(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した平面図であり、図2は、図1の100−100線に沿った断面図である。まず、図1および図2を参照して、第1実施形態による窒化物系半導体素子としての半導体レーザ素子の構造について説明する。
第1実施形態による半導体レーザ素子(発振波長:約405nm)は、図1に示すように、一対の共振器端面1aおよび1bを有する半導体レーザ素子部1を備えている。この半導体レーザ素子部1の一方の共振器端面1aは、光出射側に位置しているとともに、他方の共振器端面1bは、光反射側に位置している。また、半導体レーザ素子部1は、共振器方向に延びるように形成されたストライプ状のリッジ部1cを有している。なお、半導体レーザ素子部1は、本発明の「素子部」の一例である。また、共振器端面1aおよび1bは、本発明の「所定面」の一例である。
半導体レーザ素子部1の具体的な構造としては、図2に示すように、n型GaN基板11上に、n型AlGaInNからなるn型バッファ層12、n型AlGaInNからなるn型クラッド層13およびn型AlGaInからなるn型ガイド層14が順次形成されている。n型ガイド層14上には、複数のAlGaInN層(図示せず)を含む多重量子井戸構造の活性層15が形成されている。
また、活性層15上には、p型AlGaInNからなるp型ガイド層16が形成されているとともに、そのp型ガイド層16上には、凸部と平坦部とを有するp型AlGaInNからなるp型クラッド層17が形成されている。p型クラッド層17の凸部上には、p型AlGaInNからなるp型コンタクト層18が形成されている。そして、p型コンタクト層18とp型クラッド層17の凸部とによって、ストライプ状のリッジ部1cが構成されている。このリッジ部1cの共振器方向と直交する方向の幅は、約1.2μm〜約2.4μm(たとえば、約1.5μm)に設定されている。
また、p型クラッド層17の平坦部上には、リッジ部1cの側面を覆うように、SiO2などからなる絶縁層19が形成されている。絶縁層19上には、p型コンタクト層18(リッジ部1c)の上面と接触するように、p側電極層20が形成されている。また、n型GaN基板11の裏面上には、n側電極層21が形成されている。
そして、上記した各層(12〜21)によって、第1実施形態の半導体レーザ素子部1が構成されている。また、上記した各層(12〜18)の組成比は、適宜調節されるものであり、本発明の本質とは関係ない。また、上記した半導体レーザ素子部1の構造では、活性層15の組成比を調節することにより、約370nm〜約460nmの範囲内で発振波長を調節することができる。なお、n型バッファ層12、n型クラッド層13、n型ガイド層14、活性層15、p型ガイド層16、p型クラッド層17およびp型コンタクト層18は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。
ここで、第1実施形態では、図1に示すように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなるコーティング膜2が形成されているとともに、そのコーティング膜2に、シリコン(添加物)が添加されている。この第1実施形態のコーティング膜2の組成は、AlwSixOyNz(w+x+y+z=1)となる。
また、第1実施形態では、コーティング膜2におけるシリコン(添加物)の組成比xが、0.002<x≦0.1を満たすように設定されている。具体的には、第1実施形態では、w=0.34、x=0.01、y=0.05、z=0.6に設定されている。上記したコーティング膜2の組成比は、AES(Auger Electron Spectroscopy)を用いて求めることができる。なお、コーティング膜2における酸素の組成比yは、TEM−EDX(Transmission Electron Microscopy−Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)などを用いて求めることもできる。
さらに、第1実施形態では、コーティング膜2の厚みが、6nm以上150nm以下に設定されている。具体的には、第1実施形態では、コーティング膜2の厚みが約20nmに設定されている。
また、第1実施形態では、コーティング膜2上に、約140nmの厚みを有する酸化アルミニウム(アルミナ)膜3が形成されている。なお、酸化アルミニウム膜3は、本発明の「酸化物膜」の一例である。
また、第1実施形態では、半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上にも、半導体レーザ素子部1の光出射側と同様、コーティング膜4および酸化アルミニウム(アルミナ)膜5が順次形成されている。光反射側のコーティング膜4は、光出射側のコーティング膜2と同様の組成および厚みを有している。すなわち、光反射側のコーティング膜4は、結晶化されたAlwSixOyNz(w+x+y+z=1、w=0.34、x=0.01、y=0.05、z=0.6)膜からなるとともに、約20nmの厚みを有している。また、光反射側の酸化アルミニウム膜5は、約120nmの厚みを有している。なお、酸化アルミニウム膜5は、本発明の「酸化物膜」の一例である。
また、光反射側の酸化アルミニウム膜5上には、高反射膜6が形成されている。この高反射膜6は、5つの酸化シリコン膜(図示せず)と4つの酸化チタン膜(図示せず)とが1つずつ交互に積層された構造を有している。そして、最表面に位置する酸化シリコン膜の厚みが約142nmに設定されているとともに、その最表面に位置する酸化シリコン膜以外の酸化シリコン膜の厚みが約71nmに設定されている。また、酸化チタン膜の厚みが約46nmに設定されている。
