JP3629184B2 - 高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法 - Google Patents

高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液相拡散接合を用いた金属材料の接合方法に関し、特に金属材料の熱影響部を含めた継ぎ手の靭性、耐力を高める液相拡散接合継ぎ手の接合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液相拡散接合は、接合しようとする材料の間に、被接合材料よりも融点が低い合金を介在させ、このときの低融点合金の主要組成をNiあるいFeと、BまたはPとし、このうち材料中での拡散係数が比較的大きなBまたはPが被接合材料中に拡散することで溶融金属中のBまたはPの含有量が低下し、溶融金属( 接合用合金) の融点が上昇して、等温凝固することで、均質かつ残留応力のない接合継ぎ手を得る技術である。拡散律速の等温凝固過程においては、多くの場合、接合金属の化学組成の自由度が、接合金属を非晶質構造とすることで高いことから、通常の鋼材に加えてステンレス鋼、高合金鋼、Ni基合金鋼、接合金属の種類の選定によってはTiやその他の活性金属さえも接合できる可能性を有し、さらにこれら同種の鋼材継ぎ手だけでなく、異材同士の継ぎ手も形成可能な、汎用性の高い接合技術である。
【0003】
液相拡散接合の接合過程は、上記のような等温凝固過程が重要であり、この等温凝固過程を確実に実施することで継ぎ手の健全性が高まり、またその条件を適宜選択して継ぎ手近傍母材の特性劣化を溶接よりも少なくする技術に関して研究が進められてきた。たとえば、米国特許第4,144,058号には等温凝固課程を確実に実施するための接合用合金の化学組成に関する技術の開示があり、また特開平5−318143号公報には一般的によく知られている液相拡散接合の接合条件を、工業的な適用を仮定した上で制限する技術が開示されている。また、接合条件としては接合応力、接合温度、接合時間などが重要であるが、これらの最適値を適宜選択することで、最終的な継ぎ手形状を評価指標として用いようとする技術が特開平9−262684号公報に開示されている。
【0004】
しかし、確かに液相拡散接合の等温凝固温度は、従来の一般的な溶接温度である3000℃に比較して低いものの、たとえば鋼材の変態点Ac3 を確実に超える温度であって、被接合材料の接合熱影響部は必ず変態点以上に曝される部位が存在することになる。そして、等温凝固過程は通常30秒から数分、場合によっては数十分を要するため、この間の被接合材料の熱影響部における結晶粒の粗大化は必然であり、かつ大きい。一例では、通常の構造用炭素鋼の場合、強度が400MPa程度のものでは、特段の析出物を第2相として含有しないため、このような長時間の熱影響によって継ぎ手の熱影響部では、いわゆる旧オーステナイト粒径は1mmを超える場合があることが、本発明者らの研究によって明らかとなった。
【0005】
鋼材の結晶粒粗大化は、その成長を抑制するか、あるいは制御冷却によって結晶粒内にさらなる2次組織を形成し、いわゆる有効結晶粒径を小さくする方法によって防止することができる。これは、鋼材製造技術においては一般的な知識であり、またそのための技術が特開平1−111820号公報に結晶粒粗大化防止技術として開示されており、また接合後の熱処理は、通常の溶接継ぎ手において、ポストノルマ技術として公知である。結晶粒粗大化防止のために、被接合材料の化学成分を制御して、結晶粒の移動を防止するピン止め効果を持つ炭化物や窒化物を析出させる技術は確かに有効ではあるものの、被接合材料の化学成分に、規制上あるいは材料コストに制限がある場合にはこれを用いることができない。特に、大規模の構造体建設あるいは建築物造成においてはこの傾向が著しい。従って、その様な場合では鋼材の化学成分を任意に変更できないため、接合後の熱処理技術で継ぎ手特性を向上させるしかない。
