以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1に係る高分子電解質型燃料電池発電システムの構成を模式的に示すブロック図である。
本実施の形態の高分子電界質型燃料電池発電システム(以下、単に燃料電池発電システムという)は高分子電解質型燃料電池(以下、単に燃料電池という)101を備えている。燃料電池101の、アノードへ燃料ガスを供給するための燃料ガス入口403には、燃料ガス供給流路109を介して燃料ガス供給装置102が接続されている。燃料ガス供給装置102は、燃料電池101のアノードに燃料ガスを供給する。燃料ガスには、水素ガス、炭化水素系のガスを改質した改質ガス等が用いられる。燃料ガス供給装置102は、本実施の形態では、原料ガスから燃料ガスとして改質ガスを生成する水素生成装置で構成されている。水素生成装置は、圧力損失および供給量を調節できるように、例えば、原料供給側にブースターポンプを備えている。原料ガスとしては、ここでは天然ガスが用いられる。
燃料電池101の、カソードへ酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス入口404には、酸化剤ガス供給流路107を介して酸化剤ガス供給装置103が接続されている。酸化剤ガス供給装置103は、燃料電池101のカソードに酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスとして、ここでは空気が用いられる。酸化剤ガス供給装置103は、本実施の形態では、空気ブロワで構成されている。燃料電池101のアノード及びカソードに供給された燃料ガス及び酸化剤ガスはそこで化学反応し、この化学反応により電力及び熱(以下、排熱という)が発生する。燃料電池101の、アノードから燃料ガスを排出するための燃料ガス出口(図1に示さず)には、燃料ガス排出流路110が接続されており、上述の化学反応に寄与しなかった余剰の燃料ガスはアノードから燃料ガス排出流路110に排出されて適宜処理される。例えば、燃料ガス排出流路110に排出された余剰の燃料ガスは、燃料ガス供給装置102を構成する水素生成装置の改質部加熱用の燃料として用いられたり、専用のバーナで燃焼処理されたり、あるいは適宜希釈して大気中に放出されたりする。
また、燃料電池101の、カソードから酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口(図1に示さず)には、酸化剤ガス排出流路111が接続されており、上述の化学反応に寄与しなかった余剰の酸化剤ガスはカソードから酸化剤ガス排出流路111を通じて大気中に放出される。
一方、この燃料電池発電システム100には、燃料電池101を通過するように、冷却流体循環経路としての冷却水循環流路112が形成されている。冷却水循環流路112には冷却流体として水(以下、冷却水という)が循環される。なお、冷却流体として例えば不凍液を用いてもよい。冷却水循環流路112には放熱器105と循環ポンプ106とが配設されている。この冷却水循環流路112、放熱器105、及び循環ポンプ106が冷却システム104を構成している。放熱装置105は、燃料電池101から冷却水に伝達された熱を冷却水から放出させるもので、例えば、冷却水から排熱を受け取ってこの排熱を利用する排熱利用システム、あるいは、フィンが形成された路壁を有する冷却水流路と該フィンに送風する送風機とを有する風冷装置等で構成されている。この冷却システム104では、循環ポンプ106により冷却水を、冷却水循環流路112を通って図1の矢印方向に循環させることにより、冷却水が燃料電池101から受け取った排熱を放熱装置105で放出する。これにより、燃料電池101が冷却される。この場合、放熱装置105において、冷却水の単位流量当たりの放熱量を調整することができ、一方、冷却水循環ポンプ106において冷却水の流量を調整することができる。従って、放熱装置105及び冷却水循環ポンプ106の各々が冷却水の放熱量を決定することができ、これらの各々が冷却水の温度調節手段として機能する。
さらに、燃料電池発電システム100は、アノード側全熱交換器117とカソード側全熱交換器118とを有している。
アノード側全熱交換器117は、内部に、供給側燃料ガス流路117a、排出側燃料ガス流路117b、及び冷却水流路117cが形成されている。そして、供給側燃料ガス流路117aを流れるガスと排出側燃料ガス流路117bを流れるガスとが全熱交換可能に形成されている。具体的には、供給側燃料ガス流路117aの一部と排出側燃料ガス流路117bの一部とが全熱交換膜を隔てて隣接するように形成されている。全熱交換膜として、例えば、燃料電池101に用いられる固体高分子電解質膜が用いられている。また、供給側燃料ガス流路117aを流れる全熱交換後のガスが冷却水流路117cを流れる冷却水と単に熱交換可能に形成されている。そして、供給側燃料ガス流路117aが燃料ガス供給流路109の途中に挿入されるようにして該燃料ガス供給流路109に接続され、排出側燃料ガス流路117bが燃料ガス排出流路110の途中に挿入されるようにして該燃料ガス排出流路110に接続されている。また、冷却水循環流路112は一部が2つの分流路112a、112b(ここでは分流比1:1)で構成されており、冷却水流路117cが冷却水循環流路112の一方の分流路112aの途中に挿入されるようにして該分流路112aに接続されている。
これにより、燃料ガス供給装置102から流出した燃料ガスが、アノード側全熱交換器117において、燃料電池101から排出された燃料ガスにより加湿及び加熱され、さらに燃料電池101から排熱を受け取って昇温した冷却水で加熱され、それにより、所定の後述する露点換算温度を有する燃料ガスとなる。そして、この所定の露点換算温度を有する燃料ガスが燃料電池101の燃料ガス入口403を経てアノードに供給される。
一方、カソード側全熱交換器118は、内部に、供給側酸化剤ガス流路118a、排出側酸化剤ガス流路118b、及び冷却水流路118cが形成されている。そして、供給側酸化剤ガス流路118aを流れるガスと排出側酸化剤ガス流路118bを流れるガスとが全熱交換可能に形成されている。具体的には、供給側酸化剤ガス流路118aの一部と排出側酸化剤ガス流路118bの一部とが全熱交換膜を隔てて隣接するように形成されている。全熱交換膜として、例えば、燃料電池101に用いられる固体高分子電解質膜が用いられている。また、供給側酸化剤ガス流路118aを流れる全熱交換後のガスが冷却水流路118cを流れる冷却水と全熱交換可能に形成されている。そして、供給側酸化剤ガス流路118aが酸化剤ガス供給流路107の途中に挿入されるようにして該酸化剤ガス供給流路107に接続され、排出側酸化剤ガス流路118bが酸化剤ガス排出流路111の途中に挿入されるようにして該酸化剤ガス排出流路111に接続され、冷却水流路118cが冷却水循環流路112の他方の分流路112bの途中に挿入されるようにして該分流路112bに接続されている。
これにより、酸化剤ガス供給装置103から流出した酸化剤ガスが、カソード側全熱交換器118において、燃料電池101から排出された酸化剤ガスにより加湿及び加熱され、さらに燃料電池101から排熱を受け取って昇温した冷却水で加湿及び加熱され、それにより、所定の後述する露点換算温度を有する酸化剤ガスとなる。そして、この所定の露点換算温度を有する酸化剤ガスが燃料電池101の酸化剤ガス入口404を経てカソードに供給される。
燃料ガスの利用率は高いので、排出燃料ガスは結露水を多量に含んでいて、この排出燃料ガスと全熱交換した供給燃料ガスも水分を多く含んでいる。従って、供給燃料ガスを排出冷却水と単に熱交換しても、排出冷却水による加熱能力が低下することはない。一方、酸化剤ガスの利用率は低いので、排出酸化剤ガスは水分が少なく、この排出酸化剤ガスと全熱交換した供給酸化剤ガスも水分が少ない。しかし、供給酸化剤ガスは排出冷却水と全熱交換されるので、排出冷却水によって十分加熱される。
よって、本実施の形態によれば、反応ガスに対する排出冷却水による加熱効率の低下を招くことなく、アノード側及びカソード側のうちの一方の全熱交換器117の構成を簡素化することができる。
ここで、図1において、燃料電池101及び全熱交換器117、118における各ガス及び冷却流体の流れ方向は単に模式的に表されているに過ぎず、各ガス及び冷却流体の相互間の流れ方向の関係(例えば、いわゆる平行流、対向流等)を示すものではない。
また、燃料電池発電システム100は入口温度センサTS1と出口温度センサTS2と制御装置108とを備えている。入口温度センサTS1及び出口温度センサTS2は、ここではサーミスタでそれぞれ構成され、冷却水循環流路112の燃料電池101(正確には後述するセルスタック1)の入口401及び出口402における冷却水の温度をそれぞれ検出して、その検出値を制御装置108にそれぞれ入力する。制御装置108は、マイコン等の演算装置で構成され、燃料電池発電システム100の所要の構成要素を制御して該燃料電池発電装置100の動作を制御する。ここで、本明細書においては、制御装置とは、単独の制御装置だけでなく、複数の制御装置が協働して制御を実行する制御装置群をも意味する。よって、制御装置108は、必ずしも単独の制御装置で構成される必要はなく、複数の制御装置が分散配置されていて、それらが協働して燃料電池発電装置101の動作を制御するよう構成されていてもよい。
制御装置108は、具体的には、少なくとも燃料ガス供給装置102、酸化剤ガス供給装置103、放熱装置105、及び冷却水循環ポンプ109を制御し、特に、入口温度センサTS1及び出口温度センサTS2の検出値に基づいて放熱装置105及び冷却水循環ポンプ109の少なくともいずれかを制御して、冷却水の温度を所定の温度に調整するとともに、燃料ガス供給装置102、酸化剤ガス供給装置103を制御して、燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給量(流速)および圧力損失を調整する。
次に、燃料電池101の構造を詳しく説明する。
図2は図1の燃料電池の概略の構成を示す斜視図、図3は図2のIII−III平面に沿った断面図である。
図2においては、燃料電池における上下方向を、図における上下方向として表している。なお、これは、後述する図4乃至図7においても同様である。
図2に示すように、燃料電池101はセルスタック1を有している。セルスタック1は、板状の全体形状を有するセル2がその厚み方向に積層されてなるセル積層体201と、セル積層体201の両端に配置された第1及び第2の端板3A、3Bと、セル積層体201と第1及び第2の端板3A、3Bとをセル2の積層方向において締結する図示されない締結具とを有している。また、第1及び第2の端板3A、3Bには集電端子がそれぞれ配設されているが図示を省略している。板状のセル2は、鉛直面に平行に延在しており、従って、セル2の積層方向は水平方向となっている。
セル積層体201の一方の側部(以下、第1の側部という)の上部には、該セル積層体201を積層方向に貫通するように酸化剤ガス供給マニホールド4が形成されている。酸化剤ガス供給マニホールド4の一端は第1の端板3Aに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(酸化剤ガス入口404)に図1の酸化剤ガス供給路107を構成する酸化剤ガス供給配管51が接続されている。酸化剤ガス供給マニホールド4の他端は第2の端板3Bによって閉鎖されている。また、セル積層体201の他方の側部(以下、第2の側部)の下部には、該セル積層体201を積層方向に貫通するように酸化剤ガス排出マニホールド7が形成されている。酸化剤ガス供給マニホールド7の一端は第1の端板3Aによって閉鎖されている。酸化剤ガス排出マニホールド7の他端は第2の端板3Bに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(酸化剤ガス出口)に図1の酸化剤ガス排出路111を構成する酸化剤ガス排出配管52が接続されている。
セル積層体201の第2の側部の上部には、該セル積層体201を積層方向に貫通するように燃料ガス供給マニホールド5が形成されている。燃料ガス供給マニホールド5の一端は第1の端板3Aに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(燃料ガス入口)403に図1の燃料ガス供給路109を構成する燃料ガス供給配管53が接続されている。燃料ガス供給マニホールド5の他端は第2の端板3Bによって閉鎖されている。
また、セル積層体201の第1の側部の下部には、該セル積層体201を積層方向に貫通するように燃料ガス排出マニホールド6が形成されている。燃料ガス排出マニホールド6の一端は第1の端板3Aによって閉鎖されている。燃料ガス供給マニホールド5の他端は第2の端板3Bに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(燃料ガス出口)に図1の燃料ガス排出路110を構成する燃料ガス排出配管54が接続されている。
酸化剤ガス供給マニホールド4の上部の内側には、セル積層体201を積層方向に貫通するように冷却水供給マニホールド8が形成されている。冷却水供給マニホールド8の一端は第1の端板3Aに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(冷却水入口401)冷却水供給配管30が接続されている。冷却水供給配管30は、図1の冷却水循環流路112の、循環ポンプ106の吐出ポート(図示せず)と燃料電池101との間の部分を構成している。冷却水供給マニホールド8の他端は第2の端板3Bによって閉鎖されている。
