JP5092112B2 - 糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法、該方法によりフェニルヒドラゾン化した糖類及び糖鎖の分析方法、並びに、前記方法を利用した糖類及び糖鎖の比較定量方法 - Google Patents
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最近における糖類や糖鎖の解析は、質量分析法(MS)による解析が中心となっており、ESI-MS(エレクトロスプレーイオン化法/質量分析法)やMALDI-TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析法)なども利用されている。本発明者等も、グラファイトカーボンカラムを用いた液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)による、糖鎖プロファイリング法を提案している(非特許文献1)。
Nana Kawasaki et al., "Analysis of carbohydrate heterogeneity in a glycoprotein using liquid chromatography/mass spectrometry and liquid chromatography with tandem mass spectrometry.", Analytical Biochemistry: 269(1999)p.297-303.
そこで本発明者等は、同位体標識試薬である2-アミノピリジン(AP)の重水素置換体(d6-AP)を使用して、分子量が4Da大きいピリジルアミノ化(PA)糖類及び/又は糖鎖を調製し、内部標準として用いる方法を提案した(非特許文献2)。
Jin Yuan et al., "Isotope tag method for quantitative analysis of carbohydrates by liquid chromatography-mass spectrometry.", Journal of Chromatography A: 1067(2005)p.145-152
この方法を応用した分析方法として、単糖をリン酸溶液中で標識した後、HPLCで分析する方法が報告されているが(特許文献1)、酸性水溶液(リン酸溶液)中で加熱して糖をフェニルヒドラゾン化するため、この方法を糖鎖に応用した場合には、シアル酸が解離するという問題がある。
Erika Lattova et al."influence of the labeling group on ionization and fragmentation of carbohydrates in mass spectrometry.", Journal of the American Society for Mass Spectrometry.:16(2005)p.683-696. Erika Lattova et al."Labelling saccharides with phenylhydrazine for electrospray and matrix-assisted laser desorption ionization mass spectrometry.", Journal of chromatography B:793(2003)p.167-179.
本発明の第2の目的は、シアリル糖鎖のシアル酸の解離を抑制しつつ、シアリル糖鎖をフェニルヒドラゾン化する方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、本発明のフェニルヒドラゾン化方法を用いた、糖類及び/又は糖鎖の分析方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、本発明のフェニルヒドラゾン化方法を用いた、糖類及び/又は糖鎖の比較定量方法を提供することにある。
本発明の第6の目的は、本発明の比較定量方法を利用した、糖タンパク質性医薬品又はグリコサミノグリカン由来の医薬品に対する品質同等性/同質性評価方法を提供することにある。
本発明の第7の目的は、本発明の比較定量方法を利用した、細胞組織利用医薬品の特性解析方法を提供することにある。
本発明の第8の目的は、本発明の比較定量方法を利用した、品質試験方法を提供することにある。
また本発明における第7の発明は、本発明の糖鎖の比較定量方法を含む細胞組織利用医薬品の特性解析方法であり(請求項15)、本発明における第8の発明は、本発明における糖鎖の比較定量方法を含む細胞組織利用医薬品の品質試験方法である(請求項16)。
本発明の糖類及び/又は糖鎖とフェニルヒドラジンを、特定の、酢酸/有機塩基/H2O溶媒又は酢酸/有機塩基溶媒中で反応させる糖類及び/又は糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法は、フェニルヒドラゾン化糖類及び/又は糖鎖への誘導体化率が高く、未反応糖類及び糖鎖の残存を最小限に抑えることができるため、より正確な糖類及び/又は糖鎖の分析に有用である。ここで誘導体化率とは、糖類及び/又は糖鎖からフェニルヒドラゾン化糖類又は糖鎖に誘導体化する割合を意味する。
