以下、本発明の動力伝達装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施形態)
図1から図11を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、車両の駆動源と車両の駆動軸との間で動力を伝達する複数の回転部材と、潤滑油を貯留する第一貯留部と、複数の回転部材のうち第一貯留部に設けられた特定の回転部材よりも鉛直方向上方に配置され、潤滑油を貯留する第二貯留部と、特定の回転部材の両側面とそれぞれ対向する内壁面と、特定の回転部材の外周部と対向する内壁面とにより形成される潤滑油の通路と、特定の回転部材の軸方向において通路と設置領域が重なる位置に配置され、回転部材の回転を規制可能なパーキング機構とをケース内に有し、回転する特定の回転部材により第一貯留部から送り出され、通路を介して第二貯留部に流入した潤滑油が、第二貯留部からケース内の各部に供給される動力伝達装置に関する。
図1は、本実施形態の動力伝達装置の内部構造を示す断面図である。図2は、動力伝達装置のカウンタ軸線に沿った断面図を示す。
本実施形態の動力伝達装置1は、例えば、HV車両の動力伝達装置として用いられるものである。図1に示すように、動力伝達装置1は、ケース2と、ケース2の内部に配置された入力軸3、MG軸4、デフ軸5、およびカウンタ軸6を備える。入力軸3は、例えば、車両に動力源(駆動源)として搭載された内燃機関(以下、エンジンと略称する)の出力軸と同軸に設けられ、エンジンの出力軸との間で動力を伝達する。MG軸4は、エンジン出力の不足分を補うトルクを発生し、あるいはエンジンの出力の余剰分で発電を行うモータジェネレータMG1の入出力軸である。入力軸3上には、他の一つのモータジェネレータMG2が配置されている。入力軸3とMG軸4との間では、ギヤ(回転部材)10,11を介してトルクが伝達される。
入力軸3の回転は、入力軸3上のギヤ(入力軸回転部材)10からカウンタ軸6上のカウンタギヤ(第一回転部材)12に伝達され、さらに、カウンタ軸6の中間ギヤ(第二回転部材)13からデフ軸5上のデフリングギヤ(出力軸回転部材)14に伝達される。デフ軸5の回転は、図示しないデファレンシャル装置を介して車両の駆動軸へ伝達される。図1に示すように、カウンタギヤ12は、中間ギヤ13と比較して、大きな径を有している。
各軸3から6の配置は、次のとおりである。入力軸3を基準として、MG軸4はその斜め上方に、カウンタ軸6は斜め下方に配置されている。デフ軸5の中心軸線C5と比較して、カウンタ軸6の中心軸線C6は、わずかに下方に配置されている。カウンタ軸6の中心軸線C6は、入力軸3の中心軸線C3とデフ軸5の中心軸線C5とを結ぶ仮想線L1よりも下方(後述する貯留部39側)に位置している。各軸3から6の回転方向は、図1に矢印A3からA6でそれぞれ示した方向である。つまり、デフ軸5は、中心軸線C5の下方(貯留部39側の領域)において図1の左方向に回転し、カウンタ軸6は、中心軸線C6の下方(貯留部39側の領域)において図1の右方向に回転する。言い換えると、デフ軸5の回転方向とカウンタ軸6の回転方向とが、それぞれの中心軸線よりも貯留部39側の領域で互いに離間する方向である。なお、図示の回転方向は、車両の前進時のものである。また、本実施形態の説明における上下方向とは、特にことわりのない限り、車両に搭載された状態における上下方向(鉛直方向)を意味している。
図2に示すように、ケース2は、第一のケース部品21、第二のケース部品22、および第三のケース部品23を、入力軸3の軸線方向において境界B1,B2で組み合わせた組立体構造である。第一のケース部品21の一端面(図2の右端面)21aは、エンジンと接合され、その内部には、エンジン出力軸(クランク軸)と入力軸3との間に介在する捩りダンパ24等の構成要素が収容される。入力軸3と同軸に配置されるモータジェネレータMG2(図1参照)も第一のケース部品21内に配置される。第一のケース部品21と第二のケース部品22との間には、上述したギヤ10、カウンタギヤ12、中間ギヤ13、およびデフリングギヤ14が収容される。図2では、カウンタ軸6、カウンタギヤ12、および中間ギヤ13が示されている。図2に示すように、カウンタギヤ12と中間ギヤ13とは、カウンタ軸6の軸方向において異なる位置に設けられている。カウンタ軸6の両端は、ベアリング15A,15Bにて回転自在に支持されている。