第1実施形態では、上記のように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなるコーティング膜2を形成するとともに、その光出射側のコーティング膜2に、シリコンを添加することによって、光出射側のコーティング膜2の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所にシリコンが濃化するので、光出射側のコーティング膜2の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所を介した酸素や水分の拡散を抑制することができる。これにより、外部からの酸素や水分が光出射側のコーティング膜2を通過して半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1aにまで侵入するのを抑制することができるので、光出射側の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのを抑制することができる。さらに、半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に、光出射側のコーティング膜2と同様のコーティング膜4を形成することによって、光反射側の共振器端面1bに酸素や水分が浸入するのを抑制することができるので、光反射側の共振器端面1bが酸化するなどして劣化するのも抑制することができる。その結果、半導体レーザ素子部1を備えた半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができるとともに、その半導体レーザ素子を歩留りよく作製することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、コーティング膜2(4)の厚みを、約20nmに設定することによって、コーティング膜2(4)の厚みが小さくなり過ぎることに起因して、半導体レーザ素子部1の共振器端面1a(1b)上にコーティング膜2(4)を形成することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜2(4)の厚みが大きくなり過ぎることに起因して、コーティング膜2(4)にひび割れなどが発生するという不都合が生じるのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、コーティング膜2(4)におけるシリコンの組成比xを、0.01に設定することによって、コーティング膜2(4)におけるシリコンの組成比xが低くなり過ぎることに起因して、コーティング膜2(4)にシリコンを添加することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜2(4)におけるシリコンの組成比xが高くなり過ぎることに起因して、コーティング膜2(4)がアモルファス状態になるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、コーティング膜2(4)の膜質が低下するのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、上記のように、光出射側において、コーティング膜2上に、酸化アルミニウム膜3を形成することによって、コーティング膜2および酸化アルミニウム膜3の両方により、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aへの外部からの酸素や水分の浸入を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのをより抑制することができる。なお、酸化アルミニウム膜3は、反射率を制御する機能も有している。
また、第1実施形態では、上記のように、光反射側において、コーティング膜4上に、酸化アルミニウム膜5を形成することによって、コーティング膜4および酸化アルミニウム膜5の両方により、半導体レーザ素子部1の共振器端面1bへの外部からの酸素や水分の浸入を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子部1の共振器端面1bが酸化するなどして劣化するのをより抑制することができる。なお、酸化アルミニウム膜5は、反射率を制御する機能も有している。
図3は、図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための平面図である。図4は、図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子のコーティング膜を形成する際に用いるECRスパッタ装置の構造を示した概略図である。次に、図1〜図4を参照して、第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスについて説明する。
まず、複数の半導体レーザ素子部1(図2参照)が一体化された構造体(図示せず)を形成する。すなわち、図2に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などを用いて、n型GaN基板11上に、窒化物系半導体各層12〜18を順次形成する。この後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いて、p型コンタクト層18およびp型クラッド層17の所定領域を除去することによって、ストライプ状のリッジ部1cを形成する。そして、プラズマCVD法などを用いて、p型クラッド層17の平坦部上に、リッジ部1cの側面を覆うように、絶縁層19を形成する。次に、蒸着法などを用いて、絶縁層19上に、p型コンタクト層18(リッジ部1c)の上面と接触するように、p側電極層20を形成する。また、蒸着法などを用いて、n型GaN基板11の裏面上に、n側電極層21を形成する。
次に、図3に示すように、上記した工程で形成された構造体(図示せず)を劈開することによって、一対の共振器端面(劈開面)1aおよび1bを有するバー状の構造体25を形成する。
次に、図4に示すECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ装置30を用いて、図3に示した構造体25の共振器端面1a上に、約20nmの厚みを有するとともに、結晶化されたAlwSixOyNz(w+x+y+z=1、w=0.34、x=0.01、y=0.05、z=0.6)膜からなる光出射側のコーティング膜2(図1参照)を形成する。
