JP5086672B2 - クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法 - Google Patents

クランクシャフト及びクランクシャフトの製造方法 Download PDF

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本発明は、複数の接合部材同士が接合されたクランクシャフト及びその製造方法に係り、特に、疲労強度が向上し、耐摩耗性に優れたクランクシャフト及びその製造方法に関する。
従来から、クランクシャフトは、自動車のエンジンのコンロッドを介してシリンダ内のピストンに接続されており、シリンダ内のピストンの往復動により回転し、エンジンからの車両の駆動力をドライブシャフトへ伝達する部材である。近年、自動車の燃費向上の要求や排気ガス規制の強化から自動車を構成する部材の軽量化が求められており、クランクシャフトも軽量化が要求されている部材の1つである。
例えば、クランクシャフトの軽量化を図る場合に、クランクシャフトの各部分の輪郭形状を小さくし、その部分を熱処理や鍛造加工などを用いて、材料強度を向上させることがある。しかし、上述したように、クランクシャフトはエンジンを構成する基本的な部材であり、エンジン固有の性能を保持することを前提として、クランクシャフトの基本的寸法を大幅に変更することは難しく、前記軽量化を充分に図ることができない。
そこで、クランクシャフトのジャーナル部やピン部の内部に中空部を形成したクランクシャフトが提案されている。その一例として、クランクシャフトを軸方向に沿って区分された半割り構造の接合部材を接合することにより製造されたクランクシャフトが提案されている(特許文献1参照)。該クランクシャフトに接合される接合部材は、接合部材のピン部及びジャーナル部に相当する箇所に凹部が形成されている。そして、前記クランクシャフトは、半割構造の接合部材同士の間に、二層ステンレス鋼または非晶質合金のインサート材を介して、前記接合部材を液相拡散接合することにより製造される。このようにして製造されたクランクシャフトは、ジャーナル部およびピン部の凹部が接合後、中空部を形成するので、中実のクランクシャフトに比べて軽量である。また、クランクシャフトの軸方向沿って二層ステンレス鋼または非晶質合金からなるインサート層が形成されるので、クランクシャフト全体の特性が均一となり、高品質のクランクシャフトを得ることができる。
特開平1−169111号公報
ところで、接合部材同士を接合する場合には、接合部の強度の均一化を図るため、(1)接合部材同士の接合面の表面形状を相互に補完し、(2)接合面の表面粗さを一般的には十点平均粗さRz30μm以下にし、(3)接合面同士を突合わせた際の接合面間の隙間を概ね1mm以下にする必要がある。
しかし、前記特許文献1に記載のクランクシャフトを製造する場合、クランクシャフトは軸方向に沿ってジャーナル部、ピン部、及びアーム部(カウンタウエイト部を含む)などから構成されるため、クランクシャフトの軸方向に沿って区分された接合部材の接合面は、一般的な部材の接合面に比べて複雑な形状となり、かつ、面積も大きい。よって、前記(1)〜(3)の条件を満足する接合部材を製作するにはその加工コストが高くなってしまう。
また、接合部材の強度の均一化を図るためには、接合部材同士の拡散接合の際に、接合面の加熱温度及び接触圧力を全面に均一にすることが重要である。しかし、前記特許文献1に記載の接合部材は、上述したように接合面が複雑かつ大きいので、容易に前記均一な条件で接合することは難しい。
クランクシャフトは、上述したように、ピン部、ジャーナル部、及びアーム部(場合によってはカウンタウエイト部を含むアーム部)などから構成されている。アーム部に接続されるピン部及びジャーナル部の境界部分であるフィレット部は、エンジン駆動に合わせて繰返しの曲げ応力が作用するため、曲げ応力に充分に耐え得る疲労強度を有した材料が選定されるべきである。ピン部又はジャーナル部は、それぞれ、コンロッドを支持する軸受、クランクシャフトを支持する軸受と接触し、さらには、クランクシャフトの剛性を保持する要となる部分であるため、耐摩耗性及び高剛性を有した材料が選定されるべきである。