伝送速度が10 Gbit/sを超える高速光通信において通信性能を制限する要因の一つは、光信号を構成する光パルスが光ファイバ伝送路を伝播することによってその時間波形が歪むことにある。光パルスの時間波形が歪む要因一つがPMDであり、PMDは以下に示す理由によって発現する。
光ファイバの製造過程における製造誤差、光ファイバ伝送路の敷設状況による曲げ、捩れ、押圧等による応力の影響により、光ファイバのコアの断面形状が真円からずれることによって光ファイバに複屈折性が生じる。この複屈折性によって、光ファイバを伝播する光パルスの位相速度が光電場の振動方向に依存する現象が生じる。光パルスの位相速度が大きくなる振動方向が進相軸(fast axis)、小さくなる方向が遅相軸(slow axis)と呼ばれる。
光パルスが光ファイバを伝播すると、この複屈折性に起因して、光パルスの光搬送波の直交する偏波成分の間に伝播時間差、すなわち微分群遅延(DGD:Differential Group Delay)が生じる。この現象がPMDである。以後、光パルスの光搬送波の偏波成分というところを、単に光パルスの偏波成分ということもある。
図1(A)〜(D)を参照して、このPMDによって、この光ファイバを伝播する光パルスの時間波形が歪む現象を説明する。図1(A)〜図1(D)は、光パルスが複屈折性を有する光ファイバを伝播することによって受けるその時間波形の変化の様子の説明に供する図である。
図1(A)は、光通信システムの基本構成を示すブロック構成図であり、送信器10と受信器14とが光ファイバで構成される光ファイバ伝送路12によって接続されており、光信号13がこの光ファイバ伝送路12を伝播して送信器10から受信器14に伝送される。
図1(B)は送信器10から出力される光信号の時間波形を示す図であり、図1(C)は受信器14で受信される光信号の時間波形を示す図であり、図1(D)は光ファイバ伝送路12を伝播中の光信号の時間波形を直交2偏波成分に分けてそれぞれの偏波成分の時間波形およびそれらの時間軸上での位置関係を模式的に示す図である。図1(B)及び図1(C)において横軸は時間軸を縦軸は信号強度をそれぞれ任意スケールで示してあり、図1(D)において横軸は時間軸示しており、直交するPSP+軸及びPSP-軸の方向に対する光強度をそれぞれの軸に対して模式的に示してある。ここで、PSP+軸は進相軸であり、PSP-軸は遅相軸である。
送信器10から出力された直後の光信号は、図1(B)に示すように時間歪のない光パルスから構成されている。図1(B)では、「1,1,0,1」で与えられる2値デジタル光信号を例にとって示してあり、1ビットあたりの時間スロットの幅はTbである。一方、受信器14で受信される光信号は、図1(C)に示すようにその時間波形が歪んでいる。
光ファイバ伝送路12を伝播する前、すなわち送信器10から出力された直後の光信号13を構成する光パルスのPSP+軸及びPSP-軸方向の偏波成分は、時間軸上でそのピーク位置が一致している。しかしながら、光ファイバ伝送路12が有する複屈折性によって、光パルスのPSP+軸及びPSP-軸方向の偏波成分の群速度が異なり、光パルスが有限長だけ光ファイバ伝送路12を伝播すると光パルスのPSP+軸方向偏波成分とPSP-軸方向偏波成分とのそれぞれのピーク位置が、図1(D)に示すようにずれる。この時間軸上でのピーク位置のずれ量がDGDである。
光信号13は、受信器14において光電変換器等で強度信号として電気信号に変換される。このため、光信号13が電気信号に変換された受信信号の時間波形は、光信号13を構成する光パルスのPSP+軸及びPSP-軸方向の偏波成分を足し合わせた光強度の時間波形と相似形の時間波形となる。
従って、光信号13を構成する光パルスのPSP+軸及びPSP-軸方向の偏波成分の時間軸上で両者のピーク位置が一致していれば、その時間波形は図1(B)に示すように単峰性のパルス波形となり、その時間波形に歪は存在しない。これに対して、DGDによって光パルスのPSP+軸及びPSP-軸方向の偏波成分の時間軸上で両者のピーク位置が一致していなければ、その時間波形は図1(C)に示すように多峰性のパルス波形となり、その時間波形は歪む。
光ファイバ伝送路で発現するPMDの大きさの程度はPMD係数(単位:ps/km1/2)で与えられる。国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T: International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)の勧告によれば、標準の単一モードファイバ(Single Mode Fiber)のPMD係数は、0.2 ps/km1/2以下であることが望ましいとされている。
DGDの大きさはPMD係数に伝送距離を掛け算することによって求められる。すなわち、(DGDの大きさ(ps))=(PMD係数(ps/km1/2))×(伝送距離の平方根(km1/2))である。例えば、PMD係数が0.2 ps/km1/2である単一モードファイバによる光ファイバ伝送路では、100 kmで、(0.2 ps/km1/2)×(1001/2km1/2)=(0.2×10)psとなるから、平均2 psのDGDが発生する。
一般に、敷設年代の古い光ファイバ伝送路ほどそのPMD係数が大きく、1980年代に敷設された光ファイバ伝送路のPMD係数は5 ps/km1/2に及ぶものもあることが報告されている。因みに、現在は0.02 ps/km1/2以下の光ファイバが開発さている。
光信号の1ビット分に割り当てられる時間スロットの幅(図1(B)にTbとして示してあり、ビット周期ともいう。)の30%程度にDGDの値が達すると、ビットエラーレート等で与えられる伝送品質が急激に劣化することが経験則として把握されている。例えば、この出願の発明者らは、Tb=6.25 psでDGDが1.8 psに達すると受信信号のQ値が急激に低下することを確かめている。すなわち、伝送速度が高いということはビット周期が短いことを意味するので、伝送速度が高くなるほどPMDの伝送品質に与える効果が大きくなる。
光ファイバ伝送路網を拡張させていくに当たり、構築コストには経済上の制約があること等を勘案すると、古い時代に敷設された光ファイバ伝送路を活かし、これに新たな光ファイバ伝送路を追加していくという方針がとられる。従って、このように拡張された光ファイバ伝送路網を利用する光通信においては、光信号がPMD係数の大きな光ファイバ伝送路によって伝送されることを前提にしてPMDの影響を低減する技術が必須となる。
また、PMD係数から見積もられるDGD値は時間的な平均値であり、時間に対して刻々と変動する性質を備えている。また、光ファイバ伝送路12を構成している光ファイバのPMD(後述するPMDベクトル)は、その大きさや方向が光ファイバの伝送軸方向に一定ではなく距離と共にランダムに変化する。そこで、このような光ファイバは短い光ファイバが多数個縦接続されたものと見なし、それぞれの短い光ファイバのPMDベクトルがランダムに変化しているものと見なすことが可能である。
