以下、本発明の実施の形態に係る多段スクロール昇圧装置として、例えば3台の圧縮機を用いて3段階で空気を圧縮した場合を例に挙げ、図1ないし図10に従って詳細に説明する。
図1において、1は本実施の形態による多段スクロール昇圧装置を示している。この多段スクロール昇圧装置1は、空気等の流体を高い圧力まで昇圧するものである。そして、多段スクロール昇圧装置1は、後述の第1段圧縮機2、第2段圧縮機14、第3段圧縮機29、接続配管11,26等により構成されている。
2は前段となる第1段目のスクロール式の圧縮機(以下、第1段圧縮機2という)で、該第1段圧縮機2は、大気圧の空気を吸込み、圧縮して吐出するものである。また、第1段圧縮機2は、図2に示すように、後述のケーシング3、固定スクロール4、旋回スクロール5、圧縮室6、吸込口7、吐出口8等により構成されている。
3は第1段圧縮機2のケーシングで、該ケーシング3は、段付筒状に形成されている。また、ケーシング3は、その内部に後述の駆動軸9を回転可能に支持するものである。
4はケーシング3の開口側に固定して設けられた固定スクロールである。この固定スクロール4は、略円板状に形成された鏡板と呼ばれる板体4Aと、該板体4Aの表面に軸方向に立設された渦巻状のラップ4Bと、該ラップ4Bを取囲んで板体4Aの外径側に設けられた筒状の支持部4Cと、前記板体4Aの背面に立設された複数の冷却フィン4Dとによって大略構成されている。また、ラップ4Bは、図4に示すように、例えば最内径端を巻始め端4B1として、最外径端を巻終り端4B2としたときに、内径側の巻始め端4B1から外径側の巻終り端4B2まで3巻半程度の渦巻状に巻回されている。
ここで、ラップ4Bは、その巻始め端4B1の位置が、板体4Aの中心に近い位置に設定されている。これにより、板体4Aの中心側に後述の最終圧縮室6が形成される面積は、図4中に二点鎖線で示す如く、ほぼ円形状の範囲A1であり、その範囲A1の直径寸法は、後述する第2段圧縮機14の固定スクロール18の板体18Aの範囲A2の直径寸法D2よりも小さな寸法D1となっている。
また、ラップ4Bは、図2、図3に示すように、高さ寸法H1をもって形成されている。このラップ4Bの高さ寸法H1は、後述する第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2よりも大きな寸法となっている。
5はケーシング3内に旋回可能に設けられた旋回スクロールである。この旋回スクロール5は、固定スクロール4の板体4Aと対向して配置された略円板状の板体5Aと、該板体5Aの表面となる歯底面に立設された渦巻状のラップ5Bと、前記板体5Aの背面に立設された複数の冷却フィン5Cと、該各冷却フィン5Cの先端側に位置して取付けられたボスプレート5Dとによって大略構成されている。また、ボスプレート5Dの中央には筒状のボス部5Eが突設され、該ボス部5Eには、後述する駆動軸9のクランク部9Aが回転可能に連結される。
ここで、旋回スクロール5のラップ5Bは、固定スクロール4のラップ4Bとほぼ同様に、例えば3巻半程度の渦巻状に形成されている。これにより、旋回スクロール5の板体5Aの最終圧縮室6が形成される面積は、固定スクロール4の板体4Aの最終圧縮室6が形成される面積と同等となっている。また、ラップ5Bは、固定スクロール4のラップ4Bと同様に、高さ寸法H1をもって形成されている。
そして、旋回スクロール5のラップ5Bは、固定スクロール4のラップ4Bと重なり合うように配置されている。これにより、各スクロール4,5のラップ4B,5B間には、後述する複数の圧縮室6が形成されている。
6は固定スクロール4のラップ4Bと旋回スクロール5のラップ5Bとの間に連続して形成される複数個の圧縮室を示している。これらの圧縮室6は、図2に示すように、最外径側では後述の吸込口7から空気を吸込み、外径側から内径側に向けて移動するときに、その容積を徐々に縮小する。そして、後述の吐出口8に連通した最内径側の最終圧縮室6では、圧縮した空気を該吐出口8から吐出する。
ここで、複数の圧縮室6で空気を圧縮したときには、圧縮熱、摩擦熱等によって各スクロール4,5の板体4A,5Aやラップ4B,5Bが温度上昇する。このときには、板体4A,5Aやラップ4B,5Bの熱を各冷却フィン4D,5Cから放出することにより、これらを冷却することができる。
