ところが、この既設スレート屋根をベースにして、新設屋根板を施工するためには、新設屋根板を既設スレート屋根に取り付けるための金具を既設スレート屋根上に装着しなくてはならない。そのために、既設スレート屋根に金具を装着するためのボルト孔等の加工を施す必要がある。しかし、既設スレート屋根を構成する屋根部材の主原料は、アスベストであり、このアスベストが近年、人体に害を与えることが大きな社会問題となっている。前述したように既設スレート屋根に、金具を装着するための、貫通孔を穿孔する作業では、必ず切粉等による粉塵が発生する。この粉塵は、当然アスベストを含み、周囲に飛散し、又は付近の母屋等の鉄骨に溜まる等して、深刻なる環境汚染を発生する。
特に、作業員にとっては、極めて危険な作業環境の中で作業が行わなければならず、その作業着にも密封性のあるものが使用されなければならない。さらに、その既設スレート屋根への加工作業によって生じる粉塵が周囲に飛散しないように、十分なる飛散防御設備を設置しなければならず、大変な時間と手間をかけうることになる。したがって、このような作業は工事費も極めて高いものとなる。さらに、老朽化した既設スレート屋根を改修して新設屋根板を葺成する場合に注意を要する点は他にも沢山ある。たとえば既設スレート屋根は、改修時には、すでに劣化してもろくなって、比較的簡単に割れやすくなっている。このような既設スレート屋根の上に作業員が載って作業を行おうとすると、スレートが簡単に割れ、作業員にとっては極めて危険な作業環境である。また、建築物の内部で作業を行っている作業員も、落下物が当たる危険性がある。
したがって、高所での既設スレート屋根の改修工事は、作業員が既設スレート上に載っても落下しないように、十分な安全対策が講じられなければ工事に着手することができない。この為、既設スレート屋根上に工事用足場を作り、或いはネット張りを行い、且つ既設スレート屋根上を歩行するための歩行床(板)が必要である。その歩行床(板)は、図14に示すように、既設スレート屋根の突出したボルト軸を利用して設置し、その設置された歩行床(板)上にネット張りが行われる。
また、前述したように、建築物の内部で作業を行っているので、作業員及び設備,製造物等に落下物が当たらないようにするために、なるべく部品点数が少ないものであることが好ましい。さらに、屋根板材や壁板材を支持するための部品である受金具は、特許文献1に記載されたものが、従来より使用されているが、このような受金具は構造材に溶接等にて固着することが多く、そのために工程が多くなりがちであった。
このように、既設スレート屋根を残したままの状態で新設屋根を葺成する場合には既設スレート屋根の母屋,胴縁等の構造材及び既設スレート屋根を固定しているフックボルトをなるべく利用している。まず、新設屋根の施工にあたり、仮設足場を組む場合の問題点として、改修工事業者とは別に専門業者がその施工に当たるものであった。そのため、仮設足場を施工する間は本来の新設屋根の改修工事は行うことができず、その分長い工期を必要とせざるを得なくなる。
このような仮設足場は極めて専門的な技術が必要で、改修工事業者が行うには余りにも負担がかかるものである。また、作業者は足場から20〜40cm下にある既設スレート屋根に向い作業することになり、その作業性は非常に劣る。仮設足場の施工及び改修工事を行っている間は、既設スレート屋根上に作業員が載ってしまうこともあり、スレートが割れて建築物内に落下する危険性も十分にあるので、このような危険性を防止するためにも室内側にも防護策が必要となる。次に、ネットを張る場合の問題点としては、前述の仮設足場の施工と同様に改修工事業者とは別の専門業者が行うことになり、前述した仮設足場の施工とネット張り作業により、屋根改修工事の工期は、さらに長くなるものであった。
改修工事において、作業員は、たとえネットがあるとはいえ、スレート上に載ることは極めて危険であるため、ネット上の流れ方向及びその直角方向に歩行床(板)の設置が必要である。そして、その部分の工事が終了すると、設置していた歩行床(板)を取り外し、また次の工事場所に歩行床を設置する必要がある。また、ネット張り作業中又は改修工事中に、スレートに作業員の足が載り、スレートが割れて落下するのを防止するため、建築物の室内側にも防護策が必要となり、この工事もまた、専門業者を必要とする。
