JP5032713B1 - 放射性物質を含む土壌の処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】既存の放射線物質による汚染に対処する。
【解決手段】放射性物質を含む土壌と水、水溶性液体又はそれらの混合物を容器内に収容し、加熱処理する前に土壌をその表面を覆う程度以上に水、水溶性液体又はそれらの混合物で浸した上で、その容器を密閉した状態で水、水溶性液体又はそれらの混合物の亜臨界状態で土壌を加熱処理する工程、及び、流体分と固形分に分ける工程を備える。
【選択図】なし

Description

本発明は固体核燃料を用いる原子力発電所の事故や核兵器テロ、原爆実験などで汚染された粘土を含む土壌中の放射性物質を除去又は低減する方法に関する。
固体核燃料を用いる原子力発電や原爆などはウラン235やプルトニウム239の原子核を人工的に破壊する核分裂反応に依る。その際、ウラン235やプルトニウム239の原子核は二つあるいはそれ以上の塊(核種すなわち元素)に分裂し、その時にエネルギーが発生する。この分裂をゆっくり制御的に行えば発電になり、瞬時に解放させれば爆弾となる。分裂の結果生じた複数の核種(核分裂生成物)は総じて陽子数と中性子数の均衡を欠いているため放射能を有する放射性核種となる。これらの放射性核種形態(気体/液体/固体)や放射能の強さは核種によって異なっている。放射性核種は放射線を放出しながら最終的に放射性を有しない安定な別の核種に到達するが、その時間も核種によって大きく異なっている。ある核種の放射能が半分になる時間をその核種の半減期というが、半減期の短い核種の放射能は高い。核分裂生成物である放射性クリプトンや放射性キセノンは常温で気体であり、これらを主成分とする放射性雲は移動中にその周辺へ強烈な放射線を放射するが、通過して遠ざかってしまえば放射線が残ることはない。また、気体の放射性沃素は半減期が8日なので半年後には殆ど消滅する。
放射性セシウムは678℃で気体になるため、原発事故で放出されやすく、そうなれば容易に広く環境に拡散する。しかも半減期が30年と長い。またセシウムは土壌粒子と結合しやすいため長い間地表から流されない。このため、半減期の短い放射性核種や放射性沃素が消滅した後にも残り、地面から放射線を放ち続け、農作物にも取り込まれて、長期にわたる被曝の原因になる。1960年代末までの大気圏核実験によって1京の1億500万倍のベクレルという、膨大な核分裂生成物がばらまかれ、地球全体を汚染した。核実験による放射性セシウムは、現在も海水・地表・大気中に残留している。またチェルノブイリ原発事故では、直径約250kmの範囲にわたり、高濃度汚染地域が点在している。さらに福島原発事故でも原発から遠く離れた静岡県の茶からも放射性セシウムが検出された。
また、放射性ストロンチウムも半減期が28年であり、放射性セシウムと同様の問題があるが、原爆実験や原子力発電所の事故に於いてはチェルノブイリ原発事故のように炉心が完全に破壊したような場合に、その爆発によって放出されるものであり、環境への拡散は放射性セシウムより限定される。よって、環境への放射性物質の汚染を考慮する上では、まず放射性セシウムへの対策がきわめて重要である。
このような厄介な放射性セシウムで汚染された、環境にある物体からこのような放射性物質を除去し、放射性物質を特定領域に集約する方法としては、環境中の放射性セシウムが表面に付着しているような物質を水中に入れ、水に溶ける放射性セシウムを水に溶かし、そこにフェロシアン化鉄やフェロシアン化ニッケルなどのフェロシアン化物を溶かし、水中の放射性セシウムをフェロシアン化物に吸着させる方法が知られている(非特許文献1)。この方法を用いて土壌を水に分散させて、土壌の表面に付着している放射性セシウムを水に溶解させることはできる。しかしながら、後述比較例で示すように、それだけでは不十分である。その理由は、比較的よく知られていることであるが、放射性セシウムは土壌内の粘土鉱物に取り込まれやすいためである。