はじめに、本発明のベースとなる回転炉床炉などの移動炉床式加熱還元炉を用いた直接還元製鉄法について、前述した特許文献4および特許文献5に到達した経緯を踏まえながら説明する。
実用炉として一般的に使用される大型の回転炉床式加熱還元炉では、回転炉床の上部に設けた複数個のバーナーで天然ガスなどの燃料ガスを燃焼させ、その燃焼熱を、炉床上の原料混合物の還元溶融に必要な熱として供給される。該燃焼によって発生する排ガス中に含まれるCO2やH2O等の酸化性ガスは、原料混合物周辺の雰囲気ガス組成に影響を及ぼすため、雰囲気ガスの還元ポテンシャルを高く維持することはかなり難しい。その一方で、原料混合物内またはその周辺ガスの還元ポテンシャルが十分に高ければ、原料混合物内に配合されている石炭やコークスなどの炭素質還元剤に含まれている硫黄分は、スラグに含まれるCaO分によりCaSとして固定され、スラグと共に分離される。特に原料混合物内に蛍石(CaF2)等のフッ素含有物質を配合すると、上記硫黄分を更に固定できることが知られている。
そのため移動炉床式加熱還元炉の炉床上に、炭素質粉末の層(以下、床敷き層という)を予め形成しておき、該床敷き層上に原料混合物を装入して加熱還元を行えば、回転炉床式加熱還元炉の炉床が一巡する8分から16分程度の短時間の間に、目標とする還元溶融反応が効率よく進行すると共に、原料混合物近傍における雰囲気ガスの還元ポテンシャルを高レベルに維持することができ、併せて脱硫能も相対的に高められる。
しかし本出願人が、実用規模の移動炉床式加熱還元炉で、低硫黄含有量の粒状金属鉄を確実に得るには、床敷き層を形成する上記操作のみでは依然として不十分であるという観点に基づいて研究を進めた結果、前述した特許文献4および特許文献5では、粒状金属鉄の低硫化をより確実に進めることのできる技術を確立した。これらの特許文献では、いずれも、スラグの塩基度に着目したが、その理由を要約すると以下の通りである。
粒状金属鉄中の硫黄分[S]を低減するには(即ち、見掛け上の脱硫率を高めるには)、CaSとしてスラグ中に固定されている硫黄分(S)をスラグ中に固定したままの状態で如何に安定に保ち、還元鉄方向への移行を阻止するかが極めて重要である。そのためには、炉床上の原料混合物近傍の雰囲気ガスの還元度を高く維持すると共に、最終スラグの塩基度を可能な限り高くすることが重要となる。しかし本発明の対象となる還元溶融プロセスでは、溶鉄を扱う従来の製銑・製鋼炉とは異なり、移動炉床式加熱還元炉の設備面および操業面から、雰囲気温度を1550℃を超えて高めることは好ましいことではなく、雰囲気温度は1550℃程度以下、好ましくは1500℃以下に維持しながら操業することが望まれる。ところがこの様な温度条件下では、前記還元溶融工程で副生するスラグの塩基度が1.7を超えるように高めると、スラグの融点が上昇して相互の凝集が阻害されるばかりでなく、還元鉄の凝集をも阻害するため、大粒の粒状金属鉄を高歩留まりで製造することが困難になる。こうしたことから上記特許文献4および特許文献5では、スラグの塩基度に注目した。
上記の特許文献を開示した後も、本発明者らは、移動炉床式加熱還元炉に装入した原料混合物を加熱したときに、スラグ形成成分を可及的速やかに溶解してスラグを生成・凝集させ、スラグを凝集させることで残った還元鉄の凝集も促進して粒状金属鉄の生産性を高めること、またこうして製造される粒状金属鉄に不可避的に混入する硫黄量を低減することを目指して、更に鋭意検討を重ねてきた。
その結果、前記原料混合物に、アルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物を配合し、前記原料混合物に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、配合する前記複合酸化物の量とを調整することによって、(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の含有量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.3〜2.3の範囲とし、(2)前記スラグ中のアルカリ酸化物の含有量を合計で0.03%以上とすれば、不可避的に混入する硫黄量を低減した粒状金属鉄を生産性良く製造できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明について詳しく説明する。