7は固定スクロール4に設けられた例えば2個の吸込口で、該各吸込口7は、板体4Aの外周側から支持部4Cにかけて開口し、最外径側の圧縮室6に連通している。そして、吸込口7は、吸込フィルタ7Aを通じて最外径側の圧縮室6内に大気圧状態の空気を吸込ませるものである。
一方、8は固定スクロール4の板体4Aの中央位置に設けられた吐出口で、該吐出口8は、最内径側(中心側)に位置する最終圧縮室6に連通している。これにより、吐出口8は、最終圧縮室6内の圧縮空気を後述する第1の接続配管11等を介して次段となる第2段圧縮機14に向け吐出するものである。
また、9はケーシング3内の中心位置に回転可能に支持された駆動軸である(図2参照)。この駆動軸9のケーシング3内の端部は、偏心したクランク部9Aとなり、該クランク部9Aは旋回スクロール5のボス部5Eに回転可能に連結されている。これにより、駆動軸9は、電動モータ(図示せず)等によって回転駆動されることにより、固定スクロール4に対して旋回スクロール5を旋回運動させるものである。
10は旋回スクロール5のボスプレート5Dとケーシング3との間に設けられた例えば3個の補助クランク(1個のみ図示)で、該各補助クランク10は、旋回スクロール5の自転を防止するものである。
11は第1段圧縮機2と後述の第2段圧縮機14とを接続する第1の接続配管である(図1参照)。この接続配管11は、一端が固定スクロール4の板体4Aの中心位置の吐出口8に接続され、他端が第2段圧縮機14の導入口17に接続されている。
12は接続配管11の途中に設けられたインタクーラで、該インタクーラ12は、圧縮熱や摩擦熱によって温度上昇する圧縮空気を冷却することにより、冷えた圧縮空気を第2段圧縮機14に向けて供給するものである。また、13はインタクーラ12に対面して設けられた冷却ファンで、該冷却ファン13は、電動モータ(図示せず)等に回転駆動されることにより、インタクーラ12に向け冷却風を供給するものである。
次に、第1段圧縮機2の次段となる第2段目のスクロール式の圧縮機14の構成について説明する。
即ち、14は第1段圧縮機2の次段して設けられた第2段目のスクロール式の圧縮機(以下、第2段圧縮機14という)で、該第2段圧縮機14は、第1段圧縮機2から吐出される圧縮空気を吸込み、再び圧縮することにより高圧な圧縮空気を吐出するものである。また、第2段圧縮機14は、図5に示すように、後述のケーシング15、閉塞空間16、導入口17、固定スクロール18、旋回スクロール19、圧縮室20、吸込口21、吐出口22等により構成されている。
15は第2段圧縮機14のケーシングで、該ケーシング15は、筒部15Aと底部15Bとから有底筒状に形成され、開口側となる一側に後述の固定スクロール18が気密に取付けられている。また、ケーシング15は、固定スクロール18との間で密閉容器を形成することができ、これにより、旋回スクロール19の背面側に閉塞空間16を形成することができる。
一方、ケーシング15の内部には、底部側の支持部材15Cと開口側の支持部材15Dとが設けられ、該各支持部材15C,15Dは後述の駆動軸23を支持するものである。また、各支持部材15C,15Dには複数の空気通路15C1,15D1が軸方向に貫通して設けられ、該各空気通路15C1,15D1は、導入口17から導入した圧縮空気を吸込口21に向けて流通させるものである。
さらに、17はケーシング15に設けられた導入口である。この導入口17は、後述する吸込口21と離れた底部15Bに位置して設けられ、第1の接続配管11の他端が接続されている。
ここで、ケーシング15内の閉塞空間16は、旋回スクロール19の背面側に位置しているから、この閉塞空間16に第1段圧縮機2からの圧縮空気を導入することにより、旋回スクロール19の板体19Aを挟んで位置する圧縮室20と閉塞空間16との圧力差を小さくすることができる。これにより、旋回スクロール19の板体19Aの変形を防止することができる。しかも、導入口17から吸込口21に向けて空気を流通させることにより、電動モータ25、旋回スクロール19、軸受等を冷却することができる。
