以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の位相差フィルムは、A層とB層が積層されてなることを特徴とし、該A層とB層がそれぞれ異なる符号の複屈折性をもつ樹脂からなり、剛体振り子測定機による振り子の対数減衰率の25℃から200℃までのプロファイルにおいて、A層側から測定したプロファイルのピークトップ温度Ta、B層側から測定した場合のピークトップ温度Tbが、下記式(1)を満たし、かつ、B層側から測定したピークの立ち上がり温度におけるA層側から測定した対数減衰率より、B層側から測定したピークの立ち上がり温度におけるB層側の対数減衰率を引いた対数減衰率差が0.5以下であることを特徴とする。
式(1) Ta≦Tb
剛体振り子の対数減衰率は各温度における樹脂の粘弾性についての情報を与える。
本発明では前記A層及びB層に特定の樹脂や添加剤を加えることで、ピークの立ち上がり温度・立ち上がり方、ピークトップ温度を変化させ、対数減衰率差を0.5以下に調整することができる。具体的には後に示すような樹脂・材料を使用することが好ましい。この結果、A層とB層との粘弾性が近づき、過熱延伸時の樹脂層間の追随性が上がることにより延伸時の層間はがれ、クラックが生じにくくなり、かつ各層の最適延伸条件(位相差値、ヘイズ、物性)が揃った範囲が広がり、ひび割れ、白濁といった故障のない積層位相差フィルムを作成できる。
更に、請求項6に示す位相差フィルムの製造方法では、あらかじめ前記B層を加熱延伸しておくことで樹脂内の結晶成分が溶解されて均一化され、次いでA層を塗布後再び加熱延伸した場合比較的低温でも粘弾性が上昇する為、位相差の発現しやすい低温延伸でも樹脂内に負荷が掛から無いことから光学的散乱が生じ難く、正面コントラスト、斜め方向からの視認性が良好な積層位相差フィルムが得られるものである。
剛体振り子測定は以下の手順で行うことができるが、これに限定されるものではない。
(剛体振り子測定)
一例として、(株)エー・アンド・デイ社製の剛体振り子型物性試験機(RPT3000W)を用いて測定を行う。剛体振り子はFRB100を、エッジは丸型シリンダーエッジのRBP040、試料マウントはCHB100を用い、測定は、昇温条件を30℃で10分間保持した後、6℃/分の速さで200℃までとし、振り子の制御を測定間隔6s、振り子吸着時間1sとして行う。サンプルは、測定面の裏側が試料マウントに接触するようにし、測定面に剛体振り子を直接のせる形で測定する。測定値は対数減衰率で算出されるが、さらにここでは30℃における対数減衰率を0.0、ピークトップ値が1.0となる様に規格化した値を各温度における対数減衰率として用い、各プロファイルにおけるピークの立ち上がり温度は、規格化後の対数減衰率が0.1となった温度とする。
図1に剛体振り子測定結果のグラフの一例を示す。
本発明では、上記剛体振り子測定機による振り子の対数減衰率の25℃から200℃までのプロファイルにおいて、A層側から測定したプロファイルのピークトップ温度Ta、B層側から測定した場合のピークトップ温度Tbが、前記式(1)を満たし、かつ、B層側から測定したピークの立ち上がり温度におけるA層側から測定した対数減衰率より、B層側から測定したピークの立ち上がり温度におけるB層側の対数減衰率を引いた対数減衰率差が0.5以下であることを特徴とする。
最初に本発明の積層位相差フィルムにおいて、A層を塗工する基材フィルムとして好ましく用いられるB層の構成から説明する。
《B層の構成》
本発明のB層は正の複屈折性樹脂を含有することが好ましく、即ち延伸時に延伸方向と平行方向に遅相軸を有する樹脂を含有することが好ましい。
また、透明性が高く熱可塑性のあるものが好ましく、複数の材料を含んだ混合物でもよい。具体的には、熱可塑性樹脂として、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等のセルロースエステル系樹脂、ポリノルボルネン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂や、これらの混合物等が挙げられる。特に本発明に係るB層は、セルロースエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、オレフィン系樹脂、及びポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなることが好ましい。
〈セルロースエステル系樹脂〉
セルロースエステル系樹脂(以下、セルロースエステルともいう)としては、特に限定はされず、例えば芳香族カルボン酸エステル等も用いられるが、光学特性等の得られるフィルムの特性を鑑みると、セルロースの低級脂肪酸エステルを使用するのが好ましい。
セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が5以下の脂肪酸を意味し、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースピバレート等がセルロースの低級脂肪酸エステルの好ましいものとして挙げられる。
炭素原子数が6以上の脂肪酸で置換されたセルロースエステルでは、製膜性は良好であるものの、得られる光学フィルムの力学特性が低く、実質的に光学フィルムとして用いることが難しいためである。
また、力学特性と製膜性の双方を両立させるために、例えば、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステル等を用いてもよい。
上記セルロースエステルの中でも、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましく用いられる。
次に、本発明に好ましく用いられるセルロースエステルのアシル基の置換度について説明する。
セルロースには、1グルコース単位の2位、3位、6位に1個ずつ、計3個の水酸基があり、総置換度とは、平均して1グルコース単位にいくつのアシル基が結合しているかを示す数値である。
従って、最大の置換度は3.0である。これらアシル基は、グルコース単位の2位、3位、6位に平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。
混合脂肪酸エステルの置換度として、さらに好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(2)、(3)を満たすセルロースエステルであることが好ましい。
式(2) 2.0≦X+Y≦3.0
式(3) 0≦Y≦1.5
この内特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも1.9≦X≦2.5、0.1≦Y≦0.9であることが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているのものである。これらは公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
更に、セルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜4.0である。
セルロースエステルは、50000〜150000の数平均分子量(Mn)を有することが好ましく、55000〜120000の数平均分子量を有することが更に好ましく、60000〜100000の数平均分子量を有することが最も好ましい。
なお、Mn及びMw/Mnは下記の要領で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより算出した。
測定条件は以下の通りである。
溶媒:テトヒドロフラン
装置:HLC−8220(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料濃度:0.1質量%
注入量:10μl
流量:0.6ml/min
校正曲線:標準ポリスチレン:PS−1(Polymer Laboratories社製)Mw=2,560,000〜580迄の9サンプルによる校正曲線を使用した。
セルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
セルロースエステルは、例えば、原料セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及び/または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基及び/またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10−45804号或いは特表平6−501040号に記載の方法を参考にして合成することができる。
セルロースエステルのアルカリ土類金属含有量は、1〜50ppmの範囲であることが好ましい。50ppmを超えるとリップ付着汚れが増加或いは熱延伸時や熱延伸後でのスリッティング部で破断しやすくなる。1ppm未満でも破断しやすくなるがその理由はよく分かっていない。1ppm未満にするには洗浄工程の負担が大きくなり過ぎるためその点でも好ましくない。更に1〜30ppmの範囲が好ましい。ここでいうアルカリ土類金属とはCa、Mgの総含有量のことであり、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて測定することが出来る。
セルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。0.1ppm未満とするにはセルロースエステルの洗浄工程の負担が大きくなり過ぎる為、1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することが出来る。
セルロースエステル中の遊離酸含有量は、1〜500ppmであることが好ましい。洗浄で1ppm未満にすることは困難である為、1〜100ppmの範囲であることが好ましい。遊離酸含有量はASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することが出来る。
B層に前記セルロースエステル以外に、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する化合物(A)中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化化合物、或いは、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上、12個以下結合した化合物(B)中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化化合物を含有することが、前記粘弾性を調整し延伸により所望の位相差を付与する上で特に好ましい態様である。
〈フラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物〉
本発明では、上記化合物(A)のエステル化化合物及び上記化合物(B)のエステル化化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
また、前記エステル化化合物は単糖類(α−グルコース、βフルクトース)の安息香酸エステル、もしくは下記一般式(a)で表される、単糖類の−OR12、−OR15、−OR22、−OR25の任意の2箇所以上が脱水縮合して生成したm+n=2〜12の多糖類の安息香酸エステルであることが好ましい。
上記一般式中の安息香酸は更に置換基を有していてもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、フェニル基が挙げられ、更にこれらのアルキル基、アルケニル基、フェニル基は置換基を有していてもよい。
