特許文献1に示された従来の制御装置では、船体のピッチ角を検出する傾斜角センサを船体の前部に取りつけて、この傾斜角センサを長いワイヤハーネスを通して船外機に搭載された制御ユニットに接続する必要があった。そのため、従来の制御装置を用いた場合には、船体への傾斜角センサの取付けとワイヤハーネスの引き回しとに多くの手間を要し、船舶の艤装のために要するコストが高くなるという問題があった。
また従来の制御によった場合には、船舶が加速中であって、船体の加速度が設定値以上であるときに、トリムダウン制御(トリム角を減少させる方向への制御)のみが行われるため、トリム角を減少させる方向への制御が過度に行われて、図9に示すように、船首を押さえ込む力Fdが過度に働き、加速が抑えられることがあった。
なお図9において、Lは、船外機3のプロペラ3aの中心軸線を含む平面のうち、船体2が静止水面に浮いて静止しているときに鉛直方向に沿う状態になる一つの平面を基準平面としたときに、該基準平面上で船体2の喫水線に沿う方向に沿って伸びる直線である。本明細書では、この直線Lに沿う方向を船体の長手方向と呼ぶ。
また、軽く短い船体に船外機を取りつけた船舶においては、高速で航行中にポーポイジング(porpoising)と呼ばれる船体の飛び跳ね現象が生じることがある。航行中に飛び跳ね現象が生じると、乗り心地が悪いだけでなく、推力が無駄に使われるため、燃費が悪くなり、好ましくない。従来の制御によった場合には、船舶がプレーニング状態になった後は、船外機の推力を水平方向に向ける制御のみを行うため、船体の飛び跳ね現象が生じたときに、それを押さえることができないことがあった。
図10(A)ないし(C)は、船体の飛び跳ね現象が生じる様子を示したものである。同図(A)は、船体がほぼ水平方向を向いて航行している状態を示しており、図中Fuは動的揚力(船底に水が当たることにより船体に働く水圧)を示し、Cは動的揚力が働く中心を示している。またFwは船体の重心Gに働く重力を示している。この状態から船の速度が上昇すると、動的揚力Fuが大きくなっていくため船首が上がっていき、動的揚力Fuが働く中心Cが重心G側に寄っていく。船速が上昇していくと、図10(B)に示すように、動的揚力Fuが働く中心Cが重心Gに一致した状態になった後、図10(C)に示すように、動的揚力Fuが働く中心Cが重心Gよりも船尾側に移動した状態になる。このような状態になると、船首を下げる方向の力が働くようになるため、船首が水面にたたきつけられて図10(A)の状態に戻る。図10(A)の状態になると、動的揚力Fuが船首を持ち上げる方向に作用するため、再び船首が上がり、図10(A)〜(C)の過程が繰り返されて、船体が飛び跳ねながら航行する状態が継続する。
飛び跳ね現象を抑えるためには、図10(B)に示す状態になる前にトリムダウン制御を行って、船首を下げる必要があるが、特許文献1に示された制御によった場合には、船舶の加速度が設定値を超えるまでの間船外機の推力を水平方向に向ける制御が行われるため、図10(B)に示す状態になる前に船首を下げる制御を行うことができなかった。即ち、図10(B)に示すように船首が上がった状態では、推力が斜め上方を向いているため、制御装置は推力を水平方向に戻すべく船外機のトリム角を大きくする方向に制御し、船首を更に上昇させてしまう。また図10(C)の状態を経て船首が水面にたたきつけられた際には、推力が斜め下方を向いているため、制御装置は推力を水平方向に戻すべく船外機のトリム角を小さくする方向に制御して、船首を更に沈み込ませることになり、結果として、船体の飛び跳ね現象を助長する方向に制御が働いてしまう。
上記の現象は、船体が短く、軽量である場合に発生しやすく、船体が長い場合には発生しにくい。船外機と組み合わされる船体が予め分っていれば、飛び跳ね現象を抑えるための制御モードを用意しておくことが可能であるが、船外機は、種々の形状の船体と組み合わされ、事前に上記のような現象が生じるか否かを予測することは難しいため、従来の船舶用制御装置では、飛び跳ね現象を抑えるための制御モードは特に用意されていなかった。
本発明の目的は、船体側に船体のピッチ角を検出する傾斜角センサを取りつけることなく船体のピッチ角の情報を得て、船体のピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行うことができるようにした船舶用制御装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、船体側に船体の傾斜角を検出するセンサを取りつけることなく船体のピッチ角の情報を得て、船体のピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行うことができるだけでなく、加速中にトリムダウン制御が過度に行われて、加速が抑えられる状態が生じるのを防ぐことができるようにした船舶用制御装置を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、船体の飛び跳ね現象が生じる状況においても船外機のトリム角を適正に制御して、飛び跳ね現象が継続するのを防ぐことができるようにした船舶用制御装置を提供することにある。
本発明は、船体と、パワートリム装置を備えて船体の船尾に取り付けられた船外機とを備えた船舶の船外機のトリム角を制御する船舶用制御装置を対象とする。
本発明に係わる船舶用制御装置は、船外機のトリム角θtを検出するトリム角センサと、船外機の鉛直方向に対する傾斜角θoを検出する傾斜角検出手段と、船外機の船体に対する取付角度θIと、トリム角センサにより検出された船外機のトリム角θtと、傾斜角検出手段により検出された傾斜角θoとから船体のピッチ角θbを演算するピッチ角演算手段と、船舶の航行中にピッチ角演算手段により演算されたピッチ角θbと該ピッチ角の目標値との偏差に応じてパワートリム装置を制御することによりピッチ角を目標値に収束させるようにトリム角を制御する目標ピッチ角追従制御手段とを備えている。
上記のように、船外機の取付角と、トリム角と、傾斜角とから船体のピッチ角を演算するピッチ角演算手段を設けると、船体側にその傾斜角を検出する傾斜角センサを取りつけたり、長いワイヤハーネスを引き回したりすることなく、船体のピッチ角の情報を得て、船体のピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を的確に行うことができる。
上記目標ピッチ角追従制御手段は、船舶が加速中であるか否かの如何に関わりなく、ピッチ角を目標値に収束させる制御を行なうように構成する。
従来の制御装置では、加速中に一旦トリムダウン制御が行われると、加速度が低下するまで、トリムアップ方向への制御が行われないため、トリムダウン制御が過度に行われて船舶の加速が抑えられることがあったが、上記のように、加速中でも船体のピッチ角を適正な目標値に収束させるようにトリム角を制御するように構成しておくと、加速中にトリムダウン制御が過度に行われて船舶の加速が抑えられるのを防ぐことができる。
