JP5085364B2 - 脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板 - Google Patents

脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部(Heat Affected Zone:以下、HAZと称することがある)靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板に関する。本発明に係る厚手高強度鋼板は、大型コンテナ船等の船舶向けとして主に使用されるが、建築、橋梁、タンク及び海洋構造物等、その他の溶接構造物に使用することも可能である。
船舶に代表される溶接構造物の近年のニーズとして、構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、素材である鋼材の経済性等が挙げられる。このような動向を受け、溶接構造物に使用される鋼板に対して、(1)大きな板厚での高い強度、(2)良好な脆性破壊伝播停止特性、(3)良好な大入熱溶接HAZ靭性、(4)低い製造コスト等のニーズが高まりつつある。具体的には、大型船舶に用いられる鋼板に対して、(1)板厚50〜80mmの厚手鋼板(以下、厚手材と称することがある)での降伏強度390〜460MPa級、かつ引張強度510〜570MPa級の確保、(2)脆性破壊伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5となる温度Tkca=6000(以下、アレスト性指標Tkca=6000と称することがある)≦−10℃の確保、(3)溶接入熱量が20kJ/mm以上の溶接部のHAZ靭性(シャルピー衝撃吸収エネルギー)vE(−20℃)≧47Jの確保、(4)高価合金元素の低減(Ni量:1%以下等)を同時に満たすことが要求される。
特許文献1は船舶向け厚手高強度鋼板に関する技術の一例であり、この特許文献1には、板厚50〜80mmを有しつつ、上記(1)、(3)及び(4)のニーズを部分的に満足できる技術が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の厚手高強度鋼板は、その実施例の記載からわかるように、上記(2)のニーズを満足できるような技術は示されていない。
また、非特許文献1には、板厚が65mmと厚手の鋼板では、小型試験片によるシャルピー衝撃吸収エネルギーが、vE(−40℃)=170Jと十分に高くても、大型破壊試験で確認される脆性破壊伝播停止特性はTkca=6000=18℃と不十分であることが示されている(同文献Fig.7参照)。これは、厚手鋼板では、小型試験片によるシャルピー衝撃吸収エネルギーvE(−40℃)を目安にして大型破壊試験で確認される脆性破壊伝播停止特性Tkca=6000≦−10℃を保証することは困難であることを示している。すなわち、大型船舶向けの厚手高強度鋼板に要求される脆性破壊伝播停止特性を小型試験片によるシャルピー衝撃特性と関連付けて判定することは、従来の技術では困難であり、ESSO試験(WES 3003準拠)に代表される全厚試験体の大型破壊試験を用いた方法でなければ、正確に評価することができなかった。
従来から、脆性破壊伝播停止特性は板厚に依存性し、板厚が大きくなるほど当該特性が劣化することが知られていた。しかしながら、本発明が対象とするような50mm以上の厚手材については、この板厚効果に関する実験データは皆無であり、厚手化に起因して脆性破壊伝播停止特性がどれくらい劣化するのかが不明であった。
ところで、TMCP(Thermo Mechanical Control Process)によって製造される厚手鋼板では、従来からボロン(B)添加による高強度化が図られてきた。Bの添加による効果としては、圧延後の加速冷却においてオーステナイト粒界(γ粒界)に偏析した固溶Bが、変態時の焼入性を高めることが挙げられ、特許文献1では、BにNbを複合添加することによって高強度化を図っている。特許文献1の実施例に示されているように、この場合の圧延終了温度は930〜1000℃と高めであることが特徴であり、再結晶オーステナイト(再結晶γ)から加速冷却することを必須条件として、NbとBの複合効果を発揮させて高い焼入性を引き出すことにより、強度を高めている。一方、特許文献1では、圧延終了温度を930℃よりも低い未再結晶域として低温圧延を行った場合、靭性は満足するものの強度特性は満足できず、Nb−B複合効果による高強度化が難しいことも示されている。
特許第3599556号公報 日本船舶海洋工学講演会論文集、2006A−G4−10
本発明者等は、特許文献1に記載の発明に比べて靭性を重視した、低温圧延(圧延終了温度:800〜900℃)の場合に、Nbに代わって微量MoをBと複合させることで厚手鋼板を高強度化することのできる発明について、既に、特願2005−230595号の特許出願(特開2007−46096号公報:以下、発明者先願と称する)において示している。しかしながら、この発明者先願においてもTkca=6000≦−10℃が満足できることは確認していない。
一般に、母材やHAZの靭性を高める希少な元素としてNiが知られており、上記(2)や(3)の観点からNiの有効利用が考えられる。しかしながら、Niは非常に高価な元素であり、その価格は近年著しく上昇している。また、Niを添加した鋼は表面疵が生じやすいため、その手入工程が発生するという問題がある。従って、Ni添加に関して、上記(4)のニーズと上記(2)及び(3)のニーズとの間で、その利害が対立する。また、上記(1)の観点から合金添加量を増加すると、炭素当量(Ceq)が高まって大入熱溶接の場合のHAZが硬化して脆化するので、上記(1)のニーズと上記(3)のニーズとの間で利害が対立する。さらに、上記(2)の観点からTMCPにおける変態前オーステナイト組織の微細化を追求すると、焼入性が低下して強度が減少するので、上記(1)のニーズと上記(2)のニーズとの間で利害が対立する。このため、上述のような互いに利害が対立する上記(1)〜(4)の四つのニーズを同時に満足する鋼板の開発が強く求められていた。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、(1)板厚50〜80mm、降伏強度390〜600MPa、かつ引張強度510〜720MPaの厚手高強度で、(2)アレスト性指標Tkca=6000≦−10℃の良好な脆性破壊伝播停止特性を有し、(3)溶接入熱量≧20kJ/mmでもvE(−20℃)≧47Jとなる良好な大入熱溶接HAZ靭性を有し、(4)高価合金元素の低減(Ni≦1%等)等による低い製造コストを実現できる、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板を提供することを目的とする。
