以下、本発明の実施形態について模式的に示した図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の接合体の一実施形態を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるA−A線における一部分の拡大断面図である。
本実施形態の接合体1は、図1(a)に示すように、複数の円板状体(図1では2つの円板状体)、角板状体等の板状体を接合したものである。具体的には、図1(b)に示すように複数の珪素化合物相3どうしが珪素相4aを介して接続された多孔質複合体からなる第1基体2を、珪素化合物焼結体からなる第2基体5に接合したものである。第1基体2を形成する多孔質複合体は、気孔6を有するとともに、複数の珪素化合物相3が3次元的に配置され、隣り合う珪素化合物相3間を珪素相4aにより接合した立体的な網目構造を備えている。
第1基体2および第2基体5を形成する珪素化合物としては、例えば、窒化珪素(Si3N4)、炭化珪素(SiC)、炭窒化珪素(SiCxNy(xおよびyは、それぞれ0<x<1、0<y<4/3の範囲で、4x+3y=4を満たす数値である。))、酸化珪素(SiO2)、サイアロン(Si6−ZAlZOZN8−Z(zは0.1≦z≦1を満たす数値である。))等が挙げられ、これら組成は定比であっても不定比であってもよい。
本実施形態の接合体によれば、第1基体2を第2基体5に珪素相4bを介して接合されている。このようにすることで、珪素化合物相3および珪素化合物焼結体に対する珪素相4bの濡れ性が良好であるため、ガラス層、珪素層等の結合層で接合するときに発生していた結合層内部に生じる隙間は発生せず、第1基体2−第2基体5間の接合強度を高くすることができる。
なお、珪素相4a,4bは、不可避不純物としてAl,Fe,Ca等を含んでいても何等差し支えないが実質的に珪素からなるものである。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2および第2基体5の相対密度の関係が、第1基体2−第2基体5間の接合強度や接合体1の熱伝導性に影響し、第2基体5が第1基体2に比べて相対密度が高いほど、多孔質複合体からなる第1基体2の珪素化合物と第2基体5の珪素化合物とを接合する珪素相4bの個数が増え、接合強度や熱伝導性は高くなる。
このような観点から、本実施形態の接合体1によれば、第2基体5は第1基体2に比して緻密質の珪素化合物焼結体とすることが好適である。このようにすることで、多孔質複合体からなる第1基体2の珪素化合物と第2基体5の珪素化合物とを繋ぐ珪素相4bが増え、より接合強度を高くすることができる。加えて、第2基体5が緻密質の珪素化合物焼結体であることから、接合体1としての熱伝導性を高くすることができる。特に、珪素化合物焼結体は気孔率を0.1%以上5%以下とすると好適である。なぜなら、気孔率が5%以下であれば、第1基体2の珪素化合物と第2基体5の珪素化合物焼結体とを接合する珪素相4bの個数が多くなり、接合強度が高くなるからである。この気孔率はアルキメデス法によって測定することができる。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2および第2基体5を形成する材料により、珪素相4bの濡れ性は影響を受け、その材料が炭化珪素であると、濡れ性が良好となる。
このような観点から、本実施形態の接合体1によれば、第1基体2が珪素/炭化珪素複合材料からなり、第2基体5が炭化珪素からなることが好適である。このようにすることで、珪素相4bの濡れ性が良好となるため、さらに接合強度を高くすることができる。加えて、いずれの組成も熱伝導率が高いため、接合体としての熱伝導性をさらに高くすることができる。ここで、第1基体2の珪素/炭化珪素複合材料は複数の炭化珪素相3を3次元的に配置させるとともに、隣り合う炭化珪素相3間を珪素相4aにより接合した立体的な網目構造を形成したものであり、炭化珪素相3を珪素相4aで取り囲んでいてもよい。
図2は、本実施形態の接合体の第1基体2を形成する珪素/炭化珪素複合材料の組織図である。
図2に示す珪素/炭化珪素複合材料は、気孔6を有するとともに、炭化珪素相3が3次元的に配置され、隣り合う炭化珪素相3を珪素相4aを介して接合された立体的な網目構造を備えた部材である。珪素相4aの間隙および気泡である非連結部7は、その面積が少ないほうが好適である。その理由について説明する。炭化珪素に対する珪素の濡れ性は良好であることから、珪素は炭化珪素相3に容易に被着し、この被着した珪素は互いに連結して珪素相4aを形成する。この形成過程で、珪素相4aの内部には、図2に示される非連結部7が発生する場合があり、この非連結部7は熱伝導性を低下させるので、珪素相4aの間隙および気泡である非連結部7は、その面積が少ないほうが好適である。
珪素/炭化珪素複合材料の断面を平面視したときの2200μm×1700μmの範囲における非連結部7の面積比率を以下の式(1)のように表した場合、
(非連結部7の面積比率)=(非連結部7の面積)/(珪素相4aの面積+非連結部7の面積)×100(%) ・・・(1)
非連結部7の面積比率は3.5%以下であることが好ましい。
非連結部7の面積比率を求めるには、先ず、珪素/炭化珪素複合材料の一部を真空中でポリエステル系の冷間埋込樹脂(例えば、丸本ストルアス製、No.105)に埋め込んで円柱状の試料とする。そして、この試料の平面をダイヤモンド砥粒(例えば、フジミインコーポレーテッド製、FDCW−0.3)を用いて研磨して鏡面とする。その後、工業用顕微鏡(ニコン製、 ECLIPSE LV150)を用いて、この鏡面を5〜50倍にて撮影した画像をJPEG形式にて保存する。