本発明では、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物に、アルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物を積極的に配合(外添)することが重要である。移動炉床式加熱還元炉は、一般的に、炉内温度を1450〜1550℃程度として操業されるため、融点が1400℃以下の複合酸化物を原料混合物に配合して移動炉床式加熱還元炉内で加熱すると、上記複合酸化物が速やかに溶解し、これが凝集してスラグが素早く形成されるようになる。スラグが素早く形成されると、残った金属鉄は粒状に凝集し易くなるため、結果として、粒状金属鉄の生産性が向上するのである。このように本発明の製造方法は、原料混合物に融点の低い複合酸化物を外添することによって加熱時に該複合酸化物を素早く溶解させ、プリメルト化させることで、生産性の向上を図ったところに最大の特徴がある。後記する実施例に示すように、アルカリ金属を複合酸化物の形態ではなく、アルカリ金属の単独酸化物(アルカリ酸化物)として外添した場合でも、スラグ組成を所定範囲に制御すれば金属鉄の低硫黄化を実現できるが、原料混合物の溶解に長時間を要することが判明し、生産性を高めることができないことが判明した。
上記アルカリ金属としては、例えば、Li,Na,Kなどが挙げられるが、入手のし易さを考慮すると、LiとNaを用いることが好ましい。上記複合酸化物において、アルカリ金属は少なくとも一種を含んでいれば良く、例えば、Li,Na,Kの少なくとも一種を含んでいることが好ましい。
アルカリ金属元素群から選ばれる少なくとも1種含む複合酸化物は、例えば、ICP発光分析法や原子吸光光度法で成分組成を分析したときに、アルカリ金属元素群から選ばれる少なくとも1種と、アルカリ金属以外の他の元素を少なくとも1種含んでいる酸化物を意味する。具体的には、ICP発光分析法や原子吸光光度法で酸化物の成分組成を分析したときに、少なくとも1種のアルカリ金属と、アルカリ金属以外の他の元素が検出され、検出される各元素を夫々単独酸化物として換算したときに、アルカリ金属元素の酸化物(例えば、Na2OやLi2O,K2Oなど)と、アルカリ金属以外の他の元素の酸化物(例えば、スラグ形成成分の酸化物など)とを含む複合酸化物である。即ち、Na2O,Li2OおよびK2Oよりなる群から選ばれる少なくとも1種と、MgO,CaO,BaO,MnO,FeO,B2O3,Al2O3,SiO2よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有していればよい。
上記複合酸化物は、アルカリ金属供給物質と、アルカリ金属以外の他の元素を供給する物質とを予め混合して焼成するか、或いは溶解した後凝固させて作製すればよい。必要に応じて、得られた複合酸化物を粉砕して粒度調整を行ってもよい。
アルカリ金属供給物質としては、例えば、Na供給物質として炭酸ナトリウム(Na2CO3)など、K供給物質として炭酸カリウム(K2CO3)など、Li供給物質として炭酸リチウム(Li2CO3)など、が挙げられる。
アルカリ金属以外の他の元素を供給する物質としては、次の物質が例示できる。
Si供給物質としては例えばSiO2など、Ca供給物質としては例えば生石灰(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)など、Mg供給物質としては例えばMgO,MgCO3など、Ba供給物質としては例えばBaCO3など、Mn供給物質としては例えばMnCO3など、Fe供給物質としては例えばFeOなど、B供給物質としては例えばH3BO3など、Al供給物質としては例えばAl2O3など、が挙げられる。なお、これらの物質には、通常、不可避不純物が含まれている。
NaとKとSiの供給物質としては、例えば、ネフェリン[霞石;組成は(Na,K)(Al,Si)O4]などが挙げられる。
なお、上記複合酸化物には、該複合酸化物の融点を1400℃を超えて高めない程度であれば、更に別の元素を含んでいてもよい。但し、本発明では、アルカリ金属(M1)の酸化物と、アルカリ金属以外の他の元素(M2)の酸化物とを単純に混合したM1−M2系複合酸化物(例えば、Na2O−Li2O−SiO2−CaOなど)のみを原料混合物に配合しても、所望の効果は発揮されない。M1酸化物とM2酸化物とを単純に混合しても混合物の融点が1400℃以下に低下しないからである。
