しかしながら、ポッケルス素子を用いて空間電界計測を行う場合、電界中に異物を配置することになることから、測定対象となる電界に乱れが生じて、電界強度を正確に計測できないという問題点があった。
また、ポッケルス素子を用いて空間電界計測を行う場合、電界を計測する対象となる空間にポッケルス素子等を配置する必要があることから、例えば雷雲近傍のように地上から大きく離れた空間の電界強度を遠隔計測することができないという問題点があった。
そこで、本発明は、ポッケルス素子等を用いることなく、大気中の被測定領域の空間電界強度を正確に測定することのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、空間電界強度の遠隔計測を行うことのできる方法及び装置を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本願発明者等が鋭意研究を行ったところ、大気中にレーザー光を照射することにより生成されるプラズマの発光強度が、このプラズマの周囲の電界強度に対して一定の相関関係を有していることを見出した。また、大気中に超短パルスレーザー光を照射することにより生成されるフィラメントにより生じるプラズマの発光強度が、このプラズマの周囲の電界強度に対して一定の相関関係を有していることも見出した。そこで、本願発明者等は、プラズマの発光強度とプラズマ周囲の電界強度との相関関係を利用することによって、大気中の任意の被測定領域の電界強度を計測可能であると考え、さらに種々検討を行い、本願発明を完成するに至った。
即ち、請求項1記載の空間電界計測方法は、大気中の被測定領域にレーザー光を照射してプラズマを発生させ、このプラズマの発光強度の測定値を得、プラズマ周囲の電界強度に対するプラズマの発光強度について予め求められた相関関係を利用して、プラズマの発光強度の測定値から被測定領域の電界強度を求めるようにしている。
また、請求項9記載の空間電界計測装置は、レーザー光を出力するレーザー装置と、レーザー光を大気中の被測定領域に照射してプラズマを発生させる照射装置と、プラズマの発光を受光してプラズマの発光強度の測定値を得る受光装置と、プラズマ周囲の電界強度に対するプラズマの発光強度について予め求められた相関関係を利用して、プラズマの発光強度の測定値から被測定領域の電界強度を解析する解析装置とを備えるものとしている。
大気中にレーザー光を集光すると、レーザー電場によりプラズマが発生する。このプラズマの発光強度は、プラズマ周囲の空間の電界強度に対して一定の相関関係を有している。したがって、この相関関係を予め求めておくことで、大気中の任意の被測定領域にレーザー光を照射してプラズマを発生させ、このプラズマの発光強度を検出することで、被測定領域の電界強度を計測することができる。
ここで、請求項2記載の空間電界計測方法のように、レーザー光が超短パルスレーザー光であり、プラズマは超短パルスレーザー光を大気中の被測定領域に照射して発生させたフィラメントにより生じるプラズマであることが好ましい。また、請求項10記載の空間電界計測装置のように、レーザー装置は超短パルスレーザー光を出力するレーザー装置であり、照射装置は超短パルスレーザー光を大気中の被測定領域に照射してフィラメントを発生させる照射装置であり、プラズマはフィラメントの発生により生じるプラズマであることが好ましい。
大気中に超短パルスレーザー光を平行にまたは集光して照射して伝播させると、絞られた状態で伝播するフィラメントが発生する。フィラメントが形成される場所ではプラズマ(レーザーフィラメントプラズマ)が生成している。そして、このプラズマの発光強度は、プラズマ周囲の空間の電界強度に対して一定の相関関係を有している。したがって、この相関関係を予め求めておくことで、大気中の任意の被測定領域に超短パルスレーザー光を照射してフィラメントを発生させ、フィラメントにより生じるプラズマの発光強度を検出することで、被測定領域の電界強度を計測することができる。
ここで、請求項3記載のように、請求項2記載の空間電界計測方法において、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーに超短パルスレーザ光を照射し、局部的な凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の部位に強度斑を作ることでフィラメント発生の起点とすることが好ましい。また、請求項11記載のように、請求項10記載の空間電界計測装置において、照射装置は、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーを含み、反射ミラーに超短パルスレーザ光を照射し、局部的な凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の部位に強度斑を作ることでフィラメント発生の起点とすることが好ましい。
局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーに照射された超短パルスレーザー光は、反射の際にミラー表面の局部的な凸部または凹部に応じた局所的な空間変調がビームの波面に与えられ、これが起点(種)となってフィラメントをビーム伝播の過程で形成する。このフィラメントは、反射ミラーの表面の局部的な凸部または凹部の存在により安定して生成されることから、局部的な凸部または凹部を任意の位置に形成することで、ビーム断面の任意の位置にフィラメントを形成することができる。
また、請求項4記載のように、請求項3記載の空間電界計測方法において、反射ミラーの局部的な凸部または凹部の周りには局部的な凸部または凹部に比して大域的な凹部が設けられており、大域的な凹部によりフィラメント周辺に反射した超短パルスレーザ光のエネルギあるいは周辺の強度斑をフィラメント発生の起点となる強度斑の周りに集合させることが好ましい。また、請求項12記載のように、請求項11記載の空間電界計測装置において、照射装置の反射ミラーは局部的な凸部または凹部の周りにさらに局部的な凸部または凹部に比して大域的な凹部が設けられており、大域的な凹部によりフィラメント周辺に反射した超短パルスレーザ光のエネルギあるいは周辺の強度斑をフィラメント発生の起点となる強度斑の周りに集合させることが好ましい。
この場合には、局部的凸部または凹部により形成される強度斑の生成位置と大域的凹部により起こる超短パルスレーザー光のエネルギあるいは周辺の強度斑の集合位置とが予め関連づけられており、フィラメントのプラズマ密度や体積を大きくすることができる。したがって、プラズマの発光強度を高めやすい。このことは、局部的な凸部または凹部と大域的な凹部とを別々の反射ミラーでの反射において実現する請求項5記載の空間電界計測方法及び請求項13記載の空間電界計測装置についても同様である。
