JP5088786B2 - 変異型trpv3遺伝子導入トランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット - Google Patents

変異型trpv3遺伝子導入トランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット Download PDF

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Description

本発明は、SPF(Specific−pathogen−free)環境(黄色ブドウ球菌を含む特定の病原体が存在しない状態)下で皮膚炎を自然発症する変異を持つ変異型TRPV3遺伝子を導入したトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットに関する。
近年、小児アトピー性皮膚炎患者が著しく増加しつつあり、また、その難治化、及び成人化等が進み、それらが大きな社会問題となっている。アトピー性皮膚炎は、遺伝的素因及び環境要因に基づく慢性の掻痒感を伴なう皮膚疾患である。発症要因として、食事性抗原やダニをはじめとする吸入性抗原、又は、熱、寒さ、湿気、外傷、精神緊張、感染等の各種ストレスによる免疫、自律神経、内分泌の異常等が挙げられ、増悪因子の一因として掻痒行動が挙げられている。アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎の発症機序は未だに明確でない部分が多い。従って、ヒトのアトピー性皮膚炎と同じ又は類似の病態を容易に発症させることのできるモデル動物は、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムの解明や治療薬又は治療方法の開発に非常に有用である。
例えば、皮膚炎のモデル動物として、現在までにNC/Ngaマウス(非特許文献1参照)、NOAマウス (特許文献1及び非特許文献2参照)、KSDR(特許文献2参照)、NADマウス(特許文献3参照)等が報告されている。
しかし、例えば、NC/Ngaマウスは、コンベンショナル環境(飼育室内の微生物制御がなされていない環境)下で飼育することにより自発的に皮膚炎を惹起するが、SPF環境下では全く皮膚炎を発症しない。そのため、皮膚炎のモデル動物として使用する際には、通常は、ダニ感染(ダニ由来アレルゲン付与)によって人為的に皮膚炎を発症させる必要がある。しかし、ダニ感染による皮膚炎の誘発は飼育室のダニ等の繁殖程度に応じて、その発症の時期と症状の程度が大きく影響されるのが特徴である。従って、皮膚炎の病態研究や治療等の開発には、生後、外因性の刺激なしに一定時期に高い確率で皮膚炎を発症するモデル動物の樹立が極めて重要である。
また、例えば、KSDRは、皮膚炎を自然発症する無毛ラットとして報告されている(特許文献2)が、皮膚炎原因遺伝子は特定されておらず、おおよその位置が推測されているに過ぎない(非特許文献3参照)。そのため、他の系統のラットで皮膚炎を自然発症する形質を優性遺伝することを特徴とするモデルラットを作出するには戻し交配をする必要があり、時間と手間がかかるという不利があった。
NADマウスはSPF環境下で皮膚炎を自然発症するマウスであり、皮膚炎原因遺伝子(nad遺伝子)が特定されている(特許文献3参照)。しかし、nad遺伝子は劣勢遺伝子であり、皮膚炎を自然発症するモデル動物としてはホモ接合体(nad/nad)を用いる必要がある。遺伝子改変技術により、nad遺伝子を有するトランスジェニックマウスを作製することは可能であるが、通常トランスジェニックマウスの継代は片親に野生型マウスを用いてヘテロ(nad/+)接合体で行われる事から、ホモ接合体得るためには、ヘテロ接合体同士の交配を行う必要があり、この場合には産仔の1/4しかホモ接合体を得ることができず、非効率である。ホモ接合体同士の交配が可能であれば、その産仔は全てホモ接合体になり、容易にモデルマウスの繁殖を行うことができる。しかし、トランスジェニックマウスのホモ接合体は不妊になる等の理由により、交配に用いることができない場合も多い。以上のことから、皮膚炎を自然発症する形質を優性遺伝する原因遺伝子の特定ができれば、この遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製する等の方法を用いて、皮膚炎を自然発症するモデルマウスを効率的に生産することが可能となる。
DS-Nhマウスは、皮膚炎を自然発症しないDSマウスの無毛突然変異体であり、コンベンショナル環境下で皮膚炎を顔面など局所に自然発症するが、SPF環境下では、ほとんど皮膚炎を自然発症しないことが知られている(非特許文献4、5及び6参照)。また、非特許文献7には、Nh変異がコンベンショナル環境下での皮膚炎の悪化やIgE高生産に関与していることが記載されている。
TRPV3はTRPファミリーのTRPV(VR)サブファミリーに属するタンパク質であり、特許文献4に、マウス及びヒトのアミノ酸配列及びその遺伝子配列が記載されている。また、TRPV3は、温度感受性イオンチャンネルとして知られているタンパク質であり、痛み、炎症、皮膚障害に関わると考えられている。マウスとラット間におけるTRPV3のアミノ酸配列の相同性は約98%である。
国際公開第98/05202号パンフレット 特開2003−38063号公報 特開2004−105113号広報 国際公開第02/101045号パンフレット Int. Immunol., 1997, 9, 461-466 J. Hum. Genet., 1999, 44, 173-176 Exp. Anm., 2000, 49(2), 137-140 Exp. Anm.,1997, 46(3), 225-229 Journal of Dermatological Science 2002, 00, 1-12 Immunology, 2003, 108(4), 562-569 Exp. Anm., 2003, 52(5), 419-423
本発明は、外因性の刺激なしに皮膚炎を自然発症するモデル動物を容易に作出するために、SPF環境下で皮膚炎を自然発症する形質を優性遺伝する変異遺伝子を提供する。また、該変異遺伝子を用いたトランスジェニックマウス及びトランスジェニックラットを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、コンベンショナル環境下で飼育することにより、ほぼ100%の個体が自発的に掻痒行動を伴なった皮膚炎を顔面などの局所に発症するDS-Nhマウスから皮膚炎の原因遺伝子領域を特定した。その後、塩基配列を調べ、TRPV3をコードする遺伝子の1717番目のグアニンがアデニンに変異しており、そのためにTRPV3タンパク質をコードするアミノ酸配列において573番目のグリシンがセリンに置換する点変異を見出した。また、Ht遺伝子を持つ皮膚炎発症ラットの遺伝子のシークエンスからTRPV3をコードする遺伝子の1717番目のグアニンがチミンに変異しており、そのためにTRPV3タンパク質をコードするアミノ酸配列における573番目のグリシンがシステインに置換する点変異を見出した。
