図1は、この発明の実施例に係る船外機の制御装置を船体も含めて全体的に示す概略図である。また、図2は図1に示す船外機の部分断面拡大側面図であり、図3は船外機の拡大側面図である。
図1から図3において、符号10は船外機を示す。船外機10は、図示の如く、船体(艇体)12の船尾(後尾)12aに取り付けられる(固定される)。
船外機10は、図2に示すように、スイベルケース14、チルティングシャフト16およびスターンブラケット18を介して船体12に取り付けられる。また、船外機10はマウントフレーム20とシャフト部22を備え、シャフト部22がスイベルケース14の内部に鉛直軸回りに回転自在に収容されることで、船外機10は船体12に対して鉛直軸回りに回転自在とされる。マウントフレーム20は、その上端と下端が船外機10の本体を構成するフレーム(図示せず)に固定される。
スイベルケース14の付近には、シャフト部22を駆動する操舵用電動モータ24と、船外機10の船体12に対するチルト角およびトリム角をチルトアップ/ダウン方向およびトリムアップ/ダウン方向に調整可能なパワーチルトトリムユニット(トリム角調整機構)26が配置される。操舵用電動モータ24の回転出力は減速ギヤ機構28、マウントフレーム20を介してシャフト部22に伝達され、よって船外機10はシャフト部22を操舵軸として左右に(鉛直軸回りに)操舵される。
パワーチルトトリムユニット26はチルト角調整用の油圧シリンダ26aとトリム角調整用の油圧シリンダ26bを一体的に備え、油圧シリンダ26a,26bを伸縮させることで、スイベルケース14がチルティングシャフト16を回転軸として回転させられ、船外機10はチルトアップ/ダウンあるいはトリムアップ/ダウンさせられる。尚、油圧シリンダ26a,26bは、船外機10に配置された図示しない油圧回路に接続されて作動油の供給を受けて伸縮させられる。
船外機10の上部には、内燃機関(以下「エンジン」という)30が搭載される。エンジン30は火花点火式の水冷ガソリンエンジンで、排気量2200ccを備える。エンジン30は水面上に位置し、エンジンカバー32によって覆われる。
エンジン30の吸気管34には、スロットルボディ36が接続される。スロットルボディ36はその内部にスロットル弁38を備えると共に、スロットル弁38を開閉駆動するスロットル用電動モータ40が一体的に取り付けられる。
スロットル用電動モータ40の出力軸は減速ギヤ機構(図示せず)を介してスロットル弁38に接続され、スロットル用電動モータ40を動作させることでスロットル弁38が開閉され、エンジン30の吸気量が調量されてエンジン回転数が調節される。
船外機10は、鉛直軸と平行に配置されて回転自在に支持されるドライブシャフト(バーチカルシャフト)42と、エンジン30とドライブシャフト42の間に介挿されるトルクコンバータ44と、ドライブシャフト42に取り付けられると共に、エンジン30の潤滑部、パワーチルトトリムユニット26およびトルクコンバータ44などに作動油(オイル)を圧送する油圧ポンプ46と、その作動油を貯留するリザーバ50とを備える。
ドライブシャフト42の上端にはエンジン30のクランクシャフト52がトルクコンバータ44を介して接続される一方、下端にはシフト機構54を介して水平軸回りに回転自在に支持されたプロペラシャフト56が接続される。プロペラシャフト56は、パワーチルトトリムユニット26の初期状態(トリム角が初期角度の状態)において、その軸線56aが船体12の進行方向に対して略平行となるように配置される。プロペラシャフト56の一端にはプロペラ60が取り付けられる。このように、ドライブシャフト42はエンジン30とプロペラ60を接続する。
図4は、図2に示すトルクコンバータ44付近を拡大して示す拡大断面図である。
図4に示す如く、トルクコンバータ44は、クランクシャフト52にドライブプレート62を介して接続されるポンプ・インペラ44aと、ポンプ・インペラ44aに対向配置されて作動油が給排されると共に、ドライブシャフト42に接続されるタービン・ランナ44bと、ポンプ・インペラ44aとタービン・ランナ44bの間に配置されるステータ44cと、ロックアップクラッチ44dなどからなる。
