本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、触媒の前後の排気ガスの温度差という非常に検出し易い指標から、触媒の劣化量と寿命を精度よく推定できる触媒劣化量検出方法及び触媒劣化量検出装置を提供することにある。
上記のような目的を達成するための触媒劣化量検出方法は、内燃機関の排気ガスを浄化するために配設された触媒の劣化量を検出する方法であって、エンジン回転速度の変動が少ない状態が続くと判断される所定範囲をエンジンの最高出力点のエンジン回転速度から予め求め、該所定範囲内にエンジン回転数の変化率がある状態が、排気温度が安定すると判断される所定期間続くと共に、前記触媒が活性状態である状態が所定の時間以上継続した場合において、前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を計測し、該温度差の収集データから温度差の変化率を算出し、該温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった時に、前記触媒が所定の第1劣化量に達したと判定することを特徴とする。
この触媒としては、一般的なHC,CO低減用酸化触媒、LNT(リーンNOx触媒),SCR(選択還元型触媒)等のNOx低減触媒等を対象とすることができ、本発明では、この酸化、還元反応における発熱量を、触媒の出口と入口の温度差で検出し、この触媒の発熱量の変化に密接に関係する温度差の変化から触媒の劣化量を検出する。
ここで、温度差によって触媒の劣化を判定する原理について説明する。触媒において、浄化対象成分が反応すると、触媒の入口の排気ガス温度に対し、触媒の出口の排気ガス温度は触媒で反応によって生成した熱量分だけ上昇する。例えば、HC,CO等を浄化対象成分とする場合には酸化反応が生じ、NOx等の場合は分解反応(還元反応)が生じるが、いずれの反応も発熱反応である。この触媒の発熱反応による熱発生量を触媒の劣化量と関係付ける。
一方、触媒を比較的高温で触媒の劣化が進行し易い温度一定の状態に、一定時間維持して触媒浄化能力を劣化させた実験では熱劣化が進むと触媒の劣化速度は遅くなるので、この結果を利用する。つまり、触媒の劣化が進行すると劣化の時間に対する変化率は小さくなるので、発熱量の変化は必ず最終的にゼロに漸近する。従って、発熱量の変化がある設定された値を切ることにより、設定した触媒の劣化寿命に達したと判定できる。これにより、発熱量の変化から触媒の劣化が判定でき、触媒の劣化量を検出することができる。
本発明では、この発熱量の変化率を触媒の出入口の温度差で推定する。内燃機関の排気ガスの温度は大気の条件の影響を大きく受けるが、温度差を使用することで、この大気の条件の影響を除外できる。つまり、夏場や冬場等の外気温度が変化して排気ガス温度が変化する場合でも、この影響を少なくすることができる。ただし、温度差から触媒の発熱量を推定するためには、内燃機関の排気ガスの温度や排気成分等の状態が略一定でないと誤差が大きくなるので、定常運転状態で、且つ、触媒が活性し、発熱反応を起こしている場合のみで、温度差を計測し、この温度差の収集データを使用する。
この方法によれば、温度差を判定値と比較するのではなく、温度差の変化率を判定値と比較するので、触媒装置の熱容量の大小の影響を小さくすることができ、触媒の劣化量の判定精度をより高めることができる。例えば、図9の上段の温度差Td(=F(t))に示すように、触媒の熱容量が大きい場合(点線)は、熱容量の小さい触媒の場合(実線)に比べて、応答が遅れて触媒の出口の排気ガスの昇温が遅くなるので下にずれるが、中段の温度差Tdの変化率(dF(t)/dt)で判定すると、点線と実線のように略重なり、触媒の熱容量の差による影響を小さくすることができる。
この発熱量の変化率が所定の第1判定値以上になったら、触媒が所定の第1劣化量あるいは劣化度合に達したとして、劣化の警告等を行う。つまり、定常状態で触媒を使用していると触媒の劣化の進行により発熱量が徐々に減少するが、その減少速度に対応する発熱量の変化率が所定の第1判定値を横切ると、即ち、触媒の劣化速度が鈍ると、触媒が所定の第1劣化量まで劣化しているとする。
上記の劣化量検出方法において、前記温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった時に、前記触媒が所定の第1劣化量に達したと判定する代りに、前記温度差の変化率が所定の第1判定値以上になったか否かを判定して、以上になった回数を数えると共に、前記温度差のデータ数が所定のデータ数を越えた場合において、前記温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった回数が所定の第1判定回数を越えた時に、前記触媒が所定の第1劣化量に達したと判定する。つまり、使用開始初期より劣化判定を行うと温度差のデータのバラツキにより近似曲線の精度が不足する場合が生じ、判定精度が悪化するため、例えば、測定データが所定のデータ数、例えば、10,000回を越えた時点より劣化判定を開始する。また、単に温度差の変化率が所定の第1判定値以上になっただけでは判定せずに、以上になった回数で判定する。これにより、温度差の変化率のバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
上記の劣化量検出方法において、前記温度差を測定順に並べたデータから、前記温度差を前記測定順を変数とする関数で近似した後に、この関数を測定順で微分して、温度差の変化率を算出する。つまり、今まで順番にデータベースに収納された温度差の全てのデータを測定順kに並べて、これにより、温度差の計測時の影響や誤差を小さくして、劣化速度に対応する温度差の変化率をより精度良く推定できるようにする。さらに、バラツキを除くために、温度差を近似式表示し、これを微分して温度差の変化率とする。この関数は、例えば、測定順kのn次の関数F(nは予め設定した定数)で近似し、近似曲線を求める。この関数F(k)(k=1〜今回測定点K)のK番目における接線の勾配である1階微分値を求め、この1階微分値が所定の第1判定値以上になった時点、又は、以上になった回数が所定の回数を越えた時点を、所定の第1劣化量に達した時点とし、その劣化量を、例えば、メンテナンス必要時期として表示部に表示する。この方法により、温度差のバラツキの影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
あるいは、上記の触媒の劣化量検出方法において、前記温度差を測定時間順に並べたデータと前記温度差を測定した測定時のデータとから、前記温度差を前記測定時を変数とする関数で近似した後に、この関数を時間で微分して、温度差の変化率を算出すると、温度差のバラツキの影響とこの温度差の測定時の影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
