JP5051725B2 - ポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤 - Google Patents
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Description
一方、ハンチントン舞踏病遺伝子で形質転換したR6/2マウスにレンチウイルスベクターを用いてGDNF遺伝子が導入されたが、GDNF遺伝子の導入は該マウスに対して有用な効果を示さなかったことが知られている(非特許文献10参照)。
これらのことは、神経変性疾患であっても、ALSを含めアルツハイマー病やパーキンソン病等とハンチントン舞踏病等のポリグルタミン病とは、その病因や、病態、発病方法等が全く異なり、これら疾患を同列に扱うことは出来ないことを示している。
しかしながら、パーキンソン病は中脳黒質部のドーパミン作動性ニューロンという特定種のニューロンが選択的に脱落する神経変性疾患であるのに対して、ポリグルタミン病は上記したように長鎖のグルタミン鎖(ポリグルタミン)を含む原因遺伝子産物を発現することにより発症する神経変性疾患である。6−OHDAによる神経細胞変性又は細胞死惹起メカニズムとポリグルタミン病原因遺伝子産物による神経細胞変性又は細胞死メカニズムは全く異なるものであり、6−OHDAに対して神経保護作用を示したからといってHGFがポリグルタミン病における神経細胞変性又は細胞死を保護するとは到底予測できない。臨床的には、共に神経変性疾患であってもパーキンソン病とポリグルタミン病とは、全く異なる病態を示すだけでなく、両疾患に因果関係は認められない。また、障害神経細胞も完全に異なっている。このため、パーキンソン病モデルラットの上記実験結果のみから、HGF蛋白質又はそれをコードするDNAがポリグルタミン病の治療に有効であるとは到底いえず、また有効であったとする報告もない。
本発明者らは、神経向性を有し複製能を欠如したベクター(I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター)を用いて上記形質転換マウス(R6/2)の線条体にラットHGF遺伝子を導入し、線条体においてラットHGF蛋白質を発現するR6/2形質転換マウスを作製し、当該マウスを用いて、実際にHGF遺伝子がポリグルタミン病に対して効果を示すか否かを検討した。その結果、ラットHGF遺伝子の導入されたマウスでは、驚くべきことにクラスピングという手足を広げられない現象の開始が遅延され、寿命が延び、また運動機能障害が改善されることが明らかとなった。これらの知見により、HGF蛋白質の発現はハンチントン舞踏病を含むポリグルタミン病に対して治療効果、発病抑制効果をもたらすことが、初めて明らかとされた。
このような、HGF蛋白質又はHGF遺伝子の効果は本発明において初めて見出されたものであり、発明者らはこれら知見に基づきさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
[1](1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分として含有することを特徴とするポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤、
[2] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAであることを特徴とする前記[1]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[3] HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを含むDNAであることを特徴とする前記[2]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[4] DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする前記[2]又は[3]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[5] 有効成分が、(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩であることを特徴とする前記[1]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[6] HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列と同一又は(b)前記アミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含む蛋白質であることを特徴とする前記[5]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[7] ポリグルタミン病がハンチントン舞踏病、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症1型、脊髄小脳失調症2型、脊髄小脳失調症3型、脊髄小脳失調症6型、脊髄小脳失調症7型、脊髄小脳失調症12型及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症等よりなる群から選択される少なくとも1の疾患であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[8] ポリグルタミン病がハンチントン舞踏病であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[9] 治療剤又は発病抑制剤が、ポリグルタミン病の病変部位への局所投与用であることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[10] 局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする前記[9]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[12] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分とすることを特徴とするポリグルタミン病原因遺伝子産物依存神経細胞変性又は細胞死抑制剤、
[13] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分とすることを特徴とする神経細胞におけるカスパーゼ−3及び/又はカスパーゼ−1の活性化抑制剤、