図5は、トルクコンバータ44や油圧ポンプ46などを模式的に示す油圧回路図である。
図5を参照しつつトルクコンバータ44や油圧ポンプ46などについて説明すると、油圧ポンプ46はエンジン30によって駆動され、リザーバ50の作動油を汲み上げて第1の油路64aに圧送する。第1の油路64aに圧送された作動油は、エンジン30の潤滑部やパワーチルトトリムユニット26(図5で省略)などに供給された後、第2の油路64bを介してリザーバ50へ還流される。
第1の油路64aには第1の油路64aと油圧ポンプ46の吸入口とを接続する第3の油路64cが設けられ、その途中にはエンジン30に供給される作動油の圧力が規定圧力以上のとき開弁する一方、規定圧力未満のときに閉弁するリリーフ弁66が介挿される。
第1の油路64aにおいて油圧ポンプ46の吐出口と第3の油路64cの分岐点との間には、トルクコンバータ44に供給される作動油を流通させる第4の油路64dが接続される。また、第3の油路64cにおいてリリーフ弁66の下流側には、トルクコンバータ44から油圧ポンプ46へ戻る作動油を流通させる第5の油路64eが接続される。第4、第5の油路64d,64eには、ロックアップクラッチ44dの動作を制御するロックアップ制御弁70が設けられる。
ロックアップ制御弁70は電磁弁からなり、その出力は一方ではトルクコンバータ44のロックアップクラッチ44dのピストン室44d1に接続されると共に、他方ではその背面側の室44d2に接続される。従って、ロックアップ制御弁70が励磁・消磁されるときに油路を切替え、それによってロックアップクラッチ44dのオン(係合)・オフ(解放)が制御される。
具体的には、ロックアップクラッチ44dにあっては、ロックアップ制御弁70が励磁されて作動油がピストン室44d1に供給される一方、背面側の室44d2から排出されると、オン(係合)される。また、ロックアップ制御弁70が消磁されると(図5に示す状態。初期状態)、作動油は背面側の室44d2に供給されると共に、ピストン室44d1から排出され、ロックアップクラッチ44dがオフ(解放)される。尚、上記したトルクコンバータ44の詳細は、特許文献1に開示されているので、これ以上の説明を省略する。
図2の説明に戻ると、シフト機構54は、ドライブシャフト42に接続されて回転させられる前進ベベルギヤ54aと後進ベベルギヤ54b、プロペラシャフト56を前進ベベルギヤ54aと後進ベベルギヤ54bのいずれかに係合自在とするクラッチ54cなどからなる。
エンジンカバー32の内部にはシフト機構54を駆動するシフト用電動モータ72が配置され、その出力軸は、減速ギヤ機構(図示せず)を介してシフト機構54のシフトロッド54dの上端に接続自在とされる。シフト用電動モータ72を駆動することにより、シフトロッド54dとシフトスライダ54eが適宜に変位させられ、それによってクラッチ54cを動作させてシフトポジションがフォワード、リバースおよびニュートラルの間で切り替えられる。
シフトポジションがフォワードあるいはリバースのとき、ドライブシャフト42の回転はシフト機構54を介してプロペラシャフト56に伝達され、よってプロペラ60は回転させられ、船体12を前進あるいは後進させる方向の推力を生じる。尚、船外機10はエンジン30に取り付けられたバッテリなどの電源(図示せず)を備え、それから各電動モータ24,40,72などに動作電源が供給される。
図3に示す如く、スロットル弁38の付近にはスロットル開度センサ74が配置され、スロットル弁38の開度TH(以下「スロットル開度」という)を示す出力を生じる。シフトロッド54dの付近には、シフト位置センサ80が配置されてシフトポジション(ニュートラル、フォワードおよびリバース)に応じた信号を示す出力すると共に、ニュートラルスイッチ82も配置されてシフトポジションがニュートラルであるときにオン信号を、フォワードあるいはリバースであるときにオフ信号を出力する。
エンジン30のクランクシャフト52の付近にはクランク角センサ84が取り付けられ、所定のクランク角度ごとにパルス信号を出力する。また、ドライブシャフト42の付近にはドライブシャフト回転数センサ86が取り付けられ、ドライブシャフト42の回転数に応じた信号を出力する。
