JP5066699B2 - 粘膜組織由来の線維芽細胞、これを含有する組織改善材及びこれらの製造方法並びに利用方法 - Google Patents

粘膜組織由来の線維芽細胞、これを含有する組織改善材及びこれらの製造方法並びに利用方法 Download PDF

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Description

本発明は、粘膜組織由来の線維芽細胞、これを含有する組織改善材及びこれらの製造方法並びに利用方法に関し、特に、活性の高い線維芽細胞の製造及び利用に関する。
傷病、加齢、先天的要因等の原因によって不具合が生じた生体組織に、生きた細胞を移植することによって、当該生体組織の状態を改善する医療技術(いわゆる再生医療技術)の開発が進められている。
例えば、国際公開第2007/001016号には、ヒト又は他の哺乳動物の口腔内組織由来の線維芽細胞と、薬学的に許容され得る媒質と、を含む皮膚組織改善材が開示されている。
国際公開第2007/001016号
しかしながら、従来、粘膜組織から採取された線維芽細胞が十分な活性を有しない場合があった。すなわち、本発明の発明者は、ヒト患者の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞の自家移植によって皮膚組織等の生体組織を改善する技術を開発しているが、その開発の過程で、口腔粘膜組織から採取された線維芽細胞が移植に使用する上で十分な活性を有しない症例を経験した。
具体的に、例えば、一部の患者(例えば、高齢の患者)の口腔粘膜組織から線維芽細胞を採取した場合に、培養によって当該線維芽細胞を移植に必要な数まで増殖させることができず、又は当該線維芽細胞を自家移植しても十分な組織改善効果が得られないことがあった。
このような問題が発生した場合、患者は、口腔粘膜組織を再度採取され、又は線維芽細胞の自家移植を断念せざるを得ない等、肉体的及び精神的な苦痛を受けることとなっていた。
そこで、発明者は、独自に鋭意検討を重ね、その結果、粘膜組織のうちヨウ素溶液によって濃く染色される部分から活性の高い線維芽細胞を確実に採取できることを見出した。
本発明は、このような発明者独自の知見に基づいて為されたものであり、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞、これを含有する組織改善材及びこれらの製造方法並びに利用方法を提供することをその目的の一つとする。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る態様は、粘膜組織をヨウ素溶液で染色し、染色濃度に基づいて、グリコーゲン顆粒の多い領域を特定する領域特定工程と;前記特定された領域から線維芽細胞を取得できる粘膜組織片を採取する組織片採取工程と;7日間の培養中における前記粘膜組織片より得られた細胞の細胞増殖率、コラーゲン産生量及び培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量を測定する測定工程と;前記コラーゲン産生量、前記細胞増殖率及び前記培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量に基づいて線維芽細胞を選別する細胞選別工程と;前記選別された線維芽細胞を培養する細胞培養工程と;を備えることを特徴とする細胞選択方法である。本発明によれば、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞を提供することができる。
ここで、前記粘膜組織は口腔粘膜組織であることが好ましい。また、前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記細胞増殖率が、培養開始時の細胞数の15%以上であることが好ましい。
さらに、前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記3種類の成長因子が、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、及び上皮成長因子であり、各成長因子の培養上清中への分泌量は、血管内皮増殖因子が30pg/mgタンパク質以上、ケラチノサイト増殖因子が500pg/mgタンパク質以上、かつ上皮成長因子が500pg/mgタンパク質以上であることが好ましい。
また、上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る別の態様は、粘膜組織をヨウ素溶液で染色し、染色濃度に基づいて、グリコーゲン顆粒の多い領域を特定する領域特定工程と;前記特定された領域から線維芽細胞を取得できる粘膜組織片を採取する組織片採取工程と;7日間の培養中における前記粘膜組織片より得られた細胞の細胞増殖率、コラーゲン産生量及び培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量を測定する測定工程と;前記コラーゲン産生量、前記細胞増殖率及び前記培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量に基づいて線維芽細胞を選別する細胞選別工程と;前記選別された線維芽細胞を培養する細胞培養工程と;前記細胞培養工程で培養された前記線維芽細胞を用いて組織改善材を作製する組織改善材作製工程と、を備える組織改善材の作製方法である。
こうすれば、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞を含有する組織改善材を提供することができる。また、この場合、上記方法は、前記組織改善材を生体の組織に移植する工程をさらに含むこととしてもよい。こうすれば、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞を含有する組織改善材を移植する医療技術を提供することができる。また、上記方法において、前記粘膜組織は口腔粘膜組織であることとしてもよい。こうすれば、特に活性の高い線維芽細胞を利用することができる。
ここで、前記粘膜組織は口腔粘膜組織であることが好ましい。また、前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記細胞増殖率が、培養開始時の細胞数の15%以上であることが好ましい。
さらに、前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記3種類の成長因子が、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、及び上皮成長因子であり、各成長因子の培養上清中への分泌量は、血管内皮増殖因子が30pg/mgタンパク質以上、ケラチノサイト増殖因子が500pg/mgタンパク質以上、かつ上皮成長因子が500pg/mgタンパク質以上であることが好ましい。
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るさらに別の態様は、上記の組織改善材の作製方法によって作製された組織改善材である。本発明によれば、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞を含有する組織改善材を提供することができる。また、前記粘膜組織は、口腔粘膜組織であることとしてもよい。こうすれば、特に活性の高い線維芽細胞を含有する組織改善材を提供することができる。