次に、JPEG形式で保存した画像ファイルを、例えばAdobe(登録商標) Photoshop(登録商標) Elementsというソフトウエアを用いて画像処理を施し、BMP形式にて保存する。具体的には画像上の有彩色を削除し、白黒の二階調化(白黒化)を行なう。この二階調化では、工業用顕微鏡(ニコン製、ECLIPSE LV150)で撮影した画像と比べながら、炭化珪素相3と珪素相4が識別できる閾値を設定する。
閾値を設定した後、この二階調化された画像を、例えば「画像から面積」(制作者:赤尾鉄平)というフリーソフトを用いて、珪素相4の面積をピクセル単位で読みとる。
また、二階調化された画像中の珪素相4内の間隙および気泡である非連結部7を画像処理によって黒および白以外の色で着色し、非連結部7の面積を上述と同様の方法で読みとり、珪素相4の面積および非連結部7の面積を式(1)に代入すれば、非連結部7の面積比率を求めることができる。
特に、第2基体5を形成する炭化珪素は、ホウ素および炭素の少なくともいずれかを焼結助剤とした炭化珪素またはアルミナおよびイットリアの少なくともいずれかを焼結助剤とした炭化珪素であることが好ましい。このような焼結助剤を用いることによって、焼成工程中、緻密化が促進されるため、接合体としての熱伝導性を良くすることができる。
また、本実施形態の接合体1を吸着部材として用いた場合、第1基体2の炭化珪素の結晶粒子の平均粒径は被吸着体に対する吸着力や被吸着体の加工後の平面度に影響を与える。平均粒径が小さいと、吸着に寄与しない閉気孔が形成されることがあり、吸着部材として十分な吸着力が得られないことがある。一方、平均粒径が大きいと、極端に大きな開気孔が形成されることがある。この極端に大きな開気孔が吸着面上に多く存在すると、被吸着体を吸着した際にこの開気孔に沿って凹状の窪みが多数生じ、この窪みに被吸着体が倣った状態で固定されるため、被吸着体の加工後の平面度が大きくなるおそれがある。
このような観点から、本実施形態の接合体によれば、第1基体2の炭化珪素の結晶粒子の平均粒径を105μm以上350μm以下とすることが好ましい。炭化珪素の結晶粒子の平均粒径を105μm以上としたのは、105μm未満では、吸着に寄与しない閉気孔が形成されることがあり、吸着部材として用いた場合にも、十分な吸着力が得られないことがあるからである。一方、平均粒径を350μm以下としたのは以下のような理由による。350μmを超えると、極端に大きな開気孔が形成されることがある。この極端に大きな開気孔が吸着面上に多く存在すると、被吸着体を吸着した際にこの開気孔に沿って凹状の窪みが多数生じる。この窪みに被吸着体が倣った状態で固定されるため、被吸着体の加工後の平面度が大きくなるおそれがある。炭化珪素の結晶粒子の平均粒径を105μm以上350μm以下とすることで、吸着に寄与しない閉気孔はほとんど存在しなくなるため、十分な吸着力が得られるとともに、極端に大きな開気孔も吸着面上にほとんど存在しなくなる。このため、被吸着体の加工後の平面度を小さくすることができ、真空チャック等の吸着部材に適した接合体とすることができる。
炭化珪素の結晶粒子の平均粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(以下、走査型電子顕微鏡をSEMという。)で得られた倍率20〜800倍の画像を用いたインターセプト法により測定するか、あるいはSEMで得られた倍率20〜800倍で得られた画像、例えば0.2〜2.0mm×0.2〜2.0mmの範囲で観察された結晶粒子10〜30個の円相当径と円相当径の平均値とを画像解析により算出することにより求めることができる。インターセプト法を用いる場合、具体的には、炭化珪素の結晶粒子の個数が10以上、好ましくは20以上となるように数枚のSEM写真より一定長さの直線上にある結晶粒界の個数から粒径を測定し、その平均値を算出する。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2の気孔率が圧力損失、強度および熱伝導率に影響を与え、気孔率を小さくすると強度と熱伝導率が高くなるが、圧力損失が増加する。一方、気孔率を大きくすると圧力損失が減少するが、強度と熱伝導率が低くなる。
このような観点から、本実施形態の接合体1によれば、第1基体2の気孔率を20%以上40%以下にすることが好適である。
第1基体2の気孔率を20%以上としたのは、20%未満にすると、圧力損失が増加するおそれがあるからである。一方、気孔率を40%以下としたのは、40%を超えると、熱伝導率や強度が低下するおそれがあるからである。
気孔率を20%以上40%以下にすることで圧力損失が増加したり、熱伝導率や強度が低下したりすることのない第1基体2とすることができ、第1基体2の気孔率はアルキメデス法により求めることができる。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2の平均気孔径が圧力損失、強度および熱伝導率に影響を与え、平均気孔径が小さいと、圧力損失が増加するおそれがある。一方、平均気孔径が大きいと、被吸着体を吸着した際に気孔に沿って凹状の大きな窪みが生じ、被吸着体はその窪みに倣って固定されると、被吸着体表面の加工後の平面度が大きくなるおそれがある。
このような観点から、第1基体2の平均気孔径は、30μm以上100μm以下にすることが好適である。