一方、上記原料混合物には、上記アルカリ酸化物供給物質を更に配合してもよい。アルカリ酸化物供給物質とは、スラグ中でアルカリ金属の酸化物を形成する元素である。即ち、スラグ中でLi,NaまたはKの酸化物となる物質である。アルカリ酸化物供給物質としては、例えば、Li2CO3,Na2CO3,K2CO3などのアルカリ金属の炭酸化物を例示できる。
本発明では、(2)上記スラグ中の前記アルカリ酸化物量が、合計で0.03%以上含むように原料成分を調整することも重要である。アルカリ酸化物を含有させることによって、卓越した脱硫効果を発揮させることができるからである。
[(2)スラグ中のアルカリ酸化物の含有量:合計で0.03%以上]
スラグ中にアルカリ酸化物を更に含有することで卓越した脱硫効果が得られる原因については、現在のところ理論的に解明されていないが、後述する実験結果も踏まえて考えると、次の様に推定される。即ち、スラグ中のアルカリ酸化物量を適切に制御することによって、副生スラグの融点が低下し、またスラグの流動性などの物性が最適化され、副生スラグに対する硫黄分配比(S)/[S]が最大限に高められたと考えられる。
上記アルカリ酸化物量は、スラグ中のアルカリ金属元素を単独酸化物として換算したときに、該単独酸化物が合計で0.03%以上であればよい。該合計は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.2%以上である。
生成スラグに含まれるアルカリ酸化物量は、スラグ中のアルカリ金属元素を単独酸化物として換算したときに、それらの合計は、15%以下とするのがよい。生成スラグに、アルカリ酸化物を積極的に含有させることで、副生するスラグの融点は低下し、スラグへの硫黄分配は向上する。しかしアルカリ酸化物量を多くすると、炉内においてアルカリ金属の蒸発が激しくなり過ぎて、蒸発したアルカリ金属が炉内の耐火物と反応して損傷を早める。スラグ中のアルカリ金属元素を単独酸化物として換算したときのそれらの合計は、好ましくは14.5%以下であり、より好ましくは13%以下である。
なお、アルカリ金属元素を単独酸化物として換算するとは、アルカリ金属元素をM1で表したときに、スラグに含まれるアルカリ金属元素の酸化物を構造式M12Oとして換算することを意味する。
スラグに含まれるアルカリ金属元素を単独酸化物として換算したときの含有量は、上記原料混合物に配合する複合酸化物の組成に応じて配合量を調整することによって含有量を調整すればよい。即ち、アルカリ金属元素群から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物の組成に応じて、原料混合物に配合する当該複合酸化物量を調整すれば、スラグ中のアルカリ酸化物量を調整できる。
本発明では、原料混合物中に含まれるCaO供給物質、MgO供給物質およびSiO2供給物質の量と、配合する前記複合酸化物の量とを調整することによって、(1)スラグ中のCaO、MgOおよびSiO2の量から求められる該スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を1.3〜2.3の範囲とすることも重要である。
[(1)スラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]:1.3〜2.3]
スラグの塩基度は、1.3〜2.3の範囲とする必要がある。塩基度調整材として配合する石灰石やドロマイト鉱石などのCaO/MgO供給物質の配合比率を更に高め、最終スラグに含まれるMgO量を更に高めてやれば、スラグの塩基度を2.3超に高めることができ、最終スラグの融点を更に低下させることができる。しかしスラグの塩基度を高くし過ぎると、スラグの粘性(流動性)が増大して還元鉄の凝集が阻害され、球形に近い好適形状の粒状金属鉄が得られ難くなる。また、スラグの塩基度を高くし過ぎると、粒状金属鉄としての歩留りも低下する傾向が見られる。従ってスラグの塩基度は2.3以下とする。スラグの塩基度は、好ましくは2.2以下、より好ましくは2.0以下に調整するのがよい。
スラグの塩基度の下限を1.3と定めたのは、塩基度がこれを下回ると、スラグそのものによる脱硫能が低下し、たとえ雰囲気の還元ポテンシャルが充分に高く維持できたとしても本来の目的が達成でき難くなるからである。本発明を実施する上で好ましい塩基度は、1.4以上である。
本発明では、更に、上記スラグ中のMgO量を5〜22%とすることが好ましい。生成スラグのMgO量が上記範囲を満足するように原料の成分調整を行うことで、最終的に生成するスラグ−粒状金属鉄間の硫黄分配比(S)/[S]が著しく向上し、粒状金属鉄中に歩留る硫黄含有量[S]を大幅に低減できる。