また、アーム部と一体となったカウンタウエイト部は、クランクシャフトの回転時における重量バランスを保つことが目的であるため、要求される材質の特性は低い。このように、クランクシャフトは、軸方向に沿って、配列された部分によって要求される材料特性が相違する。しかし、前記特許文献1に記載のクランクシャフトは、軸方向に沿った半割り構造の接合部材を接合して製造されるため、軸方向に沿って接合部材の材料特性を変えることは難しい。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クランクシャフトの軽量化を安価かつ容易に図ることができ、かつ、軸方向に沿ってクランクシャフトに要求される材料特性を満たすことができるクランクシャフトおよびその製造方法を提供することにある。
前記課題を解決すべく、本発明に係るクランクシャフトの製造方法は、複数の鉄系接合部材同士を接合することによりクランクシャフトを製造する方法であって、該製造方法は、前記接合部材の接合において、前記接合部材として前記クランクシャフトの軸線と交差する面により前記クランクシャフトの形状に合わせて区分された接合部材を用い、該接合部材同士の間に、該接合部材の融点よりも低い低融点接合材を介在させて、前記接合部材同士を液相拡散接合することを特徴としている。
本発明に係るクランクシャフトの製造方法によれば、クランクシャフトの軸線と交差する面において前記クランクシャフトの形状に合わせて区分された鉄系接合部材を用いることにより、特性の異なる鉄系接合部材を接合することができ、軸方向に沿って要求される材料特性に応じたクランクシャフトを製造することができる。例えば、クランクシャフトのピン部及びジャーナル部に相当する接合部材として、これまでの使用していた材料に比べてより摩耗し難く、剛性(例えばヤング率)の高い材料を選定することが可能となる。この結果として、クランクシャフトのピン部及びジャーナル部の耐摩耗性を向上させることができる。また、クランクシャフトの軸線と交差する断面は円形状であるので、前記接合部材の接合面も円形状となるため、接合部材の接合面を均一温度に加熱することが容易となり、かつ、対向させた接合面に均一の圧力を容易に加えることができる。この結果、クランクシャフトの接合部の位置にかかわらず、均一な接合強度を有した接合部を得ることができる。また、上述したように、接合面の形状はシンプルな形状であり、接合面も従来のものに比べて小さいため、安価にかつ精度良くクランクシャフトを製造することができる。
また、接合部材同士の間に、硼素元素を含有した該接合部材の融点よりも低い低融点接合材を介在させて、前記接合部材同士を液相拡散接合することにより、接合面同士が合致した接合部及びその近傍には、固溶元素が拡散した拡散層が形成されることになる。該拡散層は、低融点接合材に含有させる元素によっては母材である鉄系材料にくらべて材料強度が高くすることができるため、クランクシャフトの部分的な強化を図ることが可能となる。
また、接合部材の接合を液相拡散接合により行うので、圧着接合や摩擦接合などにくらべて比較的に低い加圧力で接合できることから、接合部の残留応力や、加圧による接合部材の変形を抑制することができ、接合部材の溶接が困難とされる高合金鋼、耐熱鋼により製作した場合であっても、容易にこれらを接合することができる。
本発明にいう「鉄系接合部材」とは、鉄元素を主材とした接合部材であって、鋼系の接合部材または鋳鉄系の接合部材のいずれであってもよい。鋼系接合部材の場合は、焼入れ、焼き戻しなどの熱処理が施されていてもよく、接合部材の接合面以外の表面を鍛造により硬化させてもよい。たとえば、鋼系接合部材としては、炭素鋼、合金鋼、非調質材、高炭素鋼、軸受鋼、耐熱鋼、あるいは分散粒子を用いた高ヤング率鋼(分散型高剛性鋼(HMS))などがあげられ、後述する液相拡散接合を行うことができるのであれば、その添加される成分、熱処理、表面加工を含む加工方法などは特に限定されるものではない。
本発明にいう「液相拡散接合」とは、低融点接合材を介在させて加圧し、低融点接合材(インサートメタル)を液相線直上の温度に加熱することによって溶融させて、接合部材を接合することをいう。また、液相拡散接合では、接合部材の接合面を加熱すればよいので、高周波誘導加熱により加熱して接合することがより好ましい。このような高周波誘導加熱により、接合面を急速加熱や局所的加熱をすることができるので、より好適な液相拡散接合を行うことができる。また、接合部材には、接合のための位置合わせ用のV溝などの溝部や、段付部が形成されていてもよい。