ここで、ECRスパッタ装置30は、図4に示すように、プラズマ生成室31と、そのプラズマ生成室31に連結された成膜室32とを備えている。ECRスパッタ装置30のプラズマ生成室31には、プラズマの生成に必要な磁場を発生させるための磁気コイル33が設けられている。また、プラズマ生成室31には、プラズマ生成室31の内部にマイクロ波を導入するためのマイクロ波導入窓34が設けられている。ECRスパッタ装置30の成膜室32には、導入口32aおよび排出口32bが形成されている。また、成膜室32の内部には、高周波電源34が接続されたAlSiからなるターゲット35が配置される。また、成膜室32の内部には、構造体25を保持するためのホルダ36が設けられている。
そして、構造体25の共振器端面1a上に光出射側のコーティング膜2(図1参照)を形成する際には、まず、構造体25の共振器端面1aがターゲット35側に向くように、成膜室32の内部に構造体25を配置する。その後、成膜室32の内部を真空排気する。
次に、窒素(N2)ガス(流量:約5.2sccm)、酸素(O2)ガス(流量:約0.5sccm)およびアルゴン(Ar)ガス(流量:約10.0sccm)を成膜室32の内部に導入しながら、プラズマ生成室31の内部においてプラズマを生成する。このプラズマ生成室31の内部のプラズマは、プラズマ生成室31の内部に磁場を発生させた状態でマイクロ波を導入することによって得られる。また、同時に、ターゲット35に対して電圧を印加する。この際、高周波パワー、マイクロ波パワーおよび成膜温度を、それぞれ、約500W、約500Wおよび約200℃以上に設定する。この場合の成膜速度は、約0.16nm/secとなる。なお、窒素ガスおよび酸素ガスに加えてアルゴンガスを導入したのは、プラズマを効率よく生成して成膜速度を速くするためである。また、成膜温度を約200℃以上に設定することによって、形成される膜(コーティング膜2)の結晶性が高くなる。
プラズマ生成室31の内部にプラズマが生成されると、ターゲット35がスパッタされてスパッタ粒子が生成されるとともに、そのスパッタ粒子が構造体25の共振器端面1aに向かって放出される。そして、構造体25の共振器端面1aに向かって放出されたスパッタ粒子は、窒素ガスおよび酸素ガスと化学反応を起こす。その結果、スパッタ粒子と窒素ガスおよび酸素ガスとの化学反応により生成されたAlwSixOyNzが構造体25の共振器端面1a上に堆積する。このようにして、構造体25の共振器端面1a上に、結晶化されたAlwSixOyNz(w+x+y+z=1、w=0.34、x=0.01、y=0.05、z=0.6)膜からなる光出射側のコーティング膜2(図1参照)が形成される。この光出射側のコーティング膜2の約405nmの波長の光に対する屈折率は、約2.13である。なお、光出射側のコーティング膜2(AlwSixOyNz膜)のシリコンの組成比x(アルミニウムの組成比w)の調節は、AlSiからなるターゲット35におけるシリコンの含有量を調節することによって行う。また、光出射側のコーティング膜2(AlwSixOyNz膜)の酸素の組成比y(窒素の組成比z)は、成膜中に導入される窒素ガスおよび酸素ガスの比率を調節することによって行う。
ここで、上記したように、光出射側のコーティング膜2(図1参照)を形成する際には、窒素ガスおよび酸素ガスに加えて、アルゴンガスも成膜室32の内部に導入している。したがって、光出射側のコーティング膜2には、アルゴンが含有されることになる。ただし、第1実施形態では、光出射側のコーティング膜2に含有されるアルゴンが極微量であるため、コーティング膜2の組成を、AlwSixOyNz(w+x+y+z=1)としている。
なお、光出射側のコーティング膜2(図1参照)を形成する際には、ECRスパッタ装置30の成膜室32の内部において、約100℃以上の温度条件下で構造体25を加熱することによって、構造体25の共振器端面1aに付着している酸化物などの不純物を予め除去(クリーニング)するのが好ましい。そして、光出射側のコーティング膜2の形成は、クリーニング後に、構造体25が約100℃以上に加熱された状態で続けて行うのが好ましい。
また、アルゴンガスのプラズマ、窒素ガスのプラズマおよびアルゴンおよび窒素を含む混合ガスのプラズマのいずれかを構造体25の共振器端面1aに対して照射することによって、構造体25の共振器端面1aのクリーニングを行ってもよい。また、プラズマを照射することによりクリーニングを行う場合には、アルゴンガスのプラズマを照射した後に窒素ガスのプラズマを照射してもよいし、窒素ガスのプラズマを照射した後にアルゴンガスのプラズマを照射してもよい。また、アルゴンガスや窒素ガス以外にも、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)およびクリプトン(Kr)などの希ガスを用いてもよい。また、プラズマを照射することによりクリーニングを行う際には、構造体25を加熱してもよいし、構造体25を加熱しなくてもよい。なお、クリーニングを行う際に構造体25を加熱する場合には、クリーニング後に、構造体25が約100℃以上に加熱された状態でコーティング膜2の形成を続けて行うのが好ましい。
次に、図4に示したECRスパッタ装置30を用いて、構造体25の共振器端面1b上に、約20nmの厚みを有するとともに、結晶化されたAlwSixOyNz(w+x+y+z=1、w=0.34、x=0.01、y=0.05、z=0.6)膜からなる光反射側のコーティング膜4(図1参照)を形成する。なお、光反射側のコーティング膜4の形成条件は、上記した光出射側のコーティング膜2の形成条件と同様である。
なお、光反射側のコーティング膜4(図1)を形成する際にも、構造体25の共振器端面1bのクリーニングを行ってもよい。ただし、半導体レーザ素子にいおて、光反射側の共振器端面1bは光出射側の共振器端面1aに比べて光密度が低いので、光反射側の共振器端面1bが劣化したとしても影響は少ない。したがって、構造体25の光反射側の共振器端面1bのクリーニングは行わなくても問題はない。
次に、図1に示すように、スパッタ法、CVD法または蒸着法を用いて、光出射側のコーティング膜2上に、約140nmの厚みを有する酸化アルミニウム膜3を形成する。この後、スパッタ法、CVD法または蒸着法を用いて、光反射側のコーティング膜4上に、約120nmの厚みを有する酸化アルミニウム膜5を形成した後、その酸化アルミニウム膜5上に、高反射膜6を形成する。なお、高反射膜6を形成する際には、5つの酸化シリコン膜(図示せず)と4つの酸化チタン膜(図示せず)とを1つずつ交互に積層する。さらに、最表面に位置する酸化シリコン膜の厚みが約142nmになるように、かつ、最表面に位置する酸化シリコン膜以外の酸化シリコン膜の厚みが約71nmになるように形成する。また、酸化チタン膜の厚みが約46nmになるように形成する。