スイベルケース18の付近にはトリム角センサ(回転角センサ)88が配置され、船外機10のトリム角θtrm(具体的には、船体12に対する船外機10のピッチ軸回りの回転角)に応じた出力を生じる。
上記した各センサやスイッチの出力は、船外機10に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit。以下「ECU」という)90に入力される。ECU90はCPUやROM、RAMなどを備えたマイクロ・コンピュータからなり、船外機10のエンジンカバー32の内部に配置(搭載)される。
図1に示す如く、船体12の操縦席92の付近には、図示しない操船者によって回転操作自在なステアリングホイール94が配置される。ステアリングホイール94のシャフト(図示せず)には操舵角センサ96が取り付けられ、操船者によって入力されたステアリングホイール94の操舵角に応じた信号を出力する。
操縦席92付近にはリモートコントロールボックス100が配置され、そこには操船者の操作自在に配置されるシフト・スロットルレバー102が設けられる。シフト・スロットルレバー102は、初期位置から前後方向に揺動操作自在とされ、操船者からのシフトチェンジ指示とエンジン回転数の調節指示を入力する。リモートコントロールボックス100の内部にはレバー位置センサ104が取り付けられ、操船者によって操作されたシフト・スロットルレバー102の位置に応じた信号を出力する。
操縦席92付近であって船体12の重心位置には、船体12に作用する加速度を検出する加速度センサ106が配置される。加速度センサ106は、船体12の上下方向(重力軸方向)などに作用する加速度を示す出力を生じる。
操縦席92付近にはさらに、操船者に手動操作自在に設けられると共に、船外機10のチルト角およびトリム角の調整指示を入力するパワーチルトトリムスイッチ(スイッチ)110が配置され、操船者によって入力された船外機10のチルトアップ/ダウンおよびトリムアップ/ダウンの指示に応じた信号を出力する。これら操舵角センサ96、レバー位置センサ104、加速度センサ106およびパワーチルトトリムスイッチ110の出力もECU90に入力される。
ECU90は、上記したセンサやスイッチの出力に基づいて各電動モータの動作を制御すると共に、トルクコンバータ44のロックアップクラッチ44dのオン・オフを制御し、さらにパワーチルトトリムユニット26を作動させてトリム角を調整する。
図6は、図1に示すECU90の制御を示すフロー・チャートである。図示のプログラムは、ECU90によって所定の周期(例えば100msec)ごとに実行される。
以下説明すると、先ずS10において、ロックアップクラッチ44dの動作を実行すべきか否かの判定処理(具体的には、ロックアップクラッチ44dのオン・オフの制御)を行う。
図7は、そのロックアップクラッチ動作実行判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。同図を参照して説明すると、先ずS100において、シフトポジションがニュートラルか否か判断する。この判断は、ニュートラルスイッチ82からオン信号が出力されているか否か検出することで行う。S100で否定されるとき、即ち、インギヤのときはS102に進み、スロットル開度THをスロットル開度センサ74の出力から検出(算出)し、S104に進んで検出されたスロットル開度THの所定時間(例えば500msec)当たりの変化量(変動量)DTHを算出する。
次いでS106に進み、スロットル弁38が閉弁方向に駆動されているか否か(即ち、船体12を減速させる状態(以下「減速状態」という)にあるか否か)判断する。この判断は、スロットル開度THの変化量DTHが0deg未満か否か判定することで行われる。即ち、変化量DTHが負値の場合、スロットル弁38が閉弁方向に駆動されている(減速状態にある)と判断する一方、0または正値の場合はスロットル弁38が停止あるいは開弁方向に駆動されている(即ち、船体12を定速で走行させる状態あるいは加速させる状態にある)と判断する。