さらに、本発明にいう「クランクシャフトの軸と交差する面により前記クランクシャフトの形状に合わせて区分された接合部材」とは、製造されるクランクシャフトのジャーナル部の軸芯に沿った線(軸線)と交差する面(接合部材の接合面に相当)において、クランクシャフトの形状に合わせて区分された接合部材のことをいい、接合のしやすさ、軸方向に沿った最適材料の選定を考慮すると、クランクシャフトの形状に合わせて区分される前記交差面は、軸線と垂直に交差する面(該交差面の法線と軸線とが一致するような面)であることが好ましい。
また、接合部材間のインサート材として用いる前記低融点接合材は、箔、粉末、または接合面への鍍金被膜などの形態であってもよく、接合部材間に介在させることができるのであれば特に限定されるものではない。さらに、低融点接合材は、接合部材よりも融点の低い共晶組成を有する材料からなることが好ましく、シリコン(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)などを主材として、硼素(B)またはリン(P)を含有させてもよく、液相拡散接合ができるのであれば、その主材となる元素及び添加される元素は特に限定されるものではない。しかし、より好ましい態様としては、本発明に係る接合部材の製造方法は、低融点接合材として、少なくとも硼素元素を含有したニッケル合金材料を用いることがより好ましい。
このような構成によれば、液相拡散接合の際に硼素元素をクランクシャフトの接合部及びその近傍に拡散させることができる。このように、硼素元素が拡散した接合部及びその近傍(拡散層)は、硼素元素が鉄組織に固溶しているので、焼入れ性が向上する。この結果、拡散層は、それ以外箇所の鉄組織に比べて硬度が高く、疲労強度も高くなるので、クランクシャフトを部分的に強化することができる。さらに、前記低融点接合材は、ニッケル元素を含むので、低融点接合材をニッケル基非晶質合金とすることができ、該非晶質合金とすることにより、さらに好適に液相拡散接合を行うことができる。
前記接合部材に応じたクランクシャフトの接合部の位置は、クランクシャフトの仕様に合わせて適宜選定すればよいが、より好ましい態様としては、本発明に係るクランクシャフトの製造方法は、前記接合による接合部が、接合後における前記クランクシャフトのピン部とアーム部との境界部分、及び/又は、前記クランクシャフトのジャーナル部とアーム部との境界部分となるように、前記接合部材同士の接合を行う。
本発明によれば、接合部が前記境界部分となるように接合すること、すなわち、クランクシャフトのピン部に相当する接合部材とアーム部に相当する接合部材とを接合すること、及び/又は、クランクシャフトのジャーナル部に相当する接合部材とアーム部に相当する接合部材を接合することにより、クランクシャフトの接合部が、クランクシャフトのピン部とアーム部の境界部分、及び/又は、クランクシャフトのジャーナル部とアーム部の境界部分、すなわちクランクシャフトのフィレット部となる。この結果、フィレット部に拡散層が形成されるので、フィレット部の疲労強度を向上させることができる。
さらに、ジャーナル部、ピン部、及びアーム部のそれぞれに相当する接合部材に対して、クランクシャフトの軸方向の要求される材料特性に応じて材料選定を行うことができる。例えば、耐摩耗性が要求されるピン部、及びジャーナル部に相当する接合部材には、高炭素鋼又は軸受鋼(たとえばJIS規格:SUJ2など)を用いることができ、耐摩耗性よりも高い剛性が要求されるピン部及びジャーナル部には、分散粒子を用いた高ヤング率鋼(分散型高剛性鋼(HMS))を用いることがより好ましい。さらに、バランスのみが目的となるカウンタウエイト部を含むアーム部では、低コストの鋼(たとえばJIS規格:SS400等)を用いることにより、クランクシャフトの製造コストの低減を図ることができる。なお、本発明にいう「アーム部」とは、クランクシャフトのアーム部にカウンタウエイト部を含む部分もアーム部に含まれる。
また、別の具体的態様として、本発明に係るクランクシャフトの製造方法は、前記接合による接合部が、前記クランクシャフトのピン部及び/又は前記クランクシャフトのジャーナル部の一部となるように、前記接合部材同士の接合を行うことがより好ましい。
