JP5076096B2 - 動脈硬化の予防・治療剤 - Google Patents

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本発明は、動脈硬化の予防・治療剤、詳しくは、動脈内膜肥厚の抑制や大動脈血管平滑筋細胞の増殖抑制活性を有する蛋白質等に関する。
動脈硬化は、動脈が弾力を失ってもろくなった状態をいい、脳失血、脳梗塞、心筋梗塞、腎硬化症などの成人病の原因として重要である。動脈硬化の原因として高脂血症、血液中のウイルス、細菌、過酸化脂質、活性酸素などが知られているが、未だ発症のメカニズムは解明されていない。いずれにせよ動脈硬化とは、動脈の内膜・内皮細胞の障害による肥厚であり、動脈内膜の肥厚を抑制する薬物の探索が求められている。
一方、OL64は、Vaspinとも呼ばれ、肥満動物の内臓脂肪組織に特異的に発現する蛋白質であることが知られており(非特許文献1、特許文献1を参照)、ヒトOL64の配列は公知である(Genbankアクセッション番号:NM_173850)。OL64は、耐糖能改善活性を有することが知られているが(特許文献1を参照)、OL64の生体内での機能は不明であり、動脈硬化との関係についても全く知られていなかった。
Hida K et al, J. Lipid Research, 41, p 1615 - p1622 (2000) 特開2005-298389号公報
本発明が解決すべき課題は、動脈硬化の予防・治療剤、詳しくは、動脈内膜肥厚の抑制活性や大動脈血管平滑筋細胞の増殖抑制活性を有する薬剤等を提供することにある。
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、OL64が、動脈内膜肥厚の抑制や大動脈血管平滑筋細胞の増殖抑制活性有し、動脈硬化関連疾患の予防剤または治療剤となり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
〔1〕 OL64、そのフラグメント、又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤;
〔2〕 動脈肥厚抑制活性を有することを特徴とする、〔1〕に記載の治療剤又は予防剤;
〔3〕 動脈肥厚抑制活性が、血管平滑筋の増殖抑制活性である、〔2〕に記載の治療剤又は予防剤;
〔4〕 OL64、そのフラグメント、又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、血管平滑筋の増殖抑制剤;
〔5〕 OL64、そのフラグメント、又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、動脈肥厚抑制剤;
〔6〕 被験物質が、OL64又はOL64をコードする遺伝子の発現を促進するか否かを指標とする、被験物質の動脈肥厚抑制活性の検定方法;
〔7〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
(1) 被験物質と、OL64をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程;
〔8〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
(1)被験物質と、OL64を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程;
〔9〕 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
(1) 被験物質とOL64をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程;
〔10〕 動脈肥厚抑制活性が、血管平滑筋の増殖抑制活性である、〔6〕〜〔9〕のいずれかに記載の検定方法;
〔11〕 〔6〕〜〔9〕のいずれかに記載の検定方法により測定された被験物質の動脈肥厚抑制活性を指標として、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤の候補物質を選別することを特徴とする、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤の探索方法;
〔12〕 〔11〕に記載の探索方法により選抜された物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分して含有する、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤;
〔13〕 OL64の発現誘導物質を有効成分として含有する、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤;
に関する。
本発明により、動脈肥厚抑制活性や血管平滑筋の増殖抑制活性を有することを特徴とする動脈硬化を伴う疾患の治療剤もしくは予防剤、動脈肥厚抑制活性の検定方法、及び当該検定方法を用いる動脈硬化治療もしくは予防剤の探索方法等を提供することが可能になった。
以下に本発明を詳細に説明する。
(I)治療剤又は予防剤
本発明の第一の態様は、OL64、そのフラグメント、又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤に関する。
本明細書において、OL64は公知の蛋白質であり、ヒトOL64(配列番号2)及びその遺伝子配列(配列番号1)は、Genbank:NM_173850として知られている。本明細書においてOL64とはヒトOL64のみならず、他の動物種由来のホモログ等を含む概念である。すなわち、OL64としては、以下のアミノ酸配列群が挙げられる(以下、本蛋白質と称する場合がある)。
<アミノ酸配列群>
(a)配列番号2で示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2で示されるアミノ酸配列における第22番目のアミノ酸から第414番目のアミノ酸で示されるアミノ酸配列、
(d)前記(c)のアミノ酸配列において、そのアミノ末端にメチオニンが付加されたアミノ酸配列、
(e)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
(f)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列、
(g)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされ、かつ動脈肥厚を抑制する活性を有するアミノ酸配列、
(h)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、かつ動脈肥厚を抑制する活性を有するアミノ酸配列。
前記(b)における「アミノ酸の欠失、付加、挿入もしくは置換」や前記(e)及び(g)にある「80%以上の配列同一性」には、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する蛋白質が細胞内で受けるプロセシング、該蛋白質が由来する生物の種差、個体差、組織間の差異等により天然に生じる変異や、人為的なアミノ酸の変異等が含まれる。
前記(b)における「アミノ酸の欠失、付加もしくは置換」(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う場合の手法としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードするDNAに対して慣用の部位特異的変異導入を施し、その後このDNAを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res., 12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
前記で改変されるアミノ酸の数については、少なくとも1残基、具体的には1若しくは数個、1ないし10個、又はそれ以上である。かかる改変の数は、当該蛋白質の動脈肥厚抑制活性を見出すことのできる範囲であれば良い。
また前記欠失、付加又は置換のうち、特にアミノ酸の置換に係る改変が好ましい。当該置換は、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似した性質を有するアミノ酸への置換がより好ましい。このような置換としては、例えば、i)グリシン、アラニン;ii)バリン、イソロイシン、ロイシン;iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、iv)セリン、スレオニン;v)リジン、アルギニン;vi)フェニルアラニン、チロシンのグループ内での置換が挙げられる。
