JP5012348B2 - 隔膜式過酸化水素電極 - Google Patents

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Description

本発明は、試料液中の過酸化水素の濃度の測定に用いられる隔膜式過酸化水素電極に関するものである。
従来、過酸化水素は、パルプ・木材・繊維等の漂白、工場排水処理、化学原料、食品容器の殺菌・洗浄など、各方面で使用されている。過酸化水素は、数ppmから数十%の広範囲の濃度範囲で用いられる。
一方、過酸化水素の濃度測定は、滴定法、屈折率法、酸素電極法、ポーラログラフ式電極法等がある。この内、ポーラログラフ式電極法は、電極をサンプルに直接浸漬し、定電位電解酸化を行い、電流測定によって過酸化水素濃度を測定する簡便な方法である。
図9は、従来のポーラログラフ式電極法を利用した過酸化水素濃度測定用の隔膜式電極、即ち、隔膜式過酸化水素電極の一例の要部概略断面を示す。
図9の隔膜式過酸化水素電極101は、円筒状の電極本体102の一端部近傍の内側に、電解液を収容する空間である電解液室120を有する。この電解液室120の開口部121を液密的に封止するように、測定対象ガスとして過酸化水素ガスを透過させるガス透過性の隔膜106が固定されている。そして、電解液室120の内部には、隔膜106に対向して作用極104が配置されている。
作用極104は、電解液室120内に電極本体102と同軸的に配設された電極支持部材(支持管)103の先端に取り付けられている。電極支持部材103の外周部には、対極105が取り付けられている。又、隔膜106は、隔膜保持部材107によって電極本体102に押圧されて固定される。
電極本体102の内部に形成された電解液室120内には、電極支持部材103、即ち、作用極104及び対極105が配置されると共に、電解液(内部液)110が収容(充填)される。電解液110は、作用極104と隔膜106との間に薄層状に浸入し、又、対極105に接触している。これにより、作用極104と対極105とは、電解液110によって電気的に接続される。
一般に、作用極104としては、白金(Pt)が用いられ、対極105としては銀−塩化銀(Ag/AgCl)が用いられる。又、電極支持部材103は、電気絶縁材料、例えば、ガラス、樹脂(エポキシ樹脂等)によって形成される。作用極104は、電極支持部材103に封入されて、その先端から少なくとも一部を露出するように設けられる。一般に、電解液110としては、塩化カリウム(KCl)溶液が用いられる。
作用極104及び対極105には、それぞれリード111、112が電気的に接続されている。そして、試料液の過酸化水素の濃度を測定する際には、隔膜式過酸化水素電極101を試料液に浸漬し、リード111、112を介して、作用極104と対極105との間に電源から所定の電解電圧を連続して印加し、電解電流の定常値を電流計にて測定する。そして、この電解電流の定常値が溶存過酸化水素濃度に比例することを利用して、測定された電解電流値から、試料液(検体)中の過酸化水素の濃度を求めることができる。この時、下記式(1)、(2)に示すように、作用極104においては過酸化水素の酸化反応により酸素が発生し、又対極105においては塩化銀の還元反応により銀が生成する。
作用極(Pt):
22→2H++O2+2e- ・・・(1)
対極(Ag/AgCl):
2AgCl+2e-→2Ag+2Cl- ・・・(2)
隔膜式電極自体は、当業者にとって周知であり、例えば、特許文献1に記載されている。
特開2002−39984号公報
しかしながら、従来の隔膜式過酸化水素電極には、次のような問題があった。即ち、従来の隔膜式過酸化水素電極101では、作用極104が露出して設けられた電極支持部材103の端部表面は平面又は曲面であり、作用極104、及びその周囲のガラス、プラスチックなどの絶縁物で形成された電極支持部材103は、隔膜106と密着(電解液の薄層を介して接触している状態を含む)するように構成されている。
