しかしながら、同心円状に配置された複数の帯状パターン電極を有する透明電極を用いても、有効光束の範囲内全てにおいて、λ/2程度の位相量差を有する階段状の位相変調を与えることは困難であった。
[特許文献1の液晶パネルの問題点の説明:図14-図16]
その理由について以下に説明する。図14(a)は液晶パネルの透明対向電極32を、図14(b)は複数の同心円状に配置された帯状パターン電極からなる回折パターンを有する透明電極35の一例を示す図である。
図14(a)に示す様に、この液晶パネルの透明対向電極32は、全面ベタ電極である。図14(b)に示す、それに対向する透明電極35は、図12、図13で説明した様に、帯状パターン電極35a〜35fと、引き出し電極に35gを有する。これら帯状パターン電極35a〜35fと空隙領域55a〜55fは、有効光束5内に収まるよう形成されている。なお、図中の矢印Cは、透明電極35を有する液晶パネルにおける、液晶層の配向方向を示している。
図14(c)は、図14(b)に示す透明電極35上に形成された回折パターンと透明対向電極32との間に、一律に所定の電位差を生じさせるようにした場合に、図14(b)のOA方向に発生する位相量分布を示した図である。また、図14(d)は、図14(b)に示す透明電極35上に形成された回折パターンと透明対向電極との間に、一律に所定の電位差を生じさせるようにした場合に、図14(b)のOB方向に発生する位相量分布を示した図である。
図14(c)に示す様に、配向方向Cと略直交するOA方向の位相量分布では、中心部の位相量差φA0と、周辺部の位相量差φA1とが異なる位相量分布81Aとなる。また、図14(d)に示す様に、配向方向Cと略平行なOB方向の位相量分布では、中心部の位相量差φB0と、周辺部の位相量差φB1とが異なる位相量分布81Bとなる。そして
、これら位相量差は、φA0>φB0、φA1>φB1の関係となっている。
このように、同心円状に配置された複数の帯状パターン電極35a〜35fからなる透明電極35と透明対向電極32との間に、一律に所定の電位差を生じさせるように構成しても、透明電極35全体において、同じ位相量差を有する位相差分布を発生させることができていないことが判る。
次に、この従来構成の帯状パターン電極を有する液晶レンズの作用について説明する。図15は、透明電極の各領域における液晶分子の挙動を説明するための図である。
実際には、帯状パターン電極は、先に示したように、周辺部ほど徐々にその幅及び空隙幅が狭くなるが、図中では、説明の便宜上同じ幅の帯状パターン電極が同じ間隔で複数並んでいる例を示している。また、図15に示す液晶パネル30は、透明基板31上に全面ベタの透明対向電極32が配置され、透明基板36上に同心円状に複数配置された帯状パターン電極を有する透明電極35が配置され、透明対向電極32と透明電極35との間に液晶層37が挟持されているものとする。
図15(a)は、図14(b)に示した透明電極35を有する液晶パネル30において、OA方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の中心部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図15(b)は、図15(a)に対応した位相量分布91を示している。位相量分布91における位相差はφA0である。
図15(a)では、配向方向Cと略平行する方向に帯状パターン電極が形成されている。ここで、透明電極35と透明対向電極32との間に所定の電位差を発生させると、図15(a)に示す液晶分子37a、37b、37c、37d及び37eの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。この様に、中央部での空隙領域では空隙幅が大きいので、隣接する帯状パターン電極の領域からの電界漏れ41による、液晶分子の余計な立ち上がりは少ない。そのため、図15(b)に示す様に、この領域における液晶層は、帯状パターン電極の領域と空隙領域間の液晶分子の立ち上がりの差を、大きくすることができていることが判る。
図15(c)は、図14(a)に示す透明電極35を有する液晶パネル30において、OA方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図15(d)は、図15(c)に対応した位相量分布92を示している。位相量分布92における位相差はφA1である。
図15(c)では、配向方向Cと略平行する方向に帯状パターン電極が形成されている。ここで、透明電極35と透明対向電極32との間に図15(a)の場合と同様の所定の電位差を発生させると、液晶分子37f、37g、37h、37i及び37jの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。そして、回折パターンの周辺部では空隙領域の幅が狭いので、隣接する帯状パターン電極の領域からの電界漏れ42の影響を受けて、液晶分子の立ち上がりが大きくなってしまう。そのため、図15(a)の場合よりも、帯状パターン電極の領域と空隙領域間の液晶分子の立ち上がりの差が小さくなってしまう。
この様に、回折パターンの周辺部では、中心部(図15(a)参照)と比較して、帯状パターン電極の領域だけでなく、空隙領域の液晶分子も余計に立ち上がってしまうため、帯状パターン電極の領域と空隙領域間で充分に位相差がとれない部分が生じる。そこで、位相量分布92に示すように、位相量分布91と比べて位相差が小さい分布が生じることとなる。
図15(e)は、図14(b)のOB方向(配向方向Cと略直交する方向)に帯状パターン電極が形成されている場合の液晶分子の挙動を示す図である。図15(f)は、図15(e)に対応した位相量分布93を示している。位相量分布93における位相量差はφB0である。
ここで、透明電極35と透明対向電極32との間に、図15(a)の場合と同様の所定の電位差を発生させると、図15(e)に示す液晶分子37k、37l、37m、37n及び37oの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。この様に、中央部での空隙領域では空隙幅が大きいので、隣接する帯状パターン電極の領域からの電界漏れ41による液晶分子への影響は少ない。ところがこの領域では、液晶分子の配向方向と帯状パターン電極の配設方向が略垂直であるため、空隙領域にある液晶分子は、隣接する帯状パターン電極の領域の液晶分子につられ立ち上がってしまう。そのため、図15(a)の場合よりも、帯状パターン電極の領域と空隙領域間の液晶分子の立ち上がりの差が小さくなっている。