平均気孔径を30μm以上としたのは、30μm未満にすると、気孔率を20%未満にした場合と同様、圧力損失が増加するおそれがあるからである。一方、平均気孔径を100μm以下としたのは、100μmを超えると、被吸着体を吸着した際に気孔に沿って凹状の大きな窪みが生じ、被吸着体がその窪みに倣って固定され、被吸着体表面の加工後の平面度が大きくなるおそれがあるからである。第1基体2の平均気孔径を30μm以上100μm以下にすることで圧力損失が増加したり、被吸着体の平面度を大きくしたりすることのない第1基体とすることができる。
第1基体2の平均気孔径はJIS R 1655−2003に準拠した水銀圧入法により求めることができる。
具体的には、まず、多孔質複合体である第1基体2より、一辺の長さが6〜7mmの立方状の試料を切り出す。この試料の気孔に水銀圧入型ポロシメータを用いて水銀を圧入し、水銀に加えられた圧力と、気孔内に浸入した水銀の容積を測定する。この容積は気孔の容積に等しく、水銀に加えられた圧力と気孔径には以下の式(2)(Washburnの関係式)が成り立つ。
D=−4γcosθ/p・・・(2)
但し、D:気孔径(m)
p:水銀に加えられた圧力
γ:水銀の表面張力(0.48N/m)
θ:水銀と細孔壁面の接触角(140°)
式(2)から各圧力pに対する各気孔径Dが求められ、各気孔径Dに対する気孔の容積分布および累積容積を導くことができる。
図3は、第1基体2から切り出した試料に存在する気孔の各気孔径Dと気孔の累積容積との関係を示すグラフの一例である。このグラフにおいて、気孔の全累積容積をVOとしたとき、気孔の累積容積がVO/2の気孔径が平均気孔径(MD)である。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2の3点曲げ強度が接合体1全体の剛性に影響を与える。3点曲げ強度が高いほど、接合体1全体の剛性を維持することができる。
このような観点から、第1基体2の3点曲げ強度が20MPa以上であることが好適である。3点曲げ強度が20MPa未満では、接合体1を真空チャックに適用した場合、到達真空度によっては、第1基体2に発生する微小振動を抑えられず、被吸着体を強固に固定することができない場合があるからである。第1基体2の3点曲げ強度を20MPa以上とすれば、到達真空度の許容範囲が拡がり、用途に応じて到達真空度を自由に選択できるため、被吸着体を強固に固定することができるので、被吸着体を精度良く加工することができる。
3点曲げ強度については、JIS R 1601−1995に準拠して測定すればよい。
また、本実施形態の接合体1では、第1基体2の熱伝導率が高いほど、被吸着体が半導体ウェハである場合、被吸着体に与える損傷を抑制させることができる。なぜなら、半導体ウェハにはICチップが搭載され、このICチップを保護する樹脂フィルムが被覆されており、第1基体2の熱伝導率が低ければ、樹脂フィルムが溶けるおそれが高くなるが、第1基体2の熱伝導率が高ければ、このようなおそれがなくなるからである。
このような観点から、第1基体2の熱伝導率を50W/(m・K)以上とすることが好適である。この熱伝導率についてはJIS R 1601−1995に準拠して測定すればよい。
また、本実施形態の吸着部材によれば、第1基体2を吸着部として用い、第2基体5を支持部として用いることが好適である。第1基体2を吸着部、第2基体5を支持部として用いることによって、上述したように第1基体2、第2基体5間の接合強度が高いため、洗浄における吸着部の剥離を有効に抑えることができる。しかも、圧力損失を低く抑え、剛性および熱伝導性が高い吸着部材とすることができる。
図4は本発明の吸着部材の一例である真空チャックの一実施形態を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるB−B線における断面図である。
図4に示す真空チャック11は、半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体(図示しない)を吸着し、保持するための吸着面12bを備え、複数の珪素化合物相どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる第1基体である吸着部12と、吸着面12bに気孔12aを介して連通する通気路15aを備えるとともに、吸着部12の周縁部を囲繞して支持し、珪素化合物焼結体からなる第2基体である支持部15とを備えてなるものである。被吸着体は吸着面12bに載置され、真空ポンプ(図示しない)により、通気路15aおよび通気路15aが同心円状や格子状等に開口した吸引溝15f、吸着部12の気孔12aを順次介して吸引することで固定される。
吸着部12は複数の珪素化合物相どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる。吸着部12は半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体と接しており、高い熱伝導性および機械的特性が要求されることから、特に炭化珪素を主成分とする多孔質複合体から形成すると好適である。この多孔質複合体は、例えば、炭化珪素の結晶粒子を珪素で接合した気孔12aを多数有する多孔質複合体である。吸着部12をなす多孔質複合体を構成する珪素は、炭化珪素の結晶粒子に対する濡れ性がよく、しかもそれ自身の熱伝導率が高いため、真空チャック11自体の剛性および熱伝導性を高くすることができる。