実機の場合には、車両での走行中はエンジン回転速度や負荷も煩雑に変化するので、処理すべき浄化対象成分の量も変化し、その結果、温度差が変化する。つまり、処理成分が多い場合には温度差が大きくなり、処理成分が少ない場合には温度差が小さくなる。そのため、定常運転状態という測定条件下で得られた温度差を用いた場合であっても、瞬間の個々の値を用いただけでは触媒の劣化判定の精度が低下してしまうので、温度差のデータを大量に用いて統計的に処理して、データ全体の変化を捉えることで判定精度を高める。また、実機では、この温度差を計測できるような状態は、時間的にはバラバラとなるため、規則正しい時間間隔を持った時系列データとはならない。そこで、計測できた温度差を測定順あるいは測定時間順に並べた収集データを基にして、測定順あるいは測定時間の関数で近似して、処理することにしている。
あるいは、上記のような目的を達成するための触媒劣化量検出方法は、内燃機関の排気ガスを浄化するために配設された触媒の劣化量を検出する方法であって、エンジン回転速度の変動が少ない状態が続くと判断される所定範囲をエンジンの最高出力点のエンジン回転速度から予め求め、該所定範囲内にエンジン回転数の変化率がある状態が、排気温度が安定すると判断される所定期間続くと共に、前記触媒が活性状態である状態が所定の時間以上継続した場合において、前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を計測し、該温度差の収集データから温度差の変化率の変分率を算出し、該温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になった時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定することを特徴とする。
この方法によれば、温度差を判定値と比較するのではなく、温度差の変化率の変分率を判定値と比較するので、触媒装置の熱容量の大小の影響をより小さくすることができ、触媒の劣化量の判定精度をより高めることができる。例えば、図9の下段の温度差の変化率の変分率(d2 F(t)/dt2 )で判定すると、d2 F(t)/dt2 に示す点線と実線のように略重なり、触媒の熱容量の差による影響を小さくすることができる。
上記の触媒の劣化量検出方法において、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になった時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定する代りに、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になったか否かを判定して、以下になった回数を数えると共に、前記温度差のデータ数が所定のデータ数を越えた場合において、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になった回数が所定の第2判定回数を越えた時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定するようにすると、温度差の変化率の変分率のバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
上記の触媒の劣化量検出方法において、前記温度差を測定順に並べたデータから、前記温度差を前記測定順を変数とする関数で近似した後に、この関数を測定順で2階微分して、温度差の変化率の変分率を算出すると、温度差のバラツキの影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
あるいは、上記の触媒の劣化量検出方法において、前記温度差を測定時間順に並べたデータと前記温度差を測定した測定時のデータとから、前記温度差を前記測定時を変数とする関数で近似した後に、この関数を時間で2階微分して、温度差の変化率の変分率を算出すると、温度差バラツキの影響とこの温度差を測定した測定時の影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
また、上記の触媒の劣化量検出方法において、前記内燃機関の定常運転状態であるか否かの判定を、エンジン回転速度をNとし、内燃機関の最高出力点のエンジン回転速度をNeとした時に、エンジン回転速度Nの時間微分であるエンジン回転速度変化率dN/dtが、−0.05×Ne<dN/dt<0.05×Neの範囲内にあるか否かで判定すると、比較的簡単なアルゴリズムで、内燃機関の定常運転状態を検出できる。
つまり、車両での走行状態においては、燃料負荷やエンジン回転速度は常に変化しており、厳密な意味での定常運転状態は有り得ないので、如何にして定常運転に近い状態を検出するかがキーポイントとなるが、本発明ではエンジン回転速度変化率(dN/dt)が(−0.05×Ne<dN/dt<0.05×Ne)の範囲にある状態を定常運転としている。更に、触媒が活性化状態にあるか否かは、触媒の入口の排気ガス温度が一定範囲内にあるか否かで判定している。
上記の劣化量検出方法において、前記温度差の代わりに、前記温度差と測定又は測定値から算出された排気ガス量と測定又は測定値から算出された排気ガスの比熱とから得られ、温度差×排気ガス量×排気ガスの比熱で算出される排気ガスの触媒の出口と入口の排気ガスの熱量変化を使用すると、より触媒における発熱量に近い量を用いることができるので、より判定精度を向上させることができる。
そして、上記の目的を達成するための触媒劣化量検出装置は、エンジン回転速度の変動が少ない状態が続くと判断される所定範囲をエンジンの最高出力点のエンジン回転速度から予め求め、該所定範囲内にエンジン回転数の変化率がある状態が、排気温度が安定すると判断される所定期間続くときにエンジンの運転状態が定常運転状態であると判定する運転状態検出手段と、エンジンの排気通路に設けられた触媒の活性状態を検出する触媒活性状態検出手段と、前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を測定する温度差測定手段と、前記運転状態検出手段により定常状態であると判断されると共に、前記触媒活性状態検出手段により触媒が活性状態であると判定される状態が所定の時間以上継続した場合において、前記温度差測定手段により前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を計測し、該温度差の収集データから温度差の変化率を算出し、該温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった時に、前記触媒が所定の第1劣化量に達したと判定する劣化量推定手段とを有しているように構成する。この構成によれば、温度差を判定値と比較するのではなく、温度差の変化率を判定値と比較するので、触媒装置の熱容量の大小の影響を小さくすることができ、触媒の劣化量の判定精度をより高めることができる。
