JP5085364B2 - 脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板 - Google Patents
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Description
[1] 質量%で、C :0.07%超0.12%以下、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2%、P :0.015%以下、S :0.005%以下、B :0.0003〜0.003%、Mo:0.01〜0.2%、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.005〜0.02%、N :0.001〜0.008%、O :0.004%以下を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量としたとき、下記式(2)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(3)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを、Ar3(℃)が、下記式(4)で計算されるとき、連続鋳造後にAr3−200℃以下まで冷却した後、950〜1100℃に再加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度および仕上圧延終了温度が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却することを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
{但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
Ar3(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4)
[3] 質量%で、S :0.0005〜0.005%、O :0.001〜0.004%
を含有し、さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.004%、Mg:0.0003〜0.004%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[4] さらに、質量%で、V:0.01〜0.1%を含有することを特徴とする、上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[5] さらに、質量%で、Ni:0.01〜1%、Nb:0.003〜0.03%、Cu:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[6] さらに、質量%で、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(5)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(6)
{但し、式(6)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(7)
[9] さらに、質量%で、V :0.01〜0.1%を含有することを特徴とする、上記[7]又は[8]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
[10] さらに、質量%で、Ni:0.01〜1%、Nb:0.003〜0.03%、Cu:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[7]〜[9]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
[11] さらに、質量%で、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[7]〜[10]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
{但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
Ar3(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4)
以上が脆性破壊発生特性を重視したTMCP条件において、低Niを前提に強度を満足できる技術であり、これによって、上記(2)と同時に(1)と(4)のニーズを満足することができる。
以下に本発明における鋼の化学成分についての限定理由を説明する。
Cは、強度向上のために重要な元素である。低温加熱、低温圧延を徹底したTMCP型厚手鋼板において、所定の強度を安定確保するために、微量Mo−B添加と相俟って0.07%超のCを添加する必要がある。また、後述する理由から、本発明ではNb、Ni、Moの添加量を必要最小限に抑える必要があるので、これらの元素を増加して高強度化することは困難である。従って、Cは非常に重要な強化元素である。さらに、C添加は大入熱HAZにおけるV(C,N)変態核の析出を促す効果もある。しかしながら、良好な大入熱溶接HAZ靭性を安定確保するためには、Cを0.12%以下に抑えることが好ましい。
Siは、脱酸作用を有するが、強力な脱酸元素であるAlが十分に添加されている場合には不要である。比較的高い炭素当量Ceqの下で微量Moを添加する本発明の大入熱溶接HAZでは、SiはMA生成を助長する危険性が高いため、0.4%以下に抑える必要がある。また、Siの添加量は極力低くすることが好ましい。
Mnは、経済的に強度を確保するために1.0%以上の添加量が必要である。但し、2%を超えてMnを添加すると、スラブの中心偏析の有害性が顕著となるうえ、大入熱溶接HAZのMA生成を助長して脆化させるため、これを上限とする。
Pは、不純物元素であり、良好な脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接HAZ靭性を安定的に確保するために、0.015%以下に低減する必要がある。
Sは、大入熱溶接HAZでのピン止め効果のために0.0005%以上添加する。Sは適正に添加されたCaやMgと結合して、微細な硫化物を数多く形成してγ細粒化をもたらす。しかしながら、Sが0.005%を超えると、硫化物が粗大化してピン止め効果が低下すると同時に、破壊起点しての有害性も顕著となり、大入熱溶接HAZ靭性が劣化するため、0.005%を上限とする。