最後に、素子分離(チップ化)を行うことによって、第1実施形態による半導体レーザ素子が形成される。なお、素子分離前または素子分離後に、加熱処理を行ってもよい。これにより、コーティング膜2および4の内部の水分が除去されるとともに、コーティング膜2および4の膜質が向上する。
第1実施形態の製造プロセスでは、上記のように、ECRスパッタ装置30を用いることによって、高真空中においてもプラズマを生成することができるとともに、構造体25(窒化物系半導体各層12〜18)にダメージが入るのを抑制しながら、高密度なコーティング膜2および4を形成することができる。
次に、第1実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。
この確認実験では、まず、上記した第1実施形態の製造プロセスと同じ製造プロセスを用いて、20個の半導体レーザ素子を作製した。
また、比較例として、コーティング膜にシリコンが添加されていない半導体レーザ素子を20個作製した。この比較例としての半導体レーザ素子のコーティング膜は、上記した第1実施形態の製造プロセスにおいて、シリコンを含まないアルミニウムのみからなるターゲットが装着されたECRスパッタ装置を用いて形成した。このように形成した比較例の半導体レーザ素子のコーティング膜の組成は、AlwOyNz(w+y+z=1、w=0.35、y=0.05、z=0.6)であった。なお、比較例の半導体レーザ素子のコーティング膜以外の構造は、上記第1実施形態と同じにした。
そして、第1実施形態および比較例の各々の半導体レーザ素子について、75℃、200mW(デューティ比:50%、パルス幅:30ns)の条件下でエージング試験を行った。その結果、エージング実施時間が300時間を超えた時点で破壊せずに試験を続けることが可能であった半導体レーザ素子の個数は、第1実施形態が19個(歩留り:95%)であったのに対して、比較例が14個(歩留り:70%)であった。これにより、コーティング膜にシリコンを添加した第1実施形態の半導体レーザ素子では、コーティング膜にシリコンを添加しない場合に比べて信頼性が向上することを確認することができた。
なお、上記した結果から、コーティング膜にシリコンを添加した第1実施形態の半導体レーザ素子では、コーティング膜の結晶欠陥、転移および結晶粒界などにシリコンが濃化したために、コーティング膜の結晶欠陥、転移および結晶粒界などを介した酸素や水分の拡散が抑制されたと考えられる。これにより、コーティング膜にシリコンを添加した第1実施形態の半導体レーザ素子では、外部からの酸素や水分がコーティング膜を通過して共振器端面にまで侵入するのを抑制することができたので、共振器端面が酸化するなどして劣化するのを抑制することができたと考えられる。
次に、第1実施形態の半導体レーザ素子の構成において、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xを変化させて、上記したエージング試験を行った。その結果、コーティング膜におけるシリコンの組成比xが0.04≦x≦0.2の範囲内であれば、歩留りが高く(80%以上)なることが判明した。その一方、コーティング膜におけるシリコンの組成比xが0.2を超えると、半導体レーザ素子の破壊強度が低下することが判明した。ここで、破壊強度とは、半導体レーザ素子をCW駆動で動作させる場合において、半導体レーザ素子に印加する電流を徐々に大きくして光出力を増大させていったときに、共振器端面が破壊されて光が出射されなくなった時点における光出力のことである。なお、コーティング膜におけるシリコンの組成比xが0.2を超えている半導体レーザ素子のエージング試験前の破壊強度は、500mW程度であり、光出力が約500mWになった時点で共振器端面が破壊する。
上記した結果から、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xが0.2を超えると、コーティング膜がアモルファス状態に変化して、コーティング膜の膜質が低下すると考えられる。これにより、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xは、0.2以下(0<x≦0.2)であることが好ましく、0.1以下(0<x≦0.1)であればより好ましい。なお、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xが0.002以下になると、コーティング膜にシリコンを添加することによる効果が得られにくいと考えられる。このため、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xは、0.002よりも高いことが好ましい。したがって、AlwSixOyNz膜からなるコーティング膜におけるシリコンの組成比xとしては、0.002<x≦0.1の範囲内に設定するのが最も好ましい。
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。次に、図5を参照して、第2実施形態による半導体レーザ素子(窒化物系半導体素子)の構造について説明する。なお、第2実施形態の半導体レーザ素子部1の構造は、上記第1実施形態の半導体レーザ素子部1の構造と同じである。
第2実施形態による半導体レーザ素子では、図5に示すように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの窒化物からなるコーティング膜42が約50nmの厚みで形成されているとともに、そのコーティング膜42に、シリコンが添加されている。この第2実施形態の光出射側のコーティング膜42の組成は、AlwSixNz(w+x+z=1、w=0.35、x=0.05、z=0.6)である。また、光出射側のコーティング膜42上には、約180nmの厚みを有する窒化シリコン膜43が形成されている。なお、窒化シリコン膜43は、本発明の「窒化物膜」の一例である。