支持部15は、中央に円形の凹部15bを有する円板状の珪素化合物焼結体からなり、凹部13b内で吸着部12を固定して支持するものである。吸着面12bはその平面度が研磨後の半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体の精度に影響を与えることから、平面度を極力小さくする必要がある。このため、吸着部12が支持部15に支持された後、吸着面12bは研削される。また、半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体を吸着部12に吸着、保持して研磨を繰り返すと、吸着面12bは平面度が大きくなるため、使用頻度に応じて研削される。支持部15は、吸着部12と同様、高い熱伝導性および機械的特性が要求されることから、特に炭化珪素を主成分とするものがよく、相対密度は98%以上とするとよい。
また、支持部15は、吸着部12の吸着面12bと支持部15の凹部15bを形成する外壁15cの頂面15dとが同一平面上に位置するように構成している。また、支持部15の外周縁にはフランジ部15eが備えられ、ネジ止めや係合等の手段によりフランジ部15eを各種装置に取り付けるようにしている。
図5は本発明の吸着部材の一例である真空チャックの他の実施形態を示し、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるB−B線における断面図である。
図5に示す真空チャック11は、平面視で1以上の隔壁15g(図示されているものは1つの隔壁)により吸着面12bが内側領域と外側領域とに区分され、複数の珪素化合物相どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる第1基体である吸着部12(すなわち、例えば平面視で環状をなす隔壁15gにより吸着面12bが複数領域に区分された吸着部12)と、吸着面12bに気孔12aを介して連通する通気路15aを有するとともに、吸着部12の周縁部を囲繞して支持し、珪素化合物焼結体からなる第2基体である支持部15とを備えてなる。半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体(図示しない)は吸着面12bに載置され、真空ポンプ等の吸引手段(図示しない)により、通気路15aおよび通気路15aが同心円状や格子状等に開口した吸引溝15f、吸着部12の気孔12aを順次介して吸引することで固定されるようになっている。
吸着部12は、吸着作用をなす気孔12aが連続した三次元網目構造を有する円板状の多孔質体であって、その吸着面12bは平面度を維持するために使用頻度に応じて研磨される。
支持部15は、中央、即ち内側領域に吸着部12cを載置する円形の凹部15bおよびその外周側、即ち外側領域に吸着部12dを載置する環状の凹部15hを有する円板状の珪素化合物焼結体からなり、凹部15b,15h内でそれぞれ吸着部12c,12dを固定して支持するものである。吸着面12bは、平面度が研磨後の半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体の精度に影響を与えることから、極力小さくする必要があり、吸着部12が支持部15に支持された後、研削される。また、半導体ウェハ,ガラス基板等の被吸着体を吸着部12に吸着、保持して研磨を繰り返すと、吸着面12bは平面度が大きくなるため、使用頻度に応じて研削される。支持部15は、吸着部12と同様、高い熱伝導性および機械的特性が要求されることから、特に炭化珪素を主成分とするものがよく、相対密度は98%以上とするとよい。
また、支持部15は、吸着部12の吸着面12bと支持部15の凹部15hを形成する外壁15cの頂面15dとが同一平面上に位置するように構成してある。支持部15の外周縁にはフランジ部15eが備えられ、ネジ止めや係合等の手段によりフランジ部15eを各種装置に取り付けるようにしている。
隔壁16は、支持部15と一体的に形成された、幅が数mm程度の環状体であり、吸着部12を径方向に12c,12dと分割することで、径が異なる種々の被吸着体を個別に吸着させることができ、被吸着体を精度よく加工することができる。
なお、図5に示す真空チャック11は、支持部15と隔壁15gが一体的に形成されているものであるが、支持部15と隔壁15gが別々に形成され、ガラスや珪素で接合されたものであってもよい。
図5に示すような真空チャック11の通気抵抗を評価する場合、先ず真空ポンプ(図示しない)を配管(図示しない)を介して通気路15aに接続した後、例えば80〜90kPaの圧力で吸引する。そして、この吸引により吸着部12の厚み、気孔率および平均気孔径に応じて圧力損失が発生するので、配管に備え付けられた圧力ゲージでその値を読みとればよい。この圧力損失の値が大きければ、通気抵抗が高いことを示し、圧力損失の値が小さければ、通気抵抗が低いことを示す。
図6は真空チャック11の剛性を評価するための計測手段を示す断面図である。真空チャック11の剛性については、同図に示すように、真空チャック11に対し同心円状に支持リング17で真空チャック11を支持し、真空チャック11の中心に荷重Pを与えたときの、真空チャック11の厚み方向の変位の差を電気マイクロメータ(図示しない)で計測し、以下の式(3)により、ヤング率を求めればよい。
E=((3+υ)P(d/2)2・12(1−ν))/(16π(1+ν)・(h1)3・ω)・・・(3)
但し、 E:真空チャック11のヤング率(GPa)
ν:真空チャック11のポアソン比
P:荷重(N)
d:支持リング17aの内径(mm)
