JP5003448B2 - 既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造 - Google Patents

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Description

本発明は、鉄筋コンクリート構造体の耐震性を向上させるための差し筋方式によるせん断補強構造に関するものであり、例えば、ボックスカルバートの壁、底版、頂版、フーチング等、既設の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体について、一方向から補強を行う場合のせん断補強に適している。
後施工による耐震補強の手段として、既存のボックスカルバートやトンネルなどの地下構造物について、鉄筋コンクリート製の壁等に、内側から差し筋(補強鉄筋)を挿入してせん断補強する方法が従来から広く知られている。
例えば、非特許文献1には、内空断面を小さくせずに施工できる耐震補強の方法として、陸上トンネルやU形擁壁の内側から差し筋(補強鉄筋)を挿入してせん断補強する方法が断面図とともに示されている。
特許文献1、特許文献2にも、同様に鉄筋コンクリート構造物の後施工によるせん断補強として、補強の対象となる構造物に孔を穿孔し、差し筋としての補強鋼材を挿入し、モルタルなどの充填材を充填することが記載されている。また、棒状の補強鋼材を穿孔した孔より短くして、内側に露出しないようにした形態が示されている。
特許文献3、特許文献4も差し筋を用いた後施工のせん断補強に関するものであり、特許文献3では、差し筋としてのせん断補強鉄筋の後端部のみまたは後端部と先端部の両方にせん断補強鉄筋より断面の大きい定着部材を一体化し、その定着部材について既存の主鉄筋と同等のかぶりコンクリート厚を確保するようにしている。
特開2002−275927号公報 特開2003−113673号公報 特開2005−105808号公報 特開2004−293294号公報 「事例3 沈埋トンネル(東京港第二航路海底トンネル)継ぎ手の改良などでせん断補強」、日経コンストラクション平成13年1月12日号、日経BP社、P72−73
(1) 定着効率の向上
せん断補強鋼材を後挿入する壁状部材のせん断補強において、特許文献3のようにかぶりを確保し主鉄筋位置に定着すると、定着部を有していても定着効率が不十分で、せん断補強鋼材を必要以上に太径としたり、挿入数を多くしたりしなければならないことになる。
また、先端部に定着部材を有するものを挿入する場合、その定着部材の直径に対して余裕を見た孔径で削孔しなければならない。そのため、定着部材と同じ太さのせん断補強鋼材を挿入しても、結局、同じである。
また、充填材として樹脂を注入する場合は、隙間が狭いことは何ら問題でなく、むしろその方が注入量は少なく、樹脂硬化過程の発熱による強度低下も少なくてすむ。
先端部に定着部材を有し定着効率の高いせん断補強鋼材でも、定着部材がなく定着効率の低い太径のせん断補強鋼材でも、せん断補強鋼材の負担できるせん断力にはさほど差がなく、コストとしても定着部材を加工することから、両者に大差はない。
コストに締める割合は、削孔費用が最も高いため、設計上許容される範囲で削孔の間隔を大きくとり、削孔間隔に見合う太径のせん断補強鋼材を後挿入するのが合理的である。
(2) 定着部の耐久性に関する問題
従来のコンクリートに埋設される位置に定着部材を配置する工法の場合、定着部材部分の削孔箇所は、モルタル等で後埋めする必要があった。こうしたモルタルは、コンクリートよりも透水性が高い。
また、モルタルの乾燥収縮もコンクリートより大きい上、既設コンクリートとの材齢差があるため、モルタルの収縮により既設コンクリートとの間が肌離れすることが多かった。そこから水分、塩分が浸透すると、定着体の防錆に十分な効果が得られないという問題点があった。
また、主鉄筋位置に定着部材を配置する従来の工法は、実際には、鋼材に必要なかぶり厚さを満足していない場合がある。これは、既設構造物の設計・施工当時よりも、現在の方が設計規準で必要とされるかぶり厚さが大きく、後施工によるせん断補強鋼材を主鉄筋位置に配置しても、現在の設計規準に照らし合わせた場合、必要なかぶり厚さを満足できないことがあるからである。
コンクリートを削孔し、コンクリートに微細なひび割れを発生させる可能性のある従来のせん断補強工法においては、上述の後埋めモルタルによる防錆欠陥の可能性もあわせて考えると、鋼材の防錆に大きな問題がある。
本発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、定着効率が高く、かつ定着部の耐久性に優れた既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造を提供することを目的としている。
本願の請求項1に係る発明は、既設の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体に、該構造体の一面側から反対面側へ向けて穿設された補強鋼材挿入孔と、前記補強鋼材挿入孔に挿入された棒鋼からなる補強鋼材と、前記補強鋼材挿入孔と前記補強鋼材との隙間に充填された硬化性充填材を構成要素とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造であって、前記補強鋼材の端部には該端部を覆う耐食性のある素材からなる定着体一体化するとともに、前記補強鋼材の外径より径の大きい定着部を鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に形成したことを特徴とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