本発明によれば、前記接合部がピン部及び/又はジャーナル部の一部となるように接合すること、すなわち、ピン部及び/又はジャーナル部の形状となるように区分された接合部材同士を接合することにより、クランクシャフトのピン部及び/又はアーム部に拡散層が形成されるので、ピン部及び/又はアーム部の耐摩耗性を向上させ、クランクシャフトの長寿命化を図ることができる。
さらに、本発明に係るクランクシャフトの製造方法は、前記接合部材として、中空部材を用いることを特徴とする。本発明によれば、接合部材に中空部材を用いることにより、クランクシャフトの軽量化を図ることができる。また、前記中空部材は、前記クランクシャフトの軸方向に沿って一端または両端に開口を有した部材、開口を有しない密閉空間を有した部材がより好ましい。
また、クランクシャフトの製造方法において、前記液相拡散接合後、ピン部及び/又はジャーナル部を高周波誘導加熱により焼入れしてもよく、クランクシャフトを加熱することによりクランクシャフト全体の焼入れを行ってもよい。該焼入れを行うことにより、クランクシャフトのピン部及び/又はジャーナル部の耐摩耗性を向上させ、クランクシャフトのフィレット部の疲労強度を向上させることができる。また、液相拡散接合直後に急速冷却してもよい。さらに、前記液相拡散接合後、クランクシャフトに浸炭焼入れ、窒化処理等の熱処理を行ってもよく、クランクシャフトのフィレット部をロール加工により圧縮残留応力を付与してもよい。このような処理により、フィレット部の疲労強度をさらに向上させることができる。
さらに、本発明として、好適なクランクシャフトをも開示する。本発明に係るクランクシャフトは、複数の鉄系接合部材により接合されたクランクシャフトであって、該クランクシャフトは、該クランクシャフトの軸線と交差する面において前記接合部材同士が接合された接合部を有し、該接合部及びその近傍には、固溶元素が拡散した拡散層が形成されていることを特徴とする。
このように構成されたクランクシャフトは、クランクシャフトの軸線と交差する面に、接合部を有し、該接合部及びその近傍には軸方向に層厚みを有した拡散層が形成されることになるので、クランクシャフトの強度及び耐摩耗性を向上させることができる。なお、本発明でいう「固溶元素」とは、鉄に固溶し拡散可能な元素であり、このような固溶元素は、上述したように、接合部材同士の接合時の接合材に含有することにより、接合部材の接合面から拡散させることができる。
本発明に係るクランクシャフトは、前記固溶元素に、少なくとも硼素元素を含むことがより好ましい。本発明によれば、固溶元素に少なくとも硼素元素を含むことにより、拡散層に硼素元素を含有させたことにより、拡散層の焼入れ性が向上し、接合部及びその近傍に形成された拡散層の強度を向上させることができる。
本発明に係るクランクシャフトは、前記接合部が、前記クランクシャフトのピン部とアーム部との境界部分及び/又は前記クランクシャフトのジャーナル部とアーム部との境界部分にあることがより好ましい。このように構成されたクランクシャフトは、前記境界部分すなわちクランクシャフトのフィレット部に前記拡散層が形成されるので、フィレット部の疲労強度を向上させることができる。
また、発明に係るクランクシャフトは、前記接合部が、前記クランクシャフトのピン部及び/又は前記クランクシャフトのジャーナル部にあることがより好ましい。このように構成されたクランクシャフトは、クランクシャフトのピン部及び/又はジャーナル部の表面の一部に拡散層が形成されるので、これら部分の耐摩耗性を向上させることができる。
また、本発明に係るクランクシャフトには、中空部が形成されていることがより好ましい。このように構成されたクランクシャフトは、内部に中空部を有するので、従来の中実のクランクシャフトに比べて、軽量である。また、本発明にいう中空部とは、クランクシャフトの内部に形成された中空空間のことをいい、該中空空間は、クランクシャフト内の密閉空間であってもよく、その一部が開口した空間であってもよい。
本発明によれば、クランクシャフトの軽量化を安価かつ容易に図ることができ、かつ、軸方向に沿ってクランクシャフトに要求される材料特性を満たすようなクランクシャフトを得ることができる。