隔膜106を透過した過酸化水素は、作用極104の表面で酸化され酸素に変化する。過酸化水素濃度が低ければ、この酸素は電解液110中に溶解する。しかし、過酸化水素濃度が高くなると、この酸素が気泡となり、作用極104の表面に付着して感度が低下する。更に、この作用極104の表面に付着した気泡が作用極104の表面から電解液110中に移動すると、電流値が大きく変動し、ふらつき現象が生じて、正確な測定ができなくなることがある。図10は、作用極104の表面に酸素の気泡が付着する様子を模式的に示す。
又、別の問題として、従来の隔膜式過酸化水素電極では、次のようなことが起こることがある。過酸化水素電極の隔膜106としては、通常、半透膜が使われ、妨害イオンも透過する。ペットボトルや缶などの食品容器の洗浄などに使われる場合は、洗浄液としては、過酸化水素以外に過酢酸などの混合されたものが使用される。このような食品容器の洗浄液の測定に隔膜式過酸化水素電極が用いられる場合には、洗浄液中の過酢酸が隔膜106を透過して、電解液110のpHを酸性側に変化させる。そのため、限界電流が変化し、大きな測定誤差となることがある。
従って、本発明の目的は、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることができる隔膜式過酸化水素電極を提供することである。
又、本発明の他の目的は、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることを可能とすると共に、この安定した指示値をより長期にわたり得ることを可能とする隔膜式過酸化水素電極を提供することである。
上記目的は本発明に係る隔膜式過酸化水素電極にて達成される。要約すれば、本発明は、端部表面から露出するように作用極が設けられた電極支持部材と、内部に前記電極支持部材が配置されると共に電解液が収容される電解液室と、前記電解液室の開口部を液密的に封止すると共に前記作用極に接触するように前記電極支持部材の軸線方向と交差する面に沿って設けられた隔膜と、を有する隔膜式過酸化水素電極において、前記電極支持部材は、該電極支持部材をその軸線方向に沿って前記隔膜上に投影した領域内の前記隔膜に対して間隔を有して対向する表面を前記端部にし、該対向する表面と前記隔膜との間に、前記作用極の表面で生成した酸素ガスの気泡が前記電極支持部材の前記軸線方向と交差する方向に移動して前記電解液室内の電解液中に移動することを許す気泡通路が形成され、対極は前記気泡通路を通過中又は前記気泡通路を通過した直後の前記気泡が接触しないように前記電極支持部材の外周部に設けられていることを特徴とする隔膜式過酸化水素電極である。
本発明の一実施態様によると、前記電極支持部材から露出して前記隔膜に接触する前記作用極の表面は直径がd1の略円形であり、前記作用極及び前記電極支持部材で形成される前記隔膜に接触する面は直径がd2の略円形であり、次式、d1≦d2≦6×d1の関係を満たす。
本発明の他の実施態様によると、前記電極支持部材から露出して前記隔膜に接触する前記作用極の表面は直径がd1の略円形であり、前記作用極及び前記電極支持部材で形成される前記隔膜に接触する面は直径がd2の略円形であり、前記開口部は直径がDの略円形であり、次式、2×d1≦D≦20×d1、且つ、d2≦Dの関係を満たす。
本発明の他の実施態様によると、前記電極支持部材は、その端部表面に、前記電極支持部材をその軸線方向に沿って前記隔膜上に投影した領域内の前記隔膜に対して間隔を有して対向する表面を底部に有する溝部を前記気泡通路として有する。そして、好ましい一実施態様によると、前記溝部は、前記電極支持部材から露出した前記作用極を中心として放射状に複数形成される。
本発明によれば、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることができる。又、本発明によれば、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることを可能とすると共に、この安定した指示値をより長期にわたり得ることを可能とすることができる。
以下、本発明に係る隔膜式過酸化水素電極を図面に則して更に詳しく説明する。