図2(A)及び(B)を参照して、PMDベクトルがランダムに変化しているもとの見なした場合の光ファイバの概略的模式図及び、短い光ファイバが多数個縦接続されているものと見なした場合のDGDの値の分布を与える関係について説明する。
図2(A)及び(B)は、光ファイバのPMDベクトルの分布についての説明に供する図であり、図2(A)は光ファイバを短い光ファイバが多数個縦接続されたものと見なした場合の短い光ファイバ部分ごとの複屈折の進相軸あるいは遅相軸の方向を模式的に示す図であり、図2(B)は、光ファイバ伝送路を構成する光ファイバを短い光ファイバが多数個縦接続されたものと見なした場合のそれぞれの短い光ファイバに対するDGDの値の分布を示し、横軸はDGD値をps単位で目盛って示してあり、縦軸はDGDの値の出現頻度を目盛って示してある。
それぞれの短い光ファイバのPMDベクトルの大きさを与えるDGDの値の分布は、図2(B)に示すマックスウエル分布となることが知られている。
光ファイバ伝送路のDGDの値の逆数が光パルス信号のスペクトル帯域幅より大きくなると、高次PMDの影響を無視することができなくなる。高次PMDは、光パルス信号の周波数(波長)に対する状態(PSP: Principal State of Polarization)の変化に加え、進相軸に平行な光電場成分と遅相軸に平行な光電場成分との伝播速度の差が光搬送波の周波数(波長)に依存して変化する現象として知られている。この現象は、偏波依存波長分散(PCD: Polarization dependent Chromatic Dispersion)とも呼ばれている。ここで、PSPの変化はPMDベクトルの終端のポアンカレ球上での回転として表される。
上述のPMDベクトルの方向及び大きさは一般に波長に依存するが、PMDの波長に対する変化に対して光信号の波長スペクトル帯域幅を無視できる場合は、波長依存性のないPMD成分である1次PMDに対して対処するだけで足りる。しかしながら、光信号の波長スペクトル帯域幅を無視できない場合は、波長依存性を具えるPMD成分である高次PMDについても対処することが必要となる。
高次PMDに対し、光信号の波長スペクトル帯域幅を無視できる場合とは、光ファイバ伝送路のPMD係数そのものが小さい場合あるいは伝送路で発生し得るDGDの平均値が光信号帯域に対して十分に小さい場合である。
高次PMDについては以下のように、説明することもできる。光ファイバ伝送路を光パルスが伝播する場合、光パルスの波長スペクトル成分のうち短波長成分と長波長成分とでは、その進相軸及び遅相軸の向きも異なっている。すなわち、光ファイバ伝送路の導波方向をz軸にとった場合、進相軸及び遅相軸の向きのz軸依存性が波長成分ごとに異なり、またDGDの値も波長成分ごとに異なることにより、光パルスの時間波形が複雑に変形する。このように、進相軸及び遅相軸の向きの変化及びDGDの値が波長に依存して変化することに起因して発生するPMDが高次PMDである。
PMDの波長依存性を考慮しない捉え方が1次PMDであり、2次PMDはこれらの波長依存性が一定の割合で変化する現象である。また、3次以上の高次PMDは波長依存性が一定の割合ではなくより複雑な割合で変化する現象である。
伝送速度を高くするためには光パルスの時間幅を狭くする必要があり、光パルスの時間幅が狭くなるとこの光パルスの波長スペクトルの帯域幅は広くなる。そのため、高い伝送速度の光通信システムの光ファイバ伝送路のPMDの影響について検討するに当たっては、1次PMDのみならず高次PMDを考慮することが重要となる。
以上説明した様に、考慮すべきPMDは、PMD係数で与えられる光ファイバ伝送路の状態、及び光信号のビット周期の大きさによってその上限が決定される。従って、光通信システムを構築及び運用するに当たっては、まず、光ファイバ伝送路のPMDベクトルを測定する技術が必要となる。また、光通信システムの運用中にあっても、通信障害が光信号の波形の歪みに起因して発生している可能性があり、この波形歪の重要な発生要因であるPMDベクトルを監視することが要請される。
光ファイバ伝送路のPMDベクトルを測定する代表的な方法として、ミューラーマトリックス(MMM: Muller Matrix Method)、及びジョーンズ行列固有解析(JME: Jones Matrix Eigen-analysis)が知られている(例えば、MMMについては非特許文献1を参照、JMEについては非特許文献2を参照)。
上述のMMM及びJMEは、測定対象の光ファイバ伝送路の光信号入力側で可変波長光源を配置し、この光源の出力光の波長を走査しながら、測定対象の光ファイバ伝送路の入力端から入力されて出力端から出力される出力光の偏波状態(SOP: State of Polarization)を測定してPMDベクトルを算出する手法がとられている。このため、測定対象の光ファイバ伝送路が使われて構成されている光通信システムが動作している時間帯ではPMDベクトルの測定ができない。
一方、光通信システムが運用されている時間帯であっても、PMDベクトルの測定が可能である測定方法として、非介入実時間測定法(非介入in-situ測定法)が知られている(例えば、非特許文献3及び4参照)。この方法では、光源の出力光の波長を走査させることに代えて、PMDベクトルの測定地点において光ファイバ伝送路から出力される被測定光信号を波長可変光バンドパスフィルタによって狭帯域波長スペクトル成分を切り出して、この切り出された波長スペクトル成分ごとにSOPを求めて、このSOPに基づいてPMDベクトルを算出するという手法がとられている。
PMDベクトルは、光通信システムの動作中であっても時々刻々と変化すする性質を持っており、従って、光通信システムの動作中にも光ファイバ伝送路のPMDベクトルを測定することが必要である。
上述した様に、MMMやJMEでは、測定対象の光ファイバ伝送路が使われて構成されている光通信システムが運用されている時間帯においてはPMDベクトルの測定ができない。また、非介入in-situ測定法によれば、光通信システムが運用されている時間帯においてもPMDベクトルの測定が可能であるが、この測定法は、波長スペクトル成分ごとにSOPを求めてこのSOPに基づいてPMDベクトルを算出するという手法がとられるため、SOPが時間的に変動しないか、あるいは変動が緩やかである場合でなければ正確なPMDベクトルを求めることが難しい。
光ファイバ伝送路から出力される光信号の光搬送波のSOPは常に変動しており安定していない。このように安定しないSOPに基づいて算出されたPMDベクトルには大きな誤差が含まれる。
そこで、測定対象の光ファイバ伝送路が使われて構成されている光通信システムが運用されている時間帯において、SOPが時間的に変動しても、波長ごとのPMD測定方法及びこの方法を実現するためのPMD測定装置が、光通信システムの監視ツール等として要請されている。