また、改修屋根の施工として、旧スレート屋根(既設スレート屋根)から突き出たフックボルトを利用して新設屋根を葺く為に、図14に示す従来技術のように、予め通し下地材に貫通孔を設け、それにフックボルトを通す工法が存在する。しかし、実際には、既設スレート屋根においてフックボルトが規則正しく配列されていないことが多く、通し下地材に予め穿孔された貫通孔とフックボルトの位置が合わず、事前にフックボルト位置を実測し、手作業中心によって貫通孔を設けるが、更にそれだけでは不十分であることが多く、施工現場では貫通孔を大きくして孔位置を拡げる等の追加作業を行うことが多々あり、施工能率が極めて悪いものである。
また、新設屋根は、一般には受金具を通して通し下地材にボルト締めをするものが多いが、この受金具の数は多数であり、現場でこれら受金具をセットするのは大変な時間を要することになる。しかし、この受金具を使用しないと、新設屋根を施工するときにボルト締め時に、新設屋根の山部頂部が僅かに潰れてしまうことがある。また、断面強度を大きくすれば、コストアップになることになる。
特許文献1(特開平8−302916号)には、上記のような欠点が含まれている。すなわち、山部3aの止着具5を利用して吊子体2が形成された帯板6をスレート屋根材上に装着している。このときに、帯板には、前記止着具5のための穴6aが形成されているが、この穴6aのピッチと、前記止着具5の装着ピッチが現場にて一致しないことが多い。しかも、このような止着具5,5,…は、大面積の屋根には多数存在することが多く、ピッチの不一致による穴6aの修正作業は大変な追加工事となり、施工効率が低下するものであった。本発明が解決しようとする課題(技術的課題又は目的)は、屋根改修工事において、既設スレート屋根をそのままにするとともに、前記既設スレート屋根には穿孔又は切断等の加工による切粉の飛散をまったく抑えたり又はその飛散を極めて微々たるものとすることができ、しかも仮設足場,安全ネット張り等の段取施工を最小限として改修屋根の施工を簡易且つ迅速に行うことを実現することである。
そこで発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明は、断面波形状の既設スレート屋根と、断面略門形状で長手方向に沿って連続する屋根板受部と,該屋根板受部の幅方向一方側下端箇所に形成された略平坦状の載置部と,前記屋根板受部の幅方向他方側下端箇所に形成された被係止部とからなる通し下地材と、前記被係止部に係止する係止部が形成され,且つ前記既設スレート屋根を既設構造材に固定する既設フックボルトのボルト軸部が貫通すると共に前後方向に沿って形成された取付長孔を有する取付ピースと、該取付ピースを固定する略筒形状で且つ直径方向の大きさに比較して軸方向に長く形成された筒状締付ナットと、前記屋根板受部に葺成される新設屋根板とからなり、既設スレート屋根上に通し下地材が載置され、該通し下地材の被係止部に前記取付ピースの係止部が係止されるとともに前記取付ピースは、前記取付長孔に前記ボルト軸部が貫通されると共に、前記既設スレート屋根の表面から突出したボルト軸部の少なくとも半分以上の長さを被覆して、前記取付ピースが前記筒状締付ナットにて前記既設スレート屋根に固定され、且つ前記ボルト軸部の先端は前記筒状締付ナットの上端から僅かに突出されるものとし、前記筒状締付ナットの使用不能箇所では、前記取付ピースは前記既設スレート屋根及び前記既設構造材を直接穿孔且つ螺子込みができるドリルビスにて前記既設構造材に固着され、これが順次繰り返され、前記屋根板受部に新設屋根板が葺成されてなる改修屋根としたことにより、上記課題を解決した。
次に、請求項2の発明を、請求項1において、幅方向の両端側に被係合部が形成された渡し板材が具備され、該渡し板材の一方側の被係合部が前記通し下地材間の載置部先端箇所に形成された係合部に係合され、前記渡し板材の他方側の被係合部が前記取付ピースに形成された係合部に係合され、前記渡し板材が長手方向に摺動自在且つ撤去可能に装着されてなる改修屋根としたことにより、上記課題を解決した。請求項3の発明を、請求項1又は2において、前記新設屋根を構成する新設屋根板は山形部が所定間隔に連続する折板屋根板とし、その隣接する折板屋根板の山形部同士が重合連結され、前記山形部の頂片箇所と通し下地材とが固着具を介して固定されてなる改修屋根としたことにより、上記課題を解決した。
