本発明はインクジェット記録装置で用いる記録ヘッドにおいて、正常な記録動作を継続できるに十分なインクが残っているか否かを判断するための、インク残量検知方法に関する。本発明のインク残量検知方法は、インクジェット記録装置のほか、インクジェット記録方法を採用したファクシミリ、複写機、ワードプロセッサ、また複合機に適用することができる。
インクジェット方式を採用した記録装置では、記録ヘッドから記録媒体に向けてインクを吐出して記録を行う。この際、記録動作に伴って消耗されるインクは、記録ヘッドと一体的に構成された、あるいは記録ヘッドに対し着脱可能に接続された、インクタンクから断続的に供給されるようになっている。但し、インクの消費によってタンク内のインクが僅かとなり、記録ヘッドにインクが順調に供給されなくなると、記録ヘッドからの吐出動作も不安定になりがちである。よって、一般のインクジェット記録装置では、インクタンク内のインクの残量を検出するための何らかの手段を備え、残量が僅かになった時点でユーザにその旨を告知し、記録ヘッドカートリッジあるいはインクタンクの交換を促すようにしている。
インク残量を検出するための方法については、既に様々な提案がなされている。例えば、記録ヘッドからインクを吐出した回数や記録ヘッドからインクを強制的に吸引させる吸引動作を行った回数をカウントし、当該カウント値から推測されるインク消費量が所定の閾値を越えた時点で、ユーザに告知する方法が提案されている。また、インクもしくはインク保持部材の電気抵抗値の変化からインクの残量を検出する方法や、インクの吐出状態をフォトインタラプタなどの光学手段によって検出し、インク残量を検出する方法も提案および実施されている。
特許文献1には、電気熱変換体(ヒータ)を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、インク吐出時の記録ヘッドの温度上昇の度合いによってインク残量を検知する方法が開示されている。ヒータを備えたインクジェット記録ヘッドでは、個々の吐出口に連通するインク路にヒータが配備されており、記録信号に応じて当該ヒータに電圧パルスを印加することによってインク中に膜沸騰を生じさせる。そして、この際の発泡圧力によって吐出口から所定量のインクが押し出され、これが記録媒体に付着することによって、記録が行われる。この際、複数のヒータが配備されたヒータボードにおいては、熱源であるヒータからの熱の流入と、ヒータボードに接触するインクや他の構成への熱の流出によってその温度が左右される。すなわち、インク路にインクが充分に充填されている状態では、熱を吸収したインクが外部に放出されることによる温度の流出があるが、インク路にインクが充分に充填されていない状態では、温度の流出が少なく、ヒータボードが昇温し安くなる。
図8は、連続的な吐出動作を行った場合のヒータボード上に設けられた温度センサが検出する温度の上昇度を、インクタンク内にインクが残っている量で比較するための図である。図において、横軸は、個々の吐出口における吐出回数を示している。一方、縦軸は、吐出動作を開始して以降の昇温度、すなわち、その時々で温度センサが検出する温度から吐出動作を開始する前に温度センサが検出した温度を差し引いた値ΔTを示している。図において、曲線801はインクタンク内にインクがほとんど残っていない場合、曲線802は少量だけ残っている状態を、また曲線803はインクタンク内にインクが十分残っている状態をそれぞれ示している。図を見れば判るように、同じ条件で同じ回数だけ吐出動作を行っても、インクタンク内のインク残量が少ないほど、温度センサが検出するΔTの値(昇温度)が大きいことがわかる。例えば、8000発の吐出動作を行った場合、曲線801では昇温度ΔT=70℃、曲線802では昇温度ΔT=60℃、曲線803では昇温度ΔT=45℃となっている。
特許文献1では、このような傾向を利用し、個々のヒータに所定のエネルギを投じたときのヒータボードの昇温の度合いから、インク残量を検知する方法を開示している。例えば、図8を参照するに、インクタンクにインクが十分に残っている状態(曲線803)において、8000発の吐出動作を行った後の昇温度PreΔT=45℃を予め取得しておく。その後、実際にインク残量を検知するタイミングで、改めて8000発の吐出動作を行い、その時に得られる昇温度ΔTの値がPreΔT=45℃よりも所定量以上(例えば10℃以上)上回っている(ΔT>55℃)場合に、インク残量が僅かであると判断する。このときの所定量(10℃)は、「インクがどの程度まで消費されたときにユーザに通知するか」などに応じて調整することが出来る。
このように、特許文献1に開示されているようなインク残量検知を行うには、インクが充分に供給されていることが明らかである状態で、所定のエネルギを投じた場合のヒータボードの昇温度(PreΔT)を予め把握しておく必要が生じる。以後、このようなPreΔTを取得するための工程を昇温特性取得工程と称する。但し、所定のエネルギを投じた場合に実際に検出される昇温度については、記録ヘッドや記録装置の個体差によってばらつきがある。
図9は、吐出口近傍に存在するインクの実際の温度と、ヒータボード上に搭載された温度センサが検出する温度の誤差を説明するための図である。ここでは、所定のエネルギを付与(例えば8000発の吐出動作を実行)した場合の、ヒータボード近傍のインクの実際の昇温度を横軸に、当該ヒータボードに搭載されている温度センサから得られる昇温度ΔTを縦軸に示している。エネルギ付与前には実温度と検出温度は一致していても、ある程度のエネルギを付与して行くと両者の間には、図のように誤差が発生するようになる。このような誤差は記録装置の公差、記録ヘッドの公差、センサのばらつきなどに起因して発生するものである。よって、特許文献1のようは残量検知を行う場合、PreΔTの測定は個々の記録ヘッドあるいは個々の記録装置で行い、個体差に起因するばらつき要因を除外することが好ましい。