好ましい化合物(A)及び化合物(B)の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物(A)の例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、或いはアラビノースが挙げられる。
化合物(B)の例としては、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース或いはケストース挙げられる。
このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
これらの化合物(A)及び化合物(B)の中で、特にフラノース構造とピラノース構造を両方有する化合物が好ましい。例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
また、化合物(B)において、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上、3個以下結合した化合物であることも、好ましい態様の1つである。
本発明に係る化合物(A)及び化合物(B)中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化するのに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、オクテン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、アルコキシ基を導入した芳香族モノカルボン酸、ケイ皮酸、ベンジル酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができ、より、具体的には、キシリル酸、ヘメリト酸、メシチレン酸、プレーニチル酸、γ−イソジュリル酸、ジュリル酸、メシト酸、α−イソジュリル酸、クミン酸、α−トルイル酸、ヒドロアトロパ酸、アトロパ酸、ヒドロケイ皮酸、サリチル酸、o−アニス酸、m−アニス酸、p−アニス酸、クレオソート酸、o−ホモサリチル酸、m−ホモサリチル酸、p−ホモサリチル酸、o−ピロカテク酸、β−レソルシル酸、バニリン酸、イソバニリン酸、ベラトルム酸、o−ベラトルム酸、没食子酸、アサロン酸、マンデル酸、ホモアニス酸、ホモバニリン酸、ホモベラトルム酸、o−ホモベラトルム酸、フタロン酸、p−クマル酸を挙げることができるが、特に安息香酸が好ましい。
上記化合物(A)及び化合物(B)をエステル化したエステル化化合物の中では、エステル化によりアセチル基が導入されたアセチル化化合物が好ましい。
これらアセチル化化合物の製造方法は、例えば、特開平8−245678号公報に記載されている。
上記化合物(A)及び化合物(B)のエステル化化合物に加えて、オリゴ糖のエステル化化合物を、本発明に係るフラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を3〜12個結合した化合物として適用できる。
オリゴ糖は、澱粉、ショ糖等にアミラーゼ等の酵素を作用させて製造されるもので、本発明に適用できるオリゴ糖としては、例えば、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖が挙げられる。
オリゴ糖も上記化合物(A)及び化合物(B)と同様な方法でアセチル化できる。
次に、上記エステル化化合物の製造例の一例を記載する。
グルコース(29.8g、166mmol)にピリジン(100ml)を加えた溶液に無水酢酸(200ml)を滴下し、24時間反応させた。その後、エバポレートで溶液を濃縮し氷水へ投入した。
1時間放置した後、ガラスフィルターにてろ過し、固体と水を分離し、ガラスフィルター上の固体をクロロホルムに溶かし、これが中性になるまで冷水で分液した。
有機層を分離後、無水硫酸ナトリュウムにより乾燥した。無水硫酸ナトリュウムをろ過により除去した後、クロロホルムをエバポレートにより除き、更に減圧乾燥することによりグリコースペンタアセテート(58.8g、150mmol、90.9%)を得た。尚、上記無水酢酸の替わりに、上述のモノカルボン酸を使用することができる。
以下に、本発明に用いられるエステル化化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明のB層は、上記エステル化化合物を1〜30質量%含むことが好ましく、特には、5〜30質量%含むことが好ましい。この範囲内であれば、本発明の優れた効果を呈すると共に、ブリードアウトなどもなく好ましい。
(可塑剤)
B層は本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(b)で表される。
一般式(b) R1−(OH)n
但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
多価カルボン酸は次の一般式(c)で表される。
一般式(c) R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
(酸価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることができる。ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(d)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることができる。
一般式(d) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(d)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
本発明に用いることのできるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
以下、本発明に用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部、安息香酸610部、ジプロピレングリコール737部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で1.33×104Pa〜最終的に4×102Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、エチレングリコール341部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);31000
酸価 ;0.1
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,2−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);38000
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.4(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,3−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
粘度(25℃、mPa・s);37000
酸価 ;0.05
以下に、本発明に用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
(紫外線吸収剤)
B層は紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・ジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては下記一般式(e)で示される化合物を用いることができる。
式中、R1、R2、R3、R4及びR5は同一でも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノもしくはジアルキルアミノ基、アシルアミノ基または5〜6員の複素環基を表し、R4とR5は閉環して5〜6員の炭素環を形成してもよい。
また、上記記載のこれらの基は、任意の置換基を有していてよい。
以下に本発明に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
UV−1:2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−2:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−3:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−4:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−5:2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−6:2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)
UV−7:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−8:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール(TINUVIN171)
UV−9:オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(TINUVIN109)
更に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては下記一般式(f)で表される化合物が好ましく用いられる。
式中、Yは水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、及びフェニル基を表し、これらのアルキル基、アルケニル基及びフェニル基は置換基を有していてもよい。Aは水素原子、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基または−CO(NH)n−1−D基を表し、Dはアルキル基、アルケニル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。m及びnは1または2を表す。
上記において、アルキル基としては、例えば、炭素数24までの直鎖または分岐の脂肪族基を表し、アルコキシル基としては例えば、炭素数18までのアルコキシル基を表し、アルケニル基としては例えば、炭素数16までのアルケニル基でアリル基、2−ブテニル基等を表す。また、アルキル基、アルケニル基、フェニル基への置換基としてはハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等を置換していてもよい)等が挙げられる。
以下に一般式(f)で表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
UV−10:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン
UV−11:2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
UV−12:2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン
UV−13:ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)
この他、1,3,5トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