[スラグ中のMgO量:5〜22%]
本発明では、スラグ中のMgO量を5%以上とするのがよい。スラグの塩基度がたとえ2.3以下であっても、該塩基度が特に1.9以上の比較的高い領域では、基本的には塩基度の上昇に伴って、原料混合物中で酸化鉄含有物質が還元されることによって生成する還元鉄微粒子同士の凝集能は徐々に低下する傾向が認められるからである。即ち、スラグ塩基度が比較的高い領域では、通常の操業温度では、2CaO・SiO2で表される複合酸化物がスラグ内に晶出し、スラグの流動性が失われ、スラグの凝集能が大きく低下し、延いては生成する還元鉄粒子の凝集能も低下し、本発明で意図する大粒の粒状金属鉄が高歩留りで得られ難くなるからである。そのため塩基度が比較的高い領域では、最終スラグの塩基度が2.3以下であっても、本発明法の経済的操業性を確保するために、スラグ中のMgO量を5%以上とするのがよい。一方、スラグの塩基度が1.9以上の比較的高い領域で、スラグ中のMgO量が22%を超えると、スラグ中にMgOが晶出して却って凝集性が阻害される。そのため目標とする大粒の粒状金属鉄を高歩留りで製造でき難い。従ってスラグ中のMgO量は、5〜22%とするのがよい。MgO含有量のより好ましい上限は20%である。
上述したスラグの塩基度とスラグ中のMgO量は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって制御できる。即ち、酸化鉄含有物質や炭素質還元剤は、少なくともCaO、MgOおよびSiO2を含んでいるため、酸化鉄含有物質や炭素質還元剤が、CaO供給物質、MgO供給物質、或いはSiO2供給物質となるからである。また、上記複合酸化物に、CaO供給物質、MgO供給物質、或いはSiO2供給物質を含んでいる場合は、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の量の他に、複合酸化物の量も併せて調整すればよい。
なお、酸化鉄含有物質として配合される鉄鉱石や、炭素質還元剤として配合される石炭やコークスは天然物であり、種類に応じてCaOやMgO、SiO2の各含有量も変化する。そのため、それらの配合量を一律に規定することは困難であるが、酸化鉄含有物質として配合される鉄鉱石等に含まれる脈石の成分組成と、炭素質還元剤として配合される石炭やコークス等に含まれる灰分の成分組成を考慮し、適切に調整することが好ましい。例えば、床敷材として炭素質粉末を装入する場合は、該炭素質粉末の成分とその量も考慮して、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるMgO量を制御する。
上記複合酸化物の配合量についても同様であり、複合酸化物の種類によって成分組成が異なるため、その配合量を一律に規定することは困難である。従って複合酸化物の成分組成を考慮して適切に配合量を調整すればよい。
上記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外に、新たに「他のMgO供給物質」を配合する場合は、当該「他のMgO供給物質」の成分組成とその配合量も考慮して酸化物含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるMgO量を制御する。
上記原料混合物に含まれる前記MgO供給物質以外に、新たに配合する「他のMgO供給物質」の種類は特に制限されないが、例えば、MgO粉末や天然鉱石や海水などから抽出されるMg含有物質、或いは炭酸マグネシウム(MgCO3)などが挙げられる。
また、上記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外に、新たに「他のCaO供給物質」を配合する場合は、当該「他のCaO供給物質」の成分組成とその配合量も考慮して酸化物含有物質と炭素質還元剤の量を調整することによって、上記スラグの塩基度や該スラグに占めるCaO量を制御する。
上記原料混合物に含まれる前記CaO供給物質以外に、新たに配合する「他のCaO供給物質」の種類は特に制限されないが、代表例として生石灰(CaO)や炭酸カルシウム(CaCO3)などが挙げられる。
また、MgOとCaOの供給物質として、例えば、ドロマイト鉱石を配合してもよい。