前記(c)における、「配列番号2で示されるアミノ酸配列における第22番目のアミノ酸から第414番目のアミノ酸で示されるアミノ酸配列」とは、分泌蛋白質である配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる蛋白質において、シグナルペプチド部分に相当する第1番目のアミノ酸から第21番目のアミノ酸で示される部分アミノ酸配列を除いたアミノ酸配列に相当する。
本発明において「配列同一性」とは、2つのDNA又は2つの蛋白質間の配列の同一性及び相同性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象のDNA又は蛋白質は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加又は欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。このような配列同一性に関しては、例えば、Vector NTIを用いて、ClustalWアルゴリズム(Nucleic Acid Res.,22(22):4673-4680(1994)を利用してアラインメントを作成することにより算出することができる。尚、配列同一性は、配列解析ソフト、具体的にはVector NTI、GENETYX-MACや公共のデータベースで提供される解析ツールを用いて測定される。前記公共データベースは、例えば、ホームページアドレスhttp://www.ddbj.nig.ac.jpにおいて、一般的に利用可能である。
本発明における配列同一性は、80%以上であればよいが、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
前記(h)における「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」に関して、ここで使用されるハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。また「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)、50%フォルムアミドを含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度の両方を変えることもできる。
上述の本蛋白質の具体例として、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるヒト型蛋白質の他、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるラット型ホモログ(Genbank アクセッション番号:NM_026535)や、配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるマウス型ホモログ(Genbank アクセッション番号:NM_138825)を挙げることができる。
本明細書において、本蛋白質のフラグメントとは、前記本蛋白質の15〜100残基、好ましくは15〜50残基のアミノ酸部分配列からなるペプチドフラグメントを表し、本蛋白質の動脈肥厚抑制活性が保持されている限り特に限定はない。
本明細書において、OL64(本蛋白質)をコードする遺伝子としては、以下の塩基配列群が挙げられる(以下、本遺伝子と称する場合がある)。
<塩基配列群>
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(j)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(k)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、そのアミノ末端から21個のアミノ酸を欠失させた部分アミノ酸配列をコードする塩基配列(即ち、配列番号2で示されるアミノ酸配列における第22番目から第414番目までのアミノ酸で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列)、
(l)前記(k)のアミノ酸配列において、そのアミノ末端にメチオニンが付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(m)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(n)配列番号1で示される塩基配列、
(o)配列番号1で示される塩基配列における第287番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列、
(p)配列番号1で示される塩基配列における第287番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列、又は
(q)配列番号1で示される塩基配列における第287番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAの塩基配列等の塩基配列を有する遺伝子。
本遺伝子又は本蛋白質の調製方法について、以下に説明する。
上記のOL64をコードする遺伝子(本遺伝子)を、通常の遺伝子工学的方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)に準じて取得する。次いで、得られた本遺伝子を用いることにより、通常の遺伝子工学的方法に準じて本蛋白質を製造・取得する。このようにして本蛋白質を調製することができる。
例えば、本遺伝子が宿主細胞中で発現できるようなプラスミドを作製し、これを宿主細胞に導入して形質転換し、さらに形質転換された宿主細胞(形質転換体)を培養することで得られる培養物から本蛋白質を取得すればよい。上記プラスミドとしては、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖できるものであって、宿主細胞からの単離・精製が容易であり、宿主細胞中で機能可能なプロモーターを有し、検出可能なマーカーをもつ発現ベクターに、本蛋白質をコードする遺伝子が導入されたものを好ましく挙げることができる。尚、発現ベクターとしては、各種のものが市販されている。例えば、大腸菌での発現に使用される発現ベクターは、lac、trp、tacなどのプロモーターを含む発現ベクターであって、これらはファルマシア社、タカラバイオ等から市販されている。当該発現ベクターに本蛋白質をコードする遺伝子を導入するために用いられる制限酵素もタカラバイオ等から市販されている。さらなる高発現を導くことが必要な場合には、本蛋白質をコードする遺伝子の上流にリボゾーム結合領域を連結してもよい。用いられるリボゾーム結合領域としては、Guarente L.ら(Cell 20, p543)や谷口ら(Genetics of Industrial Microorganisms, p202, 講談社)による報告に記載されたものを挙げることができる。
哺乳動物細胞での発現に使用されるベクターは、SV40ウイルスプロモーター、サイトメガロウィルスプロモーター(CMVプロモーター)、Raus Sarcoma Virusプロモーター(RSVプロモーター)、βアクチン遺伝子プロモーター、aP2遺伝子プロモーター等のプロモーターを含む発現ベクターであって、これらは、東洋紡社、タカラバイオ社等から市販されている。
宿主細胞としては、原核生物もしくは真核生物である微生物細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞等を挙げることができる。例えば、本蛋白質の大量調製が容易になるという観点では、大腸菌等を好ましく挙げることができる。
前記のようにして得られたプラスミドは、通常の遺伝子工学的方法により前記宿主細胞に導入することができる。
形質転換体の培養は、微生物培養、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞の培養に使用される通常の方法によって行うことができる。例えば大腸菌の場合、適当な炭素源、窒素源およびビタミン等の微量栄養物を適宜含む培地中で培養を行う。培養方法としては、固体培養、液体培養のいずれの方法でもよく、好ましくは、通気撹拌培養法等の液体培養を挙げることができる。
本蛋白質の取得は、一般の蛋白質の単離・精製に通常使用される方法を組み合わせて実施すればよい。例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離等で集め、該形質転換体を破砕または溶解せしめ、必要であれば蛋白質の可溶化を行い、イオン交換、疎水、ゲルろ過等の各種クロマトグラフィーを用いた工程を単独で、若しくは組み合わせることにより精製すればよい。精製された蛋白質の高次構造を復元する操作をさらに行ってもよい。また、例えば、前記の培養により得られた形質転換体を遠心分離などで除去し、培養上清から本蛋白質を前記と同様にして精製してもよい。
本明細書において、動脈硬化を伴う疾患としては動脈硬化症が挙げられるが、動脈の内膜・内皮細胞の障害による肥厚によって生ずる疾患であれば特に限定は無い。すなわち、本発明の治療剤又は予防剤は、動脈肥厚抑制活性や血管平滑筋の増殖抑制を有することを特徴とするものであり、動脈が肥厚した病態を改善することができる。