【0006】
ところが、接合を終了した後に再加熱し、これを変態点以上に短時間加熱して冷却するには、通常の溶接技術では溶接機を撤去した後に専用の加熱装置を導入して実施しなければならず、工程が増えるだけでなく、製造コストが大幅に増加してしまう。例えば、このような溶接後熱処理を必須とする部材の組立によって構成される大規模火力発電所の水管ボイラにおいては、建造コストの実に半分以上が溶接とその後の熱処理によって占められることとなる。この様な部位に液相拡散接合を適用することは、工程省略あるいは人件費削減の観点から、意義深いことではあるものの、溶接継ぎ手の耐力および靭性低下は、設計そのものの変更を余儀なくし、かえって建設コストの上昇を招く可能性があった。また、液相拡散接合においては、必然的に接合後熱処理が必要となるが、液相拡散接合の熱影響部は、高温保持時間が比較的長いことから従来溶接に対して10倍以上の体積を有していた。
【0007】
しかも、この粗粒化による機械的特性、具体的には靭性および耐力の低下を極力低減するためには、最も基本的には接合後の冷却を加速し、2次組織を内部に生成せしめることが有効であるが、通常の溶接継ぎ手の急冷の概念をそのまま適用するだけでは広い熱影響部の影響を十分に低減することは困難である。靭性および耐力低下が問題となるほどに組織が変化した熱影響部の幅を正確に把握し、その回復が継ぎ手強度を回復させるに足る体積を組織改善する必要がある。ところが、制御冷却による組織改善は、当然ながら被接合材料の化学成分の影響を強く受け、さらに接合金属近傍の熱影響部ではBまたはP等の液相拡散接合で頻繁に用いられる融点降下元素であり拡散元素が拡散し、かつ高濃度に存在するため、被接合材料の熱処理応答性が連続的にかつ複雑に変化している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記のような従来技術が有する問題点、すなわち液相拡散接合の等温凝固過程において、必然的に生成する、従来溶接技術に比較して遙かに体積の広い溶接熱影響部の継ぎ手特性に与える影響、具体的には主に靭性と耐力に影響する有効結晶粒径を、化学組成の異なる金属材料に対して広い範囲で適切に制御可能な、靭性と耐力に優れた継ぎ手を得ることのできる液相拡散接合継ぎ手の接合方法に関する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明においては、種々の化学成分を有する鋼材について、液相拡散接合後の冷却速度を次式によって決定する値以上にとることで、被接合材料の熱影響部組織の有効結晶粒径の減少、具体的には2次結晶組織の導入を図る。
V(℃/S)=3/(9×%C+1.5×%Si+0.3 ×%Mn+2 ×%Cr+0.5 ×%Mo+4 ×%N)
また、さらなる結晶組織制御を実施するために、制御冷却後引き続いて再加熱し、変態点を有する材料ではAc3 点からAc3 +200℃の温度範囲に、変態点がない材料では900 〜1200℃の温度で1秒以上保持し、さらに引き続く冷却を上記の式で求まる値以上の冷却速度で制御冷却する。
【0010】
加えて、以上の技術を工業的に確実に、かつ簡便に実施するための方法として、好ましくは、高周波誘導加熱コイルなどを用いて継ぎ手部位を接合後に再加熱する過程において、再加熱の範囲を、接合時の熱影響部、実質的には液相拡散接合時の熱影響によって被接合材料のAc1 点以上の温度に1秒以上加熱されていた部位の体積の70%以上を再加熱することで継ぎ手としての靭性、耐力低下を防止し、更に、接合時の加熱あるいは保持および制御冷却後の再加を、高周波誘導加熱を用いて行い、誘導電流を生起させるための励起コイルを被接合材料および液相拡散接合継ぐ手近傍に複数配置し、これらを独立した制御機構下におくことで、上記70%の必要加熱体積を確保する。また、製造コスト低減には液相拡散接合雰囲気を酸化雰囲気下で実施できることが重要であるから、接合に使用するインサートメタルに、Vを1原子%以上含有させることで、雰囲気制御を特段に必要としない靭性と体力に同時に優れた液相拡散接合継ぎ手を得ることが可能となる。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、実際に本発明を実施するにあたっての具体的な形態を詳述するとともに、本発明についての制限あるいは条件を決定した技術的理由を説明する。