実施例1
図1は、本発明に係るポーラログラフ式電極法を利用した過酸化水素濃度測定用の隔膜式電極、即ち、隔膜式過酸化水素電極の一実施例の要部概略断面を示す。
本実施例の隔膜式過酸化水素電極1は、原理的には、図9を参照して説明した従来のものと同様である。即ち、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1は、円筒状の電極本体2の一端部近傍の内側に、電解液を収容する空間である電解液室20を有する。この電解液室20の開口部21を液密的に封止するように、測定対象として過酸化水素を透過させる半透性の隔膜6が固定されている。そして、電解液室20の内部には、隔膜6に対向して作用極4が配置されている。
作用極4は、電解液室20内に電極本体2と同軸的に配設された、全体として細長円柱状の電極支持部材(支持管)3の先端に取り付けられている。又、電極支持部材3の外周部には、対極5が取り付けられている。
本実施例では、隔膜6は、隔膜支持体としての段付き円環状の隔膜リング8の、略円形の中央開口部を塞ぐように予め張設されている。そして、この隔膜リング8に嵌合する隔膜保持部材としての袋ナット7を、電極本体2の端部に螺合することによって、パッキン9を介して隔膜リング8を電極本体2に押圧し、固定する。これにより、隔膜6は、電解液室20の開口部21を液密的に封止する。
電極本体2の内部に形成された電解液室20内には、電極支持部材3、即ち、作用極4及び対極5が配置されると共に、電解液(内部液)10が収容される。電解液10は、作用極4と隔膜6との間に薄層状に浸入し、又、対極5に接触している。これにより、作用極4と対極5とは、電解液10によって電気的に接続される。
このように、電解液10が作用極4と隔膜6との間に浸入して、作用極4の表面上に極めて薄い電解液10の薄層が形成されるが、作用極4は実質的に隔膜6に接触(密着)しているものとみることができる。但し、全体として上述のような電解液10の薄層を介した接触状態を有する領域内の一部において、作用極4が実際に直接的に隔膜6に接触している部分があってもよい。隔膜式電極における斯かる接触状態、即ち、作用極が隔膜に対し直接又は電解液の薄層を介して接触する状態は、当業者には自明である。
作用極4としては、一般に、白金(Pt)、金(Au)などが用いられるが、本実施例では白金(Pt)を用いた。又、対極5としては、一般に、銀−塩化銀(Ag/AgCl)、銀(Ag)などが用いられるが、本実施例では銀−塩化銀(Ag/AgCl)を用いた。又、電極支持部材3は、電気絶縁材料、例えば、ガラス、樹脂(エポキシ樹脂等)によって形成することができるが、本実施例では、エポキシ樹脂で作製した。作用極4は、電極支持部材3に封入されて、その先端から少なくとも一部を露出するように設けられる。又、本実施例では、電解液10としては、0.1mol/Lの塩化カリウム(KCl)溶液を用いた。
作用極4及び対極5には、それぞれリード11、12が電気的に接続されている。そして、試料液の過酸化水素の濃度を測定する際には、前述と同様にして、隔膜式過酸化水素電極1を試料液に浸漬し、リード11、12を介して、作用極4と対極5との間に電源から所定の電解電圧を連続して印加し、電解電流の定常値を電流計にて測定する。この時、作用極4及び対極5においては、前述の式(1)、(2)で示される反応が起こる。
ここで、従来の隔膜式過酸化水素電極では、作用極が露出して設けられた電極支持部材の端面は、平面であるか、又は、隔膜を張り易くするために曲面(半球面状等)であった。そのため、作用極及び電極支持部材は、隔膜にほぼ全面にわたって密着(電解液の薄層を介して接触している状態を含む)するようになり、過酸化水素が酸化されて生成された酸素ガスの気泡が作用極の表面に溜まり、感度低下の原因となっていた。
このような問題は、500ppm以下といった比較的低濃度の過酸化水素を含む試料液の測定時には、発生し難いが、例えば食品容器の洗浄液のように1000ppm〜2000ppmといった比較的高濃度の過酸化水素を含む試料液の測定時には顕著に発生するようになる。