この皮膚炎形質を優性遺伝する変異遺伝子をB6D2F1(C57LB/6とDBA/2のF1マウス)に導入し、新規のトランスジェニックマウスを作出した。その後、DSマウスへの戻し交配により、トランスジェニックマウスの遺伝的背景をDSマウスに置き換えた。本来、DS及びB6D2F1マウスはSPF環境下及び微生物学的統御が行われていないコンベンショナル環境下で飼育しても皮膚炎を自然発症することはない。また、Nh変異を持つDS-Nhマウスは、コンベンショナル環境下で皮膚炎を顔面など局所に自然発症するが、SPF環境下では、ほとんど皮膚炎を自然発症しない。しかし、上記トランスジェニックマウスは、意外にも、共に、SPF環境下で皮膚炎を全身発症した。また、上記トランスジェニックマウスが、本来DS及びB6D2F1マウスが持っていない形質である雄性不稔の特徴を持つことを確認した。
さらに、本発明者らは、変異型TRPV3及び野生型TRPV3の温度感受性比較を行い、変異型TRPV3が機能亢進型であることを見出した。つまり、皮膚炎を全身に自然発症する形質は、TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換することによって生じるTRPV3の機能欠損ではなく、該置換によってTRPV3が、より低温においても活性化される閾値低下を伴なって発現する。
すなわち、本発明は、
(1)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子が導入されていることを特徴とするトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット、
(2)該変異遺伝子が、TRPV3の573番目のグリシンがセリンに置換した変異型TRPV3をコードするものであることを特徴とする(1)記載のトランスジェニックマウス、又は該変異遺伝子が、TRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3をコードするものであることを特徴とする(1)記載のトランスジェニックラット、
(3)該変異遺伝子が、配列番号:1記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した配列からなる変異型TRPV3をコードするものであることを特徴とする(1)記載のトランスジェニックマウス、又は該変異遺伝子が、配列番号:2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した配列からなる変異型TRPV3をコードするものであることを特徴とする(1)記載のトランスジェニックラット、
(4)SPF環境下で皮膚炎を自然発症する、(1)記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット、
(5)SPF環境下で皮膚炎を全身発症する、(1)記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット、
(6)雄性不稔である、(1)記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット、
(7)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをインジェクトしたマウス又はラットの受精卵を、マウス又はラットの胎内に戻す工程を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法、
(8)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをウイルスベクターに組み込み、該ウイルスベクターを含むウイルスを卵細胞に感染させ、得られた卵を偽妊娠雌性非ヒト哺乳動物の卵管又は子宮に移植する工程を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法、
(9)a)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子のゲノムDNA領域をクローニングする工程、
b)相同的組換えによりES細胞に該変異遺伝子を導入する工程、
c)凝集法又は注入法により、受精卵とES細胞を融合させ、キメラ胚を作出する工程、
d)偽妊娠マウスの子宮角にキメラ胚を移植してキメラマウスを作出する工程、
e)該キメラマウス又はキメララットを交配する工程を含む、(1)〜(6)のいずれかに記載のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法、
(10)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列のうち、573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換したタンパク質をコードする遺伝子、
(11)該タンパク質が、SPF環境下で皮膚炎を自然発症させるものである(10)記載の遺伝子、に関する。
本発明は、様々な系統の、SPF環境下で皮膚炎を自然発症するトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出において有用である。該トランスジェニックマウス及びトランスジェニックラットは、皮膚炎に対する治療薬のスクリーニングにおいて使用することができる。該トランスジェニックマウス及びトランスジェニックラットは、皮膚炎の発症に黄色ブドウ球菌等の因子が必要でないことから、より均一な病態を発症する。また、全身に皮膚炎を発症させるため、薬効評価がより容易になり、利便性が高い。
Nh領域のBACコンティグ TRPV3発現解析 DS及びDS-Nhマウス由来角化細胞を用いた温度刺激によるカルシウム流入測定(温度反応性) TRPV3ネイティブプロモーター領域の決定 トランスジェニックマウス(Tg-DSマウス)で発症する皮膚炎の組織中IL-4及び血清中IgEの測定 変異型TRPV3-TgマウスにおけるTRPV3発現
本明細書において使用される用語は、特に言及する場合を除いて、当該分野で通常用いられる意味で用いられる。
本発明において、「変異型TRPV3」は、TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3を意味する。「TRPV3の573番目のグリシン」とは、TRPV3タンパク質をコードするアミノ酸配列における573番目のアミノ酸(グリシン)を意味する。「グリシン以外のアミノ酸」とは、グリシン以外の天然型アミノ酸を意味する。例えば、セリン、システイン等が挙げられる。本発明において、変異型TRPV3は、配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した配列からなるタンパク質と実質的に同様の性質を有するタンパク質であれば何れのものでもよい。具体的には、(1)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換したタンパク質、(2)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがセリン又はシステインに置換したタンパク質、(3)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシン以外の部分において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換したものであり、配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した配列からなるタンパク質と実質的に同様の性質(SPF環境下で皮膚炎を自然発症させる性質)を有するタンパク質も含まれる。特に、配列番号:1記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがセリンに置換したタンパク質、又は配列番号:2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがシステインに置換したタンパク質が好ましい。