S106で否定されるときはS108に進み、トルクコンバータ44の加速済み判定フラグ(後述。以下「トルコン加速済み判定フラグ」という)のビットが0か否か判断する。トルコン加速済み判定フラグは初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS108の判断は通例肯定されてS110に進み、トルクコンバータ44の増幅判定フラグ(以下「トルコン増幅判定フラグ」という)のビットが0か否か判断する。
このトルコン増幅判定フラグのビットは、後述する如く、トルクコンバータ44においてエンジン30の出力トルクを増幅させてドライブシャフト42に伝達させる状態(即ち、船外機10がトルクコンバータ44でトルクを増幅させる領域(トルクの増幅領域)にあって船体12を加速させる状態)のとき、1にセットされる一方、エンジン30の出力トルクを増幅させないとき(即ち、船外機10がトルクの増幅領域外にあるとき)、0にリセットされる。
トルコン増幅判定フラグも初期値が0とされるため、最初のプログラムループにおいてS110の判断は通例肯定されてS112に進み、スロットル弁38が開弁方向に駆動されているか否か(即ち、船体12を加速させる状態(以下「加速状態」という)にあるか否か)判断する。具体的には、上記で算出されたスロットル開度THの変化量DTHとスロットル用所定値(しきい値)DTHrefとを比較し、変化量DTHがスロットル用所定値DTHref以上のとき、スロットル弁38が開弁方向に駆動されている(加速状態にある)と判断する。従って、スロットル用所定値DTHrefは、加速状態にあると判断できる値、例えば0.5degに設定される。
S112で否定されるとき、即ち、減速・加速のいずれの状態でもなく、船体12を一定速度で走行させる状態と判断されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS114に進み、トルクコンバータ44をロックアップオフモードで制御する。ロックアップオフモードでは、ロックアップ制御弁70を消磁し、トルクコンバータ44のロックアップクラッチ44dをオフする。これにより、エンジン30の出力トルクはトルクコンバータ44によって増幅させられてドライブシャフト42に伝達され、加速性能が向上する。
次いでS116に進み、トルコン増幅判定フラグのビットを1にセットし、S118に進んでトリムアップ許可フラグ(初期値0)のビットを1にセットする。従って、トリムアップ許可フラグのビットが1にセットされることはスロットル弁38が開弁方向に駆動されて船体12を加速させる状態にあって、後述する如く速度比eに応じて行われるトリムアップの実行が許可されていることを、0にリセットされることは船体12を加速させる状態になく、トリムアップの必要がないことを意味する。
S116でトルコン増幅判定フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラム実行時はS110で否定されてS120に進む。このように、トルコン増幅判定フラグのビットが1にセットされる、即ち、船外機10においてエンジン30の出力トルクをトルクコンバータ44で増幅させて船体12を加速させる状態にあるときは、S110で否定されてS120以降の処理を実行する。
S120では、トルクコンバータ44の入力回転数NINと出力回転数NOUTを検出(算出)する。トルクコンバータ44の入力側はエンジン30のクランクシャフト52に接続されるため、入力回転数NINは、エンジン回転数と同一であり、よってクランク角センサ84の出力パルスをカウントすることで検出(算出)する。出力回転数NOUTはドライブシャフト回転数センサ86の出力から検出(算出)する。
次いでS122に進み、入力回転数NINと出力回転数NOUTからトルクコンバータ44の速度比eを算出する。ここで速度比eとは、次式に示す如く、トルクコンバータ44の出力回転数NOUTを入力回転数NINで除した値である。
速度比e=(出力回転数NOUT)/(入力回転数NIN)