18はケーシング15の筒部15Aの開口側に固定して設けられた固定スクロールである。この固定スクロール18は、略円板状に形成された板体18Aと、該板体18Aの表面に軸方向に立設された渦巻状のラップ18Bと、該ラップ18Bを取囲んで板体18Aの外径側に設けられた筒状の支持部18Cと、前記板体18Aの裏面に立設された複数の冷却フィン18Dとによって大略構成されている。また、ラップ18Bは、図7に示すように、例えば最内径端を巻始め端18B1として、最外径端を巻終り端18B2としたときに、内径側の巻始め端18B1から外径側の巻終り端18B2まで2巻程度の渦巻状に巻回されている。
そして、ラップ18Bの巻始め端18B1の位置は、第1段圧縮機2の固定スクロール4のラップ4Bの巻始め端4B1よりも中心から遠い位置に設定されている。これにより、板体18Aの中心側に後述の最終圧縮室20が形成される面積は、図7中に二点鎖線で示す如く、ほぼ円形状の範囲A2となり、その範囲A2の直径寸法は、第1段圧縮機2の固定スクロール4の板体4Aの範囲A1の直径寸法D1よりも大きな寸法D2となっている(D2>D1)。
ここで、第2段圧縮機14は、第1段圧縮機2から吐出された圧縮空気を再び圧縮するものであるから、最終圧縮室20の温度が高くなり、この最終圧縮室20を形成する板体18Aの中心側も高温になる。これに対し、最終圧縮室20が形成される板体18Aの面積を規定する直径寸法D2は、第1段圧縮機2の直径寸法D1よりも大きな寸法に設定している。これにより、最も高温になる最終圧縮室20は、板体18Aの広い範囲に形成できるから、板体18A、ラップ18Bの熱を多くの冷却フィン18Dに伝えて放熱量を増大させることができ、板体18Aやラップ18Bの温度上昇を抑えて熱変形等を防止することができる。
また、ラップ18Bは、図5、図6に示すように、高さ寸法H2をもって形成されている。このラップ18Bの高さ寸法H2は、第1段圧縮機2の各スクロール4,5のラップ4B,5Bの高さ寸法H1よりも小さな寸法に設定されている(H2<H1)。ここで、第2段圧縮機14は、前述したように圧縮空気を再度圧縮するために、第1段圧縮機2よりも高い熱が発生し、また各圧縮室20間の圧力差も大きくなる。
これに対し、第2段圧縮機14では、固定スクロール18のラップ18Bの高さ寸法H2を第1段圧縮機2の各スクロール4,5のラップ4B,5Bの高さ寸法H1よりも小さくする。これにより、ラップ18Bの根元部分の強度を高めることができ、変形やかじりによる損傷を防止することができる。
19はケーシング15内に旋回可能に設けられた旋回スクロールである。この旋回スクロール19は、図5に示すように、固定スクロール18の板体18Aと対向して配置された略円板状の板体19Aと、該板体19Aの表面に立設された渦巻状のラップ19Bと、前記板体19Aの背面中央に突設された筒状のボス部19Cとにより構成され、前記ボス部19Cには、後述する駆動軸23のクランク部23Aが回転可能に連結される。
ここで、ラップ19Bは、固定スクロール18のラップ18Bとほぼ同様に、例えば2巻程度の渦巻状に形成されている。また、ラップ19Bは、固定スクロール18のラップ18Bと同様に、高さ寸法H2をもって形成されている。これにより、板体19Aやラップ19Bの温度上昇を抑えることができ、またラップ19Bの根元部分の強度を高めることができる。
20は固定スクロール18のラップ18Bと旋回スクロール19のラップ19Bとの間に連続して形成される複数個の圧縮室を示している(図5中に図示)。これらの圧縮室20は、最外径側では後述の吸込口21から空気を吸込み、外径側から内径側に向けて移動するときに、その容積を徐々に縮小する。そして、後述の吐出口22に連通した最内径側の最終圧縮室20では、圧縮した空気を該吐出口22から吐出する。また、第2段圧縮機14の各圧縮室20は、第1段圧縮機2によって圧縮された空気を再び圧縮するものであるから、圧縮空気をさらに高い圧力まで圧縮することができる。
21は旋回スクロール19に設けられた吸込口で、該吸込口21は、板体19Aの外周側を切欠くように形成され、最外径側の圧縮室20と閉塞空間16とを連通している。そして、吸込口21は、第1段圧縮機2から導入口17を介して閉塞空間16に流入する圧縮空気を、最外径側の圧縮室20内に吸込ませるものである。
一方、22は固定スクロール18の板体18Aの中央位置に設けられた吐出口で、該吐出口22は、最内径側(中心側)に位置する最終圧縮室20に連通している。これにより、吐出口22は、最終圧縮室20内の圧縮空気を後述する第2の接続配管26等を介して次段となる第3段圧縮機29に向け吐出するものである。