また、酸化剤ガス排出マニホールド7の下部の内側には、セル積層体201を積層方向に貫通するように冷却水排出マニホールド9が形成されている。冷却水排出マニホールド9の一端は第1の端板3Aによって閉鎖されている。冷却水排出マニホールド9の他端は第2の端板3Bに形成された貫通孔に連通し、この貫通孔の外側開口(冷却水出口402)に冷却水排出配管31が接続されている。冷却水供給配管31は、図1の冷却水循環流路112の、循環ポンプ106の吸入ポートと燃料電池101との間の部分を構成している。
図3に示すように、セル2は、板状のMEA43と、MA43の両主面に接触するように配置されたカソード側セパレータ10及びアノード側セパレータ20とで構成されている。そして、互いに隣接するセル2、2において、一方のセル2のカソード側セパレータ10の背面と他方のセル2のアノード側セパレータ20の背面とが接触するようにして、セル2が積層されている。MEA43、カソード側セパレータ10、及びアノード側セパレータ20は、互いに同じ大きさの同じ形状(ここでは矩形)に形成されている。そして、MEA43、カソード側セパレータ10、及びアノード側セパレータ20には、互いに対応する所定の箇所に、これらを厚み方向に貫通する、酸化剤の入口マニホールド孔、酸化剤の出口マニホールド孔、燃料の入口マニホールド孔、燃料の出口マニホールド孔、冷却水の入口マニホールド孔、及び冷却水の出口マニホールド孔が形成され、全てのセル2におけるMEA43、カソード側セパレータ10、及びアノード側セパレータ20の、酸化剤の入口マニホールド孔、酸化剤の出口マニホールド孔、燃料の入口マニホールド孔、燃料の出口マニホールド孔、冷却水の入口マニホールド孔、及び冷却水の出口マニホールド孔が、それぞれ繋がって、酸化剤供給マニホールド4、酸化剤排出マニホールド7、燃料供給マニホールド5、燃料排出マニホールド6、冷却水供給マニホールド8、及び冷却水排出マニホールド9が、それぞれ形成されている。
カソード側セパレータ10の正面及び背面には、それぞれ、酸化剤ガス流路17及び冷却水流路19が形成されている。酸化剤ガス流路17は後述するように、酸化剤ガスの入口マニホールド孔と酸化剤ガスの出口マニホールド孔とを接続するように形成され、冷却水流路19は後述するように、冷却水の入口マニホールド孔と冷却水の出口マニホールド孔とを接続するように形成されている。そして、カソード側セパレータ10は、正面がMEA43に接触するように配置されている。
アノード側セパレータ20の正面及び背面には、それぞれ、燃料ガス流路28及び冷却水流路29が形成されている。燃料ガス流路19は後述するように、燃料ガスの入口マニホールド孔と燃料ガスの出口マニホールド孔とを接続するように形成され、冷却水流路29は後述するように、冷却水の入口マニホールド孔と冷却水の出口マニホールド孔とを接続するように形成されている。そして、アノード側セパレータ20は、正面がMEA43に接触するように配置されている。
各流路17、19、28、29はカソード側セパレータ10又はアノード側セパレータ20の主面に形成された溝で構成されている。また、各流路17、19、28、29は、図3では、それぞれ、2つの流路で構成されているが、多数の流路で構成されていてもよい。また、隣接するカソード側セパレータ10の冷却水流路19とアノード側セパレータ20の冷却水流路29とは、セル2が積層されたとき互いに合わさる(接合する)ように形成されており、両者で1つの冷却水流路が形成されている。
また、カソード側セパレータ10の背面及びアノード側セパレータ20の背面には、冷却水の入口マニホールド孔及び出口マニホールド孔並びに冷却水流路と、酸化剤の入口マニホールド孔と、酸化剤の出口マニホールド孔と、燃料の入口マニホールド孔と、燃料の出口マニホールド孔とを、それぞれ、囲むようにOリング収容溝が形成され、その溝にOリング47がそれぞれ配置されている。これにより、前記のマニホールド孔等が互いにシールされている。
MEA43は、高分子電解質膜41と、カソード42Aと、アノード42Bと、一対のガスケット46と、を有している。そして、高分子電解質膜41の縁部以外の部分の両面にそれぞれカソード42A及びアノード42Bが形成され、高分子電解質膜41の縁部の両面にカソード42A及びアノード42Bをそれぞれ囲むようにガスケット46が配置されている。一対のガスケット46、カソード42A、アノード42B、及び高分子電解質膜41は互いに一体化されている。
高分子電解質膜41は、水素イオンを選択的に輸送可能な材料で構成され、ここでは、パーフルオロカーボンスルホン酸系の材料で構成されている。カソード42A及びアノード42Bは、高分子電解質41の互いに反対の主面にそれぞれ形成された触媒層(図示せず)とこの触媒層の上に形成されたガス拡散層(図示せず)とで構成されている。触媒層は白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末で主に構成されている。ガス拡散層は通気性と導電性とを有する不織布、紙などで構成されている。
また、カソード42Aと、アノード42Bと、カソード側セパレータ10における酸化剤ガス流路17が形成された領域及び冷却水流路19が形成された領域と、アノード側セパレータ20における燃料ガス流路28が形成された領域及び冷却水流路29が形成された領域とは、セル2の積層方向から見て、互いに、実質的に全体的に重なり合うように配設されている。
次に、カソード側セパレータ及びアノード側セパレータについて詳しく説明する。
図4はカソード側セパレータの正面図、図5はその背面図、図6はアノード側セパレータの正面図、図7はその背面図である。
図4に示すように、カソード側セパレータ10は、酸化剤ガスの入口マニホールド孔11及び出口マニホールド孔13、燃料ガスの入口マニホールド孔12及び出口マニホールド孔14並びに冷却水の入口マニホールド孔15及び出口マニホールド孔16を有する。セパレータ10は、さらに、カソードと対向する面に、マニホールド孔11と13とを接続するガス流路17を有し、背面には、冷却水のマニホールド孔15と16を接続する流路19を有する。
図4において、酸化剤ガスの入口マニホールド孔11はセパレータ10の一方の側部(図面左側の側部:以下、第1の側部という)の上部に設けられ、出口マニホールド孔13はセパレータ10の他方の側部(図面右側の側部:以下、第2の側部という)の下部に設けられている。燃料ガスの入口マニホールド孔12は、セパレータ10の第2の側部の上部に設けられ、出口マニホールド孔14はセパレータ10の第1の側部の下部に設けられている。冷却水の入口マニホールド孔15は酸化剤ガスの入口マニホールド孔11の上部の内側に設けられ、出口マニホールド孔16は酸化剤ガスの出口マニホールド孔13の下部の内側に設けられている。酸化剤ガスの入口マニホールド孔11及び出口マニホールド孔13、燃料ガスの入口マニホールド孔12及び出口マニホールド孔14は、鉛直方向に長い長孔形状に形成されている。また、冷却水マニホールド孔15、16は、水平方向に長い長孔形状に形成されている。
酸化剤ガス流路17は、本実施の形態では2つの流路(流路溝)で構成されている。もちろん、任意の数の流路で構成することができる。各流路は、水平方向に延びる水平部17aと、鉛直方向に延びる鉛直部17bとで実質的に構成されている。具体的には、酸化剤ガス流路17の各流路は、酸化剤ガスの入り口マニホールド孔11の上部からセパレータ10の第2の側部まで水平に延び、そこから下方にある距離延び、そこから水平にセパレータ10の第1の側部まで水平に延び、そこから下方にある距離延びている。そして、そこから、上記の延在パターンを2回繰り返し、その到達点から酸化剤ガスの出口マニホールド孔13の下部に至るように水平に延びている。そして、各流路の水平に延びる部分が水平部17aを形成し、下方に延びる部分が鉛直部17bを形成している。これにより、酸化剤ガス流路17では、酸化剤ガスが、水平部17aと鉛直部17bとを交互に通過するようにして蛇行しながら重力に逆らわずに流れ、その結果、フラッディングが抑制される。
なお、各流路は、ここでは水平部17aと鉛直部17bとで構成されているが、ガスの通流方向に向かって水平又は下り勾配(垂直を含む)となるように形成されていればよい。但し、各流路を水平部17aと鉛直部17bとで構成すると、酸化剤ガス流路17を高密度で形成することができる。
図5において、冷却水流路19は、2つの流路で構成されている。各流路は、水平方向に延びる水平部19aと、鉛直方向に延びる鉛直部19bとで実質的に構成されている。具体的には、冷却水流路19の各流路は、冷却水の入り口マニホールド孔15の、酸化剤ガスの入り口マニホールド孔11に近い方の端部からある距離下方に延び、そこから、セパレータ10の第2の側部(図面左側の側部)まで水平に延び、そこから下方にある距離延び、そこから第1の側部(図面右側の側部)まで水平に延びている。そして、そこから、上記の延在パターンを2回半繰り返し、その到達点から冷却水の出口マニホールド孔16の、酸化剤ガスの出口マニホールド孔13に近い方の端部に至るように下方に延びている。そして、各流路の水平に延びる部分が水平部19aを形成し、下方に延びる部分が鉛直部19bを形成している。これにより、冷却水流路19では、冷却水が、水平部19aと鉛直部19bとを交互に通過するようにして蛇行しながら重力に逆らわずに流れる。
そして、ここで重要なことは、以下の点である。すなわち、冷却水の入口マニホールド孔15と酸化剤ガスの入口マニホールド孔11とが近接して設けられ、冷却水の出口マニホールド孔16と酸化剤ガスの出口マニホールド孔13とが近接して設けられ、かつセパレータ10の厚み方向から見て、冷却水流路18が酸化剤ガス流路17と実質的に重なるように形成されており、その結果、冷却水と酸化剤ガスとがセパレータ10を挟んで実質的に同じ方向に流れるという点である。このように構成することにより、セパレータ10の厚み方向から見て、最も相対湿度が低くなる酸化剤ガス入口部分と冷却水の入口部分とがほぼ一致するので、高分子電解質膜の乾きを解消することができ、ひいては高分子電解質膜の耐久性を向上することができる。
なお、各流路は、ここでは水平部19aと鉛直部19bとで実質的に構成されているが、冷却水の通流方向に向かって水平又は下り勾配となるように形成されていればよい。但し、各流路を水平部19aと鉛直部19bとで構成すると、冷却水流路19を高密度で形成することができる。
図6に示すように、アノード側セパレータ20は、酸化剤ガスの入口マニホールド孔21及び出口マニホールド孔23、燃料ガスの入口マニホールド孔22及び出口マニホールド孔24並びに冷却水の入口マニホールド孔25及び出口マニホールド孔26を有する。セパレータ20は、さらに、アノードと対向する面に、マニホールド孔22と24とを接続するガス流路28を有し、背面には、冷却水のマニホールド孔25と26を接続する流路29を有する。
図6において、酸化剤ガスの入口マニホールド孔21はセパレータ20の一方の側部(図面右側の側部:以下、第1の側部という)の上部に設けられ、出口マニホールド孔23はセパレータ20の他方の側部(図面左側の側部:以下、第2の側部という)の下部に設けられている。燃料ガスの入口マニホールド孔22は、セパレータ20の第2の側部の上部に設けられ、出口マニホールド孔24はセパレータ20の第1の側部の下部に設けられている。冷却水の入口マニホールド孔25は酸化剤ガスの入口マニホールド孔21の上部の内側に設けられ、出口マニホールド孔26は酸化剤ガスの出口マニホールド孔23の下部の内側に設けられている。酸化剤ガスの入口マニホールド孔21及び出口マニホールド孔23、燃料ガスの入口マニホールド孔22及び出口マニホールド孔24は、鉛直方向に長い長孔形状に形成されている。また、冷却水マニホールド孔25、26は、水平方向に長い長孔形状に形成されている。
燃料ガス流路28は、本実施の形態では2つの流路で構成されている。各流路は、水平方向に延びる水平部28aと、鉛直方向に延びる鉛直部28bとで実質的に構成されている。具体的には、燃料ガス流路28の各流路は、燃料ガスの入り口マニホールド孔22の上部からセパレータ20の第1の側部まで水平に延び、そこから下方にある距離延び、そこから水平にセパレータ20の第2の側部まで水平に延び、そこから下方にある距離延びている。そして、そこから、上記の延在パターンを2回繰り返し、その到達点から燃料ガスの出口マニホールド孔24の下部に至るように水平に延びている。そして、各流路の水平に延びる部分が水平部28aを形成し、下方に延びる部分が鉛直部28bを形成している。これにより、燃料ガス流路28では、燃料ガスが、水平部28aと鉛直部28bとを交互に通過するようにして蛇行しながら重力に逆らわずに流れ、その結果、フラッディングが抑制される。
なお、各流路は、ここでは水平部28aと鉛直部28bとで実質的に構成されているが、ガスの通流方向に向かって水平又は下り勾配(垂直を含む)となるように形成されていればよい。但し、各流路を水平部28aと鉛直部28bとで構成すると、燃料ガス流路28を高密度で形成することができる。
図7において、冷却水流路29は、図5のカソードセパレータ10の背面に形成された冷却水流路19と図面における左右が反対になるように形成されている。すなわち、各流路は、水平方向に延びる水平部29aと、鉛直方向に延びる鉛直部29bとで実質的に構成されている。具体的には、冷却水流路29の各流路は、冷却水の入り口マニホールド孔25の、酸化剤ガスの入り口マニホールド孔21に近い方の端部からある距離下方に延び、そこから、セパレータ20の第2の側部(図面右側の側部)まで水平に延び、そこから下方にある距離延び、そこから第1の側部(図面左側の側部)まで水平に延びている。そして、そこから、上記の延在パターンを2回半繰り返し、その到達点から冷却水の出口マニホールド孔26の、酸化剤ガスの出口マニホールド孔23に近い方の端部に至るように下方に延びている。そして、各流路の水平に延びる部分が水平部29aを形成し、下方に延びる部分が鉛直部29bを形成している。これにより、冷却水流路29では、冷却水が、水平部29aと鉛直部29bとを交互に通過するようにして蛇行しながら重力に逆らわずに流れる。