そこで、本実施例では、隔膜式過酸化水素電極1は、次のような構成とする。即ち、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1は、上述のように、端部表面から露出するように作用極4が設けられた電極支持部材3と、内部に電極支持部材3が配置されると共に電解液10が収容される電解液室20と、電解液室20の開口部21を液密的に封止すると共に作用極4に接触するように電極支持部材3の軸線方向と交差(本実施例では略直交)する面に沿って設けられた隔膜6と、を有する。
そして、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1は、電極支持部材3が、該電極支持部材3をその軸線方向(即ち、本実施例では細長円柱状の長手方向)に沿って隔膜6上に投影した領域内の隔膜6に対して、間隔を有して対向する表面(以下「気泡通路面」ともいう。)3bを有する構成とする。
これにより、試料液の過酸化水素の濃度が高く、作用極4の表面で生成した酸素が電解液10に溶解せずに気泡として現れ始めたとしても、この気泡は速やかに、上記電極支持部材3の端部の隔膜6から離間している表面(気泡通路面)3bと隔膜6との間に形成される気泡通路Eを通して拡散する。従って、酸素の気泡が作用極4の表面に付着して感度低下をもたらすこと、或いは作用極4の表面に溜まった後に移動することによる電流値の大きな変動を引き起こすことを抑制することができる。
特に、本実施例では、酸素ガスの気泡が作用極4の表面に溜まらずに、すぐに電解液室20内の電解液10中に移動するように、作用極4の周囲の絶縁物から成る電極支持部材3を、図2及び図3に示すような形状とする。図2は、電極支持部材3の作用極4が設けられた端部近傍の断面を拡大して示す。図3は、電極支持部材3を開口部21方向から見た時の各部の寸法の関係を示す。
更に詳しく説明すると、本実施例では、電極支持部材3は、気泡通路Eの部分を除き全体として略一様な外径d3を有する細長円柱状である。従って、電極支持部材3をその軸線方向に隔膜6上に投影した領域は、直径d3を有する略円形である。
又、本実施例では、電極支持部材3の一端部に、略一様な外径d1を有する細長円柱状の作用極4が同軸的に封入されている。作用極4は、ほぼその軸線方向(細長円柱状の長手方向)と直交する面に沿う表面の略全体が、電極支持部材3の端部表面から露出している。従って、電極支持部材3から露出した作用極4の表面4aは直径がd1の略円形であり、この表面4aが隔膜6に接触する。
そして、本実施例では、全体として細長円柱状の電極支持部材3の作用極4が設けられた側の端部のエッジが面取りされた形状になっている。これにより、電極支持部材3の端部に、隔膜6から離間している表面(気泡通路面)3bが形成される。
このような電極支持部材3の端部の形状は、一例として、次のようにして形成することができる。先ず、本実施例ではエポキシ樹脂製とされる略直円柱状の電極支持部材3の端部に、同じく略直円柱状の作用極4が同軸的に封入された基礎部材を成型する。次いで、作用極4と隔膜6との密着性を良くするため、又隔膜6と接触する部分がある場合には電極支持部材3と隔膜6との隔膜6との密着性を良くするために、上記基礎部材の作用極4が設けられた側の端面を研磨加工などにより曲面状(半球面状)にする。次いで、上記基礎部材の曲面状とされた端面のエッジ部を、切削加工、研磨加工などにより該基礎部材の軸線方向と直交する方向に対して所定の角度αをなすように面取りすることで、端部に隔膜6に接触しない表面(気泡通路面)3bを有する電極支持部材3を形成する。
この時、電極支持部材3から露出して隔膜6に接触する作用極4の表面4aの周囲に、隔膜6に接触する電極支持部材3の部分3aがあってよい。但し、作用極4の表面で発生した酸素ガスの気泡を、気泡通路Eを通して効率よく移動させるためには、作用極3が露出している部分を含み電極支持部材3が隔膜6に接触する面(以下「接触端面」ともいう。)Cの直径d2を、電極支持部材3から露出して隔膜6に接触する作用極4の表面4aの直径d1の6倍以内とすることが好ましい。この直径d2が、直径d1の6倍を超えると、作用極4上で発生した酸素ガスの気泡が作用極4の表面に溜まりやすくなり、指示値が不安定化し易くなる。尚、電極支持部材3から露出して隔膜6に接触する作用極4の表面4aの周囲に、隔膜6に接触する電極支持部材3の部分3aを設けず、作用極4の表面4aから直接、気泡通路Eに連続するようになっていてもよい。