また、第2実施形態では、半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に、結晶化されたアルミニウムの窒化物からなるコーティング膜44が約12nmの厚みで形成されているとともに、そのコーティング膜44に、シリコンが添加されている。この第2実施形態の光反射側のコーティング膜44の組成は、光出射側のコーティング膜42の組成と同じであり、AlwSixNz(w+x+z=1、w=0.35、x=0.05、z=0.6)である。また、光反射側のコーティング膜44上には、約100nmの厚みを有する酸窒化シリコン膜45が形成されている。なお、酸窒化シリコン膜45は、本発明の「酸窒化物膜」の一例である。
また、酸窒化シリコン膜45上には、高反射膜46が形成されている。この高反射膜46は、5つの酸化シリコン膜(図示せず)と4つの酸化チタン膜(図示せず)とが1つずつ交互に積層された構造を有している。そして、最表面に位置する酸化シリコン膜の厚みが約162nmに設定されているとともに、その最表面に位置する酸化シリコン膜以外の酸化シリコン膜の厚みが約81nmに設定されている。また、酸化チタン膜の厚みが約54nmに設定されている。
第2実施形態では、上記のように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの窒化物からなるコーティング膜42を形成するとともに、その光出射側のコーティング膜42に、シリコンを添加することによって、光出射側のコーティング膜42の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所にシリコンが濃化するので、光出射側のコーティング膜42の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所を介した酸素や水分の拡散を抑制することができる。これにより、外部からの酸素や水分が光出射側のコーティング膜42を通過して半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1aにまで侵入するのを抑制することができるので、光出射側の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのを抑制することができる。さらに、半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に、光出射側のコーティング膜42と同様のコーティング膜44を形成することによって、光反射側の共振器端面1bに酸素や水分が浸入するのを抑制することができるので、光反射側の共振器端面1bが酸化するなどして劣化するのも抑制することができる。その結果、上記第1実施形態と同様、半導体レーザ素子部1を備えた半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができるとともに、その半導体レーザ素子を歩留りよく作製することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、コーティング膜42(44)の厚みを、約50nm(約12nm)に設定することによって、コーティング膜42(44)の厚みが小さくなり過ぎることに起因して、半導体レーザ素子部1の共振器端面1a(1b)上にコーティング膜42(44)を形成することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜42(44)の厚みが大きくなり過ぎることに起因して、コーティング膜42(44)にひび割れなどが発生するという不都合が生じるのを抑制することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、コーティング膜42(44)におけるシリコンの組成比xを、0.05に設定することによって、コーティング膜42(44)におけるシリコンの組成比xが低くなり過ぎることに起因して、コーティング膜42(44)にシリコンを添加することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜42(44)におけるシリコンの組成比xが高くなり過ぎることに起因して、コーティング膜42(44)がアモルファス状態になるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、コーティング膜42(44)の膜質が低下するのを抑制することができる。
また、第2実施形態では、上記のように、光出射側において、コーティング膜42上に、窒化シリコン膜43を形成することによって、コーティング膜42および窒化シリコン膜43の両方により、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aへの外部からの酸素や水分の浸入を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのをより抑制することができる。なお、窒化シリコン膜43は、反射率を制御する機能も有している。
また、第2実施形態では、上記のように、光反射側において、コーティング膜44上に、酸窒化シリコン膜45を形成することによって、コーティング膜44および酸窒化シリコン膜45の両方により、半導体レーザ素子部1の共振器端面1bへの外部からの酸素や水分の浸入を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子部1の共振器端面1bが酸化するなどして劣化するのをより抑制することができる。なお、酸窒化シリコン膜45は、反射率を制御する機能も有している。
次に、第2実施形態の効果を確認するために、上記した第1実施形態の効果を確認するために行った実験(エージング試験)と同様の実験を行った。その結果、第2実施形態では、歩留りが90%となり、高い信頼性が得られることを確認することができた。
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した平面図である。次に、図6を参照して、第3実施形態による半導体レーザ素子(窒化物系半導体素子)の構造について説明する。なお、第3実施形態の半導体レーザ素子部1の構造は、上記第1実施形態の半導体レーザ素子部1の構造と同じである。また、第3実施形態の半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に形成された各層(4〜6)の構造は、上記第1実施形態の半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に形成された各層(4〜6)の構造と同様である。
