JP5053600B2 - 末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸のステロイドエステル化合物 - Google Patents

末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸のステロイドエステル化合物 Download PDF

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Description

本発明は、末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸のステロイドエステル化合物に関する。この化合物はリポソームの膜構成成分として利用することができ、このリポソームは造影剤として用いることができる。
非侵襲的な動脈硬化の診断法としては、主にX線血管造影法が挙げられる。しかし、この方法は、水溶性のヨード造影剤で血液の流れを造影する方法であるため、病変組織と正常組織との区別がつけにくい。そのため、狭窄が50%以上進んだ病巣しか検出することができず、虚血性疾患の発作が発症する前に病巣を検出することが困難である。
上記以外の診断法として、近年、動脈硬化巣プラーク中に多く動態分布される造影剤を用いて核磁気共鳴トモグラフィー(MRI)により疾患を検出する方法が報告されている。しかし、該造影剤として報告されている化合物はいずれも診断法に用いることには問題がある。例えば、ヘマトポルフィリン誘導体(特許文献1参照)は皮膚への沈着・着色の欠点が指摘されており、また、脂質に富んだプラークに集積するとの報告があるパーフルオロ側鎖を有するガドリニウム錯体(非特許文献1参照)は、脂肪肝・腎臓上皮・筋組織の腱などの、生体における脂質豊富な組織、器官への集積が危惧されている。
化合物の観点からは、α位以外の水素がフッ素置換された脂肪酸のステロイドエステルが知られている(非特許文献2参照)が、光反応によるフッ素置換反応に関する内容であり、造影剤としての使用は知られていない。
米国特許第4577636号 サーキュレーション(Circulation), 109, 2890 (2004) テトラへドロン(Tetrahedron), 45, 6467 (1989)
本発明の課題は、病巣選択的に造影するためのリポソーム造影剤に適した化合物を提供することである。
本発明者等は上記の課題を解決すべく研究を行った結果、本発明の末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸のステロイドエステル化合物が造影剤としてのリポソームの構成成分として優れた性質を有していることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
すなわち、本発明は、下記一般式(I):
Figure 0005053600
[式中、mは1〜9の整数を表し;nは2〜10の整数を表し;Steは下記一般式(II):
Figure 0005053600
で表されるステロイド骨格を部分構造として含む炭化水素基を表す]で表される化合物、又はその塩を提供するものである。
この発明の好ましい態様によれば、Steが、下記の一般式(III)又は(IV):
Figure 0005053600
で表される炭化水素基である上記の化合物又はその塩が提供される。さらに好ましくは、mが3〜9の整数であり、nが4〜10の整数である上記の化合物又はその塩が提供される。また、この発明が示す別の好ましい態様によれば、化合物を構成するフッ素原子のうち、少なくとも一つが18F(放射性同位体)である上記の化合物又はその塩が提供される。
別の観点からは、本発明により、上記の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソームが提供され、その好ましい態様によれば、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む上記リポソームが提供される。
また、本発明により、上記のリポソームを含むMRI造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記MRI造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記MRI造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のMRI造影剤が提供される。
また、同様に、本発明により上記のリポソームを含むPET造影剤が提供される。この発明の好ましい態様によれば、血管疾患の造影に用いる上記PET造影剤;泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる上記PET造影剤;マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影に用いる上記のPET造影剤;マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる上記のPET造影剤;マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる上記のPET造影剤が提供される。
さらに、上記MRI造影剤/PET造影剤の製造のための上記の化合物、キレート化合物又はそれらいずれかの塩の使用;MRI造影/PET造影法であって、上記の化合物、キレート化合物又はそれらいずれかの塩を膜構成成分として含むリポソームを、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/PET造影する工程を含む方法;血管疾患の病巣の造影方法であって、上記の化合物、又は塩を膜構成成分として含むリポソームを、ヒトを含む哺乳類動物に投与した後にMRI造影/PET造影する工程を含む方法が本発明により提供される。