そして、ここで重要な点は、以下の点である。すなわち、冷却水の入口マニホールド孔25と燃料ガスの入口マニホールド孔22とが共にセパレータ20の上部に設けられ、冷却水の出口マニホールド孔26と燃料ガスの出口マニホールド孔24とが共にセパレータ20の下部に設けられ、かつセパレータ20の厚み方向から見て、冷却水流路29が燃料ガス流路28と実質的に重なるように形成されており、その結果、冷却水と燃料ガスとは水平方向においてはセパレータ20を挟んで互いに反対方向に流れるものの、鉛直方向においては、全体としては、共に、上から下へと同じ方向に流れるという点である。このように構成することにより、最も相対湿度が低くなる燃料ガス流路28の上流部分が、セパレータ20の鉛直方向において、冷却水の入口部分が設けられて最も温度が低い上部に位置するので、高分子電解質膜の乾きの解消に寄与し、ひいては高分子電解質膜の耐久性の向上に寄与する。
なお、各流路は、ここでは水平部29aと鉛直部29bとで実質的に構成されているが、冷却水の通流方向に向かって水平又は下り勾配となるように形成されていればよい。但し、各流路を水平部29aと鉛直部29bとで構成すると、冷却水流路29を高密度で形成することができる。
既述のように、上記のカソード側セパレータ10とアノード側セパレータ20とによりMEAを挟むことによりセルが構成される。従って、隣接するセル間には、カソード側セパレータ10とアノード側セパレータ20とがそれらの冷却水の流路19と29を向き合わせて配置され、冷却部が構成される。複数セル毎に冷却部を設ける場合は、前記のような複合セパレータの代わりに、一方の面がカソード側セパレータ、他方の面がアノード側セパレータとして働く単一のセパレータが適宜用いられる。
以上のように構成された燃料電池101では、燃料ガス、酸化剤ガス、及び冷却水が以下のように通流する。
図1乃至図7において、燃料ガスは、燃料ガス供給配管43を通じてセルスタック1の燃料ガス供給マニホールド5に供給される。この供給された燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールド5から、各セル2の入口マニホールド孔22に流入し、燃料ガス流路28を通流する。そして、この間に、アノード42B、高分子電解質膜41、及びカソード42Aを介して酸化剤ガスと反応して消費され、消費されなかった燃料ガスが出口マニホールド孔24から燃料ガス排出マニホールド6に流出し、燃料ガス排出配管44を通じてセルスタック1から排出される。
一方、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給配管41を通じてセルスタック1の酸化剤ガス供給マニホールド8に供給される。この供給された酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給マニホールド4から、各セル2の入口マニホールド孔11に流入し、酸化剤ガス流路17を通流する。そして、この間に、カソード、高分子電解質膜、及びアノードを介して燃料ガスと反応して消費され、消費されなかった酸化剤ガスが出口マニホールド孔13から酸化剤ガス排出マニホールド7に流出し、酸化剤ガス排出配管42を通じてセルスタック1から排出される。
また、冷却水は、冷却水供給配管30を通じてセルスタック1の冷却水供給マニホールド8に供給される。この供給された冷却水は、冷却水供給マニホールド8から、各セル2の入口マニホールド孔15、25に流入し、冷却水流路19、29を通流する。そして、この間に、カソードセパレータ10及びアノードセパレータ20を介してカソード及びアノードを冷却するとともにこれらから熱を受け取って、出口マニホールド孔16、26から冷却水排出マニホールド9に流出し、冷却水排出配管31を通じてセルスタック1から排出される。
そして、この過程において、燃料ガス及び酸化剤ガスは、それぞれ、燃料ガス流路28及び酸化剤ガス流路17を、重力に逆らわないように流れ、それにより、フラッディングが防止される。
また、各セパレータ10、20において、冷却水の入口近傍部に、相対湿度が最も低くなる、燃料ガス流路28又は酸化剤ガス流路17の上流部が位置していることから、高分子電解質膜の乾燥が防止される。
次に、アノード側全熱交換器117及びカソード側全熱交換器118の構成例を説明する。
図8は図1のアノード側全熱交換器117を構成する全熱交換セルスタックの構成を示す斜視図、図9は図8のIX−IX平面に沿った断面図である。
図2、図3、図8、及び図9に示すように、アノード側全熱交換器117は、基本的に燃料電池101のセルスタック1と同様の構成を有する全熱交換セルスタック301が主要部を構成しているので、セルスタック1と比較しながらその構造を説明する。
全熱交換セルスタック301は、板状の全体形状を有するセル202がその厚み方向に積層されてなるセル積層体302と、セル積層体302の両端に配置された第1及び第2の端板203A、203Bと、セル積層体302と第1及び第2の端板203A、203Bとをセル202の積層方向において締結する図示されない締結具とを有している。
セル積層体302には、セルスタック1の酸化剤ガス供給マニホールド4、酸化剤ガス排出マニホールド5、燃料ガス供給マニホールド7、及び燃料ガス排出マニホールド6
にそれぞれ相当する、第1の流体供給マニホールド204、第1の流体排出マニホールド207、第2の流体供給マニホールド205、及び第2の流体排出マニホールド206が形成されている。第1の流体供給マニホールド204及び第2の流体供給マニホールド205は、それぞれ、端板203Aに設けられた貫通孔を介して、第1の流体供給配管251及び第2の流体供給配管253に接続されている。また、第1の流体排出マニホールド207及び第2の流体排出マニホールド206は、それぞれ、端板203Bに設けられた貫通孔を介して、第1の流体排出配管252及び第2の流体排出配管254に接続されている。なお、セルスタック1と異なり、セル積層体302には、冷却水供給マニホールド及び冷却水排出マニホールドは設けられていない。
全熱交換セル202は、疑似MEA243とこれを挟む第1のセパレータ210及び第2のセパレータ220を有している。疑似MEA243は、セルスタック201のMEA43においてアノード42B及びカソード42Aが省略されている以外はセルスタック201のMEA43と同様に構成されている。従って、疑似MEA243は、セルスタック201のMEA43と同様に個体高分子膜を有している。但し、疑似MEA243では、固体高分子膜は全熱交換膜として機能する。
第1、第2のセパレータ210、220は、背面(外面)に冷却水流路が形成されていないこと以外はセルスタック201のカソード側セパレータ10及びアノード側セパレータ20と同様に構成されている。従って、第1のセパレータ210及び第2のセパレータ220の周縁部に、それぞれ、第1の流体の入口マニホールド孔211、221、第1の流体の出口マニホールド孔(図示せず)、第2の流体の入口マニホールド孔212、222、第2の流体の出口マニホールド孔(図示せず)が形成されている。第1の流体の入口マニホールド孔211、221と第2の流体の入口マニホールド孔212、222とは第1のセパレータ210及び第2のセパレータ220の上部の互いに反対側の側部にそれぞれ形成されている。また、第1の流体の出口マニホールド孔と第2の流体の出口マニホールド孔とは、第1のセパレータ210及び第2のセパレータ220の下部の互いに反対側の側部に、第1の流体の出口マニホールド孔が第2の流体の入口マニホールド孔212、222の下方に位置しかつ第2の流体の出口マニホールド孔が第1の流体の入口マニホールド孔211、221の下方に位置するように、それぞれ、形成されている。そして、第1のセパレータ210の正面(内面)には、カソード側セパレータ10と同様に、第1の流体の流路(以下、第1の流体流路という)217が第1の流体の入口マニホールド孔211
と第1の流体の出口マニホールド孔とを接続するように形成されている。第2のセパレータ220の正面(内面)には、アノード側セパレータ20と同様に、第2の流体の流路(以下、第2の流体流路という)228が第2の流体の入口マニホールド孔221と第2の流体の出口マニホールド孔とを接続するように形成されている。また、疑似MEA243の周縁部に、第1のセパレータ210及び第2のセパレータ220の、第1の流体の入口マニホールド孔211、221、第1の流体の出口マニホールド孔(図示せず)、第2の流体の入口マニホールド孔212、222、第2の流体の出口マニホールド孔(図示せず)にそれぞれ対応するように、第1の流体の入口マニホールド孔(図示せず)、第1の流体の出口マニホールド孔(図示せず)、第2の流体の入口マニホールド孔(図示せず)、第2の流体の出口マニホールド孔(図示せず)が形成されている。
そして、全ての全熱交換セル202における疑似MEA243、第1のセパレータ210、及び第2のセパレータ220の、第1の流体の入口マニホールド孔、第1の流体の出口マニホールド孔、第2の流体の入口マニホールド孔、第2の流体の出口マニホールド孔が、それぞれ繋がって、第1の流体供給マニホールド204、第1の流体排出マニホールド207、第2の流体供給マニホールド205、第2の流体排出マニホールド206が、それぞれ形成されている。なお、第1のセパレータ210と第2のセパレータ220とを1つのセパレータで構成してもよい。
そして、アノード側全熱交換器117は、この全熱交換セルスタック301で構成される第1の全熱交換セルスタック301Aと、一般的な熱交換器で構成されるアノード側対冷却水熱交換器303Aとを有している。
第1の全熱交換セルスタック301Aでは、第1の流体供給マニホールド204、第1の流体流路217、及び第1の流体排出マニホールド207がアノード側全熱交換器117の供給側燃料ガス流路117aの上流側部分を構成し、第2の流体供給マニホールド206、第2の流体流路228、及び第2の流体排出マニホールド205がアノード側全熱交換器117の排出側燃料ガス流路117bを構成している。また、第1の流体供給配管251が燃料ガス供給流路109の燃料ガス供給装置102側の部分109aを構成しており、第1の流体排出配管252は以下に述べる第2の全熱交換セルスタック301Bの第1の流体供給マニホールド204の入口に接続されている。また、第2の流体供給配管254が燃料ガス排出流路110の燃料電池101側の部分110aを構成し、第2の流体排出配管253が燃料ガス排出流路110の大気側の部分110bを構成している。
また、アノード側対冷却水熱交換器303Aにおいては、周知の構成により、冷却水と燃料ガスの間で熱交換可能となっている。
このように構成されたアノード側全熱交換器117では、第1の全熱交換セルスタック301Aにおいて、第1の流体マニホールド204に燃料電池101に供給される燃料ガス(以下、供給燃料ガスという)が供給され、第2の流体マニホールド206に燃料電池101から排出された燃料ガス(以下、排出燃料ガスという)が供給される。そして、各全熱交換セル202において、第1の流体流路217を流れる供給燃料ガスと第2の流体流路228を流れる排出燃料ガスとが高分子電解質膜41を介して全熱交換(熱と水分との双方の交換)をし、それにより、供給燃料ガスが排出燃料ガスによって加湿及び加熱される。そして、アノード側対冷却水熱交換器303Aにおいて、内部を流れる供給燃料ガスと排出冷却水とが水分を交換せず、単に熱のみを交換し、それにより、第1の全熱交換スタック301Aで全熱交換された供給燃料ガスが燃料電池101を通過して昇温した排出冷却水によってさらに加熱される。そして、このように加湿及び加熱された供給燃料ガスが燃料電池101に供給される。
次に、カソード側全熱交換器118の構成を説明する。カソード側全熱交換器118はアノード側全熱交換器117のアノード側対冷却水熱交換器303Aを全熱交換セルスタック301で構成される第4の全熱交換セルスタック301Dに置き換えた構成を有している。すなわち、カソード側全熱交換器118は、図8及び図9に示された全熱交換セルスタック301で構成される第3の全熱交換セルスタック301Cと第4の全熱交換セルスタック301Dとを有している。そして、第3の全熱交換セルスタック301Cにおいて、第1の流体供給配管251が酸化剤ガス供給流路107の酸化剤ガス供給装置103側の部分107aを構成しており、第1の流体供給マニホールド204、第1の流体流路217、及び第1の流体排出マニホールド207がカソード側全熱交換器118の供給側酸化剤ガス流路118aの上流側を構成し、第1の流体排出配管252は第4の全熱交換セルスタック301Dの第1の流体供給マニホールド204の入口に接続されている。また、第2の流体供給配管254が酸化剤ガス排出流路111の燃料電池101側の部分111aを構成し、第2の流体供給マニホールド206、第2の流体流路228、及び第2の流体排出マニホールド205がカソード側全熱交換器118の排出側酸化剤ガス流路118bを構成し、第2の流体排出配管254が酸化剤ガス排出流路111の大気側の部分111bを構成している。