「変異型TRPV3遺伝子」及び「TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子」は、上記変異型TRPV3をコードする遺伝子を意味する。より好ましくは、TRPV3をコードする遺伝子の1717番目のグアニンがグアニン以外の塩基に置換した変異遺伝子を意味する。該塩基置換により、コードされているTRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換される。「グアニン以外の塩基」とは、アデニン、チミン、シトシンを意味する。従って、該変異遺伝子の中には、例えば、(1)配列番号:3又は4記載の塩基配列の1717番目のグアニンがグアニン以外の塩基に置換した配列からなるポリヌクレオチド、(2)配列番号:3又は4記載の塩基配列の1717番目のグアニンがアデニン又はチミンに置換した配列からなるポリヌクレオチド、(3)配列番号:3又は4記載の塩基配列の1717番目のグアニン以外の部分において、1若しくは数個の塩基が欠失、置換、挿入又は付加された塩基配列を有し、かつ1717番目のグアニンがグアニン以外の塩基に置換したものであり、上記変異型TRPV3をコードするポリヌクレオチド等が含まれる。特に、配列番号:3記載の塩基配列の1717番目のグアニンがアデニンに置換したポリヌクレオチド、又は配列番号:4記載の塩基配列の1717番目のグアニンがチミンに置換したポリヌクレオチドが好ましい。
「トランスジェニックマウス」又は「トランスジェニックラット」とは、発生の初期に自身のゲノムに上記変異遺伝子を導入されたマウス又はラットを意味する。ゲノムに変異遺伝子を導入する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。具体例は後述する。
本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットとしては、TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子を導入したことを特徴とするトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットが挙げられる。具体的には、TRPV3の573番目のグリシンがセリンに置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子を導入したトランスジェニックマウス、又はTRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子を導入したトランスジェニックラットが挙げられる。
また、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットとしては、例えば、TRPV3をコードする遺伝子の1717番目のグアニンがグアニン以外の塩基に置換した変異遺伝子を導入したことを特徴とするトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラット等が挙げられる。具体的には、TRPV3をコードする遺伝子の1717番目がアデニンに置換した変異遺伝子を導入したトランスジェニックマウス、又はTRPV3をコードする遺伝子の1717番目がチミンに置換した変異遺伝子を導入したトランスジェニックラット等が挙げられる。
該トランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出には、受精卵の採取が可能であれば、全ての系統のマウス又はラットを使用することができる。例えば、実験動物として確立されている既知のラボマウス、野生マウス由来のラボマウス等を用いることができる。
マウスの系統としては、例えば、NC/Nga、BALB/c−nu、BALB/c、129、AKR、NZW、HR−1、SKG、DBA、NOD、ICR、NZB、C3H、SCID及びC57BL/6等が挙げられる。例えば、NC/Ngaは、皮膚炎のモデルマウスとして広く知られている有毛のマウスであり、SPF環境下では皮膚炎を発症せず、ダニ感染あるいはダニ抗原を外から加えることにより皮膚炎を発症する。BALB/c−nuは無毛マウスとして実験に汎用されている、胸腺を欠損したマウスである。BALB/c、C57BL/6は、一般的に用いられている実験用マウスである。アレルギー疾患や自己免疫疾患の発症と関わるとされているヘルパーT細胞の型が、BALB/cはTh2優位、C57BL/6はTh1優位であるマウスとして知られている。HR−1は無毛マウスであり、薬剤の皮膚透過性実験などに供される。
ラットの系統としては、例えば、WBN、ACI、BN、F344、LEW、Wistar、Donryu、SD等が挙げられる。例えば、F344は小型で繁殖性が良好なアルビノ(白色毛)の近交系であり、薬理・薬効試験等に幅広く使用される。BNは有色毛の近交系で、移植免疫・アレルギーの分野等で使用される。Wistar及びSDはどちらもクローズドコロニーのアルビノラットで、性質温順かつ発育良好なため、安全性試験、その他幅広い分野で使用されている。
上記系統のマウス又はラットに変異型TRPV3遺伝子を導入すると、遺伝子を導入する系統が皮膚炎を自然発症しない系統であっても、SPF環境下で全身に皮膚炎を発症するトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを作出することができる。一方、遺伝子を導入する系統が皮膚炎モデル動物であった場合には、その系統がSPF条件下で皮膚炎の自然発症を呈しなかった場合でも、本遺伝子の導入により、SPF環境下で全身に皮膚炎を発症させることが可能になるため、より有用な皮膚炎モデル動物を得ることができる。ただし、変異型TRPV3遺伝子の導入による皮膚炎の発症率や、病態の程度は、その系統の有する遺伝的背景により、多少の違いが生じることは予想される。更には、皮膚炎の発症は軽微であっても、掻痒行動の著しい増加を伴うマウス又はラットを作出することができる。また、既存の病態モデルマウス(ラット)や遺伝子改変マウス(ラット)を用いたトランスジェニックマウス(ラット)の作製、又は本発明のトランスジェニックマウス(ラット)と既存の病態モデルマウス(ラット)や遺伝子改変マウス(ラット)との交配により、より多様な皮膚炎の病態を示す新たなモデルマウス(ラット)の作製が可能である。