[14] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを有効成分とすることを特徴とするポリグルタミン病原因遺伝子産物のプロセシング抑制剤、
[15] 治療又は発病抑制が、脳室の拡大抑制によるものであることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[16] 脳室の拡大が、ポリグルタミン病原因遺伝子産物による線条体神経細胞変性又は細胞死によるものであることを特徴とする前記[15]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[17] 線条体神経細胞変性又は細胞死がカスパーゼ−3及び/又はカスパーゼ−1の活性化によるものであることを特徴とする前記[16]記載の治療剤又は発病抑制剤、
[18] 治療又は発病抑制が、神経新生によるものであることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[19] 治療又は発病抑制が、ポリグルタミン病原因遺伝子産物のプロセシング抑制によるものであることを特徴とする前記[1]〜[10]のいずれかに記載の治療剤又は発病抑制剤、
[20] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAのポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤の製造の為の使用、
[21] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAを哺乳動物に投与するポリグルタミン病の治療又は発病抑制方法、及び、
[22] (1)(イ)HGF蛋白質もしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチド又はこれらの塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNAもしくは(ロ)HGF蛋白質の部分ペプチドであってHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNA又は(ハ)それらDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質もしくはペプチドをコードするDNAを含むDNAのポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤としての使用、
に関する。
また、本発明で用いられるHGF蛋白質をコードするRNA又はHGF蛋白質の部分ペプチドをコードするRNAであって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするRNAも、逆転写酵素によりHGF蛋白質又は部分ペプチドを発現することができるものであれば、本発明に用いることができる。該RNAとしては、例えば細胞又は組織よりmRNA画分を調製して、RT−PCR法によって増幅したRNA等が挙げられ、本発明の範囲内である。また該RNAも公知の手段により得ることができる。
HGF蛋白質は、例えばHGF蛋白質を産生する初代培養細胞や株化細胞を培養し、培養上清等から分離、精製して該HGF蛋白質を得ることができる。あるいは遺伝子工学的手法によりHGF蛋白質をコードする遺伝子を適切なベクターに組み込み、これを適当な宿主細胞に挿入して形質転換し、この形質転換体の培養上清液から目的とする組換えHGF蛋白質を分離すること等により得ることもできる。(例えば、特開平5−111382号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun.1989年、第163巻,p.967等を参照)。上記の宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、酵母又は動物細胞等を用いることができる。このようにして得られたHGF蛋白質は、天然型HGF蛋白質と実質的に同じ作用を有する限り、そのアミノ酸配列中の1若しくは複数個(複数個とは例えば、2〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個;以下同様である。)のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されていてもよく、また同様に糖鎖が置換、欠失若しくは付加されていてもよい。そのようなHGF蛋白質として、下記する5アミノ酸欠損型HGF蛋白質を挙げることができる。ここで、アミノ酸配列について、「1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異的突然変異誘発法等の周知の技術的手段により、又は天然に生じうる程度の数(1〜複数個)が、欠失、置換若しくは付加等されていることを意味する。糖鎖が置換、欠失若しくは付加したHGF蛋白質とは、例えば天然のHGF蛋白質に付加している糖鎖を酵素等で処理し糖鎖を欠損させたHGF蛋白質、また糖鎖が付加しない様に糖鎖付加部位のアミノ酸配列に変異が施されたもの、あるいは天然の糖鎖付加部位とは異なる部位に糖鎖が付加するようアミノ酸配列に変異が施されたもの等をいう。具体的には、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.NP_001010932のヒトHGFに対し、糖鎖付加部位の289位AsnをGlnに、397位AsnをGlnに、471位ThrをGlyに、561位AsnをGlnに、648位AsnをGlnにそれぞれ置換することによって糖鎖が付加しないようにしたHGF[Fukuta K et al.,Biochemical Journal,388,555-562(2005)]等を挙げることができる。