この領域では、帯状パターン電極のピッチは図15(a)と同じであるが、長針状の液晶分子の向きが異なることから、図15(e)に示したように帯状パターン電極の領域と空隙領域間とで液晶分子の立ち上がりの差が小さい為、帯状パターン電極と空隙領域との間で充分に位相差がとれない部分が生じる。したがって、位相量分布93に示すように、位相量分布91と比べて位相差が小さい分布が生じることとなる。しかしながら、この領域では、ピッチが狭い図15(c)に示す領域よりは、帯状パターン電極間の液晶分子の影響が小さいため、位相量分布92と比較すると位相量差は大きい。
図15(g)は、図14(a)に示す透明電極35を有する液晶パネル30において、OB方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図15(h)は、図15(g)に対応した位相量分布94を示している。位相差分布94における位相差はφB1である。
図15(g)では、配向方向Cと略直交する方向に帯状パターン電極が形成されている。ここで、透明電極35と透明対向電極32との間に図15(a)の場合と同様の所定の電位差を発生させると、図15(g)に示す液晶分子37p、37q、37r、37s及び37tの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。この様に、回折パターンの周辺部では空隙領域の幅が狭いので、隣接する帯状パターン電極からの電界漏れ42の影響で、液晶分子の立ち上がりが大きくなる。また、液晶分子の配向方向と帯状パターン電極の配設方向が略垂直であるため、空隙領域にある液晶分子は、隣接する帯状パターン電極の領域の液晶分子につられて、所定の位置よりも余計に立ち上がってしまう。そのため、この領域では、帯状パターン電極の領域と空隙領域間の液晶分子の立ち上がりの差が、他の図15(a)(c)(e)の形態に比べて最も小さくなってしまう。
そして、回折パターンの周辺部では、中心部(図15(e)参照)と比較して、帯状パターン電極のピッチが狭くなるため、図15(g)に示したように、帯状パターン電極の領域と空隙領域間とで液晶分子の立ち上がりの差が小さい。したがって、図15(h)に示す様に、帯状パターン電極の領域と空隙領域の間で充分に位相差がとれない部分が生じる。つまり、位相量分布94に示すように、図15(f)の位相量分布93と比べて、位相差が小さい分布が生じることとなる。なお、図15(g)における領域では、帯状パターン電極と略垂直に液晶分子が並んでいること及び帯状パターン電極のピッチが狭いことから、前述した3つの領域(図15(a)、図15(c)及び図15(e))と比較しても、最も位相量差が小さくなる。
以上に示した図15(a)〜図15(h)に示す様に、透明電極35と透明対向電極32間に同じ電位差が生じるようにすると、各領域において、異なった位相量分布が生じてしまうので、有効光束の範囲内全てにおいて、λ/2程度の位相量差を有する階段状の位相変調を与えることができなかった。
次に、図15で示した作用を受けた光ビームの挙動について説明する。図16は、図14(b)に示した透明電極35を有する液晶パネルを用いた場合の回折状態を説明するための図である。図16(a)は液晶パネル30によって回折された1次回折光を示し、図16(b)は液晶パネル30による0次光を示している。
図16(a)に示すような透明電極を有する液晶パネル30を、回折素子として機能させた場合には、本来は、全ての透過光を1次回折光1として出射し、対物レンズ16によって、例えば中密度の光記録媒体60の所定の位置に集光されるように設定されている。
しかしながら、図15で説明したように、有効光束5の範囲内全てにおいて、λ/2程度の位相量差を有する階段状の位相変調を与えることができないことから、例えば、透明電極35の周囲部(図15(c)又は図15(g)の領域)を通過する光は、完全には回折されず、図16(b)に示す様に0次光3を発生してしまう。また、透明電極35の中心部(図15(a)又は図15(e)の領域)を通過する光は、λ/2の位相差を与えられた理想的な1次回折光1として出射されるが、図16(b)に示す様に、透明電極35の周辺部を通過する光は、1次回折光2と0次光3とに分かれて出射することとなる(図16(a)及び(b)参照)。
このときの0次光3は、本来予定していたものでは無いので、光記録媒体60の所定の位置に集光されず、その分の光の利用効率が低下してしまうという不具合があった。
そこで、本発明は、上記の問題点を解決することを目的とした液晶光学素子及び光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させることができる回折素子として確実に機能する液晶光学素子及びそのような液晶光学素子を用いた光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、複数波長の光ビームの利用に伴って、回折素子及び非回折素子として、切り替えて利用することができる液晶光学素子及びそのような液晶光学素子を用いた光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明に係る液晶光学素子は、一対の透明基板の間に挟持された液晶層と、この一対の透明基板の一方の透明基板上に配置され、且つ同心円状に配置された帯状パターン電極を含む第1の回折パターンを有する透明電極と、一対の透明基板の他方の透明基板上に配置された透明対向電極とを有し、上記透明電極と透明対向電極との間に電位差を発生させることによって、液晶層に位相量分布を発生させて、特定波長に対してバイナリー型回折格子として作用して、透過する光ビームに対して回折レンズとして機能する液晶パネルを備え、上記帯状パターン電極が、下記式(5)に基づくピッチでもって配設されており、
(2×m×f×λ)1/2・・・・(5)
(m:複数の帯状パターン電極の中心からの個数、f:焦点距離、λ:使用する光ビームの波長)
