JP5075660B2 - 路面摩擦係数推定装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を基に、精度良く路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置に関する。
近年、車両においてはトラクション制御,制動力制御,あるいはトルク配分制御等について様々な制御技術が提案され、実用化されている。これらの技術では、必要な制御パラメータの演算、あるいは、補正に路面摩擦係数を用いるものも多く、その制御を適切に実行するためには、正確な路面摩擦係数を推定する必要がある。
例えば、特開2003−237558号公報では、4輪の平均車輪速度を車体速度として求め、この車体速度を微分して車両の前後加速度として演算し、主ブレーキ制動時に動力配分制御装置の油圧多板クラッチの締結を解放方向にさせ、後輪の車輪速度と前輪の車輪速度の差を前輪の車輪速度で除してすべり速度差変数(前後輪すべり率差)を演算し、車両の前後加速度、すべり速度差変数を基に、予め設定しておいたマップを基に路面状態を推定する技術が開示されている。
特開2003−237558号公報
しかしながら、上述の特許文献1に開示される技術では、車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係は、例えば、図7に示すようになることが一般的に知られており、前後輪すべり率差の小さな領域では誤差が多くなり精度の良い路面摩擦係数が推定できないという課題がある。また、前後輪すべり率差は、前輪車輪速と後輪車輪速との差を車体速で除して演算されるため、車体速が小さくなると、やはり誤差が大きくなり、精度の良い値が推定できないという問題がある。そして、このような誤差を多く含む路面摩擦係数の値を車両の各種制御に利用すると、安定して適切な制御が行えなくなる虞がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係から路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置において、精度の良い路面摩擦係数推定値を適切に出力し、安定して適切な車両制御を行えるようにする路面摩擦係数推定装置を提供することを目的とする。
本発明は、車両が走行している路面の路面摩擦係数を定する路面摩擦係数定装置において、各車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、車両の車速を検出する車速検出手段と、車両の車体減速度を検出する車体減速度検出手段と、上記車輪速と上記車速を基に、前輪のすべり率と後輪のすべり率との差を前後輪すべり率差として検出する前後輪すべり率差検出手段と、車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を予め記憶しておく記憶手段と、上記車体減速度検出手段で検出した車体減速度と上記前後輪すべり率差検出手段で検出した前後輪すべり率差とに基づいて上記記憶手段から路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数設定手段と、上記車速が予め設定した閾値以下の場合に上記路面摩擦係数の推定を禁止する禁止手段とを備え、上記路面摩擦係数設定手段は、少なくとも車体減速度に応じた前後輪すべり率差基準値を有し、上記検出した車体減速度に対する上記検出した前後輪すべり率差が上記前後輪すべり率差基準値より小さいときに路面摩擦係数が高いことを判定し、上記禁止手段で用いる上記予め設定した閾値は、上記前後輪すべり率差基準値を上記車輪速検出手段で検出することができる車速以上に設定されることを特徴としている。
本発明による路面摩擦係数推定装置によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)禁止手段で車速により路面摩擦係数の設定の実行条件を規定することで、前後輪すべり率差の小さな領域で車速が低いことにより生じる誤差の影響が排除でき、また、前後輪すべり率差が前輪車輪速と後輪車輪速との差を車速で除して演算されることから、車速が低くなり、車輪速センサの分解能の影響で路面摩擦係数の値の精度が悪化することも有効に防止される。