この性質を利用して粘土を用いて放射性物質で汚染されている環境を取り敢えずクリーンにしようとする動きもあるほどである。言い換えれば、一旦粘土に取り込まれた放射性セシウムは簡単に除去することができないのである。粘土のうち、とりわけ、イライトと呼ばれる雲母の一種である鉱物に吸着されたセシウムは植物も利用できないまま土壌に固定されやすい(非特許文献2,3)。セシウムのイオンがイライトの層に嵌って抜けづらいためと考えられている。植物に移行しにくいのであれば、人間の食する植物にも移行しにくいことになるので、問題は軽減されるのであるが、植物はカリウムが十分にある状態ではセシウムを吸収しにくくなるものの、カリウムが十分でなければ、誤ってセシウムを取り込むことも知られている。この現象が粘土の場合にも当てはまるのかは定かではないが、当てはまるとした場合、カリウム肥料を常に過剰の状態に置くということはカリウム肥料が高価である以上、実際的には難しく、セシウムが高濃度にある状況で農作業をするわけにもいかない。加えてセシウムが問題のないレベルの量でない土地から収穫された農作物を消費者は安心して購入することもできない。そもそも、粘土は稲作土壌において水を保持させるに欠くことのできない土壌の構成成分である。単に汚染された土地のごく表面を剥し、汚染されていない土壌と置き換えるとしても、汚染された大量の土壌をどうするかという問題が残る。粘土に吸着されたセシウムが除去できないとなると、稲作農業への影響は甚大である。
毎日新聞 「顔料使ってセシウム汚染水浄化 東工大が開発」 2011.4.15 毎日新聞社
"福島の土壌はこうすれば生き返る|食の安全|JBpress"、[online]、[2011年9月20日検索]インターネット<URL:http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5920>
有田正規"Doc:Radiation/Clay Minerals"、[online]、[2011年9月20日検索]、インターネット<URL;http://metabolomics.jp/wiki/Doc:Radiation/Clay Minerals
本発明は放射性物質で汚染された土壌、特に粘土中の放射性物質を除去又は低減する方法を提供することを目的とするものである。特に長期にわたり広範囲に汚染する放射性セシウムを土壌より除去又は低減することを目的とする。なお、本発明で「放射性セシウム」或いは「セシウム」というときは、放射性セシウム化合物を包含する。
上記の課題を解決するために、本発明は水、水溶性液体又はそれらの混合物(以下、「水、水溶性液体又はそれらの混合物」を「水性液体」という)と放射性物質を含む土壌とを容器内に収容し、加熱処理する前に土壌をその大半を覆う程度以上に水性液体で浸す工程、前記容器を密閉した状態で前記水性液体の亜臨界状態で前記土壌を加熱処理する工程、及び、加熱処理後に容器外に出された物質を流体分と固形分に分離する工程を備えることを特徴とする放射性物質を含む土壌の処理方法である。
本発明によれば、放射性物質を取り込んだ土壌中の放射性物質を工業的方法により除去又は低減することができ、本発明により処理された土壌は安全に生活環境に戻すことができる。
本発明において特に加熱処理後に急激に圧力を解放すると除染の程度をより一層高めることができる。また、粘土中に含まれている堆肥中に含まれる生物有機体、或いは堆肥とは別に土壌中に含まれる有機微生物などの細胞膜内に取り込まれてしまった放射性物質も急激に圧力を解放することで細胞膜が破壊される結果、細胞膜の外に放出されるので、これらの放射性物質も除染することができる。