PMDベクトルが求まれば、このPMDベクトルと大きさが等しくかつ向きが反対であるPMDベクトルで与えられる状況を、光ファイバ伝送路とは別の光通信システムの構成部分で作り出して、両者のベクトルを加算するという制御を行うことによってPMDを補償することが可能となる。以下の説明において、PMDベクトルと大きさが等しくかつ向きが反対であるPMDベクトルで与えられる状況を作り出して両者のベクトルを加算する操作を行ってPMDを補償する(Compensate)ことを、PMDベクトルを等化(Equalization)するということもある。
また、PMDベクトルを常時観測することによって、光ファイバ伝送路の伝送特性を常時把握する事が可能となり、このPMDベクトルの観測結果に基づいて光ファイバ伝送路の異常を探知するシステムを構成することが可能である。このようなシステムを構成すれば、光ファイバ伝送路の異常に対して適切な対応措置を常時とることが可能な光通信網を構築することが可能となる。
この出願の発明者は、上述の非介入in-situ測定法で使われる波長スペクトル成分ごとにSOPを求めてこのSOPに基づいてPMDベクトルを算出するという手法を採用する代わりに、次のような手法を採用すれば高速なSOP変動下においても、光ファイバ伝送路のPMDベクトルを観測する事が可能となることに思い至った。すなわち、被測定光のPMDベクトルに対して、このPMDベクトルと大きさが等しくかつ向きが反対であるPMDベクトルで与えられる状況を偏波面回転素子及びDGD補償素子によって作り出して、両者のベクトルを加算する操作を行って得られる波長スペクトルを観測し、この波長スペクトルの強度が最小となっている波長を求めることによって、この波長におけるPMDベクトルが確定されるとの認識に至った。
そこで、この発明の目的は、測定対象の光ファイバ伝送路が使われて構成されている光通信システムが運用されている時間帯において、SOPが時間的に急激に変動しても光ファイバ伝送路のPMDベクトルを確定することが可能であるPMD測定方法及びこの方法を実現するためのPMD測定装置を提供することにある。
上述の理念に基づくこの発明の要旨によれば、以下のPMD測定方法及びPMD測定装置が提供される。
この発明の要旨による第1のPMD測定方法は、第1偏波面コントロールステップと、微分群遅延(DGD)補償ステップと、第2偏波面コントロールステップと、直線偏波成分切り出しステップと、モニター信号波長成分強度検出ステップと、偏波モード分散ベクトル確定ステップとを含んで構成される。
第1偏波面コントロールステップは、光ファイバ伝送路を伝播した光信号から分岐された被測定光信号に対して、被測定光信号の偏波面の回転量を指示する第1制御信号に応じて、被測定光信号の偏波面を回転して第1偏波面調整信号を生成するステップである。
微分群遅延補償ステップは、第1偏波面調整信号に対して、微分群遅延量を指示する第2制御信号に応じて、第1偏波面調整信号の直交固有偏波モードの一方の偏波モード成分に対して遅延を付与して第1偏波モード分散補償信号を生成するステップである。
第2偏波面コントロールステップは、第1偏波モード分散補償信号に対して、第1偏波モード分散補償信号の偏波面の回転量を指示する第3制御信号に応じて、第1偏波モード分散補償信号の偏波面を回転して第2偏波面調整信号を生成するステップである。
直線偏波成分切り出しステップは、第2偏波面調整信号の一方向の直線偏波成分を切り出して、この一方向の直線偏波成分をモニター信号として取り出すステップである。
モニター信号波長成分強度検出ステップは、モニター信号の波長に対する光強度の関係を観測するステップである。
偏波モード分散ベクトル確定ステップは、第1、第2及び第3制御信号を生成するとともに、モニター信号の少なくとも2波長成分のそれぞれにおいて強度が最小となる、被測定光信号の偏波面の回転量、第1偏波面調整信号の直交固有偏波モードの一方の偏波モード成分に対して付与する遅延量、及び第1偏波モード分散補償信号の偏波面の回転量を確定し、光ファイバ伝送路の偏波モード分散ベクトルを波長ごとに決定するステップである。
この発明の要旨による第2のPMD測定方法は、上述の第1のPMD測定方法において、第1偏波面コントロールステップの前に光信号偏波状態調整ステップを更に含んで構成される。光信号偏波状態調整ステップは、送信器から出力された直後の光信号の直交固有偏波モードとこの光信号が伝播する光ファイバ伝送路のPSPとが不一致となるように、光信号の偏波状態を調整して光ファイバ伝送路にこの光信号を入力するステップである。
モニター信号波長成分強度検出ステップを、光バンドパスフィルタによる帯域通過ステップと、光電変換ステップとを含んで構成するのが良い。光バンドパスフィルタによる帯域通過ステップは、モニター信号の測定波長帯域の波長成分を切り出して、狭波長帯域モニター信号を生成するステップであり、光電変換ステップは、狭波長帯域モニター信号を電気信号に変換して狭波長帯域電気モニター信号を生成するステップである。
また、モニター信号波長成分強度検出ステップを、モニター信号分岐ステップと、第1バンドパスフィルタによる帯域通過ステップと、第2バンドパスフィルタによる帯域通過ステップと、第1光電変換ステップと、第2光電変換ステップとを含んで構成するのが良い。
モニター信号分岐ステップは、モニター信号を第1モニター信号と第2モニター信号とに分岐するステップである。
第1バンドパスフィルタによる帯域通過ステップは、第1モニター信号の第1測定波長帯域の波長成分を切り出して、狭波長帯域第1モニター信号を生成するステップであり、第2バンドパスフィルタによる帯域通過ステップは、第2モニター信号の第2測定波長帯域の波長成分を切り出して、狭波長帯域第2モニター信号を生成するステップである。
第1光電変換ステップは、狭波長帯域第1モニター信号を電気信号に変換して狭波長帯域第1電気モニター信号を生成するステップであり、第2光電変換ステップは狭波長帯域第2モニター信号を電気信号に変換して狭波長帯域第2電気モニター信号を生成するステップである。
この発明の第1のPMD測定方法を実現するこの発明の第1のPMD測定装置は、第1偏波面コントローラと、可変DGD補償器と、第2偏波面コントローラと、偏光子と、モニター信号波長成分強度検出部と、偏波モード分散ベクトル確定制御部とを具えて構成される。
第1偏波面コントローラ、可変DGD補償器、第2偏波面コントローラ、偏光子、モニター信号波長成分強度検出部、及び偏波モード分散ベクトル確定制御部は、それぞれ、第1偏波面コントロールステップ、微分群遅延補償ステップ、第2偏波面コントロールステップ、直線偏波成分切り出しステップ、モニター信号波長成分強度検出ステップ、及び偏波モード分散ベクトル確定ステップを実行する。
この発明の第2のPMD測定方法を実現するこの発明の第2のPMD測定装置は、第1のPMD測定装置が具える第1偏波面コントローラと、送信器側に設置される前段偏波面コントローラを具えて構成される。前段偏波面コントローラは、光信号偏波状態調整ステップを実行する。
