JP5054951B2 - 捺染用インク - Google Patents
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しかし、顔料定着のために、インクにバインダー成分を添加する必要があるため、染着部分が固くごわごわした仕上がりになって、風合いが低下するという問題がある。したがって、顔料インクの場合は、堅牢度(画像定着性)確保と風合い維持の両立が課題となっている。
特に、インクジェット用インクでは、吐出安定性およびヘッド放置後の吐出性、目詰まりの観点から、バインダー成分を多量に使用することができず、したがって堅牢度は不十分となってしまう。
これらは、ブロックイソシアネートやメラミン樹脂のような架橋剤が、熱処理により、樹脂と架橋構造をとり、その結果、洗濯堅牢度を向上させるものである。しかし、これらのインクでは、インクジェットヘッドを放置した際に、インクの水分が減少して溶剤と水のバランスが崩れると、ブロックイソシアネートやメラミン樹脂が析出し、吐出不良や目詰まりを起こす恐れがある。
この理由としては、あくまで推論であるが、自己架橋性基を含む疎水性モノマーの自己架橋性基(疎水性自己架橋性基)が、高分子化合物内部での架橋反応を引き起こすことにより色材を取り囲む高分子膜強度を高めて堅牢度を向上させると共に、自己架橋性基を含む親水性モノマーの自己架橋性基(親水性自己架橋性基)が、着色剤粒子間および繊維と着色剤粒子間の結合を引き起こし、堅牢度を向上させていると考えられる。したがって、高分子化合物中にこれらの自己架橋性基を、所定の比率で所定量含むことにより、それぞれの効果を充分に発揮させることができる。
さらに、本発明に係る捺染用インクを用いた捺染を行う場合、色材として染料を用いても、従来の捺染用染料インクの場合に必要であった、にじみ防止のための前処理や、前処理剤や未固着分の染料除去のための後処理も必要ではない。これは、色材を包含する高分子化合物と繊維の官能基との間に結合が生じ、色材が布帛に強固に定着するためであると考えられる。
色材としては、高分子化合物に内包されうるものであれば、顔料でも染料でもよく、特に限定されることはない。
顔料としては、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。具体的には、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
なかでも、色材として特に好ましいのは、これを包含する高分子化合物に対し溶解性を有する油溶性染料である。色材として油溶性染料を使用することにより、高分子化合物により包含されて、着色樹脂微粒子の形態となる。この着色樹脂微粒子は、印捺後の加熱処理により成膜し、その結果、粒子が繊維表面に残る顔料の場合よりも、摩擦堅牢度を向上させることができる。
各モノマーの「親水性」および「疎水性」は、モノマーの水に対する溶解性により判断する。すなわち、50mlのビーカーに精製水(23℃)20gを入れ、そこにモノマー(23℃)10gを添加し、攪拌棒で軽く攪拌する。その結果、全体に均一な溶液を形成するモノマーを「親水性モノマー」、白濁または2層に分離するモノマーを「疎水性モノマー」とする。
すなわち、親水性モノマーM1が一定量以上含まれることにより、堅牢度を充分に向上させることができるが、疎水性モノマーM2に対し多すぎると、高分子化合物の親水性が高くなりすぎて、保存安定性が低下する恐れがある。一方、疎水性モノマーM2が一定量以上含まれることにより、堅牢度を充分に向上させることができる。
さらに、N−メチロールエーテル基を用いることにより、エーテル部分の炭化水素基の炭素数を調整することで、そのモノマーの親水性と疎水性の制御を容易に行うことができる。親水性モノマーのN−メチロールエーテル基は、たとえば綿、麻等のOH基と反応して、−OCH2N−結合を生じ、たとえば羊毛、絹等のNH2基と反応して−NHCH2N−結合を生じ、布帛に対する堅牢度を向上させると考えられる。
これらのうち、カレンズAOI、カレンズMOIを亜硫酸水素ナトリウムでブロック化したモノマーは、親水性モノマー(M1)であり、カレンズMOI−BP、カレンズMOI−BMは疎水性モノマー(M2)である。