光ビームが位相変調される全ての領域内の外周領域に形成された電極幅が、上記式(5)によって決まる幅に対し、帯状パターン電極の内側から外側に行くに従って、より狭くなるように調整されることで、
この式(5)でもって決まる帯状パターン電極の電極幅と、帯状パターン電極間の空隙幅が、光ビームが位相変調される全ての領域内で、回折効率が一定となる様に設定されていることを特徴とするものである。
さらに、上記課題を解決するために、上記透明対向電極は、透明電極に形成された第1の回折パターンに対応する、同心円状に配置された帯状パターン電極を含む第2の回折パターンを有することを特徴とするものである。
さらに、上記課題を解決するために、上記透明対向電極は、帯状パターン電極中心を通る分割線によって、液晶層の配向方向と帯状パターン電極とが略平行する方向の領域と、液晶層の配向方向と帯状パターン電極とが略直交な領域とを含む複数の領域に分割されていることを特徴とするものである。
さらに、上記課題を解決するために、本発明の光ピックアップ装置は、光ビームを出射する光源と、光ビームを光ディスクに導く対物レンズを有する光ピックアップ装置において、上記光源と対物レンズとの間の光ビームの光路中に、上述した液晶光学素子を配したことを特徴とするものである。
本発明によれば、液晶パネルを対物レンズの焦点位置を実質的に変化させることができる回折素子として適切に動作させることが可能となった。
また、本発明によれば、光の利用効率が良好な液晶光学素子及び光ピックアップ装置を提供することが可能となった。
さらに、本発明によれば、液晶パネルを、高密度光記録媒体を利用する場合には非回折素子として、またCD又はDVDを利用する場合には回折格子として切り替えて利用することが可能となった。
以下図面を参照して、本発明に係る液晶光学素子及び光ピックアップ装置について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
[第1の実施形態]
[光ピックアップ装置の構成の説明:図1]
図1は、本実施形態に係る光ピックアップ装置の概略構成を示す図である。
図1では、CD又はDVD等の低又は中密度の光記録媒体60からの再生を行う場合を示している。その場合、光ピックアップ装置10において、半導体レーザである光源11から出射された660nm波長の光ビームは、コリメートレンズ12によって有効光束5の略平行光に変換され、偏光ビームスプリッタ14を透過して液晶パネル30に入射する。
ここで、液晶パネル30は、後述するように、少なくとも一方の帯状パターン電極の電極幅が、光ビームが位相変調される全ての領域内で、回折効率が一定となる様に設定された回折パターン有する透明電極と、それと対向する透明対向電極との間に、液晶駆動部4
0によって所定の電位差を発生させることによって、略λ/2の位相量差を有する位相量分布が発生し、入射ビームをほぼ全て1次回折光として出射する回折素子として機能するように切替制御される。
液晶パネル30を出射した回折光ビームは、λ/4板15に入射する。λ/4板15で直線偏光から円偏光に変換された回折光ビーム(往路光)は、対物レンズ16によってCD又はDVD60(この場合はDVD)上に集光される。この時、対物レンズ16は、回折光を基板厚0.6mmのDVD60に適合するように集光する。即ち、液晶パネル30は、この時、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させることができる液晶レンズとして機能している。
CD又はDVD60からの反射光は対物レンズ16を再度通過し、λ/4板15を通過して、円偏光から往路光に対して偏光方向が直交した直線偏光に変換される。λ/4板15から出射した光ビームは、偏光ビームスプリッタ14で光路が変えられ、集光レンズ51によって光検出器50上へ集光される。
光検出器50は、受光した光に基づくFE(フォーカスエラー)信号、TE(トラックエラー)信号、及びRF信号を出力する。不図示の制御機構では、光検出器50から出力されたFE信号及びTE信号を用いて駆動機構17を制御し、対物レンズ16のフォーカシング及びトラッキングを行い、CD又はDVD60上の所定の位置を対物レンズ16による集光スポットが常に追従するように制御する。また、不図示の制御機構では、光検出器50から出力されたRF信号に基づいて、CD又はDVD60に記録された情報の再生を行う。
なお、CD又はDVD60への情報の書き込みを行う場合には、光源11からの光ビームの出射を記録情報に応じて変調し、光検出器50から出力されたFE信号及びTE信号を用いて対物レンズ16のトラッキング及びフォーカシングを行いながら、書き込み可能なCD又はDVD60の色素等を光ビームの熱作用によりを分解、変形又は変質させることによって、情報の書き込みを行う。
図1に示す光ピックアップ装置10において、ブルーレイ・ディスク等の高密度光記録媒体(不図示)から情報の再生を行う場合には、半導体レーザである光源11から出射された405nm波長の光ビームを、コリメートレンズ12よって略平行光に変換し、偏光ビームスプリッタ14を透過させて、液晶パネル30に入射させる。
ここで、液晶パネル30は、後述するように、液晶駆動部40によって非回折素子として機能するように切替制御されている。したがって、液晶パネル30に入射した光ビームはそのまま液晶パネル30を通過して、λ/4板15に入射する。λ/4板15で直線偏光から円偏光に変換された光ビーム(往路光)は、対物レンズ16によって不図示の高密度光記録媒体上に集光される。
高密度光記録媒体から反射した光ビームは対物レンズ16を再度通過し、λ/4板15を通過して、円偏光から往路光に対して偏光方向が直交した直線偏光に変換される。λ/4板15から出射した光ビームは、偏光ビームスプリッタ14で光路が変えられ、集光レンズ51によって光検出器50上へ集光される。
光検出器50は、受光した光に基づいてFE信号、TE信号、及びRF信号を出力する。不図示の制御機構では、光検出器50から出力されたFE信号及びTE信号を用いて駆動機構17を制御し、対物レンズ16のフォーカシング及びトラッキングを行い、高密度光記録媒体上の所定の位置を対物レンズ16による集光スポットが常に追従するように制