本発明の好ましい態様では、船外機のプロペラの中心軸線を含む平面のうち、船体が静止水面に浮いて静止しているときに鉛直方向に沿う状態になる一つの平面を基準平面とし、この基準平面上で船体の喫水線に沿う方向を船体の長手方向とする。また船外機が設定された最小トリム位置にあるときに基準平面上で船体の長手方向に対して取付角度θIをなして船外機に沿う一つの直線を船外機の基準軸線とし、基準平面上で船外機の基準軸線が鉛直方向に対してなす角を船外機の傾斜角θoとする。更に、船外機の基準軸線が基準平面上で船体の長手方向に対してなす角度から取付角度θIを減じた角度をトリム角θtとし、船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を負としたときに、θb=θt+θI−θo−90°で表される演算式によりピッチ角θbを演算するようにピッチ角演算手段が構成される。
なお「船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を負としたときに、θb=θt+θI−θo−90°で表される演算式によりピッチ角θbを演算する」ことは、「船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を正として、演算式θb=θt+θI+θo−90°によりピッチ角θbを演算する」ことと等価である。従って、「船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を正として、演算式θb=θt+θI+θo−90°によりピッチ角θbを演算すること」は、「船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を負としたときに、θb=θt+θI−θo−90°で表される演算式によりピッチ角θbを演算すること」を要件とした発明の技術範囲に包含される。
本発明の好ましい態様では、上記傾斜角検出手段が、船外機の基準軸線方向に働く加速度Gyと前記基準平面上で基準軸線と直交する方向に働く加速度Gxとを検出する機能を有する加速度センサを備えて、該加速度センサにより検出された加速度Gy及びGxから船外機の傾斜角を演算により求めるように構成される。上記加速度センサとしては2軸加速度センサを用いればよいが、3軸加速度センサを用いてもよいのはもちろんである。
この場合、船外機の傾斜角θoは、演算式θo=tan−1(Gx/Gy)により演算することができる。
本発明の他の好ましい態様では、上記傾斜角検出手段が、基準平面上で基準軸線と直交する方向に働く加速度Gxを検出する機能を有する加速度センサを備えて、該加速度センサにより検出された加速度Gxから船外機の傾斜角を演算により求めるように構成される。
この場合、船外機の傾斜角θoは、重力の加速度を1として、θo=sin−1Gxの演算式により演算することができる。
上記のように構成すると、加速度センサとして1軸加速度センサを用いればよいため、コストの低減を図ることができる。
本発明の好ましい態様では、上記傾斜角検出手段が、傾斜角の瞬時値を検出するとともに、設定された平均化処理期間内に繰り返し検出した傾斜角の瞬時値の平均値を求める演算を行って、平均化処理期間内の傾斜角の平均値をも検出するように構成される。この場合、ピッチ角演算手段は、傾斜角の瞬時値を用いて船体のピッチ角の瞬時値を演算するとともに、傾斜角の平均値を用いて船体のピッチ角の平均値をも演算するように構成され、目標ピッチ追従制御手段は、ピッチ角演算手段が演算したピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御する。
上記のように、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるように目標ピッチ追従制御手段を構成すると、船舶の航行中に生じる振動や揺動がピッチ角の演算値に与える影響を少なくして的確な制御を行なうことができる。
本発明の好ましい態様では、船外機の基準軸線が鉛直方向に対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を負としたときにθI=90°+θo−θt で表される演算式を用いて、船舶の停止時に船外機の取付角度θIを演算する船外機取付角演算手段が設けられる。
上記のように、船外機の取付角を演算により求めるようにしておくと、船外機を船体に取付ける際に、コントローラに取り付け角を入力する手間を省くことができるため、便利である。
本発明の他の好ましい態様では、設定された一定の期間内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値と最小値との差が設定値を超えているときに船体の飛び跳ね運動が生じていることを検出する飛び跳ね運動検出手段と、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに、該跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうトリムダウン制御手段とが更に設けられる。この場合、目標ピッチ角追従制御手段は、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されてトリムダウン制御が行なわれたときに、ピッチ角の目標値を減少させて、ピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行うように構成される。
上記のように、飛び跳ね運動検出手段を設けて、この飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに、跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうようにすると、飛び跳ね運動が継続するのを防ぐことができるため、船舶の乗り心地をよくすることができ、また推力が無駄に使われて燃費が悪くなるのを防ぐことができる。
本発明の他の好ましい態様では、ピッチ角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するピッチ角判定手段と、ピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときにピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうトリムダウン制御手段とが更に設けられる。この場合、目標ピッチ角追従制御手段は、ピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されてトリムダウン制御が行なわれたときに、ピッチ角の目標値を減少させて、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行なうように構成される。