本発明に係わるB層は紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、B層の乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、B層に対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
(微粒子)
B層は微粒子を含有することも好ましい。
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。偏光板保護フィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。共流延法によりB層を多層構成にする場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972VがB層の濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。B層は、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
その他の成分として、酸化防止剤、帯電防止剤、滑材、離型材、着色剤、着色防止剤、難燃剤などを含んでも良い。特に、溶融流延製膜によって作製する場合には、酸化防止剤を導入することが好ましく、特にフィルムの透明性を最大限に引き上げる方法として、前記微粒子の代わりとして、滑材、離型材も好ましく用いられる。
また、B層のいずれかの面に、帯電防止層、滑性層、易接着層を設けても良い。
(B層の製造方法)
前述のようにB層はA層を塗工する基材フィルムとして用いることが好ましい。
次にB層の好ましい一実施形態であるセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。
セルロースエステルフィルムは溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
溶液流延法によるセルロースエステルフィルムの製造は、前記セルロースエステル及び前記添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
また、貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。
また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。回収溶剤中に、セルロースエステルに添加されている添加剤、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、ポリマー、モノマー成分などが微量含有されていることもあるが、これらが含まれていても好ましく再利用することができるし、必要であれば精製して再利用することもできる。
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、更に好ましくは50個/m2以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm2以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
ここで、ドープの流延について説明する。
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。
流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
本発明のB層としてセルロースエステルフィルムを作製するには、ウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅手方向に延伸を行うことが特に好ましい。剥離張力は300N/m以下で剥離することが好ましい。
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことができるが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましい。
セルロースエステルフィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は10〜100μmであることが特に好ましい。更に好ましくは20〜60μmである。
セルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.6〜3mである。4mを超えると搬送が困難となる。
(延伸操作、屈折率制御)
本発明のB層は、リターデーション値Ro、RtがRo=0〜50nm、Rt=80〜150nmであることが好ましい。
尚、リターデーション値は下記により求めることができる。
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nxは樹脂層の面内の遅相軸方向の屈折率を、nyは面内で遅相軸に直交する方向の屈折率を、nzは厚み方向の屈折率を、dは樹脂層の厚み(nm)をそれぞれ表す。)
上記3次元屈折率は、例えばKOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることができる。
前記特定のセルロースエステルとフラノース構造もしくはピラノース構造を有する化合物を組み合わせ、適宜含有させることにより、所望のリターデーションだけでなく、波長分散性も調整することが可能となる。
延伸操作は、無延伸のB層上にA層を積層した後に一度にまとめて行うこともできるが、あらかじめB層のみを加熱延伸しておき、次いでA層を塗工積層した後に再び延伸することで、光学的均一性を維持しながら所望のリターデーション調整することができる。
上記リターデーション値Ro、Rtを得るには、B層であるセルロースエステルフィルムが本発明の構成をとり、更に延伸操作により屈折率制御を行うことが好ましい。
例えばフィルムの長手方向(流延方向)及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅手方向に対して、逐次または同時に2軸延伸もしくは1軸延伸することができる。
互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には長手方向に0.8〜2.0倍、幅手方向に1.1〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、長手方向に0.8〜1.5倍、幅手方向に1.2〜2.0倍の範囲で行うことが好ましい。
該延伸操作は加熱しながら行うことが好ましく、例えばテンターを用いる場合では、テンター内延伸部の温度を50〜200℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは120〜200℃、特に好ましくは140〜200℃の範囲に設定する。またはB層を構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)−50℃〜Tg+50℃、好ましくはTg−40℃〜Tg+40℃の温度範囲で行われる。
ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して長手方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて長手方向に延伸する方法、同様に幅手方向に広げて幅手方向に延伸する方法、或いは長手、幅手同時に広げて両方向に延伸する方法などが挙げられる。
もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、所謂テンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
製膜工程のこれらの幅保持或いは幅手方向の延伸はテンターによって行うことが好ましく、ピンテンターでもクリップテンターでもよい。
〈B層に用いられる他の樹脂〉
B層は、上記セルロースエステル系樹脂以外に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、及びポリエステル系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いることも好ましい。
(オレフィン系樹脂)
オレフィン系樹脂は、特に、ポリプロピレンやポリエチレン樹脂が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂には、相溶性のある2種類以上の樹脂が用いられてもよい。具体例として、特開2007−316603号公報等に記載の化合物を挙げることができる。
(シクロオレフィン系樹脂)
シクロオレフィン系樹脂について説明する。本発明に用いられるシクロオレフィン系樹脂は脂環式構造を含有する重合体樹脂からなるものである。好ましいシクロオレフィン樹脂は、環状オレフィンを重合又は共重合した樹脂である。環状オレフィンとしては、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、エチルテトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕トリデカ−2,4,6,11−テトラエンなどの多環構造の不飽和炭化水素及びその誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン、シクロヘプテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの単環構造の不飽和炭化水素及びその誘導体等が挙げられる。これら環状オレフィンには置換基として極性基を有していてもよい。極性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシル基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基、カルボン酸無水物基などが挙げられ、特に、エステル基、カルボキシル基又はカルボン酸無水物基が好適である。
好ましいシクロオレフィン樹脂は、環状オレフィン以外の単量体を付加共重合したものであってもよい。付加共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテンなどのエチレン又はα−オレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどのジエン等が挙げられる。
環状オレフィンは、付加重合反応或いはメタセシス開環重合反応によって得られる。重合は触媒の存在下で行われる。付加重合用触媒として、例えば、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒などが挙げられる。開環重合用触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの金属のハロゲン化物、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる重合触媒;或いは、チタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる重合触媒などが挙げられる。重合温度、圧力等は特に限定されないが、通常−50℃〜100℃の重合温度、0〜490N/cm2の重合圧力で重合させる。
シクロオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合又は共重合させた後、水素添加反応させて、分子中の不飽和結合を飽和結合に変えたものであることが好ましい。水素添加反応は、公知の水素化触媒の存在下で、水素を吹き込んで行う。水素化触媒としては、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム、チタノセンジクロリド/n−ブチルリチウム、ジルコノセンジクロリド/sec−ブチルリチウム、テトラブトキシチタネート/ジメチルマグネシウムの如き遷移金属化合物/アルキル金属化合物の組み合わせからなる均一系触媒;ニッケル、パラジウム、白金などの不均一系金属触媒;ニッケル/シリカ、ニッケル/けい藻土、ニッケル/アルミナ、パラジウム/カーボン、パラジウム/シリカ、パラジウム/けい藻土、パラジウム/アルミナの如き金属触媒を担体に担持してなる不均一系固体担持触媒などが挙げられる。
或いは、シクロオレフィン系樹脂として、下記のノルボルネン系樹脂も挙げられる。ノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン骨格を繰り返し単位として有していることが好ましく、その具体例としては、例えば特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開平2−133413号公報、特開昭63−145324号公報、特開昭63−264626号公報、特開平1−240517号公報、特公昭57−8815号公報、特開平5−2108号公報、特開平5−39403号公報、特開平5−43663号公報、特開平5−43834号公報、特開平5−70655号公報、特開平5−279554号公報、特開平6−206985号公報、特開平7−62028号公報、特開平8−176411号公報、特開平9−241484号公報、特開2001−277430号公報、特開2003−139950号公報、特開2003−14901号公報、特開2003−161832号公報、特開2003−195268号公報、特開2003−211588号公報、特開2003−211589号公報、特開2003−268187号公報、特開2004−133209号公報、特開2004−309979号公報、特開2005−121813号公報、特開2005−164632号公報、特開2006−72309号公報、特開2006−178191号公報、特開2006−215333号公報、特開2006−268065号公報、特開2006−299199号公報等に記載されたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。又、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。具体的には、日本ゼオン(株)製ゼオネックス、ゼオノア、JSR(株)製アートン、三井化学(株)製アペル(APL8008T、APL6509T、APL6013T、APL5014DP、APL6015T)などが好ましく用いられる。
シクロオレフィン系樹脂の分子量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロヘキサン溶液(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ法で測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、5000〜500000、好ましくは8000〜200000、より好ましくは10000〜100000の範囲である時に、成形体の機械的強度、及び成形加工性とが高度にバランスされて好適である。
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂に付き説明する。ポリカーボネート系樹脂としては種々があり、化学的性質及び物性の点から芳香族ポリカーボネートが好ましく、特にビスフェノールA系ポリカーボネートが好ましい。その中でも更に好ましくはビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、叉は脂肪族炭化水素基などを導入したビスフェノールA誘導体を用いたものが挙げられるが、特に中央炭素に対して非対称にこれらの基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネートが好ましい。例えばビスフェノールAの中央炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の一の水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート樹脂が好ましい。具体的には、4,4′−ジヒドロキシジフェニルアルカン又はこれらのハロゲン置換体からホスゲン法又はエステル交換法によって得られるものであり、例えば4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルブタン等を挙げることが出来る。又、この他にも例えば、特開2006−215465号公報、特開2006−91836号公報、特開2005−121813号公報、特開2003−167121号公報等に記載されているポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂に使用されるモノマーとしては、一般的なジカルボン酸又はその誘導体とジアルコールが用いられる。
ジカルボン酸及びその誘導体の具体例としては、芳香族ジカルボン酸として、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、テレフタル酸ジクロライド、テレフタル酸ジブロマイド、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジブロマイド、イソフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジプロピル、イソフタル酸ジブチル、ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸無水物、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジブロマイド、ナフタレンジカルボン酸ジメチル、ナフタレンジカルボン酸ジエチル、ナフタレンジカルボン酸ジプロピル、ナフタレンジカルボン酸ジブチル、ジフェニルジカルボン酸、ジフェン酸無水物、ジフェニルジカルボン酸ジクロライド、ジフェニルジカルボン酸ジブロマイド、ジフェニルジカルボン酸ジメチル、ジフェニルジカルボン酸ジエチル、ジフェニルジカルボン酸ジプロピル、ジフェニルジカルボン酸ジブチル等、脂肪族ジカルボン酸として、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸、ダイマー酸等が挙げられるがこれらに特に限定されない。
ジアルコールの具体例としては、脂肪族ジアルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ノナンジオール、エチルブチルプロパンジオール、ジメチルプロパンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルヘキサンジオール、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、ジメチロールヘプタン、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル等、芳香族ジアルコールとして、キシレングリコール、フェニレングリコール、フェニレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールZ及びそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加物等が挙げられるがこれらに限定されない。
これらのモノマーの他に多価カルボン酸や多価アルコールを添加して用いてもよい。
多価カルボン酸としてはコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、ベンゼントリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸及びこれらの酸無水物、ハロゲン化物、低級アルキルエステル等が挙げられる。
多価アルコールとしてはポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられるがこれらに限定されない。
又、本発明で使用されるポリエステル系樹脂は、ポリエステルポリオールとして両末端を水酸基とし、有機ジイソシアネート化合物と反応させることによりウレタン変性させさせたものも用いることができる。
使用される有機ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ジメトキシビフェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、ジイソシアネートジシクロヘキサン、ジイソシアネートシクロヘキシルメタン、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジメチルビフェニレンジイソシアネート、ジイソシアネートジフェニルエーテル等が挙げられるがこれらに限定されない。
ポリエステルポリオールとしては、ポリカルボン酸とポリオールとして前述の化合物を使用し、ポリオールとポリカルボン酸の比率は水酸基(OH)とカルボキシル基(COOH)の当量比(OH)/(COOH)として、通常2/1〜1/1が好ましく、1.5/1〜1/1がより好ましく、1.2/1〜1.02/1が更に好ましい。
本発明で使用されるポリエステル系樹脂の合成法は特に限定されるものではなく、例えば常法に従いポリエステル縮重合反応によって得ることができる。
ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、耐熱保管性及び粉体流動特性、溶融粘性の観点からゲルパーミッションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値として、2×102〜3×104の範囲に極大値を有し、好ましい分子量の極大値は3×103〜3×104である。
《A層の構成》
本発明に係るA層は、B層とは異なった符号の複屈折性を示す樹脂からなることが特徴であり、特にA層は負の複屈折性樹脂を含有することが好ましい。該負の複屈折性樹脂は、これに限られるものではないが、スチレン系ポリマー、ナフタレン系ポリマー、及びカルバゾール系ポリマーの少なくとも一種であることがより好ましい。
〈スチレン系ポリマー〉
スチレン系ポリマーの共重合モノマーとして好ましいスチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシルスチレン、p−フェニルスチレン、2,5−ジクロロスチレン、p−t−ブチルスチレン等が挙げられる。
また、スチレン系ポリマーの共重合モノマーとして好ましいマレイミド系モノマーとしては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−n−プロピルフェニル)マレイミド、N−(2−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジメチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)マレイミド、N−(2−メチル−6−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(2,6−ジブロモフェニル)マレイミド、N−(2−ビフェニル)マレイミド、N−(2−シアノフェニル)マレイミド等が挙げられる。
上記のマレイミド系モノマーは、例えば、東京化成工業(株)から入手することができる。