また、23はケーシング15内に回転可能に支持された駆動軸である(図5参照)。この駆動軸23のケーシング3内の端部は、偏心したクランク部23Aとなり、旋回スクロール19のボス部19Cに回転可能に連結されている。これにより、駆動軸23は、後述の電動モータ25によって回転駆動されることにより、固定スクロール18に対して旋回スクロール19を旋回運動させることができる。
24は旋回スクロール19の板体19Aとケーシング15の支持部材15Dとの間に設けられた例えば3個の補助クランク(2個のみ図示)で、該各補助クランク24は、旋回スクロール19の自転を防止するものである。
25はケーシング15内に位置して各支持部材15C,15D間に設けられた電動モータである。この電動モータ25は、駆動軸23を回転駆動し、固定スクロール18に対して旋回スクロール19を旋回動作させるものである。そして、電動モータ25は、ケーシング15の筒部15A内に固定された固定子25Aと、該固定子25A内に回転可能に設けられ駆動軸23に取付けられた回転子25Bとにより大略構成されている。
また、固定子25Aの外周側には、軸方向に貫通して空気通路25Cが形成され、該空気通路25Cは、導入口17から吸込口21に向けて流通する圧縮空気の通り道となっている。これにより、空気通路25Cを通る圧縮空気によって電動モータ25を冷却することができる。
26は第2段圧縮機14の吐出口22と後述する第3段圧縮機29の導入口32とを接続する第2の接続配管である(図1参照)。また、27は第2の接続配管26の途中に設けられたインタクーラ、28は該インタクーラ27に対面して設けられた冷却ファンをそれぞれ示している。
次に、第2段圧縮機14の次段となる第3段目のスクロール式の圧縮機29の構成について説明する。
即ち、29は第2段圧縮機14の次段して設けられた第3段目のスクロール式の圧縮機(以下、第3段圧縮機29という)で、該第3段圧縮機29は、第2段圧縮機14から吐出される圧縮空気を吸込み再び圧縮することにより、さらに高圧な圧縮空気を吐出するものである。また、第3段圧縮機29は、図8に示すように、後述のケーシング30、閉塞空間31、導入口32、固定スクロール33、旋回スクロール34、圧縮室35、吸込口36、吐出口37等により構成されている。
30は第3段圧縮機29のケーシングを示し、該ケーシング30は、固定スクロール33との間で密閉容器を形成するものである。また、ケーシング30は、前述した第2段圧縮機14のケーシング15とほぼ同様に、筒部30A、底部30B、各支持部材30C,30Dにより形成され、各支持部材30C,30Dには空気通路30C1,30D1がそれぞれ設けられている。また、ケーシング30は、旋回スクロール34の背面側に閉塞空間31を形成している。さらに、ケーシング30の底部30Bには導入口32が設けられ、該導入口32には第2の接続配管26の他端が接続されている。
ここで、ケーシング30内の閉塞空間31は、旋回スクロール34の背面側に位置しているから、この閉塞空間31に第2段圧縮機14からの圧縮空気を導入することにより、旋回スクロール34の板体34Aを挟んで位置する圧縮室35と閉塞空間31との圧力差を小さくして、この板体34Aの変形を防止することができる。しかも、導入口32から吸込口36に向けて空気を流通させることにより、電動モータ40、旋回スクロール34、軸受等を冷却することができる。
33はケーシング30の筒部30Aの開口側に固定して設けられた固定スクロールである。この固定スクロール33は、板体33A、ラップ33B、支持部33C、複数の冷却フィン33Dにより大略構成されている。また、ラップ33Bは、図10に示すように、例えば最内径端を巻始め端33B1として、最外径端を巻終り端33B2としたときに、内径側の巻始め端33B1から外径側の巻終り端33B2まで1巻半程度の渦巻状に巻回されている。
そして、ラップ33Bの巻始め端33B1の位置は、第2段圧縮機14の固定スクロール18のラップ18Bの巻始め端18B1よりも中心から遠い位置に設定されている。これにより、板体33Aの中心側に後述の最終圧縮室35が形成される面積は、図10中に二点鎖線で示す如く、ほぼ円形状の範囲A3となり、その範囲A3の直径寸法は、第2段圧縮機14の固定スクロール18の板体18Aの範囲A2の直径寸法D2よりも大きな寸法D3となっている(D3>D2)。