一般的に、皮膚炎治療薬等の研究に利用されてきたマウスやラットは通常有毛であり、研究に用いるためには、皮膚炎症状の目視や薬剤塗布の必要性から剃毛等の作業をする必要がある。これらの作業は煩雑な上に皮膚への無用な刺激を与え、また、炎症の均一性、再現性にも問題がある。そのため、モデル動物としては、これらの作業を行なわずとも、皮膚炎治療薬等の研究に使用できる無毛の動物が好ましい。このことから、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットは、無毛系統のマウス又はラットに変異型TRPV3遺伝子を導入したトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットが好ましい。あるいは、一旦、FVBN、B6D2F1マウス、C57BL/6又はBALB/c等のトランスジェニックマウス作製に汎用されている有毛系統のマウス又はBN、F344等のトランスジェニックラット作製に汎用されている有毛系統のラットに変異型TRPV3遺伝子を導入したトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを作製し、これらのマウス又はラットと無毛系統のマウス又はラットを交配することにより、無毛である本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを作出することも可能である。さらに、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットにおいては、皮膚炎の増悪化に伴い、炎症発症部位において広範囲の脱毛が観察される。従って、これらのマウス又はラットにおいては、剃毛などの処置をすることなく、炎症部位の観察や炎症部位への薬剤の塗布を行うことができる。
本発明のトランスジェニックマウスの特性の例として、以下に変異型TRPV3遺伝子導入B6D2F1マウス(Tg−BDF1マウス)(実施例8参照)の特性を記載する。本発明によるトランスジェニックマウス及びトランスジェニックラットは、下記特性を発現する原因遺伝子(変異型TRPV3遺伝子)を有するものである。但し、マウス及びラットの系統により、数値に若干の違いが生じることがある。
1)外観的特徴
本発明のトランスジェニックマウスにおいては、初期病変として、生後7週齢前後より尾部が紅変し表面の荒れたような症状を呈し始めるとともに、軽度の眼瞼閉塞も認められるようになる。その後、背部あるいは腹部の一部より脱毛が始まり、広範囲に拡大していく。さらに重篤化した個体では掻痒行動による出血、痂皮、閉眼及び皮膚のびらん等が観察されるようになる。これらの症状は一時的に軽減することがあるが、通常加齢とともに増悪していく。皮膚炎の発症に関して、雄に比べて雌の初発時期が早く、同週齢で比較すると雌の方が、重篤化する傾向が強い。
2)病理組織の所見
皮膚炎の病変部皮膚には、皮膚(角化細胞層の)の肥厚又は表皮剥離が認められ、マスト細胞の増加と脱顆粒現象が認められる。また単核細胞の浸潤を伴う海綿状態と真皮の血管周囲性の炎症細胞が認められ、マクロファージの増加も認められる。さらに、CD4陽性T細胞の出現が認められる。また、雄の精巣内では、精子形成が認められない。
3)血中IgE値
本発明のトランスジェニックマウスの血中IgE値は、4週齢以後から正常マウスに比べて明らかに高い値を示す。その値は、週齡を経るに従って顕著に高くなる。すなわち、皮膚炎マウスの血中IgE値は、10週齢において少なくとも1,000ng/ml、好ましくは2,000ng/ml、より好ましくは3,000ng/mlを示す。具体例を示すと、例えば10週齢においてマウスの血中IgE値は約5,000ng/mlであり、正常マウスの血中IgE値は、通常100ng/ml以下であることから、皮膚炎マウスの血中IgE値は、正常マウスの10倍以上、10週齢以後のマウスではその100倍以上の高IgE血症を示す。
また、本発明のトランスジェニックマウスにおいては、雌の血中IgE値は、同週齡の雄の血中IgE値よりも通常高くなる。例えば、6週齢以上の雌の血中IgE値は、同週齡の雄の血中IgE値よりも通常高くなる。
本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法は、特に制限されず、公知のトランスジェニック動物作出方法(参考文献:(財)東京都臨床医学総合研究所 実験動物研究部門 編「マウスラボマニュアル」シュプリンガー・フェアラーク東京(株)、1998年12月14日、pp.225〜245)によって作出することができる。以下に、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法を例示する。
マウス又はラットのゲノムに上記「変異型TRPV3遺伝子」を導入することによって本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを作出することができる。マウス又はラットに変異型TRPV3遺伝子を導入する際には、変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAを利用する。例えば、該DNAは、変異型TRPV3遺伝子が遺伝子の発現と遺伝子にコードされている産物の分泌に必要な遺伝子調節エレメントと共に、プラスミドや転移性遺伝因子等の発現ベクターに組み込まれているものでもよい。
上記「変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNA」は、例えば、以下の様にして得ることができる。マウスやラットの血液等から採取したTRPV3をコードするDNAを用い、部位指定突然変異導入法により573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードするDNAを作製する。部位指定突然変異導入法には、野生型の塩基配列に相補的であるが1717番目のグアニンがグアニン以外の塩基に変異した化学合成オリゴヌクレオチド(7〜40ヌクレオチドの長さ)を作り、それをプライマーとしてPCRでDNA合成を行う方法等が含まれる。
本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法としては、例えば、(1)変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをインジェクトしたマウス又はラットの受精卵を、マウス又はラットの胎内に戻す工程を含む、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法、(2)変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAを有するウイルスベクターを用いることを特徴とする本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法、(3)変異型TRPV3遺伝子を有するES細胞を作成する工程を含む本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットの作出方法等が挙げられる。
より具体的には、例えば、マウスの作出方法としては以下の方法を用いることができる。
(1)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子のゲノムDNA領域をクローニングする。雌マウスにホルモン注射をして強制的に過剰排卵させ、受精を行い、交尾後1日目の卵管から受精卵を摘出する。核が融合する前の時期の受精卵へ、顕微鏡下に該変異遺伝子(上記「変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNA」)を雄性前核中にマイクロインジェクションにより注入する。こうした操作を施した受精卵を偽妊娠雌マウスの子宮あるいは卵管内に移植する。この雌マウスを通常どおり飼育し続け仔マウスを出産させる。遺伝子の導入の成否は仔マウスから抽出したDNAのPCR法又はサザンハイブリダイゼーション法による遺伝子型の確認により判定することができる。(参考文献:緒方宣邦・野島博著「遺伝子工学キーワードブック改訂第2版」 羊土社、2002年1月1日、p.284)