即ち、電極支持部材3から露出して隔膜6に接触する作用極4の表面4aの直径d1と、作用極3及び電極支持部材3で形成される隔膜6に接触する面(接触端面)Cの直径d2とは、次式、
d1≦d2≦6×d1
の関係を満たすことが好ましい。
より詳細には、これに限定するものではないが、例えば、隔膜式過酸化水素電極1が食品容器の洗浄液の測定に用いられる場合などには、直径d1は0.2mm〜3mm程度が好適であり、本実施例では0.5mmとした。又、直径d2は、直径d1との関係で上記範囲に設定することが好ましく、本実施例では3mmとした。又、直径d3は、3mm〜20mm程度が好適であり、本実施例では6mmとした。又、気泡通路面3bと電極支持部材3の軸線方向に直交する方向とのなす角αは10度〜60度程度が好適であり、本実施例では30度とした。
尚、本実施例では、気泡通路面3bは、断面で見たときに電極支持部材3の軸線方向に対して傾斜した略一様な平面状としたが、これに限定されるものではなく、例えば図4に示すように、電極支持部材3の内側に向けて凸の曲面状としてもよい。勿論、気泡通路面3bは、電極支持部材3の外側に向けて凸の曲面状としてもよい。
更に、例えば、隔膜式過酸化水素電極1が食品容器の洗浄液の測定に用いられる場合などに、妨害イオンが隔膜6を透過し、電解液10中に侵入し難くするため、電極支持部材3から露出した作用極4の表面4aの直径d1に対し、開口部21の直径Dを2倍〜20倍の範囲に設定することが好ましい。この直径Dが、直径d1の20倍を超えると、試料液中の妨害イオンが電解液室20内へ浸入し易くなり、より短い期間で指示値が不安定になり易くなる。但し、製造容易性等の理由から、開口部21の直径Dは、接触端面Cの直径d2以上であることが望ましい。
即ち、電極支持部材3から露出して隔膜6に接触する作用極4の表面4aの直径d1と、作用極4及び電極支持部材3で形成される隔膜6に接触する面(接触端面)Cの直径d2と、開口部21の直径Dとは、次式、
2×d1≦D≦20×d1、且つ、
d2≦D
の関係を満たすことが好ましい。
特に、本実施例では、電極支持部材3から露出した作用極4の直径d1に対し、開口部21の直径Dを、従来26倍であったのに比べて12倍と小さくした。
(実験例)
次に、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1と比較例の隔膜式過酸化水素電極とで指示値の安定性を比較する実験を行った結果について説明する。
本実験例では、市販の食品容器用洗浄液(トーヨーアクティブ:エコラボ株式会社)を希釈した、1000mg/l程度の過酸化水素を含有する試料液の、過酸化水素濃度を連続して測定した。
比較例の隔膜式過酸化水素電極は、電極支持部材3の作用極4が設けられている側の端部のエッジを削って気泡通路Eを形成していないことを除いて、本実施例と同様の構成としたものを用いて比較対象とした。即ち、比較例の隔膜式過酸化水素電極では、電極支持部材3は、その外径とほぼ等しい直径d3を有する略円形の端面(接触端面)の全域で隔膜6と接触する。
図5は、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1による指示値を示す。又、図6は、比較例の隔膜式過酸化水素電極による指示値を示す。
比較例では、測定開始から約1時間を過ぎると、指示値が急速に低下し始める。約3時間後には指示値(過酸化水素濃度)は13.7%減少した(図6)。これは、試料液中の過酸化水素が作用極上で酸化されることで発生した酸素ガスが、電解液中に溶解しきれずに酸素ガスの気泡として作用極の表面に付着したことによる感度低下、更にはこの付着した酸素ガスが移動することによる電流値の変動が発生したためと考えられる。