第3実施形態による半導体レーザ素子では、図6に示すように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの酸化物からなるコーティング膜52が約80nmの厚みで形成されているとともに、そのコーティング膜52に、シリコンが添加されている。この第3実施形態の光出射側のコーティング膜52の組成は、AlwSixOy(w+x+y=1、w=0.2、x=0.2、z=0.6)である。また、光出射側のコーティング膜52上には、約80nmの厚みを有する酸窒化シリコン膜53が形成されている。なお、酸窒化シリコン膜53は、本発明の「酸窒化物膜」の一例である。
第3実施形態では、上記のように、半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1a上に、結晶化されたアルミニウムの酸化物からなるコーティング膜52を形成するとともに、その光出射側のコーティング膜52に、シリコンを添加することによって、光出射側のコーティング膜52の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所にシリコンが濃化するので、光出射側のコーティング膜52の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所を介した酸素や水分の拡散を抑制することができる。これにより、外部からの酸素や水分が光出射側のコーティング膜52を通過して半導体レーザ素子部1の光出射側の共振器端面1aにまで侵入するのを抑制することができるので、光出射側の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのを抑制することができる。さらに、半導体レーザ素子部1の光反射側の共振器端面1b上に、上記第1実施形態と同様のコーティング膜4を形成することによって、光反射側の共振器端面1bに酸素や水分が浸入するのを抑制することができるので、光反射側の共振器端面1bが酸化するなどして劣化するのも抑制することができる。その結果、上記第1実施形態と同様、半導体レーザ素子部1を備えた半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができるとともに、その半導体レーザ素子を歩留りよく作製することができる。
また、第3実施形態では、上記のように、コーティング膜52の厚みを、約80nmに設定することによって、コーティング膜52の厚みが小さくなり過ぎることに起因して、半導体レーザ素子部1の共振器端面1a上にコーティング膜52を形成することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜52の厚みが大きくなり過ぎることに起因して、コーティング膜52にひび割れなどが発生するという不都合が生じるのを抑制することができる。
なお、第3実施形態のAlwSixOy膜からなるコーティング膜52は、その厚みが約150nmを超えると表面の平坦性が低下する。この場合には、光が散乱されるという不都合が生じる場合がある。したがって、AlwSixOy膜からなるコーティング膜52の厚みとしては、150nm以下に設定するのが好ましい。
また、第3実施形態では、上記のように、コーティング膜52におけるシリコンの組成比xを、0.2に設定することによって、コーティング膜52におけるシリコンの組成比xが低くなり過ぎることに起因して、コーティング膜52にシリコンを添加することによる効果が得られなくなるという不都合が生じるのを抑制することができる。また、コーティング膜52におけるシリコンの組成比xが高くなり過ぎることに起因して、コーティング膜52がアモルファス状態になるという不都合が生じるのを抑制することができる。これにより、コーティング膜の膜質が低下するのを抑制することができる。
また、第3実施形態では、上記のように、光出射側において、コーティング膜52上に、酸窒化シリコン膜53を形成することによって、コーティング膜52および酸窒化シリコン膜53の両方により、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aへの外部からの酸素や水分の浸入を抑制することができる。これにより、半導体レーザ素子部1の共振器端面1aが酸化するなどして劣化するのをより抑制することができる。なお、酸窒化シリコン膜53は、反射率を制御する機能も有している。
なお、第3実施形態の光出射側のコーティング膜52としてのAlwSixOy膜は、アモルファスになりやすいことが知られている。ただし、スパッタ法などでコーティング膜52を形成する際に、成膜室の内部の真空度を高くすることにより、多結晶のAlwSixOy膜(コーティング膜52)を容易に形成することができる。
次に、第3実施形態の効果を確認するために、上記した第1実施形態の効果を確認するために行った実験(エージング試験)と同様の実験を行った。その結果、第3実施形態では、歩留りが80%となり、高い信頼性が得られることを確認することができた。
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態による発光ダイオード素子の構造を示した断面図である。次に、図7を参照して、第4実施形態による窒化物系半導体素子としての発光ダイオード素子の構造について説明する。
第4実施形態による発光ダイオード素子では、図7に示すように、光出射面60aを有する発光ダイオード素子部60を備えている。なお、発光ダイオード素子部60は、本発明の「素子部」の一例であり、光出射面60aは、本発明の「所定面」の一例である。
発光ダイオード素子部60の具体的な構造としては、半導体基板61上に、n型窒化物系半導体層62、窒化物系半導体層を含む活性層63、p型窒化物系半導体層64が順次形成されている。なお、n型窒化物系半導体層62、活性層63およびp型窒化物系半導体層64は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。また、p型窒化物系半導体層64の上面上の一部には、p側電極層65が形成されている。また、半導体基板61の裏面上には、n側電極層66が形成されている。
