JP5082087B2 - 含油排水の処理方法、含油排水の処理装置および添加剤 - Google Patents
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Description
水溶性加工液や洗浄廃液が抱える問題の一つとして廃液処理があげられる。水中に油分が微粒子分散した水中油型の乳化油または可溶化油は、機械加工等の各種産業で広く利用されている。これら含油溶液の使用後に適切な処理をせずに放水すると、海洋、河川の水質汚濁により人々の健康や鳥類、魚介類に致命的な影響を与えかねない。また、含油排水には油分のほかに界面活性剤が含まれているため、油分は分離せずに安定なエマルジョンを形成している場合が多い。
エマルジョン排水中の油分を分離する従来の技術として、ろ過、遠心分離などの機械的分離法、膜分離、超音波、加熱、冷却、凝集、光触媒などを使用した物理的または化学的方法および微生物を利用した方法がある。特によく用いられる水溶性加工液の廃液処理法としては、焼却法や凝集沈殿法などがある(非特許文献1参照)。
また、水処理において、活性炭が界面活性剤をミセル状態で吸着することは、非特許文献2に詳しく紹介されている。
安井秀樹、切削油剤の基礎知識および実践的選定・管理技術、機械技術、50-12(2002), p.21-28 Nava Narkis (Water Res., Vol. 19, p.815, (1985))
最も広く利用されている含油排水処理法である凝集法は、処理工程中にpH調整が複雑に組み込まれているため、管理の複雑さや装置が大型になるなど問題点が多い。また、膜分離法は、膜の目詰まりによって分離効率が落ちやすく、それを防ぐための装置の維持管理が非常に複雑であるうえに、一部の油滴が膜を通過するなどの問題がある。ろ過や遠心分離による機械的分離方法および超音波などの物理的分離方法は、油分の分散粒子径が小さくなると油分が分離できなくなる。さらに、光触媒法や微生物を使用する方法では油分の分解に非常に長時間を要するという欠点がある。加えて、工作機械等から排出される含油排水は、有機物、無機物および油分が混在する複雑組成で、従来法による処理ではCODおよびn−ヘキサン値等を排水可能な基準値まで下げることは難しい。
そのため、凝集沈殿法等により使用済み水溶性加工液を排水可能なレベルまで処理するには多くの手間と時間が必要となる。また、焼却法は焼却時に発生する窒素酸化物や硫黄酸化物、炭酸ガス等による環境汚染が指摘されている。このため、事業所等で発生した水溶性加工液や洗浄廃液の処理には1Lあたり数十円以上の費用がかかり、加工コストを引き上げる要因となっている。
一般に油脂分解酵素の働きは、油脂を加水分解し脂肪酸とグリセリンに分解するが、酵素だけでは油脂を二酸化炭素や水にまで分解することはできないため、生物酸化処理では油脂分解菌等の微生物が必要となる。しかし、酵素が油脂を加水分解するという事実だけに着目すると、酵素は含油排水中の油分を不安定な状態にする働きを持っているといえる。
したがって、界面活性剤の働きによって安定したエマルション(ミセル)を形成している水溶性加工液中の油分に酵素を作用させると、エマルションが不安定化すると考えられる。この不安定化したエマルションに、界面活性剤の吸着能が高い活性炭を作用させると、油分を取り込んだ界面活性剤がミセルの状態で活性炭に吸着し、油脂の分解を微生物の代謝機能に頼る生物酸化処理に比べて飛躍的に処理効率を上げることができることになる。
(1)含油排水を、所望により超音波加振条件下に、油脂分解酵素および/または活性炭により前処理する前処理ステップと、所望により、該前処理を経た含油排水を油凝固剤により処理して含油排水中の油剤の少なくとも一部を凝固させて除去する油剤除去処理ステップと、該油剤除去処理された含油排水を活性炭により処理する活性炭処理ステップとを含むことを特徴とする含油排水の処理方法、
(2)油凝固剤での油剤除去処理ステップを含まない上記(1)記載の含油排水の処理方法、
(3)前処理ステップにおいて、含油排水を油脂分解酵素で処理する上記(2)記載の含油排水の処理方法、
(4)前処理ステップにおいて、含油排水を活性炭で処理する上記(2)記載の含油排水の処理方法、
(5)前処理ステップにおいて、含油排水を油脂分解酵素と活性炭とで処理する上記(2)記載の含油排水の処理方法、
(6)前処理ステップを超音波加振条件下に行う上記(2)〜(5)いずれか1項記載の含油排水の処理方法、
(7)油凝固剤での油剤除去処理ステップを含む上記(1)記載の含油排水の処理方法、