さらに、HGF蛋白質のアミノ酸配列と少なくとも約80%以上の相同性を有する蛋白質、好ましくは約90%以上の相同性を有する蛋白質、より好ましくは約95%以上の相同性を有する蛋白質であって、かつHGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質も本発明に使用されるHGF蛋白質に含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と少なくとも約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質、例えば配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列から、1〜複数個のアミノ酸残基を挿入又は欠失させたアミノ酸配列、1〜複数個のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基と置換させたアミノ酸配列又は1〜複数個のアミノ酸残基が修飾されたアミノ酸配列等を含む蛋白質であって、HGF蛋白質と実質的に同質の活性を有する蛋白質であることが好ましい。挿入されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。非天然アミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を有する限りどのような化合物でもよいが、例えばγ−アミノ酪酸等が挙げられる。
これらの蛋白質は、単独であっても、これらの混合蛋白質であってもよい。配列番号3又は4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であるアミノ酸配列を含む蛋白質としては、例えばNCBIのデータベースに登録されているAccession No.BAA14348又はAAC71655等のヒト由来HGFが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のHGF部分ペプチドにおいては、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシラート[−COOM(Mは上記と同意義)]、アミド(−CONH2)又はエステル(−COOR;Rは上記と同意義)のいずれであってもよい。さらに、HGF部分ペプチドには、上記したHGF蛋白質と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチド等の複合ペプチド等も含まれる。
ポリグルタミン病としては、具体的には、例えばハンチントン舞踏病、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症1型、脊髄小脳失調症2型、脊髄小脳失調症3型、脊髄小脳失調症6型、脊髄小脳失調症7型、脊髄小脳失調症12型又は歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症等が挙げられる。
原因遺伝子としては、例えばハンチンチン遺伝子等が挙げられる。該ハンチンチン遺伝子はその第1エクソンにCAGの繰り返し配列を有する。なお、ハンチンチン遺伝子は非病原性の場合では前記第1エクソンに存在するCAGの繰り返し配列が約30未満であるが、病原性遺伝子としては前記CAGの繰り返し配列が約30以上になるものが挙げられる。
例えば、有効成分がHGF蛋白質である場合の本発明の製剤は、種々の製剤形態、例えば液剤、固形剤等をとりうるが、一般的にはHGF蛋白質のみを又はそれを慣用の担体と共に注射剤、噴射剤、徐放性製剤(例えば、デポ剤)等に製剤されるのが好ましい。上記注射剤は、水性注射剤又は油性注射剤のいずれでもよい。水性注射剤とする場合、公知の方法に従って、例えば、水性溶媒(注射用水、精製水等)に、医薬上許容される添加剤、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコール等)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液等)、保存剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン等)又はpH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸等)等を適宜添加した溶液に、HGF蛋白質を溶解した後、フィルター等で濾過して滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。また適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)又は非イオン界面活性剤(ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50等)等をさらに配合してもよい。油性注射剤とする場合、油性溶媒としては、例えば、ゴマ油又は大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル又はベンジルアルコール等を配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプル又はバイアル等に充填される。注射剤中のHGF蛋白質含量は、通常約0.0002〜0.2w/v%、好ましくは約0.001〜0.1w/v%に調整され得る。なお、注射剤等の液状製剤は、凍結保存又は凍結乾燥等により水分を除去して保存するのが望ましい。凍結乾燥製剤は、用時に注射用蒸留水等を加え、再溶解して使用される。
具体的な投与方法としては、例えば、HGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクター等をポリグルタミン病の病変部位の組織(例えば脊髄神経、脳等)へ局所注射する方法、又は、患者の病変部位の組織又は脊髄等から細胞を体外に取り出して、該細胞にHGF遺伝子が組み込まれた組換え発現ベクターを導入し形質転換させた後に、形質転換された前記細胞を、患者の病変部位又は脊髄に移植する方法等が挙げられる。
前記HSV−1ベクターは神経向性を有するベクターである。HSV−1ベクターとしては、多重遺伝子(30kbまで)が組み込まれている大きな(152kb)ゲノムを有し、かつ生涯にわたり潜在的に神経細胞に対して感染を樹立する能力を有するものが好ましい。具体的なHSV−1ベクターとしては、ウイルス複製のためのICR4,ICP34.5及びVP16(vmw65)をエンコードする3つの遺伝子の欠失により、重篤な障害状態にある複製能力のないHSV−1(HSV1764/4−/pR19)ベクター(Coffin RS,et al.,J.Gen.Virol.1998年,第79巻,p.3019-3026;Palmer JA,et al.,J.Virol.,2000年,第74巻,p.5604-5618;Lilley CE,et al.,J.Virol.,2001年,第75巻,p.4343-4356)等が挙げられる。また、AAVベクターは、非病原性ウイルスに属し、安全性が高く、また神経細胞等の非分裂細胞に効率よく遺伝子導入できるベクターである。AAVベクターとしては、AAV−2、AAV−4、AAV−5等が挙げられる。これらHSV−1ベクターやAAVベクターは目的遺伝子を神経細胞等において長期間発現させ得る。ポリグルタミン病は長期間を経て病態を完成するので、本発明に使用されるベクターとしては、長期発現を可能とするHSV−1ベクターやAAVベクターがとりわけ好ましい。