本発明の化合物またはその塩は、MRI/PET造影剤のためのリポソームの構成脂質として、そのリポソーム封入量において優れた性質を有しており、この化合物を含むリポソームを用いてMRI造影/PET造影することにより血管の病巣を選択的に造影できる。
本明細書において、ある官能基について「置換又は無置換」又は「置換基を有していてもよい」という場合には、その官能基が1又は2以上の置換基を有する場合があることを示しているが、特に言及しない場合には、結合する置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。ある官能基が2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。本明細書において、ある官能基が置換基を有する場合、置換基の例としては、ハロゲン原子(本明細書において「ハロゲン原子」という場合にはフッ素、塩素、臭素、又はヨウ素のいずれでもよい)、アルキル基(本明細書において「アルキル基」という場合には、直鎖状、分岐鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよく、環状アルキル基にはビシクロアルキル基などの多環性アルキル基を含む。アルキル部分を含む他の置換基のアルキル部分についても同様である)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が挙げられる。
一般式(I)において、mは1〜9の間の任意の整数を、nは2〜10の間の任意の整数を表す。mが3〜9の間の任意の整数を、nが4〜10の間の任意の整数を表すことがより好ましい。
Steは、式(II)で表されるステロイド骨格を部分構造として含む炭化水素基を表す。該部分構造に任意の置換基が付与されてSteが構成されるが、置換基の個数、置換位置、及び種類は特に限定されない。置換基の個数は通常30個以下であり、より好ましくは15個以下であり、10個以下であることが最も好ましい。置換基として好ましい例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、オキソ基が好ましく、アルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アシルオキシ基、アシル基、およびオキソ基が挙げられる。Steはその構造中に不飽和結合を含んでいてもよい。不飽和結合を含む場合、その種類、位置、個数は特に規定されないが、通常5個以下であり、3個以下であることがより好ましい。
Steとしては、コレステロール、コレスタノールから誘導される下記の一般式(III)又は(IV)で表される炭化水素基が好ましい例としてあげられる。
Figure 0005053600
上記一般式(III)又は(IV)で表される基は任意の個数、種類、及び位置に置換基を有していてもよいが、無置換である場合がより好ましい。一般式(III)又は(IV)で表される基に含まれる各不斉炭素の立体配置は、それぞれ独立にR配置及びS配置のいずれであってもよく、それらの混合物であってもよい。
本発明の化合物は1以上の不斉中心を有する場合があるが、この場合、不斉中心に基づく光学活性体又はジアステレオ異性体などの立体異性体が存在する。純粋な形態の任意の立体異性体、任意の立体異性体の混合物、又はラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、本発明の化合物はオレフィン性の二重結合を1個又は2個以上有する場合があるが、その配置はE又はZのいずれであってもよく、両者の混合物として存在していてもよい。本発明の化合物は互変異性体として存在する場合もあるが、任意の互変異性体、又はそれらの混合物は本発明の範囲に包含される。さらに、本発明の化合物は塩を形成する場合があり、遊離形態の化合物又は塩の形態の化合物が水和物又は溶媒和物を形成する場合もあるが、このような場合も本発明の範囲に包含される。塩の種類は特に限定されず、酸付加塩又は塩基付加塩のいずれであってもよい。
以下に本発明の化合物の好ましい例を示すが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。
Figure 0005053600
上記一般式(I)で表される化合物におけるフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである化合物としては、1個以上10個以下の18Fを有する化合物が好ましく、1個以上5個以下の18Fを有する化合物がより好ましく、1個以上3個以下の18Fを有する化合物が最も好ましい。また18Fの置換位置は特に規定されないが、フッ素置換脂肪酸のCF3末端にあることがより好ましい。
以下に、本発明の化合物の一般的な合成法について説明するが、本発明の化合物の合成法はこれらに限定されるものではない。本発明の化合物の部分構造である末端にフッ素を有するアルキル脂肪酸は、通常市販されているものを使用してもよく、あるいは用途に応じて適宜合成してもよい。合成により入手する場合には、例えばRichard C. Larock著、Comprehensive organic transformations(VCH)に記載の方法により、対応するアルコールやアルキルハライド等を原料として用いることができる。
上記のカルボン酸は、コレステロール等に代表されるステロイド化合物と縮合して目的のエステルへと導く。この際、必要な場合には保護基を用いることもできるが、この場合の保護基とは、例えば、T. W. Green & P. G. M. Wuts著、Protecting groups in organic synthesis(John Wiley & sonc, inc.)に記載のものを適宜選択して用いることができる。
また、上記一般式(I)で表される化合物におけるフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである化合物は、例えば、J.Labelled Compd. Radiopharm., 40, 11-13 (1997)に記載の方法に準拠して合成することができる。
