JP5091867B2 - グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子及びその用途 - Google Patents
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Description
(a)配列番号:1または配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列に対して60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1または配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(f)配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(g)配列番号:2もしくは配列番号:4のアミノ酸配列又は配列番号:2もしくは配列番号:4のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1もしくは配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1もしくは配列番号:3の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(4)配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する上記(1)に記載のポリヌクレオチド。
(5)DNAである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(7a)以下の(x)〜(z)の構成要素を含む発現カセットを含む上記(7)に記載のベクター:
(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター
(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチド;及び
(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナル。
(9)グリセロール生成能が増強された上記(8)に記載の酵母。
(9a)上記(8)に記載のベクターを導入することによって、グリセロール生成能が増強された酵母。
(10)低温保存性、凍結保存性または乾燥耐性が増強された上記(8)〜(9a)のいずれかに記載の酵母。
(11)浸透圧耐性が増強された上記(8)〜(9a)のいずれかに記載の酵母。
(12)上記(6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによってグリセロール生成能が向上した上記(9)または(9a)に記載の酵母。
(13)上記(6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって低温保存性、凍結保存性または乾燥耐性が向上した上記(10)に記載の酵母。
(14)上記(6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって浸透圧耐性が向上した上記(11)に記載の酵母。
(16)醸造する酒類が麦芽飲料である上記(15)に記載の酒類の製造方法。
(17)醸造する酒類がワインである上記(15)に記載の酒類の製造方法。
(18)上記(15)〜(17)のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
(19a)上記(19)に記載の方法によって、グリセロール生成能が高い酵母を選別する方法。
(19b)上記(19a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(20)被検酵母を培養し、配列番号:1または配列番号:3の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母のグリセロール生成能を評価する方法。
(20a)上記(20)に記載の方法で、被検酵母を評価し、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量が高い酵母を選別する、グリセロール生成能の高い酵母を選別する方法。
(20b)上記(20a)に記載の方法によって選別された酵母を用いて酒類(例えば、ビール)を製造する方法。
(21a)被検酵母を培養して、グリセロール生成能またはグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を測定し、目的とするグリセロール生成能またはグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性の被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
(22)基準酵母および被検酵母を培養して、配列番号:1または配列番号:3の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現している被検酵母を選択する、上記(21)に記載の酵母の選択方法。
(23)基準酵母および被検酵母を培養して、各酵母における上記(6)に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い被検酵母を選択する、上記(21)に記載の酵母の選択方法。
(j)配列番号:10のアミノ酸配列又は配列番号:10のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(k) 配列番号:10のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(l)配列番号:9の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:9の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
まず、本発明は、(a)配列番号:1、配列番号:3または配列番号:9の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び(b)配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであってもよい。