本発明ではまず放射性物質を含む土壌と水性液体とを容器内に収容し、加熱処理する前に土壌の大半を覆う程度以上を水性液体で浸す。このようにすることで、その水性液体が加熱気化することで生ずる圧力で、水性液体が土壌の隙間に浸入することができる。これに対し、蒸煮のように水分が予め存在しない状況下で加熱すると、蒸煮のためのスチームが一部凝結されるとしても、その量は僅かであり、土壌全体にわたって浸入することができない。水性液体が浸入することによる効果は後述する。放射性物質を含む土壌表面を水性液体で浸すのは加熱直前でもよいが、より長い時間をかけて浸すのがより好ましい。また、土壌に対する含浸性を増すべく、界面活性剤を加えるのも好ましい。また、水性液体は、含浸性及び沸点の観点からは水よりもメタノール、エタノール、又はアセトンの方が好ましい。ここで「土壌の大半を覆う程度」とは、完璧に土壌表面を覆うのが最も好ましいのであるが、土壌の容積の6割以上を浸せば十分である。土壌が冷えている場合には凝結されている水性液体の量も加味すると、かなりの程度土壌は浸されるからである。好ましくは土壌の7割以上、より好ましくは8割以上、さらに好ましくは9割以上浸す状態をいう。なお、土壌表面を完全に覆うと共に土壌表面よりも水性液体の表面を超えるようにすればするほど、除染効果はよいのであるが、液体が多くなるほど、温度を上げるためのエネルギーがより多く必要となるので、それとのバランスで最適条件が決められる。土壌表面を超えて液体を多くする場合の一つの目安としては土壌の容積の1.5〜5倍、より好ましくは2〜4倍である。水溶性液体としては、水より臨界点が低く、土壌に含まれる水分を溶かすことが可能な程度の溶解度を有する水溶性液体が用いられ、中でも好ましくは前述のメタノール、エタノール、アセトンが用いられる。
次いで、容器の密閉状態で、水性液体の亜臨界状態で加熱処理される。水性液体が土壌の大半を覆う程度以上にあるので、土壌の大半は水性液体に接触された状態で亜臨界状態に置かれる。従って、放射性物質が土壌に吸着されている表面の大半は水性液体に接しているものと考えられる。水性液体が水の場合で説明すると、臨界点以下の温度における飽和蒸気圧以上の圧力下の水は加水分解力が非常に大きい。中でも水のイオン積が最大となる250℃付近が常温におけるイオン積の約1000倍となり、H+とOH-の濃度は常温における値の30倍以上となり、加水分解力が非常に大きく、加水分解の起こり得る結合部位への攻撃が極めて大きくなる。水以外の水溶性液体を用いる場合も、土壌中にもともと水分が存在するので、水以外の水溶性液体自身の亜臨界状態における加水分解力の他、その水分により、同様の効果が期待される。このような強い加水分解力から、放射性物質、特にセシウムは水性液体に溶解されやすくなっているものと思われる。330℃より温度が高くなると、温度の上昇に伴い、水のイオン積は急激に減少するため加水分解力も急激に衰え、加水分解力は臨界点を超えるとなくなるので、臨界点以下の温度で処理を行うとよい。また130℃より低い温度でも加水分解力は緩やかではあるが低下するので、好ましくは130〜330℃で、より好ましくは180〜300℃、より一層好ましくは230〜280℃、特に好ましくは240〜270℃で行なわれるとよい。この反応は無触媒でもよいが、触媒の存在下で行なうとさらに効果的である。触媒としては鉄粉などの鉄材が好ましく用いられる。なお、土壌自体が通常は水を含浸しており、土壌が含む生物体の細胞膜中の水分もあるので、水以外の水性液体を用いても、通常の土壌であれば、加水分解は生ずる。それに対し、蒸煮のような場合には、亜臨界状態で熱処理しても、土壌に入り込む水分量はないか、あっても僅かであり、土壌と蒸気とが接し且つ液状になっている部位のみ、亜臨界状態での蒸気の強い加水分解力を受けるだけであり、その効果は限られたものである。また、亜臨界状態に曝される時間は、好ましい温度条件下では数秒程度でも十分である。
土壌を加圧する圧力としては高圧ほど望ましく、3気圧(0.3MPa)以上、好ましくは5気圧(0.5MPa)以上、より好ましくは10気圧(1.0MPa)以上である。熱処理はあくまで水性液体の少なくとも一部が気体になるようにすればよいので、密閉空間を外部から加熱する方法をとってもよいし、密閉空間に例えば蒸気を注入するような加熱媒体を加える方法であってもよい。