ところで、このような特許文献1に記載の残量検出方法は、上述した他のインク残量検知方法と併用することも出来る。例えば、記録ヘッドの吐出回数および吸引回数のカウント値から推測されるインク残量に基づいて、ユーザに対し、ある程度事前にインク残量を通告しておきながら、残量の有無の最終的な判断を上記特許文献1に開示されている方法で行ってもよい。
以下に、吐出回数および吸引回数のカウント値からある程度のインク残量を推測しておきながら、特許文献1の方法を採用して最終的なインク残量の有無を判断するための方法を具体的に説明する。
図11は、記録装置が行う昇温特性取得工程の一例を説明するためのフローチャートである。本例では、新品あるいは使用途中の記録ヘッド(あるいはインクタンク)が記録装置に新たに装着された際に実行する例を示している。
ステップS1101にて記録ヘッドカートリッジもしくはインクタンクが記録装置に取り付けられると、ステップS1102にて、取り付けられたインクタンクのインク残量情報Vを取得する。このときの残量情報Vは、上述した従来の方法(例えば記録ヘッドの吐出回数および吸引回数のカウント値から推測する方法)によって予め記憶された情報とする。
続くステップS1103では、取得した残量情報Vを予め定められた閾値Low1と比較する。ここでLow1とは、この後PreΔTを取得するための所定の吐出動作を行っても、更にその後に記録動作を行うに充分なインクが残っている最低限のインク残量を示す。ステップS1103でV≦Low1の場合、インク残量はPreΔTを取得するに充分ではないと判断し、そのまま本モードを終了し、記録装置は待機状態となる。
一方、ステップS1103でV>Low1の場合、ステップS1104の昇温度取得モードへと進む。
図18は、昇温度取得モードの工程を説明するためのフローチャートである。昇温度取得モードが開始されると、まず記録ヘッドに搭載されている温度センサにて、その時点におけるヒータボードの温度T1を取得する(ステップS1801)。続いて、記録ヘッドは回復部に用意されているキャップ部材などに向けて、記録ヘッドの吐出口のそれぞれから、ここでは8000発の吐出動作を実行する(ステップS1802)。
その後、再び温度センサにて、上記動作後の吐出ヒータボードの温度T2を取得する(ステップS1803)。更に、ステップS1804へ進み、記録ヘッドの昇温度ΔT=T2−T1を算出する。以上で、昇温度特性モードが終了し、元の工程へ戻る。
上記昇温度取得モードが昇温特性取得工程で実行されたのであれば、取得された昇温度ΔTはPreΔTとなる。また、残量検知工程で実行されたのであれば、取得された昇温度ΔTは、予め求められているPreΔTと比較するための昇温度ΔTとなる。
再び図11を参照する。ステップS1104の昇温度取得モードにてPreΔTが取得されると、その後、ステップS1105へ進み、取得したPreΔTを装置内のメモリに格納し、本モードを終了する。
一方、図12は、通常の記録動作を行った後に昇温特性取得工程を実行する例を示すフローチャートである。ステップS1201にて、1つのジョブに基づく記録動作が終了し、最終ページの記録媒体が排出されると、ステップS1202にて、現状のインクタンクのインク残量情報Vを取得する。このときの残量情報Vは、上述した従来の方法(例えば記録ヘッドの吐出回数および吸引回数のカウント値から推測する方法)によって予め記憶された情報とする。
続くステップS1203では、取得した残量情報Vを上述した閾値Low1と比較する。ステップS1203でV≦Low1の場合、インク残量はPreΔTを取得するに充分ではないと判断し、そのまま本モードを終了し、記録装置は待機状態となる。
一方、ステップS1203でV>Low1の場合、ステップS1204に進み、図18で説明した昇温度取得モードを実行する。
その後、ステップS1205へ進み、昇温度取得モードで取得したPreΔTを装置内のメモリに格納し、本モードを終了する。
図10は、実際のインク残量を検知する際に記録装置が行う残量検知工程の例を説明するためのフローチャートである。本例においてインク残量検知は、記録装置が記録データを受信するたびに、その動作を実行した直後に行うものとする。
記録装置は記録データを受信すると(ステップS1001)、当該記録データに従って一連の記録動作を実行する(ステップS1002)。このとき、記録ヘッドの吐出回数をカウントすることによって、最新のインク残量情報Vも取得しておく。
記録媒体が排紙され記録動作が終了すると、ステップS1003に進み、取得した残量情報Vを閾値Low2と比較する。ここでLow2とは、この後記録動作などの所定の吐出動作を行った場合、充分なインクが残っていない可能性のあるインク残量を示す。このLow2はカートリッジのインク量の設定などに応じて調整することができる。V>Low2の場合、インク残量はインク残量検知を行うタイミングには早いと判断し、そのまま本モードを終了し、記録装置は待機状態となる。一方、V≦Low2の場合、ステップS1004に進み、図18で説明した昇温度取得モードを実行する。
続くステップS1005では、ステップS1004で得られたΔTを、事前に取得され装置内のメモリに格納されているPreΔTと比較する。具体的には、ΔT≦PreΔT+αであるか否かを判断する。ここで、αの値は例えば10℃程度とすることも出来るが、この値は「インクがどの程度まで消費されたときにユーザに通知するか」によって調整することが出来る。
