JP5088385B2 - 高強度高導電性銅合金 - Google Patents
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Description
そこで、バネ性、強度、導電率の優れた銅合金として、例えば特許文献1には、Beを含有したCu−Be合金が提供されている。このCu−Be合金は、Cuの母相中にCuBeを時効析出させることで導電率を低下させることなく強度を向上させた、析出硬化型の高強度合金である。
そこで、Cu−Be合金を代替可能な材料が強く望まれていた。
また、Snは、Beよりは安価であるものの比較的高価な元素であることから、やはり、原料コストが上昇してしまうことになる。
また、Mg、Snを多量に含有すると、Mg、Snの偏析により、鋳塊内部においてMgやSnを含有する金属間化合物が不均一に生成することになる。特に、Snを多く含む金属間化合物は融点が低く、その後の熱処理工程において溶解してしまうおそれがある。溶解すると、その後の熱処理の際に金属間化合物が残存し易くなる。このような金属間化合物の残存に起因して加工性が悪くなるのである。
以上のことから、Niの含有量を0.1質量%を超えて7質量%未満とすることで、強度の向上、加工性の向上及び導電性の確保を図ることが可能となるのである。
Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snが0.2以上とされているので、Snの含有量が少なくなり、低融点の金属間化合物の生成を抑制でき、加工性を確保することができる。さらに、質量比Ni/Snが3以下とされているので、過剰なNiが存在せず、導電率の低下を防止することができる。
P,Bは、強度及び耐熱性を向上させる元素である。また、Pは、溶解鋳造時において、銅溶湯の粘性を低下させる効果がある。しかしながら、P、Bを多量に含有すると導電率が低下することになる。よって、P、Bの含有量を0.001質量%以上0.5質量%以下とすることで、導電率の低下を抑えつつ、強度及び耐熱性の向上を図ることが可能となる。
Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素は、銅合金の特性を向上させる効果を有しており、用途にあわせて選択的に含有させることによって特性を向上させることが可能となる。
この場合、強度及び導電率に優れており、前述の電子電気部品として適した高強度高導電性銅合金を提供することができる。例えば、コネクタ端子やリードフレーム等をこの高強度高導電性銅合金で構成することで、これらコネクタ端子やリードフレーム等の薄肉化を図ることが可能となる。
本実施形態である高強度高導電性銅合金は、Mg;1.0質量%を超えて4質量%未満、Sn;0.1質量%を超えて5質量%未満、Ni;0.1質量%を超えて7質量%未満を含み、かつ、P、Bのうちの1種以上を合計で0.001質量%以上0.5質量%以下、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znのうちの少なくとも1種以上を合計で0.01質量%以上5質量%以下、を含み、残部がCuと不可避不純物からなる組成を有している。
そして、Mgの含有量とSnの含有量の質量比Mg/Snが0.4以上とされ、Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snが0.2以上3以下とされている。
以下に、これらの元素の含有量を前述の範囲に設定した理由について説明する。
Mgは、導電率を大きく低下させることなく、強度を向上させるとともに再結晶温度を上昇させる作用効果を有する元素である。ここで、Mgの含有量が1.0質量%以下では、その作用効果を奏功せしめることはできない。
一方、4.0質量%以上のMgを含有した場合、均質化及び溶体化のために熱処理を行った際に、Mgを含む金属間化合物が残存してしまい、十分な均質化及び溶体化を行うことができなくなる。これにより、熱処理後の冷間加工や熱間加工において割れが発生するおそれがある。
このような理由から、Mgの含有量を、1.0質量%を超えて4質量%未満に設定している。
さらに、Mgは活性元素であることから、過剰に添加されることによって、溶解鋳造時に、酸素と反応して生成されたMg酸化物を巻きこむおそれがある。このMg酸化物の巻きこみを抑制するためには、Mgの含有量を、1.0質量%を超えて3質量%未満とすることが好ましい。
Snは、銅の母相中に固溶することにより、強度を向上させるとともに再結晶温度を上昇させる作用効果を有する元素である。ここで、Snの含有量が0.1質量%以下では、その作用効果を奏功せしめることはできない。
一方、5質量%以上のSnを含有した場合、導電率が大きく低下することになる。また、Snの偏析により、Snを含有する低融点の金属間化合物が不均一に生成し、均質化及び溶体化のために熱処理を行った際に、Snを含有する低融点の金属間化合物が残存してしまい、十分な均質化及び溶体化を行うことができなくなる。これにより、熱処理後の冷間加工や熱間加工において割れが発生することになる。また、Snは比較的高価な元素であることから、必要以上に添加した場合には、製造コストが増加することになる。
このような理由から、Snの含有量を、0.1質量%を超えて5質量%未満に設定している。なお、前述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量を、0.1質量%を超えて2質量%未満とすることが好ましい。