(8)前処理ステップにおいて、含油排水を油脂分解酵素で処理する上記(7)記載の含油排水の処理方法、
(9)前処理ステップにおいて、含油排水を活性炭で処理する上記(7)記載の含油排水の処理方法、
(10)前処理ステップにおいて、含油排水を油脂分解酵素と活性炭とで処理する上記(7)記載の含油排水の処理方法、
(11)前処理ステップを超音波加振条件下に行う上記(7)〜(10)いずれか1項記載の含油排水の処理方法、
(12)含油排水を油脂分解酵素および/または活性炭で処理する前処理槽と、該前処理された含油排水を活性炭により処理する活性炭処理槽とを組み合わせてなることを特徴とする含油排水の処理装置、
(13)該前処理槽による処理を経た含油排水を油凝固剤により処理して油排水中の油剤の少なくとも一部を凝固させて除去する油剤除去処理槽を、前処理槽と活性炭処理槽との間に組み合わせてなる上記(12)記載の含油排水の処理装置、
(14)前処理槽に、超音波加振手段を設けた上記(12)または(13)記載の含油排水の処理装置、
(15)油脂分解酵素および活性炭から選ばれる少なくとも1つの成分を有効成分として含有することを特徴とする含油排水処理用添加剤、
(16)さらに、油凝固剤を含有する上記(15)記載の含油排水添加剤などを提供するものである。
すなわち、本発明に従って、油脂分解酵素による前処理および活性炭処理を組み合わせることにより油分が効率よく分離でき、また、これに油剤除去処理を組み合わせることにより油分を分離効率がさらに向上する。
また、前処理において、油脂分解酵素および活性炭を組み合わせて使用したり、超音波加振を組み合わせれば、油分解性が向上し、酵素や活性炭処理速度が加速され、前処理時間を大幅に短縮でき、分離効率をさらに向上させることができる。
かくして、本発明は、含油排水の処理と共に、再生水の製造、水のリサイクル、水資源回収等にも利用できる。
まず、使用済みの水溶性加工液を回収する(S102)。ついで、使用済みの水溶性加工液から、切り屑、スラッジ、加工液用の油以外の他の種類の油などを分離する(S104)。ついで、前処理ステップとして、油脂分解酵素または活性炭により使用済みの水溶性加工液内のエマルジョンを不安定化させる(S106)。この前処理ステップにおいては、油脂分解酵素と活性炭を同時に使用してもよい。ついで、油剤除去処理ステップとして、水溶性加工液内に鉱物油をゲル状に凝固させる油凝固剤を投入して、油剤成分の粗分離を行う(S106)。このとき、凝固物はメッシュなどにより濾過して固体成分を分離除去する(S108)。本発明の方法においては、処理すべき含油排水の性状により、この油剤除去処理ステップを省略してもよい。かかる油凝固剤は、前処理における油脂分解酵素や活性炭と共に水溶性加工液に投入してもよい。ついで、活性炭処理ステップとして、これらの処理を経た水溶性加工液を活性炭処理する(S110)。その後、活性炭処理して得られる水分を回収する(S112)。このとき、水分の回収率は、例えば、90%以上となる。また、水溶性加工液の残りの油分については、固体である活性炭に固定化される(S114)。
これらのステップの処理は、処理すべき水溶性加工液を循環させて各ステップないしは全ステップを複数回繰り返してもよく、また、本発明の方法は、連続処理でも、例えば、個々のステップをバッチ処理によって行ってもよい。
用いる油脂分解酵素としては、リパーゼが挙げられ、商業的に入手可能なリパーゼが使用できる。リパーゼの使用量は特に限定するものではなく、処理すべき含水排水の量、性状等によって適宜選択できる。
活性炭も、通常、水処理に使用されるものいずれでもよく、その使用量は特に限定するものではなく、処理すべき含水排水の量、性状等によって適宜選択できる。
油凝固剤としては、例えば、鉱物油をゲル状に凝固させる性質を有する商品名ユーゲルMまたはユーゲルTK(有限会社E.C.E.(千葉県県市川市)製造販売)として商業的に入手できるキレート剤を含まない油凝固剤などが挙げられる。
図2に、本発明の含油排水処理装置の1具体例の概念図を示す。
このシステムにおいては、廃液タンク101内に、NC旋盤などから回収されたO/W型エマルジョンを含む水溶性加工液102が溜まっている。
廃液タンク101に溜まっている水溶性加工液102には、鉱物性油剤の集合体103(微小な液滴)が多数含まれており、全体としてエマルジョンを形成している。また、廃液タンク101の底部には、切り屑、スラッジ、金属部品などの固形物104が沈殿している。