また、請求項6記載のように、請求項3〜5のいずれか一つに記載の空間電界計測方法において、反射ミラーは反射面が任意に変形可能な可変形ミラーであることが好ましい。また、請求項14記載のように、請求項11〜13のいずれか一つに記載の空間電界計測装置において、反射ミラーは反射面が任意に変形可能な可変形ミラーであることが好ましい。
この場合、反射ミラーの反射面の形状を変化させると局部的な凸部または凹部や大域的な凹部の位置や曲率等が変化し、フィラメントが発生するまでの超短パルスレーザー光の伝播距離を制御して、フィラメントの発生位置を制御することができる。
さらに、請求項7記載のように、請求項1〜6のいずれか一つに記載の空間電界計測方法において、プラズマの発光は、望遠鏡またはレンズにより集光することが好ましい。また、請求項15記載のように、請求項9〜14のいずれか一つに記載の空間電界計測装置において、受光装置はプラズマの発光を集光する望遠鏡またはレンズを備えるものとすることが好ましい。この場合には、プラズマの発光を遠隔から計測することができる。
また、請求項8記載のように、請求項1〜7のいずれか一つに記載の空間電界計測方法において、プラズマの発光強度に代えて、プラズマの発光のうちの異なる二種の分子の発光強度比を用いることが好ましい。また、請求項16記載のように、請求項9〜15のいずれか一つに記載の空間電界計測装置において、解析装置を、プラズマの発光強度に代えて、プラズマの発光のうちの異なる二種の分子の発光強度比を用いて被測定領域の電界強度を解析するものとすることが好ましい。この場合には、プラズマ状態によらずに空間電界計測が可能になる。つまり、プラズマ状態を決定するパラメータであるレーザーエネルギー、集光条件、大気密度、さらには測定距離等に依らず、被測定領域の空間電界計測を行うことが可能になる。
以上、請求項1記載の空間電界計測方法及び請求項9記載の空間電界計測装置によれば、レーザー光を大気中の被測定領域に照射して生成されるプラズマの発光強度から被測定領域の電界強度を計測することが可能となるので、従来の様にポッケルス素子等の異物を被測定領域に配置する必要が無い。したがって、被測定領域の空間電界が乱されることがないので、被測定領域の空間電界強度を正確に計測することが可能となる。また、被測定領域にレーザー光を照射してプラズマを生成することで、電界強度を計測することができるので、任意の被測定領域にプラズマを生成させて空間電界計測を行うことができ、従来のようにポッケルス素子等の異物を被測定領域に配置する従来法と比較して、空間電界計測の対象領域の選択の自由度が格段に向上する。
また、請求項2記載の空間電界計測方法及び請求項10記載の空間電界計測装置によれば、超短パルスレーザー光を大気中の被測定領域に照射して生成されるフィラメントにより生じるプラズマの発光強度から被測定領域の電界強度を計測することが可能となるので、従来の様にポッケルス素子等の異物を被測定領域に配置する必要が無く、被測定領域の空間電界が乱されることがないので、被測定領域の空間電界強度を正確に計測することが可能となる。また、被測定領域に超短パルスレーザー光を照射してフィラメントを生成することで、電界強度を計測することができるので、任意の被測定領域にフィラメントを生成させて空間電界計測を行うことができ、従来のようにポッケルス素子等の異物を被測定領域に配置する従来法と比較して、空間電界計測の対象領域の選択の自由度が格段に向上する。しかも、フィラメントは数キロメートルに渡り生成し、長尺のプラズマチャネルが得られることから、原理的には数キロメートル離れた距離を被測定領域として空間電界計測を行うことも可能である。また、フィラメントにより生じるプラズマからの発光は、白色光ノイズが小さく、高感度の計測が行い易い。
さらに、請求項3記載の空間電界計測方法及び請求項11記載の空間電界計測装置によれば、予め決められた任意の位置にフィラメントを生成することが可能である。通常、フィラメントはレーザー光中の強度分布に応じて、時間的および空間的に偶発的に生成されるものであり、レーザー光伝播中にフィラメントの生成位置や時間を制御することが困難である。しかし、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーを使用することにより、レーザー光の反射の際にミラー表面の局部的な凸部または凹部に応じた局所的な空間変調をビームの波面に与え、これを起点(種)としてフィラメントをビーム伝播の過程で形成するようにしているので、フィラメントの生成位置および強度を簡便に制御することが可能である。また、通常ではフィラメントはある程度の距離を伝播させないと生成しないが、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーを使用することにより、より短い伝播距離でフィラメントを生成することができる。したがって、大気中の様々な領域を被測定領域として容易に空間電界計測を行うことが可能となる。
また、請求項4記載の空間電界計測方法及び請求項12記載の空間電界計測装置によれば、任意の位置にレーザー光強度を集中することが可能であることから、局部的凸部または凹部により反射したビーム断面の任意の位置に形成された強度斑の周りに、大域的な凹部により反射した超短パルスレーザー光のエネルギーあるいは周辺の強度斑を集合させてフィラメントのプラズマ密度を高めることにより、プラズマの発光強度を高めることができる。したがって、空間電界計測を高感度に実施し易くなる。このことは、局部的な凸部または凹部と大域的な凹部とを別々の反射ミラーにおいて実現する請求項5記載の空間電界計測方法及び請求項13記載の空間電界計測装置についても同様である。
さらに、請求項6記載の空間電界計測方法及び請求項14記載の空間電界計測装置によれば、反射面の形状を変化させることにより、リアルタイムでビーム断面上におけるフィラメントの発生位置を変化させることができるので、大気中の被測定領域の選択をより容易に行うことができる。
さらに、請求項7記載の空間電界計測方法及び請求項15記載の空間電界計測装置によれば、遠隔計測を行うことが可能となる。即ち、フィラメントは数キロメートルに渡り生成させることができるので、フィラメントが生成されうる広い範囲において、空間電界計測を行うことが可能となる。したがって、例えば、雷雲の近傍の空間電界測定も容易に実施することができる。