アニオン性基の場合は、高分子化合物合成時に自己架橋性基の架橋反応によるゲル化を防止するため、アニオン性基を重合前に中和する必要がある。好ましい中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。
具体的には、沸点がほぼ200℃以下のアミン、たとえばトリエチルアミン(沸点89.5℃)、ジイソプロピルアミン(沸点85.3℃)、ジイソブチルアミン(沸点140℃)などを対イオンとするスルホ基であることが特に好ましい。
この場合、得られる高分子化合物の分子量を制御するために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
溶液重合に用いる重合溶媒には、任意の溶剤を使用できる。
重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
ほかにも、in situ重合法、コアセルべーション法などによるカプセル化も好ましい。
着色剤(固形分)は、適宜調整することができ、たとえば必要な発色を確保する等の観点から、インク中に0.1〜15重量%含まれていることが好ましい。
水は、粘度調整の観点から、インク中に、20〜80重量%含まれていることが好ましく、30〜70重量%含まれていることがより好ましい。
インクの粘度は、適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、1〜30mPa・sであることが好ましい。この粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおけるインク粘度である。
湿潤剤としては、多価アルコール類を使用することができる。表面張力低下剤として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤を使用できる。
インクの粘度やpHを調整するために、インクに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インクの増粘助剤やpH調整剤として用いることができる。
印捺方法は、特に限定されないが、インクジェット記録装置を用いて行われることが好ましい。インクジェットプリンタは、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出されたインク液滴を任意の布帛に付着させるようにする。その際、本発明に係るインクの場合、色材として染料を使用しても、従来染料インクの場合ににじみ防止のために必要であった前処理を行う必要はない。
インク液滴を布帛上に付着させたのち、加熱処理を行う。このときの処理条件は、布帛の素材によっても異なるが、通常100〜220℃で1〜30分であり、より好ましくは、110〜180℃で1〜10分である。
(実施例1)
<高分子化合物(1)の合成>
イソプロピルアルコール35部、精製水7部、およびメチルエチルケトン33部に、表1に示すモノマー、中和剤、AIBN(アゾイソブチロニトリル)0.1部を溶解したモノマー溶液を調製した。500mlのセパラブルフラスコに、別途イソプロピルアルコール35部、精製水7部、メチルエチルケトン33部を添加し、窒素気流下、70℃に昇温し、ここに上記モノマー溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後3時間反応させ、AIBNを0.1部追加し、さらに3時間反応させることで、高分子化合物(1)を合成した。
反応に際し、重合前後の反応液全体の重量を測定しておき、重量減少分(溶媒揮発分)はメチルエチルケトンを補填した。
100mlのビーカーに、OIL Collor HBB(オリエント化学工業(株)製)4部、高分子化合物(1)溶液(固形分40%)10部、メチルエチルケトン6部を添加し、30分攪拌した。その後、超音波分散機にて分散しながら、水40部を徐々に添加した。
添加終了後、ロータリーエバポレーターにてメチルエチルケトンを留去し、高分子化合物で包含された染料からなる着色剤の分散液を得た。
溶媒留去前後の反応液全体の重量を測定しておき、重量減少分は水を補填した。
着色剤粒子の平均粒径は、固形分1重量%の水溶液を調製して、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒度分布測定装置LB−500により測定した。