ステップS1005で、ΔT≦PreΔT+αならば残インク有りと判断し、残量検知工程を終了し記録装置は待機状態となる。一方、ΔT>PreΔT+αならば、残インク無しと判断し、ステップS1006へ進み、ユーザに対しインクが無くなった旨を通知し、インクタンクあるいは記録ヘッドの交換を要請する。更に、ステップS1007へ進み、ステップS1001で受信した記録データ、すなわちインク無し状態になる直前に記録した画像のデータ、を装置内のメモリに格納する。これは、ステップS1002で記録した出力画像に、インクが欠乏したことによる弊害が発生した場合であっても、交換後のインクタンクによって再度記録動作が行える準備をするためである。その後、記録装置は待機状態に入る。
以上説明したような2段階の工程、すなわち図11および図12で示した昇温特性を取得するための工程と、図10で示した残量を検知する工程を実行することにより、インク残量検知を比較的簡単な構成で判断することが出来る。よって、電気熱変換体を用いたインクジェット記録ヘッドにおいては、特に有効なインク残量の検出方法として有用されている。
しかしながら、昇温度を取得する際のヒータボードの温度は、記録ヘッドや記録装置の個体差のみでなく、直前の記録動作によっても影響を受ける。具体的には、昇温度取得モードを実行する直前に濃度の高い画像を記録した場合には、昇温度を測定する際のヒータボードの温度は高まっている。一方、昇温度を測定する直前に記録動作を行っていない場合には、ヒータボードの温度は周囲の温度と略同等とみなすことが出来る。このような場合、記録ヘッドに対し、たとえ同じように充分にインクが供給される状態であったとしても、ヒータボードのもともとの温度が高い場合にはPreΔTやΔTの値は小さく測定され、もともとの温度が低い場合には大きく測定される傾向がある。すなわち、インク残量を検知する際のヒータボードの昇温度ΔTと、これと比較するPreΔTでは、それぞれの昇温度の測定直前の記録動作等によって相対関係が不安定になり、確実性のある検知結果が得られなくなる恐れが生じる。
このような問題に対応するため、直前の記録動作によって昇温した記録ヘッドの温度を安定させる目的で、PreΔTやΔTを取得する前に記録装置を所定時間待機させる方法も考えられる。
図13は、所定の記録動作を行った直後からの待機時間において、ヒータボードの温度が徐々に下がっていく様子を示した図である。記録動作直後に45℃まで上がった温度が、50秒ほどで一定の値に安定していることが分かる。すなわち、昇温度取得モードを実行する際に、その直前の記録動作もしくは1つのジョブが終了した時点で、50秒間待機時間を設ければ、ある程度安定した昇温度を取得することが可能となる。但し、このような待機時間が確保されると、記録ヘッドに対するインクの供給も促されることが知られている。
図14は、インク残量が僅かである状態において、所定時間待機した後に記録動作を行った際のヒータボードの昇温の様子を、待機時間別に示した図である。図によれば、60秒以上の待機時間を設けた場合においては、インクの残量が僅かであるにも係らず、昇温度ΔTの値が小さいことが分かる。すなわち、長い待機時間を設けてしまうと、ヒータボードの温度は安定するが、インクの残量が僅かであることを検出することが困難になってしまうのである。更に、長時間の待機時間そのものによって、ユーザの記録装置に対する使用感も悪化する。
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものである。よって、その目的とするところは、必要以上の待機時間を設けることなく、インクタンク内のインクの残量を比較的簡易な構成で正確に判断することが可能なインクジェット記録装置、およびそのインク残量検知方法を提供することである。
本発明は、上記目的を達成するため、ヒータを加熱することによりインクを吐出する記録ヘッドと、該記録ヘッドに供給されるインクを収容するためのインクタンクと、前記記録ヘッドの回復動作を行う回復手段と、を備えるインクジェット記録装置におけるインク残量の検知方法であって、前記インクタンク内のインク残量が充分であるタイミングで、前記ヒータに所定のエネルギを付与したときの前記記録ヘッドの第1の昇温度を測定する第1の測定工程と、前記インクタンク内のインク残量を検出するタイミングで、前記ヒータに前記所定のエネルギを付与したときの前記記録ヘッドの第2の昇温度を測定する第2の測定工程と、前記第1の昇温度と前記第2の昇温度に基づいて前記インクタンクのインク残量を取得する取得工程とを有し、前記第1の測定工程及び前記第2の測定工程の少なくとも一方において、前記ヒータにエネルギを付与する前に前記回復手段に前記記録ヘッドの回復動作を行わせることを特徴とする。
本発明によれば、直前の記録動作などによって記録ヘッドが昇温してしまっているような状況であっても、記録ヘッドの温度を比較的短時間で安定値に降下させた後に、昇温度の測定を行うことが可能となる。結果、インク残量が充分に存在する場合の昇温度PreΔTの値にも、これと比較する昇温度ΔTの値にも、所定の記録動作に伴う昇温度以外の温度要因が含まれ難くなり、これら2つの値を正当な状態で比較し、精度の高い残量検知を実行することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、本明細書で開示する全ての実施例に適用可能なインクジェット記録装置および記録ヘッドの概略構成を説明し、その後、複数の実施例を具体的に説明する。
図2は、本発明の実施形態に適用可能なインクジェット記録装置の要部を説明するための概略構成図である。不図示の外装部材内に収納されたシャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成されて記録装置の骨格を成し、装置内の各機構を保持する。