この発明の第1及び第2のPMD測定装置を構成するモニター信号波長成分強度検出部は、バンドパスフィルタと、光電変換器とを具えて構成するのがよい。バンドパスフィルタは、バンドパスフィルタによる帯域通過ステップを実行する。光電変換器は、光電変換ステップを実行する。
また、この発明の第1及び第2のPMD測定装置を構成するモニター信号波長成分強度検出部は、モニター信号分岐器と、第1バンドパスフィルタと、第2バンドパスフィルタと、第1光電変換器と、第2光電変換器とを具えて構成するのがよい。
モニター信号分岐器は、モニター信号分岐ステップを実行する。第1バンドパスフィルタは、第1バンドパスフィルタによる帯域通過ステップを実行する。第2バンドパスフィルタは、第2バンドパスフィルタによる帯域通過ステップを実行する。第1光電変換器は、第1光電変換ステップを実行する。第2光電変換器は、第2光電変換ステップを実行する。
この発明の第1及び第2のPMD測定方法及びPMD測定装置によれば、第1偏波面コントローラに入力される被測定光信号は、その偏波状態が調整されて可変DGD補償器に入力される。可変DGD補償器ではDGDが補償されて第2偏波面コントローラに入力される。可変DGD補償器から出力される第1偏波面調整信号は、暫定的に1次PMDが補償された第1PMD補償信号である。
第1PMD補償信号は、第2偏波面コントローラに入力されて、その偏波状態が調整されて第2偏波面調整信号として出力される。第2偏波面調整信号は、偏光子に入力されて特定の振動方向のみ透過し、モニター信号として出力される。このモニター信号は、暫定的に高次PMDが抑圧された信号である。
PMDが効果的に抑圧されていれば、第2偏波面調整信号は均一に近い偏光状態となっている。
PMDが効果的に抑圧されている状態で、第2偏波面調整信号により直線偏光に調整された信号の振動方向と偏光子の透過方向が直交するように第2偏波面コントローラが設定されれば、偏光子から出力されるモニター信号の強度は最小となる。
モニター信号波長成分強度検出部において、モニター信号の測定対象とした所望の波長成分の強度が測定され、この強度が反映されたモニター強度信号が出力される。そして、この信号に基づき、モニター信号の測定対象に設定された波長成分の強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ、可変DGD補償器、及び第2偏波面コントローラをそれぞれ制御することが可能な構成となっている。
モニター信号の測定対象に設定された波長成分の強度が最小となる状態を実現した第1偏波面コントローラと可変DGD補償器の偏波面回転量及びDGDの値から、測定対象として設定した波長に対するPMDベクトルが決定される。
第1PMD補償信号は、光ファイバ伝送路のPMDの影響を受けて偏光状態が変化した被測定光信号に対して、第1偏波面コントローラと可変DGD補償器とによって補償される波長依存性の無い1次PMD補償がなされた信号である。すなわち、第1PMD補償信号は、被測定光信号のPMDベクトルと第1偏波面コントローラと可変DGD補償器とによって生成された1次PMDベクトルとが加算された状態のPMDの影響を受けた信号である。
上述した様に光ファイバ伝送路を構成する光ファイバは、PMDベクトルがランダムな多数の短い光ファイバが縦接続されたものと見なせるので、短い光ファイバのそれぞれのPMDベクトルの方向が全て同一または逆ベクトルになるように接続されていると見なせる特別な場合を除き、被測定光信号の波長の変化に伴って、第1PMD補償信号のPSPを与えるストークスベクトルのポアンカレ球上での座標及びDGDの値は変化する。これは、波長ごとでPMDベクトル(方向・大きさ)が異なることを意味する。このため、第1PMD補償信号を第2偏波面コントローラによって、その偏波面を制御することで生成される第2偏波面調整信号が偏光子を透過する強度(モニター信号の強度)を最小となる波長を任意に選択する(所望の波長におけるPMD等化する)ことが可能となる。
第1偏波面コントローラと可変DGD補償器によって生成されるPMDベクトルと被測定光信号のPMDベクトルとが互いに逆向きとなっている場合、モニター信号の強度が最小となる。このPMDベクトルは波長依存性があるので、モニター信号の波長スペクトルが最小値を取る波長において、第1偏波面コントローラと可変DGD補償器によって生成されるPMDベクトルによって被測定光信号のPMDベクトルが等化された状態となる。
すなわち、モニター信号の波長スペクトルが最小値を取る当該波長における光ファイバ伝送路のPMDベクトルは、このときの第1偏波面コントローラと可変DGD補償器によって生成されるPMDベクトルと向きが逆向きでその大きさが等しいベクトルであるとして確定される。
被測定光信号が1次PMDによる影響のみを受けている場合は、被測定光信号のPMDベクトルは、第1偏波面コントローラと可変DGD補償器によって生成されるPMDベクトルによって等化されるので、被測定光信号の全波長帯域において、モニター信号の強度は0となる。現実には、モニター信号には高次のPMDベクトル成分や雑音成分が含まれるので、モニター信号の強度が0になることはないが、被測定光信号が主に1次PMDによる影響のみを受けている場合は、モニター信号の強度は小さな値であって、被測定光信号の全波長帯域において一定の値となる。
以上説明したように、この発明の第1及び第2のPMD測定方法及びPMD測定装置によれば、被測定光信号の波長ごとにモニター信号の強度を測定することによって被測定光信号のPMDベクトル及び光ファイバ伝送路のPMDベクトルを確定する手法がとられているので、第1偏波面コントローラ、可変DGD補償器及び第2偏波面コントローラの追従速度以内であれば、高速なSOP変動下にあっても所望の波長におけるPMDベクトルを確定する事が可能となる。
上述したPMD測定方法においては、送信器から出力された直後であって光ファイバ伝送路の入力端における光信号の偏波モードの直交偏波軸の方向(直交固有偏波モードということもある。)と、光ファイバ伝送路のPMDベクトルの主偏光状態の直交偏波軸との方向(PMDの主偏光状態ということもある。)が合致した場合は、光信号の偏波モードは光ファイバ伝送路のPMDベクトルの影響を受けないため、光ファイバ伝送路のPMDベクトルを確定することができない。また、完全に合致しないまでも、ほぼ同じ方向である場合は、測定感度が低く十分な精度を以ってPMDベクトルを確定できない場合もある。
光ファイバ伝送路の入力端における光信号の偏波モードの直交偏波軸の方向と、光ファイバ伝送路のPMDベクトルの主偏光状態の直交偏波軸との方向とが合致あるいはほぼ合致する場合は、極めて希にしか起こらないが、このような状態が出現することを完全になくすために、この発明の第2のPMD測定装置は、送信器から出力された直後の光信号の直交固有偏波モードとこの光信号が伝播する光ファイバ伝送路のPMDの主偏光状態とが不一致となるように、光信号の偏波状態を調整する前段偏波面コントローラを更に具えている。この前段偏波面コントローラによって光ファイバ伝送路の入力端における光信号の偏波面を回転させることによって、送信器から出力された直後の光信号の直交固有偏波モードを偏光することが可能であり、光ファイバ伝送路のPMDの主偏光状態との一致を回避することが可能となる。