「Mo:モリブデン」0.01〜0.2%
BとMoは、本発明の特徴的な元素であり、最も重要な元素である。既に詳述したように、低温加熱と低温圧延の下でも微量Mo−Bの複合効果によって焼入性が高まり、強度を効果的に高める。そのためには、Bを0.0003%以上、Moを0.01%以上添加する必要がある。但し、0.003%を超えてBを添加すると、焼入性が低下すると同時に、B系の粗大析出物が生成して大入熱溶接HAZ靭性が劣化するため、これを上限とする。また、0.2%を超えてMoを添加すると、強度確保には有効であるものの、大入熱溶接HAZのMAが増加して脆化する。その上、Moは非常に高価なので0.2%を超える多量添加は工業製品としての経済性を著しく失う。従って、Moの上限は0.2%である。また、大入熱溶接HAZ靭性と経済性の両面を考慮すると、0.15%以下のMo添加が好ましい。
微量MoとBの複合添加は、γの再結晶を抑制する効果も有しており、極微量Nbしか使えない低温加熱と低温圧延においては、未再結晶域圧延の安定化に貢献する。
Alは、脱酸を担い、Oを低減して鋼の清浄度を高めるために必要である。Al以外のSi、Ti、Ca、Mg等も脱酸作用があるが、たとえこれらの元素が添加される場合でも、0.001%以上のAlがないと安定的にO(酸素)を0.004%以下に抑えることは難しい。但し、Alが0.1%を超えるとアルミナ系粗大酸化物がクラスター化する傾向を強め、製鋼ノズルつまりが発生したり、破壊起点としての有害性が顕在化するため、これを上限とする。
「N:窒素」0.001〜0.008%
「有効B量:Bef(%)」0.0003%以上
Tiは、Nと結合してTiNを形成し固溶Nを低減する。その結果、添加されたBがBNを形成することを抑え、γ中の固溶Bを確保することでBの焼入性を確保する効果がある。同時に、TiNは、スラブ再加熱時と大入熱溶接HAZでピン止め効果に貢献し、γ細粒化に寄与する。このような二つの効果を同時に発揮するために、Tiを0.005〜0.02%、Nを0.001〜0.008%、有効B量(Bef)を0.0003%以上とする必要がある。TiとNが、それぞれ0.005%、0.001%に満たないと、TiNによるピン止め効果が十分に発揮されず、母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。TiとNがそれぞれ0.02%、0.008%を超えると、TiC析出や固溶N増加によって母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。さらに、TiとNが適正範囲にあっても、有効B量が0.0003%未満であると、γ中の固溶Bの量が不足して焼入性を確保できないから、強度が確保できない。
化学成分として添加されたTiは、溶鋼中の脱酸で消費される場合があり(低Alの場合に起こりやすい)、脱酸後に残ったTiが凝固後のγ中でTiNを形成する。この際、Tiに対してNが過剰であると、TiNを形成した後に残ったNがBの一部と結合してBNを形成する。そして、BNを形成した残りのBが固溶Bとして焼入性に寄与する。この焼入性に寄与する固溶B量を本発明では有効B量Bef(%)として扱う。
まず、脱酸力の高い順に、Ca、Mg、REM(希土類元素)、Zr、AlがOと結合すると仮定する。この際の脱酸生成物として、CaO、MgO、REM2O3、ZrO2、Al2O3を仮定して、脱酸されるO量を計算する。Tiよりも脱酸力の強いこれらの元素によって脱酸が完了しない場合、これらの強脱酸元素による脱酸後に残存し、弱脱酸元素であるTiによって脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量とした時、次式{OTi(%)>0}を満たす。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
但し、上記式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める。
N−0.29(Ti−2OTi)>0 :Nが残る場合
N−0.29(Ti−2OTi)≦0 :Nが残らない場合
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
但し、上記式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、式{Ti−2OTi≧0.005(%)}を満たすものとする。さらに、式{N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)}のときは、式{N−0.29(Ti−2OTi)=0}とする。
有効B量Bef(%)=成分B量−B as BN
→ B as BN = 0.77(N−N as TiN)
→ N as TiN = 0.29(Ti−Ti as Ti2O3)
→ Ti as Ti2O3 = 2(O−O as CaO−O as MgO−O as REM2O3−O as ZrO2−O as Al2O3)
→ O as CaO=0.4Ca
→ O as MgO=0.66Mg
→ O as REM2O3=0.17REM
→ O as ZrO2=0.35Zr
→ O as Al2O3=0.89Al
Oとの化学的親和力の強い順にCaO→MgO→REM2O3→ZrO2→Al2O3の反応が生じ、溶鋼中の溶存Oが減少していく。これで脱酸が完了する場合は、OTi≦0で表される。脱酸が完了せずに溶存Oが残る場合は、OTi>0、Ti−2OTi≧0.005(%)で表され、Alより弱脱酸元素であるTiがTi2O3として脱酸に寄与し、成分Tiから脱酸で消費されたTi as Ti2O3を差し引いた残りのTiが0.005%以上となる。
Nとの化学的親和力の強い順にTiN→BN→AlNの反応が生じ、固相γ中の固溶Nが減少していく。まず、脱酸で消費された残りのTiが脱窒反応を起こす。これで脱窒が完了する場合は、N−0.29(Ti−2OTi)≦0で表され、γ中に固溶Nが存在しないので、BはBNを形成せずに全てが固溶Bとして存在する。一方、Tiによって脱窒が完了せず、固溶Nが残る場合は、N−0.29(Ti−2OTi)>0で表され、Bの一部がBNを生成して残りが固溶Bとなる。
OTi≦0
この場合、Tiは脱酸では消費されない。TiがTiNを形成し、Nが残る場合は下記式を満たす。
N−0.29Ti>0
この際の有効B量Befは下記式で計算される。
Bef(%)=B−0.77(N−0.29Ti)
TiがTiNを形成し、Nが残らない場合は下記式を満たす。