h1:真空チャック11の厚み(mm)(図4,図5では、d1がh1である。)
ω:真空チャック11の厚み方向の変位の差(mm)
図7は真空チャック11の熱伝導性を評価するための計測手段を示す断面図である。真空チャック11の熱伝導性については、同図に示すように、炭化珪素からなる均熱板18をホットプレート19に置いた後、ホットプレート19を加熱し、均熱板18を60℃に保持する。この状態で、均熱板18上に真空チャック11を置き、このときから50秒後の支持部15の裏面の中心の温度を熱電対20で検出し、熱電対20に接続した記録計2でその温度を読み取る。この温度が高ければ、真空チャック11の熱伝導性は高く、この温度が低ければ、熱伝導性は低いといえる。
図8は真空チャック11を構成する吸着部12と支持部15との接合強度を計測するための計測手段を示す断面図である。同図に示すように、吸着部12cの外径より内径が大きい支持リング17bで真空チャック11を同心円上に支持した状態で、真空チャック11の通気路15aからセラミックスの円柱体である押し治具22を差し込み、この押し治具22に荷重Wを加えることによって、吸着部12cに力が加わる。このとき、吸着部12cの機械的強度より接合強度が大きい場合には吸着部12cが破断し、吸着部12cの機械的強度より接合強度が小さい場合には吸着部12は支持部15から剥離する。吸着部12が支持部15から剥離するときの強度が吸着部12と支持部15との接合強度であり、この接合強度は、以下の式(4)により求めることができる。
σ=3・(W/(π・b2))・b2・((1+ν)・(b2/a2+4・Ln(a/b))−(3+ν)・ν2/b2)/(8・(h2)2)・・・(4)
但し、σ:吸着部12と支持部15との接合強度(Pa)
a:通気路15aの半径(m)
b:押し治具22の半径(m)
h2:吸着部12の厚み(m)(図4、図5では、d2がh2である。)
W:荷重(N)
ν:吸着部12のポアソン比
図9は、本発明の吸着部材の一例である真空チャックの他の実施形態を示し、(a)は斜視図、(b)は同図(a)のC−C線における断面図である。
図9に示す真空チャック1は、複数の珪素化合物相、例えば炭化珪素相どうしが珪素相を介して接続された多孔質体からなり、被吸着体を吸着し、保持するための角形状の吸着面12bを備えた吸着部12と、吸着部12を支持する支持部15とを備えた真空チャックである。吸着面12bが角形状であることから、被吸着体が角板形状である場合に適した真空チャックである。
支持部15は、中央に凹部15bを備えており、凹部15b内には隔壁16を備えた吸着部12が配置される。支持部15は、珪素化合物焼結体、例えば、炭化珪素を主成分とする焼結体からなり、凹部15bの底面に開口する吸引溝15f1,15f2と、これら吸引溝15f1,15f2に連通する通気路15a1,15a2が設けられている。通気路15a1,15a2を適宜選択することにより、被吸着体の大きさに応じて、吸着面12bの大きさを自由に設定することができる。
具体的には、平面視した際の被吸着体の大きさが吸着面12bの全面の大きさに近い場合、被吸着体を吸着する際には、全ての通気路15a1,15a2から空気を吸引し、吸引溝15f1,15f2を通じて被吸着体を吸着し、保持する。また、平面視した際の被吸着体の大きさが隔壁16で囲まれる部分の大きさと略同一の大きさの場合、被吸着体を吸着する際には、通気路15a1のみから空気を吸引し、吸引溝15f1を通じて被吸着体を吸着し、保持する。
支持部15の下方には、真空チャック11を支持、固定するための基部(図示しない)が備えられている。支持部15と基部(図示しない)とは、等間隔に設置された取付孔23にボルト(図示しない)等を介して連結、固定される。
図10は、本実施形態の真空チャックのさらに他の実施形態を示し、(a)は斜視図、(b)は同図(a)のC−C線における断面図である。
図10に示す真空チャック11は、複数の珪素化合物相(例えば炭化珪素相)どうしが珪素相を介して接続された多孔質体からなり、被吸着体を吸着し、保持するための角形状の吸着面12bを備えた吸着部12と、吸着部12を支持する支持部15とを備えた真空チャックである。吸着面12bが図10に示すように均等に分割された角形状であることから、被吸着体が複数の角板形状である場合に適した真空チャックである。例えば、図10に示す真空チャック11は、各吸着部12を、被吸着体の大きさに合わせて形成し、各吸着部12にそれぞれ被吸着体を吸着し、保持することができる。
なお、図10に示す真空チャック11を用いると、4個の同じ大きさの被吸着体を同時に吸着して加工することができるが、隔壁16の配置を変更することによって、被吸着体の大きさを任意に変更することもできる。また、図10は4個の吸着部12を備えた真空チャックを示しているが、隔壁16の個数を増やし、吸着部12の個数を増やしても何等差し支えない。
また、本実施形態の吸着装置は、上述した真空チャック11等の吸着部材を吸着手段として用い、支持部15に吸着部12に連通する通気路15aを設け、通気路15aに真空ポンプ等の吸引手段(図示しない)を接続したものである。
このような本実施形態の吸着装置によれば、上述したような吸着部材を吸着手段として用い、支持部15に吸着部12に連通する通気路15aを設けることによって、吸着部材表面に被吸着体を吸着して固定することが可能となる。これにより、圧力損失が低く、熱伝導性が良好で強度を維持した装置とすることができ、しかも、吸着部12および支持部15がそれぞれ対向する面を研削しなくても済むため、安価な装置とすることができる。