また、請求項8記載の空間電界計測方法及び請求項16記載の空間電界計測装置によれば、プラズマ状態によらずに空間電界計測が可能になる。つまり、プラズマ状態を決定するパラメータであるレーザーエネルギー、集光条件、大気密度、さらには測定距離等に依らず、被測定領域の空間電界計測を行うことが可能になる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の空間電界計測方法は、大気中の被測定領域にレーザー光を照射してプラズマを発生させ、このプラズマの発光強度の測定値を得、プラズマ周囲の電界強度に対するプラズマの発光強度について予め求められた相関関係を利用して、プラズマの発光強度の測定値から被測定領域の電界強度を求めるようにしている。
本発明におけるレーザー光としては、大気中に照射することにより光学的絶縁破壊によるプラズマであるレーザーブレイクダウンプラズマを発生させることができるレーザー光を使用することができる。例えば、Nd:YAGレーザー等の各種YAGレーザ装置、CO2レーザ装置等によって出力することができるレーザー強度1010〜1012W/cm2でピコ秒〜ナノ秒以上のパルス幅を有するレーザ光を用いることができる。また、エキシマレーザー装置を用いれば、多光子電離によるプラズマを発生させることができるが、このようなプラズマも本発明において使用することができる。
ここで、レーザーブレイクダウンプラズマを発生させるためには、比較的大きなレーザーエネルギーが必要であると共に、レーザー光はレーリー長で決定される長さしか集光しないことから、プラズマが生成する長さが短い。また、レーザーブレイクダウンプラズマはプラズマ温度が高く、プラズマの白色発光によるノイズが大きくなる。そこで、レーザー光として、超短パルスレーザー光を用い、超短パルスレーザー光を大気中に照射することによりフィラメントを発生させ、フィラメントにより生じるプラズマ(レーザーフィラメントプラズマ)の発光強度を利用して空間電界計測を行うことが好ましい。
超短パルスレーザー光は、パルス幅がピコ秒領域以下(ピコ秒〜フェムト秒)のレーザー光であり、例えばチタンサファイアレーザー装置、ガラスレーザー装置、ファイバーレーザー装置等によって出力することができるレーザー強度1013〜1014W/cm2のレーザー光を用いることができる。
超短パルスレーザー光は、ピークパワーを高くできることから、上記のように集光したりあるいは単に平行に大気中を伝播させるだけでフィラメントを生成することができる。即ち、超短パルスレーザー光を大気中に伝播させる際、一般にビーム断面強度分布は中央部ほど高いため、カー効果により空気の屈折率が周辺部よりも中央部で大きくなって、あたかも凸レンズが存在しているかのような挙動(自己収束)が生じる。その反面、一定以上収束すると、多光子電離やトンネル電離により大気が電離してプラズマが生成し、そのプラズマによりビーム断面の中央部の屈折率が周辺部よりも小さくなって、今度はあたかも凹レンズが存在しているかのような挙動を示す。この二つの挙動が平衡して、レーザー光が絞られた状態のままで伝播される。因みに、このことをセルフチャネリングと呼び、絞られた状態で伝播するレーザービームはフィラメントと呼ばれる。
フィラメントが形成される場所ではプラズマが生成しているため、長尺のプラズマチャネルが得られる。このようなプラズマは、多光子電離やトンネル電離により生成するため、比較的低いレーザーエネルギーでプラズマを生成することが可能である。また、フィラメントは、数キロメートルに渡って生成する。さらに、プラズマの温度がレーザーブレイクダウンプラズマと比較して低く、プラズマの白色発光によるノイズも小さなものとなる。
したがって、超短パルスレーザー光を大気中に照射することにより生成されるレーザーフィラメントプラズマを空間電界計測に利用することによって、原理的には、数キロメートル離れた距離を被測定領域として空間電界計測を実施することが可能である。また、レーザーフィラメントプラズマの温度は、レーザーブレイクダウンプラズマの温度と比較して低いため白色発光ノイズが小さく、レーザーフィラメントプラズマを利用することで、レーザーブレイクダウンプラズマを用いた場合と比較して空間電界強度を高感度に計測することが可能になる。また、プラズマの発光強度はプラズマの直径に反比例し、プラズマの長さに比例する。レーザーフィラメントプラズマは、直径が約100μmと非常に細く、集光距離もレーリー長より遙かに長いことから、レーザーブレイクダウンプラズマと比較してより長尺の領域に渡って発光強度を測定することができ、格段に高感度に空間電界計測を実施することが可能になる。
レーザーブレイクダウンプラズマ及びレーザーフィラメントプラズマからの発光は、主に、大気中の被測定領域に存在する気体分子がプラズマ中の電子によって励起されて生じたものである。したがって、プラズマの発光強度を検出する際には、窒素分子、酸素分子、またはオゾン分子の発光を検出すればよいが、これらに限定されるものではなく、電界強度と相関性をもって発光強度が変化する気体分子の発光を検出すればよい。つまり、本発明の空間電界計測方法によれば、電界強度と相関性をもって発光強度が変化する気体分子、代表的には、窒素分子、酸素分子、またはオゾン分子などが存在し、プラズマを発生させることが可能な大気中のあらゆる領域を被測定領域とすることができる。例えば、雷雲付近の空間電界や、高電圧機器の内部やその周辺、電線の周囲の空間など、空間電界が存在している大気中の様々な領域を電界計測の対象とすることができる。
ここで、発光検出対象となる気体分子は、窒素分子とすることが特に好ましい。窒素分子は、その発光ピークである波長337.1nmの発光強度が空間電界強度に対して指数関数的に増加することが本願発明者等の実験で確かめられており、窒素分子の発光強度を検出して空間電界計測に利用することで、極めて高感度に計測を行うことが可能となる。尚、プラズマの発光強度は、測定した波長領域の全域またはそのうちの一定範囲の波長領域の発光強度の積分値として得るようにしてもよい。例えば、窒素分子、酸素分子及びオゾン分子の発光波長領域を包含する波長領域における発光強度の積分値をプラズマの発光強度としてもよい。ここにおける発光強度とは、発光スペクトルにおいて、バックグラウンドから発光ピークまでの信号強度を示す。
レーザーブレイクダウンプラズマ及びレーザーフィラメントプラズマからのプラズマ発光強度は、このプラズマ周囲の電界強度に対し、一定の相関関係を有している。この相関関係は、レーザーエネルギー、集光条件、受光条件(測定距離等)、大気雰囲気(大気密度)等により変化するので、これらの条件を同一として相関関係を予め求めておき、この相関関係を利用して、プラズマの発光強度の実測値からそのプラズマの周囲の空間電界強度、即ち大気中の被測定領域の空間電界強度を求めることができる。