図3は、第二のケース部品22を第一のケース部品21に対する接合面側から見た状態を示す斜視図、図4は第二のケース部品22を第三のケース部品23に対する接合面側から見た状態を示す斜視図、図5は、第三のケース部品23を第二のケース部品22に対する接合面側から見た状態を示す斜視図である。ただし、図3から図5では、図1と比較してケース部品の一部が簡略化されている。以下の説明では、第二のケース部品22において、第一のケース部品21と接合される側(図3に示された側)を表面側とし、第三のケース部品23と接合される側(図4に示された側)を裏面側と記す。
図3に示すように、第二のケース部品22には、ケース2の内部を表面側と裏面側とに仕切る隔壁25が設けられている。隔壁25には、MG軸4を通すMG軸孔26と、デフ軸5を通すデフ軸孔27と、カウンタ軸6の軸端部のベアリング15A(図2参照)を取り付けるための軸取付部28とが設けられている。軸取付部28は、隔壁25を貫通していない。すなわち、軸取付部28は、隔壁25の表面側に設けられた凹形状をなす凹状部である。
一方、図4に示したように、第二のケース部品22の裏面側には、モータジェネレータMG1を収容するMG室29が設けられている。なお、入力軸3は、第一のケース部品21の隔壁30(図2参照)を貫いて第二のケース部品22の内部に差し込まれているが、その先端は、隔壁25までは達していない。このため、第二のケース部品22には、入力軸3を通すための貫通孔や入力軸3を取り付けるための軸取付部は設けられていない。図5に示すように、第三のケース部品23は、第二のケース部品22の裏面側を密閉する蓋体としての形状を有し、その内面側には、MG軸4を取り付けるための軸取付部23aが設けられている。軸取付部23aは、第三のケース部品23を貫通していない。言い換えると、軸取付部23aは、第三のケース部品23におけるケース2側の面に設けられた凹形状をなす凹状部である。
次に、動力伝達装置1の潤滑構造について説明する。図1および図3に示すように、第二のケース部品22の表面側の上部には、オイルキャッチタンク(第二貯留部)31が一体に形成されている。オイルキャッチタンク31は、デフリングギヤ14よりも鉛直方向上方の位置に設けられている。ケース2の内部、より具体的には第一のケース部品21の隔壁30と第二のケース部品22の隔壁25とに挟まれた領域には、デフ軸5を構成するデフリングギヤ14を収容するデフ室32と、カウンタ軸6を構成するカウンタギヤ12および中間ギヤ13を収容するカウンタ室33とが設けられている。第二のケース部品22の表面側には、カウンタギヤ12の下部の外周部に沿って、仕切壁としてのリブ34が延設されている。リブ34は、第二のケース部品22の隔壁25と一体に形成されている。リブ34は、隔壁25における表面側に、隔壁25と直交する方向に突出する凸状部として形成されている。
図2に示すように、ケース2の組立状態において、リブ34の先端は、第一のケース部品21の隔壁30と当接している。リブ34により、デフ室32とカウンタ室33とはそれぞれの動的オイルレベルLv1,Lv2に差が生じるように区分されている。なお、動的オイルレベルとは、動力伝達装置1が作動しているときの潤滑油の液面の高さ方向(上下方向)の位置である。動力伝達装置1の停止時(非動作時)におけるオイルレベルである静的オイルレベルLv0は、動的オイルレベルLv1,Lv2よりも上方に位置している。本実施形態の静的オイルレベルLv0は、デフ軸5の中心軸線C5よりも下方で、かつ、カウンタ軸6の中心軸線C6よりも上方である。
図1および図3に示すように、デフ室32の内周面、すなわち、第二のケース部品22におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bは、デフリングギヤ14の外周に沿って円弧状に湾曲した形状に形成されている。ケース2内には、上記内壁面22bと、隔壁25,30とにより、潤滑油の通路80が形成されている。言い換えると、デフリングギヤ14の両側面とそれぞれ対向する内壁面(隔壁25,30)と、デフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bとにより潤滑油の通路80が形成されている。