次いでS124に進み、トルクコンバータ44においてトルクの増幅領域が終了したか否か(詳しくは、トルクの増幅領域(加速領域)が飽和して加速が終了したか否か)判断する。具体的には、算出された速度比eを規定値erefaと比較し、速度比eが規定値erefa以上のとき、トルクの増幅領域が終了したと判断する。従って、規定値erefaは、トルクコンバータ44においてトルクの増幅領域が終了したか否か判定できるような値、例えば0.7に設定される。
S124で肯定されるときはS126に進み、入力回転数NINの変化量DNIN(換言すれば、エンジン回転数の変化量(変動量))を算出する。変化量DNINは、前回のプログラムループで検出された入力回転数NINから今回検出されたそれを減算して求める。
次いでS128に進み、加速終了後、船体12の速度(船速)が最高速付近で安定しているか否か判断する。これは、算出された入力回転数NINの変化量DNINの絶対値を既定値(しきい値)DNINrefと比較し、変化量DNINの絶対値が既定値DNINref以下のとき、船速が最高速付近で安定していると判断することで行う。従って、既定値DNINrefは、加速終了後に船速が最高速付近となって運転状態が安定している、別言すれば、変化量DNINが比較的少ない状態であると判定できるような値、例えば500rpmに設定される。
S128で肯定されるときはS130に進み、トルクコンバータ44をロックアップオンモードで制御する。ロックアップオンモードでは、ロックアップ制御弁70を励磁し、ロックアップクラッチ44dをオンする。これにより、エンジン30のクランクシャフト52とドライブシャフト42が直結されるため、トルクコンバータ44において滑りが生じず、結果として船速が(エンジン性能上の)最高速度に到達し、速度性が向上する。
S130の処理後、S132に進んでトルコン増幅判定フラグのビットを0にリセットし、次いでS134に進み、上記したトルコン加速済み判定フラグのビットを1にセットする。
以上から分かるように、トルコン加速済み判定フラグは、トルクコンバータ44によるトルクの増幅を利用した加速が終了してロックアップクラッチ44dがオンされた状態のとき、1にセットされる一方、それ以外のときは、後述するように0にリセットされるフラグである。
尚、S124およびS128で否定されるときはトルクコンバータ44によるトルクの増幅領域が終了(飽和)していない、あるいは船体12の速度が最高速付近で安定していないと判断されるため、S130からS134の処理などをスキップしてプログラムを終了する。
S134でトルコン加速済み判定フラグのビットが1にセットされると、次回以降のプログラム実行時においてはS108で否定されてS136に進み、船体12の上下方向の振動を検出する。具体的にS136の処理は、加速度センサ106の出力に基づいて船体12の上下方向に作用する振動加速度Gを検出(算出)することで行う。
次いでS138に進み、船体12に縦揺れ(ピッチング)が発生しているか否か判定する。具体的には、検出された船体の振動が許容範囲内にあるか否か、詳しくは振動加速度Gの絶対値が許容範囲内にあるか否か判定する。従って、許容範囲は、船体12の上下方向の振動が比較的少なく、船体12に縦揺れが生じていないと判定できるような範囲、例えば0〜0.2Gの範囲に設定される。
S138で否定されるとき、即ち、振動が許容範囲内にあって船体12に縦揺れが生じていないときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるとき(振動が許容範囲内になく縦揺れが発生しているとき)はS140に進み、船体12に縦揺れが生じたと連続して判定されたか否か判断する。尚、この判断は、縦揺れが生じたとS138で判定されたときに図示しない別のプログラムでカウンタ(初期値0)を1つインクリメントし、そのカウント値が複数回(具体的には2回)に達したか否か確認することによって行われる。
S140の処理を最初に行うときはS138で肯定された直後であるため、否定されて以降の処理をスキップする。そして、次回のプログラムループにおいてS138で縦揺れが生じたと再度判定されると、S140で肯定されて縦揺れが確実に発生していると判断し、S142に進んでトリムアップ許可フラグのビットを0にリセットする。