容器の大きさは大きいと内部の温度が不均一になりやすいので、容器の大きさを小さいものにするか、或いは攪拌させるのが望ましい。前者の場合は、30〜200L程度、好適には30〜100L程度の小型のものを用いればよく、処理時間は亜臨界状態の温度によって異なるが、好ましい温度であれば、数秒で十分であるが、装置によって、好ましい温度に至らない場合も考慮すると、数秒〜60分、多くの場合は2〜30分あれば十分である。圧力を急激に解放する装置と連動させることで処理前後の時間も短縮することが可能であり、例えば、液体が水の場合で説明すると、土壌と水の混合物を水の沸点より低い温度で予備加熱していたものを密閉容器に投入し、密閉容器の外側から加熱するとともに、蒸気を投入して所定の温度まで加熱するのに3分〜10分、処理時間は数秒〜60分、多くの場合は2〜30分、容器から土壌を排除するのに30秒〜1分程度とすることができる。大量処理が必要な場合にはこのような小型容器を複数個用意する。このような小型容器を複数連動させることで、大型容器を所定の温度にするまでの昇温時間に比べて、短時間で所定温度に達することができ、容器内の温度分布が均一にできることと相俟って大型容器を用いて処理を行う以上に大量処理が可能である。例えば、コンベア上に置かれた土壌からリミットスイッチによりバルブを介して開いた計量計に向けて土壌が送り込まれ、所定量の土壌が計量されたことを光センサーで感知したところでバルブを閉めると、所定量の土壌が、容器に送り込まれる。相互の容器の土壌や蒸気の入口と出口はそれぞれリミットスイッチにより所定の条件を満たすと開閉して、順次、熱処理される。
亜臨界水の状態は超臨界水のような酸化還元力がないので、超臨界水を扱う装置に比べれば亜臨界反応を行なわせる容器は腐蝕され難いものの、水分と酸が存在するので、腐蝕を加速させる要因を有する。しかしながら、熱処理において酸素を含まないようにすることで腐蝕そのものを起こさせないようにすることがかなりの程度まで可能である。また、容器内にある空気(酸素や窒素など)は圧力を急激に解放したとき、水蒸気と違って液体になるわけではないので、装置の小型化を図る点からもできるだけ存在しないようにするのが望ましい。そのような手段として、蒸気に用いる水にせよ、予め存在させる水にせよ、純水を使い、しかも80℃で加熱して酸素が仮に入り込んだ場合でも追い出したものを用いるのが好ましい。また、土壌に含まれている空気を例えば0.5〜0.8MPa程度の水蒸気でブロータンク或いは系外に追い出して系内のガスを水蒸気だけにすることも好ましい手段である。また、無機の燐が含まれないようにすることも好ましい手段である。このような配慮をした上で、熱処理後の圧力解放を、急激な圧力低下で行なうと、容器内部の全てのものが吹き飛ばされるので、容器内部は清浄にされるため、相対的に長期にわたる使用が可能であり、容器の長期使用の耐久性の面からも好ましい。本発明で用いられる容器は亜臨界水状態で使用される公知の材料が用いられ、オーステナイト系、マルテンサイト系や二層合金系などのステンレス鋼、高合金鋼などが好適に用いられるが、鉄なども使用可能である。しかしながら、この反応の過程で水酸化セシウムが生成するので、セシウム濃度が高い場合にはその強アルカリ性に対して用心が必要である。
圧力の解放は徐々に行なってもよいが、好適には急激に圧力を解放する。熱処理後に急激に圧力を解放すれば、その時点で放射性物質が吸着されている隙間にまで含浸していた液体は熱膨張だけでなく、水性液体が気化することで急激な体積膨張が生じ、その隙間は急激な圧力を受けてさらに拡げられる。その結果、放射性物質は水性液体とともに土壌外に飛び出すことができる。蒸煮のような、凝結による僅かな液体しかない場合と比べて、より多くの液体が土壌に含浸しているので、急激に圧力を解放することで、土壌のあちらこちらで急激な体積膨張が生じる。