本発明の化合物又はその塩はリポソームの膜構成成分として用いることができる。本発明の化合物又はその塩を用いてリポソームを調整する場合、本発明の化合物又はその塩の使用量は、膜構成成分の全質量に対して5から90質量%程度、好ましくは5から80質量%である。本発明の化合物は膜構成成分として1種類を用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
リポソームの他の膜構成成分としては、リポソームの製造に通常用いられている脂質化合物をいずれも用いることが可能である。例えば、Biochim. Biophys. Acta 150(4), 44 (1982)、Adv. In Lipid. Res. 16(1), 1 (1978)、RESEARCH IN LIPOSOMES (P. Machy, L. Leserman著、John Libbey EUROTEXT社)、「リポソーム」(野島、砂本、井上編、南江堂)等に記載されている。脂質化合物としてはリン脂質が好ましく、特に好ましいのはホスファチジルコリン(PC)類である。ホスファチジルコリン類の好ましい例としては、eggPC(卵由来のPC)、ジミリストイルPC(DMPC)、ジパルミトイルPC(DPPC)、ジステアロイルPC(DSPC)、ジオレイルPC(DOPC)等があげられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の好ましい態様では、リポソームの膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリン(PS)を組み合せて用いることができる。ホスファチジルセリンとしては、ホスファチジルコリンの好ましい例として挙げたリン脂質と同様の脂質部位を有する化合物が挙げられる。ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを組み合せて用いる場合、PCとPSの好ましい使用モル比はPC:PS=90:10から10:90の間であり、さらに好ましくは、30:70から70:30の間である。
本発明のリポソームにおける別の好ましい態様によると、膜構成成分として、ホスファチジルコリンとホスファチジルセリンを含み、さらにリン酸ジアルキルエステルを含むリポソームが挙げられる。リン酸ジアルキルエステルのジアルキルエステルを構成する2個のアルキル基は同一であることが好ましく、それぞれのアルキル基の炭素数は6以上であり、10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。好ましいリン酸ジアルキルエステルの例としては、ジラウリルフォスフェート、ジミリスチルフォスフェート、ジセチルフォスフェート等が挙げられるが、これに限定されることはない。この態様において、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンの合計質量に対するリン酸ジアルキルエステルの好ましい使用量は1から50質量%までであり、好ましくは1から30質量%であり、さらに好ましくは1から20質量%である。
ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、リン酸ジアルキルエステ及び本発明の化合物を膜構成成分として含むリポソームにおいて、上記成分の好ましい質量比はPC:PS:リン酸ジアルキルエステル:本発明の化合物が5〜50質量%:5〜50質量%:1〜10質量%:1〜80質量%の間で選択することができる。
本発明のリポソームの構成成分は上記4者に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、コレステロール、コレステロールエステル、スフィンゴエミリン、FEBS Lett. 223, 42 (1987); Proc. Natl. Acad. Sci., USA 85, 6949 (1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem. Lett. 2145 (1989); Biochim. Biophys. Acta 1148, 77 (1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim. Biophys. Acta 1029, 91 (1990); FEBS Lett. 268, 235 (1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で製造してもよい。製造法の例としては、先に挙げたリポソームの総説成書類の他、Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9, 467 (1980)、"Liposomes" (M. J. Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。本発明のリポソームのサイズは、上記の方法で作成できるサイズのいずれであっても構わないが、通常は平均が400nm以下であり、200nm以下が好ましい。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラ又はマルチラメラなどのいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の薬物や他の造影剤の1種又は2種以上を配合することも可能である。
本発明のリポソームを造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用事に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。本発明のリポソームを造影剤として用いる場合、投与量はリポソーム中の化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、動脈硬化、若しくはPTCA(経皮的冠動脈形成術)後の再狭窄等の血管疾患においては、血管の中膜を形成する血管平滑筋細胞が異常増殖を起こすと同時に内膜に遊走し、血流路を狭くすることが知られている。正常の血管平滑筋細胞が異常増殖を始めるトリガーはまだ完全に明らかにされていないが、マクロファージの内膜への遊走と泡沫化が重要な要因であることが知られており、その後に血管平滑筋細胞がフェノタイプ変換(収縮型から合成型)をおこすことが報告されている。