これに対して、本実施例では、約7時間経過しても、指示値は非常に安定していた(図5)。これは、作用極上で発生した酸素ガスの気泡が作用極の表面に付着することなく速やかに気泡通路Eを介して拡散できたためであると考えられる。更に連続して測定を行ったところ、20時間以上、有意な指示値の不安定化は観察されなかった。
一方、上記結果が得られた本実施例及び比較例について、開口部21の直径Dを従来の隔膜型過酸化水素電極と同様に、電極支持部材3から露出した作用極4の表面4aの直径d1の26倍に変更して、上記同様の実験を行った。
この場合、上記比較例について開口部21の直径Dを変更したものでは、図6に示す結果と実質的に同様の結果が得られ、指示値が不安定化し易いことが分かった。
一方、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1について開口部21の直径Dを変更したものでは、5時間程度の測定では、図5に示す結果と実質的に同様の結果が得られ、指示値が安定であることが分かった。但し、更に10時間程度の長時間の測定を行うと、本実施例の隔膜式過酸化水素電極1と比較して指示値が不安定化することがあった。これは、開口部21を広くしたことによって、試料液に含まれる妨害イオンである過酢酸が隔膜6を透過して電解液10に浸入し易くなったためであると考えられる。
以上説明したように、本実施例によれば、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることができる。又、本実施例によれば、高濃度の過酸化水素を含む試料液を測定する場合にも安定した指示値を得ることを可能とすると共に、この安定した指示値をより長期にわたり得ることを可能とすることができる。
実施例2
次に、本発明に係る他の実施例について説明する。本実施例の隔膜式過酸化水素電極の基本的な構成は実施例1と同じである。従って、実施例1のものと同一又はそれに相当する機能、構成を有する要素には同一符号を付して、詳しい説明は省略する。
図7は、電極支持部材3の作用極4が設けられた側の端部近傍の断面を拡大して示す(図8中のA−A線断面)。図8は、電極支持部材3を作用極4が設けられた側の端部側から見た様子を示す。
本実施例では、気泡通路Eは、実施例1のように電極支持部材3の端部のエッジを一様に面取りすることで形成された気泡通路面3bと、隔膜6との間の空間として形成されるのではなく、電極支持部材3の端面に溝部として形成される。本実施例では、隔膜3に対向するこの溝部Eの底面が、電極支持部材3の端部において隔膜6から離間した表面(気泡通路面)3bを形成する。
この溝部Eは、気泡通路Eへと良好に気泡を導くためには、作用極4(より詳細にはその中心)を中心として放射状に複数設けることが好ましい。作用極4の表面で発生した酸素ガスの気泡を、気泡通路Eを通して効率よく移動させるためには、溝部Eは、4個〜12個設けることがより好ましい。本実施例では、作用極4を中心として放射状に8個の溝部Eを設けた。又、これに限定されるものではないが、溝部Eの幅wは、0.1mm〜2mm程度が好適であり、本実施例では0.5mmとした。
即ち、本実施例では、電極支持部材3は、その端部表面に、電極支持部材3をその軸線方向に沿って隔膜6上に投影した領域内の隔膜6に対して間隔を有して対向する表面3bを底部に有する溝部Eを有する。そして、好ましくは、この溝部Eは、電極支持部材3から露出した作用極4を中心として放射状に複数形成される。
ここで、図7に示すように、溝部Eの底面である気泡通路面3bと電極支持部材3の軸線方向に直交する方向とのなす角α’は実施例1における気泡通路面3bに関する角度αと同様とすることができる。又、図8に示すように、作用極4を中心として放射状に複数設けられた溝部Eの底面である気泡通路面3bの、作用極4に対する最近接部を結ぶ仮想円の直径をd2’とした時、この直径d2’の設定範囲は、実施例1にて説明した直径d2と同じとすることが好ましい。これにより、作用極4の表面で発生した酸素ガスの気泡を、気泡通路Eを通して効率よく移動させることができる。