本発明者らは液相拡散接合継ぎ手の熱影響部に関して研究を進め、液相拡散接合時に生起する接合熱影響部の幅がきわめて広く、また粗粒化が著しいこと、加えてこの粗粒組織の有効結晶粒径を減ずるためには第一に、接合後の冷却を制御することで組織的過冷却を生じせしめなければならないことを見いだした。ただし、既に記したごとく、通常の溶接継ぎ手の急冷の概念をそのまま適用するだけでは広い熱影響部の影響を十分に低減することは困難であり、靭性および耐力低下が問題となるほどに組織が変化した熱影響部の幅を正確に把握し、その回復が継ぎ手強度を回復させるに足る体積を、組織改善する必要がある。ところが、制御冷却による組織改善は、当然ながら被接合材料の化学成分の影響を強く受け、さらに接合金属近傍の熱影響部ではBまたはP等の液相拡散接合で頻繁に用いられる融点降下元素であり拡散元素が拡散し、かつ高濃度に存在するため、被接合材料の熱処理応答性が連続的にかつ複雑に変化している。従って、これらの影響を総合的に勘案し、最適な冷却条件を求めることは熱影響部の特性に対する信頼性を高めるだけでなく、過剰な冷却能力を有する冷却装置を導入することによる製造コスト上昇を抑制することができる。
【0012】
液相拡散接合するに際し、対象となる各種鋼材にとって最適な制御冷却条件は、次式に示す速度以上であることを、本発明者らは実験的に見いだした。すなわち、
V(℃/S)=3/(9×%C+1.5×%Si+0.3 ×%Mn+2 ×%Cr+0.5 ×%Mo+4 ×%N)・・・(1)
上記(1)式の適用範囲は、上記化学成分を有する鋼材に限り、変態点を有しないオーステナイト鋼などについても組織改善に有効である。
【0013】
この限界冷却速度式は、以下に示すような実験によって求めた。強度350MPaの炭素鋼から700MPaの高強度炭素鋼および高炭素鋼、さらには1〜3%のCrを含有する、いわゆるCrMo鋼、9%Cr鋼、13%Cr鋼、18%Crフェライト系ステンレス鋼、SUS304、310、316、340等のステンレス鋼、2相鋼について、直径10mm、長さ100mmの丸棒試験片の端面をRmax=10μmに機械加工して接合面となし、これら一対を接合試験片対とすることで、図1に示すようなインストロン型の加圧装置に高周波誘導コイルを配した液相拡散接合実験装置で、表1に示すような組成を有する液相拡散接合用合金箔を用いて、液相拡散接合実験を実施した。液相拡散接合温度は、被接合材料および接合用合金箔の組成によらず、1200℃で一定とし、保持時間は30〜3600秒の間の値を適宜選んだ。接合後の冷却は、Heガスによる急冷で実施し、高周波誘導加熱との併合で、50℃/秒から0.01℃/秒まで種々に変更した。また、比較のために接合終了後、放冷した試料を作成し、同様に評価した。図2は、接合後の冷却速度と、液相拡散接合熱影響部内の、接合線から10mm離れた位置における有効結晶粒径の関係を示す図である。ここで有効結晶粒径とは、材料の大傾角粒界の平均直径であり、フェライト−パーライト組織ではフェライト粒径、マルテンサイト組織またはベイナイト組織の場合にはブロック粒径、オーステナイト組織の場合にはオーステナイト粒径をそれぞれ表すものである。有効結晶粒径が50μm以下の場合に、接合前の被接合材料とほぼ同等の靭性、耐力が得られることが経験的に判明しているため、有効結晶粒径としての閾値を50μmとした。
【0014】
【表1】
Figure 0003629184
【0015】
