸長におけるGalNAc転移活性を有していることを示すものである。
【0093】
次に、コンドロイチン硫酸合成開始活性を検討した。コンドロイチン硫酸にはヘパラン硫酸と共有するグリコサミノグリカン・リンケージ4糖(GlcAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1)が存在する。即ち、非還元末端のGlcAにGlcNAcが付加されればヘパラン硫酸が、GalNAcが付加されればコンドロイチン硫酸が合成されることになる。よって、合成開始活性の有無はコンドロイチン硫酸伸長活性とは異なる意味を持つと考えられる。実施例ではリンケージ4糖−メトキシフェニル(生化学工業より供与)を受容体基質として用い、実施例5と同様の条件で反応を行った。反応物の解析には東ソーのODS−80Tsカラムを用い、アセトニトリル濃度7%から10%の濃度勾配によって溶出させた。その結果、図5Bに示したように、基質(S)ピークのほかに反応産物(P)ピークが出現した。それぞれのピークを分取し、MALDI−TOF MSにより分析した結果が図5Cならびに図5Dである。図5CではNaイオンを含む基質の分子量に相当するピークが、図5DではGalNAcが付加した基質にKイオンあるいはNaイオンを含む分子量に相当するピークが生じた。
【0094】
実施例8 各種基質に対するGalNAc転移活性の検討
以上のように、該酵素には伸長活性、合成開始活性が存在することが明らかになった。そこで、各種硫酸化コンドロイチン基質を受容体として、伸長活性の特性を検討した(図6)。使用した受容体基質は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸B、コンドロイチン硫酸Cおよびコンドロイチン硫酸Dであり、実施例7で示した反応、解析条件によりGalNAc付加産物を評価した。図中の矢印で示したピークが反応物である。この結果、コンドロイチンのみならず、硫酸化された基質にもGalNAcを転移することが明らかになった。
【0095】
また、これらの受容体基質を含め、様々な受容体基質に対するGalNAc転移活性を比較した結果を表1に示した。活性の強弱はあるものの、調べた全ての基質に対するGalNAc転移活性が認められた。
【0096】
【表1】
Figure 0004253704
【0097】
実施例9 in vitroでのコンドロイチン5糖合成
Xyl−ビクニン・ペプチド(VLPQEEEGS(−Xyl)GGGQLVT)(ペプチド研究所製)をCy5標識し5μlの3種類の糖転移酵素、即ち、β1−4ガラクトース転移酵素VII、β1−3ガラクトース転移酵素VI、及びグルクロン酸転移酵素Iを加え、1mM UDP−Gal、1mM UDP−GlcAを含む実施例5の条件下、37℃で16時間反応を行った。反応後95℃で5分間過熱することにより酵素を失活させ、MILLIPORE社のUltrafree−MCカラムで精製した。その後、この溶液10μlに1mM UDP−GalNAcとともに実施例4で作成した酵素レジン溶液10μlを添加し、37℃で8時間反応させた。反応液を前記Ultrafree−MCカラムで精製し、ODS−80Tsカラムで分析した(図7)。図7Aは、前記3種類の酵素によって得られた反応物であり、このうち“S”で示したピークがGalNAc−Tの基質となる。図7Bは、GalNAc−Tによる産物を示す。Pで示したピークが目的の産物である。ピークPをコンドロイチナーゼACII消化で消失することによって、GalNAcβ1−4GlcAβ1−3Galβ1−3Galβ1−4Xylβ1−ペプチドであることを同定した(データは示さず)。
【0098】
【配列表】
Figure 0004253704
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【0099】
【発明の効果】
本発明により、グリコサミノグリカンのグルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する酵素が単離され、その遺伝子の構造が明らかにされた。したがって、該酵素等の遺伝子工学的な生産や該酵素による糖鎖の生産、該遺伝子らに基づく疾患の診断が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】受容体基質GlcA−pNpに対するGalNAc−TのN−アセチルガラクトサミン転移活性を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析した結果を示すチャートである。上図が供与体基質としてのUDP−N−アセチルガラクトサミンを添加して、下図が供与体基質を添加せずに反応を行い、産物の分析を行った。
【図2】受容体基質GlcA−pNpと供与体基質UDP−N−アセチルガラクトサミン存在下でGalNAcTの反応を行い、新たに生じた産物をHPLCにより分取し、ESI−MS(エレクトロスプレーイオン化−質量分析計)により分析した結果を示すチャートである。
【図3】図2で生じた518.9 m/zのピークを再度ESI−MS分析した結果を示すチャートである。
【図4】各種組織、株化細胞におけるGalNAc−T遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法により定量した結果を示すグラフである。縦軸はコントロールのグリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子の発現量に対するGalNAc−T遺伝子の相対比をあらわす。