以下、図3〜図8を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、図3〜図6はこの発明に係る一構成例を図示するものであり、この発明が理解できる程度に各構成要素の配置関係などを概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の素子および動作条件などを取り上げることがあるが、これら素子および動作条件は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。
図3〜図6に示したPMD測定装置の構成要素については、共通する構成要素に対しては同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。また、図3〜図6において、光信号の通路を太線で示し電気信号の通路を細線で示してある。
<この発明の実施形態の第1のPMD測定装置>
図3を参照して、この発明の実施形態の第1のPMD測定装置の構成及びその動作について説明する。図3は、この発明の実施形態の第1のPMD測定装置の構成及びその動作についての説明に供する概略的ブロック構成図である。
図3に示すブロック構成図では、送信器20から出力される光信号が光ファイバ伝送路22を伝播して受信器24で受信されるまでの光ファイバ伝送路22の途中の位置で光分岐器26によってタップされた被測定光信号がこの発明の実施形態の第1のPMD測定装置30に入力される様子が示されている。
送信器20から出力される光信号21は、光ファイバ伝送路22を伝播して光分岐器26に到達するとこの光分岐器26によって光信号21がタップされて被測定光信号25が分離される。そして、タップされた残りの光信号23は光分岐器26と受信器24との間の光ファイバ伝送路22を伝播して受信器24に到達する。すなわち、送信器20と受信器24との間で光信号による通信が実行されている間であっても、被測定光信号25が、この通信とはかかわりなくこの発明の実施形態の第1のPMD測定装置30に入力される構成となっている。従って、光通信システムが運用されている時間帯において、PMDを測定することが可能である。
この発明の実施形態の第1のPMD測定装置30は、第1偏波面コントローラ32と、可変DGD補償器34と、第2偏波面コントローラ36と、偏光子38と、モニター信号波長成分強度検出部40と、PMDベクトル確定制御部42とを具えて構成される。
第1偏波面コントローラ32は、光ファイバ伝送路22を伝播した光信号21から分岐された被測定光信号25に対してこの被測定光信号25の偏波面の回転量を指示する第1制御信号43-1に応じて、この被測定光信号25の偏波面を回転して第1偏波面調整信号33を生成する。
可変DGD補償器34は、第1偏波面調整信号33に対し、DGD量を指示する第2制御信号43-2に応じて、第1偏波面調整信号33の直交固有偏波モードの一方の偏波モード成分に対して遅延を付与して第1PMD補償信号35を生成する。
第2偏波面コントローラ36は、第1PMD補償信号35に対して、第1PMD補償信号35の偏波面の回転量を指示する第3制御信号43-3に応じて、第1PMD補償信号35の偏波面を回転して第2偏波面調整信号37を生成する。
第2偏波面コントローラ36によって出力される第2偏波面調整信号37が、予め設定されたSOPとなるように(偏光子から出力される光強度がなるべく小さくなるように)制御される。第1偏波面コントローラ32及び可変DGD補償器34が第1偏波面調整信号33のPMDベクトルを被測定光信号25のPMDベクトルを等化する等化PMDベクトルを生成すべく動作中、常に第2偏波面コントローラ36は、偏光子から出力される光強度が小さくなるように制御する。このことによって、第2偏波面コントローラ36から出力される第2偏波面調整信号37のSOPを時間変動がなく、常に一定に保って出力することが可能となる。
偏光子38は、第2偏波面調整信号37の一方向の振動方向を透過させることにより、直線偏波成分を切り出して、この一方向の直線偏波成分をモニター信号39として取り出す。
モニター信号波長成分強度検出部40は、モニター信号39が入力されてモニター信号39の波長成分ごとの強度を測定し、このモニター信号の波長成分ごとの強度を反映した電気信号であるモニター強度信号41を生成する。
PMDベクトル確定制御部42は、モニター強度信号41が入力されて、このモニター強度信号41に基づいて、モニター信号の波長成分のうち測定対象とする波長に対する強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34、及び第2偏波面コントローラ36をそれぞれ制御する、第1制御信号43-1、第2制御信号43-2及び第3制御信号43-3を生成する。また、モニター信号39の波長成分ごとに強度が最小となる被測定光信号の偏波面の回転量、第1偏波面調整信号33の直交固有偏波モードの一方の偏波モード成分に対して付与するDGD量、及び第1PMD補償信号35の偏波面の回転量を確定させ、光ファイバ伝送路21のPMDベクトルを波長ごとに決定する。
第1偏波面コントローラ32は、被測定光信号25対して、この被測定光信号25の偏波状態を調整して第1偏波面調整信号33を生成するが、被測定光信号25の偏波状態を調整するとは、被測定光信号25の直交振動成分のそれぞれの振動方向と、後段の可変DGD補償器34の進相軸及び遅相軸の方向とを揃えることをいう。
可変DGD補償器34は、第1偏波面調整信号33が入力されて、この第1偏波面調整信号33の直交固有偏波モードの一方の偏波モード成分に対して遅延を付与して第1PMD補償信号35を生成する。
第1偏波面コントローラ32及び第2偏波面コントローラ36として利用する偏波面コントローラは、入力される信号を任意の偏波状態へ変換することが可能であり、例えば、1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせて構成される。また、偏波面コントローラとしては、ファイバスクイーザ、あるいはニオブ酸リチウム結晶を用いて構成される偏波面コントローラ等を適宜利用することが可能である。
可変DGD補償器34は複屈折媒体を用いて実現できる。例えば、偏波面保持ファイバ(PMF: Polarization Maintaining Fiber)や、偏光ビームスプリッタと、光路長可変手段を組み合わせることによって実現される。