HGFのポリグルタミン病に対する効果の評価のためには、例えば、HSV−1ベクター、AAVベクターを使用してHGF遺伝子をポリグルタミン病の病変部位、例えば線条体や髄腔内等へ形質導入するのが好ましい。
製剤中のDNAの含量や投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができる。また投与量は、HGF遺伝子導入ベクターの種類により異なるが、HGF遺伝子導入ベクターに換算して、通常1×106pfu〜1×1012pfu、好ましくは1×107pfu〜2×1011pfu、さらに好ましくは1.5×107pfu〜1.5×1011pfuを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。
ポリグルタミン病の治療又は発病の抑制効果は、公知の方法[例えば、クラスピングテスト(Nat.Med,第10巻,p.148-154,Epub.2004年,Jan.2018);ロタロッドテスト(J.Neurosci,2000年,第20巻,p.4389-4397);フットプリントテスト(J.Neurosci,1999年,第19巻,p.3248-3257)等]やそれに準じる方法、例えば、後述する試験例等に記載されている方法等を用いて測定することができる。
ハンチントン舞踏病遺伝子導入形質転換マウスにおけるHGFの作用
1.実験動物
B6CBA−TgN(変異HDエキソン1)62Gpb/J雌性マウス(Mangiarini Lら,Cell,1996年,第87巻,p.493-506)から摘出した卵巣が移植されたB6CBAF1/J雌性マウスは、Jackson Laboratory(Bar Harbor,ME)から入手し、B6CBAF1/J雄性マウスと共に飼育し、交配した。
交配した子は、その尾組織から抽出したゲノムDNAのPCR解析により遺伝子系を決定し、TgN62Gpb遺伝子を有するマウスをハンチントン舞踏病モデルマウスR6/2マウス(以下、R6/2マウスと略記する。)とした。また、前記R6/2マウスと同腹でTgN(変異HDエキソン1)62Gpb遺伝子を持たないマウスを野生型同腹子マウスとして使用した。
全ての実験は大阪大学動物倫理委員会のガイドラインに従って行なった。すべての取り組みはできるだけ動物の負担を少なくし、できるだけ少ない数の動物を使用した。
pR19GFPWPRE(Lilley CEら,J.Virol,2001年,第75巻,p.4343-4356)のGFP(green fluorescent protein;緑色蛍光タンパク)遺伝子を、ラットHGFをコードするDNAの全長(ratHGF;配列番号5)にKT3タグ(3’−CCGCCCGAGCCAGAGACT−5’ ;配列番号7)を付加したcDNA(Sun Wら,J.Neurosci,2002年,第22巻,p.6537-6548)で置換し、pR19ratHGFKT3WPREを構築した。このベクター(pR19ratHGFKT3WPRE)のシークエンスは、ABI 310キャピラリーシークエンサーを使用する分析により確認した。次いで、M49細胞を用いて、プラスミドpR19ratHGFKT3WPREのDNAと、HSV1764/−4/pR19LacZウイルスDNAとのコトランスフェクションにより相同組換えを行なった。白色プラークを選択し、3回精製し、Palmer JAらの方法(J.Virol,2000年,第74巻,p.5604-5618)に従い、複製能力のないウイルスを増殖させた。ラットHGFの発現を、免疫染色によって確認した。該発現を更にウエスタンブロット法及びラットHGFの酵素抗体免疫測定法(ELISA)により確認した。本試験に使用するために、タイター(titer)が1〜2×109 pfu(プラーク・フォーミング・ユニット)/mLであるHSV1764/−4/pR19HGFウイルスベクター(HGF発現ベクター;以下、HSV−HGFと略記する)と、タイターが1〜1.5×109pfu/mLであるHSV1764/−4/pR19LacZウイルスベクター(HGF非発現ベクター;以下、HSV−LacZと略記する)を調製した。
4週令のR6/2マウスに、ペントバルビタールを50mg/kg静脈注射して深く麻酔した。線条体(−0.4mm前後,±1.8mm内外側方向、及び−3.5mm背腹方向)へ注射するために、該マウスをKopf脳定位固定装置に入れ固定した。5μLのHSV−LacZ(5×106pfu)又はHSV−HGF(3×105pfu)を該マウスに注射した。注射は、マウスの前記線条体に10μLのハミルトンシリンジを用いて速度0.3μL/minで実施された。以下、HSV−LacZを注射したマウスをR6/2(HSV−LacZ)マウス、HSV−HGFを注射したマウスをR6/2(HSV−HGF)マウスという。
マウスに深く麻酔し、氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を心臓から流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。得られた凍結切片は、ニッスル物質を染色するためクレシル・バイオレットで染色した。
免疫組織化学的染色は、凍結切片を、PBSで洗浄し、10%ヤギ又はロバ血清を含むPBSに1時間浸漬し、次いで抗体と共に4℃で一晩インキュベートすることによって行なわれた。
(1)NeuN抗体
マウスモノクロナール抗体(Chemicon International社製;カタログ番号MAB377)を500倍希釈して使用した。
(2)c−Met抗体
SP260、ウサギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−162)を50倍希釈して使用した。
(3)リン酸化c−Met抗体
ウサギポリクロナール抗体,(Biosource社製;カタログ番号44−888G)を100倍希釈して使用した。
(4)活性化カスパーゼ−3抗体
ウサギポリクロナール抗体(プロメガ社製;カタログ番号G748)を125倍希釈して使用した。
組織のHGFは、Sun Wら、Brain Res Mol Brain Res,2002年,第103巻,p.36-48に記載のように抗HGFポリクロナール抗体(Tokushu Meneki製)を用いて測定した.