上記問題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 質量%で、C :0.07%超0.12%以下、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2%、P :0.015%以下、S :0.005%以下、B :0.0003〜0.003%、Mo:0.01〜0.2%、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.005〜0.02%、N :0.001〜0.008%、O :0.004%以下を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量としたとき、下記式(2)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(3)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを、Ar(℃)が、下記式(4)で計算されるとき、連続鋳造後にAr−200℃以下まで冷却した後、950〜1100℃に再加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度および仕上圧延終了温度が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却することを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
{但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
Ar(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4)
[2] 前記加速冷却の後、さらに、350〜700℃で5〜60分の焼戻し熱処理を施すことを特徴とする、上記[1]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[3] 質量%で、S :0.0005〜0.005%、O :0.001〜0.004%
を含有し、さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.004%、Mg:0.0003〜0.004%のうちの1種または2種を含有することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[4] さらに、質量%で、V:0.01〜0.1%を含有することを特徴とする、上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[5] さらに、質量%で、Ni:0.01〜1%、Nb:0.003〜0.03%、Cu:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[6] さらに、質量%で、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
[7] 質量%で、C :0.07%超0.12%以下、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2%、P :0.015%以下、S :0.005%以下、B :0.0003〜0.003%、Mo:0.01〜0.2%、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.005〜0.02%、N :0.001〜0.008%、O :0.004%以下を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量を、下記式(5)で表される量としたとき、下記式(6)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(7)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚が50〜80mmであり、降伏強度が390〜600MPaで、引張強度が510〜720MPaであり、脆性破壊伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5となる温度Tkca=6000が−10℃以下であり、溶接入熱量が20kJ/mm以上の大入熱溶接部のHAZ靭性の指標であるシャルピー衝撃吸収エネルギーvE(−20℃)が47J以上であることを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(5)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(6)
{但し、式(6)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(7)
[8] 質量%で、S :0.0005〜0.005%、O :0.001〜0.004%を含有し、さらに、質量%で、Ca:0.0003〜0.004%、Mg:0.0003〜0.004%のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、上記[7]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
[9] さらに、質量%で、V :0.01〜0.1%を含有することを特徴とする、上記[7]又は[8]に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
[10] さらに、質量%で、Ni:0.01〜1%、Nb:0.003〜0.03%、Cu:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[7]〜[9]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
[11] さらに、質量%で、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記[7]〜[10]の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
本発明の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板によれば、(1)板厚50〜80mm、降伏強度390〜600MPa、かつ引張強度510〜720MPaの厚手高強度で、(2)アレスト性指標Tkca=6000≦−10℃の良好な脆性破壊伝播停止特性を有し、(3)溶接入熱量≧20kJ/mmでもvE(−20℃)≧47Jとなる良好な大入熱溶接HAZ靭性を有し、(4)高価合金元素の低減(Ni≦1%等)等による低い製造コストを実現できる。このような本発明による厚手高強度鋼板が大型船舶をはじめとする各種の溶接構造物に使用されることで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、素材である鋼材の経済性等々が同時に満たされことから、その産業上の効果は計り知れない。
以下、本発明の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の実施の形態について説明する。なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