上記のように、ピッチ角が制限値を超えたときにピッチ角が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なった後、ピッチ角の目標値を減少させてピッチ角目標値追従制御を行なうようにすると、ピッチ角を船体が安定する範囲に保ってトリム角を適正な値に制御することができる。
本発明の他の好ましい態様では、設定された一定の期間内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値と最小値との差から船体の飛び跳ね運動が生じているか否かを検出する飛び跳ね運動検出手段と、ピッチ角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するピッチ角判定手段と、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに該跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行ない、ピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときにはピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうトリムダウン制御手段とが更に設けられる。この場合、目標ピッチ角追従制御手段は、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されて上記トリムダウン制御が行なわれたとき及びピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されてトリムダウン制御が行なわれたときにピッチ角の目標値を減少させて、ピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行なうように構成される。
本発明の更に他の好ましい態様では、船外機の推力が働く方向を水平方向に保つようにトリム角を制御する推力水平制御手段と、目標ピッチ角追従制御手段がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御しているときに船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えているか否かを判定する傾斜角判定手段と、傾斜角判定手段により、船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値以下であると判定されているときに目標ピッチ角追従制御手段による制御を行なわせ、傾斜角判定手段により船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えていると判定されているときに推力水平制御手段による制御を行なわせるように制御を切り換える制御切換手段とが更に設けられる。
上記のように構成すると、船体が長く、トリム角を変化させてもピッチ角が変化しない場合に、船外機の傾斜角が制限値に達した時点で、目標ピッチ角追従制御手段による制御から推力水平制御手段による制御に切り換えることができるため、船外機が長い船体に取付けられる場合にトリム角が過度に大きくなって燃費が悪化するのを防ぐことができる。
以上のように、本発明によれば、船外機の取付角と、トリム角と、傾斜角とから船体のピッチ角を演算するピッチ角演算手段を設けて、演算により求めたピッチ角を目標値に収束させるように制御するので、船体側にそのピッチ角を検出する傾斜角センサを取りつけたり、長いワイヤハーネスを引き回したりすることなく、船体のピッチ角の情報を得て、船体のピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を的確に行うことができる。
本発明によれば、船舶が加速中であるか否かの如何に関わりなく、船体のピッチ角を目標値に収束させるようにトリム角を制御するので、船舶が加速している状態でもトリム角の制御を的確に行わせることができ、トリムダウン制御が過度に行われて船舶の加速が抑えられるのを防ぐことができる。
本発明において、飛び跳ね運動検出手段を設けて、この飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに、跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうようにした場合には、飛び跳ね運動が継続するのを防ぐことができるため、船舶の乗り心地をよくすることができ、また推力が無駄に使われて燃費が悪くなるのを防ぐことができる。
本発明において、ピッチ角の瞬時値が制限値を超えたときにピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうとともに、ピッチ角の目標値を減少させるようにした場合には、ピッチ角を過大にすることなく、船体の姿勢を船体が安定する範囲に保ってトリム角を適正な値に制御することができる。
本発明において、目標ピッチ角追従制御手段がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御している過程で船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えているか否かを判定する傾斜角判定手段を設けて、船外機傾斜角判定手段により船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えていると判定されたときに目標ピッチ角追従制御手段による制御から推力水平制御手段による制御に切り換えるようにした場合には、船体が長く、トリム角を変化させてもピッチ角が変化しないときに、船外機の傾斜角の瞬時値が制限値に達した時点で、目標ピッチ角追従制御手段による制御から推力水平制御手段による制御に切り換えることができるため、船外機が長い船体に取付けられている場合にトリム角が過度に大きくなって燃費が悪化するのを防ぐことができる。
以下図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明に係わる制御装置の構成例を示したものである。同図において、3は船外機を示し、4は船体の船外機から離れた箇所(運転席の近傍)に取り付けられたリモートコントロールユニット(リモコンユニット)を示している。