自動給送部M3022は、記録媒体(用紙)を装置本体内へと自動的に給送する。搬送部M3029は、自動給送部M3022から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へと導くと共に、その記録位置から排出部M3030へと記録媒体を矢印Y方向(副走査方向)へ搬送する。M3001は、記録媒体に直接接触しこれを搬送するためのLFローラ、M3006はLFローラM3001の軸受けである。記録位置に搬送された用紙は、キャリッジM4001に搭載される記録ヘッドよって所望の記録が行われる。M2015は、記録部における記録ヘッドと記録媒体の記録面との距離を調整するための紙間調整レバーである。
キャリッジM4001は、キャリッジ軸M4021によって矢印Xの主走査方向に移動可能に支持されている。キャリッジM4001には、インクを吐出可能な記録ヘッド(図2では不図示)が着脱可能に搭載される。キャリッジM4001には、キャリッジM4001の所定の位置に記録ヘッドH4001を案内および固定するための、キャリッジカバーM4002およびヘッドセットレバーM4007が備えられている。ヘッドセットレバーM4007は、キャリッジM4001の上部に位置するヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられており、記録ヘッドと係合する係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられている。記録ヘッドをキャリッジM4007に装着する際、ヘッドセットレバーM4007は、そのばね力によって記録ヘッドを押圧し、キャリッジカバーM4002の所定位置に、これを装着する。
キャリッジM4001上に装着された記録ヘッドには、シャーシM3019の裏面側に配置されているメイン基板E0001から、本体フレキシブルケーブルE0012を経由して、記録信号が送信される。記録信号に従った記録ヘッドの吐出動作に伴ってキャリッジM4001がX方向に走査する記録主走査と、搬送部M3029による記録媒体の所定量の搬送動作とを交互に繰り返すことにより、記録媒体には段階的に画像が形成されて行く。
記録ヘッドに対しては、回復部M5000によって適宜回復処理が行われる。回復部M5000には、記録ヘッドに備えられたインク吐出口面をキャップするためのキャップ部材や、インク吐出口面を払拭するワイパ部材などが備えられている。キャップ部材には、その内部に負圧を導入可能な吸引ポンプが接続されている。インク吐出口面をキャップした状態で、吸引ポンプによってキャップ部材内に負圧を導入することにより、インク吐出口から記録ヘッド内のインクを強制的に排出させることが出来る。このような動作を本明細書では、吸引回復動作と称する。また、キャップ部材に向かって、インク吐出口から画像の記録に寄与しないインクを吐出させた後、キャップ部材内に貯留されたインクをポンプ手段によって、廃インクタンクへ排出することも出来る。このように、吐出の安定化を図るために、記録ヘッドに対して施される一連のメンテナンス動作を、記録ヘッドの回復処理と一般に称する。
図3は、本発明で適用可能な記録ヘッドカートリッジの一例を説明するための概観斜視図である。ここでは、インクを吐出するための吐出部H3002と、これにインクを供給するためのインクタンクH3009とが、一体的に構成された例が示されている。このような構成の場合、キャリッジM4001には、記録ヘッドとインクタンクとが同時に装着される形態となる。メイン基板E0001よりフレキシブルケーブルE0012を介して送信される記録信号は、電気接点H3003によって受信され、電気配線を有するタブH3004によって吐出部H3002へと送信される。ここでは、1種類(一色分)のインクを収容する記録ヘッドカートリッジを説明したが、実際のキャリッジM4001には、このような記録ヘッドカートリッジの複数色分が、それぞれ独立に着脱可能なように搭載される。
図4は、本実施形態で適用可能な記録ヘッドカートリッジの別の形態を説明するための概観斜視図である。ここでは、インクを吐出するための吐出部H4001を備えた記録ヘッドに対し、異なる種類のインクを収容した複数のインクタンクH4900を、それぞれ独立に装着可能な構成例を示している。このような場合、キャリッジM4001には、記録ヘッドが装着された状態で、交換が要されるインクタンクが適宜着脱される。電気接点およびタブは、図の背面側に配備されており、吐出部H4001へ記録信号を送信する。
図5は、図3あるいは図4で説明した記録ヘッドの吐出部(H3002あるいはH4001)の構成を一部拡大して説明するためのインク吐出口側から観察した場合の平面図である。また、図6は図5のC−C断面を示す模式図である。インクタンクから共通液室7に供給されたインクは、個々のインク導入部9を介してインク発泡室6へ導かれる。ヒータボード11に配置された電気熱変換体(ヒータ)は、記録信号に応じて電圧パルスが印加され、発泡室6内のインクを急激に過熱する。この熱エネルギによって発泡室6内のインクに膜沸騰が発生し、泡の成長によって所定量のインクがインク吐出口57あるいは58から外部に突出される。本例において、81および57は5plのインク滴を吐出するためのヒータおよびインク吐出口、82および58は1plのインクを吐出するためのヒータおよびインク吐出口を示している。個々の吐出口およびヒータは互いにそれぞれの発泡室で対向するように、Y方向に所定のピッチで配列され、この列が共通液室7を挟んで両側に配置されて、1色分のインク吐出部が形成されている。このような構成の記録ヘッドを図のX方向(主走査方向)に移動しながら吐出動作を行わせることにより、記録媒体上の個々の画素を、5plと1plの2段階で階調表現することが出来る。