船舶等の溶接構造物に使用される鋼板においては、(1)大きな板厚での高い強度、(2)良好な脆性破壊伝播停止特性、(3)良好な大入熱溶接HAZ靭性、(4)低い製造コスト等のニーズが高まっている。このようなニーズに対し、本発明に係る脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.07%超0.12%以下、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2%、P:0.015%以下、S:0.0005〜0.005%、B:0.0003〜0.003%、Mo:0.01〜0.2%、Al:0.001〜0.1%、Ti:0.005〜0.02%、N:0.001〜0.008%、O:0.001〜0.004%を含有し、さらに、必要に応じて、Ca:0.0003〜0.004%、Mg:0.0003〜0.004%、V:0.01〜0.1%、Ni:0.01〜1%、Nb:0.003〜0.03%、Cu:0.01〜1%、Cr:0.01〜1%、REM:0.0003〜0.02%、Zr:0.0003〜0.02%のうちの1種または2種以上を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量としたとき、下記式(2)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(3)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを、Ar(℃)が、下記式(4)で計算されるとき、連続鋳造後にAr−200℃以下まで冷却した後、950〜1100℃に再加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度および仕上圧延終了温度が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却する方法としている。
Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
{但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
{但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
Ar(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4)
本発明は、TMCP型のB添加厚手鋼板において、強度、脆性破壊伝播停止特性、大入熱溶接HAZ靭性、及び低い製造コスト等を同時に満足する技術である。本発明者等は、上述したように、発明者先願(特願2005−230595号:特開2007−46096号公報)において、脆性破壊伝播停止特性を除く他の要求特性を概ね満足する技術を既に開示しているが、本発明では、脆性破壊伝播停止特性を満足するように、発明者先願の技術を改良することを目指した。本発明者等が鋭意検討を進める中で、発明者先願が具備する下記2項目の特性を緩和しない限り、現段階では脆性破壊伝播停止特性と強度を両立することは難しいことが判明した。まず、発明者先願では、高い圧延能率(圧延終了温度≧800℃)を満足しているが、本発明ではこの限りとしない。また、発明者先願では、大入熱溶接HAZ靭性の保証温度が−40℃であったが、本発明ではこれを−20℃に緩和する方法としている。
まず、本発明における最大の技術課題である脆性破壊伝播停止特性を満足するため、発明者先願をベースに、厚手鋼板の結晶粒径を極限まで微細化するTMCP条件を検討した。ここで、脆性破壊が結晶学的に同一の結晶面(へき開面:体心立方構造の鉄では{100}面に対応)で生じる最小単位は破面単位と呼ばれ、この破面単位に対応するサイズの金属組織単位を本発明では「結晶粒径」と呼ぶこととする。TMCPにおける低温加熱と低温圧延を徹底して変態前オーステナイトの微細化を限界まで追求すれば、板厚が50〜80mmである厚手鋼板であっても結晶粒径が充分に微細化し、脆性破壊伝播停止特性が目標を満足できることが明らかとなった。その条件は、Ar(℃)が次式(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo)で計算されるとき、連続鋳造スラブを{Ar(℃)−200(℃)}以下の温度まで冷却した後に1100℃以下に低温加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度(℃)及び仕上圧延終了温度(℃)が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却することである。
低温加熱、低温圧延のTMCPの第一の条件として、連続鋳造後のスラブをAr−200℃以下に冷却してγ(オーステナイト)→α(フェライト)変態させ、その後に1100℃以下に低温加熱することでα→γ変態させる理由は、加熱時のγを徹底的に整細粒化するためである。スラブを、{Ar(℃)−200(℃)}を超える高温から再加熱すると、スラブ内部でγ→α変態が未完了のうちに再加熱されて鋳造時の粗大γが残存してしまう。この際、スラブの冷却速度は極めて小さいので、Bの焼入性は実質的に無視できるほど小さく、上記式(4)を、スラブのArの目安として使って実用上問題ない。スラブの再加熱温度が1100℃を超えるような高温加熱だと、TiNのオストワルド成長が始まるため、ピン止め効果が低減して整細粒γを安定的に確保することが難しくなる。加熱時のγを徹底的に整細粒化できなければ、現実的なスラブ厚みの制約下(通常は200〜300mm)において、圧延条件をどれだけ工夫したとしても、板厚が50〜80mmである鋼板の変態前γを十分に微細化することは困難である。
低温加熱、低温圧延のTMCPの第二の条件として、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行う理由は、再結晶域圧延によって加熱時よりもさらに整細粒なγを得るためである。粗圧延が900℃未満であったり、また、累積圧下量が30%未満であると、再結晶が不十分となって歪誘起粒成長が起こり、加熱時の初期γよりもむしろ粗大になる恐れがある。
低温加熱、低温圧延のTMCPの第三の条件として、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度(℃)及び仕上圧延終了温度(℃)を、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行う理由は、粗圧延で十分に整細粒化した再結晶粒を未再結晶域圧延することで、γ粒を延伸化させて粒界の面積を増やすとともに粒界を活性化させ、さらにγ粒内に変形帯を導入し、変態前γにおける核生成サイト密度と核生成頻度を限界まで高めるためである。仕上圧延の累積圧下量が50%未満であったり、また、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下の条件を満たさない場合は、変態前γの微細化が不十分となる。上記式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下の条件の金属学的な意味としては、加熱温度が高く初期γが粗大であるほど、仕上圧延をより低温で行って未再結晶域圧延を強化する必要があることを示している。例えば、加熱温度が1100℃なら仕上圧延を775℃以下で行う必要があり、1000℃加熱なら825℃以下で行う必要がある。このように、加熱温度に連動させて仕上圧延温度を規制する極めて厳格なTMCP条件を適用しないと、厚手鋼板で良好な脆性破壊伝播停止特性を安定して確保することはできない。700℃よりも低温域で仕上圧延を行うと、圧延中あるいは加速冷却までの待機時間中に鋼板の表層側が変態を開始してしまい、表層部組織が軟化すると同時に粗大化してしまい、強度と脆性破壊伝播停止特性が劣化する。