(2)(1)で用いたマイクロインジェクション法の代わりに、ウイルスベクターを用いて、TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子を受精卵へ導入することも可能である(参考文献:伊川正人 「レンチウイルスベクターによるトランスジェニック動物作製法」 実験医学 2003年、Vol.21、pp.509〜514)。
TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子(変異型TRPV3遺伝子)のゲノムDNA領域をクローニングした後、市販のレンチウイルスベクター構築キット(ViraPowerレンチウイルス発現システム、Invitrogen)等を用いてウイルスベクターに組み込む。(1)で行った操作と同様にして、初期発生期の受精卵を採取する。採取した受精卵は、酸性タイロード液等を用いて透明帯を除去する事により、ウイルスベクターへの感染効率を上げることができる。透明帯を除去した受精卵を、レンチウイルスベクターを含む培養用培地と共に、2−3日間培養することで、ウイルスの持つ逆転写酵素の働きにより、該変異型TRPV3遺伝子が受精卵の染色体に組み込まれる。胚盤胞期まで培養した受精卵を偽妊娠雌マウスの子宮あるいは卵管内に移植し、仔マウスを出産させる事によりインジェクション法と比べて高い効率でトランスジェニックマウスを得ることができる。遺伝子の導入の成否はインジェクション法の場合と同様に、仔マウスから抽出したDNAのPCR法又はサザンハイブリダイゼーション法による遺伝子型判定により確認することができる。
(3)a)TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子のゲノムDNA領域をクローニングする工程、
b)相同的組換えによりES細胞に該変異遺伝子を導入する工程、
c)凝集法又は注入法により、受精卵とES細胞を融合させ、キメラ胚を作出する工程、
d)偽妊娠マウスの子宮角にキメラ胚を移植してキメラマウスを作出する工程、
e)該キメラマウスを交配する工程を含む、本発明のマウスの作出方法を使用することができる。
上記変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをプラスミドベクター等のベクターに挿入し、そのベクターをES細胞に導入する。ES細胞内で相同的組換えが起った細胞を選択マーカーにより選択する。選択マーカーとしてはネオマイシン耐性遺伝子等が使用できる。雌マウスにホルモン注射をして強制的に過剰排卵させ、雄マウスとの交配を行い、交尾後4日目の子宮から胚盤胞を採取する。顕微鏡下で、微小なガラス製キャピラリーを用いて、胚盤胞に相同的組換えにより該変異遺伝子が導入されたES細胞を注入し、キメラ胚を作製する(注入法)。注入法の代わりに、過排卵処理した後に雄マウスと交配した雌マウスの卵巣から採取した8細胞期の受精卵から透明帯を除去し、ES細胞と共培養することにより凝集させて作製した、キメラ胚を用いることもできる(凝集法)。作製したキメラ胚を偽妊娠雌マウスの子宮あるいは卵管内に移植し、仔マウスを出産させる事によりキメラマウスを得ることができる。作出されたキメラマウスへの遺伝子の導入の成否は仔マウスから抽出したDNAのPCR法又はサザンハイブリダイゼーション法による遺伝子型判定により確認できるが、ES細胞を作出するために用いる系統とキメラ胚作製に用いる受精卵を提供する系統を適切に選択することにより、遺伝子の導入率(キメラ率)を生まれた仔マウスの毛色や眼球の色で判定することも可能である。得られたキメラマウスを通常のマウスと交配する事により得た産仔の中に、導入した変異型TRPV3遺伝子を持つトランスジェニックマウスを見出すことができる。トランスジェニックマウスの選抜には、仔マウスから抽出したDNAのPCR法又はサザンハイブリダイゼーション法による遺伝子型判定の結果を用いることができる。
トランスジェニックラットも上記トランスジェニックマウスの作出方法と同様の方法を用いて作出することができる。
上記方法により作出されたトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットと、作出を希望する系統のマウス又はラットとを掛け合わせ、戻し交配を行うことによって、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを作出する方法もある。変異型TRPV3遺伝子がSPF環境下で皮膚炎を自然発症する形質を優性遺伝するため、効率的に本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットを得ることができる。すなわち、TRPV3の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した変異型TRPV3を導入したトランスジェニック動物を交配することにより、変異型TRPV3を持つモデル動物を作出することができる。例えば、本発明のトランスジェニックマウス又はラットを、すでに生理学的、遺伝学的、生化学的な特性が良く調べられている近交系マウス又はラット、あるいは病態モデルマウス又はラットに戻し交配することにより、これらのマウス又はラットに「SPF条件下で皮膚炎を自然発症する」という新たなトランスジェニックマウス又はラットの有する形質を導入することが可能になる。
上記に従って作出されるトランスジェニックマウスは、例えば、NC/Nga、BALB/c−nu、C57BL/6、C3H、BALB/c等の系統のトランスジェニックマウスであり、そのTRPV3は、573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換しているものである。上記に従って作出されるトランスジェニックラットは、例えば、WBN、ACI、BN等の系統のトランスジェニックラットであり、そのTRPV3は、573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換しているものである。これらのトランスジェニックマウス及びトランスジェニックラットは、既にその性質がよく知られたマウス及びラットの系統であり、実験動物として極めて有用である。
本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットは様々な皮膚炎に対する治療薬のスクリーニングにおいて使用することができる。該スクリーニングは、当業者であれば、従来から行われている方法で行うことができる。
皮膚炎としては、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎等の内因性のもの及び、刺激物、アレルゲン等が接触して起こる接触皮膚炎等が例示される。また、炎症ではないが乾癬等の皮膚の異常も含まれる。
また、アトピー性皮膚炎は痒みを伴う皮膚炎であることが一つの特徴であり、DS−Nhマウス及び本発明のトランスジェニックマウスであるTg−BDF1マウスにおいても皮膚炎の増悪に伴い著しい掻痒行動が認められる。このことから、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットは痒みに対する治療薬のスクリーニングにおいても使用することができる。