(2)また、路面摩擦係数設定手段は、路面摩擦係数が高い時とそれより低い時とを判別するための、車体減速度に応じた前後輪すべり率差基準値を有する。そして、禁止手段による車速の閾値を、その前後輪すべり率差基準値を車輪速センサで検出することができる車速以に設定する。これにより路面摩擦係数が高い時は前後輪すべり率差が低くなるため、路面摩擦係数の設定には最低でも路面摩擦係数が高いことを判別するための前後輪すべり率差(前後輪すべり率差基準値)を検出できるだけの車速が要求される。したがって、最低でも車速の閾値をこの前後輪すべり率差路基準値を車輪速センサで検出できるだけの車速に設定することで、路面摩擦係数の値を精度良く設定することができる。具体的には車速の閾値、を予め分かっている車輪速センサの分解能と前後輪すべり率差基準値とを基に、車輪速センサの分解能を前後すべり率差基準値で除すことで求められる。
このように本発明によれば、車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係から路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置において、精度の良い路面摩擦係数推定値を適切に出力し、安定して適切な車両制御を行うことが可能となる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図6は本発明の実施の一形態を示し、図1は路面摩擦係数推定装置の構成を示す機能ブロック図、図2は路面摩擦係数推定プログラムのフローチャート、図3は図2から続くフローチャート、図4は車両の旋回を2輪車モデルで示す説明図、図5は前後輪すべり率差とステアリング舵角の関係を示す説明図、図6は車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を示す説明図である。
まず、本実施形態にかかる路面摩擦係数推定装置のシステム構成及びシステム処理の説明に先立ち、推定の概念について説明する。この路面推定は、車輪と路面との間のグリップ状態を、すべり率差Sfrに基づいて判定する。ここで、「すべり率差Sfr」とは、以下(1)式のように「前輪のすべり率Sf」と「後輪のすべり率Sr」との差をいう。
Sfr=Sf−Sr…(1)
ある車輪に関するすべり率Sは、車輪速度vと車体速度Vbとの差と、車体速度Vbとの比で表され、その値が正となるように定義される。このすべり率Sは、(2)式に示す基本式により一義的に算出される。
S=(v−Vb)/Vb(もしくは、S=(Vb−v)/Vb)…(2)
左右の前輪、左右の後輪をそれぞれ一つの車輪と見なし、前輪の車輪側をvf、後輪の車輪速をvrと定義した場合、(1)式は(2)式に基づいて、以下に示す(3)式に書き換えることができる。
Sfr=(vf−vr)/Vb…(3)
図1において、符号1は車両に搭載され、路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数推定装置を示し、この路面摩擦係数推定装置1には、制御部2に、車輪速検出手段としての4輪の車輪速センサ3、ハンドル角センサ4、アクセル開度センサ5、ブレーキペダルスイッチ6等のセンサ、スイッチ類が接続され、4輪車輪速ωfl(左前輪車輪速)、ωfr(右前輪車輪速)、ωrl(左後輪車輪速)、ωrr(右後輪車輪速)、ハンドル角(ステアリング舵角)θH、アクセル開度θACC、ブレーキの作動信号が入力される。
また、車両には、駆動輪のスリップ状態またはスリップしそうな状態となった場合に駆動力を低減する公知のトラクションコントロール装置7、制動時における制動力を制御して車輪のロック状態の発生を防止する公知のアンチロックブレーキシステム(ABS;Anti-lock Brake System)8、車両の横すべりの挙動を防止する横滑防止装置9が搭載されており、これらの作動信号も制御部2に入力される。尚、上述の横滑防止装置9は、例えば、実際のヨーモーメントと、車両の運動方程式に基づいて求める目標ヨーモーメントとを比較して、現在の車両の運転状態がアンダーステア傾向の場合には、旋回内側後輪に所定の制動力を付加し、オーバーステア傾向の場合には、旋回外側前輪に所定の制動力を付加することにより車両の横滑りを防止するものとなっている。
そして、路面摩擦係数推定装置1の制御部2は、上述の各入力信号に基づき、後述する路面摩擦係数推定プログラムを実行し、路面摩擦係数を設定して出力する(路面摩擦係数設定値μnを出力する)。すなわち、制御部2は、図1に示すように、速度演算部2a、減速度演算部2b、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2c、前後輪すべり率差演算部2d、路面摩擦係数瞬間値演算部2e、路面判定実行条件判定部2f、路面摩擦係数設定部2gから主要に構成されている。