図2から明らかなように、有効結晶粒径50μm以下を達成するためには、各種の鋼材毎に限界冷却速度が異なる。そこで、これを一般化するために、各鋼の主要構成元素と限界冷却速度を重回帰分析し、各主要構成元素の関数として必要冷却速度を求めた。この必要冷却速度を求める式が、前述したような式(1)である。本実験式は、従来の知見と異なり、液相拡散接合継ぎ手に特有で、かつ広範囲な化学成分の鋼材に対して、接合後冷却速度を制御する目標値を与える工業的に重要な知見である。
【0016】
また、冷却の機会は、接合だけを考える場合、一度しかないため、その改善には限界があるが、引き続き後熱処理によって更なる組織改善を施すことも可能であり、かつ靭性と耐力改善には有効な技術であることが、本発明者らのさらなる研究によって明らかとなった。この後熱処理時の冷却速度もまた継ぎ手特性制御には重要であるが、冷却条件は既出の式で求まる値以上の速度で冷却すれば必要かつ十分であることを、同様に実験的に確認した。この時の最高加熱温度は、もとより接合熱影響部の組織改善を目的としたものであるから、鋼種にも依存するが、結晶粒の粗大化を再び招聘するような高温には、たとえ短時間であっても加熱してはならない。従って、その上限温度をAc3 変態点以上でかつAc3 変態点+200℃をフェライト系材料において規定した。なお、変態点を持たないフェライト系材料と、オーステナイト系材料では、最高加熱温度の目安がないが、実質的に炭素の拡散が十分に生じない、数秒から数十秒の熱処理を想定することより、900 から1200℃の範囲内であることが望ましい。
【0017】
ところで、全く同一の高周波誘導加熱コイルを液相拡散接合と、その後の再熱処理に適用する場合、被接合材料の接合熱影響部体積は、当然高温での保持時間に比例して増大する。液相拡散接合の保持時間は工業的には30秒〜数時間であり、これに対して再加熱時の保持時間は、保持温度にも依存するものの通常数秒〜数十秒となることが殆どである。すなわち、液相拡散接合と後熱処理を同一コイルで実施する場合、後熱処理によって目的とするAc3 変態点以上の温度に再加熱される部位は、多くの場合液相拡散接合の熱影響部幅よりも小さくならざるを得ない。材料特性、液相拡散接合条件、使用するコイル幅によっては、この差異は減少するが、大小関係が逆転することはあり得ない。しかし、結晶粒の粗大化した組織は、その幅が狭ければ、通常の溶接継ぎ手に見られるごとく、周囲の組織の拘束効果によってこの粗粒組織の影響が継ぎ手特性に顕在化しない場合がある。
【0018】
そこで、後熱処理を実施する際の、組織改善体積についても検討した。接合後の継ぎ手から、評点間の直径が6mmの丸棒引張り試験片を採取し、引張り試験を実施して、継ぎ手の0.2%耐力を測定して、接合前の母材の引張り耐力との比を測定した。また、接合時及びさらに熱処理後の継ぎ手断面を光学顕微鏡で観察し、接合時の接合線と直角な方向の熱影響部の長さと、その後、熱影響部を熱処理により再結晶して組織改善した部分の長さを測定し、この両者の値に、継ぎ手部の厚み(板厚)及び接合部の長さを乗じて、元の熱影響部体積及び改善組織体積をそれぞれを求めた。図3には、(改善組織体積)/(元の熱影響部体積)×100%を組織改善体積率と定義し、組織改善体積率と熱処理後の耐力の継ぎ手効率の関係を示す。後熱処理によって改善組織体積率が70%を超えると、継ぎ手の0.2%耐力は、測定結果のばらつきの範囲内で、母材と同等になることが明らかである。従って、後熱処理によって組織を改善する必要がある熱影響部体積は、液相拡散接合時の熱影響部体積に対して、百分率で70%と規定した。
【0019】
しかしながら、接合継ぎ手の粗粒化組織を後熱処理で改善する際、その改善組織体積を安定して70%とできる条件が、液相拡散接合の条件と被接合材料の材質、さらに具体的には接合時間を長めにとる場合に、熱伝導率の比較的大きい材質においては、熱影響部体積はきわめて大きく、後熱処理だけでは目的とする体積を完全に組織改善することが、工業的に困難となる場合もある。これを改善するためには、必然的に誘導加熱コイルの幅、すなわち加熱体積を、液相拡散接合時よりも大きくとることで、短時間でも簡便に大体積を組織改善することができる。加熱コイル自体を液相拡散接合と後熱処理において交換し、その際のコイル幅を変更すればよいが、液相拡散接合に用いた加熱コイルを使用できない点で、工程コスト削減の観点から非効率的である。