上述したように、本発明では、実用規模の移動炉床式加熱還元炉を用いて操業を行う際に、塩基度調整材としてMgO供給物質を使用して最終スラグの塩基度を最大で2.3程度にまで高めれば、実操業を踏まえた1450℃までの温度域でスラグを十分に溶融させることができる。これにより粒状金属鉄を安定した操業状況の下で製造でき、しかもスラグ−メタル間の硫黄分配比(S)/[S]で10程度以上、特に20以上を確保できる。その結果、炭素質還元剤や床敷材などとして配合する石炭等の銘柄によって多少の違いはあるが、最終的に得られる粒状金属鉄の硫黄含有量を0.05%以下、特に0.01%以下にまで安定して抑えることが可能となる。
特に本発明では、実用炉の加熱方式として最も汎用性の高いガスバーナーによる燃焼加熱方式を採用した場合に避けることのできない、雰囲気ガス還元ポテンシャルの低下に伴う硫黄分配比(S)/[S]の低下を、(1)スラグの塩基度と(2)スラグ中のアルカリ酸化物量を調整することによって防止できるようにした意義は大きい。
次に、本発明に用いられる移動炉床式加熱還元炉の概略と該加熱還元炉を用いた粒状金属鉄の製造方法の概略、および粒状金属鉄を製造できるメカニズムについて図1を用いて詳細に説明する。
図1は、移動炉床式加熱還元炉のうち、回転炉床式の加熱還元炉Aの一構成例を示す概略説明図である。なお、炉の内部構造を示すために、炉の一部を切り欠き、内部を示している。
回転炉床式の加熱還元炉Aには、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物1が、原料投入ホッパー3を通して、回転炉床4上へ連続的に装入される。酸化鉄含有物質としては、通常、鉄鉱石やマグネタイト鉱石などが用いられる。また、炭素質還元剤としては、通常、石炭やコークスなどが用いられる。
前記原料混合物1を供給するときの形態は特に限定されず、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤などを適度に混合したものを供給すればよい。特に、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤などを含む原料混合物1を押し固めて得られた簡易成形体を供給するか、または該原料混合物1をペレットやブリケットなどに成形した炭材内装成形体を供給するのがよい。また、前記簡易成形体や前記炭材内装成形体と併せて、粉粒状の炭素質粉末2を供給してもよい。
但し、本発明法では、上記原料混合物1に、更にアルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物を配合する。複合酸化物は、アルカリ金属元素(M1)群から選ばれる少なくとも1種と、アルカリ金属以外の他の元素(M2)を少なくとも1種含有するM1M2複合酸化物である。
また、上記原料混合物1には、必要に応じて、例えば、MgO供給物質やCaO供給物質などを配合してもよい。また、原料混合物1には、少量のバインダーを配合してもよい。バインダーとしては、例えば、多糖類(例えば、小麦粉等の澱粉)を用いることができる。但し、蛍石のようなフッ素含有脱硫剤を添加すると脱硫黄能や凝集性が一層向上するが、自然環境保護の観点からは添加しないことが好ましい。なお、以下では、特記しない限り、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤を含む原料混合物に、M1M2複合酸化物等を配合したものを「配合物」と呼ぶことがある。
次に、上記原料混合物1を加熱還元炉Aに装入するときの手順を具体的に説明する。前記原料混合物1の装入に先立って、原料投入ホッパー3から回転炉床4上に粉粒状の炭素質粉末2を床敷として装入して敷き詰めておき、その上に前記原料混合物1を装入するのがよい。
上記酸化鉄含有物質と炭素質還元剤以外に配合され得るMgO供給物質やCaO供給物質、或いはM1M2複合酸化物の添加法にも格別の制限はなく、原料混合物の調整段階で配合したり、床敷材と共に、或いはこれとは独立に回転炉床上へ予め装入しておき、或いは原料混合物の装入と同時もしくは後に上方から別途装入する方法、等を適宜採用できる。
図1に示した例では、1つの原料投入ホッパー3を炭素質粉末2の装入と、上記原料混合物1を装入するために共用する例を示しているが、ホッパーを2つ以上用いて炭素質粉末2と上記原料混合物1を別々に装入することも勿論可能である。