速度演算部2aは、4輪車輪速センサ3から各車輪の車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrrが入力され、以下の(4)式により前輪車輪速Vf、以下の(5)式により後輪車輪速Vrを演算し、この後輪車輪速Vrを擬似車体速Vとして設定する。
Vf=(ωfl+ωfr)/2 …(4)
Vr=V=(ωrl+ωrr)/2 …(5)
そして、車体速Vは、減速度演算部2b、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2c、前後輪すべり率差演算部2dに出力され、前輪車輪速Vfと後輪車輪速Vrは、前後輪すべり率差演算部2dに出力される。このように、速度演算部2aは、車速検出手段として設けられている。
減速度演算部2bは、速度演算部2aから車体速Vが入力され、この車体速Vを微分処理することにより、車体減速度Gxを演算し、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2c、路面摩擦係数瞬間値演算部2e、路面判定実行条件判定部2f、路面摩擦係数設定部2gに出力する。このように、減速度演算部2bは、車体減速度検出手段として設けられている。
前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cは、ハンドル角センサ4からステアリング舵角θHが、アクセル開度センサ5からアクセル開度θACCが、速度演算部2aから車体速Vが、減速度演算部2bから車体減速度が入力される。
そして、以下の4つの条件の1つでも満足する場合は、前後輪すべり率差演算部2dにおける前後輪すべり率差dsの演算、及び、路面摩擦係数設定部2gにおける車体減速度Gx−前後輪すべり率差ds−路面摩擦係数μの関係を用いた新たな路面摩擦係数μnの推定に適さないと判定する。この判定結果の信号は、前後輪すべり率差演算部2d、路面摩擦係数設定部2gに出力される。
・条件1…V≦Vc(例えば、30km/h)
・条件2…|θH|≧θH1(例えば、60deg)
・条件3…θACC≧θACC1(例えば、0%)
・条件4…Gx≧Gxc1(例えば、4m/s
ここで、上述の各条件について説明する。まず、条件1について説明する。
本実施の形態では、路面摩擦係数瞬間値演算部2eにおいて、前後輪すべり率差dsの基準値として、前後輪すべり率差dsが、例えば0.006(0.6%)以下の時を、路面摩擦係数が0.75以上の高μ値と判断している。従って、車輪速情報は、0.006(0.6%)の前後輪すべり率差dsを検出できるだけの精度を有している必要がある。4輪車輪速センサ3により検出される車輪速の分解能が、例えば0.05とすると、次式から、路面判定が可能な最低車速(車速閾値)Vcが求められる。
Vc=0.05/0.006=8.3(km/h) …(6)
また、路面摩擦係数の推定中(例えば、800msの時間がかかると推定)の車速低下や、その他の誤差等を考慮し、前後輪すべり率差dsの演算、路面摩擦係数μnの推定を行う車速閾値をVc=30km/hと設定する。
尚、上述の(6)式からも明らかなように、4輪車輪速センサ3により検出される車輪速の分解能が更に粗くなる場合や、前後輪すべり率差dsの基準値をより小さな値にする場合は、車速閾値Vcは、より大きな値に設定する必要がある。
次に、条件2について、図4を基に説明する。
前後輪の速度差は操舵を行っても発生する。操舵による前後輪速度比が最も大きくなるのは低速走行時であるから、アッカーマンジオメトリによりロジックが動作可能な舵角範囲を求める。図4において、前輪車輪速Vf=Rf・ω、後輪車輪速Vr=Rr・ωであるから、前後輪すべり率差dsは次式で求められる。
ds=(Vf−Vr)/Vr=(Rf・ω−Rr・ω)/Rr・ω
=(Rf−Rr)/Rr=Rf/Rr−1
=(1/cos(δf))−1 …(7)
ここで、δfは前輪舵角であり、δf=θH/n(nはステアリングギヤ比:例えば16.5)である。この(7)式で得られる特性を、図5に示す。