スチレン系ポリマーは、他のモノマーを共重合させることができる。他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1,3−ブタジエン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−2−ペンテン、1−ヘキセン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。
本発明のスチレン系ポリマーが、スチレン系モノマー、マレイミド系モノマー以外の他のモノマーを含む場合、他のモノマーの含有率は、スチレン系モノマー以外の成分の内の、1質量%以上90質量%以下であり、好ましくは5質量%〜40質量%であり、特に好ましくは10質量%〜30質量%である。
スチレン系ポリマーとして最も好ましくは、アクリル・スチレン共重合体、アクリル・スチレン・無水マレイン酸共重合体、アクリル・スチレン・(メタ)アクリロニトリル共重合体、スチレン・(メタ)アクリレート共重合体、アクリル・スチレン・マレイミド共重合体、アクリル・ビニルエステル・マレイミド共重合体、またはアクリル・オレフィン・マレイミド共重合体である。
スチレン系ポリマーの固有複屈折は、日本化学会編:「透明ポリマーの屈折率制御(季刊化学総説No39)」、(1988)学会出版センター、p.107.や「フィルム製膜・延伸の最適化とトラブル対策」(技術情報協会 2007.11.30 第一版)を参考にして、求めることができる。
一般にポリマーの配向複屈折と固有複屈折とは次の関係式によって表される。
Δn=fΔn0
ここでΔnは配向複屈折、fは配向関数、Δn0はポリマーの固有複屈折をそれぞれ表す。
固有複屈折の測定は、この配向複屈折と配向関数を測定することにより実験的に求められ、A層に用いられる樹脂の固有複屈折は、この関係式を用いて求められる。
延伸方向に対して屈折率が低下する材料は、負の複屈折性をもつ材料と定義され、固有複屈折の符号は負となる。本発明のスチレン系ポリマーの固有複屈折は負である。
スチレン系ポリマーは、重量平均分子量(Mw)が80000〜1000000であることが好ましい。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス(株)製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
スチレン系ポリマーの製造方法としては、特に制限は無く、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。
ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることができ、また、レドックス系とすることもできる。重合温度については、懸濁または乳化重合では30〜100℃、塊状または溶液重合では80〜160℃で実施しうる。
さらに、生成共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することもできる。
〈ナフタレン系ポリマー〉
ナフタレン系ポリマーとしては、下記一般式(g)で表されるナフタレン誘導体を重合してなるポリマーが挙げられ、単独重合体でも、他の共重合可能なモノマーとの共重合体でもよい。共重合体の場合は、ブロックポリマーでもグラフトポリマーでもランダムポリマーでも良い。
(但し、一般式(g)中、Z1〜Z8のうちどれかひとつのみが下記一般式(h)で表される重合性基を有しており、残りはそれぞれ上記で説明した置換基を有していても良い。また、R51〜R57もそれぞれ同様の置換基を有していても良い。)
好ましくは、1−ビニルナフタレン誘導体、あるいは2−ビニルナフタレン誘導体を重合したポリマーであり、さらに好ましくは、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンを重合成分として有するポリマーである。
ナフタレン系誘導体と共重合可能なモノマーとしては特に限定はされないが、例えばメタクリル酸及びそのエステル誘導体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アクリル酸及びそのエステル誘導体(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールエトキシレート、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和化合物等を挙げることが出来る。これらは1種単独で、または2種以上混合して、前記一般式(g)、(h)で表されるナフタレン系誘導体とポリマーとして負の複屈折性を失わない範囲で共重合させることができる。
〈カルバゾール系ポリマー〉
カルバゾール系ポリマーとしては、下記一般式(i)、一般式(j)で表されるカルバゾール誘導体を重合してなるポリマーが挙げられ、単独重合体でも、他の共重合可能なモノマーとの共重合体でもよい。共重合体の場合は、ブロックポリマーでもグラフトポリマーでもランダムポリマーでも良い。ここでいうポリマーとは、少なくとも分子内に下記カルバゾール構造単位を10量体以上含むことを示す。
式中、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、R41、R42、R43、R44、R45、R46、R47はそれぞれ置換基を有していても良い。
また、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5のうちのどれか一つのみが一般式(j)で表される置換基である。
置換基としては特に制限はないが、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、スルホン酸基、スルホン酸の塩、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、カルボキシル基、カルボン酸の塩、ヒドロキシル基、メルカプト基、ニトロ基等の各基が挙げられる。これらの各基は置換基を有していても良く、該置換基としては上に説明した基と同様の基が挙げられる。
一般式(i)で表される化合物は、好ましくは、N−ビニルカルバゾール誘導体、あるいは2−ビニルカルバゾール誘導体を重合したポリマーであり、さらに好ましくは、N−ビニルカルバゾール、2−ビニルカルバゾールである。
カルバゾール誘導体と共重合可能なモノマーとしては特に限定はされないが、例えば、例えばメタクリル酸及びそのエステル誘導体(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アクリル酸及びそのエステル誘導体(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸ジエチレングリコールエトキシレート、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル等)、アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等)、アルキルビニルエステル(ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等)、スチレン誘導体(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルナフタレンなど)、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミドなどの不飽和化合物等を挙げることが出来る。これらは1種単独で、または2種以上混合して、前記一般式(i)、(j)で表されるモノマー単位と共重合させることができる。これらモノマーのうち、好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルモルホリン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N−ジメチルアクリルアミドである。
上記ポリマーを重合する方法は特に問わないが、従来公知の方法を広く採用することが出来、例えばラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などが挙げられる。ラジカル重合法の開始剤としては、例えば、アゾ化合物、過酸化物等が挙げられ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスイソブチル酸ジエステル誘導体、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどが挙げられる。重合溶媒は特に問わないが、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、水溶媒等が挙げられる。溶媒の選択により、均一系で重合する溶液重合、生成したポリマーが沈澱する沈澱重合、ミセル状態で重合する乳化重合、懸濁状態で重合する懸濁重合、或いは場合によっては塊状重合を行うこともできる。
前記ポリマーは、カルバゾール構造単位を20〜70質量%含有することが好ましい。カルバゾール構造単位が20質量%よりも少ないと、位相差発現性が低くなり位相差層として成立しにくく、70質量%よりも多いと樹脂層が硬くなりすぎて延伸しづらくなる。
前記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は10000〜2000000の範囲内であることが好ましい。より好ましくは100000〜1000000の範囲内である。また前記共重合体の重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比は1.5〜10.0のものが好ましく用いられる。
〈A層の塗工〉
本発明は、好ましくは負の複屈折性を示す樹脂層からなるA層と正の複屈折性を示す樹脂からなるB層を積層する位相差フィルムの製造方法であって、A層はB層上に塗工して形成することが好ましい。
塗工方法については特に限定はされないが、例えば具体的にはディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、コンマコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(ダイコート法)(米国特許2681294号、特開2003−200097号、特開2003−211052号明細書参照)、スライドコート法、マイクログラビアコート法等の公知の方法が用いられ、その中でもマイクログラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法が好ましい。これらの方法は、溶液粘度と膜厚から適宜選択される。
塗工に際し溶媒としては一般の公知の有機溶媒が用いられる、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルセロソルブ、ジエチルカルビトール等のグリコールエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の有機溶媒、或いは水が用いられる。これらは、単独、若しくは2種以上を混合して用いることができる。
硬化促進のために、重合開始剤、架橋開始剤をポリマー成分に対して5〜30質量%含有することが好ましい。光重合開始剤としては、特に制限は無く各種公知のものを使用することが出来る。光重合開始剤としては、例えばイルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア2959、イルガキュア819(チバ・ジャパン社製)、ダロキュア−1173(メルク社製)等の光開始剤を用いることが出来る。更に、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、p−ジメチル安息香酸エステル、チオキトサン等の光増感剤を併用してもよい。