次いでS144に進み、トリム角センサ88の出力に基づいて現在のトリム角θtrmを検出(算出)、換言すれば、縦揺れが発生した時点のトリム角θtrmを検出して記憶し、S146に進んで記憶されたトリム角θtrmから所定角度(例えば2deg)を減算した値を学習トリム角θtrm1(後述)として決定する。
次いでS148に進み、学習トリム判定フラグ(初期値0)のビットを1にセットする。即ち、学習トリム判定フラグが1にセットされることは船体12に縦揺れが発生すると共に、学習トリム角θtrm1が決定されたことを意味する。
他方、S106で肯定されるとき、即ち、スロットル弁38が閉弁方向に駆動されていると判断されるとき(減速状態にあるとき)はS150に進み、トルクコンバータ44をロックアップオフモードで制御し、次いでS152に進んでトルコン増幅判定フラグのビットを1にセットする。その後、S154に進んでトルコン加速済み判定フラグのビットを0にリセットし、S156に進んでトリムアップ許可フラグのビットも0にリセットする。
また、S100で肯定されるとき、即ち、シフトポジションがニュートラルのときはS158に進み、トルクコンバータ44をロックアップオンモードで制御する。次いでS160に進み、トルコン増幅判定フラグのビットを0にリセットし、S162,S164に進んでトルコン加速済み判定フラグとトリムアップ許可フラグのビットも0にリセットする。
図6フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、船外機10のトリムアップを実行すべきか否かの判定処理を行う。
図8は、そのトリムアップ実行判定処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。図8に示す如く、先ずS200において学習トリム判定フラグのビットが0か否か判断する。このフラグは初期値が0であるため、S200の処理を最初に実行するときは肯定されてS202に進み、トリムアップ許可フラグのビットが1か否か判断する。
S202で否定されるときはトリムアップの必要がないことから、S204に進み、トリムアップを停止、正確にはトリムアップを行わない。一方、S202で肯定されるとき、換言すれば、スロットル弁38が開弁方向に駆動されて船体12を加速させる状態にあるときはS206に進み、トルクコンバータ44においてトルクの増幅領域が終了する直前か否か(詳しくは、トルクの増幅領域(加速領域)が飽和して加速が終了する直前か否か)判断する。
具体的には、トルクコンバータ44の速度比eを、前記した規定値erefaより小さい値に設定される所定値erefbと比較し、速度比eが所定値erefb以上のとき、トルクの増幅領域が終了する直前であると判断する。従って、所定値erefbは、トルクコンバータ44においてトルクの増幅領域が終了する直前であると判断できるような値、例えば0.6に設定される。
S206で否定されるときはトリムアップを開始するタイミングではないため、前述したS204に進み、トリムアップを実行することなくプログラムを終了する。他方、S206で肯定されるときはS208に進み、パワーチルトトリムユニット26を作動させてトリムアップを実行する、正確にはトリムアップを開始する。
このように構成することで、ロックアップクラッチ44dがオンされる前に、パワーチルトトリムユニット26を作動させてトリムアップを開始し、それによって船体12の推力を増加させ、船速を上昇させることができる。
尚、S206においては、前記したパワーチルトトリムスイッチ110が操船者によって操作されてトリム角などの調整指示に応じた信号が入力されたか否かも同時に判断され、信号が入力されるときはトルクコンバータ44の速度比eに拘わらず、入力された信号に応じてパワーチルトトリムユニット26を作動させる。これにより、操船者はパワーチルトトリムスイッチ110を操作することでパワーチルトトリムユニット26を作動させることができ、トリム角θtrmの調整を常に行うことができる。
S200で否定されるとき、即ち、船体12に縦揺れが発生すると共に、学習トリム角θtrm1が決定されているときはS210に進んでトリム角θtrmを検出し、S212に進み、検出されたトリム角θtrmが学習トリム角θtrm1を超えているか否か判断する。