また、本願の請求項2に係る発明は、既設の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体に、該構造体の一面側から反対面側へ向けて穿設された補強鋼材挿入孔と、前記補強鋼材挿入孔に挿入された棒鋼からなる補強鋼材と、前記補強鋼材挿入孔と前記補強鋼材との隙間に充填された硬化性充填材を構成要素とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造であって、前記補強鋼材の挿入方向後端側に前記補強鋼材の後端部を覆う耐食性のある素材からなる後端側定着体を一体化して耐久性に優れ前記補強鋼材の外径より径の大きい後端側定着部を形成するとともに、定着効率を大きくすべく、前記後端側定着部における前記後端側定着体の後端を、前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一にするかまたは前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出させて前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に位置させることで、前記補強鋼材の長さが長くなるようにしたことを特徴とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
棒状の補強鋼材による差し筋方式のせん断補強により、既存の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体のせん断耐力、靭性を向上させるという考え方は、背景技術の項で説明した各種従来技術と同様であり、本発明は棒鋼からなる補強鋼材の端部に、端部を覆う耐食性のある素材からなる定着体を一体化するとともに、補強鋼材の外径より径の大きい定着部を鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に形成した点が、従来のものと異なる。
特許文献1、特許文献2に記載された発明は、補強鋼材の挿入方向後端が鉄筋コンクリート構造体内に埋め込まれ、表面に露出しないようにしているが、かぶりコンクリート部分に位置するため、補強鋼材位置からのコンクリートのひび割れや剥離の影響を受ける恐れがあり、モルタルなどで表面を補修したとしても、防錆上の問題や定着耐力の低下の問題がある。
そのため、特許文献3記載の発明では、主筋位置に断面の大きい定着部材を設けることとしているが、せん断補強鋼材が短くなる分、せん断補強効率が低下し、外径の大きい定着部材を設けてせん断補強効率の向上を図っているものの、前述したように穿孔の径とせん断補強鋼材の径との関係において、効率的とは言えない。
本発明では、耐食性のある素材からなる定着体で補強鋼材の端部を覆ってしまうことで、防錆目的のかぶりコンクリートやモルタルによる補修は必要なくなり、少なくとも後端側定着体部分については、それ自体のひび割れの問題はなく、逆に断面の大きい定着体により応力が分散され、近傍のコンクリートのひび割れも抑制することができる。
すなわち、従来の差し筋方式のせん断補強構造は、かぶりコンクリートや主筋との関係で、わざわざ補強鋼材を短くし、また補強鋼材と一体化される定着部材もコンクリート内に埋め込んでいるが、本発明のように耐食性のある素材からなる定着体を一体化すれば、わざわざかぶりコンクリートより深い位置に埋め込む必要はなく、内面側への突出量が問題とならない範囲で、できるだけ補強鋼材の長さを長くすることで、定着効率を大きくすることができる。
また、定着効率が大きければ、先端側の定着部を設けなくても、あるいは定着部の径を小さくしても十分なせん断耐力が得やすくなるため、補強鋼材挿入孔の径をできるだけ小さくして、コストに締める割合が大きい削孔費用を抑えることができ、硬化性充填材の充填量も節約することができる。
硬化性充填材の充填は、補強鋼材の挿入前、挿入後の何れでもよく、硬化性充填材の種類や、補強鋼材挿入孔の孔径と補強鋼材の径、種類との関係等に応じて、適宜、選択することができる。
補強鋼材と後端側定着体の接合に関しては、ネジ節鉄筋を用い、後端側定着体として雌ネジを成形した一種のナットを螺合する方法、既往のセラミックインサートあるいはセラミックアンカーのように通常のMネジが螺合可能なアンカー体を用い、全ネジ棒またはネジ棒を接合した補強鋼材を用いる方法等、種々の方法が考えられる。
また、硬化性充填材との付着を高めるために、また、水分の浸透経路を長くするために、後端側定着体の側面を凹凸形状あるいは波形状にしてもよい。
本発明に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記後端側定着体の後端が前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一であるかまたは前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出しており、前記補強鋼材の後端が前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に位置している。
前述のように、補強鋼材の端部を覆う耐食性のある素材からなる後端側定着体を一体化しているため、本発明では補強鋼材および後端側定着体を、わざわざかぶりコンクリートより深い位置に埋め込む必要はなく、内面側への突出量が問題とならない範囲で、できるだけ補強鋼材の長さを長くすることで、定着効率を大きくすることができる。
また、後端部をかぶりコンクリート内など既存の鉄筋コンクリート壁の表面から浅い位置に設置することは、後端側定着体部分の削孔量を低減する上でも有効である。
そのため、本発明では、後端側定着体の後端が既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一であるかまたは既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出するようにし、補強鋼材の後端が前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に位置するようにしたものである。
後端側定着体の後端が既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一の場合には、例えばボックスカルバートやトンネルの壁等のせん断補強において、既設の鉄筋コンクリート構造体の内側への突出がなく、内部空間を狭めることなく、せん断補強を行なうことができる。