デフ室32に溜まった潤滑油は、デフリングギヤ14の回転に伴って掻き揚げられて通路80を介して図1に矢印S1で示すようにオイルキャッチタンク31に送られる。言い換えると、潤滑油は、デフリングギヤ(特定の回転部材)14の回転によりデフ室32から送り出され、通路80を介してオイルキャッチタンク31に流入する。オイルキャッチタンク31からは、ケース2内の潤滑箇所(被潤滑部)に向けて適宜の流量で潤滑油が滴下される。潤滑箇所としては、ギヤ10から14の噛み合い部等がある。また、オイルキャッチタンク31に溜められた潤滑油の一部は、隔壁25の裏面側に導かれてMG室29内の潤滑および冷却に使用される。
リブ34は、カウンタギヤ12の回転方向前方(デフ室32から遠ざかる方向)に延ばされた延長部34aを有している。カウンタ室33(リブ34上)に溜まった潤滑油は、矢印S2に示すように、動力伝達装置1の動作時にカウンタギヤ12で回転方向前方に(延長部34aに向けて)掻き出される。延長部34aを挟んでカウンタ室33の反対側の位置には、貯留部の一部として機能する回収室36が設けられている。回収室36は、オイルキャッチタンク31から落下した潤滑油の一部を回収すると共に、カウンタギヤ12によって矢印S2方向(図1参照)に掻き出された潤滑油を回収する区画として機能する。図2に示すように、第二のケース部品22と第三のケース部品23との間、すなわちMG室29の下部には、保持室としてのストレーナ室37が設けられている。ストレーナ室37は、MG室29の潤滑に使用された潤滑油を回収する区画として機能する。
図1、図3および図4に示すように、隔壁25には、隔壁25を貫く接続路38が形成されている。接続路38を介してストレーナ室37と回収室36とが相互に接続されている。これにより、回収室36とストレーナ室37は、潤滑油を貯留する貯留部(第一貯留部)39の一部として機能する。接続路38の断面積は、ストレーナ室37の動的オイルレベルLv4を回収室36の動的オイルレベルLv3よりも高く維持する絞り作用が生じるように調整されている。本実施形態の貯留部39は、デフ室32、回収室36、ストレーナ室37を含んで構成されている。
さらに、回収室36とデフ室32とは、カウンタ室33の下方に設けられた連絡路40を介して接続されている。連絡路40は、リブ34とケース部品21,22の隔壁30,25と第二のケース部品22の底部22aとによって囲まれている。本実施形態では、ケース部品21,22により連絡路40が構成されているため、部品の追加や機械加工を必要とすることなく連絡路40を設けることができる。
図1に矢印Fで示したように、回収室36に溜められた潤滑油は、連絡路40を介してデフ室32に供給される。連絡路40の断面積は、回収室36の動的オイルレベルLv3をデフ室32の動的オイルレベルLv1よりも高く維持する絞り作用が生じるように調整されている。
図1に示したように、連絡路40は、デフリングギヤ14とカウンタギヤ12と第二のケース部品22の底部22aとによって囲まれた概略三角形状のスペースSPに開口している。第二のケース部品22の底部22aには、連絡路40のデフ室32側の開口部に隣接するようにして磁石室44が形成されている。磁石室44には、永久磁石45が収容されている。磁石45は、回収室36から連絡路40を介してデフ室32に流れる潤滑油中の異物を吸着する。スペースSPは、連絡路40を介して比較的大流量の潤滑油が流れる場所であるため、そこに磁石45を設けることにより、異物を補足しやすい。しかも、スペースSPを有効活用して、ケース2を下方に拡張することなく磁石45を配置することができる。動力伝達装置1は、車両の下部に配置されることが通例であるため、ケース2の下方への突出を抑えることにより、車両の最低地上高を確保する上で有利である。
図6は、本実施形態の潤滑構造を模式化して示した図であり、上述した図1から図5に対応する構成要素には、同一の参照符号が付されている。なお、図1から図5に示したギヤ10,11等の潤滑箇所は、参照符号46を付してまとめて示してある。図6に示すように、ストレーナ室37には、ポンプ42、および、ポンプ42の吸込み部を構成するストレーナ43が設けられている。