Niは、Mg及びSnと共添加することにより、強度を向上させるとともに再結晶温度を上昇させる作用効果を有する元素である。また、Niは、鋳塊内部において偏析する金属間化合物の融点を高くする作用を有していることから、その後の熱処理工程における金属間化合物の溶融を抑制でき、加工性を向上させる効果を有する。ここで、Niの含有量が0.1質量%以下では、その作用効果を奏功せしめることはできない。
一方、7質量%以上のNiを含有した場合、導電率が大きく低下することになる。
このような理由から、Niの含有量を、0.1質量%を超えて7質量%未満に設定している。
MgとSnとを共添加した場合には、これらの化合物である(Cu,Sn)2MgやCu4MgSnの析出物が銅の母相中に分散し、析出硬化によって強度を向上させることができる。
ここで、Mgの含有量とSnの含有量の質量比Mg/Snが0.4未満である場合には、Mgの含有量に比して多くのSnを含有することになる。すると、前述のように、低融点の金属間化合物が生じ、加工性が悪化してしまうことになる。よって、Mgの含有量とSnの含有量の質量比Mg/Snを0.4以上とし、加工性を確保している。
なお、Snを含有する低融点の金属間化合物の残存を抑制して加工性を確実に確保するとともに、Snによる強度向上の効果を確実に奏功せしめるためには、Mgの含有量とSnの含有量の質量比Mg/Snを0.8以上10以下とすることが好ましい。
Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snが0.2未満である場合には、Niの含有量に比して多くのSnを含有することになる。すると、前述のように、低融点の金属間化合物が生じやすくなり、加工性が低下してしまうことになる。
また、Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snが3を超える場合には、Niの含有量が多くなり、導電率が大きく低下してしまう
よって、Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snを0.2以上3以下とし、加工性を確保するとともに、導電率を確保しているのである。
B、Pは、強度及び耐熱性を向上させる元素である。また、Pは、溶解鋳造時において、銅溶湯の粘性を低下させる効果がある。ここで、B、Pの含有量が0.001質量%未満では、その作用効果を奏功せしめることはできない。
一方、B、Pを0.5質量%を超えて含有した場合には、導電率が大きく低下することになる。
このような理由から、B、Pの含有量を、0.001質量%以上0.5質量%以下に設定している。
Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素は、銅合金の特性を向上させる効果を有しており、用途にあわせて選択的に含有させることによって特性を向上させることが可能となる。ここで、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素の含有量が0.01質量%以下では、その作用効果を奏功せしめることはできない。
一方、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素を5質量%を超えて含有した場合には、導電率が大きく低下することになる。
このような理由から、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素の含有量を、0.01質量%以上5質量%以下に設定している。
(溶解鋳造工程)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、これらの元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材及びスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅溶湯は、純度が99.99%以上とされたいわゆる4NCuとすることが好ましい。また、溶解工程では、Mg等の酸化を抑制するために、真空炉、あるいは、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いることが好ましい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法又は半連続鋳造法を用いることが好ましい。
次に、得られた鋳塊の均質化及び溶体化のために熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程において添加元素が偏析で濃縮することにより発生した金属間化合物等が存在することになる。そこで、熱処理を行うことで、これらの偏析及び金属間化合物等を消失又は低減させるために、鋳塊内において、添加元素を均質に拡散させたり、添加元素を銅の母相中に固溶させたりするのである。
この熱処理工程における熱処理条件は、特に限定はないが、500℃から800℃、非酸化性又は還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
熱処理された鋳塊を切断するとともに、熱処理等で生成された酸化膜等を除去するために表面研削を行う。そして、所定の形状へと加工を行う。