A層を塗工する際に密着性を高める為に、B層表面をアルカリ処理、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理等の表面処理を行ってもよい。
また、密着性向上のために、A層中に熱又は活性エネルギー線硬化性の樹脂、重合開始剤、架橋開始剤を含有してもよい。光重合開始剤としては、特に制限は無く各種公知のものを使用することが出来る。光重合開始剤としては、例えばイルガキュア184、イルガキュア651、イルガキュア754、イルガキュア2959、イルガキュア819(チバ・ジャパン社製)、ダロキュア−1173(メルク社製)等の光開始剤を用いることが出来る。更に、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、p−ジメチル安息香酸エステル、チオキトサン等の光増感剤を併用してもよい。この場合、A層は、水または有機溶剤の乾燥の後に、熱または活性エネルギー線により塗膜を硬化させるゾーンを通過させ、塗膜を硬化することが好ましい。
加熱方法としては、特に制限はないが、ヒートプレート、ヒートロール、サーマルヘッド、熱風を吹き付けるなどの方法を使用するのが好ましい。加熱温度としては、使用するポリマーの種類により一概には規定できないが、基材への熱変形等の影響を与えない温度範囲であることが好ましく、30〜200℃が好ましく、更に30〜120℃が好ましく、特に好ましくは50〜100℃である。
活性エネルギー線は、特に制限されるものではなく、皮膜を形成する硬化性組成物の種類に応じて、紫外線、電子線、近紫外線、可視光、近赤外線、赤外線、X線などから適宜選択することができるが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。
紫外線反応性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることができる。このうち、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプを好ましく利用できる。
電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることができる。
A層の厚みは特に限定されないが、2〜50μmが好ましい。特に膜厚は3〜40μmであることがより好ましく、更に好ましくは5〜30μmである。
A層の位相差は、Ro=80〜200nm、Rt=−70〜−150nmであることが好ましい。A層、B層が面内遅相軸を有する場合は、互いの面内遅相軸が直交するように積層されていることが視野角拡大効果を向上させる点で好ましい。
〈A層、B層が積層された位相差フィルム〉
本発明のA層、B層が積層された位相差フィルムのヘイズは1%未満であることが好ましく0〜0.5%であることが特に好ましい。
本発明の位相差フィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。
本発明の位相差フィルムは、液晶表示装置の視野角拡大フィルムとして偏光板に好適に用いることができる。その際、偏光子の少なくとも一方の面に直接貼合し、偏光板保護フィルムとしての機能も兼ねることができる。この場合、B層側を偏光子に貼合することが好ましく、B層がセルロースエステルフィルムである場合は鹸化処理可能である。
〈偏光板、液晶表示装置〉
偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明のA層、B層が積層された位相差フィルムのB層側をアルカリ鹸化処理する。ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、該鹸化処理した位相差フィルムを、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明の位相差フィルムを用いても、別の偏光子保護フィルムを用いてもよい。A層側を偏光子に貼り合わせる場合は、公知の接着剤を用いることができるが、水系接着剤が好ましい。
裏面側に用いられる偏光子保護フィルムとしては、任意の適切な材料が採用され得る。このような材料としては、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるプラスチックフィルムが挙げられる。プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のアシレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリノルボルネン樹脂、セルロース樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。また、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化性樹脂または紫外線硬化型樹脂も用いられ得る。偏光特性および耐久性の観点から、表面をアルカリ等でケン化処理したTACフィルムが好ましい。また、市販のセルロースアシレートフィルムとして、KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC4UE、KC8UE、KC8UY−HA、KC8UX−RHA、KC8UXW−RHA−C、KC8UXW−RHA−NC、KC4UXW−RHA−NC(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。
本発明のA層、B層が積層された位相差フィルムは工業的には長尺のフィルムとして作製され、同じく長尺のフィルムとして作製される偏光子と張り合わせて偏光板を構成する態様が最も有用である。
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがあるがこれのみに限定されるものではない。偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光子の膜厚は5〜30μmの偏光子が好ましく用いられる。
本発明の位相差フィルムは、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、FFS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。好ましくはIPS、FFS、VA(MVA,PVA)型液晶表示装置である。STN、OCB、TN型液晶表示装置に用いる場合には、偏光子の吸収軸方向と、各々の延伸軸が必ずしも平行または直交している必要はなく、ずれている形態も好ましく用いられる。これらの液晶表示装置に用いることにより、視野角が広く、正面コントラストの高い視認性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
本発明の位相差フィルムをIPS、FFS型液晶表示装置に用いる場合の構成例について説明する。黒表示時の液晶の遅相軸方向に対して直交する方向に吸収軸を持つように配置される偏光子と、ガラス基板との間に本発明の積層位相差フィルムを配置する。A層を偏光子側に配置する場合は、A層の遅相軸と偏光子の吸収軸は平行になるように、A層をガラス基板側に配置する場合は、A層の遅相軸と偏光子の吸収軸は直交になるように配置することで優れた視野角を得ることができる。
この場合、B層のリターデーションRo>0nmの場合は、B層の遅相軸とA層の遅相軸を直交した位相差フィルムが好ましく用いられる。この時、黒表示時の液晶の遅相軸方向に対して平行方向に吸収軸を持つように配置される偏光子、つまり液晶セルを挟んで反対側に位置する偏光子と、ガラス基板との間に配置する位相差フィルムは、面内リターデーションRoがほぼゼロであることが好ましい。さらに好ましくは、厚み方向のリターデーションRtが|Rt|≦45nmであり、より好ましくは|Rt|≦5nmである。このような位相差フィルムは偏光板保護フィルムを兼ねることもできる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<A層樹脂A1〜A7の製造>
〈A1(スチレン系樹脂1、スチレン/マレイミド=7/3)〉
反応器中に、メチルエチルケトン25.6質量部、スチレン6.5質量部、t−ブチルパーオキシオクテート0.4質量部、n−ドデシルメルカプタン0.4質量部を攪拌機付のコルベンに仕込み、窒素置換を行った後85℃に保持しておき、滴下槽に仕込んだメチルエチルケトン23.6質量部、N−フェニルマレイミド7.8質量部、スチレン35.7質量部を5時間掛けて滴下し重合を行った。重合終了後多量のメタノール中にポリマー溶液を投入し、共重合体を分離し、濾過、洗浄、乾燥工程を経て共重合体A1を得た。この共重合体は、標準ポリスチレンを基準とするGPC分析により、重量平均分子量は540000であり、Mw/Mnは2.8であると確認した。NMRスペクトルから、上記共重合体が、スチレンとN−フェニルマレイミドの共重合体であり、かつ組成は略、スチレン:N−フェニルマレイミド=70:30であった。
〈A2(スチレン系樹脂2、スチレン/ACMO/マレイミド=6/2/2)〉
A1の合成例に対し、滴下槽中の組成をメチルエチルケトン23.6質量部、N−フェニルマレイミド4.2質量部、スチレン35.7、N−アクリロイルモルホリン(ACMO)4.2質量部としたこと意外は同様にして共重合体A2を合成した。この共重合体は、重量平均分子量は450000であり、Mw/Mnは3.0であると確認した。NMRスペクトルから、上記共重合体が、スチレンとN−フェニルマレイミドとN−アクリロイルモルホリンの共重合体であり、かつ組成は略、スチレン:N−フェニルマレイミド:N−アクリロイルモルホリン=60:20:20であった。
〈A3(スチレン系樹脂3、スチレン/ACMO/MIB=6/2/2)〉
A1の合成例に対し、滴下槽中の組成をメチルエチルケトン23.6質量部、メタクリル酸イソボルニル(MIB)4.2質量部、スチレン35.7、N−アクリロイルモルホリン4.2質量部としたこと意外は同様にして共重合体A2を合成した。この共重合体は、重量平均分子量は410000であり、Mw/Mnは2.4であると確認した。NMRスペクトルから、上記共重合体が、スチレンとメタクリル酸イソボルニルとN−アクリロイルモルホリンの共重合体であり、かつ組成は略、スチレン:メタクリル酸イソボルニル:N−アクリロイルモルホリン=60:20:20であった。
〈A4(ナフタレン系樹脂1、ナフタレン/ACMO=7/3)〉
N,N−ジメチルホルムアミド100質量部、2−ビニルナフタレン70質量%、N−アクリロイルモルホリン30質量%の単量体混合物10質量部を加え、次いで、アゾイソブチロニトリル0.1質量部を加えた。窒素雰囲気下で80℃まで加熱し5時間反応させた。重合終了後冷却、濾過、洗浄、乾燥工程を経て粉末状の共重合体A4を得た。NMRスペクトルから、上記共重合体が、ビニルナフタレン:N−アクリロイルモルホリンスチレンとメタクリル酸イソボルニルとN−アクリロイルモルホリンの共重合体であり、かつ組成は略、ビニルナフタレン:N−アクリロイルモルホリン=70:30であった。
〈A5(ナフタレン系樹脂2、ナフタレン/MMA=7/3)〉
酢酸ブチル100質量部、2−ビニルナフタレン70質量%、メタクリル酸メチル(MMA)30質量%の単量体混合物10質量部を加え、次いで、アゾイソブチロニトリル0.1質量部を加えた。窒素雰囲気下で80℃まで加熱し5時間反応させた。重合終了後冷却、濾過、洗浄、乾燥工程を経て粉末状の共重合体A5を得た。NMRスペクトルから、上記共重合体が、ナフタレンとメタクリル酸メチルの共重合体であり、かつ組成は略、ナフタレン:メタクリル酸メチル=70:30であった。