図6に破線で示したように、潤滑油は、デフ室32から通路80を介してオイルキャッチタンク31に流入してオイルキャッチタンク31の内部に一時的に蓄えられる。オイルキャッチタンク31からは、潤滑箇所46、モータジェネレータMG1,MG2に向けて潤滑油が適宜の流量で落下する。潤滑箇所46に供給された潤滑油は、デフ室32、カウンタ室33、および回収室36に落下する。モータジェネレータMG1に供給された潤滑油は、回収室36に落下し、モータジェネレータMG2に供給された潤滑油は、ストレーナ室37に落下する。回収室36に溜められた潤滑油は、連絡路40を介してデフ室32に供給される。その供給作用に伴って、ストレーナ室37から接続路38を介して回収室36に潤滑油が流れる。
本実施形態の潤滑構造においては、連絡路40の絞り作用により、デフ室32の動的オイルレベルLv1を回収室36の動的オイルレベルLv3よりも低く制限しているので、回収室36からデフ室32に過不足ない量の潤滑油を供給することができる。それにより、デフリングギヤ14で掻き揚げられる潤滑油量の不足による潤滑不良を防止しつつ、デフリングギヤ14による攪拌損失を低減することができる。また、接続路38の絞り作用により、回収室36の動的オイルレベルLv3よりもストレーナ室37の動的オイルレベルLv4が高く維持されるため、ストレーナ室37に十分な量の潤滑油を蓄えて、オイルポンプ42のエアの吸い込みを防止することができる。しかも、回収室36の動的オイルレベルLv3がストレーナ室37の動的オイルレベルLv4よりも低く維持されることにより、回収室36からカウンタ室33へ潤滑油が逆流し難くなる。そのため、リブ34の延長部34aの高さを抑え、それにより、カウンタ室33の動的オイルレベルLv2をなるべく低く設定して、カウンタギヤ12による攪拌損失も抑えることができる。
冷間時には、潤滑油の粘性が高く、接続路38および連絡路40のそれぞれの絞り作用が相対的に大きくなってデフ室32に潤滑油がさらに戻り難くなる。そのため、冷間時のデフリングギヤ14の攪拌損失をさらに抑えて動力伝達装置1の伝達効率を高めることができる。
また、動力伝達装置1における車両前方側(図1において右側)には、インバータ16が設けられている。インバータ16は、モータジェネレータMG1,MG2とバッテリー(図示せず)との間に設けられ、直流電力と交流電力との変換を行うものである。以下に図7を参照して説明するように、本実施形態の動力伝達装置1では、各軸3,4,5,6をコンパクトに配置することができるため、インバータ16を動力伝達装置1と一体化して車両前方に配置するのに有利である。しかしながら、一方で、パーキング機構を設置可能な位置が、デフリングギヤ14により送り出されて通路80を介してオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れ(矢印Y1参照)を妨げる虞のある位置となってしまう場合がある。なお、パーキング機構は、後述するように、入力軸3等の回転部材と係合することなどにより回転部材の回転を規制可能な装置である。
図7は、動力伝達装置1の主要な要素の配置を示す図である。MG軸4を動力伝達装置1の上部(例えば、入力軸3よりも上方)に、カウンタ軸6を動力伝達装置1の下部(例えば、入力軸3よりも下方)に配置することにより、全体として各軸3,4,5,6をコンパクトに配置することができる。これにより、HVの大きな課題であるコスト低減や車両搭載性の向上、質量低減による燃費向上等の大きなメリットが得られる。
一方で、カウンタ軸6を下部に配置すると、動力伝達装置1の下部にはパーキング機構を配置するスペースがなくなる。また、上記のような各軸3,4,5,6の配置では、車両前方側へのギヤの出っ張りが小さいため、インバータ16を動力伝達装置1と一体化して前方に配置するのに有利であるが、このようにインバータ16を配置した場合、パーキング機構を前方に配置することが困難となる。
その結果、パーキング機構を配置できるのは、上部または後方となるが、動力伝達装置1内の上部から後方にかけて(符号R参照)は、オイル掻き揚げ経路である通路80、およびオイルキャッチタンク31の位置となっている。このため、動力伝達装置1内の上部や後方にパーキング機構を配置すると、パーキング機構が障害となって十分なオイル掻き揚げ量を確保できなくなる虞がある。