マウスを皮膚炎治療薬又は痒みに対する治療薬の評価に用いる方法としては、例えば、以下のような方法がある。すなわち、マウスは室温22±2℃で、湿度65±5%のSPF環境で生育した生後5から7週齢のものを用いる。飼料として、普通飼料(例えば、船橋農場製;F2等)を不断給餌し、水を自由摂取させる。また、マウスは、木製又は紙チップを床敷きにしたケージ内で飼育することができる。薬効の評価方法としては、皮膚水分蒸散量測定、皮膚水分含有量測定、見た目の皮膚炎の様子をスコアリングする方法、掻痒行動を観察して回数を計数する方法、皮膚炎により上昇する血中IgEの量を測る方法、解剖して皮膚の病理解析をする方法等がある。
また、本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットは雄性不稔の形質を持つことから、精巣内における精子形成異常が原因である男性不妊、例えば、精索静脈瘤等の治療薬のスクリーニングにおいて使用することができる。該スクリーニングは、当業者であれば、従来から行われている方法で行うことができる。
本発明には、(1)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列のうち、573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換したタンパク質をコードする遺伝子、(2)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがセリン又はシステインに置換したタンパク質をコードする遺伝子、(3)配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換したものであり、配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列の573番目のグリシンがグリシン以外のアミノ酸に置換した配列からなるタンパク質と実質的に同様の性質(SPF環境下で皮膚炎を自然発症させる性質)を有するタンパク質をコードする遺伝子も包含される。
また、コードするタンパク質が、SPF環境下で皮膚炎を自然発症させるものである上記の遺伝子も本発明に包含される。
優性遺伝の確認
DS-Nh(Nh/Nh、無毛)とC57BL/6Shi(有毛)の掛け合わせで得られたF1個体を、さらにC57BL/6Shiと戻し交配し、有毛、無毛の分離比を調べたところ、F1ではすべて無毛、戻し交配では常染色体単一優性遺伝の分離比1:1が支持されたため、単一遺伝部位の優性遺伝と確認できた(表1)。以後、この遺伝部位をNh locusと称する。
Figure 0005088786
Nh locus の位置
Nh locusの存在する染色体を決定するために、10の異なる染色体に位置する13遺伝子座について、C57BL/6Shi × (C57BL/6Shi × DS-Nh/Nh)バッククロス個体の、無毛形質との連鎖試験を行った(表2)。
C57BL/6Shi × (C57BL/6Shi × DS-Nh/Nh)BC1世代の、既知の遺伝子型を調べた。調べた表現型は、毛色遺伝子のagouti (a、2番染色体)、生化学的マーカー遺伝子のisocitrate dehydrogenase-1 (Idh-1、1番染色体)、 peptidase-3 (Pep-3、1番染色体)、 alkaline phosphatase-1 (Akp-1、1番染色体)、 alcohol dehydrogenase-3 (Adh-3、3番染色体)、 major urinary protein-1 (Mup-1、4番染色体)、 aldehyde dehydrogenase-1 (Ahd-1、4番染色体)、 glucose phospyate isomerase-1 (Gpi-1、7番染色体)、 esterase-1 (Es-1、8番染色体)、 malic enzyme-1 (Mod-1、9番染色体)、 esterase-3 (Es-3、11番染色体)、 esterse-10 (Es-10、14番染色体)、 免疫学的マーカー遺伝子のhistocompatibility-2D (H-2D、17番染色体)である。
その結果、+ / + (Nh)、 Es-3 a / aが31例、Nh / +、 Es-3 a / cが25例、+ / + (Nh)、 Es-3 a / cが18例、Nh / +、 Es-3 a / aが7例であり、連鎖に対するΧ二乗値は11.864 (p<0.01)で連鎖を支持するものであった。両遺伝子座間の遺伝子距離は30.9±5.1cMであった。なお、その他のマーカーとの連鎖は認められなかった。
Figure 0005088786
11番染色体上の位置の決定
Nh遺伝子の11番染色体上の位置を詳細に決定するために、11番染色体上のマーカー遺伝子Es-3、 Hbaを用いて3点交雑試験により11番染色体上のおおよその位置を求めたところ、Es-3から23.0cM、Hbaから24.6cMに位置することが明らかとなった(data not shown)。この位置は同じ無毛遺伝子として知られているnude(nu)遺伝子座の近傍であるため、その同座性を確認するため、DS-Nh (Nh/+、+/+)と、BALB/cShi-nu/nu (+/+、nu/nu)とのF1無毛個体(Nh/+、nu/+)をBALB/cShi-nu/nuに戻し交雑した個体の表現型を調べた結果、4例で有毛個体(+/+、 nu/+)を得た。これによりNhとnude遺伝子の同座性は否定されたが、ごく近傍に位置することがわかった。なお、以上の( )内の遺伝子型についてはNh, nuの順に記載してある。
さらにNh遺伝子の11番染色体上の位置を詳細に決定するために戻し交雑による系統解析を行った。交雑する系統は、11番染色体上nude遺伝子付近の多型マーカーを調べてDSとの多型頻度が最も高かったNC/Ngaを用いた。
DS-NhとNC/Ngaを掛け合わせて作製したF1個体から無毛個体を選別し、さらにDS若しくはNC/Ngaに戻し交雑をして、無毛、有毛の表現型と多型マーカーの遺伝子型を調べた。遺伝子型は、マイクロサテライトマーカーについてはPCR後にPAGE、若しくはアガロースゲル電気泳動、SNPについてはSSCP若しくはRFLP、及びシークエンスにより解析した。
さらに、近傍のマイクロサテライトマーカーを指標にしてNh領域のYAC、BACによる物理的地図(コンティグ)を作製した。YAC、BACによるマウスゲノムライブラリはリサーチ ジェネティックス社のCITB Mouse YAC Library 及びCITB BAC Libraryを用いた。クローンの単離はマイクロサテライトマーカー検出用のPCRプライマーによるPCRによって行った。単離したBACクローンは、近隣のマーカーをプライマーとしてPCRを行い、その位置を決めた。また精製したBAC DNAは、インビトロゲン社のTOPO Shotgun subcloningキットにより断片化、ショットガンクローニングを行い、T7、M13Rプライマーでシークエンスを行ない、シークエンスデータのアセンブルによりドラフトシークエンスを決定した。さらにその配列より適当なPCRプライマーを設定し、クローンの単離からの作業を繰り返すことで、コンティグを完成させた。
その過程でマイクロサテライトマーカーとして利用できる配列はマーカーとして用いた。