船外機3は、エンジンと該エンジンにより駆動されるプロペラとを備えた図示しない船外機本体と、パワートリムモータ(PTTモータ)301を動力源として船外機本体の船体に対する傾斜角を調節するトリム機構及び船外機本体の船体に対する傾斜角を検出するトリム角センサ302を有するパワートリム装置(PTTユニット)303と、パワートリム装置303を制御するパワートリムコントローラ(以下PTTコントローラ)304とを備えている。パワートリム装置(PTTユニット)303は、船外機を船体の船尾に取り付ける左右のブラケットの間に設けられ、パワートリムコントローラ304は船外機のカバー内に設けられている。
PTTコントローラ304は、CPU305を有するマイクロプロセッサと、加速度センサ307と、PTTモータ301に駆動電流を供給するモータドライブ回路308とを備えている。
またリモコンユニット4には、動作モードを自動制御モードとするか、マニュアルモードとするかを選択するために運転者により操作されるモード選択スイッチ401と、マニュアルモードが選択されているときに船外機をトリムアップ方向及びトリムダウン方向にそれぞれ動かすために運転者により操作されるPTTスイッチ402と、現在のトリム角と動作モードとを表示する表示器403とが設けられている。
図2は、本実施形態の船舶用制御装置の制御モードを示したブロック図である。本実施形態の制御装置では、エンジンがストールしているとの判定(エンスト判定)が成立しているときに制御モードをエンストモード10とする。このエンストモードでは、点火動作を停止させ、エンジンへの燃料の供給を停止するなど、エンジンを停止状態に保持するために必要な措置を講じる。エンストモードでは、自動トリム制御は行われない。
エンストモードにおいてエンジンの始動操作が行われることが検出されたときに、制御モードがエンジン始動モード11に切り替えられる。このエンジン始動モードでは、初回の点火が行われる気筒への混合ガスの供給や、始動時に適した点火位置での点火の実行等、エンジンを始動させるために必要な制御を行わせる。エンジン始動モードでは、エンジンを始動させるスタータモータを駆動するための電力を確保するために、PTTモータの駆動を禁止する。エンジン始動モードにおいてエンジンの始動に失敗し、エンスト判定が成立したときには、制御モードがエンストモードに戻される。
エンジン始動モードでエンジンの始動に成功したときに、制御モードが停船・微速モード12に移行する。このモードでは、変速機のギアポジションがニュートラルポジションにあって、スロットルレバーのポジションがアイドリングポジションにあるときにエンジンの回転速度をアイドリング速度に保つための制御を行わせ、スロットルレバーが微速航行位置に変位させられたときに、船舶を微速で航行させるために必要な回転速度でエンジンを回転させるようにエンジンを制御する。停船・微速モード12でエンスト判定が成立したときには、エンストモード10に移行する。停船・微速モードでは、次に行われる加速操作に備えてトリム角を最小トリム位置(トリム角を最小にする位置)に変位させる(フルトリムダウンする)ようにPTTモータ301を制御する。
エンストモードでエンジンの回転速度が設定値以上になったことが検出されたとき、またはスロットルレバーがスロットルバルブを開く側に設定角度以上操作されたことが検出されたとき(スロットル開度が設定値以上になったとき)に巡航モード13に移行する。この巡航モードでは、スロットルポジションに応じた速度で航行するようにエンジンの回転速度を制御する。また巡航モードでは、自動制御モードが選択されているときに後述のトリム自動制御を行う。巡航モードでエンスト判定が成立したときにもエンストモードに移行する。
本発明においては、トリム自動制御において、船体2のピッチ角を目標値に収束させるようにトリム角を制御することを基本とする。船体2のピッチ角を目標値に収束させるように制御するためには、船体のピッチ角を検出する必要があるが、本発明においては、船体のピッチ角を検出する傾斜角センサを船体に取り付けることなく、マイクロプロセッサによりピッチ角演算手段を構成して、このピッチ角演算手段により船体のピッチ角を演算する。
ここで、船体のピッチ角を演算する方法について、図5(A)ないし(C)を用いて説明しておく。図5(A)ないし(C)において、3は船体2の船尾2aにブラケット305を介して取り付けられた船外機である。ブラケット305は船尾の左右に設けられていて、左右のブラケット305の間に、パワートリム装置303(図5には図示せず。)が設けられている。パワートリム装置は、トリムモータ(PTTモータ)を駆動源として、船外機本体300をブラケットに設けられた回動中心軸306を中心にして回動させる。
図5(A)は、船体2が静止した水面上に浮いた状態で停止していて(ピッチ角が0で)、船外機3が最小トリム位置に対してトリム角θtだけ傾くとともに、鉛直方向に対して角度θoだけ船体2側に傾いている状態を示し、図5(B)は、船体2の船首が上がって、船体2が水平面Hに対してピッチ角θbだけ傾いている状態を示している。また図5(C)は、船体2が静止した水面上に浮いた状態で停止していて、船外機3が最小トリム位置に対してトリム角θtだけ傾き、鉛直方向に対して角度θoだけ船体2と反対側に傾斜している状態を示している。
船体のピッチ角を演算する際には、船外機3のプロペラ3aの中心軸線を含む平面のうち、図5(A)に示すように船体が静止水面に浮いて静止しているときに鉛直方向に沿う状態になる一つの平面(図5の紙面に沿う平面))を基準平面とする。そして、この基準平面上で船体の喫水線と平行に延びる直線Lに沿う方向を船体2の長手方向とし、船外機3が設定された最小トリム位置にあるとき(θt=0であるとき)に基準平面上で船体の長手方向に対して一定の取付角度θIをなして船外機3に沿う状態になる一つの直線を船外機の基準軸線Yとしたときに、基準平面上で船外機の基準軸線Yが鉛直面Vに対してなす角(鉛直方向に対してなす角)θoを船外機の傾斜角とする。また船外機の基準軸線Yが基準平面上で船体2の長手方向に対してなす角度から取付角度θIを減じた角度をトリム角θtとする。
船外機の取付角θIは、船外機が最小トリム位置にあるときの船外機の船体に対する傾きであり、船外機を船体に取り付けた際に船尾(トランザム)の構造により一定の値に決まる角度である。
ここで、図5(A)に示すように、船外機の基準軸線Yが鉛直方向Vに対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を負とすると、船体のピッチ角θbは、下記の式で与えられる。
θb=θt+θI−θo−90° …(1)
また船外機の基準軸線Yが鉛直方向Vに対して船体側に傾斜しているときの傾斜角θoの符号を正とすると、船体のピッチ角θbは、下記の式で与えられる。
θb=θt+θI+θo−90° …(1)′
上記(1)式と(1)′式とは等価である。
ここで、トリム角θtは、船外機に付属しているPTTユニット303に取り付けられているトリム角センサ302により検出することができる。また船外機の取付角θIは前述のように既知の一定値である。