ここで、第3段圧縮機29は、第2段圧縮機14から吐出された圧縮空気を再び圧縮するものであるから、最終圧縮室35の温度が第2段圧縮機14よりも高くなり、この最終圧縮室35を形成する板体33Aの中心側もさらに高温になる。これに対し、最終圧縮室35が形成される板体33Aの面積を規定する直径寸法D3は、第2段圧縮機14の直径寸法D2よりも大きな寸法に設定している。
これにより、最も高温になる最終圧縮室35は、板体33Aの広い範囲に形成できるから、板体33A、ラップ33Bの熱を多くの冷却フィン33Dに伝えて放熱量を増大させることができ、板体33Aやラップ33Bの温度上昇を抑えて熱変形等を防止することができる。
また、ラップ33Bは、図8、図9に示すように、高さ寸法H3をもって形成されている。このラップ33Bの高さ寸法H3は、第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2よりも小さな寸法に設定されている(H3<H2)。ここで、第3段圧縮機29は、前述したように圧縮空気を再度圧縮するために、第2段圧縮機14よりも高い熱が発生し、また各圧縮室35間の圧力差も大きくなる。
これに対し、第3段圧縮機29では、固定スクロール33のラップ33Bの高さ寸法H3を第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2よりも小さくする。これにより、ラップ33Bの根元部分の強度をさらに高めることができ、変形やかじりによる損傷を防止することができる。
34はケーシング30内に旋回可能に設けられた旋回スクロールである。この旋回スクロール34は、図8に示すように、板体34A、ラップ34B、ボス部34Cからなり、前記ボス部34Cには、後述する駆動軸38のクランク部38Aが回転可能に連結される。ここで、ラップ34Bは、固定スクロール33のラップ33Bとほぼ同様に、例えば1巻半程度の渦巻状に形成されている。また、ラップ34Bは、固定スクロール33のラップ33Bと同様に、高さ寸法H3をもって形成されている。これにより、板体34Aやラップ34Bの温度上昇を抑えることができ、またラップ34Bの根元部分の強度を高めることができる。
35は固定スクロール33のラップ33Bと旋回スクロール34のラップ34Bとの間に連続して形成される複数個の圧縮室を示している(図8中に図示)。これらの圧縮室35は、最外径側では後述の吸込口36から空気を吸込み、外径側から内径側に向けて移動するときに、その容積を徐々に縮小する。そして、後述の吐出口37に連通した最内径側の最終圧縮室35では、圧縮した空気を該吐出口37から吐出する。また、第3段圧縮機29の各圧縮室35は、第2段圧縮機14によって圧縮された空気を再び圧縮するものであるから、圧縮空気をさらに高い圧力まで圧縮することができる。
36は旋回スクロール34に設けられた吸込口で、該吸込口36は、板体34Aの外周側を切欠くように形成されている。そして、吸込口36は、第2段圧縮機14から導入口32を介して閉塞空間31に流入する圧縮空気を、最外径側の圧縮室35内に吸込ませるものである。
一方、37は固定スクロール33の板体33Aの中央位置に設けられた吐出口で、該吐出口37は、最内径側の最終圧縮室35に連通している。これにより、吐出口37は、最終圧縮室35内の圧縮空気を後述の吐出配管41等を介して外部の空気タンク(図示せず)に向け吐出するものである。
38はケーシング30内に回転可能に支持された駆動軸で(図8参照)、該駆動軸38のクランク部38Aは、旋回スクロール34のボス部34Cに回転可能に連結されている。また、39は旋回スクロール34の板体34Aとケーシング30の支持部材30Dとの間に設けられた例えば3個の補助クランク(2個のみ図示)で、該各補助クランク39は、旋回スクロール34の自転を防止するものである。
40はケーシング30内に位置して各支持部材30C,30D間に設けられた電動モータである。この電動モータ40は、駆動軸38を回転駆動し、固定スクロール33に対して旋回スクロール34を旋回動作させるものである。そして、電動モータ40は、固定子40Aと回転子40Bとからなり、該固定子40Aの外周側には圧縮空気が流通する空気通路40Cが形成されている。