以下に、図面を参照して、本発明に係るクランクシャフト及びその製造方法についての一例として、2つの実施形態について説明する。図1は、第一実施形態に係るクランクシャフトの側面図であり、図2は、その製造方法を説明するための図であり、図1のA部の接合を説明するための図である。図3は、図1に示すクランクシャフトを軸方向に沿って切断したジャーナル部の接合面及びその近傍の断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るクランクシャフト1は、鉄系材料から製造されたクランクシャフトであって、4サイクルエンジン用クランクシャフトである。クランクシャフト1は、ジャーナル部11、アーム部12、及びピン部13を少なくとも含んでいる。ジャーナル部11とピン部13は、アーム部12により連結されており、アーム部12にはカウンタウエイト部14が形成されている。
また、クランクシャフト1のジャーナル部11は、後述する複数の接合部材10A,10B,…により接合面同士が接合された接合部31を有しており、該接合部31は、クランクシャフト1のジャーナル部11の軸芯に沿った線(軸線)Lに対して直角に交差する面(後述する図2の接合面30a,30b…)に形成されている。また、ピン部13も同様に、接合面同士が接合された接合部31を有している。そして、図3に示すように、接合部31及びその近傍には、接合部31から軸方向に沿って硼素元素が拡散した拡散層50が形成されている。
クランクシャフト1の製造方法を以下に示す。図2に示すように、まず、接合部材10A,10B,10C…を製作する。接合部材の材料として、炭素鋼、軸受鋼などの鉄系材料を準備し、接合部材10A,10B,10C…としてクランクシャフト1の軸線Lに対して直角に交差する面により、クランクシャフト1の形状に合わせて区分(分割)された接合部材を製作する。具体的には、ジャーナル部の一部11aを含む接合部材10A、ジャーナル部の一部11aとアーム部(カウンタウエイト部14を含む)12とピン部の一部13aとが複合した接合部材10B,10C…を機械加工により製作する。
次に、接合部材10A,10B,10C,…を順次接合するため、前記鋼材の融点よりも低い低融点接合材(インサートメタル)として、接合面の形状(具体的にはジャーナル部11の断面形状又はアーム部12の断面形状)に合わせた、硼素元素含有のニッケル非晶質合金箔60を準備する。
そして、接合部材10Aの接合面30aと接合部材10Bの接合面30bが一致するように、接合部材同士10A,10B間にニッケル非晶質合金箔60を介在させ、接合部材同士10A,10Bを液相拡散接合により接合する。具体的には、接合面30a,30b同士を合わせて、接合部材同士10A,10Bに所定の面圧となるように加圧し、ニッケル非晶質合金の液相線直上の温度に、接合部材10A,10Bを加熱する。加熱方法としては、高周波誘導加熱により、接合面30a,30bおよびその近傍を局所的に加熱する。次に、接合後直ちに室温まで急冷する。同様にして、残りの接合部材10C,…も、順次液相拡散接合することにより、クランクシャフト1を得ることができる。
このようにして製造されたクランクシャフト1は、拡散層50をジャーナル部11及びピン部13の一部(接合部31,32およびその近傍)に有することになる。拡散層50は、硼素元素が拡散しているので、ジャーナル部11及びピン部13の表面硬さは向上する。この結果、ジャーナル部11及びピン部13の耐摩耗性が向上し、クランクシャフト1の長寿命化を図ることができる。
また、クランクシャフト1を前記に示す製造方法において、接合面30a,30b…は、従来の方法に比べて形状が円形でありかつ面積も小さいので、接合面に均一の加圧及び加熱を容易に与えることができ、均質な接合強度を有した接合部を形成することが可能である。
また、第一実施形態のジャーナル部11またはピン部13を液相拡散接合する際には、接合部材として図4(a),(b)に示すような中空部材を用いてもよい。例えば、ピン部またはジャーナル部に相当する一対の接合部材として、図4(a)に示すように、クランクシャフトの軸方向に沿って、両端に開口を有した中空部材10Hを用い、接合面に合わせたリング状のニッケル非晶質合金箔60を用いて、接合部材10H同士を液相拡散接合してもよい。