本発明によれば、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞、これを含有する組織改善材及びこれらの製造方法並びに利用方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る方法の一例に含まれ得る主な工程を示す説明図である。 ヨウ素溶液で染色されたヒト口腔粘膜組織の写真の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部からの線維芽細胞の収率を評価した結果の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部から得られた線維芽細胞の増殖能を評価した結果の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部から得られた線維芽細胞のコラーゲン産生能を評価した結果の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部から得られた線維芽細胞のVEGF分泌能を評価した結果の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部から得られた線維芽細胞のKGF分泌能を評価した結果の一例を示す説明図である。 口腔粘膜組織の濃染部及び薄染部から得られた線維芽細胞のEGF分泌能を評価した結果の一例を示す説明図である。 ヒト患者に由来する細胞により分泌された増殖因子を当該ヒト患者に注入する再生医療技術の概念を示す説明図である。
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。
まず、本発明の概要について説明する。図1は、本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)の一例に含まれ得る主な工程を示す説明図である。すなわち、本方法は、図1に示す工程11〜工程16の全部又は一部を含む方法とすることができる。
例えば、本方法は、粘膜組織をヨウ素溶液で染色する工程11と、染色された当該粘膜組織のうち他の部分より濃く染色された部分(以下、「濃染部」ということがある。)を特定する工程12と、当該粘膜組織のうち当該特定された濃染部から粘膜組織片を採取する工程13と、採取された当該粘膜組織片に由来する線維芽細胞を培養する工程14と、を含む方法とすることができる。
この場合、本方法において特徴的なことの一つは、粘膜組織から粘膜組織片を採取する前に、当該粘膜組織のうち、活性の高い線維芽細胞を含む部分を予め特定する点である。すなわち、上述のとおり、本発明の発明者は、粘膜組織のうちヨウ素溶液によって濃く染色される部分から活性の高い線維芽細胞を効率よく採取できるという独自の知見を得て、本発明を完成するに至った。
そこで、本方法においては、線維芽細胞源としての粘膜組織片の採取に先立って、粘膜組織をヨウ素溶液で染色し(工程11)、次いで、染色された当該粘膜組織のうち、他の部分より濃く染色されている部分を特定する(工程12)。そして、染色された粘膜組織のうち、予め特定された濃染部から粘膜組織片を選択的に採取し(工程13)、当該粘膜組織片に由来する線維芽細胞を培養する(工程14)。
こうして培養される線維芽細胞は、染色された粘膜組織に含まれる線維芽細胞のうち、特に活性の高い線維芽細胞である。したがって、本方法は、移植その他の用途に利用できる、活性の高い粘膜組織由来の線維芽細胞を確実に提供する。
また、例えば、既に濃染部から採取された粘膜組織片が得られている場合(例えば、本発明の実施者が、当該粘膜組織片の提供を受けた場合)、本方法は、工程11〜工程13を含まず、工程14を含むことができる。
すなわち、この場合、本方法は、ヨウ素溶液で染色された粘膜組織のうち他の部分より濃く染色された部分から採取された粘膜組織片に由来する線維芽細胞を培養する工程14を含む方法とすることができる。このような本方法もまた、工程11〜工程14を含む上述の方法と同様に、移植その他の用途に利用できる、活性の高い粘膜組織由来の線維芽細胞を確実に提供する。
また、例えば、本方法は、工程14で培養された線維芽細胞を含有する組織改善材を作製する工程15をさらに含むことができる。この場合、本方法は、工程11〜工程15を含む方法、又は工程11〜工程13を含まず工程14及び工程15を含む方法とすることができる。
このように工程15を含む本方法は、上述のようにして得られた活性の高い線維芽細胞を含有し、生体組織に移植されることで当該生体組織の状態を効果的に改善する組織改善材を確実に提供する。
また、例えば、本方法は、工程15で作製された組織改善材を生体の組織に移植する工程16をさらに含むことができる。この場合、本方法は、工程11〜工程16を含む方法、又は工程11〜工程13を含まず工程14〜工程16を含む方法とすることができる。
このような本方法は、上述のようにして製造された組織改善材を生体組織に移植することにより、当該生体組織の状態を確実に改善する医療技術を提供する。
次に、本発明の詳細について説明する。本方法に含まれる工程11においては、粘膜組織片を採取し得る粘膜組織のうち、当該粘膜組織片を採取する部分を予め決定するために、当該粘膜組織をヨウ素溶液で染色する。
ここで使用されるヨウ素溶液は、染色の有効成分としてヨウ素を含有する溶液であれば特に限られない。すなわち、このヨウ素溶液は、粘膜組織と接触することによって、当該ヨウ素溶液に含有されるヨウ素と、粘膜組織に含有されるグリコーゲン顆粒と、の呈色反応(ヨウ素デンプン反応と同様の反応)により、当該粘膜組織を染色できる態様で、当該ヨウ素を含有する。
ヨウ素溶液に含有されるヨウ素の濃度は、当該ヨウ素溶液が、粘膜組織に含有されているグリコーゲン顆粒の量に応じた濃さで当該粘膜組織を染色できる範囲であれば特に限られない。具体的に、ヨウ素濃度は、例えば、1.2〜6.0g/100mLの範囲内とすることができ、好ましくは1.2〜3.0g/100mLの範囲内とすることができる。
したがって、ヨウ素溶液としては、例えば、ヨウ素、ヨウ化カリウム及びグリセリンを含有する水溶液である複方ヨード・グリセリン(ルゴール液)を好ましく使用することができる。なお、このルゴール液は、ヨウ素を上述の範囲の濃度で含有し、口腔癌や、食道癌等の上部消化管癌の診断に使用されている染色液である。
工程11において染色の対象となる粘膜組織は、線維芽細胞源としての粘膜組織片を採取可能であって、ヨウ素溶液によって染色可能なものであれば特に限られない。すなわち、グリコーゲン顆粒を蓄積し得る粘膜上皮層と、線維芽細胞を含む結合組織層と、を有する粘膜組織であれば、任意の粘膜組織を利用できる。
なお、粘膜上皮層は、粘膜組織の表層部分を構成し、単層の又は重層化した扁平な粘膜上皮細胞を含んでいる。また、結合組織層は、粘膜上皮層に被覆され、線維芽細胞と、当該線維芽細胞の間を埋める細胞外マトリックス(コラーゲン等)と、を含んでいる。
そして、粘膜組織においては、主に粘膜上皮層に、粘膜上皮細胞が産生したグリコーゲン顆粒が蓄積される。したがって、粘膜組織においては、主に粘膜上皮層がヨウ素溶液によって染色される。
具体的に、このような粘膜組織としては、例えば、口腔粘膜組織を挙げることができる。口腔粘膜組織は、粘膜組織片の採取が比較的容易であり、活性の高い線維芽細胞が得られる等の利点があるため、特に好ましい。なお、口腔粘膜組織は、口腔内の表層部分を構成する粘膜組織であれば特に限られず、歯肉組織等の歯周組織や、頬粘膜組織を含む。
また、粘膜組織は、生体の粘膜組織とすることができ、又は生体から分離された粘膜組織(例えば、外科手術で摘出された臓器に含まれる粘膜組織)とすることもできる。これらの中でも、生体の粘膜組織は、活性の高い線維芽細胞を効率よく採取できる等の利点があるため、特に好ましい。
また、移植用の線維芽細胞を得ることを目的とする場合には、移植する生体との免疫適合性に優れた線維芽細胞が得られる粘膜組織を利用することが好ましい。この点、線維芽細胞を移植される生体自身の粘膜組織は、移植後の免疫拒絶反応を確実に回避できる等の利点があるため、特に好ましい。具体的に、例えば、ヒト患者に移植する線維芽細胞を得る場合には、当該ヒト患者自身の粘膜組織を利用することが好ましい。
粘膜組織をヨウ素溶液で染色する方法は、当該粘膜組織と当該ヨウ素溶液とを接触させることができる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、口腔粘膜組織を染色する場合には、口腔内にヨウ素溶液を含ませて所定時間保持させる方法、又はガーゼや綿棒を使用してヨウ素溶液を口腔粘膜組織に塗布する方法により染色を実施することができる。