「動脈肥厚」は、血管内径、内膜の厚さ、中膜の厚さ、内膜/中膜比が増大する現象を表し、摘出血管の切片をHE染色し、血管内径、内膜の厚さ、中膜の厚さを測定し、内膜/中膜比を算出することにより決定することができる。すなわち、「動脈肥厚抑制活性」とは、内膜/中膜比の増大を抑制する活性を表す。
「血管平滑筋の増殖活性」は、ヒト大動脈血管平滑筋細胞(HASMC)(クラボウ社製)の細胞増殖能を5-bromo-2'-doxyuridine(BrdU)ELISA キットにて測定することおよびコールターカウンターモデルZ1にて細胞数を測定することによって測定することができる。すなわち、「血管平滑筋の増殖活性」とは、前記細胞増殖能を抑制する活性を表す。
(II)検定方法
本発明の第二の態様は、被験物質が本蛋白質又は本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)の発現を促進するか否かを指標とする、被験物質の動脈肥厚抑制活性の検定方法に関する。
(II-1)本蛋白質をコードする遺伝子の発現量を指標とする方法
すなわち、下記の工程(1)〜(3):
(1) 被験物質と、本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程、
を有する。
前記第一工程において用いられる「本蛋白質をコードする遺伝子(以下、本遺伝子と称する場合がある)」としては、本遺伝子を発現している細胞であれば特に限定は無く、使用する細胞の内在性の本遺伝子、外来遺伝子として細胞に導入された本遺伝子のいずれでも良いが、使用する細胞の内在性の本遺伝子が好ましい。外来遺伝子として導入する場合、本遺伝子は用いられる細胞の由来動物種の本遺伝子であることが好ましい。
具体的には、脂肪組織由来細胞、本遺伝子発現ベクターを導入されてなる形質転換細胞等が挙げられる。由来動物種としては、ラット、マウス、モルモット等のげっ歯類哺乳動物、イヌ、サル、ヒト等が挙げられる。
前記細胞としては、動物の組織や臓器から分離された細胞や、同一の機能・形態を持つ集団を形成している細胞(組織)等も含まれ、いかなる分化過程にある細胞であってもよい。
被験物質として用いられる化合物には特に限定は無く、蛋白質、ペプチド、核酸、無機化合物、天然もしくは合成化学的に調製された有機化合物等が挙げられる。被験物質として、具体的には、アミノ酸3〜50残基、好ましくは5〜20残基のペプチドライブラリーや、当業者に公知のコンビナトリアルケミストリーの技術を用いて調製された分子量100〜2000、好ましくは200〜800の低分子有機化合物ライブラリーを挙げることができる。
また、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用することが好ましい。
本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞と接触させる被験物質の濃度としては、特に限定は無く、通常約0.1μM〜約100μMであればよく、好ましくは1μM〜50μMであればよい。筋肉細胞もしくは肝細胞と被験物質とを接触させる時間は、通常5分間〜30分間程度あり、好ましくは10分間〜20分間程度である。被験物質は適宜、水、リン酸バッファーもしくはトリスバッファー等のバッファー、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシドもしくはこれらの混合物などの溶媒に溶解又は懸濁して用いることができる。
また、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死なないように、その培養条件(温度、pH、培地組成など)を大きく変化させない条件を採用することが好ましい。
本遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNA又はそれから転写された相補的なポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法で実施できる。具体的には、本遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を有するポリヌクレオチド及び/又はその相補的なポリヌクレオチドをプライマーまたはプローブとして用いることによって、RNA中の本遺伝子の発現の有無やその発現レベルを検出、測定することができる。そのようなプローブもしくはプライマーは、本遺伝子の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合、前記プライマーもしくはプローブを放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)や蛍光物質などで標識し、それを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、形成された前記プライマーもしくはプローブ(DNAまたはRNA)とRNAとの二重鎖を、前記プライマーもしくはプローブの標識物(RI若しくは蛍光物質)に由来するシグナルとして放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)または蛍光検出器で検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham PharamciaBiotech社製)を用いて、該プロトコールに従って前記プローブを標識し、細胞由来のRNAとハイブリダイズさせた後、前記プローブの標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860(Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を使用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合は、細胞由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の本遺伝子の領域が増幅できるように、本遺伝子の配列に基づき調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせて、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出は、上記PCRを予めRIや蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識した前記プライマーをプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。なお、生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
被験物質を添加した細胞における本遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して1.5倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上であれば、該被験物質は本遺伝子の発現誘導物質として選択することができる。
II-2)本蛋白質の発現量を指標として用いる検定方法
本発明は、下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、動脈肥厚抑制活性の検定方法を提供する。すなわち:
(1)被験物質と、本蛋白質を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
(2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
(3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程。
ここで、被験物質としては前記と同じものが挙げられる。また、「本蛋白質を発現可能な細胞」としては、前記I−1)における「本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)を発現可能な細胞」と同じものが挙げられる。
本蛋白質の発現レベルの検出及び定量は、本蛋白質を認識する抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知方法に従って定量できる。ウェスタンブロット法は、一次抗体として本蛋白質を認識する抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAI-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として本蛋白質を認識する抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detection System(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して該プロトコールに従って検出し、マルチバイオメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