〈A6(カルバゾール系樹脂1、カルバゾール/ACMO=3/7)〉
オートクレーブ中にN−ビニルカルバゾール30質量%、N−アクリロイルモルホリン70質量%の単量体混合物50質量部と、アゾビスイソブチロニトリル2質量部を加え、N,Nジメチルホルムアミド800質量部を加えて溶解した。密栓した後、80℃の雰囲気下において10時間攪拌しながら共重合させた。重合終了後メタノールを添加し、重合体を沈殿させた。冷却、濾過、洗浄、乾燥工程を経て白色粉末として共重合体A6を得た。この共重合体は、重量平均分子量は520000であり、NMRスペクトルから、N−ビニルカルバゾールとN−アクリロイルモルホリンの共重合体であることを確認した。上記重合体の組成は略、N−ビニルカルバゾール:N−アクリロイルモルホリン=30:70であった。
〈A7(カルバゾール系樹脂2、カルバゾール/ACMO/MMA=4/2/4)〉
オートクレーブ中にN−ビニルカルバゾール40質量%、N−アクリロイルモルホリン20質量%、メタクリル酸メチル40質量%の単量体混合物50質量部と、アゾビスイソブチロニトリル2質量部を加え、N,Nジメチルホルムアミド800質量部を加えて溶解した。密栓した後、60℃の雰囲気下において10時間攪拌しながら共重合させた。重合終了後メタノールを添加し、重合体を沈殿させた。冷却、濾過、洗浄、乾燥工程を経て白色粉末として共重合体A7を得た。この共重合体は、重量平均分子量は350000であり、NMRスペクトルから、N−ビニルカルバゾールとN−アクリロイルモルホリンとメタクリル酸メチルの共重合体であることを確認した。上記重合体の組成は略、N−ビニルカルバゾール:N−アクリロイルモルホリン:メタクリル酸メチル=40:20:40であった。
<B層フィルムの作製>
〈フィルムB1〉
微粒子(アエロジル R972V 日本アエロジル(株)製) 11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行い微粒子分散液を得た。
(インライン添加液)
メチレンクロライドを入れた溶解タンクにセルロースエステルAを添加し、加熱して完全に溶解させた後、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した。
濾過後のセルロースエステル溶液を充分に攪拌しながら、ここに微粒子分散液をゆっくりと添加した。更に、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、インライン添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
セルロースエステルA 4質量部
微粒子分散液 11質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステルAを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し。これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 380質量部
エタノール 70質量部
セルロースエステルA 100質量部
(メタ)アクリル系重合体A 5.5質量部
糖エステル化合物A 20質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液を調製した。
製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液を濾過した。インライン添加液ライン中で、日本精線(株)製のファインメットNFでインライン添加液を濾過した。濾過したドープ液を100質量部に対し、濾過したインライン添加液を2質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合し、次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が120%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルのウェブを50℃で溶媒を蒸発させ、1.65m幅にスリットし、その後、テンターで幅手方向に、160℃で1.3倍(30%)に延伸し、さらに搬送張力を加えてフィルムが収縮しないように長手方向に1.0倍(0%)に延伸した。120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1500mm幅にスリットし、フィルム両端に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施し、平均膜厚が52μmの正の複屈折性樹脂層であるフィルムB1を作製した。フィルム幅は1.5m、巻き長は5000mであった。
以下、実施例に使用した材料である。
セルロースエステルA:アセチル基置換度1.8、プロピオニル基置換度0.9、総アシル基置換度2.7
(メタ)アクリル系重合体A:特開2000−128911号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。すなわち、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び環流冷却管を備えたフラスコにモノマーとしてメチルアクリレートを投入し、窒素ガスを導入してフラスコ内を窒素ガスで置換したチオグリセロールを攪拌下添加した。
チオグリセロール添加後、4時間重合を行い、内容物を室温に戻し、それにベンゾキノン5質量%テトラヒドロフラン溶液を20質量部添加し、重合を停止させた。内容物をエバポレーターに移し、80℃で減圧下、テトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオグリセロールを除去し、分子量1000の(メタ)アクリル系重合体Aを得た。
糖エステル化合物A:例示化合物3
〈フィルムB2〜B16〉
B1フィルムにおいて、糖エステル化合物の量と種類かつ延伸倍率を表1に従って変えた以外は同様にしてフィルムB2〜B16を作製した。
糖エステル化合物B:例示化合物1
糖エステル化合物C:例示化合物2
〈フィルムB17(溶融流延法)〉
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度=1.92、プロピオニル置換度=0.74、総置換度=2.66、重量平均分子量=22万(ポリスチレン換算)、分散度=2.4) 100質量部
下記KA−61 10質量部
糖エステル化合物A 10質量部
SumilizerGS(住友化学社製) 0.25質量部
Irganox1010(チバ・ジャパン社製) 0.5質量部
GSY−P101(堺化学工業社製) 0.25質量部
チヌビン(TINUVIN)928(チバ・ジャパン社製) 1.5質量部
アエロジルR972V(日本アエロジル社製) 0.3質量部
を混合し、60℃、5時間減圧乾燥した。このセルロースエステル組成物を、2軸式押し出し機を用いて235℃で溶融混合しペレット化した。この際、混錬時のせん断による発熱を抑えるためニーディングディスクは用いずオールスクリュータイプのスクリューを用いた。
また、ベント孔から真空引きを行い、混錬中に発生する揮発成分を吸引除去した。なお、押出機に供給するフィーダーやホッパー、押出機ダイから冷却槽間は、乾燥窒素ガス雰囲気として、樹脂への水分の吸湿を防止した。
フィルム製膜は図2に示す製造装置で行った。
第1冷却ロール5及び第2冷却ロール7は直径40cmのステンレス製とし、表面にハードクロムメッキを施した。又、内部には温度調整用のオイルを循環させて、ロール表面温度を制御した。弾性タッチロール6は、直径20cmとし、内筒と外筒はステンレス製とし、外筒の表面にはハードクロムメッキを施した。外筒の肉厚は2mmとし、内筒と外筒との間の空間に温度調整用のオイルを循環させて弾性タッチロールの表面温度を制御した。
得られたペレット(水分率50ppm)を、1軸押出機1を用いてTダイ4からフィルム状に表面温度130℃の第1冷却ロール上に溶融温度250℃でフィルム状に溶融押し出しドロー比20で、膜厚80μmのフィルムを得た。この際、Tダイのリップクリアランス1.5mm、リップ部平均表面粗さRa0.01μmのTダイを用いた。
更に、第1冷却ロール上でフィルムを2mm厚の金属表面を有する弾性タッチロールを線圧10kg/cmで押圧した。押圧時のタッチロール側のフィルム温度は、180℃±1℃であった。(ここでいう押圧時のタッチロール側のフィルム温度は、第1ロール(冷却ロール)上のタッチロールが接する位置のフィルムの温度を、非接触温度計を用いて、タッチロールを後退させてタッチロールがない状態で50cm離れた位置から幅方向に10点測定したフィルム表面温度の平均値を指す。)このフィルムのガラス転移温度Tgは136℃であった。(セイコー(株)製、DSC6200を用いてDSC法(窒素中、昇温温度10℃/分)によりダイスから押し出されたフィルムのガラス転移温度を測定した。)なお、弾性タッチロールの表面温度は130℃、第2冷却ロールの表面温度は100℃とした。
弾性タッチロール、第1冷却ロール、第2冷却ロールの各ロールの表面温度は、ロールにフィルムが最初に接する位置から回転方向に対して90°手前の位置のロール表面の温度を非接触温度計を用いて幅方向に10点測定した平均値を各ロールの表面温度とした。
得られたフィルムを、160℃加熱してロール延伸により、長手方向に1.05倍延伸し、続いて予熱ゾーン、延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーン(各ゾーン間には各ゾーン間の断熱を確実にするためのニュートラルゾーンも有する)を有するテンター12に導入し、幅手方向に160℃で1.20倍延伸した後、幅方向に2%緩和しながら70℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落として、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施し、幅1430mmにスリットした膜厚80μm、Roが2nm、Rtが45nmのフィルムB17を作製した。
この際、予熱温度、保持温度を調整し延伸によるボーイング現象を防止した。
〈フィルムB18〉
(ドープ液の調製)
セルロースエステル(リンター綿から合成されたセルローストリアセテート)
100質量部
(Mn=148000、Mw=310000、Mw/Mn=2.1)
トリフェニルフォスフェート 9.5質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2.2質量部
メチレンクロライド 440質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液Bを調製した。製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液を濾過した。(ドープ液の一部は下記のインライン添加液の作製にも使用した。)
(二酸化珪素分散液)
アエロジル200V(日本アエロジル(株)製) 2質量部
(一次粒子の平均径12nm、見掛け比重100g/リットル)
エタノール 18質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。分散後の液濁度は100ppmであった。二酸化珪素分散液に18質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液を作製した。
(インライン添加液の作製)
メチレンクロライド 100質量部
上記ドープ液 34質量部
チヌビン109(チバ・ジャパン社製) 5質量部
チヌビン171(チバ・ジャパン社製) 5質量部