また、部分的にあるいは全体的にある程度、内側へ突出させてもかまわない条件下では、後端側定着体の後端が既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出するようにすることで、補強鋼材の定着長を増し、さらに定着効率を上げることができる。
請求項3は、前記補強鋼材の挿入方向先端側にも、前記補強鋼材の先端部を覆う耐食性のある素材からなる先端側定着体を一体化して耐久性に優れ前記補強鋼材の外径より径の大きい先端側定着部が、前記先端側定着体を前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分内に位置させて設け定着長を大きくしたことを特徴とする請求項2に記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
また、請求項4は、前記後端側定着体の先端部および/または前記先端側定着体の後端部を、前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分の全体を覆える位置に配置するか、それより内側のコンクリート部分まで延長して配置したことを特徴とする請求項3に記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
また、請求項5は、前記補強鋼材は異形棒鋼であるネジ節鉄筋であり、前記定着体には前記ネジ節鉄筋のネジ節と螺合するネジ溝が形成されており、補強鋼材と定着体とをネジ式に接合したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
また、請求項6は、前記定着体の素材が、セラミック、超高強度繊維補強コンクリートの何れかであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
請求項は、後端側定着体の素材を具体的に限定したものであり、セラミック、硬質プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートやステンレスであれば、必要な耐食性と強度を満足させることができる。
なお、超高強度繊維補強コンクリート(以下、「UFC」と言う。)は、圧縮強度が高いコンクリートまたはモルタル内に鋼繊維、炭素繊維あるいはガラス繊維などが混入された材料であり、圧縮強度が100〜250N/mm2、曲げ引張強度が10〜40N/mm2、ひび割れ発生時引張強度が5〜15N/mm2の超高強度繊維補強コンクリートまたはモルタルが好ましい。
UFCに関する指針によれば、UFCの表面から埋設された鋼材までの長さが20mm以上であれば、耐用年数(約300年を想定)における腐食の要因となる塩化物イオンの浸透を防ぐことが明らかとなっている。つまり、通常のコンクリートに比べ耐久性から必要となるかぶりを小さくすることが可能となる。
その他、発明においては、例えば金属にメッキその他、防食処理を施したものなど、必要な耐食性と強度を備え、コスト的に過大となるものでなければ、他の材料の使用も可能である。
請求項は、請求項1〜に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記定着体が、前記補強鋼材の端部にネジ式に接合されていることを特徴とするものである。
補強鋼材の端部および定着体に、それぞれ雄ネジと雌ネジを形成しておけば、両者をネジ式に簡単に接合することができる。
なお、補強鋼材に異形棒鋼であるネジ節鉄筋を用い、後端側定着体にネジ節鉄筋のネジ節と螺合するネジ溝を形成すれば、補強鋼材については、別途、ネジ加工が不要となり、市販のネジ節鉄筋の切断加工だけで済む。
請求項は、請求項に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記補強鋼材の挿入方向先端側にも、該補強鋼材の外径より大きい径を有する先端側定着部が前記先端側定着体を前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分内に位置させて設けられていることを特徴とするものである。
補強鋼材の先端側にも補強鋼材より径の大きい先端側定着部を設けることで、先端側定着部の支圧力により定着効率が増し、さらにせん断補強効果を上げることができる。
先端側定着部は、補強鋼材挿入孔への挿入前にあらかじめ補強鋼材の先端に形成しておく場合と、挿入時または挿入後に形成させる場合とが考えられる。
前者のあらかじめ先端側定着部を形成させた状態で挿入する場合は、その分、補強鋼材挿入孔の孔径を大きくする必要があり、コスト増となることから、可能な径に限度がある。ただし、補強鋼材の先端にあらかじめ定着部を形成することで補強鋼材と先端定着部を同時に挿入、設置することができるため、施工の効率を高めることができる。
後者の補強鋼材挿入孔の孔径が大きくなるのを避ける方法としては、補強鋼材挿入孔の孔底に先にナット状の定着体を設置し、それに補強鋼材の先端を螺合する方法、補強鋼材挿入孔の孔底にリングの一部を切断した形状の定着体を設置し、それに補強鋼材の先端を押し込むことで、切断部からリングを弾性的に拡径させつつ一体化する方法、未硬化の樹脂系の硬化材を詰めたカプセルを補強鋼材挿入孔の孔底に設置し、それに補強鋼材の先端を押し込むことでカプセルを突き破り、硬化材の硬化により先端側定着部を形成させる方法、補強鋼材の先端に例えば十字に切り込みを入れ、切り込み部分に楔部材を差し込んでおき、補強鋼材の先端が補強鋼材挿入孔の孔底に達したときに、楔部材が補強鋼材先端の切り込み部分を押し広げて先端側定着部を形成させる方法などがある。
補強鋼材挿入孔の孔底に先にナット状の定着体を設置し、それに補強鋼材の先端を螺合する方法では、あらかじめ定着体と一体となった補強鋼材全体を長さが長く凹凸がある孔壁内部に挿入するよりは、ナット状の定着体だけを挿入する方が、ナット状の定着体の挿入には自由度があるので、定着体の挿入が容易になる。また、補強鋼材の先端に十字に切り込みを入れ、楔部材により先端側定着部を形成させる方法では、補強鋼材を挿入した後に孔の先端で定着部が拡大するため、挿入時に必要な掘削孔の径を最小としながら、先端が補強鋼材の径よりも大きな定着部を設けることが可能となる。