得られた着色剤分散液を用い、ここに表2の配合になるように残りの成分を添加し、得られた混合液から0.8μmのメンブレンフィルターを用いて粗粒子を除去し、インクを作製した。表2において、サーフィノールS465は、エアープロダクツ社の製の界面活性剤である。
インクの粘度は、HAAKE社製レオメータRS75により測定した。
上記実施例1と同様に、表1に示す各高分子化合物を合成した。
得られた各高分子化合物を用いて、実施例1と同様な手法で、表2に示す処方にしたがって、各実施例および比較例のインクを調製した。
<保存安定性>
ガラス密閉容器にインクを入れ、70℃で1ヶ月間放置前後の粘度を測定し、変化率から以下のように評価した。
A:粘度変化率が±5%以内
B:粘度変化率が±10%以内
D:粘度変化率が±10%以上
<摩擦堅牢度>
JIS L0849に規定の方法に従い、I型試験機を用いて評価した。
A:4−5級〜5級
B:3−4級〜4級
C:2−3級〜3級
D:2級以下
三洋電機(株)製全自動洗濯機ASW−45A1型を用いて、各印捺物を10回洗濯し、変退色グレースケールを用いて、退色の度合いを評価した。
A:5級
B:4級〜4−5級
C:3−4級〜4級
D:3級以下
得られた結果を、表2に併せて示す。
Claims (7)
- 高分子化合物により色材が包含されてなる着色剤、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染用インクであって、
前記高分子化合物が、自己架橋性基を含む親水性モノマー(M1)と、自己架橋性基を含む疎水性モノマー(M2)と、イオン性親水基を含むモノマー(M3)とを含む共重合体であり、
前記高分子化合物の自己架橋性基が、N−メチロール基、N−メチロールエーテル基、イソシアネート基、およびグリシジル基からなる群から選ばれる1種以上の基であり、
前記高分子化合物のイオン性親水基が、スルホ基、カルボキシ基、および4級アミノ基からなる群から選ばれる1種以上の基であり、
前記共重合体100gあたり、前記モノマーM1とモノマーM2が合計で580〜680mmol含まれ、かつ、
前記モノマーM1とモノマーM2のモル比が1:0.1〜1:6である、捺染用インク。 - 前記共重合体100gあたりのモノマーM1とモノマーM2の合計量が640〜680mmolであり、前記モノマーM1とモノマーM2のモル比が1:0.1〜1:3である、請求項1記載の捺染用インク。
- 前記高分子化合物のガラス転移点が−30〜0℃である、請求項1または2記載の捺染用インク。
- 前記色材が油溶性染料である、請求項1〜3のいずれか1項記載の捺染インク。
- 前記自己架橋性基がN−メチロールエーテル基であり、前記イオン親水性基が沸点200℃以下のアミンで中和されたスルホ基である、請求項1〜4のいずれか1項記載の捺染用インク。
- 高分子化合物により色材が包含されてなる着色剤、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染用インクであって、
前記高分子化合物が、N−メチロールエーテル基と、スルホ基、カルボキシ基、および4級アミノ基からなる群から選ばれる1種以上のイオン性親水基とを含み、
高分子化合物100gあたり、前記N−メチロールエーテル基が580〜680mmol含まれ、かつ、
前記N−メチロールエーテル基のなかで、エーテル鎖の炭素数が1または2であるN−メチロールエーテル基とエーテル鎖の炭素数が3以上であるN−メチロールエーテル基のモル比が1:0.1〜1:6である、捺染用インク。 - 高分子化合物により色材が包含されてなる着色剤であって、
前記高分子化合物が、自己架橋性基を含む親水性モノマー(M1)と、自己架橋性基を含む疎水性モノマー(M2)と、イオン性親水基を含むモノマー(M3)とを含む共重合体であり、
前記高分子化合物の自己架橋性基が、N−メチロール基、N−メチロールエーテル基、イソシアネート基、およびグリシジル基からなる群から選ばれる1種以上の基であり、
前記高分子化合物のイオン性親水基が、スルホ基、カルボキシ基、および4級アミノ基からなる群から選ばれる1種以上の基であり、
前記共重合体100gあたり、前記モノマーM1とモノマーM2が合計で580〜680mmol含まれ、かつ、
前記モノマーM1とモノマーM2のモル比が1:0.1〜1:6である、着色剤。
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