JP5030227B2 - 表面改質アルミナ、及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、層状構造を有する複層アルミナ焼結体、その製造方法及び該アルミナ部材に関するものであり、更に詳しくは、部材の表面層は、粒径の小さな等軸晶の結晶からなる耐摩耗層、あるいは粒径の著しく大きい耐食層を、内部は、大きな結晶粒から構成される高破壊靱性層の少なくとも2層構造を有する複層アルミナ焼結体、その製造方法及び該アルミナ部材に関するものである。本発明は、例えば、耐摩耗性と高い破壊靱性が要求される切削工具、機械の摺動部品、メカニカルシール、金型、粉砕機部品などの構造材料や、高い耐食性の要求される半導体製造装置の部品などとして有用な複層アルミナ焼結体及び該アルミナ部材を提供するものである。
アルミナは、化学的に安定で、優れた硬さと適度な機械的強度を有しており、かつ資源が豊富で安価であるとともに、他の構造用セラミックスと比べて、耐摩耗性、耐食性に優れている。一方、アルミナは、生体毒性が無く、食品工業用機械部材、人工関節などの生体材料としても問題がない。また、アルミナは、極めて安定な化合物であるため、半導体製造用機械部品など、極端に活性不純物を嫌う用途にも使用可能である。更に、窯業などの製造機械部品としても、アルミナが若干混入しても着色等の欠陥の原因とならないため、使用することができる。
これらの理由により、アルミナは、多種の耐食、耐摩耗材料として広く使用されている。しかし、アルミナ焼結体は、材料の信頼性の指標である破壊靱性が劣るため、大きな衝撃の加わる部材や高い信頼性を要求される部材には、耐摩耗性は、アルミナよりも劣るものの、窒化ケイ素や酸化ジルコニウムなどの構造用セラミックスが使用されてきている。アルミナにおいても、結晶粒を大きく成長させると破壊靱性は向上するが、耐摩耗性、強度が劣化するため、目的に合致するような結晶粒径に調整されることが求められる。
アルミナ焼結体の耐摩耗性を更に向上させる手段として、先行技術文献には、焼結体全体に添加物を加えた材料が報告されている(例えば、特許文献1−3)が、これらは、耐摩耗性に主眼を置いたものであり、材料の信頼性の指標である破壊靱性を考慮していない。
一方、破壊靱性の向上を目的とし、先行技術文献には、焼結体の微細組織を制御した材料が報告されている(例えば、特許文献4−9)。また、異常粒成長抑制の目的で、市販の多くのアルミナ焼結体に酸化マグネシウムが添加されているが、逆に、マグネシウム無添加で異常粒を均一に生成させた焼結体は、強度は低いが、破壊靱性が大幅に向上し、欠陥許容性の向上のみならず、加工の際の欠け、チッピングが減少することが知られている(非特許文献1)。
しかし、これらの材料は、アスペクト比が大きく、かつ粒径の比較的大きな結晶粒から構成される組織を特徴としているため、比較的高い温度での焼結が必要となり、耐摩耗性が悪化する。また、耐摩耗性と破壊靱性の両立を目指した材料として、アルミナ焼結体の表面から周期律表の3a、4a、5a、6a族元素、Fe、Ni、Co、Siなどの元素を拡散させた材料(特許文献10)、Mgを拡散させた材料(特許文献11)、焼結体全体に鉄等を添加し、雰囲気制御下での熱処理により、表面改質層を形成した材料(特許文献12−13)などが知られている。
また、表面層と内部層で異なる酸化物を添加した粉末を積層し、同時に焼結する方法(特許文献14)が知られている。しかし、これらは、表面層の厚さが過大であったり、改質効果が十分でないことや、また、表面改質処理の工程数の増加や高価な雰囲気制御を必要とするなどの問題点を有する。このように、アルミナセラミックスは、優れた耐摩耗性と適当な機械的性質を有するため、耐摩耗材料や工具に用いられているが、一方、破壊靱性が低いため、欠けやすい欠点を有する。焼成温度を高めて結晶粒を成長させると、破壊靱性は向上するが、耐摩耗性、強度が劣化するため、目的に合致するような結晶粒径に調整され、耐摩耗性と破壊靱性の高度な両立は不可能であった。アルミナ焼結体は、構造用セラミックスとしては比較的安価な材料であるため、当技術分野においては、簡便、かつ安価な方法により作製できる、耐摩耗性と破壊靱性を同時に満足する構造部材の開発が強く求められていた。
特開平7−206514号公報 特開平7−237961号公報 特開2001−302336号公報 特開平7−257963号公報 特開平7−277814号公報 特開平10−158055号公報 特開平11−071168号公報 特開平11−1365号公報 特開2001−322865号公報 特開平6−16468号公報 特開2004−307239号公報 特開平11−157962号公報 特開2001−316171号公報 特開2004−026513号公報 Y.Yoshizawa et.al.,J.Ceram.Soc.Jpn.,108(2000)558