【0020】
そこで、独立した制御系を有する複数のコイルを予め接合のための加熱機構に付帯させる方法が有効であり、かつ最も効率的であることが、種々の検討の結果明らかとなった。これは、図4に示すように、例えば、被接合材料が単純な丸棒であって、これを1ターンのコイル5で加熱して液相拡散接合をすることを想定する。この時に、液相拡散接合そのものには使用しない誘導コイル6を、コイルを保持し移動する機構に具備しておき、接合後被接合材料を制御冷却し、しかる後にコイル5と6を移動して、被接合材料の熱影響部が完全に後熱処理の加熱帯に覆われてしまうように位置を決定する。その状態で後熱処理を、図5に示す要領で実施すれば、被接合材料の熱影響部は、すべて組織改善され、継ぎ手特性は母材同等以上にさえ到達しうる。この複数コイルは、図4、図5では同一駆動系に組み込まれ、同一の動きをするが、当然2つのコイルの駆動系を分割することも可能で、後熱処理にのみ用いる第2のコイルを液相拡散接合時には加熱部位から遠ざけておき、後熱処理時に、第1のコイルと別々に駆動して最終的に図5の状態としてもよい。
【0021】
また、出力および周波数の関係から、2つのコイルを同一の整合盤で管理し、制御機構を独立させず、単に一方のコイルへの電源供給の有無で上記の機構を形成することも考えられ、実際に可能である。ただし、この場合は出力が比較的小さい場合に限られ、大出力の場合には電源容量に十分な余裕があり、かつコイルへの電流量が大幅に変化した場合にこれに対処できる大電流のスイッチング回路を導入する必要があり、工業的には比較的高価な機構になるという不利を有する。
【0022】
また、図5において、2つのコイルを分割して表示しているが、これは機能上での模式図であって、実際には2つのコイルはその外観上、完全に連結していてもよく、本発明の効果を発揮する上で何ら問題はない。なお、図5では、10は液相拡散接合での加熱幅、11は後熱処理時の加熱幅であり、11は液相拡散接合の場合の熱影響部幅を包含する。さらに、コイルの数は2個にかぎらず、3個あるいはそれ以上が考えられる。いずれも効果は同様である。3つのコイルを使用する場合、図6に示すように、中央のコイル8で液相拡散接合のみを実施し、制御冷却した後に両端のコイル7、9を、あるいは7、8、9の3つのコイルすべてを、後熱処理用に使用すると、この場合はコイルの駆動系が不要となる。この場合もコイル同士は外観上、連結していてもよい。さらに、両端のコイルと中央のコイルを同時に使用する場合、後熱処理時の温度分布均一化の観点から、それぞれの出力を制御し、たとえば中央のコイルのみ低出力で加熱するなどの制御を加えることも可能であり、かつ本発明の効果を発揮する上で有効である。図6の12は、3つのコイルを用いる場合の、後熱処理時の加熱幅である。
【0023】
上記の液相拡散接合後の制御冷却と後熱処理方法については、工程コスト削減の観点から、接合雰囲気を非酸化雰囲気とする事も可能ではあるが、寧ろ、雰囲気制御が不要であることが望ましい。従って、これらに用いる液相拡散接合において、適用するインサートメタル中に、少なくとも1原子%のVを含有する、酸化雰囲気での液相拡散接合用インサートメタルを適用することが可能であり、本発明の液相拡散接合継ぎ手を得るための工業的適用可能性をさらに拡大しうる。
【0024】
【実施例】