ヒータボード11上に配備された温度センサ10は、例えばダイオードセンサからなり、適宜ヒータボード11の温度すなわちヒータ近傍の温度を検出することが出来る。
以上では、5plと1plの2つのサイズのインク滴を吐出する記録ヘッドの構成を説明した。しかし、本発明および以下に説明する実施例のいずれにおいても、このような構成に限定されるものではない。同じ大きさのインク滴を吐出する記録ヘッドであっても、また更に多段階の量のインクを吐出可能な記録ヘッドであっても、上記膜沸騰を引き起こし、インクを滴として吐出可能なヒータが備えられていれば、本発明および以下の実施例に適用することは出来る。
図7は、以上説明したインクジェット記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。
100はCPUであり、本実施形態のインクジェット記録装置の動作機構やデータ処理の全般を制御する。例えばCPU100は、ホスト装置200より受信した画像データに従って、各種機構を制御して、画像を出力する。
ROM101は、CPU100が実行する処理のプログラムやパラメータなどが格納されているメモリ領域である。また、RAM102は、CPU100が処理を実行するためのワークエリアなどとして用いられるメモリ領域である。
CPU100は、ホスト装置200より受信した画像データを処理し、吐出部H3002(H4001)によって吐出可能な記録データを生成する。そして、当該記録データや駆動制御信号(ヒートパルス信号)をヘッドドライバH1001に供給することによって、吐出部H3002(H4001)に吐出動作を実行させる。また、吐出部H3002(H4001)に備えられている温度センサ10や、記録装置が置かれている環境温度を検出するための環境温度センサ12の検出値を受信し、これら検出値によって各種判断および制御を実行する。
CPU100は、キャリッジM001を主走査方向に駆動するためのキャリッジモータ103を、モータドライバ103Aを介して制御する。また、記録媒体を副走査方向に搬送するLFローラを回転するためのLFモータ104を、モータドライバ104Aを介して制御する。更に、回復部M5000の吸引ポンプやワイパブレードなどを、モータドライバ105を介して制御する。
以上説明したインクジェット記録装置および記録ヘッドカートリッジを用い、本発明の特徴的な構成を、以下に複数の実施例として説明する。
図1(a)は、本実施例における昇温特性を取得するための工程を図12と比較しながら説明するフローチャートである。
ステップS101にて、1つのジョブに基づく記録動作が終了し、最終ページの記録媒体が排出されると、ステップS102にて、現状のインクタンクのインク残量情報Vを取得する。このときの残量情報Vは、上述した従来の方法(例えば記録ヘッドの吐出回数および吸引回数のカウント値から推測する方法)によって記憶された情報とする。
続くステップS103では、取得した残量情報Vを閾値Lowと比較する。ここでLowとは、背景技術の項で説明したLow1と同様、この後PreΔTを取得するための所定の動作を行っても、更にその後に記録動作を行うに充分なインクが残っている最低限のインク残量を示す。但し、この後説明するが、本実施例では所定の昇温度取得モードを実行する前に、吸引回復動作を実行することが特徴となっている。よって、本実施例におけるLowの値は背景技術の項で説明したLow1よりも、吸引回復動作1回分によって消費されるインク量を見越した値に設定されている。ステップS103でV≦Lowの場合、インク残量はPreΔTを取得するに充分ではないと判断し、本モードを終了し記録装置は待機状態となる。
一方、ステップS103でV>Lowの場合、ステップS104に進み、回復部M5000による記録ヘッドに対する吸引回復処理を実行する。具体的には、インク吐出口面にキャップ部材を押し当て、吸引ポンプによってキャップ部材内に負圧を導入することにより、インク吐出口から記録ヘッド内のインクを所定量排出する。この吸引回復動作によって、直前の記録動作で昇温したインクは記録ヘッドから排除され、インクタンクに貯留されている新たなインクが記録ヘッドのヒータボード近傍に供給される。よって、ヒータボードの温度も安定した値に降下する。
図15は、直前の記録動作によって昇温した記録ヘッドに対し、上記吸引動作を実行した場合の、ヒータボードの温度が変化する様子を示す図である。70℃程度まで昇温していた状態であっても、吸引回復動作を開始してから6秒ほどで30℃程度にまで降下し、安定していることが分かる。
再び図1に戻る。ステップS104の吸引回復動作によって記録ヘッドの温度を安定値に戻した後、ステップS105へ進み、昇温度取得モードを実行する。このときの昇温度取得モードは、背景技術の項において図18で説明した工程を採用することが出来る。すなわち、ヒータに所定のエネルギを付与することによって8000回の吐出動作を実行させ、この吐出動作の前後における前記記録ヘッドの昇温度を測定する。
更に、ステップS106へ進み、昇温度取得モードで取得したPreΔTや、上記昇温度取得モードを実行した際の環境温度および時刻を装置内のメモリに格納し、本モードを終了する。
図1(b)は、本実施例におけるインク残量を検知する際の工程を図10と比較しながら説明するためのフローチャートである。本実施例においてインク残量検知は、記録装置が記録データを受信するたびに、その動作を実行した直後に行うものとする。
記録装置は記録データを受信すると(ステップS108)、当該記録データに従って、一連の記録動作を実行する(ステップS109)。このとき、記録ヘッドの吐出回数をカウントすることによって、最新のインク残量情報Vも取得しておく。