また、急激に圧力を解放せずに、徐々に圧力を解放した場合には加熱条件下でせっかく活性化された例えばセシウムのような放射性物質のイオンが解離しているのに、高圧下で徐冷されるため、解離前の相手と再結合される可能性が高くなるが、熱処理後、圧力を急激に解放すれば、急激に加水分解しやすい条件からしにくい条件に移るため、再結合される可能性は薄らぎ、液体或いはその液体の気化と共に放出される可能性が高くなる。この意味でも急激に圧力を解放するのが好適である。ここで「急激に圧力を解放」とは、熱処理を行なった密閉空間の容積(cm3)に対する、圧力を一度に解放するための開口部の面積(cm2)の比が0.0002/cm以上のものである。この比が高いほど、好ましく、好適には0.0005/cm以上であり、より好ましくは0.001/cm以上であり、より一層好ましくは0.005/cm以上であり、特に好ましくは、0.01/cm以上である。これは圧力を解放する場が大気圧であって、開口部を一気に開けた場合について規定したものであるが、その他の条件下の場合には、適宜その圧力差と移動速度を換算するものとする。また、かかる意味で、加熱処理する前に土壌を微粉状にしておくことが好ましい。
圧力を急激に解放することで、放射性物質は気化される水性ガスとともに放出されるものと、水性ガスが液体状態になった水性液体に溶け込んだり、同伴して水性液体中に分散したり沈澱したりするものに分かれる。圧力を急激に解放する程度が著しいほど、或いは圧力を急激に解放した後、急激に冷却するほど、気体の状態であるものよりも液体の状態であるものの割合が高くなる。そのような場合であっても、本発明の処理をしない前の土壌中の放射線強度が高いと、前者に占める放射線強度も無視できなくなり、生活環境にそのまま放出されるわけにはいかない場合も出てくる。かかる場合には気化された水性ガスとともに存在する放射性物質が外界に放出されないように密閉系で本発明処理を行ない、放射性物質の回収をしなければならない。密閉系で圧力を急激に解放するか、放射性物質を吸収する相に吸収させる方法が挙げられ、後者の例としては放射性物質を吸収することが可能な、水槽のような液相を介して外界に水性ガスを放出する方法が挙げられる。また、液体中に分散したり沈澱するものとしては懸濁浮遊する微小な粘土中に吸着された放射性物質、沈澱した土壌中になお存在する放射性物質などが例示される。
熱処理と圧力を急激に解放する処理とを密閉系で一連に行う別な装置としては、熱処理を行なう容器、容器にバルブを介して連結されるブロータンク、及び必要に応じてサイレンサ等から構成される。処理量が多く、容器を複数個用意する場合には、その後工程である、圧力を急激に解放する工程は共通のブロータンクにしてもよく、そこに土壌が送り込まれる。容器中に土壌と液体の混合物の容積を10〜90容量%、好適には15〜85容量%、より好適には20〜80容量%で投入し、容器内を加熱、高圧にした後、バルブを開き、常圧のブロータンクに土壌と液体の混合物を送り込んで、急激な圧力変化により圧力を解放する。土壌の隙間、特に粘土のイライト層の隙間に閉じ込められていた放射性物質は急激な圧力の解放により水性液体とともに飛散するが、ブロータンクの中に留まり、外界に拡散することはない。なお、容器中に占める土壌の量が上記好ましい範囲を下回ると処理効率が悪いだけであるが、逆に上記範囲を上回ると急激な圧力の解放効果が落ちるので、熱効果だけを期待するときには上記範囲にこだわる必要はない。
必要に応じて用いられる冷却手段としては、例えば、フラッシュコンデンサーのような熱交換器を用いるとか、水槽を通すなどの公知の手段を用いることができる。