41は第3段圧縮機29に接続して設けられた吐出配管で、該吐出配管41は、一端が固定スクロール33の板体33Aの中心位置の吐出口37に接続され、他端が圧縮空気を貯える外部の空気タンク(図示せず)に接続されている。
本実施の形態による多段スクロール昇圧装置1は、上述のような構成を有するもので、次に、この多段スクロール昇圧装置1の動作について説明する。
まず、第1段圧縮機2では、電動モータによって駆動軸9を回転駆動し、旋回スクロール5を旋回駆動する。このときには、固定スクロール4のラップ4Bと旋回スクロール5のラップ5Bとの間に形成される複数の圧縮室6が、外径側から内径側に向けて移動しつつ連続的に縮小し、空気を圧縮する。これにより、吸込口7から吸込んだ空気は、各圧縮室6で順次圧縮しつつ、最も高圧な最終圧縮室6から吐出口8を介して第1の接続配管11に吐出する。
そして、第1段圧縮機2から吐出された第1段階の圧縮空気は、インタクーラ12によって冷却されつつ第1の接続配管11を介して第2段圧縮機14に供給される。
次に、第2段圧縮機14では、電動モータ25によって駆動軸23を回転駆動し、旋回スクロール19を旋回駆動する。このときには、固定スクロール18のラップ18Bと旋回スクロール19のラップ19Bとの間に形成される複数の圧縮室20が空気を圧縮する。これにより、吸込口21から吸込んだ空気は、各圧縮室20で順次圧縮しつつ、最も高圧な最終圧縮室20から吐出口22を介して第2の接続配管26に吐出する。
このときに、第2段圧縮機14は、図5中の矢示の如く、導入口17から閉塞空間16内に圧縮空気が導入されると、この圧縮空気は、ケーシング15の支持部材15Cの空気通路15C1、電動モータ25の空気通路25C、支持部材15Dの空気通路15D1を通って旋回スクロール19の背面側に流通するから、旋回スクロール19の板体19Aを挟んで位置する圧縮室20と閉塞空間16との圧力差が小さくなる。これにより、旋回スクロール19の板体19Aが各圧縮室20の圧力によって変形するのを防止することができる。
しかも、閉塞空間16に圧縮空気を導入する導入口17は、吸込口21から離れたケーシング15の底部15Bに配設している。これにより、導入口17から導入した圧縮空気を電動モータ25、旋回スクロール19、軸受等に沿わせて流通することができ、これらの部材を冷却することができる。
また、第2段圧縮機14は、第1段圧縮機2から吐出された圧縮空気を再び圧縮しているから、圧縮熱によって各圧縮室20の温度が高くなる。特に、最も高圧となる中心側の最終圧縮室20で温度が高くなり、これに応じて最終圧縮室20を形成する板体18Aの中心側も高温になってしまう。
これに対し、第2段圧縮機14は、最終圧縮室20が形成される板体18Aの面積が大きくなるように、最終圧縮室20の範囲A2の直径寸法D2を、第1段圧縮機2の直径寸法D1よりも大きな寸法としている。これにより、最も高温になる最終圧縮室20は、板体18Aの広い範囲に形成できるから、板体18A、ラップ18Bの熱は、多くの冷却フィン18Dから効率よく放出することができ、板体18A、ラップ18B等を積極的に冷却することができる。同様に、旋回スクロール19でも、最終圧縮室20が形成される板体19Aの面積を大きくしているから、閉塞空間16を流れる圧縮空気によって板体19A、ラップ19B等を冷却することができる。
さらに、各スクロール18,19のラップ18B,19Bは、第1段圧縮機2の各スクロール4,5のラップ4B,5Bの高さ寸法H1よりも小さな高さ寸法H2をもって形成している。これにより、温度変化、圧力差等によってラップ18B,19Bに負荷が作用した場合でも、ラップ18B,19Bの根元部分の強度を高めることができ、変形やかじりによる損傷を防止することができる。
次に、第3段圧縮機29では、電動モータ40によって駆動軸38を回転駆動し、旋回スクロール34を旋回駆動する。このときには、固定スクロール33のラップ33Bと旋回スクロール34のラップ34Bとの間に形成される複数の圧縮室35が空気を圧縮する。これにより、吸込口36から吸込んだ空気は、各圧縮室35で順次圧縮しつつ、最も高圧な最終圧縮室35から吐出口37を介して吐出配管41に吐出し、外部の空気タンクに向けて供給する。