また、図4(b)に示すように、接合部材として、クランクシャフトの軸方向に沿って、一端が開口した中空部材10Jを用い、円板状のニッケル非晶質合金箔60を用いて、中空部材10Jを液相拡散接合してもよい。中空部材を用いることにより、クランクシャフトのジャーナル部またはピン部に中空部が形成され、クランクシャフトの軽量化を図ることができる。
図5は、第二実施形態に係るクランクシャフトの側面図であり、図6は、その製造方法を説明するための図であり、図5のB部の接合を説明するための図である。第二実施形態のクランクシャフト2が、第一実施形態のクランクシャフト1と相違する点は、接合部の位置である。なお、第一実施形態のクランクシャフト1の部分と同じ機能を有する第二実施形態のクランクシャフト2の部分は同じ符号を付して、その説明は省略する。
具体的には、クランクシャフト2は、ジャーナル部21とアーム部12の境界部分(フィレット部)、及び、ピン部23とアーム部12との境界部分(フィレット部)に、接合部33,34を有している。具体的には、接合部33,34は、クランクシャフト2の軸線Lと交差する面(接合面)において、後述する接合部材20A,20B,20C,20D…が接合された箇所であり、接合部33,34及びその近傍には、第一実施形態と同様に硼素元素が拡散した拡散層が形成されている。
このようなクランクシャフト2の製造方法を以下に示す。図4に示すような、ジャーナル部に相当する接合部材20A、カウンタウエイト部14を含むアーム部12に相当する接合部材20B、ピン部に相当する接合部材20C、…等を製作する。なお、これら接合部材20A,20B,20C,…は、接合時にクランクシャフト2の軸線Lと直角に交差する面に一致するような接合面(40a,40b,40c,…)を有している。そして、これらの接合部材に対して順次、図6に示すように、上述した方法と同じ方法で、液相拡散接合を行う。
このようにして製造されたクランクシャフト2は、接合部33,34及びその近傍に、硼素元素が拡散した拡散層が形成され、該拡散層はフィレット部(境界部分)と一致する。この結果、フィレット部の疲労強度が向上し、クランクシャフト2の長寿命化を図ることができる。
また、クランクシャフト2を前記に示す製造方法により、クランクシャフト2のピン部、ジャーナル部、及びアーム部に相当する接合部材を用いたので、これらの接合部材の材質を適宜選定すれば、軸方向に沿って所望の材料特性を有したクランクシャフト2を得ることができる。
上記2つの実施形態に基づいて以下に実施例を示す。
(実施例1)
<接合部材>
接合部材の材料として、表1に示す成分からなるSAE1541相当の鋼Aを準備した。次に、第一実施形態に示すように(図2参照)、クランクシャフトの接合部の位置がピン部及びジャーナル部の一部となるように(表2参照)、接合部材を熱間鍛造と機械加工により製作した。なお、接合部材の総質量(クランクシャフトの総質量)が、10.3kgとなるように、ピン部及びジャーナル部に相当する接合部材に中空部が形成されるように、軸方向に沿って機械加工を行った。
Figure 0005086672
Figure 0005086672
<接合方法>
厚さ30μmの硼素元素を含有したニッケル非晶質合金箔を準備した。そして、表3に示すように、窒素ガス雰囲気下で、高周波誘導加熱により接合部材を加熱して、接合温度を1200℃とし、接合部材同士の接合圧力を15MPaとし、この状態を5分間保持することにより、接合部材同士の液相拡散接合を行い、接合後の部材を室温まで冷却した。
Figure 0005086672
<評価試験>
引張試験及び単体曲げ疲労試験:クランクシャフトの接合部が試験片の中央位置に一致するように、平行部分が直径8mm、長さ60mmとなるように試験片を切り出し、引張試験と、単体曲げ疲労試験とを行った。この結果を以下の表4に示す。
硬さ試験:ビッカース硬度計により、ピン部とジャーナル部の平均硬さ、フィレット部の平均硬さを測定した。軸方向に沿って3mm間隔で、ピン部、ジャーナル部のそれぞれ2箇所の硬さを測定し、これらの平均値をピン部とジャーナル部の平均硬さとした。フィレット部2箇所の周方向4点の硬さを測定し、フィレット部の平均硬さとした。また、接合部を中心に、ジャーナル部における軸方向に沿って硬さの測定を行った。この結果を図4及び図7に示す。さらに、単体曲げ疲労強度とフィレット部の平均硬さとの関係を図8に示す。