ここで、加工方法に特に限定はなく、例えば最終形態が板や条の場合には圧延、線や棒の場合には線引きや押出や溝圧延、バルク形状の場合には鍛造やプレス、を採用することができる。なお、この加工時の温度条件は特に限定はないが、冷間又は温間加工とすることが好ましい。また、加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、20%以上とすることが好ましい。
次に、加工工程によって得られた加工材に対して、低温焼鈍硬化及び析出硬化を行うために、又は、残留ひずみの除去のために、熱処理を実施する。この熱処理条件については、製出される製品に求められる特性に応じて適宜設定することになる。
なお、熱処理条件は、特に限定はないが、温度が150℃から600℃で、10秒から24時間、非酸化性又は還元性雰囲気中で実施することが好ましい。また、熱処理前の加工とこの熱処理とを複数回実施してもよい。
さらに、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量が0.01質量%以上5質量%以下とされているので、Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znといった元素によって、導電率を著しく低下させることなく、銅合金の特性を向上させることが可能となる。
例えば、Mg,Sn及びNi以外の元素を含有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、Mg,Sn及びNi以外の元素については必要に応じて添加すればよい。
また、高強度高導電性銅合金の製造方法の一例について説明したが、製造方法は本実施形態に限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
純度99.99%以上の無酸素銅からなる銅原料を準備し、これを高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。得られた銅溶湯内に、各種添加元素を添加して表1に示す成分組成に調製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約20mm×幅約20mm×長さ約100mmとした。
熱処理後の鋳塊を切断するとともに、酸化被膜を除去するために表面研削を実施した。これにより、厚さ約8mm×幅約18mm×長さ約100mmの素体ブロックを製出した。
この条材に対して、Arガス雰囲気中で表1に記載した温度で1〜4時間の熱処理を実施し、特性評価用条材を作成した。
加工性の評価として、前述の冷間圧延時における耳割れの有無を観察した。目視で耳割れが全くあるいはほとんど認められなかったものを◎、長さ1mm未満の小さな耳割れが発生したものを○、長さ1mm以上3mm未満の耳割れが発生したものを△、長さ3mm以上の大きな耳割れが発生したものを×、耳割れに起因して圧延途中で破断したものを××とした。
なお、耳割れの長さとは、圧延材の幅方向端部から幅方向中央部に向かう耳割れの長さのことである。
(引張強度)
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241の規定にしたがって、室温(25℃)での引張強度を測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
評価結果を表1、表2に示す。
また、Niの含有量が7質量%以上とされた比較例4においては、導電率が9.6%IACSと低い値を示した。
また、Niを含有していない比較例6では、圧延時に大きな耳割れが発生し、圧延の途中で破断した。
さらに、Mgの含有量が4質量%以上とされた比較例9,10についても、冷間圧延時に大きな耳割れが発生し、比較例10では圧延の途中で破断した。
以上のことから、本発明例によれば、引張強度が750MPa,導電率が10%以上の高強度高導電性銅合金を、耳割れ等による加工トラブルなく、製出できることが確認された。
Claims (5)
- Mg;1.0質量%を超えて4質量%未満、Sn;0.1質量%を超えて5質量%未満、Ni;0.1質量%を超えて7質量%未満を含み、残部がCu及び不可避不純物の組成を有し、Mgの含有量とSnの含有量の質量比Mg/Snが0.4以上とされていることを特徴とする高強度高導電性銅合金。
- 請求項1に記載の高強度高導電性銅合金において、
Niの含有量とSnの含有量の質量比Ni/Snが0.2以上3以下とされていることを特徴とする高強度高導電性銅合金。 - 請求項1又は請求項2に記載の高強度高導電性銅合金において、
P、Bのうちの1種以上を含み、その含有する合計量が0.001質量%以上0.5質量%以下とされていることを特徴とする高強度高導電性銅合金。 - 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高強度高導電性銅合金において、
Fe,Co,Al,Ag,Mn,Znのうちの少なくとも1種以上を含み、その含有する合計量が0.01質量%以上5質量%以下とされていることを特徴とする高強度高導電性銅合金。 - 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高強度高導電性銅合金において、
引張強度が750MPa以上、導電率が10%IACS以上とされていることを特徴とする高強度高導電性銅合金。
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