圧力を解放した後の土壌は上述のように固形分中にあるものと流体分中にあるものに分けられ、流体分中にあるものは冷却手段により、液体分にすることができる。固形分と液分の分離手段としては、特に制限されるものではなく、例えば、スクウィーズ、スクリュープレス、遠心分離或いは濾過などの公知の分離手段が用いられる。ここで「固形分」というのは、熱処理後も固形で存在するものであるが、液分との混在から泥状になっているものも存在する。また、固液分離手段によっては、微粒子であるがために固体でありながら、液分に移行するものも当然存在する。固液分離の段階で既に固形分中の放射線強度が安全レベルであれば、固形分は生活居住空間に戻され、例えば、そのまま農地に戻される。また、固形分の放射線強度が安全レベルを超えている場合には、固形分に放射性物質が付着しているか、本発明の方法でも強固に吸着されたものが若干ながら残存する場合も起こり得るが、その場合でも、前者については固形分を水洗浄して、表面に付着している放射性物質を水に溶かすことで安全レベルに至らせることができる場合が多い。水洗浄は攪拌洗浄が好ましい。また、水洗浄の際に、固形分を振動させることも効果的である。また、それでも安全レベルを超える場合には、洗浄前又は洗浄後の固形分に対して、熱処理と圧力解放処理又は熱処理と圧力解放処理と洗浄処理を繰り返すことで、より安全レベルに達することが可能である。
他方、流体分については流体分中の放射性物質を吸着することができる吸着剤により放射性物質を吸着させて集約する処理がなされるのが好ましい。吸着工程は流体分と固形分を分けた後に行なってもよいが、吸着剤が熱処理工程で安定なものであれば、熱処理工程の水性液体中に分散あるいは溶解させて熱処理と吸着処理をほぼ同時に行なわせてもよい。このようにすれば、急激な圧力解放を行わせて放射性物質が加熱処理前の状態で再結合する可能性を減らすことをしなくても、再結合を減らすことが可能である。放射性物質の吸着は、化学吸着でも物理吸着でもよい。吸着剤としては、フェロシアン化物、ゼオライト、活性炭、水に懸濁する浮遊物等が例示される。中でもフェロシアン化物は少量で多くの放射性物質を吸着できるので好適である。その中でも、フェロシアン化鉄が好ましいが、この他、フェロシアン化ニッケル、フェロシアン化コバルトなどが例示される。水に懸濁する浮遊物は懸濁固形物、ssとも呼ばれ、粘土鉱物から作られたものがその好適な例である。吸着剤はその吸着剤の吸着能力と水溶液中の放射性物質の量に応じて必要量を適宜選定する。このような吸着剤はカラムに充填して、放射性物質が溶解する水溶液を通過させる形で接触させてもよいし、水溶液中に必要な量の吸着剤を投入して攪拌させるような形でもよい。なお、前者のカラムに充填して水溶液を通過させる場合、吸着剤は、カラムに充填でき、流出しない程度の粒径のものでなければならない。また、後者の水溶液中に吸着剤を投入させる場合は水溶液中に吸着剤が浮遊していては困るので、吸着剤だけ凝集させて沈澱させることができる手段を用いる必要がある。例えば、フェロシアン化物は特に造粒しない限り、微粉であるため、フェロシアン化物を造粒するか、あるいは微粉のままで使うのであれば、凝集剤を用いるとか、吸着剤がフェロシアン化物のような磁性体である場合には磁石で吸引するなどの凝集手段が用いられる。
放射性物質を吸着した吸着剤と液分との混合物或いは放射性物質を溶解する液分はそのまま、公の機関が指定する放射性物質の最終処分場に運び込み、液分を自然蒸発させるか或いは回収してもよい。また、適切な吸着剤を用いる限り、大部分の放射性物質は吸着剤に吸着されているので、液分中の放射性物質は殆ど無視できる程度の量である。したがって、吸着剤と液分を分離して吸着剤のみを最終処分場に運び、液分はそのまま排泄しても又は再利用しても環境に影響はない。吸着剤と液分との分離は、吸着剤の物性を考慮して、遠心分離、濾過などの方法により行われる。
放射性物質を吸着した吸着剤は放射性物質の放射線強度が抑制できるような容器に収容保存する。容器の材質としてはコンクリート製、鉛製など、放射線を外界に放出する度合いを顕著に抑制できる材質であればよく、コンクリートが好適に用いられる。ここで容器は放射線を吸着した吸着剤の放射線量が大きいときには最終処分場の保管容器となるが、吸着剤の放射線量が少ないときには放射性物質を吸着した吸着剤を収容するまで容器の形態であればよく、収容後は容器の口をコンクリートなどの封止材で封止し、別な用途、例えば、コンクリートであれば、コンクリートが本来用いられる用途、例えば、土木建築材として用いられる。放射性物質を吸着した吸着剤を容器に収容させるのには、生コンの原料の水とともに吸着剤を混ぜる方法が好適に用いられる。