上記の触媒の劣化状態検出装置において、温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった時に、前記触媒が所定の劣化量に達したと判定する代りに、温度差の変化率が所定の第1判定値以上になったか否かを判定して、以上になった回数を数えると共に、温度差のデータ数が所定のデータ数を越えた場合において、温度差の変化率が所定の第1判定値以上になった回数が所定の第1判定回数を越えた時に、触媒が所定の劣化量に達したと判定するように構成すると、温度差の変化率のバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
また、上記の触媒の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差を測定順に並べたデータから、前記温度差を前記測定順を変数とする関数で近似した後に、この関数を測定順で微分して、温度差の変化率を算出するように構成すると、温度差のバラツキの影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
あるいは、上記の触媒の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差を測定時間順に並べたデータと前記温度差を測定した測定時のデータとから、前記温度差を前記測定時を変数とする関数で近似した後に、この関数を時間で微分して、温度差の変化率を算出するように構成すると、温度差のバラツキの影響とこの温度差の測定時の影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
あるいは、上記の目的を達成するための触媒劣化量検出装置は、エンジンの最高出力点のエンジン回転速度から予め求められ、エンジンの排気温度が安定すると判断される所定期間エンジン回転速度の変動が少ない状態が続くと判断される所定範囲内に、エンジン回転速度の変化率があるときにエンジンの運転状態が定常運転状態であると判定する運転状態検出手段と、エンジンの排気通路に設けられた触媒の活性状態を検出する触媒活性状態検出手段と、前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を測定する温度差測定手段と、前記運転状態検出手段により定常状態であると判断されると共に、前記触媒活性状態検出手段により触媒が活性状態であると判定される状態が所定の時間以上継続した場合において、前記温度差測定手段により前記触媒の出口の排気ガス温度と入口の排気ガス温度との温度差を計測し、該温度差の収集データから温度差の変化率の変分率を算出し、該温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以上になった時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定する劣化量推定手段とを有しているように構成する。この構成によれば、温度差を判定値と比較するのではなく、温度差の変化率の変分率を判定値と比較するので、触媒装置の熱容量の大小の影響を小さくすることができ、触媒の劣化量の判定精度をより高めることができる。
上記の触媒の劣化状態検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になった時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定する代りに、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になったか否かを判定して、以下になった回数を数えると共に、前記温度差のデータ数が所定のデータ数を越えた場合において、前記温度差の変化率の変分率が所定の第2判定値以下になった回数が所定の第2判定回数を越えた時に、前記触媒が所定の第2劣化量に達したと判定するように構成すると、温度差の変化率の変分率のバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
上記の触媒の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差を測定順に並べたデータから、前記温度差を前記測定順を変数とする関数で近似した後に、この関数を測定順で2階微分して、温度差の変化率の変分率を算出するように構成すると、温度差のバラツキの影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
あるいは、上記の触媒の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差を測定時間順に並べたデータと前記温度差を測定した測定時のデータとから、前記温度差を前記測定時を変数とする関数で近似した後に、この関数を時間で2階微分して、温度差の変化率の変分率を算出するように構成すると、温度差バラツキの影響とこの温度差を測定した測定時の影響を少なくすることができ、より触媒の劣化量の推定精度を向上できる。
また、上記の触媒の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記内燃機関の定常運転状態であるか否かの判定を、エンジン回転速度をNとし、内燃機関の最高出力点のエンジン回転速度をNeとした時に、エンジン回転速度Nの時間微分であるエンジン回転速度変化率dN/dtが、−0.05×Ne<dN/dt<0.05×Neの範囲内にあるか否かで判定するように構成すると、比較的簡単なアルゴリズムで、内燃機関の定常運転状態を検出できる。
上記の劣化量検出装置において、前記劣化量推定手段が、前記温度差の代わりに、前記温度差と測定又は測定値から算出された排気ガス量と測定又は測定値から算出された排気ガスの比熱とから得られ、温度差×排気ガス量×排気ガスの比熱で算出される、排気ガスの触媒の出口と入口の排気ガスの熱量変化を使用すると、より触媒における発熱量に近い量を用いることができるので、より判定精度を向上させることができる。
本発明に係る触媒劣化量検出方法及び触媒劣化量検出装置によれば、触媒の出口と入口の排気ガスの温度差を計測し、この温度差の収集データから温度差の変化率、又は、温度差の変化率の変分率を算出して、所定の判定値と比較するので、触媒装置の熱容量の大小の影響を小さくすることができ、高い精度で触媒の劣化量を推定することができる。