なお、床敷材として炉床上に装入される炭素質粉末の使用は必ずしも必須ではなく、装入を省略してもよいが、炉床上に炭素質粉末を床敷材として装入すれば、炉内の還元ポテンシャルがより効率的に高められ、金属化率の向上と硫黄含有量の低減の両作用をより一層効果的に発揮させることができるので好ましい。こうした床敷材としての作用をより確実に発揮させるには、炉床上へ2mm程度以上の厚みで粉粒状の炭素質粉末を敷いておくことが望ましい。しかも炭素質粉末を床敷材としてある程度の厚みを持った層状に敷き詰めておけば、該床敷層が原料混合物と炉床耐火物の緩衝材となり、或いは副生スラグ等に対する炉床耐火物の保護材となり、炉床耐火物の寿命延長にも役立つ。
但し、床敷層が厚くなり過ぎると、原料混合物が炉床上の床敷層内へ潜り込んで還元の進行が阻害される等の問題を生じることがあるので、床敷層の厚みは、7.5mm程度以下に抑えることが望ましい。
上記床敷材として用いる炭素質粉末の種類は特に限定されず、通常の石炭やコークス等を粉砕し、好ましくは適度に粒度調整したものを使用すればよく、また石炭を使用する場合は、流動性が低く且つ炉床上で膨れや粘着性を帯びることのない無煙炭が好適である。床敷として装入する炭素質粉末は、上記原料混合物1に配合されている炭素質還元剤よりも硫黄含有分が少ないものを用いるのがよい。
図1に示した加熱還元炉Aの回転炉床4は、反時計方向に回転されている。回転速度は、加熱還元炉Aの大きさや操業条件によって異なるが、通常は8分から16分程度で1周する速度である。加熱還元炉Aにおける炉体8の壁面には加熱バーナー5が複数個設けられており、該加熱バーナー5の燃焼熱あるいはその輻射熱によって炉床部に熱が供給される。加熱バーナー5は、炉の天井部に設けてもよい。
耐火材で構成された回転炉床4上に装入された上記原料混合物1は、該回転炉床4上で加熱還元炉A内を周方向へ移動する中で、加熱バーナー5からの燃焼熱や輻射熱によって加熱される。そして当該加熱還元炉A内の加熱帯を通過する間に、当該原料混合物1内の酸化鉄は還元された後、副生する溶融スラグと分離しながら、且つ残余の炭素質還元剤による浸炭を受けて溶融しながら粒状に凝集して粒状金属鉄10となり、回転炉床4の下流側ゾーンで冷却固化された後、スクリューなどの排出装置6によって炉床上から順次排出される。このとき副生したスラグも排出されるが、これらはホッパー9を経た後、任意の分離手段(例えば、篩目や磁選装置など)により金属鉄とスラグの分離が行われる。なお、図1中、7は排ガス用ダクトを示している。
以上の通り、本発明では、加熱還元して副生する(1)スラグの塩基度と(2)スラグ中のアルカリ酸化物量を適切に調整し、生成スラグの融点と硫黄分配比(S)/[S]をうまくコントロールすることによって、低硫黄含有量の粒状金属鉄を効率よく製造することが可能となる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、下記実施例では、小型の実験用加熱還元炉を用いて試験を行った結果を示す。
酸化鉄含有物質として鉄鉱石を用い、炭素質還元剤として石炭を用い、これらを混合して原料混合物を得た。鉄鉱石の成分組成を下記表1に、石炭の成分組成を下記表2に示す。但し、表2において、「その他」とは固形炭素質を意味する。
上記原料混合物には、酸化鉄含有物質と炭素質還元剤の他にバインダーを配合し、必要に応じて、スラグ塩基度調整用副原料、複合酸化物、アルカリ酸化物供給物質を配合して配合物を得た。
上記バインダーとしては、小麦粉を配合した。上記スラグ塩基度調整用副原料としては、CaO供給物質として炭酸カルシウム(CaCO3)と、MgOとCaOの供給物質としてドロマイト鉱石(主成分はCaCO3・MgCO3で、詳細な成分組成を下記表3に示す。)を配合した。
また、上記複合酸化物の成分組成を下記表4に示す。下記表4には、複合酸化物の成分組成を、ICP発光分析法または原子吸光光度法を用いて分析し、検出された元素の酸化物として換算したときの組成の比率を示している。なお、下記表4の種類Gは、アルカリ金属を複合酸化物ではなく、単独酸化物(アルカリ酸化物)として配合した例である。
下記表4の種類A〜Fに示した複合酸化物は、事前にSiO2、CaCO3、Na2CO3、Li2CO3を1500℃で1〜2時間溶解保持した後、平均粒度が100μm以下となるように粉砕して調製した。下記表4には、各酸化物の融点を併せて示した。
また、上記アルカリ酸化物供給物質としては、Li2O供給物質として炭酸リチウム(Li2CO3)を配合した。
配合物の成分組成を下記表5に示す。