上記の抗体は、その形態に特に制限はなく、前記本蛋白質を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよく、さらには本蛋白質を構成するアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)。
II-3)本遺伝子の発現制御領域を用いたレポーター遺伝子アッセイを用いる検定方法
本発明は、下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、動脈肥厚抑制活性の検定方法を提供する。すなわち:
(1) 被験物質と、本蛋白質をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
(2) 被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
(3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させるか否かを指標として被験物質の動脈肥厚抑制活性を評価する第三工程。
ここで、被験物質は、前記と同じものが挙げられる。
「本蛋白質をコードする遺伝子(本遺伝子)の発現制御領域」とは、通常、当該染色体遺伝子の上流数kbから数十kbの範囲を指し、例えば、(i)5’-レース法(5'-RACE法)(例えば、5’full Race Core Kit(タカラバイオ社製)等を用いて実施されうる)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;、を含む手法等により同定することが出来る。
本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子は、当業者に公知の方法で調製すればよい。すなわち、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd edition」(1989),Cold Spring Harbor Laboratory Press、「Current Protocols In Molecular Biology」(1987),John Wiley & Sons,Inc.等に記載される通常の遺伝子工学的手法に従って切り出された本遺伝子の発現調節領域を、レポーター遺伝子を含むプラスミド上に組み込むことができる。
レポーター遺伝子としては、グルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールトランスアセチラーゼ(CAT)、β-ガラクトシダーゼ及びグリーン蛍光タンパク質(GFP)等が挙げられる。
調製した本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を、通常の遺伝子工学的手法を用いて、当該レポーター遺伝子を導入する細胞において使用可能なベクターに挿入し、プラスミドを作製し、適当な宿主細胞へ導入することができる。レポーター遺伝子に応じた選抜条件の培地で培養することにより、形質転換細胞を得ることができる。
また、レポーター遺伝子の発現量を測定する方法としては、個々のレポーター遺伝子に応じた方法を利用すればよい。例えば、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を用いる場合には、前記形質転換細胞を数日間培養後、当該細胞の抽出物を得、次いで当該抽出物をルシフェリンおよびATPと反応させて化学発光させ、その発光強度を測定することによりプロモーター活性を検出することができる。この際、ピッカジーンデュアルキット(登録商標;東洋インキ製)等の市販のルシフェラーゼ反応検出キットを用いることができる。
上記II-1)〜II-3)において、「本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞」、「本蛋白質を発現可能な細胞」又は「本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞」と、被験物質との接触は、当該細胞が成育可能な条件で培養しながら行えばよく、例えば、哺乳動物細胞を宿主とする本発明形質転換細胞の場合、適宜ウシ胎児血清等の哺乳動物由来の血清を添加したD−MEM、OPTI−MEM、RPMI1640培地(Gibco−BRL製)等の市販の培地中で培養できる。
上記II-1)〜II-3)において、「被験物質に接触させない対照細胞」とは、各第一工程で用いられる「本蛋白質をコードする遺伝子を発現可能な細胞」、「本蛋白質を発現可能な細胞」又は「本遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞」において、被験物質を接触させない場合の当該細胞を表す。「被験物質を接触させない場合」には、被験物質の代わりに被験物質と同量の溶媒(ブランク)を添加する場合や、本遺伝子、本蛋白質もしくはレポーター遺伝子の発現に影響を与えないネガティブコントロール物質を添加する場合も含まれる。
上記II-1)〜II-3)において、各第一工程及び第二工程で測定した本遺伝子、本蛋白質又はレポーター遺伝子の発現レベルに基づき、本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導活性を有する被験物質を選択することができる。すなわち、被験物質を添加した細胞における本遺伝子、本蛋白質又はレポーター遺伝子の発現が被験物質を添加しない対照細胞での発現量と比較して1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2倍以上であれば、該被験物質は本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導物質(発現促進物質)として選択することができる。
上記のように選択される本遺伝子もしくは本蛋白質の発現誘導物質もまた、動脈硬化抑制活性、即ち動脈肥厚抑制活性、詳しくは血管平滑筋の増殖抑制活性を有する本発明の動脈硬化関連疾患の治療剤又は予防剤の候補物質である。
本蛋白質及びそのフラグメント、あるいは本発明探索方法で見出される化合物は、これらを医薬品として用いるにあたり、そのままもしくは公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、希釈剤、増量剤、結合剤、滑沢剤、流動助剤、崩壊剤、界面活性剤等などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、懸濁液などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて、全身的にまたは局所的に、経口投与または非経口投与することができる。非経口投与する場合には、静脈投与、皮内投与、皮下投与、直腸投与、経皮投与すること等が可能である。
前記の適当な投与剤型は許容される通常の担体、賦型剤、結合剤、安定剤、希釈剤等に有効成分(本蛋白質、又は本発明探索方法により選抜される物質またはその薬学的に許容される塩等)を配合することにより製造することができる。また注射剤型で用いる場合には、許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、経口の場合には成人で1日あたり有効成分量として、数mg〜2g程度、好ましくは5mg〜数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。注射の場合には成人で有効成分量として約0.1mg〜約500mgを投与すればよく、1日の投与量を1回または数回に分けて投与することができる。
上記有効成分物質として、本遺伝子そのものを挙げることができる。この場合は、本遺伝子を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
上記遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えば本遺伝子またはそれらの化学的修飾体を直接糖代謝関連疾患に罹患した哺乳動物(患者)の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはこれらの遺伝子を患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
ここで前記化学修飾体としては、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36:1923-1937, 1993) が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