低温加熱、低温圧延のTMCPの第四の条件として、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却する理由は、上述のごとく加熱、圧延条件を徹底して変態前γを限界まで微細化しても、その後の冷却が空冷であるとγ→α変態時の過冷度が小さく、結晶粒径が十分に微細化できないからである。また、加速冷却を500℃よりも高温で停止すると、板厚表層に比べて温度の高い板厚内部では、変態の途中で加速冷却が終了して空冷になるため、板厚内部の結晶粒径が十分に微細化できない。
以上が、結晶粒径を十分に微細化して脆性破壊伝播停止特性を満足するためのTMCP条件であり、このことによって上記(2)のニーズを満足できる。上述のTMCP条件では、変態前γの徹底した微細化と厚手鋼板特有の小さな冷却速度に起因して、変態時の焼入性が大幅に低下するため、ベイナイト組織あるいはベイナイト/フェライト混合組織におけるベイナイト分率が減少してフェライト分率が増加することから、発明者先願の鋼成分のままでは所定の強度を安定的に確保することが難しいことが新たな課題として浮上した。本発明では、低温加熱に起因して、そもそも固溶できるNb量が少なく、さらに低温圧延に起因してNbが歪誘起析出して固溶Nbが減少するので、焼入性に対するNb−B複合効果は非常に小さい。発明者先願の特徴である微量Moは、Nbとは対照的にγへの溶解度が大きく安定的に固溶するため、本発明のような低温加熱と低温圧延を追求した場合でも、Moの固溶状態が維持されてBの焼入性を高める効果がある。しかし、このような微量Mo−B複合による焼入性効果を利用しても、低温加熱と低温圧延を追求した場合の焼入性低下を完全に相殺することは難しく、発明者先願の鋼成分のままでは、所定の強度を安定的に確保することは難しい。この強度不足に対して、Moを増加して焼入性をさらに高めることは、合金コストと大入熱溶接HAZでの有害性の両面から適当でない。また、Niは大入熱溶接HAZ靭性の劣化を抑えつつ母材を強化する元素として有効であるが、上述した製造コストの観点から本発明では極力添加しない方針としている。つまり、Nb、Mo、Niを増加して強度不足を補うことは困難である。
そうすると、安価な強化元素として残るのはCとMnであり、大入熱溶接HAZ靭性の劣化代を勘案して、どちらの元素が有効かを判断することになる。そこで、発明者先願の微量Mo−B成分を前提に、C増加とMn増加による母材強化代と大入熱溶接HAZ脆化代のバランスを検討した結果、MnよりもCの方が有効であることがわかった。Mnを増加すると、大入熱溶接HAZの微細脆化相であるMA(Martensite−Austenite constituent)が増加し、Cを増加してセメンタイトが増加する場合よりも、大入熱溶接HAZ靭性の劣化代が大きいことが判明した。
以上説明したように、微量Mo−Bによる焼入性を基本とし、発明者先願の鋼成分で不足する母材強度をCの増加で補うためには、有効B量Befを0.0003%以上確保し、炭素当量Ceqを0.32%以上確保し、加熱温度を950℃以上に制御し、加速冷却を400℃以下まで行うことが必要である。上記式(2)で計算される有効B量が0.0003%より少ないと、固溶Bが不足してBの焼入性が不足する。炭素当量Ceqが0.32%未満だと、B以外の鋼成分の焼入性が不足する。加熱温度が950℃未満だと、B炭化物が溶解しないので、有効B量が十分でも実質的な固溶Bが不足してBの焼入性が不足する。加速冷却ではなく空冷を適用すると、冷却速度が小さすぎてBの焼入性をうまく引き出せない。加速冷却を500℃よりも高温で停止すると、温度の高い板厚内部は変態途中で加速冷却が終了してしまうため、板厚内部の変態強化が十分に得られない。加速冷却においては、0.3m/m/min以上の水量密度を確保することが、Bの焼入性をうまく引き出すことができることから好ましい。
以上が脆性破壊発生特性を重視したTMCP条件において、低Niを前提に強度を満足できる技術であり、これによって、上記(2)と同時に(1)と(4)のニーズを満足することができる。
また、加速冷却後に350〜700℃で5〜60分の焼戻し熱処理を行うことにより、製造コストは上昇するものの、強度や伸び、シャルピー衝撃特性を、高精度で所定の範囲に制御できる。焼戻し熱処理の温度や時間が350℃未満や5分未満であると、焼戻し効果が発揮されない。また、焼戻し熱処理の温度や時間が700℃超えや60分超えであると、焼戻し効果が適正範囲を超えて過剰に発揮された過時効状態となり、強度低下とシャルピー衝撃特性劣化が著しくなって、適正な機械的性質が得られない。
次に、上記(3)のニーズである大入熱溶接HAZ靭性を満足するための技術を説明する。本発明の大入熱溶接HAZでは、微量Moの有害性、つまり、MAの増加が大きな課題であり、これに対して可能な限りSiを低減する必要がある。また、Nbは母材材質への貢献が小さいにも関わらず、大入熱溶接HAZを硬化やMA増加を通じて脆化させるから、可能な限り低減する必要がある。しかしながら、本発明では強度補償の観点から発明者先願よりもCを高める必要があるので、セメンタイトの有害性が顕在化して、発明者先願よりも相対的に大入熱溶接HAZ靭性が劣化することは否めず、HAZ組織微細化を促すための後述の技術を適用しなければ−20℃保証が限界である。下記技術を適用すれば、炭素当量Ceqレベルにも依存するが、−40℃保証の可能性がある。
すなわち、第一のHAZ組織微細化技術は、CaやMgの適正添加によって微細酸化物を多数分散させ、γ粒成長をピン止め効果によって抑制する技術である。これは、発明者先願で示された技術であるが、本発明のようにCを高めた場合でも、HAZ靭性を有効に高めることが確認された。第二のHAZ組織微細化技術は、V(C,N)変態核の利用である。発明者先願に対してCが高いから、大入熱溶接の冷却中にγ粒界やγ粒内にV(C,N)が析出しやすく、これが変態核として作用することでHAZ組織が微細化して靭性が向上することが明らかになった。炭素当量Ceqが比較的高い場合には、HAZが硬化するので靭性の確保が難しくなるが、このような場合にV添加すると、母材を強化しつつ大入熱溶接HAZ靭性を高めるため、極めて有効な手段である。これら二つのHAZ組織微細化技術は、製造コストの上昇を伴うものの、これらの一方あるいは両方を適用すれば、大入熱溶接HAZ靭性を−40℃保証できる可能性があり、好ましい形態である。
なお、本発明では大入熱溶接HAZ靭性を確保する観点から、炭素当量Ceqを0.42%以下に制限する。炭素当量Ceqが0.42%を超えると、上述のHAZ組織微細化技術を適用しても−20℃保証を安定的に満足することが難しいからである。
<化学成分組成>
以下に本発明における鋼の化学成分についての限定理由を説明する。
「C:炭素」0.07%超0.12%以下
Cは、強度向上のために重要な元素である。低温加熱、低温圧延を徹底したTMCP型厚手鋼板において、所定の強度を安定確保するために、微量Mo−B添加と相俟って0.07%超のCを添加する必要がある。また、後述する理由から、本発明ではNb、Ni、Moの添加量を必要最小限に抑える必要があるので、これらの元素を増加して高強度化することは困難である。従って、Cは非常に重要な強化元素である。さらに、C添加は大入熱HAZにおけるV(C,N)変態核の析出を促す効果もある。しかしながら、良好な大入熱溶接HAZ靭性を安定確保するためには、Cを0.12%以下に抑えることが好ましい。