得られた配合物を成形してペレット状の原料成形体を製造した。得られた原料成形体を小型の実験用加熱還元炉内へ装入して加熱還元した。炉床上には、床敷材として表2に示す成分組成の石炭(炭素質粉末)を5mm程度の厚みで敷いた。炉内温度は1450℃に調整した。
加熱還元炉の炉床上に装入された原料成形体中の酸化鉄分は、約10〜16分かけて炉内で加熱される間に固体状態を維持しながら還元され、生成した還元鉄は、還元後に残っている炭素質粉末による浸炭を受けながら融点降下して相互に凝集した。このとき副生するスラグも、部分的、もしくはほぼ完全に溶融して相互に凝集し、溶融状態の粒状金属鉄と溶融スラグに分離した。その後、これら溶融状態の粒状金属鉄と溶融スラグを冷却して融点以下に降温(具体的には、1100℃程度までに冷却)して凝固させ、固体状態の粒状金属鉄またはスラグとして炉外へ排出した。
このとき上記原料成形体を実験用加熱還元炉内へ装入した後、該加熱還元炉内の様子を目視で観察し、視界内に認められる成形体が全て溶解するまでにかかった時間を測定した。測定した溶解完了時間を下記表7に示す。溶解完了時間は、13.5分以下を合格として評価する。
粒状金属鉄とスラグの成分組成を下記表6に示す。また、スラグに含まれるCaO、MgOおよびSiO2量からスラグの塩基度[(CaO+MgO)/SiO2]を算出し、下記表7に示す。なお、下記表6のNo.19は、スラグの塩基度が2.4程度となるように調整したため、凝集しなかった。
また、粒状金属鉄に含まれる硫黄量[S]に対するスラグに含まれる硫黄量(S)の比(硫黄分配比(S)/[S])を算出し、下記表7に示す。
また、生成スラグの塩基度と硫黄分配比の関係を図2に示す。図2中、横軸は生成スラグの塩基度、縦軸は硫黄分配比を示している。
図2中、◆は原料混合物に複合酸化物を配合しない表7のNo.1〜8の結果を示している。図2中、○は原料混合物に複合酸化物を配合し、且つ、スラグの要件が本発明の範囲を満足する表7のNo.9〜17,No.20,21,23,24の結果を示している。図2中、●は原料混合物に複合酸化物を配合したが、スラグの要件が本発明の範囲を満足しない表7のNo.18,22,25の結果を示している。図2中、◇は原料混合物に複合酸化物を配合し、且つ、スラグの要件が本発明の範囲を満足する表7のNo.26〜28の結果を示している。
表5と表7から明らかなように、原料混合物にアルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物を配合したNo.9〜17,No.20,21,23,24,No.26〜28では、溶解完了時間を13.5分以下に短縮させることができ、生産性が向上することが分かる。一方、アルカリ金属を複合酸化物の形態ではなくアルカリ酸化物単体として添加すると、No.29に示すように、溶解完了時間を短縮できない。
また、表5と表7から明らかなように、粒状金属鉄の硫黄含有量を0.05%以下に抑えるには、スラグの塩基度とスラグ中のアルカリ酸化物量を本発明の範囲内とすることが必要であり、これにより、硫黄分配比(S)/[S]を10以上確保できることが分かる。
図2から明らかなように、スラグの塩基度が高まるにつれて、硫黄分配比(S)/[S]は急速に増大することが分かる。
また、表5と図2から明らかなように、スラグの塩基度を1.3以上にした場合、塩基度が高まるにつれて硫黄分配比(S)/[S]も高まるが、原料混合物にアルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物を配合してスラグ中にアルカリ酸化物を併せて含有させたNo.9〜17,No.20,21,23,24,No.26〜28では、スラグ中にアルカリ酸化物を含有させないNo.1〜8と比べて硫黄分配比(S)/[S]が10以上と確実に高くなることが分かる。
本実施例では、スラグ塩基度調整用副原料としてドロマイト鉱石を配合することによってスラグの塩基度とスラグ中のMgO含有量を調整している。
以上の通り、本発明では、原料混合物中にアルカリ金属を少なくとも一種含む融点が1400℃以下の複合酸化物等を適正に配合し、スラグ中のCaO、MgO、SiO2の量から求められる最終スラグの塩基度を1.3〜2.3の範囲内とし、且つスラグ中のアルカリ酸化物量を合計で0.03%以上となるように調整することによって、硫黄分配比を10以上(最大で1109.0)にすることができ、得られる粒状金属鉄の硫黄含有量[S]を0.05%以下に低減できることが実証された。