ヨウ素溶液と接触した粘膜組織は、その粘膜上皮層の全部又は一部が、ヨウ素とグリコーゲン顆粒との呈色反応に特有の色で染色される。すなわち、例えば、口腔粘膜組織は、ヨウ素溶液によって茶褐色に染まる。
また、一般に、所定範囲の粘膜組織に含有されるグリコーゲン顆粒の量は、当該所定範囲内で均一ではない。すなわち、粘膜組織の一部と他の一部とでは、蓄積されているグリコーゲン顆粒の量が異なる。
このため、ヨウ素溶液で染色された粘膜組織のうち、グリコーゲン顆粒の含有量が多い部分は、グリコーゲンの含有量が少ない部分に比べて濃く染色される。具体的に、例えば、所定範囲の口腔粘膜組織のうち、第一の範囲が第二の範囲に比べて多くのグリコーゲン顆粒を含有している場合、ヨウ素溶液によって、当該第一の範囲は濃い茶褐色に染色され、当該第二の範囲は薄い茶褐色に染色される。
こうして、工程11においては、粘膜組織片を採取し得る粘膜組織の全表面を、グリコーゲンの含有量に応じた濃さで染色する。
工程12においては、工程11で染色された粘膜組織のうち、粘膜組織片を採取する部分を決定する。すなわち、まず、ヨウ素溶液で処理された粘膜組織の全範囲を観察して、当該粘膜組織のうち、染色に特有の色(例えば、茶褐色)を呈する部分(以下、「着色部分」という。)を、当該色を呈しない部分と区別する。
次に、この着色部分における色の濃さの分布を観察して、当該着色部分のうち、当該色が他の部分に比べて相対的に濃い部分を特定する。具体的に、例えば、ヨウ素溶液によって不均一な茶褐色に染色された口腔粘膜組織のうち、周囲と比較して相対的に最も濃い茶褐色に染色されている濃染部を特定する。
ここで、図2には、ルゴール液で染色されたヒト患者の口腔粘膜組織を撮影した写真の一例を示す。図2には、染色処理を受けた後の口腔内が示されている。すなわち、図2には、上唇L1と下唇L2との間に、歯T及び舌Nとともに、口腔粘膜組織20が示されている。
そして、図2においては、口腔粘膜組織20のうち、破線で囲んだ第一の部分21及び第二の部分22が、これらの周辺部分23に比べて濃い茶褐色を呈する濃染部として特定されている。すなわち、これら濃染部21,22の特定は目視での観察によって容易に行うことができる。なお、図2に示す例において、濃染部21,22は、口腔粘膜組織20のうち歯肉組織24以外の部分となっている。
こうして、工程12においては、口腔粘膜組織のうち濃染部を、工程13において実際に粘膜組織片を採取する部分に決定する。
なお、粘膜組織片を採取する部分として特定される部分は、粘膜組織のうち、最も濃い色に染色されている部分に限られない。すなわち、例えば、着色部分を色の濃さが互いに異なる3以上の部分に区分けすることができ、且つ最も色が濃い部分から粘膜組織片を採取することが好ましくない事情(例えば、粘膜組織片の採取がヒト患者に過度の苦痛を与えるといった事情)がある場合には、最も色が薄い部分に比べて濃く染色されている他の部分に決定することもできる。また、採取すべき粘膜組織片のサイズに比べて、最も濃い部分の範囲が小さい場合には、当該最も濃い部分に加えて、次に濃い部分も、粘膜組織片を採取する部分とすることができる。
また、色の濃さは、評価の対象となった粘膜組織の所定範囲内で相対的に判断する。すなわち、色の濃さには個体差があるため、絶対的な基準で色の濃さを判断することは容易でない。一方、各生体(例えば、各ヒト患者)の粘膜組織のうち相対的に濃い色で染色される部分であれば、当該粘膜組織のうち相対的に活性の高い線維芽細胞を確実に取得できる。
もちろん、着色部分から濃染部を抽出する際に複数の生体間で共通に適用できる判断基準を確立することができれば、当該基準に基づいて色の濃さを判断することもできる。なお、粘膜組織の色の濃さを判断する方法は特に限られず、例えば、上述のとおり、観察者が目視で容易に判断することができる。
こうして、工程12においては、比較的広範な粘膜組織のうち、所定範囲の濃染部を、粘膜組織片を採取する部分として選択する。
工程13においては、工程12で特定された濃染部から、線維芽細胞源である粘膜組織片を選択的に採取する。すなわち、例えば、広範な粘膜組織のうち、活性の高い線維芽細胞が確実に得られる濃染部のみから粘膜組織片を採取する。摘出された粘膜組織片は、上述のとおり粘膜上皮層と結合組織層とを含んでいる。
粘膜組織片のサイズは、移植その他の用途に応じて適宜決定する。すなわち、例えば、線維芽細胞を移植に使用する場合には、当該線維芽細胞を培養系で増幅することも考慮して、当該移植に必要な数の当該線維芽細胞が得られるサイズの粘膜組織片を採取する。具体的に、皮膚組織への自家移植のためにヒト患者から口腔粘膜組織片を採取する場合には、例えば、3〜5mm角、厚さ3mm程度の口腔粘膜組織片を採取する。
粘膜組織片を採取する方法は特に限られない。すなわち、例えば、外科用のメスやハサミ等の器具を用いて、濃染部の所定範囲を所定深さだけ切り出すことにより、所定サイズの粘膜組織片を生体から容易に分離することができる。なお、採取された粘膜組織片は、濃染部に由来するため、その粘膜上皮層はヨウ素溶液による染色に特有の色を呈している。
こうして、工程13においては、粘膜組織のうち、相対的に活性の高い線維芽細胞を含む粘膜組織片を確実に採取する。
工程14においては、工程13で採取された粘膜組織片に由来する線維芽細胞を培養する。すなわち、まず、上述のようにして生体から分離された粘膜組織片を準備し、次いで、当該粘膜組織片に由来する線維芽細胞を生体外(in vitro)で培養する。
ここで、粘膜組織片に由来する線維芽細胞には、採取された粘膜組織片に含まれている線維芽細胞(初代線維芽細胞)と、当該初代線維芽細胞が増殖することにより生成された線維芽細胞と、の両方が含まれる。
線維芽細胞を培養する方法は、粘膜組織片に由来する線維芽細胞を選択的に培養することができ、且つ当該線維芽細胞の活性を過度に損なわない方法であれば特に限られず、公知の方法を適用することができる。
すなわち、例えば、線維芽細胞の接着に適した表面を有する培養基材上に粘膜組織片を載置し、当該粘膜組織片を、所定の培養液中、所定の温度(例えば、37℃)、所定の雰囲気下(例えば、5%二酸化炭素/95%空気)で培養する。この場合、粘膜組織片に含まれていた線維芽細胞の一部は、培養基材に接着するとともに増殖し、当該培養基材上に広がる。なお、粘膜組織片は、メスやハサミ等の器具や酵素処理によって、その粘膜上皮層が予め除去され、主に結合組織層から構成されるものとした後に使用することもできる。
培養基材としては、線維芽細胞が接着することができ、且つその活性を過度に損なうことなく増殖できるものであれば特に限られず、例えば、樹脂製の培養ディッシュや培養フラスコ、多孔質基材、ゲル状基材等、公知の基材を使用することができる。
培養液としては、線維芽細胞がその活性を過度に損なうことなく増殖できるものであれば特に限られず、例えば、α−MEM培地やDMEM培地等の基礎培地に、血清や抗生物質等の他の成分を添加して調製された培養液等、公知の培養液を使用することができる。
なお、移植に使用することを目的としつつ、血清が添加された培養液中で線維芽細胞を培養する場合には、免疫適合性の観点から、当該血清は、移植する生体自身の血清又は当該生体と同種の血清とすることが好ましい。
すなわち、例えば、ヒト患者への自家移植のために、当該ヒト患者自身の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞を、血清が添加された培養液中で培養する場合には、当該血清として当該ヒト患者自身の血清を使用することが好ましい。もちろん、血清を添加しない培養液(無血清培養液)を使用することもできる。
こうして確立された培養系は、例えば、粘膜組織由来の線維芽細胞以外の細胞を実質的に含まない(当該線維芽細胞が支配的な)培養系とすることができる。
また、工程14における培養の目的の一つは、その活性を維持しつつ、粘膜組織に由来する線維芽細胞の数を増幅させることである。したがって、線維芽細胞の培養は、その数が移植その他の用途に必要とされる予め定められた数に到達し又はそれ以上に増加するまで継続する。