学習トリム角θtrm1は、S146で述べたように縦揺れが発生した時点のトリム角θtrmから所定角度を減算した値であることから、S212の処理を最初に実行するときは当然に肯定されてS214に進み、トリムアップを停止する。以上の如く、船体12の振動が許容範囲内になく、船体12に縦揺れが発生したと判定されるとき、トリムアップを停止する。
トリムアップを停止した後、例えば操作者によるパワーチルトトリムスイッチ110の操作によって、船外機10がトリムダウンさせられてトリム角θtrmが初期角度(具体的には0deg)になった場合について説明すると、学習トリム判定フラグのビットは既に1にセットされているため、次回以降のプログラムループにおいては、S200で否定されてS210,S212の処理を実行することとなる。
トリム角θtrmが初期角度のときはS212の判断は否定され、S202〜S208に進み、前述したように、スロットル弁38の駆動方向や速度比eに基づいてトリムアップを実行すべきか否か判定する。そして、トリムアップが開始された場合において、開始後にトリム角θtrmが学習トリム角θtrm1に到達すると、S212で肯定されてトリムアップを停止する。
このように、船体12に縦揺れが発生するとき、トリムアップを停止すると共に、学習トリム角θtrm1をS144で記憶されたトリム角付近の値となるように決定し、トリムアップを次に開始した後はトリム角θtrmが決定された学習トリム角θtrm1に到達するとき、トリムアップを停止するようにした。
図9は上記した処理を説明するタイム・チャートであり、図10は上記処理の説明図である。尚、図10において符号yは船外機10の前後方向を、符号zは上下方向を示し、符号Wは海水あるいは淡水を、符号Sはその水面を示す。前後方向yと上下方向zは、船外機10における前後、上下を意味し、船外機10のチルト角やトリム角によっては必ずしも重力方向あるいは水平方向とは一致しない。
以下、図9タイム・チャートについて図10を参照しつつ説明すると、先ず時点t1において操船者のシフト・スロットルレバー102の操作によってシフトポジションがニュートラルからインギヤとなり(S100)、その後時点t2においてスロットル弁38が開弁方向に駆動されて加速状態にあると判断されると、ロックアップクラッチ44dをオフする(S112,S114)。このとき、トリムアップ許可フラグのビットを1にセットする(S118)。
図10にあっては、時点t1のときは(a)に示す如く、船体12と船外機10は共に水平状態にあり、時点t2以降の加速によって船速が上昇すると、船体12は、図10(b)に示す如く、船首12bが持ち上がる一方、船尾12aが沈み込む、いわゆるハンプ状態となる。同図から分かるように、このときのプロペラシャフト56の軸線56aの方向は船体12の進行方向に対して平行とならない。
その後も加速が継続され、トルクコンバータ44の速度比eが所定値erefb以上になると(時点t3)、船外機10のトリムアップを開始する(S206,S208)。
そして、時点t4において振動加速度Gが許容範囲になく、具体的には0.2Gを超えて船体12に縦揺れが発生したと判定されるとき、トリムアップを停止すると共に(S136〜S148,S200,S210〜S214)、時点t5において速度比eが規定値erefaに到達すると、ロックアップクラッチ44dをオンする(S124,S130)。尚、時点t4のとき、トリムアップ許可フラグのビットを0にリセットする(S142)。
このトリムアップの停止がなされ、トリム角θtrmが角度βになった状態を図10(c)に示す。同図から分かるように、船外機10をトリムアップしてトリム角θtrmを調整することで、プロペラシャフト56の軸線56aの方向(換言すれば、船外機10の推力の向き)は船体12の進行方向と略平行とされ、船体12の推力を増加できると共に、水面Sから受ける船体12の抵抗を減少させることができ、よって船体12の速度を上昇させることができる。
その後、操船者によってシフト・スロットルレバー102が操作され、時点t6においてスロットル弁38が閉弁方向に駆動されている(減速状態にある)と判断されるときはロックアップクラッチ44dをオフする(S106,S150)。