本発明のリポソームを用いると、泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋に対して規定の造影剤となる化合物を選択的に取り込ませることができる。その結果、病巣と非疾患部位とをコントラストをつけて造影することが可能である。従って、本発明の造影剤は、特に血管疾患の造影に好適に使用でき、例えば、動脈硬化巣やPTCA後の再狭窄等の造影を行うことができる。
また、例えば J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990)に記載されているように、リン脂質よりなるリポソーム、特にPCとPSから形成されるリポソームが、スカベンジャーレセプターを介してマクロファージに集積しやすいことが知られている。従って本発明のリポソームを使用することにより、本発明の化合物をマクロファージが局在化している組織又は疾患部位に集積させることができる。本発明のリポソームを用いると、公知技術であるサスペンジョン又はオイルエマルジョンを用いる場合に比べて、より多くの規定の化合物をマクロファージに集積させることが可能である。
マクロファージの局在化が認められ、本発明の方法で好適に造影可能な組織としては、例えば、血管、肝臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、腎臓上皮を挙げることができる。また、ある種の疾患においては、疾患部位にはマクロファージが集積していることが知られている。こうした疾患としては、腫瘍、動脈硬化、炎症、感染等を挙げることができる。従って、本発明のリポソームを用いることにより、これらの疾患部位を特定することができる。特に、アテローム性動脈硬化病変の初期過程において、スカベンジャーレセプターを介して変性LDLを大量に取り込んだ泡沫化マクロファージが集積していることが知られており〔Am. J. Pathol., 103, 181(1981)、Annu. Rev. Biochem., 52, 223(1983)〕、このマクロファージに本発明のリポソームを集積化させて造影をすることにより、他の手段では困難な動脈硬化初期病変の位置を特定することが可能である。
本発明のリポソームを用いた造影方法は特に限定されない。例えば、フッ素の核スピンを測定することにより、MRI造影剤として用いた造影方法を行うことができる。また、18F等の放射性同位体を用いることで、PET造影剤として使用することも可能である。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。なお、下記の実施例中の化合物番号は上記に示した化合物例の番号に対応している。また、実施例中の化合物の構造はNMRスペクトルにより確認した。
化合物2−6 の合成
6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール6.32gをジクロロメタン 60mLに溶かし、トリエチルアミン3.15mLを加え、0℃で攪拌した。さらに、メタンスルホニルクロリド1.28mLを滴下して加え、室温まで昇温して撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を1規定塩酸水溶液と飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、対応するスルホン酸エステルを7.31g(98%)得た。
水素化ナトリウム(オイル分散、60%)0.71gにジメチルホルムアミド(DMF)25mLを加え、0℃で撹拌した。マロン酸ジエチル2.82gをDMF3mLに溶かしたものを滴下し、室温まで昇温した。上述のスルホン酸エステル7.31gをDMF10mLに溶かしたものを滴下し、室温で2時間、80℃で2時間、撹拌した。反応溶液に1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応するマロン酸誘導体を4.83g(58%)得た。
上述のマロン酸誘導体4.83gを95%エタノール70 mLに溶かし、水酸化リチウム0.62gを加えて室温で撹拌した。反応溶液に3規定塩酸1.2 mLを加えて反応停止した。反応溶液にジクロロメタンと1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、除媒した。得られた残渣をピリジン20mLに溶かし、濃塩酸2mLを加えて、130℃で3時間、撹拌した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応するマロン酸誘導体を4.83 g(58%)得た。反応溶液にジクロロメタンと1規定塩酸水溶液を加えて、ジクロロメタンで2回抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、対応するカルボン酸を3.55g(89%)得た。
上記カルボン酸0.20gをジクロロメタン 3mLに溶かし、コレステロール0.19 gと4-(ジメチルアミノ)ピリジン7mg、WSC(同仁)0.11 gを加え、室温で攪拌した。反応溶液に水を加えて、ジクロロメタンで2回抽出し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、除媒し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して化合物2−6を0.29 g(81%)得た。
1H-NMR (300MHz, CDCl3) δ: 5.38 (1H, d), 4.70-4.53 (1H, m), 2.34-0.80 (59H, m), 0.70 (3H, s).