戻し交雑により得られた2777匹について組換えの有無を調べたところ、X84896とU12236の間で2匹、263CAと311H11の間で2匹の組換え個体が見出された。U12236、 D11Mit194、 263CAの3マーカーとNhの間では組換え個体が存在しなかった。
これにより、X84896、 332H11間にNh locus が存在し、その遺伝的距離は4 / 2777 = 0.144 cMであった。また、この間のBACコンティグが完成し、その物理的距離は約1Mbと見積もられた(図1)。また、この領域には、セントロメア側より、CAMKK (calcium/calmodulin-dependent protein kinase kinase 1、 alpha)、ELG、Itgae (integrin、 alpha E、epithelial-associated)、P2X5 (purinergic receptor P2X、ligand-gated ion channel,5)、TIP-1、CARKL (carbohydrate kinase-like)、CTNS (cystinosis、 nephropathic)、TRPV1 (transient receptor potential cation channel、subfamily V、member 1)、ASPA (aspartoacylase 2)そして、olfactory receptor superclusterの遺伝子が存在していた。
Nh Locusにおける変異の決定
Nh locusの範囲が決定されたので、DS、DS-NhのゲノムDNAのシークエンスの比較により、Nhの変異を見出すために、DS、DS-NhそれぞれのゲノムDNAのコスミドライブラリを作製した。
DS、DS-Nh(Nh/Nh)両マウスのゲノムDNAを肝臓より抽出し、Sau3AIで部分消化した後、BamHI消化したSuperCos1ベクター(STRATAGENE)とライゲーションし、STRATAGENE社のGigapack III XL packaging extract を用いて大腸菌にコスミドを導入した。大腸菌はタイトレーションの後、1プレートに500個のコロニーができるようにプレーティングして一晩培養した後、コロニーをPBSで回収して終濃度40%のグリセロール溶液として-80度で保存した。ライブラリからのクローンの単離、ショットガンクローニングとシークエンスはBACでの方法に準じた。
コスミドのシークエンスデータよりDSとDS-Nhのゲノム配列を比較して、1塩基置換を見出した。この部位は当時遺伝子の存在が知られていなかったが、ゲノム配列をエクソン配列予測プログラム(genscan http://genes.mit.edu/GENSCAN.html)で解析するとVR-OAC(TRPV4)とホモロジーを持つORFが予測された(現在のTRPV3)。DS-Nhでの変異は、このORFの1717番目の塩基が、GからAに変化していた。これは、TRPV3タンパク質の573番目のアミノ酸をグリシンからセリンに変化させる変異であった。TRPV3は、N末側に三回のアンキリンリピート配列、そしてC末側に6回の膜貫通部位を持ったイオンチャネル様配列を持つが、この変異は、4回目と5回目の膜貫通部位の間の細胞な領域にあり、既知のTRPVファミリーすべてについて、種を超えて保存されているアミノ酸であった。高度に保存されているアミノ酸が変化していることで、温度感受性もしくはリガンド反応性に変化が生じていることが推測された。
ゲノム配列の比較はNh領域内の少なくとも既知の遺伝子のエクソン部分すべてについて行ったが、変異はこの部分にしか存在していなかった。
Htラットの変異
また、DS-Nhと同様に無毛で皮膚炎を自然発症する形質を優性遺伝するラット(WBN/Ila-Ht Rat)が知られている。文献上(Exp. Anim. 2000, 49(2), 137-40)このラットの無毛及び皮膚炎原因遺伝子は、ラット10番染色体のAsgr1 と Nos2 の間にマッピングされているが、この部分はマウス11番染色体のNh領域の相同領域(シンテニー)であることが分かっている。そこで、このラットのTRPV3遺伝子に変異があるかどうかを確かめた。
Clontech社のR at Genomic DNA を用いてラットのコスミドライブラリを構築した。方法はマウスコスミドライブラリの方法に準じた。ラットのゲノム配列についての情報がないので、マウス用TRPV3領域のゲノム配列のプライマーを用いてラットゲノムを増幅したところ、13-106H-5-3(配列番号:5)、13-106H-5-4(配列番号:6)のプライマー対でラットゲノムから増幅することができた。このプライマーを用いてコスミドの単離を行った。
得られたコスミドクローンをショットガンシークエンスして、ラットTRPV3領域のゲノム配列を調べた。マウスTRPV3領域のゲノム配列、ORFと比較してラットのORFを予測し、ORFすべてを数個の断片にわけて増幅できる様PCRプライマーを設定した。
WBN/Ila-Ht Ratとその親系統のWBNラットの肝臓からDNAを抽出し、設定したプライマーを用いてゲノムDNAを増幅してシークエンスを決定したところ、WBN/Ila-Ht Ratにおいても、DS-Nhと同じ部分の塩基に変異が起こっていた。すなわち、TRPV3のORFの、1717番目の塩基がGからTに変化していた。これは、マウスと同じ5 73番目のアミノ酸を、グリシンからシステインに置換する変異である。もう一つ、1727番目の塩基にも変異が認められたが、これはアミノ酸置換を起こさないサイレント変異であった。TRPV3ORFの、他のエクソンには変異は認められなかった。
TRPV3の発現確認
DS-Nh(Nh/Nh、無毛)由来の各組織よりRNAを抽出し、TRPV3相同配列を用いたノーザンブロティング法により、皮膚組織におけるTRPV3の発現を確認した(図2A)。次に、皮膚組織内での発現部位を詳細に確認するために In Situハイブリダイゼーションを行い、表皮(表皮角化細胞)での発現を確認した。マウスTRPV3と相同のペプチド部分配列をラットに免疫し、TRPV3認識ペプチド抗体を作成した。TRPV3認識ペプチド抗体及びDS・DS-Nhマウス由来角化細胞初期培養を用い、ウエスタンブロッティング法を用い、TRPV3のタンパク質レベルでの発現を確認した(図2B)。
更に、変異型のTRPV3が発現しているかを確認するために2段階のPCR増幅を行った。最初の増幅では、角化細胞由来cDNAより、TRPV3遺伝子の変異箇所を含むように増幅した(一次増幅)。次に、PCRプライマーの3’ 末端が変異箇所にくるように、同時に制限酵素サイトを変異型TRPV3相同配列のみに導入するように設計し、先の一次増幅産物の再増幅を行った(二次増幅)。得られた二次増幅産物は、制限酵素により切断する事で 150、131、52bpのバンドが確認できた。これらの制限断片は、変異型TRPV3が発現している事を示している(図2C)。
変異型TRPV3及び野生型TRPV3の温度感受性比較
DS及びDS-Nhマウス由来の角化細胞を用い、温度反応性を調べた(図3)。刺激に際して、反応をより見やすくするために、100 μM濃度2APB(2-aminoethoxy diphenyl borate)存在下で以下の実験を行った。