記録動作が終了し記録媒体が排紙されると、ステップS110に進み、取得した残量情報Vを上述した閾値Low2と比較することによって、インク残量検知実行の可否を判断する。ここでLow2とは、この後の記録動作などの所定の吐出動作を行った場合、充分なインクが残っていない可能性のあるインク残量を示す。このLow2はカートリッジのインク量の設定などに応じて調整することができる。V>Low2の場合、インク残量はインク残量検知を行うタイミングには早いと判断し、そのまま本モードを終了し、記録装置は待機状態となる。一方、V≦Low2の場合、ステップS111に進み、図1(a)のステップS104と同じように、回復部M5000による記録ヘッドに対する吸引回復処理を実行する。この吸引回復動作によって、直前の記録動作で昇温したインクは排除され、PreΔTを取得した際と略同じように、ヒータボードの温度も安定値に降下する。その後、ステップS112へ進み、図18で説明した昇温度取得モードを実行する。
続くステップS113では、ステップS112で得られたΔTを、図1(a)で説明した昇温特性取得工程によって事前にメモリに格納されているPreΔTと比較する。具体的には、ΔT≦PreΔT+αであるか否かを判断する。ここで、αの値は例えば10℃程度とすることも出来るが、この値は「インクがどの程度まで消費されたときにユーザに通知するか」によって調整することが出来る。
ステップS113で、ΔT≦PreΔT+αならば残インク有りと判断し、残量検知工程を終了し記録装置は待機状態となる。一方、ΔT>PreΔT+αならば、残インクは無しと判断し、ステップS114へ進み、ユーザに対しインクが無くなった旨を通知し、インクタンクあるいは記録ヘッドの交換を要請する。更に、ステップS115へ進み、ステップS108で受信した記録データ、すなわちインク無し状態になる直前に記録した画像のデータ、を装置内のメモリに格納する。これは、ステップS109で記録した出力画像に、インクが欠乏したことによる弊害が発生した場合であっても、交換後のインクタンクによって再度記録動作が行える準備をするためである。その後、記録装置は待機状態に入る。
以上説明したように本実施例では、昇温特性検知工程や残量検知工程において、これら工程の中で実行される昇温度取得モードの前工程として、記録ヘッドに対する吸引回復動作を実行する。これにより、直前の記録動作などによって記録ヘッドが昇温してしまっているような状況であっても、記録ヘッドの温度を比較的短時間で安定値に降下させた後に、昇温度の測定を行うことが可能となる。結果、インク残量が充分に存在する場合の昇温度PreΔTの値にも、これと比較する昇温度ΔTの値にも、所定の記録動作に伴う昇温度以外の温度要因が含まれ難くなり、これら2つの値を正当な状態で比較し、精度の高い残量検知を実行することが可能となる。
なお、以上説明した実施例1では、昇温特性取得工程と、インク残量検知工程の両方で、昇温度取得モードを実行する直前に吸引回復動作を実行する内容で説明したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。昇温特性取得工程とインク残量検知工程のどちらか一方でのみ、昇温度取得モードを実行する直前に吸引回復動作を実行するような構成であっても、本発明の効果を得ることは出来る。例えば、より正確な昇温度の検出が望まれる昇温特性取得工程を実行する場合では吸引回復動作を取り入れた工程とし(図1(a))、より頻繁に行われインクの消耗が懸念される残量検知工程では、従来と同様に図10で示した工程を採用してもよい。
図16(a)および(b)は、実施例2における昇温特性を取得する工程およびインク残量検知を実行する工程を、図12および図1(a)および(b)と比較しながら説明するためのフローチャートである。
本実施例では、記録ヘッドに対する吸引回復動作を実行する前段階として、ヒータボードに配備された温度センサ10が検出する記録ヘッドの温度と、記録装置本体に備えられている温度センサ12が検出する環境温度とを取得する。そしてこれら2つの検出温度を比較し、これらの差が15℃以上であるか否かを判断する(ステップS1604あるいはステップS2003)。
ステップS1604あるいはステップS2003で検出温度の差が15℃以上であると判断された場合、ステップS1605あるいはステップS2004へ進み、吸引回復動作を実行する。その後、ステップS1606あるいはステップS2005の昇温度取得モードにてPreΔTあるいはΔTを取得する。一方、ステップS1604あるいはステップS2003で検出温度の差が15度未満であると判断された場合は、吸引回復動作の必要は無いと判断し、ステップS1606あるいはステップS2005へ進む。そして、吸引回復動作を行わない状態で昇温度取得モードを実行し、PreΔTあるいはΔTを取得する。
本発明の課題は、PreΔTやΔTを取得する直前の記録動作などによって、記録ヘッドの温度が昇温して不安定になってしまった場合の不具合を取り除くことである。そして、そのために、吸引回復動作を行うことによって記録ヘッドの温度環境を安定させることが特徴となっている。しかしながら、直前に記録動作が行われた場合でも、記録ヘッドが然程昇温せず、その温度が比較的安定しているような時には、必要以上に吸引回復動作を実行しインクを消費することは好ましくない。
本実施例によれば、ステップS1604やステップS2003のように吸引動作の要否を判断する工程を設けることにより、インクの消費を極力抑えながら、信頼性の高い昇温特性を取得することが可能となる。結果、その後に行うインク残量検知についても、インク残量の有無を正確に判断することが可能となる。