そして、上記した各層(62〜66)によって、第4実施形態の発光ダイオード素子部60が構成されている。また、発光ダイオード素子部60の光出射面60aは、p型窒化物系半導体層64の上面の所定領域(p側電極層65が形成されていない領域)によって構成されている。
ここで、第4実施形態では、発光ダイオード素子部60の光出射面60a上に、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなるコーティング膜(保護膜)67が形成されているとともに、そのコーティング膜67に、シリコン(添加物)が添加されている。この第4実施形態のコーティング膜67の組成は、AlwSixOyNz(w+x+y+z=1、0<x≦0.2)である。
なお、第4実施形態のコーティング膜67の形成方法は、上記第1実施形態のコーティング膜2の形成方法と同様である。
第4実施形態では、上記のように、発光ダイオード素子部60の光出射面60a上に、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなるコーティング膜67を形成するとともに、そのコーティング膜67に、シリコンを添加することによって、コーティング膜67の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所にシリコンが濃化するので、コーティング膜67の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所を介した酸素や水分の拡散を抑制することができる。これにより、外部からの酸素や水分がコーティング膜67を通過して発光ダイオード素子部60の光出射面60aにまで侵入するのを抑制することができるので、光出射面60aが酸化するなどして劣化するのを抑制することができる。その結果、発光ダイオード素子部60を備えた発光ダイオード素子の信頼性を向上させることができるとともに、その発光ダイオード素子を歩留りよく作製することができる。
(第5実施形態)
図8は、本発明の第5実施形態によるMIS型のHFET素子の構造を示した断面図である。次に、図8を参照して、第5実施形態による窒化物系半導体素子としてのMIS型のHFET(Heterostructure Field Effect Transistor:ヘテロ構造電界効果トランジスタ)素子の構造について説明する。
第5実施形態によるMIS型のHFET素子では、図8に示すように、半導体基板71上に、GaN層72およびAlGaN層73が順次形成されている。AlGaN層73上には、ソース電極74およびドレイン電極75が互いに所定の間隔を隔てて配置されている。また、AlGaN層73上のソース電極74とドレイン電極75との間の領域には、金属からなるゲート電極76が形成されている。なお、GaN層72およびAlGaN層73は、本発明の「窒化物系半導体層」の一例である。また、第5実施形態における「素子部」とは、GaN層72、AlGaN層73、ソース電極74、ドレイン電極75およびゲート電極76を含む構造体のことである。
ここで、第5実施形態では、AlGaN層73とゲート電極76との間に、ゲート絶縁膜として機能するコーティング膜77が形成されている。このゲート絶縁膜として機能するコーティング膜77は、シリコン(添加物)が添加されているとともに、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなる膜によって構成されている。第5実施形態のゲート絶縁膜として機能するコーティング膜77の組成は、AlwSixOyNz(w+x+y+z=1、0<x≦0.2)である。
なお、第5実施形態のゲート絶縁膜として機能するコーティング膜77の形成方法は、上記第1実施形態のコーティング膜2の形成方法と同様である。
第5実施形態では、上記のように、結晶化されたアルミニウムの酸窒化物からなるゲート絶縁膜(コーティング膜77)に、シリコンを添加することによって、ゲート絶縁膜(コーティング膜77)の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所にシリコンが濃化するので、ゲート絶縁膜(コーティング膜77)の結晶欠陥、転移および結晶粒界などの異常個所を介したリーク電流の発生を抑制することができるとともに、信頼性を向上させることができる。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1〜第5実施形態では、半導体レーザ素子、発光ダイオード素子およびMIS型のHFET素子に本発明を適用する例について説明したが、本発明はこれに限らず、半導体レーザ素子、発光ダイオード素子およびMIS型のHFET素子以外の窒化物系半導体素子にも適用可能である。
また、上記第1〜第5実施形態では、添加物としてのシリコンが添加されたコーティング膜を用いたが、本発明はこれに限らず、シリコン以外の添加物がコーティング膜に添加されていてもよい。
具体的には、イットリウム(Y)、タンタリウム(Ta)、ハフニウム(Hf)、ランタニウム(La)、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオビウム(Nb)およびバナジウム(V)からなるグループより選択されるシリコン(Si)以外の1つの添加物がコーティング膜に添加されていれば、シリコンがコーティング膜に添加されている場合と同様の効果を得ることができる。また、上記したグループより選択されるシリコン以外の1つの添加物とシリコンとがコーティング膜に添加されていてもよいし、上記したグループより選択されるシリコン以外の2つ以上の添加物とシリコンとがコーティング膜に添加されていてもよい。また、上記したグループより選択されるシリコン以外の2つ以上の添加物がコーティング膜に添加されていてもよい。