また、培養基材上で線維芽細胞が増殖し、コンフルエント(密な状態)に達した場合には、当該線維芽細胞の継代を行うこともできる。継代の回数は、線維芽細胞の活性が過度に損なわれない範囲であれば特に限られず、例えば、10以下とすることができ、好ましくは3〜6代の範囲内とすることができる。
また、培養された線維芽細胞の一部又は全部を凍結保存することもできる。凍結保存の方法は、解凍後の線維芽細胞の生存率及び活性を過度に損なわないものであれば特に限られず、例えば、線維芽細胞の凍結保存に使用されている公知の方法とすることができる。
また、工程14においては、培養された線維芽細胞の活性を確認することもできる。すなわち、例えば、所定の培養期間中における線維芽細胞の数の変化を測定することで、当該線維芽細胞の増殖能を評価することができる。
また、例えば、所定の培養期間中に線維芽細胞が産生したコラーゲン等の細胞外マトリックスや、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、KGF(ケラチノサイト増殖因子)、EGF(上皮成長因子)等の増殖因子の量を測定することで、当該線維芽細胞が本来的に有するこれらの産生機能を評価することができる。
ここで、粘膜組織に由来する線維芽細胞の活性は、皮膚組織に由来する線維芽細胞のそれに比べて高い。すなわち、例えば、上述の国際公開第2007/001016号においては、歯肉組織(口腔粘膜組織の一部)に由来する線維芽細胞の増殖能及び増殖因子(例えば、VEGF、KGF)の分泌能が、皮膚組織に由来する線維芽細胞に比べて顕著に高いことが示されている。なお、この国際公開第2007/001016号が開示する全ての内容は本願明細書に参照として組み込まれる。
さらに、粘膜組織のうち濃染部に由来する線維芽細胞は、より薄く染色された部分に由来する線維芽細胞に比べて、増殖能、細胞外マトリックス(コラーゲン等)及び増殖因子(VEGF、KGF、EGF等)の産生能等の活性が顕著に高い。
こうして、工程14においては、本来の活性を高いレベルで維持した線維芽細胞を培養し増殖させる。したがって、このような工程14を含む本方法によれば、上述のとおり、移植その他の用途に利用できる、活性の高い線維芽細胞を効率よく確実に製造することができる。
すなわち、例えば、ヒト患者の自家移植に使用する線維芽細胞を製造する場合には、当該ヒト患者自身の口腔粘膜組織のうち濃染部に由来する活性の高い線維芽細胞を、短期間で大量に製造することができる。特に、従来であれば必ずしも活性の高い線維芽細胞を採取できなかった患者(例えば、高齢の患者)からも、予め特定された濃染部から僅かな量の粘膜組織片を1回採取するだけで、活性の高い自己の線維芽細胞を確実に得ることができる。
また、こうして製造された活性の高い線維芽細胞は、移植のみならず、例えば、生体外におけるスクリーニング試験等、様々な用途に使用することができる。
工程15においては、工程14の培養で得られた線維芽細胞を含有する組織改善材を作製する。すなわち、まず、粘膜組織に由来する活性の高い所定数の線維芽細胞を準備する。具体的に、例えば、工程14において培養基材上で培養された線維芽細胞を回収する。また、例えば、工程14における培養後に凍結保存されていた線維芽細胞を解凍する。
そして、このようにして準備された線維芽細胞を含有し、生体適合性に優れた組成物として、組織改善材を作製する。すなわち、例えば、線維芽細胞と、薬学的に許容され得る媒質と、を含有する組織改善材を作製する。
この媒質は、線維芽細胞と接触した場合にその生存を維持でき、且つ移植に使用できる生体適合性を有するものであれば特に限られない。すなわち、媒質としては、例えば、浸透圧が適切に調整された緩衝液や培養液等の水溶液を好ましく使用できる。これらの場合、組織改善材は、線維芽細胞が媒質に分散された液状の組成物(懸濁液)となる。
また、組織改善材は、線維芽細胞及び媒質以外の副成分を含有することもできる。この副成分としては、例えば、抗生物質、栄養成分(例えば、各種ビタミン、アミノ酸、ブドウ糖)、酵素、補酵素、防腐剤、増殖因子(例えば、VEGF、KGF、EGF)、サイトカイン、各種の薬剤(例えば、抗炎症剤)、色素が挙げられる。ただし、組織改善材は、免疫原性のある成分(例えば、異種タンパク質等)を実質的に含有しないことが好ましい。
組織改善材に含有される線維芽細胞の数は、移植する生体組織の状態等の条件に応じて適宜決定する。すなわち、組織改善材が、ヒト患者の口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含有する液状の組成物である場合、当該組織改善材は、例えば、1mLあたり、1×10〜1×10個(好ましくは1×10〜1×10個)の当該線維芽細胞を含有する。
また、この組織改善材は、線維芽細胞により分泌された増殖因子を含有することもできる。すなわち、組織改善材が、ヒト患者の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞を含有する場合、当該組織改善材は、例えば、VEGF、KGF及びEGFを含有することができる。
さらに、この場合、VEGFの濃度は、例えば、30(pg/mg−タンパク質)以上であり、好ましくは40(pg/mg−タンパク質)以上であり、より好ましくは50(pg/mg−タンパク質)以上である。より具体的に、VEGF濃度は、例えば、30〜100(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、好ましくは40〜100(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、より好ましくは50〜100(pg/mg−タンパク質)の範囲内である。
また、KGFの濃度は、例えば、500(pg/mg−タンパク質)以上であり、好ましくは1000(pg/mg−タンパク質)以上であり、より好ましくは1500(pg/mg−タンパク質)以上である。より具体的に、KGF濃度は、例えば、500〜2500(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、好ましくは1000〜2500(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、より好ましくは1500〜2500(pg/mg−タンパク質)の範囲内である。
また、EGFの濃度は、例えば、500(pg/mg−タンパク質)以上であり、好ましくは1000(pg/mg−タンパク質)以上であり、より好ましくは1500(pg/mg−タンパク質)以上である。より具体的に、EGF濃度は、例えば、500〜2000(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、好ましくは1000〜2000(pg/mg−タンパク質)の範囲内であり、より好ましくは1500〜2000(pg/mg−タンパク質)の範囲内である。
組織改善材は、VEGF、KGF及びEGFのうち1又は複数を上述の濃度で含有することができ、VEGF、KGF及びEGFの全てを上述の濃度で含有することが好ましい。
こうして、工程15においては、粘膜組織に由来する活性の高い線維芽細胞を含有し、生体組織の状態を改善するために使用される移植用の組成物である組織改善材を作製する。したがって、このような工程15を含む本方法によれば、上述のとおり、生体組織に移植されることで当該生体組織の状態を効果的に改善する組織改善材を確実に製造することができる。
すなわち、例えば、ヒト患者に自家移植する組織改善材を製造する場合には、当該ヒト患者自身の口腔粘膜組織のうち濃染部に由来する活性の高い線維芽細胞を含有し、移植された生体組織の状態を効果的に改善する組織改善材を短期間に製造することができる。
特に、従来であれば移植により必ずしも組織改善効果が得られなかった患者(例えば、高齢の患者)に対しても、十分な組織改善効果をもたらす組織改善材を確実に製造することができる。