食品などから得られた少糖類、多糖類等や、動植物から抽出した糖タンパク質や糖脂質などから切り出された糖鎖を、本発明において用いられる糖鎖として使用してもよい。
本発明の比較定量方法で測定する場合には、d0-フェニルヒドラジン及びd5-フェニルヒドラジンを併用することが必要である。
特に本発明においては、シアル酸の解離が少なく、未反応糖鎖を最低限に抑えることができるという観点から、ピリジン及び/又はトリエチルアミンを前記有機塩基として用いることが好ましい。
また、本発明において用いられる酢酸/有機塩基溶媒の比率[v/v]は、10/3〜3/10(酢酸含有率:約23〜77%)であることが好ましい。特に、シアル酸の解離が少なく、未反応糖鎖を最低限に抑えることができるという観点から、9/4〜5/8(酢酸含有率:約38〜69%)であることが好ましく、中でも、8/5(酢酸含有率:約62%)であることが特に好ましい。本発明において用いられる酢酸/有機塩基/H2O溶媒の比率[v/v]は、[酢酸/有機塩基(v/v;3/7〜7/3溶液)]:[H2O]が、1:9〜9:1であることが好ましく、シアル酸の解離が少なく、未反応糖鎖を最低限に抑えることができるという観点から、特に、[酢酸/有機塩基(v/v;5/5溶液)]:[H2O]が1:9であることが好ましい。
また、シアリル糖鎖からのシアル酸の解離を抑制することができるので、シアリル糖鎖を含有する糖類及び/又は糖鎖の分析に有用である。たとえば、シアリル糖鎖単独試料のみならず、種々のシアリル糖鎖を含有する試料や、シアリル糖鎖と共にシアル酸を含有しない糖鎖を含む試料の分析に有用である。
なお、実施例1-3及び比較例1-1〜1-4については、ジシアリル2本鎖糖鎖の代わりに、シアル酸の結合していない高マンノース型糖鎖(品名:MAN-9 Glycan,品番:CN-MAN9-10U,Ludger製)を用い、ジシアリル2本鎖糖鎖の場合と同様にして、フェニルヒドラゾン化及びLC/MSを行った。
その結果を表1に示す。
実施例1と同様にして算出した未反応糖鎖の比率は3%であり、フェニルヒドラゾン化糖鎖への誘導体化率が極めて高いことが確認された。また、実施例1と同様にして算出したシアル酸が解離したフェニルヒドラゾン化糖鎖の比率は4%であり、シアル酸の解離についても、十分に抑えられていることが確認された。
<液体クロマトグラフィー(LC)>
装置:NanoFrontier nLC(日立ハイテクフィールディング)
カラム:Hypercarb(150×0.075mm,サーモフィッシャーサイエンティフィック)
トラップカートリッジ:グラファイトカーボンカートリッジ(5×0.3mm,化学物質評価研究機構)
流速:200 nL/分
バッファーA:2% CH3CN/ 5mM 酢酸アンモニウム(pH 9.6)
バッファーB:80% CH3CN/ 5mM 酢酸アンモニウム(pH 9.6)
グラジエント:バッファーB 2→90%/60min.
<質量分析(MS)>
装置:LTQ-FT(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
Ion mode:Positive ion mode
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
装置:Magic 2002(Michrom BioResources製)
カラム:PLRP-S(150×1.0mm,Michrom BioResources製)
流速:50μL/分
バッファーA:2% CH3CN/0.1%HCOOH
バッファーB:90% CH3CN/0.1%HCOOH
グラジエント:バッファーB 0→30%/15min.
10%フェニルヒドラジンを含む酢酸/ピリジン(8/5)混合液に、ジシアリル2本鎖糖鎖(品名:A2F Glycan,品番:CN-A2F-10U,Ludger製)を溶解し、80℃で1時間加熱することによって、90%以上の収率で、d0-フェニルヒドラゾン化した糖鎖(d0-糖鎖)を合成した(反応スキーム1)。
実施例1及び2と同様に算出した、シアル酸が解離したフェニルヒドラゾン化糖鎖及び未反応糖鎖の合計は10%以下であった。
フェニルヒドラゾン化糖鎖のMS/MSにより、糖鎖の配列を推定することが可能であり、B3イオン(m/z657)の検出により、側鎖にN-アセチルノイラミン酸が結合していることが確認された(図2)。
d5-フェニルヒドラジンを入手した(大塚製薬株式会社診断事業部:純度59%)。上記1.と同様の条件下で、ジシアリル2本鎖糖鎖(品名:A2F Glycan,品番:CN-A2F-10U,Ludger製)と反応させ、d5-フェニルヒドラゾン化した糖鎖(d5-糖鎖)を合成した(反応スキーム2)。
上記1.で調製したd0-糖鎖に、上記2.で調製したd5-糖鎖を等量混合し、実施例1及び2で使用したものと同じ機器を用い、同様の分析条件で、液体クロマトグラフィー/質量分析[LC/MS]を行った。その結果を図3に示す。