また、第4の全熱交換セルスタック301Dにおいては、第1の流体供給マニホールド204、第1の流体流路217、及び第1の流体排出マニホールド207がカソード側全熱交換器118の供給側酸化剤ガス流路118aの下流側部分を構成し、第2の流体供給マニホールド206、第2の流体流路228、及び第2の流体排出マニホールド205がカソード側全熱交換器118の冷却水流路118cを構成している。また、第1の流体供給配管251が第3の全熱交換セルスタック301Cの第1の流体排出配管252を構成しており、第1の流体排出配管252は酸化剤ガス供給流路107の燃料電池101側の部分107bを構成している。また、第2の流体供給配管254が冷却水循環流路112の分流路112bの燃料電池101側の部分を構成し、第2の流体排出配管253が冷却水循環流路112の分流路112aの放熱装置105側の部分を構成している。
このように構成されたカソード側全熱交換器118では、第1の全熱交換セルスタック301Cにおいて、第1の流体マニホールド204に燃料電池101に供給される酸化剤ガス(以下、供給酸化剤ガスという)が供給され、第2の流体マニホールド206に燃料電池101から排出された酸化剤ガス(以下、排出酸化剤ガスという)が供給される。そして、各全熱交換セル202において、第1の流体流路217を流れる供給酸化剤ガスと第2の流体流路228を流れる排出酸化剤ガスとが高分子電解質膜41を介して全熱交換をし、それにより、供給酸化剤ガスが排出酸化剤ガスによって加湿及び加熱される。そして、第4の全熱交換セルスタック301Dにおいて、第1の流体マニホールド204に第3の全熱交換スタックで全熱交換された供給酸化剤ガスが供給され、第2の流体マニホールド206に燃料電池101から排出された排出冷却水が供給される。そして、各全熱交換セル202において、第1の流体流路217を流れる供給酸化剤ガスと第2の流体流路228を流れる排出冷却水とが高分子電解質膜41を介して全熱交換をし、それにより、第3の全熱交換スタックで全熱交換された供給酸化剤ガスが燃料電池101を通過して昇温した排出冷却水によってさらに加湿及び加熱される。そして、このように加湿及び加熱された供給酸化剤ガスが燃料電池101に供給される。
なお、以下の説明では、供給燃料ガスと供給酸化剤ガスとを供給反応ガスと総称し、排出燃料ガスと排出酸化剤ガスとを排出反応ガスと総称する場合がある。
図1乃至図3において、反応ガスが、燃料電池101の温度に対してその相対湿度が100%(正確には次に述べる露点換算温度)となるように加湿して燃料電池101に供給される。ここで、本明細書においては、反応ガスの全水分量を露点に換算した温度を「露点換算温度」という。このような概念を導入したのは、反応ガスの相対湿度が100%の状態を超えて反応ガス中に水分がミストの状態で存在する状態をも含めて反応ガスと共に存在する全水分量を定義するためである。また、本明細書においては、反応ガス中に熱力学的に液状水(結露水)が存在し得る状態を「過加湿」の状態といい、反応ガスの相対湿度が100%でかつその中に熱力学的に液状水が存在し得ない状態を「フル加湿」の状態という。前述のように反応ガスを加湿することにより、燃料電池101の内部の、発電のための電気化学反応(以下、発電反応という)が起こる領域が、その全領域に渡って、相対湿度が100%以上に加湿された(フル加湿又は過加湿された)雰囲気に保たれる。これにより、高分子電解質膜41並びにアノード42B及びカソード42A中に含まれる高分子電解質の化学的劣化が防止されて、燃料電池101の耐久性が向上する。また、燃料電高分子電解質膜には、パーフルオロカーボンスルホン酸系の材料が使われている。この高分子電解質膜は水分を含んだ状態でイオン伝導性を発現するため、燃料電池101の内部の発電反応が起こる領域を、その全域に渡って、フル加湿又は過加湿となるように加湿された雰囲気を保つための運転方法を、燃料電池発電システム100の効率を低下させない方法で実現する。
そこで、本発明者らは、基本的に図1乃至図7に示す構成を有し、温度測定用に特別に加工したセパレータを用いた燃料電池を作製して動作させ、実際に発電反応が起こる領域の温度分布を測定した。但し、燃料ガス及び酸化剤ガスは、全熱交換器ではなく、バブラーを用いて加湿した。ここで「発電反応が起こる領域」(以下、「発電領域」と呼ぶ場合がある)とは、アノード42b及びカソード42Aをいう。
図10はセルスタックの温度分布を測定するために用いたセパレータの構造を示す模式図である。図10において、カソード側セパレータ10及びアノード側セパレータ20はセルの厚み方向から見て透視的に描かれている。また、セパレータ10、20の各流路17、19、28、29は、複数の流路を一本の線で代表するようにして示されている。
図10に示すように、このカソード側セパレータ10及びアノード側セパレータ20には主面に平行に細孔200が形成されている。この細孔200は、各セパレータ10、20の端面からその中心部に向かって延びるように、あるいは一方の端面から反対の端面に中心を通って斜めにセパレータ10、20を貫通するように形成されている。この細孔200に熱電対を適当な深さに挿入することにより、各セパレータ10、20の5つの位置A〜Dの温度が測定された。測定位置Cは各セパレータ10、20の平面視における中心である。測定位置A、B、D、Eは、それぞれ、平面視において、各セパレータ10、20のカソード42A及びアノード42Bに重なる領域の、酸化剤ガスの入口マニホールド孔11に近い位置、燃料ガスの入口マニホールド孔12に近い位置、酸化剤ガスの出口マニホールド孔13に近い位置、燃料ガスの出口マニホールド孔14に近い位置である。また、測定位置A〜Eは、セパレータ10、20の平面視において、冷却水流路19、29に沿って、その上流から下流に向けてこの順に位置している。
この温度分布測定の結果、本発明者らは、以下の事実を発見した。
図11は1セル毎に冷却した場合におけるセルスタックの温度分布の一測定例を示すグラフである。図11において、横軸はセル番号を示し、縦軸はセルスタックの温度を示す。また、黒丸印のプロットは図10に示すセパレータ10、20の測定位置Aにおける温度を、黒の菱形印のプロットは図10に示すセパレータ10、20の測定位置Bにおける温度を、黒の四角印のプロットは図10に示すセパレータ10、20の測定位置Cにおける温度を、黒の三角印のプロットは図10に示すセパレータ10、20の測定位置Dにおける温度を、白の菱形印のプロットは図10に示すセパレータ10、20の測定位置Eにおける温度を示す。セル番号は、セルスタック1への冷却水の入り口(図2の端板3Aの貫通孔の外側開口)401に近いセル2から順に付与されている。図11の測定例(後述する図21の実験番号1)では、セルスタック1のセル数は40である。
図11を参照すると、セル2においては、冷却水流路19、29に沿ってかつ下流に向かって高くなるように温度が分布している。これは当然のことである。一方、この温度測定においては、セルスタック1への冷却水の入口401において60℃となるように温度を制御して冷却水がセルスタック1に供給されているので、冷却水がその入口401からセルスタック1へ流入して入口401に一番近いセル2(セル番号1)の発電反応が起こる領域(アノード42B及びカソード42A)(正確には当該領域のセパレータ10、20を挟んで対向する領域)に到達するまでに既に約1℃温度上昇していることになる。また、セル2間においては、セル番号が大きくなるほどセル2の温度が高くなっている。すなわち、セルスタック1への冷却水の入口401から遠くなるに連れてセル2の温度が高くなっている。セルスタック1への冷却水の入口401に一番近いセル2(セル番号1)と二番目に遠いセル2(セル番号39)との温度差(以下、セルスタック両端間温度差という)は約1℃であった。これらの現象は、本発明者らにとって予想外の現象であり、新しい知見であった。
図2、図3、及び図10を参照すると、冷却水は、セルスタック1に供給された後、まず冷却水供給マニホールド8で、所定数のセル毎(ここでは1セル毎)に設けられた冷却水流路19、29に分配され、冷却水流路19、29を流れた後、冷却水排出マニホールド9に集まり、冷却水排出マニホールド9からセルスタック1の外部に排出される。この過程において、セルスタック1に入った冷却水は、一旦、冷却水供給マニホールド8に流入し、冷却水供給マニホールド8を流れる間に燃料電池101(セルスタック1)と熱交換するため、各セル2に冷却水が到達した時点で、スタック1への入口401における温度より温度が高くなっているものと考えられる。また、冷却水供給マニホールド8の内部においても、セルスタック1の積層方向において冷却水の上流側と下流側とが存在し、冷却水が冷却水供給マニホールド8内を上流から下流に流れる間にセルスタック1との熱交換が行なわれ、その結果、セルスタック1の、冷却水供給マニホールド8の上流端近傍部分に対し、セルスタック1の、冷却水供給マニホールド8の下流端近傍部分の方が高温になっているものと考えられる。なお、図11において、セルスタック1の両端が他の部分より温度が低くなっているのは、端板の放熱によるものである。これは、後述する図12においても同様である。
以上の現象は、冷却水のセルスタック1への入口における温度(以下、冷却水入口温度という)と、セルスタック1に供給される反応ガスの露点換算温度とが同じである場合、発電反応が起こる領域ではセルスタック1の温度が冷却水入口温度より1℃程度以上高くなるため、反応ガスは露点に換算して1℃程度は乾燥状態になることを意味している。従って、実際には、反応ガスの露点換算温度を冷却水入口温度より少なくとも1℃高くして反応ガスを供給しなければ、セルスタック1内の発電反応が起こる全ての領域を、フル加湿又は過加湿の雰囲気に保つことができない。また、セル2間の温度差を考慮すると、反応ガスの露点換算温度を冷却水入口温度より少なくとも2℃高くして該反応ガスを供給することがさらに好ましく、さもなければ、セルスタック1の発電反応が起こる全ての領域を、フル加湿又は過加湿の雰囲気に保つことができない。但し、このセルスタック両端間温度差は、セルスタック1のセル数Nによって変化するので、これを考慮すると、反応ガスのセルスタック1への入口における露点換算温度(以下、入口露点換算温度といい、T1で表す)T1を冷却水入口温度(以下、T2で表す)より(1℃+0.02℃×(N―1))以上高くすることが好ましい。これについては、後で詳しく説明する。
ところで、アノードでは発電反応によって燃料ガスが消費されるため、燃料ガス流路28の上流ほど燃料ガスの全体量に対する水分量の割合(以下、燃料ガスの水分含有割合という)が少なく、下流ほど燃料ガスの水分含有割合が多くなる。つまり、燃料ガスの露点換算温度は燃料ガス流路28において上流から下流に向けて高くなる。一方、カソードでも、発電反応によって水が生成するため、酸化剤ガス流路17の上流ほど酸化剤ガスの全体量に対する水分量の割合(以下、酸化剤ガスの水分含有割合という)が少なく、下流ほど酸化剤ガスの水分含有割合が多くなる。つまり、酸化剤ガスの露点換算温度は酸化剤ガス流路18において上流から下流に向けて高くなる。一方、冷却水は、冷却水入口から冷却水出口に向かって流れるほどセルスタック1との熱交換量が多くなるため、各セル2では、冷却水入口から冷却水出口に向かって高温になるように温度分布が形成される。
そこで、各セル2(正確には各セパレータ10、20)において、反応ガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)の全体量に対する水分量の割合(以下、反応ガスの水分含有割合という)が最も低い反応ガス流路17、28の最上流部と冷却水の温度が最も低い冷却水流路19、29の最上流部とをその厚み方向から見て概ね同じ位置に位置させ、かつ、反応ガス水分含有割合が最も高い反応ガス流路17、28の最下流部と冷却水の温度が最も高い冷却水流路19、29の最下流部とをその厚み方向から見て概ね同じ位置に位置させることにより、セル2の厚み方向から見て、冷却水流路19、29における最上流部及び最下流部が、それぞれ、反応ガス流路17、28における露点換算温度の最も低い部分及び露点換算温度の最も高い部分になる。その結果、各セル2において、その厚み方向から見て、概ね冷却水流路19、29の最上流端から冷却水流路19、29の最下流端に向かって温度が高くなるように温度勾配が形成される一方、反応ガスが、巨視的に(全体として)、冷却水流路19、29の最上流部から最下流部に向かって流れる。従って、反応ガスの流路17、28において、反応ガスの露点換算温度が温度と共に、概ね最上流から最下流に向かって高くなるように分布し、それにより、反応ガスの相対湿度がその流路17、28において概ね一定に保たれる。従って、反応ガスが、そのセル2(正確には各セパレータ10、20)への入口(入口マニホールド孔11、12)において、フル加湿又は過加湿の条件(露点換算温度がセルスタック1の温度より高いこと)を満たせば、その流路17、28の全長に渡ってフル加湿又は過加湿の条件を満たすこととなり、セルスタック1の発電反応が起こる全ての領域を、フル加湿又は過加湿の雰囲気に保つことが可能となる。なお、上述の「反応ガス流路17、28の最上流部と冷却水流路19、29の最上流部とをセル2の厚み方向から見て概ね同じ位置に位置させ、かつ、反応ガス流路17、28の最下流部と冷却水流路19、29の最下流部とをセル2の厚み方向から見て概ね同じ位置に位置させる」構成を、本発明では「反応ガス温度上り勾配配置」という。
また、本実施の形態のように、燃料電池101の排熱を利用して供給燃料ガス及び供給酸化剤ガスを加湿及び加熱する場合、供給燃料ガス及び供給酸化剤ガスの露点換算温度が冷却水のセルスタック1からの出口(図2の端板3Bの貫通孔の外側開口)402の温度(以下、冷却水出口温度という)よりも高くなるよう加湿及び加熱することは原理的に不可能であるが、上述のように構成すると、燃料電池101に供給すべき反応ガスの露点換算温度は、冷却水出口温度より低くて済むので、燃料電池101の排熱を利用して供給燃料ガス及び供給酸化剤ガスを加湿及び加熱することが原理的に可能となる。