本発明においては、船外機内に設けられたPTTコントローラ304に付属させた加速度センサ307を用いて船外機の傾斜角θoを検出し、この傾斜角θoと、トリム角センサにより検出されたトリム角θtと、既知の取付け角θIとから(1)式または(1)′式を用いて船体のピッチ角を演算し、演算したピッチ角とピッチ角の目標値との偏差に応じてPTTモータ301を制御することにより、船体のピッチ角を目標値に収束させるピッチ角目標追従制御を行わせる。本発明においては、船舶が加速中であるか否かの如何に関わりなく、目標ピッチ角追従制御を行う。
上記取り付け角θIは、船外機を船体に取り付けた際に船体の船尾(トランザム)の構造(傾斜角)により決まるので、船外機を船体に取り付けた際に計測してコントローラ304の不揮発性メモリに記憶させておいてもよいが、取り付け角を計測することは面倒であるだけでなく、コントローラに取り付け角を入力するのも面倒であるため、取り付け角θIは演算により求めるようにするのが好ましい。
船外機が鉛直方向に対して船体側に傾いているときの傾斜角θoの符号を負とすると、船外機の取付角θIは、船舶が停止しているか、または微速で航行していて、船体がほぼ水平状態を保っているときに検出されたトリム角θtと傾斜角θoとから下記の式により計算することができる。
θI=90°+θo−θt …(2)
本実施形態では、制御装置の起動時に、電源が投入され、エンジンが始動操作が行われる前の状態にあるときに停船していると判断して、上記(2)式により船外機の取り付け角θIを演算するか、または、エンジンが始動した後に、停船しているか、または微速で航行していると判定されているときに、上記(2)式により船外機の取り付け角θIを演算して、演算した取り付け角θIをメモリに記憶させる。
下記のいずれかの条件が成立し、かつその条件が成立している状態が十分に長い時間継続したときに船舶が停船しているか、または微速で航行していると判定することができる。
a.変速機のギアポジションがニュートラル位置にある。
b.エンジンの回転速度がアイドリング速度である。
c.スロットルポジションがアイドリングポジションである。
上記船外機の傾斜角θoは、傾斜角センサにより検出するようにしてもよいが、本実施形態では、船外機内に設けたPTTコントローラに設けた加速度センサ307の出力から船外機の傾斜角θoを演算により求める傾斜角検出手段を設ける。加速度センサとして互いに直交する2軸方向の加速度を検出する2軸加速度センサを用いる場合には、図6に示すように、船外機の基準軸線Yに双方向に働く加速度Gyと、基準平面内で基準軸線Yに対して直交する方向に働く加速度Gxとを検出するように加速度センサ307を取り付けて、この加速度センサの出力Gy及びGxから重力加速度Gが基準軸線Yに対してなす角を求めることにより、船外機の傾斜角θoを求めることができる。
この場合、重力加速度Gが基準軸線Yに対してなす角(船外機の傾斜角θo)は、下記の式により求めることができる。
θo=tan-1(Gx/Gy) …(3)
上記傾斜角検出手段は、基準平面上で基準軸線と直交する方向に働く加速度Gxを検出する機能を有する1軸加速度センサを用いて、該加速度センサにより検出された加速度から船外機の傾斜角を演算により求めるように構成することもできる。この場合、船外機の傾斜角θoは、下記の式により求めることができる。
θo=sin−1Gx …(4)
航行中の船体は細かいピッチング運動をしており、絶えず振動しているため、上記船外機の傾斜角の検出値は安定せず、その検出値は例えば図7に示すように変動する。この検出値の瞬時値を用いて目標値に収束させる制御を行った場合には、制御が不安定になるおそれがある。そのため、本実施形態では、船外機の傾斜角の瞬時値θoを演算するとともに、設定された平均化処理期間(図7参照)内に設定された時間間隔で繰り返し演算した傾斜角の瞬時値の平均値を演算することにより傾斜角の平均値θoavgを演算して、この傾斜角の平均値を目標値に収束させるようにピッチ角目標追従制御を行わせる。上記平均化処理期間は、例えば5秒程度に設定する。
上記のように、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるように目標ピッチ追従制御手段を構成すると、船舶の航行中に生じる振動や揺動がピッチ角の演算値に与える影響を少なくして安定な制御を行なうことができる。
本実施形態ではまた、船体の飛びはね現象が生じているか否かを検出して、飛び跳ね現象が生じていることが検出されたときに船外機を強制的にトリムダウンする制御を行わせるとともに、船体のピッチ角の目標値を減少させる制御を行わせる。船体のピッチ角の目標値の初期値は、船舶の航行を安定させるために適した値(例えば5°)に設定される。
船体の飛びはね現象が生じているか否かは、一定の判定期間に検出された船外機の傾斜角θoの瞬時値の最大値θomaxと最小値θominとの差の大きさ(傾斜角θoの変動の振幅)から判定することができる。本実施形態では、図7に示した平均化処理期間(例えば5秒)の間に検出された傾斜角θoの瞬時値の最大値θomaxと最小値θominとの差θomax−θomin=Wpitchが設定された制限値Wpmaxを超えたときに飛び跳ね現象が生じていると判定する。飛び跳ね現象を検出するのに適した制限値Wpmaxの値は、予め実験により求めておく。
本実施形態ではまた、船体のピッチ角の瞬時値が設定された制限値θbmalを超えているか否かを判定して、ピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときに、ピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なう。この場合、目標ピッチ角追従制御においては、ピッチ角の瞬時値が前記制限値を超えていると判定されたときにピッチ角の目標値を初期値よりも減少させて、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるためのトリム角制御を行なう。ピッチ角の瞬時値の制限値θbmalは、航行を安定に行わせることができるピッチ角の上限値に等しいかまたは該上限値よりも僅かに小さい値に設定しておくことが好ましい。
本発明においてはまた、船外機の推力が働く方向を水平方向に保つようにトリム角を制御する推力水平制御手段と、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御する目標ピッチ角追従制御を行なっている過程で、船外機の傾斜角の瞬時値θoが設定された制限値θomalを超えているか否かを判定する傾斜角判定手段とを設けて、傾斜角判定手段により、船外機の傾斜角の瞬時値θoが設定された制限値θomal以下であると判定されているときに目標ピッチ角追従制御手段による制御を行なわせ、傾斜角判定手段により、船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値θomalを超えていると判定されているときに推力水平制御手段による制御を行なわせるように制御を切り換える。上記制限値θomalは、目標ピッチ角追従制御が的確に行なわれるときの船外機の傾斜角の瞬時値θbの変化幅の上限値よりも僅かに大きい値に設定しておく。この制限値θomalも予め実験的に求めておく。