このときには、第3段圧縮機29においても、第2段圧縮機14とほぼ同様に、閉塞空間31に第2段圧縮機14からの圧縮空気を導入しているから、圧縮室35と閉塞空間31との圧力差を小さくでき、旋回スクロール34の板体34Aが各圧縮室35の圧力によって変形するのを防止することができる。また、導入口32から導入した圧縮空気を、ケーシング30の支持部材30Cの空気通路30C1、電動モータ40の空気通路40C、支持部材30Dの空気通路30D1を介して吸込口36に向けて流通させているから、この圧縮空気によって電動モータ40、旋回スクロール34、軸受等を冷却することができる。
また、第3段圧縮機29では、最終圧縮室35が形成される固定スクロール33の板体33Aの面積が大きくなるように、最終圧縮室35の範囲A3の直径寸法D3を、第2段圧縮機14の直径寸法D2よりも大きな寸法としている。これにより、最終圧縮室35が第2段圧縮機14よりもさらに高温になる場合でも、板体33A、ラップ33B等を積極的に冷却することができる。同様に、旋回スクロール34でも、最終圧縮室35が形成される板体34Aの面積を大きくしているから、閉塞空間31を流れる圧縮空気によって板体34A、ラップ34B等を冷却することができる。
さらに、各スクロール33,34のラップ33B,34Bは、第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2よりも小さな高さ寸法H3をもって形成している。これにより、温度変化、圧力差等がさらに大きくなった場合でも、ラップ33B,34Bの強度を高めて変形やかじりによる損傷を防止することができる。
かくして、本実施の形態によれば、第1段圧縮機2の吐出口8から吐出される圧縮空気を、第2段圧縮機14の旋回スクロール19の背面に位置する閉塞空間16に導入している。また、第2段圧縮機14の吐出口22から吐出される圧縮空気を、第3段圧縮機29の旋回スクロール34の背面に位置する閉塞空間31に導入している。従って、旋回スクロール19,34の背面側の圧力を高めることができ、圧縮室20,35と閉塞空間16,31との圧力差を小さくすることができる。
この結果、旋回スクロール19,34の板体19A,34Aの変形を抑えることができ、各ラップ部18B,19B,33B,34Bの変形やかじりを防止して、圧縮効率や信頼性を向上することができる。
また、第1段圧縮機2の次段となる第2段圧縮機14で高圧な最終圧縮室20が形成される固定スクロール18の板体18Aの面積(直径寸法D2)を、前記第1段圧縮機2で最終圧縮室6が形成される板体4Aの面積(直径寸法D1)よりも大きくする構成としている。これにより、最も高温になる最終圧縮室20は、板体18Aの広い範囲に形成できるから、板体18A、ラップ18Bの熱は、多くの冷却フィン18Dから効率よく放出することができ、板体18A、ラップ18B等を積極的に冷却することができる。同様に、旋回スクロール19でも、最終圧縮室20が形成される板体19Aの面積を大きくすることにより、閉塞空間16を流れる圧縮空気によって板体19A、ラップ19B等を冷却することができる。
一方、第2段圧縮機14の次段となる第3段圧縮機29においても、高圧な最終圧縮室35が形成される固定スクロール33の板体33Aの面積(直径寸法D3)を、前記第2段圧縮機14で最終圧縮室20が形成される板体18Aの面積(直径寸法D2)よりも大きくしている。これにより、第3段圧縮機29による固定スクロール33の板体33A、ラップ33B等を積極的に冷却することができる。同様に、旋回スクロール34の板体34A、ラップ34B等を冷却することができる。
また、第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2は、第1段圧縮機2の各スクロール4,5のラップ4B,5Bの高さ寸法H1よりも小さな寸法に設定している。また、第3段圧縮機29の各スクロール33,34のラップ33B,34Bの高さ寸法H3は、第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2よりも小さな寸法に設定している。これにより、ラップ18B,19B,33B,34Bの根元部分の強度を高めることができるから、温度変化、圧力差等によってラップ18B,19B,33B,34Bに負荷が作用した場合でも、変形やかじりによる損傷を防止することができる。