次に、請求項4の発明を、既設スレート屋根の弧状山形部の長手方向に通し下地材の長手方向を直交させて載置し、係止部と前後方向に沿って取付長孔を有する取付ピースの前記係止部を前記通し下地材の被係止部に係止させつつ、前記取付ピースを前記既設スレート屋根の弧状山形部箇所から突出する既設フックボルトのボルト軸部を前記取付ピースの取付長孔に貫通させて、前記ボルト軸部に円筒状で且つ直径方向の大きさに比較して軸方向に長く形成された筒状締付ナットを螺合して前記既設スレート屋根の弧状山形部の表面から突出した前記ボルト軸部の少なくとも略半分以上の長さを被覆しつつ、取付ピースを締付固定し、且つ前記ボルト軸部の先端は前記筒状締付ナットの上端から僅かに突出されるものとし、前記筒状締付ナットの使用不能箇所では、前記既設スレート屋根及び前記既設構造材を直接穿孔且つ螺子込みができるドリルビスにて前記取付ピースを前記既設スレート屋根上に締付固定し、前記通し下地材を既設スレート屋根に固定し、前記通し下地材の長手方向に沿って形成した屋根板受部に直交するようにして新設屋根板を配置固定して新設屋根を葺成してなる改修屋根の改修工法としたことにより、上記課題を解決した。
請求項5の発明を、請求項4において、隣接する通し下地材間に渡し板材を配置し、該通し下地材の幅方向一端側を前記通し下地材の係合部に係合し、前記通し下地材の他端側を前記既設スレート屋根の既設フックボルト箇所に固定する取付ピースの係止部に係合させ、前記渡し板材を前記通し下地材の長手方向に沿って移動自在とし、前記渡し板材を新設屋根板の葺成方向に沿って移動させ、新設屋根の葺成完了に伴って撤去してなる改修屋根の改修工法としたことにより、上記課題を解決した。
請求項1の発明によれば、本発明における取付ピースは筒状締付ナットにより既設フックボルトのボルト軸部によって固定されるもので、締め付け作業時では、前記ボルト軸部は、その筒状締付ナットにより締付力がボルト軸部の突出部分全体に亘って均一に締め付けが行われるボルト軸部5aが保護される。これによって、締付作業時にボルト軸部を誤って切断することを防止できるものである。また、足場、ネット等を必要とせずに、工事現場にてほとんど加工作業をすることなく、既設スレート屋根に新設屋根を簡易且つ迅速に葺成することができる。さらに、前記締付ナットの使用不能箇所では、前記取付ピースはビスにて前記既設構造材に固着されることにより、既設フックボルトが腐食して使用できない箇所や、又は既設フックボルトが長い年月に亘って腐食且つ脱落した部分であっても、前記通し下地材を既設構造材に固定することができる。
請求項2の発明によれば、新設屋根の施工時においては、前記渡し板材が作業員のための作業用通路としたり、或いは道具のストックヤード(置き場所)にすることができる。請求項3の発明によれば、新設屋根の施工をより一層簡易且つ迅速に行うことができる。請求項4の発明によれば、施工作業を極めて効率的に行うことができる。さらに、前記締付ナットの使用不能箇所では、前記打込みピースはビスにて前記既設構造材に固着されることにより、既設フックボルトが腐食して使用できない箇所や、又は既設フックボルトが長い年月に亘って腐食且つ脱落した部分であっても、前記通し下地材を既設構造材に固定することができる。請求項5の発明によれば、より一層作業の安全性を確保することができるものである。
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、改修屋根の構造を説明する。図1乃至図3は、本発明における改修屋根の構造を示している。既設スレート屋根Aは、スレート等でその断面形状が、図2に示すように、略サインカーブ状の波形に形成されており、実際には複数のスレート屋根材A1 ,A1 ,…より構成されている。ここで、前記既設スレート屋根Aは、その高さ方向の中央より上方側を弧状山形部1とし、また下方側を弧状谷部2と称する。その既設スレート屋根Aは、図2に示すように、弧状谷部2箇所が母屋等の既設構造材4上に固定されたフックボルト5,5,…にて固定されている。
前記既設構造材4は、具体的には、図1,図3等に示すように、アングル鋼等の略「L」字形状の形鋼材が使用されているが、その他に断面略「C」字形状のリップ溝形鋼等が使用されている。そして、フックボルト5は、図3に示すように、略J字形状であり、ボルト軸部5a,フック部5b及び既設ナット5cから構成されている。そして、アングル形鋼等とした既設構造材4の下縁箇所に前記フック部5bが引掛けられ、ボルト軸部5aの軸上端箇所が前記既設スレート屋根Aの弧状山形部1の頂部を貫通し、該弧状山形部1の頂部側から前記既設ナット5cにより締め付けられて、前記スレート屋根材A1 が既設構造材4に固定される。