このような状況下にあって、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を抜本的に解決することを可能とする新しいアルミナ部材及びその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねる過程で、部材の表面層と内部層に対する要求特性の違いに着目し、耐摩耗性や強度が要求される表面層には、微細な結晶粒から構成される微細組織、もしくは耐食性が要求される表面層には、耐食性を害する結晶粒界を僅かしか含まない粗大粒組織を有し、内部層には、高い破壊靱性が得られる粒径の比較的大きな結晶粒から構成される微細組織を有する複層アルミナ部材の開発を、種々試みた結果、アルミナ成形体、もしくは仮焼結体の表面の改質したい部分にシリコンを含有する溶液を塗布又は含浸させた後、通常の焼結を行うという極めて簡便な操作のみで、表面層の結晶粒径を大幅に変化させた複層アルミナ焼結体を製造することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、安価で耐摩耗性、あるいは耐食性と破壊靱性を高いレベルで両立した複層アルミナ焼結体、その製造方法及び該アルミナ部材を提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)アルミナ粉末成形体、あるいはその仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことで製造されたアルミナ焼結体であって、焼結体の表面層にシリコンを含有し、内部層と構成する結晶相が同一で、平均結晶粒径が30%以上異なる表面層と内部層の層を有することを特徴とする複層アルミナ焼結体。
(2)アルミナ焼結体の表面の少なくとも二面の面が表面層と内部層の層状構造を有する、前記(1)に記載の複層アルミナ焼結体。
(3)乾式のピン・オン・ディスク法で測定される比摩耗量が、1×10−9mm/Nより少ない高耐摩耗性を有する表面層と、破壊靱性が4MPa・m1/2より高い内部層の少なくとも2層からなる、前記(1)に記載の複層アルミナ焼結体。
(4)焼結体の破面観察において、表面層と内部層の中間に少なくとも50%が劈開破壊を示す中間層が存在する、前記(1)に記載の複層アルミナ焼結体。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の複層アルミナ焼結体を構成要素として含むことを特徴とするアルミナ部材。
(6)アルミナ部材が、切削工具、機械の摺動部品、メカニカルシール、金型、粉砕機部品、又は高耐食性構造部材である、前記(5)に記載のアルミナ部材。
(7)アルミナ粉末成形体、あるいはその仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことにより、焼結体の表面層にシリコンを含有し、内部層と構成する結晶相が同一で、平均結晶粒径が30%以上異なる表面層と内部層の層を有する複層アルミナ焼結体を製造することを特徴とする複層アルミナ焼結体の製造方法。
(8)上記溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下の内から選ばれた1種類以上の方法で塗布、あるいは含浸させる、前記(7)に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
(9)開気孔が存在しないレベルまで緻密化させた仮焼結体、あるいはこれを機械加工した仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下の内から選ばれた1種類以上の方法で塗布した後に、より高温で本焼結を行う、前記(7)に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
(10)本焼結を、熱間静水圧プレスにより行う、前記(7)に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
(11)本焼結を、1400℃から1550℃で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が細かい表面層を有する焼結体とする、前記(7)に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
(12)本焼結を、1550℃より高温で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が大きな表面層を有する焼結体とする、前記(7)に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、平均結晶粒径が異なる表面層と内部層を有する複層アルミナ焼結体であって、焼結体の表面層にシリコンを含有し、内部層と構成する結晶相が同一で、平均結晶粒径が30%以上異なる表面層と内部層の層を有することを特徴とするものである。
本発明では、アルミナ焼結体の表面の少なくとも二面の面が表面層と内部層の層状構造を有すること、乾式のピン・オン・ディスク法で測定される比摩耗量が、1×10−9mm/Nより少ない高耐摩耗性を有する表面層と、破壊靱性が4MPa・m1/2より高い内部層の少なくとも2層からなること、焼結体の破面観察において、表面層と内部層の中間に少なくとも50%が劈開破壊を示す中間層が存在すること、を好ましい実施の態様としている。