上述の(7)式において、前後輪すべり率差dsが基準値である前述の0.006(0.6%)以下となるステアリング舵角θH2を逆算すると、θH2=105(deg)となる。すなわち、105(deg)程度操舵すると、0.006(0.6%)の閾値を越えることがわかる。外乱等を考慮すると実際の操舵閾値は、更に小さな角度に設定する必要があり、本実施の形態では、ステアリング舵角の絶対値|θH|がθH1=60(deg)よりも大きい場合(前後輪すべり率差dsが0.001(0.1%)に相当する場合)は、前後輪すべり率差dsの演算、路面摩擦係数μnの推定を行わないように設定する。
次に、条件3について説明する。
主ブレーキ制動中に駆動力をかけた場合、前後輪すべり率差dsが乱れ、判定不可能となる虞があるため、本実施の形態では、アクセル開度θACCがθACC1(例えば、0%)より大きいときは、前後輪すべり率差dsの演算、路面摩擦係数μnの設定を行わないように設定する。
次に、条件4について説明する。
車体減速度Gxが大きくなると、車体減速度Gxと前後輪すべり率差dsの関係が非線形となる。また、車体減速度Gxが小さな領域でのみロジックを作動させようとすると、判定精度の低下が懸念される。従って、本実施の形態では、車体減速度GxがGxc1(例えば、4m/s)以上の場合に前後輪すべり率差dsの演算、路面摩擦係数μnの設定を行わないように設定する。
このように、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cは、禁止手段として設けられている。
前後輪すべり率差演算部2dは、速度演算部2aから車体速V、前輪車輪速Vf、後輪車輪速Vrが入力され、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cから前後輪すべり率差dsの演算を行うか否かの判定結果の信号が入力される。そして、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cから前後輪すべり率差dsの演算を行うとの判定結果の際に、(3)式を基とした以下の(8)式により前後輪すべり率差dsを演算し、路面摩擦係数瞬間値演算部2eに出力する。すなわち、前後輪すべり率差演算部2dは、前後輪すべり率差検出手段として設けられている。
ds=|Vf−Vr|/V …(8)
路面摩擦係数瞬間値演算部2eは、減速度演算部2bから車体減速度Gxが、前後輪すべり率差演算部2dから前後輪すべり率差dsが入力される。そして、予め記憶しておいた車体減速度Gxと前後輪すべり率差dsと路面摩擦係数μの関係を示すマップを参照し、一時的に路面摩擦係数(本実施の形態では、路面摩擦係数瞬間値と呼ぶ)μMを設定し、この路面摩擦係数瞬間値μMを路面摩擦係数設定部2gに出力する。このように、路面摩擦係数瞬間値演算部2eは記憶手段として設けられており、路面摩擦係数設定部2gと共に路面摩擦係数設定手段として設けられている。
尚、予め記憶しておいた車体減速度Gxと前後輪すべり率差dsと路面摩擦係数μの関係を示すマップは、例えば、図6に示すように、横軸を車体減速度Gxとし、縦軸を前後輪すべり率差dsとしたマップであり、車体減速度Gxが小さくなる高μ値の側の上述の0.006(0.6%)の値に、路面摩擦係数が0.75となる直線(基準値)が予め実験等により求め設定されている。また、実験等により、路面摩擦係数が0.4となる所定の傾きを有する直線が基準として定められており、これらの基準線を基に、その中間の領域の路面摩擦係数の値が補間計算により推定されるようになっている。
路面判定実行条件判定部2fは、ブレーキペダルスイッチ6からブレーキのON−OFF信号が入力され、減速度演算部2bから車体減速度Gxが入力される。そして、ブレーキがONで、且つ、車体減速度GxがGxc2(例えば、0.5m/s)以上の状態が、一定時間(例えば、800ms)継続しているか否か判定され、一定時間継続している場合には、今回の路面摩擦係数の推定値は、安定した条件の下で推定された精度の良い値であると判定し、今回の推定値の採用を許可する信号を路面摩擦係数設定部2gに出力する。
路面摩擦係数設定部2gは、トラクションコントロール装置7、ABS8、横滑防止装置9からそれぞれの作動信号が入力され、減速度演算部2bから車体減速度Gxが入力され、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cから判定結果の信号が入力され、路面摩擦係数瞬間値演算部2eから路面摩擦係数瞬間値μMが入力され、路面判定実行条件判定部2fから今回の推定値の採用の判定結果の信号が入力される。そして、トラクションコントロール装置7、ABS8、横滑防止装置9の何れかの装置が作動している場合には、今回の路面摩擦係数μnを低μの値(例えば、0.3)として設定して出力する。