本発明に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記先端側定着部前記補強鋼材の先端部を覆う耐食性のある素材からなる先端側定着体によって形成されているのが好ましい
先端側定着体についても、後端側定着体と同様に耐食性のある素材を用いることで、かぶりコンクリートの厚さによる制限が緩和され、定着長さをより大きくとることができる。
特に、ボックスカルバートやトンネルの壁等、内部空間側からの一方向の施工とならざるを得ない場合において、補強鋼材先端側の処理が簡略化できるメリットが大きい。
なお、補強鋼材の先端部および先端側定着体に、それぞれ雄ネジと雌ネジを形成しておけば、後端側の場合と同様、ネジ式に簡単に接合することができる。
耐食性のある素材としては、前述した後端側定着体の場合と同様、セラミック、硬質プラスチック、超高強度繊維補強コンクリート、樹脂、あるいはステンレスなどを用いることができる。
本発明に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記先端側定着体前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分内に位置させてあるのが好ましい
請求項で言うかぶりコンクリート部分は、補強鋼材の挿入側と反対側のかぶりコンクリートであり、その部分のかぶりコンクリート部分の状態に問題がなく、かつある程度精度良く補強鋼材の先端部を位置させることが可能な状況では、先端側定着体をかぶりコンクリート部分内に位置させることで、定着長を大きくとることができる。
請求項3に係る既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造において、前記後端側定着体の先端部および/または前記先端側定着体の後端部が前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分の全体を覆える位置に配置されているか、それより内側のコンクリート部分まで延長されているのが好ましい
一般的には既設構造物の設計当時のかぶりよりも現在の設計基準の方が厳しく、必要なかぶり厚さは一般に大きくなっているため、既設のかぶり内部に耐食性の定着体を配置しても、設計上はせん断補強鋼材の防錆が十分でない恐れがある。
その1つの解決手段として、請求項では耐食性を有する後端側定着体の先端部と先端側定着体の後端部の一方または両者について、既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分の全体を覆える位置に配置するか、それより内側(鉄筋コンクリート構造体の深い位置)のコンクリート部分まで延長しておくことで、せん断補強鋼材の防錆を確実にしている。
請求項7は、前記後端側定着体の素材がセラミックであり、前記後端側定着部を円錐台形もしくはその側面に膨らみを持たせた形状にしたことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造である。
本発明では、耐食性のある素材からなる後端側定着体で補強鋼材の端部を覆うことで、防錆目的のかぶりコンクリートやモルタルによる補修が必要なく、少なくとも後端側定着体部分については、それ自体のひび割れの問題はなく、逆に断面の大きい定着体により応力が分散され、近傍のコンクリートのひび割れも抑制することができる。
すなわち、従来の差し筋方式のせん断補強構造は、かぶりコンクリートや主筋との関係で、わざわざ補強鋼材を短くし、また補強鋼材と一体化される定着部材もコンクリート内に埋め込んでいるが、本発明のように耐食性のある素材からなる後端側定着体を一体化すれば、わざわざかぶりコンクリートより深い位置に埋め込む必要はなく、内面側への突出量が問題とならない範囲で、できるだけ補強鋼材の長さを長くすることで、せん断ひび割れ箇所から鉄筋の端部までの長さ、すなわち、定着長が長くなり定着効率を大きくすることができる。
また、せん断破壊する鉄筋コンクリート構造体では、破壊面、すなわち、鉄筋コンクリート構造体に発生したせん断ひび割れを補強鋼材が横切り、横切った補強鋼材の抵抗が、せん断耐力に大きく寄与する。すなわち、一つのせん断ひび割れを横切る補強鋼材の数が多いほど、せん断補強効果が高くなる。
そのため、後端、先端に関わらず、定着部をなるべく部材の表面の近くとし、せん断ひび割れが補強鋼材設置位置を横切る確率を増やすことは、せん断補強効果の向上に寄与する。つまり、定着部を鉄筋コンクリート構造体の表面から浅い位置に設けることは、せん断ひび割れ箇所からの定着長が長くなることと、および1本のせん断ひび割れを横切る補強鋼材が多くなることの二つの意味で、せん断補強効果の向上に寄与する。
定着効率や補強効果が高くなれば、先端側の定着部を設けなくても、あるいは定着部の径を小さくしても十分なせん断耐力が得やすくなるため、補強鋼材挿入孔の径をできるだけ小さくして、コストに締める割合が大きい削孔費用を抑えることができ、硬化性充填材の充填量も節約することができる。
後端側定着体の後端が既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一の場合には、例えばボックスカルバートやトンネルの壁等のせん断補強において、既設の鉄筋コンクリート構造体の内側への突出がなく、内部空間を狭めることなく、せん断補強を行なうことができる。
また、部分的にあるいは全体的にある程度、内側へ突出させてもかまわない条件下では、後端側定着体の後端が既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出するようにすることで、補強鋼材の定着長を増し、さらに定着効率を上げることができる。
補強鋼材に異形棒鋼であるネジ節鉄筋を用い、後端側定着体にネジ節鉄筋のネジ節と螺合するネジ溝を形成すれば、補強鋼材については、別途、ネジ加工が不要となり、市販のネジ節鉄筋の切断加工だけで済む。
補強鋼材の先端側にも補強鋼材より径の大きい先端側定着部を設ければ、先端側定着部の支圧力により定着効率が増し、さらにせん断補強効果を上げることができる。
先端側定着体についても、後端側定着体と同様に耐食性のある素材を用いることで、かぶりコンクリートの厚さによる制限が緩和され、定着長さをより大きくとることができる。