尚、トリムアップを次に開始する場合は、前述したように、船体12に縦揺れが発生した時点t4のトリム角である角度βから所定角度を減算した値が学習トリム角θtrm1(図9に想像線で示す)に設定されるため、トリム角θtrmが学習トリム角θtrm1に到達するとき、トリムアップを停止する。
以上の如く、この発明の実施例にあっては、内燃機関(エンジン)30とプロペラ60を接続するドライブシャフト42と、前記内燃機関と前記ドライブシャフトの間に介挿されるトルクコンバータ44と、船体12に対するトリム角θtrmをトリムアップ/ダウン方向に調整可能なトリム角調整機構(パワーチルトトリムユニット)26とを備える船外機の制御装置において、前記トルクコンバータ44の入力回転数NINと出力回転数NOUTを検出し、前記検出された入力回転数NINと出力回転数NOUTから前記トルクコンバータ44の速度比eを算出する速度比算出手段と(ECU90。S10,S120,S122)、前記船体の上下方向の振動を検出し、前記検出された振動が許容範囲内にあるか否か判定する振動判定手段と(ECU90、加速度センサ106。S10,S136〜S140)、前記算出された速度比eが所定値erefb以上のとき、前記トリム角調整機構26を作動させて前記トリムアップを開始すると共に、前記検出された振動が前記許容範囲内にないと判定されるとき、前記トリムアップを停止するトリム角調整機構作動手段(ECU90。S12,S200〜S214)とを備えるように構成した。
このように、トルクコンバータ44の入力回転数NINと出力回転数NOUTからトルクコンバータ44の速度比eを算出し、算出された速度比eが所定値erefb以上のとき、パワーチルトトリムユニット26を作動させてトリムアップを開始するように構成したので、例えば所定値erefbを加速が終了してロックアップクラッチ44dがオンされる直前の状態に相当する値に設定することも可能となり、よってロックアップクラッチ44dがオンされる前にトリムアップして船体12の速度を上昇させることができる。それにより、加速終了後にクラッチ44dがオンされてドライブシャフト42に伝達されるトルクが減少するときであっても、船体12の速度はトリムアップによって上昇させられているため、操船者に減速感を与え難い、換言すれば、減速感を軽減させることができる。
また、船体12の上下方向の振動(振動加速度G)を検出し、検出された振動が許容範囲内にあるか否か判定すると共に、検出された振動が許容範囲内にないと判定されるとき、トリムアップを停止するように構成、換言すれば、船体12の上下方向の振動に基づいて船体12に縦揺れが生じているか否か判定すると共に、振動が許容範囲内になく船体12に縦揺れが生じていると判定されるとき、トリムアップを停止するように構成したので、船体12に縦揺れが生じた直後にトリムアップを停止でき、それによってトリムアップ後のトリム角を船体12に対して最適な値に容易に設定できると共に、船体12の縦揺れを最小限に抑制することができる。
また、前記トリム角調整機構作動手段は、前記検出された振動が前記許容範囲内にないと判定されて前記トリムアップを停止したときのトリム角(角度β)を記憶しておき、前記トリムアップを次に開始した後、現在のトリム角が前記記憶されたトリム角付近(学習トリム角θtrm1)に到達するとき、前記トリムアップを停止するように構成(S10,S12,S144,S146,S200,S210〜S214)、即ち、トリムアップを停止させるべきトリム角を記憶して学習制御するように構成したので、次にトリムアップを開始した後のトリム角をより一層最適な値に設定できると共に、船体12の縦揺れを生じ難くすることができる。
また、前記振動判定手段は、前記船体12に配置される加速度センサ106の出力に基づいて前記振動を検出するように構成したので(S136)、船体12に生じる縦揺れをより正確に検出(検知)することができる。
尚、上記において、規定値erefaや所定値erefb、船体の上下方向の振動の許容範囲、エンジン30の排気量などを具体的な値で示したが、それらは例示であって限定されるものではない。