また、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cからの判定結果が設定を実行せず、或いは、路面判定実行条件判定部2fからの判定結果が設定を実行せずの場合には、前回の路面摩擦係数μn-1を今回の路面摩擦係数μnとして設定して出力する。
更に、トラクションコントロール装置7、ABS8、横滑防止装置9の何れも動作しておらず、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2c及び路面判定実行条件判定部2fからの判定結果が実行許可の場合には、路面摩擦係数瞬間値μMがμMH(例えば、1.0)以上で、且つ、車体減速度GxがGXH(例えば、2.0m/s)以上の場合、或いは、路面摩擦係数瞬間値μMがμMM(例えば、0.75)以上で、且つ、車体減速度GxがGXM(例えば、1.3m/s)以上の場合、或いは、路面摩擦係数瞬間値μMがμML(例えば、0.3)以上で、且つ、車体減速度GxがGXL(例えば、0.5m/s)以上の場合は、今回の路面摩擦係数μnを路面摩擦係数瞬間値μMで更新する。μMH>μMM>μML、GXH>GXM>GXLである(図6参照)。すなわち、制動力(=車体減速度)が大きいほど、前後輪の車輪速差が大きくなり路面判定の精度が向上する。しかしながら、これを考慮して大きな制動力を判定開始の条件とすると、路面判定の頻度が低下する。本実施の形態では、応答性と精度の両立を図るため、路面摩擦係数瞬間値μM毎に応じた判定開始の減速度閾値を設定しているのである。
次に、上述の路面摩擦係数推定装置1の制御部2で実行される路面摩擦係数推定プログラムを、図2、図3のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要パラメータ、すなわち、4輪車輪速ωfl、ωfr、ωrl、ωrr、ステアリング舵角θH、アクセル開度θACC、ブレーキのON−OFF信号、トラクションコントロール装置7、ABS8、横滑防止装置9それぞれの作動信号を読み込む。
次に、S102に進み、前回の路面摩擦係数μn-1が読み込まれる。尚、前回の路面摩擦係数μn-1の初期値としては、中μの値として、例えば、0.7が読み込まれる。
次いで、S103に進み、速度演算部2aで、前述の(4)式、(5)式により、前輪車輪速Vf、後輪車輪速Vr、擬似車体速Vを演算する。
次に、S104に進み、減速度演算部2bで、車体速Vを微分処理することにより、車体減速度Gxを演算する。
次いで、S105に進み、路面摩擦係数設定部2gは、トラクションコントロール装置7、ABS8、横滑防止装置9の何れかが作動しているか否か判定し、作動している場合には、S106に進んで、今回の路面摩擦係数μnを低μの値(例えば、0.3)として設定し(μn←0.3)、S126へと進む。
また、何れも作動していない場合は、S107へと進む。S107〜S110の処理は、前後輪すべり率差演算実行条件判定部2cで実行される処理であり、S107では、車体速Vと車速閾値Vc(例えば、30km/h)との比較が行われ、V>Vcの場合は、S108に進む。
S108では、ステアリング舵角の絶対値|θH|と操舵閾値θH1(例えば、60deg)との比較が行われ、|θH|<θH1の場合は、S109に進む。
S109では、アクセル開度θACCとアクセル開度の閾値θACC1(例えば、0%)との比較が行われ、θACC<θACC1の場合は、S110に進む。
S110では、車体減速度Gxと車体減速度の閾値Gxc1(例えば、4m/s)との比較が行われ、Gx<Gxc1の場合は、S111に進む。
一方、S107でV≦Vc、或いは、S108で|θH|≧θH1、或いは、S109でθACC≧θACC1、或いは、S110でGx≧Gxc1の場合は、前後輪すべり率差dsの演算、路面摩擦係数μnの推定を行わずS114に進んで、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値に設定し(μn←μn-1)、S126へと進む。
上述のS110からS111に進むと、前後輪すべり率差演算部2dは、前述の(8)式により、前後輪すべり率差dsを演算する。