本発明で対象とするポリヌクレオチドは、上記のビール酵母由来のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼをコードするポリヌクレオチドに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
このようなタンパク質としては、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列と約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
なお、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えばYeast 12:1331-1337,1996に記載の方法によって測定することができる。
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J. Mol. Biol. 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(l)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である。このようなタンパク質としては、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2、配列番号:4または配列番号:10のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン; B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸; C群:アスパラギン、グルタミン; D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸; E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン; F群:セリン、スレオニン、ホモセリン; G群:フェニルアラニン、チロシン。
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、上記(a)〜(l)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)を含有する。また、本発明のベクターは、通常、(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記(a)〜(l)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。
形質転換の際に用いる選択マーカーとしては、醸造用酵母の場合は栄養要求性マーカーが利用できないので、ジェネチシン耐性遺伝子(G418r)、銅耐性遺伝子(CUP1)(Marin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 337, 1984)、セルレニン耐性遺伝子(fas2m, PDR4)(それぞれ猪腰淳嗣ら, 生化学, 64, 660, 1992; Hussain et al., gene, 101, 149, 1991)などが利用可能である。
上記のように構築されるベクターは、宿主酵母に導入される。宿主酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール、ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにウイスキー酵母、例えばサッカロマイセス セレビシエNCYC90等、ワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌスが好ましく用いられる。
より具体的には、宿主酵母を標準酵母栄養培地(例えばYEPD培地“Genetic Engineering. Vo1.1, Plenum Press, New York, 117(1979)”等)で、OD600nmの値が1〜6となるように培養する。この培養酵母を遠心分離して集め、洗浄し、濃度約1〜2Mのアルカリ金属イオン、好ましくはリチウムイオンで前処理する。この細胞を約30℃で、約60分間静置した後、導入するDNA(約1〜20μg)とともに約30℃で、約60分間静置する。ポリエチレングリコール、好ましくは約4,000ダルトンのポリエチレングリコールを、最終濃度が約20%〜50%となるように加える。約30℃で、約30分間静置した後、この細胞を約42℃で約5分間加熱処理する。好ましくは、この細胞懸濁液を標準酵母栄養培地で洗浄し、所定量の新鮮な標準酵母栄養培地に入れて、約30℃で約60分間静置する。その後、選択マーカーとして用いる抗生物質等を含む標準寒天培地上に植えつけ、形質転換体を取得する。その他、一般的なクローニング技術に関しては、「モレキュラークローニング第3版」、“Methods in Yeast Genetics、A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor, NY)”等を参照することができる。
上述した本発明のベクターを製造対象となる酒類の醸造に適した酵母に導入し、その酵母を用いることによって所望の酒類でかつグリセロール含量が増加し、香味を増した酒類を製造することができる。また、下記の本発明の酵母の評価方法によって選択された酵母も同様に用いることができる。また、本発明において得られた醸造酵母は浸透圧耐性を有しているので、高濃度醸造において発酵期間を短縮することができる。
対象となる酒類としては、これらに限定されないが、例えば、ビール、発泡酒などのビールテイストドリンク、ワイン、ウイスキー、清酒などが挙げられる。なお、本発明においては、必要に応じて、ターゲットとなる遺伝子の発現が抑制された醸造用酵母を用いることによって、所望の酒類でグリセロール含量を低減させた酒類を製造することもできる。すなわち、上述した本発明のベクターを導入した酵母、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母または下記の本発明の酵母の評価方法によって選択された酵母を用いて酒類製造のための発酵を行い、グリセロール生成量を調節(増加又は低減)することによって、所望の種類で、かつグリセロール含量が調節(増加または低減)された酒類を製造することができる。