マウスの脳線条体のホモゲナイズは、50mMトリス−HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1%(W/V)トリトンX−100、1mM PMSF(フェニルメタンスルホニルフルオライド;和光純薬工業株式会社製)、2μg/mLアンチパイン(ペプチド研究所製)、2μg/mLロイペプチン(ペプチド研究所製)、2μg/mLペプスタチン(ペプチド研究所製)を用いて調製された。同量の蛋白質(120μg/レーン)を15%SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に付した。分離後、蛋白質をポリビニリデンジフルオリド(polyvinylidene difluoride;PVDF)膜(BIO−RAD社製)へ電気的に転写した。転写したPVDF膜は、室温で2時間、10質量%スキムミルクでブロッキング後、抗カスパーゼ−3抗体(ウサギポリクロナール抗体;カタログ番号C9598,Sigma社製)又は抗カスパーゼ−1(p20)抗体(ウサギポリクロナール抗体;カタログsc−1218−R,Santa Cruz Biotechnology社製)でブロットした。次いで、抗カスパーゼ−3抗体又は抗カスパーゼ−1抗体は、2次抗体(DakoCytomation社製)をコンジュゲートしたホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)と共にインキュベーションし、製品説明書に従ってECL reagents(製品番号RPN2106,アマシャム・バイオサイエンス社製)で発色させた。
バンドの強度は、Wayre Rasband氏によって開発されたNIH(National Institutes of Health)イメージソフトウエアを使用して解析された。
データは平均値±標準偏差(SD)で示し、統計学的有意差の検定は、フィッシャーの最小有意差法(PLSD)を用いる分散分析で評価した。
各グループのデータは、解析ソフトStatview 5.0(SAS Institute,Inc.製)で分析した。p<0.05の確率値の違いを統計的有意差ありとした。
HGFのin vivo発現を、免疫組織化学的に分析した。9週令(HSV−HGF又はHSV−LacZ注射5週後)において、HGFの免疫反応性が、R6/2マウス又はR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して、R6/2(HSV−HGF)マウスの線条体で増加した(図1a−d)。
ELISAを用いた線条体におけるHGF蛋白質濃度は以下の通りであった。線条体におけるHGF蛋白質濃度は、HSV−HGFを投与した野生型同腹子マウスでは、HSV−HGF注射3日後に47.07±5.81ng/gとなり、R6/2マウスのHGFの約3倍に増加した。9週令において、R6/2(HSV−HGF)マウス線条体におけるHGF蛋白質濃度はR6/2マウス又はR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して有意に増加した。また、13週令においても、R6/2(HSV−HGF)マウス線条体におけるHGF蛋白質濃度はR6/2マウス又はR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して増加をみたが、9週令と比較するとその程度は低下していた(図1e)。
ウイルス挿入後、経時的にマウス体重を測定した。
R6/2マウス又はR6/2(HSV−LacZ)マウスの体重は、9週令の野生型同腹子マウスと比較して有意に減少した。R6/2(HSV−HGF)マウスの体重は、R6/2マウスの体重と比較して差は認められなかった(図2)。
R6/2マウス、R6/2(HSV−HGF)マウスの生存曲線は、Kaplan−Meier法により分析し、Statview 5.0(SAS Institute,Inc.製)を用いてログランク検定(log−rank test)を行なった。
その結果を図3に示した。R6/2(HSV−HGF)マウスの寿命は平均100.4±2.6日であり、R6/2マウスへのHSV−HGFの注射は、R6/2マウスの平均寿命(91.3±3.8日)及びR6/2(HSV−LacZ)マウスの平均寿命(88.6±3.8日)を延長させた。(図3)。
クラスピングテストのため、マウスは30秒間尻尾を持って釣り上げ、フット・クラスピング(手足を広げられない姿勢)度をスコア化した。
フット・クラスピング度はTanaka Mらの方法(Nat.Med,第10巻,p.148-154,Epub.2004年,Jan 2018)に従い、フット・クラスピング時間から表1のようにスコア化した。
前肢及び後肢運動機能とバランスの測定のためにロタロッド装置を使用した。ロタロッドテストは、Ferrante RJらの方法(J.Neurosci,2000年,第20巻,p.4389-4397)に従って行なった。すなわち、試験は、ロタロッド装置を用い、10rpmで回転する棒の上に180秒マウスをのせ、棒から落ちる時間を記録し、分析した。
図6にロタロッドテストの経時変化を示した。R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスでは野生型同腹子マウスと比較してロタロッドテストにおいてその機能が経時的に低下した。R6/2(HSV−HGF)マウスでは、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較してロタロッドテストの成績が有意に改善された。