次に、通し下地材Bは、図1乃至図3等に示すように、前記既設スレート屋根Aの上方に新設屋根Dを葺成するための支持部材としての役目をなす。その通し下地材Bは、金属薄板材から形成され、その長手方向に沿って長尺となる部材であり、主に載置部6と,被係止部7,屋根板受部8及び係合部9とから構成されている。その屋根板受部8は、上方に膨出形成され、且つ断面略門形且つ長手方向に連続するものであり、後述する新設屋根Dを構成する新設屋根板D1 を支持する母屋的な役目をなす部位である。前記屋根板受部8の長手方向に直交する方向の断面形状は、略台形門形状に形成され、その頂部8aの幅方向一方の立上り側面8bが略垂直状であり、前記頂部8aの幅方向他方の立上り側面8bは対向する前記立上り側面8bに対して下方に向かうに従い拡開するように傾斜状に形成され、断面係数が大きくなるような形状としている。
前記屋根板受部8の一方側の立上り側面8bの下端より水平方向に載置部6が連続形成され、他方側の立上り側面8bの下端から水平方向に被係止部7が形成されている。前記載置部6は、略平坦状に形成されたものであり、後述する新設屋根Dの葺成作業を行う場合に、足の踏み台の役目や、作業通路としての役目をなすことがある。また、前記載置部6の外端には、図4に示すように、係合部9が形成されており、後述する渡し板材10の被係合部と係合する部位となっている。その係合部9の形状は、前記載置部6の外端箇所より上方に断面略円弧状に折り返し形成された部位である。
前記被係止部7は、前記立上り側面8bの下端より水平方向に平坦状に形成された下部面7aと、被係止突起条7bとから構成される。前記下部面7aは、前記載置部6と略同一面となる位置に形成され、被係止突起条7bはその下部面7aより上方に向かって膨出形成されたものである。その被係止突起条7bは、具体的には断面略平行四辺形状に形成されたものであり、被係止頂部7b1 と被係止立上り面7b2 及び端部傾斜面7b3 から構成され、その被係止立上り面7b2 は、図4に示すように、前記屋根板受部8側に向かって傾斜するように形成されている。この被係止部7は、後述する取付ピースCの係止部12によって係止される部位である。
その通し下地材Bは、その長手方向が前記既設スレート屋根Aの各弧状山形部1の長手方向と直交(略直交も含む)するようにして、既設スレート屋根A上に配置される。このとき、通し下地材Bの長手方向は、既設スレート屋根Aの複数の弧状山形部1,1,…に亘り載置される。このようにして、複数の通し下地材B,B,…は、前記既設スレート屋根A上に所定間隔をおいて並設されるものである。
次に、取付ピースCは、図8に示すように、取付基部11の長手方向一端側に係止部12が形成され、長手方向他端側に係合部13が形成されている。前記取付基部11は、略平板状に形成されており、平面より見てその中央箇所には、取付長孔14が形成されている。該取付長孔14は、前記既設スレート屋根Aの既設フックボルト5の先端が貫通する部位であり、取付基部11の長手方向に沿って延長する長孔状に形成されることが好ましく、取付ピースCの長手方向に沿って位置の微調整ができるようになっている。
また、取付基部11及び係止部12の幅方向両側箇所には、補強用リブ15aが形成され、さらに幅方向両端には、補強用立上り部15bが形成されている。前記補強用リブ15aは、断面略半円状に形成されたものであり取付基部11の幅方向両側に、2本形成されている。また補強用立上り部15bは、取付基部11及び係止部12に亘って幅方向両端から上方に向かって屈曲形成されたものである。前記係止部12は、前記取付基部11の長手方向の端部より略円弧状の係止段片12aが屈曲形成され、その外方に向かって平坦状の係止上面12bが形成され、該係止上面12bの外端から下向き且つ前記取付基部11側に向かって係止端縁12cが形成されている。そして、前記係止段片12a,係止上面12b及び係止端縁12cによって断面略平行四辺形状に形成され、前記通し下地材Bの被係止部7を覆うように係止することができる形状となっている。
さらに、前記係合部13は、前記取付基部11の長手方向端部から一段下がるようにして係合段部13aが形成され、該係合段部13aの下端から係合底面13bが形成され、該係合底面13bから上方に係合立上り片13cが形成されている。さらに、該係合底面13bの上端より内方側に向かって水平状に係合端縁13dが形成されている。該係合部13には、後述する渡し板材10の被係合部10bが係合する部位となっている。