特に、ボックスカルバートやトンネルの壁等、内部空間側からの一方向の施工とならざるを得ない場合において、補強鋼材先端側の処理が簡略化できるメリットが大きい。
図1は本発明のせん断補強構造の一実施形態を示したものであり、図2はそのせん断補強鋼材先端部および後端部の詳細を示したものである。
本実施形態は、鉄筋コンクリート製のボックスカルバートの壁1部分について、ボックスカルバートの内側(以下、内面側という)から地山側(以下、外面側という)に向けて、補強鋼材12を挿入し、せん断補強する場合の例である。本実施形態では先端側定着体は設けていない。
図中、2は既設の主鉄筋、3は既設の配力鉄筋、4は既設のコンクリート部分を示している。また、寸法線におけるP1、P2は鋼材の必要かぶり厚さ、t1は補強鋼材12の定着に必要な長さ、t2はさらに防錆が必要となる部分の長さを示している。
このような既設の鉄筋コンクリート壁1において、せん断応力が発生する方向は、図中の斜め方向であり、せん断応力が発生する方向を横切る補強鋼材挿入孔11を壁1の内面側からほぼ垂直に、壁1の厚さ方向に穿設し、この補強鋼材挿入孔11に補強鋼材12を挿入し、これらの隙間に充填された硬化性充填材13で定着させている。
補強鋼材12の挿入方向後端側、すなわち壁1の内面側には、耐食性のある素材からなる後端側定着体14が一体化され、補強鋼材12の外径より径の大きい後端側定着部を形成している。本実施形態では、補強鋼材12として、異形棒鋼のネジ節鉄筋を用いており、後端部のネジ節を利用して、後端側定着体14をネジ式に接合している。
後端側定着体14としては、補強鋼材12のネジ節と螺合するネジ溝を形成したセラミック製の皿状ナット14aを用いている。なお、図示した皿状ナット14aは、円錐台形の皿状部分からストレート部が延び、補強鋼材12の後端部のうちかぶりコンクリート内に位置する部分全体を覆えるようにしている。また、設計当時のかぶり厚が小さい場合にはさらに主鉄筋2位置を越えて、コンクリート4の深い位置まで達するストレート部が長いものを用いることもできる。
後端側定着体14の素材としては、この他、硬質プラスチック(FRP等を含む)、ステンレスなど非鉄金属、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、重防食を施した鋼材などが考えられるが、定着体としての強度・剛性だけでなく、耐食性に優れ、コンクリートと腺膨張係数が概ね等しいことが望ましく、これらの点を考慮すると、セラミック製が好適である。
例えば、セラミックであれば、補強鋼材12に対して十分な耐食性を確保するために必要な厚さは5mm程度で良い。そのため、本発明によれば、補強鋼材の後端側定着体14を鉄筋コンクリート構造体の表面から可能な限り浅い位置に設置することができる。
また、定着部を円錐台形もしくはその側面に膨らみを持たせた形状とすることにより、セラミック製の定着部が周辺の既存コンクリートに拘束され、安定した定着力を期待することができる。また、セラミック自体に対しては、この拘束力の反力が圧縮力となって作用するため、定着部を円錐台形もしくはその側面に膨らみを持たせた形状とすることは、ネジからの引抜力によってセラミックに生じる割裂引張力を打ち消すような効果がある。
例えば、既存のインサートなどは、引張力に対して周囲のコンクリートによる拘束効果を高め、アーチ効果により抵抗力を大きくすることを目的として、定着部の上部を曲面としている。一方、圧縮力に対しても同様な機構で抵抗力を大きくすることを目的として、定着体の下部についても曲面とし、全体として卵形の形状が採用されている。これに対し、本発明では、鉄筋コンクリート壁の一面から定着体を設けた補強鋼材を挿入し引張のみに抵抗することを期待するため、前述のインサートにおける圧縮力に対する抵抗力はなくても良い。
そのため、本発明では、卵型インサートの上部に類似した形状、すなわち円錐台形もしくは、その側面に膨らみを持たせた定着体が好適となる。さらに、後端側定着体14の最も径の大きい部分が既存コンクリート壁の表面となるので、硬化性充填材13が表面に露出する部分がほとんどなく、水分、塩分の浸透が最小限に抑えられる。
なお、円錐台形の定着部の外径は、コンクリートが支圧破壊しないような大きさ以上とすれば良い。例えばSD345 D22を補強鋼材として用いた場合は、外径を60mm程度以上とすれば、補強鋼材の規格降伏強度相当に対し、コンクリートの支圧破壊を防ぐことができ、補強鋼材12の定着が確保される。
また、後述するように補強鋼材12と接合するための金属製のナットを埋め込んだ超高強度繊維補強コンクリート製の定着体を利用することも考えられる。
硬化性充填材13としては、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などの有機系のグラウト材、セメントグラウトなどの無機系グラウト材などが利用でき、設計条件に応じて使い分けたり、部分的に併用することもできる。
前述のUFCと同様の配合で繊維を混入しない超高強度セメント系硬化材であれば、補強鋼材12との付着強度に優れ、コンクリート表面からの水分、塩分の浸透に対しても高い抵抗性があるため耐久性にも優れ、最も好ましい充填材である。また、これらの硬化性充填材13は、設計条件等に応じ、補強鋼材12の挿入前に充填する場合と、補強鋼材12の挿入後に充填する場合がある。
また、本実施形態では、先端側定着体がないため、補強鋼材挿入孔11の径は補強鋼材12の挿入に支障がない大きさであればよく、できるだけ径を抑えることで、定着効率を損なうことなく、削孔のコストや硬化性充填材13の量を節約することができる。
代表的な寸法例を挙げると、補強鋼材12としてD22(外径D=22mm)のネジ節鉄筋を用いる場合において、補強鋼材挿入孔11の削孔径を30〜35mm程度とする。
本実施形態における施工手順の一例を述べると、以下の通りである。
補強鋼材12の外径+余裕の直径で削孔する(ドリル削孔、コア削孔など)。
後端側定着体14が設置される補強鋼材挿入側について、皿状ナット14aのストレート部が位置する部分を、拡径削孔する(付け替えによりドリル径を変える)。
円錐台形の皿状部分については、削孔の冶具を変え(コンクリート用テーパーリーマーなど)、傘状に削孔する。