これらの酒類を製造する場合は、親株の代わりに本発明において得られた醸造酵母を用いる以外は公知の手法を利用することができる。したがって、原料、製造設備、製造管理等は従来法と全く同一でよく、グリセロール含量を増加させた酒類を製造するためのコストを増加させることはない。つまり、本発明によれば、コクやまろやかさ等に優れた酒類を、既存の施設を用い、コストを増加させることなく製造することができる。さらに、既存の施設を用い、高濃度醸造における発酵期間を短縮することができるので、コストを低減させることも期待される。
本発明は、配列番号:1、配列番号:3または配列番号:9の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母のグリセロール生成能について評価する方法に関する。このような評価方法の一般的手法は公知であり、例えば、WO01/040514号公報、特開平8−205900号公報などに記載されている。以下、この評価方法について簡単に説明する。
まず、被検酵母のゲノムを調製する。調製方法は、Hereford法や酢酸カリウム法など、公知の如何なる方法を用いることができる(例えば、Methods in Yeast Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p130 (1990))。得られたゲノムを対象にして、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列(好ましくは、ORF配列)に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母のゲノムにその遺伝子あるいはその遺伝子に特異的な配列が存在するか否かを調べる。プライマーまたはプローブの設計は公知の手法を用いて行うことができる。
PCR 法の反応条件は、特に限定されないが、例えば、変性温度:90〜95℃、アニーリング温度:40〜60℃、伸長温度:60〜75℃、サイクル数:10回以上などの条件を用いることができる。得られる反応生成物はアガロースゲルなどを用いた電気泳動法等によって分離され、増幅産物の分子量を測定することができる。この方法により、増幅産物の分子量が特異部分のDNA 分子を含む大きさかどうかによって、その酵母のグリセロール生産能について予測・評価する。また、増幅物の塩基配列を分析することによって、さらに上記性質についてより正確に予測・評価することが可能である。
さらに、被検酵母を培養して、配列番号:1、配列番号:3または配列番号:9の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定し、目的とするグリセロール生成能に応じた前記遺伝子発現量の酵母を選択することによって、所望の酒類の製造に好適な酵母を選択することができる。また、基準酵母および被検酵母を培養し、各酵母における前記遺伝子発現量を測定し、基準酵母と被検酵母の前記遺伝子発現量を比較して、所望の酵母を選択してもよい。具体的には、例えば、基準酵母および被検酵母を培養して配列番号:1、配列番号:3または配列番号:9の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現、あるいは低発現である被検酵母を選択することによって所望の酒類の醸造に好適な酵母を選択することができる。
これらの場合、被検酵母または基準酵母としては、例えば、上述した本発明のベクターを導入した酵母、上述した本発明のポリヌクレオチド(DNA)の発現が抑制された酵母、突然変異処理が施された酵母、自然変異した酵母などが使用され得る。グリセロール生成能は、例えば、Method of Enzymatic Analysis,vol.4 1825-1831,1974に記載の方法によって測定することができる。グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ活性は、例えば、Yeast 12:1331-1337,1996に記載の方法によって測定することができる。突然変異処理は、例えば、紫外線照射や放射線照射などの物理的方法、EMS(エチルメタンスルホネート)、N−メチル−N−ニトロソグアニジンなどの薬剤処理による化学的方法など、いかなる方法を用いてもよい(例えば、大嶋泰治編著、生物化学実験法39 酵母分子遺伝学実験法、p67-75、学会出版センターなど参照)。
なお、基準酵母、被検酵母として使用され得る酵母としては、醸造用に使用可能な任意の酵母、例えばビール、ワイン、清酒等の醸造用酵母等が挙げられる。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属等の酵母(例えば、サッカロマイセス パストリアヌス、サッカロマイセス セレビシエ、およびサッカロマイセス カールスベルゲンシス)が挙げられるが、本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)W34/70等、サッカロマイセス カールスベルゲン シス(Saccharomyces carlsbergensis)NCYC453、NCYC456等、サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)NBRC1951、NBRC1952、NBRC1953、NBRC1954等が使用できる。さらにワイン酵母、例えば協会ぶどう酒用1号、同3号、同4号等、清酒酵母、例えば協会酵母 清酒用7号、同9号等も用いることができるが、これに限定されない。本発明においては、ビール酵母、例えばサッカロマイセスパストリアヌスが好ましく用いられる。基準酵母、被検酵母は、上記酵母から任意の組み合わせで選択しても良い。