モニター強度信号41に基づいて、モニター信号39の波長成分のうち測定対象とする波長に対する強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34及び第2偏波面コントローラ36をそれぞれ制御するためのアルゴリズムは、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34及び第2偏波面コントローラ36をそれぞれ任意の状態に設定しておいて測定されるモニター信号39の測定対象とする波長に対する強度と、第1〜第3制御信号43-1〜3によって制御後のモニター信号39の測定対象とする波長に対する強度とを比較し、その強度差を基に順次モニター信号39の測定対象とする波長に対する強度を低減していく手法がとられる。このような最小値の探索アルゴリズムとして、周知の粒子群最適化(Particle Swarm Optimization:PSO)アルゴリズムあるいは最急降下法に基づくアルゴリズム等が適宜利用できる。
すなわち、モニター信号波長成分強度検出部40でモニター信号39の測定対象とする波長に対する強度が測定され、この強度を反映したモニター強度信号41が生成される。このモニター強度信号41に基づきPMDベクトル確定制御部42から、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34、及び第2偏波面コントローラ36をそれぞれ制御する、第1制御信号43-1、第2制御信号43-2及び第3制御信号43-3が出力され、これらの信号に基づき第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34、及び第2偏波面コントローラ36の状態が調整される。これによって、モニター信号39の強度が変動するので、この変動したモニター信号39の強度がモニター信号波長成分強度検出部40で測定されて同様の制御が行われるというフィードバック制御システムが、上述の何れか一種類のアルゴリズムを利用することによって形成される。
上述した様に、第1偏波面コントローラ32及び第2偏波面コントローラ36は、原理的には、1/2波長板及び1/4波長板を組み合わせて構成することが可能であり、偏波面コントローラ等の名称で市販されている装置を適宜利用することが可能である。また、電圧等の制御信号に従って、光ファイバのコアにストレスを与え、偏波面を制御する装置も利用できる。
また、可変DGD補償器34は、電圧等の制御信号に従って直交偏波モード間の光路差をモータ等により変化させる装置として構成されたものを適宜利用することができる。また、複数の複屈折結晶間に偏波ローテータを配置する偏波スイッチ型の可変DGD補償器も利用できる。
具体的には、第1偏波面コントローラ32、第2偏波面コントローラ36、及び可変DGD補償器34の機能を実現する装置として、偏波面コントローラの機能とDGD補償器の機能とを合わせて具えて一体化されて構成されている、ジェネラルフォトニクス社(General Photonics Corporation)製のPMDエミュレータPMDE-301を適宜利用することが可能である。このPMDエミュレータによれば、入力光に対して、外部からの制御信号に従って、その偏光面を回転制御しかつDGDを制御して出力することが可能である。すなわち、このPMDエミュレータPMDE-301は、外部からの制御信号に従って、入力光の偏波面の方向及びDGDを調整して出力する仕様で形成されている。
PMDエミュレータPMDE-301をこの発明の実施形態の第1のPMD測定装置に利用するに当たっては、PMDエミュレータPMDE-301に対して、PMDエミュレータPMDE-301が具えているI/O接続端子にパーソナルコンピュータ等のロジック制御回路(図示を省略してある。)を接続し、TTLレベルの信号を供給することによって、入力光の偏波面の方向及びDGDを調整して出力させる構成とすればよい。
PMDベクトル確定制御部42は、上述のロジック制御回路としてのパーソナルコンピュータ72を具え、PMDエミュレータPMDE-301に対して、モニター強度信号41の強度が最小となる状態を与える被測定光信号25の偏波面回転量、及び第1偏波面調整信号33に与えたDGD量の値をPMDエミュレータPMDE-301から読み出す。PMDベクトルの方向は、伝送路を通った信号の直交偏光状態と可変DGD補償器34の固有軸とを一致させるために必要であった第一偏波面コントローラの偏光変換行列(例えば、ジョーンズマトリクスやミューラーマトリクス)の逆ベクトルとし、可変DGD補償器34による補償量をPMDベクトルの大きさと決定できる。すなわち、第1偏波面コントローラ32と可変DGD補償器34により発生されるPMDベクトルから、PMDベクトルを決定する。
PMDエミュレータPMDE-301から出力される被測定光信号25の偏波面回転量及び第1偏波面調整信号33に与えたDGD量の値は、USBインターフェース(図示を省略してある。)を介して、上述のパーソナルコンピュータ72に入力される構成とし、このパーソナルコンピュータ72には、被測定光信号25の偏波面回転量及び第1偏波面調整信号33に与えたDGD量の値からストークスパラメータを算出するプログラムを予めインストールしておく。すなわち、このパーソナルコンピュータ72によって、このストークスパラメータからPMDベクトルを確定する構成とする。
また、このパーソナルコンピュータ72には、上述したモニター強度信号41の波長成分のうち測定対象とする波長に対する強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34及び第2偏波面コントローラ36をそれぞれ制御するためのアルゴリズムを予めプログラミングしたプログラムが動作可能である状態に設定しておく。すなわち、このパーソナルコンピュータ72から、モニター信号波長成分強度検出部40及びPMDベクトル確定制御部42を制御し、上述のモニター強度信号41の波長成分のうち測定対象とする波長に対する強度が最小となるようにする制御を実行するアルゴリズムを実現させる構成とすると共に、被測定光信号25の偏波面回転量及び第1偏波面調整信号33に与えるDGD量を読み出してPMDベクトルを確定する機能をこのパーソナルコンピュータ72で行うことが可能である。
モニター信号波長成分強度検出部40は、スペクトラムアナライザーを具えて構成するのが好適である。この場合スペクトラムアナライザーによって、モニター信号39の測定対象とする波長に対する強度が観測される。スペクトラムアナライザーから出力されるモニター信号39の測定対象とする波長に対する強度を反映した電気信号がモニター強度信号41として出力され、PMDベクトル確定制御部42に入力される。
モニター信号波長成分強度検出部40を、スペクトラムアナライザーを具えて構成すれば、モニター信号39の波長を固定することなく自由に変更して観測することが可能となる。従って、光信号21の光搬送波の波長に任意に対応して光ファイバ伝送路21のPMDベクトルを測定することが可能である。