廃液タンク101の水溶性加工液102は、連通管105を介して酵素処理槽(前処理槽)106に流入する。なお、連通管105の前後の開口部にはメッシュが設けられており、切り屑、スラッジ、金属部品などの固形物104の混入を抑制している。酵素処理槽106内には、流入した水溶性加工液107が溜まっている。酵素処理槽106内部は、超音波発振装置108により加振できる構造となっている。酵素処理槽106に溜まっている水溶性加工液107には、鉱物性油剤の集合体109(微小な液滴)が含まれており、全体としてエマルジョンを形成している。また、水溶性加工液107には、油脂分解酵素110が含まれている。また、水溶性加工液107には、油脂分解酵素に加えて活性炭111が含まれていてもよい。この酵素110および活性炭111は、鉱物性油剤の集合体109(微小な液滴)であるエマルジョンを不安定にする。また、活性炭111は、酵素110の働きを助長する効果を持つ。その結果、水溶性加工液107の上層には、分離した油層112が形成されている。上層に分離した油層112は、酵素処理槽106に予め添加しておいた油凝固剤113と反応して凝固しゲル状の固形物114となり、酵素処理槽106の液層表面に浮上分離する。
清澄排水槽120に溜まっている清澄な排水121は、条例などで定められる排水基準を下回る各検査項目をクリアしているか否かを検査される。検査の結果、排水が許可されると、清澄排水槽120内の清澄な排水121は、排水管122を介して、河川123等に放出される。なお、排水管122の前後の開口部にはメッシュが設けられており、外部からの異物の混入を抑制している。
以下、発明を実施例に基き、さらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図3に、酵素処理および活性炭処理を行ったときの、加工液の変化の様子を示す。また、図4に、加工液の清浄度を表す指標として用いた糖度(Brix%)変化を表しす。ここで、Brix%小さくなるほど液は清浄度に優れ、水道水等のきれいな水ではこの値が0.0となる。
加工液1Lに、リパーゼと油凝固剤(有限会社E.C.E.製造販売ユーゲルM)を重量比で1.75:1の割合で2gおよび活性炭0.3gを添加し、周波数38kHzの条件で10分間超音波加振を行うと、液に透明感がなくなると同時に、Brix%は3.6から6.1に変化し処理前より大きくなる(図4)。
一般に、Brix%は加工液中のエマルションの状態と関係があり、Brix%が大きくなることはエマルションの大きさが大きくなる、すなわちエマルションが不安定になることを意味していることから、この結果は、酵素の作用により予想通りエマルションが不安定化したことを示している。
酵素処理後の液を活性炭層に通過させるとBrix%は、通過回数とともに急激に低下し、3回の通過でBrix%は6.1から0.2に、n−ヘキサン値は27320から5mg/Lに低下し、ほぼ排水可能なレベルまで廃液は浄化された。このとき、加工液1Lに対して約10gの活性炭を繰り返し利用しており、活性炭の界面活性剤吸着量(約0.13g/g−活性炭といわれている)から考えて、界面活性剤がミセル状態で吸着したものと予想される。酵素処理および活性炭処理を行うのに要した総処理時間は約3時間であった。
しかも、本発明による処理方法では、既存の高速処理法であるエマルションブレーカーを用いたシステムのように、MgイオンやCaイオン等のエマルション形成を阻害する金属イオンを使用しないことから、回収水中で水溶性加工液は安定なエマルションを形成することができる。すなわち、処理によって得た清澄水は、河川等への排水が可能となるばかりか、新しく調製する水溶性加工液の希釈水として再利用も可能となる。
図5に、水溶性加工液の酵素処理を、リパーゼと油凝固剤(上記と同じ)を重量比で1:1.75の割合で混合した酵素により実施した場合と、この酵素と活性炭を同時に使用して行った場合の、加工液の変化の様子を示す。また、図6は、酵素処理および活性炭処理による加工液のBrix%の変化を比較したものである。
酵素と油凝固剤だけを使用して酵素処理を行う場合、周波数38kHzの条件で120分程度加振を行わないと、加工液に明らかな変化は見られない。一方、酵素処理の際に活性炭を同時に使用すると、周波数38kHzの条件で10分間加振しただけで、加工液の透明度が無くなる。
酵素処理の際に活性炭を同時に使用した加工液では、活性炭層を1回通すだけで、Brix%が1.0%を切る値となり、この場合には活性炭層を3回通した段階で清澄な液が回収された。また、酵素処理および活性炭処理を行うのに要した総時間は、酵素と油凝固剤だけを使用して酵素処理を行う場合が約6時間、酵素処理の際に活性炭を同時に使用する場合が約3時間である。