次に、渡し板材10は、前記既設スレート屋根A上に並設された通し下地材Bに隣接して配置されるものである。その渡し板材10は、図7(B)に示すように、渡し主板10aの幅方向両側に前記通し下地材Bの載置部6の先端に形成された係合部に係合することができる被係合部10b,10bが形成されている。また、前記渡し主板10aには、長手方向に沿って複数の補強部10c,10c,…が形成されて補強され、渡し板材10の力学的強度を向上させるものである。その補強部10cは、断面略逆門形状に形成され、渡し板材10の幅方向寸法に応じて適正な数だけ形成される。
前記両被係合部10b,10bは、断面略コ字形状及び逆コ字形状に形成され、前記通し下地材Bの載置部6の先端に形成された係合部9と、前記取付ピースCに形成された係合部13とにそれぞれ係合連結される。なお、通し下地材Bと渡し板材10とのその他の係合構造としては、上記タイプに限定されるものではなく、馳折り係合タイプ,嵌合タイプ,差込み係合タイプ等の種々の形状が存在する。
また、その渡し板材10は、前記通し下地材Bに対して長手方向に沿って移動自在となっており、且つ新設屋根Dの葺成が完了するとともに既設スレート屋根A及び新設屋根Dの施工完了箇所から随時,隣の新たな新設屋根施工部位へ移動させるものである。この移動自在となる構造では、渡し板材10の両被係合部10b,10bと前記通し下地材Bの係合部9及び取付ピースCの係合部13との係合箇所で相互に摺動することができるように接触している。そして、前記通し下地材B上に施工される新設屋根Dの葺成方向とともに渡し板材10が移動することができるようにしたものである。このような構造としているので、新設屋根Dの葺成作業の最終位置で、その渡し板材10が通し下地材B及び取付ピースCから取り外される。すなわち、新設屋根Dの葺成完了時には、渡し板材10は、改修屋根に存在しない。しかし、この渡し板材10が新設屋根Dの葺成完了とともに取り外されず、そのまま新設屋根Dとともに残しておいてもかまわない。
次に、新設屋根Dは、複数の新設屋根板D1 ,D1 ,…から構成されている。ここで、新設屋根とは、改修屋根において既設スレート屋根Aに対して新たに施工される屋根のことをいう。その新設屋根板D1 は、薄板金属材から形成されたものであり、山形部16と底部17とからなり、この山形部16と底部17とが交互に連続している。そして、隣接する新設屋根板D1 ,D1 の山形部16同士を重合して連結する重合タイプとしたものである。その山形部16の断面形状は、略台形状に形成されたものであり、頂片16aの幅方向両側より傾斜片16b,16bが形成されている。具体的には、一つの新設屋根板D1 には、4個の山形部16,16,…が形成され、一つの山形部16の底部17からの高さは、約20mm乃至30mm程度であり、好ましくは25mmである。
また、頂片16aの幅方向寸法は、25mm乃至30mm程度であり、好ましくは28mmである。さらに、傾斜片16b,16bの立上り角度θ(すなわち、台形状とした山形部16の両傾斜片16b,16bの下端箇所における両内角)は、55度乃至60度程度である。このように新設屋根板D1 は、山形部16が従来のこの種の折板屋根板の山形部に比較して前記両傾斜片16b,16bの立上り角度θが大きく形成され、且つ前記頂片16aの幅方向寸法が山形部16の高さ寸法よりも大きく形成されたものである。すなわち、山形部16において、傾斜片16bの立上り角度θを約50度以上として十分に確保するとともに、(頂片16aの幅方向寸法)>(山形部16の高さ寸法)なる関係とする。この条件に応じた新設屋根板D1 を使用されることが好ましい。
これに対して、従来タイプの屋根板材は、(山高寸法38mm),(山幅寸法35mm),(山形部の両辺立上り角度45度)である。このような従来タイプの屋根板材に対して本発明における新設屋根板D1 の山形部16は、座屈荷重が15%向上している。これによって本発明における新設屋根板D1 は、金属板の肉厚を薄くすることが可能となり、その板厚は0.5mm,0.6mm程度にすることができるものである。なお、その新設屋根板D1 は、必ずしも上記条件を満たさなければならないものではなく、多少の条件が満たされていなくても構わない。これによって、山形部16は、前記通し下地材Bの屋根板受部8に受金具等の支持部材を一切,使用することなく、直接,ドリルビス等の固着具18を介して固定することができる。そして、その重合された山形部16,16同士の連結箇所及び単独の山形部16箇所と前記通し下地材Bとの固着具18による固定箇所では、座屈荷重等の種々の荷重に十分に対応することができる極めて強固な構造とし、且つ十分な耐久強度を得ることができるものである。