工程16においては、工程15で作製した組織改善材を生体の組織に移植する。移植の対象となる生体組織は、傷病、加齢、先天的要因等の原因により不具合が生じた組織であって、その状態を改善すべき組織であれば特に限られない。
すなわち、例えば、本来的に線維芽細胞又は線維芽細胞と同様の機能を有する細胞(例えば、線維芽細胞と同様の細胞外マトリックスや増殖因子を分泌する細胞)が含まれている組織であれば、本発明に係る組織改善材を移植することで、その状態を改善することができる。
具体的に、このような組織としては、例えば、皮膚組織、口腔内組織、食道組織、膣粘膜組織を挙げることができる。
すなわち、例えば、ヒト患者の皮膚組織のうち外観や機能に不具合がある部分(例えば、皺、妊娠線、ニキビ跡、陥没瘢痕、傷跡、非外傷性の皮膚の陥没、尋常性座瘡等の変形部分や、保水性(潤い)、弾性が低下した部分)を移植の対象とすることができる。
また、移植する組織は、組織改善材に含有される線維芽細胞を採取した粘膜組織以外の組織とすることができる。すなわち、例えば、ヒト患者の口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含む組織改善材を作製した場合には、当該組織改善材を皮膚組織に移植することで、当該皮膚組織の状態を改善することができる。
なお、もちろん、線維芽細胞を採取した粘膜組織に組織改善材を移植することもできる。すなわち、例えば、ヒト患者の口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含む組織改善材を作製した場合に、当該組織改善材を当該口腔粘膜組織に移植することで、当該口腔粘膜組織の状態を改善することができる。
また、移植に伴う免疫拒絶反応を回避する上では、組織改善材を移植する生体は、当該組織改善材を作製するために粘膜組織片を採取した生体とすることが好ましい。すなわち、例えば、ヒト患者の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞を含有する組織改善材は、当該ヒト患者自身の組織に自家移植することが好ましい。
移植の方法は、組織改善材に含まれる線維芽細胞を生きたまま生体組織に移植できるものであれば特に限られず、公知の方法を使用することができる。すなわち、例えば、組織改善材が、線維芽細胞を含有する液状の組成物である場合には、注射器等の注入用器具を使用して、当該組織改善材を生体組織内に注入する。
具体的に、例えば、ヒト患者の口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含有する液状の組織改善材を当該ヒト患者自身の皮膚組織に自家移植する場合には、注射器を使用して、当該組織改善材を、当該皮膚組織の表皮層と真皮層との境界付近や、当該真皮層内に注入する。
移植する組織改善材の量は、移植する生体組織の状態等の条件に応じて適宜決定する。すなわち、例えば、ヒト患者の口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含有する液状の組織改善材を皮膚組織に自家移植する場合、1回の注入に使用する当該組織改善材は、例えば、1×10〜1×10個(好ましくは1×10〜1×10個)の当該線維芽細胞を含有する数mL程度の量とすることができる。
また、組織改善材を移植する回数(1又は複数回)や場所(1又は複数箇所)、及び複数回又は複数箇所に移植する場合の各移植の空間的及び時間的間隔は、種々の条件に応じて適宜決定する。
こうして、工程16においては、本来の活性を高いレベルで維持した線維芽細胞を含有する組織改善材を生体組織に移植する。したがって、このような工程16を含む本方法によれば、上述のとおり、組織改善材の移植により生体組織の状態を確実に改善することができる。
すなわち、例えば、ヒト患者に組織改善材を自家移植する場合には、当該ヒト患者自身の口腔粘膜組織のうち濃染部に由来する活性の高い線維芽細胞を、当該ヒト患者の組織(例えば、皮膚組織)に移植することで、当該組織の状態を確実に改善することができる。
特に、従来であれば移植により必ずしも織改善効果が得られなかった患者(例えば、高齢の患者)に対しても、十分な組織改善効果をもたらすことができる。
なお、移植の対象となった生体組織においては、組織改善材が移植された局所部分のみならず、その周囲においても、組織改善効果が得られる。これは、生体組織に移植された線維芽細胞が、自ら増殖するのみならず、その周囲の組織に、細胞外マトリックス及び増殖因子を供給することによるものと考えられる。すなわち、線維芽細胞の移植によって、生体組織に本来的に存在する線維芽細胞その他の細胞の増殖や機能を向上させることができる。
したがって、例えば、ヒト患者の皮膚組織のうち陥没している患部(例えば、皺が形成されている部分)に、当該ヒト患者自身の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞を含有する組織改善材を自家移植した場合には、当該患部のみならず、その周囲の皮膚組織においても、保水性、弾性、張り、艶等の改善効果が得られる。しかも、この組織改善効果は数年間維持される。
このように、本発明は、傷病、加齢、先天的要因等の原因により不具合が生じた生体組織に、粘膜組織由来の生きた線維芽細胞を移植することによって、当該生体組織の状態を効果的に改善する医療技術に適用できる。特に、ヒト患者自身の粘膜組織に由来する線維芽細胞を含有する組織体改善材を製造し、当該組織体改善材を当該ヒト患者に移植する自家移植治療法によれば、他家移植で起こる免疫拒絶反応や、ES細胞やiPS細胞で起こる腫瘍形成といった問題を確実に回避しつつ、当該ヒト患者の組織を効果的に改善することができる。
具体的に、本発明は、例えば、ヒト患者の皮膚組織のうち外観や機能に不具合がある部分に、当該患者自身の口腔粘膜組織に由来する線維芽細胞を自家移植することによって、当該皮膚組織の外観や機能を改善する医療技術を提供する。したがって、本発明は、特に、一般外科、形成外科及び美容外科等の様々な医療分野に応用可能である。
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。なお、この実施例で示すヒト患者からの口腔粘膜組織片の採取及びその利用は、事前に名古屋大学医学部倫理委員会により承認され、当該ヒト患者の同意を得た上で、名古屋大学病院口腔外科において実施したものである。
[口腔粘膜組織片の採取]
まず、ヨウ素を1.2−1.6g/100mLの濃度で含有するルゴール液により、成人ヒト患者の口腔粘膜組織を染色した。次いで、染色後の口腔粘膜組織の全体を目視にて観察した。ここで、患者の口腔粘膜組織は、上述の図2と同様に不均一に染色され、相対的に濃く染色された一部分は、周囲の薄く染色された部分と容易に区別して認識することができた。
そこで、染色された口腔粘膜組織のうち、特に濃い茶褐色に染色されている濃染部を、粘膜組織片を採取する部分として特定した。そして、この濃染部から、外科用メスを用いて、約3mm角、厚さ約3mmの口腔粘膜組織片を採取した。
また、対照として、染色された口腔粘膜組織のうち濃染部以外の部分であって薄い茶褐色に染色された部分(以下、「薄染部」という。)からも、同一サイズの口腔粘膜組織片を採取した。
[線維芽細胞の培養]
採取された口腔粘膜組織片を、37℃のコラゲナーゼ溶液(濃度5mg/mL、和光純薬工業株式会社)で2時間処理した。処理後の口腔粘膜組織片を、直径35mmの培養ディッシュに移し、DMEM培養液中、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の雰囲気下で培養した。こうして、培養ディッシュの底面に接着した、口腔粘膜組織片に由来する線維芽細胞を得た。
次いで、この線維芽細胞を回収し、培養フラスコ(T75フラスコ)に約4×10個ずつ播種した。濃染部由来の線維芽細胞及び薄染部由来の線維芽細胞のそれぞれについて4つの培養フラスコを使用した。