(実施例1)
土壌は、福島県飯館村から採取した、放射性セシウムの放射線強度が1650Bqの30.0g(1kg当たり55000Bq相当)を用いた。なお、放射線強度はゲルマニウム線量計で測定した。これを水90.1gと混ぜて、オートクレーブに入れ、加熱(水熱)処理した。オートクレーブは500ccの高圧マイクロリアクター(オーエムラボテック(株)製)を用いた。水熱処理は常温から260℃までの昇温時間を60分、260℃で4MPaとし、その保持時間を30分、260℃から常温までの放冷時間を90分とした。水熱処理後、ナイロン製メッシュ(150メッシュ)で濾別した。濾液は68.6gで960Bq(1kg当たり13990Bq相当)であり、残渣(水も含まれている)は18.5gで690Bq(1kg当たり37300Bq相当)であった。後述する通り、濾液は約100%処理されるので、除染率を(当初のベクレル数−処理後の残渣中のベクレル数)/当初のベクレル数と定義した場合、この段階での除染率は58.2%である。
次いで、残渣を水洗いした。水洗いは、残渣18.5gに約20倍強の水400gを加えて攪拌洗浄することでなされた。次いで、前述と同様、ナイロン製メッシュで濾別した。濾液は385.3gで380Bq(1kg当たり986Bq相当)、残渣(水を含む)は14.2gで340Bq(1kg当たり23940Bq相当)であった。この段階での除染率は79.4%であり、残渣中の放射性物質を低減させることができた。よって、この残渣のまま、又は少ない量の未汚染の土壌と混ぜて、生活環境に戻すことが可能である。
次いで上記二つの濾液を合わせ、フェロシアン化鉄を濾液に対し0.2%、凝集剤「イオンリアクションP」(再生舎製市販品)0.2%を加えて攪拌させた。この処理により濾液に溶けている放射性セシウムはフェロシアン化鉄に吸着され、凝集剤によって沈澱される。この後、上述と同様、ナイロン製メッシュで濾別した。濾液は417gで40Bq(1kg当たり96Bq相当)、凝集沈殿した濾液残渣(水を含む)は32gで1210Bq(1kg当たり37813Bq相当)であった。この濾液中の除染率は98%であり、最終的に濾液中の放射線強度は100Bq/kg程度にまで低減された。
(実施例2)
実施例1と異なるのは、水50.1gの代わりに150gとし、オートクレーブの代わりに吉村式穀類膨張機(有限会社ポン菓子機販売製)を用い、その釜(釜の蓋で覆われた開口部の形状は直径約7cmの円;釜内容量600cm3)に土壌と水を入れた。外部からプロパンガスで加熱して急速加熱させ、釜の表面温度を200〜210℃、圧力を2.0〜2.4MPaにし、10数分保持した。釜の表面温度は非接触温度計で釜外周を計ったものである。この後、釜本体と釜の蓋とを密着させるべく止めているストッパーの爪を木槌で叩き、開口部から膨張機に向けた箱に一気に圧力を解放した。膨張機の釜の加熱処理空間容積600cm3に対する開口部の面積約50cm2の比は約0.08/cmである。プラスチック容器(材質はポリスチロールであり、厚さ5mmであり、大きさは35cm×35cm×奥行き120cmの直方体である)を内包する、スチール箱(厚さ1.2mmであり、大きさは60cm×60cm×120cmの直方体である)である。プラスチックは圧力の解放で破損し、箱壁面に付着している反応物をキムワイプ(登録商標)で拭き取って回収し、処理後の土の放射線強度は8700Bq/kgであった。なお、実施例1に相当する濾液はこの実施例では水性ガスとして気散した。水性ガスを冷却液化させて、実施例1と同様に吸着剤を用いれば、実施例1と同様の結果になるはずである。この実施例によれば、55000Bq/kgの放射線強度を有した土壌を9000Bq/kg以下にすることができ、処理前の放射線強度の1/6以下にすることができた。
(実施例3)