御する。また、不図示の制御機構では、光検出器50から出力されたRF信号に基づいて、高密度光記録媒体に記録された情報の再生を行う。
なお、高密度光記録媒体への情報の書き込みを行う場合には、光源11からの光ビームの出射を記録情報に応じて変調し、光検出器50から出力されたFE信号及びTE信号を用いて対物レンズ16のトラッキング及びフォーカシングを行いながら、書き込み可能な高密度光記録媒体の色素等を光ビームの熱作用によりを分解、変形又は変質させることによって、情報の書き込みを行う。
[液晶光学素子の構成の説明:図2−図4]
次に、本実施形態の液晶光学素子の構成について説明する。図2は、液晶光学素子の構成および液晶パネルの駆動系の構成を説明するための図である。図3は、この液晶パネルの概略断面図である。
図2に示す様に、液晶パネル30は、電源部70及びCPU、ROM及びRAM等から構成される制御部71と接続され、IC等によって構成された液晶駆動部40によって駆動される。液晶駆動部40は、制御部71からの制御信号に基づいて、液晶パネル30の光記録媒体に応じた切替制御(高密度光記録媒体用と、CD又はDVD用)、ON/OFF制御等を行う。なお、本願では、液晶パネル30と液晶駆動部40を合わせたものを液晶光学素子45と称する。
図3に示す様に、液晶パネル30は、透明基板31、透明基板36、シール部材39、透明基板31及び36の間隔を保持するために複数配置されたスペーサ38、透明基板31及び36とシール部材39間に封入された液晶層37等を有している。また、透明基板31上には透明対向電極(ベタ電極)32及び配向膜33が形成され、透明基板36上には透明電極100及び配向膜34が形成されている。なお、説明のために、縮尺が実際と異なる場合がある点に留意されたい。液晶層37には、ホモジニアス配向又はホメオトロピック配向処理がされたネマティック液晶等が用いられる。
透明基板31及び36は可撓性であって、厚さ100μmのポリカーボネイト樹脂によって形成されている。しかしながら、透明基板31及び36は、透明ガラス基板、変性アクリル樹脂、ポリメタクリル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ノルボルテン樹脂等であっても良く、また厚さも50μm〜500μmとすることができる。
透明対向電極32及び透明電極100は、透明基板31及び36上に、それぞれスパッタリング法によって厚さ約0.03μmのITOからなる透明導電膜を成膜し、その後エッチングによって不要な部分を除去して形成されている。
次に、透明電極のパターンの具体的構成例について説明する。図4は、透明対向電極32と透明電極100の一例と、有効光束5内の位相量分布を示す図である。図4(a)は透明対向電極32のパターンを示す図であり、図4(b)は透明電極100に形成された回折パターンの一例を示す図である。図4(c)は図4(a)に示した電極パターンのOA方向における位相量差分布を表し、図4(d)は図4(a)に示した電極パターンのOB方向における位相量差分布を表している。
図4(a)に示す様に、本実施形態における液晶パネルの透明対向電極32は、全面一様なベタパターンとなっている。なお、図4(b)に示す矢印Cは、液晶層37(図3参照)の配向方向を示している。
また、図4(b)に示す様に、透明電極100における回折パターンは、複数の同心円状に配置された帯状パターン電極100a〜100fを有し、引き出し電極100gによって束ねて接続されている。また、各帯状パターン電極100a〜100f間に空隙領域101a〜101fを有する。なお、後述するように、帯状パターン電極100a〜100fの幅および空隙幅は、下記式から見積もられる値に対し、周辺部ほどその調整量が大きくなるように設定されている。この電極幅および空隙幅の具体的な設定方法については、後段で説明する。
そして、図4(a)(b)に示すパターンを有する液晶パネルによれば、図4(c)、図4(d)に示すように、液晶パネルの液晶層に一様な電界を印加すると、回折パターンの中央部での位相量差(φA10、φB10)と、周辺部での位相量差(φA11、φB11)は異なった値を示しているが、本実施形態の透明電極100は、帯状パターン電極の電極幅および空隙幅が、透明電極100と透明対向電極32とで挟持される液晶層に電圧をかけることで、液晶パネルに入射する光ビームに対して作用する回折効率が、液晶層に与える位相変調領域の全ての領域で一定となる様に調整されているので、同図に破線で示した、従来の液晶パネルにおける位相量分布(81A、81B)よりも、帯状パターン電極の領域と空隙領域間の位相量差が大きい位相分布(82A,82B)とする事ができている。このときの位相量差は、φA11>φB11の関係となっている。
なお、図4(b)に示す回折パターンは一例であって、帯状パターン電極の本数や、電極幅及び間隔は、通過する光ビームの波面形状の球面成分の曲率半径が所望の値となる様に利用するシステムに合わせて、最適なものを選択することが可能である。また、帯状パターン電極と空隙領域が入れ替わった構成とする事もできる。
次に、本実施形態における、具体的な電極パターンの設定手法について詳細に説明する。
まず、使用する光ビームの波長に対して、λ/2の位相量差を発生させて、回折素子として機能させるために、下記(6)式に基づき帯状パターン電極のピッチを決定する。なお、下記式(6)は、従来構成で使用している式と同じである。
rm=(2×m×f×λ)1/2 ・・・・・(6)
(光ビームの波長をλ、焦点距離をf、複数の帯状パターン電極の中心からの個数をm、m番目の帯状パターン電極のピッチをrm)
次に、ここで得られた帯状パターン電極のピッチから、各帯状パターン電極100a〜100fの電極幅と、各電極間の間隔である空隙幅を決定する。
ところが、ここで決定された電極幅、空隙幅でパターンを設定すると、従来の構成の課題の欄(図15)に示したように、特に回折パターンの外周部で所望の位相量分布が得られず、結果として一部の光ビームが適切に回折されない。そこで、本実施形態では、位相量分布を与える領域を円環状に複数に分割し、分割された各領域毎に、上記式(6)に基づき決定された帯状パターン電極の幅と空隙幅を調整する手法を採用した。