培養液としては、10%のウシ胎児血清(No.10099−141、Invitrogen株式会社)及び1%の抗生物質−抗真菌剤(No.15240−062、Invitrogen株式会社)を添加したDMEM培養液(No.D6429、Sigma−Aldrich株式会社)を用いた。そして、線維芽細胞を、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の雰囲気下で、7日間培養した。
[線維芽細胞の収量]
濃染部及び薄染部のそれぞれについて、線維芽細胞の収量を評価した。すなわち、上述のようにして7日間培養した後の各培養フラスコを、市販の細胞解離剤(TrypLE Select、Invitrogen株式会社)で処理することにより、当該各培養フラスコに接着していた線維芽細胞を遊離させ回収した。回収された線維芽細胞の数は、市販の細胞計数分析装置(CASY(登録商標)、Scharfe System GmbH)を用いて測定した。
図3に、測定結果を示す。図3において、縦軸は、採取された口腔粘膜組織片(約3mm角、厚さ約3mm)あたりの細胞数(個)を示し、ハッチングの付された棒グラフは濃染部の結果を示し、白抜きの棒グラフは薄染部の結果を示す。図3に示すように、濃染部からは、薄染部に比べて統計上有意に多くの線維芽細胞を得ることができた。
[線維芽細胞の増殖能]
そして、4つの培養フラスコの各々について、播種した細胞数に対する、7日間培養後の細胞数の倍率を、増殖率(%)として算出した。
図4に、増殖率の算出結果を示す。図4において、縦軸は増殖率(%)を示し、ハッチングの付された棒グラフは濃染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=4)を示し、白抜きの棒グラフは薄染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=4)を示す。図4に示すように、濃染部に由来する線維芽細胞の増殖率は、薄染部に由来する線維芽細胞のそれに比べて統計上有意に高かった。
[線維芽細胞のコラーゲン産生能]
上述した10%のウシ胎児血清及び1%の抗生物質−抗真菌剤を含むDMEM培養液を入れた6ウェル培養プレートの各ウェルに、線維芽細胞を播種し、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の雰囲気下で培養した。
その後、線維芽細胞が増殖して100%コンフルエント状態になったところで、ウェルから培養液を回収した。回収した培養液を4℃、10000rpmで5分間遠心し、その上清を採取した。採取した上清は必要に応じて−70℃にて凍結保存した。そして市販のコラーゲン測定キット(Sircol、Biocolor Ltd.)を用いて、各上清に含有されるコラーゲン量を測定した。
図5に、コラーゲン産生能の測定結果を示す。図5において、縦軸はコラーゲンの産生能(mg/mL)を示し、ハッチングの付された棒グラフは濃染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=4)を示し、白抜きの棒グラフは薄染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=4)を示す。図5に示すように、濃染部に由来する線維芽細胞のコラーゲン産生能は、薄染部に由来する線維芽細胞のそれに比べて統計上有意に高かった。
[線維芽細胞の増殖因子分泌能]
上述した10%のウシ胎児血清及び1%の抗生物質−抗真菌剤を含むDMEM培養液を入れた6ウェル培養プレートの各ウェルに、培養フラスコから回収された線維芽細胞を播種し、37℃、5%二酸化炭素/95%空気の雰囲気下で培養した。
その後、線維芽細胞が増殖して100%コンフルエント状態となったところでウェルから培養液を吸引除去し、PBS(リン酸緩衝液)で2回洗浄した。次いで、血清を添加していないDMEM培養液をウェルに加えて培養を継続した。そして、培養液を無血清DMEM培養液に置換してから48時間経過後に、各ウェルから1mLずつ培養液を採取した。
採取した培養液を4℃、10000rpmで5分間遠心し、その上清を採取した。採取した上清は、必要に応じて−70℃にて凍結保存した。そして、市販のVEGF測定キット(Immunoassay kit VEGF、Biosource)、KGF測定キット(Quantikine(登録商標)、R&D Systems)及びEGF測定キット(Quantikine(登録商標)、R&D Systems)を用いたELISA法により、各上清に含有されているVEGF、KGF及びEGFをそれぞれ定量した。上清に含有されるタンパク質の全量(mg)あたりの、当該上清に含有される増殖因子の量(pg)を線維芽細胞の当該増殖因子の分泌能として評価した。
図6、図7及び図8に、VEGF、KGF及びEGFについての評価結果をそれぞれ示す。図6〜図8において、縦軸は増殖因子の分泌能(pg/mg−タンパク質)を示し、ハッチングの付された棒グラフは濃染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=3)を示し、白抜きの棒グラフは薄染部に由来する線維芽細胞の結果(試験数n=3)を示す。
図6〜図8に示すように、濃染部に由来する線維芽細胞のVEGF分泌能、KGF分泌能及びEGF分泌能は、いずれも、薄染部に由来する線維芽細胞のそれに比べて統計上有意に高かった。
具体的に、濃染部に由来する線維芽細胞を48時間培養した無血清培養液は、約60(pg/mg−タンパク質)のVEGF、約2000(pg/mg−タンパク質)のKGF、約1600(pg/mg−タンパク質)のEGFをそれぞれ含有していた。
このように濃染部に由来する線維芽細胞は、増殖能及び増殖因子分泌能を高いレベルで備えていた。一方、粘膜組織由来の線維芽細胞を含有する組織改善材を生体組織に移植することにより、当該組織の改善効果が得られることは既に実証されている。
すなわち、例えば、口腔粘膜組織由来の線維芽細胞を含有する水溶液を、皮膚組織のうち皺が形成されているような陥没部分に注入することにより、移植された線維芽細胞及び当該皮膚組織の既存の線維芽細胞が増殖して陥没部分を押し上げ、陥没の程度を低減し又は陥没(皺)を消失させることができる。また、移植された線維芽細胞は、組織改善材が注入された部分のみならず、その周囲にまで移動して生着する。また、この周囲の皮膚組織においても、保水性や弾性等の物理的及び生理的な状態が改善される。しかも、この改善効果は数年間持続する。
したがって、上述のような濃染部に由来する活性の高い線維芽細胞を含有する組織改善材を、従来と同様にして生体組織に移植すれば、当該組織を効果的に改善できることは明らかである。
次に、ヒト患者に由来する増殖因子(GF)を、当該ヒト患者自身の組織に注入することにより、当該組織を改善する再生医療技術に関する発明(以下、「GF発明」という。)について説明する。図9は、GF発明に係る再生医療技術の概念を示す説明図である。
現在、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、その他の幹細胞等の多様な分化能を有する幹細胞を生体に移植する再生医療技術の開発が進められている。しかしながら、このような幹細胞を移植する技術については、移植された幹細胞が腫瘍化する危険性が指摘されている。
一方、例えば、生体外で心筋細胞や心筋芽細胞を培養して細胞シートを構築し、当該細胞シートを心臓に移植することにより、当該心臓の機能を改善する再生医療技術の開発も進められており、一定の効果が認められている。しかしながら、この効果は、移植された細胞シートに含まれている細胞自身が心臓組織に生着し機能することによるものかどうかは明らかではない。
この点、発明者は、移植された細胞シートに含まれる細胞がその後死滅するにも関わらず心臓の機能が改善している可能性がある点に着目した。すなわち、発明者は、移植された細胞によって分泌される増殖因子が、生体組織内の既存の細胞を活性化することにより、当該組織の構造や機能が改善していると考えた。
GF発明は、このような発明者独自の知見に基づいて為されたものであり、安全性に優れ治療効果の高い組織改善材、その製造方法及び利用方法を提供するものである。