次に、あらかじめ後端側定着体14を結合し、その表面(後端面)に硬化性充填材13が付着しないようにマスキングテープ等を貼付けた補強鋼材12を補強鋼材挿入孔11に挿入する。
樹脂あるいはセメントグラウト等の硬化性充填材13を充填した後、表面の清掃およびマスキングテープの除去を行う。
なお、削孔の順序は、上記と逆の順序でもよいが、既存の鉄筋に当たった場合、位置をずらして削孔をやり直す必要があるので、一般的には小径の部分から行うのがよい。
また、後端側定着体14については、断面が円形の削孔に対し、断面が円形の定着体形状とすることで、削孔した空間を無駄なく使用でき、後埋めの材料も少なくて済む。
また、図示した例では、補強鋼材挿入孔11の孔底および補強鋼材12の先端が、ほぼ主鉄筋2位置となるようにして、かぶりコンクリート部分に入り込まないようにしているが、補強鋼材12の先端部に例えばエポキシ樹脂塗装などによる防錆処理を施し、補強鋼材12の先端をかぶりコンクリート部分まで入り込ませ、定着長をかせぐこともできる。
図3は他の実施形態として、補強鋼材12の先端側に先端側定着体15を設けた場合におけるせん断補強鋼材先端部および後端部の詳細を示したものである。
具体的には、本実施形態では、補強鋼材12の先端側に、先端側定着体15として、補強鋼材12のネジ節と螺合するネジ溝を形成したセラミック製の袋状ナットを取り付けてある。
耐食性のあるセラミック製の先端側定着体15により先端側定着部を形成すれば、先端側についても主鉄筋2位置に止める必要はなく、定着長を大きくとることができる。
先端側定着体15の頭部(先端部)が円盤状あるいは円筒状である場合、外面側もかぶりコンクリート部分内に定着できるため、せん断補強鋼材としての定着長が長くなり、主鉄筋2位置に定着する場合よりも頭部直径が小さくとも、同等の定着効率が得られる。その分、削孔径が小さくて済み、削孔に関わる施工時間、コストを短縮、削減することが可能となる。
本実施形態における施工手順の一例を述べると、以下の通りである。
先端側定着体15の外径(皿状ナット14aのストレート部の外径とほぼ等しいものとする)+余裕の直径で削孔する(ドリル削孔、コア削孔など)。
円錐台形の皿状部分については、削孔の冶具を変え(コンクリート用テーパーリーマーなど)、傘状に削孔する。
次に、あらかじめ先端側定着体15および後端側定着体14を結合し、後端側定着体14の表面(後端面)に硬化性充填材13が付着しないようにマスキングテープ等を貼付けた補強鋼材12を補強鋼材挿入孔11に挿入する。
樹脂あるいはセメントグラウト等の硬化性充填材13を充填した後、表面の清掃およびマスキングテープの除去を行う。
削孔の順序は、上記と逆の順序でもよいが、前述したように、既存の鉄筋に当たった場合、位置をずらして削孔をやり直す必要があるので、一般的には小径の部分から行うのがよい。
図4は本発明におけるせん断補強鋼材後端部の防錆に関する4種類の例を示したものである。図中、寸法線におけるP1は鋼材の必要かぶり厚さ、t1は補強鋼材12の定着に必要な長さ、t2はさらに防錆が必要となる部分の長さを示している。
なお、図4は後端側定着体14a〜14dの後端が既設の鉄筋コンクリート壁1の内面側と面一であり、補強鋼材12の後端が内表面近傍に位置している場合である。
(a)はセラミックなどからなる後端側定着体14bの全体形状を、鋼材の必要かぶり厚さP1とほぼ等しい高さの円錐台形状とし、その内側に補強鋼材12のネジ節と螺合するネジ溝を形成したものであり、補強鋼材12の防錆が必要となる範囲全体を耐食性の後端側定着体14bが覆っている。
(b)は図1〜3で説明した、皿状部分と細径のストレート部とを有する後端側定着体14aを用いた場合であり、この場合も補強鋼材12の防錆が必要となる範囲全体を耐食性の後端側定着体14aが覆っている。
(c)は補強鋼材12の定着に必要な長さ分だけ、セラミックなどからなる耐食性の皿状ナット形状の後端側定着体14cで覆い、残りのかぶりコンクリート内の部分をエポキシ樹脂の塗装16等により防錆したものである。
(d)は補強鋼材12の後端部をステンレス製ネジ棒17などの耐食性の鋼材に置き換え、皿状ナット形状の後端側定着体14dと接合したものである。なお、(d)の例では後端側定着体14dとの接合はネジ節による接合ではなく、通常のネジによる接合としている。
図5はせん断補強鋼材後端部の位置に関する変形例を示したものである。
(a)は図1〜3で説明した、皿状部分と細径のストレート部とを有する後端側定着体14aが壁1の内面側に突出し、補強鋼材12の後端が既設の鉄筋コンクリート壁1の内表面とほぼ面一となっている場合、(b)は補強鋼材12の後端も既設の鉄筋コンクリート壁1の内表面より内空側に位置している場合である。
これらは、後端側定着体14aが壁1の内面側に突出するという点で美感上の問題や内側空間を狭めるという問題がある反面、定着効率の面ではより有利となる。
図6はせん断補強鋼材12の後端部と後端側定着体との接合部に関する変形例を示したもので、図4(d)の場合と同様に、ネジ節による接合ではなく、通常のネジによる接合としたものである。
ただし、図4(d)ではステンレス製ネジ棒17を用いているのに対し、図6の例は異形棒鋼の端部に通常のネジを設けたものであるため、後端側定着体14eがその部分全体を覆い防食する構成としている。
図7は後端側定着体の形状に関する変形例を示したものである。
後端側定着体は皿ナット状のものに限らず、(a)のような円筒状の後端側定着体14f、(b) のような半球状の後端側定着体14g、(a)のような多段円盤状の後端側定着体14hなど、種々の形態のものが利用できる。
図8(a)は後端側定着体の形状に関する他の変形例を示したもので、円錐台形状の後端側定着体14iの後端面を滑らかなレンズ状に形成し、補強鋼材12の後端が既設の鉄筋コンクリート壁1の内表面とほぼ面一となるようにして、定着効率を高めつつ、内表面からの後端側定着体14iの突出が目立たず、かつ邪魔にならないようにしたものである。
すなわち、防錆上必要な厚さ分、セラミックなどからなる後端側定着体14iの後端面を膨らませた形態となっているが、膨らみ分は数mm程度でよいので、内空の減少、粗度係数の上昇などは無視できる程度である。