そのため、市場でのエンジン負荷履歴等によって大きく変わる触媒の寿命を簡易的に精度よくモニターでき、適切な時期に交換の必要性を表示したり警告したりすることができる。従って、長時間走行したエンジンにおいても触媒のメンテナンスの必要性の有無を実際の触媒の劣化量に合わせて、適切な時期に警告することができ、排気ガスをクリーンな状態に維持することができる。
以下、本発明に係る実施の形態の触媒劣化量検出方法及び触媒劣化量検出装置について、図面を参照しながら説明する。なお、対象とする触媒は、発熱反応や吸熱反応等の熱量の出入りの反応を伴う触媒であれば良く、一般的なHC,CO低減用酸化触媒やLNT(リーンNOx触媒),SCR(選択還元型触媒)等のNOx低減触媒等を対象にすることができる。
図1に示すように、この触媒劣化量検出装置1は、エンジン(内燃機関)2の排気ガスGを浄化するために配設された触媒4の劣化量を検出する装置であって、エンジン2の排気通路3に設けられた触媒4の入口の排気ガスの温度を検出する入口側温度センサ5aと、触媒4の出口の排気ガスの温度を検出する出口側温度センサ5bと、これらの温度センサ5a,5bの検出値を入力し、演算とデータの記憶を行う演算装置(コンピュータ)6を有して構成される。
図2に示すように、演算装置6に配設された演算手段10Sは、各種データの算出やデータの入出力を行うと共に、エンジン2の運転状態が定常状態であるか否かを検出する運転状態検出手段11Sと、触媒4が活性状態であるか否かを検出する触媒活性状態検出手段12Sと、触媒4の出口の排気ガス温度T2と入口の排気ガス温度T1との温度差Td(=T2−T1)を測定する温度差測定手段13Sと、触媒4の劣化量を推定する劣化量推定手段14Sを有して構成される。
また、この演算装置6は、算出された触媒の劣化量(予測寿命)に応じて、劣化度合や寿命がきたこと等を表示したり、触媒のメンテナンスを勧奨するメッセージ等を表示する表示部6aを有して構成される。
この演算装置6は、通常エンジンを制御する制御装置(ECU:エンジンコントロールユニット)のコンピュータを使用したり、このコンピュータに組み込まれてもよいが、別に専用のコンピュータを使用することが好ましい。別の専用コンピュータで構成すると、温度センサ5a,5bの温度T2、T1とエンジン回転速度Nを入力できさえすれば、既存のエンジン制御システムと関係なく、触媒4の劣化量(寿命)等を表示できるようになるので便利である。
第1の実施の形態では、この劣化量推定手段14Sが、運転状態検出手段11Sにより検出されたエンジン2の運転状態が定常状態であり、且つ、触媒活性状態検出手段12Sにより検出された触媒4が活性状態である状態が、所定の時間(tmc:例えば10s)以上継続した場合において、温度差測定手段13Sにより触媒2の出口の排気ガス温度T2と入口の排気ガス温度T1との温度差Tdを計測し、図10に示すような、この温度差Tdの収集データTd(k)(k=1,2・・・・・K)から、図11に示すような、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkを算出する。なお、Kは最新のデータ番号を示す。そして、この温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkが所定の第1判定値C1以上になった時に、触媒4が所定の劣化量R1に達したと判定するように構成される。
この温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの算出では、(ΔTd(k)−ΔTd(k−1))/Δkで算出してもよいが、温度差Td(k)にはバラツキがあるので、図5に示すように、温度差Td(k)を測定順kに並べたデータから、温度差Td(k)を測定順kを変数とする連続関数F(k)で近似した後に、この関数F(k)を測定順kで微分して、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkを算出する。つまり、測定順kは本来は離散数であるが、ここでは仮にkを連続する変数、また、F(k)を連続関数と見なして、ΔTd(k)/Δk=dF(k)/dk=G(k)とする。このdF(k)/dkは、測定順kにおけるF(k)の接線の勾配となる。これにより、温度差Td(k)のバラツキの影響を少なくすることができ、より触媒4の劣化量R1の推定精度を向上できる。
一例を上げれば、図10のTd(k)を、kの三次式で近似した場合は、(F(k)=−0.0002×k3 +0.0227×k2 −0.8794×k+15.404)となり、変化率ΔTd(k)/Δkは、G(k)=dF(k)/dk=−0.0006×k2 +0.0454×k−0.8794となり、図11に示すような値となる。
また、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkが所定の第1判定値C1以上になった時に、触媒4が所定の劣化量R1に達したと判定する代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkが所定の第1判定値C1以上になったか否かを判定して、以上になった回数n1を数えると共に、温度差Tdのデータ数Kが所定のデータ数Kcを越えた場合において、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkが所定の第1判定値C1以上になった回数n1が所定の第1判定回数N1cを越えた時に、触媒4が所定の劣化量R1に達したと判定するように構成してもよい。この構成にすると、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkのバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒4の劣化量R1の推定精度を向上できる。
上記のような制御は、図3〜図5に例示するような制御フローによって実施できる。キースイッチONにより、エンジンがスタートすると、この図3の制御フローもスタートする。このスタートにより、ステップS10で、前回までのデータ(最新の測定順K、温度差Td(k)、エンジンの最高出力点のエンジン回転速度Ne、下限温度Tc、上限温度Tu、所定の時間tmc,所定の第1判定値C1、所定の劣化量R1等)の入力(読み込み)を行う。
次のステップS20で、エンジン2の運転状態が定常状態であり、且つ、触媒活性状態検出手段12Sにより検出された触媒4が活性状態である状態が、所定の時間(tmc:例えば10s)以上継続した場合において、温度差測定手段13Sにより触媒2の出口の排気ガス温度T2と入口の排気ガス温度T1との温度差Tdを計測する。
このステップS20は、図4の制御フローに示すように、ステップS21で、タイマーtmをゼロにして(tm=0)、次のステップS22で、エンジン2の回転センサやエンジン制御装置等からエンジン回転速度Nを入力し、エンジン回転速度Nの時間微分であるエンジン回転速度変化率dN/dtを算出する。