但し、このような、吸引回復動作の要否を判断する工程は必ずしも、昇温特性取得工程と残量検知工程の両方ともに備えられていなくてもよい。より正確な昇温度の値が望まれる昇温特性取得工程では常に吸引回復動作を行うようにしておきながら、より頻繁に行いインクの消耗が懸念される残量検知工程においてのみ、図16(b)で説明したフローチャートに従った残量検知を行ってもよい。また、その反対であってもよい。
なお、本実施例では、ヒータボードに配備された温度センサ10が検出する記録ヘッドの温度と、装置本体に備えられている温度センサ12が検出する環境温度との差が15℃以上であるか否かを判断するようにしたが、温度差の値はこれに限られるものではない。この値は、使用するインクジェット記録ヘッド、記録装置の特性に応じて適切な値が定められればよい。
図17は、本実施例における昇温特性を取得する工程を図11と比較しながら説明するためのフローチャートである。本実施例では、新品あるいは使用途中の記録ヘッドカートリッジ(あるいはインクタンク)が記録装置に新たに装着された際に昇温特性を実行する例を示している。
ステップS1701にて記録ヘッドカートリッジもしくはインクタンクが記録装置に取り付けられると、ステップS1702にて、取り付けられたインクタンクのインク残量情報Vを取得する。このときの残量情報Vは、上述した従来の方法(例えば記録ヘッドの吐出回数および吸引回数のカウント値から推測する方法)によって予め取得され、記録ヘッドカートリッジあるいはインクタンクの記憶手段に格納された情報とする。
続くステップS1703では、取得した残量情報Vを上述した閾値Low1と比較する。V≦Low1の場合、このヘッドカートリッジもしくはインクタンクのインク残量はPreΔTを取得するに充分なインク残量は既に無いと判断する。そして、ステップS1711へ進んでPreΔT取得が不能であること、およびインク残量検知時の昇温度取得モードが実行不能であることをセットする。次にステップS1712へ進んでインクジェット記録装置またはPCなどに残量不明である事を表示しユーザへ通知し、記録装置は待機状態となる。
一方、ステップS1703でV>Low1の場合、ステップS1704に進み、回復部M5000による記録ヘッドに対する吸引回復処理を実行する。具体的には、インク吐出口面にキャップ部材を押し当て、吸引ポンプによってキャップ部材内に負圧を導入することにより、インク吐出口から記録ヘッド内のインクを所定量排出する。
ステップS1704の吸引回復動作工程によって、記録ヘッドの温度は、ステップS1701で装着したインクタンクに収容されているインクと略同等となる。この状態で、ステップS1705へ進み、この段階における記録ヘッドの温度(初期温度ST)を温度センサ10によって取得し、所定の領域に記憶する。
その後、ステップS1706へ進み、図18で説明した昇温度取得モードを実行し、PreΔTを取得する。さらに、ステップS1707へ進み、上記PreΔTや、ステップS1706の昇温度取得モードを実行した際の環境温度および時刻を装置内のメモリに格納する。
続くステップS1708では、ステップS1705で取得した初期温度STと、記録装置本体に取り付けられている温度センサ12によって検出した環境温度ETとを比較し、これら2つの温度の差が10℃以上であるか否かを判断する。10℃未満である場合には、ステップS1707で格納したPreΔTの値は、信頼性があるものとみなし、ステップS1710へジャンプし、本モードを終了する。
一方、ステップS1708において、環境温度ETと初期温度STとの差が10℃以上であると判断された場合は、記録ヘッドの温度が環境温度に馴染んでいないことから、ステップS1707で格納したPreΔTの値は、信頼性に乏しいと判断される。よって、ステップS1709にて、新たにPreΔTを取得する必要がある旨のフラグを立て、本モードを終了する。
記録ヘッドカートリッジあるいはインクタンクを交換した時点において環境温度とインク温度の差が大きい場合には、インク温度が徐々に環境温度に馴染むように変化する傾向がある。このような場合、PreΔTの取得を行うことは出来るが、このときの値は、後に実際にインク残量検知を行うタイミングにおいて有効に機能しないことが懸念される。このような場合であっても、本実施例ではステップS1709でフラグを立てておくことにより、次の記録動作を実行した機会などに、実施例1で説明したような昇温特性取得モードの実行を促すことが出来る。そして、実際にインク残量検知を行う場合のために、更に信頼性の高いPreΔTの取得を次回の機会に取得することが可能となる。
以上説明した実施例では、昇温特性取得工程においてPreΔTを測定する際、PreΔTの値とともにその時点の環境温度や時刻を記録装置のメモリに格納する内容で説明して来た。本実施例は、上述したような昇温特性取得工程を複数回行い、その度に取得したデータを記録装置の異なる領域に格納し、実際に残量検知を行う際には、これら複数の情報の中から最も適切なものを選択可能にする。
図19は、本実施例におけるインク残量を検知する際の工程を図10あるいは図1(b)と比較しながら説明するためのフローチャートである。記録装置は記録データを受信すると(ステップS1900)、当該記録データに従って、一連の記録動作を実行する(ステップS1901)。このとき、記録ヘッドの吐出回数をカウントすることによって、最新のインク残量情報Vも取得しておく。
記録動作が終了し記録媒体が排紙されると、ステップS1902に進み、取得した残量情報Vを上述した閾値Low2と比較する。V>Low2の場合、インク残量はインク残量検知を行うタイミングには早いと判断し、そのまま本モードを終了し、記録装置は待機状態となる。一方、V≦Low2の場合、ステップS1903に進み、上述した実施例と同じように、回復部M5000による記録ヘッドに対する吸引回復処理を実行する。この吸引回復動作によって、直前の記録動作で昇温したインクは排除され、ヒータボードの温度も安定値に降下する。その後、ステップS1904へ進み、図18で説明した昇温度取得モードを実行する。