また、図8(b)は周辺のコンクリートからの拘束圧を高め、定着力を高めることを目的とし、後端側定着体14jを円錐の側面に膨らみを持たせた形状としたものである。また、セラミックでナット状のものを製作する際には、型枠を用いて、その形状が成型されるが、その場合、円錐台の側面が直線状よりも適度な膨らみを有していた方が、製作が容易となる。
図9は後端側定着体の定着部に関する他の変形例を示したものである。
この例は図1〜3で説明した、皿状部分と細径のストレート部とを有する後端側定着体14aを用いる場合において、傘状の削孔ではなく、後端側定着体14a部分についても円筒状の削孔を行い、拡幅削孔部にスパイラル鉄筋18を埋設して補強したものである。
図10は後端側定着体にUFCを用いた場合のせん断補強鋼材後端部の変形例を示したものである。
上述したセラミック製のナットの場合、製作できる径の大きさが限られ、ステンレス鉄筋の場合は、海水などの腐食要因が直接、触れる環境では十分な耐腐食性を期待できない場合が考えられるが、これらの点に関してはUFC製の後端側定着体が有利である。
図10では、市販のプレート付きナット25を円盤型のUFC27内に埋め込んだものを、後端側定着体24として使用している。その他の構成は、図1の場合と同様であり、図示していないせん断補強鋼材先端部については、図3と同様の構成とすることもできる。
後端側定着体24による定着部を、図10のようにかぶり内に設けた場合、かぶり内においてもせん断ひび割れがせん断補強鋼材12を横切ることができ、1本のせん断ひび割れを横切るせん断補強鋼材12の数が、主筋12位置に定着部を設ける場合に比べ多くなり、その分、補強効果が高まる。また、逆に、せん断補強鋼材12の本数を減らすことができる。
プレート付きナット25は、せん断補強鋼材12としてのネジ節鉄筋等に対応した市販品を用いることができる。一般にネジ節鉄筋のプレート付きナットは、D16〜D41用まで市販されており、これらの材料については、比較的、容易に入手可能である。すなわち、太径鉄筋をせん断補強鋼材12とした場合でも確実な定着を実現することができ、定着部の耐久性についても確保することができる。
せん断補強鋼材12は、ネジ節鉄筋を用いることを基本とする。これは、前述の通り、D16〜D41までの多くの径に対してプレート付きナットによる定着が可能であるためである。ただし、鉄筋の端部にネジ部を摩擦接合で設置したものや、機械加工により製作したものを用いても良い。この場合は、設置、製作したネジ部に対応したプレート付きナットを定着に用いれば良い。
UFC製の後端側定着体24の形状およびプレート付きナット25の寸法は、プレート26部の支圧破壊、UFC27部分の支圧破壊、ナット25のプレート26部分のせん断破壊、ナット25自体の破壊を防止し、かつ、耐用年数期間における十分な耐久性を確保できるように決定する。
施工手順としては、鉄筋コンクリート壁に内側からせん断補強鋼材12の径に余裕を加えた大きさの補強鋼材挿入孔11を削孔し、さらに挿入口部分をUFC製の後端側定着体24の直径と高さに応じた大きさおよび深さに拡幅する。
次に、後端にUFC製の後端側定着体24を取り付けたせん断補強鋼材12を補強鋼材挿入孔11に挿入し、硬化性充填材13を充填する。なお、後から硬化性充填材13を充填する代わりに、エポキシ樹脂などの硬化性充填材13をカプセルに詰めたものを補強鋼材挿入孔11内に設置しておき、せん断補強鋼材12の挿入の際にカプセルを破って硬化性充填材13で定着させるようにしてもよい。
図11は後端側定着体にUFCを用いた場合のせん断補強鋼材後端部の他の変形例を示したもので、UFC製の後端側定着体24が一部の既存の鉄筋コンクリート壁表面から突出している場合である。
この場合、せん断補強鋼材12をその分長くすることができるため、前述のせん断ひび割れが補強筋を横切る確率が高くなるため、補強効果の向上においても有意である。また、後述の施工法において鉄筋コンクリート壁内面の拡幅孔の掘削深さを小さくすることができる。
図12はプレート付きナット25を埋め込んだUFC製の後端側定着体24の形状の一例を示したもので、この例ではプレート付きナット25を中心とした単純な円盤型としている。
円の直径は、ナット25が引張力を受けた際に、45度の角度でコーン状の破壊を示すことを想定し、プレート26の直径+ネジ部高さ×2とする。これにより、既存のコンクリート側にUFC製の後端側定着体24から伝達する支圧応力を緩和し、既存のコンクリート部の支圧破壊を防ぐことができる。
一方、プレート付きナット25のプレート部の支圧破壊については、UFCの圧縮強度が高いことにより、これを防ぐことができる。厚さについては、前述のようにプレート付きナット25のプレート26よりかぶりが20mm以上確保できる大きさ、かつ最小厚さとするため、ナット25の全高さ+かぶり(20mm以上)とする。
具体例を挙げると、設計条件として、せん断補強鋼材12にSD345 D22のネジ節鉄筋を用い、市販品のプレート付きナットを使用し、UFCは設計基準強度180N/mm2の超高強度繊維補強コンクリート、補強対象となる鉄筋コンクリート構造体のコンクリートの設計基準強度が21N/mm2とした場合、図12(b)において、プレート26の直径R1=55mm、ナット25の全高L1=53mm、UFC内のナットのかぶりd=20mm、UFCの円盤の高さH=73mm、UFCの円盤の直径R=139mmといった寸法が考えられる。
図13はプレート付きナット25を埋め込んだUFC製の後端側定着体24の他の形状例を示したものである。
図12の例が円盤型であったのに対し、図13では、定着部の挿入方向後端側の径を耐久性とコンクリートの支圧破壊を考慮した大きさとし、挿入方向先端側については既存の鉄筋コンクリート構造体からの拘束効果を期待するための適切なテーパー部を設ける。
また、挿入方向後端側の形状をプレート付きナット25のプレート26のかぶり分の位置まで径を確保した円柱型とすれば、45度の角度でコーン状の破壊をする場合でも、コンクリートの支圧破壊の防止に必要な支圧面積(挿入方向後端側の径により決定)を確保することできる。