次のステップS23で、エンジン2の最高出力点のエンジン回転速度をNeとした時に、エンジン回転速度変化率dN/dtが、定常状態にあるか否かを、−0.05×Ne<dN/dt<0.05×Neの範囲内にあるか否かで判定する。この判定で範囲内に無ければ(NO)、定常状態に無いとして、ステップS21に戻る。
この触媒の劣化量検出方法を使用する車両の走行状態としては主に市街地走行を対象としており、この定常運転状態の測定判定基準の数値は、特に北米での走行モードによりエンジン回転速度変化、負荷変化、排気ガス温度変化を基にして実験データから設定している。なお、市街地走行における定常運転状態の検出が可能なロジックであれば、エンジン回転速度や負荷の変化が少ない高速走行における定常運転状態の検出はより容易にできる。図12に車両馬力点の回転速度3600rpmのエンジンを搭載した車両で実験した結果の一例を示す。北米の高速走行モード運転で触媒が働いている時のエンジン加速度(dN/dt)と触媒入口排気ガス温度T1と触媒出口排気ガス温度T2の時系列を示す。この図12から、エンジン加速度(dN/dt)が一定値(例えば、100rpm/s)以下で変動している場合は、触媒入口排気ガス温度T1と触媒出口排気ガス温度T2の変動が少ないことが分かる。
つまり、車両馬力点の回転速度3600rpmのエンジンを搭載した車両を用いて市街地走行のモードで試験を行った結果、このエンジンでは回転速度の変化率の絶対値が100〜150rpm/s以下の場合は通常ミッションギアは3〜5速で運転され、負荷変動が少ない定常走行に近い状態での運転が多く認められた。この時は7s以上エンジン回転速度や負荷の変動が少ない運転が継続されることが多く、そのため、排気ガス温度も比較的安定することが分かった。即ち、この判定基準の時には、エンジン負荷変動や排気ガス温度が略定常状態に近いと判断できる。そこで、このエンジン回転速度の変化率を他のエンジン機種(馬力点回転速度Neが異なるエンジン)に対しても使用できるように、馬力点回転速度Neで一般化した。
このステップS23の判定で範囲内にあれば(YES)、定常状態であるとして、ステップS24に行く。このステップS24では、触媒4の入口の排気ガスの温度T1と、触媒4の出口の排気ガスの温度T2を、温度センサ5a,5b又はエンジン制御装置等から入力する。
次のステップS25で、触媒4が活性化しているか否かを、触媒4の入口の排気ガスの温度T1が所定の温度範囲内(Tc<T1<Tu)にあるか否かで判定する。この判定で範囲内に無ければ(NO)、触媒4は活性化していないとして、ステップS21に戻る。
この下限の温度Tcは活性化温度(例えば、175℃)であり、この温度Tcより入口温度T1が大きければ触媒4は活性化していると言える。この温度Tcより低い場合、例えば、アイドリングを継続している場合のように、dN/dtは測定判定基準を満たしますが、触媒入口の排気ガス温度T1は100℃以下と低く、触媒4は活性化していないため、劣化の有無を判定できない。そのため、アイドリングなど触媒4が機能しない極軽負荷の場合を測定判定基準から除いて誤判定を回避する必要がある。また、エンジン始動直後はエンジン本体、排気管等の温度が低いため、エンジン直後の排気ガス温度が高い条件で運転されても、触媒4の入口まで到達する間に排気ガスは冷たい排気管等で冷却されてしまうので、排気系通路の温度が充分に上がって排気ガスの温度が上昇した後にデータ測定を開始することになる。
更に、ここでは、上限の温度Tuを設けて、車両の市街地走行等で使用頻度が高い温度域を特定することにより、劣化判断に適した温度差Tdのデータのサンプリング数を増加し、判定精度を向上させる。なお、エンジン機種によっても異なるが、180℃近辺での使用頻度が最も高いと考えられるので、この上限の温度Tuはこの180℃より少し高めの190℃〜200℃に設定されることが多い。
このステップS25の判定で範囲内にあれば(YES)、触媒4は活性化しているとして、ステップS26に行く。このステップS26では、タイマーの時間tmが所定の時間tmcを超えたか否かを判定し、越えていなければ(tm≦tmc)ステップS21に戻り、越えていれば(tm>tmc)ステップS27に行く。ステップS27では、測定順KをK=K+1として、温度差Td(K)(=T2−T1)を算出し、データベースに出力する。
なお、市街地での車両走行試験結果より、エンジン回転速度変化率dN/dtが上記の範囲内にある場合には、通常ミッションギアは3〜5速にあり、この範囲ではエンジン負荷の変動や排気ガス温度変動が少ない定常走行に近い状態である場合が多く、7s(秒)以上とこの状態が続く頻度が高いことが分かっており、10s間この状態が続けば排気ガス温度T1は判断用データとして安定して充分使えるものとなる。即ち、排気ガス温度T1、T2の変動が少なく、触媒温度も排気ガス温度の変化に追随した後となる。例えば、dN/dtが閾値内に入った直後(数秒間)では、触媒入口排気ガス温度T1の変化に対し、触媒出口排気ガス温度T2は、触媒4の熱容量の影響を強く受けるため応答の遅れが大きく、触媒4における反応による発熱の影響を捉えることが難しい。そのため、ある程度時間を置いて触媒4の出入口それぞれの排気ガス温度T1,T2が比較的安定してから温度T1,T2を測定する必要がある。一方、車両における試験結果から10s未満で排気ガス温度T1,T2が略安定することが分かっているので、この所定の時間tmcは10s、又はそれ以上とすることが好ましい。
このステップS20が終わると、次のステップS30で、温度差Tdの変化率ΔTd/Δkを算出を行う。図5に示すように、このステップS30では、先ず、ステップS31で、最初から今までの測定数(k=1〜K)に対する温度差Td(k)を入力し、ステップS32で、温度差Td(k)を測定順kに並べて、収集データTd(k)から、温度差Tdを測定順kを変数とする関数F(k)で近似した後に、ステップS33で、この関数F(k)を測定順kで微分して、温度差F(k)の変化率G(k)=dF(k)/dkを算出する。ステップS34で、この温度差F(k)の変化率G(k)に測定順Kを代入して、最新の変化率ΔTd/Δkを算出する(ΔTd/Δk=G(K))。
このステップS30が終わると、図3に示すように、次のステップS40で、測定順(データ数)Kが所定のデータ数Kc(例えば、10,000)を超えたか否かを判定し、越えていない場合は、データ数が少なく精度良い劣化判定はできないとして触媒の劣化判定を行わずに、ステップS20に戻る。また、越えている場合は、ステップS50の触媒の劣化判定に行く。