特開2004-283169に記載の比較データベースを用いて検索した結果、ビール酵母のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、non-ScGPD1を見出した(配列番号:1)。得られた塩基配列情報を基に、それぞれ全長遺伝子を増幅するためのプライマーnon-ScGPD1_for(配列番号:5)/non-ScGPD1_rv(配列番号:6)を設計し、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株(「W34/70株」と略記する場合がある。)の染色体DNAを鋳型としたPCRによってnon-ScGPD1の全長遺伝子を含むDNA断片(約1.2kb)を取得した。
ビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株を用いてビール試醸を行い、発酵中のビール酵母菌体から抽出したmRNAをビール酵母DNAマイクロアレイで検出した。
麦汁エキス濃度 12.69%
麦汁容量 70L
麦汁溶存酸素濃度 8.6ppm
発酵温度 15℃
酵母投入量 12.8×106cells/mL
発酵液を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(図1)、外観エキス濃度(図2)の経時変化を観察した。またこれと同時に酵母菌体をサンプリングし、調製したmRNAをビオチンラベルして、ビール酵母DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。シグナルの検出はジーンチップオペレーティングシステム(GCOS;GeneChip Operating Software 1.0、アフィメトリクス社製)を用いて行った。non-ScGPD1遺伝子の発現パターンを図3に示す。この結果より、通常のビール発酵においてnon-ScGPD1遺伝子が発現していることが確認できた。
実施例1に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1/pCR2.1-TOPOを制限酵素SacIおよびBamHI消化し、タンパク質コード領域全長を含むDNA断片を調製した。この断片を制限酵素SacIおよびBamHI処理したpYEGNotに連結させ、non-ScGPD1高発現ベクターnon-ScGPD1/ pYEGNotを構築した。pYEGNotはYEp型の酵母発現ベクターであり、導入された遺伝子はピルビン酸キナーゼ遺伝子PYK1のプロモーターによって高発現される。酵母での選択マーカーとしてジェネチシン耐性遺伝子G418rを、また大腸菌での選択マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子Amprを含んでいる。
特開2004-283169に記載の比較データベースを用いて検索した結果、ビール酵母のグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、non-ScGPD2を見出した(配列番号:3)。得られた塩基配列情報を基に、それぞれ全長遺伝子を増幅するためのプライマーnon-ScGPD2_for(配列番号:7)/non-ScGPD2_rv(配列番号:8)を設計し、ゲノム解読株サッカロマイセス パストリアヌス バイヘンステファン34/70株の染色体DNAを鋳型としたPCRによってnon-ScGPD2の全長遺伝子を含むDNA断片(約1.3kb)を取得した。
ビール酵母サッカロマイセス パストリアヌスW34/70株を用いてビール試醸を行い、発酵中のビール酵母菌体から抽出したmRNAをビール酵母DNAマイクロアレイで検出した。
麦汁エキス濃度 12.69%
麦汁容量 70L
麦汁溶存酸素濃度 8.6ppm
発酵温度 15℃
酵母投入量 12.8×106cells/mL
発酵液を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(図4)、外観エキス濃度(図5)の経時変化を観察した。またこれと同時に酵母菌体をサンプリングし、調製したmRNAをビオチンラベルして、ビール酵母DNAマイクロアレイにハイブリダイズさせた。シグナルの検出はジーンチップオペレーティングシステム(GCOS;GeneChip Operating Software 1.0、アフィメトリクス社製)を用いて行った。non-ScGPD2遺伝子の発現パターンを図6に示す。この結果より、通常のビール発酵においてnon-ScGPD2遺伝子が発現していることが確認できた。
親株(34/70株)ならびに実施例3に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1高発現株を用いた発酵試験を以下の条件で行った。
麦汁エキス濃度 12%
麦汁容量 1L
麦汁溶存酸素濃度 約 10ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 5g湿酵母菌体/L麦汁
発酵醪を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)(図7)、エキス消費量の経時変化(図8)、グリセロール生成量の経時変化(図9)を調べた。醪中のグリセロールの定量は、F-キット グリセロール(製品番号 148270、ロッシュ社製)を用いて行った(文献Method of Enzymatic Analysis,vol.4 1825-1831,1974)。発酵終了時の醪中のグリセロールは、親株が1.7g/Lであったのに対し、non-ScGPD1高発現株では6.2g/Lと約3.6倍に増加していた。
親株(34/70株)ならびに実施例3に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1高発現株を用いた発酵試験を以下の条件で行った。
麦汁エキス濃度 19.3%(12%麦汁に糖化シロップを添加)
麦汁容量 1L
麦汁溶存酸素濃度 約 10ppm
発酵温度 15℃一定
酵母投入量 5g湿酵母菌体/L麦汁
発酵醪を経時的にサンプリングし、酵母増殖量(OD660)(図10)、エキス消費量の経時変化(図11)エタノール生成量の経時変化(図12)を調べた。エタノール生成量はF-キット エタノール(製品番号 176290、ロッシュ社製) を用いて行った(文献Z. Anal. Chem.284:113-117,1977)。図12に示すように、発酵184時間後におけるエタノール生成量は親株の68g/Lに対してnon-ScGPD1高発現株では74g/Lであり、non-ScGPD1高発現による発酵促進が認められた。