被接合材料として、400MPa級構造用炭素鋼JIS SM400Bを、また耐熱用材料としてSTBA22をそれぞれ選択し、形状としては10mmφ×100mmの丸棒接合試験片対、および直径267mm、肉厚9mm、長さ500mmの鋼管試験片対を準備した。いずれも端面の突合わせ接合を実施し、その際の接合端面はRmax値で100 μm 以下に仕上げて接合に用い、かつ雰囲気は大気雰囲気および窒素ガスによるシールドを実施した。液相拡散接合条件は、温度1100〜1300℃、接合時間30〜3600秒とし、接合後の冷却は主にHeガスを用いたガス冷却とした。制御冷却後の後熱処理は、液相拡散接合に用いた高周波誘導加熱コイルをそのまま使用する場合( A) 、2つのコイルを独立の制御機構において、液相拡散接合と後熱処理に使用するコイルおよび後熱処理のみに使用するコイルに分けて適用した場合( B) 、さらには3つのコイルを用い、中央の液相拡散接合と熱処理に使用するコイルおよび両端の後熱処理にのみ使用するコイルに分けた場合( C) の3通りを適用した。
【0025】
表2に、上記実施例の一部を、各種条件とともに示した。ここで、必要制御冷却速度とは、被接合材料化学成分によって決定する、本発明で規定する式で計算される値であって、制御冷却速度の指針を与える値である。また、加熱コイルの形式とは、上記加熱コイル数と組み合わせの記号、A,B,Cで分類して示したものである。また、継手耐力効率とは、液相拡散接合前の母材の0.2%耐力と、制御冷却もしくは後熱処理を終了した継手の0.2%耐力の比を示し、( 液相拡散接合前の母材の0.2%耐力)/( 制御冷却もしくは後熱処理を終了した継手の0.2%耐力) ×100%で表示している。従って、この値は従来の溶接継手効率とは全く異なる、本発明における独自の表現である。
【0026】
また、継手靭性効率とは、液相拡散接合前の母材の0℃における平均シャルピー吸収エネルギーと、制御冷却もしくは後熱処理を終了した継手の0.2%平均シャルピー吸収エネルギーの比で、( 液相拡散接合前の母材の0℃における平均シャルピー吸収エネルギー) /( 制御冷却もしくは後熱処理を終了した継手の0.2%平均シャルピー吸収エネルギー) ×100%で表示している。この値もまた、従来の溶接継手効率とは全く異なる、本発明における独自の表現である。第2表から、本発明に記載の液相拡散接合条件とその後の熱処理条件を、本発明に記載の接合方法で実現する場合、実質的に接合継手は、母材と全く同等か、場合によってはそれ以上の耐力および靭性を具備することが明らかである。また、大気雰囲気での液相拡散接合も、箔に添加したVの効果で、非酸化雰囲気での液相拡散接合と同様に、全く健全な継手が得られていることが分かる。
【0027】
【表2】
Figure 0003629184
【0028】
なお、表3には比較例を示した。表3に記載の比較接合例のうち、21は液相拡散接合後の制御冷却速度が、本発明で規定する式(1)の必要制御冷却速度に達しなかったため、熱影響部の組織改善面積率が低下し、継手耐力効率、継手靭性効率ともに低下した例、22は後熱処理後の冷速が必要制御冷却速度に達しなかったため、熱影響部の組織改善体積率が低下し、継手耐力効率、継手靭性効率ともに低下した例、23は接合雰囲気を大気としたにもかかわらず、液相拡散接合用合金箔にVを添加したものを用いなかったために液相拡散接合そのものが生起せず、継手耐力効率、継手靭性効率ともに低下した例、24は、液相拡散接合の熱影響部が広く、これに対して後熱処理の適用範囲が狭かったために、熱影響部の組織改善面積率が低下し、継手耐力効率、継手靭性効率ともに低下した例、25は、後熱処理の温度が被接合材料のAc3 変態点を200 ℃以上超えて高くなりすぎたために、旧γ粒径が逆にさらに粗大化し、2次組織は生成したものの強度が上昇しすぎて靭性劣化をきたし、結果として熱影響部の組織改善に失敗した例である。
【0029】
【表3】
Figure 0003629184
【0030】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、液相拡散接合によって生成する熱影響部を、接合後の冷却速度、後熱処理条件、後熱処理に用いる誘導加熱コイル形状、接合合金箔組成を規定することで、耐力および靭性に優れた液相拡散接合継手を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】液相拡散接合試験片と誘導加熱コイルおよび液相拡散接合実験要領を示す図。