このように、酵素処理の際に活性炭を同時に使用することは、酵素の働きを強め、エマルジョン水から効率的に油分を分離することを可能とする。
各種製造工場から排出される洗浄廃液は、汚濁物質の濃度が一般的に低いにもかかわらず有機物、無機物さらに油分までが混在する複雑組成で、CODおよびn−ヘキサン値が高く、しかも処理は容易ではない。
図7に、ある精密機械工場から排出される実洗浄廃液を、本発明にしたがって、酵素処理および活性炭処理を行ったときの、洗浄廃液の変化の様子を示す。また、図8は、洗浄廃液の原液および活性炭処理後に回収された液のCODおよびn−ヘキサン値を表したものである。
洗浄廃液1Lに、リパーゼと油凝固剤(上記と同じ)を重量比で1.75:1の割合で0.5gおよび活性炭0.2gを添加し、周波数38kHzの条件で10分間超音波加振を行うと、黒みがかった透明感が低い液に変化する。酵素処理後の液を活性炭層に通過させると、通過回数1回で黒みがかった液は透明な液に変化する。このとき、洗浄廃液1Lに対して10gの活性炭を使用したが、使用後の活性炭は十分再利用可能な品質を維持している。
本洗浄廃液の原液のCODおよびn−ヘキサン値は、それぞれ、29mg/Lおよび85mg/Lで、n−ヘキサン値は排水基準値の5mg/Lを上回る値を有しているが、酵素処理および活性炭処理を経て回収した液のCODおよびn−ヘキサン値は、それぞれ、14mg/Lおよび2mg/Lにまで低下し、排水可能なレベルにまで汚濁物質が除去されている。
図9に、塩素含有のエマルションタイプの水溶性加工液(20倍希釈液)1Lに、活性炭5gを添加し、周波数38kHzの条件で10分間超音波加振する条件で前処理を行った後、および前処理後の液をさらに活性炭層に通過させ浄化したときの、加工液の変化の様子を示す。また、図10に、上記各処理後の加工液のBrix%の変化を示す。
水溶性加工液に活性炭を加え、超音波加振する条件で前処理を行うと、油脂分解酵素を用いて前処理を行ったときと同様に、黒みがかった透明感の低い液に変化する。
このように、本発明による水資源回収システムでは、必ずしも油脂分解酵素を使用せずに活性炭のみの使用でも清澄水を回収することは可能である。ただし、活性炭だけを使用した場合の処理では、油脂分解酵素を使用する場合に比べ、活性炭使用量が増加すること、および処理時間が長くなることを考慮に入れる必要がある。
また、本発明の方法は、従来の処理法では達成することが困難であった処理水中のCODおよびn−ヘキサン値濃度を排水基準値付近のレベルに下げることが可能で、含油排水、特に鉱油を含む排水の浄化方法として広く利用されることが期待される。
さらに、本発明の方法では、従来エマルジョン水の処理に広く用いられてきた塩化アルミニウムや塩化マグネシウム等のエマルジョンブレーカーを使用しないことから処理水が硬水化せず、本発明の方法により得た処理水は水溶性加工液の希釈液としても十分使用可能となり、水資源保護の観点からも期待できる。
106 前処理槽
108 超音波加振手段
110 油脂分解酵素
111 活性炭
113 油凝固剤
116 活性炭処理槽
Claims (8)
- 含油排水を、油脂分解酵素および活性炭により前処理する前処理ステップと、該前処理を経た含油排水を活性炭により処理する活性炭処理ステップとを含むことを特徴とする含油排水の処理方法。
の処理方法。 - 前処理ステップを超音波加振条件下に行う請求項1記載の含油排水の処理方法。
- 該前処理を経た含油排水を油凝固剤により処理して含油排水中の油剤の少なくとも一部を凝固させて除去する油剤除去処理ステップを含む請求項1または2記載の含油排水の処理方法。
- 含油排水を油脂分解酵素および活性炭で処理する前処理槽と、該前処理された含油排水を活性炭により処理する活性炭処理槽とを組み合わせてなることを特徴とする含油排水の処理装置。
- 該前処理槽による処理を経た含油排水を油凝固剤により処理して油排水中の油剤の少なくとも一部を凝固させて除去する油剤除去処理槽を、前処理槽と活性炭処理槽との間に組み合わせてなる請求項4記載の含油排水の処理装置。
- 前処理槽に、超音波加振手段を設けた請求項4または5記載の含油排水の処理装置。
- 油脂分解酵素および活性炭を有効成分として含有することを特徴とする含油排水処理用添加剤。
- さらに、油凝固剤を含有する請求項7記載の含油排水添加剤。
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