図3は、本実施形態の船舶用制御装置の構成を示したものである。同図において2は船体、3は船外機であり、船外機2は船外機本体300と、パワートリム装置303とからなっている。パワートリム装置303は船外機を船体に取り付ける左右のブラケットの間に配置される。船外機本体300はエンジンとプロペラとエンジンの回転をプロペラに伝達する動力伝達機構とをハウジング内に収容した周知の構造を有し、船外機本体内にPTTコントローラ304が設けられている。
パワートリム装置303にはトリム角センサ302が取り付けられ、該トリム角センサから船外機のトリム角に比例したトリム角検出信号が得られるようになっている。また本実施形態では船外機本体300に加速度センサ307が取り付けられていて、加速度センサ307から得られる検出信号が傾斜角検出手段21に与えられている。傾斜角検出手段21は、前記(3)式または(4)式を用いて、加速度センサ307の出力から船外機の鉛直方向に対する傾斜角の瞬時値θoを演算するとともに、一定の平均化処理期間内に繰り返し演算された傾斜角の瞬時値の平均値を演算して、船外機の鉛直方向に対する傾斜角の平均値θoavgを演算するように構成される。
傾斜角検出手段21が演算した傾斜角の瞬時値θoは、トリム角センサ302により検出されたトリム角θtと、取付け角演算手段22により演算された取付け角θIとともに瞬時ピッチ角演算手段23に与えられる。取付け角演算手段22は、システムの起動時、船体が停止しているとき、または船体が微速で航行していることを検出したときに、トリム角センサ302が検出しているトリム角θtと、傾斜角の瞬時値θoとから前記(2)式を用いて船外機の取付け角θIを演算してROMに記憶させる。瞬時ピッチ角演算手段22は、取付け角θIと、船外機の傾斜角の瞬時値θoと、トリム角センサ302により検出されたトリム角θtとから前記(1)式を用いて、船体のピッチ角の瞬時値θbを演算する。
また傾斜角検出手段21が演算した傾斜角の平均値θoavgは、トリム角センサ302により検出されたトリム角θtと、取付け角演算手段22により演算された取付け角θIとともに平均ピッチ角演算手段24に与えられる。平均ピッチ角演算手段24は、傾斜角の平均値θoavgが演算される毎に前記(1)式を用いて平均ピッチ角θbavgを演算する。
本実施形態では、瞬時ピッチ角演算手段23と、平均ピッチ角演算手段24とにより、傾斜角の瞬時値θoとトリム角θtと取付け角θIとから船体のピッチ角の瞬時値を演算するとともに、傾斜角の平均値θoavgとトリム角θtと取付け角θIとから船体のピッチ角の平均値をも演算するピッチ角演算手段が構成されている。
平均ピッチ角演算手段24により演算されたピッチ角の平均値θbavgは、目標ピッチ角追従制御手段25に与えられる。目標ピッチ角追従制御手段25は、ピッチ角の平均値θbavgとピッチ角の目標値との偏差に応じてパワートリム装置のPTTモータを制御することにより、ピッチ角の平均値θbavgを目標値に収束させるようにトリム角θtを制御する。
瞬時ピッチ角演算手段23により演算されたピッチ角の瞬時値θbは設定された一定の期間内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値と最小値との差から船体の飛び跳ね運動が生じていることを検出する飛び跳ね運動検出手段26と、ピッチ角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するピッチ角判定手段27とに与えられる。
飛び跳ね運動検出手段26は、設定された一定の期間(本実施形態では図7に示された平均化処理期間)内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値θbmaxと最小値θbminとの差θbmax−θbminを設定値と比較して、差θbmax−θbminが設定値を超えているときに船体の飛び跳ね運動が生じていることを検出する。
ピッチ角判定手段27は、ピッチ角の瞬時値θbと設定された制限値とを比較して、ピッチ角の瞬時値が制限値を超えているか否かを判定する。
飛び跳ね運動検出手段26の検出結果及びピッチ角判定手段27の判定結果は、目標ピッチ角追従制御手段25と、トリムダウン制御手段28とに与えられる。
トリムダウン制御手段28は、飛び跳ね運動検出手段26により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角θtを減少させるトリムダウン制御を行ない、ピッチ角判定手段27によりピッチ角の瞬時値θbが制限値を超えていると判定されたときにはピッチ角の瞬時値θbが制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なう。
目標ピッチ角追従制御手段25は、飛び跳ね運動検出手段26により船体の跳び跳ね運動が検出されてトリムダウン制御が行なわれたとき及びピッチ角判定手段27によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されてトリムダウン制御が行なわれ、かつ目標ピッチ角追従制御を行なう条件が成立しているときに、ピッチ角の目標値を初期値よりも減少させて、ピッチ角の平均値θbavgを目標値に収束させるためのトリム角の制御を行なうように構成されている。
傾斜角検出手段21が検出した船外機の鉛直方向に対する傾斜角の瞬時値θoはまた傾斜角判定手段29に与えられる。傾斜角判定手段29は、目標ピッチ角追従制御手段25がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御している過程で船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定する。
傾斜角判定手段29による判定結果は、制御切換手段30に与えられる。制御切換手段30は、傾斜角判定手段29により、船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値以下であると判定されているときに目標ピッチ角追従制御手段25による制御を行なわせ、傾斜角判定手段29により船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値を超えていると判定されているときに船外機の推力が働く方向をほぼ水平方向に保つようにトリム角を制御する推力水平制御手段31による制御を行なわせるように制御を切り換える。