「Si:ケイ素」0.4%以下
Siは、脱酸作用を有するが、強力な脱酸元素であるAlが十分に添加されている場合には不要である。比較的高い炭素当量Ceqの下で微量Moを添加する本発明の大入熱溶接HAZでは、SiはMA生成を助長する危険性が高いため、0.4%以下に抑える必要がある。また、Siの添加量は極力低くすることが好ましい。
「Mn:マンガン」1.0〜2%
Mnは、経済的に強度を確保するために1.0%以上の添加量が必要である。但し、2%を超えてMnを添加すると、スラブの中心偏析の有害性が顕著となるうえ、大入熱溶接HAZのMA生成を助長して脆化させるため、これを上限とする。
「P:リン」0.015%以下
Pは、不純物元素であり、良好な脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接HAZ靭性を安定的に確保するために、0.015%以下に低減する必要がある。
「S:硫黄」0.0005〜0.005%
Sは、大入熱溶接HAZでのピン止め効果のために0.0005%以上添加する。Sは適正に添加されたCaやMgと結合して、微細な硫化物を数多く形成してγ細粒化をもたらす。しかしながら、Sが0.005%を超えると、硫化物が粗大化してピン止め効果が低下すると同時に、破壊起点しての有害性も顕著となり、大入熱溶接HAZ靭性が劣化するため、0.005%を上限とする。
「B:ボロン(ホウ素)」0.0003〜0.003%
「Mo:モリブデン」0.01〜0.2%
BとMoは、本発明の特徴的な元素であり、最も重要な元素である。既に詳述したように、低温加熱と低温圧延の下でも微量Mo−Bの複合効果によって焼入性が高まり、強度を効果的に高める。そのためには、Bを0.0003%以上、Moを0.01%以上添加する必要がある。但し、0.003%を超えてBを添加すると、焼入性が低下すると同時に、B系の粗大析出物が生成して大入熱溶接HAZ靭性が劣化するため、これを上限とする。また、0.2%を超えてMoを添加すると、強度確保には有効であるものの、大入熱溶接HAZのMAが増加して脆化する。その上、Moは非常に高価なので0.2%を超える多量添加は工業製品としての経済性を著しく失う。従って、Moの上限は0.2%である。また、大入熱溶接HAZ靭性と経済性の両面を考慮すると、0.15%以下のMo添加が好ましい。
微量MoとBの複合添加は、γの再結晶を抑制する効果も有しており、極微量Nbしか使えない低温加熱と低温圧延においては、未再結晶域圧延の安定化に貢献する。
「Al:アルミニウム」0.001〜0.1%
Alは、脱酸を担い、Oを低減して鋼の清浄度を高めるために必要である。Al以外のSi、Ti、Ca、Mg等も脱酸作用があるが、たとえこれらの元素が添加される場合でも、0.001%以上のAlがないと安定的にO(酸素)を0.004%以下に抑えることは難しい。但し、Alが0.1%を超えるとアルミナ系粗大酸化物がクラスター化する傾向を強め、製鋼ノズルつまりが発生したり、破壊起点としての有害性が顕在化するため、これを上限とする。
「Ti:チタン」0.005〜0.02%
「N:窒素」0.001〜0.008%
「有効B量:Bef(%)」0.0003%以上
Tiは、Nと結合してTiNを形成し固溶Nを低減する。その結果、添加されたBがBNを形成することを抑え、γ中の固溶Bを確保することでBの焼入性を確保する効果がある。同時に、TiNは、スラブ再加熱時と大入熱溶接HAZでピン止め効果に貢献し、γ細粒化に寄与する。このような二つの効果を同時に発揮するために、Tiを0.005〜0.02%、Nを0.001〜0.008%、有効B量(Bef)を0.0003%以上とする必要がある。TiとNが、それぞれ0.005%、0.001%に満たないと、TiNによるピン止め効果が十分に発揮されず、母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。TiとNがそれぞれ0.02%、0.008%を超えると、TiC析出や固溶N増加によって母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。さらに、TiとNが適正範囲にあっても、有効B量が0.0003%未満であると、γ中の固溶Bの量が不足して焼入性を確保できないから、強度が確保できない。
以下に、有効B量(Bef)の考え方を説明する。
化学成分として添加されたTiは、溶鋼中の脱酸で消費される場合があり(低Alの場合に起こりやすい)、脱酸後に残ったTiが凝固後のγ中でTiNを形成する。この際、Tiに対してNが過剰であると、TiNを形成した後に残ったNがBの一部と結合してBNを形成する。そして、BNを形成した残りのBが固溶Bとして焼入性に寄与する。この焼入性に寄与する固溶B量を本発明では有効B量Bef(%)として扱う。
各元素の添加量、熱力学的な反応順序、生成物質の化学量論組成に基づいた有効B量Befの計算方法について以下に説明する。
まず、脱酸力の高い順に、Ca、Mg、REM(希土類元素)、Zr、AlがOと結合すると仮定する。この際の脱酸生成物として、CaO、MgO、REM、ZrO、Alを仮定して、脱酸されるO量を計算する。Tiよりも脱酸力の強いこれらの元素によって脱酸が完了しない場合、これらの強脱酸元素による脱酸後に残存し、弱脱酸元素であるTiによって脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量とした時、次式{OTi(%)>0}を満たす。
Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
但し、上記式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める。
この場合、残ったO(=OTi)をTiが脱酸することになる。そこで、Tiを仮定して、脱酸で消費されるTiを差し引いた残りのTiは、Ti−2OTi≧0.005(%)で表され、この値が0.005%以上になる必要がある。ここで、脱酸で消費されるTiを差し引いた残りのTiが0.005%以上必要なのは、上述したように、本発明に必要なTiNを確保するためである。脱酸で消費されるTiを差し引いた残りのTiが0.005%未満であると、TiNによるピン止め効果が十分に発揮されず、厚手母材と大入熱溶接HAZ靭性が劣化する。
また、脱酸で残った0.005%以上のTiがTiNを形成し、Nが残る場合は下記式が正の値、Nが残らない場合は下記式が0又は負の値になる。
N−0.29(Ti−2OTi)>0 :Nが残る場合
N−0.29(Ti−2OTi)≦0 :Nが残らない場合
また、上記式{N−0.29(Ti−2OTi)}が正の値となってNが残る場合は、Bの一部がBNとして消費されるので、下記式(2)によって有効B量Befが計算される。
Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