DS及びDS-Nhマウスより角化細胞を採取し、細胞数を揃えて96穴蛍測定用プレートに移す。室温下でカルシウム反応蛍光Dye(Fura2/AM)を各角化細胞に取り込ませ、余分なDyeを洗浄後、蛍光測定装置FDSS2000にセットする。蛍光強度の測定を開始するとともに、繰り返しの温度刺激を角化細胞に加える。以上の実験結果を図3に示す。縦軸は蛍光強度を示し、横軸には測定開始後の経過時間を示している。太字で示した、変異型TRPV3を発現している角化細胞で蛍光強度に変化が認められるものの、野生型TRPV3発現角化細胞では(図3、細字)温度刺激による蛍光強度に変化がなく、変異型でのみカルシウム流入があったことを示している。
以上の結果より、変異型TRPV3内の変異はより低温に反応する機能亢進型の変異である事が確認された。
TRPV3プロモーター領域の確認とトランスジェニックマウス作成
TRPV3ゲノム配列を用いネイティブプロモーター領域の決定を行った。5 ’RACE法により決定したTRPV3遺伝子の上流部位の各様々な長さの断片をルシフェラーゼ遺伝子と繋ぎ合わせ、マウス角化細胞株(XB-2)に遺伝子導入し、ルシフェラーゼ基質添加後の発光によりプロモーター活性を比較した。陽性コントロールのSV40と比較しても遜色のないプロモーター活性をTRPV3上流域450bp(PGV-TRPV3-g)に認めたため(図4)、上流域450bpをネイティブプロモーターとして用いる事にした。
トランスジェニックマウスに導入するDN A断片は以下のようにして作製した。すなわち、TRPV3のcDNAをクローニングしたColE1由来のプラスミドのTRPV3上流に、PCRで増幅したプロモーター領域を挿入した。このプラスミドの、プラスミド由来の配列を制限酵素で切断し、アガロースゲルより断片を切り出し精製したものをDNA断片としてトランスジェニックマウス作製に用いた。B6D2F1マウス受精卵の雄性前核にTRPV3遺伝子とプロモーター領域を含む上記DNA断片を注入するマイクロインジェクション法にて、変異型TRPV3遺伝子導入B6D2F1マウス(Tg−BDF1マウス)を作製した(参考文献:(財)東京都臨床医学総合研究所 実験動物研究部門 編「マウスラボマニュアル」シュプリンガー・フェアラーク東京(株)、1998年12月14日、pp.225〜245)。仮親マウスに移植された変異型TRPV3遺伝子導入受精卵から77匹の産仔が誕生し、尾部組織から抽出したゲノムDNAを用いたPCR及びサザンハイブリダイゼーションによる遺伝子型判定から、導入した変異型TRPV3遺伝子を保有するトランスジェニックマウス6匹が得られたことが確認された。得られた6匹のfounderマウスから確立された5系統のうち、1系統(B6D2F1−Tg(TRPV3G573S)002Shi)で、SPF環境下において皮膚炎を発症する個体が確認され、その後の観察で、この系統のトランスジェニックマウスはSPF環境下において、ほぼ全ての個体が皮膚炎を発症することが確かめられた。
遺伝的背景をB6D2F1マウスからDSマウスに置き換えたトランスジェニックマウス(Tg-DSマウス)の作製及びその病態解析
B6D2F1マウスを遺伝的背景としたトランスジェニックマウスにおいて皮膚炎の発症を確認したので、DSマウスとの戻し交配によりトランスジェニックマウスの遺伝的背景の置換を試みた。交配に際し、DS(雄性)とTg−BDF1マウス(雌性)との交配を行った。戻し交配により得られたTg-DSマウスは、SPF環境下において全身性の皮膚炎を自然発症し、その発症時期はB6D2F1マウスを遺伝的背景としたトランスジェニックマウスよりも早く、その病態もより重篤になる傾向が認められた。
次に、Tg-DSマウスの皮膚病理解析を行ったところ、その病態はコンベンショナル環境下でのDS-Nhマウスにおける皮膚炎と酷似していた。即ち、皮膚角化細胞の増勢、表皮肥厚、表皮剥離、浮腫、炎症性細胞の浸潤等である。血清及び皮膚ホモジネイトを用いた解析からは、Tg-DSマウスにおいて、皮膚炎を発症したDS-Nhマウス(Journal of Dermatological Science 2002, 30, 142-153)と同様に、血清IgE・組織中IL-4の増加が認められた(図 5A及び5B)。これらの結果から、Tg-DSマウスの病態は、ヒトアトピー性皮膚炎様の病態を惹起している事が確認された。
Tg-DSマウスにおける雄性不稔
TRPV3遺伝子は、皮膚・精巣・神経で発現していることがいくつかの研究で明らかになってきている(Nature, 2002, 418, 181−186参照)。我々は、DS及びDS-NhマウスにおいてTRPV3が皮膚で高発現していることを確認しているが(図2A参照)、今回、より感度の高い方法でTRPV3の発現を変異型TRPV3-Tgマウス(Tg-DSマウス)で調べた。図6は、リアルタイムPCR法によりTRPV3(野生型及び変異型)の発現を皮膚での発現を基準に相対的に示した結果である。耳(皮膚が組織中の多くを占める)及び睾丸での高発現を確認した。
また、変異型TRPV3-Tgマウス(Tg-DSマウス)は雄性不稔になることから、該TgマウスでTRPV3発現部位である精巣の病理解析を行い、精子形成がなされていないことを確認した。睾丸温度の上昇が精子数の減少を誘導し、雄性不稔に深く関与していることが示唆される。これらの結果およびNh変異が機能亢進を伴っているという事実を考え合わせると、睾丸温度上昇が関与する精子数減少及び雄性不稔には、TRPV3が主要な役割を担っていると考えられる。
本発明のトランスジェニックマウス又はトランスジェニックラットは、SPF環境下で皮膚炎を全身に自然発症する形質を有する変異遺伝子が導入されており、皮膚炎に対する治療薬のスクリーニングにおいて使用することができる。

Claims (9)

  1. TRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子が導入されていることを特徴とするトランスジェニックラット。
  2. SPF環境下で皮膚炎を自然発症する、請求項1記載のトランスジェニックラット。
  3. SPF環境下で皮膚炎を全身発症する、請求項1記載のトランスジェニックラット。
  4. 雄性不稔である、請求項1記載のトランスジェニックラット。
  5. TRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをインジェクトしたラットの受精卵を、ラットの胎内に戻す工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニックラットの作出方法。
  6. TRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3を発現できる形でコードしたDNAをウイルスベクターに組み込み、該ウイルスベクターを含むウイルスを卵細胞に感染させ、得られた卵を偽妊娠雌性非ヒト哺乳動物の卵管又は子宮に移植する工程を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニックラットの作出方法。
  7. 配列番号:1又は2記載のアミノ酸配列のうち、573番目のグリシンがシステインに置換したタンパク質をコードする遺伝子。
  8. 該タンパク質が、SPF環境下で皮膚炎を自然発症させるものである請求項記載の遺伝子。
  9. TRPV3の573番目のグリシンがシステインに置換した変異型TRPV3をコードする変異遺伝子が導入されたトランスジェニックラットの、皮膚炎モデル動物としての使用。
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