推力水平制御手段31は、傾斜角検出手段21により検出された船外機の鉛直方向に対する傾斜角θoに応じてPTTモータを制御することにより、傾斜角θoを0にするようにトリム角を制御して、船外機の推力の方向をほぼ水平方向に保つように制御する。
マイクロプロセッサは、起動後各部の初期化が完了した後、船体が停止していると判定したとき、または微速で航行していると判定したときに式(2)式を用いて船外機の取付角θIを演算して、その演算値をRAMに記憶させる。この過程により取付け角演算手段22が構成される。
マイクロプロセッサはまた、加速度センサ307の出力を所定のサンプリング周期でサンプリングして、サンプリングする毎に船外機の傾斜角θoを演算し、一定の平均化処理期間が経過する毎に傾斜角の平均値θoavgを演算する。これらの過程により傾斜角検出手段21が構成される。
マイクロプロセッサは、船体の傾斜角の瞬時値θoが演算される毎に船体のピッチ角の瞬時値θbを演算し、傾斜角の平均値θoavgが演算される毎にピッチ角の平均値θbavgを演算する。これらの過程により瞬時ピッチ角演算手段23及び平均ピッチ角演算手段24が構成される。
上記以外の図3に示した各手段を実現するために微少時間間隔でマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示したフローチャートを図4に示した。このアルゴリズムによる場合には、先ずステップS1でピッチ角の瞬時値θbがピッチ角の制限値θbmalを超えているか否かを判定する。その結果、ピッチ角の瞬時値θbがピッチ角の制限値θbmalを超えていないと判定されたときにはステップS2に進んで平均化処理期間内に検出されたピッチ角θbの最大値θbmaxと最小値θbminとの差Wpitch=θbmax−θbminをピッチ角振幅として演算する。次いでステップS3に進んでピッチ角振幅Wpitchが制限値Wpmaxを超えているか否かを判定し、ピッチ角振幅Wpitchが制限値Wpmaxを超えていないと判定されたときには船体の飛び跳ね現象は起こっていないとして、ステップS4に進む。ステップS4では、フラグPitchFBがセットされているか否かを見ることにより、ピッチ角目標追従制御が選択されているか否かを判定する。
フラグPitchFBは、システムの起動時にモードスイッチ401により自動制御モードが選択されているときにセットされる。従って最初はフラグPitchFBがセットされているので、目標ピッチ角追従制御が選択されているとしてステップS5に進み、目標ピッチ角追従制御を行なわせる。目標ピッチ角追従制御では、ピッチ角演算手段により演算されたピッチ角θbと設定されたピッチ角の目標値との偏差に応じてパワートリム装置のPTTモータを制御することによりピッチ角を目標値に収束させるようにトリム角を制御する。
ステップS5で目標ピッチ角追従制御を行なわせた後、ステップS6に移行して船外機の傾斜角の瞬時値θoが制限値θomalを超えているか否かを判定する。その結果、船外機の鉛直方向に対する傾斜角の瞬時値θoが制限値θomalを超えていない場合には以後何もしないでこの処理を終了する。ステップS6で傾斜角の瞬時値θoが制限値θomalを超えていると判定されたときには、ステップS7に進んでフラグPitchFBをリセットして制御モードを推力水平制御に切り換えた後この処理を終了する。
傾斜角の瞬時値θoの制限値θomalは、船体の長さが比較的短く、船体のピッチ角がトリム角の変化に反応する場合(目標ピッチ角追従制御が有効に働く場合)に検出される船外機の傾斜角の瞬時値θoの最大値θomaxよりも僅かに大きい値に設定しておく。船体の長さが長く、トリム角を変化させても船体のピッチ角がほとんど変化しない場合には、目標ピッチ角追従制御を行なっている過程で傾斜角の瞬時値θoがやがて制限値θomalを超えるため、ステップS7に移行させて制御を推力水平制御に切り換えることができる。
ステップS1でピッチ角の瞬時値θbが制限値θbmalを超えていると判定されたとき、及びステップS3でピッチ角振幅Wpitchが制限値Wpmaxを超えていると判定されたときには、ステップS8に進んで、ピッチ角の瞬時値θbが制限値以下になるまで、船外機のトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なう。トリムダウン制御を行なった後、ステップS9に進んで、フラグPitchFBがセットされているか否か(目標ピッチ角追従制御が選択されているか否か)を判定する。その結果、フラグPitchFBがセットされている場合にはステップS11に進んでピッチ角の目標値を初期値よりも一定値だけ減少させた後この処理を終了する。ステップS9でフラグPitchFBがセットされていないと判定されたときには、以後何もしないでこの処理を終了する。
またステップS4において目標ピッチ角追従制御が選択されていないと判定されたときには、ステップS11に進んで、船外機の推力が働く方向を水平方向に保つようにトリム角を制御する推力水平制御を行なわせる。
図4に示したアルゴリズムによる場合には、ステップS1により、ピッチ角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するピッチ角判定手段27が構成され、ステップS2とS3とにより、設定された一定の期間内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値と最小値との差が設定値を超えているときに船体の飛び跳ね運動が生じていることを検出する飛び跳ね運動検出手段26が構成される。
またステップS5により、船舶の航行中に前記ピッチ角演算手段により演算されたピッチ角θbと該ピッチ角の目標値との偏差に応じて前記パワートリム装置を制御することによりピッチ角を目標値に収束させるようにトリム角を制御する目標ピッチ角追従制御手段25が構成され、ステップS1,S3及びS8により、飛び跳ね運動検出手段26が船体の跳び跳ね運動を検出したときに該跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行ない、ピッチ角判定手段27によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときにはピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうトリムダウン制御手段28が構成される。