また、本実施形態の加工装置によれば、吸着部材を吸着手段として用い、吸着手段に固定される被加工物に対して加工可能に構成することによって、吸着部材の低圧力損失、高剛性より被加工物を精度良く加工することができる。さらに、吸着部材の熱伝導性が高いことから、加工時に被加工物に発生する熱を速やかに逃がせられる装置とすることができる。
<接合体の製造方法>
次に、本実施形態の吸着部材の一例である真空チャックの製造方法の一例について説明する。
本実施形態の吸着部材の一例である図4に示す真空チャック11を得るには、先ず平均粒径90〜250μmのα型炭化珪素粉末100質量部に対して、平均粒径1〜90μmの珪素粉末5〜30質量部を調合し、成形助剤として後の脱脂処理後の残炭率が10%以上となるような熱硬化性樹脂、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メタクリル樹脂の少なくともいずれか1種を添加し、ボールミル、振動ミル、コロイドミル、アトライター、高速ミキサー等で均一に混合する。特に、上記成形助剤として、熱硬化後の低収縮性の点からレゾール型またはノボラック型のフェノール樹脂が好適である。
成形助剤の添加量は、成形体の生密度に影響するため、第1基体である吸着部12の気孔率および平均細孔径にも強く影響する。吸着部12の気孔率を20%以上40%以下であって、平均気孔径を30μm以上100μm以下とするには、α型炭化珪素粉末100質量部に対し、成形助剤の添加量を5〜20質量部とすればよい。
ところで、炭化珪素にはα型とβ型が存在するが、一般的にα型はβ型より耐酸化性が高く、粒子内部には残留炭素や残留珪素を殆ど含まない。このような理由から出発原料にはα型炭化珪素を用いる。
また、珪素粉末は、後の熱処理で珪素相となって、炭化珪素の結晶粒子を連結する。
珪素粉末の純度は高いほうが好ましく、95質量%以上の純度のものが好適で、99質量%以上の純度のものが特に好ましい。なお、使用する珪素粉末の形状は特に限定されず、球形又はそれに近い形状のみならず、不規則形状であっても好適に用いることができる。
上記炭化珪素粉末、珪素粉末の各平均粒径は液相沈降法、光投下法、レーザー散乱回折法等により測定することができる。
次に、混合した原料を転動造粒機、スプレードライヤー、圧縮造粒機、押し出し造粒機等各種造粒機を用いて造粒する。
次に、中央に円形の凹部15bを備え、外壁15c間の外径が143〜380mm、厚み(d1)が14.3〜60mmである略円板状の緻密質な枠体であって、その内部に通気路15aおよび吸引溝15fを備えた炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15を準備する。そして、造粒された原料を支持部15の凹部15bに充填し、乾式加圧成形、冷間等方静水圧成形等の成形手段で凹部15b内で成形して成形体とする。なお、支持部15に備えられた通気路15aおよび吸引溝15fに造粒された原料が入り込まないようにするために、予め樹脂を吸引溝15fに充填、硬化させておいて、引き続き行なわれる脱脂処理により、硬化した樹脂を消失させればよい。
次に、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、真空等の非酸化雰囲気中で、400〜600℃で脱脂処理を行なう。その後、脱脂処理と同様、非酸化雰囲気中、1400〜1450℃で熱処理することで複数の炭化珪素相どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる吸着部12と、炭化珪素質焼結体からなる支持部15とを珪素相を介して接合された吸着部材を得ることができる。特に、熱処理温度を1420〜1440℃にすることが好適であり、この温度範囲で熱処理することで、吸着部12と支持部15とを接合する珪素相を良好に形成することができる。また、気孔率が20%以上40%以下であって、平均気孔径が30μm以上100μm以下である第1基体を得るにもこの温度範囲で熱処理すればよい。
なお、熱処理の温度を下げるには、珪素の純度を99.5〜99.8質量%とすることが好適である。
このような製造方法で得られた吸着部材は、被吸着体が固定される側の主面を研削、研磨等の機械加工を施して、図4に示す真空チャックとすることができる。
隔壁15gと支持部15とが一体的に形成された、図5に示す真空チャック11は、以下に示す方法で得ることができる。即ち、中央に円形の凹部15bおよびその外周側に環状の凹部15hを備え、外壁15c間の外径が143〜380mm、厚み(d1)が14.3〜60mmである略円板状の緻密質な枠体であって、その内部に通気路15aおよび吸引溝15fを備えた炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15を準備する。そして、上述の造粒された原料を凹部15b,15hに充填し、乾式加圧成形、冷間等方静水圧成形等の成形手段で凹部15b,15h内で成形して成形体とする。なお、支持部15に備えられた通気路15aおよび吸引溝15fに造粒された原料が入り込まないようにするために、予め樹脂を吸引溝15fに充填、硬化させておいて、引き続き行なわれる脱脂処理により、硬化した樹脂を消失させればよい。
次に、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、真空等の非酸化雰囲気中で、400〜600℃で脱脂処理を行なった後、脱脂処理と同様、非酸化雰囲気中、1400〜1450℃で熱処理することで、吸着部材を得ることができる。