そして、隣接する新設屋根板D1 ,D1 の最も外側に位置する山形部16,16同士が重合されて、隣接する新設屋根板D1 ,D1 同士が幅方向に連結される。その重合連結された山形部16,16及びその他の山形部16,16,…がドリルビス等の固着具18にて前記頂片16aを貫通して前記通し下地材Bの屋根板受部8にねじ込まれ、山形部16,16,…が屋根板受部8に固定されることにより新設屋根板D1 が屋根板受部8上に施工されてゆく。前記固着具18は、前述したようにドリルビスとしたものであるが、その他に鉄板ビス,タッピングビス等のように相手側に内螺子を形成しつつ螺子止めできるタイプのものや、ボルト等が固着具18として使用されるものである。
また、重合する山形部16,16同士の上側に位置する山形部16の外側傾斜片には外方に断面略円弧状に膨出する膨出条16cが形成されている。該膨出条16cは、重合する山形部16,16同士の下側に位置する山形部16の傾斜片16bとの間に空隙部Sを構成するように構成され、毛管現象による雨水を遮断し、雨水の浸入を防止することができる。また、新設屋根板D1 の他のタイプとしては、馳締タイプ,山形部16,16同士の連結に嵌合キャップ材が使用されるものである。
次に、改修屋根の施工について、図4および図9乃至図12に基づいて説明する。まず、図4(A),図9(A)に示すように、既設スレート屋根Aの弧状山形部1の長手方向に、通し下地材Bの長手方向を直交させて、その載置部6が弧状山形部1の頂部に当接するようにして載置する。次に、図4に示すように、取付ピースCの係止部12を前記通し下地材Bの被係止部7に係止しつつ、その取付ピースCを前記フックボルト5,5,…のボルト軸部5a,5a,…箇所に取付ピースCを配置し、その取付長孔14にボルト軸部5aを貫通させ、筒状締付ナット19,19,…で締付固定する。このようにして、取付ピースCを前記通し下地材Bの長手方向に沿って、既設の既設フックボルト5,5,…の適宜の間隔にしたがって配置固定し、通し下地材Bを既設スレート屋根A上に固定する。また、前記既設フックボルト5が腐食していたり、又は脱落して、前記筒状締付ナット19を使用して取付ピースCを既設スレート屋根A上に装着することができないような、筒状締付ナット19の使用不能箇所では、別部材のビス20によって前記取付ピースCが既設スレート屋根A上に装着される。具体的には、前記既設構造材4が存在する位置に合わせて前記既設スレート屋根Aに小孔を穿孔する。そして、前記取付ピースCの係止部12を前記通し下地材Bの被係止部7に係止しつつ、その取付ピースCの取付長孔14と前記小孔を位置合わせして、前記取付長孔14と既設スレート屋根Aに穿孔した小孔に前記ビス20の螺子軸部を挿通させ、前記既設構造材4に直接、ねじ込み締め付けてゆく。このようにして、既設フックボルト5が使用できな箇所における取付ピースCの既設スレート屋根A上への装着を行うものである〔図1,図2,図3(C)等参照〕。その別部材としたビス20は、ドリルビス等が使用され、このドリルビスによって、既設スレート屋根A及び既設構造材4を直接穿孔且つ螺子込みができるものである。また、前記取付ピースCの取付長孔14は、前後方向に延びる長孔とすることにより、その取付長孔14によって、ビス20の貫通位置を適宜の範囲で選択することができ、ビス20の螺子先端が既設構造材4のフランジ片の幅方向の中央位置にねじ込むことができ、最も安定した取付ピースCの装着にすることができる。
その筒状締付ナット19は、図1,図2等に示すように、略筒状に形成されたものであり、その直径方向の大きさに比較して軸方向に長く形成されたものである。具体的には、前記フックボルト5の既設スレート屋根Aの弧状山形部1の表面から突出したボルト軸部5aの略半分以上の長さを被覆することができるものである。また、その筒状締付ナット19は、好ましくは、前記弧状山形部1の表面から突出したボルト軸部5aの略全体を被覆することである。このような、筒状締付ナット19を使用することで、前記弧状山形部1の表面から突出したボルト軸部5aを締め付けるときに、そのボルト軸部5aは、軸方向全体に亘って、均一な締付力がかかり、締付力がかかり過ぎてボルト軸部5aが切断されることを防止することができるものである。