本遺伝子は、その投与に当たり、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
本遺伝子を患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるポリヌクレオチドは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞に遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞に遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムに本遺伝子のポリヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
遺伝子治療用製剤組成物は、本遺伝子又はこれらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、本遺伝子を含む注射剤などの投与形態の他に、例えば本遺伝子を含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、本遺伝子を含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。本遺伝子を含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1x103pfu-1x1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。本遺伝子を導入した細胞の場合は、1x104細胞/body-1x1015細胞/body程度を投与すればよい。
以下に本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:
(ラット由来の本遺伝子のクローニング)
以下本実施例でMO64とは、OL64と同義である。
Rat Adipose cDNA Marathon-Ready cDNA (CLONTECH社) 1μL、配列番号7で示された塩基配列からなるプライマー1 20pmol、配列番号8で示される塩基配列からなるプライマー2 20pmol、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社)2U、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、更に72℃で1分間からなる保温サイクルを50回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約1.5Kbpを示すPCR産物を回収した。次いで回収されたPCR産物をpT7-Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、ラット由来の本遺伝子(rMO64)を含むプラスミドを得た。
実施例2:
(ラット由来の本遺伝子(rMO64)の塩基配列の決定)
実施例1で得られたPCR産物(約1.5Kbp)を含むプラスミドを鋳型として、Thermo Sequenase IIダイ・ターミネーターキット(Amersham Pharmacia Biotech社)及びABI373DNA配列読み取り装置(PE Applied Biosystems社)を用いて、サンガーの方法〔F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977), 74, 5463-5467〕により、配列番号3で示される塩基配列からなるラット由来の本遺伝子の塩基配列を決定した。
実施例3:
(マウス由来の本遺伝子のクローニング)
Mouse Normal Adipose cDNA (BioChain社)1μL、配列番号9で示される塩基配列からなるプライマー3 20pmol、配列番号10で示される塩基配列からなるプライマー4 20pmol、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社)2U、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで65℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを50回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約1.2kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7-Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、マウス由来の本遺伝子(mMO64)の塩基配列を含むプラスミドを得た。
実施例4:
(マウス由来の本遺伝子の塩基配列の決定)
実施例3で得られたPCR産物(約1.5Kbp)を含むプラスミドを鋳型として、Thermo Sequenase IIダイ・ターミネーターキット(Amersham Pharmacia Biotech社)及びABI373DNA配列読み取り装置(PE Applied Biosystems社)を用いて、サンガーの方法〔F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977), 74, 5463-5467〕により、配列番号5で示される塩基配列からなるマウス由来の本遺伝子(mMO64)の塩基配列を決定した。
実施例5:
(ヒト由来の本遺伝子のクローニング)
Human Adipocyte Marathon-Ready cDNA (CLONTECH社)1μL、配列番号11で示される塩基配列からなるプライマー5 20pmol、配列番号12で示される塩基配列からなるプライマー6 20pmol、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社)2U、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで65℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを50回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR後、アガロース電気泳動で約1.2kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpT7-Blue vector(Novagen社)にサブクローニングした後、当該プラスミドでE.coliJM109株コンピテントセル(東洋紡社)を形質転換した。形質転換された細胞を50μg/mLアンピシリン含有LB培地100mLで培養することにより得られる培養菌体からQIAGEN Plasmid Maxi kit(QIAGEN社)を用いて分離・精製することにより、ヒト由来の本遺伝子(hMO64)の塩基配列を含むプラスミドを得た。
実施例6:
(ヒト由来の本遺伝子の塩基配列の決定)
実施例5で得られたPCR産物(約1.5Kbp)を含むプラスミドを鋳型として、Thermo Sequenase IIダイ・ターミネーターキット(Amersham Pharmacia Biotech社)及びABI373DNA配列読み取り装置(PE Applied Biosystems社)を用いて、サンガーの方法〔F.Sanger,S.Nicklen,A.R.Coulson著、Proceedings of National Academy of Science U.S.A.(1977), 74, 5463-5467〕により、配列番号1で示される塩基配列からなるヒト由来の本遺伝子の塩基配列を決定した。
実施例7:
(ヒト由来の本遺伝子の大腸菌発現用ベクター構築)
実施例6で得られたヒト由来の本遺伝子を含むプラスミド0.1μg、配列番号13で示される塩基配列からなるプライマー7 20pmol、配列番号14で示される塩基配列からなるプライマー8 20pmol、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ(タカラバイオ社)2U、TaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のバッファー 5μL及びTaKaRa Ex-Taqポリメラーゼ添付のdNTP mixture(2.5mM)4μLを含む50μLの反応液を調製した。PCRは、まず94℃で30秒間、次いで65℃で30秒間、更に72℃で2分間からなる保温サイクルを50回繰り返し、最後に72℃で5分間保温する条件にて行われた。PCR産物を制限酵素NdeIとBamHIにて消化し、アガロース電気泳動で約1.2kbpを示すPCR産物を回収した。回収されたPCR産物をpET16b(Novagen社製)へクローニングしたのち、通常の方法に従って、大腸菌BL21(DE3)plysS(Novagen社製)に形質転換した。