土の量を150gとし、水の量は実施例2と同じ150gであった。水面は釜内で土の表面を2割程度上回った状態であると推察される。この他は実施例2と同様に行なったところ、処理後の放射線強度は20000Bq/kgであり、処理前の土の半分強程度の放射線強度になった。
(実施例4)
土の量を200gとし、水の量は実施例2と同じ150gであった。水面は釜内で土の表面を若干上回った状態であると推察される。この他は実施例2と同様に行なったところ、処理後の放射線強度は22500Bq/kgであり、処理前の土の半分程度の放射線強度になった。
(比較例1)
加熱処理をしなかった他は実施例1と同様に行なった。水洗い後の残渣(水を含む)中の放射線強度は27.4gで720Bq(1kg当たり26280Bq相当)であった。除染率は56.4%である。加熱処理を行った場合の79.4%に比して、除染率は低かった。
(比較例2)
実施例2と異なるのは、水150gの代わりに7gとした。水7gは200〜210℃での釜内容量600cm3における飽和水蒸気量に相当する量であり、系内に含まれる水は土壌中に含まれる水分と水蒸気だけであり、土壌を浸す水分はない条件である。これは蒸煮と同じ条件で行なった疑似実験である。その他は実施例2と同様に行なおうとしたのであるが、実際にはプロパンガスバーナーで加熱しているため、温度制御ができず、温度は297℃まで上昇した。処理後の土の放射線強度は115000Bq/kgであった。処理前の放射線強度より高くなったのは、処理前の土にも水が含まれており、その蒸発があったためと推測される。実施例と比較すると蒸煮では除染ができず、土壌の大半を覆わないと除染ができないことが分かる。
本発明は放射性物質で汚染された土壌中から放射性物質を除去又は低減させることが可能である。

Claims (8)

  1. 水、水溶性液体又はそれらの混合物と放射性物質を含む土壌とを容器内に収容し、加熱処理する前に土壌をその大半を覆う程度以上に前記水、水溶性液体又はそれらの混合物で浸す工程、前記容器を密閉した状態で前記水、水溶性液体又はそれらの混合物の亜臨界状態で前記土壌を加熱処理する工程、及び、加熱処理後に容器外に出された物質を流体分と固形分に分離する工程を備えることを特徴とする放射性物質を含む土壌の処理方法。
  2. 前記加熱処理中の容器内の放射性物質、または前記分離工程で分離された少なくとも流体分中の放射性物質を吸着剤により吸着させる工程を更に備えることを特徴とする請求項1記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  3. 前記亜臨界状態での加熱処理後に圧力を急激に解放する工程を更に備え、圧力解放後の物質を前記分離工程で、流体分と固形分とに分離することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  4. 前記水、水溶性液体又はそれらの混合物が水であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  5. 前記水、水溶性液体又はそれらの混合物がメタノール、エタノール、及び、アセトンの群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  6. 前記加熱処理工程が、180〜300℃の亜臨界状態で行われることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  7. 前記分離工程で分離された固形分を洗浄水を用いて洗浄する工程と、洗浄後に、液分と固形分に分離する第2分離工程と、を更に備えることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
  8. 土壌が粘土であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の放射性物質を含む土壌の処理方法。
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