元素分析:EPMA分析により、接合部及びその近傍の硼素元素を確認した。
Figure 0005086672
(実施例2及び3)
実施例1と同じようにして、クランクシャフトを製作した。実施例1と相違する点は、表3に示ように、液相拡散接合における接合条件が異なる点である。そして、これらのクランクシャフトに対して、実施例1と同じように、引張試験、単体曲げ疲労試験、硬さ試験を行った。この結果を表4に示す。
(実施例4及び5)
実施例1と同じようにして、クランクシャフトを製作した。実施例4及び5が共通して、実施例1と相違する点は、表2に示すように、接合部の位置が、ジャーナル部とアーム部の境界部分(フィレット部)、及び、ジャーナル部とアーム部の境界部分(フィレット部)となるように、ピン部に相当する接合部材と、ジャーナル部に相当する接合部材と、カウンタウエイト部を含むアーム部に相当する接合部材と、を製作し(図6参照)、この接合部材を表3に示す接合温度で液相拡散接合した点が相違する。実施例4は、ピン部及びジャーナル部に相当する接合部材として、表1に示す鋼材B(JIS規格:SUJ2相当)を用いた点が実施例1とさらに相違する。そして、これらのクランクシャフトに対して、実施例1と同じように、引張試験、単体曲げ疲労試験、硬さ試験を行った。この結果を表4に示す。
(比較例1及び2)
実施例1と同じ材質(鋼材A)を用いてクランクシャフトを製造した。比較例1及び2が共通して、実施例1と相違する点は、表2に示すように、接合部の位置がクランクシャフトの軸方向に沿った位置となるように、軸方向に沿った半割り構造の接合部材を製作した点である。実施例1と同じようにして、これらの接合部材を接合した。なお比較例1は、接合条件を大気雰囲気とした点が、実施例1とさらに相違する。これらのクランクシャフトに対して、実施例1と同じように、引張試験、単体曲げ疲労試験、硬さ試験を行った。この結果を、表4に示す。
(比較例3及び4)
実施例1と同じ材質(鋼材A)を用いてクランクシャフトを製造した。実施例1及び2が共通して、実施例1と相違する点は、表2に示すように、液相拡散接合を行わず、熱間鍛造と機械加工により製作した点である。そして、これらのクランクシャフトに対して、実施例1と同じように、引張試験、単体曲げ疲労試験、硬さ試験を行った。この結果を表4に示す。
(結果1)
表4から、実施例1〜5の引張強度は、比較例1〜4のものに比べて高く800MPaを超えていた。また、実施例1〜5の試験片は接合部における破断はなかったが、比較例1,2の試験片は、接合部における破断があった。
(結果2)
元素分析の結果から硼素元素が拡散して固溶していることが確認され、図7に示すように、接合部及びその近傍の表面硬さは高くなっていた。また、実施例1〜5のピン部及びジャーナル部の平均硬さは、比較例1〜3のものに比べて、ビッカース硬度さでHv10以上高くなっていた。実施例1〜3及び5のフィレット部の平均硬さは、比較例1〜4のものに比べて高くなっていた。
(評価1)
結果1から、実施例1〜5のように、接合部材としてクランクシャフトの軸線と交差する面によりクランクシャフトの形状に合わせて区分された接合部材を用いた場合には、比較例1,2に比べて、接合面の面積が小さく、形状も円形とシンプルであるため、接合面を均一に加圧及び加熱することができ、接合部の強度が均質になり、接合部の信頼性が高いと考えられる。また、実施例4のように、ジャーナル部及びピン部として部分的に耐摩耗性の高い鋼材を接合させ、クランクシャフトを軸方向に沿って部分的に強化することができると考えられる。
(評価2)
結果2から、実施例1の接合部及びその近傍の平均硬さが高くなったのは、液相拡散接合時に、接合面から硼素元素が拡散し、接合部及びその近傍に、硼素元素が拡散した層が形成されたことによると考えられる。そして、拡散層が形成されることにより、比較例3,4に比べて、実施例1〜5の試験片の方が、引張強度が高くなったと考えられる。さらに、実施例1〜5のジャーナル部及びピン部の硬さは、比較例1〜3のものに比べて高いので、実施例1〜5のジャーナル部及びピン部は、比較例1〜3のものに比べて、優れた耐摩耗性を有していると考えられる。また、実施例1〜3及び5のフィレット部は硼素元素の拡散層が形成されているので、比較例5のロール加工をしたフィレット部の硬さよりも高くなったと考えられる。