実施例8:
(ヒト由来の本タンパクの精製)
実施例7で作成した組換え体大腸菌(hMO64-pET16b/BL21)をアンピシリン50ug/mlを含むLB培地(トリプトン1w/v%、酵母エキス0.5w/v%、NaCl 0.5w/v%)30mLに接種後、37℃で一晩振とう培養した。培養後の培養液15mLをアンピシリン50ug/mlを含むLB培地(トリプトン1w/v%、酵母エキス0.5w/v%、NaCl 0.5w/v%)500mLに接種後、37℃で2時間培養後、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を終濃度0.5mMになるように添加し、37℃でさらに4時間培養した。遠心分離(8000xg,5分間 ,4℃)により菌体を回収し、菌体を超音波破砕した後、遠心分離(12000xg,15分間 ,4℃)を行いその上清を得た。得られた上清10mLをニッケルを結合させたアフィニティ担体1mL(Ni-NTA 、QIAGEN社製)を充填したカラムに通した。25mMイミダゾールを含む洗浄液(25mMイミダゾール、50mM Tris pH8.0)でカラムを洗浄した後、400mMイミダゾールを含む溶出液(400mMイミダゾール、50mM Tris pH8.0)で溶出させ、アフィニティ精製MO64タンパクを得た。アフィニティ精製タンパクMO64を20mM Tris pH7.0溶液にバッファー置換後、陽イオン交換クロマトカラム(S-Sepharose、アマシャムファルマシア社製)に吸着させ、20mM Tris pH7.0、 1M NaClにより塩濃度勾配を上げることにより溶出させ、最終精製hMO64タンパクを得た。
実施例9:
(動脈肥厚モデル動物の作成)
ウィスターラット(14週齢)にストレプトゾトシン(シグマ社製)を100mg/Kg投与したのち、7日後に内頚動脈に、バルーンカテーテル(2F Fogarty, Edwards Lifesciences社製)により擦過を行い、動脈内膜肥厚モデル動物を作製した。
実施例10:
(動脈肥厚モデル動物への本遺伝子の投与実験)
動脈肥厚モデル動物への本遺伝子の投与はアデノウイルスにより行った。アデノウイルスの作製はAdenovirus Expression Kit(タカラバイオ社)により行った。
i) コスミドベクターへの本遺伝子の挿入
実施例4で調製されたマウスMO64遺伝子のセンス鎖をコスミドベクターpAxCAwt(タカラバイオ社)のSwaI部位に挿入し、pAxCAwt-mMO64を得た。得られたpAxCAwt-mMO64をλパッケージングキットGigapackXL(Stratagene社)を用いてインビトロパッケージングを行い大腸菌DH5αに感染させた。感染させた大腸菌を、50ml 50μg/mlアンピシリン含有LB培地で培養し、Lambda DNA purification Kit(東洋紡社)によりコスミドDNAを大量調製した。

ii) 組換えアデノウイルスの作製
293細胞(タカラバイオ社)を10%FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)で37℃、5%二酸化炭素下で培養する。i)で調製されたpAxCAwt-mMO64 8μgと制限酵素処理済みDNA-TPC(タカラバイオ)5μlとを混合し、当該混合物を用いてリン酸カルシウム法にて293細胞にコトランスフェクションを行った。当該細胞をそのまま18時間培養後、培地を10%FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)と交換し、さらに12時間培養した。培養終了後、後細胞をディッシュから剥がすことにより、回収された細胞懸濁液と293細胞を混ぜてさらに10%FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)にて培養をつづけ、293細胞が完全に死滅した時点で培養液をドライアイスにて急凍した。凍結融解6回後、5000rpm 5分間遠心することにより得られた上清を1次組換えアデノウイルス液(AxCAwt-mMO64)として保存した。
iii) 組換えアデノウイルスの確認および力価測定
293細胞(タカラバイオ社)に前項で調製された1次組換えウイルス液を10μl加え、これに5%FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)を加えた後、当該混合物を37℃、5%二酸化炭素下で1時間培養した。さらに当該混合物に5%FCS添加D-MEM培地(タカラバイオ社)を加えた後、これを37℃、5%二酸化炭素下で培養した。3日間培養後、ウイルス感染させた293細胞(タカラバイオ社)の培養液を回収し、これをドライアイスにて急凍した。凍結融解6回後、5000rpm 5分間遠心することにより得られた上清を2次組換えアデノウイルス液として保存した。一方、前記操作により同時に得られた沈殿(細胞)も回収し、ドライアイスにて急凍する。回収された細胞に10xTNE(500mM トリスー塩酸(pH=7.5)、1M NaCl、100mM EDTA)40μl及びproteinaseK(20mg/ml)4μl、滅菌蒸留水356μlを加え、当該混合液をVoltexでよく懸濁した。得られた懸濁物に、10%SDS 4μlを加え、これを50℃で1時間保温した。その後、フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(ニッポンジーン社)処理後、エタノール沈殿を行い、得られたDNAペレットを風乾させた後、20μg/ml RNaseA(ニッポンジーン社)を含む滅菌蒸留水50μlに溶解することにより、組換えアデノウイルスDNA溶液を得る。得られた組換えアデノウイルスDNA溶液をXhoI 5U(タカラバイオ社)にて切断し、目的の断片(0.48Kbp)を確認した。続いてこの組換えアデノウイルスDNAを前記操作を繰り返すことにより継代培養した。このようにして、高力価組換えウイルスを作製した。力価の測定は既存の方法(特開平7-298877)により測定した。
iv)(動脈肥厚モデル動物への本遺伝子の投与実験)
マウスMO64アデノウイルスを1x1010PFU/mlに調整した。実施例9の動脈肥厚モデル動物において、擦過直後にラット1匹当たり0.2mlずつシリンジを用いて内頚動脈内に20分間インキュベーションした(1群10匹)。対照群としてはLacZ発現アデノウイルスを投与したラットを用いた。投与2週間後に血管を摘出して10mmの厚さで連続輪状切片を作製し、そのうち10切片をHE染色し、血管内径、内膜の厚さ、中膜の厚さ、内膜/中膜比を測定した。その結果図1に示すように内膜肥厚が有意に抑制していた。また、OL64を導入した場合、コントロール(LacZを導入した場合)と比較して、内膜/中膜比は有意に減少していた(図2)。
実施例11:
(動脈肥厚モデル動物への本遺伝子の投与 血管での遺伝子発現解析)
i)(RNAの調製)
実施例10で採取したラット血管からtotalRNAを調製した。具体的には採取した血管にTRIZOL(Gibco-BRL社製)を添加し、ホモゲナイザーでつぶしてからtotalRNAを調製した。なお、totalRNAの調製はTRIZOLを用いて添付のプロトコールにしたがって実施した。得られたtotalRNAはDEPC処理水(ナカライテスク社製)に溶解した。
ii)(RT−PCRのためのcDNAの調製)
得られたtotal RNA 10μg、T7-(dT)24プライマー(Amersham社製) 100pmolを含む11μLμlの混合液を、70℃、10分間加熱後、氷上で冷却した。冷却後、当該混合液に、SuperScript Choice System for cDNA Synthesis(Gibco-BRL社製)に含まれる5×First Strand cDNA Buffer 4uLμl、該キットに含まれる0.1M DTT 2μLμl及び当該キットに含まれる10mM dNTP Mix 1μLμlを添加し、この混合液を42℃、2分間加熱した。更に、当該混合液に、当該キットに含まれるSuper ScriptII RT 2μLμl(400U)を添加し、この混合液を42℃、1時間加熱後、氷上で冷却した。冷却後、当該混合液にDEPC処理滅菌蒸留水91μLμl、当該キットに含まれる5×Second Strand Reaction Buffer 30μLμl、10mM dNTP Mix 3μLμl、当該キットに含まれるE. coli DNA Ligase 1μLμl(10U)、当該キットに含まれるE. coli DNA Polymerase I 4μLμl(40U)及び当該キットに含まれるE. coli RNaseH 1μLμl(2U)を添加し、この混合液を16℃、2時間反応させた。次いで、当該混合液に当該キットに含まれるT4 DNA Polymerase 2μLμl(10U)を加え、この混合液を16℃、5分間反応させた後、当該混合液に0.5M EDTA 10μLμlを添加した。