図5は、図4(b)に示した透明電極100に形成された回折パターン設定の手法を示す図である。図中のrmeとrmsは図13に示したのと同様に、式(3)式(4)によって決められた帯状パターン電極及び空隙領域の半径を表しているので、ここでの詳細な説明は割愛する。
図5に示す、空隙幅が比較的広い中央部では、図15(b)及び(f)に示したように、位相量差が目的の略λ/2を得られているので、従来のやり方と同様に、帯状パターン
電極100a〜100bの幅と空隙領域101a〜101cの幅を設定する。一方、空隙幅が比較的狭い周辺部(空隙領域101d〜101f)では、図15(d)及び(h)に示したように、空隙領域101d〜101fで液晶分子を所定の位置よりも余計に立ち上がってしまうために、所望の位相量差がとれ難くなる。ここで、空隙領域の液晶分子を余計に立ち上がらせてしまうのは、隣接する帯状パターン電極からの電界漏れが原因であるので、隣接する帯状パターン電極100c〜100fを削って、空隙領域101d〜101fを広げればよい。つまり、回折パターンの周辺部の隣接する帯状パターン電極を削って空隙領域を広げることで、空隙領域にある液晶分子の所定の位置からの余計な立ち上がりを抑える事ができ、結果として、空隙領域と帯状パターン電極との位相量差を大きく取ることができる。この様にして、各帯状パターン電極幅が、光ビームが位相変調される全ての領域内で、回折効率が一定となる様に調整され、結果としてその調整量は、周辺部にゆくほど多くなる。
次に、回折パターンの周辺部における液晶分子の挙動について説明する。特にここでは、所定幅よりも空隙領域を広げたことによって、十分な位相量差を得ることが出来る点について詳しく説明する。図6(a)は、図4(b)に示した透明電極100を有する液晶パネルにおいて、OA方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図6(b)は、図6(a)に示す回折パターンの位相量分布を示す図である。
実際には、帯状パターン電極は、回折パターンの周辺部に行くほど、徐々にその幅及び間隔が狭くなるように設定されているが、図中では、説明の便宜上同じ幅の帯状パターン電極が同じ間隔で複数並んでいる例を示している。ここで、透明電極100と透明対向電極32との間に所定の電位差を発生させると、図6(a)に示す液晶分子137f、137g、137h、137i及び137jの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。そして、空隙領域で発生する電界漏れ141は、その空隙領域に存在する液晶分子を余計に立ち上がらせる事になり、結果として帯状パターン電極と空隙領域間の位相量差を小さくしてしまう。そこで、パターン設計により決定された空隙幅が狭い場合には、帯状パターン電極を削って空隙幅を広く設定することで、隣接する帯状パターン電極間で発生する電界漏れ141による、液晶分子の余計な立ち上がりを防ぐことができ、回折パターンの外周部分であっても、所望の位相差量を得ることが出来る様になる。
そして、図6(b)に示す様に、このときの位相量分布95における位相量差は、φA11となる。この領域ではパターンピッチが狭く電界漏れ141の影響を受けやすいが、帯状パターン電極間の空隙幅は予め広げられているため、図に示すように、隣接する帯状パターン電極からの電界漏れ141の影響は少ない。従って、この空隙領域では液晶分子の余計な立ち上がりが抑えられるので、位相量差φA11を従来の値よりもλ/2に近づけることができる。この様に、本図に破線で示した、従来の構成における位相量分布92(図15(d)で示した位相量分布)と比較すると、本実施形態における位相量分布95が明らかに改善していることが判る。
図6(c)は、図4(b)に示す透明電極100を有する液晶パネルにおいて、OB方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図6(d)は、(c)図に示す回折パターンの位相量分布を示す図である。
ここで、透明電極100と透明対向電極32との間に所定の電位差を発生させると、図6(c)に示す液晶分子137p、137q、137r、137s及び137tの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。この
領域では液晶分子の配向方向Cと帯状パターン電極の配設方向が直交しているため、図4(a)に示した電界漏れ141の影響だけでなく、隣接する液晶分子同士の影響も受けやすい。そのため空隙領域の液晶分子は、図6(a)に示した場合よりも液晶が立ち上がり易くなる。
そして、図6(d)に示す様に、このときの位相量分布96における位相量差は、φB11となる。この領域ではパターンピッチが狭く電界漏れ141の影響を受けやすいが、帯状パターン電極間の空隙幅が予め広げられているため、図に示すように隣接する帯状パターン電極からの電界漏れ141の影響は少なくなる。また、帯状パターン電極の配設方向と液晶分子の並びが略垂直な位置関係にあるため、隣接する液晶分子同士の影響を受けやすく、図6(a)よりも液晶分子が立ち上がり易くなり、φA11>φB11の関係となる。ここで、この位相量分布96と本図に破線で示した、従来の構成における位相量分布94(図15(h)で示した位相量分布)とを比較して判るように、従来の構成よりも、明らかに位相量差をλ/2に近づけることができる。
このように、帯状パターン電極間の空隙幅を広げるように調整することによって、図6(b)、図6(d)に示す様に、帯状パターン電極の周辺部の位相量分布が改善する事が可能となった。また、図4(b)に示すような回折パターンを有する透明電極100を配した液晶パネル30を用い、回折パターンの外周部分の空隙幅を、位相変調する全ての領域内で回折効率が一定となる様に、電極幅を削って調整することによって、有効光束の範囲内において、均一な位相量分布を有する階段状の位相変調を与えることが可能となった。
ここで、従来と本実施形態における、0次光効率の変化を測定したときのデータを示す。図7は、回折格子における空隙幅を変えたときの回折効率の変化量を示しており、横軸に液晶パネルの液晶層に掛ける電圧を、縦軸に0次光の回折効率を表した。なお、本図(a)は、本実施例における回折パターン中心部の0次光効率の変化を示した図であり、本図(b)は、本実施例と従来の回折パターンにおける外周部の0次光効率の変化の違いを示した図である。また、図中の測定は液晶層の厚みを10μmとした液晶パネルに対して、波長670nmのレーザ光を用いて、0次光効率を測定したデータを示した。