次いで、S112に進み、路面摩擦係数瞬間値演算部2eは、予め記憶しておいた車体減速度Gxと前後輪すべり率差dsと路面摩擦係数μの関係を示すマップを参照し、路面摩擦係数瞬間値μMを設定する。
次に、S113に進み、路面判定実行条件判定部2fで、ブレーキがONで、且つ、車体減速度GxがGxc2(例えば、0.5m/s)以上の状態が、一定時間(例えば、400ms)継続しているか否か判定され、一定時間継続している場合には、今回の路面摩擦係数の推定値は、安定した条件の下で推定された精度の良い値であると判定し、S115に進み、上記条件が成立していない場合は、S114に進んで、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値に設定し(μn←μn-1)、S126へと進む。
S113で上述の条件が成立し、S115に進むと、路面摩擦係数設定部2gで、路面摩擦係数瞬間値μMと、路面摩擦係数瞬間値の閾値μMH(例えば、1.0)とが比較される。この比較の結果、路面摩擦係数瞬間値μMがμMH以上(μM≧μMH)の場合は、S116に進み、車体減速度Gxと車体減速度の閾値GXH(例えば、2.0m/s)とを比較し、車体減速度GxがGXH以上(Gx≧GXH)の場合はS117に進み、今回の路面摩擦係数μnを路面摩擦係数瞬間値μMで更新し(μn←μM)、S126に進む。また、車体減速度GxがGXHよりも小さい(Gx<GXH)場合はS118に進み、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値に設定し(μn←μn-1)、S126へと進む。
また、上述のS115の判定の結果、路面摩擦係数瞬間値μMがμMHより低い(μM<μMH)場合は、S119に進み、路面摩擦係数瞬間値μMと、路面摩擦係数瞬間値の閾値μMM(例えば、0.75)とが比較される。この比較の結果、路面摩擦係数瞬間値μMがμMM以上(μM≧μMM)の場合は、S120に進み、車体減速度Gxと車体減速度の閾値GXM(例えば、1.3m/s)とを比較し、車体減速度GxがGXM以上(Gx≧GXM)の場合はS121に進み、今回の路面摩擦係数μnを路面摩擦係数瞬間値μMで更新し(μn←μM)、S126に進む。また、車体減速度GxがGXMよりも小さい(Gx<GXM)場合はS122に進み、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値に設定し(μn←μn-1)、S126へと進む。
また、上述のS119の判定の結果、路面摩擦係数瞬間値μMがμMMより低い(μM<μMM)場合は、S123に進み、路面摩擦係数瞬間値μMと、路面摩擦係数瞬間値の閾値μML(例えば、0.3)とが比較される。この比較の結果、路面摩擦係数瞬間値μMがμML以上(μM≧μML)の場合は、S124に進み、車体減速度Gxと車体減速度の閾値GXL(例えば、0.5m/s)とを比較し、車体減速度GxがGXL以上(Gx≧GXL)の場合はS125に進み、今回の路面摩擦係数μnを路面摩擦係数瞬間値μMで更新し(μn←μM)、S126に進む。また、車体減速度GxがGXLよりも小さい(Gx<GXL)場合はS114に進み、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値に設定し(μn←μn-1)、S126へと進む。
上述のS106、S114、S117、S118、S121、S122、S125の何れかで今回の路面摩擦係数μnを設定し、S126に進むと、この今回の路面摩擦係数μnが出力される。
そして、S127に進み、今回の路面摩擦係数μnを前回の路面摩擦係数μn-1の値と入れ替え(μn-1←μn)、プログラムを抜ける。
以上のように設定される路面摩擦係数推定値μnは、例えば、図示しない外部表示装置に出力され、インストルメントパネルでの表示等によりドライバの注意を喚起するように用いられる。或いは、エンジン制御部、トランスミッション制御部、前後軸間或いは左右輪間の駆動力配分制御部、ブレーキ制御部(何れも図示せず)等に出力されて、各制御部における制御量の設定に寄与される。
例えば、前軸:後軸のトルク配分が、100:0〜50:50の間でトランスファクラッチにより可変できる4輪駆動車の前後駆動力配分制御に用いる場合、燃費改善と前後駆動力配分制御とを両立させる為には、高μ路では不要な後輪伝達トルクを減らし内部循環トルクを低減させる一方、低μ路では安定性を重視して所定の後輪伝達トルクを発生させる必要がある。そのため、推定した路面摩擦係数推定値μnに応じてトランスファクラッチトルクの締結力を制御し、後輪トルク配分率を連続的に変化させるようにする。