また、本発明は、上記複層アルミナ焼結体を製造する方法であって、アルミナ粉末成形体、あるいはその仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことを特徴とするものである。
また、本発明では、上記溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下などの内から選ばれた1種類以上の方法で塗布、あるいは含浸させること、開気孔が存在しないレベルまで緻密化させた仮焼結体、あるいはこれを機械加工した仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下などの内から選ばれた1種類以上の方法で塗布した後に、より高温で本焼結を行うこと、を好ましい実施の態様としている。
更に、本発明は、上記の複層アルミナ焼結体を構成要素として含むことからなるアルミナ部材の点に特徴を有するものであり、また、本発明では、アルミナ部材が、切削工具、機械の摺動部品、メカニカルシール、金型、粉砕機部品、又は高耐食性構造部材であること、を好ましい実施の態様としている。
本発明は、材料の表面と内部に要求される特性を考慮し、材料表面は、耐摩耗性に優れる、アスペクト比が小さく、微細な結晶粒組織、あるいは耐食性に優れる粒界の極端に少ない粗大粒とし、内部は、破壊靱性に優れる粒径の大きな結晶粒から構成される微細組織としたことを特徴とする複層アルミナ焼結体及びその製造方法に係るものである。
通常、単一組成の焼結体では、微細な結晶粒から構成される組織が得られる焼結温度と、粒径の大きな結晶粒から構成される組織が得られる焼結温度は、大きく異なっており、これらを同一焼結温度で同時に焼結することは困難である。
このため、本発明では、通常、アルミナ分が90%以上の粉末を使用する。本発明において、原料のアルミナ材料としては、高純度アルミナ粉末、低ソーダアルミナ粉末、普通純度アルミナ粉末などが使用される。また、通常、高強度アルミナ焼結体の製造の際に添加されるマグネシアを含有する粉末も使用することが可能である。
上記の粉末を、金型成形、冷間静水圧成形、鋳込み成形、排泥成形、ドクターブレード、押し出しなどによって、成形する。このようにして作製した成形体、生加工を施した成形体、脱脂した成形体、あるいは仮焼結した成形体に対し、表層を形成したい箇所、又は全体に、高温での焼結過程で酸化物となる化合物、イオンを含有する溶液として、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布あるいは含浸させる。
成形体、仮焼結体の気孔率は、特に限定されず、開気孔が存在しない程度まで気孔率を低下させた仮焼結体でも使用可能である。上記溶液、スラリーとしては、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーであって、塩化物塩、硝酸塩、アルコキシド、酸化物微粒子のスラリーなどが例示される。しかし、本発明は、これらの材料に制限にされるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。上記の溶液、スラリーの塗布、含浸には、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、滴下などの方法が例示される。しかし、本発明は、これらの方法に制限にされるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
所定の化合物、イオンを含有する溶液として、シリコンを含む溶液、あるいはスラリーを塗布あるいは含浸させる方法以外にも、成形体、仮焼結体に、加速器を用いてシリコンイオンを打ち込んだもの、シリコン化合物を含有するガス中で処理し、成形体、あるいは仮焼結体の表面層に高温で処理することで酸化物となる化合物などを析出したものも同様に使用することができる。
焼結後の表面層に含有される所定のシリコンイオン量が少なすぎると十分な結晶粒成長制御効果が出現しないため、焼結後の表面層に含有されるシリコンイオンの量が、酸化物換算で0.005重量%以上になるように、塗布、あるいは、含浸する溶液などの濃度、粘性、粒子径、塗布量、含浸量、塗布回数、含浸回数、本焼結条件などで調整する。表面層の厚さも、同様に調整することが可能である。また、表面層の厚さは、成形体、仮焼結体の気孔率で調整することが効果的である。
一方、表面層に含有される所定のシリコンイオン量が多すぎると、アルミナの良好な特性を阻害する化合物が多量に生成するため、酸化物換算で0.1重量%以下になるように調整する。これも、塗布、あるいは、含浸する溶液などの濃度、粘性、成形体、仮焼結体の気孔率で調整することが可能である。
上記の方法で所定のシリコン化合物を表面に塗布、あるいは、表面層に含浸させた成形体、仮焼結体を内部層が必要な粒子径に成長する温度で、常圧焼結、ホットプレス、又は熱間静水圧プレスの内から選ばれた1種類以上の方法によって焼結することにより、表面層は、粒径の小さな等軸晶の結晶からなる耐摩耗層、あるいは粗大な結晶からなる耐食層で、内部は、大きな結晶粒から構成される高破壊靱性層の少なくとも2層構造を有する耐摩耗層、あるいは耐食層/高破壊靱性層の複層アルミナ焼結体を製造する。