フットプリントテストは、Carter RJらの方法(J.Neurosci,1999年,第19巻,p.3248-3257)に従って行なった。フットプリントパターンを分析するために、前肢と後肢の足の運びは、Carter RJらの方法に従い、歩行の間、赤(前肢)インクと黒(後肢)インクで記録した。動物を、長さ50cm、幅10cmの通路にそって歩かせた。歩幅の長さは、各歩幅間における前肢の動きの平均間隔として測定した。左又は右前肢フットプリント、又は後肢のフットプリントの重なりは、歩幅の変化の均一性を測定するために使用した。
図7、8にフットプリントテストの経時変化を示した。R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスでは野生型同腹子マウスと比較してフットプリントテストにおいてその歩幅の間隔が経時的に小さくなり、前肢/後肢の重なりが経時的に低下し、前肢と後肢が分離した。R6/2(HSV−HGF)マウスでは、R6/2マウスと比較して歩幅の間隔が大きくなり(図7)、前肢/後肢の重なりの分離が減少した(図8)。
組織学的及び免疫組織化学的分析結果を以下に示した。
(1)脳萎縮と脳重量
発明者らは、脳部分のニッスル染色法を使用してR6/2マウスにおける脳萎縮に対するHGFの作用を評価した(図9)。9週令において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスでは、線条体の萎縮による脳室の拡大が認められた。一方、R6/2(HSV−HGF)マウスでは、この脳室の拡大が抑制された。9週令のマウスの脳重量を図10に示す。R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスの脳重量は、野生型同腹子マウスの脳重量と比較して減少した。しかし、R6/2(HSV−HGF)マウスでは、この脳重量の減少が抑制された。
9週令におけるマウス線条体中の神経細胞の総数を、神経細胞のマーカー(NeuN)を指標に算出した。NeuNは、NeuN抗体を用いて免疫組織化学的染色を行い検出し(図11)、検出された細胞数(NeuN陽性細胞数)をカウントした(図12)。R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスにおけるNeuN陽性細胞数は、野生型同腹子マウスと比較して有意に減少した。R6/2(HSV−HGF)マウスでは、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較してNeuN陽性細胞数の有意な増加が認められた。
R6/2マウスを用いて、c−Met/HGF受容体が該マウスに発現するかどうか解明した。免疫組織化学的分析は、c−Met/HGF受容体が、野生型同腹子マウスと同様にR6/2マウスにおいてもNeuN陽性細胞に局在することを示した(図13のリン酸化c−Met/NeuN)。HGFで誘発されるc−Metチロシンリン酸化反応を調べるために、発明者らは線条体におけるリン酸化c−Metの免疫染色を施行した(図13)。c−Metの活性化を反映しているリン酸化c−Met免疫反応性のレベルがR6/2(HSV−HGF)マウスにおいて、他のグループのマウスのそれと比較して増加した。
カスパーゼ−3は、ハンチントン舞踏病で活性化されることが知られている(Zhang Yら,J,Neurochem,2003年,第87巻,p.1184-1192)。発明者らは、HGFの神経保護作用を分析するために、HGFが活性化カスパーゼ−3の誘導に変化をもたらすかどうかを調べた。発明者らは活性化カスパーゼ−3の免疫染色を用いて、線条体におけるカスパーゼの活性化に対するHSV−HGFの作用を評価した。
9週令マウスにおける免疫組織化学的分析の結果は、以下のとおりであった。すなわち活性化カスパーゼ−3は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスの線条体(主としてNeuN陽性細胞;図14の活性化カスパーゼ−3/NeuN)に認められたが、野生型同腹子マウスの線条体には認められなかった。R6/2(HSV−HGF)マウスでは、該活性化カスパーゼ−3の免疫反応性が減少した(図14)。
ハンチントン舞踏病遺伝子導入形質転換マウスにおける脳神経細胞の新生に対するHGFの作用
試験例1と同様に作成したR6/2マウス、R6/2(HSV−LacZ)マウス、R6/2(HSV−HGF)マウス及び野生型同腹子マウスを用いた。
1.Ki−67細胞に対するHGFの作用
脳室下帯(subventricular zone;SVZ)及び線条体での神経細胞増殖を検討した。増殖細胞のマーカーとしてKi−67を選択し、Ki−67の免疫染色を行い、脳室下帯及び線条体でのKi−67陽性細胞数を測定した。線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスでのKi−67陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスにおけるそれと比較して有意に増加した。(図21).