以上説明したように、本実施例の構成によっても、実施例1と同様の効果を得ることができる。
上述では、本発明を具体的な実施例に則して説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではないことを理解されたい。例えば、電極支持部材、作用極の断面形状は、製造上円形に限定されるものではなく、楕円、四角形その他の多角形など、任意の形状であってよい。
本発明に係る隔膜式過酸化水素電極の要部概略断面図である。 図1の隔膜式過酸化水素電極における電極支持部材の作用極が設けられた側の端部近傍の拡大断面図である。 図1の隔膜式過酸化水素電極における電極支持部材を開口部方向から見た時の各部の寸法の関係を示す図である。 本発明に係る隔膜式過酸化水素電極における気泡通路面の他の形態を説明するための、電極支持部材の作用極が設けられた側の端部近傍の拡大断面図である。 実施例の効果を説明するためのグラフ図である。 比較例についての実験結果を示すグラフ図である。 本発明に係る隔膜式過酸化水素電極の他の実施例における、電極支持部材の作用極が設けられた側の端部近傍の拡大断面図である。 図7の隔膜式過酸化水素電極における電極支持部材を作用極が設けられた側から見た様子を示す図である。 従来の隔膜式過酸化水素電極の一例の概略断面図である。 従来の課題を説明するための模式図である。
符号の説明
1 隔膜式過酸化水素電極
2 電極本体
3 電極支持部材
3b 気泡通路面
4 作用極
5 対極
6 隔膜
E 気泡通路

Claims (5)

  1. 端部表面から露出するように作用極が設けられた電極支持部材と、内部に前記電極支持部材が配置されると共に電解液が収容される電解液室と、前記電解液室の開口部を液密的に封止すると共に前記作用極に接触するように前記電極支持部材の軸線方向と交差する面に沿って設けられた隔膜と、を有する隔膜式過酸化水素電極において、
    前記電極支持部材は、該電極支持部材をその軸線方向に沿って前記隔膜上に投影した領域内の前記隔膜に対して間隔を有して対向する表面を前記端部にし、該対向する表面と前記隔膜との間に、前記作用極の表面で生成した酸素ガスの気泡が前記電極支持部材の前記軸線方向と交差する方向に移動して前記電解液室内の電解液中に移動することを許す気泡通路が形成され、対極は前記気泡通路を通過中又は前記気泡通路を通過した直後の前記気泡が接触しないように前記電極支持部材の外周部に設けられていることを特徴とする隔膜式過酸化水素電極。
  2. 前記電極支持部材から露出して前記隔膜に接触する前記作用極の表面は直径がd1の略円形であり、前記作用極及び前記電極支持部材で形成される前記隔膜に接触する面は直径がd2の略円形であり、次式、
    d1≦d2≦6×d1
    の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の隔膜式過酸化水素電極。
  3. 前記電極支持部材から露出して前記隔膜に接触する前記作用極の表面は直径がd1の略円形であり、前記作用極及び前記電極支持部材で形成される前記隔膜に接触する面は直径がd2の略円形であり、前記開口部は直径がDの略円形であり、次式、
    2×d1≦D≦20×d1、且つ、
    d2≦D
    の関係を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の隔膜式過酸化水素電極。
  4. 前記電極支持部材は、その端部表面に、前記電極支持部材をその軸線方向に沿って前記隔膜上に投影した領域内の前記隔膜に対して間隔を有して対向する表面を底部に有する溝部を前記気泡通路として有することを特徴とする請求項1に記載の隔膜式過酸化水素電極。
  5. 前記溝部は、前記電極支持部材から露出した前記作用極を中心として放射状に複数形成されることを特徴とする請求項4に記載の隔膜式過酸化水素電極。
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