焼結は、使用する原料粉末により適正な温度は異なるが、表面を微粒層とする場合、1400℃から1550℃で、また、表面を粗大粒とする場合は、1550℃以上で焼結する。これらの手法により作製される複層アルミナ焼結体の層境界は、明確な境界を有する必要はなく、連続的に変化するものでも同じ特性が得られる。
本発明では、本焼結を、熱間静水圧プレスにより行うこと、本焼結を、1400℃から1550℃で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が細かい表面層を有する焼結体とすること、本焼結を、1550℃より高温で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が大きな表面層を有する焼結体とすること、が好ましい。本発明は、乾式のピン・オン・ディスク法で測定される比摩耗量が、1×10−9mm/N以下の高い耐摩耗性を有する表面層と、破壊靱性が4MPa・m1/2以上の内部層の少なくとも2層からなる複層アルミナ焼結体を同一焼結温度で同時に焼結すること、それにより、耐摩耗性、あるいは耐食性と高破壊靭性を高いレベルで両立した複層アルミナ焼結体及び該アルミナ部材を提供することを実現したものである。
本発明では、アルミナ仮焼結体にシリコンを含有する化合物を塗布し、本焼成することで、表面は微粒で耐摩耗性に優れ、内部は、大きな結晶で破壊靱性に優れる焼結体を作製する。それにより、焼結体の表面にシリコンを含有し、内部と構成する結晶相が同一で、平均粒径が30%以上異なる層を有することを特徴とするアルミナ焼結体を製造することができる。本発明により、アルミナ粉末成形体、あるいは仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下などの内から選ばれた1種類以上の方法で、塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことを構成要素として含むアルミナ焼結体の製造方法が提供される。
本発明により、以下のような効果が奏される。
(1)層状構造を有する複層アルミナ焼結体、その製造方法及び該アルミナ部材を提供することができる。
(2)表面層は、粒径の小さな等軸晶からなる耐摩耗層、あるいは粒界の極端に少ない耐食性に優れた粗大粒とし、内部は、破壊靭性に優れる粒径の大きな結晶粒から構成される組織とした複層アルミナ焼結体を提供することができる。
(3)上記複層アルミナ焼結体を同一焼結温度で同時に焼結、作製することが可能な該複層アルミナ焼結体の製造方法及び該アルミナ部材を提供することができる。
(4)耐摩耗性と高い破壊靭性が要求される切削工具、機械の摺動部品、メカニカルシール、金型、粉砕機部品などの構造材料や、高い耐食性の要求される半導体製造装置の部品などとして有用な複層アルミナ焼結体を提供することができる。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
母剤として、市販の高純度アルミナ粉末に、粒成長促進剤の酸化バリウムを0.015重量%添加した粉末(本発明品1〜2、比較例の場合)、高純度アルミナ粉末に、粒成長抑制剤のマグネシアを0.015重量%添加した粉末(本発明品3の場合)を用いた。湿式で解砕、混合した粉末30gを、52mm×44mmの超硬合金製の金型を使用し、40MPaの圧力で一軸成形した。その後、これをゴム袋に封入し、冷間静水圧成形を行った。成形体の気孔率は、46%であった。得られた成形体を、大気中、1300℃で仮焼結した。仮焼結体の気孔率は、3%であり、開気孔率は、0%であった。
市販のコロイダルシリカとポリビニルアルコールより、シリカが5重量%、ポリビニルアルコールが0.25重量%となるように溶液を調製し、上記仮焼結体をディプコートした(本発明品1〜3)。その後、大気中、1500℃(本発明品1、3)、1600℃(本発明品2)で2時間、本焼結を行った。得られた焼結体の破面の走査電子顕微鏡写真を図1に示す。また、表1に、表面層と内部層の平均結晶粒径を示す。表1より、比較例(単一層の焼結体)に比較して、表面層の結晶粒径が内部層に比べて30%以上異なっていることが判る。また、図2より、本発明品1では、表面層(表面微粒層)と内部層(内部粒界破壊層)の中間に劈開破壊率が50%を越える中間層(劈開破壊層)が存在していることが判る。
図1に、本発明品1〜3の破面の走査電子顕微鏡写真を示す。これらの写真より、本発明品1、3では、数μmの結晶粒径の内部層と、結晶粒径が1μm以下で厚さが5μm程度の表面層が形成されていることが判る。また、本発明品2では、5μm程度の結晶粒径の内部層の表面約20μmが、粒径10μm以上の結晶で構成されていることが観察される。図2に、本発明品1の破面の拡大写真を示す。この写真より、厚さ5μm程度の微粒結晶粒の表面層と内部層の中間に、主として劈開破壊を示す20μm程度の中間層が存在することが確認される。