図7(a)に示す様に、図4(b)OA方向の中心部では、0次光効率が0〜1.5Vrmsでほぼ100%となり、2.3Vrmsのa点でほぼ0%となっていることから、このエリアでは0次光が完全に消失していることが判る。この様な挙動は、従来の液晶光学素子であっても同じである。
それに対し、図7(b)に示す、図14(b)OA方向の外周部分における従来の液晶光学素子におけるプロファイルP2(図15の(c)に相当するデータであって、回折ピッチ20μmに対して空隙幅を10μmとしたときのデータ)によれば、0次光効率が、100%から55%(b点)までしか低下しないことが判る。
ここで、回折ピッチ20μmに対して空隙幅を14μmに広げて調整した、本実施形態の液晶光学素子の構成とすれば、図6(a)に示した液晶の挙動を示して、図4(b)OA方向の外周部分におけるプロファイルP3に示す様に、2.3Vrms付近で0次光効率を約35%(c点)まで低下する。
この様に、本実施形態における回折パターンにおけるプロファイルP3によれば、明らかに0次光効率が、従来構成におけるプロファイルP2に比べて高電圧側で大きく減少しており、レンズのパワーを決める回折ピッチを変える事なく、位相変調をするすべての領域内の回折効率が一定となるように、帯状パターン電極の空隙幅を調節できていることが
判る。
なお上記説明では、OA方向外周部における0次光効率の変動について説明したが、OB方向の外周部における作用も程度の差こそあれ同じであるので、ここでの説明は割愛する。
この様にして、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させて共通する対物レンズを利用する上で、従来の構成で発生していた、回折パターンを通過する一部の光ビームが適切に回折されずに有効利用できなくなることを防止でき、光ビームを有効利用することができようになった。
[第2の実施形態]
[透明電極の他の構成例についての説明:図8]
次に、液晶光学素子の他の電極パターンの例について説明する。図8は、透明電極と透明対向電極の他の構成例を説明するための図である。
図8(a)は、透明基板31(図3参照)に形成された透明対向電極150のパターンを示した図である。図8(b)は、第1の実施形態(図4(b)、図5)で示した構成例と同じ回折パターンを有する透明電極100である。図8において、矢印Cは液晶層37の配向方向を示している。図8(c)は、図8(b)のOA方向における位相量分布を示し、図8(d)は、OB方向の位相量分布を示している。
第1の実施形態(図4(a)に示した電極構成)では、透明対向電極32をベタ電極としたので、全ての領域での位相量差を完全に等しくすることができなかった。
そこで本実施形態では、図8(a)に示す様に、透明対向電極150を、円環形状の帯状パターン電極中心を通る分割線で、第1の領域151、第2の領域152、第3の領域153及び第4の領域154の4つの領域に分割し、各領域を電気的に絶縁して区切ることで、それぞれ透明電極100との間に独立に電位差を掛けることが出来る様にした。
第1の領域151は、回折パターンの中心部側であって、液晶層の配向方向Cと帯状パターン電極100a〜100fとが略平行する方向の領域である。第2の領域152は、回折パターンの中心部側であって、液晶層の配向方向Cと帯状パターン電極100a〜100fとが略直交な領域である。第3の領域153は、回折パターンの周辺部側であって、液晶層の配向方向Cと帯状パターン電極100a〜100fとが略平行する方向の領域である。第4の領域154は、回折パターンの周辺部側であって、液晶層の配向方向Cと帯状パターン電極100a〜100fとが略直交な領域である。
ここで、第1の領域151は、回折パターンの中心部側で対向する透明電極100における帯状パターン電極100a〜100fのピッチが比較的広く、且つ帯状パターン電極が液晶層の配向方向Cと略平行する方向にあることから、図15(a)の領域に対応している。第2の領域152は、回折パターンの中心部側で対向する透明電極100における帯状パターン電極100a〜100fのピッチが比較的広く、且つ帯状パターン電極が液晶層の配向方向Cと略直交にあることから、図15(e)の領域に対応している。第3の領域153は、回折パターンの周辺部側で対向する透明電極100における帯状パターン電極100a〜100fのピッチが比較的狭く、且つ帯状パターン電極が液晶層の配向方向Cと略平行する方向にあることから、図15(c)の領域に対応している。第4の領域154は、回折パターンの周辺部側で対向する透明電極100における帯状パターン電極100a〜100fのピッチが比較的狭く、且つ帯状パターン電極が液晶層の配向方向Cと略直交にあることから、図15(g)の領域に対応している。
ここで、各第1〜第4の領域151〜154と透明対向電極150との間に、一律の電位差が生じるようにしてしまうと、図14(c)及び(d)に示したように、回折パターン全体で所望の位相量差を得ることができない。
そこで、図2に示した液晶駆動部40が、透明電極100と第1の領域151との間にV1、透明電極100と第2の領域152との間にV2、透明電極100と第3の領域153との間にV3、透明電極100と第4の領域154との間にV4が発生するように、各帯状パターン電極100a〜100fからなる透明電極100と透明対向電極150に所定の電圧を発生させる。
そして、ここで発生する電位差と位相量差は比例する関係にあるので、発生する電位差を調整することによって、液晶の配向方向に依存しない位相量分布を得ることが可能となった。例えば各領域において、V4>V3>V2>V1というように電位差を調整すればよい。
上記構成として、図8(c)に示す様に、OA方向の中央部(第1の領域151)よりも周辺部(第3の領域153)に電位差を大きく発生させれば、中心部の位相差量φA20に近づけた位相量差量φA21とすることが出来る。従って、透明対向電極を全面ベタとしたとき(第1の実施形態としたとき)の破線で示した位相量分布82Aに比べて、有効光束内5において位相量差を大きくした位相量分布83Aを得る事ができる。