チヌビン326(チバ・ジャパン社製) 3質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。
これに二酸化珪素分散希釈液を20質量部を、撹拌しながら加えて、さらに60分間撹拌した後、アドバンテック東洋(株)のポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1Nで濾過し、インライン添加液を調製した。
インライン添加液のライン中で、日本精線(株)製のファインメットNFでインライン添加液を濾過した。濾過したドープ液100質量部に対し、濾過したインライン添加液を2.5質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合し、次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、1800mm幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルのウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1650mm幅にスリットし、その後、160℃でテンターで幅手方向に1.2倍に延伸し、さらに搬送張力を加えて長手方向に1.2倍(20%)に延伸した。その後、120℃、110℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1400mm幅にスリットし、フィルム両端に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施し、巻き取り初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチコアに巻き取り、フィルムB18を得た。
〈フィルムB19(アートン)〉
ノルボルネン系樹脂(アートンG JSR社製) 80質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2質量部
トリフェニルホスフェート 8質量部
チヌビン326(チバ・ジャパン社製) 1質量部
AEROSIL 200V(日本アエロジル社製) 0.1質量部
メチレンクロライド(沸点:39.8℃) 250質量部
エタノール 10質量部
上記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内温度を70℃まで加熱し、撹拌しながら、ノルボルネン系樹脂を完全に溶解し、ノルボルネン系樹脂溶液(ドープ)を得た。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープを得た。
製膜ライン中で日本精線(株)製のファインメットNFでドープ液を濾過した。次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が25質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したウェブを50℃で溶媒を蒸発させ、1.65m幅にスリットし、その後、テンターで幅手方向に、160℃で1.2倍(20%)に延伸し、さらに搬送張力を加えて長手方向に1.2倍(20%)に延伸した。120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1500mm幅にスリットし、フィルム両端に幅15mm、平均高さ10μmのナーリング加工を施し、フィルムB19を作製した。フィルム幅は1.5m、巻き長は5000mであった。
実施例1
<積層位相差フィルム1>
共重合体A1 30質量部
メチルエチルケトン 70質量部
以上を密閉容器に投入し、過熱、攪拌しながら完全に溶解し塗布溶液を作製した。コンマコーターを用いて前記フィルムB1上に塗工し、80℃の風を当てながら乾燥を行って積層体を形成した。得られた積層体を140℃に加熱しながら、縦延伸機を用いてフィルム長手方向に1.3倍(30%)延伸を行い積層位相差フィルム1とした。A層の膜厚は19μm、B層の膜厚は50μmであった。
<積層位相差フィルム2〜7、9〜21>
積層位相差フィルム1と同様にして共重合体1の替わりに共重合体A2〜7、9を用いてコンマコーターにより前記フィルムB2〜7、9〜19上に塗工し、80℃の風を当てながら乾燥を行って積層体を形成した。得られた積層体を表2に従った温度・倍率で加熱、延伸することで積層位相差フィルム2〜7、9〜21を作製した。
<積層位相差フィルム8>
(塗工液)
メチレンクロライド 400質量部
ポリ(N−ビニルカルバゾール)(Mw=110万) 25質量部
N−アクリロイルモルホリン 70質量部
光反応開始剤(イルガキュア184(チバ・ジャパン社製)) 5質量部
上記材料を密閉容器に投入し、過熱、攪拌しながら完全に溶解して塗工液を作製した。前記フィルムB8上に、均一な塗布層となるように塗工液をコンマコーターで塗布し、熱風の温度、風速を徐々に強め最終的に80℃で乾燥し、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm2で、照射量を0.2J/cm2として塗布層を硬化させ、積層体を形成した。得られた積層体を160℃に加熱しながら、縦延伸機を用いてフィルム長手方向に30%延伸を行い、位相差フィルム8とした。A層の膜厚は15μm、B層の膜厚は40μmであった。
以上のようにして得られた積層位相差フィルム1〜21を用いて下記の評価を行った。
《評価方法》
(剛体振り子測定)
(株)エー・アンド・デイ社製の剛体振り子型物性試験機(RPT3000W)を用いて測定を行った。剛体振り子はFRB100を、エッジは丸型シリンダーエッジのRBP040、試料マウントはCHB100を用いた。測定は、昇温条件を30℃で10分間保持した後、6℃/分の速さで250℃までとし、振り子の制御を測定間隔6s、振り子吸着時間1sとして行った。サンプルは、測定面と反対側が試料マウントに接触するようにし、測定面に剛体振り子を直接のせる形で測定した。測定値は対数減衰率で算出されるが、さらにここでは30℃における対数減衰率を0.0、ピークトップ値が1.0となる様に規格化した値を各温度における対数減衰率として用いた。各プロファイルにおけるピークの立ち上がり温度は、規格化後の対数減衰率が0.1となった温度とした。
(リターデーションRo、Rtの測定)
AXOMETRICS社製 AxoScanTMを用い、23℃相対湿度55%下にて590nmの波長における積層体のミューラーマトリクスを測定した。
その値と、あらかじめ測定しておいた各層の厚みを用いて、解析ソフトMulti−Layer SoftwareによりA層、B層それぞれのRo、Rtを算出した。
ここでいうRo、Rtとは、
Ro=(nx+ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
で定義される値であり、nxは各層面内における遅相軸方向の屈折率、nyは各層面内における進相軸方向の屈折率、dは各層の厚み(nm)をそれぞれ表す。本実施例では延伸操作を行っているため、各層のRt値の符号によりそれぞれの層の複屈折性の符号を判断することができる。Rt<0の場合は負の複屈折性を有する樹脂層であり、Rt>0の場合は正の複屈折性を有する樹脂層である。評価結果をみると、作製したすべての位相差フィルムが正と負の複屈折性樹脂層の積層体であることが確認できた。
(膜厚測定)
フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム(大和工業社製、RUB−2100)を用いてスライスし、走査電子顕微鏡を用いて断面を観察し測定した。
(ヘイズ測定)
白化はヘイズ測定により判断した。試料を3枚重ねて、ヘイズメーター(T−2600DA、東京電色製)を用いてヘイズを測定した。2.0%以下であれば実用上問題ないが、1.0%以下であることが好ましい。
○ ≦1.0%
△ 1.0%<ヘイズ≦2.0%
× 2.0%≦
(ひび割れ)
フィルム表面を斜め45度傾けて表面を目視観察し、下記の基準に従い評価した。
○ 全くひび割れがない
× ひび割れがある
(位相差ムラ評価)
積層位相差フィルム試料をそれぞれ10cm×10cmのサイズに切り出し、ヱトー(株)製複屈折位相差測定装置 AD−175SIを用いて、測定スポット0.5mmで0.5mmピッチでのリターデーションRo測定を行った。測定は、フィルムの面内遅相軸を傾斜軸として40°傾斜させて行った。
得られたRoの最大値と最小値の差ΔRoを算出し、下記基準で位相差ムラを評価した。
○ ΔRoが±3nm未満
△ ΔRoが±5nm未満
× ΔRoが±5nm以上
以上の層構成、評価結果を表2、表3に示した。
表2、表3から、本発明の構成の積層位相差フィルム1〜9、18〜21は、ひび割れ、ヘイズ、位相差ムラに優れた効果を有することが分かる。
実施例2
《偏光板、液晶表示装置への適用》
〈偏光板1〜20の作製〉
位相差フィルム1〜20のセルロースエステル層(B層)側をアルカリ鹸化処理し偏光板保護フィルムとした。次いで厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、沃素1kg、ホウ酸4kgを含む水溶液100kgに浸漬し50℃で6倍に延伸して偏光子を作製し該偏光子の片面に、上記鹸化済み位相差フィルムを完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、位相差フィルムの長手方向(搬送方向)と偏光子の延伸方向(搬送方向)を合わせ、かつB層側が偏光子側になるように各々貼合した。さらにもう一方の面にコニカミノルタタックフィルムKC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)を同様にアルカリケン化処理して貼り合わせて偏光板1〜20を作製した。
〈偏光板21の作製〉
位相差フィルム21のB層側にコロナ処理を施した後、アクリル系接着剤を用いて上記で作製した偏光子とB層側を貼合した。さらにもう一方の面にコニカミノルタタックフィルムKC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)をアルカリケン化処理して上記と同様に完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として貼り合わせて偏光板21を作製した。
〈液晶表示装置の作製と評価〉
松下電器産業株式会社製液晶テレビVIERALX60(26インチ)の視認側の偏光板を剥がし、代わりに作製した偏光板1〜21を、元の偏光子の軸と同様になるようにして日東電工株式会社製粘着剤CS9621を介して貼り合わせ、バックライト側の偏光板としては、コニカミノルタタックフィルムKC4UE(コニカミノルタオプト(株)製)を偏光板保護フィルムとして用いた偏光板を貼って液晶表示装置1〜21とした。
〈正面コントラスト評価〉
23℃55%RHの環境で、この液晶TVのバックライトを点灯して30分そのまま放置してから測定を行った。測定にはELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて、液晶TVで白表示と黒表示の正面輝度を測定し、その比を正面コントラストとした。値が高い程コントラストに優れている。
(斜め方向からの視認性の評価)
目視により、以下基準に従い評価した。
◎:黒がしまって見え、鮮明である
○:黒がしまって見えるが、やや鮮明さが低い
△:黒のしまりがなく、鮮明さがやや低い
×:黒のしまりがなく、鮮明さが低い
結果を表4に示す。
表4から、本発明の構成の積層位相差フィルム1〜9、18〜21を用いた偏光板、液晶表示装置は正面コントラストに優れ、斜め方向からの視認性にも優れていることが分かる。