(評価3)
図8から、フィレット部の平均硬さの上昇に伴い疲労強度が上昇しているので、拡散層をフィレット部に形成させることにより、クランクシャフトの疲労強度が上昇すると考えられる。
以上、本発明に係るクランクシャフトの2つの実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
たとえば、第一実施形態では、接合部の位置は、ピン部及びジャーナル部、第二実施形態では、接合部の位置は、ピン部とアーム部の境界部分及びジャーナル部とアーム部の境界部分としたが、接合部が、クランクシャフトの軸線と交差する面となるのであれば、特にこれらの位置に限定されるものではなく、これらの位置を組み合わせてもよい。
また、第一実施形態及び第二実施形態では、すべてのアーム部にカウンタウエイト部が形成されていたが、回転時のクランクシャフトの振れ等が解消することができるのであれば、すべてのアーム部にカウンタウエイト部が形成される必要はない。
第一実施形態に係るクランクシャフトの側面図。 図1のA部の液相拡散接合を説明するための図。 図1に示すクランクシャフトを軸方向に沿って切断したジャーナル部の接合面及びその近傍の断面図。 他の接合部材とその接合方法を説明するための図。 第二実施形態に係るクランクシャフトの側面図。 図5のB部の液相拡散接合を説明するための図。 実施例1の接合部及びその近傍の硬さを測定した結果を示す図。 フィレット部の表面硬さと疲労強度の関係を示した図。
符号の説明
1:クランクシャフト、2:クランクシャフト、10A〜10C:接合部材、10H,10J:中空部材、11:ジャーナル部、12:アーム部、13:ピン部、20A〜20C:接合部材,21:ジャーナル部、23:ピン部、30a〜30b:接合面、31〜34:接合部、50:拡散層、60:ニッケル非晶質合金箔(低融点接合材),L:軸線

Claims (6)

  1. 複数の鉄系接合部材同士を接合することによりクランクシャフトを製造する方法であって、
    該製造方法は、前記接合部材の接合において、該接合部材として前記クランクシャフトの軸線と垂直に交差する面により前記クランクシャフトの形状に合わせて区分された接合部材を用い、該接合部材同士の間に、接合部材の融点よりも低い低融点接合材を介在させて、前記接合部材同士を液相拡散接合するものであり、
    前記低融点接合材として少なくとも硼素元素を含有したニッケル合金材料を用い、
    前記接合による接合部が、接合後における前記クランクシャフトのピン部とアーム部との境界部分、及び/又は、前記クランクシャフトのジャーナル部とアーム部との境界部分となるように、前記接合部材同士の接合を行うことを特徴とするクランクシャフトの製造方法。
  2. 前記接合による接合部が、前記クランクシャフトのピン部及び/又は前記クランクシャフトのジャーナル部の一部となるように、前記接合部材同士の接合を行うことを特徴とする請求項に記載のクランクシャフトの製造方法。
  3. 前記接合部材として、中空部材を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のクランクシャフトの製造方法。
  4. 複数の鉄系接合部材により接合されたクランクシャフトであって、
    該クランクシャフトは、該クランクシャフトの軸線と垂直に交差する面において前記接合部材同士が接合された接合部を有しており、該接合部及びその近傍には、固溶元素が拡散した拡散層が形成され、
    前記拡散層は、前記固溶元素として、少なくとも硼素元素を含み、
    前記接合部は、前記クランクシャフトのピン部とアーム部との境界部分及び前記クランクシャフトのジャーナル部とアーム部との境界部分にあることを特徴とするクランクシャフト。
  5. 前記接合部は、前記クランクシャフトのピン部及び/又は前記クランクシャフトのジャーナル部にあることを特徴とする請求項に記載のクランクシャフト。
  6. 前記クランクシャフトには、中空部が形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のクランクシャフト。
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