次いで、この混合液にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液(ニッポンジーン社製)162μLμlを添加し、混合した。当該混合液を、予め室温、14,000rpm、30秒間遠心分離しておいたPhase Lock Gel Light(エッペンドルフ社製)に移し、これを室温、14,000rpm、2分間遠心分離した。遠心分離後、145μLμlの水層をエッペンドルフチューブに回収した。回収された水層に、7.5M酢酸アンモニウム溶液72.5μLμl及びエタノール362.5μLμlを加え混合した後、この混合液を4℃、14,000rpm、20分間遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、DNAペレットを得た。その後、DNAペレットに80%エタノール0.5mLを添加した。この混合液を4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨て、DNAペレットを再び得た。得られたDNAペレットに再度80%エタノール0.5mLを添加した。この混合液を4℃、14,000rpm、5分間遠心分離した後、上清を捨て、DNAペレットを得た。得られたDNAペレットを乾燥させた後、DEPC処理滅菌蒸留水12μLμlに溶解することにより、cDNA溶液を得た。
iii)(RT−PCR)
RT-PCR法を利用する場合は、調製したRNAを鋳型として調製したcDNAを鋳型として各種遺伝子をコードする塩基配列領域が特異的に増幅できるように、一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)を設計し、通常の方法で合成する。合成したプライマーを用いてSYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems 社製)を用いてプロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7900 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて該反応物を検出、定量した。
その結果、図3に示すように内膜肥厚促進因子であるMCP1およびPDGFおよびその受容体であるPDGF-βRのいずれの遺伝子の発現も抑制されていた。
実施例12:
(ヒト大動脈血管平滑筋細胞の増殖抑制活性測定)
ヒト大動脈血管平滑筋細胞(HASMC)(クラボウ社製)を24wellあたり1x104まき、2%ウシ胎児血清(以下、FBSと記す。)、100mg/dL D-グルコース、0.5ng/mLヒトEGF、2ng/mL ヒトFGF、5ug/mLインスリン、50ug/mL ゲンタマイシン、50ng/mL amphotericinBを含有するHuMdia-EG2培地(クラボウ社製)にて培養し、37℃、5%二酸化炭素条件下で24時間培養した。その細胞に実施例10で作製したマウスMO64アデノウイルス25 moi/107 cells 量あるいは実施例8で調製したhMO64タンパクを100ng/mL添加し、24時間後に細胞増殖能を5-bromo-2'-doxyuridine(BrdU)ELISA キット(Roche社製)にて測定した。また添加9日後にコールターカウンターモデルZ1(Beckman社製)にて細胞数を測定した。その結果、図4に示されるようにアデノウイルス感染および精製タンパク添加いずれも場合もインスリンあるいはPDGFによる細胞増殖を抑制し、細胞数の低下が認められた。
実施例13:
(形質転換非ヒト動物の作製:形質転換マウスの作製)
i)導入遺伝子断片の調製
実施例4で調製されたマウスMO64遺伝子を、マウスaP2プロモーター領域(約5.4kb)を有するプラスミド(Shimomura, I. et al., Genes & Developmemt, 12, 3182(1998))に挿入することにより、プラスミドpBlueSK/maP2pro/mMO64/polyAを得た。
得られたpBlueSK/maP2pro/mMO64/polyAをHindIII及びNotIで消化することにより、マウスaP2プロモーター領域、マウス由来の本遺伝子及びSV40EポリAを含む断片(約7.1kb)を約5μg取得した(以下、本導入遺伝子と記す。)。本導入遺伝子を10mMトリス−塩酸(pH8.5)、1mM EDTA・2Na(pH8.5)で0.1μg/μlとなるように調製することで本導入遺伝子調製液を得た。
i)受精卵の採取
C57BL/6J系の雌性及び雄性のマウス(8週齢以上)を用い、5単位の妊馬血清性ゴナドトロピンとヒト繊毛性ゴナドトロピンとの両者の腹腔内投与により過剰排卵を惹起し、体外受精によって前核期受精卵を得た。該受精卵は、卵丘細胞などを除去するために、mWM培地(5.14g/L NaCl、0.36g/L KCl、0.16g/L KH2PO4、0.53g/L 乳酸Ca・5H2O、0.29g/L MgSO4/7H2O、0.19g/L NaHCO3、37mg/L EDTA/2Na、1g/L グルコース、3.7ml/L 乳酸Na、35mg/L ピルビン酸Na、3g/L ウシ血清アルブミン、80mg/L ペニシリン、50mg/L ストレプトマイシン、5mg/L フェノールレッド)で洗浄した。
iii)受精卵への本導入遺伝子の注入
マイクロインジェクションシステムは、マイクロマニピュレーター装置(ライカ製)とホフマン倒立型顕微鏡(ツァイス製)から構成される。前項に記載される本導入遺伝子調製液を約500〜約1000コピー/μlに調製し、13,000rpm×3分間遠心分離することにより得られた上清を導入本遺伝子溶液とした。マイクロマニピュレーターのインジェクションチャンバー内で、前項ii)に記載される受精卵を支持ピペットで固定し、注入用ピペットに入れた前記の本導入遺伝子調製液を雄性前核に約2μl注入した。注入後、mWM培地で5%CO2存在下、37℃で12〜16時間培養した。2細胞期に発生した胚を仮親の卵管に移植した。
iv)受精卵の仮親への移植
前項iii)に記載される胚を、予め、移植用に準備した同系の偽妊娠状態の雌性マウスの左右の卵管に1匹あたり20〜25個注入した。
v)形質転換マウスの選抜
受精卵を移植した雌マウスから、約3週間後に仔を得た。仔が6週齢程度になったら尾の一部を切り取って染色体DNAを抽出し、抽出されたDNA中に本導入遺伝子由来の断片が存在するかについてPCR法により調べた。染色体DNAは通常の方法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)により抽出した。得られた染色体DNA5ngを鋳型として、配列番号15と配列番号16に示される塩基配列からなるDNA各10pmolをプライマーとして、ExTaqポリメラーゼ2.5ユニット(タカラバイオ製)を用いて、94℃で2分間、58℃で2分間、72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを1サイクル、次に94℃で1分間、58℃で1分間、72℃で1分間の保温を1サイクルとしてこれを55サイクル、最後に72℃で5分間保温の条件でPCR反応を行う。当該反応により得られるPCR反応産物をアガロースゲル電気泳動に供する。目的断片が確認された個体を、染色体中に本導入遺伝子が挿入された形質転換マウス(以下、本形質転換マウスと記す。)であると判断した。
vi)本導入遺伝子コピー数の解析
次に、本形質転換マウスにおける本導入遺伝子のコピー数について、通常のサザンブロッティング法(例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載されている方法)により調べた。前項で得られたプラスミドpBlueSK/maP2pro/mMO64/polyAを BamHIで消化する。得られる約0.7Kbの断片を市販の放射能標識キット(Random Prime Labeling Kit、ベーリンガーマンハイム製)を用いて添付のプロトコールに従って32P標識し、検出プローブとして使用した(以下、本検出プローブと記す。)。本検出プローブは100℃で10分加熱した後に急冷して使用する。前項に記載される方法に従って抽出した染色体DNAをEcoRI、BamHI、HindIIIなどの制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動する。電気泳動後のゲルを1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液(以下、10×SSCと記す。)で洗浄した後、市販のナイロンメンブランHybond−N(アマシャムファルマシア製)にキャピラリー法でブロッティングする。該メンブランをポリエチレン袋に入れ、変性サケ精子DNAを100μg/mlとなるように添加したDIG EASY Hyb溶液(ベーリンガーマンハイム製)を加えて、50℃で2時間保温した。袋内の溶液を除去し、新たに、変性サケ精子DNAを100μg/mlとなるように添加したDIG EASY Hyb溶液2〜3mlを注入した。さらに、本検出プローブ1ml以下を添加し、50℃で約15時間保温する。保温後、メンブランを取り出して、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム(以下、SDSと記す。)を含む、10×SSCを5倍に希釈した溶液中で室温下15分間保温する。メンブランを取り出し、新たな10×SSCを5倍に希釈した溶液中で保温する操作をさらに1〜2回繰り返した。さらに、0.1%SDSを含む、10×SSCを100倍に希釈した溶液中で、50〜68℃、30分間保温する。メンブランを取り出し、余分な水分を除去した後、イメージングプレート(BAS3−2040。富士フィルム製)を露光させる。露光後のイメージングプレートをイメージアナライザー(フジフィルム製)で分析し、メンブラン上のシグナルを検出した。