但し、上記式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、式{Ti−2OTi≧0.005(%)}を満たすものとする。さらに、式{N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)}のときは、式{N−0.29(Ti−2OTi)=0}とする。
また、式{N−0.29(Ti−2OTi)}が0または負の値となってNが残らない場合は、有効B量Befは、Bef(%)=Bで表される量となる。
次に、上述した残存酸素量OTiの式におけるCa、Mg、REM、Zr、Alの係数について述べると、溶鋼中での脱酸反応(酸化反応)による生成物(酸化物)としてCaO、MgO、REM、ZrO、Alを仮定し、これらの酸化物として存在するO量を質量%で計算する。例えば、CaOの場合、原子量はCaが40でOが16であるから、Caの質量%に対して16/40=0.4のOが結合する。Alであれば、原子量はAlが27でOが16であるから、Alの質量%に対して(16×3)/(27×2)=0.89のOが結合する。以下同様の計算概念として、上述のOTi式の各元素の係数(0.66:Mg、0.17:REM、0.35:Zr)を規定した。
また、有効B量Befの導出式概念を、低温側から高温側に遡って示すと以下のようになる。
有効B量Bef(%)=成分B量−B as BN
→ B as BN = 0.77(N−N as TiN)
→ N as TiN = 0.29(Ti−Ti as Ti
→ Ti as Ti= 2(O−O as CaO−O as MgO−O as REM−O as ZrO−O as Al
→ O as CaO=0.4Ca
→ O as MgO=0.66Mg
→ O as REM=0.17REM
→ O as ZrO=0.35Zr
→ O as Al=0.89Al
次に、有効B量Befの導出式概念を、高温側から低温側への反応順に示すと以下のようになる。すなわち、製鋼での精錬→凝固工程において、以下の順で反応する。
[1]液相(溶鋼中)での脱酸反応(1600℃付近)
Oとの化学的親和力の強い順にCaO→MgO→REM→ZrO→Alの反応が生じ、溶鋼中の溶存Oが減少していく。これで脱酸が完了する場合は、OTi≦0で表される。脱酸が完了せずに溶存Oが残る場合は、OTi>0、Ti−2OTi≧0.005(%)で表され、Alより弱脱酸元素であるTiがTiとして脱酸に寄与し、成分Tiから脱酸で消費されたTi as Tiを差し引いた残りのTiが0.005%以上となる。
[2]固相(凝固γ中)での脱窒反応(1300℃付近〜800℃付近)
Nとの化学的親和力の強い順にTiN→BN→AlNの反応が生じ、固相γ中の固溶Nが減少していく。まず、脱酸で消費された残りのTiが脱窒反応を起こす。これで脱窒が完了する場合は、N−0.29(Ti−2OTi)≦0で表され、γ中に固溶Nが存在しないので、BはBNを形成せずに全てが固溶Bとして存在する。一方、Tiによって脱窒が完了せず、固溶Nが残る場合は、N−0.29(Ti−2OTi)>0で表され、Bの一部がBNを生成して残りが固溶Bとなる。
一方、Tiよりも脱酸力の強い元素によって脱酸が完了する場合には、下記式を満たす。
Ti≦0
この場合、Tiは脱酸では消費されない。TiがTiNを形成し、Nが残る場合は下記式を満たす。
N−0.29Ti>0
この際の有効B量Befは下記式で計算される。
Bef(%)=B−0.77(N−0.29Ti)
TiがTiNを形成し、Nが残らない場合は下記式を満たす。
N−0.29Ti≦0
この際の有効B量Befは下記式で計算される。
Bef(%)=B
なお、上記各式において、式(N−0.29Ti)における0.29Tiは、N as TiNを意味する。ここで、原子量はTiが48でNが14であるから、Ti(正確には脱酸で消費されたTiを差し引いた残りのTi)の質量%に対して14/48=0.29のNが結合する。また、N−0.29Ti≦0であれば、Nは全てTiNで固定され、γ(オーステナイト)素地中に固溶Nは存在しない。一方、N−0.29Ti>0ならば、γ素地中にはTiNの他に固溶Nが存在するので、この固溶Nは、Bと結合してBNを生成し、有効B量を減少させる。
「O:酸素」0.001〜0.004%以下
Oは、0.004%以下に抑える必要がある。Oが0.004%を超えると、酸化物の一部が粗大化して破壊起点として有害性をもたらし、母材と大入熱溶接HAZの靭性が劣化する。一方で、Oは0.001%以上確保する必要がある。その理由は、大入熱溶接HAZの溶融線近傍において、HAZ靭性を高めるためにCaやMgの適正添加によって微細な酸化物を多数分散させ、ピン止め効果を強化してγ細粒化を図るためである。Oが0.001%未満だと、酸化物個数が不足して十分なピン止め効果が得られない。
「Ca:カルシウム」0.0003〜0.004%
「Mg:マグネシウム」0.0003〜0.004%
Ca、Mgは、溶鋼への添加順序を考慮しつつ、一方あるいは両方を0.0003%以上添加することで、CaやMgを含有する10〜500nmの酸化物や硫化物を1000個/mm以上確保することができる。CaやMgが0.0003%未満だと、ピン止め粒子である酸化物や硫化物の個数が不足する。しかしながら、それぞれ0.004%超添加すると、酸化物や硫化物が粗大化してピン止め粒子の個数が不足すると同時に、破壊起点としての有害性も顕著となり、大入熱溶接HAZ靭性が劣化する。
「V:バナジウム」0.01〜0.1%
Vは、母材を強化しつつ大入熱溶接HAZ靭性を高める有効な元素である。Cの添加量が比較的高い本発明においては、大入熱溶接HAZの冷却過程でγ中にV(C,N)が析出しやすく、これが変態核として作用することでHAZ組織が微細化し靭性が向上する。この効果を発揮するためには、0.01%以上のVが必要である。しかしながら、Vが0.1%を超えると、HAZの組織微細化効果が飽和すると同時にHAZの硬化が著しくなるので、HAZ靭性が劣化する。従って、0.1%がVの上限である。
「Ni:ニッケル」0.01〜1%
Niは、靭性の劣化を抑えて強度を確保するために有効である。そのためには0.01%以上のNi添加が好ましい。しかしながら、Niは合金コストが非常に高いうえに、表面疵の手入工程が発生するという問題がある。従って、Niは1%以下に抑える必要がある。また、Niは極力低くすることが好ましい。
「Nb:ニオブ」0.003〜0.03%
Nbは、仕上圧延における未再結晶域圧延を促すために有効である。そのためには0.003%以上のNb添加が好ましい。しかしながら、既に詳述したように、低温加熱と低温圧延の下では焼入性にほとんど効かないので、強化元素としては役に立たない。さらには、大入熱溶接HAZ靭性に対してNbは有害である。従って、本発明では未再結晶域圧延を促すために0.03%以下の極微量Nbしか添加せず、好ましくは0.02%以下に抑える。また、仕上圧延での累積圧下量を大きく確保できる場合には、Nb無添加でも十分に母材組織が微細化して良好な脆性破壊伝播停止特性が得られるため、Nbを添加しないことが大入熱溶接HAZ靭性の観点からさらに好ましい。
「Cu:銅」0.01〜1%、
「Cr:クロム」0.01〜1%
Cu、Crは、強度を確保するために有効であり、ともに0.01%以上の添加量で効果を発揮する。一方、大入熱溶接HAZ靭性を劣化させる観点から、ともに1%が上限である。
「REM:希土類元素(ランタノイド系元素)」0.0003〜0.02%