しかしながら、スペクトラムアナライザーは高価であるので、光信号の波長が1波長に限定された光通信システムにおける光ファイバ伝送路特定のPMDを測定するのであれば、モニター信号波長成分強度検出部40をスペクトラムアナライザーに代えてバンドパスフィルタと光電変換器との組み合わせとして形成するのが好適である。
一般に、光通信システムにおいて使われる光信号の光搬送波の波長は、CバンドやLバンドなど特定の波長が設定されている場合が多いので、このような光通信システムを構成する光ファイバ伝送路のPMDの測定は、所望の光搬送波波長においてのみ行えば十分である。
<第1実施例>
図4にモニター信号波長成分強度検出部50をバンドパスフィルタ52と光電変換器54との組み合わせとして形成した第1実施例の第1のPMD測定装置30aの概略的ブロック構成図を示す。モニター信号波長成分強度検出部50以外は、上述の第1のPMD測定装置30と同一構成であるので重複する説明を省略する。
バンドパスフィルタ52と光電変換器54を具えて構成したモニター信号波長成分強度検出部50を具える第1実施例の第1のPMD測定装置30aにおいては、バンドパスフィルタ52によって、モニター信号39から測定対象波長成分が分離され、この測定対象波長成分光信号が光電変換器54で電気強度信号に変換されて狭波長帯域電気モニター信号51として出力される。すなわち、電気強度信号である狭波長帯域電気モニター信号51を得ることにより、バンドパスフィルタ52によって選択された波長に対する光ファイバ伝送路のPMDが測定される。
バンドパスフィルタ52には、例えば、ファブリ・ペロフィルター等が適宜利用可能であり、光電変換器54には、例えば、フォトダイオード等が適宜利用可能である。
また、バンドパスフィルタ52の透過波長帯を走査するための制御信号として第4制御信号(図示を省略してある。)をPMDベクトル確定制御部42から出力させ、バンドパスフィルタ52から出力されるモニター強度信号51を波長の関数として取得するシステムを構築する事も可能である。この場合は、上述のモニター信号波長成分強度検出部40を、スペクトラムアナライザーを用いて構成した場合と同様の機能が実現される。
なお、バンドパスフィルタ52は、透過波長が可変であるバンドパスフィルタを利用する必要はなく、2つ以上の波長固定型のバンドパスフィルタを用いてもよい。
バンドパスフィルタ52が実現可能である透過波長帯の変更可能波長帯域幅が狭いことに対処するためや、より安価な構成とするために、図5に示すように、帯域固定のバンドパスフィルタを2つ用いてモニター信号波長成分強度検出部を構成するのがよい。
<第2実施例>
図5は、モニター信号波長成分強度検出部を2つのバンドパスフィルタと2つの光電変換器とを用いて形成した第2実施例の第1のPMD測定装置30bの概略的ブロック構成図である。
モニター信号波長成分強度検出部60は、モニター信号39を第1モニター信号39-1と第2モニター信号39-2とに分岐するモニター信号分岐器70と、第1バンドパスフィルタ62と、第2バンドパスフィルタ66と、第1光電変換器64と、第2光電変換器68とを具えている。
第1バンドパスフィルタ62は、第1モニター信号39-1の第1測定波長帯域の波長成分を切り出し、狭波長帯域第1モニター信号63を生成する。第2バンドパスフィルタ66は、第2モニター信号39-2の第2測定波長帯域の波長成分を切り出し、狭波長帯域第2モニター信号67を生成する。
第1光電変換器64は、狭波長帯域第1モニター信号63を第1電気信号に変換して狭波長帯域第1電気モニター信号65を生成する。第2光電変換器68は、狭波長帯域第2モニター信号67を電気信号に変換して狭波長帯域第2電気モニター信号69を生成する。
狭波長帯域第1電気モニター信号65及び狭波長帯域第2電気モニター信号69は、PMDベクトル確定制御部42に入力される。
モニター信号分岐器70は、モニター信号39を第1モニター信号39-1と第2モニター信号39-2とを等しい強度に二分岐する。
第1バンドパスフィルタ62及び第2バンドパスフィルタ66のそれぞれの透過中心周波数の値は、被測定光信号21の光搬送波の周波数スペクトルの強度がピーク値の1/2程度の強度に等しくなる低周波数側の周波数ω1及び高周波数側の周波数ω2となるように設定するのが好ましい。
PMDベクトルの測定に当たっては、まず、狭波長帯域第1電気モニター信号65の強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34、及び第2偏波面コントローラ36の状態が調整される。この状態における第1偏波面コントローラ32による被測定光信号25の偏波面の回転量から決定される被測定光信号25の偏光状態を規定する単位ストークスベクトルs1を求める。また、可変DGD補償器34によって付与されるDGD値d1を読み取る。
引き続いて同様に、狭波長帯域第2電気モニター信号69の強度が最小となるように、第1偏波面コントローラ32、可変DGD補償器34、及び第2偏波面コントローラ36の状態が調整される。この状態における第1偏波面コントローラ32による被測定光信号25の偏波面の回転量から決定される被測定光信号25の偏光状態を規定する単位ストークスベクトルs2を求める。また、可変DGD補償器34によって付与されるDGD値d2を読み取る。
以上の測定に基づいて次式(1)で与えられる周波数ω1〜ω2の範囲のPCDを求めることが可能である。
また、次式(2)で与えられる周波数ω1〜ω2の範囲の偏光解消率(Depolarization-rate)を求めることが可能である。
(d1−d2)/(ω1−ω2) (単位:ps/GHz) (2)
被測定光信号の監視範囲を、PCD及び偏光解消率が光搬送波周波数に対して一定の割合で変化するPMDベクトルの2次までの範囲として扱えば十分である場合には、第2実施例に示す構成で異なる周波数ω1とω2におけるPMDベクトルを測定すればよい。
通常の光通信網の監視に当たって、PCD及び偏光解消率が光搬送波周波数に対して一定の割合で変化する2次までのPMDを監視する場合は、モニター信号波長成分強度検出部60を図5に示す構成とするのが好適である。すなわち、異なる2点の周波数においてPMDベクトルを測定すれば済むので、測定が短時間で完了させられること、及び装置の作製コストが低くて済むこと、及びモニター信号波長成分強度検出部60の占める大きさを小さくできる等の利点がある。
モニター信号波長成分強度検出部60の構成を、スペクトラムアナライザーを具えた構成とするか、上述の第1実施例及び第2実施例に示した構成とするかは、PMD測定装置が利用される光通信システムの都合等によって総合的に決定されると考えられる 。
なお、光通信システムを構築及び運用するに当たって、光通信システムの運用中にPMDベクトルを監視することを目的に、この発明のPMD測定装置を利用する場合には、例えば、第2実施例に示したPMD測定装置が適宜利用可能である。その場合、第1バンドパスフィルタ62及び第2バンドパスフィルタ66のそれぞれの透過中心周波数の値を、光信号の光搬送波の周波数スペクトルの強度がピーク値の1/2の強度に等しくなる低周波数側の周波数ω1及び高周波数側の周波数ω2となるように設定する。そして、上述の式(1)で与えられるPCDの値あるいは式(2)で与えられる偏光解消率が、通信に支障がない範囲として予め設定した値を超えた場合に警報が発せられる構成とすればよい。