N−0.29Ti≦0
この際の有効B量Befは下記式で計算される。
Bef(%)=B
Oは、0.004%以下に抑える必要がある。Oが0.004%を超えると、酸化物の一部が粗大化して破壊起点として有害性をもたらし、母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。一方で、Oは0.001%以上確保する必要がある。その理由は、大入熱溶接HAZの溶融線近傍において、HAZ靭性を高めるためにCaやMgの適正添加によって微細な酸化物を多数分散させ、ピン止め効果を強化してγ細粒化を図るためである。Oが0.001%未満だと、酸化物個数が不足して十分なピン止め効果が得られない。
「Mg:マグネシウム」0.0003〜0.004%
Ca、Mgは、溶鋼への添加順序を考慮しつつ、一方あるいは両方を0.0003%以上添加することで、CaやMgを含有する10〜500nmの酸化物や硫化物を1000個/mm2以上確保することができる。CaやMgが0.0003%未満だと、ピン止め粒子である酸化物や硫化物の個数が不足する。しかしながら、それぞれ0.004%超添加すると、酸化物や硫化物が粗大化してピン止め粒子の個数が不足すると同時に、破壊起点としての有害性も顕著となり、大入熱溶接HAZ靭性が劣化する。
Vは、母材を強化しつつ大入熱溶接HAZ靭性を高める有効な元素である。Cの添加量が比較的高い本発明においては、大入熱溶接HAZの冷却過程でγ中にV(C,N)が析出しやすく、これが変態核として作用することでHAZ組織が微細化し靭性が向上する。この効果を発揮するためには、0.01%以上のVが必要である。しかしながら、Vが0.1%を超えると、HAZの組織微細化効果が飽和すると同時にHAZの硬化が著しくなるので、HAZ靭性が劣化する。従って、0.1%がVの上限である。
Niは、靭性の劣化を抑えて強度を確保するために有効である。そのためには0.01%以上のNi添加が好ましい。しかしながら、Niは合金コストが非常に高いうえに、表面疵の手入工程が発生するという問題がある。従って、Niは1%以下に抑える必要がある。また、Niは極力低くすることが好ましい。
Nbは、仕上圧延における未再結晶域圧延を促すために有効である。そのためには0.003%以上のNb添加が好ましい。しかしながら、既に詳述したように、低温加熱と低温圧延の下では焼入性にほとんど効かないので、強化元素としては役に立たない。さらには、大入熱溶接HAZ靭性に対してNbは有害である。従って、本発明では未再結晶域圧延を促すために0.03%以下の極微量Nbしか添加せず、好ましくは0.02%以下に抑える。また、仕上圧延での累積圧下量を大きく確保できる場合には、Nb無添加でも十分に母材組織が微細化して良好な脆性破壊伝播停止特性が得られるため、Nbを添加しないことが大入熱溶接HAZ靭性の観点からさらに好ましい。
「Cr:クロム」0.01〜1%
Cu、Crは、強度を確保するために有効であり、ともに0.01%以上の添加量で効果を発揮する。一方、大入熱溶接HAZ靭性を劣化させる観点から、ともに1%が上限である。
「Zr:ジルコニウム」0.0003〜0.02%
REM(希土類元素)、Zrは、脱酸と脱硫に関与して、中心偏析部の粗大な延伸MnSの生成を抑えて硫化物を球状無害化し、母材と大入熱溶接HAZの靭性を改善する。これらの効果を発揮するためには、REMとZrの下限はともに0.0003%である。但し、これらの添加量を増やしても効果は飽和するため、経済性の観点からREMとZrの上限はともに0.02%である。なお、本発明で添加するREMとは、LaやCeなどのランタノイド系元素である。
製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御し、連続鋳造によって下記表1に示す化学成分のスラブを作製した。そして、下記表2及び表3に示す製造条件で、前記スラブを再加熱して厚板圧延することで板厚50〜80mmに仕上げ、加速冷却を行い、さらに、必要に応じてオフラインでの焼戻し処理を行い、厚手鋼板のサンプルを作製した。
上記方法によって作製した厚手鋼板のサンプルについて、以下のような評価試験を行った。
母材の引張特性及びシャルピー衝撃特性については、厚手鋼板サンプルの板厚1/2部−圧延長手(L)方向から試験片を採取して測定して評価した。
また、母材の脆性破壊伝播停止特性については、全厚試験体を温度勾配型ESSO試験(WES 3003準拠)によって破壊し、アレスト性指標Tkca=6000を求めて評価した。
また、継手のHAZ靭性については、突合せ開先をエレクトロガス溶接(EGW)によって1パス溶接し、板厚1/2部の溶融線から1mm離れたHAZにノッチを入れて調べた。この際、−20℃で3本のシャルピー衝撃試験を行ない、平均の吸収エネルギー値を評価した。また、参考として、−40℃における特性も調べた。
表1に示す鋼1〜15は本発明鋼であり、鋼の化学成分を適正化し、TMCPにおける低温加熱と低温圧延を徹底することにより、厚手であるのにも関わらず、表4に示すように、390〜600MPaの降伏強度と510〜720MPaの引張強度、及び、−10℃未満の良好な脆性破壊伝播停止特性Tkca=6000を満足し、さらに、大入熱溶接であるのにも関わらず、−20℃において良好なHAZ靭性が、Ni添加量を1%以下に抑えながら、同時に満足できていることがわかる。
鋼17は、Cが高いため、鋼18はSiが高ため、鋼20はMoが高いため、鋼21はNbが高いため、鋼22はCeqが高いために、大入熱溶接HAZの硬化やMA生成やセメンタイト生成が助長され、その靭性が劣っている。
鋼1Cは、加熱温度が低すぎるためにB炭化物が十分に溶体化されず、固溶Bが不足して焼入性が低下し、降伏強度と引張強度が劣っている。さらに、粗圧延の終了温度が低すぎるために再結晶粒が十分に整細粒化されず、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Dは、粗圧延の終了温度が低すぎるため、鋼1Eは粗圧延の累積圧下量が少ないために再結晶粒が十分に整細粒化されず、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Fと鋼1Gは、仕上圧延の開始温度と終了温度が高すぎて上記式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}を満足しないため、母材の結晶粒径の微細化が不十分であり、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Hは、仕上圧延の累積圧下量が少ないため、母材の結晶粒径の微細化が不十分であり、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Iは、加速冷却の停止温度が高いため、板厚内部の変態強化と結晶粒径微細化が不十分となり、引張強度とTkca=6000が劣っている。