このような製造方法で得られた吸着部材は、被吸着体が固定される側の主面を研削、研磨等の機械加工を施して、図5に示す真空チャックとすることができる。
このような本実施形態の接合体は、複数の珪素化合物相どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる第1基体を、珪素化合物焼結体からなる第2基体に前記珪素相を介して接合されているので、珪素化合物相および珪素化合物焼結体に対する珪素層の濡れ性が良好であるため、ガラス層や珪素層で接合するときに生じた隙間は発生せず、第1基体、第2基体間の接合強度を高くすることができる。また、本実施形態の接合体を真空チャック等の吸着部材に用いることによって、吸着部と支持部との接合強度が高く、洗浄における吸着部の剥離を有効に抑えることができる、安価な吸着装置とすることができる。
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
先ず、平均粒径120μmのα型炭化珪素粉末100質量部に対して、平均粒径25μmの珪素粉末20質量部および成形助剤となるフェノール樹脂を均一に混合し、調合原料を作製した。この調合原料を転動造粒機に投入して、混合した後、外壁15c間の外径が330mm、厚み(d1)が40mmである略円板状の緻密質な枠体であって、その内部に通気路15aおよび吸引溝15fを備えた炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15を準備した。その後、造粒された原料を支持部15の凹部15b内に充填し乾式加圧成形にて成形体を形成した。次に、窒素雰囲気中、500℃で脱脂処理した後、1420℃で同じく窒素雰囲気中で熱処理した。そして、炭化珪素どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる第1基体である吸着部12を、炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15に珪素相を介して接合される、図4に示す真空チャック11を作製した。
次に、比較例として、平均粒径120μmのα型炭化珪素粉末100質量部に対して、平均粒径25μmの珪素粉末20質量部および成形助剤となるフェノール樹脂を均一に混合し、調合原料を作製した。この調合原料を転動造粒機に投入し、顆粒とした後、乾式加圧成形にて成形体を得た。次に、この成形体を窒素雰囲気中、500℃で脱脂処理した後、1420℃で同じく窒素雰囲気中で熱処理して、炭化珪素どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる、図11に示す吸着部材51をそれぞれ作製した。
次に、外壁53c間の外径が330mm、厚み(d1)が40mmである略円板状の緻密質な枠体であって、その内部に通気路53aおよび吸引溝53gを備えた炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部材53を準備した。接合後の結合層52を構成するガラスの各成分がSiO2:60質量%、Al2O3:15質量%、B2O3:14質量%、CaO:4質量%、MgO:3質量%、BaO:3質量%、SrO:1質量%になるように調整された、前記各成分を含むペーストを凹部53bに塗布した。ペースト塗布後、吸着部材51を凹部53bに置き、専用の加圧装置で厚み方向から加圧した後、980℃で熱処理することで、結合層52の厚みが110〜120μmである真空チャック50を得た。
また、同様の方法で接合後の結合層52が珪素層となるように調整されたペーストを凹部53bに塗布した。ペースト塗布後、吸着部材51を凹部53bに置き、専用の加圧装置で厚み方向から加圧した。その後、窒素雰囲気中1420℃で熱処理することで、結合層52の厚みが10〜30μmである真空チャック50を得た。
次に、得られた真空チャック11(50)を構成する吸着部12(51)と支持部15(53)との接合強度の評価について説明する。
図8に示すように、吸着部12cの外径より内径が大きい支持リング17bで真空チャック11(50)を同心円上に支持した状態で、真空チャック11(50)の通気路15a(53a)からセラミックスの円柱体である押し治具22を差し込んだ。その後、この押し治具22に加える荷重Wを徐々に増やし、破断した箇所を調べた。その箇所を表1に示す。
表1に示すように、ガラスまたは珪素を主成分とする結合層52で吸着部材51と支持部材53とを接合した試料No.2,3は、いずれも結合層52と支持部材53との界面で破断しており、結合層52および支持部材53間の接合強度が低い。
一方、珪素相を介して吸着部12と支持部15とを接合した試料No.1は、吸着部12で破断しており、吸着部12、支持部15間の接合強度が高い。
<実施例2>
先ず、α型炭化珪素粉末、珪素粉末および成形助剤となるフェノール樹脂を均一に混合し、調合原料を作製した。α型炭化珪素粉末の平均粒径、α型炭化珪素粉末100質量部に対する珪素粉末の比率および平均粒径は表2に示す通りとした。