本実施形態では、以下に詳しく説明するように、ケース2にパーキング機構50(図1参照)を収容する収容部70(図1参照)が設けられている。図1および図8に示すように、パーキング機構50は、デフリングギヤ14の軸方向において通路80と設置領域が重なる位置に配置されている。すなわち、デフリングギヤ14の軸方向に投影した場合に、通路80の領域とパーキング機構50の領域とが重なる。収容部70は、隔壁25に設けられており、デフリングギヤ14により送り出されて通路80を介してオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の通路80から遠ざかる方向に窪んだ凹形状に形成されている。パーキング機構50が収容部70に収容されていることで、パーキング機構50が通路80を介してオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れを妨げることが抑制される。
図8および図9を参照してパーキング機構50について説明する。図8は、図1におけるパーキング機構50付近の要部拡大図である。図9は、鉛直方向上方から見たパーキング機構50の平面図である。図8に示すように、パーキング機構50は、入力軸3に設けられたパーキングギヤ51と、パーキングギヤ51と係合するパーキングポール52と、カム部材53と、レバー54と、ロックピン55等を含んで構成される。
パーキングギヤ51は、ギヤ10と同心上に設けられている。パーキングギヤ51の外周部には、周方向に沿って凸部51aと凹部51bとが交互に形成されている。パーキングポール52は、ポールシャフト52aによりポールシャフト52aを回転中心として回転可能に支持されている。パーキングポール52の一端部には、パーキングギヤ51の凹部51bに対応する形状の爪部52bが形成されている。パーキングポール52がポールシャフト52aを回転中心として回転することにより、爪部52bがパーキングギヤ51の外周部に接近または離間する。パーキングポール52における爪部52bが設けられた側と反対側の端部(他端部)には、接触部52cが設けられている。パーキングポール52とケース2との間には、ねじりコイルバネ56が設けられている。ねじりコイルバネ56は、爪部52bがパーキングギヤ51から離間する方向の付勢力をパーキングポール52に作用させている。
カム部材53は、ポールシャフト52aの軸方向(入力軸3の軸方向)に進退することで、パーキングポール52の爪部52bとパーキングギヤ51の凹部51bとの係合または解放の状態を切り替える。
図9に示すように、カム部材53は、ロックスリーブ60にポールシャフト52aの軸方向に沿って形成されたガイド穴60aに配置されている。カム部材53は、ガイド穴60aにより、ポールシャフト52aの軸方向に進退可能に支持されている。カム部材53は、大径部53aと、テーパ部53bとを有する。テーパ部53bは、カム部材53における先端部に設けられており、先端側の径が基端側の径と比較して小径なテーパ形状に形成されている。カム部材53は、パーキングロッド59の一端部にパーキングロッド59の軸方向の移動が可能に取り付けられている。カム部材53とパーキングロッド59との間には、圧縮ばね59aが設けられており、圧縮ばね59aによりカム部材53が先端方向に付勢支持されている。
パーキングロッド59の他端部は、レバー54に連結されている。レバー54は、V字形状に屈曲しており、屈曲部分には、シャフト57が連結されている。シャフト57は、ケース2に回転自在に取り付けられており、シフトポジションの切り替えに対応して回転する。シフトポジションとしては、P(パーキング)ポジションの他に、例えば、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、B(ブレーキ)ポジションなどが設けられている。パーキングロッド59は、レバー54の一端部にレバー54と相対回転可能に連結されている。
レバー54の他端部には、節度山61が形成されている。節度山61は、各シフトポジションに対応する凹部を有している。ロックピン55は、板ばね58を介してケース2に取り付けられており、節度山61の凹部に対して係合・離脱自在に設けられている。