親株(BH174株)ならびに実施例3に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1高発現株を用いた低温保存性試験を以下の条件で行った。
YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)で30℃にて一晩培養した菌体を遠心分離にて集菌し、約80cells/mlとなるように5%エタノールに懸濁して4℃で29日間保持した後、死滅した菌数をメチレンブルー染色(ビール酒造組合編、BCOJ微生物分析法)で判定し、生菌率を測定した。同様に10%エタノールに懸濁して4℃で2日間保持した後、生菌率を測定した。表1に示すように親株の生菌率が5%エタノールで29日後に45.1%、10%エタノールで2日後に54.1%であったのに対し、non-ScGPD1高発現株ではそれぞれ58.7%、76.6%と生菌率の増加が認められた。
親株(BH174株)ならびに実施例3に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1高発現株を用いた凍結保存性試験を以下の条件で行った。
YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)で30℃にて一晩培養した菌体を遠心分離にて集菌し、約80cells/mlとなるように水に懸濁して-20℃で29日間保持した後、死滅した菌数をメチレンブルー染色(ビール酒造組合編、BCOJ微生物分析法)で判定し、生菌率を測定した。表2に示すように親株の生菌率が33.3%であったのに対し、non-ScGPD1高発現株では39.3%と生菌率の増加が認められた。
親株(BH172株)ならびに実施例3に記載の方法によって得られたnon-ScGPD1高発現株を用いた乾燥耐性試験を以下の条件で行った。
YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)で30℃にて一晩培養した菌体を遠心分離にて集菌し、約80cells/mlとなるように水に懸濁して真空乾燥し、4℃で29日間保存した後、水で復水し、死滅した菌数をメチレンブルー染色(ビール酒造組合編、BCOJ微生物分析法)で判定し、生菌率を測定した。表3に示すように親株の生菌率が0%であったのに対し、non-ScGPD1高発現株では23.3%と生菌率の増加が認められた。
親株(KN009F株)ならびにFEMS Yeast Res. 2:225-232 (2002)に記載された方法で得られたScGPD1高発現株を用いた低温保存性試験を以下の条件で行った。
YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)で30℃にて一晩培養した菌体を遠心分離にて集菌し、5%エタノールに懸濁して4℃で10日間保持した後、死滅した菌数をメチレンブルー染色(ビール酒造組合編、BCOJ微生物分析法)で判定し、生菌率を測定した。表4に示すように親株の生菌率が64%であったのに対し、ScGPD1高発現株では94%と生菌率の増加が認められた。
Claims (19)
- 以下の(a)〜(b)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - DNAである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
- 請求項1または2に記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
- 請求項4に記載のベクターが導入された酵母。
- グリセロール生成能が向上した請求項5に記載の酵母。
- 低温保存性、凍結保存性または乾燥耐性が増強された請求項5または6に記載の酵母。
- 浸透圧耐性が増強された請求項5または6に記載の酵母。
- 請求項3に記載のタンパク質の発現量を増加させることによってグリセロール生成能が向上した請求項6に記載の酵母。
- 請求項3に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって低温保存性、凍結保存性または乾燥耐性が向上した請求項7に記載の酵母。
- 請求項3に記載のタンパク質の発現量を増加させることによって浸透圧耐性が向上した請求項8に記載の酵母。
- 請求項5〜11のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
- 醸造する酒類が麦芽飲料である請求項12に記載の酒類の製造方法。
- 醸造する酒類がワインである請求項12に記載の酒類の製造方法。
- 配列番号:1の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーまたはプローブを用いて、被検酵母のグリセロール生成能について評価する方法。
- 被検酵母を培養し、配列番号:1の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定することによって、被検酵母のグリセロール生成能を評価する方法。
- 被検酵母を培養して、請求項3に記載のタンパク質を定量または配列番号:1の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現量を測定し、目的とするグリセロール生成能に応じた前記タンパク質量または前記遺伝子発現量の被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
- 基準酵母および被検酵母を培養して、配列番号:1の塩基配列を有するグリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の各酵母における発現量を測定し、基準酵母よりも該遺伝子が高発現している被検酵母を選択する、酵母の選択方法。
- 基準酵母および被検酵母を培養して、各酵母における請求項3に記載のタンパク質を定量し、基準酵母よりも該タンパク質量の多い被検酵母を選択する、請求項17に記載の酵母の選択方法。
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