GF発明に係る組織改善材は、ヒト患者に由来する細胞を培養した培養液の上清から調製され、当該細胞が当該培養液中に分泌した増殖因子を有効成分として含有する。
ヒト患者に由来する細胞は、当該ヒト患者自身から採取された細胞及び当該細胞に由来する細胞であって、生体外で培養することにより培養液中に増殖因子を分泌できるものであれば特に限られない。すなわち、この細胞としては、上述の粘膜組織由来の線維芽細胞や、他の組織に由来する線維芽細胞、脂肪組織に由来する脂肪幹細胞、筋芽細胞、骨芽細胞、軟骨芽細胞、神経芽細胞、その他幹細胞(骨髄幹細胞、筋肉幹細胞、上皮幹細胞、歯髄幹細胞など)、iPS細胞を使用することができる。なお、粘膜組織由来の線維芽細胞としては、上述のようにヨウ素溶液で染色された粘膜組織(特に、口腔粘膜組織)のうち他の部分より濃く染色された部分から採取された粘膜組織片に由来する線維芽細胞を好ましく使用することができる。
幹細胞としては、ES細胞、骨髄その他の組織に由来する間葉系幹細胞(MSC)、その他上述のように分化能を維持している組織幹細胞(体性幹細胞)や各種前駆細胞を使用することができる。ES細胞やiPS細胞は、ヒト患者自身の細胞を利用して、公知の方法により作製されたものを利用することができる。
組織改善材に含有される増殖因子は、ヒト患者に由来する細胞によって分泌されたものであれば特に限られない。すなわち、この組織改善材は、例えば、VEGF、KGF、EGF、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インスリン様成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、腫瘍増殖因子(TGF)からなる群より選択される1種又は2種以上を含有することができる。
具体的に、例えば、口腔粘膜組織等の粘膜組織に由来する線維芽細胞を使用した場合には、組織改善材は、VEGF、KGF、EGFからなる群より選択される1種又は2種以上を含有することができ、好ましくはこれら全てを含有する。
このように、GF発明に係る組織改善材は、治療の対象とするヒト患者自身の細胞に由来する増殖因子を有効成分として含有する。したがって、この組織改善材によれば、免疫拒絶反応を確実に回避し、腫瘍形成等の危険性が極めて低く、安全性に優れた再生医療技術を提供することができる。
組織改善材は、ヒト患者に由来する細胞を準備する準備工程と、当該細胞を培養する培養工程と、当該細胞を培養した培養液の上清から、当該細胞が当該培養液中に分泌した増殖因子を含有する組織改善材を調製する調製工程と、を含む方法により製造することができる。
なお、ヒト患者に由来する細胞により分泌された増殖因子を含有する培養液又は当該培養液の上清を入手できる場合には、上記の準備工程及び培養工程は不要となる。したがって、この場合、上記方法は、ヒト患者に由来する細胞を培養した培養液の上清から、当該細胞が当該培養液中に分泌した増殖因子を含有する組織改善材を調製する工程を含む方法となる。
準備工程は、ヒト患者から細胞を採取する工程を含むこととしてもよい。この場合、準備工程は、例えば、上述の工程13と同様、ヒト患者の組織から、目的の細胞を含む組織片を採取する工程を含む。
採取する組織片は、目的の細胞を含むものであれば特に限られない。すなわち、線維芽細胞を使用する場合には、例えば、粘膜組織片(例えば、上述の口腔粘膜組織片)、脂肪組織片、皮膚組織片(特に真皮層部分)を採取する。また、間葉系幹細胞を使用する場合には、例えば、骨髄、臍帯、胎盤、その他間葉系幹細胞が含まれる組織片を採取する。
また、ES細胞又はiPS細胞を使用する場合、準備工程は、当該ES細胞又はiPS細胞を作製する工程を含むこととしてもよい。この場合、準備工程において、ヒト患者自身の細胞を利用して、公知の方法によりES細胞又はiPS細胞を作製する。もちろん、既に作製されたES細胞又はiPS細胞を使用する場合、これらを作製する工程は不要である。
培養工程においては、上述の工程14と同様、準備工程で準備された細胞を生体外で培養する。このとき、組織片に含まれている僅かな数の幹細胞や前駆細胞を利用する場合には、当該幹細胞や前駆細胞を選択的に増殖させる。これらの細胞を選別する方法及び培養する方法としては、公知の方法を使用することができる。培養液としては、細胞による増殖因子の分泌を可能にするものであれば特に限られないが、例えば、血清が添加されていない無血清培養液が好ましい。また、血清が添加された培養液を使用してヒト患者由来の細胞を培養する場合、当該血清としては、当該ヒト患者自身の血清を使用することが好ましい。
培養工程においては、細胞を培養液中で所定時間培養した後、当該培養液を回収する。培養を継続する場合には、細胞に再び新鮮な培養液を供給し、さらに所定時間培養する。培養工程において培養液を回収するタイミングや回数は、細胞が分泌する増殖因子の量や、当該細胞自体を利用した治療スケジュール等の条件に応じて適宜決定する。
すなわち、例えば、上述の粘膜組織由来の線維芽細胞を自家移植する場合のように、ヒト患者に由来する細胞を当該ヒト患者に移植するために培養し、当該細胞を増幅する場合には、培養は、当該細胞の数が移植に必要な目標値に到達するまで継続される。したがって、この場合、培養液は、細胞を増幅する培養期間中に培養液を交換するタイミングで、培養液を交換する回数だけ回収される。回収された培養液は、冷蔵保存又は凍結保存することができる。
なお、従来、このような自家移植用の細胞を増幅する培養過程において、回収された培養液は廃棄されていた。しかしながら、この培養液は、治療の対象となるヒト患者に特有のいわゆるコンディションドメディウムであり、当該ヒト患者自身の細胞が生成した増殖因子を豊富に含有する増殖因子カクテルである。そこで、GF発明においては、この回収された培養液を、ヒト患者自身の増殖因子の供給源として利用する。したがって、従来の自家移植治療法と類似の方法により、ヒト患者自身の増殖因子を豊富に含有する組織改善材を簡便且つ確実に製造することができる。
調製工程では、上述のようにして回収された培養液の上清に含有されていた増殖因子と、薬学的及び医学的に許容される媒質と、を含有する組織改善材を調製する。媒質としては、水又は水溶液を好ましく使用することができる。水溶液は、生体に移植できるものであれば特に限られず、例えば、浸透圧やpHが体液と同等に調整された水溶液を好ましく使用することができる。具体的に、例えば、いわゆる生理食塩水、リン酸緩衝液(PBS)、無血清培養液を使用することができる。
この調製工程では、例えば、回収された培養液の上清に濃縮や精製等の処理を施すことにより、組織改善材を調製する。培養液の上清は、当該培養液に遠心処理を施して、当該培養液に含有されている細胞や細胞破砕物その他の固形成分を沈殿させた後の上清として調製できる。また、上清に含有される増殖因子の濃縮は、例えば、当該上清に含有される増殖因子を通過させない限外ろ過膜を使用することにより行うことができる。なお、回収された培養液の上清が、当該培養液に含有される増殖因子と、薬学的及び医学的に許容される媒質と、を含有するものである場合には、当該上清をそのまま組織改善材として使用することもできる。
組織改善材に含有される増殖因子の濃度は、当該組織改善材をヒト患者に注入することにより一定の効果が期待できる濃度であれば特に限られず、適宜設定することができる。すなわち、例えば、上述の口腔粘膜組織等の粘膜組織に由来する線維芽細胞を使用する場合、組織改善材は、VEGF、KGF、EGFからなる群より選択される1種又は2種以上を、上述の当該線維芽細胞を含有する組織改善材に含有される濃度範囲で含有することが好ましい。
また、組織改善材は、その製造に使用された培養液上清中における組成と実質的に同一の組成で複数種類の増殖因子を含有することができる。すなわち、例えば、上述の口腔粘膜組織等の粘膜組織に由来する線維芽細胞を使用する場合、組織改善材は、VEGF、KGF及びEGFの全てを、当該線維芽細胞を培養した培養液の上清中におけるこれらの増殖因子の濃度比率と実質的に同一の濃度比率で含有するものとすることができる。なお、この場合、組織改善材は、例えば、線維芽細胞が培養液中に分泌した複数種類のVEGF(いわゆるVEGFファミリーの一部または全部)を含有することができる。