シフトポジションの切り替えに対応してシャフト57が矢印Y2に示すように回転すると、パーキングロッド59およびカム部材53は、ポールシャフト52aの軸方向に移動する(矢印Y3参照)。シフトポジションが、Pポジションに切り替えられた場合、Pポジション以外のポジションと比較して、レバー54が、図9で時計回りの方向に最も大きく回転する。図9には、シフトポジションがPポジションとされて、ロックピン55が節度山61におけるPポジションに対応する凹部61aと係合している状態が示されている。
この場合、カム部材53のテーパ部53bが、パーキングポール52の接触部52cに当接して接触部52cを上方に向けて押圧する。これにより、パーキングポール52は、ねじりコイルバネ56(図8参照)の付勢力に抗して爪部52bがパーキングギヤ51に接近する方向(図8で時計回りの方向)に回転する。この場合に、パーキングギヤ51の周方向において、爪部52bと凹部51bとが同位相にあれば、爪部52bが凹部51bに進入し、パーキングポール52とパーキングギヤ51とが係合された状態となる。爪部52bが凹部51bに進入することに対応して、カム部材53の大径部53aがパーキングポール52の接触部52cとロックスリーブ60のガイド穴60aの内壁部との間に進入した状態で保持される。図8には、パーキングポール52とパーキングギヤ51とが係合されて入力軸3の回転が規制された状態が示されている。
図10は、図1において矢印Xで示す方向の側面図である。図3および図10に示すように、第二のケース部品22の隔壁25における表面側の部分25aには、収容部70が形成されている。収容部70は、デフリングギヤ14と対向するケース2の内壁面(隔壁25の表面側の部分25a)に形成され、通路80に開口している凹状部である。収容部70は、デフリングギヤ14から離間する方向に窪んだ凹形状を有する箱リブ形状に形成されている。図1に示すように、収容部70は、デフリングギヤ14とオイルキャッチタンク31との間の位置に形成されている。
図10に示すように、パーキング機構50は、収容部70に収容されている。これにより、デフリングギヤ14により掻き揚げられた潤滑油の流れをパーキング機構50が妨げることを抑制できる。パーキング機構50が収容部70に収容されていることで、隔壁25に沿ってデフリングギヤ14からオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の通路80と、パーキング機構50とが、デフリングギヤ14の軸方向において異なる位置となる。すなわち、パーキング機構50が、デフリングギヤ14による潤滑油の掻き揚げの障害になりにくい。よって、デフリングギヤ14による十分なオイル掻き揚げ性能を確保できる。その結果、モータジェネレータMG1,MG2を含む動力伝達装置1の各部の冷却性能や潤滑性能を確保できる。
また、収容部70は、箱リブ形状であるため、隔壁25の剛性が向上する。第二のケース部品22において、デフ室32を形成する部分(図4の符号25d参照)は、第二のケース部品22の他の部分と比較して、デフ軸5の軸方向に薄いため剛性が相対的に低い。このため、デフリングギヤ14の首振り振動(矢印Y8参照)が生じた場合の振動や騒音等を抑制する観点から、剛性の向上が望まれる。本実施形態では、箱リブ形状の収容部70が設けられることにより、収容部70が設けられない場合と比較して、隔壁25の剛性が向上することで、デフリングギヤ14の首振り振動を抑制することができる。その結果、首振り振動に伴う振動や騒音、強度の問題の発生を抑制できる。
このように、本実施形態では、デフリングギヤ14の側面と対向し、デフ軸5を支持する隔壁25に収容部70が形成されることで、隔壁25の剛性の向上が実現される。収容部70は、ケース2をデフリングギヤ14の軸方向に窪ませた形状であるため、パーキング機構50を収容するためにケース2をデフリングギヤ14の径方向に拡大する必要がない。よって、動力伝達装置1の体格が増大することがないため、車両搭載性の向上や、質量およびコストの低減が可能である。
図4に示すように、本実施形態では、隔壁25において収容部70を構成する部分25bは、MG室29を構成する部分25cとデフ室32を構成する部分25dとを結合する箱リブ形状に形成されている。よって、隔壁25の剛性向上に特に効果的である。
また、図10に示すように、隔壁(収容部側内壁面)25には、隔壁25に沿って通路80を流れる潤滑油の流れ方向(矢印Y9参照)をパーキング機構50から遠ざかる方向に変更する(導く)変更手段としての凸状部71が設けられている。