5週令マウスにBrdU(4×75mg/kg 腹腔内投与,生理食塩液に溶解、2時間毎に合計4回)を投与し、BrdU注射28日後(9週令)に屠殺した。マウスに麻酔し、心臓からPBSを流入してマウスの全身を灌流し、次いで4%パラホルムアルデヒド含有PBSで灌流固定した。脳を段階的に10%及び20%シュークロースで凍結保護した後、凍結し、その後凍結した脳を、20μmの連続切片とした。
BrdU免疫組織化学的染色のために、凍結切片は、1N塩酸で60℃、30分インキュベートし、10%ヤギ血清を含むPBSに1時間浸漬した。その後、凍結切片は、抗BrdU(ラットモノクロナール抗体;Oxford Biotechnology社製;カタログ番号OBT0030)と共に4℃で36時間インキュベートした。二重染色は蛍光色素アレクサ488と蛍光色素アレクサ546をコンジュゲートした2次抗体(Molecular Probes社製)で視覚化し、かつ切片はTO PRO−3(Molecular Probes社製)で核を対比染色した。蛍光画像は、Zeiss LSM−510共焦点蛍光顕微鏡で検出した。
結果:
脳室下帯及び線条体におけるBrdU陽性細胞数を測定した結果、脳室下帯において、各群間にBrdU陽性細胞数の有意な差は認められなかった。しかし、線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスのBrdU陽性細胞数は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスと比較して有意に増加した(図22)。これらのデータは、HSV−HGF処置により神経細胞増殖が増強されることを示す。
ネスチン(Nestin)は、神経幹細胞のマーカーである。ネスチンは、試験例1における免疫組織化学的染色に従って染色した。抗体としては、ネスチン抗体[マウスポリクロナール抗体(BD Biosciences社製;カタログ番号556309)を100倍希釈して使用]を用いた。
ネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。脳室下帯及び線条体において、R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるネスチンとBrdUの両者が陽性である細胞は、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図23)。
ダブルコルチン(doublecortin;DCX)は遊走神経芽細胞のマーカーである。DCXは、試験例1における免疫組織化学的染色に従って染色した。抗体としては、DCX抗体[ヤギポリクロナール抗体(Santa Cruz Biotechnology社製;カタログ番号sc−8066)を100倍希釈して使用]を用いた。
DCXとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるDCXとBrdUにおける両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図24)。
PSA−NCAMは、遊走神経芽細胞のマーカーである。PSA−NCAMは、試験例1における免疫組織化学的染色に従って染色した。抗体としては、PSA−NCAM抗体[マウスモノクロナール抗体(AbCys S.A.社製;カタログ番号AbC0019)を800倍希釈して使用]を用いた。
PSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるPSA−NCAMとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体においてR6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図25)。
βIIIチューブリンは、神経細胞の初期〜分化型マーカーである。βIIIチューブリンは、試験例1に記載の免疫組織化学的染色に従って染色した。抗体としては、βIIIチューブリン抗体[TuJ1、マウスモノクロナール抗体(R&Dシステムズ社製;カタログ番号MAB1195)を200倍希釈して使用]を用いた。
βIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるβIIIチューブリンとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図26)。
NeuNは分化した神経細胞のマーカーである。NeuNは、試験例1に記載の抗体を用い、試験例1と同様に免疫組織化学的染色を行なった。
NeuNとBrdUの両者が陽性である細胞数を測定した。R6/2(HSV−HGF)マウスにおけるNeuNnとBrdUの両者が陽性である細胞は、脳室下帯及び線条体において、R6/2マウス及びR6/2(HSV−LacZ)マウスのそれと比較して有意に増加した(図27)。
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、ネスチン陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びネスチンは、試験例1に記載の抗体を用い、試験例1と同様に免疫組織化学的染色を行なった。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、ネスチンとリン酸化c−Metの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図28)。
神経細胞新生におけるHGFの役割を検討するために、DCX陽性細胞において、HGFがc−Metのチロシンリン酸化反応に変化を与えるかどうかを検討した。リン酸化c−Met及びDCXは、上記と同様に免疫組織化学的染色を行なった。
R6/2(HSV−HGF)マウスでは、リン酸化c−MetとDCXの両者が陽性である細胞が、他のグループと比較して有意に増加した(図29)。
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄実質に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、動物をペントバルビター深麻酔下に屠殺した。速やかに脊髄を取り出し、脊髄の上部(upper spinal;吻側;U)、中部(middle spinal;中央部;M)及び下部(lower spinal;尾側;L)の3つの領域に分け、それぞれの脊髄断片を、前記の方法でホモゲナイズした。ELISA法にてHGF蛋白質量を測定した。
その結果を図30に示す。ベクターを腰髄部の脊髄実質に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、尾側(腰髄を含む)>=中央部>吻側であった。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄実質に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、動物をペントバルビター深麻酔下に屠殺した。速やかに脊髄を取り出し、脊髄の上部(upper spinal;吻側;U)、中部(middle spinal;中央部;M)及び下部(lower spinal;尾側;L)の3つの領域に分け、それぞれの脊髄断片を、前記の方法でホモゲナイズした。ELISA法にてHGF蛋白質量を測定した。
その結果を図30に示す。ベクターを腰髄部の脊髄実質に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、尾側(腰髄を含む)>=中央部>吻側であった。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
成体雌性SDラットの腰髄部の脊髄腔に、ミニポンプを用いてベクター懸濁液(HSV−HGF:3×107pfu、3×107pfu;AAV2−HGF:3×1011pfu;又はAAV4−HGF:3×1011pfu)5μLを定位注射した。その5日後に、上記脊髄実質への投与における方法と同様に、脊髄を取り出し、脊髄の吻側、中部及び尾側のHGF蛋白質量を測定した。