【図5】GalNAc−Tのコンドロイチン伸長活性及び合成開始活性を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びMALDI−TOF質量分析により分析した結果を示す。パネルAは、コンドロイチンを受容体基質として使用し、GalNAc−Tの転移活性によるコンドロイチン伸長をHPLCで分析した結果である。精製した反応産物を0.2M NaClを流出液として流速0.6ml/分でG2500PWカラムにかけた。各々の画分(340μl)の放射活性を液体シンチレーションスペクトロホトメトリーによって測定した。反応物のピークを矢印で示した。パネルBは、リンケージ4糖−O−メトキシフェニルを受容体基質として使用し、反応物を逆相クロマトグラフィーによって解析した。図中、“S”は基質ピークを示し、“P”は反応物ピークを示す。パネルCは、パネルBの基質ピーク(S)を単離し、MALDI−TOF質量分析によって解析した結果を示す。そして、パネルDは、パネルBの反応物ピーク(P)を単離し、MALDI−TOF質量分析によって解析した結果を示す。
【図6】各種受容体基質に対するGalNAc−TのN−アセチルガラクトサミン転移活性を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析した結果を示すチャートである。受容体基質には、コンドロイチン(白丸)、コンドロイチン硫酸A(黒丸)、コンドロイチン硫酸B(白四角)、コンドロイチン硫酸C(黒四角)およびコンドロイチン硫酸D(白三角)を使用した。反応物のピークを矢印で示した。
【図7】 in vitroにおけるコンドロイチン5糖合成をHPLCにより解析した結果を示すチャートである。パネルAは、GlcA−Gal−Gal−Xyl−ビクニン・ペプチド(ピークS)を3種類の糖転移酵素(β4Gal−T7、β3Gal−T6、及びGlcAT−I)を用いて合成し、逆相クロマトグラフィーによって検出した。次いで、ピークSの反応物をGalNAc−Tに対する受容体基質として使用することにより、反応物Pが得られた。

Claims (5)

  1. 下記(a)〜(c)からなる群から選択されるタンパク質を、グルクロン酸を有する糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖に作用させて、該糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖にN−アセチルガラクトサミンを転移することを特徴とする、N−アセチルガラクトサミンをグルクロン酸に転移させる方法。
    (a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と95%以上の同一性があり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質;及び、
    (c)配列番号1に示されるアミノ酸配列又は該配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質
  2. 下記(a)〜(c)からなる群から選択されるタンパク質を、グルクロン酸に作用させるステップを少なくとも含むことを特徴とする、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンが転移された糖鎖を製造する方法。
    (a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と95%以上の同一性があり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質;及び、
    (c)配列番号1に示されるアミノ酸配列又は該配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質
  3. グルクロン酸を有する糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖が、コンドロイチンポリサッカライド、コンドロイチンオリゴサッカライド、コンドロイチン硫酸ポリサッカライド、コンドロイチン硫酸オリゴサッカライド及びリンケージ4糖からなる群から選択される少なくとも1の物質である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 下記(a)〜(c)からなる群から選択されるタンパク質を有効成分として含む、グルクロン酸を有する糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖に対してN−アセチルガラクトサミンをグルクロン酸に転移するための転移用剤。
    (a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
    (b)配列番号1に示されるアミノ酸配列と95%以上の同一性があり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質;及び、
    (c)配列番号1に示されるアミノ酸配列又は該配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換し若しくは欠失し、若しくは該アミノ酸配列に1若しくは数個のアミノ酸が挿入され若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、グルクロン酸にN−アセチルガラクトサミンを転移する活性を有するタンパク質
  5. グルクロン酸を有する糖タンパク質、オリゴ糖又は多糖が、コンドロイチンポリサッカライド、コンドロイチンオリゴサッカライド、コンドロイチン硫酸ポリサッカライド、コンドロイチン硫酸オリゴサッカライド及びリンケージ4糖からなる群から選択される少なくとも1の物質である、請求項4記載の転移用剤。
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