凸状部71は、隔壁25における収容部70よりもデフリングギヤ14側の部分に収容部70の延在する方向に沿って設けられている。凸状部71は、パーキング機構50から遠ざかる方向に突出している。凸状部71におけるデフリングギヤ14側の部分(傾斜部)71aは、収容部70から遠い部分と比較して、収容部70に近い部分がパーキング機構50から遠ざかる方向に傾斜している。言い換えると、凸状部71におけるデフリングギヤ14側の部分71aは、通路80の潤滑油の流れ方向における上流側から下流側へ向かうほど、デフリングギヤ14の軸方向においてパーキング機構50から遠ざかる方向に大きく突出する傾斜を有している。これにより、デフリングギヤ14に送り出されてオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れ方向は、凸状部71におけるデフリングギヤ14側の部分71aによりパーキング機構50から離間する方向に修正される(矢印Y4参照)。よって、潤滑油の流れがパーキング機構50に妨げられることをより確実に抑制することができる。
また、凸状部71は、パーキング機構50から遠ざかる方向に突出していることで、隔壁25に沿って流れる潤滑油のジャンプ台として機能する。凸状部71の頂部71bにおいて、潤滑油の流れ方向に沿った傾斜が変化している(パーキング機構50へ近づく方向へ傾斜が変化する)ことで、凸状部71におけるデフリングギヤ14側の部分71aを流れてきた潤滑油が、頂部71bにおいて凸状部71から離間する。凸状部71に沿って流れる潤滑油が、頂部71bにおいて隔壁25から離れることにより、潤滑油に作用する接触抵抗が低減し、オイルキャッチタンク31に到達する潤滑油の量を増加させることが可能となる。すなわち、デフリングギヤ14による掻き揚げ性能を向上させることができる。
凸状部71が設けられることにより、パーキング機構50において収容部70からデフリングギヤ14方向(通路80方向)に多少飛び出した部分(符号50a参照)が存在したとしても、潤滑油がその飛び出した部分50aよりも隔壁25から離間した位置を流れるように流れを修正することが可能となる。なお、デフリングギヤ14の軸方向において、凸状部71の頂部71bが、パーキング機構50において収容部70から飛び出した部分50aと同程度、またはそれ以上に通路80方向へ突出していることが好ましい。
本実施形態では、デフリングギヤ14は、はすば歯車であり、デフリングギヤ14のギヤ捩れ角は、デフリングギヤ14により送り出される潤滑油の移動方向が、隔壁25に沿う方向(鉛直方向上方)よりもパーキング機構50から遠ざかる方向(矢印Y5参照)となるように設定されている。言い換えると、車両の前進時において、デフリングギヤ14の回転方向前方側の歯面14d(図8参照)が、デフリングギヤ14の両側面とそれぞれ対向する内壁面(隔壁25,30)のうち、収容部70が形成された隔壁25とは反対側の隔壁30と対向している。つまり、デフリングギヤ14の捩れ角は、前進時においてデフリングギヤ14の歯における第二のケース部品22側の部分14a(図10参照)と比較して第一のケース部品21側の部分14bの位相が遅れるように設定されている。
これにより、デフリングギヤ14によって掻き揚げられた潤滑油は、デフリングギヤ14の回転に伴って第一のケース部品21側に寄せられて流れる。その結果、デフリングギヤ14によって送り出される潤滑油の多くを第一のケース部品21の隔壁30に沿ってオイルキャッチタンク31へ向けて移動させることができる。これにより、潤滑油の流れがパーキング機構50に妨げられることをより確実に抑制することができる。パーキング機構50において収容部70からデフリングギヤ14方向に多少飛び出した部分50aが存在したとしても、その飛び出した部分50aが潤滑油の流れの障害となることが抑制される。