ただし、反応により生成する水の量は電流密度により決まり、セルスタック1の出口におけるドライガスベースの燃料ガス及び酸化剤ガスの流量は、燃料ガス利用率(Uf)および酸化剤ガス利用率(Uo)によって決まるため、(冷却水出口温度T3)−(冷却水入口温度T2)=ΔTとすると、電流密度、燃料ガス利用率、酸化剤ガス利用率によって、ΔTを何度以下にすれば電極(アノード42B及びカソード42A)面の全域(すなわち、発電反応が起こる領域の全ての領域)でフル加湿又は過加湿を実現できるかが算出される。実際には、アノード42Bとカソード42Aとの間では、反応によるプロトンの移動に同伴してアノード42B側からカソード42A側に水が移動する現象と、逆拡散と呼ばれる、生成水がカソード42A側からアノード42B側に移動する現象が同時に起こるため、電流密度と、燃料ガス利用率、酸化剤ガス利用率から算出されたアノード42Bおよびカソード42Aの全水分量の露点換算温度は、計算値から若干乖離する。
そこで、冷却水入口温度を60℃に設定し、燃料ガス供給マニホールド5及び酸化剤ガス供給マニホールド4などにおける熱交換による温度上昇分を見込んで、燃料ガス及び酸化剤ガスを、共に、露点換算温度64℃、ガス温度64℃(相対湿度100%)で供給した場合に、燃料ガス及び酸化剤ガスのセルスタック1の出口における露点換算温度(以下、出口露点換算温度という)が何度になるかを測定した。その結果、水蒸気改質ガスを燃料ガスとし、電流密度が0.2A/cm2であり、燃料ガス利用率Ufが75%であり、酸化剤ガス利用率Uoが50%である場合、燃料ガス及び酸化剤ガスの出口露点換算温度は、計算上では、燃料ガスの出口露点換算温度が75.8℃、酸化剤ガスの出口露点換算温度が73.6℃となるのに対し、実測では、燃料ガスの出口露点換算温度が79℃、酸化剤ガスの出口露点換算温度が72.5℃となった。従って、ΔTを12.5℃以下にしなければ、電極面内で全面に渡ってフル加湿又は過加湿とすることが出来なくなることが判明した。
また、上述の燃料電池101において、電流密度が0.07A/cm2であり、燃料ガス利用率Ufが70%であり、かつ酸化剤ガス利用率Uoが45%である場合、燃料ガス及び酸化剤ガスの全水分量の出口露点換算温度は、計算では、燃料ガスが75.4℃、酸化剤ガスが73.1℃となるのに対して、実測では、燃料ガスが82℃、酸化剤ガスが71℃となった。従って、この場合には、ΔTを11℃以下にしなければ、電極面を全面に渡ってフル加湿又は過加湿とすることが出来なくなる。傾向としては、電流密度が大きくなるほど、燃料ガスの出口露点算温度と酸化剤ガスの出口露点算温度とが等しくなる方向に向かい、燃料ガスの出口露点換算温度と酸化剤ガスの出口露点換算温度との差が大きいほど、低い方の出口露点換算温度以下の温度に冷却水出口温度を押さえる必要があるため、ΔTを大きくすることが出来なくなる。そのため、燃料ガスの全水分量の出口露点換算温度と酸化剤ガスの全水分量の出口露点換算温度とが等しくなることが理想であることが判明した。
また、上述の燃料電池101において、冷却水入口温度を66℃に設定し、燃料ガスおよび酸化剤ガスを共に露点換算温度70℃(相対湿度100%)で供給し、水蒸気改質ガスを燃料とし、電流密度が0.7A/cm2であり、燃料利用率Ufが75%であり、かつ酸化剤ガス利用率Uoが50%である場合、計算上の燃料ガス及び酸化剤ガスの全水分量の出口露点換算温度は、両者が等しくなるとした場合、約79℃となった。従って、この場合でもΔTを13℃以下にしなければ、電極面内を全面的にフル加湿又は過加湿とすることが出来なくなることが判明した。また、このとき酸化剤ガス利用率Uoを大きくすることによって出口露点換算温度を上昇させることが出来るが、上述の条件と同じ条件において、酸化剤ガス利用率Uoを60%とした場合には出口露点換算温度が約80℃となり、酸化剤ガス利用率Uoを70%とした場合でも、出口露点換算温度が約81℃となり、この場合でもΔTを15℃以下にする必要があることが判明した。
本実施の形態のように、燃料電池発電システム100において燃料電池101の排熱を有効利用して反応ガスを加湿及び加熱して供給する場合、冷却水出口温度より高い露点換算温度に反応ガスを加湿及び加熱することは原理的に不可能なことから、上述の知見に基づいて冷却水入口温度より2℃以上高い露点換算温度を有する反応ガスを供給するためには、ΔTを出来るだけ大きくすることが反応ガスの加湿及び加熱のし易さの観点からは有利である。しかしながら、上述のように電極面内を全面に渡ってフル加湿又は過加湿とするためにはΔTに限界が存在し、実際の燃料電池発電システム100における温度制御の温度変動幅(例えば、プラスマイナス2℃)なども考慮して、いかなる場合も電極面を全面に渡ってフル加湿又は過加湿にするためには、現実的にはΔTを10℃程度以下に抑えることが望ましいことが判明した。
また、燃料電池発電システム100において、燃料電池101の排熱を有効に利用して燃料電池101に供給される反応ガスを加湿及び加熱する場合、反応ガスの流路を上述の「反応ガス温度上り勾配配置」とし、さらに一定の条件(加湿及び加熱前の反応ガス温度、熱交換効率など)を満たすことにより、冷却水出口温度をT3とすると、T2≦T1≦T3となることが見いだされた。
ここで、反応ガスのセルスタック1からの出口における露点換算温度(以下、出口露点換算温度という)をT4とすると、反応ガスのセルスタック1の出口における温度はほぼ冷却水出口温度T3と等しくなるため、T4−T3に相当する水分は結露水として排出されている。そのため、供給反応ガスと排出反応ガスとの全熱交換のみによって、供給反応ガスを加湿及び加熱する場合、供給反応ガスの加湿及び加熱を効率的に行なうためには、結露水を蒸発させて加湿に用いるための潜熱に相当する熱が余分に必要となる。この場合、セルスタック1から排出される冷却水(排出冷却水)の保持する熱を、潜熱相当分の熱源として用いれば、より効率的に全熱交換が行えることを本発明者らは思いついた。
一方、このように排出冷却水の保持する熱を利用することなく、単に供給反応ガスと排出反応ガスとの全熱交換のみによって、供給反応ガスを加湿及び加熱すると(後述する実施の形態4に相当)、全熱交換器を大きくすれば効率は上がるが、実用的な範囲の全熱交換器の場合、熱交換可能な、冷却水の出口温度T3と反応ガスの入口露点換算温度T1との温度差(以下、熱交換可能温度差という)は、T3−T1≧4℃程度がほぼ限界であることが見いだされた。
また、冷却流体が水の場合、供給反応ガスと排出冷却水とを直接全熱交換する(後述する実施の形態3に相当)ことも可能であるが、その場合でも、熱交換可能温度差は、T3−T1≧2℃程度が限界であることが見いだされた。
また、供給反応ガスと排出反応ガスとを全熱交換するとともに排出冷却水の保持する熱を潜熱相当分の熱源として利用して、供給反応ガスを加湿及び加熱する場合(本実施の形態2に相当)も、熱交換可能温度差は、T3−T1≧2℃程度が限界であることが見いだされた。
また、供給反応ガスと排出反応ガスとを全熱交換によって加湿及び加熱し、さらにこの加湿及び加熱した供給反応ガスと排出冷却水とを全熱交換すれば(本実施の形態に相当)、熱交換可能温度差は、T3−T1≧1℃程度まで限界値を向上させることが可能であることが見いだされた。
従って、燃料電池101の排熱を有効に利用して燃料電池101に供給される反応ガスを加湿及び加熱する場合には、T2≦T1≦T3、T3−T2≦10℃、T1−T2≧2℃、T3−T1≧1℃の全ての運転条件を満足することが、好ましいことが判明した。
さらに、この知見を補足する。
反応ガスを燃料電池101の排熱を利用して加湿及び加熱する場合、燃料電池発電システムによって最適な方式を選択する必要がある。例えば、コージェネレーションシステムのようにできるだけ良質な熱を給湯システムなどに利用したい場合には、供給反応ガスと排出冷却水との単なる全熱交換により供給反応ガスを加湿及び加熱する方式では、冷却水の熱の質が悪化するため、供給反応ガスと排出反応ガスとを全熱交換するとともにこの全熱交換後の供給反応ガスを排出冷却水とさらに全熱交換する方式を選択することが望ましい。また、冷却媒体が水以外(例えば不凍液)である場合には、排出冷却媒体と供給反応ガスとを直接全熱交換することができないため、供給反応ガスと排出反応ガスとを全熱交換するとともにこの全熱交換後の供給反応ガスを排出冷却水とさらに単なる熱交換をする方式を選択することが望ましい。
さらに、別途検討の結果、供給燃料ガスについては、供給燃料ガスが水蒸気改質ガスである場合のようにあらかじめある程度の水分を含んでいる場合には、基本的には排出燃料ガスとの全熱交換だけで充分ではあるが、場合によっては、全熱交換後の供給燃料ガスをさらに排出冷却水と単に熱交換して、排出冷却水の熱のみを潜熱分として有効利用することによって、より高い露点換算温度の燃料ガスを供給することが可能となることが見いだされた。
次に、別の観点による知見について説明する。
発電反応が起こる全域で、フル加湿又は過加湿の雰囲気を保つと、フラッディングが発生する恐れが大きくなる。そこで、反応ガスが重力に逆らわずに流れるようにその流路を形成することにより、生成水や結露水の排出に重力を効果的に利用することができ、その結果、フラッディングを抑制することが可能であることが判明した。
また、高分子電解質膜41のガラス転移温度が約90℃であることから、高分子電解質膜41の耐久性、耐クリープ性などを考慮すると冷却水出口温度T3は90℃以下であることが望ましく、また、耐久試験結果から冷却水出口温度T3は80℃以下であることがさらに望ましいことが判明した。
また、燃料電池発電システム100を家庭用コージェネシステムとして用いる場合には、
供給反応ガスを加熱する熱源は高温であるほど望ましいが、耐久性、特に高分子電解質膜41の耐久性劣化の観点からは0℃以上でかつできる限り低温であることが望ましい。また、コージェネレーションシステムを給湯システムとして熱利用する場合には、貯湯タンク内におけるレジオネラ菌などの繁殖を防止する観点から、貯湯温度は60℃以上であることが望ましい。また、給湯水を冷却水と熱交換することによって60℃の貯湯温度を得るためには、冷却水が約63℃であることが必要であるが、この冷却水は反応ガスと全熱交換又は熱交換して降温しているので、冷却水出口温度T3にはさらに約3℃の高いことが必要であり、このことから冷却水出口温度T3は66℃以上であることが望ましい。
さらに、燃料ガスとして水蒸気改質ガスを用いる場合には、アノードの触媒の耐CO被毒特性の観点から、燃料ガスの露点換算温度T1は50℃以上であることが望ましい。
以上の知見は1セル毎に冷却する場合についてのものであるが、発明者らは2セル毎に冷却する場合についても別途検討した。
図12は2セル毎に冷却した場合におけるセルスタックの温度分布の一測定例を示すグラフである。図12において、横軸はセル番号を示し、縦軸はセルスタックの温度を示す。セルスタックの温度測定は上述の1セル毎に冷却する場合と同様に行った。この検討の結果、2セル毎に冷却する場合には、電流密度が0.1A/cm2〜0.3A/cm2程度ではセルスタック両端温度差は2℃程度であったが、0.3A/cm2以上の電流密度では、さらに温度分布が大きくなり、0.5A/cm2で図12に示すように、約4℃、1.0A/cm2では約6℃の積層方向での温度分布が発生することが判明した。このため、0.1A/cm2〜0.3A/cm2程度の電流密度の範囲で燃料電池101を使用したとしても、2セル毎冷却とすると、冷却流体入口温度に対して、約4℃以上高い露点換算温度の供給ガスを供給しなければ、発電反応が起こる領域の全域をフル加湿又は過加湿の雰囲気に維持することができないことが判明した。なお、セルスタック両端間温度差は、セルスタック1のセル数Nによって変化するので、これを考慮すると、反応ガスの露点換算温度T1を冷却水入口温度より(3℃+0.02℃×(N―1))以上高くすることが好ましい。これについては、以下に詳しく説明する。
<反応ガスの好ましい露点換算温度T1に関する検討>
まず、1セル毎に冷却する場合について検討する。
上記では、1セル毎に冷却する場合には、露点換算温度T1は冷却水入口温度T2+(1℃+0.02℃×(N―1))以上であることが好ましいと述べたが、これについてデータを補充して詳しく検討する。
図14は1セル毎に冷却した場合におけるセルスタックの温度分布の他の測定例を示すグラフである。
図14の測定例は、セルスタック1のセル数が66である以外は図11の測定例と同様である。なお、セルスタック1の中ほどのセルの温度が示されていないが、これは、当該セルの温度がセルスタック1の両端部のセルの温度と同様の傾向を示すので、測定を省略したものである。
これらの測定例における測定条件(実験条件)は、以下の通りである。
これらの測定例においては、冷却水入口温度T2は60℃、冷却水出口温度T3は68℃、冷却水入口温度T2と冷却水出口温度T3との差ΔTは8℃である。
また、燃料ガスの利用率Ufは75%、酸化剤ガスの利用率Uoは40%である。
また、酸化剤ガス流路17の各流路(流路溝)の相当直径は0.99mmであり、燃料ガス流路28の各流路(流路溝)の相当直径は0.99mmである。
燃料ガスの流路出口における流速は4.4m/s、酸化剤ガスの流路出口における流速は4.5m/sである。
酸化剤ガス流路17における圧力損失は4kPa、燃料ガス流路28における圧力損失は6kPaである。
次に、露点換算温度T1が満たすべき条件式について検討する。