同様に、OB方向の中央部(第2の領域152)よりも周辺部(第4の領域154)の方の電位差を大きく発生させれば、中心部の位相差量φB20に近づけた位相量差φB21とすることが出来る。従って、透明対向電極を全面ベタとしたときの、破線で示した位相量分布82Bに比べて、有効光束内5において位相量差を大きくした位相量分布83Bを得る事ができる。また、第3、第4の領域153、154に印加する電圧を制御すれば、φA21=φB21の関係とすることも出来る。
このように各領域の電位差を調整することによって、図8(c)及び(d)に示す様に、OA方向及びOB方向において、中心部であっても周辺部であってもほぼ等しい位相量差を発生させることが可能となった。また、第2の実施形態で示した透明電極100(図4(b)参照)を有する液晶パネル30を用い、液晶駆動部40によって図8(a)に示す領域毎に発生する電位差を調整することによって、有効光束の範囲内全てにおいて、均一な位相量差を与えることが可能となった。
具体的には、第1の領域151の印加電圧を、図7(a)プロファイルP1におけるa点となるV3=2.3Vrmsに設定し、第3の領域153の印加電圧を、図7(b)プロファイルP3におけるe点となるV1=3Vrmsに設定する。ここでは図示しないOB方向の内周部と外周部のプロファイルを参照して、同様にして得られるV2、V4を設定することで、位相変調させる全ての領域でもって、回折効率を一定とすることができる。
したがって、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させて共通する対物レンズを利用する上で、図16(b)に示す様に、回折パターンを通過する一部の光ビームが適切に回折されずに有効利用できなくなることを防止でき、光ビームを有効利用することができようになった。
[第3の実施形態]
[透明電極と透明対向電極の更に他の構成例の説明:図9]
次に、液晶光学素子の他の電極パターンの例について説明する。図9は、更に他の透明電極と透明対向電極を説明するための図である。
図9(a)は、他の回折パターンにおける、透明対向電極160のパターン例を、図9(b)は、透明電極100のパターン例を示している。また、図9(c)は、図9(b)のOA方向における位相量分布を表し、図9(d)は、図9(b)のOB方向における位相量分布を表している。
図9(a)に示す様に、本実施形態における透明対向電極160は、複数本の帯状パターン電極160a〜160f、引き出し電極160g、および空隙領域161a〜161fを有して構成されている。また、図9(b)に示す様に、これに対向する透明電極100も同様である。つまり、本実施形態における透明電極100と透明対向電極160は、ともに同じパターンでもって対向して配置されている。
この様に構成された液晶パネルは、図9(c)に示すOA方向の周辺部では、位相量分布84Aを取って、位相量差がφA31となり、中央部の位相量分布φA30と同じ位相量差λ/2となる。一方、図9(d)に示すOB方向では、位相量分布84Bを取って、液晶の配向方向Cと帯状パターン電極の方向が略垂直となっているため、周辺部の位相量差が、中心部の位相量差φB30のλ/2とはならずに、φB31となってしまう。
ここで本実施形態では、透明電極100と透明対向電極160を同形状としているので、位相量分布84A、84Bに示す様に、完全には位相量差をλ/2には出来ないが、その位相量差は従来の構成のときに比べて、更には第1の実施形態における、破線で示した位相量分布82A、82Bと比較しても、より位相量差を理想のλ/2に近づけることができていることが判る。
上記説明では、透明電極100、透明対向電極160ともに、外周領域のみの空隙幅を補正した帯状パターン電極を配した例を示したが、透明電極100、透明対向電極160のいずれか一方に、第1の実施形態の構成を適用しても良い。
[本実施形態の透明電極と透明対向電極の作用の説明:図10]
ここで、回折パターンの周辺部における液晶の挙動について説明する。
図10(a)は、図9(b)に示す透明電極100を有する液晶パネルにおいて、OA方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図10(b)は、図10(a)に対応した位相量分布97を示している。位相量分布97における位相量差はφA31である。実際にはこの帯状パターン電極は、周辺部に行くほど、徐々にその帯状パターン電極の幅及び空隙幅が狭くなる様に設定されているが、図中では、説明の便宜上同じ幅の帯状パターン電極が同じ間隔で複数並んでいる例を示している。
本実施形態における透明電極100と透明対向電極160との間に、所定の電位差を発生させると、図10(a)に示す液晶分子237f、237g、237h、237i及び237jの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。この時、空隙幅は第1の実施形態と同等に広げられているため、空隙領域での液晶分子の余計な立ち上がりを抑える事が出来る。さらに、透明電極100と対向透明電極160の帯状パターン電極は液晶層を挟んで同じ位置に形成されているため、空隙領域では帯状パターン電極からの電界漏れ240の影響を少なくする事ができる。そのため、第1の実施形態に示した例よりも、空隙領域の液晶分子の余計な立ち上がりを抑えることができる。なお、空隙幅は液晶層の厚みや液晶分子の弾性定数によっても電界漏れ240の影響は変わるため、各パラメーターを考慮して、空隙幅を設定する方が好ましい。
この様にして、図10(a)に示す様に、透明対向電極160と透明電極100は同じ電極パターン構成としているため、空隙領域の液晶分子の立ち上がりを抑える事が出来、位相量分布を略矩形形状とすることができる。そして、帯状パターン電極と空隙領域の位相量差が強調され、本図に示す第1の実施形態における、破線で示した位相量分布95に比べ、周辺部の位相差φA31を略λ/2に近づける事が出来る。
図10(c)は、図10(b)に示す透明電極100を有する液晶パネルにおいて、OB方向における同心円状に配置された複数の帯状パターン電極の周辺部の断面における液晶分子の挙動を説明するための図である。図10(d)は、図10(c)に対応した位相量分布98を示しており、位相量分布98における位相量差はφB31である。