図3中、左上の図はベースピーククロマトグラム(d0-及びd5-糖鎖が検出されている)、左中の図はm/z 1230.5のマスクロマトグラム(d0-糖鎖が検出されている)、左下の図はm/z 1233.0のマスクロマトグラム(d5-糖鎖が検出されている)を示す。
図3右は、41分前後のマススペクトル(m/z 1230.51 - 1232.52はd0-糖鎖由来イオン,m/z 1233.01 - 1235.01はd5-糖鎖由来のイオンを示す。)である。
以上のようにd0-糖鎖にd5-糖鎖を混合して液体クロマトグラフィー/質量分析[LC/MS]を行うことによってd0-糖鎖の比較定量を行うことのできることが確認された。
従って、胚の発生や細胞の分化、疾患等に伴って変化することが知られている糖タンパク質等の糖鎖の分析に非常に有用である。
Claims (16)
- 酢酸/有機塩基/H2O溶媒又は酢酸/有機塩基溶媒中でフェニルヒドラジンを糖類及び/又は糖鎖と反応させる、糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法であって、前記有機塩基が、ピリジン、2−ピコリン、3−ピコリン、4−ピコリン、キノリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミンからなる群の中から選択される少なくとも1種の塩基であることを特徴とする、糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 前記有機塩基が、ピリジン及び/又はトリエチルアミンである、請求項1に記載された糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 前記反応が4〜80℃で行われる、請求項1又は2に記載された糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 前記糖類又は糖鎖が、糖タンパク質又は糖脂質から切り出された糖類又は糖鎖である、請求項1〜3の何れかに記載された糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 前記フェニルヒドラジンが、フェニル基上の水素原子が全て重水素原子で置換されたd5−フェニルヒドラジンである、請求項1〜4の何れかに記載された糖類及び糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 前記糖鎖がシアリル糖鎖である、請求項1〜5の何れかに記載された糖鎖のフェニルヒドラゾン化方法。
- 試料に含まれる糖類及び/又は糖鎖を、請求項1〜6の方法によってフェニルヒドラゾン化した後分析することを特徴とする糖類及び糖鎖の分析方法。
- 前記試料が少なくとも1種のシアリル糖鎖を含む、請求項7に記載された糖鎖の分析方法。
- 測定対象試料糖類を標準試料糖類と比較して定量する糖類の比較定量方法において、一方の試料に含まれる糖類を請求項5の方法によってフェニルヒドラゾン化したd5−糖類とし、他方の試料に含まれる糖類を請求項1〜4の方法によってフェニルヒドラゾン化したd0−糖類として両者を既知の比率で混合し、得られた混合物について、グラファイトカーボンカラム、逆相系カラム及び順相系カラムから選択されるカラムを用いて液体クロマトグラフィー/質量分析を行うことを特徴とする糖類の比較定量方法。
- 前記試料糖類が、試料糖タンパク質又は試料糖脂質から切り出された糖類であり、前記標準糖類が、標準糖タンパク質又は標準糖脂質から切り出された糖類である、請求項9に記載された糖類の比較定量方法。
- 測定対象試料糖鎖を標準試料糖鎖と比較して定量する糖鎖の比較定量方法において、一方の試料に含まれる糖鎖を請求項5の方法によってフェニルヒドラゾン化したd5−糖鎖とし、他方の試料に含まれる糖鎖を請求項1〜4の方法によってフェニルヒドラゾン化したd0−糖鎖として両者を既知の比率で混合し、得られた混合物について、グラファイトカーボンカラム、逆相系カラム及び順相系カラムから選択されるカラムを用いて液体クロマトグラフィー/質量分析を行うことを特徴とする糖鎖の比較定量方法。
- 前記試料糖鎖が、試料糖タンパク質又は試料糖脂質から切り出された糖鎖であり、前記標準糖鎖が、標準糖タンパク質又は標準糖脂質から切り出された糖鎖である、請求項11に記載された糖鎖の比較定量方法。
- 請求項12に記載された糖鎖の比較定量方法を含む、糖鎖バイオマーカーの検索方法。
- 請求項12に記載された糖鎖の比較定量方法を含む、糖タンパク質性医薬品又はグリコサミノグリカン由来の医薬品の品質同等性/同質性評価方法。
- 請求項12に記載された糖鎖の比較定量方法を含む、細胞組織利用医薬品の特性解析方法。
- 請求項12に記載された糖鎖の比較定量方法を含む、細胞組織利用医薬品の品質試験方法。
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