この測定データ数Kが大きい程、判定精度が高くなる。例えば、高速道路使用が主のユーザーの場合は、高速道路を100km/hで走行するとして、エンジン回転速度が略一定の時には10s毎に連続してデータをサンプリングすることになり、データ数は1時間当たり360個になり、10,000個では2778km走行することになる。一方、市街地走行が主のユーザーの場合に、高速走行に比較して10倍の距離が必要になると仮定すれば、約30,000km程度の走行が必要となる。この程度の走行距離であれば、通常の使用方法である限り、触媒4が寿命によって機能を失う可能性は極めて少ない。従って、この時点から触媒4の劣化判定を行っても問題はない。一方、この10,000個という数値は、劣化判定を行うためのデータ数としては充分な大きさの数値であるので、所定のデータ数Kcを最低10,000又はこれ以上とするのが好ましい。なお、この所定のデータ数Kcは、触媒の使用状況や車両の走行状況が通常のユーザーの使用方法と著しく異なるような場合には、適宜適切な数値を選択すればよい。
ステップS50の触媒の劣化判定では、最新の測定順Kの変化率ΔTd/Δk(=G(K))が、所定の第1判定値C1(例えば、図12の場合は、C1=−0.05)以上になったか否かで、触媒4が所定の劣化量R1に到達したか否かを判定する。この判定で、最新の変化率ΔTd/Δkが、所定の第1判定値C1以上になっていない場合(ΔTd/Δk<C1)は、触媒4が劣化量R1に到達していないとして、ステップS20に戻る。触媒の使用期間が劣化判定が可能となるのに充分な時間を経過した後では、一般に温度差の関数F(k)は測定順kと共に減少する関数となるので、変化率dF(k)/dkは負の値となり、劣化進行と共にゼロ(0)に漸近する。従って、この変化率dF(k)/dkが所定の第1判定値C1以上になってゼロに近づいた時点で、触媒4は所定の劣化量R1に到達したと判定する。
また、ステップS50の触媒の劣化判定で、最新の変化率ΔTd/Δkが、所定の第1判定値C1以上になっている場合(ΔTd/Δk≧C1)は、ステップS60に行き、表示部6aに劣化量R1やメインテナンス指示を表示する。この表示の指示を行った後、ステップS20に戻る。
なお、複数の所定の劣化量R1(i)に対応させて所定の第1判定値C1(i)と表示部6aへの表示内容をそれぞれ複数設け(i=1〜I)、これにより、劣化量R1の度合に応じて残寿命を運転者、使用者、検査者等に知らせてもよい。また、この劣化量R1が触媒の寿命に達した場合には、表示の色を変えたり、警報ランプを点灯させたり、音声メッセージ等警報を出すように構成してもよい。この場合は、ステップS50とステップS60と同様なことがその数Iの分だけ行われることになる。
このステップS60を終了するとステップS20に戻る。このステップS20〜ステップS60の繰り返しにより、触媒の劣化判定を行い、その結果を表示部6aに表示する。そして、エンジンが停止するときには、割り込みにより、ステップS70に行き、今までのデータ(測定順K、温度差Td(k)等)の出力(書き込み)等の終了作業を行ってから、エンドに行き、この制御フローを終了する。
次に第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態では、第1の実施の形態において、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの代りに、温度差Td(k)を測定した測定時td(k)を同時にデータベースに入力し、温度差Td(k)を測定時の時間tベースに換算して関数F(t)で近似した後に、この関数F(t)を時間tで微分して、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtを算出する。つまり、F(t)を時間tの連続関数と見なして、ΔTd(t)/Δt=dF(t)/dt=G(t)とする。このdF(t)/dtは、時間tにおける曲線F(t)の接線の勾配となる。このdF(t)/dtが所定の第1判定値C1以上になった時に、触媒4が所定の第1劣化量R1に達したと判定するように構成される。これにより、温度差Td(k)のバラツキの影響と温度差Td(k)の測定時の影響を少なくすることができ、より触媒4の劣化量R1の推定精度を向上できる。
また、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtが所定の第1判定値C1以上になった時に、触媒4が所定の第1劣化量R1に達したと判定する代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtが所定の第1判定値C1以上になったか否かを判定して、この以上になった回数n1を数えると共に、温度差Tdのデータ数Kが所定のデータ数Kcを越えた場合において、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtが所定の第1判定値C1以上になった回数n1が所定の第1判定回数N1cを越えた時に、触媒4が所定の第1劣化量R1に達したと判定するように構成してもよい。この構成にすると、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtのバラツキの影響を小さくすることができ、より触媒4の第1劣化量R1の推定精度を向上できる。
上記のような制御は、図6〜図8に例示するような制御フローによって実施できる。この図6の制御フローは、図3の制御フローと略同じであるが、ステップS10Aでは、第1の実施の形態のステップS10の前回までのデータ(測定時間順の温度差Td(k)、最新の測定数K、所定の時間tmc,所定の第1判定値C1、所定の劣化量R1、エンジンの最高出力点のエンジン回転速度Ne、下限温度Tc、上限温度Tu等)の入力(読み込み)に加えて、前回までのエンジンの運転時間teの読み込みと、第2のタイマーのリセット(tm2=0)とこの第2のタイマー(tm2)のスタートを行う。
次のステップS20Aは、第1の実施の形態のステップS20と略同じであるが、温度差Td(k)の測定時td(k)をデータとして取込み、データベースに出力する点が異なる。
このステップS20Aでは、エンジン2の運転状態が定常状態であり、且つ、触媒活性状態検出手段S12により検出された触媒4が活性状態である状態が、所定の時間(tm:例えば10s)以上継続した場合において、温度差測定手段S13により触媒2の出口の排気ガス温度T2と入口の排気ガス温度T1との温度差Tdを計測すると共に、この温度差Td(K)の測定時(測定時におけるエンジンの延べ運転時間)td(K)をサンプリングに加える。
このステップS20Aは、図6の制御フローに示すように、ステップS21で、タイマーtmをゼロにして(tm=0)、次のステップS22で、エンジン2の回転センサやエンジン制御装置等からエンジン回転速度Nを入力し、エンジン回転速度Nの時間微分であるエンジン回転速度変化率dN/dtを算出する。