その結果を図31に示す。ベクターを腰髄部の脊髄腔に注射すると、注射部位だけでなく脊髄の吻側、中央部においてもHGFの発現が認められた。発現の強度は、脊髄実質への注射よりHGFの発現量は低かったが、脊髄のいずれの部位[尾側(腰髄を含む)、中央部、吻側]において、ほぼ同じ程度であった。即ち、脊髄腔への投与では、広範囲な神経細胞へのHGFの供給が可能であった。これは、脊髄実質にベクターを投与した場合に比べ、脊髄液により、ベクターが脊髄全体に拡散されたためであると考えられた。なお、HSV−HGFでは、濃度依存的にHGFの発現量が増加した。
変異HDエキソン1遺伝子産物のプロセシングに対するHGFの作用
試験例1と同様に作成したR6/2マウス、R6/2(HSV−LacZ)マウス、R6/2(HSV−HGF)マウス及び野生型同腹子マウスを用いた。各マウスを9週齢で屠殺し、試験例1のウエスタンブロッティングの項に記載の方法と同様に線条体ホモゲナイズを調製した後、SDS−PAGEで蛋白質を分離し、分離した蛋白質をPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜は、室温で2時間、10質量%スキムミルクでブロッキング後、抗ハンチンチン抗体でブロットした。抗ハンチンチン抗体は、ハンチンチン蛋白質のC末端部位を認識するヤギポリクロナール抗体(Santa Cruz社製;カタログ番号sc−8678)を100倍希釈したものを使用した。次いで、2次抗体(DakoCytomation社製)をコンジュゲートしたホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)と共にインキュベーションし、製品説明書に従ってECL reagents(製品番号RPN2106,アマシャム・バイオサイエンス社製)で発色させた。
バンドの強度は、Wayre Rasband氏によって開発されたNIH(National Institutes of Health)イメージソフトウエアを使用して解析された。
Claims (22)
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは、(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを有効成分として含有することを特徴とするポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤。
- 有効成分が、(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAであることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- HGF蛋白質をコードするDNAが、(a)配列番号1、2又は5で表される塩基配列からなるDNA又は(b)前記(a)の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAであることを特徴とする請求項2記載の治療剤又は発病抑制剤。
- DNAが、I型単純ヘルペスウイルス(HSV−1)ベクター、アデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターに組み込まれていることを特徴とする請求項2記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 有効成分が、(イ)HGF蛋白質又はその塩であることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- HGF蛋白質が、(a)配列番号3、4又は6で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質であることを特徴とする請求項5記載の治療剤又は発病抑制剤。
- ポリグルタミン病がハンチントン舞踏病、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症1型、脊髄小脳失調症2型、脊髄小脳失調症3型、脊髄小脳失調症6型、脊髄小脳失調症7型、脊髄小脳失調症12型及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症よりなる群から選択される少なくとも1の疾患であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の治療剤又は発病抑制剤。
- ポリグルタミン病がハンチントン舞踏病であることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 治療剤又は発病抑制剤が、ポリグルタミン病の病変部位への局所投与用であることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 局所投与が、髄腔内投与であることを特徴とする請求項9記載の治療剤又は発病抑制剤。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを有効成分とすることを特徴とするポリグルタミン病による脳室の拡大抑制剤。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを有効成分とすることを特徴とするポリグルタミン病原因遺伝子産物依存神経細胞変性又は細胞死抑制剤。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAを有効成分とすることを特徴とするポリグルタミン病原因遺伝子産物のプロセシング抑制剤。
- 治療又は発病抑制が、脳室の拡大抑制によるものであることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 脳室の拡大が、ポリグルタミン病原因遺伝子産物による線条体神経細胞変性又は細胞死によるものであることを特徴とする請求項14記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 線条体神経細胞変性又は細胞死がカスパーゼ−3及び/又はカスパーゼ−1の活性化によるものであることを特徴とする請求項15記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 治療又は発病抑制が、神経新生によるものであることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- 治療又は発病抑制が、ポリグルタミン病原因遺伝子産物のプロセシング抑制によるものであることを特徴とする請求項1記載の治療剤又は発病抑制剤。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAのポリグルタミン病の治療剤又は発病抑制剤の製造の為の使用。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAのポリグルタミン病による脳室の拡大抑制剤の製造の為の使用。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記(イ)のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAのポリグルタミン病原因遺伝子産物依存神経細胞変性又は細胞死抑制剤の製造の為の使用。
- (1)(イ)HGF蛋白質又はその塩、あるいは(2)(イ)HGF蛋白質をコードするDNA又は(ロ)前記DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHGF蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をコードするDNAのポリグルタミン病原因遺伝子産物のプロセシング抑制剤の製造の為の使用。
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