上記実施例1で作製した仮焼結体を、機械加工により、27×30×5mmの板状の試験片とした後、実施例1の方法で表面層を形成した(本発明品1)。続いて、本発明品1と比較例(単一層の焼結体)に対して、回転半径10mm、回転数172rpm、加重24.5N、試験時間60minの乾式ピン・オン・ディスク摩耗試験を行った。ボールには、市販のアルミナ焼結体ボールを使用した。
表2より、単一層の焼結体に比べ、耐摩耗性が極めて高い複層アルミナ焼結体を容易に得ることが可能であることが判る。図3に、本発明品1と比較材の摩耗深さを示す。これにより、高靱性材の単体である比較例では、最大摩耗深さが6μmであるのに対して、本発明品1では、最大摩耗深さが0.5μm以下であり、耐摩耗性が飛躍的に向上していることが確認され、本発明の有用性が明瞭である。
以上詳述したように、本発明は、アルミナ成形体、あるいは仮焼結体に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布又は含浸した後、通常の焼結で製造される複層アルミナ焼結体及びその製造方法に係るものであり、本発明によれば、通常の焼結で、耐摩耗性、あるいは耐食性と破壊靱性が高度に両立した複層アルミナ焼結体及び該アルミナ部材を製造し、提供することができる。本発明のアルミナ耐摩耗性部材は、耐摩耗性と高い破壊靱性が要求される工具、機械の摺動部品などとして好適に使用可能であり、また、該アルミナ耐食材料は、半導体製造装置の部品などとして好適に使用できる複層アルミナ焼結体を提供するものとして有用である。
本発明品1〜3の破面の走査電子顕微鏡写真を示す。 本発明品1の破面の拡大写真を示す。 本発明品と比較材の摩耗深さを示す。

Claims (12)

  1. アルミナ粉末成形体、あるいはその仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことで製造されたアルミナ焼結体であって、焼結体の表面層にシリコンを含有し、内部層と構成する結晶相が同一で、平均結晶粒径が30%以上異なる表面層と内部層の層を有することを特徴とする複層アルミナ焼結体。
  2. アルミナ焼結体の表面の少なくとも二面の面が表面層と内部層の層状構造を有する、請求項1に記載の複層アルミナ焼結体。
  3. 乾式のピン・オン・ディスク法で測定される比摩耗量が、1×10−9mm/Nより少ない高耐摩耗性を有する表面層と、破壊靱性が4MPa・m1/2より高い内部層の少なくとも2層からなる、請求項1に記載の複層アルミナ焼結体。
  4. 焼結体の破面観察において、表面層と内部層の中間に少なくとも50%が劈開破壊を示す中間層が存在する、請求項1に記載の複層アルミナ焼結体。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の複層アルミナ焼結体を構成要素として含むことを特徴とするアルミナ部材。
  6. アルミナ部材が、切削工具、機械の摺動部品、メカニカルシール、金型、粉砕機部品、又は高耐食性構造部材である、請求項5に記載のアルミナ部材。
  7. アルミナ粉末成形体、あるいはその仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを塗布、あるいは含浸させた後に、本焼結を行うことにより、焼結体の表面層にシリコンを含有し、内部層と構成する結晶相が同一で、平均結晶粒径が30%以上異なる表面層と内部層の層を有する複層アルミナ焼結体を製造することを特徴とする複層アルミナ焼結体の製造方法。
  8. 上記溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下の内から選ばれた1種類以上の方法で塗布、あるいは含浸させる、請求項7に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
  9. 開気孔が存在しないレベルまで緻密化させた仮焼結体、あるいはこれを機械加工した仮焼結体表面に、シリコン元素を含む溶液、あるいはスラリーを、噴霧、刷毛塗り、ディッピング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、溶液滴下の内から選ばれた1種類以上の方法で塗布した後に、より高温で本焼結を行う、請求項7に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
  10. 本焼結を、熱間静水圧プレスにより行う、請求項7に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
  11. 本焼結を、1400℃から1550℃で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が細かい表面層を有する焼結体とする、請求項7に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
  12. 本焼結を、1550℃より高温で行い、内部層の平均結晶粒径に比べて30%以上平均結晶粒径が大きな表面層を有する焼結体とする、請求項7に記載の複層アルミナ焼結体の製造方法。
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