試験例1:リポソーム形成
J. Med. Chem., 25(12), 1500 (1982) に記載の方法に従い、下記に示した割合のジ・パルミトイル PC(フナコシ社製、No.1201-41-0225)、ジ・パルミトイル PS(フナコシ社製、No.1201-42-0237)を、本発明の化合物とともにナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、0.9%生理食塩水(光製薬社製、No512)を適当量加え、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1 mW)を氷冷下5分実施することにより、均一なリポソーム分散液を得た。得られた分散液の粒径をWBCアナライザー(日本光電社製、A-1042)で測定した結果、粒子径は85から110nmであった。このように本発明の化合物は効率よく下記組成リポソームに封入することができ、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。

リポソーム形成最大量
PC 50nmol + PS 50nmol + 2−6 5nmol
試験例2:マウス3日間連続投与毒性試験
ICRマウス雄6週齢(日本チャールスリバー)を購入し、1週間の検疫期間の後、クリーン動物舎内(空調:へパフィルター クラス1000、室温:20℃〜24℃ 湿度:35%〜60%)で1週間馴化した。その後、MTD(最大耐量)値を求めるため、尾静脈より被験化合物のマウス血清懸濁液を投与した。被験化合物のマウス血清懸濁液は、生理食塩水(光製薬社製)又はグルコース溶液(大塚製薬社製)のいずれかを溶媒として投与した。次に求められたMTD値をもとに、その1/2量を3日間、尾静脈より3日間連続で投与した(n=3匹とする)。症状観察は各投与後6時間までとし、神経毒性を観察後、剖検を行ない、主要臓器について所見を取った。本発明の化合物は低毒性で、神経毒性も示さないことが明らかであり、造影剤のためのリポソームの構成脂質として優れた性質を有することが明らかである。
化合物:MTD(mg/kg);神経毒性(「−」は神経毒性陰性、「+」は神経毒性陽性を示す)
化合物2−6:800mg/kg;−

Claims (18)

  1. 下記の一般式(I):
    Figure 0005053600
    [式中、mは1〜9の整数を表し;nは2〜10の整数を表し;Steは下記の一般式(III)又は(IV)
    Figure 0005053600
    で表される炭化水素基を表す]で表される化合物、またはその塩。
  2. Steが、下記の一般式(III):
    Figure 0005053600
    で表される炭化水素基である請求項1に記載の化合物、またはその塩。
  3. mが3〜9の整数であり、かつnが4〜10の整数である請求項1または2に記載の化合物、またはその塩。
  4. 化合物を構成するフッ素原子のうち、少なくとも1つが18Fである請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物、またはその塩。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物又はその塩を膜構成成分として含むリポソーム。
  6. ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンを膜構成成分として含む請求項5に記載のリポソーム。
  7. 請求項5又は6に記載のリポソームを含むMRI造影剤。
  8. 血管疾患の造影に用いるための請求項7に記載のMRI造影剤。
  9. 泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項7に記載のMRI造影剤。
  10. マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項7に記載のMRI造影剤。
  11. マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項10に記載のMRI造影剤。
  12. マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項10に記載のMRI造影剤。
  13. 請求項5又は6に記載のリポソームを含むPET造影剤。
  14. 血管疾患の造影に用いるための請求項13に記載のPET造影剤。
  15. 泡沫化マクロファージの影響で異常増殖した血管平滑筋細胞の造影に用いる請求項13に記載のPET造影剤。
  16. マクロファージが局在化する組織又は疾患部位の造影のための請求項13に記載のPET造影剤。
  17. マクロファージが局在化する組織が肝臓、脾臓、肺胞、リンパ節、リンパ管、及び腎臓上皮からなる群から選ばれる請求項16に記載のPET造影剤。
  18. マクロファージが局在化する疾患部位が腫瘍、炎症部位、及び感染部位からなる群から選ばれる請求項16に記載のPET造影剤。
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