次に、前記既設スレート屋根A上に固定された通し下地材Bの載置部6の先端に形成された係合部9に渡し板材10の一方側の被係合部10bが係合されつつ、渡し板材10が既設スレート屋根A上に配置される〔図5,図9(B)参照〕。このとき、被係合部10bは載置部6のいずれの位置に配置しておいてもかまわないが、被係合部10bが屋根板受部8に近接又は当接する状態に配置しておくことが好ましい。そして、図5,図10(A)に示すように、次位の既設フックボルト5箇所に、新たな通し下地材Bを取付ピースCにて固定する。このときには、渡し板材10の他方側の被係合部10bは、取付ピースCの係合部13には届いておらず、まだ係合していない状態である。
次いで、図10(B)に示すように、前記渡し板材10を既設スレート屋根Aの弧状山形部1の長手方向(通し下地材Bの長手方向に直交する方向でもある)に沿って少しずらすように移動させ、図10(C)に示すように、前記渡し板材10の他方側の被係合部10b箇所を上方に少し持ち上げながら前記取付ピースCの係合部13に係合させる。このようにして、前記渡し板材10は、図5に示すように、長手方向(前記既設スレート屋根Aの弧状山形部1に直交する方向)に沿って摺動状態で移動自在となっている。図1,図3,図5は、渡し板材10が通し下地材Bと取付ピースCによって配置された状態を示している。これを図10(A),(B),図11(A)等に示すように、順次、繰り返して既設スレート屋根A上に通し下地材B及び渡し板材10を交互に複数並設する。前記通し下地材B及び渡し板材10は、既設スレート屋根Aの弧状山形部1の長手方向に沿って所定間隔又は等間隔に配置されることになる。なお、図11(A)に示されるように、通し下地材B及び渡し板材10には後述する新設屋根板D1 の施工の位置決めのために割付墨が記されることがある。
次に、図4に示すように、並設した通し下地材B,B,…上に新設屋根板D1 を葺成する。新設屋根板D1 は、その長手方向が前記通し下地材Bの屋根板受部8の長手方向に対して直交するように配置されるものであって、その新設屋根板D1 の葺成方向は、屋根板受部8の長手方向に沿って行われるものである。前記渡し板材10は、前記通し下地材Bの長手方向に沿って移動自在とし、新設屋根Dの葺成方向にしたがって、前記渡し板材10を移動させることができる。すなわち、新設屋根Dの所定の施工が完了した領域から、図12(B)に示す矢印方向に前記渡し板材10を引き出すようにして、該渡し板材10を新たな未施工領域に配置させるものである。このとき、既設スレート屋根A上に予め通し下地材Bを渡し板材10の移動方向に設置しておく。このようにして、各渡し板材10,10,…を次の新設屋根Dの施工領域に移動させてゆくものであり、所定の範囲に新設屋根板D1 が配置されてゆくとともに、渡し板材10も移動してゆくことになる。
この渡し板材10と前記通し下地材Bの載置部6は、作業員の歩行用通路として利用する等、種々の作業ができる。また前記渡し板材10は、道具のストックヤード(置き場)として利用できる。これらにより、作業効率を向上させることができる。また、新設屋根Dの葺成完了にともない、渡し板材10は撤去され、他の改修屋根工事で繰り返し利用することができる。
図13は、改修屋根の施工において、新設屋根Dの施工完了箇所から前記渡し板材10が移動することにより撤去された状態を示すものである。該渡し板材10は、前述したように通し下地材B及び取付ピースCに対して摺動させ、新設屋根Dの完了した箇所から随時移動されてゆくものであり、改修屋根の全体の施工が完了することによって撤去されてゆくものである。また、図13は、改修屋根の施工において、前記渡し板材10を使用しないものである。この場合には、通し下地材Bの載置部6は、通常より長く形成され、隣接する通し下地材B,Bとの間隔を狭くするものである。また、ここで使用される通し下地材Bでは、2つの屋根板受部8,8が平行に形成されたものである。
