JP5103987B2 - 転がり軸受構成部材の製造方法および転がり軸受 - Google Patents
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Description
下記の特許文献2には、多段圧延機のバックアップロール用転がり軸受について、内輪の酸化物系介在物の大きさと単位面積当たりの個数を特定することにより、内輪の損傷を抑え、軸受寿命を長くすることが記載されている。
また、最近では、鋼のオーステナイト結晶粒径を微細化することで材料強度を高める技術が、注目を集めている。
本発明の課題は、転がり軸受の長寿命化技術として、コストの上昇や品質の不安定化等が生じないようにできる方法を提供することである。
炭素含有率〔C〕が0.03質量%以上0.6質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.1質量%以上0.6質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.3質量%以上2.0質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.3質量%以上2.0質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が2.0質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が5.0質量%以下で、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼を使用する。
使用する鋼の炭素含有率〔C〕(質量%)を変数とする式(1)および(2)で表されるパラメータAと、芯部のオーステナイト最大粒径d(μm)を変数とする式(3)および(4)で表されるパラメータBと、芯部の最大介在物粒径r(μm)を変数とする式(5)で表されるパラメータDとが下記の(6)式を満たすように、850〜1050℃での浸炭または浸炭窒化処理、600〜900℃での焼鈍処理、800〜900℃に保持した後に油冷する焼入れ処理、150〜260℃の焼戻し処理をこの順に行う。
(ただし、0.03質量%≦〔C〕<0.18質量%のとき)
A=0.125(((33〔C〕+27)2 /4)+256)+700‥(2)
(ただし、0.18質量%≦〔C〕≦0.6質量%のとき)
B=156‥(3)(ただし、dM ≦30μmのとき)
B=(2500/√dM )−300‥(4)(ただし、dM ≧30μmのとき)
D=re ‥(5)(ただし、e=−1/6)
(A+B)D>280‥(6)
素材をなす鋼の炭素含有率〔C〕が0.03質量%以上0.6質量%以下の限定理由は以下の通りである。
炭素は組織をマルテンサイト化することで鋼を強化する元素である。本発明の方法では表面は浸炭または浸炭窒化で硬化するが、芯部に必要な強度を付与するために炭素含有率を0.03質量%以上とする。好ましくは0.1質量%以上とする。ただし、炭素含有率が0.6質量%を超えると、転動疲労寿命の低下原因となる粗大な炭化物が生成される可能性が出てくる。
珪素は、製鋼時の脱酸剤および脱硫剤として作用する元素である。珪素含有率が0.1質量%未満であると、その作用が実質的に得られない。ただし、珪素含有率が0.6質量%を超えると、素材の鍛造性や、被切削性等の加工性が低下する。
マンガンは、製鋼時の脱酸剤および脱硫剤として作用するとともに、マトリックスに固溶して焼入れ性を向上させる元素である。マンガン含有率が0.3質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られない。好ましくは0.5質量%以上とする。ただし、マンガン含有率が2.0質量%を超えると、転動疲労寿命の低下原因となる粗大な非金属介在物が生成し易くなるとともに、素材の鍛造性や、被切削性等の加工性が低下する。
クロムは、マトリックスに固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性を高める元素であり、転動疲労寿命を向上させる作用も有する。また、微細な炭化物や炭窒化物を形成して、耐摩耗性を向上させる作用も有する。クロム含有率が0.3質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られない。ただし、クロム含有率が2.0質量%を超えると、表面に不動態膜が生じて浸炭を阻害する恐れがある。
素材をなす鋼のニッケル含有率〔Ni〕が5.0質量%以下の限定理由は以下の通りである。ニッケルを含有すると焼入れ性が向上するが、含有率が5.0質量%を超えると、熱間加工性の低下やコストの上昇等が問題となる。
<(1)式と(2)式について>
(1)式および(2)式は以下の方法で導出された式である。
焼入れマルテンサイト組織の最高硬度は、加熱した状態で、オーステナイト組織内に何%の炭素が含有されているかによって決定され、合金元素などの影響は受けない。この炭素含有率〔C〕と最高硬さ(ロックウエルC硬度:HRC)は、図1のグラフに示すような関係になる。
ロックウエルC硬度(HRC)とビッカース硬度(Hv)の関係は、図2に示すようにな二次式に近似される。この二次式は「Hv」=((「HRC」−18)2 /4)+256である。
ここで、〔C〕≦0.18質量%に対応する直線1の式を「Hv」=((「HRC」−18)2 /4)+256に代入して、「Hv」と〔C〕の関係式に変形してから、直線3の式に代入すると、
A=1.55(((200〔C〕+15−18)2 /4)+256)‥(1’)となり、(1)式が導出される。
A=0.125(((33〔C〕+45−18)2 /4)+256)+700‥(2’)となり、(2)式が導出される。
引っ張り強さや降伏強さ(σ)と結晶粒径(d)との関係は、ホールペッチの法則によってσ=σ0 +k/√dで表される。σ0 は粒径に依存しない量であり、kは粒径に依存する係数である。