さらに、第2段圧縮機14のケーシング15には、第1段圧縮機2から吐出された圧縮空気を閉塞空間16に導入する導入口17を設けているから、導入口17から導入した圧縮空気によって電動モータ25、旋回スクロール19、軸受等を冷却することができる。また、第3段圧縮機29のケーシング30においても、導入口32から導入した圧縮空気によって電動モータ40、旋回スクロール34、軸受等を冷却することができる。
なお、実施の形態では、第1段圧縮機2の次段となる第2段圧縮機14で高圧な最終圧縮室20が形成される固定スクロール18の板体18Aの面積(直径寸法D2)を、第1段圧縮機2で最終圧縮室6が形成される板体4Aの面積(直径寸法D1)よりも大きくする構成としている(D2>D1)。また、第2段圧縮機14の次段となる第3段圧縮機29で高圧な最終圧縮室35が形成される固定スクロール33の板体33Aの面積(直径寸法D3)を、第2段圧縮機14で最終圧縮室20が形成される板体18Aの面積(直径寸法D2)よりも大きくする構成としている(D3>D2)大きくしている。このように、実施の形態では、第1段圧縮機2の圧縮室6の温度よりも第2段圧縮機14の圧縮室20の温度が高くなり、第2段圧縮機14の圧縮室20の温度よりも第3段圧縮機29の圧縮室35の温度が高くなると想定して面積の大きさを決定している(D3>D2>D1)。
しかし、本発明はこれに限らず、例えば第2段圧縮機で高圧な最終圧縮室が形成される固定スクロールの板体の面積を、第1段圧縮機で最終圧縮室が形成される板体の面積以下に設定してもよい。または、第3段圧縮機で高圧な最終圧縮室が形成される固定スクロールの板体の面積を、第2段圧縮機で最終圧縮室が形成される板体の面積以下に設定してもよい。即ち、最終圧縮室が形成される板体の面積を求めるための直径寸法D1,D2,D3の関係は、D2>D1、D3>D2、D3>D1の関係のうち少なくとも1つを満たすものであればよいものである。
また、第1段圧縮機2の各スクロール4,5のラップ4B,5Bの高さ寸法H1と、第2段圧縮機14の各スクロール18,19のラップ18B,19Bの高さ寸法H2と、第3段圧縮機29の各スクロール33,34のラップ33B,34Bの高さ寸法H3との関係についても、H2<H1、H3<H2、H3<H1の関係のうち少なくとも1つを満たすものであればよいものである。
また、実施の形態では、第1段圧縮機2を電動モータが別体となったスクロール式の空気圧縮機により構成した場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば駆動モータが一体に設けられたスクロール式の空気圧縮機により構成してもよい。
一方、第2段,第3段圧縮機14,29を電動モータ25,40が一体に設けられたスクロール式の空気圧縮機により構成した場合を例示したが、電動モータが別体となったスクロール式の空気圧縮機により構成してもよい。
さらに、実施の形態では、多段スクロール昇圧装置1を、流体として空気を圧縮する3台のスクロール式の圧縮機2,14,29により構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば多段スクロール昇圧装置を、2台または4台以上の圧縮機によって構成してもよい。また、冷媒等の流体を圧縮する圧縮機を用いる構成としてもよい。
以上の実施の形態で述べたように、請求項1の発明によれば、前段の圧縮機の吐出口から吐出される圧縮流体を、次段の圧縮機に設けられた旋回スクロールの背面に位置する閉塞空間に導入しているから、旋回スクロールの背面側の圧力を高めることができ、圧縮室と閉塞空間との圧力差を小さくすることができる。この結果、旋回スクロールの板体の変形を抑えることができ、各ラップ部の変形やかじりを防止して、圧縮効率や信頼性を向上することができる。
請求項2の発明によれば、最も高温になる最終圧縮室は、スクロールの板体の広い範囲に形成できるから、板体、ラップの熱を効率よく放出することができ、板体、ラップ等を積極的に冷却することができる。
請求項3の発明によれば、スクロールのラップの根元部分の強度を高めることができるから、温度変化、圧力差等によってラップに負荷が作用した場合でも、変形やかじりによる損傷を防止することができる。
請求項4の発明によれば、導入口から導入した圧縮空気を吸込口に向けて流通させることにより、ケーシング内の旋回スクロール、軸受等を冷却することができる。