次のステップS23で、エンジン2の最高出力点のエンジン回転速度をNeとした時に、エンジン回転速度変化率dN/dtが、定常状態にあるか否かを、−0.05×Ne<dN/dt<0.05×Neの範囲内にあるか否かで判定する。この判定で範囲内に無ければ(NO)、定常状態に無いとして、ステップS21に戻る。
このステップS23の判定で範囲内にあれば(YES)、定常状態であるとして、ステップS24に行く。このステップS24では、触媒4の入口の排気ガスの温度T1と、触媒4の出口の排気ガスの温度T2を、温度センサ5a,5b又はエンジン制御装置等から入力する。
次のステップS25で、触媒4が活性化しているか否かを、触媒4の入口の排気ガスの温度T1が所定の温度範囲内(Tc<T1<Tu)にあるか否かで判定する。この判定で範囲内に無ければ(NO)、触媒4は活性化していないとして、ステップS21に戻る。
このステップS25の判定で範囲内にあれば(YES)、触媒4は活性化しているとして、ステップS26に行く。このステップS26では、タイマーの時間tmが所定の時間tmcを超えたか否かを判定し、越えていなければ(tm≦tmc)ステップS21に戻り、越えていれば(tm>tmc)ステップS27Aに行く。ステップS27Aでは、測定時間順KをK=K+1として、温度差Td(K)(=T2−T1)を算出し、データベースに出力する。また、この温度差Td(K)の測定時td(K)を前回の最終時間teと第2のタイマーの時間tm2の和(td(K)=te+tm2)とし、データベースに出力する。
このステップS20Aが終わると、次のステップS30Aで、温度差Tdの変化率ΔTd/Δtを算出を行う。このステップS30Aでは、先ず、ステップS31Aで、最初から今までの測定数(k=1〜K)に対する温度差Td(k)と測定時td(k)を入力し、ステップS32で、温度差Td(k)を測定時td(k)をベースに並べて、変数を測定時間順kから時間tに変更したデータTd(t)から、温度差Tdを時間tを変数とする関数F(t)で近似した後に、ステップS33Aで、この関数F(t)を時間tで微分して、温度差F(t)の変化率G(t)=dF(t)/dtを算出する。ステップS34Aで、この温度差F(t)の変化率G(t)に測定時td(K)を代入して、最新の変化率ΔTd/Δtを算出する(ΔTd/Δt=G(td(k)))。
このステップS30Aが終わると、次のステップS40で、測定数(データ数)Kが所定のデータ数Kc(例えば、10,000)を超えたか否かを判定し、越えていない場合は、データ数が少なく精度良い劣化判定はできないとして触媒の劣化判定を行わずに、ステップS20Aに戻る。また、越えている場合は、ステップS50Aの触媒の劣化判定に行く。
ステップS50Aの触媒の劣化判定では、最新(td(K))の変化率ΔTd/Δt(=G(td(k)))が、所定の第1判定値C1(例えば、図12の場合は、C1=−0.05)以上になったか否かで、触媒4が所定の第1劣化量R1に到達したか否かを判定する。この判定で、最新の変化率ΔTd/Δtが、所定の第1判定値C1以上になっていない場合(G(td(K))<C1)は、触媒4が所定の第1劣化量R1に到達していないとして、ステップS20Aに戻る。
また、ステップS50Aの触媒の劣化判定で、最新の変化率ΔTd/Δtが、所定の第1判定値C1以上になっている場合(G(td(K))≧C1)は、ステップS60に行き、表示部6aに劣化量R1やメインテナンス指示を表示する。この表示の指示を行った後、ステップS20Aに戻る。
なお、複数の所定の劣化量R1(i)に対応させて所定の第1判定値C1(i)と表示部6aへの表示内容をそれぞれ複数設け(i=1〜I)、これにより、劣化量R1の度合に応じて残寿命を運転者、使用者、検査者等に知らせてもよい。また、この劣化量R1が触媒の寿命に達した場合には、表示の色を変えたり、警報ランプを点灯させたり、音声メッセージ等警報を出すように構成してもよい。この場合は、ステップS50AとステップS60と同様なことがその数Iの分だけ行われることになる。
このステップS60を終了するとステップS20Aに戻る。このステップS20A〜ステップS60の繰り返しにより、触媒の劣化判定を行い、その結果を表示部6aに表示する。そして、エンジンが停止するときには、割り込みにより、ステップS70Aに行き、今までのデータ(測定数K、温度差Td(k)、検出時td(k)、延べ運転時間te=te+tm2等)の出力(書き込み)等の終了作業を行ってから、エンドに行き、この制御フローを終了する。
次に第3の実施の形態について説明する。この第3の実施の形態では、第1の実施の形態において、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkと所定の第1の劣化量R1に関係する所定の第1判定値C1の代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkと所定の第1の劣化量R1に関係する所定の第2判定値C2を用いる。この変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkは、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの測定順kに関する変分率であり、温度差Td(k)を測定順kで関数近似した場合には、温度差Td(k)を測定順kで2階部分してd2 F(k)/dk2 として算出することができる。このd2 F(k)/dk2 が所定の第2判定値C2以下になった時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定するように構成される。F(k)の二階微分を用いることにより、温度差Td(k)のバラツキの影響をより少なくすることができ、触媒4の劣化量R2の推定精度を更に向上できる。
また、この場合も、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkが所定の第2判定値C2以下になった時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定する代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkが所定の第2判定値C2以下になったか否かを判定して、以下になった回数n2を数えると共に、温度差Tdの測定数(データ数)Kが所定のデータ数Kcを越えた場合において、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkが所定の第2判定値C2以下になった回数n2が所定の第2判定回数N2cを越えた時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定するように構成してもよい。この構成にすると、温度差Tdの変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkのバラツキの影響をより小さくすることができ、触媒4の第2劣化量R2の推定精度を向上できる。