作製した調合原料を転動造粒機に投入して、混合した。その後、外壁15c間の外径330mm、厚み(d1)が40mmである略円板状の緻密質な枠体であって、その内部に通気路15aおよび吸引溝15gを備えた炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15を準備した。そして、造粒された原料を支持部15の凹部15bに充填し、乾式加圧成形にて成形体を形成した。次に、窒素雰囲気中、500℃で脱脂処理した。その後、1420℃で同じく窒素雰囲気中で熱処理して、炭化珪素どうしが珪素相を介して接続された多孔質複合体からなる第1基体である吸着部12を、炭化珪素質焼結体からなる第2基体である支持部15に珪素相を介して接合される、図4に示す真空チャック11をそれぞれ作製した。
真空チャック11を構成する吸着部12の炭化珪素の結晶粒子の平均粒径は、SEMを用いて倍率30倍により、1mm×1mmの範囲で観察された結晶粒子15個の円相当径と円相当径の平均値とを画像解析により算出し、円相当径の平均値を平均粒径とした。
また、吸着部12の気孔率および平均気孔径は、それぞれアルキメデス法,JIS R 1655−2003に準拠した水銀圧入法を用いて測定した。
吸着部12の平均気孔径については、具体的には、先ず多孔質複合体である吸着部12から切り出した一辺の長さが6mmの立方状の試料の気孔に、水銀圧入型ポロシメータを用いて水銀を圧入した。その後、水銀に加えられた圧力と、気孔内に浸入した水銀の容積を測定した。この容積は気孔の容積に等しく、水銀に加えられた圧力と気孔径には上述の式(2)(Washburnの関係式)が成り立つので、式(2)から各圧力pに対する各気孔径Dが求められ、各気孔径Dに対する気孔の容積分布および累積容積を導いた。そして、気孔の全累積容積をVOとしたとき、気孔の累積容積がVO/2を示すときの気孔径を平均気孔径(MD)とした。
また、吸着部12の強度はJIS R 1601−1995に準拠して3点曲げ強度を測定した。
また、吸着部12の熱伝導率は、JIS R 1601−1995に準拠して測定した。
また、真空チャック11の通気抵抗については、真空ポンプ(図示しない)を配管(図示しない)を介して通気路15aに接続した後、85kPaの圧力で吸引し、発生した圧力損失の値を配管に備え付けられた圧力ゲージで読みとった。この圧力損失の値が大きければ、通気抵抗が高いことを示し、圧力損失の値が小さければ、通気抵抗が低いことを示す。
また、真空チャック11の熱伝導性については、図7に示すように、炭化珪素からなる均熱板18をホットプレート19に置いた後、ホットプレート19を加熱し、均熱板18を60℃に保持した。この状態で、真空チャック11を均熱板18上に置き、このときから50秒後の支持部15の裏面の中心の温度を熱電対20(K熱電対)で検出し、熱電対20に接続した記録計21でその温度を読みとった。この温度が高ければ、真空チャック11の熱伝導性は高く、この温度が低ければ、熱伝導性は低いといえる。
また、真空チャック11の剛性については、図6に示すように、真空チャック11に対し同心円状に支持リング17aで真空チャック11を支持し、真空チャック11の中心に荷重Pを与えたときの、真空チャック11の厚み方向の変位を電気マイクロメータ((株)ミツトヨ製、型番:MU−CHECKER M401)で計測し、上述の式(4)により、ヤング率を求め、その計算値を求めた。
また、真空チャック11の吸着面に、直径200mmの半導体ウェハ(図示しない)を載置し、圧力80kPaで吸着し、半導体ウェハの表面を厚み方向に100μm研磨したときの研磨面の平面度を平面度測定装置(黒田精工社(製)、ナノメトロTT)で測定した。なお、研磨面の平面度は研磨面の最も高い点と最も低い点との差である。
上述したような方法で得られた測定値および計算値を表2に示す。
表2に示すように、吸着部12の炭化珪素の結晶粒子の平均粒径が105μm以上350μm以下である試料No.5〜8,10〜12は、平均粒径が105μm未満である試料No.4,9より圧力損失が低い。また、試料No.5〜8,10〜12は、平均粒径が350μmを超える試料No.13より、半導体ウェハの研磨面の平面度が小さいことから、低い吸引力で、径の大きな被吸着体を固定することができ、しかも研磨面の平面度を小さくすることができる真空チャックといえる。
吸着部12の炭化珪素の結晶粒子の平均粒径が105μm以上350μm以下であって、吸着部12の気孔率が20%以上40%以下である試料No.5〜7,9〜12は、気孔率が20%未満である試料No.4より、圧力損失が低い。また、試料No.5〜7,9〜12は、気孔率が40%を超える試料No.8より、強度および熱伝導性が高いので、機械的特性、熱伝導性および通気抵抗のバランスが良好な真空チャックといえる。
また、吸着部12の平均気孔径が30μm以上100μm以下である試料No.5〜8,10〜12は、平均気孔径が30μm未満である試料No.9より、圧力損失が低い。また、試料No.5〜8,10〜12は、平均気孔径が100μmを超える試料No.13より半導体ウェハの研磨面の平面度が小さいことから、低い吸引力で、径の大きな被吸着体を固定することができ、しかも研磨面の平面度を小さくすることができる真空チャックといえる。
また、吸着部12の3点曲げ強度が20MPa以上である試料No.4〜12は、3点曲げ強度が20MPa未満である試料No.13より、剛性が高いことから、径の大きな被吸着体を固定することができ、しかも研磨面の平面度を小さくすることができる真空チャックといえる。
また、吸着部12の熱伝導率が50W/(m・K)以上である試料No.4〜7,9〜13は、吸着部12の熱伝導率が50W/(m・K)未満である試料No.8より、研磨時に半導体ウェハに発生する熱を速やかに逃がすことができるため、半導体ウェハ等の被吸着体の表面の平面度を小さくすることができる真空チャックといえる。