また、組織改善材は、上述のように培養液上清から製造されるため、細胞を含有しない。また、この組織改善材は、生体組織への注入に適した液状であることが好ましく、特に水溶液であることが好ましい。なお、上述の細胞培養や組織改善材の調製は、適切なGMP(Good Manufacturing Practice)施設で実施することが好ましい。
そして、組織改善材を使用してヒト患者の組織を改善する方法は、上述のようにして製造された組織改善材をヒト患者の組織に注入する工程を含む。この方法は、上述の準備工程、培養工程及び調製工程の全部又は一部を含むこともできる。
組織改善材を注入する生体組織は、上述の工程16と同様、傷病、加齢、先天的要因等の原因により不具合が生じた組織であって、その状態を改善すべき組織であれば特に限られない。すなわち、例えば、皮膚組織、脳組織、脊椎組織、神経組織(神経周囲の組織)、骨髄組織、骨組織、軟骨組織、筋肉組織、心臓組織(心筋組織)、肝臓組織、膵臓組織、腎臓組織、血管組織、口腔内組織、食道組織、膣粘膜組織等の生体組織に組織改善材を注入することにより、当該組織を改善することができる。なお、液状の組織改善材の注入は、注射器等の注入器具を使用して行うことができる。
このように培養液上清から調製した組織改善材は、細胞を含有しないため、細胞を移植する場合の問題を回避することができ、安全性が高い。また、この組織改善材の製造においては、生きた細胞を扱う必要がなく、保存が容易な培養液上清を原料として使用するため、細胞を移植する場合に比べて治療コストを効果的に低減できる。
組織改善材が注入された生体組織においては、当該生体組織に含有されている既存の細胞を当該組織改善材に含有される増殖因子によって活性化することができる。この結果、組織改善材が注入された局所のみならず、その周囲においても組織の改善効果が得られる。すなわち、このような組織改善材を皮膚組織改善材として使用することにより、当該組織改善材が注入された皮膚組織を比較的広範囲に改善することができる。
具体的に、例えば、ヒト患者の皮膚組織のうち皺等の陥没部分や、傷病による欠損部分に組織改善材を注入することにより、注入された部分及びその周囲における線維芽細胞等の細胞の増殖能や、当該細胞の増殖因子や細胞外マトリックスの産生能を効果的に高めることができる。この結果、陥没部分や欠損部分に新たな組織を形成して、皮膚組織を再生することができる。
また、例えば、心筋細胞の局所的な壊死等により機能が低下した心筋組織に組織改善材を注入することにより、当該心筋組織に含まれる心筋細胞の増殖や機能を促進することができる。この結果、壊死部分に新たな組織を形成して、心筋組織を再生することができる。また、これら以外にも、脳血管、骨髄、骨組織、軟骨組織等、上述のように組織改善材を注入する対象となる様々な組織の改善及び再生を促進することもできる。
このような再生医療技術は、ヒト患者自身の組織に由来する細胞を使用して、当該細胞が分泌した増殖因子を当該ヒト患者の組織に注入する、自家移植的な(オーダーメイドの)増殖因子カクテル治療法である。このため、他家移植で起こる免疫拒絶反応や、ES細胞やiPS細胞で起こる腫瘍形成といった問題を確実に回避しつつ、ヒト患者の組織を効果的に改善することができる。
また、培養上清から調製された増殖因子を含有する組織改善材と、細胞を含有する組織改善材と、を混合した混合組織改善材を製造し、当該混合組織改善材を自家移植することもできる。この場合には、増殖因子と生きた細胞との相乗効果により、高い組織改善効果が得られる。
11 粘膜組織を染色する工程、12 濃染部を特定する工程、13 粘膜組織片を採取する工程、14 線維芽細胞を培養する工程、15 組織改善材を作製する工程、16 組織改善材を移植する工程、20 口腔粘膜組織、21,22 濃染部、23 薄染部、24 歯肉組織、L1 上唇、L2 下唇、N 舌、T 歯。

Claims (9)

  1. 粘膜組織をヨウ素溶液で染色し、染色濃度に基づいて、グリコーゲン顆粒の多い領域を特定する領域特定工程と
    前記特定された領域から線維芽細胞を取得できる粘膜組織片を採取する組織片採取工程と;
    7日間の培養中における前記粘膜組織片より得られた細胞の細胞増殖率、コラーゲン産生量及び培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量を測定する測定工程と;
    前記コラーゲン産生量、前記細胞増殖率及び前記培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量に基づいて線維芽細胞を選別する細胞選別工程と;
    前記選別された線維芽細胞を培養する細胞培養工程と
    を備えることを特徴とする細胞選択方法。
  2. 前記粘膜組織は口腔粘膜組織であることを特徴とする請求項に記載の細胞選択方法。
  3. 前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記細胞増殖率が、培養開始時の細胞数の15%以上である、請求項1又は2に記載の細胞選択方法。
  4. 前記細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記3種類の成長因子が、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、及び上皮成長因子であり、各成長因子の培養上清中への分泌量は、血管内皮増殖因子が30pg/mgタンパク質以上、ケラチノサイト増殖因子が500pg/mgタンパク質以上、かつ上皮成長因子が500pg/mgタンパク質以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞選択方法。
  5. 粘膜組織をヨウ素溶液で染色し、染色濃度に基づいて、グリコーゲン顆粒の多い領域を特定する領域特定工程と;
    前記特定された領域から線維芽細胞を取得できる粘膜組織片を採取する組織片採取工程と;
    7日間の培養中における前記粘膜組織片より得られた細胞の細胞増殖率、コラーゲン産生量及び培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量を測定する測定工程と;
    前記コラーゲン産生量、前記細胞増殖率及び前記培養上清中に分泌された3種類の成長因子の量に基づいて線維芽細胞を選別する細胞選別工程と;
    前記選別された線維芽細胞を培養する細胞培養工程と;
    前記細胞培養工程で培養された前記線維芽細胞を用いて組織改善材を作製する組織改善材作製工程と;を備える組織改善材の作製方法。
  6. 前記粘膜組織は口腔粘膜組織であることを特徴とする請求項に記載の組織改善材の作製方法。
  7. 細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記細胞増殖率が、培養開始時の細胞数の15%以上である、請求項5又は6に記載の組織改善材の作製方法。
  8. 細胞選別工程において選別される線維芽細胞は、前記測定工程における前記3種類の成長因子が、血管内皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、及び上皮成長因子であり、各成長因子の培養上清中への分泌量は、血管内皮増殖因子が30pg/mgタンパク質以上、ケラチノサイト増殖因子が500pg/mgタンパク質以上、かつ上皮成長因子が500pg/mgタンパク質以上であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の組織改善材の作製方法。
  9. 請求項5〜8のいずれかに記載の方法によって作成される組織改善材。
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