例えば、この二階微分した方程式d2 F(k)/dk2 =0の解K1を求め、K1−Kで残り寿命を推定、又は、(K1−K)/K1で総寿命までの何%経過しているかを推定し、触媒の残寿命として表示する。また、この二階微分した値Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkがゼロになった時点を寿命とし表示部6aに表示する。
この第3の実施の形態の制御フローは、図3及び図5の第1の実施の形態の制御フローを次のように変更した制御フローとなる。つまり、ステップS30において、「関数F(k)の微分」を「関数F(k)の2階微分」に変更し、ステップS50において、「触媒の劣化判定 ΔTd/Δk≧C1」を「触媒の劣化判定 Δ2 Td/Δk2 ≦C2」に変更し、ステップS60において、「劣化量R1」を「劣化量R2」に変更する。また、この図3の制御フローの変更に伴い、図5の制御フローもステップS33の「関数F(k)を測定順kで微分して温度差F(k)の変化率dF(k)/dkを算出する」を「関数F(k)を測定順kで2階微分して温度差F(k)の変化率dF(k)/dkの変分率d2 F(k)/dk2 を算出する」に変更し、ステップS34の「最新の温度差Td(k)の変化率ΔTd(k)/Δkを算出する」を「最新の温度差Td(k)の変化率ΔTd(k)/Δkの変分率Δ(ΔTd(k)/Δk)/Δkを算出する」に変更する。
次に第4の実施の形態について説明する。この第4の実施の形態では、第2の実施の形態において、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtと所定の第1の劣化量R1に関係する所定の第1判定値C1の代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtと所定の第1の劣化量R1に関係する所定の第2判定値C2を用いる。この変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtは、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの時間tに関する変分率であり、温度差Td(t)を時間tで関数近似した場合には、温度差Td(t)を時間tで2階部分してd2 F(t)/dt2 として算出することができる。このd2 F(t)/dt2 が所定の第2判定値C2以下になった時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定するように構成される。F(t)の二階微分を用いることにより、温度差Td(t)のバラツキの影響をより少なくすることができ、触媒4の劣化量R2の推定精度を更に向上できる。なお、この第4の実施の形態は、第3の実施の形態で、温度差Tdを測定順kの関数とする代わりに測定時tの関数とする点が異なる。
また、この場合も、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtが所定の第2判定値C2以下になった時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定する代りに、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtが所定の第2判定値C2以下になったか否かを判定して、以下になった回数n2を数えると共に、温度差Tdの測定数(データ数)Kが所定のデータ数Kcを越えた場合において、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtが所定の第2判定値C2以下になった回数n2が所定の第2判定回数N2cを越えた時に、触媒4が所定の第2劣化量R2に達したと判定するように構成してもよい。この構成にすると、温度差Tdの変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtのバラツキの影響をより小さくすることができ、触媒4の第2劣化量R2の推定精度を向上できる。
この第4の実施の形態の制御フローは、図6及び図8の第2の実施の形態の制御フローを次のように変更した制御フローとなる。つまり、図6のステップS30Aにおいて、「関数F(t)の微分」を「関数F(t)の2階微分」に変更し、ステップS50Aにおいて、「触媒の劣化判定 ΔTd/Δt≧C1」を「触媒の劣化判定 Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δt≦C2」に変更し、ステップS60において、「劣化量R1」を「劣化量R2」に変更する。また、この図6の制御フローの変更に伴い、図8の制御フローもステップS33Aの「関数F(t)を時間tで微分して温度差F(t)の変化率dF(t)/dtを算出する」を「関数F(t)を時間tで2階微分して温度差F(t)の変化率dF(t)/dtの変分率d2 F(t)/dt2 を算出する」に変更し、ステップS34Aの「最新の温度差Td(t)の変化率ΔTd(t)/Δtを算出する」を「最新の温度差Td(t)の変化率ΔTd(t)/Δtの変分率Δ(ΔTd(t)/Δt)/Δtを算出する」に変更する。
上記の第1〜第4の実施の形態の触媒劣化量検出方法及び触媒劣化量検出装置によれば、エンジン(内燃機関)2の運転状態が定常運転状態であり、且つ、触媒4が活性状態である状態が所定の時間tm以上継続した場合において、触媒4の出口の排気ガス温度T2と入口の排気ガス温度T1との温度差Tdを計測し、この温度差Tdの収集データTd(K),td(k)から温度差Tdの変化率ΔTd/Δk,ΔTd/Δt、又は、温度差Tdの変化率ΔTd/Δk,ΔTd/Δtの変分率Δ(ΔTd/Δk)/Δk,Δ(ΔTd/Δt)/Δtを算出し、この温度差Tdの変化率ΔTd/Δk,ΔTd/Δt、又は、温度差Tdの変化率ΔTd/Δk,ΔTd/Δtの変分率Δ(ΔTd/Δk)/Δk,Δ(ΔTd/Δt)/Δtが所定の第1判定値C1以上又は所定の第2判定値C2以下になった時に、触媒4が所定の第1劣化量R1又は所定の第1劣化量R2に達したと判定する。
従って、触媒4の出口と入口の排気ガスの温度差Tdを測定又は検出し、この温度差Tdの収集データTd(K),td(k)からTdの変化率ΔTd/dk,ΔTd/dt、又は、温度差Tdの変化率ΔTd/dk,ΔTd/dtの変分率Δ2 Td/dk2 ,Δ2 Td/dt2 を算出して、所定の判定値C1,C2と比較するので、触媒4の熱容量の大小の影響を小さくすることができ、高い精度で触媒4の劣化量R1,R2を推定することができる。