なお、コーティング膜にシリコン以外の1つの添加物を添加する場合にも、コーティング膜にシリコンのみを添加する場合と同様、コーティング膜における添加物の組成比xが、0<x≦0.2(好ましくは、0.002<x≦0.1)を満たすように設定するのが好ましい。また、コーティング膜に2つ以上の添加物を添加する場合には、コーティング膜における2つ以上の添加物の合計の組成比xが、0<x≦0.2(好ましくは、0.002<x≦0.1)を満たすように設定するのが好ましい。さらに、コーティング膜にシリコン以外の1つの添加物を添加する場合やコーティング膜に2つ以上の添加物を添加する場合にも、コーティング膜にシリコンのみを添加する場合と同様、コーティング膜の厚みを6nm以上150nm以下に設定するのが好ましい。
また、上記第1〜第5実施形態では、ECRスパッタ法を用いてコーティング膜を形成したが、本発明はこれに限らず、ECRスパッタ法以外の方法を用いてコーティング膜を形成してもよい。たとえば、ECRスパッタ法以外のスパッタ法、CVD法、および、電子ビーム蒸着法などを用いてもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、コーティング膜上に、酸化アルミニウム膜、窒化シリコン膜および酸窒化シリコン膜のうちのいずれか1つの膜を形成したが、本発明はこれに限らず、コーティング膜上に、酸化アルミニウム膜以外の酸化物膜を形成してもよいし、窒化シリコン膜以外の窒化物膜を形成してもよいし、酸窒化シリコン膜以外の酸窒化物膜を形成してもよい。なお、酸化アルミニウム膜以外の酸化物膜としては、酸化シリコン膜、酸化チタン膜、酸化ハフニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ニオブ膜、酸化タンタル膜、酸化イットリウム膜、および、アルミニウムとシリコンとの酸化物(AlSiO)膜などがある。また、窒化シリコン膜以外の窒化物膜としては、窒化アルミニウム膜などがあり、酸窒化シリコン膜以外の酸窒化物膜としては、酸窒化アルミニウム膜などがある。また、コーティング膜上に、酸化物膜、窒化物膜および酸窒化物膜のうちの2つ以上の膜を形成してもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、n型GaN基板を用いたが、本発明はこれに限らず、AlN基板またはAlGaN基板を用いてもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、リッジ部の共振器方向と直交する方向の幅を約1.2μm〜約2.4μmに設定したが、本発明はこれに限らず、半導体レーザ素子を照明装置として用いる場合には、リッジ部の共振器方向と直交する方向の幅を約5μm〜約30μmに設定してもよい。
また、上記第1〜第3実施形態では、光出射側および光反射側の両方の共振器端面上にコーティング膜を形成したが、本発明はこれに限らず、光反射側の共振器端面上にはコーティング膜を形成せずに、光出射側の共振器端面上にのみコーティング膜を形成してもよい。この場合、光反射側の共振器端面は光出射側の共振器端面に比べて光密度が低いので、光反射側の共振器端面が劣化したとしても影響は少ない。
また、上記第1実施形態では、ECRスパッタ装置によるコーティング膜(AlwSixOyNz膜)の形成において、AlSiからなるターゲットを用いたが、本発明はこれに限らず、AlSiOからなるターゲットを用いてもよい。この場合には、酸素ガスを成膜室の内部に意図的に導入することなく、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成することが可能となる。すなわち、上記したコーティング膜(AlwSixOyNz膜)の形成方法では、窒素ガスのみを成膜室の内部に導入することによりコーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成することが可能となる。ここで、アルミニウムは、酸化性が比較的高いことが知られている。このため、酸素ガスを導入しながら酸素の組成比yが低いコーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成しようとする場合には、組成制御が困難になり、再現性よくコーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成するのが困難になるという不都合がある。したがって、酸素の組成比yが低いコーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成する場合には、成膜室の内部に酸素ガスを導入せずに、酸化状態の低いAlSiOからなるターゲットを用いるのが好ましい。なお、AlSiONからなるターゲットを用いてもよい。
さらに、AlSiからなるターゲットを用いる場合において、成膜室の内壁を酸化させた状態で成膜すれば、成膜室の内壁に付着した酸素がプラズマによって離脱されるので、成膜室の内部に酸素ガスを導入することなく、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成することが可能となる。なお、この場合には、成膜時に、成膜室の内部に窒素ガスおよびアルゴンガスを導入する。また、上記の場合、成膜室の内壁上にAl2O3膜を形成した状態で成膜してもよい。
なお、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)の酸素の組成比yは、成膜室の真空度や成膜温度によっても変化する。このため、成膜条件(成膜室の真空度や成膜温度)を調節することによっても、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)の酸素の組成比yを変化させることができる。具体的には、成膜室の真空度を低くすれば、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)の酸素の組成比yを高くすることができる。その一方、成膜温度を高くすれば、コーティング膜(AlwSixOyNz膜)の酸素の組成比yを低くすることができる。
上記したように、第1実施形態のコーティング膜(AlwSixOyNz膜)は、種々の方法を用いて形成することができる。
また、上記第4実施形態では、発光ダイオード素子部の光出射面上にコーティング膜(AlwSixOyNz膜)のみを形成したが、本発明はこれに限らず、発光ダイオード素子部の光出射面上にコーティング膜(AlwSixOyNz膜)を形成し、そのコーティング膜上に酸化物膜などをさらに形成してもよい。