また、単一波長でのDGDの値を監視することで十分である場合には、上述の第1実施例に示したPMD測定装置が適宜利用可能である。この場合には、PMDベクトルの測定波長を光信号の光搬送波の中心波長に設定すれば良いので、バンドパスフィルタ52への設定波長を光搬送波の中心波長とし、DGDの値が通信に支障がない範囲として予め設定した値を超えた場合に警報が発せられる構成とすればよい。
<この発明の実施形態の第2のPMD測定装置>
図6を参照して、この発明の実施形態の第2のPMD測定装置の構成及びその動作について説明する。図6は、この発明の実施形態の第2のPMD測定装置の構成及びその動作についての説明に供する概略的ブロック構成図である。
上述した様に、この発明の実施形態の第1のPMD測定装置においては、送信器20から出力された直後であって光ファイバ伝送路22の入力端における光信号の直交固有偏波モードと、光ファイバ伝送路のPMDの主偏光状態が合致した場合は、光信号の偏波モードは光ファイバ伝送路のPMDベクトルの影響を受けないため、光ファイバ伝送路のPMDベクトルを確定することができない。
このような状態を回避するため、この発明の実施形態の第2のPMD測定装置は、送信器20から出力された直後の光信号の直交固有偏波モードとこの光信号が伝播する光ファイバ伝送路のPMDの主偏光状態とが不一致となるように、光信号の偏波状態を調整する前段偏波面コントローラ80を具えている。前段偏波面コントローラ80を具えている以外は、上述の実施形態の第1のPMD測定装置と同様であるので、重複する説明を省略する。また、この発明の実施形態の第2のPMD測定装置においても、上述した第1実施例及び第2実施例として示した構成のモニター信号波長成分強度検出部を採用することが可能である。
前段偏波面コントローラ80は、第1偏波面コントローラ32及び第2偏波面コントローラ36と同一構造の装置を利用して構成することが可能である。ただし、前段偏波面コントローラ80の制御は、第1偏波面コントローラ32及び第2偏波面コントローラ36に対して行われた制御のように自動化する必要はない。光ファイバ伝送路22の入力端における光信号の直交固有偏波モードと光ファイバ伝送路のPMDの主偏光状態が合致する場合は頻繁に発生するものではないから、手動で前段偏波面コンロローラ80を制御する構成とすれば十分である。
<PMDベクトル測定の原理及び実験検証結果>
図7を参照して、この発明のPMD測定装置でPMDベクトルが測定される原理につき説明する。図7は、光の偏波状態を表すストークスベクトルをポアンカレ球と共に3次元で表現した図面である。
光ファイバ伝送路の周波数ω0におけるPMDベクトルをΩ(ω0)と表してあり、周波数(ω0+Δω)におけるPMDベクトルをΩ(ω0+Δω)と表してある。PMDベクトルの大きさが光ファイバ伝送路で発現するDGDの大きさを表し、PMDベクトルの方向は光ファイバ伝送路のPSPの方向を表す。
2次以上の高次のPMDが発生している場合は周波数(波長)に対応してPMDベクトルが変化する。この変化の様子を図7でΩ(ω0)及びΩ(ω0+Δω)によって表してある。
送信器20から出力された直後の光信号の偏波状態はDGDが0の状態にある。この光信号が光ファイバ伝送路を伝播することによって偏波状態が変化してDGDが発生した状態で被測定光信号25としてPMD測定装置30に入力される。PMD測定装置30では被測定光信号25の偏波状態を送信器20から出力された直後の光信号の偏波状態に近づけるべく第1偏波面コントローラ32及び可変DGD補償器34によって偏波状態が制御される。
すなわち、PMD測定装置30では光ファイバ伝送路のPMDベクトルと大きさが等しく向きが逆向きであるPMDベクトル(等化PMDベクトルという事もある。)を求める操作が実行されており、PMDベクトルと大きさが等しくかつ向きが反対であるPMDベクトルで与えられる状況を作り出して両者のベクトルを加算する操作が行われていることになる。
図7では、等化PMDベクトルを破線で示してある。2次以上の高次のPMDが発生している場合は周波数(波長)に対応して等化PMDベクトルも同様に変化させる必要がある。そこで、この発明の実施形態の第1及び第2のPMD測定装置においては、スペクトラムアナライザーあるいはバンドパスフィルタによって測定波長を固定して等化PMDベクトルを求める操作が行われる。
光ファイバ伝送路のPMDベクトルと等化PMDベクトルとが大きさが等しく方向が反対であるという状況からずれると第2偏波面コントローラ36と偏光子38とを透過した第2偏波面調整信号37は、PMDベクトルと等化PMDベクトルとの影響を平均的に受けた信号となり、完全に等化された場合と比較してその強度が強くなる。
図8(A)及び(B)を参照して、PMDベクトルが等化された場合の偏光子38から出力される第2偏波面調整信号37の波長スペクトルの変化につき説明する。図8(A)及び(B)は、PMDベクトルが等化された場合の第2偏波面調整信号37の波長スペクトルの変化の説明に供する図であり、図8(A)は、送信器20から出力された直後の光信号の波長スペクトルを示す図であり、図8(B)は、第2偏波面調整信号37の波長スペクトルを示す図である。図8(A)及び(B)において、横軸は光信号の波長をnm単位で目盛って示してあり、縦軸は光強度をdBm単位で目盛って示してある。図8(B)は、波長1550.5nm(搬送波)におけるPMD等化をおこなった例である。
図8(A)及び(B)に示すPMDベクトルの等化の確認実験においては、光信号としてビットレートが160 Gbit/sの2値ディジタル強度変調信号を用いた。図8(B)に示すように、光搬送波の波長が1550.1nmで強度が急激に小さくなっている。すなわち、第1偏波面コントローラ32と可変DGD補償器34により、波長が1550.5 nmにおける光ファイバ伝送路のPMDベクトルが等化されていることが示されている。
第2偏波面調整信号37が1次PMDの影響を主に受けており高次のPMDの影響が無視できるほど小さければ、第1偏波面コントローラ32と可変DGD補償器34とによって全波長においてPMDが等化されるので、第2偏波面調整信号37の波長スペクトルは、全波長帯域にわたって十分に小さな一定の大きさとなる。一方、図8(B)に示すように、一点の波長においてのみスペクトル強度が小さくなっている場合は、第2偏波面調整信号37が1次PMDのみならず高次のPMDの影響を受けている事を示している。すなわち、この場合は、光ファイバ伝送路のPMDベクトルは、光ファイバ伝送路を小さな複数の区間に分割して考えた場合、各区間におけるPMDベクトルは互いに様々な方向を向いており、複雑な複屈折構造を有していることを示している。