すなわち、図13では、図12と同等の定着力、耐久性を有しながら、形状は複雑となるがUFC製の後端側定着体24の大きさを小型化でき、コスト、製作性において有利となる。
図12のものと同様の設計条件で、具体例を挙げると、図13において、プレート26の直径R1=55mm、ナット25の全高L1=53mm、UFC内のナットのかぶりd=20mm、UFCの円盤の高さH=73mm、UFCの直径RL=99mm、径RS=599mmといった寸法が考えられる。
この場合、図12のものに比べ、形状は複雑であるが、UFCの使用量を65%程度低減でき、かつ、SD345 D22の降伏強度に対して十分な定着力と耐久性を期待することができる。
本発明のせん断補強構造の一実施形態を示す断面図である。 図1の実施形態におけるせん断補強鋼材先端部および後端部の詳細を示す断面図である。 他の実施形態におけるせん断補強鋼材先端部および後端部の詳細を示す断面図である。 本発明におけるせん断補強鋼材後端部の防錆に関する説明図である。 せん断補強鋼材後端部の位置に関する変形例を示す断面図である。 せん断補強鋼材後端部と後端側定着体との接合部に関する変形例を示す断面図である。 後端側定着体の形状に関する変形例を示す断面図である。 (a)、(b)はそれぞれ後端側定着体の形状に関する他の変形例を示す断面図である。 後端側定着体の定着部に関する他の変形例を示す断面図である。 後端側定着体にUFCを用いた場合のせん断補強鋼材後端部の変形例を示す断面図である。 後端側定着体にUFCを用いた場合のせん断補強鋼材後端部の他の変形例を示す断面図である。 プレート付きナットを埋め込んだUFC製の後端側定着体の形状の一例を示したもので、(a)は底面図、(b)は縦断面図である。 プレート付きナットを埋め込んだUFC製の後端側定着体の他の形状例を示す縦断面図である。
符号の説明
1…壁、2…主鉄筋、3…配力鉄筋、4…コンクリート、
11…補強鋼材挿入孔、12…補強鋼材、13…硬化性充填材、14…後端側定着体、15…先端側定着体、16…防錆塗装、17…ステンレス製ネジ棒、18…スパイラル鉄筋、
24…UFC製後端側定着体、25…ナット、26…プレート、27…UFC

Claims (7)

  1. 既設の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体に、該構造体の一面側から反対面側へ向けて穿設された補強鋼材挿入孔と、前記補強鋼材挿入孔に挿入された棒鋼からなる補強鋼材と、前記補強鋼材挿入孔と前記補強鋼材との隙間に充填された硬化性充填材を構成要素とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造であって、前記補強鋼材の端部には該端部を覆う耐食性のある素材からなる定着体一体化するとともに、前記補強鋼材の外径より径の大きい定着部を鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に形成したことを特徴とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  2. 既設の壁状または版状の鉄筋コンクリート構造体に、該構造体の一面側から反対面側へ向けて穿設された補強鋼材挿入孔と、前記補強鋼材挿入孔に挿入された棒鋼からなる補強鋼材と、前記補強鋼材挿入孔と前記補強鋼材との隙間に充填された硬化性充填材を構成要素とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造であって、前記補強鋼材の挿入方向後端側に前記補強鋼材の端部を覆う耐食性のある素材からなる後端側定着体一体化して耐久性に優れ前記補強鋼材の外径より径の大きい後端側定着部を形成するとともに、定着効率を大きくすべく、前記後端側定着部における前記後端側定着体の後端を、前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面と面一にするかまたは前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面から突出させて前記既設の鉄筋コンクリート構造体の表面近傍に位置させることで、前記補強鋼材の長さが長くなるようにしたことを特徴とする既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  3. 前記補強鋼材の挿入方向先端側にも、前記補強鋼材の先端部を覆う耐食性のある素材からなる先端側定着体を一体化して耐久性に優れ前記補強鋼材の外径より径の大きい先端側定着部が、前記先端側定着体を前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分内に位置させて設け定着長を大きくしたことを特徴とする請求項に記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  4. 前記後端側定着体の先端部および/または前記先端側定着体の後端部を、前記既設の鉄筋コンクリート構造体のかぶりコンクリート部分の全体を覆える位置に配置するか、それより内側のコンクリート部分まで延長して配置したことを特徴とする請求項3に記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  5. 前記補強鋼材は異形棒鋼であるネジ節鉄筋であり、前記定着体には前記ネジ節鉄筋のネジ節と螺合するネジ溝が形成されており、補強鋼材と定着体とをネジ式に接合したことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  6. 前記定着体の素材が、セラミック、超高強度繊維補強コンクリートの何れかであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
  7. 前記後端側定着体の素材がセラミックであり、前記後端側定着部を円錐台形もしくはその側面に膨らみを持たせた形状にしたことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の既設鉄筋コンクリート構造体のせん断補強構造。
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