本実施形態における透明電極100と透明対向電極160との間に、所定の電位差を発生させると、図10(c)に示す液晶分子237p、237q、237r、237s及び237tの様に、配向方向Cに沿って並んだ長針状の液晶分子が徐々に立ち上がるような挙動を示す。図10(a)同様に、空隙幅は予め広げられており、透明電極100と対向透明電極160は液晶層を挟んで同一箇所に形成されているため、空隙領域への電界漏れ241の影響は少ない。また、液晶分子の配向方向Cと帯状パターン電極の配設方向が略直交しているため、図10(a)に示した例よりも、空隙領域の液晶分子の立ち上がりは大きくなってしまうが、従来の構成はもとより、第1の実施形態に比べて、空隙領域の液晶分子の余計な立ち上がりが小さくなる。
そして、図10(d)に示す様に、透明対向電極160と透明電極100は同じ電極パターン構成としているため、空隙領域の液晶分子の余計な立ち上がりを抑える事が出来、帯状パターン電極と空隙領域間の位相量差が強調されて、本図に示す第1の実施形態における、破線で示した位相量分布96に比べ、周辺部の位相差量φB31を略λ/2に近づけることができる。ここで、帯状パターン電極と液晶分子の配向方向の違いから、λ/2よりも小さい位相差φB31(λ/2=φA31>φB31の関係)となる。
このように液晶層に電圧を印加した場合、帯状パターン電極間の空隙幅は、計算により得られる位置から予め広げられているため、隣接する帯状パターン電極間の電界漏れの影響が減り、位相量分布を理想のλ/2に近づける事が出来る。また本形態により位相量分布を略矩形形状に近づけることが出来るので、第1の実施形態(図4(a))の例よりも、より回折効率の高い液晶光学素子とする事ができる。
したがって、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させて共通する対物レンズを利用する上で、従来の構成の様に、回折パターンを通過する一部の光ビームが適切に回折されずに有効利用できなくなることを防止でき、光を有効利用することができようになった。
[第4の実施形態]
[透明電極と透明対向電極の更に他の構成例の説明:図11]
図11は、透明電極100と透明対向電極の更に他の構成例を説明するための図である。図11(a)は、透明対向電極170のパターン構成例を示し、図11(b)は、回折パターンを有する透明電極100を示している。
図11(a)に示した透明対向電極170の回折パターンは、複数の同心円状に配置された帯状パターン電極がそれぞれ、帯状パターン電極中心を通る分割線でもって4分割された、分割電極170a〜170xの分割パターンを有する構成となっている。この帯状パターン電極を分割した分割電極170a〜170xは、第2の実施形態(図8(a))における透明対向電極150の第1〜第4の領域151〜154に対応して、帯状パター
ン電極を分割したものである。
詳細には、帯状パターン電極の中心部領域は、帯状パターン電極が4分割された分割電極170a〜170dと、帯状パターン電極が4分割された分割電極170e〜170hと、帯状パターン電極が4分割された分割電極170i〜170lと、帯状パターン電極が4分割された分割電極170m〜170pと、帯状パターン電極が4分割された分割電極170q〜170tと、帯状パターン電極が4分割された分割電極170u〜170xとから構成されている。なお、本図に示した分割パターンの構成は一例であって、必要に応じて、さらに細分化した形態としても良い。
また、図11(b)に示す透明電極100は、第1〜第3の実施形態と同じく、帯状パターン電極100a〜100fからなる。なお、図11(a)、図11(b)に示す回折パターンは一例であって、帯状パターン電極の本数や、電極の幅及び間隔は、通過する光ビームの波面形状の球面成分の曲率半径が所望の値となる様に利用するシステムに合わせて最適なものを選択することが可能である。また、図11(b)における矢印Cは、液晶層の配向方向を示している。
また、第2の実施形態に示した分割領域(図8(a)参照)と対応させると、第1の領域には170a、170e、170i、170c、170g、170kが、第2の領域には170b、170f、170j、170d、170h、170lが、第3の領域には170m、170q、170u、170o、170s、170wが、第4の領域には170n、170r、170v、170p、170t、170xが、それぞれ配置されている。
そして、第3の実施形態で示した例(図9(c)(d))によれば、電圧を印加するとパターンの周辺部の位相量差はφA31>φB31となってしまい、回折パターン内全体で、均一な位相量分布を作ることが出来ないことを示したが、本実施形態では、液晶駆動部が透明電極100と第1の領域との間にV1、透明電極100と第2の領域との間にV2、透明電極100と第3の領域との間にV3、透明電極100と第4の領域との間にV4が発生するように、各帯状パターン電極100a〜100fからなる透明電極100と透明対向電極170に所定の電圧を印加することが出来る。
ここで発生する電位差と位相量差は比例する関係にあるので、各領域で発生させる電位差を調整することによって、全ての領域においてほぼλ/2の位相量差を得ることができる。例えば、各領域において、V4>V3>V2>V1というように電位差を調整すればよい。
このように電位差を調整することによって、図11(c)及び(d)に示す位相量分布85A、85B様に、OA方向及びOB方向において、回折パターンの中心部の位相量分布φA40、φA41であっても周辺部の位相量分布φB40、φB41であっても、略λ/2の位相量差をそれぞれ発生させることが可能となった。そして、図11に示すような回折パターンを有する透明電極100、透明対向電極170を有する液晶パネル30を用い、液晶駆動部によって領域毎に発生する電位差を調整することによって、有効光束の範囲内全てにおいて、略λ/2程度の位相量差を有する位相変調を与えることが可能となった。
したがって、対物レンズの焦点位置を実質的に変化させて共通する対物レンズを利用する上で、図16(b)に示した様に、回折パターンを通過する一部の光ビームが適切に回折されずに有効利用できなくなることを防止でき、光を有効利用することができようになった。