このように本実施の形態によれば、車体減速度Gxと前後輪すべり率差dsと路面摩擦係数μの関係から路面摩擦係数μを推定する路面摩擦係数推定装置において、車体速Vが車速閾値Vc以下の場合、ステアリング舵角の絶対値|θH|が操舵閾値θH1以上の場合、アクセル開度θACCがアクセル開度の閾値θACC1以上の場合、車体減速度Gxが車体減速度の閾値Gxc1以上の場合は、今回の路面摩擦係数の推定を行わず、前回の路面摩擦係数の値を出力するようになっている。そして特に、車体速Vにより路面摩擦係数の実行条件を規定していることにより、前後輪すべり率差の小さな領域で車体速Vが低いことにより生じる誤差の影響が排除でき、また、前後輪すべり率差dsが前輪車輪速Vfと後輪車輪速Vrとの差を車体速Vで除して演算されることから、車体速Vが低くなり、車輪速センサ3の分解能の影響で路面摩擦係数の値の精度が悪化することも有効に防止される。そして、信頼性の高い路面摩擦係数により様々な車両挙動制御装置等の制御を実行することにより、安定して適切な車両制御を行うことが可能となる。
また、本実施の形態では、ブレーキがONで、且つ、車体減速度GxがGxc2(例えば、0.5m/s)以上の状態が、一定時間(例えば、800ms)継続している場合に路面摩擦係数の推定を行うようになっているので、減速度がほとんど発生しない瞬間的なブレーキの際に路面摩擦係数の推定を行うことが防止でき、安定した精度の良い路面摩擦係数を推定することが可能となっている。
路面摩擦係数推定装置の構成を示す機能ブロック図 路面摩擦係数推定プログラムのフローチャート 図2から続くフローチャート 車両の旋回を2輪車モデルで示す説明図 前後輪すべり率差とステアリング舵角の関係を示す説明図 車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を示す説明図 従来技術による車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を示す説明図
符号の説明
1 路面摩擦係数推定装置
2 制御部
2a 速度演算部(車速検出手段)
2b 減速度演算部(車体減速度検出手段)
2c 前後輪すべり率差演算実行条件判定部(禁止手段)
2d 前後輪すべり率差演算部(前後輪すべり率差検出手段)
2e 路面摩擦係数瞬間値演算部(記憶手段、路面摩擦係数設定手段)
2f 路面判定実行条件判定部
2g 路面摩擦係数設定部(路面摩擦係数設定手段)
3 4輪車輪速センサ(車輪速検出手段)
4 ハンドル角センサ
5 アクセル開度センサ
6 ブレーキペダルスイッチ
7 トラクションコントロール装置
8 ABS
9 横滑防止装置

Claims (2)

  1. 車両が走行している路面の路面摩擦係数を定する路面摩擦係数定装置において、
    各車輪の車輪速を検出する車輪速検出手段と、
    車両の車速を検出する車速検出手段と、
    車両の車体減速度を検出する車体減速度検出手段と、
    上記車輪速と上記車速を基に、前輪のすべり率と後輪のすべり率との差を前後輪すべり率差として検出する前後輪すべり率差検出手段と、
    車体減速度と前後輪すべり率差と路面摩擦係数の関係を予め記憶しておく記憶手段と、
    上記車体減速度検出手段で検出した車体減速度と上記前後輪すべり率差検出手段で検出した前後輪すべり率差とに基づいて上記記憶手段から路面摩擦係数を推定する路面摩擦係数設定手段と、
    上記車速が予め設定した閾値以下の場合に上記路面摩擦係数の推定を禁止する禁止手段とを備え
    上記路面摩擦係数設定手段は、少なくとも車体減速度に応じた前後輪すべり率差基準値を有し、上記検出した車体減速度に対する上記検出した前後輪すべり率差が上記前後輪すべり率差基準値より小さいときに路面摩擦係数が高いことを判定し、上記禁止手段で用いる上記予め設定した閾値は、上記前後輪すべり率差基準値を上記車輪速検出手段で検出することができる車速以上に設定される
    ことを特徴とする路面摩擦係数推定装置。
  2. 上記禁止手段で用いる上記予め設定した閾値は、上記車輪速検出手段の分解能と上記前後輪すべり率差基準値を基に設定することを特徴とする請求項1記載の路面摩擦係数推定装置。
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