ここで、雷雲下における空間電界強度等、環境大気中での長距離における遠隔計測では、レーザーフィラメントプラズマを使用することが適しているが、プラズマ密度等、分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータは、特に大気雰囲気に大きく影響する。そこで、プラズマ発光のうち、異なる二種の分子の発光強度を同時に測定し、この二種の分子の発光強度の比をプラズマの発光強度の代わりに用いることで、大気雰囲気によらず、空間電界強度を正確に計測することができる。さらには、レーザーエネルギー、集光条件、受光条件(測定距離等)によらず、空間電界強度を正確に測定することができる。具体的に説明すると、大気を構成する分子ごとに発光の電界強度依存性は異なる。また、大気を構成する分子の存在比自体は被測定領域の大気雰囲気に依らずほぼ一定であることから、これら分子からの発光強度の比をとることで、分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータであるレーザーエネルギー、集光条件、大気雰囲気(大気密度)、さらには受光条件(測定距離等)を排除して、周囲の空間電界強度と相関性に関するパラメータのみを取り出すことができる。したがって、例えば、窒素分子と酸素分子等、異なる二種の分子の発光強度を同時に測定し、それらの発光強度を比較すると良い。分子ごとに発光の電界強度依存性は異なるため、電界強度依存性の異なる二種の分子の発光強度の比をプラズマ周囲の電界強度に対して求めて相関関係を得ることで、分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータを排除した相関関係を得ることができる。上記の通り、分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータは、特に被測定領域の大気雰囲気により異なる場合があるが、このように、相関関係のパラメータから分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータを排除すれば、被測定領域の大気雰囲気に依らず、空間電界強度を正確に測定することが可能となる。さらには、分子発光に寄与するフィラメント中のプラズマパラメータを決定する他の要因であるレーザーエネルギーや集光条件、また受光条件(測定距離等)にも依存しなくなるため、簡便かつ正確に空間電界強度を測定することが可能となる。但し、二つの異なる分子の発光強度の比はプラズマの状態に拠らなくとも、大気中における光の散乱強度(光の減衰量)は光の波長に関係するため、受光装置が受光した時に、二つの異なる分子の発光強度の比は変化する場合がある。このため、二つの分子の発光波長の差はなるべく小さく選択することが望ましい。
次に、本発明の空間電界計測方法を実施するための装置について、雷雲近傍の空間電界強度を計測するための空間電界計測装置を例に挙げて図1に基づいて説明する。
図1に示す空間電界計測装置は、レーザー装置16から出力された超短パルスレーザー光15を雷雲近傍の領域である大気中の被測定領域Aに照射することによって生成されるフィラメント14により生じるプラズマからの発光強度に基づいて被測定領域Aの空間電界強度を計測するものである。尚、超短パルスレーザー光15を集光して被測定領域Aに照射し、被測定領域Aにフィラメント14を発生させるための凹面鏡17並びに表面形状可変鏡18で照射装置が構成される。また、超短パルスレーザー光15の照射により生成されるフィラメント14により生じるプラズマを受光する受光装置は、受光望遠鏡19、副鏡21、バンドルファイバー20、分光器22並びにICCDカメラ23によって構成される。さらに、プラズマからの発光強度に基づいて被測定領域Aの空間電界強度を解析する解析装置は、プラズマ周囲の電界強度に対するプラズマの発光強度についての相関関係が予め記憶手段に格納され、受光装置によって計測されたプラズマの発光強度の実測値と上記相関関係とに基づき、被測定領域Aの空間電界強度を解析し、解析結果を出力するものであり、パーソナルコンピュータ24によって構成されている。尚、解析装置において利用するパラメータ及び記憶手段に格納された相関関係について、プラズマの発光強度の代わりに、プラズマ発光のうち、大気中の異なる二種の分子の発光強度を同時に測定して得られた発光強度比を利用することで、プラズマパラメータを決定する要因であるレーザーエネルギーや集光条件、受光条件(測定距離等)、大気雰囲気(大気密度)等によらず、空間電界強度を正確に測定することが可能となる。
レーザー装置16から出射した超短パルスレーザー光15は、凹面鏡17および表面形状可変鏡18により反射され、大気中に照射される。照射された超短パルスレーザー光15は緩やかに集光しつつフィラメント14を生成する。フィラメント14により生じたプラズマからの発光は、超短パルスレーザー光15と非同軸に設置された受光望遠鏡19により集光され、バンドルファイバー20に入射する。本実施形態では、受光望遠鏡19の反射光を副鏡21により反射させてバンドルファイバー20に入射させている。
バンドルファイバー20からの出射光は分光器22に入射し、分光された後、ICCDカメラ23により受光され、その発光強度、例えば窒素分子の発光ピークである337.1nmの発光強度に基づいて被測定領域Aの空間電界強度を計測する。即ち、プラズマ周囲の電界強度に対するプラズマの発光強度についての相関関係を利用することで、プラズマの発光強度の実測値から、被測定領域Aの空間電界強度を求めることができる。この計算はパーソナルコンピュータ24を使用して行われる。