図11及び図14において、測定位置A及び測定位置Bにおける温度(単位℃)Tは、冷却水入口温度T2(これらの測定例では60℃)を基準とすると、セル数Nに関して、
T=X℃+Y℃×(N―1)という直線で近似することができる。
さらに、セルスタック両端間温度差は、冷却水出口温度T3と冷却水入口温度T2との差ΔTに比例し、かつこれらの測定例では、ΔT=8℃であるので、これを考慮すると、
T=X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃という直線で近似することができる。
よって、露点換算温度T1が満たすべき条件式は、
T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃)となる。
この直線近似式は、測定データを統計的に処理することにより得ることができる。この統計的手法として、例えば、回帰法、最小自乗法等が挙げられる。ここでは、最小自乗法により処理した。
そして、この条件式における定数X及び係数Yの数値を図11及び図14の測定例から求めた。
図21は1セル毎に冷却した場合における露点換算温度T1が満たすべき条件式の定数X及び係数Yの数値を電流密度とともに示す表である。
図21において、「カソード」は、定数X及び係数Yが測定位置Aにおける測定データについてのものであることを表し、「アノード」は、定数X及び係数Yが測定位置Bにおける測定データについてのものであることを表している。測定位置Aは酸化剤ガス流路の入り口部分に相当する位置であり、測定位置Bは燃料ガス流路の入り口部分に相当する位置である。そして、本実施の形態(本測定例)では、セル2の積層方向から見て、セルスタック1の上半分(一方の半分)の周縁部に、酸化剤ガス供給マニホ−ルド4、燃料ガス供給マニホ−ルド5、及び冷却流体供給マニホ−ルド8が形成され、かつセルスタック1の下半分(他方の半分)の周縁部に、酸化剤ガス排出マニホールド7、燃料ガス排出マニホ−ルド6、及び冷却流体排出マニホ−ルド9が形成されている。そして、冷却流体供給マニホールド8に対し、燃料ガス供給マニホ−ルド5及び酸化剤ガス供給マニホ−ルド4のうち酸化剤ガス供給マニホ−ルド4の方が近く、燃料ガス供給マニホ−ルド5の方が遠く配置されている(図2参照)。このため、酸化剤ガス流路の入り口部分に相当する測定位置Aの温度が、燃料ガス流路の入り口部分に相当する測定位置Bの温度より高くなっている。従って、このように両者を区別して、定数X及び係数Yの数値を求めることにより、酸化剤ガス及び燃料ガスの各々について、露点換算温度T1が満たすべき条件式を適切に設定することができる。
これらの測定例では、酸化剤ガス(カソード)について、Xが1.0〜1.5の範囲の数値であり、Yが0.02〜0.027の範囲の数値であり、燃料ガス(アノード)について、Xが2.0〜2.5であり、Yが0.02〜0.023である。従って、反応ガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)については、Xが1.0〜2.5の範囲の数値であり、Yが0.02〜0.027の範囲の数値である。
これらの測定例では、2つの測定例における電流密度が共に0.160A/cm2(定格)であるので、定数X及び係数Yの電流密度への依存性については確認することができなかった。なお、定数X及び係数Yのセル数Nへの依存性は理論上も測定データ上も存在しないと考えられる。これは後述する2セル毎に冷却する場合においても同様であると考えられる。
次に、2セル毎に冷却する場合について検討する。
上記では、2セル毎に冷却する場合には、露点換算温度T1は冷却水入口温度T2+(3℃+0.02℃×(N―1))以上であることが好ましいと述べたが、これについてデータを補充して詳しく検討する。
図15乃至図20は2セル毎に冷却した場合におけるセルスタックの温度分布の他の測定例を示すグラフである。
図15乃至図20は、それぞれ、電流密度が0.300A/cm2である場合、電流密度が0.250A/cm2である場合、電流密度が0.160A/cm2(定格)である場合、電流密度が0.116A/cm2である場合、電流密度が0.078A/cm2である場合、及び電流密度が0.050A/cm2である場合の測定例を示す。
これらの測定例は、いずれも、セルスタック1のセル数が54である以外は図12の測定例と同様である。なお、セルスタック1の中ほどのセルの温度が示されていないが、これは、当該セルの温度がセルスタック1の両端部のセルの温度と同様の傾向を示すので、測定を省略したものである。
但し、これらの測定例では、セル番号は、セルスタック1への冷却水の出口(図2の端板3Bの貫通孔の外側開口)402に近いセル2から順に付与されている(図12の測定例と反対である)。また、図15乃至図20における各プロットの表記が図12における各プロットの表記と異なっている。すなわち、図15乃至図20においては、黒の菱形印のプロットは図10に示すセパレータ10,20の測定位置Aにおける温度を、黒の四角印のプロットは図10に示すセパレータ10,20の測定位置Bにおける温度を、黒の△印のプロットは図10に示すセパレータ10,20の測定位置Cにおける温度を、黒丸印のプロットは図10に示すセパレータ10,20の測定位置Dにおける温度を、白の菱形印のプロットは図10に示すセパレータ10,20の測定位置Eにおける温度を示す。
これらの測定例における測定条件(実験条件)は、以下の通りである。
いずれの測定例においても、冷却水入口温度T2は60℃、冷却水出口温度T3は68℃、冷却水入口温度T2と冷却水出口温度T3との差ΔTは8℃である。
図15乃至図17の測定例では、燃料ガスの利用率Ufは72.5%、酸化剤ガスの利用率Uoは52.5%である。図18の測定例では、燃料ガスの利用率Ufは72.5%、酸化剤ガスの利用率Uoは47.5%である。図19の測定例では、燃料ガスの利用率Ufは67.5%、酸化剤ガスの利用率Uoは42.5%である。図20の測定例では、燃料ガスの利用率Ufは67.5%、酸化剤ガスの利用率Uoは42.5%である。
いずれの測定例においても、酸化剤ガス流路17の各流路(流路溝)の相当直径は0.99mmであり、燃料ガス流路28の各流路(流路溝)の相当直径は0.99mmである。
図17の測定例では、燃料ガスの流路入口における流速は4.4m/s、燃料ガスの流路出口における流速は2.2m/s、酸化剤ガスの流路入口における流速は4.26m/s、酸化剤ガスの流路出口における流速は4.15m/sである。また、図15の測定例では、燃料ガスの流路出口における流速は4.1m/s、酸化剤ガスの流路出口における流速は7.7m/sである。なお、図15の測定例における燃料ガスの流路入口における流速及び酸化剤ガスの流路入口における流速、並びに、図16、図18、図19、及び図20の測定例における燃料ガスの流路入口における流速、燃料ガスの流路出口における流速、酸化剤ガスの流路入口における流速、及び酸化剤ガスの流路出口における流速は、各測定例における燃料ガス利用率Uf及び酸化剤ガス利用率Uo並びに電流密度と、図17の測定例における各ガス流速とから計算可能であるので、ここでは記載を省略する。なお、図15乃至図20の測定例における電流密度は図22に示すとおりである。
図15の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、13.8kPa及び11.4kPaである。図16の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、11.9kPa及び9.7kPaである。図17の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、9.6kPa及び6.0kPaである。図18の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、5.9kPa及び4.9kPaである。図19の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、4.6kPa及び3.7kPaである。図20の測定例ではセルスタック1における燃料ガスの圧力損失及び酸化剤ガスの圧力損失は、それぞれ、3.6kPa及び2.7kPaである。
これらの2セル毎に冷却する場合の測定例においても、上述の1セル毎に冷却する場合の測定例と同様に、露点換算温度T1が満たすべき条件式は、
T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃)となる。
測定データは、1セル毎に冷却する場合の測定例と同様に、最小自乗法により統計的に処理した。
そして、この条件式における定数X及び係数Yの数値を図12、図15乃至図20の測定例から求めた。
図22は2セル毎に冷却した場合における露点換算温度T1が満たすべき条件式の定数X及び係数Yの数値を電流密度とともに示す表である。
図22において、実験番号1乃至6は、それぞれ、図15乃至図20の測定例を示す。「カソード」及び「アノード」の意味は、図21と同じである。
本測定例では、酸化剤ガス(カソード)について、Xが2.8〜3.3の範囲の数値であり、Yが0.013〜0.033の範囲の数値であり、燃料ガス(アノード)について、Xが3.7〜4.2の範囲の数値であり、Yが0.013〜0.030の範囲の数値である。従って、反応ガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)については、Xが2.8〜4.2の範囲の数値であり、Yが0.013〜0.033の範囲の数値である。
これらの測定例では、電流密度が増大するに連れて、概ね、定数Xが若干増大しかつ係数Yが減少する。なお、これらの測定例では、実際の運転上想定される限度まで電流密度を変化させたので、前述の数値範囲内において、電流密度を考慮して定数X及び係数Yを適宜選択することにより、露点換算温度T1が満たすべき条件式を適切に設定することができる。
<反応ガスの好ましい流速及び圧力損失>
図23はガス流量と圧力損失との関係の一例を示すグラフである。
この測定例において使用したセルスタックはセル数が54である他は上述の場合と同様である。
図23において、「カソード」はセルスタック1における酸化剤ガスの圧力損失を表し、「アノード」はセルスタック1における燃料ガスの圧力損失を表す。「カソード」及び「アノード」にそれぞれ対応する圧力損失曲線C及び圧力損失曲線Aの各々において、各プロットは、ガス流量の小さい方から順に、定格出力の30%出力の場合、定格出力の50%出力の場合、定格出力の75%出力の場合、及び定格出力の100%出力の場合を示す。
定格出力の30%出力の場合においては、電流密度が0.05A/cm2、燃料ガス利用率Ufが62.5%、酸化剤ガス利用率Uoが37.5%である。定格出力の50%出力の場合においては、電流密度が0.078A/cm2、燃料ガス利用率Ufが67.5%、酸化剤ガス利用率Uoが42.5%である。定格出力の75%出力の場合においては、電流密度が0.116A/cm2、燃料ガス利用率Ufが72.5%、酸化剤ガス利用率Uoが47.5%である。定格出力の100%出力の場合においては、電流密度が0.16A/cm2、燃料ガス利用率Ufが72.5%、酸化剤ガス利用率Uoが52.5%である。
図23から明らかなように、反応ガスの圧力損失は反応ガスの流量に比例する。反応ガスの流量は、反応ガスの流速に比例するので、反応ガスの圧力損失は反応ガスの流速に比例する。また、電流密度の増加に連れて、反応ガスの流速が大きくなっており、かつ反応ガスの圧力損失が大きくなっている。
ところで、本発明は、発電領域42A、42Bを、全域に渡って、フル加湿又は過加湿の雰囲気に保つことを特徴としている。従って、発電領域42A、42Bに位置する流路17、28を流れる反応ガスの流速がある値より低いと、フラッディングを発生して発電に支障をきたす。
一方、図23に示すように、反応ガスの流速が大きくなるに連れて、セルスタック1における反応ガスの圧力損失が大きくなり、それにより、反応ガスを供給するために必要な圧力(以下、供給圧力という)が過大になる。そこで、本実施の形態では、燃料ガスの流路28の出口(燃料ガス流路28の下流側が発電領域42Bの縁と交差する部位)における流速が1.8m/s以上でかつ4.1m/s以下に制御され、かつ酸化剤ガスの流路17の出口(酸化剤ガス流路17の下流側が発電領域42Aの縁と交差する部位)における流速が2.8m/s以上でかつ7.7m/s以下に制御される。これらの下限値及び上限値は後述する実施例1に基づいて決定されたものである。この実験においては、上述の測定に使用したセルスタックと同様の全体構成を有し、燃料ガス流路28及び酸化剤ガス流路17の構造が互いに異なる5種類のセルスタックを作成した。そして、これらのセルスタックについて、燃料ガス利用率Uf、酸化剤ガス利用率Uo、及び電流密度を変化させることによって、出口ガス流速及び圧力損失を変化させ、それぞれの場合について、安定して発電できるか否かにより、フラッディングの発生の有無を判定した。
この場合、燃料電池101が、燃料ガスの利用率が60%以上であり、酸化剤ガスの利用率が40%以上でかつ80%以下であり、かつ電流密度が0.15A/cm2以上でかつ0.30A/cm2以下であるように運転されることが前提である。つまり、これらのガス流速の範囲は、この運転条件の下で有効である。ガス流速は、電流密度が大きくなるに連れて大きくなるように制御される。
この燃料ガス及び酸化剤ガスの流速の制御は、具体的に、以下の方法で得られた流速に基づいて燃料ガス供給装置および酸化剤ガス供給装置を制御することにより遂行される。