図11は、図1におけるデフリングギヤ14の上部付近の要部拡大図である。図11に示すように、ケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bには、内壁面22bに沿う潤滑油の流れを内壁面22bから離間させる段部74が設けられている。段部74は、デフリングギヤ14により送り出されてオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れ方向における下流側が上流側よりもデフリングギヤ14の径方向外方に位置する段差を有している。ケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bに沿って流れてきた潤滑油は、段部74において内壁面22bから離間する。よって、潤滑油に作用するケース2との接触抵抗が低減することにより、デフリングギヤ14による潤滑油の掻き揚げ性能が向上する。
また、ケース2には、整流板73が設けられている。整流板73は、隔壁25におけるデフリングギヤ14の設置位置と収容部70の設置位置との間の部分に設けられている。整流板73は、ケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bとほぼ平行な第一ガイド面73aと、デフリングギヤ14の外周部に沿った第二ガイド面73bとを有する。デフリングギヤ14により送り出されて通路80を流れる潤滑油は、整流板73により、オイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れ(矢印Y6参照)と、デフリングギヤ14の外周部に沿う流れ(矢印Y7参照)とに分離される。整流板73により、デフリングギヤ14から送り出される潤滑油が整流されることで、潤滑油がデフリングギヤ14の径方向内方に螺旋状に飛散して淀むことが抑制される。
第一ガイド面73aがケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bとほぼ平行であることにより、第一ガイド面73aと、ケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bとの間の部分を通過する潤滑油は、オイルキャッチタンク31へ導かれる。一方、第二ガイド面73bによりデフリングギヤ14外周部に沿う方向に導かれた潤滑油は、回収室36等に流下して回収される。整流板73が設けられて潤滑油の流れが整流されることにより、潤滑油が広範囲に飛散することを抑制し、動力伝達装置1内において効率的に潤滑油を循環させることができる。特に、本実施形態では整流板73がデフリングギヤ14の外周部と、ケース2におけるデフリングギヤ14の外周部と対向する内壁面22bと、収容部70とによって囲まれた概略三角形状のスペースSP2に設けられている。このように、デフリングギヤ14に近い位置で潤滑油を整流することにより、デフリングギヤ14による掻き揚げ性能を向上させることができる。スペースSP2を有効利用することにより、動力伝達装置1の大型化が抑制されるため、車両搭載性が向上すると共に、質量やコストが低減される。
なお、収容部70は、パーキング機構50の全体を収容するものでなくともよい。少なくともパーキング機構50の一部が収容部70に収容されていれば、パーキング機構50が潤滑油の流れを妨げることを抑制できる。パーキング機構50がケース2の内壁面に設けられた凹形状の収容部70に収容されていることにより、パーキング機構50において内壁面から突出する部分があったとしても、その突出する部分が潤滑油の流れを妨げにくくなる。本実施形態では、パーキング機構50が、隔壁25に設けられた凹形状の収容部70に収容されていることで、隔壁30へ向けて収容部70から飛び出した部分50a(図10参照)があったとしても、その飛び出した部分50aと隔壁30との間隔が大きなものとなる。従って、パーキング機構50が潤滑油の流れを妨げるとしても流量への影響を小さなものとして、デフリングギヤ14により十分な量の潤滑油をオイルキャッチタンク31に送ることが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、デフリングギヤ14の回転により送り出された潤滑油が通路80を介してデフリングギヤ14の上方のオイルキャッチタンク31に流入し、オイルキャッチタンク31から潤滑油が各部に供給される動力伝達装置1において、パーキング機構50がデフリングギヤ14の軸方向において通路80と設置領域が重なる場合であっても、パーキング機構50がオイルキャッチタンク31へ向かう潤滑油の流れを妨げることが抑制される。これにより、動力伝達装置1の各軸や付帯する装置の配置における制約を低減させることができる。