続くステップS1905では、装置内のメモリに複数のPreΔTが格納されているか否かを確認する。PreΔTの値が1種類しかないと判断した場合、ステップS1909へジャンプする。一方、PreΔTの値が複数存在すると判断した場合は、ステップS1906へ進み、これら複数の値のばらつきをチェックする。具体的には、これら複数のPreΔTの値のばらつきが15℃以内の範囲に収まっているか否かを判断する。
これらばらつきが15℃以内に収まっていると判断した場合は、ステップS1907へ進み、PreΔTを取得した際の時刻が最も現時刻に近いPreΔTの値を、今回の残量検知を実行する際に利用するPreΔTと決定する。
一方、ステップS1906において、複数のPreΔTの値のばらつきが15℃以内に収まっていないと判断した場合は、ステップS1908へ進む。そして、PreΔTを取得した際の環境温度が最も現在の環境温度に近いPreΔTの値を、今回の残量検知を実行する際に利用するPreΔTと決定する。
続くステップS1909では、ステップS1904で得られたΔTを、ステップS1907あるいはステップS1908によって決定されたPreΔTと比較する。具体的には、ΔT≦PreΔT+αであるか否かを判断する。ここで、αの値は例えば10℃程度とすることも出来るが、この値は「インクがどの程度まで消費されたときにユーザに通知するか」によって調整することが出来る。
ステップS1909で、ΔT≦PreΔT+αならば残インク有りと判断し、残量検知工程を終了し記録装置は待機状態となる。一方、ΔT>PreΔT+αならば、残インクは無しと判断し、ステップS1910へ進み、ユーザに対しインクが無くなった旨を通知し、インクタンクあるいは記録ヘッドの交換を要請する。更に、ステップS1911へ進み、ステップS1900で受信した記録データ、すなわちインク無し状態になる直前に記録した画像のデータ、を装置内のメモリに格納する。これは、ステップS1901で記録した出力画像に、インクが欠乏したことによる弊害が発生した場合であっても、交換後のインクタンクによって再度記録動作が行える準備をするためである。その後、記録装置は待機状態に入る。
以上説明したように、本実施例では、予め複数回数の昇温特性取得モードを実行し、複数種類のPreΔTを用意しておきながら、実際に残量検知を行う際には、その時点に最も近いと思われる環境で測定されたPreΔTを選択することが可能となる。これにより、所定の記録動作に伴う昇温度以外の温度要因を、PreΔTとΔTの間でなるべく揃えた状態で比較することが可能となり、精度の高い残量検知を実行することが出来る。
(a)および(b)は、実施例における昇温特性を取得するための工程およびインク残量検知工程を説明するフローチャートである。
本発明の実施形態に適用可能なインクジェット記録装置の要部を説明するための概略構成図である。
本発明で適用可能な記録ヘッドカートリッジの一例を説明するための概観斜視図である。
本発明で適用可能な記録ヘッドカートリッジの別の形態を説明するための概観斜視図である。
記録ヘッドの吐出部の構成を一部拡大して説明するためのインク吐出口側から観察した場合の平面図である。
図5のC−C断面を示す模式図である。
本発明に適用可能なインクジェット記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。
連続的な吐出動作を行った場合のヒータボード上に設けられた温度センサが検出する温度の上昇度を、インクタンク内にインクが残っている量で比較するための図である。
吐出口近傍に存在するインクの実際の温度と、ヒータボード上に搭載された温度センサが検出する温度の誤差を説明するための図である。
実際のインク残量を検知する際に記録装置が行う残量検知工程の例を説明するためのフローチャートである。
記録装置が行う従来の昇温特性取得工程の一例を説明するためのフローチャートである。
通常の記録動作を行った後に昇温特性取得工程を実行する従来の例を示すフローチャートである。
所定の記録動作を行った直後からの待機時間において、ヒータボードの温度が徐々に下がっていく様子を示した図である。
インク残量が僅かである状態において、所定時間待機した後に記録動作を行った際のヒータボードの昇温の様子を、待機時間別に示した図である。
直前の記録動作によって昇温した記録ヘッドに対し、上記吸引動作を実行した場合の、ヒータボードの温度が変化する様子を示す図である。
(a)および(b)は、実施例2における昇温特性を取得する工程およびインク残量検知を実行する工程を説明するためのフローチャートである。
実施例3における昇温特性を取得する工程を説明するためのフローチャートである。
昇温度取得モードの工程を説明するためのフローチャートである。
実施例4におけるインク残量を検知する際の工程を説明するためのフローチャートである。
符号の説明
6 発泡室
7 共通液室
9 インク導入部
10 温度センサ(ダイオードセンサ)
11 ヒータボード
12 温度センサ
57、58 インク吐出口
81、82 電気熱変換体(ヒータ)
100 CPU
101 ROM
102 RAM
103 キャリッジモータ
103A モータドライバ
104 LFモータ
104A モータドライバ
105 モータドライバ
H3002 吐出部
H3003 電気接点
H3004 タブ
H3009 インクタンク
H4001 吐出部
H4900 インクタンク