燃料ガスの流量をQaで表し、燃料ガス流路28の断面積をSaで表すと、燃料ガスの流速Vaは、Va=Qa/Saとなる。
ここで、Qaは、例えば、燃料ガス流路28の出口におけるドライベースの未使用燃料ガス流量と、アノードに供給した全水分量を水蒸気として算出した場合のガス流量との合計ガス流量である。未使用燃料ガス流量は、例えば、燃料ガスの供給量から、燃料ガスの供給量と燃料ガスの利用率(Uf)の積を差し引くことにより算出される。アノードに供給した全水分量は、入口における露点での飽和水蒸気圧から算出される。具体的には、例えば60℃における飽和水蒸気圧が150mmHgであったとし、供給圧が760mmHgであったとすると、610mmHgが燃料ガスの分圧となるため、燃料ガスの供給量の150/610が水蒸気量となる。このような計算は、供給した水分が結露せずに全て出口に達することを想定しており、燃料ガス流路の一部でのみ結露水が発生する条件(例えばフル加湿)の場合に好適である。なお、結露水の発生に合わせて流量を補正してもよい。
あるいは、Qaは、燃料ガス流路28の出口におけるドライベースの未使用燃料ガス流量と、燃料ガス流路28の出口の温度における飽和水蒸気圧から計算される水蒸気流量との合計ガス流量として計算してもよい。このような計算は、供給した水分が内部で結露して一部が出口に気体のままで達しないことを想定しており、燃料ガス流路の全部で結露水が発生する条件(過加湿)の場合に好適である。
Saは、出口近傍の燃料ガス流路28の断面積であり、流路(流路溝)が複数ある場合には、各流路(流路溝)の断面積の総和である。各流路(流路溝)は相当直径(断面積が等しい円の直径)が0.78mm以上でかつ1.30mmとなるように形成されている。燃料ガス流路の数は入口と出口で異なっていてもよいが、かかる場合には、出口における燃料ガス流路の数に一本の流路の断面積をかけて、アノード側の出口流路の断面積が求められる。
また、酸化剤ガスの流量をQcで表し、酸化剤ガス流路17の断面積をScで表すと、酸化剤ガスの流速Vcは、Vc=Qc/Scとなる。
ここで、Qcは、例えば、酸化剤ガス流路17の出口におけるドライベースの未使用酸化剤ガス流量と、カソードに供給した全水分量を水蒸気として算出した場合のガス流量と、発電反応により発生した全水分量を水蒸気として算出した場合のガス流量との合計ガス流量である。未使用酸化剤ガス流量は、例えば、酸化剤ガスの供給量から、酸化剤ガスの供給量と酸化剤ガスの利用率(Uo)の積を差し引くことにより算出される。カソードに供給した全水分量は、入口における露点での飽和水蒸気圧から算出される。具体的には、例えば60℃における飽和水蒸気圧が150mmHgであったとし、供給圧が760mmHgであったとすると、610mmHgが酸化剤ガスの分圧となるため、酸化剤ガスの供給量の150/610が水蒸気量となる。また、燃料電池では、H2+1/2O2→H2Oの反応で2個の電子が移動するため、電子のモル数の2分の1だけ水分子が発生することになる。よって、発電反応により発生した全水分量は、取出した電流から発生した電子のモル数を求め、得られた値に基づいて発電反応で発生した水のモル数を求めることで得られる。このような計算は、供給した水分が結露せずに全て出口に達することを想定しており、燃料ガス流路の一部でのみ結露水が発生する条件(例えばフル加湿)の場合に好適である。なお、結露水の発生に合わせて流量を補正してもよい。
あるいは、Qaは、酸化剤ガス流路17の出口におけるドライベースの未使用燃料ガス流量と、酸化剤ガス流路17の出口の温度における飽和水蒸気圧から計算される水蒸気流量との合計ガス流量として算出されてもよい。このような計算は、供給した水分が内部で結露して一部が出口に気体のままで達しないことを想定しており、燃料ガス流路の全部で結露水が発生する条件(過加湿)の場合に好適である。
Scは、出口近傍の酸化剤ガス流路17の断面積であり、流路(流路溝)が複数ある場合には、各流路(流路溝)の断面積の総和である。各流路(流路溝)は相当直径が0.78mm以上でかつ1.30mmとなるように形成されている。酸化剤流路の数は入口と出口で異なっていてもよいが、かかる場合には、出口における酸化剤流路の数に一本の流路の断面積をかけて、カソード側の出口流路の断面積が求められる。
従って、燃料ガスの流速Va及び酸化剤ガスの流速Vcは、制御装置108が、燃料ガス供給流量、燃料ガスの利用率、酸化剤ガス供給流量、酸化剤ガスの利用率、及び燃料ガス及び酸化剤ガスの露点換算温度T1を制御することにより、制御される。かかる制御は、直接上記パラメータを測定して行われる必要はなく、他のパラメータを制御することで結果的に制御されてもよい。
なお、上述の説明では、アノードとカソードとの間での水分の移動は無視したが、これを考慮して流量を補正してもよい。その他、流量の演算においては、必要な補正を適宜行うことで、精度を向上できる。
次に、反応ガスの圧力損失について説明する。なお、ここにいう圧力損失とは、燃料ガス流路および酸化剤ガスの入口および出口における圧力差(セルスタックでの圧力損失)を示すが、実際にはセルスタック1の入口(供給マニホールド)および出口(排出マニホールド)における燃料ガスおよび酸化剤ガスの圧力を測定し、その差分を求めることで得られる。
フラッディングを防止するためには、反応ガス流路17、28における圧力損失が大きい方が好ましい。しかし、圧力損失が過大になると、反応ガスの供給圧力が過大になる。
そこで、本実施の形態では、セルスタック1における反応ガスの圧力損失が2kPa以上でかつ12kPa以下となるように制御される。なお、下限値及び上限値は後述する実施例1に基づいて決定されたものである。
なお、図15及び図16の測定例では、反応ガスの圧力損失がこの好ましい範囲から外れているが、これはセルスタックの温度分布のデータを採取するために特別な過負荷運転をしたからであり、コージェネレーションシステムにはおいては、通常、このような過負荷運転はされない。
以上のように、反応ガスの流速及び反応ガスの圧力損失を制御することにより、フラッディングの発生を防止しつつ、発電領域42A、42Bを、全域に渡って、フル加湿又は過加湿の雰囲気に保つことができる。
なお、上記説明では、燃料ガスの流路28の出口は、燃料ガス流路28の下流側が発電領域42Bの縁と交差する部位とされ、酸化剤ガスの流路17の出口は、酸化剤ガス流路17の下流側が発電領域42Aの縁と交差する部位とされた。しかし、出口はセパレータに設けられた溝状のガス流路のうちの最下流部分を指す。すなわち、出口は必ずしも発電量器の縁と交差する部位に限られず、その近傍であってもよい。例えば、燃料ガスの流路28の出口は燃料ガス流路28が燃料ガスの出口マニホールド孔に連通する部位であってもよく、また、酸化剤ガスの流路17の出口は酸化剤ガス流路28が酸化剤ガスの出口マニホールド孔に連通する部位であってもよい。なお、下流側とはガスの流れに沿った下流側を指す。このように、最下流部分の流速に着目する主な理由は以下の通りである。すなわち、アノードでは電極での反応に従って燃料である水素が消費され、相対的に水蒸気の分圧が高まって結露水が発生しやすく、また流速も遅くなることが挙げられる。カソードでは、電極での反応に従って水が発生し、相対的に水蒸気の分圧が高まって結露水が発生しやすくなることが挙げられる。
<燃料電池の定格に関する有効範囲>
上述の露点換算温度T1が満たすべき条件式に関する検討は、定格出力がDC1.2kWの燃料電池を用いて行った。しかし、この検討結果は、理論的に、異なる定格出力の燃料電池にも適用できる(有効である)。具体的には、定格出力がDC0.4kW〜2.4kWの燃料電池にはほぼ確実に適用できる。さらに、例えば、セルスタックにおけるセルの積層数を単純に増加することにより、定格出力がDC5kWの燃料電池にまで適用することができる。
以上の観点から、燃料電池発電システムの運転条件をまとめると、以下のようになる。
燃料電池発電システム101は、その運転において、
T1≧T2+1℃(運転条件1)を満たすことが好ましい。
さらには、T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃) 但し、X=1〜2.5かつY=0.02〜0.027(運転条件2)を満たすことが好ましい。
また、T3−T2≦15℃(運転条件3)、さらにはT3−T2≦10℃(運転条件4)を満たすことが好ましい。
また、T2≦T1≦T3(運転条件5)を満たすことが好ましい。
また、T3−T1≧1℃(運転条件6)を満たすことが好ましい。
また、90℃≧T3≧66℃(運転条件7)、T1≧50℃(運転条件8)、及び80℃≧T3≧66℃(運転条件9)を満たすことが好ましい。
さらに、2セル毎冷却方式を採用した場合には、T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃) 但し、X=2.8〜4.2かつY=0.013〜0.033(運転条件10)を満たすことが好ましい。
以上の知見に基づき、本実施の形態では、(運転条件1)乃至(運転条件9)を満たすように燃料電池発電システム100が構成されている。
具体的には、図1乃至図9において、カソード側セパレータ10及びアノード側セパレータ20では、反応ガス流路17,28及び冷却水流路19,29が「反応ガス温度上り勾配配置」に形成されている。また、反応ガスの加湿及び加熱に、供給反応ガスと排出反応ガスとを全熱交換によって加湿及び加熱し、さらにこの加湿及び加熱した供給反応ガスと排出冷却水とを全熱交換する全熱交換器117,118を用いることにより、熱交換可能温度差T3−T1が1℃程度となっている。また、冷却水出口温度T3と冷却水入口温度T2との温度差がT3−T2≦10℃の条件を満たすことが可能なように、セルスタック1の最大発熱量に対する冷却システム104の最大冷却能力が設定されている。そして、冷却水出口温度T3が80℃≧T3≧66℃の条件を満たすように、冷却水の温度が調整される。この際、具体的な冷却水出口温度T3は、燃料電池101の所定の出力電流密度を考慮して決定される。この冷却水の温度調整は、制御装置108が冷却システム104の放熱装置105の放熱量及び冷却水循環ポンプ109の流量の少なくともいずれかを制御することにより遂行される。また、この冷却水の温度制御は、冷却水入口温度T2及び冷却水出口温度T3をそれぞれ検出する温度センサTS1及び温度センサTS2の検出値に基づいて、制御装置108が冷却水入口温度T2及び冷却水出口温度T3をフィードバック制御することにより遂行される。
また、酸化剤ガス流路17及び燃料ガス流路28における各流路(流路溝)は相当直径が0.78mm〜1.30mm以下となるように形成されている。また、制御装置108が、酸化剤ガス供給装置103を制御して、酸化剤ガス流路17における酸化剤ガスの流速が2.8m/s〜7.7m/sの範囲となり、セルスタック1における圧力損失が2kPa〜10kPaとなるように酸化剤ガスを供給する。また、制御装置108が、燃料ガス供給装置102を制御して、燃料ガス流路28における燃料ガスの流速が1.8m/s〜4.1m/sの範囲となり、セルスタック1における圧力損失が2kPa〜10kPaとなるように燃料ガスを供給する。
次に、以上のように構成された燃料電池発電システム100の動作を説明する。燃料電池発電システム100は制御装置108の制御により動作し、起動モード、運転モード、及び停止モードを有している。起動モードにおいては所定の起動動作が順次遂行されることにより、燃料電池発電システム100が円滑に起動される。運転モード(発電運転時)では、通常の発電が行われる。停止モードでは、所定の停止動作が順次遂行されることにより、燃料電池発電システム100が円滑に停止される。本実施の形態では、起動モード及び停止モードは周知の動作が遂行されるので、その説明を省略し、以下では、運転モードについてのみ説明する。
図1乃至図9を参照すると、運転モードでは、燃料ガス供給装置102から燃料ガス(供給燃料ガス)が燃料電池101のアノード42Bに供給される。一方、酸化剤ガス供給装置103から酸化剤ガス(供給酸化剤ガス)が燃料電池101のカソード42Aに供給される。そして、アノード42B及びカソード42Aにおいて発電反応が起こり、電力及び熱(排熱)が発生する。この発電反応により消費されなかった未反応の燃料ガス(排出燃料ガス)及び酸化剤ガス(排出酸化剤ガス)は、燃料電池101から排出される。一方、燃料電池101は、冷却システム104の冷却水循環流路112を循環する冷却水によって冷却される。
この過程において、供給燃料ガスは、アノード側全熱交換器117において、排出燃料ガスと全熱交換した後、さらに燃料電池101通過後の冷却水(排出冷却水)と全熱交換し、その燃料電池101の入口における露点換算温度(入口露点換算温度)T1が所定値となるよう加湿及び加熱される。
一方、供給酸化剤ガスは、カソード側全熱交換器118において、排出酸化剤ガスと全熱交換した後、さらに排出冷却水と全熱交換し、その入口露点換算温度T1が所定値となるよう加湿及び加熱される。