本実施形態においては、受光望遠鏡19をレーザー光と非同軸に設置し、ICCDカメラ23のゲートタイミングを調整することにより、フィラメント14から発生する白色光が上記発光強度の計測に与える影響を低減している。しかしながら、本実施形態のように、白色光が少ないレーザーフィラメントプラズマからの発光を観測する場合には、この構成は必須ではない。即ち、上記の通り、レーザーフィラメントプラズマからの発光は、プラズマの制動放射等による白色光が少なく、さらに、測定に用いる大気分子の発光波長は通常紫外域であるため、チタンサファイアレーザーを用いた場合、レーザー光の発振波長である800nmを中心にして発生する自己位相変調による白色光の影響はほとんどないので、受光望遠鏡19をレーザー光と同軸に設置したとしても、白色光の影響を殆ど受けることなく空間電界強度を計測することが十分に可能である。また、ICCDカメラ23のゲートタイミングの調整については、レーザーフィラメントプラズマからの発光強度が最大となるように、レーザー光15とICCDカメラ23とのジッター等に基づいて決定すればよい。これに対し、白色光の多いレーザーブレイクダウンプラズマからの発光を観測する場合、受光望遠鏡19をレーザー光と非同軸に設置し、ICCDカメラ23のゲートタイミングを調整することにより、白色光がプラズマの発光強度の計測に与える影響を低減することが望ましい。即ち、レーザー光15と受光望遠鏡19が同軸に設置されているならば、ICCDカメラ23のゲートタイミングを遅らせて、被測定領域Aにおいて発生した白色光の強度が減衰した後で測定しても、レーザー光が伝播した後に新たに発生した制動放射等による白色光を受光してしまうことにより、白色光の影響をなくすことが困難な場合がある。これに対し、図1に示すようにレーザー光15と受光望遠鏡19を非同軸にすると、レーザー光が伝播した後に新たに発生した白色光は受光望遠鏡19の視野33からはずれるため、ICCDカメラ23のゲートタイミングを調整する(時間的遅延)ことで、白色光の影響を除去することができる。このように、プラズマの発光強度の測定に時間的遅延を加えることにより白色光スペクトルの強度を減少させ、空間電界強度に影響される大気中の分子からの発光スペクトルのS/N比を向上させることができる。具体的には、ICCDカメラ23のゲート開放開始とその直前の超短パルスレーザー光の照射との時間差は、白色光ノイズが減少し尚かつ励起された大気成分分子が残っている状態が確保される時間であり、例えば400ns程度で与えることが好ましい。但し、レーザーブレイクダウンプラズマの場合、前述の通り集光距離が短いため、プラズマの発生する領域は短い。また、自己位相変調による白色光は発生しない。このため、受光望遠鏡19をレーザー光と非同軸に設置する必要性は高くない。
ここで、本実施形態では、フィラメント14の生成位置を人工的に制御するようにしている。図1に示すように、表面形状可変鏡18の角度を変えることにより超短パルスレーザー光15の伝播方向を変えることができる。これにより、受光望遠鏡19の視野33内に入るフィラメント14の受光望遠鏡19からの距離を変化させることができるため、プラズマの発光強度の計測距離を変えることができる。
また、本実施形態ではフィラメント14の生成位置を凹面鏡17の焦点距離と表面形状可変鏡18の反射面形状を調整することで制御している。凹面鏡17の焦点距離による制御は補助的に用いるものであり、凹面鏡17の焦点距離によってフィラメント14の生成する位置をだいたい決める。そして、表面形状可変鏡18の反射面の形状を変化させることで、フィラメント14の生成位置を微調整する。換言すると、凹面鏡17はフィラメント14の生成位置決定の粗調整に用い、表面形状可変鏡18は微調整に用いる。例えば、非常に短い伝播距離でフィラメント14を生成するためには、焦点距離の短い凹面鏡17を使用する。逆に、ライダー計測のように、フィラメント14の生成開始は超短パルスレーザー光15がある程度長距離伝播した後でもよく、そのかわり長いフィラメント14が欲しい場合は、焦点距離の長い凹面鏡17を用いるか、または凹面鏡17を用いずに表面形状可変鏡18のみを用いる。表面形状可変鏡18は通常平面ミラーを用いており、レーザービーム断面上の位相分布を制御する。表面形状可変鏡18の反射面形状を変化させることでその焦点距離も多少は変化するが、フィラメント14の生成位置を粗調整する場合のように大きく変化させるには凹面鏡17を併用するのが好ましい。なお、凹面鏡17を可変形ミラーとしてその反射面形状を変化させることでフィラメント14の生成位置を微調整することが可能であれば、表面形状可変鏡18を省略しても良い。ただし、凹面鏡17の反射面形状の変化を精密に制御することは難しいので、凹面鏡17と表面形状可変鏡18を併用することが実用的である。
また本実施形態では、表面形状可変鏡18の角度を変えることにより超短パルスレーザー光15の伝播方向を変えているが、表面形状可変鏡18から反射されたレーザー光を図1には記載されていない全反射鏡により反射して大気中に照射し、この全反射鏡の角度を変えることにより超短パルスレーザー光15の伝播方向を変えることも可能である。この場合、通常の全反射鏡は表面形状可変鏡に比べて構造が単純であるため角度を変えやすく、そのため超短パルスレーザー光の伝播方向の制御が容易であるという利点がある。
ここで、表面形状可変鏡18の反射面形状の変化とフィラメント14の生成についてより具体的に説明する。図2及び図3に表面形状可変鏡18を示す。表面形状可変鏡18は、独立制御可能な複数のアクチュエータを備える可変形ミラーを用いたものであり、反射面が任意に変形可能な反射ミラー(本明細書では可変形ミラーと呼ぶ)2と、該可変形ミラー2の背面側に連結されて可変形ミラー2に対して変位を与えるアクチュエータ8とを備え、アクチュエータ8の駆動によって可変形ミラー2を大域的に変形可能としたものである。
ここで、可変形ミラー2としては、独立して制御可能な複数本のアクチュエータ8の駆動により反射面が任意に変形可能な薄肉の平面ミラーが採用されている。本実施形態の場合、アクチュエータ8の駆動により所望の大域的凹部を容易に形成できる程度の剛性を有するものであり、例えば縦横寸法が100×100(mm)程度の正方形状のミラーにおいては厚さ3mm程度の薄肉の平面鏡の使用が好ましい。
反射ミラー2の背面はアクチュエータ8に連結され、アクチュエータ8を介してフレーム1に支持されている。本実施形態では、13本のアクチュエータ8が可変形ミラー2の裏面全域にほぼ均等な間隔で縦横並びに対角線上に配置されているが、この本数に特に限られるものではない。
アクチュエータ8は、可変形ミラー2の背面に固着されているロッド3を含み、該ロッド3が当該アクチュエータ8の可動部(本実施形態ではロッドホルダ4)に対して切り離し可能に連結されている。例えば、アクチュエータ8は、駆動素子6の先端に固定されているロッドホルダ4の少なくともロッド3を固定する端部側にロッド3を嵌め込む孔を設け、ロッド3の後端側を嵌め込んだ状態でロッド3をねじ5で締め付けることによって着脱可能に固定されている。本実施形態では、ロッドホルダ4のねじ孔に螺合されたねじ5の先端でロッド3の外周面を押しつけることによって摩擦力でロッド3を固定するようにしているが、場合によってはピンなどで着脱可能に連結しても良い。ロッド3を簡単に着脱できる構造とすることによって、可変形ミラー2の反射特性が劣化した場合など、可変形ミラー2の交換が必要となった場合には、ねじ5を弛めてロッドホルダ4からロッド3を取り外すことで、劣化した可変形ミラー2(裏面に接着されたロッド3を含む)だけを交換することができる。即ち、ロッドホルダ4、アクチュエータ8及び支持フレーム1はそのまま再利用できるので経済的である。