更に、ステップS11により、船外機の推力が働く方向を水平方向に保つように前記トリム角を制御する推力水平制御手段31が構成され、ステップS9及びS10により、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されてトリムダウン制御が行なわれたとき及びピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されてトリムダウン制御が行なわれたときに、目標ピッチ角追従制御におけるピッチ角の目標値を減少させる手段が構成される。
またステップS6及びS7により、目標ピッチ角追従制御手段がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御している過程で船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定する傾斜角判定手段傾斜角判定手段29と、船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値以下であると判定されているときに目標ピッチ角追従制御手段による制御を行なわせ、傾斜角判定手段により、船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値を超えていると判定されているときに推力水平制御手段による制御を行なわせるように制御を切り換える制御切換手段30が構成される。
上記のような制御切換手段を設けておくと、船外機が取付けられている船体が長く、トリム角を変化させてもピッチ角が変化しないときに、船外機の傾斜角の瞬時値が制限値に達した時点で、目標ピッチ角追従制御手段による制御から推力水平制御手段による制御に切り換わるため、船外機が長い船体に取付けられている場合にトリム角が過度に大きくなって燃費が悪化するのを防ぐことができる。
目標ピッチ角追従制御を安定に行なわせるためには、上記の実施形態のように、傾斜角検出手段が傾斜角の瞬時値だけでなく平均値をも演算するように構成して、傾斜角の平均値を用いて演算した船体のピッチ角の平均値を目標値に収束させるように制御するのが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではなく、ピッチ角の瞬時値を目標値に収束させるように目標ピッチ角追従制御を行なわせるようにしてもよい。
上記の実施形態では、取付け角θIを演算により求めるとしたが、船外機を船体に取付ける際に取付け角の実測値をコントローラに入力してROMに記憶させておくようにしてもよい。
上記の実施形態では、飛び跳ね運動検出手段とピッチ角判定手段とを設けて、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに該跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行ない、ピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときにはピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうようにトリムダウン制御手段を構成したが、これらを省略することもできる。
またピッチ角判定手段を省略して、船体の状態を検出する手段として、設定された一定の期間内に演算されたピッチ角の瞬時値の最大値と最小値との差が設定値を超えているときに船体の飛び跳ね運動が生じていることを検出する飛び跳ね運動検出手段のみを設け、この飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されたときに、該跳び跳ね運動が検出されなくなるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうようにトリムダウン制御手段を構成するようにしてもよい。この場合、目標ピッチ角追従制御手段は、飛び跳ね運動検出手段により船体の跳び跳ね運動が検出されてトリムダウン制御が行なわれたときに、ピッチ角の目標値を減少させて、ピッチ角を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行なうように構成する。
また飛び跳ね運動検出手段を省略して、船体の状態を判定する手段として、ピッチ角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するピッチ角判定手段のみを設け、このピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されたときにピッチ角の瞬時値が制限値以下になるまでトリム角を減少させるトリムダウン制御を行なうようにトリムダウン制御手段を構成してもよい。この場合、目標ピッチ角追従制御手段は、ピッチ角判定手段によりピッチ角の瞬時値が制限値を超えていると判定されてトリムダウン制御が行なわれたときに、ピッチ角の目標値を減少させて、ピッチ角の平均値を目標値に収束させるためのトリム角の制御を行なうように構成する。
目標ピッチ角追従制御におけるピッチ角の目標値の初期値は固定値でもよく、運転者が適宜に調整できるようにしておいてもよい。
上記に実施形態のように、制御切換手段を設けておくと、船外機が取付けられている船体が長く、トリム角を変化させてもピッチ角が変化しないときに、トリム角が過度に大きくなって燃費が悪化するのを防ぐことができるが、船外機が長い船体に取付けられることがないことが分かっているときには、上記制御切換手段を省略することができる。
上記の実施形態で用いた傾斜角判定手段29は、目標ピッチ角追従制御手段25がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御している過程で船外機の傾斜角の瞬時値が設定された制限値を超えているか否かを判定するように構成されているが、傾斜角判定手段29は、船外機の傾斜角の平均値が設定された制限値を超えているか否かを判定するか、または船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の双方が設定された制限値を超えているか否かを判定するように構成してもよい。
即ち、傾斜角判定手段29は、目標ピッチ角追従制御手段がピッチ角の平均値を目標値に収束させるようにトリム角を制御しているときに船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えているか否かを判定するように構成すればよく、制御切換手段30は、傾斜角判定手段29により、船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値以下であると判定されているときに目標ピッチ角追従制御手段による制御を行なわせ、傾斜角判定手段により船外機の傾斜角の瞬時値及び平均値の少なくとも一方が設定された制限値を超えていると判定されているときに推力水平制御手段による制御を行なわせるべく制御を切り換えるように構成されていればよい。