また、制御装置108は、入口温度センサTS1及び出口温度センサTS2の検出値に基づき、冷却システム104の放熱装置105の放熱量及び冷却水循環ポンプ106の流量を制御して、冷却水入口温度T2及び冷却水出口温度T3を調節する。この場合、燃料電池101の発熱量に対する冷却システムの冷却能力(放熱量)に応じて冷却水入口温度T2が定まり、冷却水の流量に応じて冷却水入口温度T2と冷却水出口温度T3との温度差ΔTが定まる。また、冷却水出口温度T3が定まると、実質的に、アノード側全熱交換器117及びカソード側全熱交換器118の熱交換可能温度差T3−T1に従って、供給燃料ガス及び供給酸化剤ガスの入口露点換算温度T1が定まる。すなわち、冷却システム104の放熱装置105の放熱量及び冷却水循環ポンプ106の流量を制御することにより、冷却水出口温度T3、冷却水入口温度T2、並びに燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1を制御することができる。なお、燃料電池101の出力の変動に応じて燃料電池101の排熱量が変化するので、制御装置108は、この排熱量の変化に応じて冷却システム104の冷却能力を変化させながら上述の冷却水の温度制御を行う。このように、制御装置108の制御により、運転モードにおいて、燃料電池発電システム100が上述の(運転条件1)乃至(運転条件9)を満たすように運転される。それにより、燃料電池101の発電が起こる領域が全領域に渡ってフル加湿又は過加湿の雰囲気に保たれる。その結果、MEA43の高分子電解質膜41の劣化が抑制され、燃料電池101の寿命が向上する。
次に、本実施の形態における上述の特徴的構成による効果を、後述する実施例2による実験結果に基づいて説明する。
図13は燃料電池の寿命試験の結果を示すグラフである。図13において、横軸は運転時間を示し、縦軸はセル電圧を示す。
この実験では、本実施の形態の実施例として、ハードウエアが、全熱交換器117,118を除き、本実施の形態に従って作成された燃料電池発電システム100を、運転条件を第1の運転条件と第2の運転条件との間で切り換えながら運転することにより行った。本実施例の燃料電池発電システム100では、全熱交換器117,118に代えてバブラーを用い、このバブラーによって、所定の入口露点換算温度T1となるように燃料ガス及び酸化剤ガスを加湿及び加温した。従って、燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1は本実施の形態(図1)の燃料電池システム100を動作させる場合と同様に適切に制御された。なお、燃料ガス流路28における燃料ガスの流速が1.8m/s〜4.1m/sの範囲となるよう制御され、酸化剤ガス流路17における酸化剤ガスの流速が2.8m/s〜7.7m/sの範囲となるよう制御され、セルスタック1における酸化剤ガス及び燃料ガスの圧力損失が2kPa〜10kPaとなるよう制御された。
ここで、第1の運転条件は、T1≧T2+1℃(運転条件1)を満たさない比較例としての運転条件であり、具体的には、冷却水入口温度T2が64℃、冷却水出口温度T3が69℃、燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1が64℃である。第2の運転条件は、T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃) 但し、X=1〜2.5かつY=0.02〜0.027(運転条件2(及び運転条件1))を満す本発明の運転条件であり、具体的には、冷却水入口温度T2が61℃、冷却水出口温度T3が69℃、燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1が64℃である。
そして、運転開始から約4400時間を経過するまでの期間P1において、(運転条件1)を満たさない第1の運転条件で燃料電池発電システム100を運転した。すると、セル電圧が徐々に低下した。その後、400時間程度の期間P2において(運転条件2(及び運転条件1))を満たす第2の運転条件で運転した。すると、セル電圧が上昇(回復)した。その後、400時間程度の期間P3において、再度、(運転条件1)を満たさない第1の運転条件で運転した。すると、セル電圧が再度徐々に低下した。その後、運転開始から約9400時間を経過するまでの期間P4において、再度、(運転条件2(及び運転条件1))を満たす第2の運転条件で運転した。すると、セル電圧が再度回復し、運転開始から約9400時間を経過してもそのセル電圧が維持された。
このことから、従来の運転方法を用いると燃料電池101の性能(セル電圧)が低下して燃料電池101の寿命が短くなることが予測されるのに対し、本発明の運転方法(運転条件1及び2を満たす運転方法)を用いると、一旦低下した燃料電池101の性能が回復してそのまま維持され、燃料電池101の寿命が向上することが実証された。
なお、上述の説明では、アノード(あるいは燃料ガス流路)およびカソード(あるいは酸化剤ガス流路)の両方で結露水が発生する条件で運転を行うこととしたが、アノード(あるいは燃料ガス流路)およびカソード(あるいは酸化剤ガス流路)の少なくとも一方で結露水が発生する条件であってもよい。かかる条件であっても、フラッディング防止と高分子電解質膜の劣化防止という本発明の効果は得られる。
(実施例1)
本実施例では、図1乃至図9に示す構成を有する燃料電池発電システムを作製した。
図1乃至図9において、ここでは、燃料電池101、アノード側全熱交換器117、及びカソード側全熱交換器118についてのみ具体的構成を示す。その他の部分は周知のように構成されている。
まず、アノード42B及びカソード42A(以下、電極という)の作製方法を説明する。
アセチレンブラック粉末に、平均粒径約30Åの白金粒子を25重量%担持させたもの触媒として用いた。この触媒の粉末をイソプロパノ−ルに分散させた溶液に、パーフルオロカーボンスルホン酸をエチルアルコールに分散したディスパージョン溶液を混合して触媒ペーストを作成した。
一方、ガス拡散層を構成する外寸12cm×12cm、厚み220μmのカーボンクロス(TORAY製 TGP-H-090)を撥水処理した。このカ−ボンクロスの触媒層を形成する側の面に、カーボンブラック粉末(電気化学工業株式会社製 DENKA BLACKFX-35)とPTFEの水性ディスパージョン(ダイキン製 D-1)との混合物を塗布し、400℃で30分間焼成して撥水層を付与した。このカ−ボンクロスの撥水層を付与した方の面に、触媒ペーストをスクリ−ン印刷法を用いて塗布することにより触媒層を形成した。そして、この触媒層が形成されたカ−ボンクロスを電極として用いた。この触媒層が形成された電極中に含まれる白金量は、0.3mg/cm2であり、パーフルオロカーボンスルホン酸の量は1.0mg/cm2であった。
次に、高分子電解質膜41として、外寸が20cm×20cmのパーフルオロカーボンスルホン酸膜(DUPONT製Nafion112(登録商標))を用いた。この高分子電解質膜41の両面に、一対の電極を触媒層が高分子電解質膜41に接するようにホットプレスで接合してMEA43を作製した。ここでは、高分子電解質膜としてパーフルオロカーボンスルホン酸を30μmの厚みに薄膜化したものを用いた。
次に、平均粒径100μmの人造黒鉛粉末80wt%とカーボンブラック5wt%と熱硬化前のフェノール樹脂15wt%とを混合して、コンパウンドを作製した。このコンパウンドを、セパレータの形状を転写した形状の金型に投入し、180℃でホットプレスすることによってフェノール樹脂を硬化させ、それにより、図4乃至図7に示す導電性の成形セパレータ10、20を作製した。図4及び図6はセパレータ10、20の正面(内面)に形成したガス流通用溝(流路溝)の形状を模式的に示したものである。図24は、実施例1で作成した燃料電池のパラメータを示す表である。セパレータ10、20の大きさは20cm×20cm、厚さは3mmであり、反応ガスの流路17、28の断面は矩形とし、流路溝の幅、流路溝の深さ、出口における流路溝の数、出口部分の流路断面積、相当直径は、図24に示すようにタイプAからタイプEまでの5パターンを作成した。
次いで、セパレータ10、20に、酸化剤ガスのマニホールド孔21、23と、燃料ガスのマニホールド孔22、24を形成した。
また図5及び図7は、冷却水流路19、29の形状を示したものであり、図4及び図6に示したセパレータ19の背面(外面)に形成したものである。冷却水流路19、29は、深さ0.7mmの溝状に形成されている。
次に、MEA43の高分子電解質膜41に、冷却水、燃料ガス、及び酸化剤ガス流通用のマニホールド穴を形成し、MEA43の、中央部の電極部分の周囲と各マニホールド穴11〜16の周囲に、バイトン製O−リング状の流体シール部材を張り合わせガスケットとした。
このようにして作成したアノード側セパレータ20とカソード側セパレータ10とでMEA43を挟み、セル2を作成した。このセル2を40個積層してセル積層体201を作成した。そして、セル積層体201の両端に、銅の表面に金メッキした集電板と、PPS製の絶縁板と、SUSを切削加工することで作成した端板3A、3Bとを配設し、これらを締結ロッドで固定した。この時の締結圧は電極の面積当たり10kgf/cm2とした。
このようにして燃料電池101(セルスタック1)を作成した。
この実験では、上述の燃料電池101を用いて、全熱交換器117、118を除いて本実施の形態に従って燃料電池発電システムを作成した。なお、本実施例の燃料電池発電システムでは、全熱交換器117、118に代えてバブラーを用い、このバブラーによって、所定の入口露点換算温度T1となるように燃料ガス及び酸化剤ガスを加湿及び加温した。従って、燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1は本実施の形態(図1)の燃料電池システム100を動作させる場合と同様に適切に制御された。
以上のような構成を有する、タイプA乃至Eのセパレータを用いた燃料電池発電システムを、以下の条件で運転した。
運転条件は、T1≧T2+(X℃+Y℃×(N―1)×ΔT/8℃) 但し、X=1〜2.5かつY=0.02〜0.027(運転条件2(及び運転条件1))を満す本発明の運転条件であり、具体的には、冷却水入口温度T2が61℃、冷却水出口温度T3が69℃、燃料ガス及び酸化剤ガスの入口露点換算温度T1が64℃であった。そして、電流密度を0.06〜0.2A/cm2の範囲(電流密度と流速はほぼ比例する)で運転し、フラッディング(発生電圧の不安定)が発生するか否かの判定を行った。燃料ガス利用率(Uf)および酸化剤ガス利用率(Uo)は、燃料電池から取出す電流量と供給するガスの量のバランスで調整された。各タイプのUfおよびUoは図24に示す通り(Ufは60%以上、Uoは40%以上かつ80%以下)とした。圧力損失は、セルスタックへのガスの入口(供給マニホールド)および出口(排出マニホールド)の圧力を測定して、その差分より求めた。
得られた結果を図25および図26に示す。図25は、アノード側の出口における流速と燃料ガスの圧力損失の関係を示すグラフである。図26は、カソード側の出口における流速と燃料ガスの圧力損失の関係を示すグラフである。図中、丸印(○)のプロットは、安定して発電が可能(電圧が安定)なこと、すなわち、フラッディングが発生していないことを示す。三角印(△)のプロットは、フラッディングの発生により発電が不安定(電圧が振動するなど不安定)なことを示す。×印のプロットは、フラッディングの発生により発電が不可能(電圧が下がって電力を取出せない)なことを示す。なお、本実施例では、アノードおよびカソード全面で結露水が発生する条件(過加湿)であるため、流速Va、Vcは、以下の式より求めた。
Va=(燃料ガス供給量−燃料ガス供給量×Uf+出口温度における飽和水蒸気量)/出口流路断面積
Vc=(酸化剤ガス供給量−酸化剤ガス供給量×Uo+出口温度における飽和水蒸気量)/出口流路断面積
図25を見れば分かるように、アノード側では、出口での流速が1.8m/s以上であることが好ましいことが明らかである。また、図26を見れば分かるように、カソード側では、出口での流速が2.8m/s以上であることが好ましいことが明らかである。圧力損失は、アノードでは3.6kPa以上10kPa以下、カソードでは2kPa以上10kPa以下が望ましいことが明らかである。従って、燃料ガス及び酸化剤ガスを反応ガスという上位概念で把握すると、この圧力損失は、2.0kPa以上であることが好ましいことになる。なお、フラッディング防止という観点からは、圧力損失は高い程望ましく、その上限を、例えばアノードで13.8kPa以下、カソードで11.4kPa以下としてもよい。また、アノード側での流速の上限は4.1m/s以下、カソード側での流速の上限は7.7m/s以下となった。なお、流速および圧力損失の上限値は、補機(ここでは燃料供給用のポンプ及び酸化剤ガス供給用のブロワ)の反応ガス供給圧力に関する性能の観点から経験則に基づいて決定した。
(実施例2)
実施例1と同様に作製した本実施例の燃料電池発電システム100を用いて、実施の形態1で図13に基づき説明した寿命試験を行った。
その結果、実施の形態1で述べたように、燃料電池101の寿命を向上させることができた。
なお、上記実施の形態1では、燃料電池101から排出される反応ガス及び冷却水の少なくともいずれかとの全熱交換により、反応ガスを、所定の入口露点換算温度を有するように加湿及び加熱したが、これを、バブラー等の一般の加湿器を用いて行ってもよい。
また、上記実施の形態1では、アノード側全熱交換器117、119、121とカソード側全熱交換器118、120、122とを別体としたが、これらを一体化してもよい。また、これらをセルスタック1と一体化してもよい。この場合、アノード側全熱交換器117、119、121と、カソード側全熱交換器118、120、122と、セルスタック1とは基本的構成が同じであるので、これらを容易に一体化することができる。
また、実施の形態1では、アノード側全熱交換器117、121とカソード側全熱交換器118、22とを冷却システム104の冷却循環流路112に並列に接続したが、アノード側全熱交換器117、121とカソード側全熱交換器118、22とを冷却システム104の冷却循環流路112に直列に接続してもよい。
また、上記実施の形態1では、冷却水流路19、29を1又は2セル毎に設けたが、これを3以上のセル毎に設けてもよい。