アクチュエータ8と可変形ミラー2との連結は、本実施形態の場合、エポキシ樹脂系接着剤7を使って、ロッド3の先端と可変形ミラー2の背面とを接着することによって行われている。この場合、厚さ3mmという薄肉の可変形ミラー2では、接着剤7が硬化するときの応力変化の影響がミラー表面に現れやすく、アクチュエータ8が接着された部分の可変形ミラーの表面側(反射面側)が僅かに隆起した。例えばエポキシ樹脂系接着剤7でロッド3を接着させた本実施形態の場合、0.4μmの凸部9が形成された。ここで、接着剤の硬化または固化により形成される凸部または凹部が局部的であれば、超短パルスレーザビームが反射したときに生ずるビームの波面に与えられる局所的な空間変調は、フィラメントを形成する起点となる十分なものとなる。また、接着剤7を利用して生じさせた高さ0.4μm程度の隆起や窪みであれば、可変形ミラー2の鏡面を蒸着形成して製作する時、予め蒸着面手前に穴開きマスクをセットし、蒸着工程時に鏡面蒸着の膜厚を局部的にコントロールすることで局部的凸部または凹部を形成することも可能である。
また、駆動素子6としては、圧電素子(PZT:Pb−Zr−Ti)または電歪素子(PMN:Pb−Mg−Nb)などの、可変形ミラーの微小変位を可能とする駆動源が用いられている。電歪素子などの駆動素子の場合、印加電圧の大きさや方向を切り替えることで、駆動素子の変位方向並びに変位量を容易に制御できるので使用が好ましいが、これに限られるものではない。駆動素子6はフレーム1の土台に対して垂直に配置されている壁1bに固定され、可動部となるロッドホルダ4は貫通孔を有する壁1aを通して前後方向(図2の左右方向)へ進退動可能に支持されている。可変形ミラー2は互いに平行に配置された複数のアクチュエータ8の駆動を適宜制御することによって、即ちロッド3を前方に押し出すアクチュエータ8と後方へ引き戻すアクチュエータ8あるいは駆動させないアクチュエータ8とを組み合わせることによって、可変形ミラー2の所望の領域に大域的凹部10を形成するように変形させられる。
次に、局部的凸部9または凹部とそれよりも大きな大域的な凹部10を有する反射ミラーを使ってフィラメントを形成する方法について説明する。図3に示すように、符号E,J,K,L,Mの5個のアクチュエータ8を駆動させ、可変形ミラー2を裏面側から引っ張って、可変形ミラー2の表面側を大域的に窪ませて変形させる。この状態においても、図4に示すように、アクチュエータによってミラー表面形状が大域的な凹部10に形成され尚かつ局部的凸部9(または凹部)が存在する特殊な表面形状が実現される。これによって、局部的凸部9または凹部の周りあるいはビーム断面の局部的な凸部9または凹部の周りに相当する位置に、反射ビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心となる強度斑の周りに集合させて、フィラメント生成の起点となる強度斑の電界強度をより強くしてビーム伝播中のフィラメント生成をより確実なものにすることができる。
さらに、ビーム断面上における大域的凹部の形成位置を制御することによって、フィラメント14が生成される位置を制御できる。例えば、ビーム中央部に相当するミラー中央部のアクチュエータ(E)を引っ張ってミラー中央部に大域的凹部10を形成した場合、周辺の強度斑がビーム中央に集合し、高密度のフィラメント14が形成される。他方、反射ミラーのビームが照射される領域内のミラー周辺部(ビーム周辺部)に相当するアクチュエータ(M)を引っ張ってミラー周辺部に大域的凹部を形成した場合、強度斑もビーム周辺部に片寄り、周辺部の方がフィラメントの形成が顕著となって高密度のフィラメント14が形成される。したがって、反射ミラーの表面のフィラメント生成の起点となる局部的な凸部または凹部の位置を変更しなくとも、反射ミラー表面に形成される大域的凹部の形成位置を制御することでフィラメントが顕著に形成される位置、高密度のフィラメントが形成される位置を制御可能である。
次に、本発明の他の実施形態として、高電圧機器内の空間電界計測を実施する形態の一例を図5に示す。尚、図1の空間電界計測装置と同一の部材には同一の符号を付してそれらの詳細な説明は省略する。
高電圧機器内の空間電界計測を行う場合、電界強度の計測は数m〜数10m離れた位置から測定すれば十分である。また、雷雲近傍の空間電界計測の場合のように電界の測定領域を広範囲なものとする必要がない。したがって、レーザーフィラメントプラズマを利用した計測には限定されず、レーザーブレイクダウンプラズマを利用しても十分に電界計測が可能である。尚、レーザーフィラメントプラズマを利用する場合は、フィラメントを短いレーザー光伝播距離で、尚かつ目的とする位置で生成する必要があるため、局部的な凸部または凹部を有する反射ミラーや、前記局部的な凸部または凹部に、前記局部的な凸部または凹部に比して大域的な凹部を加えた反射ミラーを用いて短い伝播距離でフィラメントを生成させる構成とすることが望ましい。また、表面形状可変ミラーを併用することにより、目的とする位置におけるプラズマ密度を大きくし、測定感度を向上することが可能となる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、上述の説明では受光素子としてICCDカメラ23を用いていたが、ICCDカメラ23に限るものではない。ICCDカメラ23の代わりに例えばアレイ型半導体素子を用いることも可能である。この場合、イメージインテンシファイアによる増強機能が付加されていないため測定感度が落ちるが、ICCDカメラ23に比べてアレイ形半導体素子は安価であるため製造コストを安くすることができる。発光強度が強いレーザーフィラメントプラズマを利用する場合に適している。