本導入遺伝子を導入しないマウス(以下、本野生型マウスと記す。)の染色体DNAを用いること以外は前記と同様にサザンブロッティング法を行い、メンブレン上のシグナルを検出する。本形質転換マウスと本野生型マウスのシグナルを比較し、本形質転換マウスにのみ検出されるシグナルの強度から、本遺伝子の導入コピー数の多少を評価した。
本発明は、動脈肥厚抑制活性や血管平滑筋の増殖抑制活性を有することを特徴とする動脈硬化を伴う疾患の治療剤もしくは予防剤、動脈肥厚抑制活性の検定方法、及び当該検定方法を用いる動脈硬化治療もしくは予防剤の探索方法として有用である。
アデノウイルスベクターを用いて糖尿病ラットの内頚動脈擦過部位にOL64遺伝子を導入した(Vaspin−AD)。コントロールとしてLacZ遺伝子を導入した(LacZ)。LacZ遺伝子の導入効率は、βGal染色で青く染色されることによって確認された(A、Cの濃い色の部位)。またOL64遺伝子の導入効率に関しては、OL64抗体を用いた免疫染色(B、Dの濃い色の部位)で確認した。内頚動脈擦過により内膜の肥厚がもたらされる(Eの矢印の部位)、OL64遺伝子の導入により内膜の肥厚が有意に抑制されていることがわかる(Fの矢印の部位)。 OL64遺伝子の導入により内膜の肥厚が有意に抑制されていることを、内膜/中膜比で示した図である。 内膜肥厚に関与するケモカイン、MCP−1、増殖因子とその受容体であるPDGF−B及びPDGF−βRの遺伝子発現が、OL64の導入により有意に抑制されたことを示す図である。 細胞数の計測及びBrdUアッセイによって、ヒト大動脈血管平滑筋細胞に対する細胞増殖抑制を測定した結果を示す図である。すなわち、OL64アデノウイルスベクター(O、及びP)、OL64リコンビナント蛋白質(Q、及びR)いずれの添加によっても、インスリンやPDGFの添加によってもたらされる増殖促進が有意に抑制された。なお、VaspinはOL64を表す。
配列番号7:PCR用プライマー
配列番号8:PCR用プライマー
配列番号9:PCR用プライマー
配列番号10:PCR用プライマー
配列番号11:PCR用プライマー
配列番号12:PCR用プライマー
配列番号13:PCR用プライマー
配列番号14:PCR用プライマー

Claims (12)

  1. OL64又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤。
  2. 動脈肥厚抑制活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
  3. 動脈肥厚抑制活性が、血管平滑筋の増殖抑制活性である、請求項2に記載の治療剤又は予防剤。
  4. OL64又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、血管平滑筋の増殖抑制剤。
  5. OL64又はOL64をコードする遺伝子を有効成分として含有する、動脈肥厚抑制剤。
  6. OL64が、以下の(a)〜(e)のいずれかのタンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の剤:
    (a)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
    (b)配列番号2で示されるアミノ酸配列における第22番目のアミノ酸から第414番目のアミノ酸で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
    (c)前記(b)のアミノ酸配列において、そのアミノ末端にメチオニンが付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質、
    (d)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質、及び
    (e)以下の(i)〜(iv):
    (i)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が欠失、
    付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列、
    (ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
    (iii)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAと80%以上の配列同一性を有する塩基配列を有するDNAによりコードされるアミノ酸配列、及び
    (iv)配列番号1で示される塩基配列における第224番目のヌクレオチドから第1465番目までのヌクレオチドで示される塩基配列を有するDNAに対し相補性を有するDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされ、アミノ酸配列、
    から選択されるアミノ酸配列からなり、かつ動脈肥厚を抑制する活性を有するタンパク質。
  7. 被験物質が、OL64又はOL64をコードする遺伝子の発現を促進するか否かを指標とし、当該発現を促進する場合に、被験物質が動脈肥厚抑制活性を有すると評価することを特徴とする、被験物質の動脈肥厚抑制活性の検定方法。
  8. 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
    (1)被験物質と、OL64をコードする遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
    (2)被験物質を接触させた細胞における、前記遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
    (3) 前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記遺伝子の発現量を増加させた場合に、被験物質が動脈肥厚抑制活性を有すると評価する第三工程。
  9. 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
    (1)被験物質と、OL64を発現可能な細胞とを接触させる第一工程、
    (2)被験物質を接触させた細胞における、前記蛋白質の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記蛋白質の発現量と比較する第二工程、及び
    (3)前記第二工程の比較結果に基づいて、被験物質が前記蛋白質の発現量を増加させた場合に、被験物質が動脈肥厚抑制活性を有すると評価する第三工程。
  10. 下記の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする、請求項に記載の動脈肥厚抑制活性の検定方法:
    (1)被験物質とOL64をコードする遺伝子の発現制御領域を機能可能な形で連結されてなるレポーター遺伝子を含有する細胞とを接触させる第一工程、
    (2)被験物質を接触させた細胞における、前記レポーター遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質に接触させない対照細胞における前記遺伝子の発現量と比較する第二工程、及び
    (3)前記第二工程の比較結果に基づいて、前記レポーター遺伝子の発現量を増加させた場合に、被験物質が動脈肥厚抑制活性を有すると評価する第三工程。
  11. 動脈肥厚抑制活性が、血管平滑筋の増殖抑制活性である、請求項10のいずれかに記載の検定方法。
  12. 請求項10のいずれかに記載の検定方法により測定された被験物質の動脈肥厚抑制活性を指標として、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤の候補物質を選別することを特徴とする、動脈硬化を伴う疾患の治療剤又は予防剤の探索方法。
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