【図2】液相拡散接合前後の被接合材料の有効結晶粒径変化と接合後の冷却速度の関係の鋼材種類依存性を示す図。
【図3】液相拡散接合継手の熱影響部組織が後熱処理によって回復した体積率と、継手の耐力効率の関係を示す図。
【図4】複数コイルを用いて後熱処理を実施する方法の、2つのコイルを用いる場合の液相拡散接合を示す模式図。
【図5】図4において同様に2つのコイルを用いて液相拡散接合継手を後熱処理する方法の一例の模式図。
【図6】複数コイルを用いて後熱処理を実施する方法のうち、3つのコイルを用いる場合の液相拡散接合とその後の後熱処理との熱影響部幅の関係を示す模式図である。
【符号の説明】
1…液相拡散接合試験片丸棒(10mm φ×100mm)
2…熱源供給用高周波誘導加熱コイルの一例
3…液相拡散接合用合金箔
4…接合開先面( 端面)
5…複数コイルのうち、液相拡散接合と後熱処理両方に用いるコイル
6…複数コイルのうち、後熱処理のみに用いるコイル
7…3つのコイルを用いる液相拡散接合において後熱処理のみに用いるコイル
8…3つのコイルを用いる液相拡散接合において液相拡散接合と後熱処理両方に用いるコイル
9…3つのコイルを用いる液相拡散接合において後熱処理のみに用いるコイル
10…液相拡散接合での加熱幅
11…後熱処理時の加熱幅
12…3つのコイルを用いる場合の後熱処理時の加熱幅

Claims (5)

  1. 実質的に50%以上が非晶質である液相拡散接合用インサートメタルを、被接合材料の接合開先間に1枚以上介在させ、突き合わせた開先部分を前記インサートメタルの融点以上に加熱し、原子の拡散律速に基づく等温凝固現象で前記被接合材料同士を液相拡散接合して液相拡散接合継ぎ手を形成し、前記液相拡散接合継ぎ手の等温凝固終了後の冷却を、前記被接合材料の主要化学成分をもって表す下記式(1)
    V(℃/S)=3/(9×%C+1.5×%Si+0.3 ×%Mn+2 ×%Cr+0.5 ×%Mo+4 ×%N)・・・(1)
    で計算される値以上の冷却速度で前記液相拡散接合継ぎ手の温度が200℃以下になるまで制御冷却することを特徴とする高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法。
  2. 前記液相拡散接合後、被接合材料および液相拡散接合継ぎ手をAc3 変態点以上に再加熱するに際し、変態点を有する材料ではAc3 点からAc3 +200℃の温度範囲に、変態点がない材料では900 〜1200℃の温度で1秒以上保持し、さらに引き続く冷却を請求項1に規定する式(1)で計算される値以上の冷却速度で制御冷却することを特徴とする請求項1記載の高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法。
  3. 前記再加熱を高周波誘導加熱で行い、かつ再加熱の範囲を、実質的に液相拡散接合時の熱影響部を含め、前記高周波誘導加熱による被接合材料のAc3 点以上の温度に1秒以上加熱された接合時の熱影響部の体積の70%以上の被接合材料の部位を再加熱することを特徴とする請求項1または2記載の高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法。
  4. 前記接合時の加熱、保持または制御冷却後の再加熱を、高周波誘導加熱を用いて行い、誘導電流を生起させるための励起コイルを被接合材料および液相拡散接合継ぎ手近傍に並列して複数配置し、かつこれらを独立した制御機構としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法。
  5. 接合に使用する前記インサートメタルに、Vを1原子%以上含有させ、かつ雰囲気制御を不要とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の高耐力・高靭性継ぎ手の液相拡散接合方法。
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