「Zr:ジルコニウム」0.0003〜0.02%
REM(希土類元素)、Zrは、脱酸と脱硫に関与して、中心偏析部の粗大な延伸MnSの生成を抑えて硫化物を球状無害化し、母材と大入熱溶接HAZの靭性を改善する。これらの効果を発揮するためには、REMとZrの下限はともに0.0003%である。但し、これらの添加量を増やしても効果は飽和するため、経済性の観点からREMとZrの上限はともに0.02%である。なお、本発明で添加するREMとは、LaやCeなどのランタノイド系元素である。
以上説明したように、本発明に係る脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板によれば、(1)板厚50〜80mm、降伏強度390〜600MPa、かつ引張強度510〜720MPaの厚手高強度で、(2)アレスト性指標Tkca=6000≦−10℃の良好な脆性破壊伝播停止特性を有し、(3)溶接入熱量≧20kJ/mmでもvE(−20℃)≧47Jとなる良好な大入熱溶接HAZ靭性を有し、(4)高価合金元素の低減(Ni≦1%等)等による低い製造コストを実現できる。このような本発明による厚手高強度鋼板が大型船舶をはじめとする各種の溶接構造物に使用されることで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、素材である鋼材の経済性等々が同時に満たされことから、その産業上の効果は計り知れない。
以下、本発明に係る脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法、及び脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
[サンプル作製]
製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御し、連続鋳造によって下記表1に示す化学成分のスラブを作製した。そして、下記表2及び表3に示す製造条件で、前記スラブを再加熱して厚板圧延することで板厚50〜80mmに仕上げ、加速冷却を行い、さらに、必要に応じてオフラインでの焼戻し処理を行い、厚手鋼板のサンプルを作製した。
[評価試験]
上記方法によって作製した厚手鋼板のサンプルについて、以下のような評価試験を行った。
母材の引張特性及びシャルピー衝撃特性については、厚手鋼板サンプルの板厚1/2部−圧延長手(L)方向から試験片を採取して測定して評価した。
また、母材の脆性破壊伝播停止特性については、全厚試験体を温度勾配型ESSO試験(WES 3003準拠)によって破壊し、アレスト性指標Tkca=6000を求めて評価した。
また、継手のHAZ靭性については、突合せ開先をエレクトロガス溶接(EGW)によって1パス溶接し、板厚1/2部の溶融線から1mm離れたHAZにノッチを入れて調べた。この際、−20℃で3本のシャルピー衝撃試験を行ない、平均の吸収エネルギー値を評価した。また、参考として、−40℃における特性も調べた。
本実施例の厚手鋼板の化学成分組成の一覧を表1に示すとともに、鋼板の製造条件の一覧を表2及び表3に示し、また、厚手鋼板と溶接継手の機械的性質の一覧を表4及び表5に示す。
Figure 0005085364
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[評価結果]
表1に示す鋼1〜15は本発明鋼であり、鋼の化学成分を適正化し、TMCPにおける低温加熱と低温圧延を徹底することにより、厚手であるのにも関わらず、表4に示すように、390〜600MPaの降伏強度と510〜720MPaの引張強度、及び、−10℃未満の良好な脆性破壊伝播停止特性Tkca=6000を満足し、さらに、大入熱溶接であるのにも関わらず、−20℃において良好なHAZ靭性が、Ni添加量を1%以下に抑えながら、同時に満足できていることがわかる。
一方、表1に示す比較鋼16〜24は、鋼の化学成分が適正でないため、また、表2に示す比較鋼1A〜1Iは鋼板製造条件が適正でないため、表4及び表5に示すように、降伏強度、引張強度、Tkca=6000、大入熱溶接HAZ靭性の何れかが劣り、本発明の厚手高強度鋼板のように、これら複数の要求特性を同時に満足することができないことがわかる。
鋼16は、CとCeqが低いため、鋼19はBと有効B量が低いため、鋼23と鋼24は有効B量が低いために、焼入性が不足して降伏強度や引張強度が劣っている。
鋼17は、Cが高いため、鋼18はSiが高ため、鋼20はMoが高いため、鋼21はNbが高いため、鋼22はCeqが高いために、大入熱溶接HAZの硬化やMA生成やセメンタイト生成が助長され、その靭性が劣っている。
また、鋼1Aは、スラブ再加熱の開始温度が高いため、鋼1Bは加熱温度が高いために、加熱時のγ粒が粗大化して脆性破壊伝播停止特性Tkca=6000が劣っている。
鋼1Cは、加熱温度が低すぎるためにB炭化物が十分に溶体化されず、固溶Bが不足して焼入性が低下し、降伏強度と引張強度が劣っている。さらに、粗圧延の終了温度が低すぎるために再結晶粒が十分に整細粒化されず、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Dは、粗圧延の終了温度が低すぎるため、鋼1Eは粗圧延の累積圧下量が少ないために再結晶粒が十分に整細粒化されず、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Fと鋼1Gは、仕上圧延の開始温度と終了温度が高すぎて上記式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}を満足しないため、母材の結晶粒径の微細化が不十分であり、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Hは、仕上圧延の累積圧下量が少ないため、母材の結晶粒径の微細化が不十分であり、Tkca=6000が劣っている。
鋼1Iは、加速冷却の停止温度が高いため、板厚内部の変態強化と結晶粒径微細化が不十分となり、引張強度とTkca=6000が劣っている。
以上説明した実施例の結果より、本発明の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板が、(1)板厚50〜80mm、降伏強度390〜600MPa、かつ引張強度510〜720MPaの厚手高強度で、(2)アレスト性指標Tkca=6000≦−10℃の良好な脆性破壊伝播停止特性を有し、(3)溶接入熱量≧20kJ/mmでもvE(−20℃)≧47Jとなる良好な大入熱溶接HAZ靭性を有し、(4)高価合金元素の低減(Ni≦1%等)等による低い製造コストを実現できることが明らかである。

Claims (11)

  1. 質量%で、
    C :0.07%超0.12%以下、
    Si:0.4%以下、
    Mn:1.0〜2%、
    P :0.015%以下、
    S :0.005%以下、
    B :0.0003〜0.003%、
    Mo:0.01〜0.2%、
    Al:0.001〜0.1%、
    Ti:0.005〜0.02%、
    N :0.001〜0.008%、
    O :0.004%以下