本発明によって、足場、ネット等を必要とせずに、既設スレート屋根Aに新設屋根Dを葺成することができ、既設スレート屋根Aの既設フックボルト5の配列ピッチ寸法がたとえ不揃いであっても、現場にて十分に対応することができ、引いては特別な熟練を要することがない等の効果を有する。すなわち、通し下地材Bを既設スレート屋根A上に取付ピースCを介して固定するものであり、既設スレート屋根Aのスレート屋根材A1 を既設構造材4に固定するための既設フックボルト5のピッチ寸法が不揃いであったとしても、このようなことに係わりなく、取付ピースCのみを既設スレート屋根Aの既設フックボルト5を介して固定し、取付ピースCの係止部12と、通し下地材Bの被係止部7との係止によってのみ、前記通し下地材Bが既設スレート屋根A上に固定される構造としたものである。したがって、たとえ前記フックボルト5がどのようなピッチ寸法であろうとも、また不揃いであったとしても、通し下地材Bを既設スレート屋根Aに簡易且つ迅速に固定することができる。
このように、フックボルト5が貫通する取付長孔14が形成された取付ピースCが構成部材として付加されていることにより、前記通し下地材B側には、現場の既設フックボルト5のピッチ寸法に対応した貫通孔を穿孔することなく、該フックボルト5を利用し、取付ピースCによって通し下地材Bを固定することができるものであり、この改修屋根の施工に熟練した技術や、熟練した作業員を必要としないものであり、ひいては低価格にて施工することができる。
また、新設屋根Dの施工時においては、前記渡し板材10を作業員のための作業用通路としたり、或いは道具のストックヤード(置き場所)にすることができる。すなわち、渡し板材10を両通し下地材B,Bに長手方向に移動自在に載置することで、両通し下地材B,B間を往来する場合に作業員の安全を確保したり、或いは道具類の落下をその渡し板材10にて受け止め、既設スレート屋根Aを損傷することを防止できる。
さらに、その渡し板材10を両通し下地材B,Bの長手方向に沿って移動自在であるため、新設屋根板D1 ,D1 を葺成作業にともなって移動させることで、作業の安全を図り、且つ作業効率を向上させることができる。また、渡し板材10を設けることにより、既設スレート屋根A上の不安定な空きスペースも少なくすることができる。さらに新設屋根Dが葺成されて改修屋根の施工が完了した後には、前記渡し板材10は、撤去するものであり、渡し板材10を別の改修屋根工事にて何度でも繰り返し使用することができるものである。
次に前記渡し板材10には長手方向に沿って略溝状の補強部10c,10c,…が形成されることによって、渡し板材10の断面係数を大きくし、力学的強度を向上させることができる。また、補強部10c,10c,…が形成されることにより、渡し板材10の板厚を薄くし、軽量化を実現することができる。具体的には、渡し板材10の板厚は、0.5mmとすることができ、軽量化を実現でき、作業員の負担を減少させることができる。
また、新設屋根板D1 において、その山形部16の両傾斜片16b,16bの立上り角度θが大きく形成され、且つ前記頂片16aの幅方向寸法が山形部16の高さ寸法よりも大きく形成されたものとする。すなわち、山形部16において、傾斜片16bの立上り角度θを約50度以上とし、且つ(頂片16aの幅方向寸法)>(山形部16の高さ寸法)なる関係とする。これによって、新設屋根板D1 は、力学的強度が大きくなり、前記通し下地材Bの屋根板受部8上に施工するときに、山形部16の頂片16a箇所と通し下地材Bとをドリルビス等の固着具18を介して固定することで、受金具等の支持具を設けなくとも十分に耐久性のあるものにできる。
次に、本発明における工法によって、特別な熟練技術を要することがなく、また足場、ネット張り等を必要とせずに、既設スレート屋根Aに新設屋根Dを葺成することができる。また、その作業も簡易且つ迅速にでき、作業効率を向上させることができる。次に、渡し板材10を新設屋根Dの葺成方向とともに、移動させることで、葺成作業をより一層効率的にできる。すなわち、新設屋根Dの葺成方向に伴って、渡し板材10が移動できるので、その渡し板材10を介して隣接する通し下地材B,B間を往来でき、またその渡し板材10上に道具等を置いておくことができるので、葺成作業を効率的にすることができるとともに、作業員の安全性の確保、及び道具類等の落下防止ができるものである。新設屋根Dを折板屋根とした場合に好適であり、折板屋根の葺成を極めて効率的に行うことができる。また、通し下地材Bは、弧状山形部1箇所から突出するフックボルト5によって、既設スレート屋根A上に極めて強固に固定することができ、ひいては新設屋根板D1 を強固に支持することができるものである。