また、ICCDカメラ23の代わりに光電子増倍管を用いることもできる。光電子増倍管は感度が高く、また受光面積も大きいため、単一波長における発光強度の測定感度が向上する。また、分光器22のスリット幅を小さくすることにより、測定分解能も向上することができる。この場合、一度に単一波長の発光強度しか測定ができないので、分光器22の回折格子の角度を変化させ、発光強度を測定する波長を例えば窒素分子の発光ピークである337.1nm付近に合わせておく。あるいは、窒素分子の発光ピークである337.1nm付近の光のみを透過するフィルターを用いて、発光強度の測定を行う。レーザーフィラメントプラズマを用いる場合は、白色光によるバックグラウンドノイズが小さいため、上記のような単一波長における計測に適している。レーザーブレイクダウンプラズマを用いる場合は、白色光発生によるバックグラウンドノイズが大きいため、受光素子として光電子増倍管を用いる場合は、分光器の回折格子の角度を変化させ、発光スペクトルの波形を計測するか、もしくは、窒素分子の発光ピークである337.1nmから離れた波長で、窒素分子の発光成分のない波長における発光強度を計測し、その強度をバックグラウンド強度として、前記窒素分子の発光ピーク強度からバックグラウンド強度を差し引いた値を窒素分子の発光強度とすれば良い。また、分光器は用いずに、窒素分子の発光ピークである337.1nm付近の光のみを透過するフィルターと光電子増倍管を組み合わせたものを用い、これにより測定される光信号強度を窒素分子の発光ピーク強度とし、同時に、337.1nmから離れた波長で窒素分子の発光成分のない波長付近の光のみを透過するフィルターともう一つの光電子増倍管を組み合わせたものを用い、これにより測定される光信号強度をバックグラウンド強度とし、前期窒素分子の発光ピーク強度から、前記バックグラウンド強度を差し引いた値を、窒素分子の発光強度とすれば良い。
また、上述の説明では表面形状可変鏡18として1枚の薄肉反射鏡による可変形ミラー2を用いて、局部的な凸部9または凹部と大域的な凹部10とを形成し、フィラメント発生の起点を生成する工程と、超短パルスレーザビームのエネルギあるいは周辺の強度斑を中心の強度斑の周りに集合させる工程とを同時に実施させる例を挙げて主に説明しているが、局部的な凸部9または凹部を有する第1のミラー2’と大域的な凹部10を有する第2のミラー2”との少なくとも2枚のミラーを光路上で組み合わせ、上述の2つの工程を別々の反射ミラーで前後させて実施することも可能である。これによっても、反射ビーム断面の任意の部位に任意の密度のフィラメントを生成させたり、あるいは大域的凹部の形成位置を制御することによりフィラメントの生成位置を任意に制御することも可能である。尚、この局部的な凸部9または凹部を有する第1のミラー2’と大域的な凹部10を形成する第2のミラー2”とを組み合わせてフィラメント14を形成する場合、第1のミラー2’の局部的凸部9または凹部と第2のミラー2”の大域的凹部10は共に変位または変形しない固定的構成としても良いが、それぞれ可動的な構成としても良い。
また、上記実施形態においては可変形ミラー2の裏面にロッド3を接着剤7で直に接着した構造が示されたが、アクチュエータ8の駆動素子そのものあるいは駆動素子に固着された部材の先端部を直にミラー裏面に接着し、可変形ミラー2をアクチュエータ8で直接担持することもできる。
また、上述の説明では、大域的な凹部10を設けてフィラメント14周辺に反射した超短パルスレーザー光15のエネルギあるいは周辺の強度斑をフィラメント14発生の起点なる強度斑の周りに集合させるようにしていたが、大域的な凹部10を省略しても良い。
さらに、上述の説明では、プラズマからの発光を望遠鏡19により集光するようにしていたが、集光レンズ等のレンズを使用してプラズマからの発光を集光するようにしてもよい。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
(実験装置)
本実施例において使用した実験装置図を図6に示す。レーザー装置16としてチタンサファイアレーザー装置を用い、パルス幅を55fs、パルスエネルギーを84mJとして超短パルスレーザー光(λ=800nm)を出力した。また、Nd:YAGレーザー装置を用い、パルス幅6ns、パルスエネルギー750mJのナノ秒パルスレーザー光(λ=532nm)を出力した。本実施例において、超短パルスレーザー光は符号15aで示し、ナノ秒パルスレーザー光は符号15bで示す。尚、超短パルスレーザー光15aはレーザーフィラメントプラズマを発生させるために使用し、ナノ秒パルスレーザー光15bはレーザーブレイクダウンプラズマを発生させるために使用した。高圧電極40には直径60mmの球電極を用い、接地電極41には直径250mmの球電極を用いた。高圧電極40と接地電極41との間の水平方向距離は0.5mとし、レーザー光15が接地電極41側から照射されるように配置した。チタンサファイアレーザー装置からの超短パルスレーザー光15aは、高圧電極40から10.7m離れた位置から焦点距離10mの凹面ミラー17aで集光した。Nd:YAGレーザー装置からのナノ秒パルスレーザー光15bは、高圧電極40から2m離れた位置から焦点距離2mの凸レンズ17bで集光した。高圧電極40とレーザー光15の鉛直方向距離は5mmとした。そして、高圧電極40付近の発光を20m離れた位置で測定した。発光測定は、口径152mmの望遠鏡19により発光を集光し、分光器22で分光した後、ICCDカメラ23で受光することにより行った。ICCDカメラ23はゲート機能を有しており、レーザー光照射からゲート開放(データ取得)までの遅延時間及びゲート開放時間等を制御した。
尚、本実施例において、接地電極41側が正極であり、高圧電極40側が負極であることから、電圧値はマイナスとなるが、以降の説明では、電圧値を絶対値として記載する。
(実施例1)
上記実験装置を用いて、チタンサファイアレーザー装置からの超短パルスレーザー光15aの伝播時のフィラメント生成の様子を観測した。結果を示す写真を図7に示す。(a)が凹面ミラー17aからのレーザー光の伝播距離が5.0mの時のフィラメントの生成状態であり、(b)が凹面ミラー17aからの伝播距離が7.0mの時のフィラメントの生成状態であり、(c)が凹面ミラー17aからの伝播距離が9.0mの時のフィラメントの生成状態であり、(d)が凹面ミラー17aからの伝播距離が10.7mの時のフィラメントの生成状態である。(a)に示されるように、凹面ミラー反射後5mでフィラメントが生成することが確認された。尚、フィラメントは、写真の右側に観測される白い点である。そして、伝播距離が長くなるにつれて、フィラメントの発光は強くなり、凹面ミラー17aからの伝播距離が9.0mの時には、フィラメントの数も増加することが確認された。高圧電極の下である、凹面ミラー17aから10.7mの地点では、超短パルスレーザー光の中央部は白く明るく光り、その周りには虹色の光が観測された。中央部の白く明るく光っている箇所はフィラメントが集中している箇所であり、その周りの虹色の光は、フィラメントから生成した自己位相変調による白色光であると考えられた。以上の結果から、発光を観測する領域である高圧電極40の下において、フィラメントが十分に生成していることが確認された。