Claims (11)
- 質量%で、
C :0.07%超0.12%以下、
Si:0.4%以下、
Mn:1.0〜2%、
P :0.015%以下、
S :0.005%以下、
B :0.0003〜0.003%、
Mo:0.01〜0.2%、
Al:0.001〜0.1%、
Ti:0.005〜0.02%、
N :0.001〜0.008%、
O :0.004%以下
を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量としたとき、下記式(2)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(3)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを、Ar3(℃)が、下記式(4)で計算されるとき、連続鋳造後にAr3−200℃以下まで冷却した後、950〜1100℃に再加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度および仕上圧延終了温度が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却することを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
{但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
Ar3(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4) - 前記加速冷却の後、さらに、350〜700℃で5〜60分の焼戻し熱処理を施すことを特徴とする、請求項1に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
- 質量%で、
S :0.0005〜0.005%、
O :0.001〜0.004%
を含有し、さらに、質量%で、
Ca:0.0003〜0.004%、
Mg:0.0003〜0.004%
のうちの1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。 - さらに、質量%で、
V:0.01〜0.1%
を含有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。 - さらに、質量%で、
Ni:0.01〜1%、
Nb:0.003〜0.03%、
Cu:0.01〜1%、
Cr:0.01〜1%
のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。 - さらに、質量%で、
REM:0.0003〜0.02%、
Zr:0.0003〜0.02%
のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C :0.07%超0.12%以下、
Si:0.4%以下、
Mn:1.0〜2%、
P :0.015%以下、
S :0.005%以下、
B :0.0003〜0.003%、
Mo:0.01〜0.2%、
Al:0.001〜0.1%、
Ti:0.005〜0.02%、
N :0.001〜0.008%、
O :0.004%以下
を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量を、下記式(5)で表される量としたとき、下記式(6)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(7)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚が50〜80mmであり、降伏強度が390〜600MPaで、引張強度が510〜720MPaであり、脆性破壊伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5となる温度Tkca=6000が−10℃以下であり、溶接入熱量が20kJ/mm以上の大入熱溶接部のHAZ靭性の指標であるシャルピー衝撃吸収エネルギーvE(−20℃)が47J以上であることを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
OTi(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(5)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(6)
{但し、式(6)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(7) - 質量%で、
S :0.0005〜0.005%、
O :0.001〜0.004%
を含有し、さらに、質量%で、
Ca:0.0003〜0.004%、
Mg:0.0003〜0.004%
のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項7に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。 - さらに、質量%で、
V :0.01〜0.1%
を含有することを特徴とする、請求項7又は8に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。 - さらに、質量%で、
Ni:0.01〜1%、
Nb:0.003〜0.03%、
Cu:0.01〜1%、
Cr:0.01〜1%
のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項7〜9の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。 - さらに、質量%で、
REM:0.0003〜0.02%、
Zr:0.0003〜0.02%
のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項7〜10の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
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