    を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量OTi(%)を、下記式(1)で表される量としたとき、下記式(2)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(3)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなる連続鋳造スラブを、Ar(℃)が、下記式(4)で計算されるとき、連続鋳造後にAr−200℃以下まで冷却した後、950〜1100℃に再加熱し、次いで、900℃以上で累積圧下量が30%以上である粗圧延を行い、次いで、700℃以上で累積圧下量が50%以上である仕上圧延を、仕上圧延開始温度および仕上圧延終了温度が、ともに、次式{−0.5×スラブ加熱温度(℃)+1325}(℃)で表される温度以下とされた条件で行い、次いで、加速冷却を適用して500℃以下まで冷却することを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
    Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(1)
    {但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
    Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(2)
    {但し、式(2)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
    Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(3)
    Ar(℃)=(910−310C−80Mn−20Cu−55Ni−80Mo) ・・・(4)
  2. 前記加速冷却の後、さらに、350〜700℃で5〜60分の焼戻し熱処理を施すことを特徴とする、請求項1に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
  3. 質量%で、
    S :0.0005〜0.005%、
    O :0.001〜0.004%
    を含有し、さらに、質量%で、
    Ca:0.0003〜0.004%、
    Mg:0.0003〜0.004%
    のうちの1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
  4. さらに、質量%で、
    V:0.01〜0.1%
    を含有することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
  5. さらに、質量%で、
    Ni:0.01〜1%、
    Nb:0.003〜0.03%、
    Cu:0.01〜1%、
    Cr:0.01〜1%
    のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
  6. さらに、質量%で、
    REM:0.0003〜0.02%、
    Zr:0.0003〜0.02%
    のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板の製造方法。
  7. 質量%で、
    C :0.07%超0.12%以下、
    Si:0.4%以下、
    Mn:1.0〜2%、
    P :0.015%以下、
    S :0.005%以下、
    B :0.0003〜0.003%、
    Mo:0.01〜0.2%、
    Al:0.001〜0.1%、
    Ti:0.005〜0.02%、
    N :0.001〜0.008%、
    O :0.004%以下
    を含有し、強脱酸元素による脱酸後に残存し弱脱酸元素であるTiにより脱酸され得る残存酸素量を、下記式(5)で表される量としたとき、下記式(6)で表される、変態前のオーステナイト素地に固溶するB量{有効B量:Bef(%)}が0.0003%以上であり、さらに、炭素当量Ceq(%)を、下記式(7)で表される量としたとき、炭素当量Ceqが0.32〜0.42%の範囲を満たし、残部が鉄および不可避的不純物からなり、板厚が50〜80mmであり、降伏強度が390〜600MPaで、引張強度が510〜720MPaであり、脆性破壊伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5となる温度Tkca=6000が−10℃以下であり、溶接入熱量が20kJ/mm以上の大入熱溶接部のHAZ靭性の指標であるシャルピー衝撃吸収エネルギーvE(−20℃)が47J以上であることを特徴とする、脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
    Ti(%)=O−0.4Ca−0.66Mg−0.17REM−0.35Zr−0.89Al ・・・(5)
    {但し、式(1)において、不可避的不純物扱いの成分元素も計算に含める}
    Bef(%)=B−0.77{N−0.29(Ti−2OTi)} ・・・(6)
    {但し、式(6)において、OTi≦0のとき、OTi=0とする。また、OTi>0のときは、Ti−2OTi≧0.005(%)を満たすものとする。さらに、N−0.29(Ti−2OTi)≦0(但し、OTi≦0のとき、OTi=0)のときは、N−0.29(Ti−2OTi)=0とする。}
    Ceq(%)=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(7)
  8. 質量%で、
    S :0.0005〜0.005%、
    O :0.001〜0.004%
    を含有し、さらに、質量%で、
    Ca:0.0003〜0.004%、
    Mg:0.0003〜0.004%
    のうちの1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項7に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
  9. さらに、質量%で、
    V :0.01〜0.1%
    を含有することを特徴とする、請求項7又は8に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
  10. さらに、質量%で、
    Ni:0.01〜1%、
    Nb:0.003〜0.03%、
    Cu:0.01〜1%、
    Cr:0.01〜1%
    のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項7〜9の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
  11. さらに、質量%で、
    REM:0.0003〜0.02%、
    Zr:0.0003〜0.02%
    のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項7〜10の何れか1項に記載の脆性破壊伝播停止特性と大入熱溶接熱影響部靭性に優れた厚手高強度鋼板。
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