軸受構成部材をなす鋼の組織は、鍛造の影響や組成揺らぎの影響によって、一般に、様々な大きさの粒子が混合された状態となっている。疲労破壊は、負荷の加わる範囲で最も弱い部分が起点となって発生する。よって、軸受構成部材をなす鋼においては、焼入れによってマルテンサイト化された旧オーステナイト粒のうち、直径の最も大きなものが、疲労破壊の起点になると想定される。
図4のグラフから、1/√dM ≧1/√30μm(すなわち、dM ≦30μm)のときB=156であり、1/√dM ≦1/√30μm(すなわち、dM ≧30μm)のときB=(2500/√dM )−300を満たすことが分かった。これにより、(3)式と(4)式が導出される。
疲労強度に影響を及ぼす要素として、非金属介在物の応力方向への投影面積の平方根√areaがあり、疲労強度は√areaの−1/6乗に比例することが知られている。この考え方に基づいて、極値統計法により推定して得られた√areaの最大値を、芯部の最大介在物粒径r(μm)として、その−1/6乗をパラメータDとした式が(5)式である。
このrは、極値統計法の条件が、1観察範囲:6.25mm2 、全被検面積:200mm2 、予測を行う面積:130000mm2 の時の最大介在物粒径である。
(1)〜(5)式に基づいて得られた各パラメータA,B,Dを要素とした材料強度Xを「X=(A+B)D」とした場合、この材料強度Xが280を超えることで、280以下の場合と比較して、製造された転がり軸受構成部材を用いた転がり軸受の寿命が著しく長くなる。
SNCM815鋼をベースとして、炭素含有率〔C〕を変化させた鋼からなる素材を用意し、各素材を、呼び番号「NU228」の円筒ころ軸受(内径:140mm、外径:250mm、幅:42mm)の内輪、外輪、円筒ころ(転動体)の各形状に通常の方法で加工した。
SNCM815鋼の炭素含有率〔C〕は0.15質量%であり、珪素含有率〔Si〕は0.23質量%であり、マンガン含有率〔Mn〕は0.43質量%であり、クロム含有率〔Cr〕は0.81質量%であり、モリブデン含有率〔Mo〕は0.17質量%であり、ニッケル含有率〔Ni〕は4.00質量%である。
先ず、浸炭処理として、RXガス(+プロパンガス)雰囲気中に、温度850〜1050℃で10〜120時間保持した後に、結晶粒度に対応させた冷却速度で冷却する。この浸炭処理により、圧延機用の大型軸受(呼び番号600RV相当)に必要とされる剪断応力を付与するために、表層部の炭素含有率0.90〜1.05質量%、浸炭深さ5〜7mmとなるようにした。 次に、焼鈍処理として、600〜900℃で1〜5時間保持した後に放冷する。次に、焼入れ処理として、800〜900℃で1〜3時間保持した後に油冷する。次に、焼戻し処理として、150〜260℃で2時間保持した後に放冷する。
得られた内輪、外輪、円筒ころを用いて円筒ころ軸受を組み立てて、ラジアル荷重:P/C=0.6、回転速度:1000min-1、潤滑剤:Ro68の条件で、回転寿命試験を行った。その結果も表1〜5に併せて示す。
このグラフから分かるように、材料強度X=(A+B)Dが大きいほどL10寿命比が大きくなり、X=280を境にL10寿命比が著しく大きくなっている。よって、X>280を満たすことでL10寿命を著しく長くすることができる。
Claims (2)
- 鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化処理を含む熱処理を行うことにより、転がり軸受の内輪、外輪、および転動体のいずれか一つからなる構成部材を製造する方法において、
炭素含有率〔C〕が0.03質量%以上0.6質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.1質量%以上0.6質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.3質量%以上2.0質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.3質量%以上2.0質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が2.0質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が5.0質量%以下で、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼を使用し、
使用する鋼の炭素含有率〔C〕(質量%)を変数とする式(1)および(2)で表されるパラメータAと、芯部のオーステナイト最大粒径dM (μm)を変数とする式(3)および(4)で表されるパラメータBと、芯部の最大介在物粒径r(μm)を変数とする式(5)で表されるパラメータDとが下記の(6)式を満たすように、850〜1050℃での浸炭または浸炭窒化処理、600〜900℃での焼鈍処理、800〜900℃に保持した後に油冷する焼入れ処理、150〜260℃の焼戻し処理をこの順に行うことを特徴とする転がり軸受構成部材の製造方法。
A=1.55(((200〔C〕−3)2 /4)+256)‥(1)
(ただし、0.03質量%≦〔C〕<0.18質量%のとき)
A=0.125(((33〔C〕+27)2 /4)+256)+700‥(2)
(ただし、0.18質量%≦〔C〕≦0.6質量%のとき)
B=156‥(3)(ただし、dM ≦30μmのとき)
B=(2500/√dM )−300‥(4)(ただし、dM ≧30μmのとき)
D=re ‥(5)(ただし、e=−1/6)
(A+B)D>280‥(6) - 請求項1の方法で得られた内輪、外輪、または転動体を備えた転がり軸受。
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