(実施例2)
上記実験装置を用いて、高圧電極40と接地電極41間のプラズマの発光の状態を観測した。結果を示す写真を図8に示す。(a)はNd:YAGレーザー装置からのレーザー光を照射した場合であり、集光点である高圧電極40の下において、点上の明るいプラズマ発光が観測された。(b)〜(e)はチタンサファイアレーザー装置により超短パルスレーザー光15aを照射した場合であり、(b)は印加電圧無し、(c)印加電圧50kV、(d)印加電圧100kV、(e)印加電圧150kVである。(b)〜(e)のそれぞれにおいて、フィラメントの生成により生じた長い線状のプラズマの発光が高圧電極40と接地電極41間で観測された。また、印加電圧を100kV、150kVとした場合には、高圧電極40の下に明るい発光が観測された。これらの発光を拡大したものを(g)及び(h)に示す。(g)及び(h)に示される結果から、発光がフィラメントから発生していることが確認された。尚、(f)は超短パルスレーザー光15aを照射せずに、印加電圧を150Vとした場合の結果である。高圧電極40付近には、(d)及び(e)で観測されたような明るい発光は観測されなかった。発光はフィラメントから発生していることは、このことからも明らかである。
(実施例3)
上記実験装置を用いて、高圧電極40の下に発生するプラズマの発光スペクトルを測定した。結果を図9に示す。(a)は、Nd:YAGレーザー装置によりナノ秒パルスレーザー光15bを照射したときの結果を示す図であり、(b)はチタンサファイアレーザー装置により超短パルスレーザー光15aを照射したときの結果を示す図である。尚、Nd:YAGレーザー装置によりナノ秒パルスレーザー光15bを照射した場合、レーザー照射直後の白色光ノイズが大きいため、レーザー照射からICCDカメラ23のゲート開放までの遅延時間を400nsとした。またゲート開放時間は25msとした。チタンサファイアレーザー装置により超短パルスレーザー光15aを照射した場合には、レーザー照射直後の白色光ノイズはほとんど無いため、ICCDカメラ23のゲート開放までの遅延時間は20nsとした。またゲート開放時間も20nsとした。(a)及び(b)の両発光スペクトル共に、窒素分子の発光に帰属される337.1nmの発光が、印加電圧の上昇と共に増加することが明らかとなった。
次に、発光強度と印加電圧との相関について検討するため、印加電圧に対して337.1nmにおける窒素分子の発光強度の変化をプロットした。結果を図10に示す。(a)は、Nd:YAGレーザー装置によりナノ秒パルスレーザー光15bを照射したときの結果を示す図であり、(b)はチタンサファイアレーザー装置により超短パルスレーザー光15aを照射したときの結果を示す図である。(a)に示される結果から、印加電圧が100kVの時には337.1nmの発光は観測されないが、印加電圧を200kV以上とすると、発光強度が指数関数的に増加することが明らかとなった。また、(b)に示される結果から、印加電圧が100kVの時に337.1nmの発光が明瞭に観測されることが確認された。このことから、Nd:YAGレーザー装置によりナノ秒パルスレーザー光15bを照射する場合と比較して、チタンサファイアレーザー装置により超短パルスレーザー光15aを照射する場合の方が測定感度が高められることが明らかとなった。また、前述のように、ナノ秒パルスレーザー光15bのエネルギーが750mJであるのに対し、超短パルスレーザー光15aのエネルギーは84mJであり、ナノ秒パルスレーザー光15bのエネルギーの約1/10である。このことからも、ナノ秒パルスレーザー光15bを照射する場合と比較して、超短パルスレーザー光15aを照射する場合の方が測定感度が高められることは明らかである。換言すれば、レーザーブレイクダウンプラズマを利用する場合よりも、レーザーフィラメントプラズマを利用する場合の方が測定感度が高められることが明らかとなった。尚、(b)の場合についても、印加電圧の上昇に伴い、発光強度も指数関数的に増加する傾向が見られたが、150kV〜200kVの印加電圧にかけて発光強度の増加が飽和する傾向が見られた。そこで、この原因について検討を行ったところ、印加電圧が200kV以上になるとフィラメントに沿ったリーダー進展と考えられる現象が観測された。このことから、150kV以上の印加電圧における発光強度の増加の飽和傾向は、リーダー進展が何らかの影響を及ぼしたものと考えられた。
(実施例4)
実施例3において150kV以上の印加電圧で見られたリーダー進展の影響を排除するため、図6に示す実験装置図に改良を加えた実験装置を用いて実験を行った。この実験装置図を図11に示す。図6に示す実験装置図と図11に示す実験装置図との大きな相違点は、高圧電極40と接地電極41にある。即ち、図11に示す実験装置では、高圧電極40を直径250mmの球電極とし、接地電極として2.5m×1.25mの平板を高圧電極の真下に設置した。また、チタンサファイアレーザー装置から出力される超短パルスレーザー光15aのパルス幅を50fsとした。さらに、高圧電極の下から10.4m離れた位置より焦点距離10mの凹面ミラー17aで集光し、超短パルスレーザー光15aを伝播させた。その他の装置構成は図6に示す実験装置と同一とした。
実施例3と同様、複数の印加電圧に対する発光スペクトルを測定した後、印加電圧に対して337.1nmにおける窒素分子の発光強度の変化をプロットした。結果を図12に示す。図12に示す結果から、印加電圧の増加に伴い、発光強度が指数関数的に増加することが確認された。尚、図12に示す実験結果では、印加電圧が100kVと200kVの場合には発光が観測されなかった。この理由は、図6に示す実験装置と比較して、図11に示す実験装置では高圧電極40の中心から発光測定位置までの距離が大きく、同じ印加電圧でも発光測定位置における電界強度が小さいためである。
以上、本実施例により、レーザーブレイクダウンプラズマ及びレーザーフィラメントプラズマを利用することで、大気中の被測定領域の空間電界強度を計測できることが明らかとなった。
尚、球電極と球電極の間の電界強度、及び球電極と平板電極の間の電界強度は、例えばJ. D. Jackson, Classical Electrodynamics, 3rd ed. (Willy, New York, 1998)に記載された方法に基づいて決定することができる。